人民新報 ・ 第1138 号<統合231> (2004年7月25日)
  
                  目次

● 九条改憲と集団的自衛権承認を要求するアメリカ  アーミテージ発言を糾弾する

● 辺野古への海上基地建設・ボーリング調査阻止に連帯して  防衛庁への抗議・申し入れ  7・18

● ピースサイクル2004 埼 玉

● 労働弁護団が労働契約法制意見書

● ナカソネ証人喚問署名一三〇〇〇筆  署名運動の継続と予定

● 7・18討論集会 イラク『主権移譲』と国連」  武者公路公秀さん・武藤一羊さんが講演

● 郵政公社前で「ただちに原職就労」申入行動

● 日本経団連、改憲に積極的に取り組み開始

● 「九条の会」が国会で記者会見  発足以来の運動状況を報告

● KODAMA  /  老いも若きも、神を信じる者も信じない者も

● 複眼単眼  /  国家権力がくり返す国家犯罪・人権侵害



九条改憲と集団的自衛権承認を要求するアメリカ

            
アーミテージ発言を糾弾する

 七月二一日、アメリカ国務副長官のアーミテージは、訪米中の中川秀直自民党国対委員長と国務省で会談した。
 そこで、アーミテージは、日本国憲法第九条が「日米同盟関係の妨げの一つになっている」として、その「改正」を求める見解を示した。そして、日本が国連安保理常任理事国になりたいのであれば、国際的に軍事力を展開することが必要で、それができないなら、常任理事国入りは難しい、と述べた。アメリカは、憲法九条「改正」とそれによるアメリカ世界戦略への日本の一層の取り込み・世界中いたるところでの米軍作戦への自衛隊の協力という体制を自民党・日本政府に「指示」してきたのである。

 いま、ブッシュのイラク戦争は「ベトナム化」しているにもかかわらず、スペインにつづいてフィリピン軍がイラクから完全撤退し他の「有志連合」軍も期限付きでの撤退を表明し出している。フランス、ドイツ、スペインなどヨーロッパ諸国はアメリカの言うことを聞かず、盟友イギリス・ブレア政権も選挙で大後退を続けている。小泉政権も参院選で敗北した。アメリカ国内でのブッシュ人気は急落して秋の大統領選も危ぶまれている。こうした危機的な状況から脱出するために、ブッシュ政権が日本に求めるのは、ひたすらアメリカの後に付き従う小泉政権を、アメリカの世界支配戦略の「後方支援」から「格上げ」し、「ともに銃弾を浴びる」戦友にするということだ。全世界にわたるアメリカ軍のトランスフォーメーション(再配置)での日本の軍事的な重要性・侵略戦争の拠点としての役割は飛躍的に高まる。アーミテージ発言もこうしたアメリカの政策の重要な一環である。

 中川の記者会見での説明によると、アーミテージ発言は次のようなものであった。
 会談で、中川が「憲法見直しの議論を始めなければならない時代にきた」と述べたところ、アーミテージは、憲法改正は「日本国民自身が決めることとだが、憲法九条は日米同盟にとって、重要ではないが、妨げの一つとなっている」と言った。
 またアーミテージは、サンフランシスコ講和条約と国連憲章に集団的自衛権は入っている、それらを認めているので日本国民はすでに集団的自衛権の行使を承認していると思う、憲法が集団的自衛権の行使を禁止しているという解釈には問題があるとまで述べたという。
 こうしたアーミテージの発言についての中川の評価は以下のようなものだった。
 日本の常任理事国入り問題について、これまでアメリカ政府は特に条件をつけずに強い支持を表明してきた。これは日本がアメリカに次ぐ多額の国連分担金を支払っていることなどによる。しかし、今回アーミテージが、事実上、常任理入りの条件として憲法九条改正を発言を行ったのは、アメリカ政府の本音を伝えるとともに九条改正に寄せる強い期待感を示したものと見られる。
 日本の国連常任理事国入りの問題は憲法改正とは別次元で、憲法改正が条件で常任理入りを主張できないということはないが、アメリカ政府当局者の見解は留意しておきたい。
 今回の発言は、突然出てきたわけではない。それはいわゆるアーミテージ・レポートによるアメリカの一貫した対日政策から必然的にもたらされたものなのである。
 二〇〇〇年一〇月一一日に、アーミテージなどが中心となってまとめた報告書「米国と日本〜成熟したパートナーシップに向けて」(国家戦略研究所、米国国防大学)が発表された。発表当初、この報告書は「対アジア関係において重要と考えられる事柄に対し、一貫性と戦略性を持たせようとすること」を目的としてはいるが、「日米関係に関する超党派の研究グループによる見解をまとめたもので政治的な文書ではなく、研究会のメンバーの意見を純粋に反映したもの」にすぎないと説明されていた。
 しかし、今回のアーミテージ発言に関連するところで、すでにレポートは次のように言っていた。
 「国連を改革し、紛争を防ぎ、平和維持と平和執行を効果的にできるような機関とすること。米国は日本の常任理事国入りの要求を引き続き支持すべきである。しかしながら、その場合は日本が集団的自衛権の明白な義務を負わなければならない」。 
 また、レポートは、集団的自衛権行使の問題について、「安全保障」の項で次のようにも言っている。
 「日本が集団的自衛権の行使を禁止していることは、同盟への協力を進める上での制約となっている。これを解除することにより、より緊密で効率的な安保協力が可能になるだろう。これは日本国民だけが決断できることである。米国は、これまで日本の安保政策の性格を形成する国内的な決定を尊重してきたし、これからもそうあるべきである。しかし、ワシントンは日本がより一層大きな貢献を行い、より平等な同盟のパートナーとなろうとすることを歓迎する旨を明らかにしなければならない」と。アメリカは、「より緊密で効果的な安保協力」のために、日本を「より一層大きな貢献を行い、より平等な同盟のパートナー」とさせようとしている。
 そして、将来の期待される日米関係について、「われわれは、アメリカとイギリスとの間の特別な関係が、日米同盟のモデルになると考えている」として、@防衛コミットメントの再確認(アメリカは日本防衛に対するコミットメントを再確認し、尖閣列島を日本の施政権下にある地域に含むことを明らかにすべきだ)、A有事法制法案の成立を含め、新日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)を誠実に実施すること。B米軍と日本の自衛隊との揺るぎ無い協力体制、が必要だとしていたのであった。
 このように今回のアーミテージの要求は、すでに二〇〇〇年にうちだされた対日政策の忠実な実行にすぎないのだ。
 日本支配層が狙う国連常任理事国入りのためには、集団的自衛権の承認、憲法九条「改正」が必要だとしているアーミテージの発言は、アメリカの世界支配、諸国人民の反米抵抗運動抑圧のために日本をフル活用するためのものである。小泉ら日本支配層は、これを「外圧」として利用することはいうまでもない。そもそもアーミテージ発言自身が日米支配層による「やらせ」「自作自演」劇なのである。
 アーミテージ発言を糾弾し、憲法九条改悪阻止の闘いをいっそう前進させよう。


