人民新報 ・ 第1135 号<統合228号> (2004年6月25日)
目次
● 自衛隊のイラク多国籍軍参加反対! 参院選で改憲反対派候補の勝利を
共同声明 ( 呼びかけ:WORLD PEACE NOW実行委員会 )
● イラクにも朝鮮半島にも平和を! 二五〇人が池袋の繁華街をデモ
● 「責任とってよナカソネさん」署名 第1次集約分を東京地裁に提出
● 平和な農村生活を取り戻すことがアフガン復興の近道 中村哲さんの講演会・釧路
● 第一回 けんぽう市民フォーラム / 自衛隊イラク派兵違憲訴訟の箕輪登さんが講演
● 図書紹介 / 箕輪登・内田雅敏「憲法9条と専守防衛」
● 「君が代」不当処分撤回を求めて
「君が代」不当処分撤回を求める会 参加のお願い
● 複眼単眼 / 「統一」の旗が分裂を促すときもある
自衛隊のイラク多国籍軍参加反対!
参院選で改憲反対派候補の勝利を
六月一四日、有事七法案と三協定条約承認案が参議院で可決・成立した。小泉政権は、日本国憲法を踏みにじって有事法制を民主党の賛成を得て強行した。一四日は、戦争・有事をつくるな!市民緊急行動、平和を実現するキリスト者ネット、平和をつくり出す宗教者ネット、陸・海・空・港湾労組二〇団体のよびかけの「STOP!有事法制・緊急国会前行動6・11&14」が十一日につづいて行われ、有事法制の廃案をもとめて労働者・学生・市民が参院前で成立阻止の行動を展開した。
有事法制づくりの一方で、小泉は、シーアイランド・サミットの際の日米首脳会談でアメリカのイラク戦争・占領政策を賛美すると共に、独断でブッシュに「多国籍軍参加」を約束した。こうした小泉の無法・無謀なやり方は、年金改悪とともに与党内部を含む多くの人びとの反対に直面し、内閣支持率は急速に低下している。
こうした中、一八日、多国籍軍参加の閣議決定が行われた。さすがに反対世論の高まりを回避するために、「参加」ではなく「多国籍軍の中で活動」であるとか、「統合司令部の指揮下には入らない」「武力行使を目的とする活動には協力しない」との詭弁で弄しながらではあった。しかし、国連決議で規定される多国籍軍は「治安維持と人道支援」を任務とし、「統一指揮の下に入る」となっている。だから、フランス・ドイツなどは参加しないと表明しているのである。こうして、小泉は自衛隊をイラク人民の怒りの対象である占領軍の公然たる一員にしたのである。
大衆運動で参院選で、戦争・改憲・労働者の生活破壊の小泉内閣に大きな打撃を与えよう。
* * * *
六月一八日、衆院議員会館で、ワールド・ピース・ナウ実行委員会の呼びかけによる「共同声明・自衛隊のイラク『多国籍軍』参加に反対し、自衛隊のイラクからの即時撤退を求めます」についての記者会見が開かれた。
WPN実行委員の高田健さんが共同声明について説明した。
自衛隊の多国籍軍参加に黙っていられない気持ちで共同声明を呼びかけた。一三日に共同声明をだそうと決め、インターネット、メールで各所に賛同を呼びかけ、今日午前九時の集約までの四日余りで北海道から沖縄まで個人・団体一一一九が賛同してくれた。いくつかは外国からも寄せられた。いまからでも遅くない。自衛隊を多国籍軍に参加させるのを止めさせなければならない。
内田雅敏弁護士は、憲法問題について裁判所は判断を回避し、内閣法制局が憲法裁判所のような役割を果たしてきたが、小泉内閣のやり方は、これまでの内閣の言ってきたことも無視するまったく無法なものだ、と述べた。
記者会見には、元防衛政務次官で自衛隊イラク派兵違憲訴訟を闘っている箕輪登さんも参加した。
共同声明:自衛隊のイラク「多国籍軍」参加に反対し、自衛隊のイラクからの即時撤退を求めます
呼びかけ:WORLD PEACE NOW実行委員会
G8サミットのために訪米していた小泉首相は、六月八日にブッシュ米大統領と個別に会談し、国連安保理決議を受けて、自衛隊を「新決議」に基づいて多国籍軍に参加させると約束しました。現在イラク・サマワに占領軍として派兵している自衛隊を、そのまま多国籍軍に横滑りさせるというのです。
この自衛隊のイラク多国籍軍参加は、まったく違憲・違法なものであり、私たちは絶対に反対です。この小泉首相の言明は、従来、政府が取ってきた態度を一八〇度転換させるものです。政府は一九九一年の湾岸戦争の時以来、「武力行使を任務とする多国籍軍に参加し、司令官の指揮を受けて活動することは憲法上問題がある」という態度を取ってきました。
つまり自衛隊の多国籍軍への参加は、憲法に違反するという立場です。
しかし小泉内閣が、イラク派兵自衛隊の多国籍軍への横滑り的参加の方針を固めて以後、六月一日に秋山内閣法制局長官は、国会答弁で従来の立場を否定して、「武力行使を行わず、活動が他国の武力行使と一体化しない場合には、武力行使を伴う任務、伴わない任務の両方が与えられる多国籍軍に参加することは憲法上問題ない」と述べました。
