人民新報 ・ 第1081・2号<統合174・5> (2003年1月1日)
  
                                目次

● 2003年の新年を迎えて 一点の火花も広野を焼き尽くす  (労働者社会主義同盟中央委員会)

● 社会主義と民衆運動の世紀の創造にむけて、団結して、ともに前進しよう

    井上澄夫(戦争に協力しない!させない!練馬アクション) / 上原成信(沖縄一坪反戦地主会) / 小原吉苗(共生のための尼崎政治センター  ) / 北田大吉 / 小寺山康雄(自治・連帯・共生の社会主義をめざす政治連合)  / 佐藤敏昭(三多摩労法センター代表 ) / 砂場徹(尼崎) / 広沢賢一(元代議士) / 板井庄作 / 隅岡隆春

● 12・13集会   戦争はイヤだ! これが市民の声だ

● 「きりしま」出航に抗議の声 「武運を祈る」と米軍艦のたれ幕

● イラク攻撃に反対するアジア民衆の共同行動をめざして

● 新春インタビュー

     失業・雇用の流動化に対応できる労働組合を

             石川源嗣さん(ジャパンユニオン副委員長)に聞く

● 日本経団連が春闘対策で「賃下げ」論 労働者の団結で資本攻勢を打ち破れ

● 四党合意は完全に破綻した 鉄建公団訴訟を軸に闘争を拡大しよう

● 冤罪の恐怖……それは他人ごとではない   青梅信金えん罪事件

● 労基法大改悪「報告案」NO!緊急アピール (小泉改革NO!非正規労働者の権利確立をめざす秋の共同行動)

● 映画

      夜を賭けて (原作 梁 石日 、 監督 金 守珍)

● 「Piece For Peace 2002 五人の反戦画家」と丸木美術館の散策

● 拉致問題、改憲、有事法制など諸問題の現状を解きあかすパンフレット

    講演記録・拉致報道の洪水から何が見えるか / ブッシュ・ドクトリン 国家安全保障戦略 全訳と批判 / ンポジウム記録・改憲へ走る憲法調査会 

● 石原都知事を一一九名が提訴 『ババァ』発言を許さない

● 横浜事件の再審開始を求める研究者声明

● 複眼単眼 /石破茂らの徴兵制発言と自衛隊の実態



反戦平和連帯

2003年の新年を迎えて

        
一点の火花も広野を焼き尽くす


                        
労働者社会主義同盟中央委員会

     @

 二〇〇三年の年頭にあたり、全国と全世界の闘う労働者・人民のみなさんに新年の連帯の挨拶を送ります。
 二十世紀から二十一世紀への転換の時、多くの人びとは二十世紀の戦争による大量殺戮の時代、米ソ冷戦体制などの緊張の時代をふりかえり、新しい世紀に平和と人類共生の時代の到来を願いました。しかし、新世紀の三年目に入ったいま、その願いが実現しつつある予感ができるどころか、過ぎた世紀の二つの超大国による世界支配から、横暴な帝国の単独世界支配体制と移行しただけの暴力的風潮の横行の様相を見ています。
 ユニラテラリズムにとらわれたアメリカは、自らの指揮棒に従わない国々を「悪の枢軸」などと規定し、その圧倒的な軍事力を背景にして徹底して追い詰め、降伏か、打倒かの二者択一を迫っています。これらの国々の独裁体制はアメリカが打倒して解決することではありません。イスラム国家を標榜する国であれ、「社会主義」を標榜する国であれ、前途を切り開くのはその国の民衆自身の課題にほかなりません。にもかかわらず、もはやアメリカ帝国主義の前には国連も国際法も存在しないがごとくです。これは経済的にはグローバリズムという名の新自由主義による世界収奪の強化の動きと軌を一にしたものです。
 この乱暴きわまりないブッシュJrの姿は資本主義的帝国主義どころか、西部劇的帝国主義だという人もいるほどです。
 不思議なことに国連の常任理事国の諸大国は吠えたてるブッシュの前に縮み上がり、反テロ戦争のスローガンによってアフガニスタンやパレスチナ、イラクなどの国々がつぎつぎと破壊されていくことにたいして追随するか、手をこまぬいるだけです。とりわけブレア労働党のイギリスがアメリカに追随し、日本の小泉政権がこの後を追っている昨今の国際政治の構図は、恐ろしいほどです。
 この国際的構図のもとで戦火が絶えず、あるところで沈静に向えば、別のところで発火するという具合で、破壊と殺戮はとどまるところを知りません。まさに戦争と暴力の連鎖の時代といって過言ではありません。

     A

 しかし、これに対する昨年後半からの欧米やアジア諸国における民衆の反戦運動の高揚は目覚ましいものがありました。
 九・一一を口実にしたアフガン戦争といま点火させられようとしているイラク戦争の危機に際して、各国の民衆は国境を超えて反戦の闘いをつよめ、それらの一部はボランティアとしてアフガンに入り、人間の盾となってイラクに入っています。各国の平和運動のイニシアティブによって国際連帯行動がひんぱんに展開されるようになりました。とりわけ、ヨーロッパの反戦運動の高揚と、九・一一の遺族たちによるピースフル・トゥモローズや、十月二六日の全米での反戦行動を組織したANSWERを生み出したアメリカ民衆の運動の高揚は、ベトナム反戦闘争以来の高まりをみせています。
 このANSWERがブッシュのイラク攻撃を前にして、かつての湾岸戦争の開始された日、あるいはマーチン・ルーサー・キング牧師が殺された日にあたる一月十八日、全世界に再度の統一行動を呼びかけました。
 世界各地で呼応する動きが出始め、日本でも一万人の大結集をめざして「WORLD PEACE NOW もう戦争はいらない 1・18私たちはイラク攻撃に反対します」という行動が呼びかけられ、若者たちも、年配の人たちも、反戦運動の人たちも、人権運動の人たちも、環境運動の人たちも、そして旧来の政党系列の枠を超えて、かつてなく広範な人びとが結集しつつあります。

     B

 日本の反戦運動の停滞が語られるようになって久しくなりました。
 しかし、昨年はこの様相を大きく転換させる出来事が起こりました。ほかならぬ有事関連三法案の阻止闘争の前進です。小泉内閣は多数与党の力を背景に、昨年年頭の第一五四通常国会にこの悪法を最重要法案として提出しました。日本を戦争遂行可能な国家に全面的に作り替えるための悪法です。この法案の国会採択を一五五臨時国会も含めて、継続審議とはいえ、民衆の闘いがすでに一年にわたって阻止しているのです。このようなことが過去十年来、あったでしょうか。この過程で労働組合や宗教者団体、市民団体が共同した数万人規模の集会がくり返し展開されただけでなく、全国各地で民衆の行動が起こり、知識人や文化人の反対声明、地方自治体と首長、あるいは日本弁護士連合会や日本ペンクラブ、日本青年団協議会など政治的にはニュートラルな諸団体までが有事法案廃案あるいは慎重審議を要求しました。そして、平和フォーラムなどの努力を通じて、「連合」も法案に消極的な立場をとりました。
 国会の野党もこうした民衆運動の場に参加しながら結束を維持しました。
 これらの運動の中で新しい力が確実に台頭しつつあることもまた、希望の持てるものです。
 これらの運動の前進は、長期の経済停滞のもとで大企業の利益の擁護に汲々として、民衆にはリストラや賃下げ、医療や福祉政策の圧迫など、悪政を繰り返す政府・与党への怒りと結合しつつあります。労働組合運動でも雪崩うつ後退局面から、なおも踏みとどまって闘いを堅持する部隊も見られます。

     C

 新年は有事関連三法案をめぐる闘いの最後の決戦の年です。年頭から連休明けまでの時期がいわば高原闘争です。地域で、職場で、学校で、全国の津々浦々で反戦の大小の声を巻き起こせるかどうかにかかっています。そして今年は統一自治体選挙の年でもあります。反動・石原都政をはじめ、悪政に対抗し、民衆の側に立つ自治体と自治体議員を一人でも多くつくりだす課題は重要です。そして新年早々にも始まるかもしれないといわれるイラク戦争を阻止し、これ以上の殺戮を許さない闘いが緊急の課題です。いずれもが切実・緊急の課題であるにもかかわらず、勝利するのは容易なことではありません。
しかし、困難は闘ってこそ切り開かれます。連帯こそ力です。闘い方、連帯の仕方は実に多様です。この道にこそ前途があります。
 強気一点張りに見えるアメリカが抱える脆さも、圧倒的な支持率にささえられてきた小泉内閣の足元の危うさも、私たちは見抜くことができます。その確信をエネルギーにかえることができます。
私たちは社会主義をめざす革命的政治同盟です。これらの闘いの先頭で全力をあげて民衆運動の前進のために働きたいと思います。それは自らに課した、報いを期待することのない歴史的な責務です。そのなかで、私たちの思想と理論を鍛え、いまだに分散している社会主義者の共同と統一の前進のために働きたいと思います。
 私たちは困難ではあるが、社会主義者の誇りと確信をもって新年を迎えています。闘うすべての人びとに心から連帯と協働をよびかけます。


2003年

      
社会主義と民衆運動の世紀の創造にむけて、団結して、ともに前進しよう  

 私たちは、新たな年に、より多くの人びとと連帯して闘いを前進させていきたいと思っています。各界からメッセージをいただきました。(人民新報社一同)

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安易な絶望を友とせず、平和の創造を求め続ける

          井上澄夫(戦争に協力しない!させない!練馬アクション)

 二一世紀に入ったばかりだというのに、これはもう、なんだ、世界の現状は、すでに世紀末の様相を帯びているではないか、とつい漏らしたくなる。しかし無惨な戦争の世紀であった前世紀をしかと想起すれば、戦争の根源をすべて積み残しで新世紀を迎えたのだから、残念ながら、これは当然のことなのだ。
 いや、旧来の構造的諸矛盾が積み残されただけではない。アメリカ帝国という超大国へのパワー(強圧的支配力)の一極集中と、それを支える市場原理のグローバル化の爆発的な進行とが、世界のいたるところで民衆の抵抗を拡大・激化させている。それゆえそれを押しつぶそうとする「新しい戦争」が無限の連鎖をなすという、すさまじい様相が現出している。
 だが、いかにおぞましかろうと、現実は現実だ。私たちの出発点は、どこまでも眼前の現実である。それに正面から立ち向かう大元気を、私はおのれに鼓舞する。安易な絶望は断じて友としない。

