人民新報 ・ 第1065号<統合158> (2002年7月15日)
  
                                目次

● 超監視国家への道、住基ネット稼動反対 ウシは一〇ケタ ヒトは十一ケタ

● 有事三法、今国会継続審議から 臨時国会強行への策動許すな

● ILOから是正勧告されている日本の女性賃金差別 ILO平等・雇用部トーマスさん招きシンポジウム

● 資料 / 弁護士報酬の敗訴者負担制度導入はやめて下さい

● W杯閉会式への天皇出席、天皇訪欧に反対!

● 深刻化する雇用・失業情勢 事態を悪化させる大企業の儲け主義と小泉「改革」

● ILO総会が「協同組合の促進」勧告採択

● 資料 / 陸上自衛隊による、迷彩戦闘服着用での定期便搭乗に抗議する《声明》

● 映画  「この素晴らしき世界」 <ナチス支配下の町の平凡な庶民の抵抗>

● 複眼単眼 / ワールドカップ「宴のあと」 ナショナリズム考




超監視国家への道、住基ネット稼動反対

              
ウシは一〇ケタ ヒトは十一ケタ

 この間、国会で問題になってきた「個人情報保護法制」の問題と合わせて、八月五日から住民基本台帳ネットワーク(国民総背番号制)が本格稼働する予定になっている。この「住基ネット」によってすべての「日本国民」に十一桁(ケタ)の番号が割り振られ、それによって行政による住民の管理が始まる。来年八月からは住民に対するICカードの配布もはじめられる。このICカードがさまざまな情報管理・監視システムと結びつけば、個人の生活は丸裸にされ、超監視国家は現実のものとなると言われている。
 人間に固有番号をつけて管理するという非人間的な問題と合わせて、この間、住基ネットにはシステム、セキュリティ、コストパフォーマンスなど、具体的な運用の面からも多くの問題が指摘されている。多くの自治体の現場からは「準備が間に合わない」という声もあげられている。準備不足や技術的な問題から住基ネットにさきの「みずほ銀行」と同じような問題が発生する危険性も指摘されている。
 これに反対する市民団体は「ウシは10ケタ、ヒトは11ケタ、キミにもボクにも背番号」というキャッチコピーを作って宣伝活動を強め、集会やデモを行なっている。
 さきにBSE(牛海綿状脳症)緊急対策として導入された「家畜固体識別システム」では、すべての牛に十ケタの識別番号が割り振られる。いま全ての日本人が(従来から政府は在日外国人などを背番号で管理してきた)牛と同様に番号で識別され、「情報」という名のオリの中に閉じこめられ、管理されようとしている。しかし法案への疑問と反対は自民党など与党の中にも広がっており、今後の闘いによっては延期・廃案も可能になった。

 七月十日正午から午後一時まで、衆議院第二議員会館第一会議室に約一〇〇名の国会議員と市民が集まって、「住基ネット8月5日実施を許さない7・ 院内集会」が開かれた。
 集会はプライバシー・アクションの白石孝さんの司会ですすめられ、各党の国会議員や自治体議員などからつぎつぎに発言があり、七月二十日に予定されている「住基ネット8月5日実施を許さない大集会・パレード」を成功させようとの確認がされた。

 「小渕元首相は個人情報保護法制と住基法はセットだと確約していた。包括個人情報保護法制が成立しないかぎり、住基法の稼働は許されない。当初、九三の業務が対象と言われていたことも、いまなしくずしに二五〇にまで拡大されようとしている。いま超党派で、八月五日稼働を延期させるための法案を準備している」(共産・春名議員)
 「もともとセットですすめるという確認をねじまげ、メディア規制法などの悪法を準備している。これらの動きは国家に対して従順な人とそうでない人を分類して管理しようとするものだ」(社民・大島議員)
 「これは利権でコンピュータを導入する動きではないか。個人情報の保護が前提という小渕答弁というものがあるのに無視している。政治家の発言が軽くなっている」(民主・中村議員)
 「個人情報はコンピュータには入れないという世界の流れに逆行してる。そして民間に使わせようとする。番号の通知は世帯ごとにするなど時代遅れだ。廃案をめざして、当面、自民党内の部分とも連携して延期させたい」(民主・河村議員)
 これらの発言が相次いだあと、自治体でも決議をあげたり、国分寺市長が「住基ネットは問題が多い」と発言したことなど、各地の動きが報告された。 戸籍問題を研究している佐藤文明さんが「こういう問題を全国一律に何かするということ自体がおかしい。住基ネットに最初に疑問の声をあげたのは土佐の四万十川の近くの村だった。いま東京の多摩地区の自治体が相次いで抗議の声をあげている。土佐と多摩、まるでかつての自由民権運動のようだ。住基ネットの動きはもともとは島根の出雲市で朝鮮半島有事に備えて、島根県民カードを作ろうとしたことに端を発している危険な動きだ。明治の自由民権運動は必ずしも勝利したとは言えないが、今回の自由民権運動をぜひ勝利させたい」と発言した。


