人民新報 ・ 第1125 号<統合218号> (2004年3月15日)
目次
● 3・20世界一斉反戦行動を成功させよう
改憲攻撃と地方紙の奮闘
● 有事7法案に抗議して国会前・首相官邸前行動
● 3・20集会の成功に向けて、WPNが記者会見
● 改憲反対署名の第一次提出行動
● 郵便局へのトヨタ方式の導入の結果は ?
● 超大国アメリカの持続可能性(サステイナビリティー) G / 関 考一
● 2004ピースサイクル運動始動 12ネットが参加して全国スタート集会
● 書評 / 橘木俊詔 『家計から見る日本経済』
● 川柳にあらわれた日本社会
● 複眼単眼 / 立川ビラまき逮捕事件と人権 マスコミの勘違い
3・20世界一斉反戦行動を成功させよう
改憲攻撃と地方紙の奮闘
有事法制や憲法の平和主義など、四〇年代後半以来ずっと国論を二分してきた問題について、最近のこの国のメディアの批判精神の喪失の惨状は目を覆うばかりだ。メディアが政府の政策を「現実」として承認し、追認しているばかりか、その以降を先取りし、世論を先導しようとしている。いまかろうじて地方紙にその本来の批判精神が残っている。
憲法問題では沖縄タイムスの社説「改憲の動きを危惧する」(三月一日)と東京新聞社説「新たなタブー?護憲論」(三月七日)が注目される。
「沖タイ」はこういう。
「耳を澄ませておきたい、国の行方と私たちの暮らしの変化について、想像力を鍛えておく必要がある。政党において『改憲』が声高に叫ばれはじめた。焦点は、国際紛争を解決する手段としての武力の行使の永久放棄と、戦力の保持、交戦権を認めない『九条』だ」「現状追認のためには基本法たる憲法のほうを変えるべきだ、というのは主客転倒と言わざるを得ない」「九条の改定による集団的自衛権の行使の容認と、有事法制の整備とあわせたとき、見えてくるのは国の内と外で米国と共同行動をとる日本の姿といえよう」「沖縄戦と続く米軍政下での分離もあって、私たちは日本国憲法の誕生には立ち会えなかった。そのことがむしろ、憲法の平和主義に沖縄の理想を託す契機ともなってきた。…初めて憲法の行方に参加する意義を重く受け止めたい。戦争体験を原点に、戦後、沖縄が培ってきた平和主義の力もまた、問われているからだ」と。
「東京」はこういう。
「過ちを繰り返さないために、常に過去を見つめ直し、将来への展望を熟慮しなければなりません。憲法論議は、誕生時の理念にこだわって進めたいものです」「改憲論の核心が第九条であるのは言うまでもありません。ヨロイを隠す衣のようにプライバシー権、環境権といった新憲法用の新しい人権もちらつかせる論法に、若者は惑わされているのでしょうか。どうもそれだけではないようです。首相が自衛隊を『軍隊』と言い切れる雰囲気が国内にも生まれています。憲法、安全保障論議では、自民、民主、二大政党間の違いがいっこうに浮かびません。『九条護持』や『護憲』を正面から唱えると変わり者か時代遅れと見られがちです」「戦争の惨禍を実際に体験した世代の退場で護憲の理念がとかく観念的になり、説得力が低下したことは否めません。片や、理念なき現実論はしまいには悲惨な結末を迎えかねないことは日本の歴史が示しています。歴史に学び、理念にこだわりながら現実に対応する憲法論議が求められます。それにはまず、歴史は学ぼうとしない者には何も教えてくれないことを知らねばなりません」と。
現行憲法下で最も憲法違反的な小泉内閣
かくもあからさまに日米同盟重視(対米追随)を語り、憲法の原則を踏みにじり、憲法違反の発言を重ねる内閣が、現行憲法下でほかにあっただろうかと思う。
「沖タイ」はこう指摘した。
「小泉純一郎首相は『常識的に考えれば、ほとんどの国民が考えてみれば、自衛隊は戦力』と発言している。これまでの政府解釈『自衛のための必要最小限度の実力で、戦力に当たらない」を、首相は『国民の常識』で一挙に飛び越えた。
この論法は、イラクへの自衛隊派遣という『事実』を背景にした集団的自衛権の行使についても同じと言える。
首相は『解釈の変更ではなく、正面から憲法改正を議論することで解決を図るのが筋だ』『解釈が便宜的に行われては憲法規範への国民の信頼が損なわれる』と参院本会議で答弁した」と。
九・一一以降のブッシュ米大統領の世界戦略の急展開に遅れまいと、小泉内閣は日本社会の軍事化を進めてきた。小泉内閣は、先制攻撃戦略の下に、グローバリズムを押しつけながら、世界中で全くわが物顔に振る舞うブッシュ政権の忠実な同盟者だった。
そしてテロ特措法から、有事関連三法、イラク特措法とひた走り、この国会で、自衛隊のイラク派兵承認、北朝鮮経済制裁法、有事関連七法案と戦争のできる国に向かってつきすすんでいる。小泉内閣と支配層の中でアメリカが引き起こすかもしれない朝鮮半島での戦争が想定され、その事態に備える国内体制を作ろうとしているのは確実だ。
この小泉内閣と自民党が彼らの軍事路線の最後の障害である憲法の平和主義の抹殺に取り組んでいるのだ。
有事関連七法案と憲法改悪のための国民投票法に反対
予算案の衆院通過を果たした政府は、九日に有事関連七法案を閣議決定し、国会に提出、この一五九通常国会での成立を狙っている。後半国会では、厚生年金保険料金の引き上げなどを柱とする年金改悪関連法案を手始めに、道路公団分割民営化法案を成立させ、四月中には有事関連法案も衆院を通過させたい意向でいる。裁判員制度など問題も多い司法改革関連法や、議員立法での北朝鮮船籍にねらいを定めた「特定船舶入港禁止法案」と「憲法改悪のための手続き二法」の成立も狙っている。
