人民新報 ・ 第1070号<統合163号> (2002年9月5日)
目次
● ブッシュはイラク攻撃をするな!自衛隊は参戦するな!戦争協力のための日米首脳会談反対!
● 国家公務員労働者への賃下げ攻撃を打ち破れ
● 改憲阻止の大きな統一戦線を 8・15 「平和の集い」 (茨城・土浦)
● ピースサイクル
反戦を訴えて一七年目の夏 (大阪)
反戦運動の正念場、継続は力を再確認 (静岡)
● 国の責任回避は不当だ 七三一部隊訴訟東京地裁判決 劉連仁損害賠償請求東京高裁第二回弁論
● 政府あての有事法案に関する国立市長の質問書と政府回答B 有事法案に関する市長質問書の回答 (2)
● バブル崩壊につづく「双子の赤字」 再膨張で危機に立つ米国経済
● 図書紹介
「中国が戦争を始める―その代価をめぐって」(米陸軍大学戦略研究所)
「イラクとアメリカ」(酒井啓子著)
● 複眼単眼 / 黙殺されたアフガン難民 タヒリさんの自死
ブッシュはイラク攻撃をするな!自衛隊は参戦するな!
戦争協力のための日米首脳会談反対!
アメリカのブッシュ政権の戦争政策は、歴代米国政権すら踏み込まなかったような危険な路線であり、すでに常軌を外れた暴走の様相を帯びている。とりわけ「悪の枢軸」批判と対イラク戦争準備の状況は、そのユニラテラリズム(単独行動主義)の極に達している。
八月十五日に議会に提出された「国防報告」は、イラク政権の転覆と、先制攻撃の必要性を強調し、核兵器の使用も辞さないと宣言した。そして米国の同盟国や中東諸国が参加しなくとも、単独でも攻撃すると言い、それは「テロとの戦い」であり、正義の戦いだとしている。
九月九日からの小泉訪米と日米首脳会談を控えて、八月二七日、二八日の両日、ブッシュ政権のアーミテージ国務副長官が来日し、次官級の「日米戦略対話」初会合に出席するのと合わせて、小泉首相をはじめ政府、防衛庁や与党幹部たちと相次いで会談して米国の立場を説明し、協力を要請した。
二六日にはチェイニー副大統領が米国内で「イラクが核武装する前に軍事行動を起し、サダム・フセイン政権を打倒すべきだ。行動しないことの危険は、行動に伴う危険よりもはるかに大きい」などと述べた。
二七日にはラムズフェルド国防長官が「米国が正しい判断をしたら、他の諸国もこれに協調し、参加すべきだ」として、各国から起こっているイラク攻撃反対の声に反論した。
こうしてブッシュ政権の担当者は相次いでイラク攻撃の正当性を主張し、世論工作を展開しながら戦争の準備に取りかかっている。
米軍のアフガン攻撃にたいして、「ショー・ザ・フラッグ」という自衛隊の参戦を要求する言葉を吐いたことがあるアーミテージの来日も、こうした米政権の戦争準備の一環だ。
彼は「ブッシュ大統領はまだ何も決めてないが、いずれ決定を下す。日米同盟の重要性にかんがみて、十分協議し、対応を決めてほしい」などと要求した。そして「(イラク攻撃に反対している)ドイツのようにならないでほしい」とか、「(イラク攻撃には)現在ある国連安保理決議で十分だ」とのべ、「(ブッシュが決断した時には)きわめて説得力がある説明を日本などの同盟国に行なう」と発言した。そしてあろうことか、歴代日本政府が憲法違反として禁じてきた「集団的自衛権の行使」について、「行使は国連加盟国として原則ではないか」と恫喝まで行なった。
これにたいして中谷元防衛庁長官が「『テロ特措法』の延長で考えられる問題であれば協力の可能性がある」と対応したことは許しがたいことだ。これはイギリスのブレア政権をのぞくほとんどの国が米国のイラク攻撃に反対し、米国内からも慎重論が沸き起こり、日本国内でも歴代首相経験者などからさえ「慎重論」がでているなかで、防衛庁長官が「戦争協力」を明言したのだ。
「『テロ特措法』の延長で考えられれば」などというのは条件にすらならない。アーミテージは「テロを取りのぞくための米国の行動に協力せよ」と主張している。まさに中谷は自衛隊が米軍のアフガン戦争に給油など兵たんの面で参戦しているように、現行法の範囲でも米軍のイラク戦争に参戦できると表明したのだ。山崎拓・自民党幹事長をはじめ与党三党の幹部らが「米国の単独攻撃には反対すべきだ」「攻撃には国連決議が必要だ」などと、消極論とみまがう意見を表明したが、これは額面通りにはうけとれない。
今回の次官級会談でも日米両当局者は「イラクは核査察を含めてすべての国連決議を受け入れなければならない」「イラク攻撃には国際社会と連帯することが重要」などの点で合意したと言っている。
「国連決議と査察」に関するイラクの立場はこの四年間、変わっていない。二九日の朝日新聞の社説は「四年も事実上放置しながら、いまさら停戦決議違反だといって新たな安保理決議なしに攻撃をかけることは、相当に無理がある」と指摘した。「無理がある」というような問題かどうかはさておき、この意見はアメリカのダブル・スタンダードの欺瞞を突いている。
アフガンでの戦争はつづいている。内戦も収まる気配はない。米軍などのイラク爆撃も湾岸戦争以来、ずっとつづいている。パレスチナでのイスラエルの攻撃もつづいている。アフガンで、パレスチナで、子どもたちをはじめ多くの犠牲者が相次いでいる。
これに加えて人口五〇〇万人のイラクの首都バクダットを灰燼に落としめるようなジェノサイドを断じて許さない。小泉政権がいかなる形によってもこの米軍の戦争に加担するのを許さない。
有事法制阻止、イラク攻撃阻止の課題はこの秋から年末にかけての重大な課題になった。
国家公務員労働者への賃下げ攻撃を打ち破れ
