人民新報 ・ 第1090号<統合183> (2003年3月25日)
  
                                目次

● イラク攻撃許すな! 戦争すぐやめよ

     WORLD PEACE NOW3・21五万人が参加

● 米大使館前で連続抗議行動   日本青年団協議会の100名も合流

● 大人も子供も、若者も女性も高齢者も結集して

    NO WAR ! NO DU ! NO NUKES !   人文字を世界に発信!

● 連合がイラク反戦集会  国際協調による平和的解決の実現を

● イラク戦争反対!労働法制の大改悪反対!低額回答に反撃を! 春闘勝利にむけて総決起集会

● 許すな!憲法改悪・市民連絡会の緊急声明

● イラクと朝鮮半島に平和を!ブッシュ・小泉の戦争政策を許さない!3・15 日韓連帯アクション

● 編集部・対談 / イラク反戦運動の高揚について A

● 図書紹介 / スコット・リッターの証言 イラク戦争

● 複眼単眼 / 国連加盟国の四分の一しか支持しなかった米国の攻撃



イラク攻撃許すな! 戦争すぐやめよ

   WORLD PEACE NOW3・21五万人が参加


 三月二〇日、アメリカ・ブッシュ政権は、ついに無謀なイラク総攻撃を開始した。
 これまでブッシュ政権は、イラクのフセイン政権が、テロ支援を行い、また大量破壊兵器を廃棄せずいまも保有していると言い張りなんとか国際的な支持をとりつけようとしたが、多くの国々は査察延長を求め、また国際的な世論もまた戦争反対の意思を表して、アメリカの命令に従うのは極少数の国の政府であることが明かとなった。経済援助をちらつかせながらの必死の買収工作にもかかわらず、ブッシュ政権は国連安保理で「武力行使容認」の新決議を上げる策動に失敗した。日本政府のアメリカと組んでの根回しも効果を上げることはできなかった。新たな国連決議が成立しなかったことは、国連の名を使って、アメリカのアメリカによるアメリカのための戦争をやろうという目論見は完全に破綻し、ブッシュ・ブレアは孤立した。このように孤立し追いつめられた米英両国政府は、世界の大勢に背をむけて、国連決議なしの侵略戦争に踏み切ったのである。日本の小泉政権は、ブッシュのイラク戦争がまったく大義のないものであることが明白であるにもかかわらず、イラク戦争を全面的に支持した。日本でも、大多数が国連決議のない戦争に反対している世論調査の結果がでている。小泉はこうした世論をも否定して、日米同盟を憲法の上におき、同時に「北朝鮮の脅威」を口実にアメリカを全面的に支持・支援している。その上、小泉政権は、当面は軍事的支援はしないとしているが、今後の状況の進展によっては自衛隊の参加のための新法の可能性を否定しないとしている。
 ブッシュが主導しブレア・小泉などがそれに追随して強行している戦争は、アフガニスタンにつづいて、イラクにたいして戦火を拡大した。この戦争はイラクにつづいて北朝鮮、イランなどブッシュが「悪の枢軸」と名指しした国に対して次々と発動されて行くだろう。ブッシュらのやろうとしているのは、世界的な覇権と利権をもとめる石油・エネルギー産業、軍産複合体の利益のために、新たな「ならず者国家」を設定し、連続して戦争をつくり出していくことだ。
 しかし、全世界の人民は、こうしたアメリカの侵略戦争を許しはしない。戦争に反対して各地で立ち上がり、反戦運動はその幅を広げ、ベトナム反戦闘争の高揚を上回る勢いとなっている。
 日本でも9・11事件以降の、テロにも報復戦争にも反対する運動は着実に前進し、多数の若者の自発的な参加など新しい質をかち取ってきた。そして今年に入って、イラク戦争開始の危機が本格化するとともにかつてない飛躍を示している。「WORLD PEACE NOW」実行委員会関係の行動では、一月一八日(七〇〇〇人)、二月一五日(五〇〇〇人)、三月八日(四〇〇〇〇人)と急速な運動の拡大が見られる。
 「ブッシュのあまりにもひどい一方的な侵略戦争の開始、そして、平和憲法を踏みにじり全面協力に走る小泉のやりかたは絶対に許せない」。こうした声は全国に広がった。毎回の反戦の行動の呼びかけには、予想以上の積極的な反応が生まれるようになった。参加者も単なる動員ではなく、それぞれの人、老若男女おもいおもいのプラカードをつくり、また自発的にパフォーマンスを展開して、戦争反対の呼びかけをおこなっている。
 日本の民衆の運動は画期的な高揚の局面にある。連合などの労資協調主義的な労働組合運動でさえも反戦運動の拡大に押されて戦争反対の行動を起こしはじめた。
 ブッシュはイラクに侵略戦争を開始した。現在、いっそう力強い反戦運動の展開が求められている。もっともっと多くの戦争反対の声を上げ、いたるところで戦争反対の行動をつくりだそう。
 開戦後の三月二一日、東京・芝公園での「WORLD PEACE NOW」行動には、五〇〇〇〇人の市民が結集し、戦争反対を力強くアピールした。会場の芝公園は開会前にすでに満杯となり、別会場も設けられ、二コースに別れてのピースパレードは延々とつづいた。当日、東京では、芝公園以外にも、陸海空港湾二〇労組や高校生などによる集会も開催され、各地でもイラク戦争反対のさまざまな取り組みが行われた。
 いま、毎日、イラクの市民が殺されている。
 全世界の人びとと連帯して、日本での反戦の闘いを盛り上げ、一日も早くイラク戦争を止めさせよう。