有事三法、今国会継続審議から 臨時国会強行への策動許すな

 第一五四国会に提出された有事関連三法案は、実質一ヵ月ぶりに再開された七月三日の衆議院武力攻撃事態対処特別委員会の審議を経ても今後の国会審議の見通しは立っていない。与党はすでに衆議院での審議時間が六五時間を超えた、審議は相当に進んだとしており、特別委員会での採決の可能性も構えに入れている。
 与党三党は今国会では衆議院採決を行なわずに、有事三法案を次期国会への継続審議とする方向で合意したと報道されているが、最終的にどのようなパターンで継続にするかは確定していない。
 議会野党第一党の民主党は次期国会での「法案の出直し」を主張しつつ、党内で有事法制全般についての論点整理を行い、今国会中に見解を取りまとめるとしている。いまのところ「国会の場以外での与党側との修正協議をする発想にはない」(岡田政調会長)としているが、同党は九月下旬に党首選挙があり、この動向も影響するのは避けられない。
 一方、政府与党側は六月末の「中国ミサイル日本近海発射」情報さわぎ(のちに米軍の誤報と発表)、中国の排他的経済水域に沈没させられたいわゆる不審船引き揚げ騒ぎなど、つぎつぎと有事法制成立に有利な条件づくりをすすめている。
 与党三党はいま有事三法案の行方を野党民主党との協議にかけている。民主党の多数派もまたこの国会では「廃案」を主張しているものの、有事法制は必要だという立場を崩していない。
 これらが秋の臨時国会における与野党の駆け引きとなる。議会内の与野党の動向だけを見れば有事三法案採択の危険性はきわめて大きい。
肝心なことは、この国会で「廃案」を求める運動と世論の動向が野党の動揺を阻止し、三法採択強行を許さなかったことだ。この教訓をしっかりと堅持し、気を緩めずに法案廃案の闘いを前進させることが必要になっている。


ILOから是正勧告されている日本の女性賃金差別

              
 ILO平等・雇用部トーマスさん招きシンポジウム

 七月四日、東京都ウィメンズプラザでILO平等・雇用部のコンスタンス・トーマスさんを迎えてシンポジウムが開催された。
 当日は仕事を終えた働く女性を中心にホールは埋まり、時間いっぱいまで熱心な質疑が続けられた。 シンポジウムのテーマは「ILOから是正勧告されている 日本の女性賃金差別!」。主催は「均等待遇アクション二〇〇三」で「日本ILO協会」が後援した。
「均等待遇アクション二〇〇三」は、「パート、派遣、契約社員、女と男、仕事が違っても同じ価値なら同じ賃金を」を掲げ、昨年六月発足した。以来、均等待遇をもとめて請願署名や全国キャラバン、ILOへのロビー活動やオランダ調査、さらに法制化に向けて活発な活動を続けてきた。今回のシンポジウムも活動の一環で、名古屋市などで連続して企画している。
 シンポジウムの前に昨年の秋に行ったウィーンにあるILOにロビー活動をしたビデオの上映があった。少しトーンが暗いビデオだが、世界各地からILOに来ている人びとのなかで、「均等待遇二〇〇三」の大代表団が、日本の女性労働の状況を訴えるロビー活動の雰囲気をイメージとしてふくらませることができた。
 主催者からは、今回の講演者を日本に呼ぼうとしたが、多忙なために実現が難しかったこと、しかし来日の機会ができたために実現したシンポであることなどが紹介された。
 ILO平等・雇用部セクションチーフのコンスタンス・トーマスさんは「男女の賃金差別をなくすために」として講演した。米国籍のトーマスさんだが、平等問題についての調査や専門的助言などの豊富な経験を感じさせ、昨年秋のロビー活動の時にも直接応じていただけに、参加者の表情を見ながらユーモアのある報告をした。
はじめにILOは各国や企業にたいし、勧告や是正の方法を提示するというやり方で活動していることを紹介したあと、ILO一〇〇号と一一一号条約を中心に講演した。
 以下にトーマスさんの講演の要旨を掲載する。