しかしこれはまったくの詭弁にすぎません。六月八日に可決された国連安保理の新決議(決議一五四六)は、「多国籍軍は……治安維持に貢献するために必要なあらゆる措置を取る権限を有する」となっており、多国籍軍は「統一指揮」の下に入ると明記されています。多国籍軍の任務に「人道・復興」がふくまれているとしても、それは武力行使を含む「治安維持」と切り離されるものではありません。あくまで主要目標は同決議の付属文書となっているパウエル米国務長官の安保理議長への書簡にあるように「治安維持」「武装集団に対抗するのに必要な活動」「イラク軍の訓練と配備」なのです。
米軍を主力にした「多国籍軍統合司令部」の「統一指揮」下に入る自衛隊が、「独自の指揮権を維持する」などということは現実には全くあり得ないことです。 しかし小泉内閣は、国会にも諮ることなく、与党からの疑問・批判をも押し切ってイラク特措法に今回の新決議を「政令」で加えて、多国籍軍への自衛隊参加を強行しようとしているのです。こうしたイラク多国籍軍への自衛隊参加は、憲法違反であり、与党が一方的に強行したイラク特措法すら踏みにじるものです。
またこの「多国籍軍」自身が、占領支配を継続させるための存在であることも明らかです。圧倒的多数のイラク民衆は、「暫定政権」と多国籍軍を通した不法な占領の継続に強く反対しています。
私たちは、憲法を踏みにじる自衛隊の「多国籍軍」参加に強く反対し、自衛隊のイラクからの即時撤退を強く求めます。
二〇〇四年六月一八日
イラクにも朝鮮半島にも平和を! 二五〇人が池袋の繁華街をデモ
「イラクにも朝鮮半島にも平和を!6・13日韓共同行動」の集会とデモが六月一三日午後、東京・池袋で行われ、市民など約二五〇人が参加した。
主催者挨拶で日韓民衆連帯全国ネットワークの渡辺健樹さんは「韓国で二年前の今日、二人の女子中学生が米軍のキャタビラーでひき殺された。韓国では昨日、三〇〇〇人の集会が開かれた。小泉首相はイラクに派兵した自衛隊を今度は多国籍軍に編入するといった。また韓国での在韓米軍の一部削減とあわせて在日米軍の強化が進められており、沖縄の辺野古では新基地建設に反対する座り込みが続いている。米軍基地を沖縄から、日本から、韓国からなくそう。そして強行されようとしている有事法制にも反対しよう」と述べた。
韓国から連帯発言のために来日した民主労働党ソウル龍山地区委員長のチョン・ヨヌク(鄭然旭)さんは、要旨、次のように述べた。
「本日は殺された一四歳の中学生の二周年にあたる。二人は友人の誕生日のお祝いに行く途中、米軍に轢き殺された。以降も、韓国では米軍兵士の蛮行は休むことがない。しかし、韓国では四四年ぶりで民主的国会議員が一〇人誕生した。そのうちの一人が七月四日に開かれるWORLD PEACE NOWの集会に来日することが決まった。いま国会ではウリ党有志を含めて九〇人の国会議員がイラク派兵に反対している。韓国では在韓米軍の一部二〇〇〇人がイラクに派遣され、その後は米国に帰国する。しかし一方でイージス艦など最新兵器が韓国に売りつけられようとしている。私たちはイラクの戦争即時終結と、韓国・沖縄・日本から米軍を追い出すためにともに頑張っていこう」
参加した諸団体からの挨拶や、歌などがあり、その後、休日でにぎわう池袋の街を、韓国代表を先頭にデモ行進した。
「責任とってよナカソネさん」署名 第1次集約分を東京地裁に提出
国鉄の分割・民営化は中曽根内閣の第二臨調攻撃の中心としてあった。中曽根康弘は「ひとりも路頭に迷わせない」と約束した。しかし、一〇四七名の解雇が強行され、政府は何の救済措置もとっていない。分割・民営化時に当時の国鉄公社が組合所属による採用差別を行ない、国鉄は清算事業団、鉄建公団(現・鉄道建設・運輸施設整備支援機構)に姿を変えてきた。責任を鉄建公団にとらせようという訴訟は、国鉄闘争が統一し前進する基軸になっている。その裁判に、国鉄の分割民営化の最大の責任者である中曽根を証人として呼ぼうというのは至極当然の要求だ。
この間、そのための「ナカソネ署名」(「責任とってよナカソネさん」キャンペーン事務局=ナカソネ・プロジェクト)が取り組まれたが、短期間にもかかわらず多くの署名が集まった。
六月一七日、その第一次集約分として五〇〇〇筆をこえる署名を東京地裁に提出した。当日の午後三時、東京地裁前に約三〇人が集まって「署名提出パフォーマンス」を行った。
鉄建公団訴訟原告団をはじめ、労組、市民団体、学生などの発言が続いた。その中では、韓国での社会フォーラムやフランスでの「人らしく生きよう」上映会などでも署名が行われ、フランスで六〇筆、韓国などアジアから一八〇筆集まったことなどが報告された。
ミニ集会のあと、「ナカソネ出てこい」のコールを叫んだ。地裁前行動を終わって、全員で民事三六部受付まで行って署名を提出し、受け付けたにでた事務官に対して参加者が、次々に裁判には中曽根の喚問が絶対に必要だ、など思いを述べた。
