人民新報 ・ 第1036号 (2001年9月25日)
  
                                  目次

● 米国の「報復戦争」反対の声を 小泉内閣の戦争加担を許すな

● 「テロも報復戦争も反対!」   四〇〇人の市民のデモ

● それでも基地は必要ですか  沖縄とフイリピンの代表を招いて

● 資料・内外の市民団体の声明

       許すな!憲法改悪・市民連絡会 

       日本キリスト教協議会総幹事 大津健一/平和・核問題委員会委員長  小笠原公子

       戦争抵抗者連盟(War Resisters League)の声明

       国際行動センター(IAC=インターナショナル・アクション・センター

       オルターナティブ・インフォメイション・センター(イスラエルの反シオニスト左派組織)

● 四党合意は完全に破綻した 国鉄闘争の体制を再確立しよう

● カンタス航空闘争が勝利 全員が正社員として復職

● 郵政事業の民主的改革を実現し 「郵政民営化」と闘いぬこう! (下)   矢吹 徹

● せんりゅう  

● 複眼単眼
       希望を語らない 現実主義の俗論




米国の「報復戦争」反対の声を 小泉内閣の戦争加担を許すな

  
一般人を巻き込む無差別テロ糾弾!
  新たな戦争協力法や、自衛隊法改悪、有事立法、集団的自衛権の行使を阻止しよう!


事件とその後の動向

 九月十一日未明、民間機四機をハイジャックした自爆テロが、唯一の超大国アメリカの経済と軍事のセンター機能を持つ国際貿易センタービルと国防総省(ペンタゴン)を攻撃した。事件の被害者数はいまだ確認できないが、五千からそれ以上の死者と多数の人びとが負傷した。
 米国大統領ブッシュはただちに「長期の報復戦争を貫徹する」「二十一世紀型の新たな戦争に勝利する」などと叫び、同盟各国だけでなく、戦略的な要所の国々に脅迫的な言辞をもって同調と協力を呼びかけている。
 事件の背景や関連組織についてはいまだ何も明らかになっていない。にもかかわらずブッシュらは自爆テロの主要な実行容疑者を、アフガンに拠点をおくウサマ・ビンラディン・グループだと断定し、アフガンやパキスタンをはじめアラブ諸国に大規模な「報復戦争」への突入を警告している。そして国内では偏狭なナショナリズムを煽りたて、議会は下院の一名をのぞいてすべて報復戦争支持に回り、五兆円にも及ぶ軍事費が承認され、街ではとりわけアラブ人らへの排外主義的攻撃を助長させている。
 日本でも小泉首相がいち早く「日本のできることは何でもやる」とブッシュに伝え、「自衛隊派兵と日米共同作戦」の必要性を連日のように煽りたてている。新聞・テレビや、スポーツ紙、週刊誌などにいたる多くのメディアが連日、「米国の軍事報復」への支持を叫んでいる。
 「犠牲者への追悼」「テロの根絶」を口実に、これを契機にしてアメリカが名実ともに一国覇権主義を確立するための大規模戦争が迫っている。空洞化されてきたとはいえ、憲法によって規定されてきた日本の平和主義と民主主義が、いま根底から否定され、「戦争をしない国」から「戦争のできる国」、さらには「戦争をする国」へと変質させる策動が進んでいる。

無差別テロに反対

今回の事件は、アメリカ帝国主義が世界各地で歴史的にくり広げてきた軍事的抑圧と侵略にたいする人びとの怒りと反発を背景にしていると考えて間違いない。
 すぎた二十世紀は「戦争の世紀」と言われる。それは帝国主義・覇権主義によって侵略と抑圧・支配、民族・民衆の分断がくり返されてきた世紀だった。
 新しい世紀にとって必要なのはブッシュがいう「二十一世紀型の戦争」などではなく、侵略も抑圧もない平和で人類が共生する世界だ。二十世紀的な世界はかならずこうした方向で変革されなくてはならない。その変革の力の源泉は歴史の原動力としての民衆の中にある。
 だがしかし、今回の航空機のハイジャックとそれによる無差別の襲撃は、「正義」の名のもとに一方的に民衆を道連れにし、標的にした点において、許しがたい行為である。この無差別のテロリズムは世界の希望ある変革にとって何も有益なものは生み出さないどころか、それに敵対するものだ。

米国による報復戦争反対

 ブッシュとアメリカ政府は、いま「報復戦争」をあおりたてている。アメリカは戦後五十余年、かつての朝鮮やベトナムでの戦争をはじめ、スーダン、リビア、アフガン、イラクなどで、繰り返し武力行使をやってきた。その軍事力を背景に自らの覇権を確立しようとしてきた。二十世紀の戦争と紛争の火種にアメリカがからんでいないものはないと言っても過言ではない。その意味で、アメリカ帝国主義は史上最大の「テロ遂行国家」だといってよい。その行為への反省もないままに「報復」を叫ぶ資格はアメリカにはない。アメリカの軍事介入がいずれにおいても問題の終結や「テロの根絶」にならなかったように、「報復戦争」はあらたな反抗を生み、あらたなテロと戦争の火種となるにちがいない。この「報復戦争」は戦争の泥沼にアメリカを導き入れるにちがいない。そしてその戦火の犠牲にされるのは民衆だ。
 アメリカは「報復戦争」の企てをただちにやめ、歴史の深部にある平和を願う国際世論に耳を傾けなくてはならない。

政府の戦争加担と戦争遂行可能にする法整備反対


こともあろうに小泉政権は「湾岸戦争の轍を踏むな」などと、米国の報復戦争に積極的に加担しようとしている。湾岸戦争の時に膨大な軍事資金をだして置きながらアメリカなどに「日本が血を流さなかった」ことを批判された事態を繰り返したくないというのだ。「自由社会の平和と自由が脅かされている。こういうテロに対して責任ある行動をとらないと、国際社会で孤立してしまう」などといい、先の新ガイドライン関連法の枠すら超えて、米軍への新たな「後方支援」と称する共同作戦体制を作ろうとしている。あわせて日米共同作戦をより緊密にするための自衛隊法の改定、「有事法制」の確立、憲法の禁ずる「集団的自衛権行使」を可能にする解釈改憲など、危険な戦争法案を全面的に準備しつつある。
 アメリカの「報復戦争」の準備も整っていないのに、いまこれらの法案の一部は、まもなく召集される臨時国会にかけられようとしている。
 この小泉政権の先走った動きは、今回の無差別テロを奇貨として、日米の共同作戦体制、攻守同盟化を一段と引き上げようとする日本支配層の危険な意を呈するものにほかならない。
 そして日米支配層のいずれもが、さしせまる経済的破局の回避に、あるいは責任回避にこの報復戦争を利用しようとする狙いすら見え隠れしている。このように自らの延命のために戦争をもてあそぶことなど絶対に許してはならない。