 一〇〇号条約は「同一価値労働」に同一報酬を与える条約で日本も批准してる。適用の範囲は、すべての労働者に、すべての報酬要素に適用される。報酬の範囲は、基本賃金の外にすべての付加給与――接待費、有給休暇、制服やパソコンなど支給される現物にも及ぶ。
 「同一価値」を決定するためには分析的な職務評価が望ましい。職務内容の評価は責任、技能のほかに、どのような努力を費やすかも含まれる。職務評価の際にジェンダー・バイアスを避けるには、ジェンダー平等を職務評価のひとつの目的にすることが必要だ。
 例えば能力といった時に肉体的な力だけではなく、精神的、感情的な力も評価の対象になる。女性が大多数を占める産業や職業を調査して、パート労働が低賃金であったなら間接差別であると訴えることが妥当だ。
 一一一号条約は、間接差別禁止の条約で、人種・皮膚の色・国民的出身・社会的出身・宗教・政治的見解・性によっての雇用差別を禁止している。日本は批准していない。ILO加盟の一七五か国のうち批准していないのは一九にすぎず、先進国では日本だけになっている。一一一号で例外的事項の中には特別な保護・援助の措置がある。例えば母性保護で、平等を実現することであり、女性の権利として位置づけられる。
 一五六号条約は家族的責任を持つ労働者の条約だ。子ども、老親、病気、障害をもつ家族のいる労働者に機会と待遇の均等を確立する目的をもつ。日本でも以前に比べ出産後の就労が高くなっているが、子育ての経験はマネージメントスキルとして生きる例は多い。
 パートタイムのための特別条例は一七五号条約だ。日本は批准していないが、均等待遇にむけての指針となりうる。

 講演の後、会場からたくさんの質問や事例が出され、具体的な応答がつづいた。
 また国立病院などに働く職員の労働組合である全医労から、労働条件の切下げ、非正規職員や中高年女性への嫌がらせ、家族をバラバラに配転するなどの攻撃が続くなか、ILOへの提訴したとの報告があった。
 シンポには国会議員も参加した。
 吉川春子議員は、「パートタイム労働者等の均等処遇を実現する議員連盟」が衆参議員五四名で四月三日に発足したことと、七月一日には「パートタイム労働研究会『最終報告』への意見書を」提出したなどの活動を報告した。


  資料 ・ 弁護士報酬の敗訴者負担制度導入はやめて下さい

 私たちは、弁護士報酬の敗訴者負担制度導入に反対という一点で行動を共にする市民・市民団体の連絡組織です。多くの市民、幅広い領域の市民団体が、それぞれの立場から訴訟制度に関心をもち、今般の司法制度改革を見ってまいりました。そして、弁護土報酬の敗訴者負抑制度導入については、市民にとって看過できない司法制度の「改悪」であるとの共通認識に達しています。
 これまで、多くの市民が個人的な裁判利用者となった体験から、また少なからぬ市民団休が自ら関与した訴訟の経験から、もっと市民に身近で利用しやすい裁判所・裁判制度の実現を願っています。今回の司法制度改革審議会の意見書も、理念としてそのことを掲げています。しかし、弁護十報酬の敗訴者負担制度導入は、この市民の願いに逆行し、市民を裁判所から遠ざけるものにほかなりません。いま必要な司法制度改革の方向は、くの市民に裁判所へのアクセスを確保することです。明らかにこれと逆行する制度の導入は到底理解できません。
 多くの市民の上述の認識の基礎には、現行の訴訟制度や判決内容に対する不満や批判があります。司法の現状は、市民感覚から見て勝つべき事件が順当に勝つものとは言い難く、正当な提訴においても必ずしも事前の勝訴予測は容易ではありません。多くの提訴について重大な萎縮効果が牛じることは明らかです。判決の勝敗を超えて社会灼な問題点を指摘し、企業や行政のあり方を変えてきた貴重な「政策形成訴訟」も姿を消すことになりかねません。
 また、損害賠償請求訴訟では事実上の被告側の片而的な敗訴者負担制度が定着している現在、この制度導入は、明らかに損害賠償訴訟の被告となる企業・医療機関・国側に利益を、被害者である市民側に不利益をもたらします。市民的正義が訴訟に反映されているとの信頼感を欠く現状で、市民側敗訴者に相手方弁護士報酬を負担させる合理性があるとは到底考えられません。司法制疫改革審議会意見書の理念を正しく把握して提訴萎縮効果を回避しようとするならば、敗訴者負担制度の導入を断念するほかはないと考えます。
 多くの市民・市民団体の声に耳を傾けていただき、本来司法によって守られるべき市民の権利が、誤った制度制疫設計によって侵害されることのないよう、弁護士報酬の敗訴者負担制度導入は回避されますよう強く要望申しあげます。
  二〇〇二年七月三日
  司法制度改革推進本部 本部長 小泉純一郎殿 事務局長 山崎潮殿 司法アクセス検討会委員各位

  弁護土報酬の敗訴者負担に反対する全国連絡会議 代表 清水誠 同 清水鳩子 同 甲斐道太郎


W杯閉会式への天皇出席、天皇訪欧に反対!