今後、中曽根を法廷に引っぱり出すために、より多くの「ナカソネ署名」を集め、第二次(七月七日提出)・第三次(七月一五日提出)と積み上げていくことになっている。
同日、鉄建公団訴訟原告団・弁護団は難波裁判長および被告側と「進行協議」を行い、中曽根の証人採用を求める意見書を提出した。
証人採用に関する意見書(要旨)
頭書事件について、原告らは次のとおり中曽根康弘を証人として採用されるよう、意見を述べる。
第一 「国鉄改革」と中曽根証人の意図・関係
一 「国鉄改革」と不当労働行為は国策として遂行されたこと
証人は、一九八二年一一月から一九八七年一一月まで内閣総理大臣の職にあった者である。その期間は、まさに「国鉄改革」が計画され、実施された時期である。
二 国鉄改革における証人中曽根のイニシアチブ
しかも、国鉄改革においては、証人中曽根個人が強いイニシアチブを発揮したことが明らかである。
証人中曽根自身、二〇〇三年一〇月二七日の安倍自民党幹事長による公認名簿不登載報告後の記者会見で記者の質問に答えて以下のように述べている。
……これまでの五〇年以上の議員生活の中で、最も大きな決断というのはどういったことでしょうか。
中曽根…これはやはり国鉄・電電の民有分割をやったことです。それは土光さんのお力をお借りして、皆さんのお力もお借りして、国鉄の民有分割、電電の民有分割、専売の民有化をやった。これはやはり一番必死になってやった、記憶に残ることです。
三 証人中曽根の不当労働行為意思
……その目的の主要な一つは、国鉄分割民営化に反対する国労を潰すことであった。そのことは、国鉄分割民営化当時内閣総理大臣であった中曽根康弘が、週刊誌AERAでのインタビューに答えて「総評を崩壊させようと思ったからね。国労が崩壊すれば、総評も崩壊することを明確に意識してやったわけです」と述べ、NHKのインタビューのなかでも「いわゆる総評の牙城は国鉄だったんですね。分割民営にすることによって国鉄労働組合は崩壊しましたね。これは総評の中核であったわけです。そういう意味で、非常に左翼的な戦闘的な労働組合がこれで変わって、どっちかというと民社的な協調主義的な労働運動に日本は変わった、いわゆる連合が生まれてきた、その素地を作ったと。」と語っていることからも明らかである。
証人中曽根は、まさに、国家的不当労働行為意思を持って国鉄改革を遂行したのである。
第二 中曽根証人の本件立証における必要性
一 必要とされるいくつかの理由
(一)上記のように、「国鉄改革」に際しての国労組合員への不当労働行為は、中曽根内閣総理大臣個人を含む政府全体として国労解体の手段として位置づけ、計画したものであるから、中曽根証人を採用して尋問し、その不当労働行為の意思と計画を明らかにしなければ、本件の真相をありのままに捉えることが出来ない。(以下・略)
(「責任とってよナカソネさん」キャンペーン) www.h4.dion.ne.jp/~tomonigo/
平和な農村生活を取り戻すことがアフガン復興の近道
中村哲さん(医師・ペシャワール会)の講演会・釧路
先月末釧路市民文化会館において、アフガニスタン国境に近いパキスタンの町ペシャワールを拠点に、二〇年間にわたって無償の医療活動に従事している日本人医師・中村哲さんの講演会が開催された。 講演会には地元釧路市を始め、四〇〇キロb離れた札幌や近隣市町などから約三五〇名が詰め掛け、会場を埋め尽くした。
中村医師は、一九八四年からパキスタンのペシャワールの病院でハンセン氏病の治療を中心に活動を開始したが、その後パキスタン側に流入してくるアフガニスタン難民と向き合うことなしに問題の解決はないと判断し、アフガニスタン戦闘地域での文字通りの命がけの医療活動にまい進して今日に至っている。この間、中村医師の活動支援のために結成された『ペシャワール会』は、パキスタン北西辺境州・アフガニスタンに一病院と四診療所を運営して年間約一五万人(二〇〇二年度)の患者診療を行っている。また二〇〇〇年夏からは、戦乱に追い討ちをかけるような今世紀最悪の干ばつに見舞われたアフガニスタンの村々で、約一〇〇〇カ所以上の水源(井戸、カレーズ)を確保する事業を継続している。二〇〇一年一〇月からは、アメリカのアフガニスタン空爆の中、三〇〇〇万ドル余りの緊急食糧援助を行ない、その時に寄せられた「アフガンいのちの基金」をもとに医療事業、水源確保事業、農業計画から成る「緑の大地計画」を継続し、二〇〇三年三月より長期的な灌漑計画を開始している。
講演に立った中村医師は、二〇年に及ぶ現地の活動を自ら撮影したスライドを使って説明・紹介したが、物静かな語り口の中にも、これまで現地の難民やムジャヒディン(イスラム聖戦士)、タリバンなどと生活や行動を共にして培った信頼関係に基づく自信と確信が満ちあふれていた。