人事院のマイナス勧告
国家公務員へのリストラ合理化攻撃が強まっている。
二〇〇二年の人事院勧告は、人事院による給与勧告制度創設以来の初の「マイナス勧告」となった。八月八日、人事院は、非現業の一般職国家公務員の給与改定に関する勧告・報告を内閣と国会に対して行なった。それは、官民の較差が官の方が高くなっているとして、俸給表のすべての級について二・〇三%の引下げ、引き下げは四月にさかのぼって実施、一時金の「〇・〇五月」削減などを内容としている。勧告の対象は、国会、自衛隊などの特別職公務員を除く約四八万人だが、しかし影響は大きいものとなる。
勧告が完全実施されるとすると、昨年に比べて平均約一五万円の引き下げとなるといわれる。
人事院のこうした賃下げ勧告は、小泉構造改革が労働者に犠牲をしわ寄せするかたちでおこなわれていることを示している。人事院制度は、公務員労働者がストライキ権など労働基本権を奪われたのと引換えの「代償機関」としてつくられたのであるが、今回のマイナス勧告は、その役割を自ら否定するものとなった。この間、小泉内閣やそのお先棒を担ぐ右派マスコミは、公務員の賃金は高すぎるというキャンペーンを展開してきたが、こうした「圧力」に人事院が「屈服」したのである。
人事院は「多数の事業所において、ベアの中止やペースダウン、定昇の停止、賃金カットなどの抑制措置を行っていることが明かとなった」ことを理由に「労働基本権制約の代償措置としての機能は、民間の給与水準が下がる場合も同様に働くべきもの」として「マイナス勧告」を説明している。とんでもないことだ。
現業公務員の「賃金紛争」
また郵政、林野、印刷、造幣四国営企業の現業国家公務員の賃金問題も泥沼状態となっている。八月二日、各国営企業労働組合が、中央労働委員会に申請していた賃金紛争に関する調停が「調停不調」となり中断された。
各当局側は、「(日本経団連による民間賃金動向によると)賃上げ率は大手企業において一・五九%、中小企業において一・二七%という状況にある。これは、国営企業職員の定昇率一・九三%を下回っており、本年度の賃金水準については、この程度引き下げる必要がある」と主張し、労組側はこれに反発していた。中労委の「調停不調」の判断と職務の投げだしは、国営企業労働者の紛争を解決するべき中労委の公正・中立な仲裁機関としての役割を放棄したものといえよう。労組側は九月に入って新しい態勢でこの問題に取り組むとしている。
全労働者の団結で反撃を
これらの公務員労働者に対する賃下げ攻撃は、民間労働者の賃金低下→公務員労働者の賃金低下→そしてまた民間労働者の賃下げ→公務員労働者の賃下げという、賃下げの連鎖を狙うものである。しかし、資本・政府にとっての目先の利益は、労働者の生活を破壊するだけでなく、日本経済を一層、泥沼の不況停滞に引きずり込むものとなるだろう。
民間労働者はスト権などが保障されることによって、賃金・労働条件などを改善できるが、公務員労働者の場合はそうはいかない。だから民間労働者に準拠する賃金・労働条件を人事院の勧告という形で確保してきたのである。今回の人事院と中労委の対応は、公務員労働者が労働三権を許されないかわりにこれらの機関が機能する制度を、政府の側が否定してきたということだ。
だから、この制度を無視することは、政府のスト権剥奪の根拠が無くなることである。政府・資本の攻撃は、官民を問わず多くの労働者に賃下げ・失業をもたらすものとなっている。
いまこそ、全ての労働者は団結して闘うときである。
改憲阻止の大きな統一戦線を
8・15 「平和の集い」 (茨城・土浦)
日本は二度と戦争を起こさないと誓って五七年目の八月一五日、恒例の「平和の集い」が茨城県土浦市で開催され、市民約四〇人が参加しました。
土浦市議会議員の井坂正典さんの司会で、最初に共催団体挨拶。平和・人権・環境を守るネットワーク500事務局長の坂本繁雄さんは、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と国交を結んでいない国が、イスラエルとアメリカと日本など非常に限られている中で、アジアの平和と安定のために、一刻も早く日朝国交を正常化するよう、強く訴えました。
次に、憲法を生かす会・茨城代表の矢田部理さんが現在の改憲の動きについて触れ、かつての「押しつけ憲法論」から「国際貢献論」に変化し、自衛隊の海外派兵が焦点になり、九条改憲による集団的自衛権の認知を迫っている、その背景には、自由競争と個人責任を絶対化する新自由主義の思想があり、米国の世界戦略と日本企業のグローバル化などがあると述べました。
続いて「有事法制と米国の世界戦略」と題して、軍事問題研究家の澤村武生さんが以下のように講演しました。
八月一五日を「終戦記念日」というが、日本は戦争に敗れたという真実から目を逸らすな。また、日本が敗北を認め、正式に降伏文書に調印したのは九月二日である。戦争が正式に終るのは講和条約締結によってであり、まだ講和条約が結ばれていない国がある。日本国憲法に「非常事態」規定がないことを欠陥のように言う向きもあるが、これは戦争放棄した平和憲法として当然のことであり、むしろ誇るべきことである。吉田茂元首相は「たとえ自衛のためでも戦争はしない」と言ったが、小泉首相はまさに戦争をするために、憲法にこの「非常事態」規定を入れようとしているのだ。「武力攻撃事態法案」はまだ廃案となったのではない。「武力攻撃が予測される事態」とうのは自衛隊法にもない規定で、この規定で徴発や徴用をするには自衛隊法違犯。もちろん憲法違反だ。「有事法制」の本当のネライは、国家総動員体制=戦争体制の確立であり、ブッシュの世界戦略に軍事的に日本を縛りつける事にしかならない。アメリカはイラクに必ず侵攻する。アメリカは史上最大の経済危機にあり、秋には中間選挙がある。ブッシュは親子二代続いてイラクに侵攻することになる。そして湾岸戦争のときのドイツの役割(アメリカ軍兵力一三万、車両五万両の輸送の七割を担当)を日本に押しつけようとしている。
