人民新報 ・ 第1039号<統合132> (2001年10月25日)
  
                                目次

● 米軍報復戦争参戦など戦争三法強行反対!  憲法違反の小泉内閣を許さない

● 討論資料
      報復戦争参戦法案の問題点
      日本をますます軍事国家に 自衛隊法改悪案

● 大会での裁判取り下げ策動は阻止された 一〇四七人の解雇撤回・地元JR復帰を

● 地球調査・診断の現場から P  さし迫る巨大地震の恐怖

● 複眼単眼 / 草の根の反戦歌 朝日新聞の歌壇から




米軍報復戦争参戦など戦争三法強行反対!

      
   憲法違反の小泉内閣を許さない

戦争のアフガン化をねらう米帝

 アメリカの「報復」戦争=アフガン攻撃がつづいている。ブッシュ大統領の「軍事施設へのピンポイント攻撃だ」などという苦しい言い訳にもかかわらず、すでに国連NGOの施設をはじめ、民間の住宅や施設が爆撃され、千名近い死者がでている。これまで三百万とも言われた難民は、冬にさしかかったアフガンの国内外で急速に増大している。アメリカはタリバン以前のアフガニスタンの政権の残党集団である「北部同盟」を支援しつつ、旧国王などもかきあつめ、戦争のアフガン化=アフガニスタン人同士を戦わせることをめざして、軍事戦略を立て、推進している。これはアフガンの民衆をより苛酷な状態においやるもの以外のなにものでもない。
 アメリカが「自由と正義」の名のもとに強行しているアフガン戦争は、「報復」などという口実そのものが現代の国際関係のもとで許されないものであり、過去のアメリカ帝国主義の侵略戦争の歴史の繰り返しの一環だ。第二次大戦後の主な侵略戦争だけをみても、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争などの大規模な侵略戦争があり、その犠牲になった人びとは数えきれない。さらにアメリカは世界各地で軍事力を思うがままに行使し、侵略と収奪、支配を繰り返してきた。その不当性は国連決議を無視してパレスチナの不法軍事占領と民衆に対する殺戮をつづけているイスラエルを支えつづけていることや、アメリカ自身がいま敵視しているビンラディンら「アルカイーダ・グループ」やタリバン政権を育て、支えてきたことなどをみても明らかだ。
 このアメリカ帝国主義が自らの責任に口をつぐんだまま、「自由と正義」の名のもとに、アフガンを襲撃することなど許せようはずがない。

参戦三法の強行と憲法の枠の破壊

 日本の小泉政権はこの米国の侵略戦争に全面的な支持を表明し、「できることは何でもやる」「ご苦労だけれども、危険を伴う場所にも自衛隊に行ってもらう。持てる力をどうやってテロ防止に活用できるか、出しおしみはしない」などと言いながら、「テロ防止特措法」と称する米軍戦争参戦法案を、自公保与党の多数のもとで衆議院で強行採決した。
 この参戦法によって、憲法の平和原則はもとより、歴代自民党政府が自ら枠をはめてきた「専守防衛」を放棄し、「集団的自衛権の行使」の問題でもその制限を事実上、取り払った。そして安保条約の「極東条項」はもとより、周辺事態法の「周辺」の枠も突破して、自衛隊がグローバルな範囲で米軍の引き起こす戦争に兵たんなどで協力・参戦できることとなった。
 同時に自衛隊法の改悪によって、治安出動下令前の武装部隊の展開や米軍基地などへの自衛隊の警護出動を可能にさせ、また「防衛秘密」条項を新設することによって、かつて国家秘密法案でねらって成功しなかった治安対策をもぐりこませてしまった。
 さらに海上保安庁法の改悪によって、先年の「日本海不審船」事件での対応で不可能だった「不審船への直接攻撃」を可能にさせ、この分野でも「警察力の行使」や「専守防衛」の原則を突破した。
 この憲法違反の法律が衆議院ではわずか三十時間余の審議で採決された。小泉首相は「憲法の前文と九条の間にすき間がある」と説明した。しかし、すき間があるのは小泉の論理と憲法の間に他ならない。
 小泉は「憲法前文」の「国際社会において名誉ある地位を占めたいと思う」「いずれの国家も自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」という箇所と、第九条の間にすき間があるという笑止千万な議論を立てた。しかし、前文のこの箇所を米軍の報復戦争に参戦する根拠とするのは曲解以外の何ものでもない。憲法は非武装・平和の精神で「名誉ある地位を占める」ことを述べているのであり、「自国のことのみに専念」しないというのは、過去の日本や現在のアメリカのように自国中心主義をとらないと述べているのだ。
 それゆえ首相は「この法案は憲法の枠内だが、ギリギリだ。これ以上となると憲法改正をもって対応するしかない」とも述べた。今回の参戦三法が憲法の「枠内」であるはずもないが、彼がこの先に考えているのは憲法の明文改憲であることを示す発言だ。

与党の犯罪的役割と、共産党の重大な誤り

 まがりなりにも存在した平和憲法のしばりを、限定つきとはいえ解き放って、自衛隊を戦争協力のために海外派兵する法案を強行した自民党、公明党、保守党の与党三党と小泉政権の責任は重大だ。
 また自由党は「小泉政権のなしくずしの憲法解釈変更に反対だ」としながらも、その真意は「憲法解釈を改め、集団的自衛権の行使は合憲だと確認したうえで自衛隊を戦場に派遣せよ」というものであり、海外派兵を合法化する世論形成に積極的に貢献している点でその責任は免れ得ない。
 民主党は派兵にあたっての国会での「事前承認」だけにしぼって自民党と取り引きをはかったが、自民党に拒否され、特措法案反対にまわらざるをえなくなった。そのため自衛隊法など二法には賛成した。問題は「事前承認」などにあるのではないことはいうを待たない。
 社民党と共産党は国会で自衛隊の海外派兵に反対して闘った。
 しかし、おどろくべきことに共産党は「海保法改悪」には賛成した。共産党は先の不審船爆撃の際も日本政府に抗議しなかった。今回の法案賛成も不審船に対して「警察力としての実力の行使」自体には反対しないという理屈なのだろう。しかし、こうした治安警察力の飛躍的強化に賛成したことは、共産党にとって歴史的な事件だ。
 共産党の問題点はさらに根深い。共産党中央委員会は今回のテロ事件に際して、九月十七日、不破議長と志位委員長名で各国政府に「テロの根絶のためには軍事力による報復ではなく、法にもとづく裁きを」との申し入れ活動を展開し、さらに十月十一日、「軍事攻撃と戦争拡大の道から、国連を中心とした制裁と裁きの道へのきりかえ」を提案する再度の書簡を各国政府首脳にとどける活動を始めた。この活動自体がいかなる意味を持つのか疑問だし、運動の現場での同党の努力はいかにもおざなりであり、もっと大衆運動の強化に力をつくす必要があると思う。今回の三中総で「共産党員は闘いの組織者たれ」などと述べたが、闘おうとしなかったのは不破・志位執行部自身であることは、衆知のことだ。
 しかし、より問題なのはその中身だ。 
 再度の書簡では、容疑者はビンラディンと「アルカイダ」だと認め、タリバンに引渡しの義務の履行を要求している。そしてアフガンに「経済制裁」など非軍事的措置をとったうえで、なお不十分であれば、「軍事的措置」をとることもあると述べている。さらに容疑者にたいしては、国際社会への攻撃であるから「国連」のもとでの特別法廷を設置することも検討すべきだと述べている。
 共産党のこれらの論点の誤りは明白だが、これはテロにも報復戦争にも反対し、日本の参戦に反対する運動と世論を作るうえで有害であることはいうまでもない。この点で共産党の責任は重いものがある。

