人民新報 ・ 第1098号<統合191> (2003年6月15日)
  
                                目次

● あくまで有事=戦争三法案を拒否する  自衛隊のイラク派兵に反対

● 戦争協力はゼッタイお断り  STOP!有事法制6・10集会に五千人

● 子どもたちに核も原発もない未来を!  全国から結集して反核集会

● 憲法調査会が高松市で地方公聴会  改憲反対の声が圧倒的多数

● 有事三法採択加担を許さず  市民、民主党本部に抗議行動

● 「イラクにも朝鮮半島にも平和を!」  浜松(静岡県)で反戦集会を開催

● 労働法制の改悪反対 今回は闘いの力で「解雇できる」の文言は削除されたが……

● 鉄建公団第七回口頭弁論と首切り自由を許さない集会

● 書 評 / 暉峻淑子著『豊かさの条件』(岩波新書)

● KODAMA / 5・28労基法改悪NO!中央集会に参加して

● 複眼単眼 / 「日本は単一民族」という論が体制側から繰り返されるのはなぜか



あくまで有事=戦争三法案を拒否する

        
自衛隊のイラク派兵に反対

 六月六日午後、国会前での市民、宗教者など二〇〇名を超える人びとの抗議行動の最中に「有事関連三法案」は参議院本会議で採決された。まさに翼賛国会そのもので、衆議院の九〇%につぐ、八十数%の議員の賛成だった。その日、午後五時半からは参議院議員面会所で市民緊急行動などが抗議集会を開催、集会で中学二年生の菱山さんは「せっかく生まれたイラクの子どもたちを殺した戦争に反対です。戦争につながる有事法制に反対です」と今後も反戦を訴えつづける決意を述べた。
 一〇日には陸海空港湾労組二〇団体や市民緊急行動による「有事法制絶対反対」の集会が五〇〇〇名の規模でかち取られ、一二日には平和フォーラムや市民緊急行動の有事法制反対集会が数千名の規模で闘いとられた。
 一年半にわたった有事三法案阻止の闘いは昨秋以来の反北朝鮮キャンペーンの中で敗北したが、周知のように、この法案はプログラム法案にすぎない。今後、政府は米軍支援法、自衛隊法のさらなる改定、「国民保護」法などをはじめ、五〇を超える諸案件を審議していかなくてはならない。これとの闘いの過程で、今国会で私たちがなしとげられなかった民衆への訴えを強める必要がある。有事三法を発動させない闘い、戦争法を骨抜きにし、廃案を勝ち取っていくための新しい運動がただちに組織されなくてはならない。あわせてイラク「復興支援」法や「テロ特別措置法」改定などに反対する課題がある。
 有事法制を発動させない闘いとは、その最も肝腎の課題が北東アジア、わけても朝鮮半島の平和を実現する課題であり、日朝国交正常化と日朝間の過去清算問題、拉致問題などの解決、そして北東アジア地域の非核地帯化の実現だ。この課題は私たちの反戦運動にとって最大級の課題となるに違いない。
 ブッシュの世界戦略に一体化し、戦争準備と挑発をつよめる小泉内閣と対決し、この二十一世紀に北東アジアの非核・平和と共生のための国際的な平和機構の創設を実現する課題を民衆の側からも積極的に提唱し、推進していく必要がある。
 同時に有事法制を発動させない闘いは、業務従事命令に対してストライキをもって阻止できるような階級的な労働組合運動の拡大をはじめ、ひとりひとりの市民や、地方自治体、さまざまな諸団体の戦争非協力宣言運動などを通じて、社会の軍事化を足元からくい破っていく闘いの組織化だ。
 有事三法を成立させた小泉政権は、通常国会を七月下旬まで延長して「イラク復興特別措置法」を作りあげようとしている。イラク攻撃の最大の口実とした「大量破壊兵器」はいまだに見つかっていない。ブッシュ政権が喧伝したイラクの「核兵器開発の証拠」はIAEAからも偽造だと指摘されたし、米国防情報局は昨年秋の段階ですでに「イラクに化学兵器が存在する証拠はない」と述べていたことも明らかになった。イラク攻撃は攻撃のための攻撃であることがすでにあきらかだ。にもかかわらず従来から日本に集団的自衛権行使を強硬に要求してきたR・アーミテージ米国務副長官はこのほど来日して「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」と称する一〇〇〇人規模の自衛隊のイラク派遣を要求した。小泉内閣はこれに応えて米英軍の占領行政に政府の要員と自衛隊を協力させようとしている。軍事占領行政への参加は「自衛のための必要最小限を超える」(一九八〇年の政府答弁書)との従来の解釈をいとも簡単に放棄して、自衛隊を戦場に派遣しようとしているのだ。
 すでにイラク国内ではさまざまな人びとが米英軍のイラク占領に反対して闘っている。まさに「イラクの問題はイラクの人民の手に委ねよ」こそが侵してはならない原則だ。自衛隊の派遣は独立を要求するイラクの人々に敵対することとなり、戦闘への参加に道を開くことになる。これは完全にアーミテージの望む「集団的自衛権の行使」の具体化だ。
 そして米国政府からは、五〇億ドルと言われる巨額の対イラク債権の放棄を要求され、二兆円に及ぶ復興支援費の拠出を要求されるだろう。ブッシュ政権はイラクの石油資源を管理して復興事業費を確保したうえに、自ら破壊したイラクのインフラを日本政府などの経費で復興させ、米企業の「復興事業」による独占的利益の収奪に寄与させようとしている。

 戦争への道を開く有事三法反対!