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めげずに行こう

        上原成信(沖縄一坪反戦地主会) 


 二〇〇二年はいい年ではありませんでした。沖縄では名護市長選挙も県知事選挙も大差で負けました。三八九日間の政府の不法占拠を不当と訴えた知花昌一氏を先頭とする八人の反戦地主の違憲訴訟も十月末の高裁判決で、合憲判決を出されました。
 小泉純一郎はブッシュの尻にくっついてイラク攻撃に一役買おうとしています。困ったものです。
 でも、アメリカの傍若無人の振る舞いは、破滅の土壇場に来ていると思います。世界の民衆を無視した単独行動主義がいつまでも続けられるものでありません。カーター元大統領でさえブッシュ政権を批判していると伝えられています。
 めげずに頑張りましょう。肩の力を抜いて、口笛吹きながら、世界の民衆を信頼して、陽気に頑張りましょう。

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市民に身近な市政を

      小原吉苗(共生のための尼崎政治センター)

 変化を求める尼崎市民の選択が、白井市長を誕生させました。市政が市民にとって、より身近になるのか、それとも何も変わらないのか、じっくりと注目していきたいと思います。
 アメリカのイラク長期占領のための戦争が、この一月にもはじまろうとしています。世界の平和にとって、湾岸戦争の時とはまったく異なる深刻な事態が予想されます。
 多様な価値観が平和に共存できる世界をめざして、地域で行動していきたいと思います。

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今年も「きな臭い年」になりそう

               北田大吉

 昨年八月におこなった講演のなかで、一〇月末までにアメリカはイラクに侵攻すると断言したのですが、幸いにもこの予言は実現しませんでした。アメリカの戦争政策を遅延させるいろいろな要因が作用したからです。なかでも世界各国の人民の反戦の意志が、ドイツやフランスなどヨーロッパ諸国の政府がすんなりとアメリカの要求を受け容れさせなかったことが大きかったと思います。しかしアメリカは、国連はじめ世界各国を巻きこんで着々とイラク侵攻の準備をしていますので、早ければ一月中にもイラクへ侵攻すると思います。小泉政権はこれまでの「集団自衛権」否認の態度を一擲してイージス艦をインド洋に派遣しました。私がアメリカのイラク侵攻を公言したのは、実は昨年二月、ブッシュの「悪の枢軸」発言の前でした。そのときにもう一つ心配したのは、アメリカがイラクで核兵器を使用することでした。アメリカはこれまでも何とかして核兵器を使用しようとしてきたことは報道の通りです。アフガンでは必要以上に威力のある爆弾を使って、核兵器使用の予行演習を済ませています。イラクでは恐らくこれが本番になるでしょう。戦術用核兵器であれ、これがいったん使用されるならば、世界は再び一挙に核軍拡時代に戻ります。これを許すか許さないかは、人民の反核の意志にかかっています。

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有事法制づくりに最大限利用される「拉致問題」

          小寺山康雄(自治・連帯・共生の社会主義をめざす政治連合)

 いわゆる「拉致問題」は、左翼の思想性の根幹を問いかけている。「よもや、あのようなことを社会主義を標榜する国がするはずはない」と茫然自失する左翼。「日本帝国主義は、その数万倍、数千倍の非道をやってきたではないか、と開き直る左翼。ただただ首を垂れて左翼たるを恥入る左翼。
 第一の態度については、あのような体制を社会主義と考えるきた不明を恥じるべきだろう。第二の態度については、日本帝国主義の非道を弾劾するゆえに、北朝鮮の非道を許してはならない、と言うべきだ。人の生命と人権に民族の差異はないからだ。第三の態度が私の周辺では目立つ。拉致議連、救う会、、そして家族会の一糸乱れぬ歩調に対して、左翼たるものひたすら首を垂れていてすむものかと言いたい。
 拉致問題は被害者の人権問題として、今や北朝鮮に対して戦争を仕掛ける思想攻勢に利用されている。有事体制は、国家の法整備もさることながら、有事に対応する国民づくりが枢要のことである。拉致問題は、それに最大限利用されているのだ。これからは非国民の決意と覚悟をもたねばならない。

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2+2=5

     佐藤敏昭(三多摩労法センター代表) 

 十一月に英国ステートウオッチから同志を招いた。英国も日本もIDカード、住基ネット、監視カメラと同速度で進行しているのに驚いた。「現実のものとなったオーウェルの予言」と講演は要約されたが、五〇年前に恐ろしいまでに現代を予言した「一九八四」(48年)に触れてみたい。この作品は「ことば、性、歴史、真実などの管理を通して、管理が日常生活にゆきわたった社会像を造形した」とされる。例をあげれば、権力は「2+2=5である」と説き、過去は都合のいいように変造される。二四時間、政府のテレビの監視命令下におかれた大衆は唯々とこれに従う。
 現代の英国では監房不足のため、監禁者や被疑者の足にチップを装置し、外出を許可したり、泳がせて監視を続けることがもくろまれている。そして、英国、EU、日本に共通していることは一極支配、戦争屋の米国の影である。米国が戦争だといえば世界は戦争となる。オーウェルは、ここで2+2=4であると言えるのが自由だと喝破するのである。

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「戦争をやらせない力」をつくろう

        砂場徹(尼崎) 

 尼崎では歳の末になって、全く縁遠かった選挙勝利の美酒を味わうことができた。全国最年少の女性市長「白井文」さんの誕生である。その力の一粒にわれわれもなり得たことを喜んでいる。この選挙の特徴は、候補者の「党の支持を求めない姿勢」である。と同時に、政党の「あり方」の違いが関わりない選挙もまたあり得ないことが明らかになった。白井候捕を支持する政党と、「共産党が推すヤツに市政を任せられるか」だけを宣伝する反白井陣営とに政党は画然と分岐した。私たちは、主権在民・憲法9条を世界へ、戦争反対、反公害、環境保護、などを掲げる数多くの大衆団体と、市職員労働組合・地域合同労組などと共に「市民の側に立った市政を!」を合言葉に、団結して主体的に白井候補を支持した。今回の勝利の力を、「ブッシュの戦争」をやらせない力に発展させるために一層の団結を求められている。その一員として今年も頑張りたい。

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全野党の小選挙区制反対共闘を!

        広沢賢一(元代議士)

 「人類の宝、国連憲章と平和憲法を守れ。地球環境保全(京都議定書)・核兵器廃止(国連決定)に逆らうものは、全人類の敵であります。さらに、南北格差を拡大する新自由主義(カジノ・投機資本主義・弱肉強食主義)は弱者反抗(テロ)の根源。これらを克服しなくては、二一世紀の安定・幸福はありえません。ともに力をあわせて闘いましょう。」
 と今年八四歳になった浅沼稲次郎高弟の小生、大声一番、親愛なる皆さんに訴える。
 さらにもう一つ。
 今日の日本の内外にある停滞・閉塞感を打ち破るため「どうしたら政権交代が可能か。簡単です。野党がまとまればいいのです。どの選挙を見ても、自民党候補よりも、自民党以外の方が多い。野党が一つになれば、ほとんどの選挙で自民党に勝てる」(巷の声)。
 そうです。 小選挙区制反対の一点にしぼった全野党選挙協定を結び、野党各派が勝利することです。すべては、それから。そのため祈御奮闘。

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団結して戦争に抗する力を

            板井庄作

 新しい年が明けました。
今年もひきつづき、そしてさらに闘争を発展させるために頑張りましょう。
 いままた戦争の足音が聞こえてくるようです。
 戦争のために政治の反動化を進すめ、天皇制警察国家を再来させようとする勢力がうごめいています。
 わたしも横浜事件の当事者として、再び戦前・戦中のようなことになるのを黙ってみているわけにはいきません。
 しかし、国内的にも世界的にも、戦争に反対し平和を守ろうとする力も段々に育ってきています。
 われわれは、気持ちを新たにし、階級観点を堅持して、いまの困難な時代でも、未来に向かって闘う志を持続し、団結を拡大して、力量を大きくしていくために奮闘しましょう。

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必読の書「中国革命と陳独秀」

            隅岡隆春

 国際共産主義運動史上スターリン主義の罪悪を思想・理論と歴史の事実に立脚し徹底的に暴露することは、われわれがマルクス主義の原点に立ち返る上で中心的問題である。
 「トロツキー研究」39号(02・12・15発行)は「中国革命と陳独秀」を「特集」している。これは中国革命に関心をもつ人々に感動を呼び起こす必読の書である。
 陳独秀は五四運動の総指導者であり中国共産党の創立者である。陳独秀は中国革命における「右翼日和見主義者」「裏切り者」とされて来た。これはスターリンによる歴史の偽造であった。一九二九年「全党同志に告げる書」は、陳独秀が自ら最高責任者として担った党の一〇年の歴史を総括しようとして共産党の全同志に向けた公開書簡である。これはスターリン主義的政治路線と組織原則にたいする痛烈な批判である。
 一九二五年から二七年に中国革命は敗北した。スターリンとスターリン主義者は、この敗北はすべて陳独秀の「右翼日和見主義路線」だと貢任転嫁をやった。この中国革命の敗北の根本原因と全責任はほかでもなくスターリン主義にあり、スターリンとスターリン指導下のコミンテルンにあった。
 トロツキストとして除名された陳独秀のスターリン主義批判は、マルクスの科学的社会主義思想を根拠としており、これが陳独秀著作の重要な特徴である。


