人民新報 ・ 第1115 号<統合208号> (2003年12月5日)
目次
● いまこそイラク派兵の中止を 世論の支持を背景に街頭で訴えを
● 首相は外交官の死を重く受け止め、派兵計画を即刻中止せよ 緊急衆院議面集会・首相官邸前抗議行動
● 自衛隊はイラクへ行くな!殺すな!殺されるな! 11・24行動
● 自分たちと同じ苦しみをアフガニスタンやイラクの罪なき民衆に味わわせてはならない
9・11牲者遺族の会「ピースフル・トモロウズ」のディビット・ポトーティさん
● イラクでの日本外交官の活動について 奥克彦参事官の「イラク便り」を読んで
● 日本ペンクラブ 「自衛隊のイラク派遣に反対する声明」
● 国労本部は臨時大会を開いて事態を説明せよ 臨時全国大会の早期開催を求める要請書
● 映画評 / アイ・ラブ・ピース ( 監督・大沢豊 )
● 詩 イラクヘ遣(や)られる自衛隊員に ―与謝野晶子の弟への詩にあやかって / 薄羽蜉蝣
● 戦争の悲惨さを語り継ごう わだつみ会機関誌『わだつみのこえ』
第119号
● 複眼単眼 / 安易で危険な国民投票法論
いまこそイラク派兵の中止を
世論の支持を背景に街頭で訴えを
動揺重ねる政府
十一月二九日、イラク北部の幹線道路を走行中の駐イラク日本大使館関係者三名(日本人二名、イラク人のベテラン運転手一名)が銃撃され、死亡するという事件が起こった。これは米軍のイラク攻撃以来、初めて起こった日本人の犠牲者だ。彼らは同日、ティクリートで開催される予定の米英占領軍当局(CPA)の民主部門が主催する「イラク北部の復興支援プロジェクトの会議」に出席する予定だったという。
政府からは「痛恨の極み」「テロには屈しない」「自衛隊派遣は取りやめない」「悲劇のりこえ復興i線の初志貫け」などという声が相次いでいる。石原慎太郎東京都知事などは「自衛隊がもし攻撃されたら堂々と反撃して、せん滅すればいい。日本軍というのは強いんだから」(一日、都庁で)とまで言った。
これらの中で小泉内閣は八日ごろには「派兵基本計画」を策定し、形式的な「閉会中審査」を衆参両院で行い、派兵を実施に移す動きを強めている。
小泉内閣は米国当局の強硬な要請と、国内世論の反対の高まりの中で再三にわたって動揺を重ねてきたが、いまのところ、航空自衛隊の先遣隊の年内派遣を先行させ、旭川の部隊など陸上自衛隊本体の派遣は来年二月以降と考えているようだ。
米国の不法な戦争を支持した小泉政権の責任
日本人外交官二名の遺体の帰国などを通じて、「二人の業績をたたえ、遺志を受け継ぐ」などというヒステリックなキャンペーンが、二人の出身高校の生徒まで利用して、イラク派兵を正当化する狙いで始まっている。
だが、改めて考えてみたい。
第一に、二人の死は小泉内閣と外務省の指令の下での活動中の死だ。その最高責任は首相小泉純一郎にある。しかし小泉首相から責任者らしい発言は全くない。米国の不法・不当・無謀なイラク攻撃をいち早く支持し、占領を支持し、CPAに協力してきたは日本政府の責任が問われていだ。
「大量破壊兵器の危険」と「サダム・フセインの独裁政治からの民衆の解放」を掲げて、国際世論の反対を押し切り、一部の有志国だけを率いて攻撃に踏み切ったブッシュ政権は、いまや彼らの大義名分すら完全に破綻している。この戦争を支持した小泉内閣の責任は重大だ。
CPAはイラク民衆の怨嗟の的
第二に、米国は五月に戦争終結宣言をしたが、イラクの人々の反撃はやまず、拡大・激化してきた。米軍は無差別爆撃を再開し、掃討作戦を強化せざるを得なくなった。その結果、民間のイラク人に多大な被害を与え、民衆の反発が高まっている。バグダットから日本のNGOに来たメールには「米国の侵略を支援するためにイラクへ日本の軍隊が来るというのは、私たちにとって恐ろしいニュースでした。私たちはサダム・フセインを支持したことはありません。しかし、米軍は単なる武装した強盗です。彼らは毎日、イラク人を殺しています。イラクの普通の市民はだれもそれを支持していません。ますます多くの人々が抵抗運動に参加しています。彼らは旧体制の残党でも、テロリストでもなく、普通の人たちです」とある。
