人民新報 ・ 第1080号<統合173> (2002年12月15日)
  
                                目次

● 戦争への道をすすめる小泉内閣 イラク戦争へイージス艦派遣 多国籍軍支援新法も企てる

    立憲主義を放棄した戦争法体系の際限のない拡大の道

● 殺すな!――ベトナム・アフガン・パレスチナ・イラク……と私たち――

● アメリカの平和運動団体のリチャード・ベッカーさんが講演

● 航空自衛隊浜松基地 航空祭に抗議・平和広報活動

● 浜岡原発運転再開に反対  震源域に「ゆっくり地震」発生

● 解雇・有期雇用・派遣・裁量労働制が危ない 労働法制改悪を阻止しよう!

● 首切り自由社会は許さない! 12.4霞ヶ関大行動

● 福岡公聴会九条改憲反対の声が圧倒

● 資料 イージス艦のインド洋派遣に反対の声明 
   
     許すな!憲法改悪・市民連絡会 /日本キリスト教協議会

● せんりゅう  (  ゝ史  )

● 複眼単眼 / 欧米の反戦運動の高揚と日本左翼の禍根


戦争への道をすすめる小泉内閣 イラク戦争へイージス艦派遣 多国籍軍支援新法も企てる

立憲主義を放棄した戦争法体系の際限のない拡大の道

憲法に幾重も違反

 小泉内閣は十二月四日、「テロ対策特別措置法」にもとづく米軍支援と称して、インド洋やアラビア海に最新鋭護衛艦のイージス艦を派遣することを決定した。防衛庁はすでに十二月十六日、イージス艦「きりしま」を横須賀から出航さ
せる準備を急いでいる。これは二重、三重の意味で憲法を公然と踏みにじる無法な企てだ。
 昨年九月に決定した米軍のアフガニスタンに対する「対テロ報復戦争」への自衛隊の戦時派遣のための「テロ特措法」自体が、憲法第九条の「武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という規定に真っ向から反するものであることは疑いない。
 イージス艦の戦場への派遣は、日米両軍の共同作戦体制を整えるものであり、一体化して戦争を遂行することにつながるものだ。これは歴代政府が「集団的自衛権の行使は憲法違反」としてきた立場を事実上、否定するものだ。
 さらに間もなく開始されるかも知れないイラク戦争を想定し、その米軍支援のためのイージス艦の派遣は、「テロ特措法」によるとはいえ、それとは目的が明白に異なるものだ。
 小泉政権はこのような違法・脱法行為を、アーミテージ米国務長官の来日を前にあたふたと決定したのだ。これらのことは小泉政権が立憲主義を前提としない政権であり、議会での多数与党を背景に、必要と思えば何でもやるファッショ的な体質をもった政権であることを物語っている。

最新鋭の戦艦

 小泉政権はこの問題について、姑息きわまりない弁明をしている。いわく、
「これはイラク戦争支援ではない」「米軍の攻撃とイージス艦の情報提供は一体のものだというが、他の護衛艦も同システムを搭載している」「それを集団的自衛権というならいまの護衛艦も同じだ」「一般的な情報提供は集団的自衛権に抵触しない」などなど。
 こんな人を食った話はない。イージス艦は比類ない性能を持ったレーダーと情報分析システムを搭載し、米軍との情報を共有するデータ・リンクシステムを装備している。半径五〇〇キロの探知範囲を持ち、二〇〇の飛行物体等の同時識別能力を持ち、迎撃ミサイルを一〇〇発も搭載しているケタ違いの能力を持つ戦艦だ。これが事実上、米艦隊を護衛するわけで、これだけでも集団的自衛権の行使にあたるもので、さらに収集した情報は米艦隊に転送され、米軍のミサイルが発射されるのだから、まさに両軍の一体化、集団的自衛権の行使に間違いない。対イラク戦争の作戦ではないというが、その区別は軍事機密と称して隠されるし、たとえ百歩ゆずってアフガン戦線限定でも、自衛隊の協力はイラク作戦に振り向けられた戦場の空白の穴埋めなのだ。
 小泉内閣はこのような重大な問題を、国会での承認や法的措置すらとらずにアーミテージへの手土産として決定した。与党内で公明党は「派遣反対」を表明したが、この「反対」は「決定されれば黙認する」という立場を首相に伝えた上での反対であり、この党も共犯者にほかならない。
 このような違法・脱法行為をしながら、政府はいま米軍のイラク総攻撃を想定した「自衛隊を中心とする総合的な米軍・多国籍軍への支援策」の策定に入っている。