有事関連七法案は先の三法を支え、具体化するもので、「武力攻撃事態」などと「大規模テロ」に際して対応するとされている「国民保護法制案」、米軍に武器・弾薬などを無償提供する「米軍行動円滑化法案」、同様な事態における自衛隊の作戦を円滑化する「自衛隊法改定案」、外国戦の臨検のための「外国軍用品等会場輸送規制法案」、空港・港湾・通信などで米軍・自衛隊の優先使用を定める「特定公共施設等利用法案」、戦争をしない国是から従来は持ってこなかった国際人道法関連の「捕虜取り扱い法案」「国際人道法違反処罰法案」と、「日米物品役務相互提供協定の改定」(有事ACSA)、「ジュネーブ条約の武力紛争犠牲者保護に関する二追加議定書」の七法案三条約・協定だ。
憲法改悪のための手続きを定める国会法改定案と国民投票法案は、改憲議連(中山太郎会長)と自民党がこの国会提出を狙っているが、連立与党の公明党に「憲法調査会が終わってからでよい」とする慎重論があり、積極論者も今国会では継続審議を狙っている節があり、不透明だ。しかし、民主党には積極論者もいるので、予断は許されない。運動を強め、世論を高めなくてはならない。
三月二十日のイラク反戦の共同行動を成功させ、四月の有事関連法案反対の闘い、五月三日の憲法集会の成功など、行動行動を強化しよう。とりわけ自衛隊のイラク派兵反対でめざましい前進を闘い取る必要がある。自覚した勢力はあらゆる障害をはねのけ、これらの闘いにおける統一行動の実際的な提唱者、組織者、推進者となり、事態を切り開かなくてはならない。
憲法改悪のための国民投票法案の批判は「許すな!憲法改悪・市民連絡会」発行のリーフレット「なぜ、いま、どんなの?憲法改正国民投票法」に詳しい。(
http://www4.vc-net.ne.jp/~kenpou/)
有事7法案に抗議して国会前・首相官邸前行動
三月九日、小泉内閣は有事関連七法案(国民保護法案、米軍行動円滑化法案、自衛隊法改正案、外国運用品等海上輸送規制法案、特定公共施設等の利用法案、捕虜等取り扱い法案、国際人道法違反行為処罰法案)と三条約・協定を閣議決定した。
戦争体制の確立に危険な動きに対して、同日昼、平和を実現するキリスト者ネット、平和をつくり出す宗教者ネット、戦争反対、有事法案を廃案に!市民緊急行動の三団体による呼びかけで抗議行動が展開された。
正午から衆議院第二議員会館前で七〇名余りの参加者が抗議集会。
市民緊急行動の高田健さんの司会で、はじめに主催者を代表して宗教者ネットの石川勇吉上人が挨拶した。国会報告として社民党の阿部知子衆院議員、山本喜代宏衆院議員、照屋寛徳副党首、共産党の宮本岳志参院議員、民主党の小林千代美衆院議員が発言し、また陸・海・空・港湾労働組合二〇団体の村中哲也航空連副議長や学生などが発言した。
集会の後、首相官邸前に移動し、有事法案反対、イラク派兵反対のシュプレヒコールをあげた。
3・20集会の成功に向けて、WPNが記者会見
三月十日、衆院議員会館で、ワールド・ピース・ナウ(WPN)の3・20反戦集会に向けての記者会見が行われ、マスコミ各社が参加した。
はじめに、WPNの高田健さんが報告。
三月二〇日、イラク戦争開始一周年にあわせて世界一斉行動が行われる。世界中での取り組みについては、日々増えているのでどのくらいになるかわからない。日本では現在までに全国で五〇をこえる都市・地域で行動が予定されている。首都圏では、日比谷野外大音楽堂、小音楽堂が会場になっているが。参加者は入りきれないだろう。日比谷公園全体を反戦平和の声がうめつくすような状況になることをめざしている。昨年三月には、芝公園に五万人の市民が集まったが、陸海空港湾労組二〇団体など労働組合は別の集会をもった。しかし今年は市民と労組の大合流が実現できた。昨年に倍する人びとが集まり反戦の意思を表したい。
つづいてJVC(日本国際ボランティアセンター)の熊岡路矢さん。
世界中で多くの人びとの戦争反対の声があったが残念なことに昨年三月に戦争は起こってしまった。イラクの兵士は一万人ほど死んだといわれ、一般民衆には一万をこえる大きな犠牲がでた。この二月にイラクに行ってきたが、そこで感じたことの第一はいまは外国人による占領の時期ではないということだ。第二には人道支援・復興支援は国際国内NGO、国連、イラクの人びとによる行政など、より中立的なところでやらなければない、そうでないと占領軍と関係ありとされ、昨年の国連、国際赤十字のように攻撃されることになる。防衛庁長官は、イラクでは武器を携行した自己完結的な自衛隊部隊による支援しかないと言っているが、それは逆に危険のことなのだ。
フリージャーナリストの志葉玲さんは、占領下のイラクの人権状況について述べた。
イラクでは多くの人が根拠もなくとつぜん米軍につれ去られ、家族・弁護士にも会えない、自分の「無実」を証明することもできないという事例が頻発している。ある在イラクNGOによると、米軍に拘束されているイラクは一三〇〇〇〜一八〇〇〇名もいるという。情報源は米軍当局の話だという。また中東の放送局「アル・ジャジーラ」は数万人という数字を発表している。無抵抗のイラク人を銃で殴りつけ、牢内では殴打や電気ショックによる拷問で肩の骨、顎の骨を折られた人の話を聞いた。その行動の中で、米軍は現金や貴金属を奪っている。イラクの人たちは日本にたいして、「自衛隊の派遣は日本のアメリカへの加担のあかしであり、失望した。自衛隊が来るなら米軍をおっぱらって欲しい」という声がある。いま最も求められているのは、占領を終わらせ米軍を撤退させることだ。
