人民新報 ・ 第1110号<統合203号> (2003年10月15日)
目次
● 北東アジアに非核・平和の確立を! 日朝国交正常化を求める10・9集会
● 総選挙に際して イラク派兵・改憲の道を許すかどうかの分岐点
● 有事法制を発動させない 陸海空港湾労組二〇団体と市民が講演集会
● 資 料 / 自衛隊員へのアピール ( ピースリンク広島・呉・岩国の平和船団 )
● 新綱領は共産党を どこにみちびくのか ( 鈴木史郎 )
● 12・23教育基本法改悪反対全国集会への呼びかけ文
● 図書紹介 在日からの手紙 ( 姜尚中 内田雅敏 )
● 複眼単眼 / 石原慎太郎知事の暴言・妄言とパフォーマンスばかりの都政の無策
北東アジアに非核・平和の確立を!
日朝国交正常化を求める10・9集会
十月九日、東京・日比谷野外音楽堂で、フォーラム平和・人権・環境、市民緊急行動などによる「北東アジアに非核・平和の確立を!日朝国交正常化を求める10・9集会」が開かれ、二〇〇〇人の労働者・市民が参加した。昨年九月一七日の日朝首脳会談とピョンヤン共同宣言は、北東アジアの平和と日朝国交正常化の実現に向けての突破口になるものであったが、実際には、日本での拉致問題を利用した排外主義キャンペーン、有事法制、イラクへの派兵、またアメリカの北朝鮮敵視政策と北朝鮮の核開発によって事態は逆行し、北東アジアでは緊張が激化している。この集会は、今こそ、「北東アジアに非核・平和の確立を!」「日朝国交正常化を!」求める市民の姿が眼に見えるものとして取り組まれることが不可欠だとしてよびかけられた。
集会は、朴保(パク・ポー)さんのオープニングコンサートにつづいて、連帯のアピールが行われた。北朝鮮人道支援の会の吉田康彦さんは、昨年の日朝ピョンヤン宣言は日本外交のアメリカからの自立という画期的なものであった、いまこそ宣言の原点に帰った国交正常化交渉の再開を求めると述べた。JVC(日本国際ボランティアセンター)の寺西澄子さんは、日朝間の問題は武力によらない方法で解決しなけれならないと述べた。ピースナウコリアジャパンのキム・スンヨンさんと藤花大介さんは武力でなく話し合いで、いつか友だちになっていかなければならないと述べた。
つづいて、平和フォーラム福山真劫事務局長が主催者あいさつ。このテーマでどれほどの人が来てくれるか心配だったが、多くの参加者があってたいへん喜んでいる。アメリカに追随する小泉内閣は戦争の危機を高め平和の危機が訪れている。ブッシュの北朝鮮敵視政策にも、北朝鮮の核開発にも反対して、戦争に反対する運動を強めて行かなければならない。拉致問題も平和的に交渉で解決していくべきだ。この集会は北東アジアの非核平和化と日朝国交正常化交渉の第一歩だ。今日の集会は、韓国からゲストとして、労働運動、市民運動の活動家が参加して、日韓両国の平和勢力の連帯の場にもなっている。近くアメリカのブッシュ大統領がイラク戦争への支援を求めて来日する。だが、われわれは日本の若者を米軍の盾にしない、アメリカのイラク占領のために日本の税金を使わせないという運動を行っていく。
韓国からは、キム・スギムさん(平和をつくる女性たちの会共同代表)、ク・カブさん(参与連帯平和軍縮センター実行委員)、イ・フェスさん(民主労総対外協力室長)、イ・ビョンジュさん(全国教職員労働組合対外協力室長)が参加し、代表してイ・フェスさんが発言した。ブッシュ政権の登場以降、野蛮な戦争政策で世界の人びとが踏みにじられている。こうしたことは日米同盟のもとに行われている。韓国のノ・ムヒョン政権もイラクに派兵しようとしているが、民主労総は多くの社会団体とともに、国会前でデモ・座り込み闘争を展開している。反戦運動の高揚に韓国政府はとまどっている。韓国の人びとは五〇年におよぶ分断・敵対の苦しみを経験してきた。敵対・緊張状態を平和的に解決し真の統一を実現するために闘って行きたい。韓国と日本の労働者・農民は、戦争と新自由主義のグローバリゼーションに反対して連帯していこう。
ウリパラムのチャンゴ演奏の後、賛同者を代表して和田春樹日朝国交促進国民協会事務局長がスピーチした。日朝共同宣言は歴史的な意義をもつものだったが、いまそれを否定する勢力が総決起している。その中心は、内閣官房副長官で現自民党幹事長の安部晋三と救う会会長の佐藤勝巳だ。安部は、家族を返せということを強硬に主張して北朝鮮に圧力をかければ、北朝鮮は早期に崩壊するという主張だ。佐藤は、拉致問題の解決には金正日体制の打倒が前提だといっている。しかし、日朝間の問題を解決して行くには、日本が独自に国交正常化交渉を進め、それと六カ国協議を連動させるしかない。
最後に集会アピールが参加者の拍手で確認された。アピールは、六カ国協議の成功を各国政府に求めるとともに、「北東アジアに非核・平和を確立するため、アメリカの戦争政策の転換と、北朝鮮の核・ミサイル開発の中止および人道問題への誠実な対応を求めます。日本政府に対しては、軍拡政策を転換し、侵略戦争と植民地支配によってもたらされた被害者への補償を行うこと、そして飢餓に苦しむ人びとへの人道支援、在日朝鮮人に対する人権の保障を求めます。そして、日朝両国政府に対して、国交正常化交渉をただちに再開し、誠実に交渉を進めること」を強く訴えている。
集会の終了後、参加者は銀座周辺のデモ行進を行った。
総選挙に際して