さらに戦争法を狙う

 米軍のイラク戦争への支援・参戦は従来のPKO法やテロ特措法の枠では無理があることを承知している小泉政権は、あれこれと強弁しつつも、一方では法的な準備に入っている。報道では「米軍支援新法構想が乱立、イージス艦派遣でタガ外れた?」(朝日)とか、「多国籍部隊を側面支援、三段階骨格に」(毎日)などと伝えられている。
 「米軍のイラク攻撃で想定される自衛隊の行動」では、@攻撃前はイージス艦
派遣などによるインド洋での情報収集強化と燃料補給対象国の拡大、A攻撃開始後は、PKO法によるイラク周辺国での難民支援、ペルシャ湾での日本タンカーの保護のための自衛隊法八二条による海上警備行動、自衛隊法百条の八による在留邦人の脱出のための輸送機派遣、アフガニスタン国内での治安活動参加や物資輸送などのための第二テロ特別措置法の検討、B攻撃終了後PKO法または新法による難民支援、アフガニスタン国内での治安活動参加や物資輸送などのための第二テロ特別措置法の検討、「復興支援法」の検討、自衛隊法九九条による機雷除去などが検討されてる。またこれら全体にかかわる「イラク特別措置法」も検討されているという。これらがイラク情勢によっては来年一月二十日からの第一五六通常国会に、継続審議になっている有事三法とともに出てくる可能性がある。
 このような無法を許してはならない。先の十月二六日、サンフランシスコの十万(ワシントンでは二十万)のデモは「ただ人民のみが戦争を止めることができる」というスローガンをかかげた。まさにその通りだ。
 かつて湾岸戦争が開始された一月十八日、米国の市民運動は再び国際連帯の大行動を呼びかけた。日本でもこれに呼応して広範な市民団体が結集して大パレードを準備している。この成功を闘いとり、イラク戦争反対、小泉内閣の加担反対、自衛隊の参戦反対、有事法制廃案の声をさらに高く上げよう。


殺すな!
    ――ベトナム・アフガン・パレスチナ・イラク……と私たち――


 一二月八日、東京・発明会館で「殺すな!――ベトナム・アフガン・パレスチナ・イラク……と私たち」集会が開かれた。
 第一部は、作家の小田実さんの講演。
 今日、十二月八日は、日本がアメリカに奇襲攻撃をかけた日だ。当時の日本は、欧米が支配する不公正な世界秩序の変革、アジアの解放を掲げたが、その名目も、朝鮮・台湾という日本の植民地の独立を許さないインチキなものだった。そして、戦争に大敗北した。その結果、それまでのやり方では駄目だということになり、非暴力で世界を変えようとした。これが日本国憲法だ。平和の手段で公正な秩序をつくりだそう。そのため日本はがんばる。だから世界の国々・人びとも一緒にやろう。こういう憲法はどこにもない。
 9・11の事件を見た瞬間に、これはカミカゼ特攻と同じだと思った。かれらは、不公正な今の世界を武力で変えようとしている。一方、アメリカなどはそれを口実にして、アフガニスタンに爆撃を行った。いまの秩序を力で守るということだ。しかし、市民はいつも殺される側だ。この循環を断ち切らなければならない。
 第二部は、吉岡忍さん(ノンフィクション作家)の司会でシンポジウム。
 梅林弘道さん(NPO法人「ピースデポ」代表)
 アメリカは9・11事件以後、強大な軍事力を背景に単独主義を強めている。このことの背景には、軍需産業が戦争を欲していることがある。しかし、その半面で、アメリカ自身が攻撃され大きな被害を受けたことのショックはすさまじく、被害妄想の非常に臆病なメンタリティーが支配している。
 鵜飼哲さん(一橋大学教授)
 アメリカは「平和のための戦争」を主張しているが、日本でも危機管理が叫ばれている。阪神大震災、オウム真理教の地下鉄サリン事件を契機に、万一のために個人の情報をすべて国が管理しようとしている。有事法制でも、小泉首相は「備えあれば憂いなし」などと言っているがきわめて危険なことだ。
 長野智子さん(ニュース・キャスター)
 かつてのベトナム戦争では、それに反対する運動は戦争が起こってからだいぶたって本格化したが、イラク戦争でははじまる前から世界中で運動が起こっている。戦争と平和の問題では教育が非常に重要だ。そしてメディアがどういう報道をするかが大事で、自分も心して行きたい。
道場親信さん(大学講師)
 私は、韓国などの兵役拒否運動に取り組んでいるが、かつてのベ平連(ベトナムに平和を!市民連合)のアメリカ軍の脱走兵を支援する運動の経験は大きい。逃げたくなったら逃げる、そして手近の印刷機を確保することに心がけている。そして人びととの関係をつくって行く、そういう生き方がよいのではないか。
 また、集会では、「イラク攻撃に反対する共同声明」の拡大や集会・デモ、ベトナム戦争証跡博物館の日本開催、平和のためのベトナム・ツアーなどの諸行動が呼びかけられた。