それではどうすればよいのか。憲法を守るための統一戦線をつくることだ。まず小泉政権を倒すために、「小異を残して大同に就く」、「我が仏尊し」ではなく「他人の仏も尊し」とすることだ。(茨城通信員)
反戦を訴えて一七年目の夏
大阪ピースサイクル
一七年目を迎えた大阪ピースサイクルは、「有事法制反対!」「非核三原則の法制化を」スローガンに、中学生から中年のおじさんまで参加し、8・6ヒロシマをめざしました。
七月三一日、京都ピースサイクルから引き継ぎをうけた大阪ピースサイクルは、八月一日、大阪市役所前を出発しました。
いつものように西宮市役所で兵庫ピースサイクルと合流し、昼の休憩場所である神戸の三宮をめざします。
途中、去年も冷たいお茶で受け入れてくれた方々の激励をうけました。
大阪ピースサイクルの初日のこのコースは、交通量が多く、市街地を走行するため疲れるコースでもあります。ようやく一日目の宿泊場所である「ふれあいの郷生石」に到着し、一日目を終えました。
二日日、六時に起床し、六時三〇分に宿泊場所を出発します。ピースサイクルの朝は早いために朝食を取らずに出発し、途中のコンビニで朝食をとります。ピースサイクルが始まったころはコンビニがなく、コンビニを基準に走行のスケジュールを立てていたのが懐かしく思います。
二日目のこのコースは、瀬戸内海の自然を満喫できる最高のコースです。
市街地を離れ、交通量が少なくなり、海が見えてきます。それと同時に上り下りの峠道になります。
三つの峠を越え、岡山県の県境を越えれば宿泊場所の日生に到着です。
ここで兵庫ピースサイクルとはお別れするのですが、大阪から週末を利用して参加した五人の仲間が合流し、ピースサイクルを盛り上げました。
三日目は、岡山県南ルートと合流し、広島県の福山をめざします。このコースは、ひたすら国道二号線を走るもので排気ガスとの闘いでもありました。予定どおり夕方には福山に到着し、岡山の県北のルートもここで合流しました。
四日目は、岡山県南・県北の仲間と呉をめざします。
このコースは、尾道や三原をぬけて呉に至るコースで、海岸線沿いを走ります。風がなければ瀬戸内海を満喫することができるいいコースです。
五日目は、ようやくヒロシマヘ到着です。走行距離三〇q、二回の休憩をとり、正午のドーム前での到着集会に参加します。今年は、広島から長崎へ被爆地をつないだ八八年から一五周年ということで、広島の仲間による長崎への走行がおこなわれていることもあり、自転車の数が少なく寂しいものとなりました。そして、午後からは新しくなった原爆資料館と新しくできた国立原爆死没者追悼平和祈念館を見学し、核兵器廃絶と戦争反対への決意を新たにしました。
八月六日は八時一五分、原爆ドームでダイ・インを行い、グランド・ゼロの集いに参加し、大阪に帰りました。
大阪ピースサイクルは走ることがメインであり、ただひたすら走行に徹します。苦しい峠では自分と闘い、仲間と励まし合い、苦労を共にします。人をつなぐピースサイクルの原点です。
また、大阪ピースサイクルは、昨年に続き八月一五日に北摂の自治体を訪問し、「戦争協力反対」「非核三原則の法制化」「住基ネットの中止」などを請願し、大阪比花区で開催された「第
回アジア・太平洋地城の戦争犠牲者に思いを馳せ、心に刻む集会」に参加しました。
有事法制との闘いはこれからです。夏につなげた全国のピースサイクルネットワークをさらに発展させ、秋の闘いにむけて準備を始めよう! (ポストマン 西の)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
反戦運動の正念場、継続は力を再確認
静岡ピースサイクル
七月二十五日、ピースサイクル静岡は、浜松市役所と航空自衛隊浜松航空基地へ申し入れ行動を行った。この地方自治体や自衛隊基地への要請行動は、全国のピースサイクル運動と同様に一〇年以上継続している。
浜松市役所では当初三〇分で予定していた要請行動が、住基ネットの質問・意見に集中して、一時間三〇分をオーバーしてしまい、浜松基地への要請行動も迫っていたため、後日、市役所から文書による回答をしてもらうことになる。
浜松基地では、今年五月のグアムでの日米共向訓で、浜松基地のAWACSが単独で米軍機を管制指揮するまでになっている状況を、要請書で説明しながら申入れを行う。またAWACSはワールドカップ開催中は、テロ対策警備を名目に全国のサッカー競技場の上空を飛んで実戦訓練を行っている。
今年の静岡ピースの参加者は減少傾向だったが、反戦・平和運動はこれからが正念場であり、『継続は力』を再確認して、有事法制を廃案に追い込むまで闘おう。
(静岡通信員)
国の責任回避は不当だ
七三一部隊訴訟東京地裁判決 劉連仁損害賠償請求東京高裁第二回弁論
