人民新報 ・ 第1063号<統合156> (2002年6月25日)
  
                                目次

● 有事三法を廃案へ、戦争勢力に痛打を! 6・16 全国大集会に6万人

● 異議あり!有事法制−戦争の準備・協力にNOを−6・12全国集会

● 会期延長反対、有事三法を廃案へ 市民・宗教者が国会前で緊急集会

● 小泉労働規制「改革」NO!6・20東京総行動
● 有事関連三法案の廃案をめざして(下)
      衆議院での強行採決、今国会継続審議の策動を許すな  (斎藤吾郎)

● 有事法制批判の視点をゆたかにするために いくつかの本とパンフの紹介

● 資 料 / 戦争に食料と土地・水は渡さない 百姓宣言

● 複眼単眼 / 米国で深まる大統領の疑惑 9・11とは何だったのか?

● 夏期カンパの訴え (労働者社会主義同盟中央常任委員会)



有事三法を廃案へ、戦争勢力に痛打を! 6・16 全国大集会に6万人

 有事関連三法案は、国会審議過程で政府説明の曖昧さや矛盾が明らかになり、多くの自治体も反対・慎重審議の声をあげている。自民党内からさえも法案成立はむりだという意見が出はじめている。戦争協力の最前線に立たされる労働者をはじめ全国的に展開されている「STOP!有事法制」の運動の盛り上がりが、こうした事態をつくりだした。小泉政権は、去年のバブル人気はどこへやら、不支持が過半数を上回るという状況となった。マスコミも今国会での法案成立は難しくなってきたと報じている。しかし小泉政権は、大幅な会期延長と一部野党の取り込みにより有事法案成立を諦めてはいない。しかも、福田康夫官房長官や安部晋三官房副長官などが核武装は合憲だとして非核三原則の見直しまで言いはじめ、アメリカの先制核戦争に日本が加担するという可能性まで出てきている。
 いまこそ全国の各地から有事法制の廃案にむけて全力をあげて闘いにたちあがろう!

 有事法制の廃案にむけて「STOP!有事法制6・16全国大集会」(主催、陸・海・空・港湾労組二〇団体、平和をつくりだす宗教者ネット、平和を実現するキリスト者ネットのよびかけによる実行委員会)が東京・代々木公園でひらかれ、会場からあふれ出す六万人が参加した。
 はじめに「平和をつくりだす宗教者ネット」の石川勇吉さんが開会宣言。石川さんは、伝統的な仏教教団からも有事法案に反対する動きが出てきていることを紹介し、有事法案を絶対に廃案にしようと訴えた。
 赤十字病院看護士の三村真理子さんの「ハイアン募金」の訴えの後、さまざまな運動を代表する「ゼッタイ・ハイアン各界アピール」がはじまった。
 脚本家の小山内美江子さんは、軍隊は戦争のためには住民を犠牲にするのであり、けっして国民を守るものではない、メディア規制、そして徴兵制まで言われるようになっているこのとき、有事法制を決して許してはならない、と述べた。
 本永春樹さん(沖縄から基地をなくし、世界の平和を求める平和市民連絡会)は、沖縄戦のときに日本軍に土地を取り上げられた経験やその後の米軍による土地接収などを語り、沖縄での有事法制反対運動を報告した。
 政党からは日本共産党の志位和夫委員長、社民党の土井たか子党首、民主党の生方幸夫衆院議員が訴えをおこなった。
 志位共産党委員長は、国会内外のたたかいは有事三法案を大きく追い詰めている、法案の強行も、継続も許さず、廃案においこむまでがんばりぬこう、と述べた。
 土井社民党党首は、有事法制は憲法違反であり、アメリカの戦争に加担し、日本の国民が犠牲になるということを許してはならない、有事法案の息の根を止めるまでがんばり合おう、と述べた。
 民主党の「良識派」を代表して集会に参加した生方議員は、有事法制の危険性を強調してこの法案を廃案に追い込むまでたたかいぬこう、と発言した。
 伊礼勇吉日本弁護士連合会副会長は、意見広告や弁護士の街頭デモなどの活動を紹介し、日弁連も闘う、と述べた。
 小林洋二全労連議長は、労働者は戦争に協力しない、労働組合の共同を大きく広ろげ法案阻止へ労働者もがんばると述べた。
 東京・高校生平和ゼミナールの白木まほさんは、私たちは「高校生戦争協力拒否宣言」をしますと訴えた。
 片岡和夫全日本海員組合副組合長は先の大戦で多くの海員が戦争で死んだことをふりかえり、平和憲法をグローバルスタンダードにすることが海洋国日本の安全保障になる、有事法案を廃案へと訴えた。
 最後に、陸海空港湾労組二〇団体を代表して大野則行さん(航空安全推進連絡会議議長)が集会宣言(別掲)を提案し、全参加者は拍手で確認した。
 集会には多数のメッセージが寄せられ、徳島県の大田正知事、東京・国立市の上原公子市長、作家の澤地久枝さん、「フォーラム平和・人権・環境」からのものが紹介された。
 集会を終わり、三コース(宮下公園、明治公園、新宿)に別れてデモ。切れ目のない長蛇のデモ隊列に注目する人びとに、危険な有事法制の廃案に向けてともに闘おうとアピールした。

 有事法制を絶対に阻止しよう!