イラク派兵・改憲の道を許すかどうかの分岐点
一五六国会で衆議院が解散され、事実上の総選挙戦に入った。この衆議院議員選挙は現代史の曲り角となる可能性のある重要な時期に争われる選挙だ。日本の未来を、いわば欧米の「普通の国」なみの「戦争をする国家」してしまうのかどうか、それとも、ともかくも五七年来最高法規として存在してきた平和憲法の規定する「戦争をしてはならない国」「戦争をしない国」として、二十一世紀にふさわしい、名誉ある「戦争放棄をした国」に踏み止まるのかの分岐点にさしかかっている。
選挙戦で問題にされている経済・財政問題、例えば年金体制の破産や改革の名による危機の社会的下層へのしわよせなどの深刻な社会問題も、この改憲・派兵・軍事大国への政治路線と切り離すことはできない。だからこそ今回の選挙での最大の争点は、イラク派兵・改憲の道を許すのかどうかという問題にあるのだ。
小泉政権の与党・自民党がこの総選挙を前に発表した「政権公約」は、戦後歴代保守政権の選挙公約の中でももっとも危険な要素を含ませた、許しがたい「公約」だ。
公約は年金・医療・税制などで民衆に犠牲を強いながら、郵政・道路などに見られるように一部大企業を積極的にささえていく方向と合わせて、以下のように宣言している。
曰く「二〇〇五年、憲法改正に大きく踏みだします」
曰く「教育基本法を改正します」
曰く「防衛庁を防衛省に移行させます」
曰く「五年以内に、治安を回復します」
曰く「北朝鮮による日本人拉致問題をかならず解決します」
曰く「改革政党・自民党が改革の芽を大きな木に育て、日本を再生します」などなどだ。
五五年体制の出発となった保守合同と自民党の誕生に際して、現行憲法に敵意を示して改憲をうたったものの、民衆の闘いの高揚をおそれた歴代保守党政権は、その選挙公約や首相就任演説等で、今回の公約の「二〇〇五年、憲法改正に大きく踏みだします」という条項のような改憲宣言を出すことはなかった。いずれも「自らの任期中には現実の課題とはしない」と言明してきたのだ。その誕生の時にも「首相公選制」などを掲げて改憲を主張した小泉首相が三年余を経て、公然と改憲の課題をかかげるに至ったということは、きわめて重要な意味を持っている。
そして「防衛省への格上げ」「拉致問題の解決」「教育基本法の改悪」「治安の強化」など、戦後史を画するような数々の悪法を堰を切ったように並べ立て、その実現を宣言したのだ。自民・公明・保守三党の連立により、国会の議席の圧倒的多数を確保したうえで、最大野党の民主党をも政策的に引き込むことによって、保守的政治家の一部すら嘆くように、国会ではしばしば圧倒的多数が政府の重要法案を支持するというような翼賛国会状況がつくられるようになった。小泉首相のパフォーマンス優先の政治とマスコミの協力・迎合によって、「世論」の支持をも確保している。国会と「世論」の多数の支持を背景に、小泉首相がその「個人的人気」を武器にして、積極的にすすめている政治手法は、まさにファシズムに通じていくものだ。実際、今回の第二次小泉改造内閣と党執行部人事では、名うてのタカ派政治家がズラリと勢揃いした。これは決して見逃してよいことではない。
この急激な転換を小泉内閣は財界などこの国の支配層と、米国政府の要求にしたがって、なりふりかまわず実行しつつある。今日の日本経済の深刻な状況をつくりだしたのは、ほかでもない。これらの者たちだ。その責任をひとごとのようにして回避し、「痛みを引き受けよ」などとして、民衆にしわよせし、その怒りを「自民党をぶっ壊す」とか「改革」などと叫ぶことで、目先を眩ましてしまおうとする。それだけでも足りないと見るや、「北朝鮮の拉致問題の解決」などと叫んで、不満を外にそらそうとする。これらの政治手法は古典的で、稚拙ではあるが、マスコミなどを引き付けて、それを「常識」などという、わけのわからないスローガンを繰り返し絶叫して、当たり前の政治的社会的風潮にすることに成功しているのだ。
しかし、これらの小泉政権の悪政に対して、野党の側は真に対抗できるものとなっていない。流行の「マニフェスト」なるものが最たるもので、言葉だけが新しく、中身は従来の公約や政策・綱領となんら変わらない。いや変わらないのではなく、この過程で政府にたいする対案づくり競争の土俵に引きずりこまれてしまったために、現行の政治の枠組みそのものへの批判が消されてしまった。それは「改良」の名にも値しない「改良」だ。これは野党第一党の民主党に典型的だが、共産党や社民党も無関係ではない。
外交や安保は票にならないなどという世まよい言を捨てて、野党はこの総選挙で「イラク派兵反対」「米軍への巨額の戦費供出反対」「憲法改悪反対」「民主主義に逆行する治安強化反対」などを高く掲げて、闘わなくてはならない。そのための反政府大連合を呼びかけ、実現しなくてはならない。私たちはその方向でともに闘える候補者を支持し、全力を尽くす決意だ。
有事法制を発動させない
大きな共同で小泉政権の弱点を突け
陸海空港湾労組二〇団体と市民が講演集会
十月一一日、東京年金基金センターセブンシティホールで、「有事法制を発動させない市民と労働者の集い」が開かれた。
これは、陸海空港湾労組二〇団体、平和をつくりだす宗教者ネット、平和を実現するキリスト者ネット、戦争反対・有事をつくるな!市民緊急行動のよびかけによるもので、有事法成立後の闘う態勢をつくりだすためのものだった。