中村医師は、講演や資料の中で「タリバン政権崩壊後のアフガン情報は、非常に一面的・部分的に流されている」と前置きし、「ベールは文化であり、今もほとんどの女性はブルカ姿で町を歩いている」「カイザル政権の支配地域は、カブール周辺に限定されている」「アフガニスタンは今や最大の麻薬(けし)製造国となってしまった」「アフガンに戻ったとされていた一七〇万人の難民は、再び一五〇万人の難民となってパキスタンに流れている」などと報告した。
講演終了後の質疑では、自衛隊のイラク派兵にかかわって、「アメリカと一緒になって国家としてイスラム教徒の攻撃に参加していると受け止められている」と述べ、従来、親日的と言われてきたアフガニスタンの人々の感情が、急速に悪化してきていると厳しく指摘した。加えて、アフガニスタンへの自衛隊派兵が取り沙汰されていることに触れて、「対米協力やアピールのための派遣は、物笑いになる。物笑いだけで終わるならいいが、命を失うことにもなりかねないのでやめて欲しい」と批判し、「我々の現地での活動には、指一本触れさせない」と、毅然と言い放った。
最後に「二〇年間で学んだことは、金さえあれば何とかなる、武力さえあれば身を守れる、というのは迷信だということ。人間にとって本当に必要なものは何なのかを真剣に考えるべきだ」と強調して講演を締めくくった。
会場から出された質問の内容や、帰りがけに提出されたアンケートの山、中村医師の著書を買い求める人垣を見て、参加した多くの市民が、『アフガニスタンが必要とする本当の援助とは』何かについて思いをめぐらせて帰宅の途についたであろうことは、容易に想像できた講演会であった。(釧路通信員)
第一回 けんぽう市民フォーラム
自衛隊イラク派兵違憲訴訟の箕輪登さんが講演
六月一九日、専修大学神田校舎で、「第一回 けんぽう市民フォーラム 自衛隊のイラク派兵に異議あり!」が開かれた。講師は、元防衛政務次官・元郵政大臣の箕輪登さん。箕輪さんは、自衛隊合憲論の立場から、小泉内閣の政策は、自衛隊法違反、日本政府のこれまでの「専守防衛論」の逸脱、国会無視、憲法違反だとしてイラクへの自衛隊派兵違憲訴訟を起こしている。イラク反戦、憲法九条改悪阻止の闘いでは、小泉政策を批判する箕輪さんなど専守防衛論者とも一致できる点で連携して運動を続けていくことは大きな意義を持つものであろう。
はじめに、主催者を代表して、高田健さんが開会のあいさつ。
憲法調査会市民監視センターは二〇〇〇年三月に出発し、国会の憲法調査会についてずっと監視を続けてきました。そして、月刊の「憲法通信」の発行、月一回の例会をひらくなどの活動をしてきました。
国会の憲法調査会は来年の一月で五年になり、最終報告の時期に入っています。衆院憲法調査会会長の中山太郎は、来年の五月三日に最終報告を出したいと言っています。
私たちが改憲議連と呼んでいる憲法推進議員連盟は自民党、公明党、民主党の改憲派議員が参加し国会議員の多数を占めています。その改憲議連は、来年の通常国会で、憲法調査会を憲法「改正」案を出せる常任委員会にしようとしています。憲法を調査するものから、名前を変えて明確に憲法改正のための案を提出できる新しい委員会を設置させようというのです。
来年の五月三日に最終報告が出されれば、いまある憲法調査会は憲法改正常任委員会になり、そこで憲法のこことここを直すという提案をしようというのです。中山などは、「改正」案をつくることは、そんなに時間はかからないだろう、なぜならすでに調査会で五年も論議してきたのだから、そして、衆参両院議員の三分の二以上の賛成が得られれば、国民投票へとなり国民投票での過半数で憲法「改正」ができる、と言っています。
このように憲法調査会の動きは大詰めにきました。
戦後五七年続いてきた日本国憲法は最後の決定的な山場にさしかかってきています。そうした改憲の動きに対して私たち憲法調査会市民監視センターは大変大きな役割を果たしてきたと思います。
私たちは国会に調査会が出来ることにも反対しましたが、しかし、この五年間に、広範に憲法を変える世論をつくろうとしたかれらの狙いは成功して、いよいよ明文改憲だということになってきました。
しかし、憲法九条について言うなら六〜七割の人びとが「改正」に反対です。公明党の支持母体の創価学会でも変えることに抵抗は大きい。政府与党内部でもいろいろな意見があります。
先日、加藤周一さん、大江健三郎さんなど九人の呼びかけによる「九条の会」ができました。このような大変力強い動きもでてきています。憲法調査会市民監視センターは、さまざまな人びとともに憲法改悪の動きに反対していく運動を広げて行きたいと思っています。
箕輪登さんは、小泉政権のイラク派兵が憲法を無視するものだとして次のように講演した。
私は、数年前、日米安保の改定が問題となっていた時に、自民党の衆参議員に手紙を出しました。自分は、議員当時、自衛隊法をがじった者として、政策をつくるときにはここを注意してくれ、そうでないと大変なことになると思ったからでした。二回、送ったが、残念ながら勉強してくれていません。