広範な運動形成にさらに全力を

 十月二十一日、北海道から沖縄までの三十三箇所で共同した市民運動の集会やデモが展開された。既成の政党主導の行動を除いてはかつてのベトナム反戦デー以来といっても過言ではない。これらを実現したのはインターネットを含むさまざまな手段を駆使して連携をはかった各地の草の根の市民運動の自発的な行動だった。
 東京では十月二十一日、「テロにも報復戦争にも反対!市民緊急行動」が桧町公園からアメリカ大使館に向けて二〇〇〇名のデモを行った。
 十月十四日は宮下公園から渋谷の街へ千百名のデモ、十五日は檜町公園から四百五十名の国会デモ、十六日は三河d台公園から六百五十名の国会デモ、十七日は同じく五百名の国会デモが市民緊急行動の呼びかけで闘われ、十八日はキリスト者や仏教者の呼びかけで正午から二千名の国会前人間の鎖が行われた。これには社民党や共産党とその系列にある平和団体、女性団体なども参加し、全労連や全労協、中立や連合の一部も参加した。またこの間「市民緊急行動」は連合系の平和フォーラムや、全労連系の集会などでも積極的に連帯の挨拶などを行った。
 今後はこれらの各地の運動をさらに広め、強めながら、さらに十八日の国会行動のような労働組合運動との連携や既成の政党・反戦組織との連携も追求していく必要がある。
 参戦三法案阻止。米軍のアフガン侵略戦争反対。自衛隊の海外派兵反対。テロにも報復戦争にも反対。


 米軍の報復戦争に反対する首都圏の市民団体が共同して結成した「テロにも報復戦争にも反対!市民緊急行動」は、連日の街頭行動などを組織する一方、法案批判のプロジェクト・チームを作り、検討作業をすすめた。以下、紹介するのは同チームがまとめた論文。すでに法案は参議院に回付されているが、闘いは今後も続くので、読者の皆さんの活用を期待する。(編集部)

報復戦争参戦法案の問題点

一、法案名
 字数が百十三字もある長い法案。九月十一日のテロ攻撃に対応して行なわれる「国連憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置」がその核。この法案名からすでに重大なごまかしがある。
 @ 国連憲章の目的は「国際の平和と安全の維持」にある。「そのために、平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置」をとり、また「国際的な紛争または事態の調整または解決を平和的手段によって、かつ正義と国際法の原則に従って実現する」(憲章第一条)。
 一方、「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全を害しないように解決しなければならない」(同第二条三項)。「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇または武力の行使を、いかなる国の領土保全またが政治的独立に対するものも、また国連の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」(同第二条四項)。
 つまり国連憲章は、国連自身がとる「集団的措置」以外の各国による武力行使を禁じている。
 A 法案は、「諸外国の活動」が「国連憲章の目的達成」のものというが、それは諸外国が「国際の平和と安全の維持のための活動」と自称すればいいというものではない。そのための措置は「国連自身の集団的措置」として安保理によって決定されなければならない。国連の「集団的措置」は、安保理の決議によって勧告または決定される(同三九条)。その措置は、経済制裁や外交断絶など(同四一条)および、それで不十分な場合の「軍事行動」である(同四二条)。それらが適用されるのは「国家」に対してである。他方、国連憲章は「加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安保理が必要な措置をとるまでの間、個別的または集団的自衛の固有の権利を害するものではない」と例外を認めている(同五一条)。しかし、それら「自衛権行使」の対象となるのも「国家」である。「テロリスト個人」や「テロ組織」が自衛権の対象となるなら、主権国家の枠組は溶解してしまう。つまり自衛権を行使する側は国家主権に基づき、行使される側は主権を否定されることになる。これは現在の国際法の基本的秩序の否定になる。

