人民新報 ・ 第1133 号<統合226> (2004年6月5日)
  
                  目次

● 有事関連法案、入港禁止法案の廃案と日朝平壌宣言の実行、国交正常化を

● 憲法改悪に反対し9条を守る署名  約15万筆に  6月1日に第三回目の署名提出

● WORLD PEACE NOWが自己責任論でシンポ開催

● 自衛隊派兵反対 ! イラクに平和を !使い捨てはゴメンだ ! 安心して働ける職場を ! 2004 春の共同行動

● 鉄建公団訴訟の第15回口頭弁論

● 資料チェック / 自民党憲法調査会で何が議論されているのか

● ナカソネ元首相の尋問を

● 図書紹介 / グローバル・ウォッチ編集 「日本政府よ!嘘をつくな!」

            辛 淑玉著「怒りの方法」(岩波新書)

● 複眼単眼 / お粗末な審議実態の憲法調査会

● 夏季カンパの訴え / 労働者社会主義同盟中央常任委員会



有事関連法案、入港禁止法案の廃案と日朝平壌宣言の実行、国交正常化を

【片手にナイフ、片手で握手の小泉内閣】


 六月一日、衆院国土交通委員会は自公民三党の賛成で「特定船舶入港禁止特措法案」を可決した。これによって同法案は今国会で成立確実となったとされている。これは本年二月の外為法「改正」につづく二つめの対北朝鮮「経済制裁」法の強行だ。
 こうした法案の強行は、おりから参議院で強行されようとしている「有事関連七法案、三条約協定」とともに、いたずらに北東アジアの緊張を激化させるものだ。そして小泉首相が先の日朝首脳会談で再確認した日朝平壌宣言と、国交正常化のための対話の開始という国際公約に真っ向から反するものであり、この間、北京で開催されてきた六者協議の方向に対する逆流ともなるものだ。 これは片手でナイフを突きつけながらもう一方の手で握手を求めるという欺瞞的なものであり、ここに小泉内閣の「対話と圧力」路線の本質があらわれている。
 北東アジアの平和と共生をねがうすべての人びとは、全力をあげてこれらの悪法に反対し、参議院での可決を阻止する行動を強めなければならない。

【日朝首脳会談の確認の誠実な履行を】

 五月二二日、小泉首相は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌を再訪し、金正日国防委員長と首脳会談を行った。会談では二〇〇二年九月の日朝平壌宣言の再確認と、国交正常化交渉の再開、日本人拉致問題の解決、核・ミサイル問題、対北朝鮮人道支援問題、在日朝鮮人問題などが話し合われ、五人の拉致家族の来日と、他の拉致被害者の再調査、食糧援助などが確認された。また小泉首相はこの実現にあたっては「経済制裁を発動しない」ことなどを約束し、金委員長はミサイル発射実験の凍結を約束した。
 北東アジアの平和をめざす私たちは、日朝首脳会談でのこれらの確認を歓迎し、両国政府が日朝平壌宣言を誠実に実行し、諸課題を解決して、早期に日朝国交の正常化を実現するよう要求する。

【民衆の力で北東アジアの平和と共生の実現を】

 一年八ヶ月前の日朝首脳会談による「平壌宣言」は、北東アジアに緊張緩和をもたらすものとして期待されたが、その後の事態はこの期待を大きく裏切るものとなった。
 この間、小泉内閣は北朝鮮の脅威論を煽り立て、拉致問題でのキャンペーンを通じて民族排外主義を蔓延させてきた。これを使ってブッシュの戦争政策に加担し、日米軍事同盟路線をいっそう押し進め、とうとうイラクにまで重武装した自衛隊を派遣するに至った。
 合わせて有事関連三法を成立させ、いままた有事関連七法案などを成立させようとしている。これらの戦争法は米国が北東アジアで引き起こす戦争挑発に呼応して、日本が参戦することを可能にするものであり、またグローバルな規模での米国の戦争にいっそう協力するためのものだ。
 もし小泉内閣が北東アジアの平和と共生を誠実に願うのなら、こうしたダブルスタンダードをやめなくてはならない。
 私たちは先の平壌宣言の際にも指摘したが、この「宣言」は今日の国際環境と、日朝両国の置かれた立場から合意された妥協の産物でもあり、問題の真の解決にとっては不十分な面を残すものであることもまた忘れてはならない。とりわけ宣言で確認された過去精算問題への対処は不十分であり、日本政府は明確に植民地支配を謝罪し、軍隊「慰安婦」問題や強制連行問題などでの補償を早急に実行しなければならない。
 いま小泉内閣は「対話と圧力」などという欺瞞的な政策を継続することで、いつでも国交正常化への流れを中断できる態勢をとっている。国内政局の流れや米国の動向によっては、前回の首脳会談のあとと同様に、両国民衆の平和への願いが暗転させられる可能性も少なくない。
 こうした動きを許さないための日本の民衆運動の責任は極めて大きい。


憲法改悪に反対し9条を守る署名  約15万筆に  6月1日に第三回目の署名提出

 二〇〇四年五・三憲法集会実行委員会事務局(憲法会議、市民連絡会、生かす会、女性ネットなど八団体で構成)は、六月一日午後、衆議院議員面会所で三回目の署名提出集会を開き、全国から寄せられた署名七八五六〇筆と団体署名六七六団体分(第一回と第二回は合わせて約七万筆)を衆議院議長に提出した。  この日の提出行動には社民党の阿部知子衆議院議員と共産党の山口富男衆議院議員が出席し、挨拶した。集会では宗教者平和協議会の石川事務局長、女性の憲法念連絡会の堀江事務局長らが挨拶した。


