人民新報 ・ 第1073号<統合166号> (2002年10月5日)
目次
● すべての原発をSTOP! 政府・電力会社の延命策動を許さない
● 有事法制シフトの小泉改造内閣 法案廃案をめざす闘いに全力を
● 国鉄闘争を新しい段階へ 鉄建公団訴訟第一回口頭弁論
● 首切り自由ルールを許すな 労働政策審議会は労働者の声を聞け
● 個人情報保護法案を拒否する 各界の人びとが東京頂上戦の集会
● 日朝国交正常化の早期実現!有事法制の廃案を!―真の和解と平和な関係めざし新たな闘いのスタートへ―
● 資料 / 「徴兵制は憲法違反なんて、恥ずかしくて」(石破茂・新防衛庁長官のHPから)
● 「二〇〇二年ソウル国際女性会議」報告会東京で開催
● 書 評 / 赤田圭亮・岡崎勝編 やさしい教師学入門
● せんりゅう ( ゝ史 )
● 複眼単眼 / たまちゃんと都会の生物たち
すべての原発をSTOP!
政府・電力会社の延命策動を許さない
三年前の一九九九年の九月三〇日、茨城県東海村にあるJCO東海事業所で臨界被曝事故が発生した。三一万人が避難し、死者二名・約七〇〇名の被曝者がでるという惨事となった。
いま、ほとんどの電力会社による原子炉の重大な亀裂・損傷隠し、データ・資料の改ざんが暴露されている。原発の危険性はきわめてあきらかになってきた。しかし、電力会社と国はプルサーマルをはじめ依然として原発推進の姿勢を改めてはいない。逆に、亀裂が入っていても安全だとして原発の運転ができるように「維持基準」を下げるとか、また秘密主義をいっそう強化したり、強権と資金力をつかって、広がりつつある原発反対の声を圧殺するのに躍起となっている。いまこそ、すべての原発をストップさせるための闘いを強めなければならない。
保安院前で追悼・抗議集会
九月三〇日、東海村臨界被曝事故・三周年行動が展開された。
9・30臨界事故三周年東京圏行動実行委員会は経済産業省別館の原子力安全・保安院前で追悼と抗議の集会を行った。事故発生の一〇時三五分に二人の死者を悼んで黙祷し、抗議集会ではJCO事故は国の監督・安全審査のいい加減さ・手抜きによって生まれたと糾弾する発言がつづいた。
実行委員会の代表団は経済産業相へ東海村臨界事故の原因を再調査するよう要請を申し入れた。原子力安全委員会のJCO事故に関する「最終報告書」は、「作業者が上司の許可を得ることなく、沈澱槽を使用して事故になった」として死亡した末端の労働者に責任を押しつけて、事故問題の幕引きを行おうとしているが、具体的には矛盾だらけの報告書となっている。申し入れでは、原子力安全委員会の報告に対して、「事故原因を明らかにするために、原子力安全委員会に再調査を指示し『何を如何に作ろうとして』事故になったのかを国民に報告する」よう求めている。
被害者支援・原発廃止へ
夕刻からは、中央区京橋プラザで集会が開かれた。
はじめに、柳田真さん(たんぽぽ舎)が基調報告を行った。
この一年間の特徴としては、まず第一に、地元住民の体調悪化の進行があげられます。「JCO臨界事故総合評価検討会議」が今年の五月に出した「生活意識調査報告」によると、事故の三五〇b圏内では三七・二%の人が体調が悪くなったと答え、多くの人が、頭痛、めまい、発疹やかゆみ、だるい、疲れやすい、風を引きやすくなった、眠れない、事故現場への恐怖感などを訴えています。
第二には、住民被曝者への医療その他の補償についてほとんど進展がなかったことです。JCO被害者の会への回答は「検査費、交通費は一回のみ。営業補償や休業補償は二日のみ」というひどいものでした。
第三に、JCO裁判が証人尋問、被告人質問、論告求刑が終わって、最終弁論(一〇月二一日)、判決の段階を迎えていることです。
そして今後の方向ですが、@JCO事故の原因と責任を追及し、事故の教訓を運動として広げること、A臨界事故被害者の会の運動を支援する、B電力会社と国の共犯=原発データの改ざん・事故隠しを徹底追及する運動の一翼を担うこと、C推進派の巻き返しを許さず今こそ原発廃止むけて、共同して力をあわせることです。
JCO事故の諸要因
つづいて槌田敦名城大教授が「JCO事故と原発事故―バケツ使用は正しかった―」と題して講演した。
JCO事故は、強力な放射線を放出して生物を殺す中性子爆弾が爆発したようなもので、中性子爆弾の人体実験の例としてアメリカの原子力関係者は興味を持って注目している。
そして事故からすでに三年が経過しガンなどの発病がはじまり、ノイローゼが多数発生している。
事故の基本的責任は、装置を充分に管理していなかった安全委員会と科学技術庁だが、動燃が中濃縮ウランというような危険物をJCOの能力も確かめず委託したことも問題だ。一方JCOはといえば親会社の住友金属鉱山の合理化に対応して稼げるものならそれが危険なものであろうとなんだろうと何でもやるというという態勢であったことだ。こうした中では事故が起こるのは当然だといえる。
問題はチェルノブイリ原発でおこったような原発それ自身での臨界事故だが、東電などが使っている沸騰水型原発でも起こる可能性は高い。そうなったら炉心溶融(メルトダウン)、大量の放射能の放出となる。
そして、JCO事故でわかったことは、日本の原子力技術の頼りなさということだ。原発事故が起こったなら、なにより可能な限り遠くへ逃げること以外にない。日本の原子力技術者はなにもできないだろうから。
原発の停止訴えデモ
槌田さんにつづいて、たんぽぽ舎の山崎久隆さんが、電力会社と国の事故隠しの実態を報告した。
