人民新報 ・ 第1074号<統合167号> (2002年10月15日)
目次
● 全力をあげ、有事法案を廃案へ 米軍のイラク総攻撃反対!自衛隊の協力・参戦許すな!
● 10・18院内集会を契機に、連続行動を闘いぬこう
● 戦争反対、有事法制を廃案にを掲げ、市民緊急行動が再出発の集会
● 改憲へ走る憲法調査会 憲法調査会市民監視センターがシンポジウム
● アジアの民衆と共同で、アメリカ大使館などに一斉行動展開
● 国立市の市民学習会 有事法制について政府の再回答
● 自然保護団体や宗教団体など各界から有事法制反対の声明相次ぐ
有事法制に反対する決議・全国自然保護連合
イラク攻撃に反対します・日本キリスト教協議会議長鈴木伶子
反戦、有事法案を廃案・市民緊急行動発足アピール
● 文科省『心のノート』批判……強化される「心」の管理教育 教育問題研究グループ
● ピースフル トゥモローズ九月一一日の家族より<一年後・二〇〇二年九月一一日の声明 (要旨)>
● 月刊誌『技術と人間』一〇月号特集 有事法制三法案を廃案に
● 複眼単眼 / ブッシュの戦争政策の陰で 暗躍する石油資本
全力をあげ、有事法案を廃案へ
米軍のイラク総攻撃反対! 自衛隊の協力・参戦許すな!
石破・新防衛庁長官の策動に警戒を
「一分一秒が真剣勝負。特に有事法案は一日も早い成立に全力を挙げて努力したい」、これは小泉改造内閣で防衛庁長官に就任した石破茂長官の最近の発言だ。
石破長官の就任で「継続審議になっている有事関連法案の臨時国会成立に、政府・与党内で期待感が再び高まっている」といわれる。小泉首相周辺は「石破長官の起用は臨時国会成立シフトだ」と言っているし、安保・防衛問題のタカ派である福田官房長官、安倍副長官を加えたトリオは有事法制対応シフトそのものだ。
すでに前国会から指摘されてきた法案の問題点については、政府・与党の間で修正案の作成が進められ、報道を通じて一部がリークされている。それらは、@国会審議の過程で答弁に混乱をきたした武力攻撃の「恐れがある場合」、「予測される場合」などについての定義の変更、A「テロ、不審船対策の明確化」などだ。石破長官は民主党の若手の前原誠司衆議院議員などとも協議を進めているといわれ、@では政府も従来の自衛隊法と武力攻撃事態法案の三段階案を「武力攻撃事態」と「武力攻撃予測事態」の二段階にする方向だ。
一部の報道にある「有事法制、臨時国会見送りか」などの情報はとんだ食わせ物だ。たしかに国会の日程と法案の審議を考えれば、深刻な経済危機の問題もあり、政府・与党にとっては有事法制採択は容易ではない。しかし、危機にあるからこそ、先般の小泉訪朝のように、有事法制の中央突破もありうるとも見なくてはならない。いずれにしても継続審議にされた同法案の審議が臨時国会で始まるのは間違いない。そのあとは世論の動向などが反映されるだろう。肝心なことは、いま反対運動の手を緩めるのではなく、さらに世論を起こして有事反対の声を大きくすることだ。そうしなければ、悔いを千載に残すことになりかねない。
有事三法案の修正の模索と、危険な「国民保護」法制
石破長官は「『予測』も『恐れ』もすべて武力攻撃事態ということでは無理がある。武力攻撃事態法と自衛隊法の整合も必要だ」「(テロ対策で)治安出動でどこまで対応できるか検証し、足りなければ法整備が必要だ。警察、海上保安庁との関係を整理したい」などとも述べ、自衛隊の警察権への介入、治安の前面への登場も検討している。
またもう一つの問題の「国民の保護のための法制」については、その「基本的な構成」の素案が一〇月八日の全国知事会で内閣官房から提示された。報道によると、有事に際して、被災者救援や被害復旧などのために一般国民が参加する民間防衛組織の設置に向けて、『国民の協力』を明記し、禁止事項や行政命令などに従わない場合の罰則も検討されている。国民の協力では「有事の際の原子力施設の被害防止や、ボランティア活動に対する国民の協力」なども盛り込まれている。これはまさに「国民の戦争動員」に道を開くものだ。
米国のブッシュ・ドクトリンとイラク攻撃準備
米国のブッシュ政権は九月下旬、「米国の国家安全保障戦略」を発表した。それは「米国の価値観と国益」を追求する究極のユニ・ラテラリズム(単独行動主義)、「ブッシュ・ドクトリン」となった。新戦略はイラクなど「大量破壊兵器」を持つ国への核攻撃をも含む先制攻撃を正当化し、こうした「テロリスト」や「独裁者」の脅威から平和を守る決意を表明した。そして、「必要に迫られれば、先制攻撃のための単独行動も辞さない」と宣言した。そして世界的規模で米国と同等以上の軍事力の存在を許さないと言う、唯一の超大国としての圧倒的な軍事力による世界支配を宣言した。史上、かつてこれほどあからさまに傲慢な覇権主義を宣言した者は、ドイツの閣僚の言を借りるまでもなくヒトラーくらいではないか。
いま、ブッシュはイラク政府の査察受け入れ声明も一蹴して、総攻撃のための軍事的準備を急いでいる。すでにペルシャ湾の第五艦隊を中心にクウェートなどに大量の兵力を結集して、攻撃の準備を急いでいる。