WORLD PEACE NOWが自己責任論でシンポ開催

 イラクのバグダット近郊で日本人ジャーナリストらが銃撃で殺されたという情報が大きく取り上げられている中、WORLD PEACE NOW主催のシンポジウム「『自己責任』をめぐって」が、五月三〇日午後都内で開かれ、約一〇〇名の市民が参加し、三時間あまりにわたったパネリストの発言に熱心に耳を傾けた。
 このシンポは先にイラクで起こった五人の日本人の拘束事件に際して政府などが意識的にキャンペーンした「自己責任」論を総括するために計画されたが、折からの事件と合わせジャーナリズムのあり方などについても議論になった。
 パネリストはアジアプレス・インターナショナル代表の野中章弘さん、ピースボートの吉岡達也共同代表、司会も兼ねてVAWW−NET Japan共同代表の西野留美子さん。
 西野さんは「多くの国々の人びとがイラクで拘束され、人質にされているが、自己責任論など集団的バッシングをやったのは日本だけだ。国際社会からはこうした日本に対して、疑問が噴出し、日本の『民主主義』の成熟度についての批判がでている。このバッシングはジャーナリズムやNGOの活動を明らかに萎縮させている」とのべた。
 野中さんは「自分が活動してきたこの二〇数年、今ほどマスメディアが萎縮し、政府に寄り添っている時はない。自己責任論はこの流れの中で出ている。フリーランスのジャーナリストは戦場の実態を伝えようとする。なぜならそこで非常に多くの人びとの命が奪われているからだ。この命がなぜ奪われなければならないのかを問いかけ、考えさせようとする。戦争の報道は戦場でしかできない。その場合、国家に寄り添った形で報道することは危険だ。戦争は国家によって行われるのであり、これは日本人の歴史的反省だ。われわれは国とは異なる価値観で、我々自身の判断で行動するのだ。戦場の取材で命を落とした人びとには必ずミスがある。これを避けなくてはならないが、避けがたいことでもある。しかし事故があったからフリーランスはダメだということではない。ファルージャの歴史的虐殺はどうしても記録されなくてはならない。取材は必要なのだ」とのべ、日本政府は「邦人保護など、全くやっていない。大使館がやっているのは外交ではなく『内交』で霞ヶ関だけを向いている」と指摘した。
 吉岡さんは「三人の人質事件でカタールのドーハにあるアルジャジーラTVに飛んだが、当初、イラクの人びとの多くは三人が自衛隊関係者だと思っていた。だから三人がNGO関係者とジャーナリストだということを伝えたかった。日本大使はアルジャジーラに一度も来なかったし、小泉首相はチェイニー副大統領が来たときに、あれはテロリストだ、自衛隊は撤退しないとわざわざ言明した。イラクの人びとは小泉は人質を助けるつもりがないのかと怒っていた。解放後、アルジャジーラが大使の出演を要請したのも断った。私は自己責任論の一〇〇倍ぐらいにして政府責任論を帰したい気持ちだ」とのべた。
 会場からの質疑応答のあと、その日にだされたWORLD PEACE NOWの緊急声明が紹介された。

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WPNの緊急声明

 日本人ジャーナリスト襲撃事件の責任は日本政府の自衛隊派兵にあります。自衛隊の即時撤退と、占領の終結、イラクの人びとへの主権の返還を要求します。

 五月二七 日、イラクのバクダット近郊マハムディヤの国道で、日本人ジャーナリスト(橋田信介さん、小川功太郎さん)らの乗った車が何者かの銃撃を受け、橋田さん、小川さんらが亡くなったと報道されています。この二人はフリーのジャーナリストとして、ともすれば覆い隠されがちなイラクの戦場の実態を取材活動を通じて日本をはじめ世界むけて発信し、イラクの市民たちに心を寄せながら戦争の終結を願って行動してきた人たちです。この間、米英軍など「有志国」軍のイラク攻撃と占領に反対し、自衛隊の派兵に反対し、占領軍の撤退を要求してきた私たちは、このたびの事件を深く悲しむと同時に、こうした攻撃に対し、心からの怒りと抗議の意志を表明します。

 この襲撃者が何者であるのかは不明ですが、このところ、ファルージャやナジャフ、あるいはバグダット周辺などで米軍が激しい軍事攻撃を行い、あるいはイラクの人びとへの拷問・虐待事件を引き起こしてきたことと関連があるであろうことは容易に想像がつきます。とりわけ自衛隊のイラク派兵、占領加担がイラクの人びとの日本人への失望と怒りを呼び起こしていることは理解に難くありません。自衛隊の駐屯するサマワの街ではまた砲撃事件がありました。

 もはやサマワもふくめイラク全土が戦闘地域であることは明らかで、この現実は小泉内閣が自衛隊派兵の根拠としている「イラク特措法」にすら反しています。先般の五人のNGO活動家やジャーナリストの拘束事件に際しても、政府は自衛隊撤退を拒否し、あろうことか「自己責任」論まで振りまいて自らを正当化しようとしましたが、今回も日本政府はひたすら米国政府の顔色をうかがうだけで、自衛隊を撤退させようとはしていません。こうした小泉内閣の姿勢は憲法第九条を持つ国の政府として絶対に許されるものではありません。

 私たちは今回の事件の責任が日本政府の自衛隊派兵にあることを厳しく指摘し、自衛隊の即時撤退と、占領の終結、イラクの人びとへの主権の返還を要求して運動を続けることを声明します。

二〇〇四年五月三〇日

WORLD PEACE NOW実行委員会


自衛隊派兵反対 ! イラクに平和を !使い捨てはゴメンだ ! 安心して働ける職場を !