Chance pono2の星野ゆかさんは次のように話した。
三月二〇日はイラク反戦の世界一斉行動だ。昨年の二月一五日には世界中で一〇〇〇万人の人が戦争反対を叫んだ。インターネットなどを使うことで世界の人との連携をつくり一斉行動が出来るようになった。さきごろインド・ムンバイで開かれた世界社会フォーラムに参加した。世界のこと、日本のことが話されたが、そこでは日本はアメリカに従ってさまざまなことで大きな金を出し、それが世界に脅威を与えている。イラクでは自衛隊まで出したという批判が多い。三月二〇日には大勢の人が集まって、日本から反戦を声を発信していきたい。
最後にアジアン・スパークの野崎彩さんが「できるっ手」行動を紹介した。
ワールド・ピース・ナウの参加団体として、近く代々木公園ケヤキ並木で、自分の手から自衛隊派兵じゃない国際貢献・武力に依らない平和構築が「できる」ことを表すために、自分の手をスタンプにする「できるっ手!キャンペーン」を行う。そして、3・20集会への参加も呼び掛ける。当日には多くの人の手形のついた反戦バナーをもって参加したい。
記者からは、内外での取り組みの状況、市民と労組の関係、デモ・コースなどについての質問があった。
改憲反対署名の第一次提出行動
三月三日午後、二〇〇四年五・三憲法集会実行委員会は衆議院議員面会所で集会を行い、この間進めてきた「憲法改悪に反対し、九条をまもり、平和のために生かす」ことを求める署名の第一次提出行動を行った。
集会は女性の憲法年連絡会の堀江ゆりさんが司会し、市民連絡会の高田健さんが実行委員会からの報告を行った。
高田さんは、永田町では改憲の風が吹いているが、広範な人びとは第九条の改憲を求めてはいないということをこの署名運動で示したい。二〇〇四年の憲法記念日の集会は従来の会場の規模に倍する日比谷野外音楽堂で開催すること、集会では各界の人びとのリレートークやイタリアと韓国からの代表などを迎えて行うこと、署名はこの実行委員会が呼びかけて、五月三日まで行うこと、署名の提出は次は四月四日に同じ衆議院議員面会所で行い、最終集約は五月三日とすることなどを報告した。
提出集会では日本YWCAや、憲法を愛する女性ネットなどの代表も発言した。
この日、提出された署名は四万数千筆で、社民党の山本喜代宏衆議院議員、共産党の山口富夫衆議院議員に手渡された。
郵便局へのトヨタ方式の導入の結果は ?
三月五日、日本郵政公社の高橋俊裕副総裁は記者会見で、「JPS方式」を四月から全国一〇〇〇局に順次導入すると表明した。「JPS方式」とは、トヨタ自動車の労働生産性を極限まで向上させるといういわゆる「ジャスト・イン・タイム」生産方式を郵便局の業務改善に取り入れるものだ。トヨタ出身の高橋副総裁は、「余剰時間で品質、営業力を向上させることができる」と強調し、今後、全国一〇〇〇局で一〇%の効率向上が達成できれば残業や賃金も抑制できるため、二〇〇五年度での人件費など経費削減効果は「三〇〇億〜四〇〇億円になる」と言っている。
JPS方式は、昨年から郵便事業改革の目玉として埼玉県の越谷郵便局のほか全国一四のモデル局(長野東、新金沢、川崎港、札幌中央、三郷、松山西、神戸中央、芝、広島中央、那覇中央、岐阜中央、世田谷、熊本東、新仙台)で先行的に導入された。
しかし「JPS方式」が導入されたモデル局では、労働強化、サービス残業が蔓延しているという。
郵便局に働く者の労働条件の悪化だけではない。郵便配達サービスの面でも大きな低下がみられる。
二月一六日、郵政労働者ユニオンは、「越谷郵便局管内お客さまアンケート調査報告書」を発表した。
これは今年の一月下旬に、同労組が年賀状配達を中心に郵便サービスの調査を行った結果をまとめたものだ。
アンケートへの答の特徴は、元旦に年賀状が全く届いていないお宅が複数(少なくとも二世帯)存在する、A平年に比べ元旦に配達された年賀状が少ない、日数の点で遅配状態と感じている世帯は二九%にのぼる、B日数的な遅れとともに平常時の時間的な遅配は一〇%の世帯にのぼる、「四時頃までに届けて」「朝刊と一緒に取り入れる」などサービスの基本が崩れている実態がうかぶ、C年賀状配達・平常時の配達あわせて誤配の指摘が多かった、などである。
こうした結果について、郵政ユニオンは次のように評価している。
@アンケートはありのままの自然な実態をつかむために、完全無作為で行なった(配布枚数対比で一五・三%の回収)。なお、配布一〇〇〇世帯数は越谷市全一一万世帯の概ね一%となる。
A日数的な、あるいは時間的な遅配が深刻である「縦型区分・立ち作業」導入以来の滞留や遅配状態が現場の業務では明らかであったが、極めて多数の利用者の側に具体的な被害として自覚され強い要望として出されている。
