人民新報 ・ 第1042号<統合135号> (2001年11月25日)
目次
● PKO法改悪は憲法違反の悪政
米軍・自衛隊はアフガン戦争から撤退せよ 飢餓に苦しむアフガン民衆に連帯を!
● 厚木基地はいらない行動 四〇〇〇人を越える結集
● 大量首切りを進める小泉構造改革反対!テロも報復戦争も反対!
春闘再生全国実と全労協による「怒りの労働者決起集会」
● 資料 / 大阪労働者弁護団がNTTの合理化について声明
● 金曜連続講座の講演から
食のグローバリゼーションと日本農業
@ 大 野 和 興
● 資料 / テロ対策特別措置法・自衛隊法改正を憂慮する憲法研究者の声明
● 資料 / 国連と全世界に対するRAWAのアピール「アフガニスタンの人民は北部同盟による独裁を受け入れない!」
● 映画紹介 みすゞ ( 監督 五十嵐 匠 主演 田中美里 )
● 図書紹介 「郵政民営化 郵便局はどこへ行く」 ( 著 ・ 池田実 )
● 複眼単眼 説教強盗の論理と御用学者の憲法論
PKO法改悪は憲法違反の悪政
米軍・自衛隊はアフガン戦争から撤退せよ
飢餓に苦しむアフガン民衆に連帯を!
準核兵器まで投入した米軍の空爆により、アフガニスタンのタリバン政権は事実上、崩壊した。アフガニスタン民衆は未曽有の旱魃と、厳冬の到来を前に、またも悲惨な内戦の渦にたたき込まれることになった。米軍の支援をうけた「北部同盟軍」のカブール進出が問題の解決にならないのは明らかだ。
そしてアメリカ・ブッシュ政権もひきつづきビンラディンとアルカイーダの追撃という、内戦の泥沼に入り込んでいる。
日本政府はこの米軍のアフガニスタン戦争に追随して、憲法違反の参戦三法の強行に踏み切り、日の丸をつけた自衛隊をインド洋、パキスタンなどに派遣した。小泉政権は戦後史上、最悪の憲法違反を犯した内閣として歴史に責任を問われるだろう。
しかし、この政権は「テロ根絶」の旗印のもとに、いまさらにこの臨時国会でPKO(国連平和維持活動)法を改悪し、九一年の成立当時、憲法違反の指摘に抗しきれずに「凍結」したPKF(国連平和維持軍)参加を解除し、武器使用基準をさらに拡大し、当事者間の停戦合意原則などの「五原則」の見直しをすすめようとしている。
米軍のアフガニスタン戦争に反対し、自衛隊の参戦に反対し、即時撤収を要求する運動はひきつづき切実な課題だ。
中村哲医師東京講演会に千二百名結集
こうしたなか、十一月十七日、アフガニスタン現地で医療や水源確保など被災民衆の救援活動をしているペシャワール会の中村哲医師を招いた東京講演会が開かれた。
講演会は労働者住民医療機関連絡会議と東京労働安全衛生センターなどによる実行委員会の主催で、「テロにも報復戦争にも反対!市民緊急行動」「虹と緑の五〇〇人リスト」などが協賛した。
会場の社会文化会館(三宅坂)には演壇上も含めて超満員の千二百名の人びとがかけつけ、入場できない人びとの中にはカンパを置いて帰宅する場面もあった。
「日本はいま曲り角に来た。進行している事態をどのようにしていくのかを決定するのはみなさんだ」と語る中村医師の講演(要旨・別掲)に参加者は惜しみない拍手を送った。
当日のペシャワール会事務局からの報告では、この一カ月で、ペシャワール会には全国の市民から約三億円の「いのちの基金」が寄せられたという。
中村医師らの活動に連帯し、さらに米軍侵略戦争反対、自衛隊の参戦反対、アフガニスタン民衆連帯の大きな運動を巻き起こさなくてはならない。
日本人はいま熱に浮かされている(中村医師)
私たちの活動拠点はパキスタン北部のアフガニスタン国境の町ペシャワールです。ここで医療活動を中心に展開し、現在、ペシャワールにペシャワール会メディカル・サービス(PMS)の基地病院があり、ここを中心にアフガニスタン側に八ヶ所、パキスタン側に二ヶ所、計一〇箇所の診療所を持ち、今年は年間三〇万人の診療をしています。
アフガニスタンは貧富の差がはなはだしい国で、世界最貧国のひとつにあげられています。貧しい者は徹底的に貧しい。数百円のお金がないために命を落としていく人が数知れない。逆にちょっとした病気でも簡単にアメリカやイギリスにいって治療を受ける一握りの人がいる。この格差がますます拡大している。
日本で行うような医療を現地で実行することはできません。苦労するのは少ない資金でいかに多くの人に恩恵を及ぼすかです。たとえばマラリアなどは二二〇円あれば治せるのです。しかし、日本で治すとなると何万円もかかる。
一九七九年、世界最強の陸軍と言われた旧ソ連軍一〇万人が、時の共産政権を擁護するという名目で、大挙してアフガニスタンに進攻しました。この戦争で死亡した人は二〇〇万人を下らず、難民となって国外に流出したのが六〇〇万人、パキスタン側には三〇〇万人です。アフガニスタン人口の約半分ほどが死亡するか、難民になった。
一九八八年、ソ連が撤退を始める。そうこうするうちに湾岸戦争が始まった。九三年にマラリアの大流行があった。悪性マラリアでした。私たちはだいたい七〜八十万人をカバーしていましたが、その中で死亡を確認したのが五千三百人でした。患者が診療所に殺到しました。朝から晩まで活動しても、せいぜい一日に診られるのはひとつの診療所で二百から三百人です。つぎつぎと死んでいく患者を抱える家族としては不安に駆られて、診療所に石を投げる。石を投げるだけでなく、機関銃やロケット砲を撃つ。当時、準職員二名が殉職しました。