八月二八日午後一時半から東京地裁で開かれた七三一部隊訴訟判決は、司法として初めて「七三一部隊による細菌戦でペストやコレラにり患し、多数の死者がでた」など非人道的な歴史的事実として確認したが、「個人が相手国に直接、賠償請求はできない」などとした。この裁判は日本の中国侵略戦争当時、旧日本軍の「七三一部隊」による細菌兵器の被害を受けた中国の被害者十一人と遺族ら計百八十人が、日本政府に謝罪と賠償を求めていたもの。法廷は傍聴希望者が多く、抽選となった。
判決のあと、原告らは「事実を認定しながら、賠償をしなくていいというのは矛盾だ」「正義を取り戻すために最後まで闘いつづける。私が死んだら息子がいる。息子が死んだら孫がいる」などと闘いの決意を表明した。原告たちは控訴して争う方針だ。
つづいて同日午後三時半から、中国人労働者強制連行・強制労働の劉連仁損害賠償請求裁判の第二回弁論が、東京高等裁判所一〇一号法廷で開かれ、劉連仁さんの子息の劉煥新さんをはじめ、弁護団や支援の傍聴者らが駆けつけ、傍
聴席を埋め尽くした。
この日の法廷では劉煥新さんの意見陳述と弁護団の森田弁護士による準備書面の要旨説明が行なわれた。この日の原告側の論述の中心問題は「国家無答責」という国と裁判所の論理への反論だった。
劉煥新さんは「一審は父が十三年間の北海道の山中での生活を余儀なくされたことに対して、日本政府が父を保護しなかった責任を認めた点で意義があった。
しかし、一審判決で理解しがたく、憤りを感じる点は、日本政府が父を強制連行し、奴隷労働を課した事実を認めながら、戦前の行為なので、その事実についての責任はないと不問に付している点です。戦前は日本国がどんな違法な行為をしても責任を負わないという『国家無答責の法理』という原則があったというが、人情、人間性、人権はどこへいったのか」と厳しく批判した。
そして「父は第一審の判決を見ることなく他界したが、父が国の責任が認められなかったと知ったら、激怒するに違いない。父はこの裁判で日本政府に強制連行と強制労働についての責任を認めさせようとしていた。そのために父は、父とともに強制連呼された人びとの代表として裁判を闘っていた。この責任を認めないような裁判は不正義の裁判だ」と述べた。
閉廷のあと近くの弁護士会館で開かれた報告会には五〇名ほどの支援者や関係者が集まった。
中国では劉連仁さんの一審の判決や、四月二六日の「強制連行・強制労働事件福岡訴訟」の勝利を契機に、この問題への関心が急速に高まり、国営TVなども特番を組んでいる。
報告集会で劉煥新さんは「国が事実を認めても責任を認めない、法律はなくても原則があったというのは、どういうことだろうか。いま中国では当時、強制連行された労働者たちがぞくぞくと名乗りをあげ、そうした人びとの全国的な連盟が結成されようとしている。劉連仁はその代名詞だ。仲間の人びとのためにも闘い続けたい」と決意を述べた。
次回公判は十一月二六日(火)午後三時半から東京高等裁判所一〇一号法廷で行なわれる。
政府あての有事法案に関する国立市長の質問書と政府回答B
有事法案に関する市長質問書の回答 (2)
本紙は前々号で東京都国立市の上原公子市長の政府に対する「有事法制」についての質問書、前号で政府からの「回答」(六月二一日)の前半部を掲載した。今号はその後半部を掲載する。市長の再質問書は次号に掲載予定。
(編集部)
三、「指定公共機関」について
法案第二条第五号において、指定公共機関は、「独立行政法人、日本銀行、日本赤十字社、日本放送協会その他の公共的機関及び電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、政令で定めるもの」と定義されている。
ここでいう「公共的機関」とはその業務自体が公共的活動を目的とする機関をいい、「公益的事業を営む法人」とはその業務目的は営利目的等であるが、その業務が公衆の日常生活に密接な関係を有する法人をいうものと解している。
法案第六条において、「指定公共機関は、国及び地方公共団体その他の機関と相互に協力し、武力攻撃事態への対処に関し、その業務について、必要な措置を実施する責務を有する」ものと定められている。また、指定公共機関が実施する対処措置については、法案第二条第六号において、「法律の規定に基づいて実施する」ものと定められている。
実際にいかなる機関を指定公共機関として政令で指定するかについては、今後、まず、個別の法制において、指定公共機関に実施を求めることが必要となる対処措置の内容を具体的に定めた上で、個別の法制が定める事項ごとに当該機関の業務の公益性の度合いや、武力攻撃事態への対処との関連性などを踏まえ、当該機関の意見も聴きつつ、総合的に判断することとなる。
したがって、今後整備される個別の法制においては、指定公共機関に実施を求めることが必要となる対処措置の具体的な内容が法定されることから、指定の対象となる公共機関の範囲も明らかになるものと考えている。
放送事業者については、警報等の緊急情報の伝達のために指定公共機関として指定することを考えている。民間放送事業者が指定される可能性はあるが、現時点では、日本放送協会(NHK)を主として考えている。また、新聞については、警報等の緊急情報の伝達の役割を担うことは一般には考えにくい。
四、「地方公共団体の責務」等について
@ 地方公共団体が実施する措置について
武力攻撃事態において、我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全確保を図るためには、国、地方公共団体及び指定公共機関が、国民の協力を得つつ、相互に連携し、万全の措置を講じていく必要がある.