B誤配の指摘も深刻である。誤配は現場職員の作業ミスであり、心情的には慢心、油断によることは言うまでもない。問題はそうしたミス・慢心がなぜ起こるのかという原因究明である。一方でアンケート内容の「感謝」の大半は個々の職員にむけられている。これは越谷局職員の誠実な職務態度への評価であり、他と較べたとしてもなんの遜色も無い。そうでありながらこれほどの誤配が生まれる原因には越谷局の特殊な実態を見なければならない。「縦型区分・立ち作業」は配達準備作業を著しく遅延させ、他局ではありえない通常郵便物の多くを夕方から夜間に配達するという状況を生み出した。たそがれ時にでもなれば、宛名面の識別が非常に難しいのは自明である。休息のイスさえ用意されない連日の長時間労働からくる疲労で、集中力にかげりが出るのも自明である。
C現在の越谷局の業務実態になんらかの問題を投げかけている回答の総枚数は六〇%にのぼる。これは配達サービスとしては危機的な状況を指し示しているのであり、緊急の対策が講じられなければならない。
そして、郵政ユニオンとしては、@当局の責任で、遅配・誤配の増加等不良サービスについて、地域のお客様に対する謝罪の広報を行なうことを求め、A地域のお客様、現場職員、公社・局幹部の三者による意見交換の場をもうけ、越谷局における実験が真にお客様サービスとしての実態を持ったものとして改善されるよう追求する。B緊急に対策が必要なものとして、遅配改善を位置づけ、増員措置を求める。また配達準備作業遅延の原因となっている「縦型区分・立ち作業」を中止し、能率的な従前の方法に戻すことを求めている。
郵政労働者ユニオン(東京都千代田区岩本町3―5―1 スドウビル 郵政共同センター)
Tel03(3862)3589 Fax03(3865)2832
postunion@pop21.odn.ne.jp
超大国アメリカの持続可能性(サステイナビリティー) G
関 考一
十三、「恐慌論」に関する諸相
現在の世界経済の巨大な不均衡とマルクスが鋭く分析した資本主義の矛盾の爆発である恐慌が深く結びついているのはあきらかであるが、マルクスに基づくとする「恐慌論」の中には、その相貌がマルクスとは著しく異なるものがあるが主要な二つの理論的傾向についてふれてみたい。
@「過剰生産なき恐慌論」=宇野学派の理論
第二次大戦後長く日本のマルクス経済学に大きな影響をもってきた宇野学派の流れに属する侘美光彦氏の「大恐慌型不況」(一九九八年七月 講談社)の主な論点をみてみよう。侘美氏はこの著書に先立ち千ページを超える大著である「世界大恐慌―一九二九年恐慌の過程と原因」(御茶の水書房 一九九四年)を著し九七年には日本学士院賞を受賞している。その著書のなかで、今日の不況が「次の好況期に至る過程で起きる循環性の不況とは……一線を画する大恐慌型不況と呼ぶにふさわしい不況なのである」としてその深刻さを指摘している。また循環性恐慌と大恐慌については次のように述べている。「循環性恐慌こそ、市場需給の不均衡を調整する仕組みが最大限に発揮される過程であるといえる。それは決して『市場の失敗』の過程ではなく、市場調整そのものの過程であったことを理解しなければならない。いい換えれば、市場に経済の動きをすべて任せ、政府がいっさい関与しない場合、市場という競争原理は循環性恐慌をひき起こすということである。すなわち弱小企業を循環的に整理することによって、資本主義の活力を循環的につくりだしていくのである」(同前)
そしてまた大恐慌の特徴については「循環性恐慌においては、鋭く生産が減少し、物価が下落しても、それはあるところで止まり、市場自身が必ず次の投資拡張を促進する条件をつくりだしたのにひきかえ、大恐慌では、ひとたび生産が減少し、物価が下落すると、かえって投資が縮小し、そのことがいっそう生産や物価の下落を促進した。つまり、市場機能は経済不均衡をかえって促進するものに変質したのである。」(同前)
こうして侘美氏にあっては、循環性恐慌とは「資本主義的生産における不均衡の暴力的回復」の側面よりも、かえって行き詰まった資本主義生産を発展拡大させる突破口的役割が積極的に評価されているのである。そしてこの循環性恐慌とは区別されるところのとどまるところがない「大恐慌型不況」に至る原因については次のように述べている。「大恐慌の原因については、さまざまな要因を挙げなければならないが、ここではひとたび景気下降が始まったとき、それがなぜ累積的に悪化したのかという点に絞って話を進めたい。結論だけをいえば、……価格の下方硬直的な構造、すなわち価格が下がりにくい状況が定着していたため、それが市場の調整機能を変質させる最も重要な要因になったということである。下方硬直性を示す価格は二つ存在した。一つは、寡占産業における大企業の商品価格であった。………下方硬直性を示すもう一つの価格は、賃金である。……賃金の下がりにくい状況、厳密には、賃金率の下方硬直性は、失業者や半失業者を含めた労働者全体について見ると、かえって所得全体を急減させ、総体としての需要の減少を促進するものとなった。」(同前)
すなわち恐慌の原因について侘美氏よれば独占資本の寡占価格の維持と同等の要因として「賃金率の下方硬直性」があげられる。しかしマルクスの恐慌論を踏まえれば侘美氏の主張には第一に資本主義の根源的動態である「生産のための生産」=過剰生産の視点が奇妙にもまったく欠落していること。第二には「時間賃金を維持することが……大恐慌化の第二の要因となる」(同前)とするならば、過剰生産による恐慌が勃発したあとに独占資本が寡占価格を維持し自らの利潤を守ろうとして行なうリストラや合理化、賃金引下げなどは全て恐慌を抑制する効果を持つものとして大いに評価しなければならないことになる。しかし現実にはこうした賃金の切り下げは労働者に一層の犠牲を強い購買力の一段の低下を招きより恐慌を深化させることは明白である。