 イラク「復興支援」法反対! 

 自衛隊のイラク派兵反対! 

 朝鮮半島に平和を!


戦争協力はゼッタイお断り  STOP!有事法制6・10集会に五千人

 有事法の強行可決に怒りに燃えて、六月十日、日比谷野音において、「戦争協力はゼッタイお断り」をかかげた「STOP!有事法制6・10集会」が開かれ、五〇〇〇人の労働者・市民が参加した。
 この集会は、陸・海・空・港湾労組二十団体、平和をつくり出す宗教者ネット、平和を実現するキリスト者ネット、戦争反対・有事法案を廃案へ!市民緊急行動の四団体と各界の百二人の呼びかけで開かれたもので、有事法が通って以降の闘いの大衆的運動のなスタートが切られた。。
 開会あいさつで、平和をつくり出す宗教者ネットの石川勇吉さんは、有事法が成立させられたが、政府が実際に戦争をやる体制をつくるためにはこれからいろいろなことを決めていかなければならない、武力では決して平和はつくれない、これから戦争に協力しない、戦争の出来ないようにするために運動を強めていこうと述べた。
 国会議員の挨拶は、社会民主党の福島瑞穂幹事長、共産党の穀田恵二国会対策委員長、無所属の島袋宗康参議院議員(沖縄社会大衆党委員長)が、それぞれ、これからの闘いである有事法制具体化のさまざまな法案を阻止して戦争をさせないようにしていこう、また小泉内閣が出してきているイラク新法に反対して共に闘おうと述べた。
 つづいて、戦争協力を拒否する職場からの決意表明がおこなわれた。
 全日本海員組合外航部長の三宅隆さんは、先の戦争では多くの船員が死んだ、有事法で再び徴用の危険がでてきた、発動を許さない闘いをともに進めて行きたい、と発言。
 全日本建設交運一般労働組合全国青年部部長の成瀬大輔さんは、運輸労働者は航空や海員などと同じように物資輸送に動員される、反核トラックキャラバンなどで戦争反対を訴えて行きたい、と発言。
 全国建設労働組合総連合の池上武雄さんは、自民党や民主党は有事の際にも基本的人権が守られるといっているが、戦争が起こって人権が保障されるわけがない、と発言。
 全日本赤十字労働組合連合会の中小路貴子さんは、生命を守るのが医療関係者だ、戦争は私たちの仕事ではない、と発言。
 日本新聞労働組合連合中央執行委員長の明珍美紀さんは、かつてメディアは戦争を煽った、いままた有事法で戦争に協力させられようとしている、こんなことは絶対拒否していきたい、と発言。
 ピースアクション21の船田久江さんは、地元で在日の人びとが今の日本の風潮を非常に恐れていること、戦争をさせない新たなつながりをつくり出していくことが必要だ、と発言した。
 ワールドピースナウ実行委員でピースボート共同代表チョウ・ミスさんは、イラク反戦運動ではまたたく間に五万人集会が実現した、総計すればどれほどの数字になるかわからない、しかし有事法はあっさり通ってしまった、これからは「殺すな」の対話をもっとして行かなければならない、と発言した。 
 集会宣言の採択、航空安全推進連絡会議議長の大野則行さんの閉会挨拶をおわって、シュプレヒコールで、国会講願コースと常盤橋公園コースのデモに出発した。

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集会決議 (要旨)

 日本を「戦争をする国」に作り変えようとする、有事法制関連三法案の採決強行に抗議し、今後も「戦争をする国づくり」に反対する運動を、いっそう強めることを確認しあうために、私たちは本日、日比谷野外音楽堂に集まりました。
… 
 私たちのたたかいは決して終わったわけではありません。三法案が成立しても、有事法制のすべての仕組みが完成したわけでもありません。今後も、戦争に必要なさまざまな法整備が試みられるでしょう。私たちのたたかいは、有事法制の発動を許さない、戦争をするためのさらなる法整備を許さない、そして戦争への協力を断じて拒否するという、いっそう重要な段階に入りつつあります。私たちの暮らしの安定のために、日本のほんとうの平和のために、アジアの平和、世界の平和のために、私たちは、これまでの経験を大きく上回るような、大きな大きな運動をつくりあげ、有事法制関連三法の廃止をあくまでも要求し続けることを、本集会の名において、決意をこめて宣言します。


