人民新報 ・ 第1147 号<統合240(2004年10月25日)
  
                  目次

● 撤退なくして復興なし  強盗たちのイラク復興会議に抗議

● 「解雇された国鉄労働者は訴える NO ナカソネ! NO コイズミ! こんな日本に誰がした 映像・音楽・トークの夕べ」

● 米軍の再配置と自衛隊の派兵に反対するシンポジウム  〜 韓国・沖縄・神奈川 〜

● 安全保障と防衛力に関する懇談会報告書「未来への安全保障・防衛力ビジョン」批判 …… A

● 日韓自由貿易協定(FTA)交渉反対 日韓共同行動実行委のアピール

● 書 評  /  アメリカ帝国の悲劇  チャルマーズ・ジョンソン著

● KODAMA  /  水俣病最高裁判決と国の責任

● 複眼単眼  /  徴兵制と非暴力抵抗闘争  石井百代の歌




撤退なくして復興なし

  強盗たちのイラク復興会議に抗議


一〇月一三〜一四日、東京で「イラク復興会議」(第三回イラク復興信託基金ドナー委員会会合および拡大会合)が開かれた。

一三日には、WORLD PEACE NOW実行委員会主催による、「撤退なくして復興なし。強盗たちの「山分け会議」にNO!『イラク復興会議』に抗議しよう 10・13アクション」が取り組まれた。午後一時、社会文化会館前に集合して抗議行動を前に小集会が開かれ、WPN実行委員の高田健さんが発言した。
 「政府は、会議の場所も発表せず、世界の人びとから隠れてやっている。大量破壊兵器の問題などでイラク戦争の大義が破綻していることが明白なのにアメリカや日本政府は、戦争を続けている。『復興会議』は、イラクの人びとのためのものではない。利権や資源の山分けのための会議だ。復興の前提は、なによりも占領軍の撤退であり、自衛隊の撤退だ」。
 復興会議の会場である赤坂プリンスホテルに向かって移動し、会場の付近で、イラクに戦争をしかけ占領して多くの人びとを殺し、資源を山分けする「支援」国の姿を暴露し批判するパフォーマンスを行った。登場人物は、山分けを仕切るアメリカ・ブッシュ大統領をはじめ、イギリス・ブレア首相、日本・小泉首相、そしてイラク暫定(カイライ)政権のアラウィ首相という顔ぶれだ。WPN実行委員会は、参加各国首脳宛の要請書を外務省を通じて提出した。要請書は「私たちは、現在のイラクの人びとの生命と生活を破壊し、イラク社会を混乱の中に陥れたのは、米国の率いる有志連合軍による国際法を踏みにじる侵略、軍事占領にあること、そして占領の失敗を糊塗するために米国によって作られた暫定政府の下で継続されているイラクの人たちへの戦争にあることは明らかだと考えます。……イラクの復興は、その破壊の原因をつくっている米英とその同盟国の軍隊が撤退することによって始めて可能となります」と侵略戦争を批判し占領をただちにやめるよう求めた。

 「復興」会議には「イラク復興信託基金」(IRFFI)に一〇〇〇万ドル以上を拠出している日米英など一三のドナー委員会国をはじめ、フランス、ドイツ、ロシア、サウジアラビア、イランなど五〇を超える国のほか、国連、世界銀行などの国際機関も出席した。
 日本は今回の会議の議長国に自ら名乗り出ている。小泉政権は、アメリカとの軍事同盟関係を強化し、アメリカの世界支配戦略の一翼を積極的に担うことによって、自らの利権の拡大を狙うために、復興会議を日本で開いた。
 日本の基金への拠出額は四億九〇〇〇万ドル。EU(欧州連合)は二億ドル、イギリスは一億二七〇〇万ドルなどだ。昨年の会議(スペイン会議)では復興資金需要は五五〇億ドルと見積もられて、約三二〇億ドルの支援表明が行われた。しかし、実際に拠出されたのは約一〇億ドル程度とほんのわずかなものとなっている。イラク側は会議で、支援国には復興資金拠出の迅速化を、債権国には対外債務の最大一二五〇億ドルの免除を要請した。しかし、ヨーロッパ諸国をはじめほとんどの国は、資金拠出にも債務免除についてもきわめて消極的な態度に終始した。
 アメリカのアーミテージ国務副長官が会議参加のために来日し、イラク国民議会選挙を予定通り実施するための各国からの支援と自衛隊の駐留延長などを要求するなど、テコ入れに必死だった。
 会議では、町村信孝外相が、来年一月の国民議会選挙のために信託基金拠出金から四〇〇〇万ドルを支援すると表明し、また来年から円借款を開始する、とも述べた。
 イラク暫定政府のサレハ副首相は「イラクは『中東の経済大国・日本』になる」と決意表明し、参加国に支援金拠出を要請した。ハーフェズ計画開発協力相は、イラク国軍・警察の規模が一〇万人を超え、毎週五〇〇〇人の警察官が訓練を受けていることなど、治安回復への努力を強調した。