侘美氏に大きな影響を与えたと思われる宇野弘蔵氏は「マルクスと異なる視角と方法と論理で資本主義の原理を考察し」(「マルクス経済学の解体と再生」増補版 高須賀義博 御茶の水書房)その「原理論」は「資本家と労働者と地主の三大階級だけからなる『純粋な資本主義』を分析対象として、それが『永久にくりかえされるがごとくに』再生産される仕組みを、……解明しようとした」(同前)静止的な独自の経済理論を打ち出したことで知られるがその恐慌論もまた極めて特異なものである。「生産部門間の均衡は常時維持されていながら、完全雇用に達すると貨幣賃金が上昇して利潤率が低下し、それが上昇する利子率と衝突する時に恐慌が発生するとされるのである。要するに恐慌を生産の問題ではなく、純粋に分配の問題として論じているのである。宇野『恐慌論』の無内容さはここに起因する」(同前)と宇野学派の流れをくむ高須賀氏にさえ批判されるごとく宇野「恐慌論」は、恐慌と産業循環を次元の異なる剰余価値の「分配論」によって無理やり説明しようとしているのである。この宇野「恐慌論」と侘美氏の「大恐慌型不況」の要因分析は同一の視点に立っているものと考えられる。宇野「恐慌論」は以前より過剰生産を軽視して再生産・流通論=現実論を排除するところから「現実理論なき恐慌論」と評されてきたのも故なきにあらずといえよう。いまや宇野学派の「経済学」は今日の世界的な不均衡=恐慌の可能性の増大を説明できないだけでなく、間違った処方箋が出されかねない理論的欠陥を抱えているといわざるをえない。
A 日本共産党の「恐慌論」について
日本共産党は現在の世界と日本の経済状況について恐慌が現実のものとなる可能性への言及や評価について慎重に回避していると思われる。先ごろ開かれた第二三回大会では「日本経済の長期停滞・衰退」「経済的危機」(同大会決議第五・六章)とはされているが「恐慌」には一言も触れていない。その主たる理由は新綱領で定式化されている「資本主義の枠内での可能な民主的改革」(綱領四、民主主義革命と民主連合政府)規定とその内容である「大企業にたいする民主的規制を主な手段として、その横暴な経済支配をおさえる。」ことが可能とする理論によるものであろう。なぜ日本共産党は「資本主義の枠内」に固執するのかについては公式文献だけでは非常にわかりずらいので同党の経済政策に理論的な影響を与えてきた学者の一人と思われる林直道氏の著書「恐慌・不況の経済学」(新日本出版社)によって考えてみたい。林氏はその中で「もしも恐慌の原因は『資本主義的生産様式の基本矛盾』にあるとだけ言っている場合、恐慌をなくす道は、私的資本主義的取得形態の廃棄、生産の社会的性質に照応した取得形態の樹立、すなわち一言で言えば資本主義体制の廃絶にある、ということにとどまる。そして資本主義の廃絶とはきわめて困難な、遠い遠い先の問題となってしまう」述べている。林氏はこの著書の前半でマルクスに基づく「恐慌論」を展開した上でその根本的な解決を「きわめて困難な、遠い遠い先の問題」とするのある。それも単に「遠い」のではなく「遠い」を二乗するほどの先送りなのである。「恐慌が、ブルジョアジーにはこれ以上近代的生産力を管理してゆく能力がないことを暴露した」(反デューリング論第三編社会主義 エンゲルス)ことをもその内容とするマルクスの恐慌論を歴史的かつ学問的には積極的に評価承認される林氏は、実際の恐慌の根源的打開については、はるか彼方へ押しやり、その代わりに実現可能とする解決策を示すのである。林氏は「恐慌の勃発を終極的になくするなど、当面は不可能であるとしても、恐慌の勃発をおくらせたり、その規模を小さくし、激しさを緩和したりする、展望がひらけるのでなかろうか」(同前五〇ページ)と希望的解決策をあげている。しかし剰余価値増殖のために「生産のための生産」に猛進する資本主義の本質的動態を制御できるとするならばそもそも恐慌自体発生するはずがなく、こうした制御が可能な社会は資本主義とは言えないことになろう。仮に林氏のいう「恐慌の勃発をおくらせたり、その規模を小さくし、激しさを緩和したりする」ことが可能とするならば資本主義は「狼」から「羊」へとその根本的性質を変えることとなり別に新たな生産様式への変革など不必要なことになるだけである。林氏はその主観的願望的解決策を裏付ける例として次のようにも述べている。「重要なことは資本家の中にも、右にあげたような諸見解(注―投資拡大の一定の規制や人員整理や賃下げのストップによる消費力の維持・上昇などを指す)が中小企業同友会のような中小企業・中堅企業の経営者の中にどんどん広まっている。さらに最近では一部の巨大企業のリーダーたちの間でも同じような意見が少なからず聞かれるようになった」(同前)すなわちこうした「制御」の実現にとっては資本家の中の賛同者が是非とも必要ということなのである。そうした資本家層の歓心を得るためには次のようにさえ述べて支持を取り付けようと試みるのである。「われわれはいま、一挙に社会主義への移行=資本主義の廃絶を求めているのではない。今必要なのは、資本主義のわく内での民主主義的な改革である」(同前)林氏のこの解説によって日本共産党の「資本主義の枠内での可能な民主的改革」の実質的内容がよく理解することができよう。