アメリカの平和運動団体のリチャード・ベッカーさんが講演

  戦争の狙いは米国によるイラク石油の支配 市民は連帯して対イラク戦争を止めよう

 十二月八日は首都圏でもたくさんの平和をもとめる行動がとりくまれた。東京・永田町にある星陵会館では「日米開戦の日を平和のための市民ネットワークの日に!」と題した集会が開かれ、アメリカでイラク戦争反対の市民運動をすすめているリチャード・ベッカーさん(ANSWER)が講演した。集会を主催したのは、米国のバーバラ・リー下院議員の来日シンポジウムを機に市民がたちあげた「アジア太平洋平和フォーラム」。
 集会でははじめに保坂展人衆議院議員が、一〇月二六日に開催されたアメリカ・サンフランシスコの反戦集会の報告を行い、さながら六〇年代のベトナム反戦運動を彷彿とさせる集会の様子をビデオで紹介した。
 つづいてリチャード・ベッカーさんは、アメリカのイラク戦争の狙いと反戦運動の現状について次のように講演した。ベッカーさんはANSWERのコーディネート団体のひとつであるIACの共同代表のひとりとしてイラク反戦運動を進めている。
 「今日は太平洋戦争六一周年にあたるが、米国ではこの戦争を善と悪の戦いと捉えていた。現在はイラクが悪であり、戦争がいきつく先だ。イラク問題は歴史的にみなければならず、第一次大戦当時にさかのぼる石油の支配権の争いだ。第二次大戦では米国は戦後世界に君臨するために手をうった。その一つは、ソ連に優越するため広島と長崎に核爆弾を投下した。二番目に、枢軸国支配下の革命勢力をつぶした。中国、ユーゴ、インドネシアなどだ。三番目は世界の金融を支配するためにIMFと世界銀行を準備し、ドルを基準通過にした。四番目が、石油を支配し、資源をコントロールしたことだ。
 第二次大戦中から米国はイラクの石油を奪おうと狙っていた。戦後すぐ分け前の一部を米国は手にし、この地域に軍事同盟も構築した。当時イラク自身の石油所有はゼロだった。一九五八年にイラクで大衆運動が起こり、米英は軍事干渉したが失敗した。
 その後三〇年、米国の中東政策は右往左往し、イラン革命の時は、米国がサダム・フセインを支援してイランを攻撃させた。冷戦後のパワーバランスの変化は、湾岸戦争を可能にし、米国はこの地域に介入した。
 ブッシュ・ドクトリンは九・一一を利用して、新しいライバルの登場を許さ
ず、叩き潰すというもので、終わりなき戦争と軍事拡大だ。市民的権利の弱体化と秘密警察、環境、福祉、女性の権利の軽視になる。イラクは湾岸戦争以来十二年間で一二〇万人が殺された。米国はイラクの軍事力など問題にもしていない。イラクの人権問題などは口実で米国の狙いは六〇年間一貫してイラクの石油を支配することだ。
 戦争を止めるのは唯一市民の力だ。ANSWERは九・一一以後組織された。アフガン戦争の最中は反戦運動の顕在化はむずかしかったが、今年になってパレスチナへのイスラエル侵攻に反対する動きがひとつののきっかけになり、大きくひろがってきた。一〇・二六には全米で何十万もの人びとがイラク戦争反対の声をあげた。戦争反対の声をあげたいと思っていてもどこで表現できるかわからなかった人びとの声が集まったものだ。
 一・一八には世界的な規模で意志を示そうとよびかけたい。これまでも取り組んでいる反戦投票を世界的なプロジェクトにして国連安保理事会に影響させようと計画している。ANSWERは世界中の米軍機と軍艦、米軍基地も撤退させたい。軍事費をパレスチナの自決のために使いたいし、公正と正義と自決と健康に生きられる環境をつくりたい。あらゆる差別をなくし、多くの人びとの境をとりはらって連携していきたい。(首都圏通信員)


航空自衛隊浜松基地 航空祭に抗議・平和広報活動

 十一月二四日、航空自衛隊浜松基地で二年ぶりに航空察「エアフェスタ二〇〇二」が開催された。
 私たち市民団体は、AWACSの日米共同訓練への投入とブルーインパルスの曲芸飛行の中止を要請した。
 今年は浜松基地開庁五〇周年とされ、練習機T4型一九機による「50」文字型の編隊飛行をはじめ、ブルーインパルスによる曲技飛行もおこなわれた。
 航空祭前の数日間、背面、低空、集団飛行などの訓練をおこない、浜松の空にまるで戦場のような爆音がひびきわたった。
 一九八二年にブルーインパルスが浜松基地航空祭で曲芸飛行中に墜落してから、今年で二〇年。その事故は、旧ガイドラインにより、日米共同訓練が強化され、戦争飛行技術がいっそう高められていく中でおこった。
 AWACS配備と基地広報館開館のなか、一九九九年浜松でのブルーインパルスの曲芸飛行が再開されたが、松島での墜落と9・11事件により、その後の二年間はおこなわれていなかった。
 当日は、八時すぎからT4やAWACSが低空で飛行し、九時すぎからはF15やF2が大気を切り裂くような金属音と重低音を響かせた。
 F15は低空で各方面を旋回したたためこの音には多くの市民が耳を覆った。
 抗議行動では、正門横に反戦平和の旗をならべ、その後、基地正門にいき、基地へ要請書を渡した。
 基地側は事前の折衝で対応拒否回答や要請日変更などを求めてきたが、結局、要請書を受け取った。
 要請後、基地正門から基地広報館に向かって行進した。自衛官や航空祭参加市民にむかって、AWACSはいらない、有事法はいらない、子どもたちを戦場に送るな、自衛官を戦場に送るな、とアピールをおこなった。(静岡・K)