反戦・平和の運動を起こせ

すでに全国各地で日米支配層によるこの危険な戦争準備に反対する声があがっている。
 北海道で、沖縄で、広島で、そして九月十七日には東京で反戦の運動が起っている。
 二十一世紀の最初の大規模な戦争を企てるアメリカや日本の支配層の策動に反対し、全国各地でただちに創意工夫した行動を起こす必要がある。
 この運動は長期の闘いとなるに違いない。
 持続的に運動の輪を広げ、発展させよう。民衆の運動の力で日米支配層の報復戦争を封じ込め、また「無差別テロ」に走る部分を封じこめなくてはならない。



「テロも報復戦争も反対!」   四〇〇人の市民のデモ

 九月十七日午後六時から、東京の永田町付近で「民間人を標的にしたテロリズム反対、米国の報復攻撃は問題を解決しない、日本政府の戦争協力を許さない九・一七市民の緊急行動」と題したデモが行われ、約四〇〇人の市民などが参加した。このデモは市民運動の有志が緊急に呼びかけたもので、呼びかけられて数日しか時間がなかったにもかかわらず、主催者の予想を超える人びとが参加した。この集会は今回のテロと報復戦争準備に反対する、都内では初めてのデモとなり、市民や報道関係者の大きな関心を集めたもの。
 参加者の中にはこの運動をインターネットの情報で知って駆けつけた人など、初めてデモや集会にでたという人もかなりおり、また若者の参加も目立って、関心の広さをうかがわせるものとなった。
 午後六時に三宅坂の社会文化会館の前で集会が行われ、有志を代表して「日本消費者連盟」の富山洋子さん、「日本キリスト教協議会」の糸井玲子さん、「日本山妙法寺」の武田隆雄さんが発言したあと、デモに移った。デモは三宅坂から国会前、首相官邸前というコースで、次第に仕事をおえて駆けつけてくる人たちで隊列が大きくなった。国会では社民党の日森ふみひろ、植田むねのり、北川れん子、原陽子の各議員と無所属の川田悦子議員らが出迎え、デモを激励した。デモ隊からは「STOP!改憲。市民ネットワーク」や「許すな!憲法改悪・市民連絡会」などからの発言が行われ、日比谷公園まで霞が関の官庁街を行進した。
 集会後の呼びかけ人会議で、名称を「テロにも、報復戦争にも反対!市民緊急行動」として、二四日に再度の集会を呼びかけることなどが確認された。


それでも基地は必要ですか

  
沖縄とフイリピンの代表を招いて

 アメリカのテロ攻撃への「報復戦争」が叫ばれる中、沖縄の基地に反対し、戦争に反対する市民たちが集会とデモを行った。
 九月十四日午後、東京・三鷹市の井の頭公園で「またしても!起きた米兵強かん事件に抗議する。それでも基地は必要ですか?三多摩集会とデモ」が開かれた。主催は「うちなんちゅの怒りとともに!三多摩市民の会」や「アンポをつぶせ!ちょうちんデモの会」「ピースサイクル三多摩ネットワーク」などによる実行委員会。当日は一〇〇名の人びとが集会に参加し、沖縄から参加した高里鈴代さん(基地・軍隊を許さない行動する女たちの会共同代表)とプリモ・アンパロさん(フィリピン 元アンバ・バーラ議長)らの話を聞いたあと、三鷹市内をデモ行進した。
 高里さんは「今回のアメリカの事態を予定したわけではないのに、この集会はとても意味のある集会になりました」と前置きして語った。
 「一九五一年の講和条約と安保条約から五〇年経った。沖縄は依然として戦争の基地とされ、いまは同時テロに報復するための基地になっている。ブッシュは四兆円もの資金をつかって戦争をするという。あらためて基地とはなにか、戦争とはなにかを考えなくてはならない。
 六月二九日に北谷(ちゃんたん)の事件が起った。この九月一日に米兵の初公判があった。いまも被害者へのバッシングがさまざまな形でつづいている。アメリカ側からは容疑者への同情の声が起っている。
 暴行事件の被害者が訴えるということは本当にたいへんなことだ。
 米兵は朝鮮戦争当時は銃で脅して沖縄の女性を強かんした。ベトナム戦争当時はカネをまき散らして強かんした。いまは経済が厳しいからなんとかタダでと考えて強かんする。
 こういうことを日米地位協定の米兵にたいする特権が許しているから、改定をという声が上がっているが、パウエル(米国務長官)は拒否した。
 暴力に戦争で対抗し、報復を報復で塗り替えるという動きを黙って見逃すことはできない。『二十一世紀の新しい戦争だ』などという米政府の動きに抗議し、平和をつくりだしたい」。
 プリモ・アンパロさんは「米軍基地が米国以外の国に存在することは許せない。米軍基地はアメリカの利益のために配置されている。フィリピンでは米軍基地が撤去されたあと、新たにVFA(ビジティング・フォース・アグリメント)軍事協定が結ばれ、またいつでも、どこでも米軍が訓練できるようになった。
 いま米国はテロに軍事報復するといい、各国政府がこれを支持しているが、この中で民衆の運動も一括りにされてテロリストとして弾圧される恐れがでてきた。われわれは米軍帰れという運動を共同して強めなくてはならない」と挨拶した。
 「許すな!憲法改悪・市民連絡会」から十七日の緊急デモの特別アピールがあったあと、月桃の花歌舞団の踊りや、石原みき子さん、定塚才恵子さん、ヨッシーとジュゴンの家などからの歌を聞き、デモに移った。



資料・内外の市民団体の声明


米国中枢部への同時テロ事件について  小泉首相への緊急要請

 日本政府は米国の報復戦争への加担をするな。
 事件を「有事立法」や「集団的自衛権行使」など戦争への道に利用するな。
 いまこそ覇権主義と侵略戦争に反対し、憲法九条の精神にもとづく平和的外交政策を追求せよ。