子どもたちに核も原発もない未来を!  全国から結集して反核集会

 六月七日、代々木公園で「原発やめよう全国集会 二〇〇三 子どもたちに核も原発もない未来を!」が開かれ、全国から五〇〇〇人の労働者・市民が参加した。
 原発をめぐる動きは、東京電力の原発トラブル隠しで大きな社会問題となり、四月一五日には東電原発の一七基すべて停止した。そして高速増殖炉原型炉もんじゅの設置許可無効判決(名古屋高裁)なども出て、原発の危険性に対する世論がおおきく盛り上がっている。いまこそ、原発NO!の声を結集して、青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場のウラン試験中止、プルサーマル計画の撤回、もんじゅの廃炉を求めて運動を前進させるときである。大規模な全国集会は、約二万人が参加した旧ソ連のチェルノブイリ原発事故二周年行動(一九八八年)以来のものとなった。

 会場の代々木公園B地区イベント広場では、自然エネルギーの展示・体験学習・写真などの展示・フリーマーケット・本の販売や、「WORLD PEACE NOW」などの反戦グループなどの多数が出店が開かれていた。
 音楽などのオープニングセレモニーのあと、全体集会がはじまった。
 はじめに、主催者を代表して、小木曽美和子さん(原子力発電に反対する福井県民会議事務局長)が、この夏に原発の運転がなくとも大停電はないということを立証して、原発は要らないという世論をつくりだそう、原発をなくしていく運動にはいまが好機だとあいさつした。
 つづいて原発のある福島、新潟、静岡、青森、大阪、岐阜など六府県の代表が各地の状況を報告する全国からのアピールが行われた。静岡からは「海地震が来る前に浜岡原発を止めよう!」というパフォーマンスで、大規模震源の真上にある浜岡原発の危険性を訴えた。
 集会アピールが採択され、渋谷・原宿周辺のパレードで、核も原発もない社会の実現を訴えた。

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 政府、東電など電力会社は、原発停止で大停電のキャンペーンを行いながら、原発運転再開を強行しようとしている。
 福島県内には東京電力の原発一〇基があるが、それがすべて停止いているが、六月九日には、福島県議会は全員協議会を開いて、反対意見を押し切って、国が安全宣言をした福島第一原発六号機について再稼働を容認するとの見解を議長が取りまとめ、意見集約の結果を佐藤栄佐久福島県知事に報告した。すでに同県では、原発の運転再開については、原発立地・周辺八町村が容認の態度を示している。福島県議会の運転再開容認見解について、東電の勝俣恒久社長は「心から感謝する」とのコメントを出し、喜びを隠しきれない様子だ。また、定期検査中の福島第一原子力発電所三号機の原子炉格納容器気密性漏えい率検査を一二日に実施し、今月下旬にも、技術的に運転再開が可能な状態となったと発表する予定である。
 しかし、原発をめぐるトラブルは続出している。六月九日には、東北電力の女川原発二号機の定期検査では、炉心隔壁(シュラウド)の内側に少なくとも七本のひび割れが見つかったと発表されている(東北電力は、安全上問題はないと強弁)。同じ九日、北陸電力の志賀原発一号機で、原子炉冷却水の補充水が配管のバルブから漏れる事故があったと発表した。
 こうした原発トラブルは巨大災害発生の前触れであるにもかかわらず、政府・電力会社は運転再開・全原発の稼働を強行しようとしている。反核・反原発の闘いを強めて行こう。

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 集会アピール

 東京電力の損傷隠し事件は、国・電力会社が一体となって、住民をだまし続けきたことを明らかにしました。電力大消費地へ電気を送るために、原発の安全神話が押し付けられ、嘘や偽りの上に築き上げられていた事実を、地元住民は許すことができません。
 名古屋高栽は高速増殖炉「もんじゅ」の安全審査が誤りで違法であると判決を下しました。事故の危険が高く、核兵器開発にもつながる「もんじゅ」の廃炉を求める声をさらに強めましょう。それと同時に、日本の原子力開発の柱である核燃料サイクルからの転換を求め、青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場の廃止を求める声も高めましょう。
 東京電力や経済産業省は、原発がなければ夏に東京大停電が起きるかも知れない、と危機感をあおり、原発再開を容認させようとしています。私たちは、電力不足を理由に原発を動かすことなど到底認められません。原発事故の危険を発電地域に押し付けてよいのでしょうか? 膨大な放射性廃棄物を出し続ける原発が本当に必要なのでしょうか?
 脱原発の声をさらに強めるために、いま私たちは、電力大消費地の東京に集まっています。原発にエネルギーを依存し続けるのか、それとも脱原発を実現し、子どもたちに原発も核もない豊かな世界を伝えていくのか、この夏はその選択をするための絶好の機会です。二〇〇三年を出発点に、みんなの力で「原発のない社会」へのさらに一歩を踏み出しましょう。日本の脱原発を実現するために、国や電力会社に対して、政策の転換と実現を求めていきましょう。


