人民新報 ・ 第1016号  (2001年3月5日)    

                               目次

● 腐敗と反動の森内閣をうち倒せ  自公保亜流政権などの小手先の延命策動も許すな

● 有明海と諫早湾干拓  爆発する漁民の怒り

● 横浜で日の丸・君が代強制反対の集会・デモ 右翼勢力の妨害には絶対に屈しない!

● もう黙ってはいられない! 森内閣への抗議の座り込み

● ビデオ紹介 「戒厳令下の国労大会−マスコミが伝えなかった真実」

● 自主的民主政府樹立へ模索する韓国民衆運動

             渡辺健樹
(日韓民衆連帯全国ネットワーク)さんに聞く

● 資料 大宇自動車労組のストライキに対する大弾圧に抗議する声明

● 米原潜のえひめ丸撃沈事件の背景

 複眼単眼  ピープルズパワーと民主主義      そして歴史の前進

 参考資料 中国の情報戦争理論と実践 @  コソボ情報戦争についての中国の解釈





腐敗と反動の森内閣をうち倒せ

   自公保亜流政権などの小手先の延命策動も許すな

 第二次森改造内閣は、その発足とあい前後する法相など閣僚の改憲発言や、首相の施政方針演説での有事法制具体化発言が飛び出し、その反動的な性格をあらわにした。 さらに来月の自民党大会の方針案では、「国民的議論を踏まえた『国民の憲法』の提案」「外国からの賓客や閣僚の靖国参拝の強化」「自衛隊の機能強化、有事法制等の整備、防衛庁の省昇格」などの方針をうち出した。
 同時にこの過程で露呈したのが、森政権の極度の腐敗ぶりだった。
 巨額の内閣官房機密費、外交機密費の横領事件は、その機密費の存在と制度そのものへの批判となって噴出した。内閣や外務省の責任を追及する声は広がっている。
 また額賀福志郎経済財政担当相の辞任にも関わらず、ケーエスデー中小企業経営者福祉事業団(KSD)の賄賂・汚職事件は広がりを見せ、村上正邦自民党参議院議員会長・参議院憲法調査会会長は辞任だけでなく議員辞職に追い込まれ「トカゲのシッポ切り」どころではなくなった。さらに、これらに関連する自民党の有力議員の名が、メディアを賑わしている。もはやこれらの腐敗事件は、一部の議員によるものなどではなく、自民党の構造そのものに由来する問題であることがさらけだされている。
 さらに、先ごろのハワイ沖でのアメリカ原子力潜水艦による愛媛県立水産高校の実習船「えひめ丸」の撃沈事件にともなって、森首相の賭ゴルフ事件とゴルフ会員権の収賄疑惑まで暴露されるにいたった。「えひめ丸」の事故の第一報が入ったあとも、森は賭ゴルフを続けていた。マスコミはこれを「危機管理体制の不備」の問題などに結びつけて批判しているが、それはまったくすじ違いだ。ことの本質は政治の腐敗と政財界の癒着の問題だ。
 経済・財政の破綻は極に達しており、株価や為替相場は暴落している。
 マスコミが発表する内閣支持率では九%だの、五%だのという一ケタ台の数字がおどっている。

 森内閣はもはやボロボロで、その崩落現象はとどまるところを知らない。
 自民党の中ではその危機の深刻さから、積極的に後継首相候補に名乗り出るものすらいないという異常現象だ。マスコミは「ポスト森候補」の情報を垂れ流しているが、いずれも「帯に短し、タスキに長し」などと揶揄(やゆ)するほど、その政治的危機は重大な事態に陥った。
 この森・自民党と連立を組んでいる共犯者の保守党と公明党は、近づく参議院選挙を前にして、世論のあまりに厳しい批判の前に、連立のボロ船から逃げだすのか、あるいはクビのすげかえによる巻返し策をとるのか、二つの可能性の損得をはかりつつ、動揺している。
 しかし、これを追及する立場にある野党各党の動きはなんとも弱腰だ。野党は「徹底追及」のかけ声とは裏腹に、自公保与党が作った国会審議の枠内での議論に終始している。「偽証罪」にすらない「政治倫理審査会」での額賀議員の弁明などは、もともと幕引きのための儀式にすぎない。野党が要求する「証人喚問」にしても、このままではまともに疑惑が解明される保障はない。もったいぶっている「内閣不信任案」の提出なども、その効果たるやお寒いかぎりだ。
 永田町の力関係が圧倒的に与党に有利にできているのはいうまでもない。しかし、この政治構図は民意とはまったくかけ離れているのは周知のことだ。 世論の大多数は森内閣の退陣を要求している。本来、野党はこの声を結集しなくてはならない。いま国会周辺では自覚的な市民たちによる大小の勇敢な抗議行動が起きている。 本当に森内閣をうち倒したいのなら、野党はいまこそ街頭にでて、人びとにうったえなくてはならない。だが、改憲派の鳩山を党首にいだく民主党は森自公保政権との正面からの対決ができないだけでなく、社民党や共産党にも、広範な各界の人びとに共同闘争を呼びかける意思は見られない。
 怒りに燃えた市民たちが、地域や国会前の座込みや集会などを開きはじめている。この声をさらに各地域でまき起そう。
 これらの声を五・三憲法集会の大統一行動の成功につなげ、憲法改悪阻止、有事法制阻止、自公保連立政権打倒へと前進させよう。