米国がいまイラクで戦っているのはイラクの人々によるレジスタンスであり、そのゲリラではないか。いまやCPAはイラクの民衆の怨嗟の的だ。小泉首相はこの占領政策を「イラク復興支援」の名の下に積極的に支持しているのだ。二人の外交官はイラクでCPAと密接に連携して外交活動をしていたのであり、この日もCPA関連の会議に出席する途中に襲撃されたことを忘れてはならない。
事件の直接の原因はイラク派兵の決定
第三に今回の事件は、自衛隊のイラク派兵計画という「イラクの人々にとっての恐ろしいニュース」なしには起こりえなかっただろうという問題だ。この点でイラク特措法を強行し、派兵を決定した日本政府には直接の責任がある。ただただ米国の要求に追随し、自らもイラクの石油などの「復興利権」を求めて、日本国憲法からみていかなる意味でも成り立たない重装備した自衛隊のイラク派兵を、強引な「論理」で正当化し、派兵の準備をしてきた政府の責任は重大だ。
日本はイラクの人々と戦うのか
第四に、「テロに屈せず、ひるまず」とばかりに、このまま自衛隊のイラク派兵に踏み切れば、自衛隊はイラクの民衆を殺し、またイラクのレジスタンスによって殺される事態が生ずるのはあきらかだ。「非戦闘地域への派遣」の物語は今日ではお笑い種だ。
そしてイラクの人びとによる反撃や、それに便乗したテロリストによる戦火が、日本国内をも含む世界的範囲で起こることをとめることはできなくなる。
私たちはテロには反対するが、イラクの民衆には抵抗権があり、自衛権がある。それが武装反撃になったとしても、責められるものではない。そうした事態をまねくとすれば責任の第一は米国政府と、自衛隊を派兵する日本政府にあることは明白だ。
世論はイラク派兵反対だ
いま、世論は政府の政策に強く反対している。各種の調査を見ても、「イラク戦争は間違いだった、イラクに自衛隊を派遣すべきではない」という意見が圧倒的多数を占めている。社民、共産両党だけでなく、民主党もイラク派兵に反対している。
この声に逆らってイラク派兵を強行する小泉内閣に反対する闘いを、いまこそ全力で強化しなくてはならない。
市民運動は全国各地、とりわけ派遣部隊に予定されている現地などで、連続的にさまざまな行動を展開している。政府への緊急抗議行動などだけではなく、与党・公明党への行動も起こしている。平和フォーラムも国会行動や派遣部隊の旭川現地などでの行動を入れ始めた。全労連系は一〇日に大集会を予定している。連合も十四日にイラク派遣反対の集会を開く。
いまこそ世論の支持を背景に、街頭に出て派兵反対の声を上げよう。知恵を絞り、さまざまな人々と共同して、緊急に小泉内閣批判の大衆行動を起こそう。
首相は外交官の死を重く受け止め、派兵計画を即刻中止せよ
緊急衆院議面集会・首相官邸前抗議行動
十二月一日正午から午後一時まで、「首相は駐イラク大使館関係者の死を重く受け止め、自衛隊の派兵計画を即刻中止せよ」という主旨で、緊急衆院議面集会と首相官邸前抗議行動が行われ、折からの雨の中にもかかわらず、一二〇名の市民や宗教者が参加した。
この日の行動を呼びかけたのは「戦争反対・有事をつくるな!市民緊急行動」「平和をつくり出す宗教者ネット」「平和を実現するキリスト者ネット」で、当日同時刻に行動を呼びかけていた他の市民団体も合流した。この行動が呼びかけられたのは前日の午後であり、まる一日もない緊急行動で、行動はFAXやインターネットで呼びかけられ、広がった。
駐イラク大使館関係者三名(日本人二名、イラク人一名)の銃撃による死亡事件に関して、政府は「ひるまない」とか「遺志を受け継いで活動する」「国際社会にたいする責任を果たす」などと強弁し、右派マスコミが「イラク派兵を中断すればテロリストの思うつぼだ」などと書き立てるなかで、「これ以上の犠牲者をだすな」「小泉内閣は全責任を負え」「派兵計画を即時中止しろ」などの要求を掲げた市民の緊急の行動が行われた意義は大きい。
