人民新報 ・ 第1121 号<統合214> (2004年2月5日)
  
                  目次

 ● 全力でイラク反戦の声を拡大しよう

 ● 自衛隊のイラク派兵に勢いを得たように噴出する改憲論  反撃しながら広範な連携をつくろう

 ● 戦争のできる国をめざす改憲を許すな! 「憲法改正国民投票法案」に反対して院内集会

 ● 平和フォーラムが自衛隊派兵反対で連続行動

 ● イラク派兵承認の動きに抗議して、市民・宗教者が議面集会

 ● 陸自第11師団長の発言に抗議する   ほっかいどうピースネットが陸上自衛隊第11師団に抗議の申し入れ

 ● 話し合うことが罪になる!  共謀罪新設に反対しよう

 ● 超大国アメリカの持続可能性(サステイナビリティー) C   関 考一

 ● 「経済制裁法案」(外国為替法改定案、特定外国船舶入港禁止法案、再入国禁止法案) に反対する

 ● 書 評  / 「イラク 戦争と占領」   酒井啓子

 ● 複眼単眼  / 小泉純一郎の豹変  恥じらいのない困った人物




全力でイラク反戦の声を拡大しよう


 一月二五日、「ワールド・ピース・ナウ(WPN) もう戦争はいらない 私たちは自衛隊のイラク派兵中止を求めます」行動には六〇〇〇人が参加し、イラク反戦のアピールを行った。
 会場の日比谷公園野外大音楽堂には、市民団体、労働組合の色とりどりの旗が林立し、見るみるうちに会場は埋めつくされた。会場外にも多くの人びと。
 プレコンサートは、『輪』の演奏、桃色ゲリラ、遠藤文規子さんの舞踏、アラブ楽器のカーヌーン演奏などで会場の雰囲気を盛り上げた。
 主催者を代表してWPNの富山洋子さんが、国家の命令で殺し殺されることに反対し、イラク反戦、憲法改悪阻止の大きな運動をつくり出して行こうとあいさつした。
 つづいてピースフル・トゥモローズのロバート・ダウさんが発言(ピースフル・トゥモローズは、9・11事件の被害者の家族を中心に悲しみを平和のための行動に変えようと運動をつづけている。現在、約一〇〇家族と二〇〇〇人以上のサポーターが活動している。ダウさんは9・11でパートナーのルース・ケトラーさんを喪った。)
 私たちは、9・11で愛する者をうしなった。私たちは、テロリズム、憎しみ、恐怖、差別、貧困のすべてに反対している。テロは憎むべきものだが、それに反対すると言っている戦争はもっと大きな犠牲と悲惨をつくり出している。問題は戦争でなく非暴力の手段で解決されなければならない。私たちは9・11で亡くなった人たちの名によって行動しているが、これを名誉なことだと思っている。一月一九日は、アメリカでは故マーチン・ルーサー・キング師の日だ。彼は「戦争は平和な未来をつくるにはお粗末な道具だ。平和的方法で平和な明日を追求しなければならない」と言っていた。その一九日、アフガニスタンではタリバン攻撃のアメリカ軍によってまったく関係のない一一人のアフガン人が殺された。反テロ戦争の名目で罪のない人が大勢殺されている。昨年のルースの命日にニューヨークのグランド・ゼロに行ってきた。悪夢が甦ってきた。灰が何インチにも積もり風に舞っていて、私もその灰を吸い込んだ。しかし希望の息吹も吸い込んだ。私たちピースフル・トゥモローズは、平和のために歩き続けていくつもりだ。
 つづいて上原公子国立市長、自衛官と市民をつなぐ人権ホットラインほっかいどうの坪井主税さん(札幌学院大学教授))が発言し、写真家の豊田直巳さんがイラク現地報告をおこなった。
 集会を終わってパレードに出発、大勢の人で賑わう銀座で、イラク反戦、自衛隊派兵反対を訴えた。

 夕方からは「ワールド・ピース・ナウ」行動に参加した人を中心に、公明党本部へ派兵反対の申し入れ行動が行われた。手に手に花を持って、信濃町の公明党本部前に到着。申入書を読み上げる。
 「公明党の皆さん、平和憲法、九条の理念にどうかもう一度立ち戻って下さい。半世紀前に断ち切ったはずの戦争の道に、私たちを連れ戻さないでください。イラクに派遣している自衛隊をただちに呼び戻し、国際平和のための本当の政策を、私たちとともに考えましょう。戦争への道をいっしょに止めましょう」。
 最後に、職員に申入書と花を渡し、派兵反対を強く要請した。


自衛隊のイラク派兵に勢いを得たように噴出する改憲論

     反撃しながら広範な連携をつくろう

     @

自衛隊のイラク派兵は現行憲法下での始めての海外戦時・戦場派兵であり、平和憲法の枠を大きく踏み越える事態、日本の「戦争遂行国家」への変質を開始したものとなった。この動きに触発されたように永田町では改憲論がいっせいに噴出してきた。
小泉純一郎首相・自民党総裁の改憲案準備指示と自民党大会、民主党の党大会での菅代直人表の発言とその後の民主党の動向、公明党の神崎武法代表の憲法関連発言など、各党のトップが相次いで憲法「改正」に言及した。このようにして国会の八〜九割の議席を占める諸政党の中で改憲が論議されている状況は実に危険極まりない。
しかし、同時にこれらの諸党の間では改憲の中身や手順、時期についての見解はまちまちで、矛盾も小さくない。九条改憲を阻止するための闘いは今からだ。