ペシャワールからもどって私は福岡の本部に電話をかけて「ありったけのゼニを送れ」と言った。「三〇万円しかない」という。「それでいいから全部送れ」。その三〇万円で何人が助かるかを計算しました。悪性マラリアに効く薬は一人あたり二二〇円。すると千数百名でしかない。残りの何万人かは気の毒でも死んでもらわなくてはならない。人の命は平等だ、人命は地球より重いと言った人がいるが、ウソだと思いました。
ニューヨークのテロ事件でアフガン人自身が犠牲者を悼んだのです。アメリカの誤爆で死んだアフガン人を悼んだ日本人がどれだけいたでしょうか。人の命は本当は平等ではないのではないかと思いました。
アフガニスタンはことが絶えない不幸な地域です。一昨年からは大旱魃に見舞われています。昨年のWHOの警告によると中央アジア全体、パキスタン、イラン、イラク北部、中国西部、インド北部、モンゴルなど全域で六千万人が被災するという。中でも最もひどいところはアフガニスタンで、千二百万人が被災して、四百万人が飢餓に直面、百万人が飢餓寸前で死ぬだろうという警告を発表しました。これはほとんど世界的な関心をひきませんでした。インダス河の支流をなすカブール川という大きな川ですが、干上がってしまう。そのために農業用水だけでなく、飲料水も枯れる。井戸水がなくなる。そうなると家畜が死ぬ、病気が流行する。飲み水が汚染されるためです。
食物がないだけなら、ひもじい、ひもじいで何週間かは生きられますが、水がないと二十四時間ももたない。医者がこんなことを言っては不謹慎ですが、「病気どころじゃない。病気はあとで治せる。まずしっかりと村に残っておれ」と水源の確保に入りました。
この爆撃が始まる直前まで作業員七百名を使い、作業地が六六〇箇所、うち五百数十箇所で水源を得て約三〇万人が村を捨てずにのこる状態ができました。年内にさらに一千箇所に拡大するお膳立をした直後に報復爆撃が始まりました。
水が出るとみな喜びます。私たちも水が出るとうれしかった。十、二十メートルなら住民が自分たちで掘れますが、四、五十メートル、いちばん深いので六十一メートル。これをつぎつぎ手掘りでやりました。
この地域にはカレーズという地下水を外に導きだす農業用水の水路がある。これを三六本手がけて、うち三〇本、水が出た。そのために砂漠化していた地域にみどりの麦畑が復活するという奇跡的なことも起きた。約一万数千人が戻ってきた。これはうれしかった。私は人にほめてもらいたいとは思ったことは一度もありませんが、砂漠地帯が小麦の緑で埋まったときには、ほんとうに神様に誉めてもらいたかったです。
タリバンは世界的に評判は悪かったが、普通の暮らしを求める民衆には多少の窮屈な宗教政策さえ我慢すれば平和に暮らせるという、かけがえのないものでした。
いまカブール市民がどういう気持ちでいるか、私はだいたい想像がつくわけです。
カブール市民の一割の十数万人はこの冬、生きて越せないだろうということで「命の基金」を呼びかけ、食糧配給事業を始めました。さらにジャララバード周辺の被災地、米軍発表の報道と実際はほんとうに違う。やられたのはほとんど軍とは関係のないところです。職員の報告ではジャララバードだけで死亡したのは二百数十人、重傷ののち死亡したのも含めると五百名以上です。
こういう被災地にいそいで小麦粉を送りました。小麦の配給は現在、千四百トンがアフガニスタン国内で配られ、うち九八七トンがカブールで配られました。五七トンがジャララバード周辺の被災民におくられ、さらに三千数百トンを買い付けて、送る準備をしていたところに、カブール陥落となりました。
カブール市民が解放軍を迎えているという報道はとてつもないフィクションです。日本軍が中国に攻め入った時に、南京でもどこでも、いじめられないように住民が日の丸の旗を急拵えでつくって迎えた。いま進行している事態は気をつけてみないと、とんでもない誤解をすると思います。
世界の最貧国を世界中の強い国がよってたかって何を守ろうとするのか。持っているからです。何かを失いたくないからです。
自分たちは援けるつもりで現地に向かいました。しかし、私たちが得たもののほうが多いのではないかと思います。九月に帰ってきてみますと、日本中が熱に浮かされているような状態でした。私の発言が政治的だとかいわれる。とんでもない、日本中が政治的になっているのです。まるで漫画の読みすぎで、救世主ガンダムのように、現地の戦略が語られる。日本の軍隊がでていく。「あれは有害無益だ」と発言をすると「取り消せ」と言われる。
熱に浮かされた状態で、軍隊を動かすというたいへんなことが簡単に決められる世の中になってきた。アフガニスタン問題は、今後、終わりの始まりではないか。人間が失ってはならないもの、失ってもよいものを見分けるヒントをアフガニスタンは私たちに与えてくれていると思います。
日本はいま大きな曲り角にきている。進行している事態を決定するのはみなさん自身です。(要約・編集部)
厚木基地はいらない行動 四〇〇〇人を越える結集
十一月十八日、「違法な爆音を止めろ!厚木基地はいらない!大行動」が、神奈川県内外の平和団体や労組など百数十団体の四千人を越える労働者・市民の参加で行われた。
この行動は、厚木基地爆音防止期成同盟、神奈川平和運動センター、県民のいのちとくらしを守る共同行動委員会、原子力空母の母港化に反対し基地のない神奈川をめざす県央共闘が実行委員会を結成して行ったもので、確認された統一スローガンは、@市民の怒りで違法な爆音を止めよう、A原子力空母の横須賀母港化を止めよう、B不平等、不公平な日米地位協定を見直そう、C無差別テロにも軍事報復にも反対しよう、D自衛隊の海外派兵を止めさせよう、E小泉内閣の暴走を止めよう、F「人間の安全保障」を指針に平和憲法を守ろう、であった。