十二時から開かれた衆院議面集会では、司会を「市民緊急行動」の高田健さんが行い、武蔵野市議の山本ひとみさんの経過報告のあと、「日本山妙法寺」の武田隆雄上人が主催者挨拶をした。また「在日韓国民主統一連合」の宋世一さんが「韓国でも派兵反対の世論が高まっている。軍人でも派兵を拒否して闘う人がでてきた」などを報告した。「ふぇみん婦人民主クラブ」の山口泰子さんも「自衛隊の派兵を許さない」決意を表明した。「市民緊急行動」の国富建治さんは、全国各地で市民が派兵を阻止するために闘っていることを紹介、七日の小牧基地闘争、二〇日の札幌での人間の鎖の行動などを紹介した。議面集会では共産党の高橋ちず子衆議院議員が挨拶した。
その後、ただちに首相官邸前に移動し、報道関係の注目の中、五枚の横断幕やさまざまな手作りのプラカードを掲げて抗議行動をした。警察がさまざまに行動を妨害したが、雨の中、予定通りに集会を続行した。発言したのは「基地はいらない・女たちの全国ネットワーク」の芦沢礼子さん、「平和遺族会全国連絡会」、「日本消費者連盟」の冨山洋子さん、「キリスト者平和ネット」の鈴木怜子さん、「宗教者平和ネット」の僧侶などで、最後に駆けつけた社民党の福島瑞穂党首も「派兵反対、行動する社民党としてがんばる」と発言した。集会は最後に「市民緊急行動」の八木隆次さんのリードで官邸に向かってシュプレヒコールを行った。その後、代表八名が総理府に入って抗議した。
自衛隊はイラクへ行くな!殺すな!殺されるな! 11・24行動
「自衛隊はイラクへ行くな!殺すな!殺されるな!11・24行動」による集会とデモが、二四日午後、渋谷の宮下公園で開かれ、約三五〇名の人びとが参加した。この日の行動は米軍のイラク占領がイラクの人びとの抵抗で泥沼化しつつあるなか、自衛隊をイラクに派兵することは許さないという決意を込めて行われた行動だ。
集会では沖縄から「平和市民連絡会」の豊見山雅裕さんが戦争反対の国際連帯の重要性などを訴える挨拶した。
この集会に寄せられた韓国とフィリピンの平和団体のメッセージが紹介された。
国内の団体からは女たちの戦争と平和人権基金の細井明美さんがイラク訪問の報告、戦争に協力しない!させない!練馬アクションの池田五律さんが自衛隊朝か駐屯地での日米共同軍事演習に反対する一・一八集会の呼びかけ、許すな!憲法改悪・市民連絡会の土井登美江さんが憲法改悪に反対し、9条を守り、平和のために生かす署名運動の提起などをした。
小牧基地で自衛隊派遣反対運動に取り組んでいる愛知の「有事法制反対・ピースアクション」と北海道で自衛隊をイラクに送らない運動をしている「ほっかいどうピースネット」からの連帯のメッセージも紹介された。
集会後、参加者は渋谷の繁華街をイラク派兵反対を訴えてデモ行進をした。
以下、豊見山さんの発言要旨。
先日、ラムズフェルドが沖縄に来ました。私たちは今日のイラクの状況を作り上げた張本人の彼に対して、抗議の行動をしました。イラク侵略をした米国も英国も、いま重大な危機に陥っています。安泰なのは小泉政権だけで、これは私たちに大きな責任があります。私たち沖縄平和市民連絡会はイラクに代表団を送りました。私たちは米国の戦争はとめられなかったが、イラクからの医薬品のSOSに対して、再度、訪問団をおくり、届けました。大海の一滴に過ぎないけれども、こうした行動を続けたい。いま、再度、仲間がイラクに入っています。いまイラクの人々は占領に反対して闘っているし、これは当然の権利だ。そういうなかで自衛隊がイラクに行くことは私たち市民がイラクの人々と作り上げてきた信頼関係をを壊すことになります。マスコミは米兵が殺されたことは報道するが、その何倍ものイラクの人々が殺されていることは報道しません。私たちはそういう情報をきちんと把握しなくてはならないと思います。