浜岡原発運転再開に反対  震源域に「ゆっくり地震」発生

 十二月五日、浜岡原発止めよう関東ネットワークなどは、ひび割れ・傷だらけの浜岡原発運転の再開に反対して、原子力保安院にたいする抗議行動を行った。
 これは、同日に名古屋で行われた中部電力本社に対する、浜岡原発を考える静岡ネットワーク、浜岡町原発問題を考える会など静岡や愛知の人びとの抗議・申し入れ行動に連帯したもの。
 中部電力は、五月に水漏れ事故を起こして停止している浜岡原発二号機の営業運転再開にむけて年内にも再起動をおこなおうとしている。
 いま、国会では、傷つき原発動かし法案といわれる原発関連二法案が審議されている。これは、東電などの原子炉ひび割れ隠しなどのウソ報告は、安全基準が高すぎたためだとして、この水準を下げるというとんでもないものだ。こうした姑息な手段で原発運転を再開させれば極めて危険な事態をもたらす。
 浜岡原発についてはさらに状況は厳しい。浜岡原発は東海地震の想定震源域にある。マスコミは、十一月二六日の山本孝二・気象庁長官の記者会見での発言を報じた。そこで、山本長官は東海地震想定震源域で昨年七月からつづいている「ゆっくり地震」について、「初体験といえる現象だ。東海地震がいつ起きてもおかしくない状況になりつつある。科学的に何が起こっているかを、冷静に伝える段階と考えている」と述べた。
 浜岡原発の運転再開を許すな。
 すべての原発をストップせよ。


解雇・有期雇用・派遣・裁量労働制が危ない 労働法制改悪を阻止しよう! 

 小泉内閣の構造改革攻撃は、雇用の分野にいちだんと市場原理主義を導入し、労働法制のさらなる改悪となってあらわれている。 
 一二月三日、厚生労働省労働政策審議会で、「今後の労働条件に係る制度の在り方について(報告案)」が提案された。主なものは、@解雇ルールの法制化、裁判手続での金銭解決の導入、A有期労働契約の上限期間を原則三年に(現行一年)、専門的能力を有するような労働者の例外五年(現行三年)に延長、B企画業務型裁量労働制の導入・運用手続や要件の緩和、の三点である。
 報告案は、一二月一七日の労働条件分科会において、最終的にまとめられ、来年の通常国会での法制化がもくろまれている。
 報告案にもられた労働基準法「改悪」の意味するものはきわめて大きい。
 たとえば、「解雇ルール」について厚労省は、「正当な理由なくおこなった解雇は無効」と労働基準法に明記し、不当な解雇を未然に防ぐものだと説明されている。しかし、実際には、解雇をよりやりやすくするための法律を作ろうとしていることはあきらかである。
 また、五日の審議会には、今まで禁止されていた生産現場へ労働者を派遣する労働者派遣法「改正」が示され、通常国会での成立、来年中の施行がめざされている。
 矢継ぎ早に打ち出されてきているこれらの労働法制改悪は、失業、賃金・労働条件の低下をもたらし、すべての労働者と家族にとって極めて大きな不安をもたらしている。
 すべての労働者・労働組合は、労働法制改悪阻止のための闘いをいっそう強めなければならない。

労働法制改悪の狙い

 政府の総合規制改革会議は、雇用・労働分野における規制緩和について、昨年の第一次答申や今年七月の中間報告でも法整備を求めていた。
 しかし、時期については「迅速に検討・結論」などとしていた。
 だが、十二月中旬にまとめられる第二次答申の骨子では、労働市場の流動化を促進させるため、次期通常国会で労働基準法を改正し、これまで判例に基づいていた労働者の解雇ルールを法制化するよう求めることがだされている。
 現行の労働基準法では、解雇の予告手続きなどを定めている。だが、実際に解雇が行われる場合の妥当性については、一九七五年の最高裁の解雇濫用法理(「客観的に合理的な理由と相当性がなければ権利の濫用で無効」)が大きな役割を果たしてきた。。
 解雇するためには、整理解雇の四要件(@解雇の必要性A解雇を回避する努力B解雇者の選び方の合理性C妥当な労使協議の手続き)を満たさなくてはならず、そのため企業にとっては、「簡単に解雇できない」という不満がくすぶっていた。
 答申は「経済のグローバル化に伴う競争の激化などにより、個々の企業が保障できる雇用期間は短くなっている」とし、「解雇ルール」の導入によって労資紛争が避けられると解雇手続き法制化を求めるものとなる。
 そうした政府・財界の要求に沿ったものとして、労働法制の改悪攻撃が出てきているのだ。