松崎菊也さんがコントで、小泉はじめ自民党政権とアメリカとの関係を風刺して会場には爆笑の渦がおこった。開会のあいさつは、日本山妙法寺の木津博充上人がおこなった。
一橋大学教授の渡辺治さんが、「有事法制が通って日本はどうなる? ブッシュの戦争に追随する軍事大国化を阻止するために」と題して次のように講演した。
小泉政権は、有事法制とイラク特措法を成立させ、憲法改悪も課題として出してきている。日本は大きな岐路に立たされている。このことは、アメリカ帝国主義の戦争と日本の追随的軍事大国化を意味するが、しかしまだそれが完成したわけではない。軍事大国化には今後まだまだ大きな山がいくつもある。
有事法制には二つの理由があった。一つは、アメリカが冷戦後のグローバルな覇権秩序維持のための軍事分担を日本に要求したことであり、もう一つは日本企業がグローバル化し、その権益を守るために軍事大国化しようとしたことだ。
しかし、三つの力が日本の軍事大国化を阻んできた。それは、まず憲法だ。しかし憲法はそれだけでは力をもたない。憲法の理念に基づいた平和運動があった。そして日本の侵略を忘れないアジア諸国民衆の存在だ。しかしアメリカ政府や日本の大企業の要求によって、安保の新ガイドライン体制として米軍の軍事行動の後方支援の決定をおこなった。そしてある地域・事態への対応としていくつかの特措法へをつくった。しかし、これでは、どこででもアメリカとともに闘うという集団的自衛権が行使できない。また民問企業と地方自治体の動員確保の体制がない。こうした問題を抱えていたが、ブッシュ、小泉政権の成立で事態は大きく変わった。ブッシュ政権は、悪の枢軸論、先制攻撃論を打ち出し、アメリカの気に入らない国家の転覆を公然と主張し実行している。小泉は、こうしたアメリカ・ブッシュ政権の政策を積極的に受け入れて日本の国家的地位を浮上させようとしている。小泉は、これまで戦争体制づくりを阻んできた三つの限界を突破しようとしている。それがテロ特措法と有事法案だった。有事法制の本質は、アメリカの戦争に加担し国民を動員することで、米軍の軍事行動の後方支援に民間と自治体を動員する体制づくりだ。
有事法案は通ってしまったが、これまでは継続審議にしてきた。この有事法案成立を挫折させた力を確認することが、これからの闘いのために重要だ。有事法制反対運動の昂揚は、第一に陸海空港湾労組二〇団体などの呼びかけによる労働者・市民の持続的統一行動、第二に地方自治体の闘いや首長の異論、そしてこれが小泉構造改革反対闘争と結合したことだ。たとえば、ナショナルセンターをこえた労組によって健康保険改悪反対闘争が昂揚し、それが連合を動かし、民主党への規制力となり、その結果、野党の結束が崩れず民主党が日和れなかったことだ。
転機となったのは日朝平壌宣言だった。しかし、小泉さんは人気取りのために日朝国交正常化交渉に動いたのだろうが、平壌宣言そのものは有事法制と力によって朝鮮を押さえ込もうとする路線とは矛盾している。この小泉の動きにたいしてアメリカは危機意識をもち、また日本の右派勢力も巻き返しに出て、小泉政権は後退した。逆に日朝首脳会談であきらかになった拉致問題を契機に北朝鮮問題は有事法制の挺子となってしまった。民主党は北朝鮮問題のインパクトと責任政党への野望で態度を変化させ有事法制がつくられた。
しかし、軍事大国化の完成はまだまだだ。憲法、平和運動などの三つの限界は突破されていない。今後、アメリカのグローバル軍事行動に加担させるために自衛隊の海外派兵の常駐化がはかられなければならない。国際支援法あるいは安全保障基本法が必要だ。それも、まず大綱をつくるところからはじめられ「なければならない。法案は次期通常国会以降だ。また、東アジアでのブッシュの戦争加担体制づくりのために有事法制の完成だ。国民保護法制など有事関連法制の制定で、朝鮮攻撃に備えるものだ。これは次期通常国会だ。
そして有事法制の特殊な構造を理解しておくことが重要だ。武力攻撃事態法二条は、「武カ攻撃事態」だけでなく「武力攻撃予測事態」をもうけて、事前にも戦争体制をとれるようにしたこと、同時に地方自治体の「責務」(五条)、民間企業などに指定公共機関の責務(六条)を規定したことだ。しかし、自治体や企業が拒否した場合が問題だ。そのために、内閣総理大臣の指示権・代執行(一五条二)が入っている。だが、小泉は国民保護法制など関連法案制定なければ、一四〜一六条を発動しないという。すまわち、国民保護法制が通らなけれぱ、恒久派兵法、教育基本法改悪、国民投票法などを出せないことだ。戦争発動させない闘いはこれからだ。韓国の平和運動と連携して朝鮮で戦争を起こさせない運動をつよめ、反改憲統一戦線を形成していくことが必要だ。
渡辺さんの講演につづいて、「市民と労働者のクロストーク ユウジでどうなる?!くらし・職場・この国」に移り、大野則行さん(航空安全会議)、金性済さん(在日大韓基督教川崎教会牧師)などが発言した。
資 料
自衛隊員へのアピール
テロ特措法の2年延長案を廃案にしよう!
「テロ特措法」に基づく被爆地ヒロシマからの海外派兵を中止してください!
イラクへの自衛隊の派兵に反対します。
イラク占領への資金提供を止めろ。
有事法を廃案に! 日本を戦争ができる国にするな!
基地周辺の自衛隊員、家族、市民の皆さん!