米大使館前で連続抗議行動

      
日本青年団協議会の100名も合流

WORLD PEACE NOW実行委員会はアメリカのイラク総攻撃が始まった二〇日から三日間つづけて午後六時半から、東京・港区の米国大使館前で抗議の集会を開いた。二〇日は大使館から二〇〇メートル以上離れた路上で機動隊に通行を阻止された三〇〇名ほどの人々が、現場で集会を開いた。二一日は午後の集会を終えた人々が一〇〇〇名あまりで大使館前まで進み、抗議集会を開いた。二二日は大使館の正門の前で三〇〇名の人々が集会を開いた。
 二二日の集会では冒頭に司会の高田健さんから、その日、バグダットに入った青年からのメールが紹介された。集会では大使館前で連日、抗議行動を続けている青年、平和フォーラムの事務局、日本山妙法寺のお坊さん、大学生、一三歳の女子中学生などが発言した。またこの集会に日本青年団協議会の人々一〇〇人あまりが合流し、菅野副会長が発言した。菅野さんは「全国会議をしていたが、いてもたってもおられず駆けつけてきた。日青協は戦後に再出発して以来、戦争に反対する立場をとってきた」と報告した。女子中学生は「イラクの子どもたちを殺さないでください。自分と同じような子どもたちが殺されているのにがまんができません。学校で校長の許可を取って四〇〇枚のビラを作って生徒に配ったら、一部の保護者から勉強してからにしろと文句がきた。だからまた二号ビラを作って、いまが大切だと反論した。自分は小さくて、力もないので何ができるかと考え、大使館前に来た」と発言した。


大人も子供も、若者も女性も高齢者も結集して

    
NO WAR ! NO DU ! NO NUKES !   人文字を世界に発信!

 イラク開戦に反対する反戦行動は、世界的規模で日増しに高まり、ブッシュ政権は孤立を深めている。
 三月一五日、ヒロシマ原爆ドーム前で「NO WAR(戦争)! NO DU(劣化ウラン弾)! NO NUKES(核)!」の灯文字を描き、平和のメッセージを世界に発信することを目的に運動が取り組まれた。
この行動は三・二広島中央公園で「NO WAR NO DU!」の人文字を、六〇〇〇人規模で世界に発信した運動をさらに発展させようと企画されたものである。市民運動が中心となって取り組まれたこの運動は、一月一八日、二月一五日につづく世界的規模での反戦運動の一環としても位置付けられていた。
 行動は当日、午後四時からピースウォークとして開始され、一人ひとりが自由な平和のメッセージを表現しながら、原爆ドーム前に集まる行動からはじまった。五時からはドーム前に集まった市民。その規模は大人、子ども、男女の若者、女性、高齢者そして外国人などざっと二〇〇〇人強が結集した。公園の敷地内ではコンサートが開かれ日が沈むのを待っていた。六時すぎから灯文字の準備にとりかかり、六時三〇分から参加者に配布されていたロウソクに灯が分灯され、一八〇〇本が見事にならべられ灯文字は完成した。 
 参加者は灯文字の完成を祝って、誰からとなく歌声がこだまし、子供や年配者は手拍子で応え会場は最高調に達した。この日は天気のぐずついた、冷え込む夜であったが、参加者の熱意と熱気で吹き飛ばす夜にすることができた。
 参加者の多くは近年にない反戦運動の盛りがりを肌で感じていたに違いない。私自身も三・二以降、若者の参加者が確実に増えてきていることに、期待感と反戦運動の転換期を感じることができた。
 この反戦運動の高揚を更に発展させることで、『平和と国連』をぶち壊すブッシュと小泉政権を孤立させ、平和を守ることを強く決意することができた集会でもあった。 (広島通信員 中川)


連合がイラク反戦集会

     
 国際協調による平和的解決の実現を

 三月一八日、東京・明治公園で、日本労働組合総連合会・原水爆禁止日本国民会議・核兵器禁止平和建設国民会議連合の主催による「イラクの大量破壊兵器廃棄・国連決議なき武力攻撃反対! 国際協調による平和的解決の実現! 平和のための3・18緊急集会」が開かれた。ブッシュが四八時間以内にイラク攻撃を宣言したその日、連合はようやく反戦集会を行った。主催者は三〇〇〇人集会を予定していたが、結集はそれを大きく上回り五〇〇〇人を超えた。動員集会には珍しいことで、連合以外からも参加があったようだ。
 連合の笹森清会長は、国連決議のないイラク攻撃ではなく、あくまでも国際協調で問題の解決をと訴えた。原水禁の岩松繁俊議長、核禁会議の大谷恵教議長も、平和的な手段でのイラク問題の解決が必要だと発言した。政党あいさつは、民主党岡田克也幹事長、社民党福島瑞穂幹事長、自由党東祥三組織委員長が行った。
 「平和のための緊急アピール」が採択され、激しくなる雨の中、代々木公園までのデモに出発した。
 集会アピールは、「@新たな国連決議なき武力行使は、世界平和に資する国連の役割に重大な悪影響を及ぼす。われわれぱアメリカ、イギリスなどの新たな国連決議なき武力行使に対し強く抗議する。武力行使を即座に延期し、平和を求める世界中の多くの市民の声を真摯に受け止め、査察の継続・強化によるイラクの武装解除を目指すべきである、A同時にわれわれは、長期にわたる国連決議違反を続けるイラク政府を強く非難する。イラク政府は可及的速やかに、大量破壊兵器の有無について自ら国際社会に対して明らかにし、その完全廃棄を早急に行うべきである、Bわれわれは、また、新たな国連決議なき武力行使による武装解除をめざすアメリカ、イギリスに支持表明を行った日本政府に対し強く抗議する。直ちに日本政府は、平和的解決を求める多くの国民の声に耳を傾け、主体的にこの問題を判断し、アメリカ・イギリス両政府に対し早急に武力行使延期を働きかけるべきである。同時に、引き続き平和的解決のため、他国の協力を求めるべきである。さらに、国民に対し情報公開を徹底し、政府としての説明責任を果たすよう強く求め」ている。