辺野古への海上基地建設・ボーリング調査阻止に連帯して

            
 防衛庁への抗議・申し入れ  7・18

 沖縄・辺野古では海上基地建設・ボーリング調査を阻止しての闘いが続けられている。毎週毎週月曜日には、防衛庁正門前で申しいれ行動が行われている。
 七月一八日の日曜日には、連休のため、この日の午後に行動が行われた。前段では、「自衛隊の海外派兵と戦争協力に反対する実行委員会」による行動、その後に合流して「辺野古への海上基地建設・ボーリング調査を許さない実行委員会」の抗議・申し入れが行われた。

 自衛隊の「多国籍軍」参加を撤回し、対「テロ戦争」からの全面撤退を求める申入書

 内閣総埋大臣 小泉純一郎殿
 防衛庁長官 石破茂殿

 六月末とされてきたイラク暫定政府への主権移譲が、突如前倒しされ、六月二八日、実施された。この主権移譲に先立つ六月八日、小泉首相は、日米首脳会談において「イラクに駐留する目衛隊を多国籍軍に参加させる」と言明した。国会審議はもとより、政府・与党内での議論すら経ない、この表明により、政府は、暫定政権の管理下とされる多国籍軍に自衛隊を参加させるという暴挙を行った。
 これは、イラクを侵略した米英軍主導の「有志連合軍」に、「人道復興支援なる美名を使い、日本国民の眼をこまかし、自衛隊をイラク占領支配の一員とさせた日本政府、外務省の誤った政策の帰結に他ならない。
 従来、政府は、「武力の行使目体を目的、任務とする多国籍軍に参加することは、憲法上許されない」とし、小泉首相でさえ「武力行使を目的とした多国籍軍には参加しない」(〇四年五月二七日、参院イラク有事特別委)と表明したのである。ところが、「武力行使と一体化しなければ……」「自衛隊は、日本政府の指揮下で活動する」などと、あたかも多国籍軍とは独目の存在であるかの如き主張を繰り返し、自衛隊のイラク駐留を正当化しようとしている。
 詭弁は、事実によって破産する。「大量破壊兵器の保有」をその理由としたイラクヘの攻撃は、すでに米英両国の調査委員会で、その誤りが明確に指摘されており、イラク国民にすら知らせずに行われた主権移譲こそが、今日のイラク占領の行き詰まりを物語っている。イラク暫定政権とは占領軍のカイライ政権に他ならない。
 また、「非戦闘地域」なる絵空事も破綻をきたしている。四月七日にサマーワ宿営地への迫撃砲による攻撃があった数日後、陸上自衛隊は、オランダ軍射撃場で実弾射撃訓練を実施したほか、北富士演習場内には、宿営地を模した施設が建設され、次期派遣部隊の戦闘訓練が行われている。これらは、イラクの占領支配に反対する抵抗勢力からの武力攻撃に対抗するためのものであり、現地サマーワがすでに「非戦闘地域」ではないことを自衛隊自らが認めたものに他ならない。
 〇一年九月一一日のニューヨークでの事件以降、自衛隊の違法行為は、「調査・研究」を名目にインド洋に艦隊を派遣したほか、米空母キティーホークの自衛隊艦船による警護、フロリダ州タンパの米中央軍司令部へ連絡調整要員として自衛官を常駐させるなど、枚挙にいとまがない。
 「軍部」の暴走ともとれる、こうした事態の発生は、「基盤的防衛力の整備」の名のもとに今日まで続けられてきた自衛隊の「兵力の増強」によって初めて可能なものである。今春、「ましゅう」型補給艦の一番艦が完成した。同艦は、海上自衛隊史上、初の一万トンを上回る一万三五〇〇トンの大型艦であり、明らかに護衛艦隊の一員として海外派兵を前提に建造されたものである。「大規模災害」にも備えるとして、同艦には、手術室のほか最新の各種医療機器が完備されたほか、四五床を上回るベットが備えられている。遠く海外において戦傷病者が発生する戦時に対応する病院船を自衛隊は、保有したことになる。すでに建造に着手した「ヘリコプター空母」や「空中給油機」の導入など、その「戦力」の増強は、今やMD計画の推進にまで及び、止まるところを知らない。
 憲法改正を公然と口にする小泉首相の下、次期「防衛計画大綱」の策定が開始されている。東西冷戦体制が終焉した現在、政府は、新たな視点に立って自衛隊の縮小をこそ、検討しなければならないはずである。イラク戦争の開戦から今日に至るまでの多国籍軍の死者は、すでに一〇〇〇人を上回っており、暫定政権発足後も占領支配に抗する抵抗運動は衰えることなく続いている。日米同盟を優先し、自国の権益を守るため、他国民の流血をもいとわぬ代償として、「テ□」に怯える日常を自国民に強いる『恥知らずな国家』への道を選択するのか否か、が今問われているのである。先の参議院選挙の結果からも明らかなように、民意は、イラク駐留多国籍軍への参加を望んでいない。我々は、なし崩し的に海外派兵を強行する政府の戦争拡大政策に強く抗議し、次の事項を申し入れる。
 一)自衛隊の多国籍軍参加を撒回し、直ちにイラクから撤退させること。
 二)海上自衛隊によるインド洋上などでの他国艦船への洋上補給を直ちに中止し、撤退させること。