今日の世界的不均衡の拡大とその「失われた均衡の暴力的再建」である恐慌が現実的問題として登場しようとしている時点において、その根源的変革を「遠い遠い先の問題」に追いやり、資本主義の「民主的改革」を可能として労働者に教育・宣伝しようとする、ここに根本的解決を犠牲にして目先の利益を優先させる日和見主義の典型を見出すことは難しいことではない。
日本共産党の「資本主義の枠内での可能な民主的改革」とは「資本主義の廃絶を求めない」すなわち資本主義が破綻しないための改革にしか成り得ないのである。(つづく)
2004ピースサイクル運動始動
12ネットが参加して全国スタート集会
イラクに自衛隊三軍が派兵され、憲法調査会地方公聴会としては最後の広島公聴会を直後に控えた三月六・七の両日、広島のアステールプラザを会場に、〇四ピースサイクル全国スタート会議が開催された。
この会議には、全国一二ネットから約四〇名が参加し、〇四ピースの課題をはじめ終始熱気のこもった論議が深められ、それらを集約して、いよいよ今年のピースサイクルのスタートが切られた。
会議はまず、地元ヒロシマネットの司会で開会され、全国共同代表の伊達さん、郵政中国労組委員長の吉井さんの歓迎挨拶から始まった。二人はそれぞれ身近なところで進む反動化の動きにふれながら、そうした攻勢をハネ返していくためにもピースが果たすべき役割は重要だと述べた。
続いて議事に入り、小田事務局長から基調の提案と財政報告、全国ルートと日程の調整などの実務提案がされ、戦時状況とも言うべき情勢のもとで今年のピースは「今、誰に何を伝えるのか」、本ルートと結合したプレ・ピースやさまざまな行動を企画し、地域から反戦・反改憲の取り組みを強めていくためにピースサイクルとしてどのような役割を発揮していくのかなど、各地方の取り組みをふまえた論議が深められた。
一日目の会議はここで中間的に集約され、ピースリンクの湯浅一郎さんの講演に移った。
「いま憲法九条の価値を共有したい。派兵国家への道を止めるために」と題した一時間の講演の中では、原爆ドームを円心とした半径三〇キロ圏内に米軍や自衛隊の基地がスッポリと入り、被爆都市の広島と軍転法の適用を受ける旧軍港呉が、同時に二つの海外軍事作戦を担わされている実態を暴露し、とりわけ二・一四に「おおすみ」、翌日「さみだれ」が呉から出撃していったことは、派兵国家への高いハードルを越えた瞬間であり「ヒロシマに対する挑戦だ」と弾劾した。新ガイドラインから続く流れの中で、〇三年が「三つの重大な悪法を成立させた年として忘れてはならない」が、九条がありながらこんなことが……という側面と九条があるからまだ……という二つの現実があり、九条を守ること、それを実証していくことの意義を考えてほしい。あらためて平和憲法の出番が来ているのだ。そして、引き続く派兵阻止キャンペーン、自衛官と家族への働きかけ、イラク戦争を戦争犯罪として裁く取り組みと、有事関連七法案の反対運動を強めよう、とにかく街頭に出て声を上げよう、と締めくくった。
呼びかけに応えて午後五時から原爆ドーム前に移動し、イラク派兵に反対して全参加者で座り込みと街頭宣伝を行なった。
その後は恒例の懇親会となり、仕事が終わって駆けつけたヒロシマネットのメンバーも加わって、各地の報告や交流が深められた。
翌朝再開された会議は二日目の論議に入り、「国会に改憲反対署名などを送り届ける本格的なプレ・ピース行動を九州から取り組む」新たな提案や、多くの市民に広がるピースとするための改善提案を全体で確認し、「平和への思いをつなげ、止めよう・変えようこの流れ」をメイン・コピーとして採択し、〇四ピースサイクルの構想と方針、全国事務局のあり方などを決定して、二日間の会議は成功のうちに正午に終了した。
決め事は終わった。次はプレ・ピースから夏の本番に向けた実走に移る。
〇四ピースの成功と反戦・反改憲の闘いを大きく発展させよう。
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書 評
橘木俊詔
『家計から見る日本経済』
岩波新書 七〇〇円
ここ数年、失業率は五%半ばに高止まりし、失業者は四〇〇万人に達しようとしている。政府などが発表する失業率・失業者の数は、求職活動をしているにもかかわらず職が見つからない人のみを対象にしている。この情勢では求職活動をしても無駄だと考えたり、またさまざまな事情によって求職活動をしていない人はカウントされていない。二〇〇二年一年間の全国の自殺者は三万二一四三人だった。これは二〇〇一年より一一〇一人(三・五%)増加し、これで五年連続で三万人を超えたことになる。そのうち、五〇代男性を中心に「経済・生活問題」を動機とする自殺が約八〇〇〇人に達した。また、二〇〇二年一年間に家出人は一〇万二八八〇人(前年比〇・七%、七五〇人増)。二年連続で一〇万人を超えた。ここでも中高年の増加が目立っている。将来の生活に不安を感じている人は実に七〇〜八〇%にのぼる。
これらのことは、長期にわたる経済不況が多くの人びとの生活を直撃していることをあらわしているが、小泉政権は「構造改革が進んでいる証拠だ」と強弁する。この傾向はいっそう強まっていく。