 @九月十一日未明にアメリカで起った、ハイジャックした旅客機四機による未曽有のテロは、未確認だが数千から万に及ぶ死者を出し、多くの人びとを傷つけている。この事件の原因や背景はいまだ不明である。しかし、世界の平和を願い、日本の平和憲法の完全実施を要求して活動する私たちは、このような一般市民を一方的に巻き込んだテロリズムを絶対に認めない。
 Aこの事件にたいしてアメリカのブッシュ大統領は「テロではなく戦争行為だ」「徹底的に報復する」「あらゆる手段をつかって敵を打ち破る」との決意を表明した。パウエル国務長官は「これは米国にたいする戦争ではなく、文明にたいする戦争だ」と述べた。事件がいかに悲劇的なことではあれ、いまことさらに「戦争」が強調されることは異様である。それは同盟国の戦争にたいしては自動的に発動されるNATOなどの軍事同盟の動員を狙う「正義の」報復戦争の準備にほかならない。しかし、この「報復戦争」は際限のない泥沼化の道であり、なんらの解決にもならない。
 B日本の小泉首相は事件後ただちにブッシュ大統領に「日本のできることは何でもやる」と伝え、「民主主義社会への重大な挑戦であり、わが国は米国をつよく支持し、必要な援助と協力をおしまない」と「米国と一体になって闘う」決意を表明した。そして自衛隊法改定による自衛隊の米軍基地警備実現や有事立法の制定、集団的自衛権の行使の合憲解釈などへの動きを見せている。それはあたかも米国とともに戦争を決意しているかのような言動である。これらの無責任な憲法違反の言動が、さらなる挑発を生み出し、緊張を激化させ、日本を戦争への道におしやることになるのは明らかである。
 C事件の具体的な動機や組織的な背景はわからないが、この事件が二〇世紀から引きづってきたアメリカなど超大国の侵略と植民地主義、覇権主義を背景に生み出されたこの地球上の諸矛盾を背景にしているのはいうまでもない。二一世紀の世界を平和と共生の世界に作りかえるためには、あらゆる覇権主義と侵略に反対し、抑圧と収奪に反対して、紛争の平和的解決をめざす以外にない。憲法九条はそのための輝かしい道標である。小泉首相ら日本政府の言動はこの道に反し、戦争への道を走るものである。
 D日本政府は米国に際限のない悲劇を増幅する報復戦争への突入の中止を働きかけよ。米国のいかなる「報復戦争」への加担をもやめよ。事件を「有事立法」や「集団的自衛権行使」など戦争への道の強化に利用するな。
 いまこそ覇権主義と侵略戦争に反対し、憲法九条の精神にもとづく平和的外交政策を追求せよ。

 二〇〇一年九月十四日

小泉純一郎首相へ

                                  許すな!憲法改悪・市民連絡会
 

     …………………………      

米国で起きた「同時多発テロ」に関する   日本政府への申し入れ書

 十一日、米国で起きた「同時多発テロ」として報道されているこの国際的無差別暴虐行為は、世界中を震撼させました。いかなる国、またいかなる信条の下で行なわれたとしても、かけがえのない人の生命と生活を破壊するテロ攻撃やミサイル攻撃は、犯罪行為以外の何ものでもなく、それを認めるわけにはいきません。
 私たちは、犠牲者の方々を深く哀悼し、瓦礫の下に助けを求めている人たちの一刻も早い救出と、傷ついた人たちの心身の癒しを、心から祈ります。
 このような暴挙が誰によって、なぜ行われたのか、何をねらいとしているのかなど、真実は一日も早く究明され、その責任者は断罪されなければなりません。しかしこれは軍事的報復攻撃によってではなく、あくまで国際的な機関による、完全に法的、理性的、平和的方法でなされるべきです。
 NATOは、同条約第五条に規定された集団的防衛権を発動する方向にあるようですし、ブッシュ大統領は、この「同時多発テロ」を「戦争行為」と非難したということです。小泉首相は、米国への強い支持と協力を宣言し、自民党は、有事法制化の動きを早め、次期臨時国会での自衛隊法の改定を検討していると報道されています。また、政府の「安全保障会議」において、「国際緊急援助隊の派遣」、「状況に応じ、随時必要な措置をとる」と言われました。さらに、米国政府の報復を支持すると明言しました。これに先立っての日米外相会談で、田中外相は、米国に対して「軍事面でも武力行使の一本化の検討をすすめる」という意志を伝えられたとのことです。
 「テロ」に対するたたかいには、武力報復しかないと、米国政府をはじめ西欧諸国も日本政府もこぞって、声高に主張しているように思えます。
 小泉首相は、米国とともに日本が報復戦争を遂行するために国内法を変更し、または拡大解釈を行おうとしているようにさえ思えます。
 首相にとって最も大切な相手は、日本の民衆ではありませんか。
 冷静に見れば、沖縄をはじめ、在日米軍基地は、外国による「テロ攻撃」の
危険にさらされているといいますが、より危険にさらされているのは地域住
民です。そして、この国土には、非戦を誓った日本国憲法があるのです。
 首相は、今こそ、日本国憲法の前文と、特に第九条の精神を遵守することを
確約すべきです。「有事法制の整備を急ぐ」などということは、平和的解決への道とは全く方向性が逆です。
 テロ攻撃の映像を見て、日本で一番衝撃をうけているのは、かつて本土防衛
の盾とされ、焦土とされた沖縄の人々でしょう。今また、沖縄が、もしこのような攻撃にさらされることがあれば、取り返しがつきません。米国の報復攻撃を、「当然だ」と言われる首相は、基地のおかれた地域の人々、特に沖縄への責任を認識されているのでしょうか。基地は、軍事的脅威と報復のための装置であり、平和の装置にはなりえません。基地は撤去されるべきです。そして、国際間の緊張は、あくまで、軍事的報復によらない完全に平和的手段によって緩和され、和解がはかられるべきです。「報復」は、敵意と軍拡の相乗作用を増幅させるだけで、平和を脅かし、人々を恐怖と不安に陥れるだけだからです。  
 今回の攻撃で、ミサイル防衛、宇宙防衛構想など、いかなる科学的先進的技術による防衛も、敵意のあみ出す巧妙な攻撃を完全に封じることはできないことがわかりました。軍拡競争への道を遮断し、和解と平和への道を模索する他、人類が生き延びる道はありません。日本が米国と真に協力していくことを望むとすれば、平和憲法前文の思想を共有するという原点に立って、対話を模索するべきでしょう。滅びに到る「報復」のワナにおちいってはなりません。
 数千人にも及ぶといわれる直接の犠牲者とその家族の方々に、限りない哀悼を捧げます。瓦礫の下の人々の一刻も早い救出と手当てを、また、精神的にも深い傷を受けた人々への十分なケアがなされるように願います。日本にいて、現場にかけつけることもできず、悲嘆と心労に打ちひしがれている犠牲者や行方不明の方の家族に、政府はもっとも必要な情報とサポートを提供してください。同時に、このような残虐で悲惨な行為が二度と引き起こされることのないよう、いかなる暴力も許さない世界に向けた平和構築の努力を、平和憲法をもつ日本のイニシァティブをもって行ってくださることを強く求めます。
二〇〇一年九月十三日