私たちは、ピースリンク広島・呉・岩国の平和船団です。
(一) 米国が、9・11できごとに対して、テロを無くすという名目でアフガン戦争を始めてから、二年が立ちます。この戦争は、半年もたたないうちに終結したことになっていますが、米軍は撤退していません。そして、日本政府は、「対テロの国際的取り組み」に協力するとして、「対テロ特措法を作り、海上自衛隊のインド洋派遣を強行してきました。そのテロ特措法は、明日にも、更に二年間の延長を測るとしており、何の見通しもなく、半ば永久に続くことになりかねません。皆さんの心情を思うと、今のようなことでいいのかと本当に憂慮します。
今も、呉からは補給艦「とわだ」、駆逐艦「あさかぜ」がアラビア海で燃料補給作戦を行なっていますが、既にこの作戦の正当性はきわめて希薄です。
・ 海上自衛隊が米軍に供給した燃料は、米軍が使用した全燃料の実に四〇%に当ります。米英軍の一方的な爆撃によって、アフガニスタンでは少なくとも四千人以上の一般市民が亡くなり、兵士まで含めれば、おそらく何万人もの人々が殺されています。
その殺戮の一端を、海上自衛隊は、まぎれもなく担っているのです。
にもかかわらず、アフガニスタンでの戦争の実態はほとんど報道されず、自衛隊がどこで、何をやっているのか私たちには知らされていません。この二年間の努力が、本当にアフガニスタンの市民の暮らしや安全にプラスになったという報告は何もありません。戦争は多くの人々を死に追いやり、多くの人々を苦しめ続けています。私たちは、日本がこれ以上参戦の道を続けることに強く反対します。
さらに五月になりイラク戦争参加のためインド洋を通る米軍の全艦艇に日本のテロ特措法に基づく燃料補給が行なわれていたことが明らかになりました。これは、テロ特措法に違反しています。国会は、全く機能していません。まともな議論もなく、重要な法律がつくられていくのです。
アメリカ軍は、今なお、テロ組織の逃亡を防ぐための監視を名目として、いつ終わるとも知れない作戦行動を続けています。日本政府が、どういう状態になったら、派兵が終わるのかも明らかにしないまま、更に二年間の法の延長を画策していることは絶対に許せません。
(二) 自衛隊員と、ご家族の皆さん! 六月に有事法制が、七月にイラク新法が成立したとき、皆さんは、どのような想いで、それを受け止めたでしょうか? 政府と与党の議員は、憲法九条を捨てる宣言をしたのです。それは同時に、自衛官の生命と人権を無視するという宣言でもあります。これは明らかに憲法違反ですし、皆さんの
人権と生命の安全を軽んじようとしているのです。
また政府は、乗員とその家族の人権を極度に踏みにじっています。インド洋に派遣された自衛官の中には、マスコミのインタビューに「もう二度と行きたくない」と拒否の意思表示をされている方もいます。幹部も含めて、艦内で飲酒をしたなどで大量の処分者が出ているのも不満の現れです。
しかも、海外での作戦行動が、本当に、人類の幸せや希望につながると思いますか>アメリカノ一国主義を強めるための、極めて利己的な作業のために、まことしやかな嘘を掲げて、アメリカ支援をしているだけではないのでしょうか? インド洋に行かないでいただきたい。
自衛隊を海外に出し続けることは、必ず後世に大きなツケを残します。一九五四年六月、自衛隊の発足が決まったときの参議院における「自衛隊の海外出動禁止決議」の精神と、「決議の趣旨は、十分これを尊重する」との政府の約束を思い起こしてください。自衛隊が海外で作戦行動をすることを「普通のこと」にしてはなりません。私たちは、戦時下の派兵を担うべく、呉から艦船が出ることにあくまでも反対します。それは、自衛隊員や家族の願いでもあると信じます。
(三) 更に、小泉政権はイラクへの自衛隊派遣を始めようとしています。
しかし、それが正当であるためには、アメリカが行なった戦争が正義であり、それによってイラク市民の暮らしが良くなっていなければなりません。現実はどうか?全く逆です。
戦争の理由となった大量破壊兵器は見つかっていません。そして、イラクでは何が起こったのか?米英軍は準大量破壊兵器と言えるあらゆる兵器を駆使して、多くのイラク市民を殺し、自然を破壊したのです。使用された劣化ウラン弾とその微粒子は、半永久的な放射能汚染源としてイラク国内に残ったままです。これは、国連憲章や国際法をも無視した戦争犯罪以外の何ものでもありません。
イラクの人々は米英軍による占領をよしとせず、五月の「戦闘終結宣言」の後も日々、米英兵の死者が出ており、戦争中の死者よりも、その後の死者の方が多くなり、米英軍の占領政策はまさに破綻寸前です。このことは、ブッシュ政権の先制攻撃戦略、いわゆる「ブッシュ・ドクトリン」が破綻したことをも意味しています。
アメリカ兵自身が、早く帰りたいと思っています。その家族から、早く返してほしいという声が日増しに高まっています。今、ブッシュ政権の支持率は急激に下がり、アメリカの市民が、ブッシュの嘘にきずきはじめているのです。
・ そうした中で、ブッシュ政権は、日本や韓国に占領の支援をする軍隊(日本では自衛隊)の派兵と資金の提供を求めています。一〇月一七日、来日するブッシュ大統領は、それを日本政府に迫ります。政府はアメリカの要請に応じる方針です。しかし自衛隊員の多くは、「国を守るために入隊したとしても、イラクで現地の人たちを殺し、また自らも殺されるために入隊したわけではない」と思っているはずです。今ほど自衛官とその家族に不満と不安が渦巻いているときはかつてありません。
また経済政策の失政のツケで、長期にわたる経済不況が続く中で、企業倒産、自殺者、失業者、就職難が慢性化していることには何の対策もしない政府が、アメリカの誤った戦争の後始末のために湯水のように税金を使うことを許すわけにはいきません。私たちは、イラクへの自衛隊の派兵と、米英軍への資金提供に強く反対します。