イラク戦争反対!労働法制の大改悪反対!低額回答に反撃を!

                    
春闘勝利にむけて総決起集会

 三月一九日、東京・九段会館で、春闘再生「行政改革・規制緩和・労働法制改悪」に反対する全国実行委員会の主催による「二〇〇三年春闘勝利3・19総決起集会」が開かれた。スローガンには、イラク戦争突入反対、覇権主義・ブヅシュの暴挙を許すな!小泉内閣の武力行使容認「新決議」支持糾弾・イージス艦派遣・参戦反対、有事法制反対!解雇、有期、裁量・派遣労働等の制度改悪、労基法・労働法制の大改悪反対!、反「新白由主義」・反「グローバル化」、日韓労働者連帯を強化しよう!などが掲げられていた。
 集会ははじめに主催者を代表して、藤崎良三全労協議長が発言した。アメリカのイラク攻撃は秒読み段階に入った。ブッシュの「悪の枢軸」発言によれば、イラク攻撃の次は北朝鮮でありイランである。こうした覇権主義の暴挙に追随する小泉政権の参戦に反対し、当面の行動として3・21芝公園に大結集を実現しよう。賃下げ・リストラをを許さず、解雇自由社会をもたらす労働法制の大改悪を阻止しよう。
 集会基調報告は、二瓶久勝実行委員会事務局長が行った。今春闘はイラク戦争という状況で闘われているが、戦争にはっきりと反対する春闘として闘いをすすめなければならない。小泉内閣の構造改革は、働く者に負担増の政策であり、アメリカの戦争に積極的に賛成し、軍事大国化路線を強化している。
 春闘での具体的な取り組みは、@低額回答・定昇見直しという中で春闘の意義を再確認し、低額回答にはストライキを含む大衆行動で闘い、春闘再生の流れを杜会的に定着させる、A「反失業、雇用確保」の緊急かつ国民的課題を闘う、B解雇、有期、裁量・派遣労働等の制度改悪、労基法・労働法制の大改悪に反対する、C小泉内閣の戦争政策に反対し、厚生年金、福祉、医療制度などあらゆる分野に対する負担増の攻撃に対し、具体的政策を掲げた統一戦線を築き国民的な反対運動を展開していくことである。最後に国鉄闘争勝利にむけて大きな団結をかち取っていきたい。
 つづいて、来日した韓国民主労総のイ・ヒャンウオン副委員長が連帯挨拶をおこなった。民主労総六〇万人を代表してあいさつする。いま世界的に新自由主義の構造改革攻撃が吹き荒れている。韓国では非正規労働者が全労働者の六〇%にもなっている。そのうちで七〇%が女性だ。彼女たちは長時間労働、低賃金に苦しめられているが、その上に出産・育児の面での保護もない。出産・育児の関連法で規制緩和が進んでいるからだ。日本でも非正規の労働者が三〇%を越えたと聞いている。資本は解雇、懲戒などで労働者を弾圧しているが、新種の手法として損害賠償請求や仮差し押さえなどを使ってきている。日本でも同じように弾圧が強化されていると聞いた。このように新自由主義は労働者・労働組合の権利を踏みにじっている。新自由主義に反対する闘いは、戦争反対・平和実現の闘いでもある。アメリカはイラクを攻撃しようとし、朝鮮でも戦争を起こそうとしている。しかし二月の一五日、全世界六〇〇以上の都市で一一〇〇万人を越える人びとが反戦行動に立ち上がった。世界中の反戦の運動が野獣のような戦争を止めさせることができる。進歩的な労働者の闘いこそが戦争を阻止する。かつてカール・マルクスのいった言葉はいまでも正しい。「万国の労働者、団結せよ!」。
 集会には、民主労総のパク・ソンミン対外協力局長も出席した。
 決意表明は、都労連、全港湾・全日建、NTT関連労、民間からおこなわれ、壇上に争議団が上り紹介された。争議団を代表して、全統一光輪モータース分会、東京労組MUSE分会が決意表明を行った。
 
*****

集会決議(要旨)