厚木基地を南北から取り囲むデモ隊の出発式集会は、海老名市東柏ケ谷近隣公園でおこなわれ、神奈川平和センター宇野峰雪代表が主催者あいさつで、「二十一世紀は平和の世紀にしたい。テロを口実にしてアメリカは戦争をはじめたが、これを許せばどんなことでも戦争の理由になってしまう」と述べた。厚木基地爆音防止期成同盟の鈴木保委員長は「憲法破りの自衛隊海外派遣は絶対に許さない」と熱っぽく訴え、また沖縄など各地の平和運動センターが連帯あいさつし、韓国からの訪日団三名が紹介された。
基地周辺をまわるデモは、滑走路フェンス南を通る南回りコース(約八キロ)、基地正門を通る北回りコース(約六キロ)にわかれて出発し、「厚木基地の飛行訓練を中止せよ」「米軍の軍事報復は許さないぞ」「日本の戦争加担に抗議するぞ」などのシュプレヒコールで、騒音被害に悩む周辺住民にアピールした。
午後一時半過ぎ、続々と到着するデモ隊を迎えて、大和市引地台公園で集約集会・イベントがはじまった。会場は、厚木基地と周辺地区の模型や模擬店が並び多くの人だかりができていた。
集約集会では、主催者挨拶につづき、社民党福島瑞穂幹事長と斉藤つよし参議院議員(民主党)が基地撤去に向けてがんばろうとあいさつ。また、神奈川ネットワーク運動県央ブロック代表伊知地るみ大和市会議員、沖縄平和運動センター崎山嗣幸議長から連帯拶があった。
つづいて韓国訪日団(仁川・米軍基地返還市民運動本部キム・ソンジン委員長、民主主義民族統一全国連合ソン・ミヒ女性局長、民主主義民族統一全国連合チョン・ヨヌク自主統一局長)が紹介され、韓国の米軍基地撤去闘争の現場からの熱烈なアピールをおこなった。
キム・ソンジンさんは次のように述べた。
私たちは、韓国から日本からアジアから米軍基地をなくすためにやってきた。アメリカは五千年の伝統をもつわが民族を分断し、朝鮮戦争時にはなんの罪もない民衆を殺し、女性を犯し、多くの人びとに被害を与えた。いまアメリカはアフガニスタンで民衆を虐殺している。私たちにはアメリカ軍は必要ない、必ず撤退させる。アメリカ軍は自国に帰るべきだ。韓国の米軍基地・梅香里から爆音をなくし梅の香がする里に戻し、基地の跡地を学校、公園、住宅にしたい。しかしアメリカは自分からは出ていかない。私たちの力を一つに合わせ、その力でアメリカを追い出していこう。私は仁川からやってきたが、基地撤去を求めてこれまで五百六十六日、二十四時間座り込み闘争を続けている。要求を実現するために十年でも百年でも闘いつづけるつもりだ。
ソン・ミヒさんは、民族の問題を女性の力で解決するために立ち上がった、皆さんと連帯して民族の敵であるアメリカを追い出すために闘っていきたいと、述べた。
チョン・ヨヌクさんは、デモ行進に参加して厚木基地の巨大さを感じた、この土地の人びとの平穏や楽しみを米軍基地が奪っている、団結してアメリカから土地を取り戻そう、と発言した。
そして韓国訪日団は、「在韓米軍を追い出そう」という歌を力強く歌い、会場は手拍子で応じた。
集会はその後もいろいろなイベントが行われた。
大量首切りを進める小泉構造改革反対!テロも報復戦争も反対!
春闘再生全国実と全労協による「怒りの労働者決起集会」
十一月十四日、労働スクエア東京で、「大量首切りを進める小泉構造改革反対!テロも報復戦争も反対! 11・14 怒りの労働者決起集会」(主催:春闘再生「行政改革・規制緩和・労働法制改悪」に反対する全国実行委員会、全国労働組合連絡協議会)が開かれた。
はじめに藤崎良三全労協議長が、主催者あいさつを行った。「全労協は東京全労協を中心に、アメリカの報復戦争と自衛隊派兵そして憲法改悪に反対し、市民運動とともに、抗議集会・デモ、国会前座り込みなどを闘ってきたが、今後は一段と取り組みを強めたい。そして完全失業率は五・三%を超えるという最悪の状況になったが、近い内に六〜七%にもなるだろうと言われている。小泉内閣の構造改革はいっそうの倒産・失業を生み出している。そして小泉は労働法制を改悪し企業のリストラを支援し、企業が労働者を解雇しやすくするため解雇ルールの改悪・規制緩和を行い、解雇自由の状況をもたらそうとしている。小泉内閣は軍拡内閣であり、雇用破壊内閣である。いまこそ労働者は立ち上がって闘い、反動政策に反撃していこう」
講演は、テロにも報復戦争にも反対!市民緊急行動の高田健さん。「周辺事態法が成立したときから戦後は終わり新しい戦前が来たと言ってきたが、今回の自衛隊参戦の事態でわずか二年でその戦前は終わったことになる。いまの戦争は目に見えない戦争であり、自分自身で気付かないうちに加害者になってしまうということになる。小泉内閣は国民緊急事態法というかたちでの有事立法策動を強めている。しかし反戦平和をいう労働組合は少なくなってしまった。だが、今日ここに参加されたのははっきりと反戦をかかげる労働者・労働組合であり、私たち市民運動は今後とも皆さんと一緒に戦争反対・憲法改悪反対の運動を闘っていきたい」