                            日本キリスト教協議会総幹事 大津健一
                       平和・核問題委員会委員長  小笠原公子


     …………………………      

戦争抵抗者連盟(War Resisters League)の声明

 わたしたちがこれを書いているいま、マンハッタンは包囲攻撃を受けているように感じられる。すべての橋、トンネル、地下鉄が閉ざされ、何千人、何万人もの人々がマンハッタン南部から北へゆっくり歩いている。ここ戦争抵抗者連盟の事務所にすわっていて、わたしたちがまず想うことは、世界貿易センターの崩壊で命を落とした何千人ものニューヨーカーのことである。天気は快晴で、空は青い。しかし、煙りの下の瓦礫の山の中でおびただしい数の人々が死んだ。その中には、ビルの崩壊のときその場にいた数多くの救急隊員も含まれている。
 もちろんわたしたちは、ワシントンの友人・同僚たちが、ペンタゴンにジェット機が突入したときに巻き添えになった一般市民について想っていることを知っている。そしてわたしたちは、この日ハイジャックされた飛行機に乗っていた何の罪もない乗客たちのことを想っている。現時点で、わたしたちはどこから攻撃が来たのかわからない。
 わたしたちは、ヤシル・アラファトが攻撃を非難したことは知っている。もっと情報が入るまで、詳しい分析は差し控えるが、しかし幾つかのことは明らかである。ブッシュ政権はスター・ウォーズ計画に膨大な支出をすることを議論しているが、それが最初からでたらめであることははっきりしている。テロリズムはもっとありふれた手段でこんなにたやすく攻撃することができるのである。
 わたしたちは、合衆国議会とブッシュ大統領に対して、次のことを求める。これから米国がどのような対応をするにしても、米国は一般市民をターゲットにすることはしないこと。一般市民をターゲットにする政策をいかなる国のものであれ認めないこと。これらのことをはっきり認めてほしい。このことは、イラクに対する制裁――何万人もの一般市民の死をもたらしている――をやめることを意味するであろう。このことはまた、パレスチナ人によるテロリズムのみならず、イスラエルによるパレスチナ人指導者の暗殺や、イスラエルによるパレスチナ住民に対する抑圧、西岸およびガザ地域の占領も非難することを意味するであろう。
 米国が追求してきた軍国主義の政策は、何百万もの死をもたらした。それは、インドシナ戦争の悲劇から、中米およびコロンビアの暗殺部隊への財政援助、そしてイラクに対する制裁や空爆などに至る。米国は世界最大の「通常兵器」供給国である。米国が供給する兵器は、インドネシアからアフリカまで、最も激しいテロリズムを助長している。アフガニスタンにおける武力抵抗を支援した米国の政策が、結局、タリバンの勝利とオサマ・ビン・ラディンをつくりだしたのである。
 他の諸国も同じような政策をとってきた。わたしたちは、これまで、チェチェンにおけるロシア政府の行動や、中東およびバルカンにおける紛争当事者の双方の暴力などを非難してきた。しかし、米国は自己の行動に責任をとるべきである。たったいままで、わたしたちは国境内で安全だと思ってきた。快晴の日、朝起きてみて、米国の最大の都市が包囲攻撃されているのを知って、わたしたちは、暴力的な世界においては誰ひとり安全ではない、ということを思い起こした。何十年もの間、米国をとらえてきた軍国主義を、いまこそ終わらせるべきである。
 わたしたちは、軍拡と報復によってではなく、軍縮、国際協力、社会正義によって安全が保障されるような世界をめざすべきである。わたしたちは、今日起きたような、何千人もの一般市民をターゲットにする攻撃をいかなる留保もなしに非難する。しかしながら、このような悲劇は、米国の政策が他国の一般市民に対して与えているインパクトを想起させるものである。わたしたちはまた、米国に住むアラブ系の人々へ敵意を向けることを非難し、あらゆる形態の偏見に反対してきた米国人のよき伝統を思い起こすよう求める。
 わたしたちはひとつの世界である。わたしたちは、不安と恐怖におびえて暮らすのか、それとも暴力に代わる平和的なオルタナティヴと世界の資源のより公正な分配をめざすのか。わたしたちは失われた多くの人々を悼む。が、わたしたちの心が求めているのは、復讐ではなく和解である。

二〇〇一年九月十一日
                    ニューヨーク
                                     (君島東彦訳)

     …………………………      

 九月十一日の出来事に関する国際行動センター(IAC=インターナショナル・アクション・センター)の声明

 ここにいるすべての人たちは、本日の出来事に、深く心を痛めています。国際行動センターは、本日、愛する人たちを失った方々と、マンハッタン南部で働いていた人たちに対し、心からの同情と、弔意を表明します。
 何千という家族が、愛する者の死や負傷を嘆いているこの時に、ブッシュ政権は悲劇的な人命の犠牲を利用して、ペンタゴンによる戦争推進を強化することで、抑圧の力を、ことに中東において強めようとしています。
 合州国内では、アラブ人や回教徒が、職場や地域やモスクにおいて人種的な嫌がらせを受けているという報告が届いています。反アラブ人種主義は、手を切るべき毒素です。我々は、人種主義に反対する人々に、アラブ系アメリカ人コミュニティとともに立ち上がり、こうした反動的な熱狂に対峙することを呼びかけます。
 一九九五年のオクラホマシティの連邦ビル爆破事件の後、政府やメディアは、早々とアラブ、イスラム組織の犯行だと決めつけようとしました。しかし、すでに明らかになっているように過激右派の退役兵ティモシー・マクベイが犯人でした。