私たちは韓国の米軍基地撤去闘争とも交流を強めています。韓国と日本の両方で米軍基地の再編強化が行われています。これを許すことはアジアと世界の人々の命を奪う基地を作らせることになります。これをとめるために闘いたいと思います。そのためには国際連帯の闘いが重要だと思いました。この間、私たちは韓国、フィリピン、インドネシア、台湾、プエルトリコ、ビエケスの人々と交流してきました。これらの人々とお互いが顔の見える関係を築いて行きたいと思っています。そして本土のみなさんとの連携が重要だと思っています。ともに協力して闘いましょう。
自分たちと同じ苦しみをアフガニスタンやイラクの罪なき民衆に味わわせてはならない
9・11牲者遺族の会「ピースフル・トモロウズ」のディビット・ポトーティさん
米国9・11犠牲者遺族の会「ピースフル・トモロウズ」の共同代表のディビット・ポトーティさんを招いた集会が十一月二八日夜、東京都内で開かれ、三五〇名の市民が参加した。
集会はキリスト者や、知識人、市民運動家などで作られた実行委員会が主催した。この集会の後、ポトーティさんは韓国のソウル市で講演をした。
ピースフル・トモロウズは9・11以降、「自分たちと同じ苦しみをアフガニスタンやイラクの罪なき民衆に味わわせてはならない。わたしたちの家族の死を相互人間性という新しいパラダイムの新生に変容させる機会にしなければならない」という信念のもとに、全米を駆け回って軍事力による報復攻撃に反対して活動してきた。
9・11以降、米国社会を覆った熱病のような報復攻撃支持と「愛国運動」の中で、迫害を跳ね返して闘ってきたピースフル・トモロウズと日本の平和運動との連帯の意味は大きい。ピースフル・トモロウズは昨年八月にはリタさん、十月にはライアン君が来日し、日本の平和運動の中に大きな足跡を残しているが、今回は日韓連帯しての取り組みであり、また意義深いものがあった。
集会では日本キリスト教協議会の小笠原公子さんが司会を行い、大韓川崎教会青年有志による「平和のパフォーマンス」のあと、ポトーティさんの講演があった。
リレートークはこの日のために韓国から駆けつけた「生命と平和大学院院長」の金容福さん、作家の中山千夏さん、東大教員の高橋哲哉さんだった。
ポトーティさんの講演要旨は以下のとおり。
二年前にワシントンDCから「テロで愛する人々を失ったことは悲しいけれども、その死を利用して、その名においてアフガニスタンの人々を爆撃することには断固として反対する」というデモをやりました。
9・11で死んだ私たちの愛する人々の死は世界で毎日殺されているたくさんの人々の一部に過ぎないと思います。軍隊は私たちを守ってくれない。そうであるなら、私たちはともに生きるしかありません。私たちは「米国は善良で強大な国家だ」という妄想を捨てなければならない。米国人の多くは恐怖に支配されているために、こうした考えに立てませんでした。そしてアフガンへの爆撃を支持し、「愛国法」を支持し、不法なイラク爆撃を支持しました。
恐怖と不安による暴力で報復することで、更なる恐怖と不安、暴力を生み出しました。
しかし、この間、私たちの言葉と思想には力があることも学びました。人間的になることで、弱さをさらけ出し、手を取り合うことで、大きな力が生まれることも知りました。
私の母は事件の直後に「息子の死で、私がいま味わっている悲しみを世界の他の人々に決して味あわせたくない」といいました。
彼女は世界の人びとの悲しみに目を向けることで、自分の悲しみを癒したのです。この訴えを広げる中で、同じように考えるピースフル・トモロウズの他のメンバーと知り合いました。
私たちは、どんなときでも、どんな理由があっても、殺戮はいけないということを学びました。私の国がアフガニスタンやイラクにやっていることはあの国にも、また攻撃した側の米国の兵士にも一〇年も、二〇年も後遺症を残します。