基調報告は、二瓶利勝春闘再生全国実行委員会事務局長。「日本はテロ対策特別措置法によって米軍の戦争に参戦した。小泉内閣は、自衛隊を海外派兵し、憲法九条の改悪をもくろんでいる。また日本の国家財政は破綻寸前で一〇〇〇兆円の債務がある。これを働く人びとからの収奪によって乗り切ろうとしており、働く者は雇用破壊、生活破壊に脅かされている。いま失業率は五・三%をこえた。労働組合が闘うときである。そうした観点にたって、今後の闘いの展望について述べたい。第一には、反リストラ・雇用闘争である。いまや雇用確保は国民的課題になっており、反リストラ・雇用確保の戦線の構築が急がれている。私たちは、石原行革の攻撃さらされている都労連の闘いを支持し、リストラへの反撃にむけて官民の統一戦線をつくっていかなければならない。つぎに、「二〇〇二年春闘」についてである。私たちの立場は、雇用も賃上げもが基本である。連合は統一要求を断念し、ベア無しはもちろん定期昇給さえないことも予想される。第三には、「戦争反対」といえる組合にならなければならないということだ。最後に国鉄闘争についてだが、国労本部は四党合意で歯車はまわりはじめたと言っている。回るには回ったが、それは逆転ということで解決に逆行している。私たちの国鉄闘争に対する基本的な姿勢は闘争団が納得できる解決でなければならないということで、今後とも闘争団の闘いを支援していく」
つづいての闘争報告では、全造船関東地協いすず分会、東芝府中働く者のネットワーク、電通労組全国協議会、全国一般東京労組三多摩分会、国労稚内闘争団などが決意表明し、各労組からの発言は、全港湾労組、全日建運輸連帯労組、東水労、東京清掃労組、全国一般全国協が行った。
最後に、団結がんばろうで明日からの闘いの前進を確認した。
資料
大阪労働者弁護団がNTTの合理化について声明
NTTの大合理化は、国鉄の分割・民営化と同様に、労働者・労働組合の権利も全く無視した一方的な解雇攻撃そのものである。このNTT大リストラは二十一世紀を労働者の犠牲によって形作ろうとする資本の攻撃の突破口である。こうしたやり方は、労働法制上も極めて由々しい事態を作り出している。大阪電通合同労働組合も賛助会員となっている大阪労働弁護団は、NTTに合理化の見直しを求める声明を出した。NTT労働者を始めすべての闘う労働者・労働組合は、この攻撃に反撃しよう。
大阪電通合同労働組合のホームページは、http://www.horae.dti.ne.jp/~dguosaka/(編集部)
一、二〇〇一年十月二十六日付、朝日新聞の報道によれば、国が四六%の株式を保有する持株会社日本電信電話株式会社(以下NTT)は、十月二十五日、「NTT東西地域会社と、設備保守を手がけるNTT−MEグループの社員十四万人のうち約十万人を、あらたに地域ごとに設立する業務受託会社に移管し」その方法については「五十一歳以上の社員は本人の同意を得ていったん雇用契約を切り、地域子会社で賃金水準を一五〜三〇%カットして再雇用する。五十歳以下の社員については現行の賃金水準のまま出向させる」と正式発表した。
当弁護団賛助会員である大阪電通合同労働組合の報告によると、NTTは前記合理化を「構造改革」と称して「退職」によって雇用関係を切った上で、子会社(アウトソーシング会社)で再雇用するというもので、NTTは、今回の合理化計画を「会社分割法」でもなく「変更解約告知」でもないと述べ、労働者に選択を委ねるといいながら、「退職」に同意しない労働者は「勤務地を問わず、他業種への出向」との条件をつけ、「退職」の同意を強要した合理化の内容であり、すでに個々の労働者に対して意思選択を強要しているとのことである。
以上のようなNTTの合理化計画は、労働問題に携わる当弁護団として看過できない重大な問題をはらんでいる。
二、第一に、このNTT合理化計画は、NTTの労働者に対して一方的に不利益を強いているものである。前述の朝日新聞の見出しに「五十一歳以上、賃金三〇%減も」「十万人、子会社に」とあるように、従前の会社の籍を奪い、賃金も減少させるという文字通りの労働条件の切り下げなのである。又、この合理化計画がNTTのいうように「会社分割法」や「変更解約告知」でないとしたら、「退職する、しない」は、労働者の自由意思により選択を委ねることに他ならない。NTTが、退職を選択しない労働者に「遠隔地への配転、他職種への出向」といった条件を押し付けることは、労働者の自由意思に基づかない「退職の強要」である。
いうまでもなく、労働条件の不利益変更は、労働者の同意なくして出来ない。
このNTTの合理化計画は、労働条件の一方的不利益変更禁止という労働判例上の原則を踏みにじるものであり、とうてい許されないものである。
三、第二に、このような重大な問題を含む合理化計画でありながら、NTTは前述の合理化計画を既定のものとして個々の労働者に対して早くも意思選択を強要しているというが、このような重大な問題はその計画前に、その計画そのものについて十分な労使協議が尽くされるべきであることはいうまでもない。
にもかかわらず、NTTは多数組合との合意を前提に合理化計画を推し進め、他組合(少数組合)と十分な労使協議を怠っているのは労使対等、労使自治の原則に照らしても許されないものである。
四、第三に、このNTT合理化計画は、国がNTTの四六%の株を保有していることからうかがえるように国策に後押しされたものと考えられる。
そしてその内容は、アウトソーシング化を中心とした「NTT構造改革」であるが、それに伴う不利益は専ら労働者にのみ痛みが押し付けられている。
本来、雇用を守り、労働者の個々の権利を守るべき国が、このような一方的な「痛み」を押し付け、NTTの「脱法、違法」の疑いの濃い合理化計画を後押しすることはあってはならないことである。