12・13集会

   
戦争はイヤだ!  これが市民の声だ

 十二月一三日夜、東京の渋谷公会堂で「戦争はイヤだ・これが市民の声だ〔一二・一三〕集会」が開かれ、二〇〇〇名の市民が集まった。作家の小田実さんらの呼びかけによるもので、文化人や宗教者が発言し、また土井たか子社民党党首と志井和夫日本共産党委員長も発言した。
 司会の矢崎泰久さん(ジャーナリスト)がスピーディに会を進行した。
 はじめに集会を呼びかけた小田実さんは、経過を報告した後、自身も経験している大阪大空襲を例にとり、「爆撃をうけている下にいる人間にとっては地獄だが、アメリカは上空から見ている。これがアメリカの戦争だ」とのべ、イラク攻撃に反対する市民一人ひとりの行動を呼びかけた。
 中山千夏さん(作家)は「九・一一が起きてから何かしなければとずっと思っていた。ますます変な時代になっている。戦争はイヤだとはっきり言っておきたい」
 澤地久枝さん(作家)は「集会にたくさんあつまってくれてありがとう。経験
している女たちが戦争の実態を伝えなければ」と話し、この日のために準備した手作りのゼッケンを掲げた。
 大島孝一さん(キリスト者政治連盟委員長)は軍歌を歌い、「自分が体験した戦争中は、自分たちだけが正しく相手が間違っていると決めつけていた。ブッシュも同じだが、米国だけを祝福する神などいない」と述べた。
 鶴見俊輔さん(哲学者)は、「アフガン攻撃の時ブッシュ大統領が『十字軍』といったのには驚いた。先住民族を追い詰め金持ちになったアメリカが、貧しい国を脅かすのはどうかしている」とのべた。
 なだいなださん(作家・精神科医)は、日本のマスコミはいろんな角度の報道をしてほしいと言った後、「湾岸戦争もイラク攻撃も目的は石油。ブッシュ大統領に地球をおもちゃにされ壊されることをやめさせたい」と話した。
 山口幸夫さん(原子力資料情報室共同代表)は、ベトナム戦争当時の経験を語り、「しかし戦車はベトナムに送られた。今年ベトナムに行ったら、当時長期間の地下壕生活をしていた人に会い、戦車を止めたというラジオ放送を聞いて勇気づけられたことを三〇年ぶりに知った。連帯という意味をかみしめた。今、私たちの行動が問われている」と語った。
 大津健一さん(日本キリスト教協議会総幹事)は、「キリスト教では平和を守
るのではなく『平和をつくり出す者は幸いだ』としている。小泉首相は手放しで米国のアフガンとイラク戦争の支援をしようとしている。声をあわせて反対の意志を表示しよう」とよびかけた。
 小泉首相とは大学時代に同学年と、話し出した佐高信さん(評論家)は「小泉
首相は、入り口を入るとすぐ出口、というように奥行きのない人物。私たちは九・一一ではなく中国侵略の開始された九・一八こそ忘れてはいけない」と述べた。
 志位共産党委員長は「イラク攻撃が始まれば中東全域を巻きこむ戦争になる可能性がある。国連決議1441はアメリカの攻撃を防ぐことができるので大事だ。中東は日本に親近感をもっている国が多い。なぜイージス艦を出すのか。さまざまな行動で必ず戦争をくい止めよう」と呼びかけた。
 土井社民党党首は「イージス艦の派遣撤回を官房長官に申入れたが、派遣理由をわかるように説明できない。国会への説明もなく、審議もない。国会がバカにされていることはみなさん一人ひとりがバカにされていることになる。イラク攻撃反対の声をあげ、ともに闘おう」と決意表明した。
 集会の後、若者で混雑する渋谷駅周辺をデモ行進し「戦争はイヤ」の声を呼びかけた。この日の行動はベトナムに平和を求めて行動した人びとが、イラク攻撃反対に再び行動を起こしたものとして注目される。(Y)


「きりしま」出航に抗議の声    「武運を祈る」と米軍艦のたれ幕

 十二月十六日午前八時から、神奈川県横須賀市のヴェルニー公園(旧横須賀臨海公園)で横須賀地区労などが主催する「12・16イラク攻撃協力のイージス艦インド洋派遣反対横須賀緊急行動」と題した抗議集会が開かれ、平日の早朝にもかかわらず、県内や東京などから約三〇〇名の労働者・市民が参加した。
 主催者の神奈川平和運動センター、横須賀地区労などの挨拶につづいて、社民党の福島瑞穂幹事長、金子哲夫衆議院議員、北川れん子衆議院議員、平和フォーラム、許すな!憲法改悪市民連絡会などの代表がつぎつぎにマイクを握り、イージス艦「きりしま」の出航に抗議した。集会はくりかえしくりかえし「イージス艦派遣反対」「戦争にいくな」「政府は憲法を守れ」とシュプレヒコールを繰り返した。
 海上からは横須賀の市民団体「平和船団」が、海上保安庁の船の妨害に屈せ
ず、「きりしま」の乗組員に直接、反戦をよびかけた。
 午前九時前、人びとの抗議の中、「きりしま」はかなりの速度で横須賀港を出航した。
 右翼の一団が日の丸をかかげて、集会のすぐ側で「自衛隊の皆さん、頑張ってきてください」などといいながら、挑発を繰り返した。
 なお、イージス艦「きりしま」の出航にさいして、横須賀基地に停泊中の米軍のイージスシステム搭載の戦艦が、日の丸と米国国旗をかかげ、日本語で「ご武運をいのります」との横断幕をかかげたこと(平和船団のサイトを参照)が、行動のあと「平和船団」を迎えた市民集会で報告された。
 「武運」などとよくいうものだ。インド洋にいる自衛艦は「日の丸」ではなく、戦闘旗を掲げている。米軍や自衛隊にとってもはや頭の中は戦争なのだ。
 このイージス艦のインド洋派遣にたいしては、さまざまな市民団体や日本弁護士連合会などから抗議の声明がだされている。
 政府・防衛庁によるこの時期のイージス艦派遣は、リチャード・アーミテージ米国務副長官の来日を前に、米軍のイラク戦争への加担を行動で示したものだ。
 すでに本紙が幾度か指摘してきたように、インド洋やアラビア海でのイージス艦の活動は、米軍のイラク戦争を助け、戦闘の一体化につながるものであり、集団的自衛権の行使、明白な憲法違反であることは論をまたない。
 小泉内閣はこうして第二次湾岸戦争への公然たる加担・参戦の道へと踏みだした。


イラク攻撃に反対するアジア民衆の共同行動をめざして

 十二月十五日午後、シンポジウム「米軍のイラク攻撃に反対する!――アジア民衆の共同行動をめざして」が東京・港勤労福祉会館で開かれ、十一名の人びとから問題提起があった。集会の主催はAPAジャパン準備会。
 パネル@の「戦争をさせない論理と行動」では、はじめに挨拶を兼ねて武藤一羊さん(ピープルズ・プラン研究所)が問題提起した。武藤さんは、アジア平和連合(APA)結成のために八月にマニラで開かれた会議の状況の概略を報告した。APAがアジアの中の多様な運動体が横に連絡しあって活動することを目的としていること、イラクや朝鮮情勢が緊迫を深めるなかで、連携して平和の力を拡大していく必要性についてふれた。
 つづいて、高里鈴代さん(基地・戦争を許さない行動する女たちの会)は「米軍による女子中学生轢殺に対する抗議行動が韓国で拡がっているが、沖縄でも地位協定問題は共通している」と指摘し、沖縄の米兵による強姦事件で座り込みをしていることを報告した。またプエルト・リコ、韓国、沖縄を結ぶ女たちの国際連帯のなかで「日常生活の中の軍事化に注目している」と問題提起した。
 君島東彦さん(北海学園大学教員・非暴力平和隊)は、一九八〇年代からニカ
ラグァやグァテマラ、スリランカなどの試みと九九年のハーグ・アピールがコソボ空爆のもとで出された苦悩の上に十二月に非暴力平和隊(PBI)が発足したことを報告した。そして「日本国憲法九条二項の改定が焦点になっている今こそ、非暴力原理にリアリティを与えるものがPBIである」と述べた。
 武者小路公秀さん(中部大学教員)は、女性の権利や安全、マイノリティーの
人権、自由権の制限が反テロ戦争をきっかけに出ていることなどについて言及し、人権運動と平和運動の結合を提案した。
 湯浅一郎さん(ピースリンク広島・呉・岩国)は「ブッシュ大統領が核の先制使用を言っている今、広島・長崎の事実をふたたび知らせていく必要がある。しかもアジアとつながり、アジアの一員として発言していくことを位置づけたい」と話した。
 小笠原公子(日本キリスト教協議会)さんは、九・一一以降、クェーカーの人びとはイスラムの人びとへの排除がおこらないように、いち早く行動した。湾岸戦争の時にクウェートで家事労働者として働いていたフィリピンの女性たちが妊娠して途方にくれていた。戦時下で階層の低い女性が見捨てられた事実だ。長野オリンピックの時には自警団が外国人の不法就労者の一掃のために警察に協力したことなどの事実をあげ、平和運動にとってのマイノリティーについて語った。
 パネルA「具体的な今後の運動に向けて」では、田村裕子さん(非戦ネット)は、NGOが政府の政策の一部として活動してしまい政府の政策の矛盾にまきこまれる状況がでていることなどを指摘した後、個々のプロジェクトから見えてくる構造的な大きな問題にとりくんでいくことのきっかけになればとの思いから非戦ネットを発足させたと述べた。
 中北龍太郎さん(弁護士)は関西共同行動の活動報告を中心に報告、集会では外国人の発言をいれるなどして国境をこえる民衆連帯の実現を訴えた。来年はイラクや有事法制などの取り組みも強化し、環境や人権団体などとの連携も広げたいと語った。
 山本俊正さん(NCC)は、プロテスタント、カトリックをこえて平和の組織をつくり、さらに仏教者とも連携をつくっていることを報告した。またイラク攻撃を批判する声明が世界中からだされていることも報告した。米国のムーブ・オンというグループは国連決議1441の署名をインターネットで呼びかけ、すでに七万名を集めた報告も行った。
 小倉利丸さん(富山大学教員)はアジア社会フォーラム(ASF)と反グローバリズムについて報告した。
 最後に国富建治さんが、アメリカの平和運動体・ANSWERが呼び掛けた一・一八イラク攻撃反対集会について報告し、たくさんの市民団体・グループによる連携行動のひろがりの報告と一・一八の行動提起が行われた。
 集会は、アジアの平和構築にむけて重層的な連携の努力が各所でつづけられていることをしめしている。(首都圏通信員)