 二、第一条/目的
 法案は、「九月十一日のテロ攻撃が安保理決議第一三六八で『国際の平和と安全に対する脅威』と認められたことを踏まえ」、あわせて諸決議が「すべての加盟国に対しその防止等のために適切な措置をとることを求めていることにかんがみ」、「テロの防止、根絶のための国際社会の取り組みに積極的かつ主体的に寄与する」という。しかし法案が根拠とする安保理の諸決議は、いずれも武力行使を明示的に容認していない。
 @ たしかに安保理決議第一三六八では「憲章に従い個別的または集団的自衛の固有の権利を認め」(前文)、テロ行為を「国際の平和と安全に及ぼす脅威」と認めている(本決議一)。しかし具体的には、「あらゆる手段でたたかうことを決意し」(前文)、犠牲者らへの「同情と哀悼を表明」し(本決議二)、「テロ攻撃の実行犯と組織者、後援者に法の裁きを受けさせるための共同の緊急行動をすべての国に呼びかけ」(本決議三)、「協力を強化し、テロ対策の関係諸条約及び安保理決議、とりわけ一九九九年十月十九日の決議一二六九を全面的に実行して、テロ行為を防止および抑える努力を倍加するよう国際社会に呼びかけ」(本決議四)、「九月一一日のテロ攻撃に対処し、国連憲章に基づく責任に従ってあらゆる形態のテロとたたかうため、必要なあらゆる措置をとる用意があることを表明」(本決議五)している。つまり「決意」や「用意の表明」以外の安保理の具体的意思は、「法の裁きを受けさせる共同の緊急行動」と「決議一二六九などの全面的実行」だけである。
 A ちなみに決議一二六九は、テロを断固として非難、すべての国に対テロ諸条約の完全履行、条約加盟、未採択の条約の迅速な採択を求め、協力強化の上での国連の役割と国際協調の重要性を強調し、自国民の保護とテロ実行者を法に照らして裁くこと、適法な手段でテロ資金を防止すること、テロ計画や資金提供者などを逮捕、訴追、引き渡すこと、テロに参加していない者に難民の地位を付与するため適当な手段をとること、情報交換と行政・司法上の協力などで適当な手順を踏む、テロリストの脅威に対抗するために必要な手順をとる用意を表明、などが内容である。ここでも対テロ諸条約に基づく法的措置が強調されている。
 B つまり九月十一日のテロ直後の最もホットな安保理決議を含め、テロ関連の安保理諸決議は「法的措置」を内容とし、「武力行使の容認」は含んでいない。テロは「重大犯罪」として認識されており、「戦争」とか「侵略」としては扱われていない。しかしアナン事務総長などは、安保理決議一三六八は米国(個別的)やNATO(集団的)の自衛権行使を容認しているとの見解を述べている。これは決議前文の文言に基づいていると思われるが、そうなると国家の自衛権行使の対象が国家でなくてもいいことになり、「自衛権」概念の無原則な拡張になりかねないという新たな問題が起きる。その一方で、安保理の五常任理事国はすべて武力行使を認めているから、憲章上、国連自身の「集団的措置」を決定することが可能になり、また安保理はその責任を有するはずである。憲章の「例外」としての自衛権行使に問題の解決を委ねたまま放置するのは、国連の責任放棄という別の問題にもなる。このように「自衛権行使」の法理は不明確なままである。
 C 安保理が自衛権の発動を認めたとしても、それは当該国およびそれと集団的自衛の関係にある諸国に対してだけで、他の諸国にはいかなる武力行使の権利も認めてはいない。したがって他の諸国が「テロ根絶」を掲げて武力を行使するのは、国連憲章違反となる。日本は国連憲章上も「武力による威嚇、武力の行使」をしてはならない。日本は集団的自衛権の行使を憲法で禁じられており、個別的・集団的自衛権を行使するという他国に軍事的支援はできない。それは集団的自衛権の行使になる。そのため政府は、必死で「国連憲章の目的」とか武力行使の明示的な容認がない安保理決議を並べて、いかにもテロに対するに武力行使が国際法上の根拠があるかのように粉飾しているだけである。小泉首相が法案は「つきつめれば憲法との間に隙間がある」と認めたのは「正直」であっても断じて許されない。
 D 「テロの根絶」という言葉は、武力行使による「外科手術・対症療法」を正当化するかのような用語である。他方、テロをなくす「化学療法・体質改善」的な手法のためには、テロの動機、背景、歴史など、それらの原因や条件が明らかにされ、それらを解決、改善するしかない。しかし法案には、前者(武力行使)の観点はあっても、後者の観点も対策もない。したがって武力によるテロ根絶作戦は、報復テロと報復戦争の悪循環になりかねない(「根絶」できない)という矛盾を持つ。
 E テロによる脅威の除去のために日本が実施する措置の対象は、米軍、その他の外国軍隊、その他これに類する組織、の活動となっている(テロ対策としてではない「人道的精神」の措置の対象は国連や国際機関)。テロに対するには新たに軍隊と戦争だけが必要という発想である。「その他の外国軍隊」には、NATO軍だけでなく、場合によってはタジク軍やウズベク軍も含みうる。またアフガンの北部同盟は国連に議席を維持しており、日本はタリバン政権を承認していないから、北部同盟軍も自衛隊が支援できることになる。これは自衛隊がアフガン領内に入って、たとえば米軍の武器・弾薬を北部同盟軍に届けるとか、北部同盟軍の兵士の捜索救助や医療もできることを意味する。内戦への軍事介入である。「外国軍隊」に北部同盟軍を含まないとしても(含まないという規定はないが)、「その他これに類する組織」には含まれる可能性がある。あるいは北部同盟以外のアフガン内部の反タリバンのゲリラ部隊や国外に出たアフガン難民から構成される反タリバン部隊も想定しているのか。