小泉政権と米軍の共同作戦に反対
アメリカのイラク攻撃とアフガン戦線からの米軍兵力の移動を想定し、日本政府はアフガンでの自衛隊による治安活動まで可能にする「新テロ特措法」を検討している。現在の法律は9・11「テロ対応」で作られており、アフガニスタン国内での自衛隊の活動はできないからだ。しかしこれはアフガン戦線での本格的戦闘への参加となる。
一方で自衛隊のインド洋・アラビア海への派遣期間の切れる十一月十九日に、政府は最大六ヶ月で再々度、期限を延長して、海自派遣を継続する方向を検討している。
これらはいずれも八月に来日したアーミテージ米国務副長官に中谷防衛庁長官が「対テロ特措法の延長線上であれば協力できる」と約束したことの具体化であり、日米共同作戦の一層の推進だ。
このような自衛隊の参戦を絶対に許すことはできない。
いまこそ、全国各地で有事法制阻止、米軍のイラク総攻撃阻止、小泉政権の戦争加担反対の声を大きく盛り上げ、圧倒的世論を作り上げよう。
10・18院内集会を契機に、連続行動を闘いぬこう
十月十八日から百五十五臨時国会が始まる。有事法制に反対し、米軍のイラク総攻撃反対、自衛隊の参戦反対、労働者・市民の生活防衛を掲げ、全力をあげて小泉政権と対決しなければならない。
十月十八日(金)十二時半から宗教者と市民の呼びかけで院内で開催される緊急集会は重要だ。集会には社民党、共産党の党首や、民主党の横路グループなどが参加し、陸海空港湾二〇労組、日弁連、日青協など各界の代表が参加する。一五五臨時国会における闘争の重要な出発点だ。
一〇月二三日一二時からは日本弁護士会が有事法制反対で画期的な国会行動を行う。
一〇月二七日(日)にはアメリカでの反イラク戦争の「大集会」に連帯して、国際連帯集会が日本でも開かれる。東京では市民緊急行動やいくつかの市民団体が共同行動を準備している。
一五四国会での有事法制反対闘争の中心を担った二〇労組と宗教者の実行委員会は一一月下旬頃、数万人規模の大集会を開く準備に入った。ほかにも大小様々な企画が諸団体によって準備されている。各地でも一層奮闘しよう。
戦争反対、有事法制を廃案にを掲げ、市民緊急行動が再出発の集会
米軍のアフガン空爆から一年目にあたる一〇月七日の前日の一〇月六日午後、都内で「戦争反対、有事法案を廃案に、市民緊急行動」発足シンポジウムが開かれ、さまざまな市民団体から一五〇名を超える人びとが出席した。
集会はアジア経済研究所の酒井啓子さんと、非核市民宣言運動ヨコスカの新倉裕史さんの講演の後、昨年来の「テロにも報復戦争にも反対!市民緊急行動」が果たした役割を積極的に評価し、共同の場として全体で市民緊急行動の再編・再発足を確認した。
酒井さんは「楽観的なことが言える状況ではない。アメリカはやる気だ」と述べ、「アメリカの目標はイラク政権の転覆にある。国連査察などは9・11ネタが使えなかった口実で、イラクが査察を認めてもやるだろう。9・11以降、アメリカとブッシュ政権は特殊なムードにある。しかしイラク政権はそんなに簡単に倒れるだろうか、新政権の展望も見えない、周辺国が流動化する不安もある」と指摘した。
新倉さんは「有事法制に反対する上で、自治体の平和力に注目すること。そして危険性の暴露に尽きるのではなく、法案の弱点に注目する必要があること」などを強調した。
市民緊急行動事務局の高田健さんが基調を提起し、@有事法制は「継続審議」になった。政府与党の一部からは臨時国会での有事法制採択を断念の声もある。しかし、小泉内閣は審議をすすめ、「採択」への準備を進めるであろうことは疑いない。「廃案」を目指す運動の強化はより重要な課題だ。A米軍のイラク総攻撃が迫っている。これに反対し、小泉内閣の協力・参戦をゆるさない運動は緊急の課題になった。イスラエルのパレスチナへの国家的テロ攻撃やめさせるための運動と共に、大きな展開が必要だ。Bこれらの動きに抗して、従来の運動を立て直し、この秋、「有事法案廃案」「イラク総攻撃阻止」に向けて大きく発展させるために、本日を契機に秋の共同行動のための市民のネットワークを発足させる、として、C一〇・十一反戦市民集会、一〇・十八有事関連三法案の廃案を要求する国会議員と宗教者・市民の緊急院内集会、十一・二七アメリカのイラク攻撃反対、反戦国際連帯集会など当面の諸行動を提起した。
改憲へ走る憲法調査会
憲法調査会市民監視センターがシンポジウム
衆議院憲法調査会(会長・中山太郎)は一部野党の反対を押し切って、十一月三日に同調査会の「中間報告」を提出するよう準備を急いでいる。これは、「五年を目途に」して発足した憲法調査会が二年十か月を経て、既成事実つくりのための折り返し点の確認と、改憲への作業のスピードアップの目的を持つものであり、市民運動などからは「危険なもの」という指摘がされてきた。すでに憲法調査会事務局は五〇〇ページにも及ぶ膨大な報告書を準備しつつあるようだ。