このため、法案においては、国、地方公共団体などの責務や、国と地方公共団体と役割分担について規定した。今後、この枠組みの下、具体的な役割分担を定め、国と地方公共団体が相互に連携・協力し、それぞれの役割を果たしていくこととなる。
なお、都道府県は、広域の地方公共団体であることから、地域における対処措置の総合的な推進や市町村や公共的団体との連絡調整について、市町村は、住民に最も身近な基礎的地方公共団体であることから、住民の安全確保や保護のための措置の実施について、一定の役割を担っていただくことになるものと考えている。
A 対策本部長の「総合調整」について
武力攻撃事態においては、国、地方公共団体及び地方公共機関が実施する対処措置は、相互に調和して迅速かつ的確に実施される必要がある。
このため、それぞれの機関が実施する対処措置について、何らかの調整を図る必要が生じた場合においては、対策本部長が総合調整を行うことができることとしたものである。
法案第十四条第二項においては、地方公共団体の長等は、対策本部長が行う総合調整に関し、対策本部長に対して意見を申し出ることができる旨規定している。
地方公共団体の長等の意見を総合調整に反映させる仕組みについては、例えば、対策本部が総合調整の検討に入った時点で速やかに地方公共団体の長等に通知し、適時に意見の申出ができるようにすることや、地方公共団体の長等から意見の申出があった場合に、これを対策本部の議題として直ちに議論することなどが考えられるが、具体的には、今後、国民の保護のための法制の整備において検討してまいりたい。
B 内閣総理大臣の「指示」等について
武力攻撃事態においては、国及び国民の安全を確保するため国全体として万全の措置が講じられなければならず、不備が生じた場合には、内閣総理大臣による「指示」等によって的確かつ迅速な対応を図ることが必要と考えている。
内閣総理大臣の「指示」とは、国民の生命、身体の保護等のために特に必要がある場合に、別に法律で定めるところにより、地方公共団体等に対して、所要の措置を実施すべきことを指示することができるとするものである。地方公共団体等には、この指示に従う法律上の義務が生ずる。
なお、この「指示」等については、本法案によって内閣総理大臣に対して包括的に権限が与えられるものではなく、個々の法律においてその要件等を具体的に定めた上で実施できることとなるものである。武力攻撃事態という状況下においては、万全の措置を担保するこうした仕組みが必要であり、地方自治の観点からも問題はないと考えている。
また、武力攻撃事態においては、地方公共団体も住民の生命、身体、財産を保護する観点から、国の方針に基づいて必要な措置を実施することが期待される。
C 地方公共団体の理解と協力について
武力攻撃事態という国及び国民の安全にとって最も緊急かつ重大な事態への対処に当たっては、国民の保護等のために、地方公共団体の役割は重要であると考えており、また、一定の役割を担っていただけるものと期待している。
五、「事態対処法制の整備」について
@ ジュネーヴ諸条約について
法案第二一条第二項の「国際人道法」とは、人道的観点から武力紛争において遵守すべき国際法規範であり、具体的には、傷病者や捕虜等の戦争犠牲者の保護に関する一九四九年八月一二日のジュネーヴ諸条約等を指すものである。
ジュネーヴ諸条約に追加される第一議定書及び第二議定書は、既にジュネーヴ諸条約と並んで国際人道法の主要な条約と位置付けられていることから、これらについては、加入する方向で検討を行っていきたいと考えている。
なお、ジュネーヴ諸条約第一追加議定書において特別の保護を受ける地域として規定されれている「無防備地域」について、その宣言は、当該地域の防衛に責任を有する当局、すなわち我が国においては、国において行われるべきものであり、地方公共団体がこの条約の「無防備地域」の宣言を行うことはできないものである。
A 今後の事態対処法制の整備について
国民の保護のための法制や、自衝隊や米軍の行動の円滑化に関する法制の整備については、法案に示された枠組みの下で、整備の方針や項目を示しつつ、包括的に実施していくこととしている。
政府としては、かかる法制の重要性にかんがみ、関係機関の意見のほか、国民的議論の動向を踏まえながら、十分な国民の理解を得られるような仕組 みを作る必要があると考えており、今後法案の定める目標期間内にこれらの法案の取りまとめに全力で取り組む所存である。
六、「自衛隊法改正案について」
@ 「展開予定地域」の範囲について
「展開予定地域」の具体的な地理的範囲については、相手国部隊の侵攻形態や規模等により変化し得るものであるが、展開予定地域においては、自衛隊の部隊等が防御施設を構築することができるだけでなく、防衛出動下令前に土地の使用及び武器の使用が可能となることから、当該地域は必要最小限の範囲とされるべきは当然と考えている。
また、「防御施設」とは、陣地その他の防御のための施設をいうが、「陣地」以外の施設としては、陣地と一体となって戦闘行動のため使用される施設を考えており、指揮所や物資集積所等が考えられる。
A 特例措置等と憲法との関係について
今般の自衛隊法等改正法案における各種の特例措置等については、我が国が武力攻撃を受けているような事態において、国民の生命や財産を守るために行動する自衛隊の任務遂行上必要なものであり、また、公共の福祉を確保するための必要最小限のものとして、憲法上許容される範囲内のものであると考えている。
なお、政府としては、従来より、我が国が自衛のための必要最小限度の実力を保持することは、憲法第九条の禁止するところではなく、自衛隊は、我が国を防衛するための必要最小限度の実力組織であるから憲法に違反するものでないと考えている。
B 土地使用等に対する補償について