 三、第二条/基本原則
 @ 日本の軍事的支援は「武力による威嚇または武力の行使に当たるものであってはならない」(二項)と、憲法九条一項の規定をわざわざ法文に入れている。これは憲法九条一項に違反する内容を「そうではないんです」と偽りの看板を掲げたもの。国際社会では通用せず、実態的にも矛盾する「言葉の遊び」で愚弄するものだ。戦闘に従事する軍隊に後方支援する軍隊(自衛隊)は、全体で一つの兵力を構成する。武器・弾薬の補給のない軍隊、燃料や食料、水などが補給されない軍隊は戦闘が継続できない。後方支援は武力行使に不可欠の、武力行使と一体のものである。これは古今東西の軍事的常識であり、素人でも分かることである。
 それを「自衛隊が直接攻撃しない限り武力行使ではない」というのは、詭弁にすぎない。
 A 日本の活動は、「現に戦闘行為が行われておらず、かつ、活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域」で実施すると言う(三項)。これは自衛隊の活動範囲を大きく拡大するという問題と、実態的な机上の空論とが二重に含まれている。
 ■武装自衛隊の行動範囲は、PKO法で「停戦の合意」などを条件として海外に拡大した。ついで周辺事態法では、「日本の平和と安全の重大な影響がある日本周辺の事態」というあいまいで伸縮自在の「周辺地域」が登場し、米軍への後方支援は「戦闘地域と一線を画す『後方地域支援』」と説明された。しかしこの法案には「停戦の合意」もなく「後方地域」もない。まさに「戦闘中の後方支援」なのである。「一線を画すので憲法に違反しない」というこれまでの政府の説明とも矛盾する。いまでは自民党の議員たちも「ごまかしの造語だった」と認めているが。
 ■通常の正規軍戦でもしばしばあるが、とくにゲリラ戦となった場合、「現に戦闘が行われていない」という状態はきわめて不安定であり、短期的なものになりうる。まして「活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる」というのは、きわめて主観的な判断である。ゲリラ戦では、ゲリラ側が戦闘の時期と場所を決めることが多い。また本当に「戦闘行為がない」と判断できるのは、紛争地域から相当に遠いとか、ゲリラの集団または戦士がまったく存在しないと確認できたときしかない。どうやって確認するのか。それがなかなかできないのがゲリラ戦である。
 ■小泉首相は国会で、自衛隊が活動中に遭遇した「突発的なテロなどは戦闘行為にあたらない」と答弁した。予告されたテロやゲリラ戦はほとんどないから、テロやゲリラ攻撃は受ける側には「突発的」になる。よほどの正規戦や大規模な戦闘でない限り、自衛隊は「戦闘地域でない」として活動を続けることになる。これでは三項の法文は事実上、空文化する。
 ■法文は、「戦闘行為」を「国際的な武力紛争の一環としての殺傷、破壊の行為」と定義しているが、「国際的な武力紛争」を理由として大衆デモや(自衛隊から見て)突発的な大衆蜂起が起こり、押し寄せて自衛隊と衝突した場合、それを「戦闘行為」とみなすのか。あるいは「自己または自己と共に所在する他の自衛隊員の生命、身体」を防護するために武器を使うのか。その両方か。その後に自衛隊が移動したとしても、現地の市民に銃を向け、発砲したという事実は残る。今回のような事態では、そのような可能性が否定できないが、法文は何も規定していない。
 ■法文は以上のような条件下に「公海およびその上空」と「外国の領域」(当該外国の同意がある場合)を自衛隊の活動地域として挙げている。米国や欧州が武力行使しているアフガニスタンは内陸国で、公海とその上空はない。これは自衛隊の艦艇やAWACS(早期警戒管制機)、P3C(対潜哨戒機)、輸送機などを派遣できるようにするためだ。主力の米英の空母機動部隊は武器・弾薬、燃料、食料などを十分に持っており、長期戦にならない限り大量の後方支援は不要だ。一方のタリバンは防空能力はほとんどないから、米英軍の制空権の掌握は長期間が必要とも思われない。したがって公海とその上空での自衛隊の支援は、文字通り「ショウ・ザ・フラッグ」(旗を見せろ↓立場を鮮明にしろ)のマンガになる。
 ■しかし米英などの武力攻撃がイラクなどに拡大する場合は、自衛隊の艦艇や軍用機は空母機動隊の護衛役として使われうる。その場合、実際の戦闘を行なうかどうかは別に、自衛隊は後方支援だけでなく攻撃部隊の一部となる。「ペルシア湾やアラビア湾は米英が出撃するだけで『戦闘地域』ではない」などの詭弁が用意されているのかもしれない。
 ■「外国の領域」は、パキスタンやウズベキスタンなどの周辺国で直接の後方支援をすることを意味している。アフガン内部でさえ、北部同盟の「政権」が「同意」すれば、自衛隊はタリバンなどとの戦闘が継続していてもアフガンの土地にも踏み込めることになる。また法文には「外国」の特定がなく、政府の基本計画で定めるだけだから、「テロ対策」という名分があり相手の政府の同意さえあれば、自衛隊は世界中で軍事支援ができることになっている。実際に、ブッシュ大統領は「最善の対テロ防衛は地球規模の攻撃。場所は問わない」と語り、米国は国連に「他国への攻撃拡大」の可能性を通告、イラクやスーダンへの攻撃も示唆されている。この場合、自衛隊はイラク周辺の中東諸国、スーダン周辺のアフリカ諸国にも派遣されることになる。

 四、第三条/定義等(以下にまとめた)


 五、第五条/自衛隊による協力支援活動としての物品・役務提供

 ここでは、「協力支援活動」という名の後方支援の中心部分とその手続きが規定されている。アフガニスタンに対する武力攻撃では、ディエゴ・ガルシア基地や空母機動部隊への直接の後方支援より、周辺国の港湾、空港(空軍基地)への支援が中心になるのではないか。それらは大量の補給や輸送その他の物品・役務の提供を必要とする場合があり、自衛隊は米英軍などの攻撃力を支える「戦力の一部」となる。
 @ 「協力支援活動」の定義(第三条一)
 (一)諸外国の軍隊に対し物品・役務の提供、便宜の供与。
 (二)自衛隊による物品・役務の提供−「補給、輸送、修理・整備(部品・構成品などの提供を含む)、医療、通信、空港・港湾業務(離発着・出入港の支援など)、基地業務(廃棄物処理・給電など)」。
 (三)別表第一には、「物品の提供には武器・弾薬は含まず、役務の提供には戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油・整備を含まない」とある。しかし米軍にとっては、自衛隊の武器・弾薬を小分けしてもらうより、米軍の基地から武器・弾薬を輸送してもらう方がいい。また自衛隊が武器・弾薬を渡しても、後で帳尻を合わせれば分からない。航空機に対する給油・整備は、それが「戦闘作戦行動のために発進準備中」であるかどうか、誰が確認するのか。給油・整備が終わるまでは「発進準備中でない」と言い、給油・整備が終わったら「発進」と命令すれば、この但し書きは無意味になる。在日米軍と日本の外務省は、常に「日本の領域を出てから出撃命令が出た」と詭弁を弄してきた実績がある。
 A 自衛隊の物品の提供は総理大臣が基本計画に従い実施する(一項)。
 B 自衛隊の役務の提供は、防衛庁長官が実施要項を定め、総理大臣の承認を得て防衛庁または自衛隊の部隊に命ずる(二項)
 C 防衛庁長官は自衛隊の役務の提供の実施区域を指定する(三項)。
 D 防衛庁長官は実施区域の全部または一部が本法または基本計画の要件を満たさなくなった場合は、指定を変更または活動の中断を命じる(四項)。
 ■現場の情勢変化を防衛庁長官に知らせ、それが要件を満たさないかどうかを東京で判断し、指定の変更や活動の中断を現場に伝える、などという「余裕」や「能力」を前提にした規定。法文上のつじつま合わせにすぎない。
 公海もしくはその上空または外国の領域で実施している活動の近傍で戦闘行為が行われ、または付近の状況に照らして戦闘行為が予測される場合は、活動を一時停止または避難するなど危険を回避しつつ防衛庁長官の措置を待つ(五項)。
 ■「ヤバクなったら(発砲しつつ)逃げて連絡を待て」ということか。