     A

自民党は昨年末の衆院選のマニフェストで、〇五年十一月の結党五〇周年までに改憲草案をまとめると公約し、一月の同党大会では「草案を公表したあと、全国で公聴会を開き、国民的議論を深める」などと改憲を積極的に進めるとした。
小泉首相は「戦力がない自衛隊というのはおかしい」「(集団的自衛権の行使の容認も)一つの焦点になる」などと自らの憲法遵守義務を破る発言を繰り返しながら、「(自民、民主)両党が協力して、改正を現実のものにしていきたい」などと、改憲への意欲を表明している。
 日本版ネオコンとも言われる安倍晋三自民党幹事長は、現行憲法は全面改訂、白紙から書くべきだと述べ、しかし「いざ具体的なスケジュールとなると難しいので」、集団的自衛権の行使は国会決議による解釈見直しで可能だなどと暴論を展開している。

     B

これらの動きに押し出されたように、かつての社会党に代わり国会の議席の三分の一を超える議席を持つ民主党の菅代表は、「市民革命に代わる幅広い憲法制定運動が必要だ。『創憲』を主導していきたい」として、憲法公布六〇周年の〇六年までに民主党の独自案の集約を表明した。
 菅代表は第九条の改正に直接は触れていないが、国連待機部隊の検討など、事実上、九条改憲に触れる発言をしている。
一方、同党の鳩山由紀夫前代表は中曽根康弘元首相を勉強会に招き「うちの代表のように自衛隊と別組織を設けるという意見もあるが、憲法改正すればそれは必要ない」「自民が来年に憲法改正案を作るなら、それに遅れをとるべきではない」などと発言、自民党に寄り添って民主党の改憲論議を主導しようとしている。

      C

先に「加憲論」をうち出した公明党は、本年十一月の党大会での意見集約を目指して、憲法論議を始めた。神崎代表は自民、民主での改憲論に呼応するかのように「タブーを設けることなく、柔軟な発想で議論を」とよびかけ、従来の同党の「9条は現状のままにしていじらない」という路線から一歩踏み出した。同党内では赤松正雄憲法調査会委員のように9条に国際貢献を加える「加憲」論もでている。
しかし、同党の支持母体の創価学会では改憲への警戒心は根強く存在し、有志による「イラク戦争に反対し、平和憲法を守る会」などの署名運動のような動きもある。
これらの流れを受けて憲法調査推進議員連盟(改憲議連)は「国民投票法案」と「国会法改正案」をこの国会に出そうとしている。世論の抵抗のなかで、公明党がいまのところ今国会採択に消極的だが、予断を許さない情勢だ。
衆院憲法調査会の中山太郎会長は「戦後の国政におけるイデオロギー対立の時代が変わってきた。第一に代わったのが共産党で、天皇制を当面認めると言い出した。……調査会内では自衛隊の存在を憲法違反だという議論はない」「私が接触している民主党の若手は、憲法改正に全面的に前向きだ。……解釈改憲が一番危険だ。国民がみて納得できる憲法が必要だ」「手続き法はたとえあえ意率せず、継続審議になっても出すべきだ」などと、調査会のスピードアップと来年度には改憲発議を可能にする機関、特別委員会の設置と、これをサポートする憲法調査会の継続などの意見を述べている。

      D

これらの流れをみすえ、当面、憲法違反の最たる課題でもあるイラクへの自衛隊派兵に反対する世論を盛り上げ、小泉内閣を追い詰める必要がある。マスコミによる現実主義の煽動で派兵容認の世論も増えているようだが、これは不安定だし、反対は依然多数だ。この闘いの高揚と、有事関連七法案を阻止する課題、および憲法改悪のための手続き法案を阻止する課題、そして憲法改悪を許さない課題は不可分の関係にある。
すでに二〇〇四年五・三憲法集会実行委員会から「憲法改悪に反対し、9条を守り、平和のために生かす」全国署名運動が提起されている。これを職場や地域、街頭で広め、その過程で共同の輪を広げることが必要だ。


戦争のできる国をめざす改憲を許すな! 「憲法改正国民投票法案」に反対して院内集会

 自民党や民主党などの動きによって憲法「改正」の動きがあわただしくなる中、「『憲法改正国民投票法案』に反対する院内集会」が一月二三日午後、衆議院第二議員会館で開かれた。
 主催したのは、許すな!憲法改悪市民連絡会や憲法会議など、憲法関連の八つの団体が事務局を構成する「二〇〇四年五・三憲法集会実行委員会」で、当日は一五〇人を超す市民と国会議員が参加した。
 集会の司会は「女性の憲法年連絡会」の堀江ゆりさんと「許すな!憲法改悪・市民連絡会」の高田健さんが行った。
 実行委員会を代表してキリスト者平和ネットの糸井怜子さんが挨拶した。糸井さんは「国会の審議が我慢ならないほどに悪くなっていること、イラク反戦の世論を起こし、改憲のうごきに歯止めをかけたい」と述べた。続いて社民党から土井たか子前党首、共産党から小泉親司参議院議員がそれぞれの党を代表して挨拶した。ほかに共産党の宮本岳志参議院議員、社民党の福島瑞穂党首、山本喜代宏衆議院議員も挨拶した。
 講演は「憲法改正国民投票法って何?」と題して隅野隆徳(専修大学教授)さんがお話しし、質疑応答の後、憲法会議、憲法を愛する女性ネット、女性の憲法年連絡会、キリスト者平和ネット、憲法を生かす会、許すな!憲法改悪・市民連絡会からの発言があり、最後に決議(別掲)を採択した。