「中間報告」提出予定を約一か月後に控えた一〇月五日午後、憲法調査会市民監視センターが主催するシンポジウム「改憲へ走る憲法調査会を批判する」が都内で開かれ、約一〇〇名の市民や研究者などが参加し、熱心に討議した。
シンポジウムは司会を弁護士の内田雅敏さんが行い、冒頭に市民監視センターを代表して、憲法学者の古川純・専修大学教授が挨拶した。パネリストは高田健(市民監視センター事務局)、新垣勉(日弁連有事法制問題対策委員会副委員長)、山内敏弘(一橋大学教授)の各氏であった。
古川さんは「最近、市民社会のあり方が息苦しく感じられる。最近の『諸君』
という雑誌では『国賊』という言葉が踊っている。これが当たり前になっていったらどうなるのか。これは一九三〇年代から四〇年代にかけて『それでもお前は日本人か』といわれていたことと同じです。ヴォルテールの有名な言葉に『君の意見には反対だが、君がその意見を言う権利を私は死んでも擁護する』というのがある。これが今確認されなくてはならない」と述べた。
高田さんは憲法調査会の傍聴の経験による報告をした。「改造内閣で石破防衛庁長官が誕生したことは有事法制シフトが強化されたことを意味する。出されようとしている中間報告は膨大なものだが、結論を言えば改憲の意見が調査会では多かったというものになる。そしてあと二年後には最終報告、採決してでも結論をだす、といっている。そして憲法改正常任委員会を作ると中山さんが言っている。憲法調査会は当初、護憲、改憲、論憲の三つがあるといわれていたが、今日では民主も公明も論憲から改憲へと移行した。国会の改憲議席を確保する条件が作られてきた。警戒を要する」と述べた。
新垣さんは「日弁連は右から左までいるが、一人反対しただけで有事法制反対の決議案に賛成した。弁護士団体は具体的な事実にもとづいて憲法で判断する。有事法制は第一に国家を優先させる考え方だ。憲法は個人の尊厳を大切にする。第二に武力で安全を確保するという、武力依存の考えだ。有事法制を考えるには、一つは万が一の場合にどうなるか、もうひとつは有事法制を持つことで平時にどうなるかの二つの側面があり、両面で検討すべきだ。おそれるのは有事法制ができることで個人の尊厳よりも国家が優先する風潮が蔓延する。日常の中で有事に備える訓練が日常的にやられる。だから将来のことではない。さらに日米同盟の米英同盟化がすすめられる。有事三法案は憲法改悪の先取りだというのが日弁連の立場だ」と述べた。
山内さんは「有事法制は憲法の三原則を根底から揺るがすものだ。これが成立すれば、改憲への道は一瀉千里だ。法案には初めて『国民の安全の確保』という言葉がでてきた。しかし、国家の安全だけを考えている自衛隊法の三条は変わっていない。防衛庁のHPを見ると自衛隊の戦闘行動の際、自衛隊が敵を排除する場合、国内行政法規に違反することがあっても違法でなく、仮に相手国兵士だけでなう自国民を殺傷しても罰せられないとある。司馬遼太郎が兵隊だったときに、上官に戦車の行く手に避難民が逃げてきたらどうするかときくと、ひき殺せといわれて驚いた話があるが、同様ではないか。以前、この憲法調査会は改憲のための既成事実づくりだと言ったことがある。参考人として出席して発言されることも意味があるが、私は出席しないできた。中間報告もかなり恣意的なものになりそうだ」と発言した。
アジアの民衆と共同で、アメリカ大使館などに一斉行動展開
平和のネットワークを
十月七日、アメリカの戦争に反対するアジア民衆の共同行動が取り組まれた。
これは、アジア平和連合(APA)ジャパン準備会の呼びかけによるもの。
八月から九月にかけて、フィリピン・ケソン市のフィリピン大学に一六カ国、一四〇人の人びとが集まり、アメリカの戦争と社会全体の軍事化の深まり、民主主義と人権の蹂躙に反対するアジア平和連合(APA)の結成された(日本からもさまざまな分野と地域で平和のために活動している一五名の人びとが参加した)。
一〇月五日から八日にかけて、全国の各地域でも「アメリカの戦争に反対するアジア民衆行動」と結びついたさまざまな行動が取り組まれ、多様な形で平和のためのネットワークが形成される。
当日の取り組み
午前十一時からは衆院議員会館で記者会見が行われ、いくつかの市民団体が報告した。
午後二時からは、米大使館申し入れ行動が展開された。
アメリカ大使館前では、戦争反対の横断幕や、アフガニスタン、イラク、韓国などでの米軍による住民虐殺の写真が掲げられた。アジア平和連合(APA)、NOレイプ・NOベース女たちの会、平和を実現するキリスト者ネット、未来を考える会、日本山妙法寺からアメリカ政府に対してイラクへの侵略を中止するよう発言が続き、APAジャパンや日本キリスト教協議会などからの申入れ書が大使館を通じてブッシュ大統領に送られた。
午後六時半からは、渋谷・宮下公園で集会が行われ、集会後、渋谷の繁華街で市民にアピールした。
APAジャパンの申し入れ書(要旨)
米軍はアフガニスタンか撤退を!
イラクヘの戦争をやめろ!