憲法調査会が高松市で地方公聴会  改憲反対の声が圧倒的多数

 衆議院憲法調査会(中山太郎会長)地方公聴会が六月九日午後一時から香川県高松市のホテルで開かれた。この公聴会の対象は四国ブロックで、全国では今回が八番目の開催。会場には四国四県から公募により選出された六人の意見陳述者と、国会の憲法調査会からの派遣議員団、傍聴者約二〇〇名などが参加した。公聴会のあと、夕刻から高松市内で超党派の「平和憲法を生かす香川県民の会」主催の報告集会が開かれ、百数十名の市民が参加し、改憲反対の声をあげた。

 意見陳述人には各県から四三名が応募した。「九条・安保問題」は二一人で、うち十七人が「九条を守り生かしていくべき」という意見、わずかに四人が「改憲必要」論だった。にもかかわらず、選抜権限を持つ会長・会長代理は四人の改憲派から二名を陳述者に選んだ。この割合はきわめて恣意的で不当なものだ。
 他に基本的人権問題の発言希望者が十六人、統治機構問題の希望者が六人だった。
 改憲派の意見陳述者の高木健一氏(学生)は、「陳述人に選ばれてから憲法を
読んだ」と告白する始末。ただただはじめに改憲論ありきの意見で、委員に質問されるとほとんどまともに答えられなかった。
 もうひとりの改憲論者の坂上ハツ子氏(主婦)は憲法草案作成に関わったベアテ・シロタ・ゴードンさんを讃えたり、働く女性への支援のない日本社会への批判などをしながら、突然に首相のイラク攻撃支持を英断だとのべ、憲法改正論を主張するという支離滅裂ぶりだった。
 これに対して弁護士の草薙順一氏は、戦争犠牲者の遺言でもある憲法九条改悪絶対反対だ、日本は非核・不戦の国家であるべきだと主張したうえで、北東アジアの地域的安全保障機構の設置と、将来の国連軍創設による非武装の実現などを主張した。
 四国学院大学教授の根本博愛氏は、九十年代以来の改憲論の特徴は、@新しい人権論による改憲、A公共の福祉論による権利の制限、B国防の義務を含め、国民の義務の明確化、C九条改憲、などだ。「実際には、新しい人権論による改憲の主張は、普段、人権問題に熱心でない与党などの人々によって主張されている。世界の人びととの信頼による平和をめざした憲法を大切にしよう」と訴えた。
 元教師の西原一宇氏は「子どもたちが小さいときからサバイバル・ゲームで、大半が落ちこぼれにされる。登校拒否は十四万人で、この十年で倍増した。にもかかわらず文科省は『概ね良好』の繰り返し。まず憲法を完全に実施せよ、教育基本法も改正をさけぶ前に適正な運用をまずきちんとやるべきだ」と指摘し、会場から大きな拍手が起こった。
 香川大学助教授の鹿子嶋仁氏は、地方自治を大切にしていくべきだ。有事法制はそれに逆行するものと発言した。
 傍聴者に発言を求めたところ、大勢の希望者があったが、四人が指名された。いずれの発言者も憲法改悪に反対する立場からの意見表明だった。そのうちの一人、香川県議会議員の渡辺智子氏は、有事法制や改憲の流れに危惧の念を表明、地方公聴会を改憲に向けたアリバイづくりにしてはならないと指摘した。
 市民の報告会では派遣委員の春名議員(共産)、金子議員(社民)の報告のあと、意見陳述者の根本氏と鹿子嶋氏が発言した。会場からも熱心な発言が相次いだ。
 憲法調査会は来年末には予定の期間を終えることになる。改憲派はこれらの調査会を改憲のキャンペーンの場として、あるいは改憲の手続きとしての実績づくりの場としてすすめているが、永田町とは異なり、地方では憲法の精神が定着して、改憲派は少数にすぎないことがまた証明された。


有事三法採択加担を許さず  市民、民主党本部に抗議行動

 一年あまり国会でおし止められてきた有事関連三法案は、今年に入ってからの与党と民主党の修正協議によって成立に持ち込まれた。衆議院で九〇%、参議院で八六%の賛成で採択された希代の悪法である有事三法案。民主党の果たした犯罪的な役割はきわめて大きかった。
 衆議院での採択のあと、民主党の「変節」に怒った市民たちは、六月三日、永田町の民主党本部におしかけた。呼び掛けたのは「NOユージ、VIVA友情」プロジェクト。三日午後、集まった六〇人余の市民たちは、まず民主党本部のあるビルのまえで集会とパフォーマンスを行なった。
 「金色夜叉」になぞらえた寸劇で市川房枝さんと菅直人代表の会話。リレートークを行なった。その後、エレベーターで民主党本部に行き、応対した総務局の担当者にひとりひとりが花を渡しながら、メッセージを発言した。最後に「よく勉強してください」と本やリーフレットを贈呈した。