決議・憲法改悪のための「国民投票法案」に反対します

 自民党は今度の通常国会に、「憲法改正国民投票法案」と改憲案発議の手続きを定める「国会法改正案」を握出しようとしています。この両法案は、憲法第九条をはじめとする日本国憲法の改悪にいっでも着手できるようにするためのものであり、私たちは強く反対します。
 自民党は、「憲法が予定している法律をこれまで制定してこなかったのは政治家の怠慢」と言っていますが、国民の中にいま急いで改憲手続き法を作れという声はありません。法案提出の本当の意図は、小泉内閣が有事法制の制定や自衛隊のイラク派兵、国民の生活と権利の侵害など憲法を踏みにじる政治、とりわけ第九条を破壊する政策を進め、さらに本格的に「戦争のできる国」をめざして憲法の改悪に突き進もうとしていることにあります。小泉首相が自民党に「〇五年一一月までに改憲案を作れ」と指示し、先の総選挙で「憲法改正」を公約に掲げた動きと密接に連動していることは明らかです。 
 自民党が提出しようとしている法案は、二〇〇一年一一月に憲法調査推進議員連盟(「改憲議連」)がまとめた「憲法改正国民投票法案」と「国会法改正案」を基本にすると言われています。その「国民投票法案」は、国会による改憲案の発議から六〇〜九〇日間で国民投票という短期間に限り、復数の条項を変えるときも賛否を一括にするか条項ごとにするかを国会の多数決にゆだね、承認に必要な「国民投票の過半数」(憲法九六条)を「有効投票の過半数」に狭め、改憲案に対する開かれた批判・検討は封じるなど、改憲に有利な条件がいくつも盛り込まれています。
 私たちは、日本国憲法とくに第九粂を守り、生かす立場から、憲法改悪手続き法案の国会上程に強く反対します。

二〇〇四年一月二三日

 憲法改悪阻止各界連絡会議/「憲法」を愛する女性ネット/憲法を生かす会/市民憲法調査会/女性の憲法年連絡会/平和憲法21世紀の会/平和を実現するキリスト者ネット/許すな!憲法改悪・市民連絡会


平和フォーラムが自衛隊派兵反対で連続行動

 一月二六日、政府はイラクへの陸上自衛隊派遣を正式決定した。同日昼、平和フォーラム(フォーラム平和・人権・環境)は衆議院第二会館前で「もう戦争はいらない!自衛隊イラク派兵にNO〜国会前集会」を開催した。集会には、自治労、日教組、国公総連、東水労などの組合員二〇〇名が結集した。
 平和フォーラムの浅見清秀副代表は、いま戦前への回帰が強行されようとしている、自衛隊本隊をイラクに行かせてはならない、先遣隊もすぐに撤退させなければならない、と開会のあいさつ。
 民主党からは稲見哲男衆議院議員が、本体のアラブ諸国の民衆は日本にたいして親近感を持っていたが、自衛隊のイラク派兵はそれを一挙に失わせることとなる、絶対に行かせてはならないと発言。小林千代美衆議院議員、岡崎トミ子参議院議員も激励の発言。
 社民党からは又市征治幹事長が、イラクには米英が戦争の口実にした大量破壊兵器がなかったことがはっきりしてきた、日本政府もアメリカの戦争支持は大量破壊兵器の存在だったがイギリスではブレア政権を揺るがすことになるだろう、自衛隊派兵をやめさせるために闘いを広げていこう、とあいさつした。
 WPN(ワールド・ピース・ナウ)の高田健さんは、政府は自衛隊の派兵される地域を安全だと言っているが、自衛隊が行くからそこが戦闘地帯になるのだ、戦争開始一周年の三月二〇日には大きな行動を日本全国で起こそうと述べた。
 日本消費者連盟運営委員長の富山洋子さんは、市民運動と労働運動が力をあわせて派兵反対・憲法改悪を許さない大きな行動をつくって行こうと述べた。
 自治労本部、神奈川高教組、国公総連、東京平和運動センターなどからの決意表明の後、首相官邸前に場所を移動。官邸にむけて派兵反対の抗議のシュプレヒコールをあげた。
 行動の解散後、首相官邸横を通る通路で最寄りの地下鉄駅に行こうとした人びとに対して警官隊が阻止しようとして、もみあう。警察の横暴な警備に対しても抗議行動が展開された。

平和フォーラムは一月二九日にも、衆議院第二議員会館前で集会を開いた。参加者は一五〇名ほどだった。集会では民主・社民の国会議員のほか、許すな!憲法改悪・市民連絡会、宗教者ネットなどが挨拶した。


イラク派兵承認の動きに抗議して、市民・宗教者が議面集会

 「戦争反対・有事をつくるな!市民緊急行動」「平和をつくり出す宗教者ネット」「平和を実現するキリスト者ネット」の三団体が呼びかけた自衛隊のイラク派兵国会承認を許さない緊急議面行動が、一月二八日午後五時三〇分から、衆議院議員面会所で行われ、約六〇名の市民と宗教者、国会議員などが集まった。
 集会は市民緊急行動の高田健さんの進行で進められた。高田さんは「憲法の精神を踏みにじる自衛隊の戦時・戦場派遣が行われ、この国会で事後承認しようという。これに抗議する議面集会を緊急の呼びかけで開催することにした。現在、国会は首相のでたらめな答弁でストップしている。国会の内外で闘いたい」と報告した。
 主催者を代表して日本山妙法寺の武田隆雄さんが挨拶、国会議員は民主党から大出彰衆議院議員、金田誠一衆議院議員、稲見肇衆議院議員、石毛えい子衆議院議員、社民党から山本喜代宏衆議院議員、共産党から吉井英勝衆議院議員が連帯の挨拶をした。三野党の議員はそれぞれ小泉内閣の自衛隊イラク派兵が憲法違反であり、阻止するために闘う決意を述べた。締めくくりとして、キリスト者平和ネットの糸井玲子さんが自らの戦争体験を語りつつ、戦争をする国への政治の流れを批判した。
 その後、首相官邸前に移り、抗議のシュプレヒコールを叫んだ。