五、以上のとおり、今回のNTT合理化計画は内容においても、手続きにおいても、極めて問題の大きいものであり、国及びNTTは今回の合理化計画の見直しをはかり、又、労働者の意思に反して「退職同意」の強要や不利益な労働条件を押し付けることのないように強く求めるものである。
二〇〇一年十一月十六日
金曜連続講座の講演から
食のグローバリゼーションと日本農業 @
大 野 和 興
さまざまな人びとが日本の農業はどうなっているのかという疑問と不安をもっている。すでに十六年にわたって「戦争と平和を考える」をテーマにしてきた市民講座の金曜連続講座が、十月十九日、農業ジャーナリストの大野和興さんを招いて「食のグローバリゼーションと日本農業」と題する講座を開いた。本紙の文責で同講座での講演の要旨を、以下数回に分けて掲載する。 (編集部)
食のグローバリゼーションの象徴
最近の「農業と食の問題」では狂牛病問題があります。「やっぱり出たか」という感じです。これは世界的な農産物や人の動き、つまり食のグローバリゼーションのひとつの表れだとみることができます。
それから口蹄疫、蹄(ひづめ)のある家畜に発生している、かなり強烈な伝染病ですが、ヨーロッパ、東アジアで同時多発的に発生しています。東アジアでは台湾、韓国、日本、そして中国、モンゴルででている。口蹄疫というのは古くからある病気で、世界的に「口蹄疫汚染地域」というのがあって、そこに封じこめていた地域病だったのですが、封じこめがきかなくなった。同時多発的に発生して、感染経路がつかめないのが最近のグローバリゼーションを象徴する出来事です。
もうひとつ話題になっているのが、中国からの野菜の輸入制限問題、セーフガードということで輸入制限的な動きをして、これが日中経済摩擦になっている。野菜はほとんどが水です。放っておくとすぐに腐るし、品質が悪くなる。もともと商品としては遠くから運ぶものではない。それが世界的に行き来している。日本だけでなく、北側の諸国はどこでも同じです。ある学者の報告を読んでいたら、ロンドンのスーパーマーケットのことが書かれているところがあった。ケニアのさやえんどう、ジンバブエのさやいんげん、エジプトの人参、ザンビアのミニとうもろこしなどがずらっと並んでいる。東京のスーパーも同じ状況です。これがいまの食のグローバリゼーションいちばん新しい段階だという人がいます。
穀物は世界貿易品目だった。大量生産、大量消費の作物だった。貯蔵性もある。これは貿易品目としておかしくはない。それが野菜になってきたところが新しいところです。国際分業が成立している。途上国で作って北に運ぶ。北の豊かな消費者の「あれも食いたい」「これも食いたい」という要求に適合するような生産形態を国際分業で作っている。
日本の和食の材料のほとんどが中国から来ています。日本の野菜産出額は一〇〇〇万トンくらいです。そのうち三〇〇万トンは外国、ほとんどは中国ですが、海外に依存しています。
野菜は日本の農業の中でコメにならぶ最大の産出品目です。コメが大変だということはみないいますが、実は野菜も大きな問題なのです。
多国籍アグリビジネスと国際機関の役割
この国際分業をつないでいるのが日本の商社も含めた多国籍企業、多国籍アグリビジネスです。グローバリゼーション、世界化といいますが、経済のグローバリゼーションは分散化ではなく、集権化と権力化です。誰かそれをつかさどっている主役がいる。
野菜の場合は巨大な資本をもったアグリビジネスです。ほとんどが水のもの、劣化しやすいものを遠くから運ぶためには、温度管理が必要です。コールド・チェーンの帯が張りめぐらされます。アフリカの奥でできたものが、そのまま摂氏三度とか、四度の適温に冷蔵されて、消費地の台所まで結んでいく。これは巨大な資本がなければできません。
北の豊かな国々の人びとの要求にそったものを作るためには、品種開発も必要になる。
いまミニトマトは実にさまざまなものが出回っている。房になるようなミニトマト、牛肉の味のするビーフトマトなどいろんな種類のものができている。いまやトマトは野菜からくだもの化しているし、一種のファッション商品になっている。それに遺伝子組み替えというバイオの技術を応用している。これも資本がなければできない。
もうひとつの主役は国際機関です。農業でいうとWTO(世界貿易機関)です。農林水産省の日本の農業政策に関する決定権はほんとうに少ない。すべてがWTOでだしたグローバルなスタンダードに適合するかどうかを検証しないと政策としてだせないという時代です。
その典型例が農産物価格支持制度です。従来は農産物価格支持制度が農業政策だった。いまは貿易障壁政策だということで、一国ごとの価格支持政策はとれなくなっている。
農産物価格を支持しようとしたら、ある程度国境を遮断しなければならない。貿易制限をしなくてはならない。たとえばいま米価が下がっていますが、何か緩和しないことには農民経済がたいへんなことになる。これはいまの政権党の基盤をゆるがすことになる。しかし価格支持政策はとれない。そこでいま政府が考えているのは保険制度です。農民も政府もだして一定の基金をみ、過去三年間の平均価格の八割以下になったら、下がった分の半分を保険から補填するという制度です。これは価格支持制度ではないということになっている。このように一国の政策の枠が非常に狭まってきている。