有明海と諫早湾干拓  爆発する漁民の怒り

 みぞうの養殖ノリ被害に苦しむ九州・有明海の漁民たちが今、体を張って怒りを爆発させている。同海最奥部の諫早湾(長崎県)を締め切り、農地造成と防災を目的にした国営諫早湾干拓事業が、生活の場を失いかけている彼らを追い込んでいるからだ。
 渡り鳥の世界的な飛来地であり、ムツゴロウなど貴重な底生動物の生息地として知られた広大な干潟が一九九七年四月、あのギロチン(潮受け堤防による締め切り)によって消滅してからやがて丸四年、当初指摘されていた有明海の生態系破壌と汚染が今や自明の事実となり、為政者らを狼狽させている。何が問題なのか、責任はどこにあるのか。
 有明海は今や全国一の養殖ノリ生産量を誇る。諫早湾が締め切られて以来、特産の貝類や豊富な魚種など水産資源そのものの減少が指摘されていた。だが、最近のプランクトンの異常発生によって、ノリの出荷量が半滅した福岡、佐賀、熊本の漁民たちは諫早湾干拓が被害の元凶と指摘する。
 今年に入り、長崎を含む四県漁民が海上デモを展開し、諫早湾を締め切った潮受け堤防(排水門)の開放を訴えた。二月末には、福岡県有明海漁連は、組織として干拓工事の実力阻止に乗り出し、工事現場で車両出入り口を封鎖。九州農政局にも激しい抗議行動を行い、三月一日には谷津農相と直談判し、諫早湾干拓事業の中止を迫った。
 この四年間、政府の対応はどうだったのか。事業の費否が飛び交う中で、排水門が締め切られた直後の九七年五月、政府・自民党は「人間(防災)とムツゴロウのどちらが大切か」「自民党あるかぎり水門が開くことはない」と自信たっぷり、事業の正当性を公言してはばからなかった。だが今回、有明海の被害実態と漁民の抗議行動に対応せざるを得ず、農相は「必要ならば排水門を開けて本格調査する」とまで言及、追い込まれている。有明海全体の調査活動に重い腰を上げ、三月中には水門の開放の有無を含め中間報告を明らかにする予定だ。
 一方、「排水門開放」の声が内外で強まる中、諫早湾沿岸の干拓推進団体と県などの地元行政は、農水省に「開放反対」を懸命に陳情している。「諫早湾内外の環境が一気に激変する」「防災効果が失われ、大変なことになる」として反発。費否両論によって地域は険悪な雰囲気にまで発展している。
 有明湾の汚染は、筑後川河口堰による水量の減少や沿岸域からの生活雑排水の増加、旧筑豊炭田時代の掘削による海底の変化、温暖化による海水温の上昇など、さまざまな要因が指摘される。だが、多くの学者が「堤防の建設で干潟が消減し潮流に大きな変化が起き、ゴカイやカニなど水質の浄化作用をもたらす底生生物が住めなくなった。ノリ被害は変化の一部では」と指摘するように、干拓事業が引き金となり、有明海の生態系全体が回復力を失ったとの見方が有力だ。
 野党は、排水門開放と事業見直しの好機として攻勢に転じている。政府・自民党は、水門を開けないと今夏の参院選挙に影響を与えかねないとの思惑も透けて見える。一方では全国の公共事業への波及を恐れる彼らにとってまさに有明湾問題は両刃の剣といえる。
 諫早湾干拓事業は、全長七`の潮受け堤防によって諫早湾奥部の約三六〇〇fを締め切り、防災機能を持つ一七〇〇fの調整池と一八〇〇fの農地を造成する。二〇〇〇年度の完成を目指し八六年度に着工したが、軟弱地盤の難工事となり、総事業費は当初の一三〇〇億円から、四年前の堤防締め切り当時で二三七〇億円に。さらに、事業は〇六年度完成予定と大幅にずれこみ、同二四九〇億円までで膨らむ巨額な税金が投入されている。
 この事業は、もともと猫の目のように衣替えしている。一九五二年、終戦直後の食料難を背景にした米作耕地造成をうたった大干拓構想に始まる。その後、沿線漁協の反対や国のノー政・減反政策によって畑作目的に替えたり、水資源確保を時ち出すなど二転三転した揚げ句、打ち切られた経過がある。だが、農水省は新たに洪水対策機能を加え、規模を縮小し、相も変わらず事業を強行している。
 戦後、自民党と官僚が仕組んだ利益誘導による国民不在の保守政治典型の悪政事業だ。地元自治体や住民の利害を巧みに巻き込みながら半世紀以上、税金を懐に人れ続ける大手ゼネコンなどの業界と政治の図式は明らかだ。
 事業推進派住民が指摘するように、確かに諌早湾岸の高潮対策や排水門開放、あるいは事業中止による環境の一時的な悪化など懸念される課題がある。だが、それは挙げて為政者の全責任で解決すべき問題だ。死活をかけて立ち上がった有明海漁民らの怒りは、政治を揺るがし、悪政を暴露する原動力となっている。

      (長崎通信員)■


横浜で日の丸・君が代強制反対の集会・デモ 右翼勢力の妨害には絶対に屈しない!

 二月二五日、横浜で「『日の丸・君が代』強制に反対する集会とデモ」が行われた。主催は「『日の丸・君が代』の法制化と強制に反対する神奈川の会」。 昨年二月二十七日、同会が行った街頭リレートークとデモ行進は、街宣車数十台、乱闘服・迷彩服姿の多数の右翼暴力団に襲われ、ついにデモ行進は中止に迫い込まれるという異常な事態となり、全国の心ある人々の怒りを呼んだ。あれから一年、暴カに屈せず、急速な右傾化の風潮に毅然と異議を申し立てるべく、今回の集会・デモが呼びかけられた。
 会場の横浜市技能文化会館は一八〇名の参加者であふれ、熱気のこもった集会となった。
 冒頭の主催者あいさつでは一年前の屈辱的な出来事以降、さまざまな場面で右翼勢力による陰湿かつ執拗な妨害が相次いでいることが報告された。
 続いて畑野君枝参議院議員が、国会開会に日の丸・君が代を持ち込もうとする動きや、四月二十九日を『昭和の日』にしようとする法案をつぶすなど国会での闘いを報告し、政治の歪みが学校にしわよせられていると指摘した。