         以上

二〇〇四年七月一八日

 自衛隊の海外派兵と戦争協力に反対する実行委員会


ピースサイクル2004 埼 玉

 七月一五日、梅雨明け間近だったが午後から時折強い雨に見舞われた中でピースサイクル埼玉ネットの実走がおこなわれた。四コース(熊谷、寄居、浦和、与野、)で行われた。
 自治体訪問については、事前に行われたミニピース(七月七日)と当日を合わせ約二〇ケ所を回ることが出来た。県庁、各市には次のような要請書を提出した。

 今国会で、有事法関連七法案が通過され、憲法「改正」にむけた動きが活発化している。イラク参戦国に対する新たなテロ予告も出されており、とりわけ自衛隊の派遣に反発する軍事衝突の危険も増している。人間が人として生きるためには。平和であることが大前提とならなければならない。軍事、武力による解決は、本当の意味での解決にはならない。また、環境破壊も大きな問題となっている。原発の事故隠しや、核廃棄物最終処理問題は深刻化しており、「核と人類の共存はありえない」という立場から地域に訴えていく。などを基調にさらに具体的要請を行った。
 @貴自治体が行った「平和を願う宣言」(非核平和宣言など)の趣旨を生かすため、必要な予算を計上し、非核・平和のための行政に積極的に取り組まれたい。
 A全世界の核兵器廃絶に向けた取り組みを強化するよう、政府への働き掛けをされたい。
 Bいかなる戦争も「大量殺人、大量破壊」以外のなにものでもありません。憲法九条の精神を活かした政策を検討されたい。
 C広島・長崎に原爆が投下された八月六日・九日には、犠牲者を追悼し、核兵器廃絶を願う思いをこめて、サイレンを鳴らすなどの行動を行い、広報などでその趣旨を広く住民に周知されたい。
 D地球規模の環境破壊が問題化されています。地球上のすべての生き物と共生できる環境作りを目指した政策を検討されたい。また、ダイオキシン・ゴミゼロに向けた取組みを検討されたい。
 E自転車道及び歩道の整備を推進するなど、自動車中心社会の緩和政策を推進されたい。

 ある市では@〜Eについて文書回答もあり、平和行政に力を注いでいることを示していた。スプリングピースサイクルでとりくまれた「イラク反戦、憲法改悪反対、教育基本法改悪反対」の署名、メッセージ国会要請行動をはじめとした各地方の反戦平和行動によって「戦争屋」小泉政権を止めさせるまで追い詰めて行きましょう。(埼玉通信員)


労働弁護団が労働契約法制意見書

 厚生労働省の「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」で、今後の労働契約法制の在り方が調査・研究されているが、それがどのような内容となるかは労働者にとって重要な問題である。
 「研究会」は、二〇〇四年四月二三日に発足し、「労働契約法制の対象とする者の範囲」、「労働契約法制の機能」、「労働条件設定システムの在り方」、「労働契約の成立、展開、終了に係るルールの在り方」などの検討事項について調査・研究を行うものとされている。今後の予定は、二〇〇五年春までに論点を集約し、二〇〇五年秋までに報告書を取りまとめるとなっている。
 日本労働弁護団(宮里邦雄会長)は、六月二四日、「研究会」に対して「労働契約法制の基本的性格についての意見書」を出した。
 
労働契約法制の基本的性格についての意見書(要旨)