新たな戦争の脅威

 国際行動センターは、すべての反戦活動家と進歩的な人々に、ブッシュ政権とペンタゴンによる、この危機を利用して第三世界、ことに中東の民衆に対する新たな侵略の踏み台に使用という企図に対して、高い警戒心をもって反対する立場を保持するように呼びかけます。
 一九九八年八月、ペンタゴンは何の証拠もないのに、ケニアの合州国大使館爆破事件の報復と称してスーダンの製薬工場に巡航ミサイルを撃ち込みました。巡航ミサイルはスーダンの薬品供給のほとんどをまかなっていたアル・シファの製薬工場を破壊しました。何千というアフリカの民衆が、この爆撃の直接の結果として、死にました。
 一九八三年には、レバノンの海兵隊基地でのトラック爆弾事件の直後に、ロナルド・レーガン大統領がカリブのグレナダへの侵略を命じました。ブッシュ・シニア(現大統領の父親)のもとでは、一九八九年クリスマスイブの夜、麻薬戦争の美名のもと、二〇〇〇人を超えるパナマ人が殺害されました。
 一九八六年、ドイツでのディスコの爆発の責任はシリア、イラン、およびいくつかのパレスチナ組織にある、と断じ、合州国の航空機がリビアのトリポリとベンザジを爆撃しました。子どもを含む数百人の非戦闘員が、このアメリカ空軍の夜襲によって寝ている間に殺害されました。
 我々は、この国の活動家と人々に、ペンタゴンの新たな侵略への抵抗を準備するように呼びかけます。
 ブッシュ政権は、この現在の危機を利用し、住宅、教育、健康、雇用などの予算を削ってペンタゴンの戦争予算を上積みすることを正当化しようとするでしょう。

国家による抑圧強化の危険性

 国中で、軍隊、FBI、地方警察が、都市の広いエリアを封印しつつあります。
 橋やトンネルや道を閉鎖し、警察や州兵を大量動員しています。
 これらは、国内における抑圧強化のあらたな企図を伺わせるものです。それは、進歩的運動や労働運動、そして黒人、ラテン系、アジア系、アラブ系などの被抑圧民衆のコミュニティに対して使用されるものです。
 現下の危機に乗じて警察を増強しようとする企図に抵抗するのは当然のことです。

団結を

 ニューヨーク市と国中の人々は、ブッシュ政権とペンタゴンが、人々の純然たる衝撃や不信感をもてあそび、反応をかきたて抑圧の力を強化することを許すことはできません。それは、この国でも、またいかなる国でも、働く人々や抑圧された人々の助けにはなりません。
 今日の事件に対する唯一の対処方法は、世界貿易センターとペンタゴンで亡くなったり傷ついた人たちの家族や友人との団結を広め、世界中の、戦争、貧困、搾取とたたかっている人たちとの国際的な団結を築き、ペンタゴンによる新たな侵略への抵抗を深めることにあります。
(この声明は、ニューヨーク市から発信されています)

     …………………………      

市氏に対する非人道なテロ攻撃を非難する
     
 国際主義の意義、そして人道主義および民主主義の価値を基盤として設立されたオルターナティブ・インフォメイション・センター(AIC)は、二〇〇一年九月十一日に起きたニューヨーク市の世界貿易センターに対するテロ攻撃を拒絶するとともに、強く非難する。被災者たちがまだ救出されておらず、死んだ人々の死体が埋葬されてもおらず、この攻撃に貢任があるのは誰なのかについての確証もないにもかかわらず、二次的な一団の犠牲者を創り上げようとするプロセスが、すでに開始されている。人種差別主義に反対する世界サミットが終わってから数日しか経っていないというのに、一切の証拠もなしにアラブの人々とイスラーム教徒たちをテロリストであるとして告発するべく、このテロ攻撃が利用されている。前のイスラエル首相であったバラクとネターニヤフが、今回の事件に関連して、中東の「テロリズム」に対抗するために特別の軍事力を用意する必要性があるのだと指摘しながら、世界中のメディアを前にして練り歩いているのだ。我々は、オクラホマ市での爆弾事件でアラブの人々とイスラーム教徒たちが標的とされ、そして非難されたことを思い出すべきだ。この事件を起したのは、アラブの人々やイスラーム教徒たちではなく、合州国の極右であった。
 イスラエルでは、その政府と軍、メディアが今回の悲劇的な事件を、自由と独
立を求めるパレスチナ人たちの正当な闘争を抑圧するために利用している。この合衆国での事件は、アリエル・シャロンと彼の政府に更なる軍事攻撃の実行を許すという直接的な危険性をはらんでおり、それはパレスチナの民衆にとって現実的脅威そのものだ。イスラエルが非武装の民衆に対して行ってきた超法規的な死刑執行や追放措置、包囲といった諸政策は、より安全な世界を実現するための努力などではなく、国家テロそのものなのだ。こうしてイスラエルは、安全で確固とした大地の上に生きるという、全ての人々が当然に持つ権利を危険に晒している。
 合衆国における今回の複数の攻撃は、西欧諸国のヘゲモニーと被抑圧諸国との間の関係性が変化することの前兆であり、グローバリゼーションの下での世界秩序の再編過程における、さらなる一里塚である。こうした諸国家の関係性の中での変化は、中東世界におけるイスラエルの軍事行動の激化を背後から支援するとともに、パレスチナの民衆に対する、更なる抑圧的な行動を正当化するであろう。
 AICは、人類のための正義と安全が、力を持たない民族やコミュニティに対する社会的・経済的・政治的な抑圧によって達成されるなどということは不可能だと考える。全ての人々にとっての自由と正義は、全ての人々に対して「生まれながらにして持つ尊厳の承認、平等かつ奪われることのできない諸権利の承認」が確保されることによってのみ、達成されるのだ。AICは世界人権宣言で確認されているように、こうした諸原則のみが「世界の平和と正義、そして自由の実現」に向けた確たる基盤であると考える。
 植民地主義と帝国主義の貪欲さ、非白人諸国での非人道的抑圧、そして地球上での制御不能な戦争は、野蛮で無差別な暴力の時代へと人類を導いてきた。今日、世界中の民主的な諸勢力にとって、社会正義と自由、そして民主主義を実現する闘争において互いに手を携えることが、これまで以上に緊急に求められている。真に民主的な諸勢力にとっては、野蛮さを克服し、普遍的な価値として「基本的人権を確信し」、そして人間の尊厳と価値、男性と女性の平等の諸権利を確信し」、そしてより「広範囲な自由の下でより良い生活と社会の進歩を増進する」、そのような新しい時代へと転換し得るような社会的・政治的な構造を、その社会の内部に建設することが必須なのである。