労資紛争への対応

 報告案には、最近の労働情勢を「労働条件や解雇をめぐる紛争が多数生じていることを考えると、労基法も経済社会や労使の要請に応えて変えていくことが必要」として、会社側が従業員に一定の金額を支払って解雇紛争を解決すること(金銭解決)などが入っている。
 政府・財界が狙っている「解雇ルール」の法制化は、「正当な理由なく行った解雇は無効」ということを法律に書き込み、これを利用して、「解雇は『経営上の理由』による、これは『正当な理由』だ」とすることによって安易な解雇が多発することが予想される。すでに全動労・東京高裁判決では、国鉄の分割・民営化時における解雇を「正当」と認めている。また韓国などでは経営上の理由で大量の解雇が強行されている。
 このように「労使紛争の防止」にもなると主張されている「解雇ルール」の明示の意味するところは、「合法的な」解雇促進となり、労資紛争の封じ込めにほかならない。
 このような法「改正」は、政府・資本の雇用の流動化・多様化政策を推進するものであり、雇用を一段と破壊するもの以外ではない。
 また、「金銭支払い」による「解決」では、労働者が裁判に勝った場合にも使用者の申し立てを認めている。これは、金さえ払えば解雇しても良いということにもなり、職場復帰を求める労働者の意向を無視するものだ。

労働者の使い捨て

 雇用期間の定めのあるパートや契約などの労働者の「有期雇用」については、契約期間の上限を現行の一年から三年に延長する。また公認会計士や医師など一部の高度な専門職、および六〇歳以上の人の契約期間の上限は、現行三年となっているのを原則五年にする。
 こうした労働契約期間の上限の延長は、一見、短期雇用労働者に有利に思われるかもしれないが、実際には、三年ないし五年の長期にわたって労働者を拘束し退職の自由を阻害したり、正社員の代替を促進すること、若年定年制を促進するなどの重大な問題を有している。
 有期契約期間の上限延長の狙いは、一〜二年かけて熟練した若年(新卒)労働者を数年間拘束して雇用でき、その後使い捨てにすることができるということだ。
 現行の労働基準法は、使用者が労働者を拘束できる期間の上限を一年と定めている。労働者が契約期間中に退職すれば、現行制度でも民事上の損害賠償の対象となることがある。しかし、上限を延長すれば、この問題が頻発することは間違いない。

サービス残業の裁量労働

 裁量労働制は労働基準法にあるさまざまな労働時間の規制を解除する。労働時間規制の弾力化は、サービス残業隠しに悪用され、同時に、長時間勤務を助長し、過労死を多発させる。
 裁量労働制は二〇〇〇年四月から従来の専門型(研究開発や情報処理システムの設計など)に加え、本社や支社で企画や立案などに携わるホワイトカラーに対象が広げられた。ホワイトカラーを対象にした企画業務型については、制度の導入や運用の手続きとして必要な労使委員会での「委員全員の合意」などの要件が必要だ。それを、「委員の五分の四以上の多数による決議で足りる」などと変える。また、労働者委員の労働者過半数の信任要件の廃止、労使委員会設置届出の廃止、健康福祉確保措置の実施状況報告の簡素化、労使委員会の決議有効期間限度一年の廃止、対象事業所を本社に限定しないことなどが提起されている。
 これらのいずれもが98年の労基法改定の際に、企画業務型裁量労働制をサービス残業の温床になり、長時間労働を蔓延させかねないとして、その濫用を防止するために、あえて定めた導入・運用要件である。そうしてつくられた要件の緩和は重大な問題を有している。

工場にも派遣を解禁

 厚生労働省は派遣労働の大々的な規制緩和の方向を打ち出してきている。労働者派遣の規制緩和では、現行の派遣禁止五業種(モノの製造、港湾運送、建設、警備、医療関係)から、派遣期間最長一年としながら製造業を解禁する。そして営業・販売などをを最長一年から三年に延長、するなどである。
 これまで、原則禁止とされた製造業に労働者が派遣されるようになるということは、企業側からの強い要求に沿ったものだ。現状では、電機、自動車、精密機器、食品などの業種の企業では、工場のラインを下請け会社に委託している。しかしこの形式では、請負会社がその請負会社の労働者を指揮・命令することになり、親会社は労働者を直接に指揮・命令できない。だが、派遣労働者を導入することにすれば、可能になる。同時に、忙しいときに時に雇い、それが終われば雇用を終了させることによって、生産調整が機動的にできるということだ。
 企業にとっては人件費の削減、労働者にとっては不安定雇用・労働条件の低下をもたらすものだ。