土地の使用や物資の収用等に対する補償については、改正自衛隊法案第一〇三条第一〇項において、都道府県(第一項ただし書の場合にあっては国)が、当該処分により通常生ずべき損失を補償する旨規定されている。なお、これに必要な費用については、同条第一九項により国庫において負担することとされている。
C 保管命令等に係る罰則について
今回の法改正による罰則は、例えば、保管命令に違反して当該保管物資を隠匿、毀棄又は搬出するように、実際に外部に現れた行為を処罰するためのものであり、個々人の内心の自由に制約を加えるものではなく、憲法第一九条の規定により保障されている「思想及び良心の自由」に違反するものではなと考えている。
D 業務従事命令について
業務従事命令は自衛隊の行動にかかる地域以外の地域で内閣総理大臣が告示して定める地域において命ぜられるものであり、当該地域は、自衛隊の行動に係る地域に近接している、あるいは、周辺の地域であることから、外国で実施するような業務従事命令は想定されない。
また、業務従事者に行って頂く業務は、医療、土木建築工事又は輸送を業とする者が、保有する資格又は専門的技能を有効に活用することができる業務で、通常行っている業務と同様のものである。
業務従事命令における業務従事者の業務は、当該事業者の専門的な知識・経験や能力を用い、能動的かつ主体的に行って頂くものであり、我が国が武力攻撃を受けているような事態においては、自発的かつ積極的に協力して頂けるものと考えており、仮に、罰則をもって強制的に業務に従事させたとしても、十分な命令の効果が期待できず、場合によっては自衛隊の任務遂行に支障を及ぼしかねないと考えている。(つづく)
バブル崩壊につづく「双子の赤字」 再膨張で危機に立つ米国経済
「米国の繁栄」と賞賛され、一九九〇年代以降の世界資本主義経済を牽引してきたアメリカ経済のバブルが崩壊し、さらに加えてアメリカ経済の業病ともいうべき「双子の赤字」の危機が進むなど、米国経済の危機が深まっている。
いわゆる米国売り(ドル安、株安)が進んでいる。ニューヨークのダウ平均株価は一九九八年一〇月以来の七八〇〇ドルをも割って、三月のピークと比べて二九%の下落であり、史上最高値を記録した二〇〇〇年三月と比べれば四七%、実に半値近くになってしまった。
九〇年代、米国が世界に喧伝した「ニューエコノミー・モデル」とグローバリゼーションはいよいよデッドロックに乗り上げたかの観がある。
「ニューエコノミー・モデル」では「IT革命」と、「株価至上主義」を基礎とする企業統治が推進力とされてきた。
しかし、「IT革命」による成長は過剰な設備投資のもとで進められたものであり、すでに調整期に入った。ハイテク各社の業績下方修正は予想以上と言われ、インテル、AMD、アップルなどの決算発表によって株価は下落した。
「株価至上主義」はエンロンやワールドコム、アンダーセン会計事務所の破綻などにみられる企業会計スキャンダルを誘発していたことも露呈した。これらの不正会計、不正監査、調査報告書の改ざんによる株価操作、企業トップの特権の乱用などなどは、企業倫理や情報公開などの米国企業社会の信用を失墜させた。
一方、米国主導の「グローバリゼーション」は南北の矛盾を激化させ、アメリカン・スタンダードとこれへの世界的規模での抵抗を招いた。アルゼンチンやブラジルなど、いまラテンアメリカは深刻な金融危機に見舞われ、アメリカ経済を脅かしている。
そこへ「双子の赤字」が再膨張してきたのだ。
アメリカは恒常的な経常収支の赤字国であり、かつ世界最大の債務国だ。この米国の「弱い」はずのドルの世界の基軸通貨としての役割を維持してきたのが大量の日本資本の米国流入だ。八五年に日本が世界最大の債権国となり、アメリカは世界最大の債務国となった。このアメリカの「弱いドル」を債権大国日本の資本がささえてきた。
かつてレーガン政権は大型減税や軍需産業振興などによる「レーガノミクス」によって景気浮揚に成功したかにみえたが、結果は「双子の赤字」だった。いまその米国経済の悪夢が再燃している。
米国が財政赤字に転落するのは五年ぶりだ。米行政管理予算局(OMB)が今年二月に一〇六〇億ドルと予測した二〇〇二年度財政赤字額は、半年足らずで一六五〇億ドルと六割増に変更された。これは「テロ対策費」の膨張だけでなく、株安などによる税収減が大きく響いた。
経常収支の赤字は二〇〇〇年、二〇〇一年連続で四〇〇〇億ドルを超えている。今年一月から六月までの米貿易赤字は前年同期比八・一%増の二〇六〇億六〇〇万ドルで、上半期で九二年の現行調査方式採用以降過去最高となった。一方、資本流入は欧州などへの逃避傾向が強まり、急激に減少しつつある。これはドル相場の深刻な不安定要因となり、ドル安に転化する可能性をはらんでいる。
ブッシュ大統領は中間選挙を前にしていることもあり、くりかえし「経済の基盤は強い。問題はあるが、長期的な健全性には確信を抱いている」と強調している。しかし、バブルの崩壊と経済の減速傾向は進んでおり、その足元からこの「確信」が崩れつつある。
今年四〜六月の国内総生産(GDP)は対前期比で一・一%にとどまり、前期の五・〇%と比べて激減した。労働生産性の上昇率も急速に低下している。金利はすでに四〇年ぶりの低水準だ。
ブッシュ政権はさきごろ異例の速さで「企業改革法」を成立させ、スキャンダルや株価下落対策に乗り出したが、もはや経済危機の克服、再生のために使うことのできる手段は手詰まり状態になりつつある。
これらの「米国問題」が遅かれ速かれ、ブッシュ政権による対日経済政策や対イラク戦争の可能性などに反映してくるのは疑いない。 (S)
図書紹介
中国との戦争を想定するアメリカ
米陸軍大学戦略研究所「中国が戦争を始める―その代価をめぐって」
(恒文社21 1800円)
米の「新冷戦」構想