茨城からは、臨界事故被害者の会の大泉実成さんからの訴えがあった。大泉さんは、東海村では事故による直接の被害だけでなく、放射能汚染の風評被害や結婚差別のおそれなど多くの深刻な問題がおこっていること、JCOとの補償交渉は六月に決裂し、この九月に裁判の訴えを起こしたこと、闘いへの支援の要請などについて述べた。
集会を終わってキャンドルデモに出発、銀座〜東京電力〜日比谷へのコースで、原発の危険性とすべての原発の停止を訴えた。
有事法制シフトの小泉改造内閣
法案廃案をめざす闘いに全力を
一五五臨時国会を前にした小泉改造内閣は金融危機対応内閣であることが看板になっている。しかし、首相が選択した経済財政政策は、これまでの財界本位の政策のツケである現在の経済・財政危機=深刻なデフレの中でいっそうの「痛み」を人々に強要する道であり、許すことはできない。
改造人事では有事法制シフトの強化がもうひとつの問題だ。徴兵制合憲や先制攻撃合憲発言でその超タカ派的名言動で知られている防衛族の石破茂が長官になった。この人物は就任会見で「工作船の根絶」「米国のイラク攻撃と共有する部分がある」「ミサイル防衛促進」などの突出した発言とあわせ、「有事法制を一歩でも前に進める」決意を表明した。石破は民主党の前原誠司らと折衝しながら、政府・与党がいますすめている有事三法案での「攻撃のおそれ」「攻撃が予測される」事態など、野党からも批判が強かった「有事の定義」の修正を主導したといわれている。小泉内閣の有事シフト強化の性格は明らかだ。
朝日新聞などの「有事・個人情報法案見送り」報道があたかも審議先送りのように受け取られているが、与党党首会談ではひきつづき成立をめざすことが確認されている。ましてこの報道も厳密に読めば「審議の先送り」などではない。今回の石破就任と併せて、小泉首相はあくまで有事法制を推進する決意を内外に示した。
これに対決し、戦争法案を阻止する運動の強化に全力をあげなければならない。すでに提起されている一〇月の連続闘争を闘いぬき、十一月後半の大統一行動も視野にいれて、全力をあげ有事法制阻止の運動と世論の高揚を勝ち取らねばならない。
国鉄闘争を新しい段階へ
鉄建公団訴訟第一回口頭弁論
現在、JRに法的責任がないとする四党合意の破綻はいっそう明らかになっている。解雇撤回・現職復帰をめざす闘う闘争団、JR会社内の国労組合員によるJRに人権と民主主義を取り戻す会、そして国鉄闘争勝利共闘会議は一体となって、国鉄闘争の新しい展開に向けて奮闘している。いま、十一月下旬に予定されているとされる国労大会にむけて攻防が闘われているが、有利な条件が形成されつつある。国労大会で、闘う方針を再確立し、四党合意をの承認を強行し闘争破壊をおこなっている国労本部を辞めさせて闘争勝利にむけた執行部を選出すること、すなわち新たな修善寺大会(一九八六年に闘う方針・執行部を確立)が求められている。
九月二六日には、新たな裁判闘争と全国連鎖集会のスタートとして、鉄建公団訴訟第一回口頭弁論とJR総行動が取り組まれた。
鉄建公団訴訟口頭弁論
国鉄の承継組織は国鉄清算事業団、その承継組織が日本鉄道建設公団(鉄建公団)である。この訴訟は、今年の一月、闘争団員・遺族二八三名を原告団として、鉄建公団を相手取り解雇無効と地位の確認を求めて提訴した。国鉄による不当労働行為、不当解雇に鉄建公団が責任を持つことを明らかにし、国鉄闘争の突破口を切り開くする闘いとして鉄建公団訴訟は重要な意義をもつものだ。
午前十一時すぎ、東京地裁で一番広い一〇三号大法廷で、鉄建公団訴訟第一回公判が開催された。
第一回裁判では、はじめに、加藤晋介主任弁護人、稚内闘争団の上出修三さん、美幌闘争団遺族の三浦成代さんの陳述が行われた。
当面の口頭弁論の期日は一一月二一日、一二月一六日、一月二七日(いずれも一〇時三〇分から、一〇三号法廷で)と決まった。
なお難波孝一裁判長は、被告である鉄建公団が出した解雇理由などの答弁書の説明が十分であるとして、次回までに補充するよう求めた。
八月二九日、横浜地裁は、横浜「人材活用センター」事件の判決を出した。人活センターとは、国鉄の分割民営化攻撃時に、国労などの分割民営化反対の組合員を隔離し、非人道的なさべつ・いやがさせをおこなった組織である。横浜人活では、国鉄時代に暴力事件を口実に五人が懲戒解雇された。しかし、それがまったくのデッチ上げであることが証明された。横浜地裁判決は、解雇理由とされた暴力は存在せず、当局によるデッチ上げであることを認め、懲戒解雇された五名の訴えに対し、鉄建公団職員としての地位確認と賃金等の支払いを命じた。八、二九八万円〜一億一、二九八円余に利子をつけてというものだ。
鉄建公団訴訟との関係でいえば、清算事業団職員としての地位は鉄建公団職員の地位に引き継がれていること、清算事業団職員としての地位は再就職促進特別措置法の失効(九〇・四・一)によって失われるものではないことを、はっきりさせた点が重要である。この判決は鉄建公団訴訟の正当性を示すものとなった。
JR総行動
この日のJR総行動には、北海道と九州から上京した闘争団員約三〇名を中心に、国労組合員、支援の労働者・市民など三〇〇人ほどが結集し、裁判闘争、JR本社・鉄建公団・国土交通省など関連機関への要請を行なった。
JR東日本本社前では、ガードマンの制止を突破して、本社玄関前での抗議集会が行われ、怒りの声をJR東本社にたたきつけられた。鉄建公団や国土交通省にたいしても断固とした行動が展開された。
夜には、労働スクウェア東京で約六〇〇人が参加して裁判報告集会が開かれた。ビデオ「国労闘争団日記・二〇〇一年冬〜二〇〇二年秋」が上映され、その後は闘争団自身の演出による裁判形式で集会「9・26大衆法廷」となった。
首切り自由ルールを許すな
労働政策審議会は労働者の声を聞け