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「STOP!有事法制6・ 全国大集会」宣言

 「有事関連三法案を廃案にしよう」―この思いをアピールするために、私たちは、ここ東京・代々木公園に全国から集まりました。これは、四月十九日、五月二十四日に続いて三回目の大集会です。
 「有事関連三法案」は、アメリカが起こす武力攻撃に公然と加担し、日本を戦争のできる国にするものです。罰則付きで国民を強制し、地方自治体、赤十字やNHKなどの「指定公共機関」、国の行政機関を置動員するもので、まさに国を挙げての「戦争遂行法案」であります。
 私たちは「有事法制」で脅威を作り出すより、「平和」を訴えることこそが戦争を防ぐ道であると確信します。
 私たちは、いのちと安全、人権を尊重し、平和な暮らしを求める立場から、有事法制の危険をもっと多くの人たちに知らせ、「有事関連三法案」の廃案までたたかい続けることを宣言します。

二〇〇二年六月一六日


異議あり!有事法制−戦争の準備・協力にNOを−6・12全国集会

 六月十二日夜、東京の日比谷野外音楽堂で「異議あり!有事法制ー平和を願う市民の力で廃案にー6・12全国集会」が開かれ、自治労や日教組など労働組合、市民団体など七〇〇〇名の人びとが参加した。集会後は国会にむけデモ行進した。
 集会を呼びかけたのは「フォーラム平和・人権・環境」「テロにも報復戦争に
も反対!市民緊急行動」「原子力資料情報室」「ATTAC Japan」の四
団体。
 集会は「ピースボート」共同代表の櫛淵万里さんが司会し、主催者あいさつを「平和フォーラム」事務局長の福山真劫さんが行なった。
 発言は民主党前副代表の横路孝弘さん、社民党党首の土井たか子さん、「広島県被団協」副理事長の池田精子さん、「日本弁護士連合会」副会長の松倉佳紀さん、「住基ネット8月5日実施を許さない実行委員会」の白石孝さん、「6・8戦争はダメ!有事法制の廃案をめざす沖縄県民大会」実行委員会長の山内徳信さんが行なった。集会アピールは「テロにも報復戦争にも反対!市民緊急行動」の中尾こずえさんが提案した。

6・12集会アピール

 私たちはこの間、政府と与党三党が国会に提出した有事三法案の危険性を指摘し、各界の人びとと共同しながら「異議あり、有事法制」の声をあげつづけてきました。
 それはこの有事三法案が憲法の平和主義をふみにじり、国民の自由と権利を制限しながら、アメリカとの共同作戦で戦争を引き起こし、国民を戦争に動員することになる危険があると考えたからでした。
 私たちのこの不安は的中しました。この有事三法案を国会で審議している最中に、こともあろうに安部官房副長官と福田官房長官の「非核三原則放棄と核兵器保有」発言が飛び出してきました。加えて、防衛庁が全庁あげて「情報公開請求者」のリストを作成し、思想調査をしていたことも明らかになりました。これらの事件は決して偶然ではありません。それどころか、これはまさに有事法制の本質に関わる問題であり、小泉内閣の重大な責任問題です。
 有事法制に関する国会論議の過程で、法案の危険性と矛盾はますます明らかにされました。小泉内閣と与党はこの法案についてなにひとつまともな説明ができていません。いま日本弁護士連合会や日本ペンクラブをはじめ各界各層の人びとから「有事法制廃案」の声が沸き起こっています。与党の中からも批判が噴出しはじめました。事態は予断を許しませんが、私たちの運動や世論の高まりが小泉内閣を追い詰めていることも確かです。
 いまこそ全国の地域から、職場から「異議あり、有事法制!」「有事法制にNOを!」の声を巻き起しましょう。ともに手をたずさえて、「有事法制を廃案」に追い込みましょう。


