人民新報 ・ 第1027号  (2001年6月25日)    

                             目次

● 「つくる会」の「歴史・公民」教科書採択の阻止へ!
          「歴史歪曲教科書を許さない!アジア連帯緊急会議」の成功

● フランスSUD労組の闘い
          官僚化した労働運動からの脱却と独立労組の前進

● 「新たな組合の結成は、全く正しかった」
    郵政全労協第十一回定期大会と結成十周年記念行事

● アジア連帯緊急会議基調報告(要旨)
    ジェンダーの視点から  
              松井やより(「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク代表)
    女性と平和の観点から
              金允玉(韓国挺身隊問題対策協議会常任代表

● 部落史から取り残された諸賤民についてA   大阪部落史研究グループ

● 複眼単眼
        またも「タレント」候補の擁立に走る各政党





「つくる会」の「歴史・公民」教科書採択の阻止へ!

           侵略戦争礼賛と改憲の教科書はゴメンだ!


              「歴史歪曲教科書を許さない!アジア連帯緊急会議」の成功

              日本政府、北朝鮮代表団の入国を妨害

              緊急連帯集会に八〇〇人、文科省包囲に五〇〇人


 「新しい歴史教科書をつくる会」による「歴史」と「公民」教科書が文部科学省の検定を通過し、各地でそれを採用する運動が右派によって強められている。
 この事態を危惧する人びとが、五月中旬に急遽、実行委員会をたちあげ、アジアの人びととの連帯をめざすシンポジウムと集会、文部科学省の人間の鎖による包囲行動、国会議員との懇談会などが開かれ、注目を集めた。同時にこれに連帯してフィリピンや韓国など全世界での連帯行動も展開された。
 六月十日(日)午後一時から、東京・水道橋の韓国YMCA会館を中心に「歴史歪曲教科書を許さない!アジア連帯緊急会議」が開かれた。集会にはアジア各国・地域から韓国、中国、台湾、フィリピン、マレーシア、インドネシアの市民運動の代表たち約四十名と、アイヌ、沖縄、在日コリアンなどのマイノリティを含めて日本国内から二百余名、計二五〇名の参加者があった。北朝鮮からは三名の代表団が参加の予定だったが、日本政府の妨害で北京から帰国を余儀なくされ、文書参加した。
 最初に連帯会議の呼びかけ人を代表して、山住正己さん(教科書ネット21 )、鈴木伶子さん(キリスト者平和ネット)、東海林路得子さん(VAWW−NETジャパン)の開会あいさつがあった。
 会議の全体会のセッション@では、日本側から「ジェンダーの視点から」(三面掲載)と題して松井やよりさん(VAWW−NETジャパン)、「歴史歪曲の視点から」と題して石山久男さん(教科書ネット21)の基調報告、海外から「女性と平和の視点から・扶桑社の教科書はアジアと日本の平和に逆行する」(三面掲載別掲)と題して韓国の金允玉さん(韓国挺身隊問題対策協議会常任代表)の基調報告が行われた。
 セッションAでは韓国、中国、台湾、フィリピン、マレーシア、インドネシアの各代表と日本国内のマイノリティから報告が行われた。
 セッションBは分散会で、実行委員会が準備した「宣言」と「行動計画」を中心に、「つくる会」の教科書を採択させないために何ができるのかについて、四会場に分かれて午後九時すぎまで討論した。
 十一日は午前九時からセッションCで分散会報告が行われ、セッションDで「宣言」と「行動計画」について討議し、熱心な討論のあと、採択した(四面掲載)。
 この日、午後三時から海外の代表団を中心に二手に分かれ、文部科学省への要請行動と国会議員との懇談会が行われた。国会議員との懇談会には社民党の土井たか子党首、保坂展人議員、重野安正議員、民主党の葉山駿議員、無所属の川田悦子議員などが出席して、アジアの人びとの声を聞いた。
 午後五時からは、翌日の「国際キャンペーン」のためにあらたに韓国から来日した四五名の代表団を加えて、文部科学省を約五百人の人びとが人間のくさりで包囲した。ここでは右翼が挑発にでて文部科学省の一角にたむろして、包囲網を分断した。しかし、人間の鎖は幾度にもわたるウェーブを含めて大きく成功した。
 午後六時半からは豪雨の中、会場を一ツ橋の日本教育会館に移して、「歴史歪曲教科書を許さない!アジア緊急連帯集会」開かれ、約八百名の市民が参加した。
 集会では開会あいさつを小河義伸さん(キリスト者平和ネット事務局代表)が行い、二日間にわたった「アジア連帯緊急会議」の報告を呼びかけ人の松井やよりさんが行った。
集会の基調報告は福島瑞穂さん(弁護士・参議院議員)と高橋哲哉さん(大学教員)が行い、海外参加者からのメッセージとして韓国、中国、台湾、フィリピン、マレーシア、インドネシアの各代表、また国内の運動・体験報告として、横山百合子さん(子どもと教科書全国ネット21会員)、安里英子さん(フリーライター/基地暴カを許さない女たちの会会員)、チカップ美恵子さん(アイヌ文様刺繍作家)、永山峰子さん(日本YWCA教科書問題に対応するチーム責任者)、尹卿恵さん(在日大韓川崎教会信徒/在日三世/青丘社桜本保育園保育士)、東海林路得子さん(VAWW−NETジャパン事務局長)、赤石千衣子さん(婦人民主クラブ共同代表)などが発言した。
 その後、集会は「宣言」などを採択した。
 二日間にわたった「アジア連帯緊急会議」はアジア各国の代表団と国内の各市民団体などの協力で大きく成功し、その後の国内各地での「つくる会教科書採択阻止運動」の前進へと力をつないだ。