いま、企業がリストラをやりやすくするための「解雇ルール」が、厚生労働省政策審議会・労働条件分科会で審議されている。労働者委員、使用者委員の見解は対立しているが、審議の行方は楽観をゆるすような状況ではない。
九月二七日、労働条件分科会での審議にあわせて、霞が関官庁街で「首切りの自由を許さない昼デモ」がおこなわれた。これは、闘う国労闘争団や有期雇用労働者ネットワークなどが中心になって取り組まれた。
「解雇ルール」づくりは、小泉内閣の「規制緩和」路線の一環であり、さらにその根拠になっているのが日経連が一九九五年に発表した「新時代の日本的経営」である。この攻撃は、正規雇用労働者を減らし、派遣労働者やアルバイト・パートを導入することによって、人件費・経費を大幅に削減しようというもので、労働者に一方的な犠牲を強要するものだ。
これまでは、労働者、労組の闘いによってかちとられてきた「整理解雇の四要件」(@必要性=整理解雇をしなければならない経営上の真の必要性があること、A解雇回避努力=解雇を避けるための努力を十分尽くしていること、B人選の合理性=客観的、合理的な基準を設け、公正に適用していること、C協議義務=会社が労働者、労働組合と再建策について十分協議を尽くしたかどうか)が、経営側の解雇自由に障害となる「解雇権濫用法理」による制限として存在してきた。
小泉内閣は、資本の解雇自由を実現するために、労働法制の抜本的な改悪に出てきたのである。政府の総合規制改革会議は昨年の一二月に、規制緩和に関する「規制改革の推進に関する答申」(医療、福祉・保育、人材、教育、環境、都市再生、流通、通信、エネルギーなど一五分野)を小泉首相に提出した。その「人材」の項で、解雇の基準やルールを立法で明示して解雇を自由にやれる「ルール」の法制化=規制撤廃を提案している。具体的には、派遣労働の対象業種や派遣期間の制限は「これを原則撤廃・解禁することも含め検討する」、解雇ルールは「労働者が採用されやすい(企業が採用しやすい)環境の整備や再就職の促進に資するよう留意」し「立法での明示を速やかに検討する」とし、裁量労働制は「今年度中に対象業種の拡大を」としているのである。
七月二三日に開かれた労働条件分科会では「今後の労働条件の制度の在り方に関する議論の整理について」がまとめられた。同時期には厚生労働省の雇用政策研究会の報告も出された。こうした中から見えてくるのは、「多様選択可能社会」などという口当たりの良いイメージをつくり出しながら、その実、首切り自由によって失業者と不安定雇用労働者が激増する社会、資本は賃金など「労働コスト」を徹底的に削減して儲ける社会の実現である。深刻な不況の中で、倒産件数・失業率は高止まりをつづけている。この状況下で行われようとしている労働分野における規制緩和改革なるものの狙いは、首切りの自由と不安定雇用労働者の拡大にほかならず、絶対に許してはならない。
必要なのは、「解雇自由ルール」ではなく、解雇制限の立法化である。そして、非正規労働者の権利の確立、そして労働時間規制の強化など労働者保護にむけた「労働法制改革」こそが求められているのである。
個人情報保護法案を拒否する 各界の人びとが東京頂上戦の集会
九月二八日、東京・有楽町の読売ホールで「個人情報保護法案拒否!九・二八東京頂上戦」が開催され、八〇〇名が参加した。集会は、さまざまな企画によって個人情報保護法による情報管理と治安の強化を危惧する声を大きく表現した。
この集会は住民基本台帳ネットワークの八月五日実施と個人情報保護法案に反対してきた全国の団体や個人が、秋以降の運動をさらにひろげようとすすめてきたもの。札幌集会から始まって那覇まで、九月二日以降、全国一七カ所で、各地のマスコミ関連の労働組合やジャーナリスト、市民団体、個人などの努力によって展開され、最後が東京集会となった。
東京集会では、第一部のリレートークとして、各地のとりくみ、ビデオ参加のメッセージは井上ひさし、桜井よしこ、鳥越俊太郎、筑紫哲也の皆さんなど、各界からはマッドアマノ、大谷昭宏、福島瑞穂さんなどが発言した。
演奏をはさんで、第三部の「治安と不安」をテーマとした対論では、吉田司と吉岡忍の両氏が発題した後、田原総一郎と有田芳生の両氏が「テレビの魅力と魔力について」を語り、元木昌彦と篠田博之の両氏が「報道被害の批判をどう受け止めるか」について語った。最後に「世界治安最前線の沖縄」から、沖縄テレビの宮城記者と写真家の石川真生さんが話した。
第四部は「権力に個人情報取扱事業者としての『私』と一一桁の『私』を支配されないために」をテーマにしたシンポジウム。司会は久田恵さん(ノンフィクション作家)。基調報告を佐藤文明さん(戸籍研究家)が短く行った後、斉藤貴男さん(ジャーナリスト)、佐高信さん(評論家)、岩上安身さん(ノンフィクション作家)、佐木隆三さん(作家、宮台真司(大学助教授)の各氏が発言した。
閉会挨拶は畑衆・出版労連委員長が行い、今後の運動の再出発をめざして朝鮮の太鼓と鉦が鳴りひびくなかで閉会した。
一連の運動をささえたのは「反住基ネット連絡会」(準備会)。同会は住基ネットに反対する全国ネットワークを目指す市民グループで、「住基ネット八月五日実施を許さない実行委員会」(九月一二日解散)の活動を発展的に継承している。「反住基ネット連絡会」(準備会)は当面の活動として、
@「個人情報保護法案の廃案と立案し直し」「住基ネットの即時中止」の二点を国会へ要求する署名運動の展開、
A全国の個人・グループを結ぶ情報交換の場の形成など七点にわたる行動方針をすすめている。(首都圏通信員)
日朝国交正常化の早期実現!有事法制の廃案を!