力を合わせて闘おう

 現在、失業率は過去最悪の五・五%となっている。失業増加の趨勢はとどまるところをしらない。
 こうした状況の中で、大企業の正社員でさえも解雇、退職強要、賃金・労働条件切り下げに直面し、ましてパート、契約社員、派遣社員など有期雇用労働者・不安定雇用労働者は、一方的な雇止めや賃金・労働条件切り下げを受けている。
 小泉内閣と財界は、新自由主義労働力政策を押し進め会社分割、出向、配転、転籍など多様な手法で首切り・合理化をすすめてきたている。
 「首切り自由社会」を許してはならない。労働運動の存在価値が問われているのだ。
 労働組合は、労働者の生活と権利を守るという本来の任務をはたさなければならない。労働者に一方的に犠牲をしわ寄せするために、小泉内閣・総合規制改革会議・厚生労働省が強行する労働法制の改悪に対して批判・抗議の運動を展開しなければならない。そして解雇や有期雇用などを制限する労働者のための労働立法の実現にむけて運動を強化すべきである。
 これまでの闘いの成果を基礎に、労働法制改悪阻止・労働運動の戦闘的再建の闘いをイラク戦争・有事法制反対の闘いと結合して闘おう。


首切り自由社会は許さない! 12.4霞ヶ関大行動

 十二月四日、霞が関官庁街で雨をついて、「みんな集まれ! 首切り自由社会は許さない! 霞ヶ関大行動へ」が、約一〇〇〇人の労働者の参加で展開された。
 霞ヶ関行動は、連続する東京地裁の「首切り自由」判決に対し、「これ以上首切りをさせてはならない これ以上悲しみにくれる家族を出してはならない 痛みを感じる人、怒っている人 全ての人は手を結ぼう」を合い言葉に闘われてきた。こうした行動や多くの労働組合の取り組みは、裁判所に「解雇は自由」と言わせない状況をつくりだし、労働者に有利な判決・決定が出されるようになってきている。
 今回の行動は、スローガンに、@大量失業を生み出す小泉構造改革を許さない、A裁判所の解雇自由判断は許さない、Bクビ切りの為の法律はいらない、C守ろう人権・平和・環境を、報復戦争絶対反対の四つを掲げている。
 12・4行動は、正午に集合して、厚生労働省、地裁・高裁、国土交通省などにむけてデモを行った。
 いま、小泉内閣は、整理解雇四要件を無視した「解雇ルール」の法制化に動き出し、また東京高裁の全動労判決(10・24)では「非常時には差別も仕方ない」という反動判決が出されている。労働法制の大改悪を阻止するために、すべての労働組合勢力が合流して闘うべき時である。


福岡公聴会九条改憲反対の声が圧倒

   陳述人からイージス艦派遣反対の声も相次ぐ・会場内外で改憲反対の声

 十二月九日午後、衆議院憲法調査会(中山太郎会長)は六回目にあたる地方公聴会を福岡市で開催した。この日は国会の憲法調査会から派遣された九名の派遣団と、九州各県から公募した六名の陳述人による議論があった。傍聴者は約二〇〇名。会場前では「憲法九条の改悪を許さない人びと・九州」(代表・松下竜一さんら)などの市民団体が、「まやかしの福岡公聴会に反対する」という声明を配布した。
この日の意見陳述人は六名のうち、五名が九条改憲反対の立場を明確にし、またイージス艦派遣反対の声が相次ぐなど、福岡公聴会は永田町の議論とは反対に、改憲反対の声が人びとの間では広範に根強く存在することを示すものとなった。またこうした中で民主党の大出彰委員が「九条は一項も二項も変えることに反対だ。国内では人殺しは罰せられるのに、海外での人殺し、戦争は褒められることすらあるのはどうみてもおかしい」と断言したのは、福岡公聴会の空気を象徴するものだった。
二〇〇〇年一月に発足した両院の憲法調査会は、五年を目処としたその設置予定期間のうち、すでに三年を費やしている。この間、衆議院憲法調査会はその調査テーマに「憲法制定経緯の検討」や「二一世紀日本のあり方」など、はじめに改憲ありきの井とが見え見えの課題を掲げ、調査会としては最低限、必要と思われる「憲法の施行実態の調査」すら行わずに、先の十一月一日に「護憲派」委員の反対を採決で押し切って「中間報告書」を採択し、議長に提出し、さらに本会議で報告するなど、改憲への動きを強めてきた。
 各地で開催されている地方公聴会もそうした動きの一環で、憲法調査会の議論がまともに進んでいない下で、地方公聴会の開催を急ぐ会長らの運営そのものにも大きな問題があるものだ。
 しかし、これまで行われた地方公聴会は、これらの改憲派のねらいに反して、いずれにおいても「改憲反対」の声が改憲派の声を圧倒した。これらの公聴会の後、思い通りにならないことに切歯扼腕した中山会長ら改憲派が、終了後の記者会見で「特殊だ」「情報が遅れている」「残念だ」などと八つ当たりするのも恒例になってきた観がある。福岡公聴会のあと、記者に「どうして地方は護憲が多いのか」と聞かれて、中山会長は「陳述人に聞いてほしい」と投げやりに答えた。
 「戦争行かぬ議員 開戦導く、イージス艦や九条巡り陳述、九条改悪に反対が多数」(朝日新聞)、「イージス艦派遣に反対論」(共同通信)などと報道されたように、公募した陳述人の大半は改憲反対、反戦の立場を明確にした。わずかに一人が「いそいで自衛隊を国防軍にすべきだ」と発言したが、「憲法はあまり深くは勉強していない」という始末。大分の「あかとんぼの会」の宮崎さんは「母から憲法九条に出会ったときに涙が出たと聞かされて育ってきた。調査会の中間報告は全くわかりにくい。ふつうの人々に寄り添った憲法論議にしてほしい」と主張した。宮崎弁護士会の後藤会長は「二度と戦争をしたくないというのは、民衆の願いだ。二十一世紀を通じて、憲法九条を掲げつづけたい」と発言。地方公務員の日下部さんは「憲法と現実の乖離の解決は政策的課題だ。自治体職員として、再び赤紙をくばらない」とのべた。ほかに二人の元大学教授も改憲反対を主張した。
 この日、中山太郎会長は明らかに興奮気味で、質疑の冒頭に「この九州の周辺で起こっている北朝鮮の拉致問題という国家的犯罪にどう対処するのか、各陳述人に聞きたい」などと、座長にあるまじき発言をした。あまりの発言に会場は騒然としたが、陳述人らは「武力が安全保障になるという時代は終わった」「国際的にも貧富の差がなくなるような努力をすべきだ」などと述べた。自民党の保岡委員もしきりに「自衛は国家の役目だ」「PKO、PKFに協力すべきだとおもうが」などと、改憲誘導質問をしたが、きびしくはねつけられた。民主党の大出委員は先の発言と合わせて、「戦争は最悪の環境問題であり、人権問題であり、女性差別であり、公共事業だ」とも指摘した。
 社民党の金子委員は「長崎、沖縄を含む九州ブロックの公聴会で、六人中五人の陳述人が九条を守るという熱い思いを述べた。これを受けとめたい。先の大分県の日出生台での日米共同演習での松川総監の言動は、戦争回帰の動きで許すことはできない」と述べた。
 傍聴席の最前列にはブルーのリボンをつけた右翼の一団が陣取り、傍聴者を威圧しながら、社民党や共産党の「拉致問題の責任を追及する」と称して、しばしば暴言を吐いた。