 六、第六条/捜索救助活動
 @ 「捜索救助活動」の定義(第三条二)
 (一)捜索救助活動は自衛隊が実施する(三項)。
 (二)戦闘行為によって遭難した戦闘参加者の捜索・救助・輸送
 ■戦闘行為による遭難は「非戦闘地域」で起こるのではない。自衛隊は戦闘が終わり「敵」がいなくなるまで捜索に出ず、救助しないことになる。遭難した負傷兵はたまったものではない。自衛隊は「友軍」の非難に耐え、「次は戦闘行為が行われていても捜索・救助する」という法律にするのか。
 (三)戦闘参加者以外の遭難者も救助(第六条三項)
 ■戦闘に巻き込まれた住民などか。そこは「戦闘地域」ではないのか。戦闘が終わるまで放置するのか。
 (四)諸外国の軍隊が行なう捜索救助活動への自衛隊の物品・役務の提供協力−「補給、輸送、修理・整備、医療、通信、宿泊、消毒」(三項後段、別表第二)
 ■諸外国の軍隊が戦闘中または戦闘の可能性があるときに捜索救助活動をする場合は、自衛隊は「協力しない」と断れるのか。また野戦病院なら、前線の近くに設営される。「戦闘行為が行われない地域」まで傷病兵を搬送してくれば物品・役務を提供するというのは、作戦上も非現実的。
 A 実施要項、実施命令、実施区域の指定と変更、活動中断は「協力支援活動」と同じ(第六条一〜四項)。
 B 公海もしくはその上空または外国の領域で活動する自衛隊の隊長が、戦闘行為が行なわれた場合などでと る措置も同じ(五項)。

 七、第七条/被災者救援活動
 @ 「被災民救援活動」の定義(第三条三)
 ■「テロ攻撃に関連し・・被害を受けもしくは受けるおそれがある住民その他の者の救援」という規定だが、今回の場合、住民が被害を受けるのは報復戦争によってである。それを「テロ攻撃に関連し」という言い方にしている。加害責任のすりかえである。
 ■「人道的精神に基づく活動」は聞く方が恥ずかしい。武力行使をしないのが被災民を生まない道。政府がそれほど「人道的」でありたいのなら、内戦と旱ばつで飢え苦しんでいる住民を「タリバン制裁」と称して放置してきたのはなぜか。
 A 自衛隊による被災民救援の実施要項や活動の中断、戦闘行為など−前二活動と同じ。

 八、第一一条/武器の使用
 @ 自衛隊の部隊等の自衛官は、<自己または自己と共に現場に所在する他の自衛官>もしくは<その職務を行なうに伴い自己の管理下に入った者>の生命、身体の防護のため武器を使用できる(一項)。
 ■PKO法や周辺事態法にもない<自己の管理下に入った者>とは誰のことか。政府は、「自衛隊の診療所または輸送中の傷病兵や被災民、医療の現地スタッフ、自衛隊の宿営地にいる外国軍の連絡員、視察者、報道関係者、宿営地外の同行通訳や報道関係者」などと例示した。しかし相手から見れば、「敵軍」を支援する自衛隊の活動は「敵対行為」だから、攻撃は当然となる。したがって、そこは「戦闘行為が行なわれている地域」であり、少なくとも「戦闘行為が行なわれると認められる地域」である。いかにも仕方なく当然かのような抽象的な法文ですりぬけようとしているが、現実には矛盾と混乱を起こすことになろう。
 ■「被災民」について。難民キャンプは通常、多数の難民が収容され、警護は現地政府の軍隊か警察が行なう。キャンプ内の難民の生活や医療活動などは国際機関やNGOが行なう場合が多く、自衛隊が難民キャンプを「管理」することなど考えられない。自衛隊にはそのノウハウもなく、言葉も習慣も文化も分からない。「難民救援」を引き合いに出して武器使用を正当化してきたのは、ごまかしである。ありうるのは、少数の難民や住民などを戦闘地域で保護した場合の武器使用となろう。
 ■この法案を受け、すでにPKO法を「他国の軍隊」や「武器等」の防護するためにも武器使用ができるように変える動きが始まっている。本格的なPKFへの脱皮である。
 A 武器の使用は現場に上官がいるときは、その命令によらなければならない(二項)。
 B 上官は武器使用がかえって危険または事態の混乱を招くことを防止し、適正に行なわれることを確保する見地から命令する(三項)。
 ■PKO法は当初、武器使用を「自衛隊個人」の判断と責任とし、上官が命令したら「部隊による組織的武器使用」となり、武力行使となると説明していた。しかし九八年六月の国会で「危険や事態の混乱防止」を理由に「上官命令」に変え、「組織的武器使用」に踏み切った。この法案もそれを踏襲した。
 ■また政府は、「具体的な被害が発生する以前でも武器で危害を与えることもできる」と武器の先制使用もできるという答弁を行なった。相手が武器を使う前でも、「撃たれるかも知れない」と思うときには発砲してもいいというのだ。これは判断はきわめて微妙、困難で、結果は重大になりうる。自衛隊は、「武器だと思った」とか、怒りのデモに恐怖を感じて「命が危ないと思った」だけで発砲することにもなりかねない。

 九、第四条/基本計画
 @ 首相は基本計画案について閣議決定を求める(一項)。基本計画の変更も準用(三項)。
 A 基本計画の対象活動は、協力支援活動、関係行政機関が実施するその他の協力支援活動、捜索救助活動、自衛隊による被災民救援活動、関係行政機関が実施する被災民救援活動(一項各号)。
 B 基本計画が定める事項は、基本方針、協力支援・捜索救助・被災民救援の活動の基本事項、協力支援活動の種類・内容、活動区域の範囲、区域指定に関する事項、自衛隊が外国の領域で活動する場合の部隊の規模・構成・装備・派遣期間、関係行政機関がその用に供していた以外の物品を調達して諸外国の軍隊(被災民救援では国連等)に譲与する場合の重要事項(二項各号)。
 C 外国の領域で実施する場合は当該外国と協議して実施する区域の範囲を定める(四項)。
 D 基本計画の決定、変更の内容、終了したときは、結果を国会に報告する(第一〇条)。
 ■基本計画で自衛隊の後方支援の内容が決まる。それが憲法や国際法、その他の法令に適合しているか、国際政治や国際情勢の上で適切かどうかの判断ができるのは、少なくとも基本計画を見なければ分からない。ところが政府は、この法律は今回の事態のためだから、法律が成立することで国会が自衛隊の活動を認めたことになるので国会の承認は不要だと言う。法律の賛否と、実際に行なう活動の適否の判断とはまったく別次元の問題である。こんな無茶な論理が通るなら、自衛隊法を国会が認めたのだから、防衛出動も治安出動も国会の承認はいらないということになる。国会が法律の不適切な実施を承認せず、あるいは変更・停止を求めるのは当然だ。国会に政府への「白紙委任」を求める法律は、国会の自殺行為である。
 ■三与党と民主党の協議で、基本計画は国会に報告、自衛隊の派遣の場合は事前承認とする方向で調整されている。そうなれば形式的には当然のことだが、多数党が賛成すればどんな基本計画でも国会が認めたことになる。最近の動きを見れば、国会が憲法を無視して進む危険性がある。