――真の和解と平和な関係めざし新たな闘いのスタートへ――
工藤 敬
九月十七日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の首都ピョンヤンで開催された初の日朝首脳会談は、日本人拉致や工作船問題が明らかにされ日本社会に大きなショックを与えたが、両首脳が署名した「共同宣言」には歓迎すべき点も多い。これらは真の和解と平和のために、今後の日本人民自身の闘いによって内実を打ち固め、また塗り替えていく課題を提示しており、その意味でも新たな局面に立った闘いのスタートが求められている。
日朝首脳会談の背景
まず、今回の日朝首脳会談の背景をどう見るべきだろうか。
首脳会談に至る経過を見れば、今回、朝鮮側が主動的に動いて実現したことは明らかである。膠着状態にある日朝関係打開のため、朝鮮側が三点で譲歩し首脳会談につながった。それは@過去清算(基本問題)と諸懸案の包括的解決方式への転換、A拉致事件・工作船問題等を明らかにする、B過去清算方式で村山談話・経済協力方式の受け入れ――である。
朝鮮側が、対立していたこれらの諸点で譲歩に転じた理由は、主として二点ある。
その一つは、米ブッシュ政権の「悪の枢軸」規定により、当面は米国の矛先がイラクに集中しているものの次は朝鮮半島に矛先が向く可能性が高いこと、特に米朝関係では来年二〇〇三年に一つのターニング・ポイントを迎えようとしており(米朝ジュネーブ合意で明記された軽水炉の供与期限とミサイル発射実験凍結の期限がいずれも来年であり、核・ミサイル問題の行方が焦点となる)、朝鮮側が日本との正常化を担保にブッシュによる戦争政策の回避に向ったこと。第二に、この間、国内経済改革と部分的だが経済開放に向う中で(朝中ロ国境地域に九四年に設定した羅津・先鋒自由貿易地帯に続く新義州経済特区設置など)、インフラ資金を必要としていたことが挙げられる。これらの状況は、中ソ対立の急迫下で賠償を放棄してでも日中正常化を急いだ当時の中国の事情と類似した面がある。
では日本・小泉政権側はどうか。小泉訪朝決定の直接的要因に、朝鮮側の譲歩があるのはもちろんだが、日本側も動かなければならない背景が存在していた。
それを象徴していたのが、小泉訪朝決定の発表と同じ日、南北間で、分断されていた京義線と東海線を年内に連結する合意に達し、その前には金正日委員長の訪ロの際、プーチン大統領と朝鮮鉄道とシベリア鉄道の連結合意がなされたことである。これによって、釜山からロシアルート、中国ルートを通じ欧州や中東、東南アジアへ至る物流の大動脈がつながることになった。しかも、すでに英独などEU諸国のほとんど、アジアでも日本を除くほとんどの国が朝鮮政府と国交を結んでおり、日本の立ち遅れが浮き彫りになった。
東アジアの経済統合も加速化しており、依然として対米市場への依存度は大きいが、ASEAN+3(日中韓)全体でみると対米輸出シェアは約二〇%程度となり、域内間ではすでに平均四〇〜五〇%に達しているのである。この間、日・シンガポール自由貿易協定(FTA)、日韓投資協定から日韓FTAへの動き、そして日・ASEAN包括経済連携(FTA)の動きを強めてきたとはいえ、ASEANとのFTA締結への合意では中国に先を越されるなど、日本政府・資本の立ち遅れへの危機感が存在してきた。
彼らが「期待」した朝鮮の崩壊も当面展望はなく、域内で主導性を発揮するためにも、日朝というトゲを抜く必要に迫られていた。これらの双方の利害が、今回の日朝首脳会談の成立を規定した要因である。
日朝共同宣言とわれわれの立場
では、今回、日朝首脳会談で両首脳が署名した「共同宣言」をどう見るべきか。
まず宣言は、「両首脳は、日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化関係を樹立することが、双方の基本的利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大きく寄与するものとなるとの共通の認識を確認した」と謳い、第1項で、国交正常化を早期に実現するため、あらゆる努力を傾注することとし、十月中に日朝国交正常化交渉を再開することで合意した。われわれはまず、この方向と合意を支持し歓迎する。
●過去清算問題
共同宣言は第二項で、「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びを表明」し、国交正常化ののち日本側が経済協力を行うこと――が確認された。