『日の丸・君が代』強制は恐怖心で人を管理しようとすること…ダグラス・.ラミスさんが講演

 講演は元海兵隊員のダグラス・ラミスさん。なぜ合衆国籍を持つ自分が天皇制について発言するのか、それは戦争と平和に関わるからだ、とまず問題の本質を明らかにした。大学で教えた経験から、「日の丸・君が代」つまりは天皇制の問題になると人々が思考停止状態になってしまう、自由に考えることを妨げる作用が働くと指摘。
 歌は人間の感情表現であり、強制することはできないものだ。
 愛情も同じこと。愛国心はもともとは自分の生まれ育った故郷を思う気持だった。それが一九世紀になって「国家」という抽象的存在を愛する気持ちへと転換させられる。
 国家は善意の人の道徳的な動機を悪質なものに変える魔術的な役割を果たす。愛国心は偏狭な愛国主義へと転換させられる。
 本来強制できないことを強制することで、人々の心に恐怖心が生み出される。チェコのハベル大統領が旧体制の状況を分析して書いている。ある八百屋さんが毎日、店頭に『万国の労働者団結せよ!』のスローガンを掲げていた。その真意は「政府よ、私は善良な市民だからいじめないでください」というメツセージであって、決して国際連帯を呼びかけたものではない。このように強制は人々に「嘘を生きる」ことを強制する。権カ者・右翼が期待しているのは、人々が愛国心に目覚めることなどではなくて、こうした恐怖心をもつことなのだ。
 前の天皇のXデーの時、マスコミの報道では人々は皆心配し、泣いている。しかし周囲にそんな人は皆無だった。お祭り好きの商店主は、自粛自粛の風潮に「こんなに騒いで、死ななきゃ怒るよ」と言っていたものだ。しかし、作られた雰囲気に従わされないことに対する恐怖心を皆感じていたと思う。政府にとってはそれでよいのだ、恐怖心を通じて人々を管理できれば。
 日常、子どもたちに平和と民主主義を熱心に教えている教員が「君が代」を歌う、それは子どもたちに大きな影響を与えるだろう。ものの考え方・思想というものは、行動にあらわすものではないのだ、ということを示すことになるのだから。この国をよい国にしたい、好きになってもよい国にしたい、これこそ深い愛国心ではないか。
 よく、アメリカではどうかときかれる。確かにアメリカの学校には教室に星条旗が掲げられ、ひんぱんに「国旗への誓いの言葉」が唱えられる。だからアメリカは戦争国家になったのだ。反面教師にしなければならない。
 一九〇五年の排日運動のきっかけはある日本人の子どもが星条旗への宣誓を断ったことだった。
 新聞が大キヤンペーンをはった。日の丸・君が代は在日外国人を排除し、大和民族として固まろうとするもの。その強制は教育を破壊する。

デモ行進貫徹

 説得力あるラミスさんの講演に会場から大きな共感の拍手が送られた。
 続いて各団体からのアピールがあり、横浜市議会議員、教育労働者、教科書問題市民グループ、厭戦庶民の会、国立市の学生、『日の丸・君が代』強制に反対する市民運動ネットワーク、愛知から駆け付けた方から、それぞれの闘いの報告と問題提起があった。最後に集会アピールが採択された。 アピールは、「日の丸・君が代」攻撃がさまざまな戦争準備の法制化と無縁でなく、これに抗する闘いは「憲法・・教育基本法改悪攻撃に退治する運動でもある。憲法改悪の国民投票に勝てる運動という視点を持つ必要がある、まずは今度の参院選で改憲勢力による政治に終止符を打たせなくてはならない、と訴えている。
 集会後、参加者は伊勢佐木町商店街を元気にデモ行進した。懸念された右翼の妨害は、日の丸の旗を押し立てたり、沿道から恫喝したりと、散発的なものはあったが、無事解散地点まで貫徹された。

右翼勢力の新たな動向

 集会の主催者あいさつでも報告されたが、各種の市民運動に対する右翼勢カの妨書ぶりは一段と激しくなっている。
 九月には「従軍慰安婦問題」をテーマにした映画上映会に街宣車でおしかけ、ビラをまきつつ、参加者に罵詈雑言を浴びせ、主催者側メンバーが閉じこめられて警官に救出された。主催者の高校教員に対して自宅に執拗ないやがらせの電話をし、職場の学校にも電話しフアックスを送るだけでなく、直接おしかけ、面会を強要、生徒に中傷のビラを撤いた。
 横浜市港北区では、区役所の生涯学級の近現代史をテーマとする講演会に対して、突如区役所が企画変更を要求、結局市民グループに対する委託を解除した。予定されていた講座の講師は、教科書裁判を闘っている高島伸欣琉球大学教員だった。
 話し合いの中で区の担当者は「色々なことを言う人たちがいて」と妨害があったことを匂わせている。
 講演会自体は区が共催をおりても市民グループの手で盛況のうちに開催された。
 同じく旭区では、同様の生涯学級のタイトル「二〇〇〇年従軍慰安婦問題 戦争責任と性暴力について」が「総合的ジェンダーフリーの学習を目指して」に変えられてしまうということがあった。
 主催者側の作ったチラシについても区側は「政治的だから外してほしい」などのクレームをつけた。港北区のケース同様、右翼勢力の介入とそれに屈服した行政の自主規制ぶりが伺える。
 教科書をめぐっても右翼の動きが活発である。
 県下各地の議会に、教科書採択にあたって学校からの希望票を廃止し、教育委貝会が独断で採択することを求める陳情を行っている。
 自由主義史観系の教科書を採択させようとする企みである。いくつかの議会でこの陳情採択されてい。
 また、歴史の授業内容に干渉する陳情も行っている。
 茅ケ崎市議会に提出された陳情は「授業内容の刷新・充実」を求め、現在使用されている教科書の「問題点」が添付されている。その内容たるや、元寇で元軍が「命からがら逃げ帰った」にも関わらず、「引き揚げた」となっているのはなぜか、といった稚拙極まるものではあるが。
 右翼の暴力的な恫喝、議会での反動派議員の立ち回り、サンケイ新聞や「正論」による集中的キャンペーン…。こうしたパターンが各地で作られている。
 権力の意を体した走狗たちの横行を許してはならない。
                                                                     (横浜通信)



もう黙ってはいられない! 森内閣への抗議の座り込み

 森・自公保内閣の相次ぐ腐敗とスキャンダルに我慢ならない市民たちが、国会の参議院議員会館前で、連日の座り込みを続けている。森首相の厚顔無恥の居直りの政治を批判する声は高まりつつある。
「行動する市民の会」の人々も「もう黙ってはいられない! 国民をなめるな! 野中広務は悪の張本人だ! KSD汚職・機密費疑惑の徹底解明! 市民による森・自公保内閣への抗議」と大書した横断幕を掲げて、寒風の中を抗議の座り込みに入った。参加者は交代で駆けつけては連日の抗議闘争を続けている。国会周辺では、このほかの市民団体も院内集会を開いたり、抗議の宣伝活動をしたりしている。



ビデオ紹介

「戒厳令下の国労大会−マスコミが伝えなかった真実」

            20012月制作・25分・3000円(税・送料別)
           企画・制作 ビデオプレス TEL 03-3530-8588 FAX 03-3530-8578