 サッカーの日韓共催のワールドカップの最終日にあたる六月三〇日午後、渋谷区内で「W杯閉会式への天皇出席、天皇訪欧に反対!六・三〇集会とデモ」が行なわれ、約一〇〇名の人びとが参加した。
 集会を主催したのは日本基督教団靖国・天皇問題情報センターなどによる「W杯・天皇訪欧を問い、天皇制の戦争責任をを追及する共同行動」。
 韓国で行なわれたワールドカップ開会式には、小泉首相とともに皇族の高円宮が出席した。横浜で行なわれる閉会式には金大中大統領が出席し、天皇と並ぶ。そして七月からは天皇がチェコ、ポーランド、オーストリア、ハンガリーを訪問する。
 これは憲法違反の「皇室外交」の継続・強化だ。
 これに反対する声は決して大きくないが、それだからこそ、この日の集会とデモは重要な意義を持つものだった。
 冒頭に報告にたった実行委員会の代表は、マスコミが総動員されて盛り上げていったW杯で、天皇制と日の丸が公然と大規模に礼賛され、あおられたこと。とりわけNHKがその先頭にたっていたこと。各国サポーターのシャツなどは、グローバル企業が作成し、売り込んだもので、それが地域のナショナリズムをあおりたてるという構図に注目すべきであること。いわゆるフーリガンに対する厳戒体制のもとで、「一見さわやかな、成熟したナショナリズム」が演出されたことなどを指摘し、ひきつづき天皇の東ヨーロッパ訪問を暴露する運動の重要性について報告した。
 天皇の訪欧に関連して、東欧史研究者の水谷驍さんは、東欧の現史について解説した。
 運動体からのアピールでは埼玉と神奈川の日の丸・君が代の強制に反対する市民団体などが行い、つづいて「許すな憲法改悪・市民連絡会」は、この日から七月末まで始まる自衛隊の北方機動演習に際して、陸上自衛官が迷彩服姿で民間機に搭乗・移動する予定があることへの抗議を呼びかけた。
 渋谷の繁華街のデモのあと、解散集会では「日韓民衆連帯全国ネットワーク」と「日本の参戦を許さない実行委員会」からのアピールがあった。


深刻化する雇用・失業情勢

      
事態を悪化させる大企業の儲け主義と小泉「改革」

 完全失業率は再び過去最悪(五・五%)を越える勢いである。小泉内閣は「景気は底入れした」とか「改革を進めれば雇用が増える」などと言っているが、経済と労働者を取り巻く情勢は一段と厳しいものとなってきている。小泉内閣の発言は虚勢にすぎない。アメリカ経済はこれまでのバブル状況が崩壊し、アメリカから経済不況を促進させる波が世界に広がっている。
 総務省「労働力調査」や厚生労働省「労働経済白書」などの政府の発表資料も雇用・失業の状況がきわめて深刻なものとなっていることを告白している。いま、失業問題は慢性化し、社会的な不安が高まっている。
 ヨーロッパの労働組合は資本の攻勢に反撃を開始した。韓国の労働者の闘いも粘り強くつづけられている。日本の労働者ももう黙ってはいられない時だ。自らの生活を守るために闘いに立ち上がらなければならない。

五月の完全失業率五・四%

 六月二十八日、総務省は五月の労働力調査を発表した。それによると、完全失業率は前月より〇・二ポイント悪化して五・四%となった(この数字は過去最悪だった昨年十二月の五・五%に再び近づくものとなっている)。とくに女性では五・三%となり過去最悪を記録して、男性の五・五%との差が縮まった。
 完全失業者数は三七五万人で、うち男性が二二四万人、女性が一五一万人。これはで前月と同水準だが、前年同月比では二七万人増加した(十四カ月連続の増加)。
 就業者数は六三五六万人(男三七四三万人、女二六一三万人)。前年同月比では十四カ月連続の減少となった。この一年間に、就業者のうち雇われている人(雇用者)は九三万人減の五三二〇人(前年比九カ月連続の減少)だが、企業規模別で見ると従業員五〇〇人以上の企業で一〇一万人も減少したが、それ以下の規模では合計七万人減と、圧倒的に大きい企業での雇用減が目立っている。現在の失業をつくり出しているのは大企業なのだということがわかる。