われわれは、村山談話の「反省とお詫び」が韓国併合有効・合法論の前提に立つものであり、六五年日韓経済協力方式の援用は真の過去清算とはいえないことを明らかにしてきたが、問題は依然として残されたままである。われわれは、日本人民の主体的責任において、引き続き日本政府に誠意ある謝罪と補償を要求する。とりわけ軍隊「慰安婦」、強制連行などの被害当事者への国家責任による謝罪と補償を強く要求する。
●敵対の禁止
共同宣言の第三項で、双方は、国際法を遵守し互いの安全を脅かす行動をとらないこと、また日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題について北朝鮮側はこのような遺憾な問題が再び発生しないよう適切な措置をとること――を確認した。これを歓迎し、誠実な履行を求める。とりわけ今回、金正日委員長自身から、日本人拉致事件や工作船問題が明らかにされ、日本社会に大きなショックを与えた。われわれは、朝鮮政府に国交正常化交渉の中で、真相の解明や生存者の帰還等、誠意ある対応を求めるものである。
しかし同時に、この事件を口実として排外主義を煽り、「在日北朝鮮人(ママ)帰還者の再入国禁止」をはじめとする対朝鮮「制裁」を叫んだり(新・「拉致議連」)、各地に広がる在日朝鮮人への暴力や嫌がらせを絶対に許してはならない。
●核・ミサイル及び地域安全保障
共同宣言第四項は、双方が、a・地域の平和と安定のため協力、b・信頼醸成のための枠組み整備、c・核問題の包括的解決のため関連国際法を遵守、d・安全保障上の諸問題について関係諸国との対話促進と問題解決、e・朝鮮側はミサイル発射の留保を二〇〇三年以降も延長、f・日朝間の安全保障協議――で確認している。
われわれはこれを基本的に歓迎し、次のように具体化することを求める。
まず何より、両国に生起するあらゆる事態を、対話を通じた平和的手段で解決すること。
同時に、焦点になっている核・ミサイル問題の解決については、朝米両国が九四年朝米ジュネーブ包括合意、二〇〇〇年朝米共同声明を誠実に履行することを強く要求する。
この間、米ブッシュ政権は北朝鮮を「大量破壊兵器開発疑惑」を理由として「悪の枢軸」と名指しし、緊張を高めてきた。ブッシュ政権は北朝鮮に即時の核査察を要求しているが、ジュネーブ合意では「軽水炉対象の相当な部分が実現された後、そして主要核関連部品などが納入される前」に、北朝鮮はIAEAとの保障措置協定を完全に履行することが明記されており、むしろ軽水炉の供与が期限から大幅に遅れていることで、査察時期も遅れているに過ぎない。そして、北朝鮮側も、ジュネーブ合意を誠実に履行することを繰り返し表明している。
ジュネーブ合意はさらに、軽水炉転換問題ともに、@経済制裁の緩和、A米国が核兵器を使用せず核威嚇もしないことを保障、B相互の連絡事務所設置、C相互の関心事の解決に伴い大使級の関係を樹立すること――も確認している。
ここでは「朝鮮が査察を受け入れるかどうか」よりも、むしろその反対に、ブッシュ政権がジュネーブ合意を遵守するかどうかこそ問われているのである。
ミサイル問題でも、朝鮮側と前クリントン政権時代のミサイル交渉で、「妥結寸前だった」との当時の米側証言がある。だからこそ二〇〇〇年秋には趙明禄、オルブライトのワシントン、ピョンヤン相互訪問がなされ、「米国大統領の訪朝」まで明記した共同声明が出された。これらの状況は、朝米が関係正常化に接近しつつあったことを示している。
これらの国際約束を無視し、緊張激化と戦争拡大政策を推し進めているのがブッシュ政権であり、アジアの平和にとって最大の脅威である。
朝鮮半島における戦争の危険を押し止めるためには、何よりも米ブッシュ政権にこそ、これまでの朝米交渉の経過を尊重し、その誠実な履行を要求する必要がある。これはアジアの平和を求める各国・人民の共通の課題であり、日朝共同宣言の核心問題の一つである。
われわれは、日朝間の対話と信頼醸成、何よりも国交を正常化して緊張を緩和し、さらに周辺諸国間の和解・平和友好関係の促進へと波及させ、朝鮮半島の平和と統一、北東アジア地域の軍縮や非核地帯化などの恒久的平和に向けた展望を開くことが必要であり、日朝共同宣言のこの項目が、これらの方向に向かって実現されるよう強く要求する。
そのためにも日本政府・小泉政権は有事法制を廃案にすべきであり、憲法九条を遵守し、平和外交を日本の対外政策の柱に据えなければならない。
われわれは、再開される日朝交渉を注視し、以上の方向実現のために闘わなければならない。
有事法制阻止!
真の和解と平和を基礎とした日朝国交正常化の実現をかちとろう!