このビデオは、闘争団と家族を切り捨て、長期の苦闘によって闘い抜かれてきた国鉄闘争を破壊し、そしてリストラ攻撃と闘う日本労働運動を内側から骨抜きにしようとした闘争破壊者=国労右派幹部たちへの激しい怒りなしには見ることは出来ない。しかし同時に、労働者の闘う底力とこれからの闘いへの自信をつけてくれるものともなっている。
 四党合意をめぐるこれまでの三回にわたる国労大会(昨年の七月、八月、十月)と異なり今回の第六七回定期続開大会(一月二十七日)は、国労本部(宮坂書記長やチャレンジグループ、上村副委員長系革同右派)は組合民主主義のイロハさえ投げ捨て、なにがなんでも四党合意承認を強行する「万全の」体制で臨んできた。
 ビデオは、大会会場である社会文化会館とその周辺が、早朝から機動隊によってバリケード封鎖されている状況を映し出す。警察権力に守られてしか開けない労働組合の大会。それがあの国労大会であった。それだけではない。代議員は前日からホテルに宿泊させられバス輸送で会場に到着、機動隊の壁の中を進まされるという屈辱をなめさせられた。
 また、かなりの数の大会防衛隊員が組織動員されている。かれらは、主観的意図はどうあれ、国労本部の裏切りを支えた、いわばBC級戦犯として労働運動の歴史を汚すのに手を貸したと言わざるをえない。人間、己(おのれ)の位置がどこにあるのかについては常に反省していなければだめだ。
 ビデオで印象が強かった場面の一つは、つい先ごろまで千葉、水戸、高崎とともに関東四地本として、四党合意の強行に反対していた東京地本の酒田充委員長の姿である。国労本部は、いろいろやましいところがあったので、大会の実態を世間に知られることを恐れ、厳しい報道規制を行った。とくにテレビについては、大会開始前のいわゆる頭出しのみを「許可」するという暴挙に出た。よく裁判所などでやるあれだ。しかし、ビデオには酒田東京地本委員長が報道陣を叩き出す闘いの先頭にたって「奮闘」して姿が映し出され、その後も、会場内の仲間たちの手でビデオ撮影は続けられ、異常な大会の異常な光景が記録されていった。
 大会前日には、国鉄闘争支援の労働者たちは国労東京地本への申し入れ行動を行った。だが、地本側は全く聞く耳を持たず、即座に排除の行動に出てきた。そのやりとりのなかで、郵政4・  反処分闘争を闘う名古屋哲一さんが、これも直前まで左派を自称し、あの四党合意のでた晩の5・  集会では宮坂書記長を激しく野次っていたある地本執行委員をつかまえ、「裏切りは絶対にやっちゃダメだよ」と糾弾している声が強烈だ。
 国労大会で四党合意は承認された。だが、闘う闘争団は、依然として「一〇四七名の解雇撤回 地元JRへの復帰」を堅持している。四党合意によって国鉄闘争を完全に終息させることが、完全民営化を目前にした政府・JRのもくろみだったのだから、かれらの目標は貫徹できていないということだ。それどころか、国労本部からも自立して闘争団の行動が展開されようとしているのである。
 あの大雪の日。その日に行われた国労大会はまさに異常づくめの大会となった。かつて総評労働運動の主柱として輝かしい闘いの伝統を誇った国労は、「JRに法的責任なし」の四党合意承認を強行して、労働者の生活と権利を守るという労組としての基本方向を大きく崩した。四党合意承認を強行した国労本部は、今後、鉄労、動労、JR連合、JR総連などとと同じく反労働者的な道を辿り、さまざまな反労働者的な政策を実行してくるだろう。国労運動の階級的再生にむけて、闘争団をしっかりと守り抜く体制を再構築するとともに、国労に闘う旗・闘う執行部を再確立するために闘わなくてはならない。
 時代の新段階への突入を感じさせてくれるビデオだ。■



自主的民主政府樹立へ模索する韓国民衆運動
   韓国・民主主義民族統一全国連合第十期代議員大会に参加して

                       渡辺健樹(日韓民衆連帯全国ネットワーク)さんに聞く

 駐韓米軍撤去闘争や国家保安法撤廃闘争、そして労働争議が激発する韓国で、二月十八日、韓国・民主主義民族統一全国連合(全国連合)の第十期定期代議員大会が開かれ、新たな闘争の方向が確立された。この全国連合代議員大会に参加した日韓民衆連帯全国ネットワーク(日韓ネット)の渡辺健樹さんに話を聞いた。

熱気に包まれた代議員大会

 まず代議員大会の雰囲気からお話します。
 韓国の集会や大会に参加すると、その熱気にいつも圧倒されるのですが、今回も熱気に包まれた代議員大会だったといえます。会場はソウルの中央大学校の大学劇場でした。開会前にざっとイスを数えたら約九百席。ここにギッシリ、立見の人たちや会場外にも人が溢れていましたから、千人は軽く越えていたと思います。このうち、代議員自体は約四百人だそうです。その他は傍聴と第十期出帆式(出発式)に参加するために来た人たちです。
 大会は一部と二部に分かれていて、一部は本来の代議員大会で二部は出帆式で構成されています。一部では、執行部から昨年(第九期)の事業報告と総括案、決算報告と予算案、議長団などの人事案件、第十期の事業計画などが提起され、熱心に討議されていました。
 二部の出帆式は、代議員大会を受けて、新たな闘争へのいわば大衆集会です。全国連合旗を先頭に全国連合傘下の各部門団体や地域連合の旗の一団が会場後方から入場し、会場の大きな拍手の中、演壇に上がり団結を示すセレモニーで始まりました。続いて、最近人気急上昇中という民衆・労働音楽デュオの「ソリタレ(声の束)」の歌や学生グループの踊り、構成劇などが繰り広げられ、会場も最高潮に。そしてオ・ジョンリョル常任議長(この人は光州で教職員組合の委員長をされていた人)の挨拶と決意表明、来賓の連帯挨拶があり、さらに二人の共同議長の熱烈な挨拶のあと、シュプレヒコールと会場全体の歌で決意を新たにしていました。
 来賓挨拶では、民主労働党のコン・ヨンギル代表(民主労総初代委員長)、民主労総の李奎宰(イ・ギュジェ)副委員長(タン・ビョンホ委員長も途中まで出席していましたが、大宇自動車への大量解雇通告があり、急遽、現場に向かいました)、祖国の平和と統一のための汎民族連合(汎民連)のイ・チョンリン議長、そして日韓ネットから私が連帯挨拶をおこないました。私の挨拶にも終始大きな拍手を送ってくれ、交流会でも次から次へと人が来てくれて、日本の民衆運動への期待の大きさをあらためて実感しました。