遺伝子組替えの表示や有機農産物の表示のことがある。これもFAO(世界農業機関)とWHO(世界保険機関)の合同委員会があり、そこで基準を決めようとしています。それがグローバル・スタンダードで決まると、日本のJAS規格はそのままとりいれる。農産物の表示基準も国際的なところから決まる。
ところが国際機関というのは選挙もないし、議会もない。官僚と専門家の世界です。人びとの力の及ばないところで農業政策が決まってしまう。それをチェックしようとして、九九年のシアトルのWTOの会議でNGOや労組が取りかこんで、機能マヒにおとしいれた。民衆の直接行動でチェックするという動きがこの時に始まって、最近のジェノバのサミットまでつづいた。いまのテロ問題のあと、とりしまりは厳しくなり、あれはテロだと言われかねまない。軍隊がでてきかねなくなっていますから、もはやこの手段はもてなくなっている。かなり深刻な問題です。(つづく)
資料
テロ対策特別措置法・自衛隊法改正を憂慮する憲法研究者の声明
十一月十四日、日本の憲法学者の大多数を結集する全国憲法研究会(会長・山内敏弘一橋大学教授)の有志が「テロ対策特別措置法・自衛隊法改正を憂慮する憲法研究者の声明」を発表した。
声明に賛同したのは、愛敬浩二、、石村修、上田勝美、上野妙実子、右崎正博、浦田一郎、浦田賢治、岡本篤尚、小田中聰樹、金子勝、北野弘久、君島東彦、小林孝輔、沢野義一、杉原泰雄、芹沢斉、高良鉄美、只野雅人、常岡せつ子、西原博史、長谷川正安、樋口陽一、深瀬忠一、古川純、前原清隆、水島朝穂、三輪隆、森英樹、山内敏弘、渡辺治など二三一名(うち匿名賛同十五名)の人びと。
発表された声明文は左記のとおり。 (編集部)
第一五三回国会において成立したテロ対策特別措置法と自衛隊法改正は、以下に署名する私たち憲法研究者にとって、憂慮すべき問題点を含んでいる。
一、テロ対策特別措置法
1 法律の根拠と憲法の精神
二〇〇一年九月十一日にアメリカで発生したテロに対する報復として、アメリカは、「自衛権」を根拠として、アフガニスタンに対して武力攻撃を行っている。本法は、このようなアメリカの武力攻撃に対して、武力行使と結びついた「協力支援活動」等を行うことを内容とするが、その憲法上の根拠は不明確である。集団的自衛権の行使は憲法上認められないとする政府の見解からすれば、本法を集団的自衛権によって根拠付けることはできないことになる。他方で、アメリカ自身、その武力攻撃を国連憲章第七章による強制措置とはとらえていない以上、本法の根拠を国連憲章第七章に求めることもできなくなる。そこで、政府は本法の根拠を憲法前文などの精神に求めているようであるが、しかし、下記のような問題点を含む本法を、平和主義を基調とする憲法前文などの精神によって根拠付けることには、大きな疑義がある。(略)
2 対応措置と武力行使
「協力支援活動、捜索救助活動、被災民救援活動その他の必要な措置(以下「対応措置」という)」(二条一項)の実施は、「武力による威嚇または武力の行使に当たるものであってはならない」(同条二項)とされている。しかしながら、とりわけ「軍隊等に対する物品及び役務の提供、便宜の供与」としての「協力支援活動」(三条一項一号)は、「武器(弾薬を含む)」の輸送等からなり(別表第一)、「戦闘行為」(二条三項)に不可欠のものとして要求されているものである。これらの活動は、「武力による威嚇または武力の行使」に当たるものとみなしうるのであり、そのようなものとして相手側からの攻撃の対象となる場合も想定され、実質的に集団的自衛権の行使に踏み込むものである。
武器の使用は、「自己または自己と共に現場に所在する他の自衛隊員」のみならず、「その職務を行うに伴い自己の管理の下に入った者」の生命または身体の防護のためにも可能とされ(一二条一項)、PKO法や周辺事態法よりも要件がさらに緩和されている。このことも、武器の使用が事実上武力の行使になっていく可能性を高めている。
3 実施地域
対応措置は、「我が国領域」のみならず、「公海及びその上空」や「外国の領域(当該対応措置が行われることについて当該外国の同意がある場合に限る)」における非戦闘地域でも実施するものとされている(二条三項)。これは、周辺事態法における「わが国周辺の地域」という限定をも取り払い、地理的制約なしに自衛隊を出動させることを可能とするものである。しかも、外国の同意や非戦闘地域の要件は、テロをめぐる実態や戦闘地域と非戦闘地域の区別の困難性に照らせば、その限定性について深刻な問題が存するといえよう。
4 国会の承認(略)
二 自衛隊法の改正
1 情報収集、警護出動と武器の使用
治安出動下令前の情報収集(七九条の二)と自衛隊と米軍の施設等の警護活動(八一条の二)に関する規定が新設され、さらに武器の使用等の権限が新たに認められている(九〇条一項三号ほか)。このことによって、自衛隊が国内において市民生活とのかかわりで日常的に活動し、緩やかな要件の下で表現の自由や人身の自由などの人権が制限される恐れがある。
2 防衛秘密
防衛庁長官は防衛秘密を指定するものとされ(96条の二、別表第四)、対象者は自衛隊員のほか他の公務員や民間人に及び(一二二条一項)、処罰範囲が拡大され(二−四項)、罰則も強化されている。この問題は表現の自由や知る権利さらには国民主権との関係で広汎な論議の対象となってきたものであり、本来特別に慎重な検討を要するはずのものである。
3 立憲主義の尊重(略)
二〇〇一年十一月十四日
全国憲法研究会有志
資料.・ 国連と全世界に対するRAWAのアピール
アフガニスタンの人民は北部同盟による独裁を受け入れない!