 「イラクにも朝鮮半島にも平和を!」  浜松(静岡県)で反戦集会を開催

 五月二四日、浜松で、NO!AWACSの会と静岡県共闘西部の共催による反戦集会は二二名が参加して開催された。
 はじめに主催者が集会の意義について次のように述べた。
 NO!AWACSの会は、昨年の一二月から「アメリカはイラク攻撃をするな」をアピールして、街頭宣伝を精力的に行ってきた。とりわけ、三〜四月は、浜松駅前でのビラ配布、五回の市内繁華街と浜松基地へのデモを行い、反戦コンサートも開催してきた。その街宣行動の中で必ず何人かの通行人が言った内容は、「北朝鮮だったら許さないぞ」が大半であり、議論の余地がない感情むき出しの言葉だった。私たちは、四月までは「アメリカはイラクヘの無差別殺戮をただちにヤメロ」の街宣行動を繰り広げることを主眼においた。いま政府は、北朝鮮の拉致問題を最大限利用しながら、排外主義を煽って有事法制で「戦争のできる国」づくりの完成へ向かっている。この半年間の活動の総括的な意昧も含めながら、足元を固めるためにこの集会を企画した。ぜひみんなで考えて欲しい。
 つづいて、日韓民衆連帯全国ネットワークの共同代表の渡辺健樹さんが、「イラク反戦と朝鮮有事」というテーマで講演した。 渡辺さんの講演は、北朝鮮問題を、@第一次「核危機」と九〇年代以降の米朝関係、Aブッシュ政権成立後の米朝関係―第二次「核危機」の再来、B今後の平和運動の課題―イラクにも朝鮮半島にも平和を(朝鮮反戦運動のうねりを)でまとめてくれた。参加者の意見では、「昨年九月の日朝首脳会談は日本の権力構造にアメリカ一辺倒でない動きがうまれたと思ったが、現在はまったく逆の方向に向かっているが、どう考えるべきなのか」「日朝・日韓民衆との顔の見える連帯・交流がますます必要になっているのでは」などなど。今後、最悪のシナリオ(日米の北朝鮮への攻撃)も射程にいれながら活動を展開していくことが重要だと感じさせられた集会だった。 (静岡・新山)


労働法制の改悪反対

  
今回は闘いの力で「解雇できる」の文言は削除されたが……

 六月五日、衆院本会議で、労働基準法改悪案が与党三党と民主、自由の賛成で可決され、参院へ送られた(共産党、社民党は反対)。 改悪法案は、与野党が、法案から「解雇できる」などの文言を削除するとして合意が成立し衆議院を通過したものだ。また、三年有期雇用についても、契約後一年経過すれば「退職の自由」を保障することが付則に盛り込まれることにはなった。
 はじめの政府案では「使用者は労働者を解雇できる」と使用者の解雇権を認め、そのうえで、合理性がない解雇は、解雇権の濫用になり無効となるとしていた。また、解雇の不当性を立証する責任を労働側に負わされるものとなり、労働者にとって著しく不利な規定なのであった。こうした政府案にたいして多くの批判の声が上がった。労働法制の改悪とくにこの解雇は原則として自由であるという解釈を許す文言に対して、労働組合はもちろん、野党、そして日弁連などからも反対の意見が出されていた。
 労働組合は、連合、全労連、全労協などを問わず、こぞって反対の集会、キャンペーン、国会前座り込みなどの運動を精力的に展開してきた。
 こうした情勢の中で、五月二二日に、連合の意を受けて民主党が、「使用者は労働者を解雇できる」とした文言の削除をはじめ三点の修正案をまとめた。これに他の四野党の了承を得て、自民党との修正協議がはじまった。六月二日には修正で合意。その修正内容は、解雇ルールに関しては、政府案にあった「解雇できる」の文言を削り、解雇権濫用法理(最高裁判例)だけを書き込んで「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」というものとなった。一年の有期雇用を三年に延長することにはなるが、当面の間、三年の有期雇用では、労基法の付則に契約締結一年経過後は退職の自由を妨げてはならないという規定を盛り込むものとなった。
 労基法「改正」には付帯決議がつくことになり、そのなかには、解雇の立証責任は使用者側にあることや、労働契約の包括的立法の検討、裁量労働制緩和がサービス残業隠しに悪用されないための基準を設受けることなどが入った。
 解雇問題での文言の変更をかち取ったとはいえ、有期雇用の延長や裁量労働制の拡大については「修正」されておらず、改悪労基法が不安定雇用や「サービス残業」拡大に使われる危険はそのままだ。
 労基法改悪は、いっそうのリストラ合理化をすすめようとする資本の要請からきたものであり、政府与党と資本が、本来労働者保護法制たる労基法に、今回は「解雇自由」の文言を書き込めなかったとしても、これからも執拗に労基法の改悪=解雇原則自由化をねらってくることは間違いない。今国会では労働者派遣法・職業安定法も改悪された。労働者派遣法では、これまで禁止されてきた「物の製造」業への派遣を解禁し、一般派遣労働者の派遣期間の上限を現行の一年から最長三年までに延長するなど、派遣労働の規制緩和をいっそう進めるものとなっている。ここでも、従来は禁止されていた事前面接・履歴書送付が可能な「紹介予定派遣」も認めらる。こうしたことは常用労働者を減らす一方で、雇用も賃金も不安定な派遣労働への置き換えを加速させるものであり、同時に、派遣労働者の差別、採用差別に道を開くものだ
 「戦争も雇用破壊も許さない!こんな解雇ルールはいらない!労基法大改悪NO!二〇〇三年春の共同行動」など労働団体は、参院段階でも最後まで、労働者のための抜本的な修正を求めて闘うという姿勢を崩さず、国会傍聴と国会前座り込みなどの行動を継続している。労働法制の改悪反対を最後まで闘いぬこう。