新春インタビュー

      組織化に取り組まない労組に未来はない  21世紀、合同労組の時代が到来

         失業・雇用の流動化に対応できる労働組合を

               石川源嗣さん(ジャパンユニオン副委員長)に聞く

 失業者の増大、賃金・労働条件の切り下げなど労働者にとって厳しい状況が続いている。こうした時こそ、労働組合の出番の時代となるだが、実際にはそうなっていない。しかし、こうした中で全国各地で労働者の反撃の闘いが取り組まれている、全国インターネット個人加盟労働組合・ジャパンユニオン(http://www.jca.apc.org/j-union/ )は、インターネット、電子メールを使いながらさまざまなユニークな活動を繰り広げ、組織化、争議において成果をあげている。
 ジャパンユニオン副委員長の石川源嗣さんにお話を聞いた。(文責・編集部)


●(人民新報編集部)今日は、ジャパンユニオンの活動についてお話をうかがわせていただきます。はじめに、いまの労働者をとりまく状況をどう見ておられるのか、お聞かせ下さい。

 …… 二〇〇一年の統計によると、就業者が六四一二万人、その内で雇用されているのは五三五八万人です。雇用者は九五年に比べて一八九万人増えていますが、特徴的なのは、パート、アルバイト、派遣、契約、嘱託などの非正規雇用労働者が増え、正規労働者が減少していることです。非正規労働者の割合は二七%をこえ、まだまだ増えています。失業率は五・五%、完全失業者は高止まりです。これももっと増えていくでしょう。
 このような状況をもたらしたのは、日経連が一九九五年に打ちだした「新時代の『日本的経営』」方針が貫徹していることだと思います。そこでは、労働者を、@「長期蓄積能力活用型グループ」、A「高度専門能力活用型グループ」、B「雇用柔軟型グループ」に分類しました。@の労働者は、終身雇用の正規雇用労働者です。ここは、企業に忠誠心をもつエリートとしていっそう強化しながらスリム化し、AとBを拡大していくべきだとしたのです。そうして、労働者を分断し、雇用の流動化をつくり出す。このような方針が貫徹してくる中で、労働者が権利を奪われ、賃金も労働条件も切り下げられ、失業に追い込まれる今のような状況がうみだされました。

●労働組合の現状、またその問題点について、どうお考えですか。

…… いまの労働組合をめぐる状況の特徴は、連合をはじめおしなべて組合員が減少し、全体として組織率は低下しています。しかし、労働相談は増加しています。こうしたことからわかるのは、いまの労働組合は雇用の流動化という事態に対応できていないということです。かつての総評、いまの連合などの大部分の組合は、企業内組合でした。それは、正規労働者だけの組合であり、社員即組合員というユニオンショップ制が多いこと、組合費を組合にかわって企業が徴収するチェックオフ制をとっていることです。そうなると組織化をしなくても組合員は自動的に入ってくるし、正規労働者だけということで、非正規労働者との利害が一致しないし、ひどい場合は敵対するということがあります。
 こうしたなかでは、労働者は行政機関での救済、個人での労働裁判など労働組合以外のところで労資紛争を解決せざるを得なくなっています。労働組合のあるところでも、多くの企業内組合は労働者の問題をとりあげません。それどころか企業の立場に立って労働者を押さえつけることも見られます。
 総評時代にもっとも成果をかちとっていた春闘は、中心的な産業の大組合が賃上げをかちとり、それが中小企業の未組織労働者に波及するなどの成果もあり、いままでの企業内労組を全面的に否定するものではありません。
しかし、いまの労働者の状況、労働運動の状況を見れば、時代の変化に対応して、労働組合も大きく変わるように自分の方から考え、努力する必要があるのではないでしょうか。

 ●ジャパンユニオンの労働相談活動の特徴はどういうものでしょうか。

 …… ジャパンユニオンは、東京東部労働組合といっしょに労働相談センターを主催しています。二〇〇一年の集計では、五二二〇件、月平均では四三五件ということになりました。これは過去最高でした。二〇〇二年のものは、月間四五〇件をこえています。相談内容は、賃金と解雇、この二つで五〜六割を占めます。また、この労働相談を何で知ったかというと、「インターネットの労働相談センター・ホームページを見て」がほとんどです。電話帳、雑誌、友人知人からなどは合わせても一割足らずでした。もう一つは、相談してくる形態が二〇〇〇年までは、いちばん多いのは「電話」でしたが、二〇〇一年からは「メール」が過半数を超し、この傾向が続いています。パソコン、メール、インターネットを使える人はますます多くなっていますから、この傾向でもっと増えていくでしょう。
 労働相談をやって考えることは、いまの状況で労働者はひどい扱いを受け、厳しい状況にあること、そしてそれに対して、労働組合がうまく対応できていないということです。身近に相談にのってくれる労働組合がない、あるいは会社に労働組合があっても真剣に労働者のことに取り組んでくれないという声をよく聞きます。ジャパン・ユニオンとしては、労働相談活動をより強めて行きたいと考えています。
 
●では次に、労働者の組織化について、お願いします。

 …… 労働者は、突然のリストラで解雇や「希望」退職させられたり、いつ首を切られるかわからない不安の中にいます。そこまでいかなくても、ボーナスカット、賃下げ、サービス残業の強要など、そして病気になったら、また老後はどうするのかなどさまざまな問題を抱えています。社長がなんとかしてれるわけでもないし、政府や自治体が助けてくれるわけでもありません。
 必要なのは、労働組合をつくって、社長のやりたい放題をやめさせ、賃金や労働条件をまもり、働くものの意見が尊重される、安心して働ける、そして明るい民主的な職場にすることです。それは、不当な解雇を受けたときに一人で泣き寝入りしないで闘うためにも絶対必要なものです。
 私たちは労働組合をつくるときに憲法を重視しています。労働者の権利は世界の労働者が数百年にわたる闘いでかち取ってきました。その権利は日本国憲法にちゃんと書き込まれています。憲法の二五条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と生活権の保障をうたっています。また二七条は「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と労働権を保障しています。ここから、労働基準法その他の法律がでてきているのです。二八条では、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」としています。労働者が労働組合をつくり活動を行う権利、経営者との団体交渉の権利、そしてストライキなどの争議の権利を保障しています。これは労働組合法などに具体化されています。このように労働組合をつくることは、憲法や法律にもあきらかなように、労働者の当然の権利です。もちろん労働者の生きる権利・自然権ですから、憲法がなくても、生きるためには、労働者は団結して闘わなければならないことは言うまでもありません。
 労働組合をつくるときには必要なのは、まずノウハウです。そして一定程度経験を積んだら、次は教育です。でも、先ほども述べましたが、憲法とか労働三権をまずやります。労資対等ということが大事です。資本家は生産手段をもっていて、労働者はもっていません。この差は歴然としています。それを対等にしていくには、労働者の数、団結ということです。そのために団結権、団体交渉権、ストライキ権があるのです。それが憲法でわざわざ保障している意味です。これでやっと経営側と対等の立場になれるわけで、自然権であるとともに憲法で保障されていることをはっきり押さえておこうということです。
 労働組合をつくるのは労働者の当然の権利だとはいっても、これを歓迎する経営者はいないでしょう。組合をつくろうとしているみんなで組合の結成が当然の権利だということをしっかりと確認して勇気をもってたちあがるわけですが、組合の結成にあたっては充分な準備をして慎重に、しかし迅速に行う必要があります。
 組合づくりの流れは、@有志による結成準備会、A加入呼びかけ、組合規約案作成、結成大会準備、B組合結成大会、C結成通告、要求提出、D団体交渉、E日常活動、という経過をとります。

●最近の組織化の経験とその教訓についてはどうでしょうか。

 …… ひとつの例をあげましょう。 
 大手の乳業メーカーの下請けでの話です。その大手メーカーの東京工場は、牛乳やチーズなどを生産工場から搬入してきて、パック詰めにしています。ここでは、そのパック詰めと、スーパーやコンビニなどへの配送の仕事が主なものです。コンビニなどは二四時間営業ですから、それに合わせて配送しなければならないという仕事です。その工場では、トラック運送の仕事は下請けになっています。ドライバーは二カ月契約なんですよ。不安定雇用、非正規の労働者なわけです。でも二ヶ月ごとの契約では、先の仕事の保障がないわけですから人生設計ができないわけですよ。契約の更新をやっておけば雇用は続くわけですけど、会社は首切りやすいわけです。裁判になっても、反復契約していれば、期間の定めのない労働者と同じだとはいっても、やはり不利だということになります。そうすると労働者もあまり逆らわない方がいいという考えになりがちです。そしてその職場では、労働者にたいするボス支配があるわけです。そいつは労働者の中から出てきたわけですが、目立つ労働者をいじめて会社を辞めさせるというようなことをやっていたんです。だから他の人は文句があっても言えないという状況でした。そこの労働者が、ここに相談にきた。なんとかしたいと。そこで組合結成ということになったんですが、なにぶん二ヶ月雇用なんで、組合をつくっても、一ヶ月か二ヶ月かですぐに解雇ということになるかもしれないということで、みんな非常に悩んだんです。でも一、ニの、三でバンってやって、一時はストライキ状態にもなったんですがいまは安定期に入っています。組合を結成して社員化運動というのをやりました。そうして雇用期限のない労働者になって雇用の安定がはかられました。賃上げ、一時金などをかち取ることもやっています。
 パートさんについてですが、この工場でも、けっこう年とった女性の方がチーズ仕事場で働いています。そこは一年中、零下一〇度以下というような職場です。腰痛とかいろいろな身体の故障が出るんです。ところがこの春に、会社は六〇歳定年にしたいと言ってきました。六〇歳以上の人も結構いますから、自分は解雇になるんじゃないかということになってパートさんたちは大恐慌をきたしたわけです。それで、当事者の解雇になるかも知れないという人を先頭に会社と大衆団交を行いました。団交では、女性たちが五〇〜六〇人でばんばんやって、赤旗たてて、はちまき、腕章やってということで、結局会社の方が諦めました。そして、六〇歳をめどに考えるが、その後も働きたい方は、働かせる。ただ健康状態が労働に耐えられないというのであれば本人とよく話し合うといことになりました。一年契約ですが更新できるということです。こうして全員雇用の継続がはかられたわけです。ひとつの大きな成果だと思っています。
 もう一つ別の例ですが、外資系のグローバルな通信会社の話です。そこはアメリカの西海岸から日本まで有線で海底ケーブルを引いていますが、かなり大きい会社です。その通信センターが江東区にあります。そこの労働者が中で組合をつくろうとして、会社から睨まれて、いちゃもんつけられて解雇になった事件があります。これは二人の労働者です。一人は親会社の正社員だったんですが、もう一人は外から委託業務で来ている人でした。請負なわけです。いまはまだ、製造業への派遣労働は認められていません。次の通常国会で原則自由という法案が出されますが、いまはまだだめなんです。委託というのは、親会社から委託された会社として業務を請け負っているわけで、親会社は仕事を委託会社に丸ごと委託していて、委託社員に対して仕事の具体的な直接の指示はできないことになっています。指示は委託会社ができるだけです。親会社の中で仕事をするときには、委託会社から現場監督がでなくちゃいけないわけです。ところが実際はほとんどのところが、「かくれ派遣」になっています。形は合法的な請負という形をとりながら、実際は派遣業の労働者と同じような扱いをしているんです。親会社としては、そんなかったるいことはできないわけですよ。だから、違法だとわかっていても委託社員に直接に指揮・命令をすることになってしまっている。そこ違法行為というところをグイグイ突いていったら、会社側の弁護士も参ってしまって、かなりの成果をとることができました。
 後の例にみられるように、いまは、不正規労働者については、向こう側からすると法整備が整っていないということです。だから経営側に都合のいい法律をつくることを急いでいるわけですが、現実には、先取り的にいろいろなことをやっているわけで、それらは違法行為なわけです。それが非常に多い。そこを、取り上げて闘うことは、いまたいへん重要なことです。