資料 イージス艦のインド洋派遣に反対の声明
  
イージス艦のインド洋派遣に断固として反対します

 内閣総理大臣 小泉純一郎様
 防衛庁長官 石破茂様

 報道によれば、政府・自民党は今日にもイージス艦をインド洋に派遣することを決定すると言われています。
 この問題は従来、「憲法が明白に禁じている集団的自衛権の行使」に抵触するものとして見送られてきたものであり、憲法学会をはじめとして世論はもとより、自民党や他の与党の中にさえ重大な疑念が存在するものです。
 にもかかわらず小泉内閣が、アメリカのイラク総攻撃が間近かに迫っているかと思われる現在、あえてイージス艦の派遣を決定することは極めて重大な問題です。
 憲法第九条を持つ日本政府には、いまイラク戦争を止め、問題の平和的解決のために働くことこそが求められているのであり、戦争の口火を切り、それを促進するようなイージス艦の派遣など、言語道断なことです。
 私たちは日本の自衛隊がアメリカのアフガン戦争のみならず、さらにイラク戦争に加担することを絶対に容認しません。
 自衛隊はインド洋からただちに撤退しなくてはなりません。
 
二〇〇二年一二月五日

許すな!憲法改悪・市民連絡会

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日本政府のイージス艦派遣決定に抗議し、撤回を求めます


 内閣総理大臣 小泉純一郎様
 防衛庁長官 石破茂様

 政府は、一二月四日、インド洋での対米支援活動のために、海上自衛隊の最新鋭イージス艦を一二月中旬にも派遣することを決定しました。この決定に私たちは強く抗議し、撤回を求めます。
 イージス艦は、高性能の情報収集能力をもち、収集した情報を米軍に提供することで、米軍の攻撃自体を直接支援することができるものだといわれています。これは、米国の戦争に日本がより深く関与し、その一翼を担うという意思表示をすることになります。
 米軍支援のための自衛艦の派遣は、それ自体、憲法をふみにじることでした。まして、今、イラクへの査察が行われ、米国が一方的かつ理不尽なイラク攻撃を準備している状況の下、日本が新たな、しかも米軍の攻撃にきわめて有用な高性能艦船を派遣するという行為は、あからさまに戦争をあおり促進する行為にほかなりません。これは、武力行使を国際紛争解決の手段として用いないと記している日本国憲法に対する重大な違反です。
 日本がすべきことは、紛争の平和的解決のために、より積極的な外交手段をもって働くことではありませんか。
 イラク国内では、湾岸戦争の際に米軍が使用した劣化ウラン弾の被害、および長年の経済制裁により、多くの子どもを含む犠牲者が出ているということです。このような現実について、「被爆国」日本は、被害実態の調査にこそ乗り出すべきであり、決して戦争に加担すべきではありません。
 現在インド洋に派遣している自衛隊の艦船はただちに帰還させること、そして新たな派遣は行わないこと、米国を説得し、戦争を止める働きをすることを、強く求めます。