有効求人倍率〇・五三

 応募する労働者にたいする企業の側の求人は、全国平均で〇・五三倍となっており、二人が職を求めても一人にしか仕事がない。また地域によって大きな格差が存在する。東京の〇・七〇に対して、北海道、東北、関西、四国、九州では五割を割り込む府県が多い。とくに沖縄では〇・二八という状況である。
 また新規求人は、十カ月連続の減少で一年前より〇・〇二ポイント減っている。
 産業別では、「サービス業」(六・三%増)、「卸売業・小売業、飲食店」(一・五%増)に対し、「建設業」(一一・五%減)、「製造業」(七・二%)、「運輸通信業」(五・〇%減)となっている。

長期失業者一〇年で四倍


 七月九日、厚生労働省は二〇〇二年版の「労働経済の分析」(労働経済白書)を発表した。
 長期失業者数は一九九一年二月に二十四万人だったが、二〇〇一年八月には九十二万人へと約四倍となった。
 今年の白書は、長期失業と若年失業を重点的に取り上げている。年代別の失業率では、一五〜二四歳が九・九%で最も高く、次いで六〇〜六四歳が七・八%となっている。長期失業者のうち男性は七割を占めるが、三十四歳以下の若年層と五十五歳以上の高齢者をあわせると全体の六五%となる。しかし、失業者の中の長期失業者(失業期間一年以上)の割合は、六〇〜六四歳で三一・七%となっているのに対して、一五〜二四歳は一七・八%で最も低く、高年齢者ほど再就職が難しい実態が浮かび上がってきている。
 若年者では九一年の七万人から〇一年の三十八万人と五倍を越える大幅増加となっているが、これを厚労省は「失業率自体が高く、意に沿わない就職を避ける傾向があることも一因」と分析し若年層自身の態度が問題だとしている。高齢者では、求人が減っている(求人倍率は九二年の〇・二九倍から〇・一五倍に)ことのほか、「求職者の就職への緊要度も低い場合が多い」ことをあげこれも労働者の側に問題があるとしている。

「労使の安定帯」の危機

 日本経済新聞は、白書の発表をうけて一〇日の社説「不安増す失業問題の慢性化」で「労働経済白書は、企業の人員削減策の大半を、不況の長期化による業績悪化に対処するためのコスト削減策と分析している。事業構造改革の狙いや雇用戦略の転換に伴うものは少ないという。もしこの通りなら縮小均衡に向かう恐れががある」と日本経済の先行きに大きな危惧を示した。
 目先の利益のためだけの大企業の行動と市場万能の新自由主義による小泉経済改革があいまって、失業時代をより悲惨なものとしている。この中でかつて日本資本主義が誇った「労使の安定帯」(労働者の企業への統合)が崩壊しはじめている。労働者は、事態を認識し、企業に人生を預け従属した「会社人間」から脱却する自覚が求められている。


ILO総会が「協同組合の促進」勧告採択

 ILO(国際労働機関)の年次総会(ジュネーブ)が、六月二十日に終了した。
十七日間の総会では、児童労働や協同組合の問題、公務員の労働基本権などが論議された。
総会では「協同組合の促進」に関する勧告が採択された。これまでILOは一九六六年に協同組合についての勧告をだしたが、それは発展途上国に適用を限定していた。
 今回の総会の勧告は、それに替えて、「自助・自己責任・民主・平等・公正及び連帯」という協同組合の価値を積極的に評価し、各国政府が支援政策と法的枠組みを定めて、それを実施すべきだとして、雇用創出や社会福祉の向上につなげるために、すべての国に対して協同組合を促進するよう求めている。


資料

 陸上自衛隊による、迷彩戦闘服着用での定期便搭乗に抗議する《声明》


 本紙前号が報道したように陸自北方特別機動演習における迷彩服着用の民間機使用に関して、航空労組連絡会などの抗議につづいて一一〇にのぼる市民団体が抗議声明を出した。それらの運動を踏まえた航空労組連絡会の再度の声明を掲載する。(編集部)