米軍が、「9・11テロ」への「報復」を名目に、アフガニスタンヘの爆撃を開始してからちょうど一年がたちました。この間、米軍は核兵器以外のありとあらゆる大量殺戮兵器を無差別に使用して、多くのアフガニスタン民衆の命を奪いました。この犠牲者の数は、「テロリストとの闘い」によっては正当化されないものです。しかも、タリバン政権が崩壊した今日でもアフガニスタンでの戦争は続いており、「誤爆」による新たな犠牲者が積み重ねられています。
そればかりではありません。「9・11」は「テロに対する闘い」を名目にして、貴国が世界規模に戦争を拡大し、人権と民主主義を抑圧するひきがねとなりました。「自由の国・アメリカ」でも、アラブ系・ムスリム系の移住労働者たちが菱判もないまま長期にわたって拘留されるなどの差別と弾圧が拡大しています。米軍はフィリピンに軍事介入し、長期にわたって駐留を続けています。イスラエル・シャロン政権のパレスチナの人びとに対する侵略と虐殺は、貴国の「対テロ戦争」と密接につながるものであり、貴国の責任は重いといわざるをえません。
その上いま、貴国は、国連や国際法の枠組みを無視してまで、イラクの「フセイン体制打倒」の戦争に踏み出そうとしています。すでに一九九〇年以降、今日まて続く「経済制裁」による医薬晶や生活物資の欠乏のために、すでに一〇〇万人をはるかに超えるイラクの人びとが命を失っています。そのほとんどは五歳以下の子どもたちです。米軍が「湾岸戦争」で使用した劣化ウラン弾の放射能披害によって、今日も多くの人びとが白血病やガンを発病し、さらに身体に障害を持って生まれ、乳児のうちに死んでしまう子どもたちの数も増えつづけています。
あなたがたは、湾岸戦争をはるかに上回る規模の全面戦争を開始することによってイラクの人びとにさらに耐えがたい悲しみと苦しみを強制しようとしているのです。これは戦争犯罪以外のなにものでもありません
APAの結成会議では、米軍が駐留している日本・韓国・フィリピンを中心に、本日一〇月七日を中心に、アフガニスタンでの戦争の即時停止、米軍の撤退、イラクヘの戦争を行わないこと、アジアからの米軍基地の撤去、移住労働者や難民などへの人権侵害を行わないことなどを求めて、「アメリカの戦争に反対するアジア民衆行動」を行うことになりました。本日私たちは、その行動の一環として貴国への申し入れ行動を行っています。
私たちは、訴えます。
●アフガニスタンからの米軍の撤退を
●日本・沖縄、韓国、フィリピンなどアジア全域からの米軍基地の撤去を
●イラクヘの戦争の中止を
●イラクヘの経済制裁の撤回を
●イスラエル・シャロン政権への軍事援助の中止を
●「反テロ法」による人権侵害をやめ、移住労働者、難民、外国人の人権擁護を
以上、申し入れます。
二〇〇二年一〇月七日
APAジャパン準備会
国立市の市民学習会
有事法制について政府の再回答
国立市の上原公子市長は、五月十六日に有事法制に関して政府への「質問状」を提出して、六月二十一日に、内閣官房、防衛庁から回答があった。しかし、上原市長は、有事三法案について同市が小泉首相に送付した質問書への政府回答に「全く回答をされていない」部分があるとして、七月十六日に再質問書を提出した。この再質問書は、政府の回答のうち「全く回答されていない」「抽象的で具体的ではない」「回答に納得できない」十九項目について問題点を詳細にただし、七月三十一日を期限に首相の回答を求めた(国立市長の質問・再質問については本紙一〇六七〜一〇七一号に資料として掲載)。政府はこのほど、国立市に再回答を寄せた(内閣官房のみで、防衛庁からは回答なし)。
十月三日、東京国立市役所会議室で平和事業として有事法制に関する市民学習会が開かれた。
はじめに上原公子市長があいさつ。
有事法制は、戦争がおこった場合に自治体として、市民としてやることを定めるものとされているが、こうした重大な法律なのにきわめてあいまいなものがだされてきている。市民に責任をもつ自治体として政府に質問をしたが政府の回答はまったく具体性を欠いている。こうしたものさえ当初は出さないつもりだった。国会での議員の追及などによってようやく出してきたものだ。有事法制は自らの生活を左右する。わが身の法律と考えて対処していきたい。
つづいて地元国立市にある一橋大学の山内敏弘教授が有事法制化を考える―政府回答とその問題点―」と題して講演した。
山内敏弘さんのお話
自治体に重大な影響を及ほす法案について、自治体の長として質問書を政府に出したことは、きわめて意義のある行為である。国立市はそれを市のホームページに載せ、市主催の学習会をひらいている。
政府の「回答」は、質問項目毎に回答が寄せられているわけではないし、回答も有事関連法案を反映してか、抽象的なものが多い。重要な質間事項について、きちんとした回答がないものがいくつもある。とくに自衛隊法改正案(防衛庁所管)については、防衛庁のホームページのQ&Aの参照を指示するのみである。これでみるように自治体の長に対する誠意ある回答がなされたとは思えない。
まず有事法制と日本国憲法憲法九条(戦争放棄)の関係では、「戦争放棄」をうたった憲法の下で戦争のための法制整備をすることだ。政府は災害対策基本法などと有事法制とを同一視して説明しているが、それは成り立たない。
日本に対する「武力攻撃」の現実的危険性についての質問に回答はなかったが、これは現実的危険性はないということなのか。