陸自第11師団長の発言に抗議する

    ほっかいどうピースネットが陸上自衛隊第11師団に抗議の申し入れ

 「ほっかいどうピースネット」は一月二一日、札幌・真駒内の陸上自衛隊第11師団長がさっぽろ雪まつりに関連した問題発言を行ったことについて、石破茂防衛庁と陸上自衛隊第11師団竹田治朗師団長同師団に要旨、以下の抗議の申し入れを行った。

 § § § § §

 戦争状態が激化するイラクに、ついに陸上自衛隊本隊が派遣されようとしています。……(中略)……
 高い失業率に悩むサマワでも連日、抗議のデモが発生し、オランダ軍による発砲で死者も出ており、自衛隊が住民の雇用創出への期待に応えられるとは思えません。不測の事態を招いて自衛隊が人を殺傷し、あるいは自ら犠牲になるのは最悪の悲劇です。陸上自衛隊員の大半は北海道の部隊から派遣され、私たち北海道民の身近にはたくさんの自衛官がいます。不本意な目的のために、この人たちを悲劇に追いやることに対し、批判と抗議の声を上げるのは、市民として当然の行いです。
 私たちは、このように不当な戦争・占領と自衛隊の派遣に反対してきましたが、自衛隊員個人を敵視したことは一度もありません。昨年の一二月二〇日に四〇〇人の市民で北部方面総監部を囲んだ「人間の鎖」行動も、自衛隊員に語りかけ、「つなぎとめる」ことが目的でした。立場を異にしても、イラク派兵の問題を自衛官にも考えてほしいとの願いからです。一二月一日から電話相談を始めた市民団体「自衛官と市民をつなぐ人権ホットラインほっかいどう」の活動も、自衛官やその家族、恋人の不安に真摯に向き合うことを目的としていました。その宣伝リーフレットは「憲法9条が自衛官を守っていると考えたこと、ありますか?」と掲げています。
 ところが、竹田治朗・陸上自衛隊第11師団長は一月六日、「雪まつり協力団」の編成完結式を真駒内駐屯地で行った際のあいさつで、次のような趣旨の発言をしました。「雪輸送や雪像制作現場において不快感を催すような筋違いのデモや街宣活動が行なわれるかもしれない。これらに対しては、まず毅然として対応していただきたい。度が過ぎて協力環境にならないという判断をされる場合には、撤収も含めて検討する」。公的機関の行為に対して意見を表明し、また異議を申し立てることは、市民の正当な権利として憲法で保障されています。自衛隊師団長という公職の要職にある者には、この市民の権利を常に尊重する義務があります。市民を恫喝して自由な言論や意思表示を封じるかのごとき発言や行為は、民主国家では許されるものではありません。
 さらに、自衛隊という軍事組織を率いていく立場の人物がこのような発言を行なったことに、私たちは恐怖を感じます。この発言は、防衛庁による報道管制の動きと同根のものです。そればかりか、この師団長発言のような思考様式が、イラクへ派遣される武装部隊の中に広く行き渡っているとすれば、仮にイラク現地で「不快感を催すような筋違いのデモ」に会ったとき、「毅然として」発砲しかねません。「度が過ぎて協力環境にならない」とき、「撤収も含めて検討」で済むのでしょうか。やはりイラクへ自衛隊を派遣することは間違いだ、と確信を深める次第です。私たちはここに、竹田第11師団長の発言に強く抗議し、自衛隊のイラク派遣の撤回と、部隊の撤収を求めます。

二〇〇四年一月二七日

 ほっかいどうピースネット


話し合うことが罪になる!  共謀罪新設に反対しよう

 共謀罪はさきの国会で廃案になったが、政府・法務省は立法化の動きを強め、今国会への再上程を狙っている。共謀罪は、犯罪を実行しなくても「話し合うこと」だけで罪になるというものだ。
 政府や警察は「治安の危機」を叫び、治安対策を強めようとしている。すでに多くの街角に監視カメラが配備されるなど市民生活の隅々に警察が目を光らせている。共謀罪の新設は、いっそう市民生活への監視体制の強化になろうとしている。