強固な民族民主戦線建設・自主的民主政府樹立へ


 民主主義民族統一全国連合といっても、民主労総(全国民主労働組合総連盟)に比べると日本ではあまり知名度が高くないと思いますので、どういう団体か紹介しておきます。
 全国連合は、自主・民主・統一を掲げ、在野民主勢力の政治的連合体として九一年に結成されました。全国農民会総連盟(全農)、韓国大学総学生会連合(韓総連=韓国版全学連)、全国貧民連合(露天商など零細民の組織)をはじめ九つの部門団体、ソウル、仁川、釜山、光州・全南など十一の地域連合、それに民主労総、民主化実践家族運動協議会(民家協=政治犯家族の組織)など五つのオブザーバー団体で構成されています。この間の駐韓米軍撤去闘争や国家保安法撤廃闘争、南北統一闘争、民衆生存権死守の闘いなどを担ってきた団体と言っていいと思います。
 今年の代議員大会では、「強固な民族民主戦線建設!自主的民主政府樹立!連邦統一祖国建設!」がメイン・スローガンに掲げられました。そして、昨年の総括では、成果として、各界各層の分散した闘争を結集し、常設の共同闘争体を建設するために多様な努力を傾けたこと、民族民主陣営だけでなく幅広い南北統一運動陣営の団結を模索した点などが挙げられ、反面で今後の課題として、労働者・農民・貧民などの基層民衆に対する政治的指導力が脆弱だった点、多様な事業を情勢に合わせて集中させることができなかった点などが挙げられています。また具体的には、反米自主化闘争において、朝鮮戦争時の米軍による住民虐殺を暴露・糾弾する上で決定的な役割を担えたが、さらに駐韓米軍の本質を暴露し、世論化する上で不足点があったこと。また南北統一事業において、昨年の在野独自の「八・一五統一大祝典」に各界各層の幅広い参加(五万人が結集)をかちとり、統一運動の大衆化と統一運動陣営の団結を実現したが、六・一五南北共同宣言以降の情勢の変化に実践的に対応できなかった点などが指摘されています。

第十期全国連合の闘争・事業方針

 こうした昨年の運動の総括の上に、今年の闘争・事業方向として、項目だけ列記しますが次の課題が確認されています。
(1)経済侵略反対、民衆生存権戦取(主要闘争課題)
 @韓米・韓日投資協定阻止闘争、韓チリ自由貿易協定阻止闘争、A公共企業の民営化、および海外売却反対闘争、BWTO(国際貿易機関)反対闘争
(2)駐韓米軍撤退を中心とした反米自主化闘争(主要闘争課題)
 @朝鮮戦争時の米軍犯罪を裁く国際戦犯法廷(六月二十三日、ニューヨークで開かれる)への提訴闘争、A梅香里(メヒャンリ)米軍射爆場撤去闘争、B米軍基地返還闘争、C韓米行政協定(SOFA=日米地位協定にあたる)改定闘争
(3)祖国統一闘争(闘争方向)
 @民族自主と大団結の旗印を変わりなく掲げ進む、A南北共同宣言を貫徹するための闘争、B統一勢力の幅広い団結の実現、C民間レベルの南北自主交流と南・北・海外の連帯、D汎民連との実践的連携と汎民連の合法化のための闘争、(主要事業課題)六・一五南北共同宣言一周年事業を含む共同宣言支持・貫徹事業、A金正日国防委員長の訪韓歓迎事業、B民族統一促進運動期間(六・一五〜八・一五)闘争の推進、C八・一五事業
(4)民主民権事業(主要事業課題)
 @国家保安法撤廃闘争、A汎民連、韓総連に対する「利敵団体」規定撤廃闘争
(5)二〇〇二年地方選挙準備(事業方向)
 @各地域、部門から立候補者を積極的に発掘、A民主労働党をはじめとする進歩的政治勢力と連帯・協力し、進歩陣営の政治的進出を最大限追求する、B地方選、合法政治領域への進出を準備する担当事業機関の設置
(6)国際連帯事業(事業課題)
 @朝鮮戦争時の米軍犯罪国際戦犯法廷闘争、米軍基地返還闘争、梅香里米軍射爆場閉鎖闘争、A朝鮮半島の平和体制構築(NMD・TMD反対、日本の軍国主義復活反対、朝米平和体制構築)、B新自由主義・グローバリゼーション反対闘争
 以上のほかに、組織事業方向では、「民衆連帯戦線の強化と常設的な共同闘争体の建設」や「進歩政党建設のための組織体制の構築」などが、それぞれ一項目づつ立てられていて、戦線体の強化とより幅広い進歩政党建設に向けた模索が本格的に開始された――という印象を持ちました。以上が概略です。

国際的連帯闘争の強化を

 最後に一言。この間、私たちだけでなく、沖縄と韓国の反基地運動などのように韓国の民衆運動とのつながりが様々にできていると思いますが、それでもまだまだ沖縄の反基地運動を除けば、韓国の人々にとって日本の民衆運動というのは見えない存在だということです。
 他方では、新ガイドラインや有事立法、教科書問題、憲法改悪への動きなど、日本の危険な動きに対しては非常に敏感に受け止めているわけです。また米軍基地問題やグローバリゼーションの問題など、日韓の民衆運動が共通して抱えている問題も多いわけです。
 むしろ、権力者や資本家たちの方が国際的に連携して対処して来たりしているわけです。労働組合でも「連合」が民主労総などとも密接に連携、交流を持っています。
 こうした状況で、やはり私たち日本の民衆運動も国際的な連帯闘争をあらためて強化していく必要があるのではないか。とくに、朝鮮半島の平和と統一の問題は、在日・在韓米軍撤退問題、日本の戦争国家化、憲法改悪阻止の問題などとも密接に関わっているわけですから、私たちとしてはさまざまな運動の中で足元を固めながら、常にこうした彼らの闘いに注目し、連帯する視点を持っていく必要があるのではないかと思います。
 当面、私たちとしては、六月二十三日にニューヨークで開かれる朝鮮戦争時の米軍による住民虐殺を裁く「国際戦犯法廷」(これは昨年末東京で開かれた女性国際戦犯法廷も参考の一つになっているようです)に連帯して、五月下旬ぐらいに日本にも被害住民など関係者の皆さんを招き、日韓共同シンポジウムを開催することなども検討中です。■