資料
「徴兵制は憲法違反なんて、恥ずかしくて」(石破茂・新防衛庁長官のHPから)
週刊誌(サンデー毎日)の今週(六月二三日)号は、「福田・安倍よりさらに過激な議員がいた!徴兵制は違憲ではないと発言」として私を紹介しているが、あまりの悪辣さと馬鹿馬鹿しさに、これまた怒りを通り越して驚き呆れるばかりである。この手法は安倍氏のものと全く同一である。取材を受けた際に「安倍、福田に続いて今度は自民党国防議員が標的ですか」と問うたのだが、正しくその通りの記事で、ここまで来るとただただ感心するほかはない。
「私はあなたの言ったとおりに伝えますが、編集長がどういう記事にするかはわかりません」と言い残した取材記者は、今から思えば予防線を張ったのであろう。
テレビも新聞もそうなのだが、こちらが語った中で、実際に取り上げられるのはよくて一割か二割であり、その選択権は一方的にマスコミの側にある。「部分」を語ったことは事実でも、それが全体の脈絡の中でどのような位置付けになっており、何が真意なのかは、視聴者や読者には全くわからない。「部分」を切り貼りすれば、まったく別の内容にすることも可能であるのだが、第四の権力たるマスコミには、三権分立のチェック機能も一切働かず、これほど恐ろしいものはない。
今日の集中審議でも、野党側から「マスコミに誤解されるような発言をしたことそれ自体がいけないのだ」などというめちゃくちゃな指摘があったが、政治家の側からすれば「それならマスコミ相手に発言すること自体をやめましょう」ということになるのは当然のことである。
「誤解」などというシロモノではなく、あれははっきりとした意図をもった、ほとんど「作為的文書」に近いものなのだ。このような姿勢はマスコミの自殺行為に直結することになるのだが、どうしてそのことに気が付かないのか、不思議でならない。
徴兵制についての政府の見解は、「徴兵制度は、わが憲法の秩序のもとでは、社会の構成員が社会生活を営むについて、公共の福祉に照らし当然に負担すべきものとして社会的に認められるようなものではないのに、兵役といわれる役務の提供を義務として課されるという点に本質があり、平時であると有事であるとを問わず、憲法第十三条(個人的存立条件の尊重)、第十八条(奴隷的拘束、苦役の禁止)などの規定の趣旨からみて、許容されるものではない」(昭和五五年八月、政府答弁書)というものであるが、その後昭和五六年二月、宮沢官房長官が、「憲法第十八条の引用を再検討したい」、続いて鈴木総理も「その線に沿って検討する」旨発言、今日に至っている。
「徴兵制度は憲法違反」などという見解を打ち出しているのは、私の知る限りわが国のみである。
そしてわが国も一九七九年に承認している国際人権規約・市民的および政治的権利に関する国際規約第八条は、「社会の存立又は福祉を脅かす緊急事態又は災害の場合に要求される役務」は「強制労働」には含まれない旨、明確に定めている。このことについても明確に申し上げたはずだが、記事ではもちろん一切取り上げられていない。
核の議論とも共通するわが国の独善性が、ここには如実に現れている。「徴兵制度は奴隷的拘束であり苦役なので、わが国は憲法違反としています。どうです、立派でしょ?ぜひ貴国でもそうなさることをお薦めします」などと得々として外国政府に言った場合、どのような反応が返ってくるか、一度でも考えたことがあるのだろうか?
国家としての正当性自体が疑われることは必定であり、私はそんな場面を想像しただけで、あまりに恥ずかしくて日本人であることすらやめたくなる。「徴兵制を採用しない」との政策はありうるが、憲法論と結びつけることには個人として賛成しかねるし、まして憲法改正でそれを明文で定めるなどというのは、とても正気の沙汰とは思われない。
「なぜ今か」との指摘は完全な事実誤認であり、安倍氏も私も持論としてずっと以前から言っていることである。それがなぜか今、公に取り上げられるようになっただけのことであり、これはまずいと一部の人々が急に判断した、というのが実際のところである。
カンボジアPKOに参加した自衛隊部隊が、選挙監視のため派遣されてきたNGOを守る法的根拠が
ないために、「NGOの人たちが撃たれるような状況になったら、間に割って入り、自らの正当防衛が成り立つような状況を作れ」という命令を受けていた、というのは、公然の秘密である。このようなことが許されてよいはずはなく、実際に危険に身をさらす自衛官の立場に立ってものごとを考えた法整備の必要性も指摘したのだが、それも全く取り上げずに綺麗事を並べる人を、私は絶対に信用しない。
軍(日本ではこれを実力組織という)に対する国民の理解と共感がない国に、本来の文民統制は決して
成り立たず、そのツケは必ず悲惨な形でわが身に返ってくるのだ。
それこそが歴史から学ぶ教訓の最たるものであることを知るべきである。
「返還」は米軍基地の最新鋭化 今は新しい戦争をくい止めること
「二〇〇二年ソウル国際女性会議」報告会東京で開催
九月二九日、東京の神宮前区民会館で「二〇〇二年ソウル国際女性会議の報告を聞く会」が開かれた。集会はNO!レイプ NO!ベース女たちのネットワークなどの女性グループの共催によるもので、国際会議に出席した三人から報告があった。
最初は、会議を実務的にに支えてきた秋葉こずえさんが会議の歴史と経過を以下のように報告した。
同国際会議は「東アジア−アメリカ−プエルト・リコ軍事主義を許さない国際女性ネットワーク」(以下「女性ネットワーク」)が主催したもの。「女性ネットワーク」は一九九六年に沖縄の「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」が行ったアメリカ・ピース