 一月三〇日、渋谷区勤労福祉会館で、「話し合うことが罪になる!1・30共謀罪に反対する市民の集い」が開かれた。
 海渡雄一弁護士(日弁連・組織犯罪立法対策ワーキンググループ事務局長代行)が「共謀罪規定の問題点〜越境組織犯罪条約との整合性・国際刑事立法の訴訟法的観点から検討する」と題して講演し、共謀罪のもつ諸問題について述べた。
 昨年の通常国会に提案された法案は、法務委員会が刑務所問題の審議に時間をとられ審議に入れないまま廃案となった。今国会に提出予定の法案の中に共謀罪に関する法案も入っており、二月中旬頃提案される。提案される法案は、組織犯罪条約やサイバー犯罪条約の関連条項を一体化させた一つの法案として提案されるだろう。日弁連も共謀罪の新設に反対している。
 つづいて渡辺治・一橋大学教授が、「二〇〇〇年代の警察のめざすもの−警察庁『緊急治安対策プログラム』の問題」と題して講演した。
 かつては「世界一安全な国」が警察の誇りであった。しかし今、昨年の総選挙で自民党、民主党がともにマニフェストに治安回復公約を掲げるようになってきている。政府は犯罪対策閣僚会議を設置し「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」をつくり、警察庁も「緊急治安対策プログラム」をうちだした。
 政府・警察が治安強化を言う背景には、九〇年代末に激化したグローバル化と構造改革によって既存社会統合が解体し、そのことによる犯罪増大がある。自殺者の激増などもある。これを、政府・与党は、雇用の拡大や社会福祉の充実などのセーフティーネットをつくることによって解決するのではなく、治安を強化することによって押さえ込もうとしているのだ。
 歴史的に振り返ってみたい。四〇年代〜五〇年代は、敗戦の混乱のなかで、当時の警察は民衆を強権的に支配した戦前にたいする思い入れから、復古主義的統合と大国化を追求した時代であり、警備公安優位の再建がめざされた。しかしこれは、六〇年代初期において、安保闘争の盛り上がりや「吉展ちゃん事件」などでの刑事警察失態によって大きく転換した。一面この時代は高度経済成長で企業社会による統合が形成された。警察近代化で専門化、外勤警察削減、警備警察強化が行われた。つづく七〇〜八〇年代の時期は、企業社会統合、自民党利益政治や周辺統合、そして社会運動の周辺化によって、社会的には一定の安定があり、警察は自信をもって「日本の安全は世界一、それは警察によって保障されている」などと言い、「安全神話」が登場した。しかし九〇年代に入ってからは、グローバリゼーションと構造改革によって日本のこれまでの社会的統合が崩壊しはじめている。
 そのあらわれは次のようなものだ。ホームレスの激増、自殺者の急増、失業率の高止まり、犯罪率の増加、検挙率の低下、離婚率の上昇などがあげられる。
 警察は、九〇代前半にはまだ企業社会統合への安住があり、八〇年代警察戦略を踏襲していた。
 しかし、九〇年代後半に警察は危機に陥った。
 第一には、オウム教団への対処の遅れ、犯罪率と検挙率の低下などで安全神話は崩壊した。第二には警察不祥事の続発だ。これで、規律あるニッポン警察の神話も崩壊した。警察不祥事には、警察の階級固定化と下層の不満も関係している。
 こうした事態に、二〇〇〇年には警察刷新会議で「警察刷新に関する緊急提言」が出され、「警察改革要綱」がつくられた。
 「緊急提言」では、透明性、自浄機能=情報公開、苦情処理、監察、公安委員会機能強化などがあったが、それが警察活動を支える人的基盤強化に歪曲・絞り込まれようとしている。
 そして二〇〇三年八月には警察庁「緊急治安対策プログラム」がつくられた。そこでは、第一に、犯罪防止の総合対策を挺子とした警察機能の強化だ。犯罪に強い社会をつくるために、@交番機能強化、地域警察官の街頭活動、A少年犯罪対策、B重要犯罪の対策強化、C交通警察の強化などがある。第二には、外国人犯罪、組織犯罪対策の加速化、第三には北朝鮮問題やテロ対策を口実とした警備公安警察の強化だ。第四に治安基盤の拡充で、警察官の増員、留置場設備の拡充、警察と検察、法務入管、自衛隊との連携だ。
 こうした傾向はすでに石原都政が先取りしている。石原は昨年六月、都に治安対策本部設置している。
 治安対策は国家レベルの問題に格上げされているが、昨年一二月に出された犯罪対策閣僚会議「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」は、@平穏な暮らしを脅かす身近な犯罪の抑止、A少年犯罪の抑止、B国境を越える脅威への対処、C組織犯罪からの社会の防衛、D治安回復基盤拡充をあげている。

労働組合に襲い掛かる共謀罪


 上程されようとしている法案では、構成要件が「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀」すると定めている。そもそもこの法律をつくるのは国際的な組織犯罪の防止のためのものとされてきたのに、労働組合を含めてすべての団体が対象になり、労働組合や争議団活動の弾圧に用いられる可能性が高い。
 労働組合活動は、憲法上保障された労働基本権にもとづき、労働者の賃金・労働条件の向上をはかるものであり、その目的の遂行のために組合員・機関が頻繁に協議を行うのは当然である。活動は執行委員会、三役会議、共闘会議など集団的討議を経て決定し、実行されるのは当然だ。
 もし組合における討議や決定が共謀罪となるなら、組合・組合員のすべての活動・生活が捜査の対象とされようになる。
 資本と警察は、国際的な組織犯罪に対処することを口実に憲法で保証された労働組合活動を弾圧する危険はきわめて大きい。


超大国アメリカの持続可能性(サステイナビリティー) C

                             関 考一


十、伏流してきた恐慌がなぜ顕在化しようとしているのか

 一九世紀には、ほぼ一〇年の間隔で発生していた恐慌は一九二九年のアメリカにおける大恐慌発生を区切りとして、激烈な恐慌はその姿を消し、資本主義の発展に伴って克服された過去の遺物となったかのように言われて久しい。しかし一〇年前後の景気循環( 停滞局面、活況局面、繁栄局面)は繰り返しながら今日まで続いており、マルクスはこうした恐慌も含めた変動の周期性の物質的基礎を次のように指摘している。「機械設備が更新される平均期間は、大工業が確立されて以来産業の運動がとおる多年的循環を説明するうえでの一つの重要な契機なのだ。」(全集二十九巻 一三二 マルクスからエンゲルスへ)
 またこの機械設備が更新される平均期間は、様々な要因にもよるが一〇〜一三年前後と分析し資本主義の景気循環を解明している。
 しかしながらその景気循環から姿を消したようにみえる恐慌が今日現実的な問題として浮上してきている要因について考察してみよう。