その後始末のために自衛隊を出すことは、米国による誤った戦争を良かったこととして肯定することです。
更に派遣される自衛隊員は、アメリカ兵と同じ立場に立たされることになります。いつ殺されるかもしれないし、逆に殺すことになるかもしれない。そのような場に、皆さんをを行かせる訳には行きません。
皆さんは、今、入隊する時の約束と、話が違うではないかと思っているはずです。
新潟県加茂市の小池清彦市長の政府への要望書は重要な問題提起をしています。彼は、元防衛庁の職員として、明言しています。 『自衛隊の本務は、祖国日本の防衛であります。自衛隊員は、わが国の領土が侵略された場合には、命をかけて国を守る決意で入隊し、訓練に励んでいる人たちでありますが、イラクで命を危険にさらすことを決意して入隊した人たちではないのであります。(略) 自衛隊員の募集ポスターやパンフには、「希望に満ちた立派な職場だ」とのみ書いてあるのであって、『イラクへ行って生命を危険にさらせ』とは書いていないのであります』
(「キヤッチピース」一一四号) これは、多くの皆さんの心情を代弁しています。
以上より、私たちは、自衛隊のイラク派遣に反対します。日本がすべきは、まずアメリカが行なったイラク攻撃を戦争犯罪として断罪する国際的な努力の先頭に立ち、二度とこのようなことを繰り返さないという言質を、国連の場などで確認させることです。その上で、破壊されてしまったイラクの復興のために、人道的、経済的な支援を、国際社会の一員として行なっていくべきです。それは、今の時点で、アメリカの後方支援のために自衛隊を出し、米英占領軍のために資金を提供することとは全く違うことです。
人類初の原爆被爆県となった広島に暮らすものとして、要請します。
(一)イラク戦争の犯罪性を告発し、米英軍のイラクからの即時撤退を求める。
(二)自衛隊のイラク派兵に絶対に反対する。
(三)イラク占領のために日本からの米国への資金提供をしないこと。
(四)「子どもたちに戦争ができる国を残さないために」有事法体系の廃案を求める。
新綱領は共産党を どこにみちびくのか
十一月下旬に開催される予定だった日本共産党第二十三回党大会は総選挙との関係で、〇四年一月十三日からに延期され、あわせて大会議案の公開討論も一ヶ月間停止された。この間大会に向けて行なわれている同党の公開討論は、中央委員会が提案した対価機議案の問題点をいくつか浮き彫りにしている。
本紙はすでに三度(八月五日、二十日、九月五日号)にわたって綱領改定案の問題点を検討したが、今回は同党の政権論、民主連合政府や未来社会論などをめぐる問題点について、同党内から出ている意見に即して検討する。
「宮本路線」の清算を試みるもの
一九六一年に採択した「六一年綱領」(当時の宮本顕治書記長の名をとって宮本綱領とか宮本路線とも言われる)以来の共産党の政府論・革命論をおおまかにいえば、「選挙管理内閣」↓「よりまし政府」↓「民主連合政府」↓「民族民主統一戦線政府」(資本主義の枠内での民主的改革、行動綱領に規定)↓「革命の政府」↓「社会主義社会(共産主義の第一段階)」↓「共産主義社会(共産主義の高い段階)」というものだった。これは大筋においてこの四十年、あまり変わらず、日本共産党の「革命」論の理論的な基礎をなしてきた。
今回の綱領改定案はこれに大幅にメスを入れ、この政権構想における宮本理論を抜本的に「改定」し、清算してしまおうとする野心的な試みだ。
暫定的な改良政府として想定されてきた「選挙管理内閣」や「よりまし政府」論については不破議長の改定案提案理由説明では触れられていない。これは一般的には今後も必要に応じて採用されるのだろう。
今回、大きく変更した問題の一つは改良の政府とされてきた「民主連合政府」から「革命の政府」にいたる過程と関連の問題だ。
不破報告によれば「改定案では、この区別をなくし、「民主連合政府こそが、日本社会が必要とする民主的改革を実行する政府であり、この政府が実行する民主的改革が、民主主義革命の内容をなすものだ」と「発展的な整理を行なった」と説明されている。
これまでは区別して使ってきた「民主連合政府」も「民族民主統一戦線の政府」も「革命の政府」もみな同じものだとしたのだ。
そして従来、これらの民主主義革命の課題を示すものとして掲げてきた共産主義者の理論の伝統的な「行動綱領」という考え方を廃止し、「革命によって実現すべき改革の内容をあげる」ことにしたというほとんど意味不明の解説もされている。
もうひとつの重大な変更は「未来社会論」の問題で、不破報告によれば「(マルクスが『ゴータ綱領批判』で展開した二段階論のような)未来社会を社会主義社会と共産主義社会の高い段階に区分してとらえる、これまでの二段階論はとらず、一つの連続的な発展として、未来社会をとらえる立場」をとること。この社会の呼称は「日本共産党として、共産主義社会をめざす立場を名乗っており、理論は科学的社会主義であって、社会主義をかかげていますから、どちらか一つをはずして、呼称をひとつにするわけにはゆかないのです。……一番妥当な解決として、綱領での未来社会の名称としては『社会主義・共産主義の社会』と表現する」と折衷主義的で、わけのわからない説明をした。
これら政府論・革命論における二つの問題での変更は、同党綱領の根本に関わる変更だ。当然、党内からも反論や批判を含めてさまざまな意見が続出している。
「改良」と「革命」の区別を最終的になくした綱領改定案
不破報告の連合政府論の問題点は「しんぶん赤旗別刷り学習・党活動版臨時号」(以下略)NO3で、内藤幸男(神奈川)が詳細に展開しているので少し長くて煩わしいが、引用し紹介する。