資料

大宇自動車労組のストライキに対する大弾圧に抗議する声明


 二月十九日、韓国政府が警察兵力を使い、千六百五十名という大量整理解雇撤回を求めてストライキで大宇自動車の富平工場に籠城していた労働者と家族など六百五十名を強制解散させ、組合員七十六名を連行したことに、満腔の怒りをもって抗議する。
 警察当局は、当日午後五時五十五分頃、四千二百名の兵力とヘリ2機、掘削機七台をを動員し、たった十分あまりで、労働者側の必死の抵抗を鎮圧し、強制解散させた。警察はこれに先立って、チェ・ジョンハク労組スポークスマンとヨム・ソンテ民主労総仁川地域本部長を連行した。
 労組側は、会社の倒産以降、「無給循環休職(持ちまわりで休職すること)の実施と積極的な投資」「労組と会社が五対五の比率で名誉退職慰労金を共同負担し、残りの人員に対しては四ヶ月間、無給循環休職を通して雇用の維持」など大幅譲歩をした様々な対策方案を提示しながら生存権を守るため闘ってきた。しかし会社側は、これらを拒否し、十六日ゼネラルモータースへ有利に売却するために大量整理解雇を強行し、併せて売却の障害となる労組を排除しようとして今回の弾圧に乗り出してきたのだ。
 金大中政権は、IFM統制下に入って以降、三都工業、ロッテホテル、社会保険庁、国民銀行など大規模争議に対して、警察力を投入して、新自由主義の構造調整を暴力的に貫徹してきた。労組側は、金大中政権の新自由主義の構造調整の背景を持つ大量整理解雇に反対する最後の手段として富平工場に籠城しストライキを展開したのだ。
 このストライキに対する鎮圧作戦は、労働者の争議権、生存権を否定する全く不当なものであり、絶対に許すことはできない。
 排除された労組側は、仁川のサンゴック聖堂に結集して再び籠城し、大宇自動車共同闘争本部は「金大中政権退陣闘争を展開する」と明らかにしている。我々は、このような大宇自動車労組、民主労総をはじめとした韓国労働者、民衆の新自由主義政策に反対し生存権を守る闘いを全面的に支持・連帯するものである。
  さらに我々が注意しなければならないのは、現在秘密裏に進行している日韓投資協定交渉との関連である。日本政府はこの協定に労使紛争に対しては真摯な解決を相手政府に求めるいわゆる労働争議に対する真摯条項を盛り込もうとしている。しかしのこ真摯条項の行き着く先が何であるかは、今回の大宇自動車労組弾圧がはっきりと示している。外資のためなら自国労働者への弾圧も辞さないということ、またそれを日本政府か強要しているということだ。我々は日韓投資協定に反対する立場からも今回の弾圧を許すことはできない。
 我々は以上の点から、今回の大宇自動車労組に対する大弾圧に強く抗議し、弾圧に対する謝罪、整理解雇の撤回を要求するとともに大宇自動車労組、民主労総をはじめとする闘う韓国労働者に支持・連帯の意を明らかにする。

二〇〇一年二月二十五日

 日韓民衆連帯全国ネットワーク
< 東京都文京区小石川一−一−一〇−一〇五  TEL/FAX 03(5684)0194 >■



米原潜のえひめ丸撃沈事件の背景

 二月十日早朝(現地時間九日午後一時四十五分)にハワイ・オアフ島の南十六キロの沖合いで、実習中の愛媛水産高校の漁業実習船(四九九トン)が米原潜と衝突し、わずか五分後には六百メートルの海底に沈没し、九名が行方不明(現実には生存は絶望)となった事故程痛ましいものはない。衝突したのは米海軍のロスアンジェルス級攻撃型原潜グリーンビルで、緊急浮上訓練中であったと発表された。わずか五百トン足らずの実習船に水中排水量六九二七トンの原潜が衝突したのだから、練習船があっというまに沈没したのは当然である。原潜のワドル艦長が海軍の査問委員会前の米国家運輸安全委員会(NTSB)の事情聴取を拒否しているため、事故原因などの詳細な調査はまだおこなわれていないが、沖合い十六キロという船舶の往来の激しい海域で一方的に起こされた事故であるから、その責任は全面的に原潜にある。米海軍も調査の成り行きとは関係なく、原潜に非があることを認めているし、ブッシュ大統領、パウエル国務長官も直ちに謝罪の意を表明している。原潜のワドル艦長らは軍法会議にかけるかどうかを決める査問会議待ちとなっているが、査問会議は被告側弁護士の都合によって再三延期されている。
 一方的な非を認めたとはいえ、米海軍は初めから情報を出し惜しみ、また再三にわたり
ウソをついている。これは相手に対する秘匿、欺騙を本質とする攻撃型原潜の習性からきている。それにしても遠く離れた深海に潜んで相手を待ち受けすることを任務とする筈の攻撃型原潜が、なぜ近海の船舶の往来の激しい海域で緊急浮上訓練をしなければならないのであろうか。米軍はここ数年の間に軍事ドクトリンを二度にわたり改訂している。ジョイント・ヴィジョン二〇一〇と二〇二〇である。いずれも米ソの二極体制が崩れ、アメリカの独占的な軍事支配が確立した後のことである。二〇一〇の期間がまだ残っているのに、慌てて二〇二〇を出したのであるから、米戦略の改変がいかに激しいものかが推察できる。最近の米戦略の特徴は、旧「第三世界」諸国、とりわけムスリム諸国に対する「非対称作戦」である。「非対称」の意味の一つは異なる兵種どうしの作戦である。海軍で言えば、海洋から陸上を攻撃する「フロム・ザ・シー」作戦などがそうである。本来は深海に潜んでいる筈の原潜が、沿岸海域に展開して相手の監視や情報収集、特殊部隊の兵員輸送に当たるなどの任務に当たる。最近、日本近海にも米原潜が出没して、日本の海上自衛隊幹部などの搭乗が問題になっているウラには、このような事情が存在する。緊急浮上が必要な理由は、忍者のように相手の近くまで潜水したまま近づき、緊急浮上して恐らく原潜も魚雷発射装置ももっていない相手に対応の隙を与えず任務を達成するためである。