●最後に、これからの運動の展望、活動家の養成などについてにお聞かせ下さい。

 …… この間の経験でつくづく思うことは、組織化に取り組まない労働組合に未来はないということです。とくに二一世紀は雇用の流動化が急速に進みますから、そこに対応するのは合同労組だということです。
 時代の変化に見合った新しい組織化、新しい合同労組をつくっていくことが大事です。
 労組の活動では、職場闘争、地域闘争が軸になりますが、すべての活動を組織化に結びつけることをわすれてはならない。私たちは地域密着主義の労働運動をめざしています。私たちの組合は東京東部地域にありますが、地域の総行動、有事法制反対の集会など地域のさまざまな運動の時にも、かならず、組合をつくろうと呼び掛けるビラや労組の機関紙を配布すること、地域の他労組などと共同での労働問題の解決の取り組み、新労組の結成、組織化の研修や学習会を一緒にやったりすることです。労組の支部の企業での組合員を拡大することはもちろんですが、取引先、知人、友人、親戚に組合を結成して労働問題を解決しようとよびかけることです。
 いまのように、いたるところの企業で労働問題がおこっているのですから、積極的に組織化に取り組む条件は充分すぎるほどあります。

● お忙しいところ、どうもありがとうございました。


日本経団連が春闘対策で「賃下げ」論 労働者の団結で資本攻勢を打ち破れ

 一二月一七日、日本経団連は、〇三春闘での経営側交渉指針である「経営労働政策委員会報告−多様な価値観が生むダイナミズムと創造をめざして−」(旧・労働問題研究委員会報告)を発表した。これは、日経連と経団連が統合して初めての報告である。
 報告の特徴は、賃下げをはっきりと打ち出してきたこと、不安定雇用の増大など労働分野におけるいっそうの「規制緩和」を主張していること、「闘う春闘の終焉」を言っていることで、旧日経連の反労働者的な方向がいっそう強まったものとなっている。
 企業倒産の増大、空前のリストラ・人減らし合理化の進行、そして完全失業者が三六〇万人をこえ、しかも最悪記録を更新し続けている原因は、小泉構造改革攻撃にある。ひとにぎりの大資本にもっと多く儲けさせるために、労働者勤労人民に犠牲をしわ寄せしているのだ。しかし日本経団連はその原因に触れることなく、二〇〇三春闘で、賃下げをはじめとしてさまざまな政策で、労働者とその家族の切実な要求に敵対してきている。われわれは、全国の労働者・労働組合とともに、日本経団連が打ち出してきた労働者に対する攻撃を跳ね返す闘いを推し進めて行かなければならない。
 
 報告は、賃金について述べる。「デフレ・スパイラルが危惧される状況下での合理的賃金決定のあり方が問われているが、企業の競争力の維持・強化のためには、名目賃金水準のこれ以上の引き上げは困難であり、ベースアップは論外である。さらに、賃金制度の改革による定期昇給の凍結・見直しも労使の話し合いの対象になり得る」としている。賃金は上げない、定期昇給の凍結・見直しというのだ。それだけではない。「企業の支払能力は深刻な状況にあり、賃金の引下げに迫られる企業も数多い。労使は、中長期的な観点から計画的な支払能力の向上に協力すべきであり、人件費と利益の源である付加価値の向上がなければ、人件費はもとより雇用の保持すら危うくなる」として賃下げを各企業に指示しているのである。
 次いで雇用形態の多様化を推進させようとして、「今後、企業が国際競争力を維持していくためには、たえざるイノベーションが必要であり、創造性あふれる組織風土が求められる。さまざまな考え方、多様な価値観の人が集まって、互いに認め合い、刺激を与え合う多様性あふれる組織づくりが必要となろう。こうした戦略によって、雇用形態の多様化が推進され、これまで企業内外の労働市場で主流ではなかった高年齢者、女性、あるいは外国人の雇用・就労機会も拡大することとなるだろう」と述べているが、これは日経連の「新時代の『日本的経営』」の貫徹としてある。
 そして、春闘については、「力行使を背景に、社会的横断化を意図して『闘う』という『春闘』は、大勢においては終焉した。労使の関心事項は賃金水準や賃金の引き上げ幅の如何でなく、多様な雇用形態の適切な組合せの実現を目指して、付加価値の高い働き方を引き出す賃金・人事制度の構築に焦点が置かれている。今日の春季交渉は、経営環境の変化を踏まえて、いかなる賃金水準、賃金制度が自社にとって適切か、また、年金など社会保障制度のあり方なども含めて話し合う場として、いわば闘う『春闘』ではなく、討議し検討する『春討』としての色彩が強まるであろう」として、春季における労資の討論会、それも経営側の主張を一方的に労働組合側が丸呑みさせられるものへ春闘を完全に変質させようとするものとなっている。
 翌一八日、小泉純一郎首相は、首相官邸で記者団に次のように語った。報告で賃金引き下げ方針がでてきたことについて「インフレのときと違ってデフレの時代だから。雇用を大事にするということだと賃下げもやむを得ない」と発言している。
 報告に対して連合は事務局長談話を発表した。それは「日本経団連のわが国経済の現状認識については、連合の考え方と基本的に同じスタンスであり、『従業員の満足度』について初めてふれるなど一定の評価はできるものの、今回の報告に一貫して流れている考えは、依然として賃金水準の切り下げである」とし、「連合は、春季生活闘争を賃金にとどまらず、総合的な生活改善闘争と位置づけ政策制度の取り組みを含め、すべての働く者の立場から社会的波及をめざす取り組みとして労働条件の底上げをめざしていく決意である」という弱々しい姿勢のものであった。
こうした姿勢は、連合の主軸である金属労協(IMF・JC)が来年の春闘で統一ベア要求を見送ること、そして連合は政府・日本経団連の三者合意(一二月四日)で、経営側がこれまで以上に雇用の維持確保に最大限努力し、労働者側も「雇用コストを削減して雇用維持を図らなければならないときは労働条件の弾力化にも対応する」ことになっているからである。
 全国の労働者・労働組合は、経労委報告、小泉発言に怒りを燃えたぎらせ、労働組合運動の労資協調潮流をのりこえ、来春闘で大きな共同をかち取って、賃上げ・労働条件の改善をかち取ろう。


四党合意は完全に破綻した 鉄建公団訴訟を軸に闘争を拡大しよう

 一二月六日、四党(自民、公明、保守、社民)協議が開かれ、その場で与党三党は、「四党合意の枠組みから離脱する」と声明した。 このことに関して、自民党の甘利明は、記者会見で次のように述べている。
 鉄建公団訴訟のやめさせるように、国労の第七〇回大会(一一月二四〜二五日)の前に、社民党を通じて国労本部に伝えた。社民党も国労本部も「それなら間違いなくでる」と言っていた。しかし、国労大会はではそうできなかった。国労執行部は、返事は良いんですよね。でもすぐ言い逃れになってしまう。
 国労本部は、同日、「国労のみにその責任を帰して四党合意を離脱する与党三党の態度は、はなはだ遺憾」であり、四党合意からおりた三党を「不誠実な態度」と批判する声明を発表した。
 ついに、JRに法的責任なしとして国鉄闘争を内部から破壊してきた四党合意は完全に破綻したのだ。
 四党合意をゴリ押ししてきた国労本部は責任をとって直ちに辞任すべきである。しかし、国労本部は、逆に、四党合意が駄目になったのは、闘う闘争団が悪かったからだとして、いっそう闘う組合員への攻撃を強めるとともに、国労の解体・JR連合との合流という犯罪的な路線を押し進めているのである。
 国鉄闘争の再構築と国労再生のための闘いは新しい段階に入った。四党合意の破綻が明らかになった今の時期、闘う闘争団だけでなく、一〇四七名すべての解雇者・闘争団員によって戦列を拡大し、鉄建公団訴訟を大きく進めることが求められている。そして、大合理化に直面するJR本体の闘う組合員、広範な支援の労働者・労働組合はともに鉄建公団訴訟を軸として、解雇撤回・地元JR復帰の闘いを前進させるときである。