日本の教科書を正す国際キャンペーン

           世界七十一カ国、一二五都市で同時集会


 六月十二日、前日までのアジア連帯緊急集会の成功を引き継いで、文部科学省前での抗議行動を中心に、全世界で七十一ヵ国、百二十五市での「日本の教科書を正す国際キャンペーン」と銘打った同時集会が行われた。呼びかけたのは韓国の九十九の市民団体・労働団体・宗教団体などで、日本の市民団体もこれを共催した。
 日本の文部科学省前では警察の妨害や右翼の挑発もあったが、韓国からの百人ほどの大量参加をはじめ、前日までの実行委員会参加者など三百名が行動に参加した。
 各国で取り組まれた都市は以下の通り。
 韓国:ソウル、釜山、済州島、/日本:東京/ラオス:ビエンチャン/マレーシア:クアラルンプール/モンゴル:ウランバートル/ミャンマー:ヤンゴン/バングラディシュ:ダッカ/ベトナム:ハノイ、ホーチミン/ブルネイ:バンダル/サウジアラビア:リヤド、ジェダ/スリランカ:コロンボ/シンガポール:シンガポール/アラブ首長国連邦:アブダビ/イラン:テヘラン/イスラエル:テルアビブ/インド:カルカッタ、ニューデリー、ボンベイ/インドネシア:スラバヤ、メダン/中国:北京、重慶、大連、上海、瀋陽/カタール:ドーハ/カンボジア:プノンペン/クウェート:ジャプリア/夕イ:バンコク/トルコ:アンカラ/パキスタン:イスラマバード/フィリピン:マニラ、ダバオ/グァテマラ:グァテマラ/ドミニカ:サントドミンゴ/アメリカ:ワシントン、アンカレッジ、アトランタ、ボストン、シカゴ、デンバー、デトロイト、グァム、ホノルル、サイパン、サンフランシスコ、シアトル、ヒューストン、カンザスシテイ、ロスアンジェルス、マイアミ、ニューオルリンズ、ニューヨーク、ポートランド/ボリビア:リマ、サンタクルーズ/ブラジル:プラジリア、ベレーム、クリティバ、リオデジャネイロ、サンパウロ/アルゼンチン:ブエノスアイレス/ウルグアイ:モンテビデオ/チリ:サンチアゴ/カナダ:モントリオール、トロント、オンタリオ/コスタリカ:サンホセ/コロンビア:ポゴタ/パラグアイ:アスンシオン/ペルー:リマ/ガーナ:アクラ/ナイジェリア:アプジャ/南アフリカ共和国:ケープタウン/モロツコ:ラバト/セネガル:ダカール/ウガンダ:カンパラ/エチオピア:アジスアベバ/カメルーン:ヤウンデ/ケニヤ:ナイロビ/タンザニア:ダルエスサラーム/ニュージーランド:ウェリントン、オークランド、クライストチャーチ/オーストラリア:キヤンベラ、ブリスベイン、メルボルン、パース、シドニー/オランダ:ハーグ/ノルウェイ:オスロ/デンマーク:コペンハーゲン/ドイツ:ベルリン、ボン、デュッセルドルフ、フランクフルト、ハンブルグ、ミュンヘン/ロシア:モスクワ、サハリン、サンクトペテルブルグ、ウラジオストック、ハバロフスク/ベルギー:ブリュッセル/ブルガリア:ソフィア/スウェーデン:ストックホルム/スイス:ベルン/スペイン:マドリッド、ラスパルマス/イギリス:ロンドン/オーストラリア:ウィーン/ウズベキスタン:タシュケント/ウクライナ:キエフ/イタリア:ローマ、ミラノ/カザフスタン:アルマアタ/ポルトガル:リスボン/ポーランド:ワルシャワ/フランス:パリ/フィンランド:ヘルシンキ/ハンガリー:ブタペスト

 二〇〇一年六月十二日


フランスSUD労組の闘い

          官僚化した労働運動からの脱却と独立労組の前進


 全労協は、郵政全労協(全労協・郵政労働組合全国協議会)結成十周年を記念して、フランスから二名の労働者を招待し、郵政全労協をはじめ、全労協や仙台、郡山、大阪、広島など各地で日本とフランスの労働者の連帯・交流が行われた。
 フランスの労働運動は、これまで共産党系のCGT(労働総同盟)と社会党系のCFDT(フランス民主労働連合)、FO(労働者の力)などのナショナルセンターを中心として展開されてきたが、グローバル化・新自由主義攻勢の過程で、多くの組合が協調主義化・官僚化した。しかし、それに抗して新しい戦闘的な運動潮流が産み出され、多くの闘う独立組合が結成された。
 来日したSUD−PTT(連帯・統一・民主―郵便電信電話労働組合)とSUD−Rail(鉄道労働組合)はその中核的な存在である。今回のフランス労働者たちとの連帯・交流は、資本のグローバリゼーションと闘う労働運動の国際主義の精神をあらわしている。全世界の労働者は連帯し、相互に学びあう中で、労働組合運動の再生をかち取って行こう。

日仏労働者の交流

 六月十二日には、シニアワーク東京で、「日仏労働者交流集会」(主催・全労協、郵政全労協)が開かれた。
 集会では、藤崎良三全労協議長が主催者あいさつを行い、矢沢賢都労連委員長が歓迎のあいさつを行った。評論家の湯川順夫さんがフランス労働組合運動の現状を説明したあと、SUDからの報告に入った。
 SUD−Rail(鉄道労働組合)のジョエル・ピエルさんとSUD−PTT(郵便電信電話労働組合)エルヴェ・ケルンさんが、フランスの新しい労働運動の特徴について次のように述べた。
 ヨーロッパの労働運動も一色ではない。ドイツ型、イギリス型、それにフランス、イタリア、スペインなどの南欧型がある。ドイツなどでは、経営者は労働組合と協調して生産をおこなうという方式をとっているが、フランスでは、経営者は労組に敵対的であり、組織率は一〇%を割っている。