 ワドル艦長の事情聴取拒否で真相解明は遅れているにもかかわらず、それでも国家運輸安全委員会はできるかぎりの情報を公表している。それによると、えひめ丸は二度にわたり機関室の真下に損傷を受けており、これは原潜も左舷と艦尾の方向舵に損傷があるからも推察できる。原潜は当初の発表とは異なり、通常の浮上訓練をしていたのではなく、民間企業の幹部の体験航海をしていたのであり、緊急浮上も彼らへのサービスのためのデモンストレーションであった。海軍も前言を翻してこれを認めているが、民間人の体験航海と衝突とは関係がないと強弁した。しかし、まもなくこれも真っ赤なウソであることがやがて分かる。
 グリーンビルは一九九六年二月に就航し、巡航ミサイル・トマホークを搭載、原子炉一基と蒸気タービン二基を備えている。ハワイの真珠湾が母港だが、九八年には佐世保や沖縄のホワイトビーチにも寄港している。全長一一〇メートル、半径十メートルで、乗員は約百三十名である。問題の司令室は幅七メートル、長さ十五メートルであるから、百五平方メートルの広さである。ここに潜望鏡、操舵台、ソナーや海図台などの機材がぎっしり詰まっており、人が動けるスペースは四十平方メートルしかない。この司令室に乗員九名に加えて、十六名の民間人が入ったのだから、ある乗員が「一メートルも進めない程の混雑だった」といったのも頷ける。これでは海図台でソナーの情報を受けて海上の船跡図をかくことも、艦長に情報を伝えたり、意見具申をおこなうことも無理であろう。
 グリーンビルは国家運輸安全委員会の勧告を無視して自艦の位置を相手に察知されるアクティブソナーを使わず、パッシブソナーのみを使用していた。それでも衝突の七十分前にえひめ丸の航跡をキャッチしていた。ところが余りの混雑のためと思われるが、航跡図の作成は途中で放棄されている。
 グリーンビルは、衝突前にいったん通常浮上で海面に顔を出し再び潜航し、次に緊急浮上をおこなったという。この艦の安全確認はソナーと潜望鏡によるが、ソナーは自艦の騒音でうまく機能せず、潜望鏡を覗いたのは民間人で、艦長も覗くには覗いたがかなりおざなりであったという。またソナー・リピーターでも安全確認できるが、これは当日は故障していて役に立たなかったという。
 グリーンビルのサービス優先・安全無視の実態は驚くばかりであるが、こんなことで殺されるほうはたまらない。驚くと同時に怒りがこみ上げてくる。
 原潜が安全よりもサービス優先になった背景には、予算と兵員の削減がある。原潜は一九九一年の「冷戦」終了時には九六隻あったが、二〇〇一年には五十五隻に減らされている。海軍はこれに危機感をもち、民間の有力者を体験搭乗させて削減に歯止めをかけようとしているのだ。当日も民間有力者のサービスのために、太平洋海軍潜水艦隊参謀長も搭乗していたという。彼は艦長の上級者であるから、艦長のサービスも特に熱がこもっていたようだ。緊急浮上レバーの操作も艦長が勧めて民間人に握らせたという。
このような軍紀の緩みには、いまや米国一国のみが世界の強国であるという驕りが根底にあることは間違いがないが、裏を返せば、これからの戦争は彼らの目から見ればゴミのような存在でしかない小国が相手であり、自らを危険に曝すことなく相手を痛めつけるだけの「イジメ戦争」でありから、厳しい訓練に明け暮れするような気にはなれないというのが本音であろう。これは軍の論理・倫理から言えば疎外であり、腐敗である。しかし、このような疎外・腐敗こそ、帝国主義軍隊の本質的なものであり、帝国主義の腐朽化の一つの現れである。
                                           (北田大吉)■



複眼単眼

ピープルズパワーと民主主義      そして歴史の前進

このところ東アジアの国々で大々的な反政府デモが頻発している。
 フィリピンでは、買収工作の展開などで、とばく疑惑のエストラダ大統領を、議会が解任できなかったにもかかわらず、連日の大衆的なデモなどによるピープルズパワーがその追放に成功した。それは十五年前の独裁者マルコス追放の闘いを彷彿(ほうふつ)とさせるものがあった。
 インドネシアでは腐敗したスハルト独裁体制にかわって選挙で選ばれたワヒド大統領の横領事件関与や献金疑惑をめぐって、新政権発足以来の大衆行動が展開されている。
 マハティール独裁政権下のマレーシアでも大規模なデモが起こり、続発する様相をみせている。
 台湾では原発廃止の方針を撤回した現政権に対する巨万の抗議のデモが起きている。
 韓国では労働争議や米軍基地に抗議する大規模な大衆的闘いが頻発している。
 ビルマの民主化闘争は軍事独裁政権下でも止むことなく続けられているし、タイの政権も不安定だ。
 日本の腐敗した森政権と、それに抗議する民衆運動はどうなっているか、それはさておくことにする。
 これらの諸国の諸事件の背景に共通するのは政治の腐敗、民主主義の抑圧だ。
 ベトナムや中国を含め、政治の腐敗(賄賂政治・縁故主義・特権の私物化)は東アジア諸国をおおっている(この点ではまさに日本も同様だが)。人びとの日々の生活は苦しいのに、一部政治家と特権階層が利権をむさぼっていることに対する民衆の怒りのエネルギーの爆発だ。
 これらについて、産経新聞(二月二五日)が「民主主義下の大衆行動、危険はらむ『両刃の剣』」という記事を掲載し、「議会を素通りした大衆行動による政変はムード次第でどちらにでも転ぶ危険……『法の支配』というルールにあいまいなために繰り返し混乱を引き起こす」と危惧を表明している。
 しかし、これらの闘いは権力者と支配層が民主主義を放棄し、「法」を無視し、私物化しているからこそ起こっているのであり、この場合、民衆の側の対抗手段は大衆行動しか残されていないのだ。
 マルコスを打倒したあと登場したアキノ、ラモス政権につづいて登場したエストラダ政権の腐敗。そしてそのエストラダを民衆の力を借りて打倒し、登場したアロヨ政権は大金持ち層をバックにしているといわれる。これがワヒド的にならない保障はない。東欧の旧体制を打倒して登場した政権のほとんどが、民衆の期待を裏切って腐敗した政権になったように。
 しかし、「産経」のように「両刃の剣」の危険性を指摘してこと足れりとするのは誤りだ。民主主義とは「議会主義」でも「多数決主義」でもない。それは民主主義のほんの一部を構成しているだけで、もとよりピープルズパワーも民主主義の重要な要素なのだ。たしかにジグザグはある。しかし、これらの民衆によってこそ、歴史は作られていく。
                                                                             (T)