 ……日本労働弁護団は、包括的な労働契約法制における法規定は次のような基本的性格を有するものとして、その内容が定められるべきであると考える。
(一)第一に、労働契約法制は、当事者の意思のいかんにかかわらず適用される強行規定がその基本になるべきである。
 労働契約関係は労働者と使用者が対等の立場で労働条件等を合意決定できる関係にはないのであるから、当事者がこれと異なる合意をすれば適用されない任意規定とすることは、労働契約関係上の権利義務の要件と効果を定めて労使紛争の適正解決の判断基準を示すという機能を果たし得ず、労働契約で定めのない事項だけにしか適用されないというほとんど実効性のない法律になる。
(二)第二に、労働契約法制は、労働契約関係上の権利義務の要件と効果が定められるべきであり、使用者の行為の有効性要件としての合理的理由や必要性などを定めるいわゆる実体規制が中心となるべきである。
 労働契約に係る労使紛争は、手続の当否をめぐって生じるのではなく内容の当否をめぐって争われているのであり、労働者からの異議申立の核心は使用者の行為の内容の不当性である。たとえば、転勤の紛争についていえば、労働者にとって転勤を不当であると考えるのは転勤内容が受け入れ難いからであって事前の説明がなかったことではない。
 事前の予告・説明や協議という形式的・手続的な要件のみを重視して、使用者の行為の内容を制限するいわゆる実体規制を後退させることは、労働条件等を労使対等の立場で決定できない労働者に対して使用者がその一方的決定を受け入れさせることを法的に強いることにもなる。
(一)第三に、労働契約法制に期待される主要な役割は、労働契約関係上の権利義務の要件と効果を定める裁判規範としての民事法であり、裁判所の判決を通じての権利の実現、いいかえれば労使紛争の公正かつ妥当な解決基準を提示することにある。
 以上のように、労働契約法制に求められる基本的性格は、労使対等な立場にはない労働契約関係についての裁判規範及び行為規範として、労働契約関係上の権利義務の要件と効果を定めるものでなければならない。二〇〇六年より施行される労働審判制度を、実効性があり国民の期待に応えるものとするためにも、労働契約法はかかる法律とされるべきであると考える。


ナカソネ証人喚問署名一三〇〇〇筆  署名運動の継続と予定

 鉄建公団訴訟で、国鉄分割・民営化の張本人の中曽根康弘元首相を証人喚問される運動が進んでいる。
 七月一五日には、第16回鉄建公団訴訟裁判が行われた。一〇月以降には、立証の段階に入るが、原告側はこの立証のため中曽根に証人尋問を求めている。          
 この日、「鉄建公団裁判に中曽根元首相の証人尋問を求める要請署名」四七三〇筆分が提出された。六月から本格的にはじまった署名の累計は約一三〇〇〇筆に達している。
 裁判では、解雇された高野礼子さん(北見闘争団)と遺族原告の加藤厚子さんが陳述した。
 立証の証人採用については、原告側が、中曽根元首相の証人として尋問を求めたが、鉄建公団側は、本件での証拠調べは不要だと反論し、難波裁判長は、中曽根喚問・証人採用を拒否した。
 中曽根の証人喚問は、今回は成功しなかったが、途中で証人の差し替え、変更も事例として有り得るので、引き続いて署名運動は取り組まれる。また、中曽根の地元での「人らしく生きよう パート2」上映会や中曽根事務所などへのツァー、公開質問状などが予定されている。


7・18討論集会 イラク『主権移譲』と国連」

          武者公路公秀さん・武藤一羊さんが講演


 七月一八日、文京区民センターで「7・18 討論集会 イラク『主権移譲』と国連」(主催・自衛隊の海外派兵と戦争協力に反対する実行委員会)が開かれた。
 
 国際政治学者の武者公路公秀さんは「イラク新情勢への対応」と題して問題提起を行った。

 イラクでは、占領当局から臨時政府へいわゆる主権委譲が行われ、その臨時政府の下で「自由な選挙」をおこなうという建て前だ。
 かつて、ナチス・ドイツ占領下のフランスで、南部にペタン元帥のヴィシー「政権」ができた。それはドイツのカイライ政権で、反独レジスタンスが闘われた。イラクのアラウィ政権はCIA政権といってよい。同じカイライ政権だが違いもある。ヴィシー政権は枢軸国のみが承認したが、アラウィ政権には国連の支持がある。またフランスのレジスタンスはせいぜい鉄道輸送線の妨害程度だったが、イラクでは各地で連日の事件が起こっている。いまや首都バグダッドさえも都市ゲリラが活動し、アメリカ軍のヘリがビル爆撃を行い、多くの住民が死傷しているという事態にまでなっている。アラウィ政権は「非常事態」を宣言し、乱暴な独裁政治を行っている。
 フィリピンのアロヨ大統領は、自国の人質問題で、フィリピン軍の引き上げを実行した。これにはフィリピン市民の軍撤退運動も大いに影響した。イラクのフィリピン軍は数とか軍事力では大したことはないが、非常に象徴的な意味を持っている。韓国でも市民の撤退を要求する運動が盛り上がっているが、盧武鉉政権は対北情勢やアメリカの報復を恐れてフィリピンと同じようにはできていない。とにかく、日本、韓国、フィリピンの市民が連帯して、イラクからの軍撤退の基礎ができつつある。私たちは反テロ戦争に反対だ。だが、日本でもテロの可能性は高いが、その責任は小泉政権にあるということだ。
 今のイラク政権は、昔の中国の買弁資本のようなもので、イラクの国民の国家にはなっていない。イラク経済の特徴は、石油も水もみな外国資本の力の下におかれている。主権委譲の前には占領当局の命令が即法律だった。それは五年間有効となっており、「自由選挙」で「自由政府」ができたとしても、占領時代の政令は有効なのだ。それら政令は、新自由主義経済をつくりだすためのものである。イラク政府が自前の経済改革を進める構造にはなっていない。イラクの経済に絶大な力を持つのは、イラク開発銀行だが、それはモルガン系が支配している。
 湾岸戦争以前は、フセインの独裁政治があった反面、イラクは国民の健康状態でも教育でも、アラブで一番という位置にあった。しかし、イラク開発銀行のやろうとしているのは、イラク国民福祉の向上ではなく、植民地状態をもたらすものになっている。
 イラクの人たちは、経済封鎖その他これまでの経過、国連関係者の汚職などから国連介入は正当性を失っていると見ている。国連はアメリカとの関係を克服することが必要だ。日本もそのために努力すべきだ。アメリカは中東でイスラエルとの枢軸で石油利権を守る体制をつくろうとしている。それは、イラクとともにパレスチナ問題がある。米・イは、パレススチナ国家の成立を阻止し、パレススチナ人を南アフリカと同じ様なアパルトヘイトで奴隷化しようとしている。イラクとパレススチナ問題はつながっている。 
 私たちの運動方針としては、アメリカ・国連軍への非協力、イラク植民地資本への不買運動、国連監視と人権問題調査、イスラエル問題への対応、米国引き上げと市民監視下での国連による公正な選挙、などが考えられるのではないか。