「党が選挙で違憲状態の解消(安保破棄、自衛隊解消等)を公約し、議会で多数を得れば合意を得たことになる。国民の合意を得られないからといって、公約から自衛隊解消をはずすことは許されない。憲法9条は遠い実現目標などではなくて、最低限守らなければならない出発点である。国および国民は憲法を守る義務がある。党が連立政権に参加するためには、連立政権が違憲状態を解消する事(安保破棄、自衛隊解消等)が絶対条件でなければならない。二二回党大会決議で、『憲法9条と自衛隊の矛盾を解消することは、一足飛びにはできない』とされているが、これは誤りである。……安保破棄前の段階では、党は政権に参加すべきではない。安保破棄後自衛隊未解消の段階でも、党は政権に参加すべきではない。二二回党大会決議で、『安保破棄についての国民的合意と自衛隊解消の国民的合意は別個の問題であり』とされているが、これは誤りである。安保破棄についての国民的合意と自衛隊解消の国民的合意は同じ違憲状態解消問題である。安保破棄後、自衛隊解消勢力が議会で多数を得た段階で、初めて、党は政権に参加し、自衛隊を即時解消する。二二回党大会決議で、『憲法違反の自衛隊が、一定の期間存在することはさけられない』とされているが、これは誤りである。憲法違反の自衛隊が一定の期間でも存在することは許されない。……二二回党大会決議で、『そうした過渡的な時期に、窮迫不正の主権侵害、大規模災害など、必要に迫られた場合には、存在している自衛隊を国民の安全のために活用する』とされているが、これは誤りである。急迫不正の主権侵害などありえないし、たとえあったとしても武力で解決できない。大規模災害などに、武力など必要でない。武力はさちじん野ためにしか役立たないし、基本的人権を守ることなどできない」と指摘する。
前二二大会決議で問題になった「自衛隊活用論」も含めて、共産党中央指導部の政府論の問題点の指摘としては的を射ている。
同じNO3で前島茂(千葉)はこう指摘する。「(今回削除された『二つの敵』を規定した現綱領は)革命の問題は権力の問題という見地から、現在の日本は誰が権力を握っているかを明らかにしている。全文の復活を望みたい。また民主連合政府を新しく位置付けなおしたのはよいが、この政府からの人民の権力を打ち立てる革命の政府への発展の道筋について述べていないという誤りを犯している。我々がなしとげる民主主義革命は、単なる民主主義革命ではなく、人民の権力を打ち立てる点で『新しい民主主義革命』『人民の民主主義革命』である。この点を修正してしまっている」と。「二つの敵」論の評価など、前島の論点の正否はさておき、問題の在処のするどい指摘ではある。
NO4で浦島徹(大阪)は「改定案の採決に反対する」として次のようにいう。
「民主連合政府の政策に解消されない党独自の政策が立脚点を失っている……天皇制問題に即して言うなら、民主連合政府の閣僚が天皇条項も含めて憲法を尊重し遵守するのは当然である。しかし、だからといって反天皇制の運動や天皇制イデオロギー批判にかかわる党員活動家にまでそれを押しつけることは許されない。天皇条項も含めて憲法を遵守するという民主連合政府綱領と天皇制の廃止をめざす綱領本来の立場は両立できるし、両立させてきた。ところが、改定案では、それが一転して両立せず、当面は天皇制廃止をめざさないことになっている。これは現状容認というほかはない」と。
今回の連合政府論はとりわけ天皇条項との関連で、矛盾が浮き彫りにされる。同じ号で後藤衛(北海道)も指摘する。
「現綱領で革命以前の統一戦線政府として位置付けられた民主連合政府が、改定案では、革命の政府と同等の役割を果たすものとして位置付けられている。当面、革新三目標によって樹立される民主連合政府は、天皇制を含む憲法擁護を政策とするが、国民の意識がさらに前進し、民族民主統一戦線政府による民主主義革命の時点では、天皇制を廃止し、民主共和国とする事を明確にすべきである」と。
同じく牧沢博樹(静岡)は、今回の変更はかつて共産党内にあって不破氏も関係したことのある「構造改革論」と関係があるのかと皮肉まじりで問うたうえで、「民主連合政府(改良の政府)と民族民主統一戦線政府(革命の政府)」の課題・目標の相違点は「日本国憲法における象徴天皇制の問題がこの二つの政府の区別の重要な点であることは明らか」だと批判している。
そして行動綱領廃止について、NO1で長谷正紀元(大阪)は「現綱領の行動綱領には、要求が掲げられていますが、……内容は、民主主義革命によって実現可能な要求か否かを検討された上で整理されたものだと理解してきました」と批判した上で、不破報告で天皇制廃止を先送りする口実に使われている「国民の納得」について次のように指摘している。「国民の納得、総意によって解決していくということは、『天皇制』に限ったことではなく、どんな改革も国民の納得抜きには解決できないのは当然だと思います。ところが(案)では天皇制の内容に限って『国民の納得』について記述しているのは、不自然な感じを受けます」と。明らかに本音を見抜かれている。
党名変更一歩手前まできた日本共産党の綱領改定案の「未来社会」論
不破報告は先に指摘したように、マルクスの『ゴータ綱領批判』を批判するという、つい最近までマルクス主義を指導的思想に掲げてきた同党にとっては画期的なところに踏み込んだ。
これにたいして公開討論では党内からの批判が続出している。
NO1で福田肇(東京)は「マルクスは『ゴータ綱領批判』において資本主義社会と共産主義社会のあいだには過渡期があるとあたりまえのことを言っただけなのであって、……これを『青写真的』な『二段階論』としてしりぞけることには納得できません」と指摘している。
NO2で清水貢(奈良)は「社会主義と共産主義を段階として規定した、これまでの呼称を根本的に再検討した第五章は、今回の改定案の柱だと理解しています。しかし、『社会主義』と『社会主義・共産主義』の二通りの使用は分かりにくいと思います。……『社会主義』と『共産主義』の用語の違いの説明がないまま『社会主義・共産主義』と併記すれば混乱してしまいます。……『共産』という用語は『財産共有』の略であって、もともとコミューンの不正確な漢字訳ですし、旧ソ連や北朝鮮など、世界で『まがいもの』(不破議長)の国で実在し、はびこった呼び名であり、『共同社会』をめざすわが党の綱領も、この『古い服』を着替える時ではないでしょうか」と「共産」という用語の廃棄を要求する。「新しい共同社会(共同体)」と呼び換えを要求する意見はほかにもでている。