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 一二月一六日はJR総行動が展開され、東京地裁での裁判、国土交通省、厚生労働省、、JR東日本会社、鉄建公団清算事業本部、最高裁などへの要請と夜の集会が行われた。
 午前、東京地裁で鉄建公団訴訟の第三回口頭弁論が開かれた。今回も傍聴希望者が多く抽選がおこなわれた。
 仙台闘争団の佐藤昭一さんが、@不採用通知の状況、A清算事業団における再就職斡旋、B労働委員会命令と解雇の三点について陳述した。弁護団の加藤主任弁護士など原告側は、鉄建公団が主張している不当労働行為「時効」論は不当であること、再就職促進法が切れても清算事業団職員としての地位が失われるわけではなく、解雇できないこと、清算事業団におけるでたらめな「就職斡旋」の実態などについて明らかにした。
 昼からの行動のメインはJR東日本本社への要請行動。新宿駅南口のJR本社周辺は、三〇〇人ほどの職員・ガードマンが「防衛」。国労大会でお馴染みの物々しい警備と同じようだ。しかし、闘争団と支援の労働者は、平和的にJR本社前に集合して要請を行った。それに対して、職員・ガードマンが取り囲んで暴力的に排除しようとしたが、それを跳ね返して行動は貫徹された。
 夜、社会文化会館で開かれた「サヨナラ四党合意 われわれは進む!−全国連鎖中央集会」には五〇〇人が参加し、各地空の報告、共闘会議からの二〇〇三年の取り組みの提起、ミニコンサート、サンタ姿の闘争団員からの「闘いへの呼びかけ」が行われ、四党合意破綻の状況をふまえ、国鉄闘争のさらなる発展を確認した。


冤罪の恐怖……それは他人ごとではない   青梅信金えん罪事件

 一二月一二日、シニアワーク東京で、「ある日あなたも……青梅信金えん罪事件にみる濡れ衣の実態」集会がひらかれた。主催は、女性ユニオン東京などによる青梅信金えん罪事件被害者まさみさんを支える会。
 青梅信金えん罪事件は、二〇〇〇年七月に起こった。被害者のまさみさんは、青梅信用金庫(あおしん)に一九九七年に入庫以来、真面目に働いていた普通のパート職員だったが、二〇〇〇年七月に支店で客が納めたはずの税金が紛失するという事件が発覚し、まさみさんはその犯人にされてしまった。まさみさんは一貫して無実を訴えたが、あおしんはその訴えを聞かずに、犯人あつかいした。ますみさんは、労働組合(女性ユニオン東京)に加入して、団体交渉を要求した。しかしあおしんは団交に一度も応じないで、二〇〇一年三月にますみさん解雇(雇い止め)した。そして、ますみさんは「業務上横領容疑」で逮捕・起訴され、保釈までの四ヶ月半もの間拘留された。
現在、ますみさんは自分の名誉を回復するたため刑事裁判で闘っている(団交拒否と雇い止めについては東京地労委で係争中)。
 しかし、あおしんで、お金が無くなっていることがわかったのは、事件が起こったとされる日からかなり経ってのことだった。この事件は、信金自身の不祥事をパート労働者におしつけ、これで一件落着ということで企業のメンツを守ろうとした可能性が高いと言われている。あおしん側は、支店長を先頭になんとかまさみさんに濡れ衣を着せてクビ切りを正当化しようとしている。
 集会は、冤罪事件から教訓をくみとるとしてビデオ「裁かれるべきは……検証・甲山裁判」が上映された。甲山事件は、一九七四年、西宮市にあった福祉施設「甲山学園」で園児二人が行方不明になり、浄化槽で死体となって発見された。山田悦子保母が「殺人容疑」で逮捕された。捜査過程では、強引な取調べ、いい加減な証言の採用などがあったが、冤罪であることがあきらかになり、一九九九年に無罪が確定した。
 つづいて、あおしん側が証拠としている店内のビデオを見ながら、青梅信金冤罪事件弁護団が説明。
 さいごに、当該のまさみさんが、お礼をかねて、こんな人権無視は絶対に許せない、無実・無罪まで闘いぬくとあいさつした。


労基法大改悪「報告案」NO!緊急アピール

    小泉改革NO!非正規労働者の権利確立をめざす秋の共同行動

 小泉政権による労働法制の大改悪がもくろまれている。二〇〇二年一二月の労働政策審議会労働条件分科会において、「解雇ルール」、有機雇用の上限延長、裁量労働の拡大、派遣労働の製造分野にまでの導入などが示された。これらは、財界の要求に応じた解雇・合理化・労働強化であり、労働者に失業、賃金・労働条件のいっそうの悪化をもたらすものだ。二〇〇三年の通常国会で、政府・与党はこれらの法制化を強行成立させようとしている。すべての労働者・労働組合の力で労働法制改悪を阻止しよう。「小泉改革NO!非正規労働者の権利確立をめざす秋の共同行動」の緊急アピールを資料として紹介する。(編集部)

 厚生労働省は、一二月三日開催された労働政策審議会労働条件分科会で、「今後の労働条件に係る制度の在り方について(報告)(案)」を提案した。本報告案は一二月一七日の次回分科会において、最終的にまとめられようとしている。  以下に指摘するように、労基法の基本的性格をも変える重大な問題が含まれており、労基法大改悪と言わざるを得ない。私たちは、以下の条項の全面削除を求めると共に、多くの仲間のみなさんに、労基法大改悪NO!の声を上げられるよう訴える。

(一) 労働契約期間
 
 労働契約期間の上限は、原則三年に延長し、知識、技術又は経験を必要とする高度の専門的業務と六〇歳以上に関し五年としているが、三年ないし五年の長期にわたって労働者を拘束し退職の自由を阻害すること、正社員の代替を促進すること、若年定年制を促進するなど重大な問題を有しており、上限延長は絶対に認められない。

(二) 労働契約終了等のルールおよび手続

 解雇ルールに関しては、「使用者は、労働基準法等の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇できるが、使用者が正当な理由がなく行った解雇は、その権利の濫用として、無効とする」とされている。これは、原則として使用者に解雇の権利・自由があることを表明しており、このような文言が労働条件の最低基準を定めた労基法に盛り込まれること自身、到底認めることができない。労基法は使用者の権利法ではないのだ。さらに、これらは、解雇は原則自由で、例外として無効になる場合があるという誤解を一般に広める危険性や正当な理由がないことの立証責任を労働者に課す可能性もあり、とんでもない改悪だ。
 「裁判における救済手段」として、「裁判所が当該解雇は無効であると判断したときには、労使当事者の申し立てに基づき、雇用関係を継続し難い事由がある等の一定の用件の下で、当該労働契約を終了させ、使用者に対し、労働者の一定の額の金銭支払いを命ずることができる」と言う規定を上記解雇ルールとセットで盛り込ませようとしている。金銭支払いについては、使用者の申し立てを認めており、職場復帰をもとめる当該の意思を無にし、かつ、使用者に金さえ払えば解雇しても良いというモラルハザードを引き起こすのは火を見るより明らかである。さらに、「一定の金銭の額については、労働者の勤続年数その他の事情を考慮して厚生労働大臣が定める額とすることを含めて……検討する」となっているが、現在の力関係では低水準で定められてしまう可能性も高く、和解解決などの水準にも大きく影響し、首切り自由の大バーゲンセールを奨励しかねない。
 私たちは、解雇の自由化を促進するこれらの規定の全面削除を求める。

(三) 裁量労働制の在り方

 企画業務型裁量労働制の導入・運用に係る手続の簡素化として、労使委員会の決議を五分の四とすること、労働者委員の労働者過半数の信任要件の廃止、労使委員会設置届出の廃止、健康福祉確保措置の実施状況報告の簡素化、労使委員会の決議有効期間限度一年の廃止、対象事業所を本社に限定しないことなどが提起されている。これらのいずれもが九八年の労基法改定の際に、サービス残業の温床になり、長時間労働を蔓延させかねない企画業務型裁量労働制を濫用させないために、あえて定めた導入・運用要件であり、要件の緩和は歯止め措置を骨抜きにするものであり、絶対に容認できない。
 以上、本報告案は重大な問題を有しており、労働者の最低限の権利を定めた労働基準法の基本的性格を変質させ、使用者のための労基法に変えてしまう大改悪と言わざるを得ない。労働条件分科会は性急に結論を出すことなく、引き続き、労働現場の実態を踏まえつつ、労働者の権利確立・保護の視点から、議論を継続すべきである。

 私たちは、政府・厚生労働省の進める労働基準法大改悪絶対反対を呼びかけるとともに、関係する各組合・組織の皆さんへ厚生労働省要請や抗議行動などを積極的に取り組まれるよう要請する。

                                              以上

二〇〇二年一二月六日

   * * *

 有期雇用労働者権利ネットワーク     東京都港区新橋五―一七―七 全国一般東京南部気付
 TEL 〇三(三四三四)〇六六九 / FAX 〇三(三四三三)〇三三四 


映画

      夜を賭けて


          原作 梁 石日(ヤン・ソギル)
          監督 金 守珍(キム・スジン)

          主演 山本太郎(金 義夫)/ユー・ヒョンギョン(新井初子)