           
2004 春の共同行動

 五月二六日、「自衛隊派兵反対!イラクに平和を」「使い捨てはゴメンだ!安心して働ける職場を」「生活できる賃金を!お互いに助け合える職場を」「働くものすべてに差別のない同じ権利を!職場に均等待遇を」をスローガンにして「私たちの声を政府へ、国会へ! 二〇〇四春の共同行動」が闘われた。
 午前一一時からは横浜商銀(解雇 神奈川シティーユニオン)、厚生労働省(労働法制改悪)で申し入れ、戦後補償を闘う人びと(強制連行全国ネットなど)とともに国会請願、みずほ銀行本店(全統一光輪モータース分会)、郵政公社(郵政ユニオン ユーメイト人権問題、4・28不当処分など)への抗議・申し入れを行った。

 一日行動の最後は、総評会館での「二〇〇四春の共同行動集約集会」で、田宮高紀全統一委員長の主催者挨拶があり、つづいて来賓挨拶の藤崎良三全労協議長、金田誠一民主党衆議院議員、福島瑞穂社民党党首の発言があった。
 今日一日の行動報告を受け、韓国で開かれるアジア社会民衆運動会議への呼びかけ、ストップ!メール通報運動から闘いの報告が行われた。
 共同行動有志団による」「イラクに平和を!反戦替え歌」があり、全員で合唱した。
 「世界の大国アメリカの 嘘つきブッシュが旗振って イラクの市民の血を流す 親子二代の人殺し ソレ!みんなで平和を取り戻そう! ……
 不戦の誓いを忘れずに 武力頼らぬ国として 憲法9条貫いて 必ず伝える子々孫々 ソレ!みんなで平和を取り戻そう!」
 各地からの報告は、大阪(教育合同)、京都(共同行動ネット)、北関東ユニオンネット、神奈川からは全造船関東地協がおこなった。リレーアピールは、郵政ユニオン、埼京ユニオン、神奈川シティーユニオン、国労闘争団、千葉市非常勤労働組合、全統一ケーメックス分会、下町ユニオン、電通労組、全統一外国人労働者分会からの決意表明がつづいた。
 採択されたアピールは、「私たちは戦後教育を通して、我が国が先の大戦の反省に立ち、二度と武器を持って他国に踏み入らないことを教えられた。国の将来を決定する権利は、国民・市民にあることを学んだ。小泉政権は、日米同盟を口実に、自衛隊を派兵して戦争のできる国作りを進め、世界の市民一労働者を苦しめるために、私たちの血税をつぎ込んでいる。このデタラメな政治に対して、私たちは今、NO!を突きつけよう。弱い者が、より弱い者を圧追する世の中にしてはならない。
働き方の違い、男女、年齢の違い、国籍や民族の差別が無く、一人一人が、社会にとって有用で価値ある存在として、この国で、世界の仲間と連帯して、声を上げていこう。子供たちの世代に平和と民主主義を、必ず守り伝えていこう。この決意を、今宵ここに集う全ての仲間とともに確認する」と述べている。


鉄建公団訴訟の第15回口頭弁論

 五月三一日、鉄建公団訴訟の第一五回口頭弁論が行われ、北海道・深川闘争団の太田孝一さんが陳述した。

 夕方からは、シニアワーク・東京で「裁判報告集会」が開かれた。
 主催者あいさつで二瓶久勝国鉄闘争共闘会議議長が、闘いの成否はこの一年から一年半にかかっている、勝利に向けて総力をあげよう、と述べた。
 裁判報告は、佐藤昭夫弁護士(鉄建公団訴訟弁護団団長)と萩尾健太弁護士(鉄建公団訴訟弁護団事務局長)から行われた。
 佐藤弁護士は、国側がILO結社の自由委員会へ虚偽の追加情報を提出したことに対して提起された国家賠償訴訟について説明した。
 五月二四日、鉄建公団訴訟原告の代表六名は、国を相手に国家賠償請求訴訟を提起した。訴訟は日本政府がILO結社の自由委員会に出した政府情報は「事実に基づかず原告の名誉を毀損した」とし謝罪広告と慰謝料の支払いを求めるものである。
 萩尾弁護士は、今後の闘いについての報告を行った。
 裁判闘争で勝利するためには、裁判官にきちんとした判断をさせる必要がある。そのひとつは、国鉄の分割・民営化時の責任者を証人尋問に呼び出すことだ。当時の国鉄総裁、運輸相、とくに行革の責任者中曽根元首相を証人とすることだ。それに音威子府への現場検証を実現することで、裁判官自身に現地の状況をよく理解させることだ。また、公団側は採用差別やいい加減な就職斡旋に関する文書類を出さない。すでに廃棄したなどといっているが、それらの証拠書類の提出命令をださせるための申請を行う、そして不当労働行為を立証するために原告団の個々人がしっかりした陳述書を作成することが必要になっている。こうした課題をやりとげて闘いに勝利する展望をひらこう。
 つづいて、国鉄闘争を拡大する武器となってきた「人らしく生きよう パート2 (新たな出発)」のダイジェスト版が上映され、制作者の佐々木有美さん、松原明さんの両監督が発言した。