 七月五日から七日にかけて、陸上自衛官約八〇名が、日航、日本エアシステムの東京から北海道への定期便に、迷彩戦闘服を着用のまま搭乗するという事態が発生しました。
 私たちは、これを中止するよう、七月二日防衛庁に文書をもって直接要請を行いました。一二〇を超える市民団体なども同様に中止を求め、航空会杜も旅客への配慮から服装の変更をお願いしましたが、防衛庁はこれを受け入れず、「迷彩服搭乗」を強行しました。防衛庁は「民間航空機を利用しての移動も訓練(機動訓練)である」として、迷彩服での搭乗計画を変更しませんでした。これは明らかに、民間航空の軍事利用です。
 民間航空を使った「機動訓練」は、一九九九年五月の周辺事態法成立以降、毎年強行されています。一九九九年六月における三〇〇名の「機動訓練」、翌二〇〇〇年六月にける七〇名余の「機動訓練」、二〇〇一年六〜八月の約八〇〇の「機動訓練」がそれです。そのほかにも、一九九七年六月、在日米軍が全日空機をチャーターして、二度にわたって海兵隊員約七〇名と武器類を輸送した事件、一九九九年一一月、ホノルルの米陸軍兵士約三〇〇名が、成田、羽田を経由して、ホノルル―新千歳を往復した事件、二〇〇〇年八月に防衛施設庁が、日航、全日、日本エアシステムに対して、「米軍輪送資格」取得の申請を求めた事件など、米軍による日本の民間航空利用と、その拡大の動きもありました。
 これらはすべて、日米安保新ガイドラインの合意、それに基づく周辺事態法成立、そして有事法制の成立を予定して、地ならし的に行っているものです。民間航空の軍事利用は、重大な安全問題であり、国際民間航空条約、航空法に明らかに違反する行為ですが、有事関連法案が成立すれば、軍事利用への協力が事実上義務付けられます。私たち航空労働者は、民間航空の軍事利用には絶対に反対であるとの立場から、有事関連法案の成立に反対します。そして、陸上自衛官の迷彩戦闘服着用での民間航空利用に強く抗議するとともに、今月に予定されている帰路便の迷彩戦闘服着用搭乗を中止するよう引き統き求めることを表明いたします。

二〇〇二年七月八日

                              航空労組運絡会


映画 

   
「この素晴らしき世界」
                     ナチス支配下の町の平凡な庶民の抵抗


          2000年チェコ映画 2時間3分 
             2000年度アカデミー賞最優秀作品賞ノミネート
                2000年バンクーバー国際映画祭観客賞


   監督・ヤン・フジェベイク / 原作・脚本 ベトル・ヤルホフスキー(同名単行本・集英社刊)

   キャスト ・ ヨゼフ・チージェク……ボレスラフ・ボリーフ / カマリエ・チーシュコヴァー……アンナ・シィシュコヴァー
           ほか。

                                            

 当初、「この素晴らしき世界」というタイトルが、なんだか極楽トンボそのものみたいで、この映画を観にいく意欲を削がれていたが、広告をよく見るとそうでもないかも知れないと思いなおし、観ることにした。
 黒沼ユリ子の解説によるとこの映画のチェコ語によるオリジナルタイトルは「我々は助け合わねばならない」で、英語版のタイトルは「分裂すれば我々は倒れる」なのだそうだ。チェコ語、英語のタイトルのほうがこの映画にピッタリだと思いつつ、映画を観おわったあとは、日本語のタイトルもなかなかいいかなと思えるようになった。
 有事三法案を許さない闘いのなかで、戦争についてくり返し考えた。「民間防衛」など民衆を戦争に駆り立てるシステムが具体化されようとしていることから、そのイメージもいろいろと想像してみたこともある。戦争への民衆の非暴力抵抗闘争の在り方などについても議論する機会もあった。そのような「日常」の中で、あえて時間をつくって鑑賞した映画は思ったよりも面白かった。
 この映画は第二次大戦末期、ナチスドイツに占領されたチェコの田舎町が舞台。強制収容所から、かつて住んでいたこの町に逃亡してきたひとりのユダヤ人青年(ダヴィド)をかくまう平凡な夫婦(ヨゼフとマリエ)の物語だ。妻は宗教を信じているが、夫は確固とした思想的確信や宗教的信念があるわけではない。