橘木俊詔の『家計から見る日本経済』は不況下の状況を分析している。一九八〇年代後半のバブル期という異常時期につづく長期不況の中で日本経済(そして政治、社会)は大きくかわろうとしているが、橘木は、これを「貧困家計の増加、失業者の増大、生活への不安、世代間抗争、社会保障改革の不徹底などの諸問題をかかえたわが国」は「ゼロ成長率、パイの増加がゼロか微小」となると見る。そして、「パイの配分をめぐって参加者が争いを始めるのは世の常である。所得分配や資産配分をめぐって、人々の間で関心が高まるとともに、高い分配をかち取ろうとする態度が強くなる」「もしケーキの量が大きく増大する(すなわち高い経済成長率)場合であれば、すべての子供のケーキ配分量は増加するであろうから、どの子供も不満はないし争いも発生しない。しかしケーキの量が増大しない(すなわちゼロ経済成長率)場合であれば、子供は分け前をめぐって争いを始める。ケンカの強い子供(強者)は多い量を獲得できるが、ケンカの弱い子供(弱者)は少ない量しか得られない」として、分配問題が正面にでてくるとしている。
橘木は言う。いま、核家族化の進行、離婚率の上昇、家族をつくらない人(単身者)の増加、家族の扶養率の低下、家族間の犯罪件数の増加など家族がしだいに「きずな」を弱めている。企業も国際競争力の強化や業績の不振を理由に、社宅、保養所、退職金、企業年金などの極端に縮小させてきている。日本でも欧米と同様に企業の法定外福利の提供は消滅していく。
こうした家族や企業の動向は、いわゆる「日本的福祉」として社会的な安定の基礎となってきたものが大きく揺らいでいることを物語っている。そうすると公共部門の役割が高まらざるをえない。しかし、「日本は大きな政府である」と多くの人が信じているが、少なくとも社会保障に関していえば「低福祉・低負担」「非福祉国家」の典型である。今後は少子・高齢化、大不況の継続によって社会保障制度が破綻する危険があることなどで不安が広まっている。
さまざまな格差の拡大、一方ではトヨタをはじめおおきな儲けを生み出す大企業があり、他方にますます貧困層が広がっている。
橘木は、「低成長下でも豊かに生きていくために」として、一種の政策を提起している。しかしこれは、情勢分析の視点とまったく整合性がないのではないか。
高成長を望めない中で、「働き手を増やす」、「倹約も一つの案である」、「リスク社会への対応を充分に」、「消費項目の見直しも必要」などをあげ、企業に対しては、「ワークシェアリングの徹底的な導入、付加価値の高い生産物やサービス財の提供へシフト、コーポレート・ガバナンスをしっかり確立して企業倫理を高め、かつ効率性の高い企業活動を行う」ようにしてほしい、政府に対しては、「法人税や社会保険料の軽減、規制緩和による自由な企業活動、労働市場の整備、労働者の職業訓練を行う」などを要求する。最後に「家計が安心して生活を送れるためには、家計の自助努力が基本的に重要なことであるが、同時に企業が雇用の場を提供し、政府が社会保障制度の安定を確保することが大切である」と締めくくっている。
はじめには、「低い」経済成長率を前提にして、生産ではなく分配が強調されていた。しかし、強者・弱者の「第一次」の分配、すなわち、多国籍企業化した大企業の儲けは前提とされている。資本との「分配」をめぐる闘い(賃労働対資本)の必要性の強調はほとんどなく、ワークシェアリング論でも世代間格差・競争などでのパイの分配に力点がずらされているのではないか。これでは、分配論でも、強者の取り分を当然とした、弱者内の「第二次」分配の視点だけにとどまってしまっている。最後の企業・政府への「期待」についてだが、橘木が期待するのとは逆の動きをするのがかれらの本性なのではないか。
しかし、所得格差の拡大が進んでいること、低賃金の根源は低すぎる最低賃金にあること、大企業に働く三〇〜四〇歳の男性を中心に一部の人の長時間労働と一方での失業不安の並存、高まる将来への不安が消費の抑制と貯蓄の取り崩しにつながっていることなど現状の厳しさの指摘は重要なものだし、「弱者内部の格差」・矛盾を、内部矛盾として正しく処理することについていくつかのヒントも提起されている。
小泉の構造改革攻撃が、働く者、働きたくても職のない者にいかなる影響を与えているかを知る一助として、読んでおくべきものであろう。 (K)
川柳にあらわれた日本社会
毎年、恒例のことではあるが、一七回目になる第一生命保険の「サラリーマン川柳コンクール一〇〇編」が発表されている。不況を反映した作品が多い。ここから投票で一〇編を入賞にするというが、以下は筆者の勝手な基準による選抜三五作品。
(S)
●ビール腹? いーやパパのは 発泡腹(あわっぱら)
凍児
●マニフェスト 選挙おわれば ただの紙
小市民
●オレオレと 昔はサッカー 今は金
詐欺師
●ペットより 安い服着て 散歩する
光かんじ
●やめるのか 息子よその職 俺にくれ
独楽
●愛妻の 母看る背中に 手を合わせ
夜討ち朝駆け亭主
●着メロの 「乾盃」が鳴る 通夜の席
松の葉
● 小遣いが 欲しいと父も チワワの目
閑人
●社内では ウけたサラ川 妻怒る
仮面ノリダー
● リストラで 辞めれる奴は 出来る奴
IT不況
● 使えない 夫とパソコン 部屋を占(し)め
アナログママ
●値上りで タバコも吸えず 健康体
末練
●飲み放題 気がつきゃタクシー 一万円
飲み介
● 成果主義 成果挙げない 人が説き
詠み人甚吉
● 始末書も 数をこなせば 名文集
懲りない奴
●アミノ酸 効かない俺は 年長系?