 署名・:オルターナティブ・インフォメイション・センター(イスラエルの反シオニスト左派組織)
                                  (岡田剛訳)


四党合意は完全に破綻した 国鉄闘争の体制を再確立しよう

 国労本部は、十月十三〜十四日に予定されている国労定期全国大会(社会文化会館)で、闘争団の切り捨て、そして国鉄労働組合の闘いの伝統を全く否定する方針を押しつけようとしている。この全国大会は当初八月といわれたが遅れに遅れて十月の開催になったものである。
 この大会では、すでにはっきりと破綻が明らかになってきている四党合意を、全く内容が無い実質的な「ゼロ回答」として承認するのか、国労が再び闘う旗を打ち立てるのかの重大な決断が迫られている。
 チャレンジグループや革同右派は、今年一月に機動隊に守られながらの国労大会でJRに法的責任なしとする四党合意承認を強行した。その一方で大会は、闘争団や闘う国労組合員の力に押されて最高裁闘争も闘うことを決めざるをえなかった。
 これまでの四党合意による交渉の過程で、これまで国労本部がまきちらしてきた高額の和解金・多人数のJR復帰なるものがまったくの幻想にすぎないということが誰の目にも明らかになってきた。
 そもそも四党合意とは、闘争団の切り捨て、国鉄闘争の圧殺と引き換えにしての国労一部ダラ幹の生き残り契約である。そのなかで国労本部の果たすべき役割は、闘争団、国労組合員、支援の労働者を騙して、早期に闘争収拾をはかることである。
 一方、JRの不当労働行為は許さない!国労闘争団共闘会議準備会の五月三〇日の大集会の成功とその後の自立した運動の展開、国労内の闘う潮流の奮闘、支援の再編・拡大、新たなILO闘争の開始などは、国労本部の政府や四党への闘争収拾の約束の具体化がきわめて困難であることをしめした。
 また国労本部による四党合意実行、国労運動の解体が進まない中で、JR東日本会社は、JR東労組との新たな「労使共同宣言」を結んだ。これは、JR連合との合流によって、JR総連に代わって労使協調関係を打ち立てようとした国労本部の思惑に大きな打撃を与えている。
 こうした情勢の中で、十月全国大会では、国労右派が、四党合意がいかなる内容になろうとも、闘争団の切り捨て、JRでのメンテナンス合理化闘争の放棄、政府・JRへの全面屈服をはかろうとしているのである。
 しかし、国鉄闘争の困難な局面を打開させるさまざまな努力が行われている。
 さきごろ全統一労働組合の田宮高紀中央執行委員長と闘う闘争団(解雇撤回・地元JR復帰を闘う国労闘争団)共同代表の内田泰博さん、原田亘さんは、「JR採用差別事件の東京高裁不当判決等に関する新たなILO申し立てへの協力のお願い」で、「事件がすでに最高裁にかかり、いずれ出される判断は厳しいことが想定されるだけに、私たちは、ILOに新たな申し立てを行うことにしました。労働委員会命令を否定し、JRの団結権侵害を事実上容認した高裁判決が、ILO八七号・九八号条約の団結権尊重の原則に反することは明らかです。この点を中心に、労働組合の連名により条約勧告適用専門家委員会に申し立てを行いたいと思います。…小泉「構造改革」がすべての労働者に襲いかかろうとする状況の中、私たちは、このILO闘争を反失業闘争に結びつけ、すべての仲間と連帯して政府包囲網をつくりあげていきたいと考えています」と新たなILOへの共同申し立てへの協力を全国の労働組合に発した。
 そして、この秋には、リストラ・首切り、小泉「構造改革」との闘いと結合して、JRと政府の責任を追及する闘いが展開される。
 九月二十五日の「JRの不当労働行為は許さない・首切り反対・国鉄闘争勝利9・ 集会」を大きなステップとして、二十七日には霞ヶ関宣伝・国会行動(東京地裁前に午前八時半集合)、十月十二日にはJR総行動(国土交通省前に正午集合)、二十八日に「団結まつり」、十一月二十五〜二十六日にシンポジュウム・討論集会などが行われる予定である。
 四党合意が破綻していることは明らかである。いまや国労右派の目論見も実現は不可能となった。
 解雇撤回・JR復帰を目指す闘う闘争団を支え、再度機動隊の導入で闘争圧殺方針を押しつけようとする国労本部の策動に抗して、十月国労全国大会で闘う方針・体制を再構築させるために奮闘しよう。


カンタス航空闘争が勝利 全員が正社員として復職

 全国一般労働組合東京南部・カンタス航空客室乗務員組合(石川智子執行委員長)は、九月十三日、カンタス航空と和解協議を行い、三年十ヶ月にわたった日本人契約客室乗務員十二名の解雇撤回闘争は勝利した。
 しかも今回の復職は、これまでの五年契約の更新というのではなく、正社員として復職するという大きな勝利となった。
 解雇争議の十二名は、カンタス航空で九〜十八年間、客室乗務員として働き、「契約制」ではあったものの、会社から「雇用については心配ない」と言われ、それを信じて働いてきた。
 ところが一九九七年、会社は、年収の五割カット、乗務時間の一・五倍化などという一方的な労働条件の改悪を提案し、この条件がいやなら辞めろという不当極まりない行動に出た。労働者は、当然にも会社に考え直すように要請したが、会社は契約期間満了を理由に「雇止め」にしてきた。争議の中では、会社側には甘言で労働者に期待を持たせて働かせ、労働条件改悪をだし、それを口実に解雇するという悪質な計画があったことが暴露された。
 労働者たちは、闘争に立ち上がり、解雇の撤回・職場復帰をもとめて、東京総行動をはじめ争議を闘うおおくの仲間とも連帯を強めながら運動を展開してきた。
 そして、今年の六月二十七日、東京高裁は、カンタス航空の契約労働者たちが期間の定めのある雇用契約であることを認めつつも、それは労働者も会社も雇用契約が継続されることを前提としている契約であるとした。そして、「雇い止め」=解雇は、雇用契約を終了させる特段の事情があるものは認められないと判断し、十二名全員の労働契約上の地位を確認し、未払い賃金の支払いを命じたのである。会社側は最高裁へ上告したが、労働者たちは高裁の勝利判決を受けて団体交渉を要求し、またシドニー本社との解決交渉を進めてきた。
 そうした粘り強い闘いによって、会社側もついに和解を余儀なくされ、労働者たちは、解雇を撤回させ、正社員としての職場復帰、労働組合の承認など大きな成果をかちとったのであった。
 カンタス航空労組の闘いは、断固として闘い、また支援・連帯の輪を大きく広げて行けば、闘いはかならず勝利するということを示し、リストラ合理化攻撃に直面する多くの労働者・労働組合に大きな励ましとなっている。