二〇〇二年一二月五日

 日本キリスト教協議会
   総 幹 事 ・ 大津健一
   平和・核問題委員会委員長・小笠原公子


せんりゅう  (  ゝ史  )

廃案へ議事堂にむけ声つよし

詐欺罪だ有事法案を起訴しろ

ブッシュ謝罪殺人マシーンはそのまま

外交を知らぬ大臣でラチあかぬ

国権で恐喝をする検察官

弁護士は「そんなものさ」と金しだい

教科書に史実のこして史家ねむる


二〇〇二年十一月

○ 11月28日、国会前に有事法廃案を求めて力強い面々が集まった。
○ 韓国で米兵による女学生ひき殺し事件
○ 家永三郎氏永眠  11月29日 89才


複眼単眼

  
欧米の反戦運動の高揚と日本左翼の禍根

 「どうして日本の反戦運動の盛り上がりはヨーロッパに比べて小さいのだろう」「学生運動はどうなっているのだろうか」という質問を受けることがしばしばある。さまざまな要因があり、容易な問題ではないが、六〇年代当初から運動に関わってきたものとして、深刻に受け止めざるを得ない問題だ。
 考えてみると第二次大戦後から七〇年頃までは、ヨーロッパも日本も運動の大衆的レベルでの浸透の問題では格別の遜色はなかったようにおもう。そこでは左翼は民衆の希望だった。
 その後、左翼の後退が言われて久しい。ソ連・東欧圏の崩壊はその大きな要因の一つだ。しかしこれはヨーロッパにも等しく影響を与えた要因であり、日本だけの問題ではない。
 結論を先に言えば、その違いのひとつに、それだけが要因ではないにしても、
広い意味で「内ゲバ」といわれる問題があると思う。同じような問題があったにせよ、その深刻さにおいてヨーロッパのそれと日本のそれには大きな違いがある。
 これには日本共産党、あるいはコミンテルンの歴史に関わる問題も例外ではないが、とりわけ六〇年代後半から七〇年代にかけて、学生運動やその周辺で起こったさまざまな問題が含まれる。この時代、反代々木諸党派間の指導権争いや、それぞれの党派の内部の路線闘争の延長線上で起こった暴力的な抗争は、膨大な負傷者と一〇〇人を超える死者を出すにいたった。連合赤軍事件、よど号事件、アラブ日本赤軍事件など、世間を震撼させた幾多の悲劇的な事件が起こった。そしてこれらの問題、あるいはそれに通じる思想傾向は大なり、小なり、ほとんどの党派に存在した。「査問」などで暴露されているように日本共産党にもあったし、筆者自身の体験もある。それに反対するとして、反スターリン主義や反修正主義を掲げて共産党を批判しながら登場した左翼が、日本共産党以上の「スターリン主義」的な誤りをおかしたのは歴史的な悲劇であった。学園の運動は荒廃した。運動は学生の支持を失った。以来、二〇〜三〇年を過ぎた現在、それらの流れの中には、自らの過去を自己批判したグループもあれば、いまだに清算していないグループもある。自己批判したと言っても、ほとんどその誤りの意味がわかっていないのではないかと思われるような、あっけらかーんとした自己批判もある。いまだに問題を解決できず、結果として運動に大きなマイナスを与えている部分もある。共産党のようにいまだに「意見の違いで党員を処分したことはない、規律違反を犯したからだ」などと居直りながら、なしくずしに議会唯一主義への歩みを速めているものもある。いまなお多くの左翼の作風の中にこの問題は存在する。
 「昔のことだから、もうよいではないか。これらのひとびとをも許して、一緒にやったらどうか」「こだわりすぎだ」という意見が一部にはある。あるいは「もう自分には関係ないよ」と避けようとする人もいる。しかし、そうではない。運動において、広範な共同と率直な議論ができるのがのぞましい。しかし、これらの問題が清算されないままに「率直な議論」は成立しないのだ。その議論の延長にかつてのことが繰り返されない保障がない下では、議論は成り立たない。現にそうした萌芽傾向はしばしば現れる。だからこそ、この間、さまざまな大衆的行動において「非暴力原則」とか「参加者同士を誹謗中傷しない」などという原則が強調されざるをえないのだ。
 これは日本の運動が背負った歴史的な負の遺産だ。この遺産を抱えつつ、運動の展開を図らなくてはならない。この道はきびしいけれども、それでも粘り強く闘いの前進のための原則的な努力を堅持することが、やがて問題を克服していくだろうとおもう。そうした問題を内包しつつも、いま日本の反戦運動に復権の兆しは確実に見えつつある。(T)