 十、第八条/関係行政機関による協力支援活動、被災者救援活動その他の対応措置(略)

 一一、第九条/物品の無償貸与・譲与
 「総理大臣・各省大臣は、諸外国軍隊または国連等から物品(武器・弾薬を除く)の無償貸与または譲与の求めがあった場合は、無償で貸し付け、または譲与できる」。これは日本が事実上の「戦費負担」をするもの。外国軍にとって、「要求すればただでもらえるのなら、要求しなきゃ損」になる。

 一二、付則
 「この法律は施行の日から二年間有効。ただし必要がなくなったときは速やかに廃止する。二年を経過しても必要があると認められるときは、別の法律で二年以内の延長ができる。その後も同じ手続きで延長できる」。
■ 「テロが終わらないからいつまでも必要」となりかねない。時限立法から恒久法への布石だ。

     …………………………

日本をますます軍事国家に 自衛隊法改悪案

1、治安出動下令前の武装部隊による情報収集
 @ 「事態が緊迫し治安出動が発せられること及び銃砲、生物化学兵器その他殺傷力が類する武器を所持する者による不法行為が行なわれることが予測される場合、防衛庁長官は国家公安委員長と協議の上、総理大臣の承認を得て、武器を携行する自衛隊の部隊に当該者が所在すると見込まれる場所およびその近傍に情報収集を命ずることができる(第七九条の二)。
 A 「情報収集の職務に従事する自衛官は、自己または自己と共に職務に従事する隊員の生命、身体の防護のため、武器を使用できる」(第九二条の二)。
 ■これは警察とは別に、場合によっては警察に先行、優先して自衛隊の武装部隊が市街地や住宅地にも「情報収集」の名目で展開し、包囲し、銃撃戦をくりひろげることが可能となる。
 ■この場合、情報収集にあたる自衛官には警察の権限とされる住民の立ち退き、家屋などへの立ち入り、逮捕などの権限は規定されていないから、住民や通行人が銃撃戦に巻き込まれるおそれがある。情報収集にあたる自衛隊と警察の関係が規定されていないのも法的には非常識。あくまで自衛隊の行動範囲の拡大を優先し、急いだ結果の法案。

 2、自衛隊・米軍基地の警護への自衛隊の部隊出動

 @ 「国内の自衛隊の施設および在日米軍の施設・区域(基地)において、政治上その他の主義主張に基づき、国家もしくは他人にこれを強制し、または社会に不安もしくは恐怖を与える目的で多数の人を殺傷し、または重要な施設その他を破壊する行為が行なわれる恐れがある場合、(自衛隊の)施設または(日米合同委員会で警護を行なうこととされた在日米軍の)施設・区域の警護のため部隊等の出動を命ずることができる」(第八一条の二の一項)。
 ■当初は「重要施設」として国会や首相官邸、原発などが警護対象に上げられていたが、警察の面子をかけた抵抗で米軍と自衛隊の基地などにとどまった。テロ、ゲリラの標的が軍事施設に限定されることが前提というもの。暴力には暴力でという短絡的な発想の産物。
 A 総理大臣は出動を命ずる場合、あらかじめ関係都道府県知事の意見を聞き、防衛庁長官と国家公安委員長の協議をさせ、警護を行なう施設または施設・区域、期間を指定しなければならない(同二項)。
 ■これも自衛隊と警察の妥協の産物。テロやゲリラに対して「あらかじめの意見」や「協議」の時間があることが前提となっている。
 B 自衛官は自衛隊の武器・弾薬・船舶・航空機・車両・通信設備・液体燃料の保管・収容・整備設備、営舎・港湾・飛行場施設を警護するに当たり、必要と事態に応じ、当該施設内において武器を使用することができ る(第九五条の二)。
 ■英国の女性たちのように「武器はいらない」と言って原潜のコンピュータを壊そうとしたら射殺されかねない!?
 ■インド提案、米国支持の「包括的テロ防止条約案」では、「手段のいかんを問わず、人の身体もしくは経 済的損害を狙った犯罪」をテロと定義しており、デモもストも「テロ」になる?その条約案では「正規軍によるものは除く」となっているから、軍隊による虐殺、国家テロは「テロではない」ことになる。これまで条約に反対してきた米国が支持するのも、この軍隊除外条項があるためと言われる。

 3、治安出動における海上自衛隊の武器使用
 @ 治安出動を命じられた海上自衛隊は、「海上保安庁法第二〇条二項の規定を準用する」(第九一条二項)となる。同時に出されている海上保安庁法改定案の第二〇条二項では、「停船を繰り返し命じても抵抗し、または逃亡しようとする場合において・・危害発射を許容する」が新設される。
 ■これは、いわゆる「海上警備行動」における相手船の破壊・殺傷を含む銃撃・砲撃を認める条項である。 「危害発射」の条件は、 領海内で無害航行でない航行を行なっている場合、 放置すれば繰り返される蓋然性がある場合、領域内での重大凶悪犯罪の準備のためとの疑いが払拭できない場合、停船させて立入検査をしなければ重大凶悪犯罪の予防ができない、の四条件のすべてに該当すると海上保安庁長官が認めたものとなっている。つまり相手船が銃撃などせず逃げ回るだけでも、これらの「疑い」があれば銃砲で攻撃できることになる。
 ■「重大凶悪犯罪の準備」というが、その「疑い」だけでいいのでは銃撃・砲撃の幅はきわめて広くなる。 本当にこんな銃砲撃が必要なのか。もっとスピードが出る巡視船を配置し、それで捕捉するので十分ではないのか。武器などによる抵抗があった場合は、すでに武器使用が認められているのだから。
 A 「その結果として人に危害を与えたとしても、その違法性は阻却される」。
 ■つまり撃ち殺しても沈没させても罪に問わないということになる。米国などのように、やがて街中でも、警官が「止まらないと撃つぞ」とならないか。
 B この条項は、自衛隊法改正案を見ただけでは分からないようになっている。すべての内容は海上保安庁法改正案に盛り込まれており、海上自衛隊はそれを「準用」するだけという形になっている。要注意。