 労働者にとって極めて厳しい時代ですが、こういう厳しい時代だからこそ労働組合の真価が問われますし、決起が求められています。
 本日ここに結集した多くの仲間は政府・資本の攻撃が激しい今こそ決起し、「戦争反対」「雇用確保」「生活を守る」こと等をスローガンに、職場を拠点にストライキを基軸とし、闘い抜くことを確認し合いました。
 今後とも多くの困難が予想されますが、私達の主張はあくまでも「載争反対」「雇用も賃金も」であることを再確認し、闘い抜こうではありませんか。


許すな!憲法改悪・市民連絡会の緊急声明

 三月一七日、米国のブッシュ大統領は世界の大多数の国々と圧倒的多数の人びとの平和への願いをふみにじり、国際連合憲章などの国際法をも完全に無視して、イラクにたいして武力による先制総攻撃のための最終通告をだした。これにたいして日本政府は、日本国憲法の精神に反し、また自ら国会で説明してきた公式見解をもなげすて、国連で新決議が採択されなくても米国による攻撃を支持するなどという言語道断の立場をとることをあきらかにした。
 いまこれらの無謀・無法のリーダーたちによる戦争が始まろうとしている。私たちはこの大量殺戮行為を絶対に許すことはできない。
 しかし、私たちはあきらめない。私たちは「ただちに戦争をやめろ」の声をあげつづける。私たちは全力で二一日に予定されているWORLD PEACE NOWの主催による反戦パレードを成功させ、世論のいっそうの高揚のために奮闘する。
 平和を求めるすべての人びとに訴える。たとえ戦争が始まってもあきらめずに、国境を超え、世代の違いを超え、思想信条の相違を超えて、いまこそ平和のためにともに行動しよう。無謀な戦争を引き起こそうとする米国政府と、それに加担する日本政府を許さない闘いをさらに強化しよう。
 二一世紀はこの運動の成否にかかっている。

二〇〇三年三月一八日


イラクと朝鮮半島に平和を!ブッシュ・小泉の戦争政策を許さない!

                         3・15 日韓連帯アクション


 三月一五日、「イラクと朝鮮半島に平和を!ブッシュ・小泉の戦争政策を許さない!3・15日韓連帯アクション」が、午後から千駄ヶ谷区民会館で開かれた集会(五〇〇人)、夜の原宿・渋谷ピースパレード(二〇〇〇人)としておこなわれ、大きな成功を収めた。

 集会は、韓青同の青年たちのサムルノリではじまり、市民緊急行動の富山洋子さんが開会のあいさつ、実行委員会の渡辺健樹さんがが主催者挨拶(別掲)をおこなった。問題提起と報告は沖縄から新崎盛暉さん(平和市民連絡会共同代表)、韓国からチョン・スヨンさん(韓国・戦争反対平和実現共同実践)。

新崎盛暉さん(沖縄・平和市民連絡会共同代表)

 イラク問題を戦後の米の世界支配戦略の中で位置づけることが必要だ。いま中東と東アジアで緊張が激化しているが、さかのぼればイスラエルの建国と朝鮮半島の南北分断が原点にある。それが冷戦構造の崩壊以降、とりわけ大きな問題として出てきた。アメリカとりわけブッシュは、新しい事態の中でアメリカ自身の権益を強めようとしている。
 9・11事件を、ブッシュはたくみに利用した。しかし、炭素菌さわぎでイラクとの結びつきを「立証」し、イラク攻撃にもっていこうとしたが、これは失敗した。それでまず、オサマ・ビンラディンをかくまったという口実でアフガニスタンのタリバン政権に攻撃を仕掛けた。それが一段落してイラク攻撃にとりかかろうとしている。それとアメリカ自身の問題がある。いま、アメリカの政治・経済はいきづまり、国民統合の維持が危機に瀕している。それに戦争が使われている面がある。そして、かつてパパ・ブッシュが湾岸戦争で勝利したにもかかわらず政権をたもてなかったことをくりかえさないようにしたいと思っている。
 アメリカの中東支配は、目下の同盟者を使うものだった。「自由と民主主義」を掲げながら、実際はイランのパーレビ国王やイラクのフセインなど王族や独裁者を使ってきたのだ。しかし、その「間接」支配の限界が9・11事件であきらかになった。テロの実行犯には中東における最大の「親米」のはずであったサウジアラビアの人が多かった。どこにも反米の気運が蔓延しているのだ。しかし、攻撃すればテロは拡散する。だから、もうアメリカには直接支配しかないなくなってきているのだ。これが、ブッシュの「中東民主化」構想の背景にあるものだ。単にイラクの大量破壊兵器だけに目的があるのではなく、新たな段階の中東支配構想がある。だが、これはフランス・ドイツ・ロシアなど他国の権益を犯すものとなっていて、多くの国とアメリカの対立は大きくならざるをえない。
 日本についていえば、そのアジア侵略は主に米英と結んで行われてきた。一九〇〇年のいわゆる義和団事件での共同出兵、一九〇五年の桂タフト協定でアメリカに日本の朝鮮支配を認めてもらうかわりに、米のフィリピン支配を認めるなどしてきた。しかし、第一次世界大戦で列強がヨーロッパで戦争をしているどさくさにまぎれて、単独でアジア支配を強行しようとした。それが米英と対立することになった。第二次大戦後、そして今度のイラク攻撃でも米英を支持している。しかし、日本の米英支持は主体的判断ではない。小泉首相は、イラク攻撃でアメリカを支持する理由に、第一に日本はアメリカの同盟国だからということ、第二に北朝鮮問題があるからということをあげている。しかし、アメリカにひたすら忠実についていこうとしているだけで、戦中・戦後の歴史認識はまったく欠落している。戦後の民主主義国家では、たとえばドイツのように世論と政権担当者が一定の共通認識があるが、日本はまったく違う。
 昨年の「平壞宣言」は閉塞した日朝関係を打開する手がかりになると期待されたが、日本政府のやっていることは、拉致問題や今回のアメリカ支持に北朝鮮問題を出すことなど自ら門戸を閉ざしている。それにアメリカからもちだされた「核」で、日朝交渉がぶちこわされた事情もある。北の対応にもどうかと思うところもあるが、問題は交渉を行い、その中で解決する以外にない。アメリカはイラクの次は東アジアを狙っている。イラク戦争を阻止することは、日本とアジアの問題でもある。