 各地区・団体の国鉄闘争への取り組みの報告は、関西、東京中部、東京三多摩と女性応援団から行われた。
 最後に、酒井直昭原告団長が決意表明を行い、参加者全員の団結ガンバローで集会を終えた。


資料チェック

  
 自民党憲法調査会で何が議論されているのか

【自民党憲法改正PT】


 衆参両院に憲法調査会(中山太郎衆議院憲法調査会会長、上杉光弘参議院憲法調査会会長)があるだけでなく、自民党(保岡興治会長)にも公明党(太田昭宏座長)にも民主党(仙石由人会長)にも、それぞれ党独自の憲法調査会がある。
 自民党憲法調査会は会長が山崎拓のダミーといわれる保岡興治衆議院議員で、会長代理が瓦力衆院議員と桜井新参議院議員、特別顧問が山崎拓、事務総長で党憲法改正プロジェクトチーム(以下、PTと略)の座長を兼ねるのが杉浦正健衆議院議員だ。プロジェクトチームには座長ほか衆院十六人、参院一〇人で構成されている。
 このPTは昨年七月には「安全保障についての要項案」をまとめ、十二月末から基本的には毎週定例会を開いて憲法改定の検討を重ねて、四月一五日第十三回の会合で、PT議論の整理を行った。近く、これに基づいて自民党の改憲要綱案が出される予定だ。

【部分改憲か全面書き換えか】

 昨年まとめられた安全保障要項案は全五項目で、第一が「国家の自衛権」、第二が「自衛軍」、第三が「国民の責務」、第四が「国家緊急事態」、第五が「国際貢献」となっている。第一では「個別的及び集団的自衛権を有する」とし、第二では自衛軍の保持を明確にして、軍人の基本的人権の制限や、軍法会議の設置などを確認。第三では国民の国防の義務を規定、第四では武力攻撃事態、テロリストなどの大規模争乱、大規模自然災害などでの国家緊急事態宣言とその措置、第五は国際貢献で自衛軍の軍事力を行使できる、などとした。
 これは現行憲法の前文と第九条に代表される非戦・非武装の理念の完全な否定だ。自民党の改憲論の基本は、この安全保障条項の改憲案を真っ先に作成したことにあらわれているように、眼目はここにある。しかし、同時に、いずれ現行憲法の全面改定を進めたいという要求は強く、PTでは現行憲法の全面的な再検討を進めている。 改憲が九条その他の部分改憲になるか、全面改憲で新憲法の採用となるか、改憲派の意志はまだ不確定なところはあるが、いまのところ、部分改憲になる可能性が高い。なぜなら、改憲による集団的自衛権の行使は、米国の要求としても、また日本の支配層の要求としても緊急の課題だからだ。これをもし改憲なしに、歴代の政府が認めてこなかった現行憲法の拡大解釈で集団的自衛権の行使を可能にすれば、改憲の課題の様相は大きく異なることになり、多少時間がかかっても全面改憲ということもありうるかも知れない。
 以下、PTの主要な議論を介する。

【前文について】

 今年一月二九日、杉浦座長はPTの開会挨拶で「PTは現在の前文は、書き換えるという理解で共通の認識を有していること」を確認している。これは今後の改憲の方向を予測する上で見逃せないことだ。
 渡海紀三朗衆院議員は「各国の憲法に比較して、この憲法に欠けているのは、わが国のかたち、アイディンティティである」とのべ、坂本剛二衆院議員も「いまの日本人の持っていないものは『日本人の誇り』だ。日本の歴史を認識していないからこうなる」、平井卓也衆院議員は「『十七条憲法』や『五箇条の御誓文』のように日本の文化、伝統、国柄がにじみでるべきもの。健全な愛国心等」、あるいは森岡正宏衆院議員の「人には人柄、国には国柄がある。いまの憲法前文からは、この国がどういう国なのか、どういう国柄にしたいのかが全く見えてこない。どこの国にでも通用するような美辞麗句が並んでいるだけだ」と歴史・伝統・文化を書き込む意見が多い。
 また中野清衆院議員の「前文は、美しい日本語の真価が問われるもの。現行憲法前文は、侘び証文のようなもので、これでは困る」とか「現憲法は、天皇制と第九条はバーターの関係にあった状況の中で、天皇制のほうをとったということを基本認識とすべき。従って、第九条の見直しをすれば、それを前文に反映すべき」というような意見もある。