こうした見解は一部の新左翼の中でも流行しているが、しかし、日本語として定着している「共産主義」をいま呼び換えることはどのような役割をはたすのかの実践的問題抜きに、「学問的」に扱う動きに筆者は組しない。言葉の定義を明確にすればよいのであり、たらいの水と一緒に赤子を流す類の、共産主義を清算する日和見主義に通ずる恐れのある「呼び換え」論議とは区別して議論されなくてはならないだろう。
NO3で前島茂(千葉)が、不破がこのところ、党の雑誌や単行本などで、レーニンの批判からマルクスの批判にまで先行して踏み込んでいることを取り上げ、以下のように批判したのはおもしろい。
「未来社会について綱領は社会主義・共産主義の二段階説をとってきたようにいうが、マルクスの『ゴータ綱領批判』での説が述べられていてマルクスの論自体が二段階説ではないので、綱領もそうではない。資本主義から生まれたばかりの共産主義の低次の段階の特徴を述べているので、二段階なのか三段階なのかと言う類のことを論じているのではない。不破報告の二段階説への批判は鋭い問題提起だが、マルクスの『ゴータ綱領批判』以上のことを言おうとすると現状ではまだ研究不十分である。『社会主義・共産主義』という章の立て方はまた新しい分かりにくさを生む」と。
以上、紹介したさまざまな批判に共産党中央委員会は生産的な対応ができるのだろうか、注目しておきたい。すでにNO2の最後の部分に「大会議案討議事務局から」という中央本部事務局のコメントが掲載され、「本誌第一号での佐方基氏の意見は、党中央委員会として提案した綱領改定案や報告を特定の個人の『理論』として扱い、個人の『理論』に対する非難を行なったもので、参加要領に照らして、掲載すべきでないものでした」と書いてある。
これは佐方が「不破氏の理論は、実際には、天に唾をするもの」と痛烈に批判したことへの非難と報復措置だ。この程度の不破議長批判を討論集に「掲載したことは誤りだった」などとわざわざいうところに、共産党の議論の民主主義の欠如と官僚主義的運営が現われていると見てよいだろう。(鈴木史郎)
12・23全国集会への呼びかけ文
次期通常国会に上程されるといわれる教基法改悪案に反対して、十二月二三日午後一時から日比谷公会堂で全国集会が開かれる。以下は実行委員会の呼びかけ文。
教育基本法改悪に反対するすべてのみなさんへ
私たちは、今、大きな大きな岐路に立っているのではないでしょうか。
教育基本法という、準憲法的な役割を果たしている法律が、現在提案されている方向で改悪されるならば、教育は、国民の権利としての教育から、国家の統治のための教育へと大きく逆転させられるでしょう。すでに現実の状況はかなり深刻なところまできています。しかし、教育基本法そのものが改悪されるならば、根本的に、最終的に、平和、民主主義、個人の尊厳など、私たちが大切にしてきたものを主張する根拠を失うことになります。
そしてそれは、教育の問題にとどまるものではなく、国民投票で憲法「改正」ができる国民づくりのための周到な準備でもあるでしょう。つまり、教育基本法改悪は、九条を含めた憲法「改正」に直結しているのです。
私たちの生活は、子どもも大人も、考えている暇もない、考えていても行動に移す時間や気カがない、など余裕を失った過酷な状況です。けれど、この状況をもっと悪くしてしまわないために、ものが言えなくさせられる前に、今、この国の将来を大きく決定する教育基本法改悪を、全カで阻止すべきではないでしょうか。これは、教育を問う重要な問題であり、それは同時に、人間の尊厳を問う闘いだと私たちは考えます。
評価や処分や過重労働で教育と生活を脅かされながら、服従させられていくことに不安や苛立ちを感じている教師のみなさん、子どもたちをこれ以上、気が休まる間もない差別競争に追い込みたくないと思うみなさん、学校や人間関係でへとへとの子どもたちに、「明るく、素直に、正直に」を強要することに疑問を感じるみなさん、少年犯罪が起こるたびに胸を痛め、「でもそれは、子どもだけが悪いのだろうか」と感じているみなさん、子どもに「奉仕活動」を強制し、人権なき「道徳教育」「心の教育」を施し、国の歴史を直視することなく「愛国心」教育をすることに恐れを感じるみなさん、新自由主義的「改革」やグローバリゼーションの名のもと、さらに人間性が剥奪されていくのではないかという危倶を抱くみなさん、マイノリティの無視・排除に苦しんでいるみなさん、国家が「良心の自由」「思想・信条の自由」「宗教の自由」を侵して、国民のあるべき「心」を要求してくることに耐えられないと感じるみなさん、そして、この国を「戦争ができる国」にしてはならない!と者えるそれらすべてのみなさんに呼びかけます。
私たちは、今年の八月九,一〇日、「夏の全国合宿in名古屋」に、様々な団体の枠をこえて、改悪阻止!の一念で集まりました。これまで受けてきた教竜に疑問を感じてきた高校生や大学生、教師、弁護士、在日コリアン、「障害児」の母、子どもの人権や平和運動に取り組んできた人々、痛切な戦争体験を経てきた方など、ほんとうに多様な人々が出会い、現在進められている教育基本法改悪を阻止するためには、今、何をしなければならないのか、熱い議論がかわされました。
その結果、この合宿参加者の総意として、12月23日、今までで最大規模の全国集会を開催して、改悪反対!の意思を示そう!ということになりました。まずは、その12・23集会に、ぜひ、みなさんのご賛同、ご参加をいただきたいのです。