郵政事業の民主的改革を実現し 「郵政民営化」と闘いぬこう! (下)

                         
                矢吹 徹

「郵政民営化」批判


 全労協・郵政全労協は、事業論パンフTにおいて郵政民営化の問題点を詳しくまとめている。我々は、この批判視点は重要である考える。
 郵政民営化論者は、民営化しても郵便のユニバーサルサービスを維持できると主張しているが、その根拠は明確ではない。宅配業者が全国ネットワークを完成させているなどと述べているが、配達不可能な宅配小包が、郵便局へ持ち込まれていることは周知の事実である。実際に民営化した諸外国の例をみると民営化の問題点は、一層明らかとなる。
 小泉首相が絶賛しているニュージーランドでは、民営化によって地方都市の郵便局がつぎつぎに廃止され、一、二〇〇局が二五〇局へ削減された。ドイツでは、九五年特殊会社へ移行し八九年二九、〇〇〇局が九五年一七、〇〇〇局へ削減されている。旧郵政省の調べによれば、簡易局を除く全国二〇、〇〇〇局の郵便局で郵便で黒字は、都市部の二、三〇〇局のみ、貯金では六、九〇〇局となっており、赤字局が廃止され、地方の切り捨てに一層の拍車ががかる可能性が強い。 
本年六月、全労協・郵政全労協が結成一〇周年を契機にフランス労働運動の新潮流SUD−PTT労働者を招請した。エルベ・ケルンさんは、民営化されたスウエーデンの実状を詳しく報告した。それによると、「三年前の民営化で、四〇%に局が減り、二〇%の労働者が首を切られ、賃金が六〇%までに切り下げられた。郵便料金は都市部では一五円、地方では三〇〇円になった」ということである。
 「カリスマ受験講師」と評判の細野真宏氏の「経済のニュースがよくわかる本−銀行・郵貯・生命保険編」がよく売れているといわれている。細野氏は、「『クロネコメール便』という形で、既に『ダイレクトメール』や『カタログ』や『書籍』などの配達を全国一律の料金でやっていることもあるからそんなに(全国一律料金は)難しいことではないのかもね。」などと無責任な議論を吹聴している。だが、都市部の儲かるところは激しい競争が起き郵便業者の奪い合いが起きることは避けられない。その結果、都市部の料金は値下げ、地方都市は値上げ、大口郵便は値下げ、一般利用者料金は値上げにならざるをえないだろう。旧郵政省は、民間企業が政令都市のみ現在の郵便料金の半額で参入したときを仮定し、郵政も対抗措置をとると、政令指定都市以外の料金は手紙が現在の八〇円から二四〇円へ、葉書は五〇円から一五〇円へ値上げになると試算結果を報告している。
 郵政民営化攻撃が強まっている中、このような無責任な議論が横行している。とくに、信書の秘密の確保はその最たるものである。細野氏は、著書の中で「信書の秘密を確保するとは『手紙の内容を外に漏れないようにする』ことなんだね」と述べている。しかし、問題は、手紙の内容だけではない。そもそも、内容など簡単に見れるはずはない。封筒の中身を見なくとも、家族の構成員や交遊関係、取引関係、購読している定期刊行物、選挙郵便物などから思想信条、宗教、政党関係にかかわる個人のプライバシーがわかることが重要なのである。民営化されれば、雇用の不安定化、流動化は避けられず、地域住民のプライバシーが流出する危険も生まれるのである。

 「『郵政民営化』小泉原案」の問題点

 「『郵政民営化』小泉原案」(小学館文庫)なる本が出回っている。小泉首相のとりまき連である「郵政民営化研究会」が まとめたものである。その中で、「郵政持ち株会社」を中心に分割民営化が提案されている。NTT持株会社をまねたもので、「世界にも例がない」などと自画自賛している。現在のNTTの一一万リストラ策などを見れば、持株会社がどういったものであるか容易に理解できる。
 この「小泉原案」の中にも、無責任な議論が随所に登場する。離島や過疎地へは地方自治体や国が補助金を出せばいいとか、郵便局コンビニ論などもそういった議論の一つである。国・地方あわせて六六六兆円の財政赤字を抱え補助金を出すということであえば、むしろ彼らのいうところの「改革」は、後退ではないのか。郵便局をコンビニ化し営業を拡大すればいいというのは、新たな民業圧迫になるのではないのか。
 第三種郵便や第四種郵便などの「国民」の福祉部分は、さらに充実すべきである。郵政事業は、ATMの全国無料引きだしや地方での年金窓口や様々な公共サービスの拠点として多くの「国民」的利点を持っている。高齢化社会や地方の切り捨ての到来、生保もつぶれかねない不安社会の到来が叫ばれている中、公共サービスの拠点として郵政事業を維持し、福祉拠点として発展させていくことは、重要な意味があるはずだ。
しかし、「小泉原案」の内容は、すべてにおいて否定することはできない。いくつかの点で「国民」が郵政事業に関して不満をいだく論点がちりばめられている。彼らは、そういったことをも利用し、分割民営化へ水路を開こうとしているのである。
 たとえば、こうである。「郵政事業が民営化されれば、一人の特定局長が周辺のいくつかの局を兼営することも可能である。たとえば、一〇局兼営すれば、九人の特定局長が不要となり、当然その分の人件費は削減されることになる」。これは一つの検討に値する部分である。また、「郵便事業会計の下にぶら下がっている同族会社的・郵政共同体的な不採算な企業体群が、改めて郵政公社の時に国民にとって透明なものにならなければならない」などと指摘している。これは、全くの正論である。「国民」の中に充満している郵政事業に対しての批判を「民営的改革方向」にからめ取られるのではなく、郵政の民主的改革方向へ結集できるかどうか、そのことが問われている。