チョン・スヨンさん(韓国・戦争反対平和実現共同実践)

 今日、韓国でも一〇数ヶ所で同時行動が取り組まれている。いま韓国では反米の嵐がふいているが、昨年の米軍車両による女子中学生轢殺事件に抗議するローソク・デモが引き金となり、昨年末には一〇万人がローソク・デモに参加した。世論調査では、現在八六%のひとが反米だ。
 朝鮮半島の戦争の危機は、アメリカが約束を破ったからだ。アメリカは北朝鮮の圧殺しようとして、核兵器の先制使用まで言い出している。もし戦争が始まればわが民族は消滅の危機に瀕する。韓米日の軍事同盟はアメリカの北東アジア覇権のためのものだ。
 朝鮮半島で戦争を起こさせないためには、朝鮮戦争の停戦協定を平和協定にし、そして朝米両国が不可侵条約を結ぶしかない。
 アメリカの軍事脅迫は全世界民衆への宣戦布告だ。アメリカと世界民衆が対立しているが、勝利はいつも民衆のものだということを確信している。
 きたない帝国主義の陰謀を民衆の力で打ち破ろう

戦争反対・平和が一番

 集会では、生田卍とSOSOの歌と演奏、アメリカの反戦運動団体ANSWERからの連帯メッセージの紹介につづいて、参加者全員で集会決議を確認し、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックの上原成信さんが閉会宣言を行った。集会の後、「イラクと朝鮮半島に平和を!」の横断幕を先頭にピースパレードが出発した。会場に入りきれない人びとや、途中で合流してくる人びとで、隊列は二〇〇〇人に膨れ上がり、イラク攻撃反対・朝鮮半島での戦争を許さないとアピールした。

 * * * *

集会アピール(要旨)

 ブッシュ米政権の戦争準備には、海外に畦屯する米軍も動員されます。海外に駐屯する米軍は、韓国で女子中学生れき殺事件を、沖縄で女性暴行未遂事件を起こすなど、各地の民衆の怒りを買っています。行政協定の改定とひいては米軍基地の撤去を求めます。駐屯国の民衆を苦しめ、戦争を準備し、平和を破壌する米軍と米軍基地はいりません。
 一月一八日に続いて二月一五日には、世界六〇カ国、六〇〇都市で約一〇〇〇万人がイラク攻撃反対の声を一斉にあげました。また三月八には、東京(四万人)をはじめ日本各地で、イラク攻撃ノーの声が讐き渡りました。韓国でも、約七〇〇の市民・杜会団体で構成されたネットワークである「戦争反対平和実現共同実践」が、イラクと朝鮮半島での戦争反対を訴えています。世界的な規模で反戦平和運動の波は広がっています。私たちは、世界の反戦平和運動と固く連帯しながら、戦争に反対し平和を求めます。
 イラクと朝鮮半島での戦争に反対し、世界の平和と核のない東アジアを実現しましょう。