 二人は絶えずナチスのカゲにおびえながら、味方のはずの町の人びと(シマーチェクら)をもあざむき、ナチスのシンパの友人(ホルスト)の疑惑追及もかわし、迷い、悩み、苦しみ、夫婦の諍(いさか)いも起しながらも、幾度も到来する危機を乗り越え、この青年を匿(かくま)いつづけるという物語だ。
 この映画では主人公のヨゼフをはじめとして英雄はいない。「我々は助け合わねばならない」の原タイトルが示すように敵らしい敵もほとんどいない。捜索にくるドイツ軍は横暴だが、町に君臨したドイツ将校すら、息子が戦場で軍隊を逃亡して解任される哀れな存在だ。ナチスシンパのホルストも嫌味な男だが、町の人を裏切りきれず、しばしばナチスの手から人びとを助ける。逆に、解放の日、入ってきたソ連軍とともに行動する、町のレジスタンスの代表のシマーチェクには、実はダヴィドが逃亡してきた時にナチスに引き渡そうとした暗い過去がある。それでもみんな「我々の仲間だ」というテーマとなる。
 そしてこの映画でもっ とも衝撃的なことは、ナチスの追及をかわすためにウソをついた「マリエの妊娠」問題をどのように切りぬけるかだった。ヨセフは子どもができない体質なのだ。
 映画はこれらの深刻な問題も、少しの涙とほほ笑みとを添えてさわやかに描いていく。最後に登場する赤ちゃんがすばらしい。瓦礫の町を乳母車を押してヨゼフが歩く。人びとは復興にむけて瓦礫を片付けている。ヨゼフは空を見ながら、丸々したお尻の赤ちゃんを抱きあげる。

 物 語

 一九三七年、ヨゼフとダヴィドとホルストはじゃれ合いながらドライブをしている。
 一九四一年、「ゲットーは安全らしい」といいながら、ユダヤ人たちがハーケンクロイツの旗がひるがえる町からつれられていく。
 一九四三年、暗闇の街に傷ついたダヴィドが収容所から逃亡してくる。遭遇したシマーチェクは助けを求めるダヴィドを「見つかれば住民もみな殺しになる」とナチスに 通報しようとする。
 隠れたダヴィドに声をかけられ、アパートに連れ帰ったヨゼフ。ヨゼフの着衣は緊張のあまりチビッて濡れている。

 ヨゼフ「もはや安全な場所はない。ナチ協力者や密告者がウヨウヨいる。異常な時代は普通の人を狂気に駆り立てる。豚どもめ!」

 翌日、ダヴィドはヨゼフに連れられて、町外れで落ち合う約束の友に会いに行くが、友は来ない。結局、ヨゼフのアパートに戻る。
 ヨゼフたちの町の人びとは戦争が始まる前に、何かが始まる予感がして、どこの家でも隠し部屋をつくっていた。その部屋にダヴィドをかくまうことになる。

 ヨゼフ「自分が巻き込まれるとは思わなかった。このまま済むと思うか。覚悟したはずなのにまだ震えている」
 マリエ「彼を追い出しても同じことよ。最初の角で捕まって、ここにいたことがバレ、報告しなかった罰を受けるのよ。密告する気?」
 ヨゼフ「よしてくれ。ボクを責めるのか?」
 マリエ「責めてないわ。私たちに子どもがいなくてよかった」
 ヨゼフ「そう思うよ」

 マリエに横恋慕しているホルストはひんぱんにヨゼフの家を訪れる。そのうちに「誰かがいるらしい」ことに気づいていく。ヨゼフは疑惑を晴らすためにもホルストに誘われるままに、ナチスの司令官に協力する。接収された館に通うヨセフに、街の人びとの視線が痛いほどに突きささる。
 この司令官が息子が軍隊を逃亡して解任された。館を追い出され意気消沈して、ヨゼフの家に置いてくれと言ってくる。ダヴィドの件がバレるのを恐れたマリエはとっさに「オメデタなの」とウソをついて断る。
 ほっとしたのも束の間、ホルストに調べられるにちがいないと気づいて夫婦はおののく。案の定、ホルストがおどしにかかる。ヨゼフは「僕らは絞首刑だ。逃れる方法はたったひとつ、妊娠することだ。唯一の希望はダヴィドだ」とマリエに告げる。懸命に拒絶するマリエ。「生きるか死ぬかの問題だぞ」とヨゼフは 哀しい説得をする。
 マリエは妊娠した。
 やがて銃を持ったナチスの兵士たちが街の捜索を開始する。容赦ない摘発だ。ヨゼフの家のドアもたたかれる。
 意を決したホルストが飛び出し「ハイル・ヒトラー。ここは捜索完了だ」と叫び、助ける。
 とうとう連合軍が町に入ってきた。旗のハーケンクロイツのマークをはいで、赤旗にして走り回る子どもたち。
 お産が近くなったマリエのために、ヨゼフは連合軍の司令部に医者の紹介を頼みにいく。そこでシマーチェクにナチスへの協力を指摘されたヨゼフは「ユダヤ人の脱走者を匿っていたからだ。いちばん用心したのは同じチェコ人だった」と告げる。ダヴィドがそれを証明する。
 ホルストが捕まった。ヨゼフとダヴィドが助ける。「彼はぼくが隠れているのも知っていて、薬や食料を運んでくれた」とダヴィド。
 元気なこどもが生まれる。赤ん坊を抱き、ヨゼフに寄り添うマリエを町の人びとや連合軍の兵士がほほえんで見ている。(S) 