今回のイラクへの自衛隊派遣でも手紙を送りました。イラクへの派兵は自衛隊法にてらしても憲法違反になるのは明かです。なにも難しい筈はないのに、小泉君も石破君も全然勉強していない。派兵は大変な問題になるのに、小泉君たちは強行しました。もう我慢できない、最後の手段は裁判しかないと裁判を起こすことにしました。この一四日には第二回目の口頭弁論が開かれ、国側の代表も大勢来ていました。自衛隊と憲法九条をめぐっては、恵庭事件(一九六三年)、長沼事件(一九六九年)がありました。ともに国側は自衛隊合憲の根拠は「専守防衛」だとして、その後、一連の自衛隊についての政策を公表しました。それは、第一に自衛隊の海外派兵禁止であり、第二に集団防衛の否認、第三に非核三原則でした。これが「専守防衛」の具体的内容とされました。とくに、海外派兵と集団防衛は明確に憲法違反になる政府は言いました。
しかし、いつの間にかそうした基本が忘れられて、いま小泉君はそうした約束があったことを知らないのか、知っても知らない振りをしているのか、イラクに自衛隊を派兵しました。
皆さんに自衛隊法の条文をお渡ししてありますが、それを見て下さい。まず第三条の「自衛隊の任務」で、「自衛隊は、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当るものとする」と規定してあります。専守防衛です。私は、誰にでも外から攻撃されたら自衛する権利はあると思っています。
しかし、小泉君は、武力行使の道具を、日本を侵略してくるわけでもない外国に送りました。「武力の行使」は勝手にやれるわけではありません。八七条で、「自衛隊は、その任務の遂行に必要な武器を保有することができる」としてあります。
自衛隊法では、武力の行使はただ八八条「防衛出動時の武力行使」だけが規定しています。そこでは「第七六条第一項の規定により出動を命ぜられた自衛隊は、わが国を防衛するため、必要な武力を行使することができる」とあります。第七六条第一項の規定というのは「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃(以下「武力攻撃」という。)が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる」が「国会の承認を得なければならない」とあります。
武力行使のためには、防衛出動命令が前提です。わが国に対する攻撃またはそのおそれがあると内閣総理大臣がみとめ、自衛隊に防衛出動を命じ、かつ国会の承認をえること、これが武力行使ためには絶対に必要なのです。
湾岸戦争の時には、自衛隊は掃海艇をだしました。海上の機雷、爆発物の除去のためで、武器は積んでいなかった。その時には「まぁいいかな」と思っていましたが、今回イラクに派遣された自衛隊は明らかに、武器を持って行っています。ここのことを、小泉君も野党もわかっていない。もう一度言います。武力行使には、防衛出動命令、そして国会の承認が必要なのです。いまの与党のやり方は衆参両院をまったく無視するものです。その上、国会の会期切れを狙っての小泉君のやり方はまったく卑怯なもので、こんなことをしていたら日本丸は一体どこへ行くのか大変に心配です。
それから、武器使用についてですが、これは自衛隊法には二回出てきます。ひとつは、第八九条の「治安出動時の権限」に「警察官職務執行法の規定は、第七八条第一項又は第八一条第二項の規定により出動を命ぜられた自衛隊の自衛官の職務の執行について準用する」です。警察の手におえない大規模な争乱の時に、治安出動命令が出ますが、その時の武器の使用は「警察官職務執行法」が準用されます。警察官が使うものは、警棒・ピストルしかありません。もうひとつは、第九五条の「武器等の防護のための武器の使用」で、「自衛官は、自衛隊の武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備又は液体燃料を職務上警護するに当たり、人又は武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備若しくは液体燃料を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三六条又は第三七条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない」とあるところです。いわば武器・弾薬などの警備の「番兵」の時で、これが奪われそうになったりした時の武器使用です。しかしここでも正当防衛とか緊急避難以外は武器使用は禁止されています。
いま小泉君たちが言っていることは誰が考えても詭弁です。上がああいう態度だから、中間も下もみんなそうなります。変な事件がいろいろおこるのもそこに原因があります。
私は自民党員だが、小泉自民党には反対です。
箕輪さんの発言をうけて、龍谷大学教授の山内敏弘さんがコメントを述べた。