会期延長反対、有事三法を廃案へ

       
 市民・宗教者が国会前で緊急集会

 六月十九日正午から午後一時まで、第百五十四国会の会期延長問題を審議する衆議院本会議開催を前にして、「会期延長と有事三法案に反対する緊急国会行動」が行なわれた。
 この日の行動は「テロにも報復戦争にも反対!市民緊急行動」「キリスト者平和ネット」「日本山妙法寺」の三団体の呼びかけによるもので、平日の昼の開催にもかかわらず、都内のさまざまな市民グループや宗教者、労働組合などから一〇〇名を越える人びとが参加した。
 参加者は「国会会期延長反対」「有事三法を廃案に」などと書いたプラカードを掲げ、国会にむかって抗議行動を行なった。
 集会では司会を「市民緊急行動」の高田さんが行ない、次のように述べた。
 「六月十六日の集会は全国から六万人の人びとが結集し、大きな力をしめすことができた。政府は有事法制を継続審議にすると言い出しているが、油断はできない。たとえそうなっても次は臨時国会に民主党等の一部を取り込んで提案し、強行を狙ってくるだろう。ひきつづき気を緩めずに、地域や職場で運動を力強くすすめたい」
 国会報告は共産党の春名直章衆議院議員、社民党の今川正美衆議院議員が行い、それぞれ与党の国会会期延長策動と有事三法案推進の動きを厳しく批判した。そして院外の市民運動と連帯して小泉政権を追及していく決意を表明した。
 今川議員は、自衛隊のインド洋派遣艦隊がアメリカ軍の指揮下に入っていたことが最近の報道で明らかにされたことに関連し、以前、自分は「その恐れがある」と国会で質問したが、当時の政府答弁は「そのようなことはありえない」というものだった。これらの問題も有事法制と合わせて追及したいと述べた。
 リレートークではキリスト者平和ネットの木邨さん、沖縄一坪反戦地主会関東ブロックの井上さん、真宗大谷派の鈴木さん、全労協の渡辺さん、神奈川の市民運動の石下さん、ふぇみん婦人民主クラブの赤石さん、日本YWCAの斉藤さん、日本消費者連盟の富山さん、新しい反安保実の国富さんらがつぎつぎに発言し、有事法制への怒りを表明した。
 宗教者平和ネットのメンバーで真宗大谷派の僧侶の鈴木さんは、法衣を着けてマイクを握り、六月十二日に真宗大谷派が教団をあげて有事法制反対の決議をあげたことを紹介、先の大戦では大谷派は戦争に協力したという苦い経験を持つが、二度とこの誤りを繰り返さないと力強く宣言し、参加者の拍手を受けた。
 最後に参加者は本会議の開かれる議事堂にむかって「会期延長反対!」「有事法制反対!」「憲法改悪反対!」のスローガンを叫んだ。


小泉労働規制「改革」NO!6・20東京総行動

悪天候をはねのけて

 六月二〇日、全都反合共闘会議による東京総行動が闘われた。
 「首切りは許さない! 権利は譲らない!」をメインスローガンに、「すべての争議団・争議組合の闘いを勝利させよう」「一〇四七名の解雇を撤回させ、国鉄闘争に勝利しよう」「じん肺・労災巣億行病を根絶させよう」との目標で、日鉄鉱業(じん肺)前に結集。そこでの行動を起点に、二つの隊列に別れて、NTT持株会社(解雇・東京労組)、大熊整美堂(解雇・吉本さん)、USB銀行(解雇・埼京ユニオン、事業所閉鎖・ミニットジャパン)、あさひ銀行(解雇・京都コンピュータ学院、組合否認・岩井金属)、みずほ銀行(組含否認・全統一光輪)に抗議・申し入れ行動。
 昼は合流して首切りルール立法化反対の霞ヶ関デモ。
 午後の部はまた別れて、郵政事業庁(4・28郵政不当処分解雇)、日逓(賃金養別・郵政全労協日逓支部)、昭和シェル(賃金差別)、フジTV(解雇・反リストラ産経労)、三井住友銀行(整理解雇・東洋印刷、倒産・東部労組高砂)、東京スター銀行(倒産・埼京ユニオン カメラのニシダ)、由倉工業(不当労働行為)、コクド(組合否認・東京土建)への行動、最後はJR東日本(一〇四七名解雇)に抗議した。昼の霞が関行動あたりから雨が降りはじめ強くなる一方だったが、連帯と団結で全ての争議を勝利させるという総行動精神で意気高く闘いぬいた。
 今年でこの東京総行動は三一周年を迎える。これまで、一つひとつの力は小さいが団結した力で敵を圧倒し多くの争議を勝利的に解決してきた。
 リストラ・合理化攻撃が強まる中で総行動の意義は一段と大きなものになってきている。
 全国の各地方・地域で、総行動方式で闘いが展開されることが求められている。

解雇ルールづくり反対!