社会党政権と労組右傾化

 一九八一年にミッテンラン社会党政権ができたが、それを契機に、大労組は政府のパートナーになるという形で労働運動の形骸化・官僚化が一気に進んだ。
 なかでもCFDTの変質は急激なものだった。一九六八年五月革命の精神を受け継いだCFDTは、一時主張していた「自主管理社会主義」の立場を放棄し、CGTとのブロックも解消して、極端な労使協調主義に移行した。
 
官僚主義的排除と新労組

 一九八八年には首都圏地域で郵便労働者たちのストライキ闘争がおこったが、CFDT―PTT中央はこの闘いを認めなかった。一方CFDT―PTT首都圏組織の指導部は闘争を支援した。だがCFDT中央は、これを口実に闘う部分に対して官僚的しめつけ・排除をおこなった。その結果、一九八八年の十二月には新しい労働組合SUD―PTTが結成された。組合員は当初約千名だったが、いまは一万を超える組合員となっている。フランスでは、各職場で労働者が組合を選出する職場選挙が行われるが、SUD―PTTやSUD―Railなどは多くの所でCGTに次ぐ第二位の支持を労働者たちからうけるまでになっている。官僚主義との闘いについていえば、SUDでは、組合民主主義の徹底をめざしているが、専従も長くやらずに職場に帰る制度をとっている。

労働者の権利を守れ

 ミッテラン政権発足以降の二十年間に生産性は十倍になったが、その半面、雇用形態の不安定化をもたらした。新しく出来る職の三分の二はパート労働である。雇用者連盟の「雇用再編プロジェクト」は、労働者の権利を真っ向から否定する攻撃をかけてきている。多くのナショナルセンターがそうした新自由主義政策を受け入れる中で、ナショナルセンターの影響力はいっそう低下してきている。労使協調体制の中で労組の官僚化が進んだが、九〇年代になって旧来の労組に嫌気がさした労働者たちは、つぎつぎと新しいタイプの労働組合をたちあげている。

労働運動と社会運動

 フランスの運動の特徴としてあげられるのは、新しいタイプの社会運動が発展し、それが労働運動と結びついていることだ。ホームレス、移民、失業者、女性、第三世界連帯、良心的兵役拒否、反グローバリゼーション、反ネオ・ファシズム運動などは、それぞれが自分たちの要求を実現させる自主的な組織(アソシエーション)をつくっている。たとえば、AC!(反失業共同行動)やATTAC(市民を援助するために金融取り引きへの課税を求める協会)、DAL(住宅権利協会)などが活動している。それぞれは自らの活動を展開するとともに、広くネットワークを形成していくというかたちになっている。こうした共闘がフランスの社会運動に新たな活気をもたらしている。

新しい国際主義を

 SUD―PTTは、反失業団体AC!の一員として、ヨーロッパ規模での反失業闘争の拡大のために闘い、またATTACの構成メンバーとしてグローバリゼーションに抵抗する国際的な運動を支えている。
 いま、ヨーロッパ統合が言われているが、経営者とは違って、労働者の方はまだばらばらの状態だ。しかし、IMF・WTOなどに抗議するシアトル、ワシントンなどでの抗議行動には世界中の社会運動が結集した。こうしたことも、国境を超えた労組の交流の必要性をいっそう強いものにしている。


「新たな組合の結成は、全く正しかった」

    郵政全労協第十一回定期大会と結成十周年記念行事


 郵政全労協(全労協・郵政労働組合全国協議会)第十一回定期大会、及び結成十周年記念行事が、六月八日から十日にかけて東京で開催された。
 高橋郵政全労協議長(郵政近畿労働組合)は大会の挨拶で、「多くの不安を抱えながらも選択した新たな組合の結成は、全く正しかった」と述べ、結成十年を喜ぶとともに、「さらに飛躍を勝ち取ろう」と団交協約の締結とそれを武器にした闘い、公社化、民営化に対する闘いを「攻撃にさらされている多くの労働者の苦しみ怒りを基礎にさらに強化」し、「あらゆるところに郵政全労協の旗を掲げよう」と力強く訴えた。
 大会議事では、団交協約締結に向けての経過、判断と今後の課題、組織拡大の取り組み、今後ますます増大する「非正規労働者」との連携、組織化、〇三年公社化に向けた対置要求、交渉強化などについて、活発な議論がおこなわれた。
 そして、大会議案、団交協約締結、青年部結成に伴う規約改正、及び三木議長(近畿郵政労働組合)をはじめとする新全国幹事の選出が代議員によって、それぞれ承認、決定された。
 大会終了後の九日午後からは、結成十周年記念シンポジュウム「郵政公社化と新たな公共性を考える」が開催された。
 特別報告として、牛久保秀樹弁護士が「郵政事業の企業化とその問題点」、ジャーナリストの斎藤貴男氏が「巨大総務省の本質」という課題で報告した。
 パネルディスカッションでは、ジャーナリストの立山学氏が民営化の功罪、東京・文京区民の上田外茂子氏が利用者の立場から、『伝送便』編集長の池田実氏が郵政事業の腐敗構造と公社化についてそれぞれ提起、参加者と共に討論をおこない、公社化を巡る問題点を浮き彫りにした。
 夕刻からは記念レセプションが開催された。全労協議長藤崎良三氏、新社会党矢田部理氏、沖縄社会大衆党新垣重雄氏、闘う国労闘争団岩崎松男氏をはじめ多くの労組、政党、市民運動など各界からの挨拶、祝辞を受け、百五十名の参加者で大いに盛り上がった。
 翌十日には招請したフランスSUD―PTT(連帯・統一・民主―郵便電信電話労組)による記念講演がおこなわれた。
 郵政事業民営化に反対し独立労組としての結成の経過、徹底した組合民主主義の追求、社会的運動(反失業、移民労働者・ホームレス連帯、青年女性問題、反ネオ・ファシスト、国際連帯)の取り組みについて報告を受けた。同時に全国囲碁大会が和やかに進められた。
 代議員、傍聴者として全国から結集した郵政全労協の仲間たちは、新たな飛躍を確認しあって、三日間の行動を終えた。      (郵政労働者)