 つづいて、ピープルズ・プラン研究所共同代表の武藤一羊さんが、「イラク『主権移譲』と国連」と題して発言した。

 いまイラクで起こっているのは、カイライ国家樹立をめぐる闘争だ。主権移譲とは、カイライ国家の埋め込みだ。それは戦後日本国家にとっても根本問題だった。アメリカは、イラク戦争で、日本占領の経験をモデルにしたといわれる。アメリカにとって日本は成功例だった。一九五二年五月一日、メーデー事件が起こったが、占領下の積もりに積もったものが爆発したものだったが、それで終わった。
 イラクでは、主権委譲の儀式がたった六人で行われた。その後、イラクでは激しい抵抗闘争が続いているが、それが日本のメーデー事件と同じ性格をもつものなのか、それとも何かの始まりなのか、見きわめなければならない。
 主権委譲後でも治安回復はまったくできず、アメリカはイラク戦争・占領の失敗を認めざるを得なくなり、新たな国連決議を求めた。
 しかし、一方で、9・11以降、アメリカが中東、西アジア(旧ソ連)に勢力を拡大したことは事実である。それがこの一年、イラクを中心として変調を来たしている。
 アメリカはイラク経済を乗っ取るだけでなく、イラク人の一部をさまざまな手段でアメリカの利益の代弁者にしたてようとしている。だが、日本では成功したがイラクではうまくいっていない。
 イラクの抵抗勢力にもいろいろある。イスラム国家を樹立しようとするのか、世俗的・民主的独立国家をめざすのかなどが争点になっている。イラクの誰と連帯するのかが問題だ。


郵政公社前で「ただちに原職就労」申入行動

 七月一五日、首切り自由は許さない!実行委員会による全一日の行動が行われた。
 スローガンは、日本郵政公社は6・30判決に従い七人を職場に戻せ! 関西航業争議団勝利判決を皆で祝おう! さらなる共同行動で全ての争議団の勝利を勝ち取ろう! 民事36部難波裁判長は公平な判決を出せ!、などだった。
 この間、東京高裁民事36部難波裁判長は、建交労・京王新労事件(〇四・四・二八)、全国一般・伸立証券事件(五・一七)、明治乳業賃金差別事件(五・三一)と立て続けに労働者側敗訴の不当判決を出している。闘う闘争団の鉄建公団訴訟や都教職員の君が代・日の丸通達処分の予防訴訟なども、民事36部だ。この日も、民事36部で係争中の争議団の相互乗り入れ的取り組みが行われた。
 朝の銀産労のAIJスター生命への行動、鉄建公団訴訟など国鉄闘争の東京地裁前宣伝行動、昼からは郵政公社前での就労闘争、鉄建公団原告の国土交通省要請行動、鉄建公団(鉄道運輸機構)宣伝要請行動、夜には、関西航業争議勝利を祝う交流集会が開かれた。
 
 六月三十日、東京高裁で逆転勝利判決を勝ち取った4・28被解雇者をはじめ、郵政の闘う労働者たちも全一日の行動を展開した。
 赤羽郵便局では、4・28免職者の池田実さんと支援者たちが、就労闘争を行った。
 つづいて、東京地裁で、「深夜勤」廃止裁判の第二回公判。
 正午からは、郵政公社前での「ただちに原職就労」申入行動と上告抗議行動。これには民間争議団や国鉄闘争団も参加。
 郵政公社は、4・28反処分闘争の6・30高裁勝利判決にたいして、これを認めるのではなく、あくまでも処分は正当だという態度を変えず、不当にも最高裁へ上告した。
 郵政公社前では、勝利判決を勝ち取った免職者へ花束の贈呈があり、申し入れ(別掲)とシュプレヒコールを行い、最後の勝利・解雇撤回・原職へ復帰まで闘い抜く決意を固めた。

 * * * * *

 「処分の取り消し・無効=地位確認」との6・30東京高裁判決に基づく4・28免職者の人権実現に関する申入書

 郵政4・28を闘う全国ネットワーク
 共同代表 吉野信次 平賀健一郎 小野寺忠昭 石田 精一
 事務局長 奥山貴重

 二〇〇四年六月三〇日、東京高裁は「原告七人全員の4・28免職処分の取り消し・無効=地位確認」との判決を下しました。これは、全逓反マル生越年闘争への報復である一九七九年の4・28処分が「重大、且つ明白な違法性」をもつと、日本郵政公社を指弾したものです。

 七月一二日、自らの悪行を省みない公社は最高裁へ上訴をしましたが、最高裁で係争中であろうとその判決が出るまでは高裁判決が最高法規であり、すぐさま高裁判決の命ずる「免職者の権利回復」が実行に移されねばなりません。