 昼の霞が関デモは、政府・資本による首切りルール立法化の動きへのはじめての抗議行動であった。 昨年七月、東京商工会議所は厚生労働省に一つの要望書を提出した。
 その内容は「権利濫用法理などの厳しい解雇規制が成長企業の新たな雇用機会拡大を制約し、失業率の高どまり一因となっている」として、整理解雇の四要件の見直しをもとめるものである。 また総合規制改革会議は「解雇の基準やルールを立法化を検討する」ことが提起された。
 今以上に解雇をやり易くするための「ルール」つくりだ。
 労働者が求めている「解雇規制」とは正反対の方向である。
 全都反合共闘会議は、「『一人の首切りも許さない!』の運動を!」と、つぎのように呼びかけている。
 「このような法案が通れば企業は自信を持って解雇したり、また解雇をちらつかせ労働条件を切り下げてくるのは明らかだ。労働者は企業に何も言えなくなり、法律的・形式的『平等』さえなくなる。奴隷になることを強制する首切りルールに反対しよう。首切り自由社会に反対しよう。今こそ『一人の首切りも許さない!』を高く掲げよう。今後、労働政策審議会の労働条件分科会で審議を行ない答申にまとめて閣議決定。そして来年の通常国会に提出するのが相手のスケジュールだ。今日の昼デモは『解雇ルール』反対の初めてのデモだ。今後も労働政策・審議会の日程に含わせて最低月一回の昼デモを共同の力で成功させよう。仲間を増やし大きな社会的世論にし『解雇ルール』を阻止しよう」。


有事関連三法案の廃案をめざして(下)

      
衆議院での強行採決、今国会継続審議の策動を許すな
 
                                       
斎藤吾郎

D憲法無視の小泉内閣

 小泉首相は内閣発足以来の「世論」の高支持率を背景に自信満々で憲法無視の発言を繰り返してきた。もっとも一年余を経た現在ではその支持率は急落し、いずれの世論調査でも不支持が支持を上回るようになったのだが。
 彼は内閣発足時に「首相公選」制の導入のための憲法「改正」を主張したことを手始めに数々の改憲促進発言をしている。
「常識で行こう」
「国民的常識から見れば、自衛隊は誰が見ても戦力だ」
「最高裁は自衛隊は違憲ではないとの判決をだしている(これは小泉の無知か、真っ赤なウソだ)
「本音で議論しよう、憲法そのものが国際常識にあわないところがある」「九条は少しおかしい」などなどの発言がそれだ。
 この内閣は公然と自覚的に憲法九十九条の「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」という憲法遵守義務規定に違反を繰り返す現行憲法下での初めての内閣だといってよい。
 そして彼らはこの問題を指摘されると「議論して何が悪いのか」「憲法の議論をタブーにしてはならない」などと問題をすり替えて反論する。
 この確信犯的な違憲内閣が出してきたのが、憲法違反の極め付きとも言える有事(戦時)関連三法だ。この法案の目的は、歴代内閣が解釈改憲の積み重ねで平和憲法を空洞化させつつ作り出してきた「戦争システム」を、いよいよ平和憲法のくびきから解き放つことで戦争のために使い勝手を良くしようとするところにあるといってよい。

E有事関連三法案

 今回国会に出された法案は「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の保障に関する法律案(武力攻撃事態法案)」「安全保障会議設置法改正案」「自衛隊法改正案」の三法案からなっている。
 「安全保障会議設置法改正案」「自衛隊法改正案」の二法案が現行法の「改正」案なのに対して、「武力攻撃事態法案」は新法だ。これは今後二年以内に整備するとされている個別の事態対処法制の整備および「アメリカ合衆国の軍隊が実施する日米安保条約に従って武力攻撃を排除するために必要な行動が円滑かつ効果的に実施されるための措置」のための法整備と合わせると、全面的な戦争遂行体制を準備した「戦争基本法」的性格をもった悪法だ。
 この法案は四章二四条からなっていて、第一章総則、第二章武力攻撃事態への対処のための手続き等、第三章武力攻撃事態への対処に関する法制の整備、第四章補則で構成されている。
 これら三法案の廃案を要求する立場から、あらためてこの悪法の問題点をいくつかに絞って指摘しておくことにする。