 崔洋一が監督し、さまざまな映画賞を授賞した「月はどっちに出ている」は梁石日の実体験をつづった「タクシードライバー日記」をもとに作られた。
 今回初めて映画監督をした金守珍は新宿梁山泊という劇団で座長を長く勤めてきた。今から四〇年以上前の大阪を再現するために地元では適当な場所が見つからず、韓国側の協力を得て韓国・全羅北道群山市郊外の倒産した広大な工業団地跡に当時の在日朝鮮人居住地をオープンセットとして忠実に再現し、川まで作ってしまった。
 一九四五年(昭和二〇年)八月一四日、つまり日本の敗戦前日、日本陸軍最大の兵器工場だった大阪造兵廠は広さ一二〇〇平方`bにのぼっていたが、アメリカ軍の爆撃によって壊滅的打撃を受け、戦後しばらくの間、廃虚としてそのまま放置されていた。一九五〇年にはじまった朝鮮戦争で好景気にわいた日本は鉄屑でさえ高く売れ、一九五八年(昭和三三年)「鉄屑窃盗集団アパッチ」が誕生した。
 アパッチという呼称はネイティブアメリカンを題材にした映画の題名からつけられたマスコミ用語であり、決して彼らの自称ではなかった。
 廃虚となっていた造兵廠跡地は立入禁止地区になっていて、そこに入り込んだ川をへだてた集落に住む在日朝鮮人のハルモニ(老婆)は兵器の残骸の鉄屑を持ち帰った。それが金になるとわかり、集落の住人たちはいかにすれば大量に鉄屑を持ち出せるか考えあぐねていた。そこに三年ぶりに釜ケ崎から金義夫(山本太郎)が船に乗って帰ってきた。住人たちは自分で鉄屑を運ぶことを思いつく。ここに大量窃盗集団が誕生する。集落は活気に満ち、マッコリ(ドブロク……密造酒)を飲ませる飲み屋ができた。男はバクチにあけくれ、酔っぱらっては、取っ組みあいの喧嘩をくりかえした。
 放置された兵器の残骸とはいえ、国有財産なので、彼らは夜陰に乗じて発掘作業を行うが、つねに警察の追及におびえていた。誤って警官を殺害してしまう者もあらわれ、追及はますます激しさをましていった。
 やがて集落にまぎれこんだ謎の人物によって建物は放火され、それが合図であるかのように何百人という警棒を持った警察官がなだれこみ、抵抗むなしく全員が逮捕されてしまう。
 この作品は六〇年安保直前の在日朝鮮人社会の様相を力強く、実にリアルにえがきだしている。もちろん多少の脚色もあるのだろうが、梁石日の実体験に基づくものであり説得力はある。日頃のすさまじい差別とそれに耐えうる、はねかえす力強さをみなぎらせた映画だと言えるだろう。
 集落に帰ってくる船に積まれた獲物は盗品であるとはいえ、彼らにとっては金になる宝物なのだ。船の到来は彼らに幸せをもたらした。しかしそのしあわせも長続きはしない。やがてやってくるであろう大弾圧の予感が住民の心の中にみなぎっている。
 日焼けした男たちは、品のないことばをはき続け、酔っては殴りあいの喧嘩をくりかえすが、そういう映像を見せられても悪い感情はいだかせない。
 映画初演出の金守珍は今までの演劇活動でつちかってきた演出力を充分に発揮していて、そのすぐれた演出力には感服せざるをえない。また、まわりを元劇団状況劇場の唐十郎や大久保鷹たちががっちりと固め、六平直政の悪人顔の演技も捨てがたい。かといって息のつまる映画ではなく、笑いとペーソスが実にうまく調和されている。
 一九五八年当時の在日朝鮮人社会の姿(もっとも私は直接見たわけではないが)を非常によく表現あるいは再現しているのではないかと思う。
 最近の日本映画は袋小路に入っているような感がある。しかし、このような力強い作品を見終わったあとからは日本映画も捨てたものではないと思い直してみてもいい。
 この映画の音楽担当は、朴保だが、これがじつにすばらしいシークエンスにあった。音楽は素直に感情移入できる。画面に力強さをつけ加えている。新井初子(ユー・ヒョンギョン)が歌う父母を思う歌「愛しのクレメンタイン」「雪山賛歌」と同じメロディーの曲でたいへんすがすがしい気持ちにさせられる。
 気になるシーンをあげよう。
 集落の長老の子どもが父親に向かって語りかける。「アボジ(おとうさん)、このような腐敗した生活をやめて共和国(朝鮮民主主義人民共和国)に私は帰ります」。すると父親は息子に「行かないでくれ、もう家族がこれ以上ちりじりバラバラになるのは耐えられない」と語る。なんと含蓄のあることばではないか。現在の騒々しい政治状況のなかで、その問いに私たちはなんと答えたらいいのか。簡単には答えられないだろう。
 何度でも言うが、この映画は在日朝鮮人群像をいい面でも悪い面でも表現している。ぜひこの映画を見て欲しい。梁石日の小説は大村収容所へつづいていくが、この映画も続編としてそちらに行きたいと製作者は思っているようだ。
 ただラストシーンで初子がチマチョゴリを着て野原を歩くシーンや、義夫たちがいい獲物を見つけ、まさに出かけようとするシーンは少しこりすぎで蛇足だという感はいなめない。
 また、一応、日韓合作映画だと言いながら、主な配役はほとんど日本人俳優だというのはどういうことだろうか。在日韓国人俳優をもう少し加えて欲しかったという気もする。

 シネ・アミューズ(渋谷) 新宿武蔵野館で上映中

                               (東 幸成)


Piece For Peace 2002 五人の反戦画家」と丸木美術館の散策

 埼玉県の東松山駅から市内循環バス(百円)に乗って十五分ほどいくと丸木美術館のある「浄空院入口」バス停に着く。「遠いところよく来てくださいました。都幾川のながれに耳をすませ、自然の美しい環境を守る美術館でごゆっくりどうぞ」というメッセージの看板に迎えられ、丸木美術館に入った。
 かつて幾度か訪れたことのある美術館。
 今回は一〇月一日から十二月二一日に開催された「五人の反戦画家展」を観るためにやってきた。
 丸木美術館は丸木位里、丸木俊夫妻によって建てられ、世界に平和を発信する美術館として知られている。常設展は夫妻の共同制作の「原爆の図」連作、「南京大虐殺の図」、「アウシュビッツの図」など社会的題材の大作のほか、水墨画の革新を実践した位里の雄大な風景画、俊のすばらしいデッサンや色彩鮮やかな絵本原画、そして位里の母・スマの天衣無縫で楽しい絵などが並んでいる。

五人の反戦画家のこと

 二〇〇一年末から二〇〇二年春まで丸木美術館で開催された「Oh No! 報復戦争詩画展」の出品作品中、多くの注目を集めた五人の画家たち。今回の展示は彼らの9・11以降の作品。

 佐藤俊男(一九四六年生まれ)は、天皇や各国元首と兵士・民衆、その生活情景を写真の転写によるモンタージュで矛盾をきわだたせながら、ユーモラスに批判している。

 上条明吉(一九三四年生まれ)は、山野に重なり横たわる骸骨の群れに「社会からの疎外」とメッセージを打つ。

 加藤義勝(一九七〇年生まれ)は、国家の枠とともにヒューマニズムの枠も超えて、幻想を宇宙的に拡大したユートピアを表現。

 水谷イズル(一九六一年生)は、社会派ジャーナリスト出身で、アフガン、イラク、パレスチナなどの民衆の視点から造形する作品だ。山積みする米ドル札の一角が崩れる《予言》的なものは彼の世界観を伝えている。また、うす暗い小部屋が設置され、中に入ると真ん中に置かれた台の上のスクリーンに、青空と雲が投影され、その上に水の波紋が重なる作品には「星のない夜に二〇〇二年」とあった。9・11以降を受けて表現されたものだ。

 西元利子は「書」から出発したが、フェミニズムの思想から文字と文字を変形したイメージを組み合わせて、従軍慰安婦の苦悩を追求。作業が進むうち、いやおうなく戦争の状況全体にたちむかわざるをえない地点にさしかかったという。作品はどれも美しい字、美しい絵だ。白と黒のシンプルな世界は「従軍慰安婦問題」の本質を一層鮮明に伝えてくれる。
 
 五人の眼で見ると、今でもつづく戦争や占領の本質が新しく照らし出されるにちがいない。(五人の反戦画家展によせて−針生一郎)

 来館した人びとによる寄せ書きノートが置かれている。のぞいてみた。「地球はひとつ。みんなの心もひとつ。平和の気持ち」(中一女子)。「戦争の悲しみや痛みを教えてくれた丸木夫妻に感謝します」(○○子)などとあった。五人の作品群は丸木美術館に見守られ、はげまされるような形で、反戦のメッセージ性は一層の輝きを放っているのではないだろうか。
 
 ここでは様々な企画展が取り組まれます。足を運んでみませんか。美術館周辺には都幾川、比企丘陵の自然なども満喫できます。

住所 埼玉県東松山市下唐子一四〇一
TEL 〇四九三(二二)三二六六
入館料 大人・七〇〇円 休館日 毎週月曜日

       (城戸翔子)


拉致問題、改憲、有事法制など諸問題の現状を解きあかすパンフレット

 今日では私たちは比較的容易に、さまざまな情報を大量に手に入れることができる。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、単行本、インターネットなどなど、まさに情報の洪水だ。おそらく少なからぬ人びとがこれらの情報を手元において、活用していないのではないか。テレビにしてもビデオに撮っておいても見る時間もなく、ファイルだけが多くなる始末だろう。
 私たちにはこれらの情報を選抜し、分析する確かな視点の確立が問われている。
 そういう問題から考えると、運動のなかでさまざまに発行されるパンフレット類は、いつも時間に追われている者にとっては、それらの発行者がかかわる運動の検証を経ているだけに、便利なものだ。この正月の休みにせめてこの程度は読んでおきたいものだ。

演記録・拉致報道の洪水から何が見えるか

新崎盛暉(沖縄大学教授)

頒価 二〇〇円  A5版二四頁

発行 11・3憲法集会実行委員会(電話03・3221・4668、FAX03・3221・2558)


 小泉訪朝と金正日の「拉致・不審船」などの確認は衝撃的で、以降、三ヵ月余を経ても、日本のメディアはこの報道の洪水だ。五人の拉致被害者の人びとの一挙手一投足がくりかえし報じられ、「北朝鮮に対する毅然たる姿勢」の必要性が、政府からマスコミまであげて叫ばれる。こうしたなかで、人びとは重苦しい、薄暗い空気がこの社会で拡大していることを感じている。
 ある人は「拉致問題は大事だが、日本の戦争責任・戦後責任はどうなのか」と反論する。それもそうだと思う人もすくなくないと思うが、この論理ではなかなかいまひとつすっきりできない。運動者の確信というのは、相手をやりこめる論理の確立から来るのではなく、自らの論理が未来を切り開く論理であることによる。
 だからこそ、少なからぬ人びとが「この問題をどうとらえればいいのだろうか」と思い悩んでいるのだろう。
 本書で新崎は言う。
 「ではどうするか。当面は時間的にも空間的にも視野を広げて、人権感覚を磨く努力をする以外にないというしかないでしょう。その時に非常に重要なのは、植民地支配から原爆投下まで、……そういう国家犯罪を追及しつづけるところからしか未来は開けない。拉致問題と植民地支配は違う、いろんなものをばらばらにするのではなくて、国家あるいは国家間の異常な関係が何を生み出して、それが一般の民衆にどういう被害を与えるか、それを反省する材料なんですね」と語る。
 貴重な問題提起だ。

 ブッシュ・ドクトリン 国家安全保障戦略 全訳と批判


 A4版五二頁  頒価・四〇〇円

 発行・アメリカの戦争 と日本の参戦を許さ ない!実行委員会 (電話03・5275・ 5989 FAX03 ・3234・4118)