私も大変感動して、箕輪さんのお話を聞きました。小泉首相は詭弁を弄し国会軽視する卑怯者だというのは私たちの考えを代弁してくれたものだと思います。
箕輪さんの起こした訴訟は大きなインパクトを与えました。とりわけ元防衛政務次官で自民党の長老という方が、自衛隊の存在を認めた上で、政府が従来の「専守防衛」論を湾岸戦争以来、一歩一歩はみ出していることにたいして、また改憲の動きに対してブレーキをかける役割を果たそうとされていることです。
私自身は、自衛隊の存在そのものが憲法違反だという立場ですが、「専守防衛」そのものにアイマイさがあり、それが今日の事態をもたらしたと思っています。自衛隊法三条で守るとされる「国」とはなにか。少なくとも「国民の生命」を第一にしていないことは確かです。
しかし、自衛隊はイラクで多国籍軍に参加するなど小泉首相がいまのような政策を続けて行こうとしているとき、箕輪さんのような専守防衛論の立場の人とも論議していくこと、そして自衛隊派兵、多国籍軍参加、憲法改悪などに反対していく課題でともに手を携えていくことが必要だと思います。
つづいて、会場から箕輪さんたちへの質問や意見の表明が行われた。
質問に答えて箕輪さんが発言した。
人道支援というなら自衛隊は必要ありません。水なら、私もかつてクェート沖で日本の船が海水の淡水化をやっているのを見ましたが、あああいうのを貸せばいい。傷ついたイラクの人びとへの医療活動をもっとやればいい。イラクでは劣化ウラン弾の被害がひろがっているがその調査団を出せばいい。最近、イラクで日本人が人質になったが犯人は普通「身代金」を要求するが、そうではなく自衛隊の撤退を要求した。戦争を止めさせるための止むにやまれぬ気持ちからおこったことなのではないでしょうか。
イラクにはアメリカ兵一三万人がいます。イラク戦争はベトナム戦争と同じように泥沼化している。日米同盟が大事だというのなら小泉君はブッシュ大統領に「兄貴、過ちを犯してはだめだ」と忠告するべきで、アメリカもイラク暫定政権の発足を契機にイラクから撤退すべきでしょう。
自衛隊イラク派違憲訴訟(札幌)
元自民党衆院議員で防衛政務次官・元郵政相を努めた北海道小樽市在住の箕輪登さん(八〇歳)は、札幌地裁(原啓一郎裁判長)で、自衛隊のイラク派遣は国民の平和的生存権を侵害する違憲・違法なものだとして、国に派遣差し止めと慰謝料求める訴訟を提起した。第一回口頭弁論は三月二九日、第二回は六月一四日に開かれた。
箕輪さんたちは、自衛隊の「イラク派兵の違憲・違法性」について次のように訴えている(要旨)。
イラク派兵の違憲・違法性
一、イラク派兵は憲法九条違反
@ 日本国憲法第九条一項は、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と定める。「国権の発動たる戦争」とは、国際法上の戦争一切を含み、「武力の行使」とは、戦争に至らない実質上の戦争行為を広く意味する。
A そして、自衛隊について、歴代政府は、わが国自衛のために必要な最小限度の自衛力は合憲であるとする、「専守防衛」の憲法解釈をとってきた。 この立場に基づけば、自衛隊が、他国による侵略行為がないのに、外国領土に出かけて「武力の行使」を行うということは、全く考えられない。 よって、イラク特措法及び基本計画に基づくイラク派兵は、「専守防衛」の憲法解釈に立っても明らかに憲法第九条に違反する。
二、イラク派兵は自衛隊法違反(略)
三、イラク派兵はイラク特措法にも違反
@ イラク特措法第二条三は、「現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる」地域において、活動を実施することを定めている。派兵期間は、二〇〇三年一二月一五日から二〇〇四年一二月一四日までの一年間とされているので、この期間、確実に戦闘行為が行われることがないと認められることが必要であって、将来の不確実な事実に期待するような事実認定が許されないことは当然である。
A しかるに、既述したとおり、現在のイラク国内は全土が戦闘状態にありかつ国際法上交戦規程が適用される軍事占領下にあるのであり、仮にイラク特措 法を前提としたとしても、同法中の「非戦闘地域」の要件を充足していない。国連現地事務所、赤十字国際委員会、スペイン等がその要員をイラクから撤収し、米国から派兵を要請されていたトルコやインド、パキスタン等の国々が派兵を見合わせているのは、その証左である。なお、現在、イラク国内で活動する軍事組織は、日本を含めて三八カ国である。国連加盟国の二割にすぎず、ドイツ、フランス、ロシアなどの大国を含む世界の大多数の国が派遣していない。政府は、自衛隊を派遣しないことが国際協力あるいは国際協調主義に反するかのごとく述べるが、各国の主権が尊重される国際法の原則からはもとより、客観的な事実としても、理由がないと言わざるをえない。
図書紹介