ソ連崩壊後のアメリカ帝国主義の世界戦略は、唯一の超大国として全世界に君臨することである。ブッシュ政権は、クリントン前政権に比べても、いっそう覇権主義政策を強め自らに対抗する勢力の形成を絶対に許さないという横暴な強権政治を推し進めようとしている。9・11無差別テロを口実にしての対アフガン「報復」戦争を強行し、その過程で旧ソ連中央アジア諸国に影響力を広げた。イラク、イラン、北朝鮮などを「悪の枢軸」と決めつけ、とくにイラクに対しては武力攻撃の準備を進めている。アメリカは当面、反「テロ」戦争の拡大を進めることによって覇権主義を推し進めようとするが、中長期的には、アメリカの支配に対抗するものは中国だとして、中華人民共和国解体を目標とする新しい「冷戦」戦略を打ち出してきている。
ブッシュ政権が発足して間もない二〇〇一年三月、ラムズフェルド国防長官を中心にして新軍事戦略が決定された。それはソ連に変わって中国がアメリカの中心的な脅威になり、中国との戦争を想定し準備しなければならないというものであった。その直後の四月一日には中国南部領海真近でアメリカ海軍の偵察機と中国戦闘機が空中衝突する事件が起こっている。アメリカ偵察機は、通信など中国の軍事情報を収集していた。中国軍機は墜落しパイロットは行方不明、米偵察機は海南島に不時着した。
またその四月に、ブッシュは、「台湾の防衛のためにはどんな手段も取る」として、これまでの米政権が台湾に供与してこなかった新型潜水艦など新鋭兵器を台湾に売却した。これらが示しているのはアメリカの中国敵視政策が強化されていることでる。しかし9・11事件は、米中関係を一時的に緩和した。しかし、アメリカの対中政策が変わったわけではなかった。
クリントン政権時代から、米国防総省は「年次報告・中華人民共和国の軍事力」を発表してきているが、この七月にブッシュ政権としては最初の国防総省「年次報告・中華人民共和国の軍事力」が公表された(これは、冷戦時代に、「年次報告・ソ連の軍事力」が出されていたのと同様である)。つづいて米議会のアメリカ・中国の安全保障レビュー委員会も報告を出し、八月にはアメリカ国防白書が公表された。これらの動きをマスコミは「アメリカが再び対中強硬論へ転換」と報じた。国防報告は、対イラク攻撃の意思あきらかするとともに、中国にたいしては「アジアでは相当な資源基盤を持った米国の軍事的な競争者が出現する可能性」があり、それに対処するため「他地域以上に同盟国との協定推進や、遠距離からの作戦を継続するシステムを開発する必要がある」としている。
米陸軍の中国・台湾分析
中国の軍事問題に関わる出版物が増えているが、「中国が戦争を始める―その代価をめぐって」もそのひとつだ。アメリカ陸軍大学が二〇〇〇年に開催した中国人民解放軍の動向にかんする年次会議の記録である。日本語版タイトルは「中国が戦争を始める」という物騒なものだが、「The Cost of Conflict」(戦争の代価)である。この書名のつけかたは、冒頭の特別寄稿「なにが中国を戦争に駆りたてるのか」という小森義久によるもので理解できる。小森はもともと毎日新聞の記者だったが、産経新聞に移った人物で、日本の反動化・軍事大国化の旗振り役の一人だ。しかし、本文の分析内容そのもは、小森の無責任な反中国扇動と違って、それぞれの専門家によるもので一読の価値はある。
目次をあげれば、序論、戦争の代価についての中国の認識、中国にとっての戦争の代価、戦争が中国と東南アジア各地域に及ぼす影響、台湾の依存性、台湾と中国軍、台湾の特性に有った本土防衛、軍備管理およびミサイル防衛の影響である。
ここで焦点になっている戦争は、中国がアメリカを攻撃するとか、日本を侵略するなどということではなく、台湾海峡における戦争に焦点をあわせている。台湾の大陸との統一をめざす中国)に対抗しての、台湾の現状維持または台湾独立を狙う勢力との戦争である。アメリカはなぜ台湾問題にこれほど強く関わろうとするのか。また、日本の右翼勢力が台湾問題に介入しようとするのか。台湾が中国の一部になるということは、軍事的言えば、アメリカ海軍のシーレーン、アメリカ空軍の航空路(同時に日本軍のそれ)が台湾、台湾海峡、台湾周辺空海域で完全に失われることである。アメリカと日本は、中東などで戦争を行う時に大きく迂回せざるを得なくなるのであり、それは米軍とそれを支援する日米安保体制が機能不全に陥ることを意味している。そして、中国は太平洋海域への進出を可能にし、軍事的にもアメリカの世界支配構造に大きな風穴を開けることになる。
アメリカは中国を封じ込めるために、軍備の増強、同盟関係の強化、台湾への支援の強化が必要だとし、第八章「軍備管理およびミサイル防衛の影響」では、中国がミサイル戦力に対抗するために(中国を包囲し押さえつけるために)ミサイル防衛(MD)が強調される。しかし、第五章「台湾の依存性」では、台湾の産業が続々として大陸へ移動していることをあげ、台湾独立論の後退を指摘している。その他、各論者の分析はそれぞれすこしずつ重点が異なるものとなっている。
論者の一人は「わたしが感じている(実は心配している)のは、台湾海峡のどちらの側にも、あるいは太平洋のどちらの側にも、台湾海峡での戦争の影響と代価について真剣に考えているひとはそれほど多くないということだ。アメリカにとっての戦争の代価を扱った論文が(本書に)ないことを指摘しておきたい」と言っている。いま小泉政権は、軍部・産軍複合体などの好戦派主導によるアメリカの新軍事戦略に自ら積極的に飛び込んでいこうとしている。本書は、その政策がいかなることをもたらすのか予見するための参考となるだろう。
(K)
図書紹介
サダム・フセインは米国のくそったれ息子だ
「イラクとアメリカ」(酒井啓子著)
岩波新書 七〇〇円+税
ブッシュ米大統領が構えているイラク総攻撃(現在でも小規模のイラク攻撃は日常的に行なわれている)の準備には、欧州各国をはじめ批判も多いし、米国内でも根強い批判がある。しかし、それでもブッシュは核先制攻撃の可能性の表明をはじめとして、サダム・フセイン政権の打倒をめざしたこの国への大規模な軍事行動の意図を隠していない。そうした中、八月二四日のワシントン発時事通信は「(米国のイラク攻撃に)、もし日本が後方支援を行なうと、軍事的に小さくても、政治的インパクトは大きい」と発言し、日本の「後方支援」への期待を表明した。米側からはこのところしきりに「イラクがアル・カイーダの拠点になっている」などという情報が流されている。こうして「テロ対策特別措置法」の拡大解釈による日本の参戦の条件が作られつつある。