参考資料

 中国の情報戦争理論と実践 @  コソボ情報戦争についての中国の解釈

                       チモシー・L・トーマス(米国海外軍事研究所)

 アメリカ・ブッシュ新政権は、唯一の超大国の立場から覇権主義と強権政治による世界支配を一層強めるため、湾岸戦争、ユーゴスラビア内戦への介入、そして最近のイラクへの突然の空爆などいたるところで軍事力行使を続けている。そしてアメリカは中長期的に中国との対抗が必至であるとして軍事戦略の再編をおこなっており、頻繁に「中国の脅威」を強調している。つい最近一月三十日に発表されたばかりの米国の情報戦争専門家の論文である「虎に翼をつけたような中国の情報戦争理論と実践」(海外軍事研究所 チモシー・L・トーマス、「チャイニーズ・ミリタリー・パワー」より)はその一つであるが、これは中国が核戦争に勝るとも劣らない高い評価を情報戦争に与え、中国全土に展開する各地の部隊に情報戦争のためのミニ連隊を編成し、また陸海空三軍とならぶ情報軍をもとうとしているとして、米国はそれに備えなくてはならないと言っている。米軍が二〇一〇年まで期限が残されている「ジョイント・ヴィジョン二〇一〇」を慌てて改訂し、「ジョイント・ヴィジョン二〇二〇」をだしたことはこうした動きのひとつのあらわれである。この論文は、中国を分析しながら、逆にアメリカ自身が  世紀の戦争として情報戦争を位置づけ、今後何を狙っているのかがうかがえる。論文の中の「コソボ情報戦争について中国の解釈」の要旨を訳載する。(編集部)

コソボの情報戦争戦闘についての中国の解釈

 中国の情報専門家は、コソボ戦争においてセルビア軍とNATO軍の間でおこなわれた情報戦争について最良の分析をおこなった。彼らは情報戦争を「権力が情報を創る情報舞台における軍事的闘争」と定義して、NATO軍の攻勢的情報戦争とセルビア軍の防御的情報戦争を分析している。
 NATO軍は戦争前の段階において、広範囲な偵察と潜在的な戦争区域の盗聴によって情報戦争をおこなった。NATO軍は軍事衛星、偵察、電子盗聴と四百名のスパイを使ったといわれる。作戦の次の段階・打撃の段階で、NATO軍は一連の打撃を通じてユーゴ軍の指揮システムの「断頭」を始めた。次にNATO軍は空中における情報戦争優勢を利用し、効果的な空襲をおこなった。同時に電子交戦能力を高速回転させ敵の損害を評価した。NATO軍の打撃時間パッケージには、電子対抗手段、精密な打撃、損害評価が含まれる。また各種の心理的交戦手段が使用された。これは中国の専門家により敵軍と人民の精神状態に影響を与える「攻勢的交戦」と定義された。NATO軍はまず自軍の情報の防護を強化し、第三者の情報提供を妨げた。これはユーゴ軍と人民の重要な情報の獲得を妨げるNATO軍の情報封鎖である。
 一九九九年七月二十七日の「解放軍報」は、五月八日の中国大使館爆撃のあと、中国と米国のハッカー間で「ネットワーク戦争」がおこなわれたと発表した。
 中国は北京の米国大使館のホームページに「野蛮人」と書き込むことで米国ハッキングを開始した。また米国の複数の政治・軍事のウエブ・サイトを封鎖した。「解放軍報」所載の論文によれば、封鎖された民間のウエブ・サイトは約三〇〇箇所に上るという。こうしたハッキングをおこなうために、約一〇〇万人のネット・ユーザーが動員されたという。更に毎日数一〇〇万通のメールが送られ、このようにしてメール・サーヴィスの封鎖がおこなわれた。メール経由でウィルスが送られ、あるプログラムに隠された「ハッカー手段」で攻撃がおこなわれた。「解放軍報」所載の論文は、人民解放軍の学院におけるネットワーク戦闘訓練、国内のネットワーク強化、多くの民間のコンピュータ名人をネットワーク戦争へ参加させるためのコンピュータ・ネットワーク交戦能力の開発を求めている。
 中国の専門家は、NATO軍の空襲に対してセルビア軍が利用した情報戦争対抗手段を高く評価している。主たる手段は、自軍の兵力保持のための隠蔽であった。彼らは軍用機を谷間やハイウェイ脇に隠した。装甲車は森林、都市の建築物、山中に秘匿し、アルバニア人と混住して都市や村落に軍を分散させた。また地下の指揮統制機関は移動式にした。敵の偵察を回避する技術的手段も利用した。
 軍事衛星が通過する時間を計測し、装甲車に保護色で塗装したり、ミサイルや軍用機を惹きつけるために、ナマコ板その他の餌を撒き、(煙や雲を透過できないという)弱点を利用して熱源の近くにおいて空中防御レーダーの照準を狂わせた。セルビア軍はNATO軍との戦闘において、インターネットを使った。NATO軍が膨大な空襲によってNATO軍のシステムに過剰な負荷をかけたかを伝えるために、世界中のウェブサイトに夥しい数の電子メールを送った。
 (テレコミュニケーションやインターネットなどの)情報技術の使用によって地球は狭くなり戦場は広くなっているが、広大なネットワークの鍵になる結節点が存在する。中国はこの鍵になる結節点に対する攻撃を「鍼治療戦争」と呼んでいる。ネット・ポイントはネットワークの生存可能性にとって決定的に重要である。「ネットワークの価値は多くのネット・ポイントの二乗である」という法則があり、その意味は、半分の努力で二倍の成果が得られるということである。セルビア軍は、ネット・ポイント攻撃のほかに、中国が「三つの反と一つの抵抗」と呼ぶものから教訓を得ている。「三つの反」とは、反偵察、反干渉、反秘匿であり、「抵抗」とは破壊に抗することである。専門家は、軍隊は兵器システムにより組織されることから情報システムにより組織されることに転換されるべきであると指摘している。
                                                            (つづく)■