 * * * *

3・15 イラクと朝鮮半島に平和を!日韓連帯アクション 主催者発言

 イラクに対する米国の攻撃が切迫していますが、もう一方で、国連安保理の状況に見られるようにアメリカの孤立ぶりもはっきりしてきました。何よりこれは、日本を含む世界中の人々の反戦運動の高まりを背景として作り出されてきたといえるでしょう。先週の三月八日には日本でも東京四万、全国三八ヶ所で「イラク攻撃反対」の行動が取り組まれました。引き続きこの反戦平和のうねりをより一層大きなものにしていきましょう。そして、切迫しているイラク攻撃を何としても食いとめましょう。
 同時に私たちは、さらにそれを「イラクと朝鮮半島に平和を!」という運動として発展させていく必要があると考えています。今日の行動はその一歩です。また米国のANSWERが呼びかけている世界同時行動の一環です。
 この間のイラク攻撃反対行動に参加した人たちの中にはいろんな考え方があるでしょうが、多くはフセイン政権を支持しているいないではなく、戦争を起こせば罪のない多くの人々が犠牲になる――ということが共通項ではないでしょうか。
 同じことは朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対しても言えると思います。九九年の秋に当時のクリントン政権時代の米国が打ち出した朝鮮政策見直しのための「ペリー報告」というものがあります。そこでは朝鮮半島で戦争を発動すれば、米軍数万、南北の軍人・民間人にいたっては数十万人の犠牲者がでるというシミュレーションをしています。
 いま「イラクの次は朝鮮半島」といわれています。先制攻撃も公言して憚らないブッシュ政権は、今回、すでに北朝鮮に対する経済制裁から限定空爆のシナリオを持っているといわれます。そもそも過去一〇年来、アメリカは「五〇二七」というコードネームで呼ばれる、ピョンヤン占領まで想定した軍事作戦計画を持ち続けているのです。
 かつての朝鮮戦争の時、日本は米軍の出撃・兵站基地となりました。今度はそれに加え、「後方支援」であれ何であれ、日本が直接参戦することになります。
 経済制裁も、そこで想定されているのは北朝鮮船舶の臨検や在日朝鮮人の送金の停止などであり、日本が主舞台になることは明らかです。
 これにどういう態度をとるのか。
 日本政府が作成した「今後の日米同盟のありかたについて」と題する文書には、「日米ガイドラインと周辺事態法は北朝鮮に確固たる態度で臨むにあたっての基礎」と記されているそうです。有事法制の成立を急ぐ所以でもあります。小泉政権は、国連の場で、いち早くイラク攻撃を容認する米英の決議案支持を表明しましたが、「近くに北朝鮮問題を抱える我が国にとって日米同盟は最優先」という口実を使っています。
 これらを絶対に許してはならないと思います。
 いま日本のマスメディアでは、北朝鮮に対する一方的な報道が繰り返し流されています。北朝鮮報道といえば決まって<金正日総書記の映像と軍事パレード>がつきものですが、そこにもふつうの庶民の生活があることを忘れてはならないでしょう。
 また、日本人拉致事件に対して私たちは北朝鮮政府に誠意ある対応を求めますが、しかしなぜ、過去に日本が朝鮮半島に対しておこなった侵略と植民地支配の膨大な被害者への誠意ある対応については触れないのでしょう。いま北朝鮮のミサイルが問題になっていますが、なぜ日本を母港としている米軍艦船のトマホークミサイルが、四六時中、ピョンヤンに照準を合わせていることには触れないのでしょう。誰も北朝鮮が核武装することなど望んでいませんが、しかしなぜ、北朝鮮に圧力を加えているアメリカこそ世界最大の核超大国であることには触れないのでしょうか?
 私たちは、少なくとも公平な視点を持つ必要があると思います。
 今日のつどいには、沖縄から新崎先生、韓国からチョン・スヨンさんにはるばるお越しいただきました。韓国と沖縄そして日本本土は密接に結ばれています。アメリカは東アジアに一〇万人の兵力を張りつかせていますが、実はその九割がここに配備されているのです。だからアメリカの横暴を許さないためには、韓国、そして沖縄と日本本土、さらには米国の民衆同士が連帯していく必要があります。そして、この地から米軍を撤退させましょう。
 日米安保があるがゆえに「基地の島」とされている沖縄の人々の苦闘、そして「全土が沖縄」といっても過言ではない韓国。韓国では昨年の米軍装甲車による女子中学生ひき殺し事件をはじめとして歴史的な反米運動の高まりを迎えています。そしてその力は年末の大統領選挙の最大の争点にこの問題を押し上げ、「戦争か平和か」を問い「太陽政策」の継続と対米関係のより対等性を公約に掲げたノ・ムヒョン氏の勝利をもたらしたことはご承知のとおりです。
 よく沖縄と韓国から見ると日頃は気づかない私たちのこの日本の姿が良く見えると言われます。
 私たちは、今こそ韓国・沖縄の人々、そして全世界の反戦平和を求める人々と手を取り合って<イラクと朝鮮半島に平和を!>を合言葉に、さらに反戦平和の声を大きなものにしていきましょう。