劣る大総左遷
●回わらない 寿司もあるの?と 聞く息子
うめさん
●禁煙は 体のためより 金のため
上野動物園のさる
●イナズマで 我家のテレビは
廃ビジョン地上派
●無担保で 子ども銀行 頼るパパ
単細胞
●「オレオレ」と 帰るコールに どちら様?
地上の干柿
●効率化 進めた私(わたし) 送別会
粋徹
●無駄省け 言ってた上司 省かれる
酔う茶
●ごみ出しを 忘れて会議 上の空
一人静
●いつからか? 父さん(倒産)禁句
パパと呼ぶパチプロ
●オンリーワン 職場じゃただの 変わり者
ロンリーワン
● 結果見て 体調くずす 人間ドック
ストレスマン
● 通知表 ナンバーワンより オンリーワン
ぽん子
● 定年後 犬もいやがる 五度目の散歩
鉄人28号
● 「課長いる?」 返ったこたえは 「いりません!」
ごもっとも
● 好景気 ハローワークが 独り占め
恐妻家
●「がんばれよ」 ならば下さい がんばる場
かちぐり子
●組合が 会社の無理を 説明し
和田さん命
● ホウ(報)レン(連)ソウ(相) そう言う上司は
秘密主義
人事異動を待つ部下
●おじさんも 世界で一つの 花だよね
なんやっ中年
複眼単眼
立川ビラまき逮捕事件と人権 マスコミの勘違い
本誌前号に「茶色の朝」の紹介が載った。
同じ号に立川市での自衛隊官舎ビラ配布への弾圧についての市民団体の声明も載っている。社会保険庁の職員が居住地で休日に赤旗号外を配布したかどで、逮捕される事件も起こった。こんなことが許されるのか、あらためてこの社会もだんだん「茶色」に染められつつあることを感じる。
立川の件は朝日新聞が社説で逮捕を批判して取り上げた。久々の快挙だと言わなければならないのは悲しいことだが。
赤旗は連日、同党関係者の号外配布の不当逮捕を報じていたが、注意してみていたらその後、立川のビラの件も報道した。これも結構なことだ。
立川での家宅捜索・逮捕はビラ配布から一カ月も過ぎてからの令状逮捕であり、捜索にはフジテレビのカメラが同行し、逮捕された市民の顔や姿がモザイクもかけずに放映されたという。
そういえば先月末のオウム真理教の麻原教祖の裁判報道も異常だった。これについては週刊金曜日三月三日号に同志社大の浅野健一教授が「犯人扱いに反省ないメディア企業」という一文を書いているが全く同感だ。
浅野氏は東京地裁の判決が出る前の夕刊各紙が「死刑判決へ」などと書いたことを世界の文明国の一般紙ではあり得ないことと批判した。そして各メディアが、だれでも裁判を受ける権利があり、有罪が確定されるまでは無罪を推定されるという原則を無視して、弁護団が引き延ばし戦術をとったとか、被告に黙秘を指示したなどと非難。さらに麻原教祖を落ちた偶像とか、小心な俗物などと人格攻撃した。さらに被害者遺族がそう言ったとしても「敵討ちがしたい、死刑以上の判決を望む」とのコメントをそのまま載せていいのか、などと指摘している。
そして松本サリン事件の被害者で、当初は加害者扱いされた河野義行さんが「控訴審でも確定判決が出るまで、被告人は無罪を推定されるという考えは変わらない」「地下鉄サリン事件が起こっていなかったら、私はずっと犯人扱いされていた」「一日も早く犯罪被害者の救済基本法が整備され、被害者が報復感情のみで心のバランスをとっていくような社会から脱却したい」とのべたことを紹介している。筆者は常々、河野さんのこの考え方、冷静さを失わない、それでいて厳しい権力との対峙の仕方に感服している。
そして小泉首相が「あれだけの大犯罪ですから、死刑は当然」と述べたことを、三権分立の意味さえ知らない憲法蹂躙首相の不当発言と指弾し、それを無批判に報道するメディアの姿勢と責任も指摘した。
このところ、警察に逮捕されたら直ちに犯人扱いをするという報道の在り方が常態になっている。立川でテレビが家宅捜索に付いていったというのは驚きだ。「無罪」になったらどうするのか。もともとこの件は、憲法的な立場に立てば有罪であるはずがない。
弁護士が被疑者に「黙秘権」を教えるのは当然だし、この権利は逮捕するときに警官が伝えなければならないことだ。「引き延ばし」などで弁護団を攻撃するのは間違っている。弁護団は最大限、被告の権利を守って、真実を明らかにするために闘わなくてはならないし、当然のことだ。このこととサリン事件という無差別殺人事件の犯人に責任をとらせる問題とは次元がことなるのだ。
感情に訴えて、人権を破壊するのは、「茶色の朝」への道だ。(T)