箕輪登・内田雅敏「憲法9条と専守防衛」
梨の木舎 B5版150頁 1400円
「私は元自衛官です。自衛隊には調査隊という組織があります。今日はそういう人はいないように思いますが、もしここにいたら、隊に帰って今日の箕輪さんのお話をそのまま伝えください。お願いします」と会場から発言があった。
箕輪登さんを迎えて「憲法調査会市民監視センター」がひらいた講演会での質疑応答の時だ。
講演会が終わって、帰り際にある大学の学生で現職の自衛官が参加していたことも聞いた。彼は「箕輪さんの意見に半分共鳴するが、違うところもあるので、質問しようと思ったが、やめました。やはり僕だって調査隊の目は気になります」といっていたそうだ。
この若い自衛官は真剣にいま考えているのだろう。箕輪さんの話を聞いてみようと思って出かけてきたのだろう。彼らの張りつめた心境を垣間見た気がした。
箕輪登、八〇歳。六七年以来衆議院議員に八期当選。防衛政務次官、自民党副幹事長、郵政相などを務め、日本戦略研究センター理事長もつとめた、自他共に認めるタカ派議員。九〇年に引退。自民党員。自衛隊合憲論者で、専守防衛論者。
この人物が二〇〇四年一月、イラク派兵は違憲だと小泉首相を相手取って訴訟に踏み切った。四月に起きたイラクでの人質事件に際しては、「自分が三人の身代わりになるから、解放せよ」と言い放った。
本書はこの箕輪登という快人物と内田雅敏弁護士の対談がメインだ。
これは一読の価値がある。小泉首相のように主義主張がなく、ブッシュの主張に付和雷同し、結論が先にあって、あとから言い訳をするというような議論ではない。私は、そして対談の当事者である内田弁護士も同意しないが、箕輪は頑固な自衛隊合憲論者であり、専守防衛論者だ。しかし、その議論は聞いていて小気味よい。なるほど、真のタカ派にはこうした人物もいるのかと思う。
箕輪は専守防衛論から、自衛隊のイラク派兵を指弾し、自衛隊に依る「人道復興援助」などの主張に反駁する。水の支援は自衛隊でない方がうまくいくと説明するし、人質問題では「金をだせ」と言っておらず、「自衛隊を返せ」と言っているのだから、単なるテロと決めつけてはいけない、レジスタンスだという。たとえば、劣化ウラン弾の対策に力を貸せばよいとも言う。
対談での箕輪の主張は明快で、内田弁護士との議論がよく噛み合っている。箕輪は内田を信頼している。こういう人物の信頼を獲得する内田弁護士もたいしたものだ。
本書の後半は内田弁護士が折々に書き留めた憲法論が採録されている。(S)
「君が代」不当処分撤回を求めて
二〇〇三年一〇月二三日、東京都教育委員会は、「日の丸・君が代」を強制する通達を出した。この一〇・二三通達以来、卒業式・入学式で東京都の多数の教職員が処分された。
そのうち八人の小学校の教員が人事委員会に訴えて闘うことを決めた。教育を不当に支配する実施指針と不当処分の撤回を求め、教職員のみならず広く市民に呼びかけて「『君が代』不当処分撤回を求める会」が設立された。
「会」は、@教育を不当に支配する実施指針と不当処分の撤回を求める運動を幅広く会員を集めて行う、A被処分者の人事委員会審査請求を物心両面から支える活動を行い、会の目的に賛同する個人によって構成し、年会費は、一口一〇〇〇円。
<「会」の連絡先は、千代田区一ツ橋二−六−二 日本教育会館 東京教組気付 電話 〇三(五二七六)一三一一>
「君が代」不当処分撤回を求める会 参加のお願い
都教委は、二〇〇三年一〇月二三日に「日の丸、君が代」を強制する実施指針を通達しました。この実施指針によって、二〇〇四年の卒業式、および入学式の「国歌斉唱」時に不起立だったとして二四八名の教職員が不当な処分を受けました。小中学校においても一四名の教職員が不当な戒告処分を受けました。そのうち八名の小学校の教員がまとまって東京都人事委員会に審査請求をすることになり、六月四日に審査請求書を出しました。
都教委は、教職員の不起立を咎めるだけでなく、五月二五日に東京都立高校の卒業式、入学式で起立、斉唱しなかった生徒がいたとして、校長、学級担任に対しても、指導責任を問い、「厳重注意」「注意」や「指導」を強行しました。このことは教育行政の教育への不当な介入です。
子どもの権利条約に照らし合わせても、相反しているといわなければなりません。二〇〇四年一月に国連こどもの権利委員会は日本政府の報告書に対して、『子どもの意見の尊重が制限されていることを依然として懸念する』「意見表明権に従い、行政機関および学校、政策立案において、子どもに影響を及ぼすあらゆる事柄に関して子どもの意見の尊重を促進し、かつ子どもの参加の便宜を図ること」などを勧告しています。国連の勧告さえも都教委は無視しているのです。