・キャラバンが契機になっている。一三人のメンバーは二週間かけて米国本土を横断して沖縄の現状を説明して歩いた。この出会いのなかで「女性ネットワーク」が生まれ、一九九七年五月に沖縄で第一回会議が開催された。
この会議で「女性ネットワーク」の取り組むテーマとして、@軍隊による女性・子どもに対する暴力、
A米兵を父にもつアメラジアン国際児、B米国と各国政府が結んでいる二国間協定・条約、C米軍による環境破壊と健康被害、D基地返還、が確認された。
九八年一〇月にはワシントンで第二回会議を、二〇〇〇年六月にはサミットが開かれた沖縄で第三回会議を開催した。この時からプエリト・リコの女性が加わり現在の名称になった。第四回会議にあたる「二〇〇二年ソウル国際会議」は、八月一六日から一九日まで行われた。また、一九九九年のハーグ平和会議では「軍事主義と女性に対する暴力」「軍事主義と環境汚染」という二つのシンポジウムを「女性ネットワーク」が主催した。第五回会議は二〇〇四年にフィリピンで開催予定である。
「二〇〇二年ソウル国際会議」は、「平和の実現へ向かって――日常から世界へ」というテーマで軍事主義と女性の人権の問題が話しあわれた。韓国では「平和を創る女性たち」という団体が中心になって、新しい女性の平和運動の連合体が結成されて会議を運営した。
会議では韓国から「軍事主義と女性、非軍事化」、アメリカからは「グローバリゼーションと軍事化、九・一一」、フィリピンからは「グローバリゼーションと性的人身売買」の基調報告があった。またフィリピン、沖縄、湯布院、プエリト・リコから基地の現状報告があった。さらに前掲の五つのテーマに加えて「日常生活における軍事化」の六つの分科会に分かれ話し合われた。
続いて、高里鈴代さん(基地・軍隊を許さない行動する女たちの会共同代表)は、基地返還について次のように話した。
基地返還はこれまでプラスのイメージで語られていた。しかし韓国、フィリピン、プエルトリコ、沖縄の現状を出し合ったら、何故返還するのかには共通するものがあった。
その一つは、環境汚染の問題で、すでに幼児の白血病や劣化ウランによるガンの多発、基地労働者の被爆被害も出ている。
もう一つは基地の老朽化だ。老朽基地は返還し、米国の軍事政策にあった最新鋭の基地建設が、返還の意味するものだ。韓国では返還要求が地域から出ていないのに返還する基地がある。そこはすべての在韓米軍基地の廃棄物を集めた基地で返還する方針だという。誰にとっての返還なのかがはっきりしたのは四回の会議の大きな成果だ。
米軍基地の周りで女性の人身売買が増えているのも各地とも共通している。韓国ではロシアの女性を買うために基地以外からも集まり、特異な地域になっている。軍隊の駐留が
地域社会への暴力を創出していく。
最後は松井やよりさん(VAWW−NET Japan)が報告した。松井さんは、七〜八月は世界各地でブッシュの戦争政策やグローバリゼーションに対抗する国際会議が頻繁に開かれ、韓国やフィリピン、インドネシア、モンゴルなどの会議の緊迫した状況を報告した。そして「二〇〇二年ソウル国際女性会議」のアメリカやフィリピンからの基調報告を紹介しながら、九・一一以降はグローバリゼーションと軍事主義がコインの裏表となっていると指摘した。そして九・一一以降アメリカでもアジアでも、日常生活の中に軍事化が進行していることにふれ、本当の安全とは国家や軍事力によるのではなく、人間と自然環境が共存できて、人間の尊厳と文化の多様性が保証されることだと述べた。
会場からの質疑の後、結びとして高里さんは「過去の犠牲者への追悼もあるが、今は新しい戦争をくい止めることが第一だ」としっかりと語った。(首都圏通信員)
書 評
赤田圭亮・岡崎勝編 やさしい教師学入門
佐山 新
盛んな「教育」「学校」論議
「教育」はこれまでも折々の社会的政治的争点であり続けて来た。アトランダムに拾ったけでも、「学力テスト」「教員勤務評定」「期待される人間像」「道徳教育」「教科書問題」「日の丸・君が代」「受験戦争」等々。さらに中学生、高校生による耳目を驚かす犯罪事件が引き起こされるたびに、教育・学校がひとしきり問題にされてきたが、おおむね一過性の議論に終わってしまった感が強い。
今、改めて「教育」「学校」がクローズアップされている。一連の「教育改革」の流れが、この四月からの新指導要領実施、完全学校五日制開始によって一つの画期を迎えたからである。「学力低下」をめぐる議論とこれによる文部科学省の右往左往が一層関心を高めることになった。そして高校生求人率五〇%という「出口」の問題の深刻さがある。
現場の教員が編集
「二〇〇二年教育改革を問う」とサブタイトルを付された「やさしい教師学入門」は「こころの科学」という雑誌の別冊号の形で発行されている。この雑誌は一年前に「特別企画−教師の心」(
)を刊行していて、そこに寄稿していた二人の現場教師が今回の編集を担当している。赤田は横浜の中学校教員、岡田は愛知の小学校教員で、それぞれ横浜市学校労働者組合、がっこうコミュニティユニオン・あいちという教員独立組合に所属している。日教組からも全教からも独立ということのようだ。全国一七の独立組合で連絡会をつくり、毎年夏に全国交流集会を開催しているという。
生々しい証言
三〇人ほどの執筆者の大半は現場の教員で、他に養護教諭、事務職員、学校用務員、親、元教員(塾講師)、スクールカウンセラー、学童保育所指導員それぞれの立場からの文章が集められている。大学教授、批評家の原稿もあるが、なにより日々学校現場で悪戦苦闘している当事者の声が中心である。総合的な学習、評価・評定、中学校の選択教科、少人数授業等新指導要領の目玉をめぐる現場実態、「日の丸・君が代」強制、人事考課制度等管理強化にさらされる学校、子どもや親、同僚教師との関わり、さらに日常的な「サービス残業」、部活動等の実際・・・あまり知られることのない学校の現状がレポートされている。多くの教育論議はこうした実態をなおざりにして行われているなと改めて思う。