鉄建公団第七回口頭弁論と首切り自由を許さない集会

 六月九日、東京地裁で、鉄建公団訴訟の第七回口頭弁論が拓かれた。
 今回の裁判闘争にも多くの人びと傍聴券の抽選に列ぶなど全国的な支援のひろがりがしめされた。
 また、朝に行われた地裁前の宣伝行動では、労働者の首切りは当然・正当だという判決を連発している東京高裁・村上敬一裁判長の似顔絵を鎖でつなぐなどのパフォーマンスが行われた。
 今回の裁判では、原告である名寄闘争団の高橋優さんが陳述に立った。高橋さんは、あからさまな差別・不当労働行為、当局の就職斡旋のいい加減さなどについて述べた。
 裁判終了後は、JR東日本本社のある新宿駅まえで街頭宣伝が行われ、その後、代表団による最高裁へ要請と署名の提出を行った。
 夜は、「大井町きゅりあん」で、首切り自由を許さない!実行委員会主催の「首切りの責任逃れはさせないぞ!裁判所の不当労働行為判決はださせない6・9集会」が開らかれた。この集会は、鉄建公団訴訟と全日空の下請けである関西航業の争議団の闘いを軸にしたもので、鉄建公団訴訟原告団の酒井直昭団長と関西航業争議団の赤田克彦団長が、闘いを報告した。
 集会では、首切り自由を許さない実行委員会から、「首切り自由法案が作られようとしている今、争議団にとっては裁判に勝つか負けるかは生死を分けるくらい重要な課題となっている。デタラメな判決を出した裁判官は絶対に許さない運動をつくろう。とりわけ東京高裁・村上敬一裁判官に対する徹底的批判の闘いが必要だ。また最高裁に対するデモに取り組み、年末には最高裁を包囲するヒューマンチェーンを実現し、不当判決をださせないような状況を作ろう」という提起があった。


書 評

    
  暉峻淑子著『豊かさの条件』(岩波新書)

                                佐山 新

『豊かさとは何か』から14年を経て


 「いま日々の暮らしの中にきこえてくるのは、音たてて崩れ行く日本社会の、地底から噴き出してくる不気味な地鳴りの音である」……本書はこう書き出されている。前著『豊かさとは何か』(89年)は、、バブル絶頂期に刊行され、豊かさを謳歌する浮薄な風潮のなかで、その陰に隠れている日本の実態としての貧しさを抉り出していた。著者は「豊かさへの道を踏みまちがえた日本が、砂上楼閣のように崩れてゆくのを予感しながら書いた」(「はじめに」)のだった。そして今、まさにその予感どおりの惨状をあらわにしている日本の社会を眼前に、「もうひとつの世界は可能だ」と訴えるべく本書を書いた。

破壊される労働・人間

 著者は人々をさいなむ共通の不安は「不安定な労働と生活」「教育と子どもの未来(平和と環境も含めて)」に集約されると言う。「アメリカ型グローバリゼーションの中で勝ち残ることが国家戦略になり、その戦略にそって労働も教育も再編成されつつある」(同上)。
 第一章「切り裂かれる労働と生活の世界」は、悪化の一途をたどっている雇用状況の具体的な分析に当てられている。五・五%に達しなお上昇するだろう失業率、男性で一〇%を超える若者の高失業率とその中での「基幹社員」と「使い捨てのフリーター」への階層分化、二七・七%を占めるに至った非正規雇用者の劣悪な労働条件、賃金カットの横行と増加する長時間労働……その下で「一方では、生活と健康を破壊するような、非人間的とさえいえる猛烈な働き方をしている社員がいる。そして他方では、働きたいのに探しても探しても職がない失業者がいる」
 労働者の生活は破壊され、年間三万人に及ぶ自殺者と、急増するホームレスはそのバロメーターだ。消費者金融(背後に銀行がいる)の横行もこれに拍車をかける。一方、生活保護等の救済策は貧困極まる。「自立や自己責任は、杜会的な下支えとしての社会保障なくしてはありえない。今回の不況で、こんなにも急激にホームレスが増えているのは、日本の政治に人間感覚がないからだ」と著者は糾弾する。
 著者は日本の状況にドイツの姿を対比する。失業保険支給期間は最長日本の一一月に対してドイツは三二月、国地方を合わせた失業対策予算はドイツ五〜六兆円に対し日本は四兆円足らず、失業者の自立をサポートする職業教育を含めた手厚い失業者対策……加えて労働者の側も全国組織に成長した「ドイツ失業者同盟(ALV)」の活躍、労働組合のEU全体の労働者にも働きかけた失業者支援の運動がある。
 著者は言う、「私はいつも思うのだ。なぜ日本人は連帯し、団結して権利のために闘わないのか、と」。ALVの会議に参加した著者の、「日本の失業者に何か伝言はありますか」という問への答えは、「連帯を失うな。団結して闘うことなしに改善はない」だったという。