 4、防衛秘密の指定と罰則
 @ 「防衛庁長官は、公になっていないもののうち、我が国の防衛上特に秘匿することが必要であるものを防衛秘密として指定する」(第九六条の二)。
 A 「防衛秘密を取り扱うことを業務とする者が防衛秘密を漏らしたときは、五年以下の懲役。業務としなくなった後においても同様とする」「過失犯は一年以下の禁錮または三万円以下の罰金」「共謀、教唆、扇動したものは三年以下の懲役」「未遂犯が自首したときは減刑または免除」。
 B 防衛秘密の別表四
 (1)自衛隊の運用、これに関する見積り、計画、研究、
 (2)防衛に関し収集した電波情報、画像情報その他の重要情報、
 (3)前号の情報の収集整理またはその能力、
 (4)防衛力整備の見積り、計画、研究、
 (5)武器、弾薬、航空機、船舶などの種類・数量、
 (6)防衛に供する通信網の構成、通信方法、
 (7)防衛に供する暗号、
 (8)武器、弾薬、航空機その他またはその研究段階のものの仕様、性能、使用方法、
 (9)武器、弾薬、航空機その他またはその研究段階のものの製作、検査、修理・試験方法、
 (10)防衛に関する施設の設計、性能または内部の用途。
■ これでは、自衛隊が何を持っているか、何をしようとしているかは「闇の中」になる。報道の自由は大きく制限され、取材さえ「犯罪」となる。国会議員も調査したり答弁を求めたら防衛秘密を漏らすことを「教唆、扇動」で処罰?


大会での裁判取り下げ策動は阻止された

         一〇四七人の解雇撤回・地元JR復帰を


 国労第六十八回全国大会は、十月十三〜十四日に開催された。JRに法的責任なしとする四党合意が破綻していることは誰の目にも明らかだ。だが、闘争団切り捨てとJR会社との新たな労使協調関係確立で私的利益を確保しようとする国労本部は、またしても機動隊導入を要請するという労働組合として許されない暴挙を繰り返した。その上、会場の社会文化会館のまわりを、国労本部が百万円もかけてつくったといわれる鉄壁で覆ったのである。
 機動隊が会場に通じる道路を封鎖する状況で、闘う闘争団を支持し、一〇四七名の解雇撤回・地元JR復帰の原則的な要求をあくまで堅持する国労組合員、支援の労働者ら四〇〇人は早朝から結集して大会会場内四党合意反対派の闘いへ声援のシュプレヒコールを送った。
 今回の大会では、これまでにもまして、傍聴者や報道への制限が強められ、とくに四党合意に反対している共闘・支援者については、招待状を出しておきながら理由も示さず入場を拒否したため、トラブルが続出した。大会論議を権力に守られた密室で押し切ろうという労働組合にあるまじき態度を今回も国労本部は強行したのである。
 十時から大会は始まった。はじめに高嶋委員長があいさつをしたが、その中味は四党合意のこれまでの実際の経過とはまったくちがうしろもので、こうした発言にたいして闘争団をはじめ代議員・傍聴者は激しく批判し会場内は騒然となった。
 午後からは寺内書記長が方針提起を行った。すでに大会の方針は下部討議に付されていたが、突如として「運動方針(案)の追加」を提案してきた。内容は、「最高裁に公正な判決を求める」というこれまでの方針条項を削除して、改めてJRに法的責任なしを再確認し、四党合意に基づく解決を推進するというものである。これは事実上の裁判取り下げにつながるもので、闘争の最終放棄を意味する。当然にも激しい反発がおこった。
 経過報告に関して八人の代議員が発言した(本部案に賛成意見は五人、反対意見は三人)。経過報告は拍手承認だったが、批判する声が会場に響いた。
 大会二日目は九時半に再開され、反対派の代議員から修正動議が出された。反対派の代議員は、裁判取り下げによって闘争の敗北的な収束をはかろうとする追加方針に反対して闘った。
 その結果、方針は採決されたものの、寺内書記長の集約答弁では「裁判とりおろしは解決時」となり、本部の思惑は一応阻止された格好となった。また「解決水準をあげるために大衆行動を行う」とも発言し、闘う闘争団への「統制処分」についてもひとまず先送りとなった。しかし、書記長集約では当面裁判の取り下げはないとしているが、四党合意を推進する以上、近い内に本部は裁判取り下げをやるだろうことはあきらかである。
 午後三時すぎ、修正動議の採決(修正動議は三本。@秋田地本における組合事務所売却と組織問題に関する調査委員会の設置を求める動議、A闘いの基調と闘いの柱の差し替え動議、B具体的な闘いの差し替え動議。いずれも少数否決)につづき、本部原案が無記名投票による採決を行った(賛成八〇、反対三二、保留二、無効一)。またスト権一票投票では、賛成一一三、反対二。
 役員選挙では、反対派は、委員長候補に佐藤清司水戸地本委員長をはじめ、副委員長に唐沢武臣さん(高崎地本)、書記長に瀧口良二さん(東京地本中央支部)、栗原洋実中央執行委員(東京地本)の四名の対立候補を立てた。結果は、三役は再任、しかし栗原執行委員はトップ当選し、栗原さんの対抗馬として出てきた右派チャレンジの候補は落選した。
 大会は午後五時に終了した。しかし、多くの労働者の支援を受けた、闘争団を先頭にした闘う国労組合員は、二日間にわたる闘いによって、チャレンジグループなどの裁判取り下げによる闘争圧殺策動は阻止された。今回の大会での行動で、四党合意に反対する潮流は、闘争方針でも人事問題でも単に反対するという姿勢から対案の提起、中央人事でも候補者を出すという地点に飛躍していることを示した。
 今後の課題は、JRの大合理化との闘いと結びつけて、「5・ 闘争団共闘会議(準)結成集会」の大成功、国労大会での攻防戦などの成果を基礎に、新しい裁判闘争、ILO闘争、そして大衆行動の展開で、四党合意を完全な破綻に追い込むことである。
 JRの法的責任を明らかにし、一〇四七名の解雇撤回・地元JRへの復帰の闘いを一段と強化するための支援体制を拡大・強化しなければならない。