編集部・対談

       イラク反戦運動の高揚について A


編集部・B 前号で朝日新聞の投書を紹介しましたが、これには後日談があります。三月九日の朝日新聞の記事にこうあります。おそらく投書された方の娘さんがKさんでしょう。
「焼きそばの屋台の前にいるよー」。人波で埋まった日比谷公園。Kさん(18)は携帯電話で連絡し、遅れてきた父親と母親と落ち合った。家族ぐるみで反戦集会に参加するのは初めてだ。十五日のデモのあと、帰宅して両親に話した。「自分の考えていることを言わないとダメだよ」。父親は会社員。家族の前であまり硬い話をしたことがないが、娘が言っていることは正しいと思った。「次はいつあるの?」。母親は「私も行こうか」。話はまとまった。Kさんは携帯電話のメールで同級生を誘った。八日、日比谷に十数人がやってきた。両親は隣に住む家族も連れてきた。「家族も知り合いも大勢参加してくれて、うれしい。また参加したい」とKさんは話した。
 こうした動きが方々にみられるようになっている。八日の日比谷の四万人のかなりの部分はこうした人びとで構成されているのです。同日の新聞は「普通の人たちが動きだした」という主催者側の若者のコメントを載せています。
 共同通信は次のようなニュースを発信した。「米国のイラク攻撃に反対するデモや集会に『フツーの人』が詰め掛けている。政党や労働組合による動員ではなく、家族や友達と誘い合って参加する人たちだ。日本政府が武力行使容認の姿勢を示す中、反戦・平和運動とはあまり縁がなかった個人が『自分の思いを表したい』と動きはじめた」と。
 これらの報道に誇張はありません。多くの人びとが動きはじめているのです。
 共同通信が三月十五、十六日に行なった世論調査では米国のイラクへの武力行使に反対が七九・七%、賛成が十二・九%で、イラク攻撃が始まったら日本政府は支持すべきでないというのが五三・三%、支持すべきだが二一・五%、態度を明確にすべきでないが十七・三%です。ちなみに小泉内閣の支持率は政権発足以来の最低で四一・三%、支持しないが四一・五%と逆転した。
編集部・A 最近の反戦集会はマスコミの扱いが大きくなっている。先に指摘したマスコミの第四権力化との関連はどうなのだろうか。
編集部・B 「赤旗」などはいまもマスコミが反戦集会を取り上げないと批判
し、抗議している。たしかに昨年十二月一日の二十労組の「STOP有事法制」の集会や、二月十四日のイラク戦争反対の全労連系の集会の扱いはベタ記事でした。しかし翌日の宮下公園で五千人のワールドピースナウ系の二・一五集会の扱いはたいへん大きかったのです。全世界統一行動の一環だったこと、政党や組合主導でなくNGOや市民運動主導だったこと、内容が多様で変化がありマスコミにとって話題性があったことなど、いろいろな理由が考えられます。
 先に述べたマスコミの本質に変わりはないですが、そこにいる良心的な人びととの連携を確保しつつ、市民運動側に「取り上げさせる」ような懸命の努力があったのは確かです。この点でも若者たちはあきらめずに、工夫をこらして大胆に挑戦しました。この間、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などのさまざまなメディアに実に多くの実行委員のメンバーが登場しました。新聞の扱い方は世論の反映もあり、イラク反戦運動に関してはかなり変わったということができます。いつまで続くかは分かりませんが。
 実行委員会の各参加団体は新聞の意見広告などにも大胆にとりくみました。資金もたいへん必要ですが、思い切ってこれらに取り組んだのは理由があります。あるTVの世論調査で「自分もいけそうな反戦集会があったら参加したい」という答えが七%あったことに励まされたのです。「私たちの取り組みのあることが知られたら、かならず来てくれる」と思ったのです。これは街頭にたったり、電車の中で宣伝するなど、多様な形で宣伝するエネルギーにもなりました。二十四時間チラシ配布に挑戦したグループもいます。
編集部・A 「なぜ用語がデモではなくてパレードなんだ。若者たちの流行におもねりすぎてはいないか」などという批判もあったと聞いていますが。
編集部・B そうですね。しかし、いまこうした方法も全国に広がっています。
 例をあげると、デモはピース・パレードとかピース・ウォークなどというし、集会はピースラリー、チラシはフライヤー、横断幕はバナー、デモの梯団は
「連」(お祭りの連ですね)という造語を使うなどなどです。
 しかし若者たちもこれでなくてはならないとは思っていません。デモといったっていいんだよとも言います。ただ、いままでの運動、一般の個人がスッと加わりにいくようなデモ、とりわけ内ゲバ党派などの運動との違いをどのように表現するか、運動の新鮮さや、市民の加わりやすさにとても神経を使っているのです。
 たしかにいきすぎもありますが、お説教するだけでなく、旧来の運動側の反省も必要です。デモをやりながら、たくさんの人びとが途中から加わってくるのはベトナム反戦以来の出来事です。デモは示威であるということから、権力にたいしてだけでなく、市民にまで威圧感を与えるとしたらパロディですから。いまもっとも権力が恐れるのは辺見氏が礼賛しているそうした「戦闘的」なデモではない。(つづく)