教育をめぐって

 五月二三日、明治公園で開催されたSTOP!有事法制大集会での一三歳の女子中学生の発言に、私を含め多くの参加者が感銘を受けた。イラク戦争に反対し学校で自作のビラを配ったこと、アメリカ大使館前の抗議集会に連日駆け付けたこと、戦争につながる有事法制に反対する……淡々と、しかし力強く訴えていた。この日本では、このような中学生はきわめてまれと受け取られる。しかし『世界』緊急増刊『NO WAR! 立ちあがった世界市民の記録』を見れば、ドイツ、フランス、イタリア、イキリス等の反戦運動の大きな部分を中・高・大学生が占めていたことが分かる。教室やキャンパスで議論し、授業をボイコットして集会・デモに参加する。彼我の違いはいったい何に起因するのだろうか。
 第二章「不安な社会に生きる子ども達」は、恐らく反戦運動への諸外国と日本の子どもたちの関わり方の相違をも生み出しているだろう教育のあり方をテーマとしている。
 ここでもドイツの具体例と対比させて日本の現状が批判的に分析される。「いじめや受験競争に疲れ、規則と宿題に押しつぶされ、子どもなのにいつも忙しく、子どもらしい目の輝きを失っている」日本の子どもたち。がんじがらめに管理的な上意下達の教育行政、その下での教育内容・方法の画一化、四〇人学級等劣悪な教育条件、……「エリートとしてのたくましい日本人育成」を謳う教育基本法改悪がさらに拍車をかける。
 「人間として人を惹きつける魅力がない、いっしょにいるのが不愉快」な「おもろない」(松田道雄の表現)人間によって、教育を含めた「今日の社会が支配され、バブルの狂気につっ走り、挙げくの果てに今度は不況のどん底でそのツケが庶民に転嫁されている」、著者の怒りは深い。

生活のもつ全体性

 第三章「なぜ助け合うのか」で、著者はいじめや不登校の実態、協調性を過度に求める日本社会の病弊に触れ、「生活のもつ全体性」を語る。「私達は個人であると同時に、依存しあう杜会的人間であり、自然の一部として自然にも依存して生きている。そのどれもが欠けても人間生活はありえない」「人間の自立も、安全と安心も、他者との関わりの中で初めて可能なの」だ。その上で、「人間の生命と生活という共通の基盤に立つ住民主権だけが、競争社会への強い批判勢力となることができる」それを具体的に示す事例を紹介している。

著者の実践の中から

 第四草「NGOの活動と若者達」では、著者自身のユーゴスラビア難民支援のNGO活動の内容が紹介されている。ユーゴ内戦報道が如何に国際的な情報操作によって歪められたか、アメリカと周辺大国の介入がどれだけ民衆の苦痛を増幅させたか、現地に赴いて救援活動を行った著者は厳しく弾劾する。
 著者のグループとセルビアの人々との交流の経緯を読んでいて、私には胸にこみ上げるものがあった。「それがどんなに大変なことであっても、助け合う行為は干天の慈雨のように、私達に人間と未来への信頼を教えてくれる」という著者の言葉がそのままの重みで受け取られる。

「もう一つの世界」を求めて

 第五章「支えあう人間の歴史と理論」では、労働運動や生活協同組合の歴史を振り返り、マルクスのザスリッチ宛ての手紙等の紹介もまじえて、「共同の世界」の復権が語られる。
 「共同の世界とは、互助と協働の世界である」「市場経済社会と共有化された共同部分(社会の共通資本)をもつ二重経済社会」である今の社会で、「いま、最大の課題をかかえる共有部分こそは政治であり、地球的豊かさの源泉である自然環境ではないか」と著者は言う。「市場万能社会に代わる、地道で新しい発想への転換を迫られている」という著者のメツセージには、社会主義の復権という課題も含まれている、と私は読んだ、
 「希望を拓くー終章に代えて」は、市民的公共性の概念を吟味しつつ、情報ネットワークの世界大への拡大により世界的な市民運動が展開しつつある中で、新自由主義の市場経済に対抗して、「人間の連帯経済」を構築していこうと結んでいる。