 二〇〇二年九月、米国大統領ブッシュが発表した「国家安全保障戦略」は「グローバル戒厳令」(ダグラス・ラミス)と呼ばれるような、その単独覇権体制のもとでの軍事力行使の戦略の宣言だ。本書はその全訳と国富建治(新しい反安保実Z)、島川雅史(立教女学院短大教員)による解説だ。
 米国が「悪の枢軸国」とか「ならず者国家」と規定した国々に対しては、核兵器をも含む先制攻撃は正当だと主張する。このあまりに露骨な帝国主義のドクトリンにたいしても、日本の小泉政権は積極的に追従している。
 このブッシュ・ドクトリンを訳者の国富建治は「それはまさしく、新自由主義的な資本主義のグローバリゼーションを推進することとセットになった、アメリカを頂点とした階層的・覇権的秩序を維持するための『終わりなき戦争』の宣言なのである」と指摘している。

 シンポジウム記録・改憲へ走る憲法調査会 

  パネリスト・山内敏弘/新垣勉/高田健  発言 内田雅敏/古川純

 A5版五二頁  頒価四〇〇円

 発行・憲法調査会市民監視センター(電話・03・3221・46  68 FAX・03・  3221・2558)


 新しい段階の改憲の策源地・衆議院憲法調査会は発足以来、二年半を過ぎて、その「中間報告書」を発表した。
 発足以来、両院の憲法調査会の活動を監視し、市民運動に報告してきた「市民監視センター」が調査会の二年半にわたる活動を検証し、批判するために十月五日に開催したシンポシウムの全記録だ。
 日本の良心的憲法学者の大多数を結集した全国憲法研究会の代表である山内敏弘(一橋大教授)と日本弁護士連合会有事法制問題対策委員会の副委員長の新垣勉(弁護士)らによるシンポジウムによって、有事法制や改憲をめぐる支配層の動向が解きあかされている。


石原都知事を一一九名が提訴 『ババァ』発言を許さない

 十二月二〇日、石原東京都知事の女性差別発言に対して、都内在住・在勤の女性一一九名が発言の撤回と謝罪、損害賠償請求を東京地裁に提訴した。
 問題の発言は、「週刊女性」二〇〇一年十一月六日号の都知事へのインタビューで、都知事は松井孝典東大教授の発言を引用する形で「文明がもたらしたもっとも悪しきものはババァなんだそうだ。女性が生殖の能力を失っても生きているのは無駄ですって」と発言したもの。
 さらに都知事が都の「少子社会と東京の福祉」の会議の挨拶や、都議会でも同様の発言を繰り返してきたことにたいして女性たちが提訴を行った。
 原告の女性たちは都知事が引用したという松井氏の発言内容を分析した。そして都知事の発言とはまったく違う内容であることを確認したうえで、二〇〇二年六月には四四七名の連名で都知事に直接公開質問状をだしている。
 これにたいする知事の回答は「答えない」というものだった。
 原告たちは「石原都知事の『ババァ』発言に怒り・謝罪を求める会」を結成し、署名や集会、街頭でのチラシ配布などを行ってきた。その中で現在の法令では裁判以外に有効な救済手段がないとして、今回の提訴にふみきった。
 原告の女性たちは、提訴に踏み切った理由として、女性が安心して働き生活する権利が侵害される不安、都知事としての発言であり「女性は生殖のためにだけ存在する」という考えが政策に反映されるかも知れない不安、高齢女性を社会的排除の対象とすることを煽動することによっていじめや暴力の危険にさらされる、などの精神的被害をあげている。
 民事訴訟という切羽詰まった行動をとった原告たちだが、公職にありながら、法律違反でも、人権侵害でも、どんな発言をしても許されるという傾向にある社会の現状を厳しく問うものとして、裁判の今後を注目していく必要がある。(Y)


横浜事件の再審開始を求める研究者声明

 <十二月十八日、横浜事件の再審を求める研究者声明が発起人・賛同人一一一名の名前で出された。戦争のできる国家体制作りが進められる現在、戦前・戦中の権力犯罪を告発し闘う意義は大きい。以下要旨。(編集部)>

 横浜事件は、当時の代表的雑誌『改造』掲載の論文が共産主義の宣伝であり、当該論文執筆者の主催した出版記念旅行が共産党再建の謀議とされたことなどを契機に、雑誌編集者をはじめ六〇名以上が一九四二年から四五年にかけて治安維持法違反容疑で検挙されると共に、当時の代表的出版社である改造社、中央公論社が強制的に閉鎖させられた事件である。
 私たち研究者は、横浜地方裁判所が速やかに再審開始決定を行うことを求めるものである。
 第一に、共産主義運動という横浜事件の「犯罪事実」自体が、特高警察による創作であった。横浜事件は、帝国憲法の下でさえその正統性に強い批判のあった治安維持法に関係する事件の中でも、最悪の部類に属する「戦前の司法の諸悪を凝集した事件」なのである。
 第二に、横浜事件の被検挙者は激しい拷問を受け、獄死者四名、釈放直後の死者二名という、他の治安維持法関係事件と比べてもきわめて悲惨な犠牲を出している。
 拷問の存在は、戦後、部分的には裁判所も認めるところとなり、特高警察官三名が有罪判決を受けた。
 旧刑事訴訟法四八五条七号には、職務犯罪の主体として「警察官」は含まれていない。だが、旧刑事訴訟法も日本国憲法の趣旨に従って解釈すべき以上、警察官による職務犯罪の存在も、再審理由として扱われなければならない。
 加えて、横浜事件は被検挙者の供述に基づいて事件が拡大されたものであり、一部でも拷問による虚偽自白の存在が認められる以上、事件全体の構図が崩れることにもなる。
 第三に、関係者に対する予審・公判は、戦時中とはいえきわめてずさんかつ拙速である。そもそも、ポツダム宣言の受諾により、天皇制国家を維持するための最大の言論弾圧法規である治安維持法は当然に失効すべき運命にあった。それゆえ、訴訟自体を免訴で打ち切るか、無罪とされるべきであった。
 治安維持法の適用に拘泥し、ずさんな審理・有罪判決をすることが許されないことはもちろん、そのような有罪判決を放置しておくこと自体も、「戦後」の課題である民主化・人権尊重の理念とそれを受けた日本国憲法の精神に反する。
 第四に、治安維持法の廃止により、予審・公判中の関係者は免訴判決を受け、既に有罪判決を受けた関係者には後に大赦が行われた。しかし、大赦は刑の言い渡しの効力を将来に向かって失わせるもので(旧恩赦令三条)、有罪判決があった事実を完全に消滅させるものではない。関係者の完全な名誉回復のためには、有罪判決そのものを取り消さなければならない。 
 真に国民のための開かれた二一世紀司法を目指すには、まず、二〇世紀の負の遺産を克服することから始められねばならない。横浜事件は、まさに戦前の天皇制司法による負の遺産の典型である。裁判所自らが戦後民主化の理念とその具体化である日本国憲法の理念に思いをいたし、過去の誤りを正し、それを克服することこそ、新世紀の裁判所に最もふさわしく、かつ最も強く求められていることなのである。

 横浜地方裁判所刑事第二部 御中


複眼単眼

   石破茂らの徴兵制発言と自衛隊の実態


 石破茂が昨年の五月の憲法調査会で「徴兵制が奴隷的苦役に当たり憲法違反であるという主張があるが、自らの国を守ることが奴隷的苦役であるような国は国家に値しない。徴兵制は憲法違反ではない」と述べて以来、徴兵制の問題に関心を払ってきた。
 いま「防衛白書」は二士男子募集対象人口の推移に危機感をしめしている。十八歳人口は一九九二年には百万人を超えていたが、二〇〇五年には七〇万、二〇一三年には六〇万強と予測され、十八〜二六歳人口は九四年には九百万あったが、二〇一三年には六百万を割ると想定されている。
 自衛隊の定員をどう確保するかは、防衛庁にとっては実に深刻な問題だ。志願制度の限界がくれば、安上がりの徴兵制度が魅力ある存在として浮上するのは必然なのだ。
 徴兵制は電子戦争の現代戦では使いものにならないなどというのはウソだ。日本の教育水準、技術水準では広範な分野に使用できることは自明だし、兵站活動などは自動車の運転技術があれば使い道はいくらもある。
 ときおり浮上する徴兵制問題は当事者にとっては決して夢物語ではない。
 そこで従来の退役自衛官を中心にした予備自衛官だけではなく、即応予備自衛官制度が取り入れられつつある。これは民間企業などから年間三〇日の訓練を義務として募集し、企業に補助金がつき、個人にも手当てがだされる。企業にとっては「若手から再教育が必要なベテラン社員まで、自衛隊が手当てと補助金付きで根性、体力、そして命令への服従を叩きこんでくれる」というおいしい話だ。これは企業の後押しが期待できるだけに、事実上の徴兵制になる恐れがある。これを陸上自衛官の定員十六万人の内一万五千人採用する計画が進んでいる。
 それでもうまくいかない場合には、「志願制では人が集まらない。国家の自衛のために国民の均等負担は必要だ」という話がでないとはかぎらないのだ。
 徴兵制必要論の変化球は「青少年の教育のための徴兵制有益」論であり、団体生活の訓練と「自らの国は自らの手で守る」という気概の教育が必要だなどというものだ。
 一八七三年、明治政府の山県有朋によって徴兵制が取り入れられた。以来、これは海外侵略のための軍隊に成長した。
 一九四五年、ポツダム宣言を受け入れ、帝国軍隊は解体された。しかし、五四年にはすでに大村防衛庁長官が「徴兵制実施が望ましい」と発言。中曽根長官下の七〇年の防衛白書は従来からの「徴兵制は不可能」の字句を削除した。八〇年には関経連の日向方斉会長が「徴兵制の研究が必要」と発言した。九六年には自民党の森総務会長が徴兵制関連発言をし、九九年には民主党の鳩山代表が「緊急事態法制の中で徴兵制を考えるべきだ」と述べた。
 幸というか不幸というか、現下の景気の低迷の中で自衛隊の志願者は下げ止まりしているという。
 しかし、さらにこうした状態がつづいていけばどうなるのか、背筋が寒くなるのは冬の寒気のせいだけではあるまい。(T)