 @「ケインズ主義」の無力化

 一九二九年アメリカで勃発した大恐慌はヨーロッパ諸国を始め世界中に深刻な打撃を与えた。その中で一九三六年イギリスの経済学者ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』が発表された。その中でケインズは「有効需要の創出」を打ち出した。それは過剰生産と過剰となった資本を解消するには、民間の投資に頼るだけでは充分ではないので政府支出を財政赤字によって賄い、大規模な公共投資を通じて消費需要と投資需要の不足を補うこと柱としたいわゆる「ケインズ主義」を提唱し資本主義諸国に大きな影響を与えた。また公共投資が生産手段生産部門の雇用と所得を増加させることにつれて消費財生産部門にも雇用と所得の増加を次々と波及させていくとする「乗数効果理論」も相俟って恐慌を回避し、景気循環の大きな波を避ける手段として資本主義の「救世主」的な役割を果たしてきた。
 しかし長年にわたる大規模な財政赤字は膨大な国債の累積を生み出し一九八〇年代からは新たに発行する国債の大きな部分が実体経済をなんら刺激することなく利払いにだけ当てられるという「金融空洞化」現象を招くに至った。 
 今日の道路公団「民営化」をめぐる茶番劇や「年金改革」などはこうしたケインズ主義による際限のない公共事業と野放図な財政支出の限界の表面化でしかない。
 恐慌回避・不況脱出の切り札たる「ケインズ主義」の無力化と肥大化する元利払いと累積する国債の重圧は、今日の資本主義が抱える深刻な病理となっている。事実日本の〇四年度末の国と地方の長期債務残高は七一九兆円にのぼり、国内総生産(GDP)の一・四倍に膨らむ見通しとなっている。〇四年政府予算(八二兆一一〇〇億円)の内、国債発行額は三六兆五九〇〇億円となっており国債依存度は四四・六%の比率を占めている。
マルクスは国債の本質について次のように述べている。
 「国債は国庫収入を後ろだてとするものであって、この国庫収入によって年々の利子などの支払いがまかなわなければならないのだから、近代租税制度は国債制度の必然的な補足物になったのである。国債によって、政府は、直接に納税者にそれを感じさせることなしに臨時費を支出することができるのであるが、しかしその結果はやはり増税が必要になる。他方、次々に契約される負債の累積によってひき起こされる増税は、政府が新たな臨時支出をするときにはいつでも新たな借入れをなさざるをえないようにする。それゆえ、最も必要な生活手段にたいする課税(したがってその騰貴)を回転軸とする近代的財政は、それ自体のうちに自動的累進の萌芽をはらんでいるのである。過重課税は偶発事件ではなく、むしろ原則なのである。それだから、この制度を最初に採用したオランダでは、偉大な愛国者デ・ウィットが彼の箴言(しんげん)のなかでこの制度を称賛して、賃金労働者を従順、倹約、勤勉にし……これに労働の重荷を背負わせるための最良の制度だとしたのである。しかし……この制度が賃金労働者の状態に及ぼす破壊的な影響よりも、むしろ、この制度によって行われる農民や手工業者の、要するに小さな中間階級の、すべての構成部分の暴力的収奪である。」(資本論第二四章いわゆる本源的蓄積)

 A超大国=アメリカ帝国主義の優位性の陰り


 第二次世界大戦後、アメリカは核とコンピューターによる強大な軍事帝国主義として君臨してきたことは恐慌を回避してきた大きな要因の一つである。朝鮮戦争・ベトナム戦争を始めとする絶え間ない侵略戦争の継続と世界中を幾度となく破滅させるだけの核兵器の開発をも含む巨額の軍事費の浪費によって過剰生産のはけ口としてきたのである。
 経済的にもドルを基軸通貨とする特権を駆使し国際通貨基金(IMF)や世界銀行などの国際機関を占有し世界的規模で新たな販路を拡大したこと。軍事開発で獲得した先端技術を用いて電気製品や自動車などの大量生産・大量廃棄の生産方式を採用したこと。多国籍独占企業を世界的に展開し石油・原子力などエネルギーの世界支配を確立したこと。などを通じて過剰生産を拡散させてきたといえる。そして圧倒的な軍事力を背景とし経済的にも超大国であったアメリカ帝国主義だけが持ちえた巨大な「信用制度」の力も大いに寄与した。
 しかし今日の膨大な「双子の赤字」の拡大に象徴されるようにその経済的実体は急速に弱体化しつつある。恐慌を阻止する防波堤でもあったアメリカを盟主とする国際的協調体制は、今や不協和音が鳴り響いている。〇三年九月の世界貿易機関(WTO)のカンクン会議はグローバリゼーション・アメリカ中心の世界市場化に反対する発展途上国の反乱の前にアメリカにとって手痛い「失敗」に終わった。
 またヨーロッパにおける単一通貨ユーロの登場はフランス・ドイツを中心とするEU諸国支配層のアメリカの一極支配にたいする対抗であり暴落のリスクが高いドルに対する戦略的布石である。通貨統合よってヨーロッパからアメリカ・ドルの排除に成功したEU諸国支配層は、東欧諸国やロシアと協調しつつ、国際通貨の最大の流通根拠である軍事力の統一まで視野に入れたより一段のEU統合を推進しようとしている。イラク侵略戦争におけるEU諸国の反対と非協力はこうした背景のもとに表出しているといえる。
 アメリカがアフガニスタン・イラク侵略戦争に単独行動主義(ユニテラリズム)も辞さず打って出た背景には、世界的なエネルギー支配としての石油権益の独占と中東全域の覇権の確立とともに自らの抜きん出た優位性の動揺と弱体化を建て直すため、唯一突出している強大な軍事力に頼るしかない現われでもある。( つづく)


「経済制裁法案」に反対する

  
(外国為替法改定案、特定外国船舶入港禁止法案、再入国禁止法案) 