 会議修了後、サレハ副首相は各国や国際機関からの支援が「遅れていることには満足していない」と発言したが、各国のイラク「復興」へはきわめて慎重なものであった。その理由は、なによりイラクの「治安」状況の悪化である。
 国際世論の反対を押し切って強引にイラク侵略戦争を開始したアメリカ・ブッシュ政権とそれに追随するイギリス・ブレア政権、日本・小泉政権は、イラク民衆の解放闘争に直面させられている。親米的なメディアさえもイラク占領はうまくいっていないことを認め始めている。そもそも、戦争開始の「大義」であったフセイン政権の大量破壊兵器の保有、アルカイダとの組織的な関係などがことごとく「デマ」であったことが明らかになった。
 国際的な世論はもとより、アメリカ国内でもイラク戦争への批判が高まっている。イラク戦争の「ベトナム化」は確実に進行している。イラク暫定政府のヤワル大統領でさえも、予定されている国民議会選挙は治安が確保されないなどの状況に陥れば、「新たな日程を定めることをためらわない」と述べるなど延期の可能性に言及した(一四日)。それに対して、サレハ副首相は、イラクは「国際テロとの戦いの主戦場」であり、「テロを根絶し、国民議会選挙を予定通り実施する」と強調したが。イラク政府の内部でもこのように意見は大きく分かれている。
 戦争有志連合・多国籍軍も大揺れで、脱落が相次いでいる。ポーランドのベルカ首相は一五日、来年初めにイラク駐留軍を削減し、「必要以上にはイラクには駐留しない」と述べ、撤兵の準備を始めた。イギリスでさえ来年中はともかくそれ以後は軍を引き上げるかもしれないという構えだ。
 アメリカ・ブッシュ政権は内外ともに重大な局面を迎えている。
 しかし、ここで「反テロ」戦争の誤りを認め路線の修正はできない。それはブッシュとその一派、そして石油メジャー、軍産複合体などにとって致命的な打撃となるからだ。
 われわれは、全世界の反戦・反占領の闘いと連帯し、占領軍・自衛隊撤退の闘いをさらに強めて行かなければならない。


解雇された国鉄労働者は訴える NO ナカソネ! NO コイズミ! こんな日本に誰がした 映像・音楽・トークの夕べ

 一〇月一八日、シニアワーク東京で「解雇された国鉄労働者は訴える NO ナカソネ! NO コイズミ! こんな日本に誰がした 映像・音楽・トークの夕べ」が開かれた。主催は、国鉄の分割・民営化の責任者であった中曽根康弘元首相を鉄建公団訴訟の証人喚問に引きだそうと闘っている「責任とってよ!ナカソネさんキャンペーン」。
 はじめに呼びかけ人の立山学さんがあいさつ。
 国鉄闘争で、鉄建公団訴訟が縦糸だとすれば、中曽根を追及し分割民営化を告発する闘いは横糸といえる。分割民営化では被害者は解雇された労働者だけでなく国民全体だ。いま、もう一度分割民営化の真実を掘り起こして批判を強めて行かなければならない。それを国民の中にアピールしていくことだ。この一〇月一三日に、私たちは「国鉄民営化問題研究会」を発足させた。分割民営化は、長期債務の国民への負担の転嫁であり、同時に土地かっぱらいだった。一三兆円の債務は二八兆円になった。そして土地だ。汐留の国鉄跡地はいまどうなっているか。マスコミがもらっている。中曽根は、自著で氏家日本テレビ社長、渡辺読売新聞社長との緊密な関係を述べているが、マスコミが土地の格安の払い下げを見返りとして、分割民営化の大キャンペーンをはったのは明らかだ。
 しかし分割民営化については支配層の中にも失敗だったという声が出てきている。民営化を直接に推進した人物からもそうした文章も書かれている。左だと思われている人たちの中からも中曽根大物論が言われたりしているが、中曽根はそんなに大物ではない。歴代首相の中で、中曽根のように土地ブローカーの様なことをやった奴はいない。私は中曽根小物論を書いている。中曽根の地元の群馬県で一番の人気者は国定忠治だ。弱いものの味方だ。中曽根はずっと下だ。
 そして、国鉄闘争を、イラク反戦、憲法闘争と結び付けていく必要がある。
 当日の鉄建公団訴訟第二回個別立証で証言した函館闘争団の佐々木勉さんが登壇。
 私は一八歳で国鉄に入り、反マル生、スト権ストなどを闘ってきた。だが、国労本部の四党合意は私たち首を切られた労働者を馬鹿にするものだった。
 紙切れ一枚で解雇された私たちが勝利しなければ、苦労をしてきた家族、支援のみなさんをはじめ多くの労働者に申し訳ない。酒好きの私が法廷に立つ前の四日間、酒を断ち、必死に尋問のための文書を頭にたたき込んだ。
 函館闘争団は二〇人だが一人で訴訟を闘っている。ほかの人たちは本部の方針には反対だというが、参加してこない。だが、私は最後には原告団とともに勝ち笑いをしたい。
中曽根の地元での「中曽根お膝元直撃・高崎デモ」のビデオが上映され、高崎行動でも歌われた「責任とってよナカソネさんの歌」を作詞者の中村宗一国労高崎地本委員長の指導の下に会場参加者全体の大合唱となった。
 つづいて、「中曽根の犯罪を告発する」と題してのリレートーク。
 行動提起は鉄建公団訴訟団の佐久間誠さん。
 中曽根の証人喚問を求める署名には、短期間にもかかわらず一万六〇〇〇筆があつまった。
 十一月四日には鉄建訴訟の第三回個別立証のために、闘争団の家族も大挙上京してくる。その日には、中曽根東京事務所への要請行動を行いたい。
 立山学さん、鎌田慧さんらの協力を得て、パンフ「中曽根の犯罪履歴」を発行する。
 一二月一日の日比谷野外音楽堂で「一〇四七名の解雇撤回 鉄建公団訴訟勝利 全国総決起集会」に一万人を結集させよう。