F日本を攻撃してくる国はない

 第一に「有事法制は必要か」という前提的な問題がある。
 小泉首相は口を開けば「備えあれば憂いなし」「治にいて乱を忘れず」などということで、その必要性を主張する。
 ではその「備え」が必要な「乱」、その「武力攻撃」について政府はどのような事態を想定しているか。
 防衛庁の準広報誌「セキュリタリアン」は有事法制が必要とされる状況を想定して、「日本は四方を海に囲まれているので、有事の際、敵はまず空から攻撃を加え、海から侵攻してくることになる」(二〇〇二年一月号「『有事法制』ってなんだろう」)と説明する。
 このように海空からの全面戦争を日本にしかけてくる国は現在、あるのだろうか。多くの軍事評論家が指摘しているように、日本の周辺のロシアや中国、北朝鮮にはそのような攻撃能力はない。外国からのこのような攻撃を受ける客観的な可能性がないのは明らかで、政府が説明する「有事法制」の必要性はまったく根拠がない。小泉政権は「万が一」という説明でごまかしている。しかし「万が一」もないことは明らかだ。
 苦し紛れに政府が説明する有事法制にもとづく武力行使の体制の確立は「抑止力の効果を持つ」などという説明も根本的な間違いであり、この考え方をとれば軍事力の際限のない拡大競争に導くのは必然だ。
 より問題が大きいのは、「武力攻撃にたいして武力でそなえる」という考え方は日本国憲法第九条の理念とは真っ向から対立する考え方だということだ。
 まさに有事法制は平和憲法体系とまったく対立する軍事法体系の確立であり、平和憲法に対するクーデターだ。

G米軍による先制攻撃と日米共同作戦の可能性

 第二に今回の法案はすでに知られているように「武力攻撃事態」という定義に「武力攻撃の恐れのある場合」「武力攻撃が予測される事態」を含めている。
 これによって事実上、先の周辺事態法とのリンクが可能にされ、日本の周辺での米軍の戦争を「武力攻撃事態」の発動につなげることができる仕組みになるし、さらに重大なことには日米共同作戦による先制攻撃を事実上、可能にするものということだ。
 この「恐れ」事態、「予測」事態の判断は誰がするのか。法案の上では首相(防衛庁)になるが、その判断の前提となる具体的な軍事情報はアメリカ太平洋統合軍しか持っていない。まさにアメリカの軍事情報操作によって「恐れ」事態、「予測」事態が判断され、武力攻撃事態が判断され、発動されることになるのだ。
 アメリカが一九九四年の「核疑惑」の際に想定したと同様の、朝鮮民主主義人民共和国に対する先制攻撃に日本の自衛隊が自動的に参戦し、「国民を総動員」して共同作戦をする可能性が濃厚なのだ。その場合、北朝鮮からの必死の反撃がさけられないだろう。戦争の危険性があるとしたら、唯一、このような場合以外には考えられない。まさに武力攻撃事態法とは、「防衛」のための法制ではなく、「攻撃」「侵略」を可能にする法制であり、戦争を引き起こす法制だ。
 六月六日、米国のブッシュ大統領は侵略戦争推進国家体制の全面的再編強化のための「国土安全省(職員数十七万人)の創設」を発表した。その演説の中で、先制攻撃を公然と正当化し、その実行の権利を世界にむかって宣言した。これは「攻撃してきたら許さない」という従来からの「大量報復攻撃による抑止」戦略に代るもっとも危険な戦略だ。
 ブッシュは「米国はテロとの力強い戦いを通じて文明世界を先導している」「安全を確保する最善の道は、敵が隠れて計画を練っているところを攻撃することだ」とのべ、政府関係者は「イラクに大量破壊兵器やテロの証拠があれば座視しない。時期は我々が決める」と語った。
 小泉首相が進める有事法制はこうしたアメリカの戦争政策を支持し、その危険な先制攻撃型戦争に追従するものとなる。

H労働者と民衆の戦争動員

 第三に「指定公共機関」の強制動員の問題がある。 「指定行政機関」「指定地方行政機関」と並んで「指定公共機関」が政令で定められる。独立行政法人、日本銀行、日本赤十字社、NHKその他の公共機関と、電気、ガス、輸送、通信などの公共的事業を営む法人が対象だ。災害対策法では、これにくわえて道路公団、空港公団、原子力関係、鉄道、日通、NTTなどが指定されている。しかし、想定されているのは戦争体制であり、災害対策法よりもっと広範な企業が政令によってその対象になることは明らかで、すでに民放各社なども議論にあがっている。
 これらが「有事」に際して、周辺事態法にはなかった自衛隊と米軍の戦争に対する、対処措置という「協力義務」を負うことになり、労働者が事実上の「軍属」として戦争動員されることになる。
 第四に「国民の協力」をうたうことによって憲法の保障する基本的人権を制限しようとしている。法案の八条は「国民の協力」を次のように規定する。
 「国民は、国及び国民の安全を確保することの重要性にかんがみ、指定行政機関、地方公共団体又は指定公共機関が対処措置を実施する際は、必要な協力を行なうよう努めるものとする」。
 法案十一条、十二条、九十七条などで基本的人権の制限が公然とうたわれた。
 曰く「国民の自由と権利……に制限が加えられる場合においては、その制限は武力攻撃事態に対処するため必要最小限のものであり、かつ、公正かつ適性な手続の下に行われなければならないこと」として「制限」することにした。
 「国民は協力するよう努める」など国民に協力を強要し、検討をすすめてる「民間防衛」組織の結成と合わせて「国民総動員」体制を作り上げようとしている。
 また「取扱物資の保管命令に従わなかった者等」「隠匿し、毀棄し、又は搬出した者は六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」「立ち入り検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同条の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をした者は、二十万円以下の罰金」などの処罰規定を書き込んだ。こうして、「民間防衛」など草の根からの戦争協力体制が形成される仕組みになる。