地球調査・診断の現場から P

      
さし迫る巨大地震の恐怖
 
                       
 小山 富士夫

 日本列島全体を震撼させ、関東大震災や阪神・淡路大震災をはるかに上回る甚大な被害をもたらすと考えられる二つの超巨大地震の発生が逼迫している。
 去る九月二十七日、政府の地震調査推進本部の地震調査委員会は、今後三十年以内に発生する確率は南海地震で四〇%、東南海地震で五〇%と予測されると発表した。この発表を受けて、政府の中央防災会議(議長は小泉首相)は予想される震度を検討し、周辺自治体の防災計画に役立てるという。

地震エネルギーは兵庫県南部地震の数倍!

 両地震(プレート境界地震)の規模はマグニチュード(M)8・1〜8・4と予想されている。これは関東大地震(M7・9)や阪神・淡路大震災を起こした兵庫県南部地震(M7・2)をはるかに凌ぐ超巨大地震である。マグニチュードは対数で算定されるため、数字をみるとたいした差はないようにみえる。しかし、実際は発生が懸念される地震の破壊エネルギーは、関東大地震や兵庫県南部地震の数倍に及ぶもので、ひとたび地震が起きれば、眼を覆うばかりの重大な被害が生じることは必須である。また、地震発生確率四〇〜五〇%は極めて高いと言わざるを得ず、明日にでも起きる可能性について誰も否定できないのである。
 両地震は表―1に示すように、歴史時代にマグニチュード8クラスの超巨大地震が何度も発生し、信じられない程の甚大な被害を与えている。両地震の震源域は図ー1のように静岡県浜名湖の沖から高知県の足摺岬沖に及び、その広さは東海地震のそれをはるかに凌ぎ、地震が発生した場合の被害は三十四都府県に及び得るという。なんと国土の七割以上が被害に遇うのである。国の経済活動はほとんど停止状態に落ち込み、社会不安が増大して国としての存立に関わる深刻な事態になりかねないのである。
津波は逃げる間もなく襲ってくる
 表ー1を見るとわかるように、過去に発生した地震の被害の大半は津波によるものである。江戸時代に発生した「宝永地震」では、津波による流失家屋が約六万戸、死者約二万名に達した。「安政南海地震」では、最大一六メートルの高さの津波が襲来したのである。
 現代ではどんなことになってしまうのだろうか。両地震の震源域から津波被害の地域は、静岡県から四国・九州の太平洋岸、西日本の瀬戸内海沿岸に及ぶと予想される。防災計画の基本は建物の耐震化、住民の防災意識の啓発、関係自治体の広域的な連携となろう。しかし、巨大な津波が襲来すれば建物(木造家屋)やそこに住んでいる人すべてを流し去ってしまうのである。津波が海岸に到達する時間は、地震発生後わずかに数分〜数十分といわれている。津波の場合は逃げる間もないのである。他の地震対策とはまったく異質の綿密な対策が急がれるのである。


複眼単眼

   
草の根の反戦歌 朝日新聞の歌壇から

 一〇月十四日、アメリカのアフガン空爆に反対する集会で発言する機会があり、その日の「朝日歌壇」の短歌を紹介した。
 馬場あき子の選で、市民グループ「非核市民宣言運動ヨコスカ」のヨットの抗
議行動がうたわれていた。
 ●「DON'T KILL」とヨット「おむすび丸」はたった一隻巨大空母に揺れつつ抗議す(横須賀市)梅田悦子
 「おむすび丸」という命名は市民運動らしいユーモアだが、どうしてどうしてその気概はすごい。その蟻のような「おむすび丸」が巨大な象の前で波間に上下しつつ、「殺すな」とアピールしている。もしかすると作者は現場ではなく、この場面をテレビで見たのかも知れない。その時の感動が字余りの歌に込められている。
 私は発言で「この集会に来ている人だけが、報復戦争に反対しているのではない。集会にはこられなくとも、この短歌の作者も自らの可能な表現をして、世論に訴えている。たくさんの人びとの声を背にして闘おう」と言った。
 ちなみに、この日の歌壇にはざっとみても、いくつもの反戦歌が採られている。
 ●報復は航空母艦の形して浦賀水道の秋を分けゆく(市川市)藤樫土樹
 ●再びを若き兵士ら戦場に青く冴えたる月を見るらむ(岡山市)安藤兼子
 ●平和からポタポタ落ちる赤い血で判読不能に戦争放棄(所沢市)一木ひで子
 ●こんなにも静かに咲いて平安な白百合白菊。青空を見る(アメリカ)ソーラー泰子
 ●昭和史のかの日に似ると年表に書かれる未来目の前を行く(朝霞市)船本恵美
 ●くりかえしテロの瞬間映しだす殺されし人そのたび死ぬを(香川県)山地千晶
 ●報復も無差別のテロアフガンのおさなき児らはいずこ逃るる(佐世保市)長崎田鶴子
 ●空母キティホークいずくへか発つ不安自衛隊に空と海と護られて(横浜市)渓さゆり
 ●報復が正義となれる国の朝をテレビに見つつまなこ冴えゆく(小山市)内山豊子
 ●大空にビルの跡見る万珠沙華(まんじゅしゃげ)なにをなすべきなにをいうべき(静岡市)篠原三郎
 ●破壊と報復に埋め尽くされたルモンドを辞書を引き一つずつ気を締めて読む
(フランス)松浦信子
 ●結合双生児ドク君踏みしめて起つ写真癒えがたく深く病めるアメリカ(横浜市)神野志季三江
 短歌は論理ではないが、それぞれの感動や怒りや哀しみをとりだして表現することで、ある時には論文以上の説得力を持つことがある。記憶をたぐり、想像力を働かせながら、これらの短歌を読み、感動する。それは小泉首相が乱発する「感動した!」のレベルではなく、人びとのこころの奥に語りかける。
 この日、反戦歌ではないが、こんな作品も採られていた。
 ●減反に獣害加わる山里は農に明日なく棄田の目立つ(香川県)井川昌文
 ● 第一報不採用との通知なり肌で感ずる就職戦況(栃木市)大塚真治       (T)