さて12・23全国集会を開くに当って、私たらは一つの提案をしたいと思います。それは、当日参加できた人たちだけでなく、全国での取り組みを大きな川の流れのようにつなぎ合わせ、そのすべてを12・23集会に重ねていきたいということです。集会や学習会を開く揚所や団体や人数が違っても、思いは一つです。そのことを、はっきりと形にしてみせたいのです。
具体的には、各地の集会、学習会の参加者の方たらに、この大きな運動の流れについてお知らせ下さい。そして、一同でも有志でもかまいませんので、12・23集会に連帯しているという気持ちの表明をして下さい。そのために、同封の「連帯表明シート」Tに集会のタイトル、開催地、参加人数、そして熱いメッセージを書いてお送り下さい。可能であればこれまでに関かれた集会からの連帯もお知らせ下さい。連帯の人数をどんどん足していき、みなさんから寄せられた大切な意思表明を、12・23の日まで、積み重ねていきます。全国でわき起こる教育基本法改悪反対の思いを、カウントアップしていきましょう。
今、大き昼大きなうねりが目の前にできつつあります。
12・23集会への個人・団体での賛同と連帯を、心からお願い致します。
二〇〇三年九月二二日
呼びかけ人
大内裕和
小森陽一
高橋哲哉
三宅晶子
図書紹介
在日からの手紙
姜尚中 内田雅敏
発行・太田出版 B6版 160頁 762円
「個人史」の記述が、時にはその領域にとどまらず「時代史」となる場合がある。
本書は姜尚中と内田雅敏という二人の「特異な存在」によって語られた「ふたつの個人史」をベースに、同時代を語りあいながら鋭く分析したものだ。
「特異な存在」といったが、姜は一九五〇年生まれの在日二世の韓国人。在日韓国人学生運動を経て、西ドイツに留学し、政治学で国際基督教大学教授、東京大学教授。国際問題の先鋭で緻密な政治評論家として現在、活躍中だ。
内田は一九四五年生まれて、日韓条約反対運動や全共闘運動を経て、七五年に弁護士となり、以降、人権派弁護士として活動しつつ、市民運動の現場にも積極的に加わってきて、現在も活躍中だ。両人ともさまざまな著書がある。
こうした人物が語る個人史だけに、個人史の領域にとどまらず、日本に
おける戦後の民衆運動、とくに七十年代の運動を、内田は新左翼運動の周縁や日本の民衆運動について、姜は在日の学生運動や在日全体のおかれた問題について語り、それが現代史の側面を二つの視点からいきいきと切り取って見せてくれる。
特に在日の姜尚中の個人史は、それだけでも歴史の証言として貴重なものがあり、それを出版物の上に引き出した内田の功績は評価されてよいだろう。表紙や中扉に掲載された数枚の写真も貴重なものだ。
おもしろく読むことのできる本だが、内容は決して軽くない。ぜひ一読をすすめたい本だ。
同時代を、また別の流れのなかで生きてきた者として、あえて指摘するとすれば、歴史への立ち向かい方の方法論の問題で異論はある。それは、ところどころに現在の認識の到達点、その高処(たかみ)から、歴史的な条件、制約から来る限界を押さえないままに過去の運動の弱点を断罪しているところが見受けられるのではないかという問題だ。(S)
複眼単眼
石原慎太郎知事の暴言・妄言とパフォーマンスばかりの都政の無策
東京都知事の石原慎太郎の暴言・妄言がつづく。不思議なもので、こうした極度にデタラメな発言がつづくと「石原知事のことだから何か深謀遠慮があるに違いない」とか「策略だろう」とかいう穿った議論が横行するが、この人物には実際にはそうしたものはほとんどないのではなか。彼は思想的に浅いものしか持っていない上に、思い付きをすぐ口にするから暴言がつづくだけのことだ。右派マスコミがこれに飛びついて石原の虚像を作り上げる。石原はしきりに「硬派」や「強さ」を演出するが、性格や内面での実態はそれとは異質な、神経質なものがあると息子たちの回想談などでしばしば聞く。息子といえば、長男の伸晃(国交相・八区)につづて、三男の宏高も東京三区から初出馬する。息子たちと石原新党でも立ち上げるつもりか。他の議員がやったら石原は悪態をつくだろう。
二日に開かれた自民党都連の政治資金パーティで発言した彼は「(総選
挙後の)三年間で自民党がするべき仕事は憲法改正でしょう」と述べた。先の爆弾テロ容認発言の際の「曽我さんのおかあさんはすでに殺されている」という発言でひんしゅくを買って謝罪したばかりなのに、五日の自衛隊観閲式でまた「百五十人近い同胞が拉致され、たぶん殺害もされた」とまた口をすべらせた。
そして自衛隊員を前に「(北朝鮮問題が)もつれでもすれば、どういうことが起こるか。私たちは、今、この時点で努力も準備もし、周到な態勢というものをとっていかなくては」と北朝鮮敵視政策を扇動した。
六日の「産経新聞」の連載「日本よ」では東京の排気ガス公害は、あたかも「美濃部都政によって主要環状道路の建設が中断されたままだ」から生じたのだというシロとクロを逆にするようなデマ発言をしている。この男はかつて都知事選挙で美濃部氏に敗れた腹いせをしばしばこういう形でやる。
石原都政について作家の佐野真一氏は次のように語っている(「東京新聞」三日付「ギャンブル都政の石原都知事 打った政策スカばかり」)。
「石原氏が打ち出している政策は、目新しいようでいて、実は彼自身によるオリジナルなものは何もない」「(一連の暴言は)まりにも下劣な彼のメンタリティが露出した」と。たしかに石原はいまパフォーマンス的に「ディーゼル車排ガス規制」を実行しているが、この間の石原が打ち上げたいくつかの人気取りのための新政策は、お台場カジノ構想も、外形標準課税(銀行税)も、新都市銀行設立構想も、失敗したか、つまずいている。今度は「東京ドームで競輪を開催する」といって地元文京区民の猛烈な反発を受けている。いまや「都市博を中止させた青島前知事のほうがまだいい」という声まで上がってきはじめた。 (T)