 第五に対策本部長を兼ねる首相の権限が強大になり、対策本部長は「指定行政機関、関係する地方公共団体及び関係する指定公共機関が実施する対処措置に関する総合調整を行うことができる」「内閣総理大臣は……総合調整に基づく所要の措置がが実施されないときは……当該地方公共団体又は指定公共機関が実施すべき対処措置を実施し、又は実施させることができる」と規定された。 内閣総理大臣は「総合調整」と「指示」ができ、さらにそれを受け入れない場合には「自ら実施」あるいは「実施させる」という強大な強制力を持つことになる。武力攻撃事態にあっては実質的に憲法が停止されることになる。
 
I反戦・有事法制阻止・改憲阻止の運動の展望

 市民や労働運動の高揚の過程と世論の動きに加えて、政府・与党の政治的腐敗と失策の連続、法案そのもののいい加減さがあり、百五十四国会の会期末を迎える現在もこの有事三法制案の審議の展望は開けていない。
 社民党と共産党は廃案要求の姿勢を鮮明にし、自由党はこの法案を不十分だと批判して対案を発表し、民主党はこの法案の廃案で党内の意志統一をした。野党各党の立場は異なるが、とりあえず「現在の有事法制案に反対」では足並みをそろえた。
 NHKが六月上旬に行なった世論調査によると「小泉内閣を支持しない」が五二%と過半数になったこととあわせて、有事法制を「今国会で成立させるべきだ」はわずか八%にすぎなかった。「今国会にこだわらず十分審議すべきだ」が七〇%、「廃案」が十七%で、あわせて八九%が今国会成立に反対とした。
 小泉内閣の政局対応は手詰まりになりつつあり、窮地に追い込まれた。いま与党が狙っているのは法案の継続審議だ。継続審議では、九月末にも召集が予測される秋の臨時国会で野党の一部を取り込んでの強行採択もあり得るわけだ。私たちはなんとしても有事三法案の廃案を勝ちとる必要がある。
 百五十四国会で有事法制の強行採決は必至かと言われた年頭の情勢から見れば、それを阻止しつつある現状は民衆運動側の重大な前進と見なければならない。五月二四日、六月十六日の大集会を頂点として、全国各地で実にさまざまな運動が展開された。このような重要法案を阻止しつつある闘いの展開は、日本の民衆運動史上、久々のことだ。私たちはこのことに確信を持たなくてはならない。あきらめれば敗北は不可避だが、闘えば勝利する可能性が開ける。この確信を胸に、私たちは有事法制反対の運動をさらに継続し、拡大しなくてはならない。
 この間の運動の広範な展開と高揚を可能にしたのは幅広い共同の運動の形成にある。統一した闘いが人びとを励まし、さらに大きな行動に立ち上がらせるのだ。運動の自覚的な部分はこのことに自らのエネルギーを注がなくてはならない。立ち止まらずにさらに創造的、重層的、多彩な共同行動を実現しよう。その推進のための強固な力を形成しよう。

 有事法制を廃案へ!


 有事法制批判の視点をゆたかにするために いくつかの本とパンフの紹介

『ある日、突然!あなたも戦争に参加させられる』
 
 テロにも報復戦争にも反対!市民緊急行動編
 B5版四頁 頒価一〇円 03(3221)4668

 法案の国会上程に先立ち、市民運動グループがいち早くその本質を暴露した。写真や図が豊富に配置されている。署名簿を持ちながら携帯するのに便利。

『「有事法制」あなたも戦争に動員される』
 
 筑紫健彦著 
 新社会文化出版会
 A5版九六頁 七百円 03(3551)3980
 筆者は新社会党の副書記長で、市民運動の活動家。後半部分は「法案」と戦前の「国家総動員法」および「三矢研究」の資料の抜粋、労組や自治体の決議などが掲載されている。

『有事法制総検証ー歴史と現在』

 池田五律ほか
 派兵チェック編集委員会
 B5版六〇頁 五百円 03(3368)3110
 有事法制阻止の運動の中で作られたパンフ。池田が「有事法制の歴史」「有事三法案の解説と批判ー有事三法案の相互関係」を担当し、木元茂夫が「ブッシュ政権の国益至上主義路線とPKO法の改悪」、山本英夫が「参戦を押し進めた『テロ対策特別措置法』等三法案批判」を書いている。