【安全保障について】


 この問題では前述したように昨年、PTの改定要項案がでているが、三月二五日に再びPTで議論し、多くが第一項はこのまま、第二項を改定し、自衛軍の明記と国際協力のための軍の役割も明記するという意見が多数。その日は以下のような意見が出た。
 桝添要一参院議員は「近年のテロ特措法から最近のイラク新法まで、そしてまた片一方で有事法制をやって、今国会で国民保護の法制をつくる。その基本になる大きな規定が憲法に欲しいと思うので、ぜひ浮上自体を規定する条項を入れて頂きたい。憲法九条は明確に改正すべきだ。ただ政治的ないろいろな問題があれば、段階的な案として、解釈改憲、そして条文の改正、そういうプロセスも是とする」とのべ、玉沢徳一郎衆院議員は「現在の九条ではどんなに拡大解釈しても集団的自衛権の行使はでてこない。ここをまず認識したうえで憲法を改正する、九条を改正するという議論をしなければ、集団的自衛権はあるのだけれども、行使できない、それは内閣法制局の解釈だと、こんな議論をやっていたのではいつまでたっても何も前進しない。拡大解釈はもうできないという認識の上で改正論を主張していったほうがいい」と述べた。
 自衛隊「違憲論」も多い。「第九条の二項、『陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない』と書いてある。自衛隊は軍隊であると言うことを明記するか、軍隊を持つことができると言うことをきちんと明文化してもらいたい」(諸岡衆院議員)、「純粋に条文だけで判断すると、どうみても我が国で武力、陸海空軍をもてるというのは、この条文からは判断できない。ということで、いままでわが国がやってきた解釈改憲というのは無理があるのではないか。はっきりと誰が見てもわかるような文言にすべきだ」(大前繁雄衆院議員)、「誰が見ても二項に現象的には反しているということは、憲法に対する国民の信頼がもう失われているということがひとつある。第二項の問題というのは、この文章だけみて、自衛隊が存在するということを、今まで苦し紛れの議論が多かった」(中野清衆院議員)などだ。
 こういう危険な論調もでている。
 「イギリスがフォークランド島がアルゼンチン軍に占領されたときに戦争を仕掛けていったように、拉致その他の問題の時に国の命運をかけてでも、危険を冒してでも軍事力を使わざるをえない、あるいは政治的な意味の軍事力をつかわなければならないということがなければ、憲法九条を改正する意味が全くない。やはりそこの危険負担は政治家、国民がともに背負わなければならないわけで、そういう意味において二項のようなおかしな条文は断固乗り越えなければならない」(松村龍二参院議員)、「今の変な若者が育ったということの原点を直す必要があるわけで、国を守る、そのために軍隊を持つ、防衛対を持つと、そういったことははっきり主張しておいたほうがいいのではないか」(奥野信亮衆院議員)などと、いけいけドンドンの意見だ。
 これにたいして「正直言って超タカ派だと自分でも思っております。しかし、本当にタカ派だからこそ、こういう時代には、みんながそれいけドンドンというけれども、ちょっと待てよ、ちょっと待てよという考え方もしないといかんのではないか。……あの国債の伸び率をみたときに、日本人というのは太平洋戦争の総括をしていない、反省も全然していない、同じことを平気でやっていくんだ、それいけドンドンでやっていく民族なんだと思って、心配になってきました」(谷川一衆院議員)というのがでたほどだ。

【国民の権利及び義務について】

 ここでは「国防の義務」の明記という主張がしばしばでてくる。とくに森岡衆院議員はいつもながら改憲珍論の名物男だ。
 「いまの日本国憲法をみておりますと、あまりにも個人が優先しすぎで、公というものがないがしろになってきている。個人優先、家族を無視する、そして地域社会とか国家という者を考えないような日本人になってきたことを非常に憂いている。夫婦別姓が出てくるような日本になったということは大変情けないことで、家族が基本、家族を大切にして、家庭と家族を守っていくことが、この国を安泰に導いていくもとなんだということを、しっかりと憲法でも位置づけてもらわなければならない。先進国で二〇歳以下の若い人たちに体を動かす団体活動をさせていないのは日本だけだということをききました。私は徴兵制というところまではもうし上げませんが、少なくとも国防の義務とか奉仕活動の義務というものは若い人たちに義務づけられるような国にしていかなければならないのではないかと……いまの日本はあまりにも権利ばかり主張しすぎる、個人ばかり強調しすぎる。もうすこし調和のある憲法にしていただきたい。三つしか義務がないような日本国憲法では困る」と、これが自民党内の改憲論の一つの典型だ。憲法も、人権も、なにもわかっていない。
 同様にこういうウルトラもいる。「わが国の場合、最も大切なことは、記紀の時代から律令の時代、武家政治の時代、そして明治の時代、マッカサーの占領下においても、皇室が精神的な支柱になり、国民のシンボルとしてずっと国を支えてきたから、この国がある。そういう意味で皇室に関する規定が第一条にあるべきだ。現行憲法第一章以上にもっとしっかりと皇室の大切さを書いて、最後に憲法尊重義務をきちんと規定しておけば、絶対に将来ともほかの問題でわれわれが説得にこまるということはない」(大前繁雄衆院議員)とか、「少なくともせめて緊急時に国を守っていくということについて義務があって当然だ」(野田毅衆院議員)がある。

【改憲案のとりまとめは】

 自民党の憲法調査会にしても、また両院の憲法調査会にしても、これら憲法前文と一〇三条の健闘を終えた形で、憲法の問題点をまとめるだろう。
 今年一月二九日の第三回のPTの会議で中山太郎衆議院憲法調査会会長がこう述べている。
 「衆議院憲法調査会会長の立場の責任を痛感している。改正のための調査を四年間やってきた。衆議院の憲法調査会も最終年を迎えることになるのが、この会期末までの日程は、すでに与野党間で合意しており、一〇三カ条についての調査が終了する。最後の地方公聴会を三月一五日に広島で行い、その後は中央公聴会を開く予定である。憲法調査会はおおむね五年をめどという申し合わせになっているが、憲法改正に向けて、自民党、民主党、公明党が踏み出したことは歴史的な大きな出来事である。衆議院憲法調査会では、憲法前文は、最後に議論するとの考え方に立っている。これからの一年は、日本の形を決める一年になる。海外調査でロシアを訪問した際、ロシア側から『絶えず憲法は変えるべきだ』といわれた。王政の国には、女帝の問題があるが、わが国にはご承知のように、推古以来八人の女帝の歴史がある。とりまとめをどうするか? 三分の二がとれなければ改正できない。それをわれわれが作っていかなければならない。これは国会議員に与えられた義務であり、権利である」と。
 中山は衆院憲法調査会の会長として、とりあえず、どのような改憲案をとりまとめるかについて苦慮している。国会の三分の二の賛成を得るためには、全面改憲案をつくるのは至難のワザだ。すでに指摘したが、自民党憲法調査会のPTで議論されている憲法批判と、実際に作られる改憲案はこうした国会の力関係、世論の中での力関係を考慮して作られざるをえない。改憲派内の調整もなかなか容易ではない。 (鈴木治郎)