処分された教員が、指定された席で、起立しなかったことは、個人の尊厳を大切にし、基本的人権、民主主義、平和を大切にしたいという思いからとった行動です。過去のアジア侵略と密接に結びついた「日の丸」に向かって、天皇を賛美する「君が代」を歌う事ができないという人が、個人の良心、信条にしたがって行動したことは当然のことです。実施指針と今回の処分は憲法で保障した思想、信条および良心の自由を否定、侵害するものです。今回の処分は、イラクへの自衛隊の派兵や憲法改悪、教育基本法改悪の動きと連動しているのです。
処分された教員の各職場では、「君が代」を歌い「日の丸」に向かって起立するという行動の是非やそのことが子どもに与える影響についての民主的な教育的な論議が保障されることなく、校長の独断で職務命令が発令されるという暴挙が行われてきました。このような方法は教職員の自主的な教育活動を制限し、教職員を萎縮させるものです。教育の場での生き生きとした教育活動や管理や競争のない教育を取り返すために、また不当な教育介入や強制を止めさせるためにも、この人事委員会への提訴は重要な意味をもつものだと考えています。
以上の内容を人事委員会に訴え、処分が不当なものであるということを証明し、処分を撤回させるための活動を行う目的でこの会を設立しました。皆様のご理解とご協力をお願いします。
二〇〇四年六月
「君が代」不当処分撤回を求める会
複眼単眼
「統一」の旗が分裂を促すときもある
この参院選を前にして「護憲派は統一すべきだ」という声が一部から上がった。そして「護憲派各党は比例区で共同候補を出すべきだ。統一名簿を作り、『平和』という確認団体を結成しよう」という呼びかけが発せられた。
連立による圧倒的多数の与党と、野党第一党の民主党までが「改憲」を唱える状況の中で、改憲反対の社民党と共産党が議席を減らしてきた。改憲の動きに危機感を抱く人びとが「護憲派の統一」を願うのは当然だ。
アピールに賛同した人びとは心からそれを願い、討論集会を重ねながら、要請文を持って共産党、社民党、緑の国民会議などを訪ねた。
しかし、いずれの政党政派もこの要請に積極的な回答は示さなかった。そして、この参院比例区統一会派構想は挫折した。
しかし、選挙区では沖縄の民主・共産・社民・沖縄社大の統一候補に糸数さんが擁立されたのをはじめとして、いくつかの政派の共同(推薦)候補が新潟、広島、高知、大阪などで実現した。
これらの動きは歓迎すべきことだ。とりわけ沖縄選挙区は一たん共同の努力が決裂し、共産党が糸数さんとは別の候補をたてた。それにたいして、平和市民連絡会など、事態を憂慮する市民が仲介にたち、再度協議のテーブルを設定し、統一候補にこぎ着けたのだから、その成果は大きい。これらの共同候補が勝利することを願い、私たちも微力を尽くしたい。
これらの動きの中で、いくつか教訓がある。
その一。市民運動や労働組合運動の論理と選挙の論理は同一ではないのは確かだ。
しかし、無関係ではない。こうした民衆運動、共通の課題での闘いの共同の基盤の形成がないもとでの選挙協力はきわめて危うい。またその選挙協力を支え、共同の接点となるのが、こうした民衆運動であるだけに、その力の成熟度が試される。
このことを無視した「政治工作」偏重の運動は、それが掲げる民主主義とはほど遠いものとなりがちだ。心しておかなければならない。
その二。統一の呼びかけを自らの政派の「ためにする動き」はなかったか、謙虚に考える必要がある。「全国比例区での共同」という呼びかけは、少し考えればわかるように共産党、社民党、緑の国民会議に、解党して新しい政党を作れと言っているようなものだ。これがいかに困難なことかは明白だ。それでも実現したいのなら、提唱者はそれ相応の努力をしなくてはならないのに、ろくな話し合いもせず、通りいっぺんの申し入れ書を持って行くだけだとしたら、その真意が疑われる。もしかして、これに関わった一部の人は、もともと不可能なのを見越していたのではないか(筆者はもともと今回は不可能で、そういう申し入れはすべきではないという立場だ)。そして、統一候補を拒否した政党を批判し、自分たちの「統一の要求」の正しさを強調する。これは危険だ。統一の努力は有理有節で、誠心誠意そのために働くことがもとめられる。今回の政治状況全般を判断するなら、選挙区での共同を推進すべきだったのであって、比例区での共同の提起は今回に限っては誤りだった。
その三。選挙の論理の恐ろしさを今回も見た。ふだん、市民運動にほとんど関わらず、労苦を共にしなかった人の一部が、その市民運動のリーダーの一人を突然、候補に担ぎ出そうという動きをやったことだ。この人びとは政治のためなら市民運動が大打撃を受けようが知ったことではないという態度にも見えた。
失敗するのは明らかで、恥ずかしい限りだ。これでは真の意味で強い候補も作れないし、統一候補なども無理だろう。
選挙は厳しい闘争であるだけに、その深部も露呈する。
まだ言うべきことはある。しかし、いまは改憲反対の候補の一人でも多くを当選するために力を尽くすときだ。
この原稿を終えれば、筆者も今夜はビラの宅配に行くつもり。あとの議論は選挙の後でしよう。(T)