執筆者は編集者の属する独立組合周辺の人々なのであろう。その現状に厳しく批判的な眼差しは、しかし現場では共有されること少なく、少数派を余儀なくされていると思われる。取り上げられている多くは、勤務時間という基本的な労働条件の問題を含めて、本来労働運動の課題であるだろう。「『文部科学省と日教組』という対立もないから、そこに緊張感も何もない、やりたい放題の教育施策」(岡崎)が罷り通る状況は、リストラを野放図に許してしまっている労働運動のあり方とも関係しているだろう。
教育の問題はこれからの社会構想と不可分
冒頭に「学校教師よ、どこへ行く」という座談会があり、最後に「学校はどこにむかうのか」と題する鼎談が置かれている。
それぞれ現場レポートと呼応して問題を総括的に扱っていて読み応えがある。そこから浮かび上がってくるのは、教育の問題は教育プロパーでは解決されず、社会構造まで踏み込んだ改革が必要ということだ。鼎談の中で大内裕和(松山大学助教授)が語っている、「教育を拡大させて、費用をかけて手厚く育てて、その人が豊かな生活を送るというシステムが、もう仕事の場すら提供できないところまで来たときに、それ自体を問い直す必要があるのではないか。過剰サービスみたいなことをどんどん肥大化させていっても先が見えないし、若者たちは消費社会の中でしか自己実現をできない。過剰消費する以外の生き方がなくなっている」「現在の過剰な資本蓄積による環境破壊を食い止め、雇用を創出し、人々の平等と連帯を拡大する……こうした将来の社会構想と結びつけて教育のあり方を考える必要があります」と。
せんりゅう
憲法がいきて小泉金外交
らち外の補償景気を見つめている
住基ネットでよだれ流してるやつ
仮想水9トン丼一杯二百八十円也
野生種も国際交流さかんです
0・5無職の意味を悩むころ
あらそうは俺が払うと飲んだあと
ゝ史
二〇〇二年九月
○ 小泉平和外交はブッシュ武力外交を牽制した。
○ 拉致問題へ北の誠意を望む。援助型戦後補償で日本は景気策をみて、北朝鮮は経済たて直しをみている。埒外の「埒」とは、短き垣・山上の停る泉の堤・ひとし(等)・馬場の周囲のかこひ(『字源』より)。
○ 牛丼一杯には仮想水九dが使われている計算とか。文明は水もの?。
○ 外来種が生態系を乱し環境を破壊する危険感ありと日本生態学会が発表。
○ 高校新卒への求人率〇・五、思春期の悩み。
複眼単眼
たまちゃんと都会の生物たち
このところアゴヒゲアザラシの「たまちゃん」騒動がつづいた。
最初に多摩川で発見されたから「たまちゃん」なのだが、次は横浜市の鶴見川に登場したから「つるちゃん」という説、その次に横浜港、帷子川に登場したので「ハマチワン」(「釣りバカ日誌」ふうに?)、つぎに大岡川で発見されたから「オカチャン」(こんどはサッカーか?)か。
そしたら仙台市でも発見された、子どもたちの人気者になっているとか。これは「センちゃん」で何やら某野球チームの暴力監督みたいだ。まっ、仙台のは別人(別アザラシ)だろうけれど。
携帯のストラップにたまちゃんグッズまで作られたというから商魂たくましいものだ。
多摩川の汚染はひどいが、鶴見川はもっとすごい。水の流れが黒いのだから。でも、鶴見川は釣り糸を投げ込むと三〇センチくらいの鯉が釣れる。つるちゃんもこれら等を獲っていたかも知れない。鯉は東京の神田川あたりにはたくさんいる。もっとも最近の神田川には少なからず鮎の魚影まであるのだ。鯉という魚は相当に汚れた川にも住むことができるようだし、鯉が泳いでいると人は水がきれいになったかと騙される。行政当局にとっては便利な魚なのだ。
グルメブームのおかげで江戸前のテンプラ屋やスシ屋も流行ってきた。江戸前のアナゴのテンプラ、江戸前のあいなめの刺身というが、そのヘドロが堆積した東京湾の海底を想像するとどうもいただけない。
かつて東京の公害問題が大きくなった頃に美濃部さんが都知事になって青空バッチというのが流行ったことがあった。青空も、清流も、東京からは消えてしまった。「東京に空が無い」と言ったのは一九二八年の高村智恵子だった。最近はずいぶんきれいになったように見えるのだが、そこにさまざまな科学物質はないのだろうかなどなど、素人の筆者には心配のタネがつきない。
でも、たまちゃんはどうしてこんな汚れた川にやってきたのだろうか。新聞やテレビのにわか評論家の話題もつきない。
宮城県の松島湾の漁師たちはおいしい牡蛎を育てるためにと、流れ込む川を遡って、山に木を植えてる。この運動はいま北海道などけっこう各地に広がってる。
あるいはこんな問題もある。いま東京にはオウムの大群が飛びかっている。大学のキャンパスなど、いくつものコロニーができている。異様な光景である。街に散在する木々が原産地のアフリカの樹木の少ない地帯の植生に似ていて、住みやすいのではないかという説がある。
ビル街では、夜になるとアオマツムシという外来のうるさい虫が街路樹の上からピーピーと騒ぎ立てる。それは在来の虫たちの「虫の音(ネ)」などという類ではなくて、騒音だ。
都心の天皇の家の堀ではブラックバスが繁殖している。タンポポは在来種が駆逐され、外来種が謳歌している、などなどきりがない。サルが六本木の街を騒がせたのは去年だったか、一昨年だったか。都会でタヌキもしばしば見るようになった。
さてどうしよう、今回のコラムのオチは。やっぱり、わざわざ横浜までは行かないが、神田川にアザラシがきたらカンちゃんを見に行こうかな。(T)