ナカソネ元首相の尋問を

 一九八七年の国鉄の分割・民営化は、時の中曽根康弘首相の「臨調・行政改革」攻撃の目玉商品として強行された。それは今日の大リストラ旋風の時代の幕をあけるものであり、政治の反動化、自衛隊の海外派兵、憲法改悪までも視野にいれたものであった。
 国家的不当労働行為の責任は国鉄にあり、現在はその承継組織である鉄建公団にある。東京地裁民事三六部で闘われている鉄建公団訴訟では、JRへの採用差別をされた事件の重要な証人として中曽根を申請している。ルポライターの鎌田慧さんや鉄建公団訴訟主任弁護士の加藤晋介さん、前衆議院議員の川田悦子さん、国労高崎地本委員長の中村宗一さんなどの呼びかけで、キャンペーン<こんな日本に誰がした 首切りの責任とってよ!ナカソネさん ―中曽根元首相の尋問を鉄建公団訴訟で実現しましょう― >がはじまった。現在、署名運動が行われている。

こんな日本に誰がした 首切りの責任とってよ!ナカソネさん

 ……ナカソネさん、あなたは一九八七年に首相の時「行革でお座敷をきれいにして立派な憲法を安置する」と公言されましたね。そしてその後、NHKのインタビューやアエラ誌などで、国鉄改革は「国労をつぶせば総評がつぶれるということを意識してやった」と発言していました。労働組合をつぶすなどという「犯罪行為」を白昼堂々とおやりになったのですね。

 中曽根路線は小泉政権に引き継がれ、おかげでいま、憲法も民主主義もがたがたです。ぜひ法廷にきて証言してください。あなたが言ったこと、やったことを正直に話してください。こんな日本にした責任、あなたにないですか?

 カモン(喚問)大勲位ナカソネさん!


図書紹介 

 
  「日本政府よ!嘘をつくな!」

     グローバル・ウォッチ編集 A5版並製184頁 発行・作品社 本体定価1500円 

 「日本政府よ!嘘をつくな!」という本書のタイトルは刺激的であるが、あの激動の一〇日間、市民たちは「小泉首相よ、せめてじゃまをするな!」というスローガンを官邸前で何度叫んだことだったろうか。九日昼には「政府は三人を全力で救出せよ!」と叫んだ市民たちは、一〇日になると「政府はじゃまをするな!」と叫んでいたのだ。実際の「人質」救出にあたって、これほどに主体の位置関係が明瞭に示されたスローガンはない。官邸前に結集した人びとの間には、すでに解放の主体は市民だという自覚があった。
 五人の解放が実現すると、それまで無為無策だった小泉内閣は、こんどはもったいぶって「さまざまな手だてを講じた」「相当の資金がかかった」ことをほのめかしながら、「自己責任論」を振りまいて反撃に出た。まさに自らの無為無策の責任を「人質とその家族」に転嫁しようとしてきたのだった。これに一部マスコミや週刊誌などのさまざまなメディアが悪乗りして、人権無視のバッシングにでた。
 本書はそのバッシングの嵐の中で、それに反撃しようとして緊急出版されたものだ。
 当初はイラクの民主化運動のリーダーの一人、イラク民主的国民潮流(CONDI)のスポークスマンであるアブデル・アミール・アル・リカービ氏が昨年一二月、来日して小泉首相と会談した際の日本政府による情報操作を暴くために企画された本だった。ところが、その作業中に日本人三人の人質事件が発生、当のリカービ氏がその渦中に巻き込まれて活躍することになった。あげくに日本政府が解放を実現したのは政府であるかのように宣伝し、さらに人質へのバッシングを始めたことから、本書の子機核とタイトルは前述のように変わったのだ。
 今回のイラクでの人質解放にあたって、市民運動が作り上げつつある国際的なネットワークと、それを結びつけるインターネットがいかに大きな威力を発揮したか、本書の読者は確信を持つだろう。
「拉致された人たちの解放がさまざまな人びとによって呼びかけられ、それはイラクの関係者にも驚くべき早さで届けられた。また情報収集の呼びかけに応えて寄せられた無償の情報によって、私たち市民の側は、日本政府はもちろん、『アル・ジャジーラ』や他のマスメディアよりも早く、重要な情報を入手しえたのである。そして、公開可能な情報は『グローバル・ウォッチ/パリ』が、連日、日本にインターネットを通して発信しつづけた。そして、それはさまざまな市民団体のメーリングリストに転送され、日本中を駆けめぐったのである。そして、こうした市民ネットワーク全体の動きに呼応して、日本の反戦市民団体は日本政府への抗議行動に取り組み、またその模様はマスメディアの報道を通じて、イラクや世界に発信された。まさに世界市民による『もうひとつのネットワーク』『もうひとつの報道』が機能し、解放の一助となったのである」と本書は指摘している。
 読者はこの本から多くのことを学ぶに違いない。(S)