彼らは怒りを体の中に抱え込んで生きていくのです。
原爆については米国では抽象的に扱われていて、それが人類にもたらした影響などについては考えていませんでした。被爆者の会の人びとにあったときに、被爆者が人類全体の問題として原爆を考えているのを知って感銘しました。
テロは本当の問題の現象にすぎません。私たちが本当に闘うべきものはテロではなくて、帝国主義だとか、物質主義だとか、軍事主義、愛国主義、そして自分の命は他のものよりずっと価値があると考えるような思い込み、それらと闘わなくてはなりません。
私たちは立ち上がらなくてはなりません。自由とは選択です。
歴史は悲しみに満ちたものではあるけれど、私たちが立ち上がれば歴史に息を吹き込むことはできます。手をとりあって、仲間同士のつながりによって、軍事主義を阻止することができます。それがピースフル・トモロウズの使命です。みなさんが私たちとともに仲間に加わってくれることをねがってやみません。
イラクでの日本外交官の活動について
奥克彦参事官の「イラク便り」を読んで
十一月二九日、イラクで殺害された日本外交官はどんな「任務」を行っていたのだろうか。報道では、事件当日はティクリートで開かれる復興支援会議出席とイラク北部対象の政府開発援助(ODA)の事前調査を行う予定だったという。
死亡した二人のうちのひとり在英日本大使館の奥克彦参事官は、外務省のホームページの中にある「省員近思録」で「イラク便り」を連載していた。奥参事官は、「在英国大使館。CPAを通じた人的協力に参画中」と紹介されている。CPAは連合国暫定当局などいろいろな訳があるが、要はアメリカによるイラク占領統治機構である。
奥参事官は、一一月一三日付けの「イラク便り〜テロとの闘いとは〜」で、イラク南部のナーシリーヤに展開しているイタリア国家警察部隊が自動車爆弾テロに襲われ多くの死者を出したことについて書いている。「現場を見るために早速ナーシリーヤに向かいました。……これはテロとの闘いです。二〇〇一年九月一一日にアメリカ人だけでなく多くの日本人もアル=カーイダのテロの犠牲になり、私たちはテロとの闘いを誓ったのですが、ここイラクでもテロリストの好きなままにさせるわけにはいきません。地元の人に尋ねてみると、確たる証拠はないのですが、このような民家に囲まれた場所に自爆テロを仕掛けるなどというのは、到底イラク人のやることではないと皆言います。犠牲になった尊い命から私たちが汲み取るべきは、テロとの闘いに屈しないと言う強い決意ではないでしょうか。テロは世界のどこでも起こりうるものです。テロリストの放逐は我々全員の課題なのです」と「テロ」との闘いを強い調子で述べている。
また、九月七日付けの「イラク便り〜岡本総理補佐官イラク再訪〜」では、「今度は、イラクの国内事情をより多面的な視点から把握することを目的とする訪問です……現地のイラク人による市評議会(市議会に相当する組織)と各地のCPA調整官、それに軍の司令部を訪れて、イラクの復興がどの程度進んできたのか、緊喫の問題は何か、治安状況はどうか、など様々な角度から現状を把握して小泉総理に報告するのが目的です」と、岡本補佐官の訪問が主にアメリカ占領軍との話し合いによる現地の軍事・治安情勢の調査であり、自衛隊派兵の条件整備の一環であることをあかしている。奥参事官は、軍事・政治・経済すべてにわたる「テロとの戦争」の重要な一翼を担当していたのだ。
政府や産経、読売などの一部右派マスコミは、自衛隊がやろうとしていることは水の浄化などの人道支援であると言っているが、軍隊が派遣されることは、小泉政権のブッシュへの忠誠の証であり、アメリカによるイラクへの戦争と支配の不可欠な構成要素なのである。
小泉首相は、「非戦闘地域もある」、「攻撃される可能性はあくまでも可能性だ」などと強弁して、自衛隊派兵を準備してきたが、ここにいたって重大な困難に直面するようになった。イラクに非戦闘地域などないのだ、攻撃される可能性ではなく現実となったのだ。