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を当面の主要な対象として、日本単独で経済制裁を行えることを目的に『送金の停止』を主内容として国会に提出された外為法改定案は、ほとんどまともな論議もなく衆院の委員会で可決され、二九日には衆院本会議を通過した。
 これに続いて、万景峰号などを念頭にその入港禁止を目的とした特定外国船舶入港禁止法案(仮称)の国会提出の準備も進められ、さらには永住外国人の再入国を禁止する再入国禁止法案(同)も検討されているという。戦後日本の規範をかなぐり捨て、イラクへの自衛隊派兵を強行しているドサクサに紛れて法案が提出されたことは、この法案の本質を象徴するものである。

 私たちは、これらの「経済制裁」法案に強く反対する。その理由は以下の通りである。
 (1)すでに湾岸戦争以来、イラクのフセイン政権に対して行われた経済制裁の結果、医薬品の不足などにより何の罪もない多くの子どもや病弱者が真っ先に犠牲となったことが明らかになっている。もし、北朝鮮に経済制裁が行われれば、現在の食糧不足とあわせイラクと同様、あるいはそれ以上の事態が生み出される可能性が強い。この間も、さまざまなNGOが人道的食糧支援を行っているが、私たちは「経済制裁より人道的食糧支援を」行うべきだと強く主張する。
 (2)加えて送金の停止にせよ、船舶の入港禁止にせよ、朝鮮植民地支配と強制連行などの結果、日本に定住せざるを得なくなった在日朝鮮人にとっても、親類をはじめ祖国の人々との人的物的な往来そのものに著しい制約をきたすものとなる。これは在日朝鮮人の基本的人権に対する重大な侵害行為である。再入国禁止法案などはその最たるものである。
 (3)このような法案は、拉致事件の解決を含む日朝間の関係正常化にとって新たな障害を作るもの以外の何物でもない。経済制裁とは、戦争行為の「一歩手前」というべきものである。北朝鮮側は、これを「宣戦布告とみなす」と繰り返し述べている。
 一部に、北朝鮮に圧力をさらに強めることが拉致問題、核問題等の解決につながるという議論があるが、これは誤りであり、抜き差しならない事態を引き起こしかねない。核問題も6カ国協議を含めその平和解決のための努力に水をさす以外のなにものでもない。
 法案が成立しても「直ちに発動するかどうかは別」といわれるが、このような法律自体が周辺事態法や有事法制などに連なるものであり、準戦争法ともいうべき危険なものである。
 そもそも拉致問題について、北朝鮮側が公式に認め、謝罪を行ったのは日朝国交正常化をめざして持たれた日朝首脳会談であった。互いに敵対関係に終止符を打ち、和解と平和、国交正常化と友好関係を築くための交渉の中でこそ、この問題の全面的な解決も求めるべきである。この間の日本政府の無策こそ問われる必要がある。
 (4)しかも、他方で、これらの法案(または素案)は北朝鮮を特定しているわけではなく、どの国に対しても適用が可能となっている。また、これらの経済制裁の諸措置の発動を閣議決定で講ずることができるとしており、民主党の主張で国会承認が盛り込まれたとはいえ、事後承認に過ぎない。つまり、この法案は北朝鮮のみならず諸外国に対して、気に入らない国に対しては経済制裁発動もあり得るという外交上の脅しの武器を、日本政府に委ねることにほかならない。

 私たちは、このような外為法改定案、特定船舶入港禁止法案、再入国禁止法案等、いわゆる「経済制裁」法案に強く反対する。
 私たちはまた、日本政府が、ピョンヤン宣言で過去の朝鮮植民地支配に対して朝鮮の人々に「痛切なる反省と心からのお詫び」を表明した以上、強制連行被害者や「慰安婦」とされた被害者への誠意ある謝罪と補償を行うことを強く求める。それは、日本人拉致事件に対して北朝鮮政府に誠意ある対応を求めるのとなんら変わりはない。
 日朝両国政府が、互いに過去に犯した犯罪行為を清算し、和解の道に入ることを強く求めるものである。この道に逆行する経済制裁法案反対!

二〇〇四年一月二九日

 イラクにも朝鮮半島にも平和を!3・1行動実行委員会
 【呼びかけ団体】 アジア太平洋平和フォーラム、「異議あり!日韓自由貿易協定」キャンペーン、基地はいらない!女たちの全国ネット、憲法を生かす会、現代研究所、在日韓国民主統一連合、自衛隊の海外派兵と戦争協力に反対する実行委員会(新しい反安保実行委[)、「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW―NETジャパン)、日韓民衆連帯全国ネットワーク、日本国際法律家協会、命どぅ宝ネットワーク、反天皇制運動連絡会、許すな!憲法改悪・市民連絡会ほか