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 ワールドカップ「宴のあと」 ナショナリズム考

 W杯の一ヵ月は長かった。
 私はスポーツは一般に好きな方で、サッカーも結構、観るほうだと自認している。今回は自粛したようだが、選手では中田ヒデなどは大好きだ。私の試合の観戦の仕方はあらかじめどちらか応援するチームを決める。今回も日本チームを応援した時もあるし、トルコを応援した時もある。しかし、実際、これでもか、これでもかとばかりにマスコミを通じて飛び込んでくる報道に食傷していた。
 終わってからしばらく経ったが、巷ではいまだに「W杯が残したもの」などについてのさまざまな議論がある。それらの議論のテーマのひとつはナショナリズム論争だ。これは議論に値する問題だ。
 今回、多くの日本の青年たちがソウルなどを訪れ、W杯観戦を楽しんだ。それを「草の根交流の日韓新時代だ」と大きく評価するむきもあった。しかし、このお祭り騒ぎの中で、多くの日本の若者たちは日韓の「歴史」を学ばないままに「友人」になった。しかし、「歴史を学ぶこと」と「友人になること」のどちらが後先になるとしても、宴の後も友人でありつづけようとすれば必ず「歴史問題」にぶちあたることだけは確かだ。
 「日の丸」の乱舞を見ても「スポーツなのだから、そんな批判はするな」という人もいる。頬に「日の丸」のペインティングをした若者たちは、たしかにそれを単なる応援団の「マーク」として使ったのかも知れない。その「マーク」がどんな歴史的意味を持っているかなどとは考えなかったに違いない。かつて国会議員の日韓交流試合に出た共産党の穀田議員も、そのユニホームの「日の丸」を問われて「これは単なるマークですよ」と言ったことがある。
しかし、それで済むわけがない。こうした交流の積み重ねによって日韓の歴史問題がおのずと解決するわけでもない。いや、そうやってあいまいにされることの方が、いずれ災いを大きくする。
 石原慎太郎をはじめ、右翼ナショナリストは「日の丸」の波と「ニッポン」のコールに興奮したという。自民党の某議員はトサカ頭の戸田君に「国を背負って競技している選手が何事か」と文句をつけた。今回のW杯騒ぎの中で、こうした偏狭な愛国主義が幅をきかせたことは見逃せない。
 そして「ニッポン」と「テーハンミングッ」をコールする日韓の若者たちの興奮の渦のなかで、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の人びとが脅威を感じたであろうこともまた間違いないことだ。なにしろ「戦争をやってでも拉致された日本人を取り返せ」と呼号する現役の都知事がいる国交もない日本と、まだ「終戦」ならぬ「休戦」にしかなっていない戦争当事者の韓国での騒ぎなのだ。
 そうした中、「中国対コスタリカ」「日本対ベルギー」「韓国対ポーランド」とアジア諸国が同時出場する六月四日に、代々木公園で「歴史認識のためのW杯共同観戦デー」という企画があり、千人の若者が参加した。「歴史教育アジアネットワークJAPAN」に参加する若者たちの企画だ。大型スクリーンを設置して、試合の合間には主催者のアピールや「歴史のことも忘れないで」というCMを流したり、サムルノリを踊ったりして歴史問題をファンと一緒に考えたのだ。呼びかけた一人の若者は「歴史を考える多様なルートをいかにつくるかも大切だ」と語った。
 「サッカーワールド杯反対」などと言わなくてもいい。しかし、W杯の喧騒の陰にたくさんの危険な問題があることを、とりわけそれが一段落したいま、若者たちと一緒に考える必要がある。
 ところでW杯を招致した人びとのねらいに「経済効果」があったことは知られている。大会会場になった宮城などが巨大な施設の建設に走っただけでなく、練習のキャンプに設定された自治体も、またその誘致に努力し、選に漏れた自治体もそれぞれ巨額の資金を投下した。大分県中津江村はさておいて、宴のあと、人びとはそのツケの大きさに呻吟している。そのカゲでゼネコンはにんまりとしている。(T)