アジア連帯緊急会議基調報告(要旨)


ジェンダーの視点から
            松井やより(「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク代表)


会議を開くにいたった経過

 「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史・公民教科書が、韓国や中国など近隣諸国の批判にも関わらず四月に町村信孝文部科学大臣(当時)のもとで、検定に合格したため、韓国や中国で抗議の声があがり、両国政府は相次いで、日本政府に大幅な修正を要求してきました。「慰安婦」問題に一切ふれず、それを記述することはトイレの歴史を書くようなものだと「つくる会」教科書の執筆者が公言していることに憤激したからです。
 韓国挺身隊問題対策協議会代表から、第六回「慰安婦」問題アジア連帯会議をこの教科書問題に焦点を当てて日本で早急に開いてはどうかという提案があり「VAWW−NETジャパン」は、「平和を実現するキリスト者ネットワーク」、「子どもと教科書全国ネット21」にも協力を求めました。そして、三つのネットワークが呼びかけ団体になって、採択時期を前に、急遽、この会議を開くことを決定したのです。三団体の呼びかけに女性、平和、教育、人権、「慰安婦」問題、戦後補償、在日など三〇近い団体で五月二五日、実行委員会を発足させました。この会議を支持する動きは広がり、全国各地の一一九団体と多数の個人の賛同を得て、準備を進めてきたわけです。
 海外からはアジア七カ国(韓国、北朝鮮、中国、台湾、フイリピン、インドネシア、マレーシア)から参加の意向が伝えられましたが、日本政府は、「つくる会」の側に立つ右翼議員の政治的圧力に屈して、北朝鮮代表三人の入国を突然、拒否するという不当な措置をとりました。

会議の二つの目的

 この会議の目的は短期、長期二つあります。
 一つは、「つくる会」教科書の問題点を共有して、採択を阻止するための対策を話し合うことです。
 もう一つは、アジアの共通の未来を創るための歴史教育のあり方について、アジア各国の代表と意見を交わし、今後の協力の出発点にすることです。
 この二つの目的のために、効果的な行動計画をこの会議で練り上げたいと思います。       

「慰安婦」を抹殺する女性蔑視思想

 私たちVAWW−NETジャパンは「慰安婦」問題、米軍基地の性暴力、現代の武力紛争下の女性への暴力について取り組み、昨年十二月、日本軍性奴隷制を裁く「女性国際戦犯法廷」を開きました。この民衆法廷では「天皇有罪、国家に責任」という判決と共に出された一〇項目の日本政府への勧告の中に「教科書に記述すべきだ」と明記されています。
 
歴史・公民教科書に共通する問題点

 「つくる会」教科書の問題といえば、歴史教科書に関心が集中しがちですが、実は公民教科書こそ、かつての侵略戦争を反省せずに、現在の日本を再び戦争のできる国家にしようとする危険な意図で書かれているのです。
 ここで、「つくる会」の歴史・公民両教科書に共通する問題点を整理してみますと、次の五点をあげられると思います。
@歴史歪曲(レイシズム)。侵略戦争・植民地支配正当化、他民族マイノリティ差別。
A女性蔑視(セクシズム)。「慰安婦」抹殺、伝統的性別役割肯定、個人より家族重視。
B国家中心(ナショナリズム)。人権より公共福祉、民衆不在、市民運動敵視。
C戦争肯定(ファシズム)。憲法改悪、集団的自衛権、国旗・国歌、明治憲法、天皇制礼賛。
D自画自賛(ショービニズム)。自国文化の礼賛、神話の宣伝、自民族中心主義。

国家主義勢カの教育・メディアヘの浸透

 「つくる会」の執筆者たちは「自由主義史観派」に属していますが、そのような国家主義、歴史修正主義、右翼勢力が、戦後五〇周年の一九九五年ごろから急速に台頭して、戦争・戦後責任に向き合う人々を自虐史観と非難し、過去の侵略戦争や植民地支配を正当化する歴史認識を宣伝し、「戦後民主主義」を攻撃しています。とくに、教育をターゲットにして現行の歴史教科書を自虐的と批判し続け、右翼思想を若い世代に注入するための道具として、自分たちで教科書をつくることにしたのです。
 右翼勢力は教育だけでなく、メディアに急速に食い込んでいます。「つくる会」の西尾幹二、藤岡信勝、小林よしのり、西部邁などのほか、女性陣では、桜井よしこ、曽野綾子、上坂冬子、台湾出身の金美齢、韓国出身の呉善花などがメディアで活発な右翼言論活動をしているのです。その他右翼雑誌「正論」や「諸君」「SAPIO」などの常連執筆者まで、最近では、「朝日」にも登場するようになりました。
 また、出版分野でも、これらの右翼言論人や学者の著作は点数でも部数でも急増して、書店に平積みされてベストセラーにもなっています。さらに、映画も東京裁判で東条を美化した「プライド」や最近のインドネシア独立に日本軍がいかに貢献したかをテーマにした「ムルデカ」など、右翼的な作品が相次いで制作上映されています。潤沢な資本をバックに新聞、出版、テレビ、映画など活字、映像すべてのメディアを通して、国家主義的思想の宣伝が周到に組織的に行われているのです。
 こうして、人権や平和や反差別の言論は、事実上、メディアから疎まれ、警戒されて、実質的に締め出されている状況です。一方で、人種差別や人権侵害や国家主義を煽る言論は日本では表現の自由の名のもとに、全く歯止めがなく、言いたい放題、書きたい放題です。
 まさに、軍国主義教育と言論統制で国民を戦争に狩り立て、多数の国民を死に追いやった歴史を想い起こさせられます。