今後の郵政民営化反対の闘いに関していくつかの問題提起

最後に、我々の実践上の課題についていくつか提起したい。
 まず、一つは、郵政労働者の立場を鮮明にし、地域へ大胆にオルグにはいることである。それは、公共性の放棄につながる民営化には与しない。また、官僚の天下り、利権の温床である今の国営のあり方をそのままにし、全特や郵政官僚とともに「事業を防衛する立場」にも与しない。郵政労働者は、郵政の民主的改革をめざす独自の道、「第三の道」を打ち出す時期に来ている。
旧来型の力でねじ伏せる発想と運動では、民営化を阻止することはできない。はからずも「郵政ぐるみ選挙」違反問題はその事を証明している。「第三の道」以外に小泉首相らの急進的民営化を阻止する道はない。様々に「国民」から寄せられる批判を批判として受け止め、郵政自らが、民主的に自己を改革できるかどうかが問われているのである。
 民主的改革の柱としては、非効率で不透明な特定局長制度の全面的な見直し、利権と非競争でボロ儲けを続ける郵政天下り法人・企業の精算、郵貯簡保資金の自主運用先のチエック、運用先特殊法人の福祉・環境・生活の視点に立った分類を行い、資金の地方環流を実現する、ことなどを緊急課題としてあげることができる。
小泉首相は、国会で特殊法人の天下りを質問され「だから、民営化だ」と開き直っている。しかし、天下り禁止は、法律を作ればすぐにでもできることである。民営化をしなければ、できない改革課題はなにもないのである。我々は、民営化論こそ改革を中途半端にし、遅らせる論理であることを暴露する必要がある。
 二つ目は、郵政民営化へ道を開く合理化攻撃と対決し、雇用と労働条件を確保し、住民への公共サービスを維持する闘いが重要になっている。
先ほど紹介した「新生ビジョン」は、二〇〇五年までに本務者一二、七四三人を減員し、短時間職員と非常勤職員九、六三六人に置き換えようとしている。すでに職場では、合理化と一体にリストラのための処分、人事交流=強制配転が吹き荒れている。職員の熟練性と経験を奪う人事交流で、異動させられた職員は、九五年から五年間で五三、九三〇人に達している。この中には、高齢者や罹病者も多く含まれ、まさにリストラ配転の様相を呈しているのである。このような合理化、非常勤化、人事交流などによって郵便サービスの現状は惨憺たる状況となっている。不着、遅延、誤配達、誤還付など郵便局に寄せられた苦情は、九八年度三六五、八五二件あったものが九九年度では四一八、六八五件と一四・四%の増加となっている。郵便の安全性と信頼性を損なう重大な問題が起きているといえる。
 各種合理化による国営サービスの低下を許さず、雇用と労働条件を守り抜かなければならない。
 新たな郵政民営化阻止の反合理化闘争を職場から再構築していこう。



せんりゅう

 9・11 TMDじゃだめだろな
 ほこらしき武力の国でビル轟沈
 ブッシュ千載一遇の邪心もち
 ラディン氏もだれもかれもが黙秘権
 ほしかった戦争チャンスをあおってる
 ミサイルに見えてジャンボ機にのれぬ
 米テロで忘れちゃったかえひめ丸
 えひめ丸に悲しまなかったアメリカ人


                  ゝ史
  
 こういうときにこそ言いたい。日本国憲法前文をあなたたちアメリカ人の先輩たちが発案したということを。真に平和を求めるならば武力はガンであるという歴史的経験をあなたたちは知っているということを。今また大きな軍事的行動を起こすならば、ベトナム戦争を思いだしなさいと。


複眼単眼

希望を語らない 現実主義の俗論


 「産経新聞」のコラムに「産経抄」というのがある。同紙の本音がしばしば出る欄だ。九月十四日の記事では、ブッシュの「今回のテロは戦争行為である」との表明に対して「そうなのだ、この米中枢同時テロは、間違いなく『新しい形』の戦争あるいは『形を変えた戦争』と呼ぶべき現象だった」と述べた。そして「いつだって地球から戦争がなくなったことはなかった」、東西冷戦時も、その後も紛争で人びとが血を流し合ってきたのに「日本国憲法は何とうたっていたか」などと言う。
 そして「日本国民は、恒久の平和を念願し(中略)平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と平和を保持しようと決意した」という憲法の前文を引用しながら、「書き写しているだけで顔が赤くなってくる。何という太平楽、何という能天気」と書いている。そして「地球の諸国民の中には公正も信義もないものがいる。戦争の現実に目をひらく時ではないか」と結んでいる。
 ここからは戦争や無差別テロを終わらせるための展望はまったく出てこない。なぜ戦争が起るのか、今回のアメリカへのテロなぜ起ったのか。産経抄の論理ではその原因は解き明かせない。「いつでも公正も信義もないものがいる」というだけだ。
 産経抄は「顔が赤くなる」などと揶揄するが、理想、希望あるいは目標と、それを実現するために現実から出発することは、いずれも必要なことだ。
 この「戦争の時代」をどのように克服していくのか。理想や希望を語ることは決して「太平楽」や「能天気」ではない。それをなくして現実に追随するだけなら、ジャーナリズムの名にまったく値しないのではないか。
 かつての中国の作家魯迅に短篇小説集「吶咸」(一九二一年)というのがあり、その中の作品「故郷」に次の有名な一文がある。
 「思うに希望とは、もともとあるものともいえぬし、ないものともいえない。それは地上の道のようなものである。もともと地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ」(竹内好訳)
 そして今回のテロに関連して考えるなら、「産経抄」は絶対に認めないだろうが、歴史と世界の「戦争の現実」を多少とも冷静に観察してみるなら、「公正も信義もない」ものの最大のものがアメリカ帝国主義であり、ブッシュのこの間の自己本位の覇権主義ではないか。パレスチナを占領したイスラエルが反撃されるとすぐに「報復攻撃」を乱発するのと、今回のアメリカの「報復戦争」もまったく同様だ。
 それを単なる「ニワトリが先か、タマゴが先か」のレベルで議論して、「報復戦争」を正当化する議論にのるわけにはいかない。 (T)