図書紹介

    スコット・リッターの証言 イラク戦争


        ウィリアム・リバーズ・ピット+スコット・リッター著  星川淳訳

                   
合同出版  四六版 125頁 1200円+税

 アメリカの本格的なイラク攻撃が始まった。人道にもとり、国際法にももとる非道な戦争という以外にないこの侵略戦争は、アメリカ帝国主義というものの現実を全世界の人びとに赤裸々に示した。
 そしてこれを支持した日本の小泉政府は、「国際紛争を解決する手段として」武力や武力による威嚇を放棄するとした憲法を邪魔者のように扱い、政府の憲法遵守義務を放棄して、国会の多数党派の力にたよって問答無用の挙にでている。
 本書は一九九一年から九八年まで国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)の一員として、イラク軍の大量破壊兵器の査察業務にたずさわった米国人国連査察官で、二〇〇〇年の大統領選挙ではブッシュ陣営についた人物であるスコット・リッター氏によるもの。同氏は先ごろ来日し、東京などで講演したが、その内容は多くのメディアの注目を集めた。
 ブッシュ政権がもっとも恐れる一人と形容されたスコット・リッターは本書のタイトルにもあるように「イラク攻撃は前代未聞の愚行だ」と叫びつづけている。
 イラク戦争がはじまった現在、改めてイラク戦争とは何かを考え、反戦の行動を展開する上で、好著である。
 本書はウィリアム・リバーズ・ピットというボストンで教職についているという文筆家・政治アナリストの論文(第一章「すてきな終末」、第二章「二〇世紀のイラクで起きたこと」)と、彼によるスコット・リッターへのインタビュー(「大量破壊兵器査察」の証言)で構成されている。それに訳者の自然環境運動家・星川淳があとがきを書いている。
 ピットはいう。
 「対イラク戦争の正当性はまだ裏づけられていない。これが事実だ。国連兵器査察団による七年間(一九九一年〜九八年)の徹底的な廃棄作業後、 サダム・フセインがいまなお実効力のある生物・化学・核兵器を保有しているかどうかは、きわめて疑わしい。これも事実である。フセインがイスラム原理主義テロリストたちと関係しているという考えはお笑いだ。世俗主義指導者として長年、国内のイスラム原理主義勢力潰しに力を注いできた彼が、アルカイダに武器でも渡そうものなら、まっさきにその武器で返り討ちにあうだろう」
 戦争には謀略と情報戦はつきものだ。さまざまなデマ・ウソが流される。それを見抜く力が要求されている。イラク戦争に関して「ブッシュ政権が隠したい事実」をもっともよく知っているスコット・リッターとピットの著作はそのための力の有意義な源泉であろう。
 ピットはさらに言う。
 「サダム・フセインは文字通りの怪物だが、われわれの怪物、つまりコカコーラやオールズモビルと同じくらいアメリカ製なのである。アメリカが武器・資金・軍事情報を与え、一〇〇パーセント承認する中で、彼は化学兵器を実戦使用した。アメリカは湾岸戦争中も彼を権力の座から追放しなかった。それどころか、アメリカの扇動にのってフセイン打倒に立ち上がったイラク人たちを見捨てたのだ」と。
「二〇世紀のイラク史は、西欧の植民地主義とアメリカの介入、危なっかしい指導者、冷戦、石油などに支配されてきた。世界第二の埋蔵原油量を有するイラクは、西側工業諸国の垂涎の的だ」という指摘はそのとおりだ。一九一七年、イギリス軍がメソポタミアに侵入して占領し、勝手に国境線を引き、二一年にはまた勝手に線を引いてクゥエートを作り出し、支配したことがすべての問題の発端である。この責任に頬かむりしてイギリスは自らの利権を確保するために米軍の戦争に参戦した。戦争に反対したフランスも実はこの国境線引きの共犯者なのだ。
 スコット・リッターの話は彼が左派ではなく、共和党員であることに面白さがあり、より真実を語っていることがわかるものだ。(S)


複眼単眼

    国連加盟国の四分の一しか支持しなかった米国の攻撃


 ふと「国連加盟国は何ヵ国だったかな」と思った。調べてみると一昨年の九月現在で百八十九ヵ国だという。筆者の若い頃は百ヵ国にも満たなかったものだ。
 五十年代から六十年代にかけての民族自決・独立の流れと、九十年代のソ連・東欧圏の解体による新国家群の誕生などが国連加盟国数の増加に拍車をかけたのだ。一方でEC統合のような国家連合の動きはあるが、全体としてこの国家数の増加傾向はしばらくつづくだろうと思われる。多民族国家は絶えず分解の可能性をはらんでいるからだ。相反するように見えるボーダーレスと国家主権の確立の動きが同時に進んでいるのが最近の国際関係の特徴にもなっている。が十九日の夕刊で『東京新聞』はトップの見出しが「イラク攻撃 日本含む三〇ヵ国支援」、『読売新聞』が「米支持 四五ヵ国」と異なっていた。よく見ると両紙とも十五ヵ国が匿名で支持を表明しているということだが、この数字の差異にそれぞれの編集方針があらわれている。
 アメリカは米軍のイラク総攻撃をかくも多くの国々が支持しているといいたいらしい。しかし、この数字は国連加盟国数の四分の一にも満たない数であり、公然と支持しているのは六分の一にも達していないのだ。だから米国は新たな国連決議の採択を見送らざるをえなかった。
 今回、米国は多数の支持を得ようと、各国をおどしたりすかしたりしたことは広く知られている。日本もそれに加担してODAをちらつかせつつ、米国への支持の工作をした。それでも多数派になれないと見るや、米国は国連を見事に無視した。都合のいいときには国連は使うが、自分の思うように動かない時には国連を無視するというのはかの国の一貫した姿勢でもある。
 あきれたことに、日本の政府もまたこうしたご都合主義であることを露呈した。口を開けば日本の外交は「国連中心主義」だと語ってきた日本政府は、実は「米国中心主義」にすぎないことを、今回、はっきりと自白したようなものだ。小泉首 相の国会討論などは支離滅裂で聞くに堪えない有様だ。
 小泉首相の言説には明らかにウソがある。つい先ごろまでは武力攻撃には国連の新決議が必要だと答弁していた。現在は新決議がなくても従来の決議で十分だと居直っている。本人はこれを自分がウソをついていると自覚しているのか、いないのか、その思考回路をのぞいてみたい気がする。同様にアメリカのブッシュの論理もそうだ。こういうウソを平気で言えるのは、当人たちにとっては別の視点から見るとその問題以上に重要な価値があると確信している場合だろう。ブッシュにとっては、国連での言動の二枚舌より重要な価値は、原油資源の確保であり、それが国益だ。このためには何をしてもたいしたことではない。小泉にとっては、それは「日米同盟」であり、この堅持のためには二枚舌を使ってもかまわないということだろう。
 しかし、こんなことがいつまでも罷り通るとは思われない。(T)