 連絡先・東京都文京区小石川一― 一―一〇―−一〇五 日韓ネット TEL・FAX 〇三(五六八四)〇一九四


書 評

 「イラク 戦争と占領」 

          
酒井啓子       岩波新書 740円

 陸上自衛隊のイラク派兵部隊の中心の第二師団がある北海道・旭川市を中心に「黄色いハンカチ」運動や「黄色いリボン」運動が進められている。
 かつてのアメリカ映画の「黄色いリボン」や、それにヒントを得た高倉健の「幸せの黄色いハンカチ」の話に由来しているこの運動は、提唱した旭川商工会議所にいわせれば「イラク派兵の賛否を超えて、隊員たちの無事帰国を祈るもの」ということだ。
 もしも街がこの黄色一色になることを想像すると、鳥肌が立ちそうだ。
 「とにかく、派遣されてしまったのだから、いまは無事帰国を願って」という論理に、「派遣やむなし」という事実の追認が含まれる。「結果として行くのだから、気持ちよく行かせよう」という論理も横行している。確かに既成事実は追認するという傾向があるのは否めない。
 このときとばかりに小泉首相は「自衛隊は戦争に行くのではない、人道復興支援に行くのがなぜ悪いのか」と居直り、キャンペーンをする。
 マスコミももはや一部を除いて「派兵支持」だ。ここにきてマスコミが発表する世論調査も派兵賛成が増え、賛否が拮抗している。小泉首相の支持率は少し盛り返しているとも言われる。
 テレビ、新聞、週刊誌などを通じた日々の情報の洪水のもとで、私たちはいつの間にか、知らず知らずのうちに情報の選択能力を奪われている。情報の操作の場合も少なくない。
 情報通の人でも、その日、その日で自らの意見が代わっているのに気づかないという者がいるほどだ。
 事態の、あるいはイラク問題のといってもよいが、原因、発生、経過、現在を系統的に考え判断する能力をマスメディアによって奪われていることに気づかない。彼は自分で考えていると思っているのだ。そういうことがままあるのがこの情報化社会だ。

 岩波新書の『イラクとアメリカ』につづく酒井啓子の『イラク 戦争と占領』はそうした情報の洪水におぼれることなく、この問題についての自らの判断を打ち立てる上で好著といえる。
 イラク問題の第一人者である酒井が、米国と有志軍によるイラク占領後の実態をつぶさに検討し、イラクの歴史や国情を熟知している立場から、その占領が失敗であることを指摘、新生イラクの可能性を論じている。
 酒井はいう。
 「イラク戦争当時、エジプトのムバラク大統領は図らずも『この戦争によって一〇〇人のビン・ラーデーィンが出現する』と『予言』したが、現在『テロへの戦い』はテロの増幅を呼ぶばかりである。アメリカの『民主化』の輸出は、『民主主義』の芽を摘み取ることから始まったのだ」
 そして開戦前はフセイン政権の抵抗でイラク戦争のベトナム化の可能性が言われたにもかかわらず、わずか四一日の戦闘で米軍が圧勝したかに見えたが、それはイラク軍の「一時撤退でしかなく、半年の再編期間を置いて、あらたな抵抗組織として再び戦闘を開始したと考えたらどうだろうか。…米軍ヘリ攻撃などは…何らかの形で職業軍人が関与する軍事作戦だと考えられるわけであり、それは『治安の悪化』というよりは戦闘の再開である。そもそもブッシュが『終結宣言』を行ったこと自体が、間違っていたのではないだろうか。――そうしたこと説が浮上してくるような環境が、十一月以降着実にできあがってきている」
 「イラクでは現在、外国軍はすべて『占領軍』とみなされる環境が着実に形成されつつある。移動するたびに『アメリカ人だか、ポーランド人だか、そしてよく分からない顔の兵隊たちに止まれと静止されるような』状況の中だで、イラク人たちは『ここは自分たちの土地なのに』と、反発を強めていく。その中で、日本もまた『占領軍』でしかなかったという認識が強まれば、日本に対するイラク人の期待が高い分だけ、イラク人の失望感もまた深いものとなろう」
 これらの酒井の文章のいずれもが「フセイン後のイラクはどこへ向かうのか」について、深く考えるにうえで役立つ指摘だ。(S)


複眼単眼

      
小泉純一郎の豹変  恥じらいのない困った人物

 「易経」に「君子豹変」という言葉があり、「広辞苑」では「君子は、たとえあやまってもそのあやまちをすぐにあらため、善にうつること」と解説、そこから俗には「態度が急に悪く変わることに使われる」と言っている。意味は正反対だが、これは後者の場合か。
 一月二七日、衆院本会議で民主党の原口議員が自衛隊のイラク派遣に関連して、次のように発言した。
 「欧米と一緒になって、できないことをあえてしようというのは間違っている。危険だったら引き揚げるというのも一つの選択肢だ」
 「日本国民は日本の青年の血を流してまで、よその国の自由と平和を回復するつもりはない」と。
 与党席からはすかさず、「無責任だ」と野次がとんだ。そこで原口議員はしてやったりとばかりに、これはいまから一〇年前の一九九三年、カンボジアPKOにおける自衛隊の海外派遣についての議論の際、当時の小泉純一郎郵政相の答弁そのものだと暴露した。
 これはまさに「君子は豹変す」の類だろう。もっとも小泉首相が「君子」かどうかも問題だ。評論家の佐高信などは小泉を「入り口を入ったらすぐ出口のような男」と形容している。
しかし、この首相を「軽薄」「ワンフレーズ男」などとこき下ろして溜飲をさげているわけにはいかない。
 かつて「感動した!痛みに耐えてよくがんばった」とワンフレーズでほめられた横綱貴乃花は、その痛みが元で現役引退の羽目になった。しかし、痛みに耐えさせられているこの社会の多くの人々は引退するわけにいかないからたまったものじゃない。
最近では「世界の超大国アメリカの言うことを聞いて何が悪いのか」と居直りの発言を繰り返している。このようにあからさまに対米追従を語る首相は珍しい。従来は本音では対米追従でも、表面的には自立を装い、自主外交を標榜したものだ。それはマヌーバーでもあるが、そうした実情への恥じらいでもあっただろう。しかし、この人物にはそれがない。「どうして悪いの?」というのだろう。実に「困ったチャン」だ。
 もしも小泉が「君子」なら語源どおりにイラク派兵のあやまちを直ちにあらため、撤兵すべきなのだが。
 天木元駐レバノン大使の行動は保守リベラルの行動としてよく理解できる。自民党内にもイラク派兵承認の国会決議に棄権する者が若干はいるようだが、そうしたかつての保守本流はすでに自民党の中では溶解してしまったようだ。(T)