国家機関である郵政公社が違法状態をこれ以上続けることは、公杜にとっても重大な恥となり好ましいことではないので、以下、申し入れを致します。

 1) 二五年間にも及び、不法不当に、免職者・家族等へ苦しみと人権否定を強いたことを謝罪すること
 2) 判決に従い、直ちに、原告七人全員の処分撤回を表明すること
 3) 即刻、原職復帰・原職就労を実現すること
 4) 今日までの未払い賃金を支払うこと
 5) 年金の遡及回復を即刻行うこと
 6) 健康保険証を即時発行すること
 7) その他いっさいの権利・権限を回復すること
 8) マル生差別を自己批判し、不当な最高裁への上訴を取り下げること

 二〇〇四年七月一五日

 日本郵政公社総裁 生田正治 殿


日本経団連、改憲に積極的に取り組み開始

 日本経団連は五月末に「国の基本問題検討委員会」(委員長は三木繁光・東京三菱銀行会長)を発足させ、すでに幾度か会合を重ねている。
 検討委員会の設置趣旨では「国民の国家観の変化、国際社会におけるわが国への期待の変化にともない、日本の社会を構成する基本的枠組みが、内外のニーズに必ずしも十分に整合しない面も生じている」「これまで前提として捉えていた基本的枠組みや国の仕組み自体に関しても検討を加え、新たな国家像を描いていく必要が生じている。また、産業界の考え方を経団連の政党制策評価に反映させること、ならびに、検討が進められている憲法改正に対し産業界の意見を取りまとめていくことも必要」と述べている。
 検討委員会の仕事は「国の基本的な重要課題を体系的に整理し、国益、国家戦略の観点から、憲法改正のあり方も含めた検討を進め、意見の集約を計り、必要に応じ提言を行う」としている。
 七月七日の常任理事会には自民党憲法調査会の保岡興治会長を講師に招き「憲法改正をめぐる議論について」議論した。
 七月十五日には第一回委員会を開催、神戸大学の五百旗頭真教授を招いて、「日本の新たな国家目標と国際的役割」について議論した。出席者は三木委員長のほか、奥田碩・日本経団連会長・トヨタ自動車会長、和田紀夫・同副会長、日本電信電話社長、高橋慶一郎・ユニ・チャーム会長、大塚陸毅・東日本旅客鉄道社長、秋元勇巳・三菱マテリアル名誉顧問、藤田弘道・凸版印刷会長、小林正夫・日本ユニパックホールディング会長ら。
 七月二二日から二四日の「東富士夏期フォーラム」では統一テーマを「日本は国としてどうあるべきか」と設定、田中明彦東京大教授や作家の半藤一利氏を招いて議論する予定。
 その後、各委員会や部会の討議と、一〇月に予定している常任理事会で森本敏拓大教授を招くなどの討議を経て、一二月末から来年一月にかけて、各部会や委員会で論点整理とりまとめをする予定だ。
 国会での憲法調査会の議論と合わせ、財界の憲法論議もテンポを早めている。