アメリカ・ブッシュ政権のイラク侵略戦争強行は、フセイン政権の大量破壊兵器の保有を口実にしたものであった。それはウソであり、英米政権によって大々的に情報操作がなされていたものだということが否定できなくなった。「フセインが倒れてイラクは民主化された、イラク民衆は喜んでいる」というお話も空語化している。五月の段階で、ブッシュ政権は「勝利」宣言をおこなったが、それも粉砕されてしまった。そもそもアメリカが戦争の相手としたイラク・フセイン政府は「降伏」宣言をしていない。戦争は大規模戦闘からゲリラ戦に移っただけだ。戦争が終わっていないのだから、すでに占領統治の段階に移ったというのも正確ではない。こうした戦争が継続している状況で、日本の外交官は、奥参事官自らが述べているようにCPA=アメリカの側にたって「反テロ戦争」に従事しているのである。
自衛隊のイラク派兵は、いっそう日本がイラクをはじめ中東各国の民衆に敵対する立場を鮮明にすることだ。派兵を絶対に許してはならない。(MD)
日本ペンクラブ
「自衛隊のイラク派遣に反対する声明」
われわれ日本ペンクラブは、平和を愛し、言論表現の自由と人権を守る立場から、これまでいくたびも、米英軍の対イラク戦争に反対し、米英軍を支援する日本政府に抗議する声明を出してきた。
しかるに、小泉政権と政府与党は、日米同盟重視を理由に、アメリカ政府の要請に応じて、近々イラクへ自衛隊を派遣しようとしている。
われわれ日本ペンクラブは、そうした小泉政権と政府与党に対し、深い憤りをもって抗議するとともに、自衛隊をイラクへ派遣しないよう要求する。
もとより、われわれ日本ペンクラブは、米英軍のイラク戦争に反対するからといって、人々を恐怖政治で支配していた旧サダム・フセイン政権を擁護する立場ではないし、また過激派の無差別テロには絶対に反対である。
そもそもイラク戦争はアメリカが世界の世論を無視し、国連安保理の同意を得ずに強行した無法な戦争である。戦争の「大義名分」にされた大量破壊兵器も見つかっていない。しかも、現在イラクは米英軍の占領下にあり、どこもかしこも戦場である。そのイラクへ自衛隊を派遣することは、イラクの「復興支援」にはならず、米英軍の占領統治を「軍事支援」することにほかならない。イラク人から自衛隊は米英軍の一翼を担う部隊と見なされ、必ずやイラクの武装勢力から攻撃されることになるだろう。
いまや政治家ひとりひとりの良心が痛切に問われている。
小泉政権や国会議員諸氏は、そういう事態が起こるのを知りながら、あえて日本自衛隊の若者たちをイラクの戦場へ派遣し、血を流させるつもりなのか?
われわれは、イラクの復興と統治は米英軍によらず、国連の支援の下、イラク国民自身の手によってなされるべきであると考える。
暴力とテロの応酬からは、決して平和は生まれない。日本政府は自衛隊をイラクに派遣して、火に油を注ぐよりも、真に友人であるならば、アメリカ政府を説得してその矛を収めさせ、暴力とテロの連鎖を断ち切るように訴えるべきである。ベトナム戦争のように泥沼化する前に、アメリカは早急にイラクから軍隊を撤退させ、国連主導の復興に譲って、即時、イラク国民に主権を返すよう説得すべきではないか。
敗戦後、われわれ日本国民は、他人の不幸の上に自らの幸福を作らない、二度と再び若者を戦場に送らない、と誓ってこれまで歩んできた。日本が敗戦により平和を得てから半世紀以上、日本の軍隊を海外に派兵することなく、武力を使って他国を侵略せずに今日まで来たことを、われわれは誇りに思う。
日本ペンクラブは、小泉政権と政府与党が国民を二度と再び戦争に駆り立てないことを国民に誓い、イラクへの自衛隊の派遣を取り止めるよう、強く要求する。
二〇〇三年一一月二六日
社団法人 日本ペンクラブ 会長 井上ひさし
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