『有事法制はいらない・有事法制に関するQ&A』


 社民党「有事法制を許さない本部」
 A5版三二頁 三五〇円 03(3580)1171
 豊富なカットと資料、及びQ&A方式で、一般に読みやすく配慮している。

『有事法制のすべてー戦争国家への道』

 自由法曹団
 A5版二三八頁 千五百円 
 新日本出版社 03(3423)8402
 法案の全体敵な批判とQ&A式の解説に加えて、弁護士団体の作成らしく法案の逐条批判が掲載され、三部構成になっている。

『有事法制か平和憲法かー私たちの意思が問われている』

 梅田正巳著
 A5版百二十八頁 八百円
 高文研 03(3295)3415
 「憲法の平和主義は最大の危機に立たされている」との危機感から、出版社の代表自らがかきあげた、比較的わかりやすい解説書。巻末に有事三法案の全文が掲載されている。



資 料

    戦争に食料と土地・水は渡さない 百姓宣言

 農業ジャーナリストの大野和興さんの呼びかけで「百姓宣言」が発表された。五月六日呼びかけで五月二四日の第一次集約時までに約五百人の賛同が集まった。呼びかけでは「ご無沙汰しています。そういっている間にも、時代が逆回転しているのを感じます。特にいま国会に上程されている有事法制は見逃せません。……賛同者は代々百姓、新百姓、兼業百姓、日曜百姓など、土地を耕している人、山を守っている人、その土地からとれたものを加工している人、ということに限りたいと思います。また一家おひとりではなく、できるだけ大勢の家族の方に参加してほしいと思います」と訴えている。 (編集部)


 武力攻撃事態法案など有事法制三法案が国会に出されました。「まさかのときの備え」と政府は説明していますが、条文をよく読むと、戦争を遂行するための法律であることがわかります。この法律が成立すると、「武力攻撃が予測される事態」というあいまいな状況のもとで、自衛隊が迎撃体制に入り、必要な土地や家屋の接収といった財産権の制限や必要物資、運輸、通信などの提供を市民や民間企業に義務付け、強制することができるようになります。また、自治体は自衛隊出動に関しあらゆる面で協力義務を負うことになります。それは、戦前、国家が総力をあげて戦争体制を構築するために制定した国家総動員法の現代版であるといえます。
 しかも、武力攻撃事態の中にはいわゆる「周辺事態」がふくまれます。一九九八年に制定された周辺事態法は、日本の周辺で戦争が起こるかもしれないという想定のもとに、自衛隊の米軍後方支援を定めた法律です。「周辺事態」での主役は米軍です。したがって「有事」かどうかを判断するのも米軍であり、そのもとで日本は米軍の行動を国を挙げて協力することになります。

 では、こうした有事法制が成立したら、百姓にとって何が起こるのか。
 第一に、「有事」出動した米軍や自衛隊が陣地や塹壕を作ったり、作戦展開を
する際に必要となる土地や立木、家屋を提供しなければなりません。その場合は、土地収用法や森林法、土地区画整理法などは停止され、法律より米軍や自衛隊の必要が優先します。ここが敵を迎え撃つ戦略拠点として最適と判断されたら、収穫を目前に控えた果樹園も野菜畑も水田も、容赦なく接収され掘り返されることになるのです。
 第二に、米軍や自衛隊は必要な物資の使用あるいは収容を自由にできることになります。食料は真っ先に必要となる物資です。コメ、野菜、食肉など重要食料は移動禁止となって勝手に売買できなくなり、安い統制価格で政府に供出しなければならなくなるでしょう。朝鮮戦争が勃発した一九五〇年(昭和二五年)、麦の供出割当が集落に下りてきて、それを拒否した神奈川県中津村に米兵が警官や県職員とと
もに現れ、カービン銃を突きつけて供出を迫ったという歴史があります。決して戦前の話ではないのです。
 第三点は農業生産そのものへの統制です。国家総動員法のもとで当時の百姓は主要作物への作付け強制と「不要不急」作物の作付け制限を経験しました。一九四三年(昭和一八年)、青森県ではリンゴ園一〇〇〇町歩の伐採が勧奨され、水田の草取り前にリンゴの袋かけをした同県船沢村の農民約三〇人が検挙されるという事件
がありました。桑園の桑も抜かれ、花農家は非国民と呼ばれました。いま日本の食料自給率はカロリー換算で四〇%、穀物自給率は二八%です。もし「有事」となれば、すべてをイモ畑にして、家畜は殺せ、という「協力」要請が百姓に下りてくることは十分想定できます。