「九条の会」が国会で記者会見  発足以来の運動状況を報告

 作家の大江健三郎氏ら九人(井上ひさし、梅原猛、奥平康弘、小田実、加藤周一、澤地久枝、鶴見俊輔、三木睦子)で結成された「九条の会」は七月一五日、国会で記者会見を行い、発足後の同会の運動状況を報告した。記者会見には小森陽一事務局長と川村俊夫、高田健、渡辺治の各事務局メンバーが出席した。
 小森氏は七月二四日に予定されている発足記念講演会が一〇〇〇人収容の会場で、全国各地から多数の出席希望者があり、入場申し込みをを締め切らざるを得なかったことを報告、事後措置として、ブックレットの発行やビデオの販売などを考えていると述べた。
 また「九条の会」アピールへの賛同も各界から相次ぎ、すでに五〇〇人を超えているとして、その一部、一九二氏を発表した。同事務局が発表した第一次の賛同者は以下の通り。
秋間実(東京都立大学名誉教授)、浅井良夫(成城大学教授)、浅倉むつ子(大学教員)、阿刀田高(作家)、天野祐吉(コラムニスト)、有原誠治(アニメーション映画監督)、安斉育郎(立命館大学教授)、池澤夏樹(作家)、池田香代子(翻訳家)、池辺晋一郎(作曲家)、石川文洋(報道写真家)、石田雄(政治学研究者)、石牟礼通子、板垣雄三(中東・イスラーム研究者)、井出孫六、伊藤定良(青山学院大学教授)、伊藤誠(経済学者)、伊藤光晴(京大名誉教授)、乾彰夫(東京都立大教授)、茨木のり子(詩人)、今井清一(横浜市立大名誉教授)、岩崎京子(児童文学者)、岩島久夫(国際政治軍事アナリスト)、上田誠吉(弁護士)、碓田のぼる(歌人)、内橋克人(評論家)、内海愛子(恵泉女学院大学教員)、梅原利夫(和光大学教授)、浦田賢治(早稲田大学教授)、浦部法穂(名古屋大学教授)、永六輔、江藤文夫(評論家)、海老名香葉子、大岡信(詩人)、大城立裕(作家)、大田堯(教育研究者)、大谷昭宏(ジャーナリスト)、大塚英志(まんが原作者)、岡野加穂留(明治大学名誉教授)、岡部伊都子、岡本厚(『世界』編集長)、オグラトクー(漫画家)、長新太(絵本作家)、小山内美江子(脚本家)、小沢昭一(俳優)、小田中聰樹(専修大学教授)、戒能民江(御茶ノ水女子大学教授)、戒能通厚(早稲田大学教授)、海部宣男(天文学者)、桂米朝(落語家)、加藤節(成蹊大学教授)上條恒彦(歌手)、亀井淳(ジャーナリスト)、川添登(建築評論家)、鬼追明夫(元日弁連会長)、岸田今日子(女優)、北澤洋子(国際問題評論家)、北野弘久(日本大学名誉教授)、木下順二(劇作家)、木畑洋一(東京大学教授)、金城睦(弁護士)、金石範(作家)、草川八重子(作家)、国弘正雄(元参議院議員)、久保田穣(東京農工大学教授)、久米弘子(弁護士)、栗山民也(新国立劇場演劇・美術監督)、黒木和雄(映画監督)、黒田杏子(俳人)、高史明(作家)、神山征二郎(映画監督)、小谷汪之(東京都立大学教授)、後藤道夫(都留文科大学教授)、後藤竜二(児童文学者)、小林武(愛知大学教授)、小林正弥(千葉大学教授)、小林カツ代(料理研究家)、小室等(ミュージシャン)、小森陽一(東京大学教授)、小森香子(詩人)、小森龍邦(新社会党委員長)、斉藤純一(早稲田大学教授)、斉藤貴男(ジャーナリスト)、早乙女勝元(作家)、坂本修(自由法曹団団長)、佐貫浩(法政大学教授)、佐野洋(作家)、志位和夫(日本共産党委員長)、汐見稔幸(東京大学教授)、茂山千之丞(狂言役者・演出家)、芝憲子(詩人)、島森路子(「広告時評」編集長)、清水誠(東京都立大学名誉教授)、清水眞砂子(児童文学者)、白石かずこ(詩人)、白藤博行(専修大学教授)、白柳誠一(カトリック枢機卿)、新藤兼人(映画監督)、新船海三郎(文芸評論家)、杉原泰雄(一橋大学名誉教授)、鈴木徹衆(日本宗教者平和協議会)、隅野隆徳(専修大学教授)、妹尾河童(舞台美術家)、芹沢斉(青山学院大学教授)、宗左近、袖井林二郎(法政大学名誉教授)、高階貞男(弁護士)、高橋哲哉(東京大学教授)、高畑勲(アニメーション映画監督)、高橋竹山(三味線演奏家)、滝平二郎(画家)、武田清子(国際基督教大学名誉教授)、ちばてつや(漫画家)、辻井喬(文芸家協会理事)、辻真先(推理作家・脚本家)、土屋公献(元日弁連会長)、鶴見和子(上智大学名誉教授)、寺島アキ子(劇作家)、暉峻淑子(埼玉大学名誉教授)、土井たか子(衆議院議員)、土井大助(詩人会議運営委員長)、利谷信義(法学者)、外山雄三(音楽家)、直木孝次郎(大阪市立大学名誉教授)、永井憲一(法政大学名誉教授)、永井潔(画家)、中島通子(弁護士)、永原慶二(一橋大学名誉教授)、中村研一(北大副学長)、中村浩爾(元大阪経済法科大学教授)、永山利和(日本大学教授)、なだいなだ(老人党提案者)、西尾漠(原子力資料情報室)、西川正雄(東京大学名誉教授)、西田美昭(金澤大学教授)、西原博史(早稲田大学教授)、灰谷健次郎、秦恒平(日本ペンクラブ理事・小説家)、塙幸(日本山妙法寺大僧伽首座)、羽田澄子(記録映画作家)、馬場あき子(歌人)、日色ともゑ(劇団民芸俳優)、広河隆一(フォトジャーナリスト)、広渡清吾(東京大学教授)、深瀬忠一(北海道大学名誉教授)、福島みずほ(社民党党首)、福田歓一(日本学士院会員)、福家俊明(天台寺門宗管長)、藤井泰雄(金光教平和活動センター)、藤田勇(東京大学名誉教授)、伏見康治(阪大・名大名誉教授)、不破哲三(日本共産党議長)、堀尾輝久(東京大学名誉教授)、増田れい子(ジャーナリスト)、升味準之輔(東京都立大学名誉教授)、松井芳郎(立命館大学教授)、松浦悟郎(日本カトリック正義と平和協議会会長)、松田解子(作家)、松野迅(ヴァイオリニスト)、松本三之介(思想史研究家)、松本猛(安曇野ちひろ美術館館長)、宮坂宥勝(真言宗智山派管長)、宮里邦雄(日本労働弁護団会長)、宮地正人(国立歴史博物館長)、三善晃、村井敏邦(龍谷大学教授)、森南海子(服飾デザイナー)、森英樹(名古屋大学教授)、森村誠一(作家)、安丸良夫、矢田部理(元参議院議員)、山内敏弘(龍谷大学教授)、山北宣久(日本基督教団総会議長)、山田幸彦(弁護士)、山本俊正(日本キリスト教協議会総幹事)、山本博(弁護士)、由井正臣(早稲田大学名誉教授)、湯川れい子(音楽評論家)、吉田ルイ子(フォトジャーナリスト)、吉永小百合(俳優)、米田佐代子(女性史研究者)、李恢成(文筆業)、渡辺治(一橋大学教授)、渡辺えり子(制作・演出・女優)、和田誠(イラストレーター)