KODAMA

    
  5・28労基法改悪NO!中央集会に参加して

 五月二八日、地方からの参加で、午後からの取り組みに参加をしました。労働基準法は労働者を守るべき法律だと信じて、活用する取り組みを行ってきました。その労働者をも守るべき法律に「使用者は労働者を解雇できる・・・・」を改正案で導入しようとしています。まったく許せない「改正」です。
 議員会館前での座り込みを連日つづけている首都圏の仲間の皆さんには頭が下がる思いです。当日には私も参加をさせてもらいました。また、厚生労働委員会の傍聴もさせてもらいました。始めての傍聴でワクワクしていましたが、入るなり空港みたいに厳重にチェックを受け、携帯電話はだめ、かばん類もロッカーにしまい込んで、ノートとペンのみ持ち込んで傍聴をしてきました。傍聴してびっくり、学級崩壊は聞いていましたけど、これでは国会崩壊だと感じました。40数名の委員会構成なのに、出席者は半分以下、まして与党と思われる議員はパソコンを平気で持ち込みうち、携帯電話で遊び、はたまた商業新聞を広げて読んでいるしまつで、論議している内容なんか聞いていません。小学生以下のていたらくです。元郵政大臣の野田聖子議員なんか隣の議員とおしゃべりばかり、この人は議運とのこと、まったくあきれ返りました。傍聴者は発言してならないと堅くいわれいたが野次を飛ばしたかったです。不真面目な議員は公表し選挙区で仕事内容を明らかにしなくてはなりません。選挙時に彼らも労働者の票が入っているはずです。社民党の阿部とも子氏や共産党の小沢和秋氏は労働法制の矛盾を追及し、また将来の有期労働者のあり方や、立法府としての責任制をとことん追及をしていましたが、厚生労働官僚の発言は、まったく意に介す様子もなく、坂口大臣の失笑をかう発言まで飛び出すなど、発言できず我慢している傍聴席からもため息がもれました。
 日比谷野外音楽堂での集会はナショナルセンターを越えた発言がつづき、大変に盛り上がりました。また、国鉄闘争団など闘いの報告にも大きな拍手と激励が飛んでいました。現在の私たちの労働条件に大きく影響するばかりではなく、将来の子供たちにも大きな汚点を残す「改正案」を絶対廃案においこむまで頑張る決意を固めました。(地方からの参加者・生瀬)


複眼単眼

  
「日本は単一民族」という論が体制側から繰り返されるのはなぜか

 かつて中曽根康弘元首相が「日本単一民族」論を述べてかなり大きな問題になったことがある。これは歴史認識でも誤っているし、人権問題としても誤っており、新国家主義的傾向を助長するものとして、社会の各方面から批判された。
 しかし、この「日本単一民族論」は繰り返し登場している。この三年半あまり、国会の憲法調査会を傍聴していた体験からだけでも、この迷妄な議論を幾度も直に聞いた。国会の他の委員会ではどうなのだろうか。
 最近では参考人に呼ばれた中教審の鳥居会長が単一民族説を述べた。中教審にしてからがこうした状態だ。あるいは中教審だからこそというべきか。
 六月五日には自由党の武山百合子委員がまたぞろ「日本は単一民族で」と発言した。これに対しては参考人で招かれていた学者が、やんわりと「厳密に言うと単一民族ではなくて、アイヌ民族もいるし、在日朝鮮・韓国人の方々もいますので…」と注意すると、武山は「そんな重箱の隅をつつくような議論ではなくて…」とむきになって反論したのだ。この日は憲法調査会の人権問題の小委員会での議論だった。
 「重箱の隅」とは恐れ入るが、例えばアイヌ民族の人権を保障する問題は重箱の隅の問題なのか。憲法調査会で議論されるべき人権問題とは、まさにこうした社会的マイノリティの人権保障が行なわれているかどうかも大きな問題のはずだ。憲法調査会の委員にしても、中教審の会長にしてもこの程度の人権意識、歴史認識なのだ。
 国会でこうした誤った議論が繰り返されるのは、この問題が徹底して追及され、本質的な議論がされていないからだ。これは「失言」ではない。しかし、問題にされたとしても、ほとんどが失言のレベルでとらえられ、その基本的な認識は変わっていないのだ。
 そして最近ではこれらの発言があっても、野党側の委員もほとんど問題にしない。たまに問題にする委員がいても、せいぜい「釘を刺す」程度で、「指摘しておく」にとどまっている。ここにも問題があるのではないか。机をたたいておぜ怒らないのか、わめき散らしてもいいではないか。たったひとりの人権でもそれがふみにじられる時には大騒ぎすべきなのだ。最近の共産党や社民党の議員のお行儀のいいこと、なんとも憤慨に耐えない次第。
 少数派だからといって、淡々と持ち時間の範囲で議論し、口を開けば「こういう事態だから選挙でどうしてもわが党の議席を増やしてください」というのでは、あまりにもひどいではないか。少数派なら少数派なりの議会での闘い方があるはずだ。その努力をサボって、有権者に責任を転化しないでほしいものだ。こんなことでは「百年河清を待つ」ことになってしまう。(T)