タリバンがカブール市を明け渡し、北部同盟が市内に入城したことが確認されました。
しかし、北部同盟は恐るべき犯罪者集団であり、一九九二年から一九九六年にかけてアフガニスタンを支配していた間に、その犯罪的かつ非人道的な本質をことごとく暴露していた事実を世界中の人々に理解して頂きたいと思います。
テロリスト集団であるタリバンがカブールから退却したことは、明るいニュースですが、憎むべき犯罪人の集団である北部同盟がその後カブール入りしたことは、一九九二年から一九九六年にかけての傷がいまだに癒えていないカブールの二〇〇万人の住民にとって、恐るべきショッキングなニュース以外の何ものでもありません。
この二ヶ月の間にカブールを脱出した数千にのぼる市民は、アメリカの空爆よりも北部同盟が権力の座に就いてしまうことの方が恐ろしいと話しています。
タリバンとアルカイダは今回撲滅されることになるとしても、北部同盟が軍事力をもって存在するならば、それは野蛮なタリバンによるくびきから自由になるというアフガニスタンの人々の歓喜に満ちた夢を叩き壊すことになります。北部同盟は民族間、あるいは宗教間の軋轢を幾重にも大きくし、自らの権力を保つためには新しい内戦をたきつける事すらも全く辞さない集団です。マザリシャリフで過去数日にわたり、北部同盟が捕虜にしたタリバン兵および外国からのタリバン協力者に対して行っている略奪や虐殺がその大きな証拠です。
北部同盟は西側諸国に対し、自分達が「民主主義的」で、女性の権利をも支持すると見せかけていますが、実際には彼らは何も変わってはいません。まるで豹が自分の斑点を変えることができないのとまったく同じ事です。
RAWAは、北部同盟の残虐な罪状を今まで記録に残してきました。
しかし、もう残された時間はあまりありません。RAWAはこの不運なアフガニスタンにおける最近の動向を憂い、国連と全世界に対し手遅れになる前に緊急でかつ強力な協力を要請するものです。
我々は国連に対し、上記の年において北部連合が犯した忘れがたい犯罪が二度と繰り返されないよう、強力な平和維持軍のアフガニスタンへの派遣を強く要請します。
また、国連が、ラバニ率いるいわゆるイスラム的政府を否認し、民主主義の価値観に則った普遍的な政府の設立を助けるように要請します。
RAWAの要求は、アフガニスタンの大多数の人民の強い願いを反映しているものです。
アフガニスタン女性革命同盟(RAWA)
二〇〇一年十一月十三日
映画紹介
《 みすゞ 》
監督 五十嵐 匠 主演 田中美里
青いお空の底ふかく、
海の小石のそのように、
夜がくるまで沈んでる、
昼のお星は眼にみえぬ。
見えぬけれどもあるんだよ、
見えぬものでもあるんだよ。
(「星とたんぽぽ」より)
金子みすゞ。一九二〇年代にすぐれた詩をつくった童謡詩人。
雑誌『童謡』誌上で西条八十から「若き童謡詩人の中の巨星」といわれたが、戦前の家族制度のなかで、複雑な家族関係と不幸な結婚のため二六才の若さで自殺した。その後みすゞの作品の多くは散逸したといわれ、まぼろしの詩人といわれていた。
死後五十年ほど経て、児童文学者の矢崎節夫の熱意がみすゞの作品を発見、みすゞの詩にはふたたび生命がふきこまれた。作品は優しさと、真実にせまるするどさをあわせもち、時空を越えて、現代に生きる人びとの心にこそ響くようだ。ここ十年ほどは出版だけでなく演劇やテレビでもとりあつかわれ、フィーバーしているような感すらある。
映画はみすゞの詩のように、美しく、静かに、透明に、詩的に流れていく。
一九一九年、山口県の日本海に面した仙崎町。金子文英堂という本屋の店先で猫とじゃれている金子テル(みすゞ・田中美里)。テルの家で病気療養をしていた叔母が死ぬが、かけつけた叔父の上山松蔵(中村嘉津雄)と従兄弟の正佑(加瀬亮)は死に目には会えなかった。
その後、夫を亡くしていたテルの母(永島映子)が松蔵の後妻として下関の上山家に入る。テルは祖母と兄と三人で仙崎の金子文英堂に残る。店番をしながら書物を読みふけり、また遊びに来る正祐と兄とテルはトランプ遊びをするなどの気のあった若者たちだった。
テルは病気で倒れた松蔵の入院の世話をしたりする。二〇才の時、テルの同級生と結婚した兄たちに押し出されるかたちで、下関の上山文英堂に移る。松蔵の「働いてみないか」という勧めで、テルは商品館にある小さな間口の本屋を任される。
店番のあい間に書いた詩を「金子みすゞ」という名前で雑誌に投稿し、初めての投稿作品が西条八十に認められる。みすゞの作品はつぎつぎに雑誌に掲載され人気がたかまっていく。親友の田辺豊々代はみすゞの詩を近くの子どもたちに読み聞かせる。東京へ出ていた正祐は関東大震災に遭い、一時帰ってくる。みすゞの最大の理解者の正祐はみすゞの華々しい活躍を喜ぶ。二人は心ひそかに慕いあう。しかし、正祐にきた招集令状には正祐が松蔵の養子であると記されていた。
そんな時、松蔵はみすゞを結婚させようと急ぎ、使用人の葛原信爾(寺島進)との縁談を進める。正祐は「好きでもない男と結婚することはない」とみすゞにせまるが、正祐が実の弟であることを知るみすゞは葛原と結婚する。婚礼の日に、葛原は女郎と心中して自分だけが生き残ったことを告げる。
やがて葛原は遊廓へ入りびたるようになる。上山文英堂もやめた葛原はその後の仕事がうまくいかず、生活は困窮をきわめる。そうしたなかで、みすゞの希望は詩作と娘のふさえだけとなる。二四才の夏には、九州に行く途中の西条八十と下関駅で短い時間だが会うことができた。その後、みすゞは廓通いの夫から淋病をうつされ、さらに詩作と文通までも禁止されてしまう。二六才の春から、病気の苦しみをおして、作品を三冊の手帳に清書し、一冊を正祐に一冊を西条八十に託す。
離婚を決意したみすゞは、母と叔父のいる上山文英堂に戻るが、葛原は娘の親権を主張し、みすゞからふさえを奪おうとする。葛原がふさえを迎えに来る前日の夜、みすゞは自殺して果てる。
みすゞの十四篇の詩が小さな章のとびらのように開かれて物語は進んでいく。光りが効果的に使われ、詩的な雰囲気がつよめられている。窓際の電気スタンドのある座り机に向かって、詩作するみすゞの姿は楽しそうだ。仙崎の田舎の本屋も下関の大きな文英堂の建物も雰囲気がいい。商品館の小さな本屋はみすゞのお城のようだ。印象的なのは、建ちの高い文英堂の二階につながる階段がとく効果的につかわれている。みすゞと正祐、みすゞと夫、正祐と葛原の会話がここで展開される。最後にみすゞはこの階段でひとりで真剣な表情をみせる。