KODAMA

 老いも若きも、神を信じる者も信じない者も

 連日、記録的な猛暑だ。 そんな折、大先輩のTさんから「わだつみのこえ」(日本戦没学生記念会機関誌者)の最新号(第一二〇号)を送っていただいた。Tさんとは六〇年代後半以来おつきさせていただいてはいるが、長い間、集会などでたまにあいさつする程度だった。昨年、私たちの運動の最長老のひとりだった板井庄作さんが亡くなり、その葬儀や追悼会などのことで大変お世話になった。その時知ったことだが、Tさんは板井さんとは家族ぐるみの付き合いがあったそうだ。Tさんが追悼会などで話された旧制中学校の当時の板井さんのエピソードなどは、板井さんの奥さまも知らないもので、五十数歳以降の板井さんしか知らないわれわれの世代にとっても非常に興味深いものだった。
 「きけわだつみのこえ」の今号には、わだつみ会理事でキリスト者の大島孝一さんが「『神様』を持ち出す戦争」という「巻頭言」を書いている。ブッシュ大統領が、アフガニスタン戦争をはじめたときに述べた「神様がアメリカを祝福してくださるように」という言葉にたいして「キリスト教の神様がイスラムに対する戦争を支持してくださるとでも、彼は信じているのだろうか」、ブッシュは「一抹の不安があったので『神様』にかけて祈ったのかも知れない」と批判している。大島さんは高齢をおして反戦集会や各種の行動に参加されているが、私たちは、その姿を運動全体への叱咤激励として受け取りつつ見つめている。
 いま、憲法改悪にむけての攻勢が強まっている。これに反撃すべく「九条の会」の運動への支持が各界各層から寄せられている。増え続けていく賛同者の名簿を見ていると、昔から名前だけは知っている人のところなどに来ると「あぁ 頑張っておられるのだなぁ」という感慨が湧く。反戦平和の志を持った多くの人びとが経験や主義主張の違いはありながら、一致して積極的に声を上げはじめた。このことの歴史的な意味を評価し過ぎることはないだろう。
 フランスのレジスタンスでは、神を信じる者も、信じない者もともにファシズムと闘おうというスローガンがあった。いま、老いも若きも、神を信じる者も信じない者も、心をひとつにして、九条改憲阻止の闘いに立ち上がるときだ。(MD)


複眼単眼

  
 国家権力がくり返す国家犯罪・人権侵害

 毎日のように流されてくる埒被害者の曽我ひとみさんや夫のジェンキンスさん、そして二人の子どもたちの報道を見ていると何とも居たたまれない思いがする。
 ようやく一年九ヶ月ぶりでインドネシアで再会した四人が、今度はジェンキンスさんの病の治療と言うことで来日し、ただちに入院した。
 今年春に行った手術の術後経過がよくないとのことだ。当初はインドネシアに長期滞留予定とされていた一家だが、「予想外のハプニング」ということで、日本に連れてこられた。一八日、JRの某駅を降りたら、近くの高速道路の出口ではTVのカメラが何台も曽我さんたちの車が通るのを待ち受けているのに出会った。
 米国はジェンキンスさんを犯罪容疑者の米兵の引渡しを定めた日米地位協定に基づき、脱走や他の兵士への脱走教唆などの容疑で身柄引渡しを要求、訴追し、軍法会議にかけるとしている。これによって死刑を宣告される可能性がでてきた。
 ベーカー駐日大使は「人道的観点からの配慮も大切。やったことをあらいざらい明らかにすれば極刑を受けることはない」などと語った。ところが十六日の日本政府の発表では「米側との司法取引をジェンキンスさんに勧め、これによって、日本永住の実現を目指す。来日後、ジェンキンスさんに司法取引に応じる意向があるか打診する」とのこと。
 なんということだろう。小泉首相は先般の訪朝の際にジェンキンスさんに会い、「保証するから日本に来てください」と言ったはずだ。今度は米政府との司法取引に応ぜよと言うのか。
 「司法取引」とは犯罪者が自らの刑を軽減するため、犯罪事実を告白し、もって捜査の進行に協力することだ。だからジェンキンスさんには「脱走を誤りと認め、同様に脱走した在韓米兵の情報を提供し、その他知りうる限りの北朝鮮の情報を提供することなど」が強要されることになる。拒否すれば極刑という脅迫のもとでだ。
 ジェンキンスさんは一九六五年、在韓米軍の軍曹だった二四歳の時、「ヴェトナム戦線に送られたくない」と自ら米軍を脱走したが、このことを犯罪とは思っていないだろう。いや、彼がいまどのように思っていようと、国際的な批判を受けていたヴェトナム戦争を進め、朝鮮半島の南北分断支配に直接関わる米軍からの脱走は正義の行為、あるいは緊急避難と言うべきではないか。
 これを犯罪者扱いし、「温情」でスパイを強要するなど、断じて許されることではない。
 入院治療後、もしジェンキンスさんが米軍に出頭しなければ訴追され、身柄が引き渡されるだろう。これはまさに日本政府と米国政府によるジェンキンスさんの国家的拉致行為だ。「人道」を看板にしながら、これほどの非人道的行為をやっているのだ。
 これはどうも日米両政府によるデキレースの臭いがする。両国政府と北朝鮮政府の政治的な争闘のなかで運命を翻弄されている曽我さん、ジェンキンスさんの一家の苦しみと悲しみはいつまで続けばいいというのか。「私ってなんてややこしい人生になってしまったんでしょうね」と蘇我さんは語ったことがある。
 曽我さんの拉致も、お母さんの行方不明も、脱走米兵のジェンキンスさんとの結婚と別離も、そして二人の子どもたちの人生も、この夫婦にこれだけの現代史のひずみから来る重石がのしかかるなど、不条理極まりないことだ。
 いずれも朝鮮半島における近代史と、その歴史的責任が清算されていないことから派生したことだということを、当事者の国家・政府はもとより、同時代に生きる人間、すべてが襟をただして向き合い、認識し、解決すべきことなのだ。 (T)