「地方公共団体の貴務」等については、全体として無回答が多く、回答があっても抽象的なものが多く、「一定の役割を担っていただく」とあるのみで、具体的な任務は今後の法制で定めるとされていて具体的なことはまったく不明だ。
また、「自治体の長が戦争協力拒否した場合に、当該自治体及び首長にどういうことが起こるか」「自治体が協力拒否した場合、首長または拒否した職員の罰則も今後作られるか」の質問についても回答はなかった。政府は、武カ攻撃事態において地方公共団体が実施する「対処措置」は、「法定受託事務」であると考えている。しかし、そのような考えは、憲法の「地方自治の本旨」からすれぼ、少なからず問題があると思われる。
米軍との支援との関連では、自衛隊と米軍との指揮命令関係如何という質問に対する回答はなかったが、これには、「密約」があると言われている。
有事三法案の中の自衛隊法改正案については、市長による再質問に対して、防衛庁からの回答はない。
自衛隊法改正案では、基本的人権の保障については、抽象的な「公共の福祉」諭で適用除外規定・特例措置を正当化しているが、納得できない。
自衛隊法八八条(防衛出動時における武力行使)と国内法との関係だが、防衛庁のHPのQ&Aでは、行政法規上も、刑法上も「正当行為」とされているが、これは日本国民を殺しても違法でないことを意味している。
いま必要とされるのは、有事法制などではなく、自治体平和外交の推進であり、非核平和都市条例の制定だ。そして、国レペルで「非核三原則」を法制化すると共に、自治体のレベルでも条例化することが望ましい。そして、そのような法制化・条例化を踏まえて、東北アジア非核地帯を作るぺく、近隣アジア諸国に積極的に働きかけていく。北朝鮮の核開発をやめさせるためには、日本も核開発をしないという意思を「非核三原則」の法制化・条例化によって明示することが必要であると思われる。また、無防備平和都市条例の制定が望ましい。国際刑事裁判所規程の下では、無防備都市の住民に対する武力攻撃は「人道に対する罪」として処罰されるからだ。
自然保護団体や宗教団体など各界から有事法制反対の声明相次ぐ
有事法制に反対する声ががさまざまな団体からあがり始めた。
九月二九日、約六〇の団体が加盟している全国自然保護連合の第十四次大会において、「有事法制に反対する決議」が採択された。
有事法制に反対する決議 全国自然保護連合
政府が秋の臨時国会で成立させようとしている「有事法制関連三法案」は、私たちの自由や権利や日常生活を、戦争に協力させるために大きく制限し、あらゆる分野で軍事を優先させる悪法である。
戦争そのものが最大の自然破壊・人間破壊であることは言うまでもない。第二次世界大戦の反省に立って、私たちは「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」ことを定めた憲法を持つにいたった。憲法で放棄した戦争を準備するための法律が憲法違反であることは明白である。
法案のひとつである自衛隊法の「改正」案には、自衛隊の活動を円滑に行うために、すでに存在するいくつもの法律について、適用除外や特例規定が多数盛り込まれている。私たちがこれまで自然を守るために活用してきた自然公園法、海岸法、河川法、森林法などによる規制も、自衛隊の行動については全面的に撤廃され、国立公園の特別地域における工作物の新築、木竹の伐採、土石の採取なども、自衛隊は「通知」するだけで作業が可能となる。これまで自然を守る運動などによって、かろうじて守られてきたわが国の貴重な自然が、いつ破壊されても当然のような状況を作りだす法案は断じて認める訳にはいかない。
私たちは日本政府に対し、政府が日本国憲法に基づく平和外交に徹し、武力衝突を絶対に避けることを要求し、大規模な自然破壊を合法化する「有事関連三法案」を撤回し、廃案にすることを求める。
二〇〇二年九月二九日
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
イラク攻撃に反対します 日本キリスト教協議会 議長 鈴木伶子
米合衆国大統領 ジョージ・ブッシュ大統領殿
親愛なる大統領閣下
私たちは日本にあるキリスト者として心から世界の平和を願い、神が私たちを平和と和解のための道具として用いてくださる事を祈っています。
私たちは、米国における「九・一一事件」でなくなられた市民の死を共に悼み、その残されたご家族の痛みと悲しみを共にしています。しかし、同時に「テロヘの戦争」という名目で一〇月七日から始められた米国によるアフガニスタンヘの軍事行動によって殺された数千人にのぼるアフガニスタン人の死を同じ痛みと悲しみをもって覚えています。
私たちは今、この時に、如何なる形での暴力の行使もが、神が創られて良しとされた被造世界を破壌し、神に似せて造られたいのちを人間の手によって奪い取るものであること、そして暴カは、暴力の連鎖しか生み出さず、真の問題の解決と平和をもたらすものでないことを主張すべきだと考えています。
ブッシュ大統領が、イラクを「悪の枢軸国」だと非難し、イラク攻撃への危機が差し迫るこの時に、私たちは日本キリスト教協議会の名において米国単独であれ、国連決議によるものであれイラク攻撃に反対を表明します。もしアメリカがイラクヘの攻撃を開始するなら、アフガニスタンにおけると同様に多くの非戦闘員、特に女性、子ども、高齢者がその犠牲とされる事が容易に予想されます。