清書ができた遺稿集の「巻末手記」。自筆原稿がながれる。「 できました できました」で始まり「さみしい王女 終り」には万感のおもいがこめられている。当時は、特別のことではなかったわけだが、社会的圧力のなかで死をもってしか自分をつらぬけなかった女性 みすゞの無念さはとんなであったろうか。
私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のように、
地面を速くは走れない。
私がからだをゆすっても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のように
たくさんな唄は知らないよ。
鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。
(「私と小鳥と鈴と」)
(Y・Y)
図書紹介
「郵政民営化 郵便局はどこへ行く」 著 ・ 池田実
郵政4・28処分(一九七八年に全逓史上初の越年闘争が闘われたが、郵政省は報復的に七九年四月二十九日に六十一人を懲戒免職処分)を闘う池田実さんが、「郵便屋さんが泣いている―郵便局腐敗の構造」(現代書館)につづいて、いま焦点となっている郵政民営化についての本を出した。
章だては、@郵政省が消えた日、Aガラスの新型郵政公社、Bクロネコ、ペリカンが手紙を配る日、C郵政を食い尽くす天下りOBたち、D郵便局の病巣、E赤字の元凶、郵便番号七桁化、F民営化戦略「郵政新生ビジョン」、G分割なき郵政民営化の道、となっている。
そのなかで、九八年に鳴り物入りで導入された郵便番号七桁化、そのため郵便作業の効率化と称して導入された新型区分機(二〇〇〇年三月末で四五九局、七二七台)の問題が描かれている。
「郵便番号を七桁にすれば郵便の配達がすごく早くなる」、こう郵政省は言っていた。「送達日数」表なるものでは、かなりの地域に翌日には配達されるとしるされていた。
しかし、現実には、どうもそんなに早くなってはいない、かえって日数がかかっている様な気がしていた。
池田さんは書いている。そもそも「送達日数」自身がインチキなのだと。一〇万通以上テスト郵便物を出して、そのうち約七万通しか有効とならない。その訳は、判断基準に、消印が「一八時〜二四時」の表示となっているもの、誤配されたもの、などがあり、「あらかじめ正常送達に見合うよう条件が設定されいる」。これでは、実状にあわないのは当たり前だ。そのうえ郵便事業の赤字拡大の元凶となっているという。
では、なぜ七桁化を推し進めるのか。それは区分機を納入する日立など大企業の儲けのためだ。そしてそれに群がる高級官僚どもの利益のためだということが述べられている。
七桁区分機だけではない。この本で描かれているのは、郵政弘済会、「かんぽの宿」などの施設などファミリー企業群の実態だ。それらは、近年マスコミでも取り上げられているが、途方もない腐敗・癒着そして赤字の累積である。そうしたところに、官僚たちは天下り、二重三重に大金を懐にねじ込んでいる。当然、そのツケが大きくなる。それが、郵政労働者の労働条件の悪化と国民負担の増大という犠牲のしわ寄せが行われるという仕組みだ。
たしかに郵政事業が大きな変革を求められていることは事実だ。小泉内閣の目玉の一つは郵政民営化だが、それがいっそうの労働者いじめ・国民サービスの低下でなく行われるために、良心的な郵政労働者と多くの人びとがしっかりと手をとりあって考え、行動していくことが求められていると思う。
国鉄の分割民営化時には、労働者が働かないから膨大な赤字となったと宣伝された。
いま郵政も同じであるが、この本は郵政の諸悪の根源がどこにあるかを明らかにしてくれる。
<現代書館 二〇〇〇円>
複眼単眼
説教強盗の論理と御用学者の憲法論
「泥棒にも三分の理」などと言われる。与党の太鼓持ちで、いま右派で売出し中の論客の中西輝政京都大学教授が「SAPIO」十一月二八日号で展開している論理はこうしたものだ。
かつて一九二十年代末の日本には「説教強盗」という変わり種の盗賊もいたというが、中西の一文でそれを思い出した。
この強盗氏(妻木松吉)は、押し入った家々で不用心だから犬を飼うことを勧め、「強盗にもいろいろいて、俺とは違って刃物を振りかざすやつもいるのだから、玄関や勝手口には外灯をつけろ」などと説教しながら、巧みにより多くのカネを要求し、引き出したそうだ。また当時は、この「説教」を受け入れて、犬を飼う家が増え、「徳川綱吉の生類憐みの令」以来の犬ブームになったという話はにわかに信じがたいことではある。
中西は言う。
「まず最初に言及しておきたいことは、今回のテロ対策特別措置法は明らかな憲法違反ということだ」「そもそも二年前に成立した新ガイドライン法からして既に明々白々な憲法違反である」
「大体、インド洋に行くにはマラッカ海峡を通過するが、ここはイスラム原理主義勢力の強い地域であり、テロ攻撃などの問題もある。インド洋のディゴガルシア島の米軍基地に物資を補給しに行くことにしても、そこで自爆テロ等の行為に遭わないという保障はない。ましてカラチなどからパキスタン国内に入って活動するとなればタリバン支持勢力からの攻撃もあり得る。現在の状況からいけば、アフガン戦後の復興のPKOにも自衛隊を出すということになろうが、ゲリラ勢力の一掃などは不可能であり、本来の軍事的な武力行使はどうしても必要となる」「繰り返しになるが、今回の特措法もガイドライン法も憲法違反である。というよりも、自衛隊に関しては、これまでそのすべてが憲法違反であった。憲法違反を承知で、違反に違反を重ねてきているのが現状であり、逆に言えば、現状に対応していくためには憲法違反をしなければならなかったが、とうとうどうしても放置できない一線を超えたということだろう」
中西はこうした「論理」を前提に「おかしなものはためらわずに変える。(当たり前のことを避けた結果)日本のモラルは著しく崩壊してきたのだと言える。だからこそ、まず集団的自衛権をきちんと認め、速やかに現実に即した憲法に変えることが必要なのである」と説教する。
これはやっぱり学者の議論ではない。ここではまったく近代の立憲主義や法治主義が否定されている。こういうのもブルジョア独裁というのではなかったか。
政権という「虎の威」を借りて、それにおもねりながら「勝てば官軍」式の議論をする。学者の風上にも置けないこうした浅薄で、見苦しい論議が歴史の検証に耐えられるはずがない。 (T)