今後の課題ー日本の民主化と国境を越える参加民主主義


 日本が真に民主化されなければ、戦後補償の問題を解決し、戦後責任を果たすことはできない、それなしには、日本との和解はできないと、アジアの被害国の人々に厳しく指摘されます。「つくる会」教科書を出現させた国家主義に対抗するには、真の民主主義を創る民主化の闘いを始める以外ないでしょう。教科書問題は民主化の問題なのです。
 日本の戦後民主主義はたしかに闘いとったというよりも、敗戦によって与えられたものであったことは事実です。従って、形だけの民主主義で、実際にはつねに、国家や企業や大マスコミが日本社会を支配し、それに対抗する市民社会の力はいまだに弱く、民が主である、つまり、人々が物事を決定する力を奪われているので、実質的な民主主義社会とは程遠い現実です。従って、右翼が戦後民主主義を攻撃して、危険なナショナリズムに逆戻りしようと意図しているのとは反対に、私たちは真の民主主義を自分たちの力で実現する方向で努カしなければならないと思います。
 命がけで民主化を闘い取ったアジアの人々に学び、国境を越える参加民主主義を創りあげていくことによって、日本が再びアジアに銃を向ける危険な軍事国家になることを阻み、アジアの人々の不安と恐怖を取り除いて、和解と信頼の関係を創り、平和なアジアの未来を切り開くことができるのではないでしょうか。


アジア連帯緊急会議基調報告(要旨)

女性と平和の観点から
                  金允玉(韓国挺身隊問題対策協議会常任代表


 私は「挺身隊問題対策協議会」(以下挺隊協)の常任代表として、そして「日本の教科書を正す運動本部」常任代表として、日本の教科書問題を女性と平和の観点から発表したいと思います。
 挺対協は一九九〇年十一月十六日に創立されて以来、日本政府に向けた七大要求の中の一項目として、「このような間違いを繰り返さないよう、歴史教科書で事実を教えること」を主張してきました。それは、人類の歴史上にこのような残酷なことが起こってはならないという認識からでした。そして挺対協による教科書記述要求のための闘いの結果、九七年の教科書には、比較的「慰安婦」問題が賠償問題にまで言及される形で記述されるようになったといっても過言ではありません。
 しかしその時私たちは「自虐史観」云々という右翼の反撃にあい、また「新しい教科書を作る会」が組織されたこどを聞きました。ですがさほど大きな心配は抱いていませんでした。日本内の市民団体や良心的な勢力がこれを阻止するでしょうし、韓国政府も情報を入手しているので、このまま手をこまねいてはいないだろうと思ったのです。そして私たちは「女性国際戦犯法廷」の準傭に二年間、没頭していました。ところが「法廷」が終わるや否や教科書問題が起こったのです……。
 振り返ってみると、日本の教科書歪曲問題は初めてではありません。一九六五年からの右翼による教科書攻撃に始まり、これに対する護憲派の反撃として知られている家永三郎裁判、一九八二年に右翼の攻撃によって文部省の指示が先行する形で確立された検定制度、一九八六年の「新編日本史」の衝撃など、教科書を巡る動きはいわば日本の右翼と良心的勢力の闘いでもありました。
 そして「平和の世紀」と国連が提示した二十一世紀初頭に、またもや日本の右翼による教科書攻撃が、扶桑社教科書の検定通過、出版販売開始という形で始まったのです。この教科書では「慰安婦」の事実がことごとく排除されました。日本軍が行った残酷な行為の象徴である「慰安婦」問題を故意に排除し、隠蔽したのです。そればかりでなく、代表執筆者である坂本多加雄はむしろ意気揚揚として、「慰安婦問題についてはもちろん一行たりとも書かれていない」と公言しています。そして「そもそも戦地の慰安婦制度といった特殊な状況における性の処理に関する事項を、とりわけ中学段階の歴史教科書に記載することへの疑念がある」と述べ、「例えばトイレの構造の歴史や日本の犯罪史は確かに様々な程度でわれわれの日常生活に関わるものではあるが、それは通常『日本史』を構成する際の必須の事項とは言えないだろう」と主張しています。
 これに従い、七社の教科書に一〇〇%記述されていたものが修正され、「慰安婦」という言葉が残っているのも東京書籍と日本書籍だけとなり、しかもその記述は短くなっています。この様な現象は、最近の国連人権委員会決議や、世界労働機構専門家委員会決議に違反するものです。国際社会はすでに日本軍「慰安婦」を反人道的な戦争犯罪行為として糾弾し、日本に対して補償を行うように重ねて勧告しています。このような状態で日本が国連安保理常任理事国になる資格があると思いますか。挺対協は今、日本の国連安保理常任理事国入り反対運動を始めています。
 また、この教科書は、九三年八月に河野官房長官が、日本軍が慰安所設置及び運営に直接、間接的に関わっていたこと、募集、移送、管理が甘言や強圧などによって総体的に本人の意思に反して成されたことを認めた談話にも背くものです。即ち、新しい教科書を作る会の執筆者達は、自らの政府の官房長官が認めた「慰安婦」問題を取り消し、否認しているのです。
 さらに言うならば、これは一九九八年一〇月に金大中大統領と小渕前首相によって出された「二十一世紀に向けた新しい日韓パートナーシップのための共同宣言」の精神にも背きます。この宣言は両政府が北東アジアの平和のために行ったものですが、それから二年半も経たないうちに宣言に反する教科書が文部科学省の検定を通過したのです。また金大中政府は、二〇〇〇年六月十五日の「南北共同宣言」に見られるように、民族の和解と平和を図ろうと努力してきました。ここでも教科書問題が影を落としています。
 私たちが六・一五宣言の精神で平和のために努力しているにも関わらず、日本は新ガイドライン法、「君が代・日の丸」の国会通過などを通じて私たち民族の和解と平和を妨害してきました。しかし私たちは「女性国際戦犯法廷」で南北共同検事団を組織し、ヒロヒト天皇の戦争犯罪を宣言しました。南と北の女性が共に行動できることとして、「慰安婦」問題の解決を選び、一九九九年に平壊で決定した私たちは、それからずっと互いに心を合わせながら対処してきました。
 このように歴史的事実を歪曲し、削除した歴史教科書で教育を受ける未来の日本人は、私たちにとってどのような存在になるでしょうか。彼らは世界化の時代である二十一世紀において、どのような類の人間として育成されるのでしょうか。
 日本の歴史は、部分的にはアジア諸国の歴史に連なるものです。それゆえ歴史的事実が歪曲された形で記述されるのを阻止しなければならないのは言うまでもありません。しかし私が教科書に「慰安婦」問題が記入されなければならないと思う理由は、いわゆる「日本史教科書問題」における最も根本的な源泉とも言うべきもの、また歴史叙述に関する原理的な問題がここにあるからです。
 そして「慰安婦」問題を見ることにより、日本の天皇制に対する理解が異なってきます。また「慰安婦」問題から女性差別や民族問題が導き出されます。階級問題にも目が向くようになります。そして人間が人間を抑圧し、差別する構造的暴力に対する理解、男性集団が女性に対して持っている女性蔑視的軍事主義の問題、一つの国家が他の国家を侵攻し、占領し、その国の伝統や文化、そして経済的な生存の土台までを破壊する植民地主義の問題など、全ての物理的、構造的暴力の問題が、平和に反する要素であることが知らしめられます。
 アジアと日本の平和のため、これから私たちは今までしてきたように、南と北が共に連帯しながら教科書問題を最後まで追求するでしょう。そして中国と台湾、フィリピンやインドネシア、マレーシアなどの市民団体と、日本の良心的勢力と連帯し、この問題が解決される時まで闘うことを約束します。