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 怒りを人間性の回復と社会の再生の素に

      
―辛 淑玉著「怒りの方法」(岩波新書)―

 辛さんの講演は一度、集会での発言は何度か聴いた。痛快・ドラマティックな語り口、単刀直入な問題提起に圧倒されるだけでなく、深いところでわが身を振り返らされる、語本来の意味で「教育的」な感銘を受けるものだった。この最新著作「怒りの方法」を読んで、改めて受けた感銘の内実がよく理解できたように思う。

「怒り」の「方法」

 それにしても一見奇異に感じられるタイトルである。「怒り」は心中自ずから生じ、激高し、あるいは内向する心理現象、「方法」論とはそぐわないのでは?
 著者は「怒り」を五つのパターンに分類する。「噴火型」「イヤミ型」「放火型」「玄関マット型」「問題解決型」。そしてはじめの四つは問題を再生産するばかりであり、これを克服した「問題解決型」が本書の掲げる「怒りの方法」なのだとする。それは「怒りの素を見つけ、すばやく対処するパターン」であり、「キレル」と対比させると分りやすい。 曰く、
 「怒る」は、言葉で自分の感情を表現すること。
 「キレル」は、表現する言葉を失ったときの状態。
 「怒る」は人間関係を築き、つなぐためにするもの。
 「キレル」は、人間関係を完全に切るためにするもの。
 「だから、怒りをきちんと表現できるようになることは、豊かな人間関係を築くための第一歩なのである」。怒りをコントロールできず、絶望に陥った場合には自分と似た者に対し、見たくない自分の姿を見出して迫害を加える、逆にじっと迫害を耐え忍ぶ中で蓄積された無力感は無抵抗となって迫害を助長してしまう…著者はある若者グループによる殺人事件を追って弱者同士の出口のない不幸な関わり方を丹念に分析している。

「怒り」を押さえ込む日本社会

 著者は「怒り」こそが「人間性回復のために最も必要な感情であると確信」している。しかし、世間で「怒り」は嫌われ者であり、「怒り」を封じ込めようとする圧力がかかる。
 著者は三つの教訓にまとめている。
 @差別して、叩くやつほど、道を説く
 A声出せば、無知な大衆、敵になる
 B『ガンバレ』は、飛び火を避ける保険かな
 「日本の大衆は、自分より惨めな立場にいる者に同情するのは大好きだが、彼らが差別と闘ったり、異議申し立てをすると、とたんに攻撃を始める」(教訓A ハンセン病回復者への宿泊拒否事件や、イラク人質事件での世論の転回を見よ)
 また、「いつもがんばる被害者が美しいと表現され、暴力をふるう方は野放しにされる」(教訓B 在日への迫害に被害者を「激励する」「美談」)
 「ファシズム時代の闘いは、隣人との闘いである」と喝破する著者は、それではどうこの大衆と向かい合おうとするのか。

石原慎太郎との闘い

 「悪意を持っている確信犯を説得している暇があるなら、理解できる相手といち早く手をつなごう。それがセーフティネットになる」そのための指針が三つ。
 @「右」か「左」かといった過去の枠組みでは人を見ない。判断しない。
 A共通項が一%でもあれば、それを支持しよう(たとえそれらの活動が未熟であったとしても)
 B情報不足の人がいたら、必要な情報を伝えよう。
 これによって出来たつながりが「オセロの白の駒となって、社会のコーナーに置かれる。間の黒が、パタパタパタ、と白に変わっていくー略ー今の状態は、社会のコーナーに、白の駒が置かれていないだけ、なのだ」
 嘘で塗り固めた人種差別発言を繰り返して排外主義を煽り、学者の説を歪曲した「ババァ」発言で現代版楢山節考をそそのかす(報じられている要介護老人に対する家族の虐待の問題とも無縁ではない)卑劣で卑小な「マザコン」石原都知事との闘いに際し、「怒り方、闘い方自体を変えなくてはならない」と考えた著者のたどり着いた結論はこのようなものだった。そして、「扇動的発言に抵抗できる多文化共生社会を築く」ための具体的なイベントを次々に展開していく。雨の日のパラソル大行進、多文化たんけん隊、ワンデイホームステイ、GOGO岸本―ボブ・ディランへの道等々。どれも地に着いた素晴らしく手応えのある成果を収めている。
 そんな著者の目に、ワールド・ピース・ナウの「ピースウォーク」、この「国境を越えた軽やかでおしゃれなデモ」は、「出会いの場、仲間探しの機会、一人ではないという確信を持つために重要なチャンスなのだ。それが隣人や自分を取り巻く空気と闘うための力となる」と映る。

「怒り」をわがものとするために

 怒れるためにはしっかりした価値観や基準が自分の中になければならないと著者は言う。著者自身は「同胞先輩の涙、親の涙、友達の涙、祖父母の涙、女の涙」(それをもたらしたのは日本人であり、日本社会であり、そして男だ)を繰り返し見てきた経験の中で培ったという。それは「生活の中で、徐々に積み上げられ整理されていくものだ」「いまも、闘い方の実験と学習は続いている」。
 本書には「効果的に怒る方法ー技術編、スタイル・パフォーマンス編」というノウハウの伝授もあって、私たちの「実験と学習」を援助してくれる。
 「あとがき」で、ある講演会で執拗に石原支持を語る予備校生のエピソードが紹介されていて感動的だ。私が著者の講演から受け止めた「教育的」ともいえる感銘とは、著者の経験に裏打ちされた深い人間洞察力によるものであったのだ。(佐山 新)