今日イラクでは、湾岸戦争以来の制裁処置によって食糧・医薬晶など日常必需品の輸入が制限され、それによって多くの子どもたちが病気で死に、飢えで苦しんでいます。また、米国によるイラクヘの攻撃は、中東地域の平和と安全を脅かし、それが世界にもたらす影響力は計り知る事が出来ません。
私たちは、アメリカが大国主義・一国主義の立場に立って世界の警察官のように振る舞うのではなく、世界の国々や人々と平和と和解を求めて共に歩む国になって欲しいと願っています。
ブッシュ大統領が、イラクヘの攻撃の方針を変え、イラクとの平和と和解に向けた対話の努力を忍耐を持ってしてくださることを願います。そして神がブッシュ大統領に、暴力を使わないで問題の解決に向かう勇気と知恵を与えられるように祈ります。
二〇〇二年九月二六日
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
反戦、有事法案を廃案
市民緊急行動」発足アピール
「九・一一テロ」への「報復」として、米軍がアフガニスタンへの空爆を開始した「一〇・七」から一年がたちました。米軍は核兵器以外のありとあらゆる最新鋭大量殺戮兵器を無差別に使用して、多くのアフガン民衆の命を奪い、タリバン政権を打倒しましたが、戦争はいまなお続いています。そればかりではありません。
「九・一一」は「テロに対する戦い」を名目にして、ブッシュ政権が世界規模に戦争を拡大し、人権と民主主義を抑圧する引き金となりました。とりわけアラブ系、イスラム系の移住労働者たちへの差別と弾圧が広がっています。イスラエル・シャロン政権のパレスチナの人々に対する侵略と虐殺は、こうしたブッシュの「対テロ戦争」と密接につながっています。
ブッシュ政権は、国連や国際法の枠組みを無視した、「フセイン体制打倒」のための戦争に踏み出すことを宣言しました。一九九〇年の「湾岸危機」以後の「経済制裁」や、湾岸戦争で米軍が使用した劣化ウラン弾の放射能被害によって一〇〇万人以上のイラクの人々が殺されています。そのほとんどが子どもたちです。
ブッシュ政権は、湾岸戦争をはるかに上回る規模の全面戦争をしかけることによって、イラクの人々にさらに耐えがたい悲しみと苦しみを強制しようとしているのです。これはアメリカによる戦争犯罪以外のなにものでもありません。
日本の小泉政権は、「九・一一」直後からアメリカの「報復戦争」を支持し、憲法を破壊する「テロ対策特措法」を成立させて、自衛艦をインド洋に派遣しました。日本は「参戦国家」となったのです。そして一五四通常国会には有事法制三法案を上程し、戦争国家体制のための法的整備に乗り出しました。多くの人々の反対によって有事三法案は「審議未了・継続審議」となりましたが、小泉政権はあくまでもこの戦争法案を早期に成立させるための機会をうかがっています。
私たちは、ブッシュの戦争をやめさせなければなりません。有事法制の成立を阻止しなければなりません。
「テロにも報復戦争にも反対!市民緊急行動」としてアメリカのアフガン戦争に反対し、有事法制三法案に反対してきた私たちは、「テロにも報復戦争にも反対」の原則にたって、米軍のアフガンからの撤退、対イラク戦争反対、イラクへの経済制裁撤廃、日本の戦争協力と有事法制反対の意思を明らかにし、平和のための運動を再出発させます。私たちは、殺すことも殺されることもごめんです。
皆さん、世界の人々とともに行動しましょう。
二〇〇二年一〇月六日
文科省『心のノート』批判……強化される「心」の管理教育
教育問題研究グループ
「処分」をタテに、卒業式等での『日の丸・君が代』の実施率を限りなく百パーセントに近づけた政府・文科省は、いよいよ「心」の管理教育の強化を開始した。
「道徳」の副読本として、今年四月から配布・使用が始まった『心のノート』は、国家に都合のよい人間づくりを意図した、まさに現代版「修身」ともいえるものである。
『心のノート』について批判する前に、まず簡単に戦前の「修身」についてふれておく必要があろう。
戦前の「修身」は、「教育勅語」と並んで皇国民化教育を支え、国民学校の学科の中でも最も重要視された学科であった。そこでは、「忠君孝行」が説かれ、子どもたちは教師からスラスラと唱えることを要求され(時には顔を殴打され)、「修身」に描かれている人間に育つことが大きな美徳であった。かくして戦争を下支えする「少国民」が形成されていったのである。
戦後、当然のことながら、戦前教育の反省から、「修身」は「教育勅語」と共に廃止された。しかし、朝鮮戦争を契機に大きく右旋回した教育政策により、一九五〇年代には早くも「反省」が忘却の彼方へと追いやられ、「道徳」が登場する。一九五八年の学習指導要領改訂において、はじめて「小中学校の教科に週一回、道徳を特設する」ことになる。実は、学習指導要領は、この年の改訂から
「官報告示」となり、「試案」の二文字も削除され、同時に「日の丸・君が代」の指導も持ち込まれた。つまり、「道徳」は「日の丸・君が代」とセットで「復活」したのであった。
当時、日教組は、「修身の復活」として警戒し、「道徳」を行わない、形骸化する運動を全国的に展開した。しかし、次第に強まっていく教育の国家統制により、学校現場に「道徳」の時間が定着していった。それでも、現場では良心的な教育労働者たちによって、「形骸化」の取り組みは今なお続いている。また、やむを得ず「道徳」の授業を行わなければならない状況にあっても、子どもたちに一定の価値を押しつけることだけは避ける授業が脈々と受け継がれてきた。そのことを反映し、これまでの「道徳」の副読本では、一定の価値を結論づける記述は避けられてきていた。しかし、今回の『心のノート』は、これまでの副読本とは明らかに一線を画すものになっている。