資料・・・・・

歴史歪曲教科書を許さない! アジア連帯緊急会議宣言・行動計画
                             二〇〇一年六月十一日東京


宣言

 侵略戦争も植民地支配も正当化する国家主義勢力が日本で台頭し、日本を再び戦争のできる国家に変えようとしています。それを意図した「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史・公民教科書について憂慮する韓国、中国、台湾、フィリピン、インドネシア、マレーシア、日本、アイヌ民族、沖縄、在日外国人、および朝鮮民主主義人民共和国(日本政府の入国拒否のため文書提出による参加)の二五〇人が「歴史歪曲教科書を許さない!アジア連帯緊急会議」を二〇〇一年六月一〇ー十一日、東京で開きました。
 私たちは、二日間の会議で、日本軍の性奴隷として「慰安婦」にされた女性や、住民虐殺被害者、日本国内のアイヌ民族、沖縄、在日コーリアンの立場からの証言を共有し、「つくる会」教科書の採択を阻止するために、そして、将来のあるべき歴史教育を確立するために、どのような行動をとるか意見を交わしました。この二つの目的達成のために、私たちアジアの人々の連帯を強めることを宣言します。
 日本では「つくる会」教科書問題の集会が今年に入ってからでも全国各地で三〇〇回以上開かれるなど急速に批判が高まっています。また、韓国、中国両政府から修正要求が日本政府に出され、韓国の国会議員や元「慰安婦」が来日して日本政府に座り込みなどの抗議行動をとりました。その他のアジアの国々からも抗議の声が日本に次々に届いています。それは、「つくる会」教科書がすべてのアジア人にとって、危険なものだからです。「つくる会」歴史教科書の問題点は、第一に、日本の侵略戦争をアジアの西欧植民地支配からの解放戦争であると美化し、植民地支配は合法的であり、相手国に貢献したと評価するなど、過去の歴史をすべて正当化していること、第二に、皇国史観に貫かれ、天皇の戦争責任を追及するどころか天皇を礼賛していること、第三に、南京大虐殺を疑問視し、日本軍性奴隷制(「慰安婦」制度)という二〇世紀最大規模の戦時性暴力を抹殺していること(執筆者は、「慰安婦」の記述はトイレの歴史を書くようなものと暴言)、第四に、歴史の主体が国家中心で、民衆やマイノリティ不在であること、第五に、家制度を擁護し、良妻賢母の伝統的性別役割を強調するなど女性蔑視思想が濃厚なこと、などです。つまり、自民族中心、国家中心、権力者中心、男性中心史観に貫かれているのです。
 このような歴史認識は「つくる会」公民教科書に反映しています。
第一に、憲法改悪、自衛隊礼賛、海外派兵、集団的自衛権、「中国・北朝鮮脅威」論、「国旗・国歌」の強制、国益と国家秩序、国防の義務強調、核武装肯定など、戦争のできる国づくりを公然と主張しています。
 第二に、戦争国家にするために、市民的自由や権利よりも公共の福祉優先、個人より家族の主体性重視、外国人やマイノリテイヘの差別軽視、市民運動の敵視など、人権より国権優先の国家中心主義、排外主義、人種差別思想を唱えています。
 第三に、女性への暴力の問題など女性の人権や男女平等教育への配慮に欠け、女性差別が明らかです。このように歴史・公民教科書は表裏一体のものであり、歴史教科書の過去の侵略肯定という歴史認識が公民教科書の現在の戦争肯定につながっているのです。
さらに国連人権規約などの国際人権法や国連勧告などにも反しています。このような教科書が子どもたちに与える悪影響は計り知れません。
 「つくる会」教科書の問題は、日本の小泉内閣の憲法や教育基本法改悪、靖国神杜公式参拝などの動きに連動し、戦争のできる国家に向かうものであり、このような日本の国家主義への流れに、アジアの人々が国境を越えた協力で歯止めをかけないと、アジアに再び惨禍と災厄をもたらす恐れがあるのです。しかし、危険な国家主義は、経済のグローバル化への反動として、世界各地で広がって紛争や暴力を引き起こしており、アジアの国々でもそれを食い止めなければならないと思います。そのためにも、それぞれの国で自国の歴史を点検し、教育を国家権力から人々の手にとりもどし、平和のための歴史教育を実施することが必要です。
 私たちは、第一に、日本政府が「つくる会」教科書を検定に合格させた責任を厳しく問い、強く抗議します。それは、宮沢官房長官談話と近隣諸国条項(八二年)、河野官房長官談話(九三年)、村山首相談話(九五年)、日韓共同宣言(九八年)、日中共同声明(九八年)など日本政府のこれまでの公式見解や国際公約を無視した措置だからです。 私たちは、日本政府が、韓国、中国からの修正要求に誠実に応じるように要求します。
 第二に、「つくる会」教科書が各地の教育委員会で採択されて教室に持ち込まれないように、私たちは、日本国内で、アジア全域で、できる限りの共同行動を起こします。
 第三に、アジアに生きる私たちが和解と信頼に基づく平和と人権のアジアを創ることを願い、そのような大事な役割を担う子どもたちを育てるのにふさわしい歴史教育を確立するために協力し合います。
 これらの目的を達成するために、私たちは、歴史教育アジアネットワーク(仮称)を形成することに合意し、次のような行動計画を提案します。