この「イラクとアメリカ」は「対米関係を軸に見」た、コンパクトなイラクの現代史であり、それによってアメリカがいかにして現代中東の矛盾を作り出したのかを具体的に暴きだして語っている本だ。
著者の酒井はアジア経済研究所に勤務しながら積極的に中東問題を論述してきた人で、しばしば市民運動の講師などにも招かれる機会がある。
著者が本書を通じて描きだそうとしたのは、次のようなレーガン政権末期のジョフリー・ケンプ米国家安全保障委員会中東担当官の言葉に表されている歴史だ。「(サダム・フセインは)くそったれの息子だ。だが『私たちの』くそったれの息子だ」と。
まさに冷戦期のアメリカの中東外交そのものが、中東にサダム・フセインをはじめとする「アメリカの脅威」を生み出したのだ。
酒井は言う。
「アメリカが常に『イラク脅威論』を持ち出すのは、湾岸戦争の際にイラクのフセイン政権をつぶし損ねた、という意識、そしてつぶし損ねたそのフセインが報復しにやってくるのでは、という意識をアメリカのの政治家たちが強く抱いているからに他ならない。彼らにとっては、サダム・フセインが生き延びているかぎり、湾岸戦争は終わっていない。ある意味で、そのアメリカの意識は正しかった。サダム・フセイン自身がやってくるからではない。サダム・フセインが戦った未完の湾岸戦争は、彼が意図したかどうかにかかわらず、さまざまな『サダム・フセイン』を生み出したからだ。……その『犯人』が誰であれ、アメリカが恐れる対米テロの背景に、湾岸戦争の影響があることは確かであろう」
著者は「アメリカにつくか、フセインにつくか」という二極対立構造への単純化を否定しつつ、「家族の半分をフセイン政権の弾圧で亡くし、残り半分をアメリカの空爆で亡くしたような市井のイラク人たちの、『どちらももたくさんだ』という声は、どこにもとどかない」と指摘する。
その上で、親米のイラク反体制派がアメリカに「はやくフセインをやってくれ」と急かすという「あまりに露骨な他力本願」を嘆きながら、「(一九五八年の)共和制革命が成就した前後の話であるが、かつてイラクの政治家たちの間で、軍に依存して短絡的に政権奪取を目指すべきか、それとも大衆の意識覚醒と下からの動員によって地道に社会変革を進めていくべきか、といった議論がかわされていた時期があった。だが、いずれの勢力も結局は前者の短絡的な方法を選び、その結果、六〇年代に軍事クーデターが頻発して政権が頻繁に交替する事態を迎えた」と指摘する。
短期的にはこの問題の解決の回答がないにしても、この指摘はきわめて示唆的ではないだろうか。「ただ人民のみが世界の歴史を創造する原動力である」ということは真理なのだから。 (S)
複眼単眼
黙殺されたアフガン難民 タヒリさんの自死
前号につづいて自殺の話になるが、話題の角度は異なる。
八月九日深夜、大阪市生野区のアパートでひとりのアフガニスタン人が、ネクタイで首を吊って自死をした。アフガニスタン難民では今年二人目の自殺者。彼はユノス・タヒリさん、三〇歳。少数民族のゲゼルバッシュ人で反タリバン活動に参加、九六年に拘束されたが、イランヘ逃亡。タリバンから逮捕状が出ている。九九年三月に貨物船で山口県下関市に上陸、九九年四月に難民申請。九月、不認定。異議申したてをするもそのまま放置され、二年余を経てアメリカのアフガン空爆後の昨年十一月に異議却下、同時に法相による「在留特別許可(在特)」がでる。その間、十月には市民運動主催の院内集会にも出席、「連日の空爆に不安がつのること、一日も早く難民認定をしてほしいこと、難民認定がされれば妻子の所在を探し、日本に呼び寄せたいこと」などについて発言をした。
彼の遺書の一部。
「私は本当に疲れた。これ以上、この世界に残る必要はない。残ることに意味はない。……私が自殺したことは家族に言わないでください。脳のショックで死んだと言ってください。…
…誰かが私に教えたのではありません。私が、自分で自殺をしました」
自殺を禁じられているイスラム教徒のタヒリさんがなぜ自死に追い込まれたのか。『毎日新聞』八月十一日の報道などを読むとたいへんつらく、悔しく、悲しい事実があった。
タヒリさんは「在特」がでたあと、アフガニスタン国内にいるはずの妻と二人の子どもを日本に呼び寄せる準備のため、イランにいる兄のところに渡った。そこでタヒリさんは昨年十月頃、妻子が米軍によるアフガン空爆ですでに死亡していたことを知る。
タヒリさんに最後に会った友人は「妻子のこと、日本でアフガニスタン人が捕まっていること、仕事がないことなど、全てがしんどいと話していた。イランにいる兄の家族のことを毎日心配していた。ビザが出るのが遅かったので妻子が死んだこと、日本政府が難民を捕まえることを怒っていた」と語っている。
そしてその友人は「日本の入管、政府、社会全てが彼の『荷物』だった。彼は荷物をいっぱい抱えているので、走れなかった。彼はやさしくて、頭のいい人だ
った。悪いことはしない人だった」と涙ぐみ、目を赤くして語ったという。
アフガン難民弁護団の大貫弁護士は「難民に苛酷な日本政府の政策により、また犠牲者がでた。早急に認定し、家族を呼び寄せていればこんな悲劇は起きなかった。迅速、公平な認定制度に一日も早く改正すべきだ」と述べている。こんな日本政府の入管行政を許してなるものか。このままでは第二、第三のタヒリさんがでる。
そして「政治的価値」のある「瀋陽」の事件では、日本が亡命を受け入れなかったことについて連日批判を書き立てたマスコミも、アフガニスタン難民については一顧だにしない。タリバン批判を口実に米軍の戦争を支持してきたマスコミが、タリバンの政治的被害者のアフガン難民たちの救援を無視しているという二重基準をつづけていることも忘れまい。(T)