『心のノート』は、(一)自己の在り方(二)他の人との関わり方(三)自然や崇高なものとの関わり(四)集団や社会との関わり、の四つの視点から構成されているが、この視点は、「修身」ともよく似ているが、同時に教育改革国民会議の提言に沿った内容でもある。教育改革国民会議の最終報告の前半には、まさにこの四つの視点が示され、そして後半では(『心のノート』の)幅広い活用も示唆されている。
具体的な内容をみてみると、例えば、小学校一,二年生の「うそなんか つくもんか」では、うそをついた自分に対して、まるで周りが怒っているかのようなイラスト、そして、うそを告白した後の晴ればれとした表情のイラストが掲載され、最後には「もう うそなんか つかないぞ」と結論づけている。さらに、次ページには「すっきり過ごせた日」の点検表までがある。
一定の価値について結論づける点は「修身」とよく似ているが、その手法は(綺麗なイラストと共に)はるかにソフトで巧妙であるといえる。「修身」は説教調であったのに対し、『心のノート』は、その価値項目について自己点検を行い、さらに行動を促し、そしてそれを繰り返していくことによって自分の考えのようになっていくという、教師用手引きに記述されている「一人一人の児童生徒が道徳的価値を自ら求め、自覚していく」ための手法をとっている。
つまり、『心のノート』は、国家にとって都合のよい、一定の価値について明らかにし、その価値にそって点検・行動することを要求する、さらには、『実態調査』という圧力で全国すべての公立小中学校での活用を強いる。そして、これを小学校から中学校まで九年間くり返すことによって、最終的には「我が国を愛し、その発展を願う」国民に育成(教育改革国民会議でいわれる日本人の育成でもある)することを狙っている。
「心」の管理教育をさらに徹底させるという意図を露骨に打ち出したという点において、これまでの「道徳」副読本とは明らかに一線を画し、まさに現代版「修身」ともいえる代物であることを警戒しなければならない。
ピースフル トゥモローズ九月一一日の家族より
一年後・二〇〇二年九月一一日の声明 (要旨)
ピースフル トゥモローズのメンバーにとって、二〇〇一年九月一一日は身近な人々を失った、想像を絶するような悲しみの日です。私たちはそれぞれ世界貿易センターやペンタゴンで、またペンシルバニアのシャンクスヴィル付近の九三便航空機墜落で家族たちを失いました。最愛の人達をこのような暴力の最たる行為で失うということは私たちを深く打ちのめしました。それは一年どころか生涯立ち直れない程の深いものです。
しかし、このような辛い喪失の日々を重ねる中で、私たちは同時に、信じられないほどの贈り物を受け取ったのです。私たちは、この個人的かつ国家的悲劇に際し、戦争や暴力に訴えることを公にはっきりと反対を表明しましたが、それ故に友人を得たのです。そして、九月一一日の罪に対する答えは戦争ではない、という私たちの見解を同じく分かち合う人々が、アメリカに何千人と、世界中に何百万人といるということを知ることができたのです。
今、自由を守る闘いが、この国の中で始まるということを悟らせてくれました。私たちがおたがいに支えあわなければ、とりわけ、おたがいの相違を含めて支えあわなければ、私たちは、既に戦いに敗れてしまったことになります。
私たちは、また、テロや戦争による罪のない犠牲者たち、国境を越えてはるか遠くにいる犠牲者たちとも近しい仲間同志であるということを認識するに至りました。私たちに同情の手を差し伸べて下さった方々の中には世界各地の戦争や暴力で愛する人を亡くした方が大勢いることを知りました。
広島、長崎から来てくれた人達、イスラエル、パレスチナ、アフガニスタン、イラン、コロンビア、アイルランドなどの地域の人々、ほかにも恐るべき喪失の体験をした人々。彼等が私たちを世界規模の大きな家族の輪の中に入れてくれたのです。
あの日以来、はっきりしたことは、アメリカは国際社会に十分に参加しなければならないことです。国際条約を尊重し、国際刑事裁判所に参加すること、国連憲章に従い、国連の規約に言動一致で臨むことです。
アメリカという国はみんなで分かち合う地球の一部なのだ、という深い認識を中心に据えて、ピースフルトゥモローズは使命を果たしていくつもりです。アメリカはもはや、一方的な行動を選択すべきではありません。私たちは二一世紀に生きています。 私たち、そして私たちの子孫は一つにつながった世界の中で生きていくことになるでしょう。私たちはもはやこの世界の外側で生きていくことは出来ないのです。
四〇人以上のアメリカ兵がアフガニスタンへの従軍で命を落としました。しかし他国による警察活動・諜報活動・または外交ルートでも、アルカイダの重要人物の逮捕にほとんど成功していません。
アフガニスタンでは、何千人もの罪のない人々が爆撃にさらされ、何百万人もの生命が二〇年に及ぶ戦争の結果、貧困、飢餓の危険にさらされ続けています。そしてその状態は、アメリカの最近の攻撃で悪化させられています。私たちピースフル・トゥモローズのメンバーはアメリカによる空爆で愛する人々を失った罪のないアフガンの家族たちを訪ねました。