 行動計画

一、「つくる会」教科書採択阻止のために
@地域で
 教育委員会への働きかけ。請願の要請の署名運動、手紙(ハガキ)書き。
教科書展示会、アンケートに意見を書く。
採択過程の公開要求。
地方議会に憲法、教育基本法に基づく教科書採択の要講・請願。
「つくる会」教科書を他の教科書と比較して読む運動。
教科書問題のさまざまな集会。
市民ネットワーク作り。
地方自治体の人権教育・国際理解教育に歴史教育を取り入れさせる。
A教育現場で
校長や教師と話し合う。PTAで取り上げる。教職員と市民との連携。
B全国的に
マスコミ対策。新聞に折り込み広告・意見広告。良い記事を応援・悪い記事に抗議。
Cアジア各国で
毎週金曜日座り込み。
各国で日本大使館に抗議。自国政府に日本政府への働きかけを要求。
Dアジア太平洋地域の連帯で。
アジア共同署名運動。姉妹都市、友好都市間の連携。Eメールでの情報伝達。
同時サイバー・キャンペーン(文部科学省に対して)。ホームページ作成。
E国際機関や世界で
国連人権委員会、ILO、ユネスコなどの国連機関に世界のNGOと提携して訴える。
グローバルなNGOネットワークに情報伝達。

二、アジアの未来を共に創る歴史教育を確立するために
@ジェンダーの視点で
女性運動と教科書運動の連携。
すべての教科書に「慰安婦」記述の復活、充実。
ジェンダーの視点からのアジア共通の歴史教科書。
A歴史学者、教育学者として
国定教科書など自国の歴史の見直し。
朝鮮史、アジア史、日本史学会に行動を要望。
地域史などの作成。
B歴史教育の国際協力
アジア各国間の生徒・学生・教師・学者同士の交流(共同授業など)。
他のアジア諸国の歴史教科書を参考に。
歴史副読本の共同制作。
各国教科書の日本関連記述についてのシンポジウム、報告書。
C国際キャンペーン
「つくる会」教科書支援日本企業の責任追及。企業名の表示、製品不買運動など。
日本の国連常任理事国入り反対運動。
日韓協定など二国間協定の見直し。      (以上)