複眼単眼

   
お粗末な審議実態の憲法調査会

 二〇〇〇年一月に両院に設置された憲法調査会は、当初の設置期間のメドとした五年間をあと半年で迎えようとしている。
 この間、衆議院調査会は一一七回開催(実質審議は一〇七回)され、地方公聴会が九回、中央公聴会が一回開かれた。参議院は六〇回(実質審議は四八回)開かれ、公聴会が三回行われた。一五九国会中に衆議院はあと二回開催する予定で、参議院は今国会の開催は終了した。この四年余で、両院の調査会が招いた参考人は延べ一八一人(複数回の者あり)だ。これが今日の「改憲の流れ」を作ってくる上で、大きな役割を果たしたことは言うまでもない。
 衆議院調査会長の中山太郎は、最終報告を来年五月三日に国会議長に提出すると言っているから、今後、秋の臨時国会期間や、来年の通常国会期間も憲法調査会は開かれることになる。
 筆者はこの間、開催された憲法調査会での調査は、きわめて不十分で、到底、「最終報告」などだせる状態ではないと思っているが、さらにこれに輪をかけて、調査会の審議がきわめていい加減だという問題がある。
 この間、調査会の出席率の問題は多く指摘されてきたが、あまりに酷い惨憺たる状況なのだ。
 会議では開始時間になっても定足数に足りないので、開会ができないことがままある。それどころか、衆議院憲法調査会が先般開いた公聴会も定足数割れのまま始めてしまったし、参議院でもそうしたことがある。
 さらに先日、こんなことがあった。
 五月二七日の衆議院憲法調査会・統治機構に関する調査小委員会(鈴木克昌小委員長・民主党)では、参考人質疑に続いて行われた自由討議の冒頭に土井たか子委員(社民)が出席委員の人数が少ないことについて「こんなことでまともな審議ができるのか」と怒ったのだ。それもそのはず、小委員会の十五人の委員のうち、土井氏の発言のときに出席していたのは委員長と発言者の土井氏を含めて五人(自民は七人中一人、民主は五人中二人、公明は一人だが欠席、共産・社民は各一人)で、聞いているのは三人という有様だった。鈴木小委員長は「せっかくだから、ご辛抱を……」となだめていたが、自民党から唯一出席していたの船田元委員も、実は正規の小委員会メンバーではなく、会議の途中に行われた差し替えでピンチヒッターで委員席に座ったのだった。こんな状態で憲法の審議が行われていることは許されていいものではない。
 調査会規定では委員の半数以上の出席が定足数になっている。衆議院憲法調査会は総会は定員五〇人だから二五人以上が定足数で、小委員会は定員が十五人だから八人以上が定足数になる。だから二七日の会議は明らかに定足割れで成立していない。しかし、「慣行」のようなもので、開会時に定足数をみたしていれば、以降は出席者が少なくなっても会議は成立とされている。しかし、これ自体も問題なのだ。
 まして、出席しても眠っている者、週刊誌の記事などを見ている者、私語にいそしんでいる者など、問題点をあげればきりがない。こうした形だけ、手続きだけを踏んで(手続にも反しているのだが)、「調査会一丁上がり」とやられたのではたまったものではない。(T)


夏季カンパの訴え

   
 労働者社会主義同盟中央常任委員会

読者のみなさん!

 アメリカが強行した侵略戦争はイラク民衆の抵抗の高まりの中で完全に行き詰まっています。大量破壊兵器が存在しなかったこと、米軍による拷問・虐待の暴露などによってアメリカの戦争の大義がまったく嘘であったことが明らかになりました。全世界人民の反戦闘争の高揚、国連の常任理事国をふくむ各国政府の反対はブッシュの戦争戦略の遂行を日一日と困難な状況に引きずりこんでいます。
 自衛隊のイラク派兵は日本にたいするイラク民衆の怒りをまきおこしました。アメリカに追随してイラク侵略戦争に参戦した小泉内閣は、イラク情勢の「悪化」、とりわけサマワ地域の「戦闘地域化」に深刻な不安を抱いています。それは年金問題などと連動して、反人民的な小泉政権を大きくゆさぶっています。
 にもかからわず小泉政権は、逆にいっそう戦争への傾斜を深め、イラク占領での多国籍軍への参加、そして憲法の改悪を強行しようとしています。
 日本においてもイラク反戦運動は、国際的なネットワークを作り上げながらかつてない高揚を勝ち取りました。労働者や市民は持続的な闘いを展開して、民衆運動の新しい活性化の局面を切り開きました。同時に、いま小泉構造改革攻撃への不満・反撃が強まっています。
 時代は大きな転換点を迎えています。
 私たちは、今後、全国の労働者・市民のみなさんとの協力関係をいちだんと強化して、イラクからの自衛隊の撤退、労働者・勤労民衆の生活の防衛、そして憲法改悪阻止闘争のもっとも広範な統一をかちとるために全力をあげる決意です。私たちは、反戦闘争、労働運動の前進、社会主義勢力の再編・再生のための努力をいちだんと推し進めたいと思います。

 読者のみなさん!
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 ともに闘いましょう。

 二〇〇四年夏