国内では、九月一一日の悲劇への軍の反撃に寄せる国民の信頼が異常なまでに高まっています。我々の国家も九・一一攻撃はどのようにして、なぜ起こったのか、将来起こりうる同じようなテロから我々を守るにはどうすべきか、より有効で、中立的な探索を始めるべきです。
今日、ピースフル・トゥモローズのメンバーは私達に国が間違った方向に向きを変え始めているのではないかと懸念しています。
アメリカは力が強いゆえに偉大なのだ、という評論家がいます。私たちは、アメリカは偉大であるが故に力が強いのだと思います。アメリカは軍事力の強さだけでなく他の様々な強さ、法律的・道徳的・精神的・知的強さを持っています。私たちは、これらすべての強さが活用されなければならないと思います。
私たちの声をみんなで発することによってのみ、私たちは正義への道を見つけることができるでしょう。正義を通してのみ、私たちは平和を見つけることができるでしょう。私たち自身の平和、また、九月一一日に愛する家族・友人・働き手を失って悲嘆の中に暮らしているアメリカ人たちの平和を。アメリカの爆撃や二三年間の戦争で愛する人を失って嘆き悲しんでいるアフガニスタンの人々の平和を。そして、世界各地の同じような体験を持つ人々や家族達の平和を。私たちは彼等を私たちの兄弟、父母、子ども、孫として受け入れます。九月一一日の八〇ヶ国、三〇〇〇人の犠牲者たちは私達に教えてくれます。私たちは世界中皆つながっているということを。私たちの嘆きは彼等の嘆きです。私たちの世界は彼等の世界です。私たちの運命は彼等の運命なのです。
(一〇月十一日、東京でピースフル・トゥモローズのメンバーを迎えて反戦市民集会が開かれた。報告は次号に掲載予定)
月刊誌『技術と人間』一〇月号特集
有事法制三法案を廃案に
臨時国会を迎えて、さらに有事法案反対の運動を強化しなければならない局面に入った。そのためには、一五四通常国会で有事三法案を継続審議に追い込んだ闘いの教訓を汲み取りつつ、さらなる発展をかちとる必要がある。
月刊誌『技術と人間』の一〇月号が有意義な特集を組んでいる。
主な内容は以下の通り。
@有事法制と空の安全(インタビュー) 内田妙子 航空労組連絡会議長、日本航空客室乗務員。
A海を再び戦場にしてはならない(論文) 藤丸 徹
全日本海員組合教宣部副部長。
B地域から平和を―地方自治体議員の共同アピール運動―(論文)
重松朋宏 東京都国立市市議。
C国の戦争政策には従わない(インタビュー)―キリスト者の責務は、平和を創り出し、実現すること―
大津健一 キリスト者平和ネット。
D有事法制には、どうなろうと屈服できん(インタビュー)
鈴木徹衆。平和をつくり出す宗教者ネット、真宗大谷派。
Eほかに、関連で「イラク侵攻計画とブッシュ政権の新世界戦略」という白石忠夫
元神奈川大学教員の論文もある。
◆定価八五〇円+税 発行・(株)技術と人間
複眼単眼
ブッシュの戦争政策の陰で 暗躍する石油資本
アメリカのイラク総攻撃が近づいている。現在でも米英軍によるイラク爆撃が行われているのだから、いま準備されている攻撃はさらに本格的な、いわば「総攻撃」とでも言う以外にはない。
アメリカはこれまでイラク攻撃中止の条件としていた国連による大量破壊兵器の査察をイラク政府が受け入れると表明すると、さらに高いハードルの査察を持ち出し、どうしてもイラクに査察を拒否させ、総攻撃の口実を作ろうとしている。
ブッシュはこのイラク攻撃の理由には「テロの撲滅」を大義名分に掲げているが、隠された真のねらいがあり、それがブッシュの背後にあるアメリカ石油資本の要求であるのは疑いない。
イラクの原油埋蔵量はサウジアラビアにつぐ世界第二位であり、一一二五億バレルと予測されている。世界全体の埋蔵量は約一兆バレルといわれるからイラクだけで全体の一割強を占める。ちなみにサウジアラビアの埋蔵量は二五%。湾岸諸国だけで埋蔵量は世界の三分の二を占めている。
アメリカは現在、国内石油消費量の半分以上を輸入に依存している。中東への依存度で見ると三〇%近い。この間、アメリカは輸入先の多様化やエネルギー源の多様化に務めてきたが、こうした実態なのだ。実際、アメリカのアフガニスタン攻撃は、原油輸入先の多様化の一環で、カスピ海沿岸の産油地から非親米国のロシアやイランを経由しないでアフガン、パキスタンを通るパイプラインの敷設を容易にするねらいもあった。
一方、9・11以来、アメリカとサウジアラビアとの関係がギクシャクしている。「実行犯」とされた人の多くがサウジ出身であり、アメリカのサウジ批判やサウジ脅威論が高まっている。またサウジ国内でもイスラエルのパレスチナ攻撃を後押しするアメリカへの批判が高まっている。サウジ国内ではアメリカのイラク攻撃への批判が日に日に高まっている。
中東地域の政治的安定はアメリカにとってはどうしても必要な条件だ。もしイラクのサダム・フセイン政権を倒し、イラクに親米政権をうち立てることに成功すれば、中東の安定と、イラクの原油確保という一石二鳥だ。アメリカはたとえサウジとの関係が悪化しても、第二の埋蔵量を持つイラクから原油を補填できることになる。
こうしたアメリカの戦争に「アラビア海の無料ガソリンスタンド」として、日本の自衛隊が兵站作戦に参戦している。すでに米英軍に八〇億円分も給油し、さらに活動期間を延長しようとしている。
アメリカの石油資本の要求に小泉はいま積極的に乗っかっていこうとしているのだ。(T)