 かつて多くの百姓が兵士として戦場に狩り出されました。たくさんの死者を出し、アジアの人々に計り知れない惨禍を強いました。銃後農村では百姓としての作る自由、売る自由を奪われ、農の荒廃が広がりました。こうした歴史を持つ私たちは、有事法制という名の戦争法を見逃すことはできません。また、自然の営みに沿って生命を育む農業は、本当の意味で平和のなりわいです。戦争は自然を、生命を、種を破壊します。生命の尊厳への挑戦なのです。こうした思いを込めて、私たちは同法制の制定に反対し、百姓として戦争のために食料を、土地を、水を提供しないことを宣言します。

二〇〇二年五月二四日
事務局・連絡先 大野和興/西沢江美子 
〒三六八―〇〇二三
埼玉県秩父市大宮五七三四―四
tel/fax〇四九四(二五)四七八一、四七八二
Email:afec@jca.apc.org


複眼単眼

    
米国で深まる大統領の疑惑 9・11とは何だったのか?

 いまアメリカで重大な疑惑が渦巻いている。
 米中央情報局(CIA)も、米連邦捜査局(FBI)も、そしてブッシュ大統領までもが、昨年の9・11以前に航空機ハイジャックの情報を事前に得ており、その警告を封印していたのではないかという疑惑だ。
 こうした疑惑は事件発生直後からさまざまな形で指摘されてきたことだ。そうしたもののひとつは本紙十一月十五日号で紹介した、アフガニスタン出身者で、現米大統領補佐官ザルメー・カリザットの「ならず者の統合」と題する論文で、それは米国のアフガニスタン攻撃を予告するものだった。テロ事件のあるなしに関わらずアメリカがアフガニスタン支配の野望をもっていることをしめしたものだ。またアフガニスタンにたいする石油パイプラインの敷設が、ブッシュと結託するアメリカ石油大資本の願望であることの指摘もされている。
 報道によると、昨年八月六日、ブッシュは休暇先のテキサスの牧場でCIAから「ウサマ・ビンラディンの支援組織アルカイダが米航空機のハイジャックを狙っている」という報告を受けていたという。そして、この事実を最近まで封印し、明らかにしなかったことがいっそう政府への疑惑を深めることになった。
 五月二一日にFBIのミネアポリス支部捜査官コリーン・ローリーがFBI長官モラーに送付した「十三ページに及ぶ内部告発書簡」も問題になっている。昨年八月にビンラディンの関係者を逮捕したのに、FBIの本部がその捜査を故意に妨害したというのだ。
 七月十日にはFBIのフェニックス支部の捜査官が「ビンラディン氏が米国の航空学校でテロリストを飛行訓練している疑いがあるので、中東出身の生徒の捜査を行なうように」と、FBI本部にメモを送付しているという。
 CIAは9・11事件の実行犯と言われるうちの二人は、事件の一年八ヵ月前の段階で国際テロ組織のメンバーで米国内で生活していると特定していながら、FBIに連絡せず、放置していたことも暴露されている。
 さらにニューヨークの事件で活動したレスキュー部隊は、連邦緊急事態管理局(FEMA)から出動を命じられたのは前日の夜だったなどという奇怪な「事実」までもが報道されている。
 こうなると、どれが真実かは容易にはわからない。私たちは捜査できるわけではないから、これらの情報を私たちの世界観、歴史観に基づいて分析し、情報の真偽を見分ける必要がある。
 アメリカ政府が一方的に流した情報を、いちいち真に受けてそれを政策化する小泉政権はまったく危うい。日本政府などはCIAにとっては情報操作による作戦の容易な対象にすぎないだろうということだ。(T)


夏期カンパの訴え

 
労働者社会主義同盟中央常任委員会

読者のみなさん!
 小泉内閣はこの国会で有事法制の制定をねらい、さまざまに画策しましたが、民衆の運動と世論の変化の中で今期の成立は断念する方向に追い込まれました。これはひとまずの勝利でした。
 しかしアメリカのブッシュ政権の「悪の枢軸」発言、「先制軍事攻撃正当化」発言など、戦争の危険が迫っている中で、政府・与党はなんとしても平和憲法を空洞化させ、戦争法システムを打ちたてようとしています。有事法制の廃案をめざす闘いはいよいよ正念場です。
 私たちは闘いの手をゆるめず、さらに反戦平和、憲法改悪阻止の闘いを前進させなくてはなりません。同時に、この戦争システムづくりとあわせて進む労働者・人民の権利の抑圧や生活破壊の攻撃も絶対に許せません。
 私どもはこの間、全国の労働者・市民のみなさんとともに焦眉の課題を全力で闘いながら、同時にこれらの闘いのなかで、社会主義の理論と運動を再生するための努力をつづけてきました。同盟は今後とも、一層広範な人びととの共同の戦線を作るために奮闘する決意です。
 読者の皆さんにわが同盟とともに闘うよう訴えます。あわせて、その活動資金確保のための夏季カンパと、機関紙「人民新報」の購読を訴えます。

二〇〇二年夏