部落史から取り残された諸賤民についてA
                             大阪部落史研究グループ


 今回、中世・近世の多様な被差別民の世界を概括的に、そして特徴的な被差別民について数例取り上げてみようと思う。
 昨年七月、吉川弘文館よりシリーズ近世の身分的周縁2『芸能・文化の世界』(横田冬彦編)が出版された。その冒頭で『人倫訓蒙図彙』(一六九〇年)という江戸時代の職業や身分についての絵入りの解説、つまり百科辞典についての説明がある。その内容は私たちの江戸時代のイメージを多様に膨らませてくれるので、長くなるが取り上げてみようと思う。
 それに取り上げられた職種は五〇〇項目以上。全体は七巻七冊で七つの部に別れている。
 支配層A・公家・武士・僧侶の支配身分、次に普通身分でB・能芸部(芸能五六種の職業支配層の文化であるとともに、芸能を演じ、また、その芸能を教える師匠でもあった。例えば歌人・学者・医者・武芸・雅楽・能・囲碁・将棋など。C・作業部(農民・漁民・山民など第一次産業に従事)、D・商人の部、E・細工部(商工未分離なもの)、F・職の部(B〜Eにしきれなかったものも含まれる。なおこの部は普通身分と賤民的な乞食身分も含まれる。前半は職人・商人関係、後半は遊郭関係と浄瑠璃・歌舞伎など芝居関係)、G・勧進もらい部(賤民的な乞食身分で門付けをしてまわるような、下級の芸人や宗教者で乞食・物貰い)これは四四種あり、全体として宗教者と芸能者が混然一体となっている。
 芸能・文化にかかわる職業の人たちで、一方では「芸事師匠」という、社会的職業として成立した部分。また、B・F(浄瑠璃・歌舞伎)のように権門のパトロン(武士・朝廷)に従属せずとも、自らの芸を不特定多数の享受者を相手に「興業」として自立していったり、もともと寺院などの宗教的な場で行われてきたり、あるいは聖や声聞師など宗教性を認められた人々による勧進として行われてきた。芸能については、Fのように興業としても、身分としても自立していったものと、賤民的な位置に残されたものGに分化していったとしている。『人倫訓蒙図彙』ではそれぞれの職業にコメントあるいは社会的な批評が加えられている。
 「勧進」について。中世において一定の宗教的な役割があって、それに対する布施を受ける「勧進」であったが、近世においてはたんなる「物貰い」「たぶらかし」と全面的に否定されている。元禄期の経済発展にともなう勤労倫理や「経済的合理意識」の展開の中で、全体としては否定傾向にあったとしている。
 宗教か物貰いあるいは勧進かの瀬戸際だった人々の、身分をめぐる必死の闘いの中で、諸賤民の中でも自らの立場を守るため組織化し、権力と結び付いて行く部分もあった。
 中世陰陽師(おんみょうじ)の流れをくむ近世の陰陽師は、陰陽寮を司る土御門(つちみかど)家と深いつながりをもち続け、土御門家から苗字・帯刀・国名を許されていた部分もあった。
 また三味聖の行基信仰や鉢叩と言われる人たちが、念仏聖の祖としての空也を開基とする極楽院に集まり、組織化していく動きなど、近代を目前にさまざまな人達の生活や息遣い、考え方などに触れられるよう、次回より具体的に展開して行きたい。   (つづく)


複眼単眼

 またも「タレント」候補の擁立に走る各政党


 「非拘束名簿式比例代表制」にもとづく初めての参議院選挙では、予想された通り、各政党は有名人の擁立による大量得票ねらいに懸命になっている。今回の選挙法改定では、個人名と政党名のどちらを書いても合算され、政党ごとの得票に計算されるからだ。
 従来もタレント候補の擁立はあったが、今回はさらにそのタレントが獲得した票が同じ党の他の候補の当選にも貢献できることになったから、よけい拍車がかかったのだ。
 これまでもタレント候補が多かった自民党は、法改定直後にマラソンの高橋尚子選手の「師匠」を野中広務が担ぎだそうとして失敗したことは知られている。同党は有名予備校教師の佐藤某などをあらたに候補にした。かつて自民党に担がれたガッツ石松などは借金苦で、いまはなりふり構わず、ひどい番組にまででて稼いでいる。保守党は元プロ野球の三沢淳だ。そんなのいたっけ?という人も多いだろう。民主党は元テレビキャスターの幸田シャーミンやバレーボールの島影せい子、テレビリポーターの須藤甚一郎など。社民党はテレビ出演が多い法政大学の田島陽子だという。
 ふるっているのは自由連合で、大相撲の元関脇の荒勢、プロ野球の江藤慎一、プロレスのタイガーマスクの佐山聡、漫画家の高信太郎、歌手の千葉マリア、横浜銀蝿、元フィンガー5の歌手の玉元一夫にいたっては、そういう名前だったっけ?、という程度。それでもこの「党」は資金に任せて「三流タレント」と言ったら悪いかも知れないが、それを掻き集めている。自由連合はご存じの通り、「徳州会病院」の徳田虎雄が党首で、ほとんど私党的存在。石原慎太郎を担いで石原新党の結成を実現すると称している。とにかく比例区に候補をたくさん立てて、その総計で当選者を出すという選挙戦術をとっている。
 いったいこの資金はどこからでているのか。病院とはそんなに儲かるのか。僻地医療だの、底辺の人びとのための医療だのを看板にして、自分の美談を自伝にして宣伝しまくり、患者や税金から利益を収奪し、政治資金に回して税金のがれをしながら、あわよくば国政に進出したいという徳田という人物は、それだけでも許しがたい人物だ。
 各党のタレント担ぎだしはこれからさらに激化する様相だ。プロレスの大仁田厚は自由党が口説いたのに、自民党にさらわれそうだとか、大橋巨泉に民主党から声がかかっているとか、自民党の船田の連れ合いの畑恵は公認を拒否され、東京選挙区から無所属ででるとか、市民派をうたい文句に当選したら、自民党に駆け込んだ名古屋の末広まき子は、小泉にゴマをすって派閥を出た。
 これらを取り上げるスポーツ紙の話題にはことかかない。そしていまいちばんスポーツ紙が飛び付いているのが、小泉純一郎と田中真紀子だ。イチローやシンジョーの大リーグでの活躍で、伝統の「巨人・阪神」戦では読者を引き付けられなくなったスポーツ紙が、いま「政治ネタ」に飛び付いている。こういう風潮が小泉支持の八十数%という数字と無関係ではない。厳密に言えば、問題はその飛びつき方、質なのだが。     (T)