米軍の再配置と自衛隊の派兵に反対するシンポジウム   韓国・沖縄・神奈川  

 いま米軍の全世界的な再編成(トランスフォーメーション)が推進されている。ヨーロッパからの米軍の撤退と東アジアでの強化が特徴だ。
 韓国では、一万二五〇〇人の在韓米軍の削減や基地の移転削減が動き出している。しかし、このことは一面で朝鮮半島での緊張の激化・戦争の可能性の高まりをもたらすものである。
 日本関係では、陸軍第一軍団司令部(アメリカ・ワシントン州)の神奈川県キャンプ座間への移転、空軍では第一三軍司令部(グアム)の東京都の横田基地にある第五空軍司令部との統合、沖縄海兵隊のキャンプ富士への分散移転、空母艦載機の夜間離着陸訓練(NLP)の神奈川県厚木基地から山口県岩国基地への移転など、が報道されている。
東アジアでの米軍展開の重点は、日本をいっそう米軍の世界戦略の一翼として活用しようとするものとなっている。

 一〇月一六日、文京区民センターで「米軍の再配置と自衛隊の派兵に反対する10・16シンポジウム 〜韓国・沖縄・神奈川〜 」が開かれた。この集会は、イラクからの自衛隊撤退と沖縄の米軍基地撤去を求める実行委員会(新しい反安保実\)の立ち上げ集会として行われた。
 沖縄からの報告は、海上ヘリ基地建設反対・平和と名護市政民主化を求める協議会(ヘリ基地反対協)の安次富浩さん
 辺野古では、海上新基地のためのボーリング調査を身体をはって阻止している。この半年にわたる闘いの中で県民の支持が拡大している。自民党の支持者からも沖縄を破壊することは許せないとして、カンパ・差し入れをしてくれる人も出てきている。普天間基地のある宜野湾市では市民大会を開いて基地撤去の闘いがもりあがっている。辺野古の闘いは、宜野湾の闘いと不離一体だ。
 沖縄では、八月の普天間ヘリ墜落事故以前から基地に対する怒りが広がっていた。七月の参議院議員選挙で糸数慶子さんが圧勝したのがそのあらわれだ。辺野古での座り込みをしながら、参院選にたいしても闘ったが、選挙は辺野古への移転に対するイエスかノーかを問うものでもあった。
 沖縄の基地負担についての日米政府の行動委員会(SACO)では普天間は五〜七年内に移転するとなっていたが、すでにもう八年も経っている。七月には伊波宜野湾市長が訪米して、普天間基地は非常に危険であるということを訴え、普天間基地問題での交渉をおこなった。そして案じられていたように沖縄国際大学へのヘリ墜落事故が起こってしまった。事故以前の「琉球新報」紙の調査では辺野古新基地に七〇〜八〇%が反対だった。事故後の「沖縄タイムス」紙の調査では九〇%が辺野古移転はダメだと答えている。これが県民の声だ。それで、稲嶺沖縄県政は大きく動揺している。それを小泉が手助けして、国外、県外への移設などと言っている。しかし、小泉は辺野古の断念を言っていない。米軍のトランスフォーメーションにそって米軍と自衛隊の共同使用を拡大していこうとしている。辺野古新基地はゼネコンにとって大きな魅力だ。埋立、ビル、管制塔などの付属施設、そして軍人と家族用の高層マンションなど総額で一兆円ほどが見込まれている。これが「思いやり予算」、日本の税金を使ってやられようとしている。小泉はアメリカの五一番目の州知事に成り下がっている。県民の怒りは大きく広がっている。
 アメリカ、日本政府、沖縄県は、辺野古新基地で三重の環境破壊を行っている。海を埋めること、そのための土を運んでくるために山をつぶすこと、それらの作業の中で出てくる重金属による汚染があるということだ。
 日本政府などは、海上基地になれば、危険が少なくなったと言う。しかし、米軍ヘリは市街地での攻撃の訓練を行う。市街地での飛行がなければ訓練にならない。
 小泉はアメリカにノーと言ったことはない。座間への米陸軍第一軍団司令部の移転はまだ受け入れていないが、そのほかは全部受け入れている。座間についても結局は受け入れるだろう。安保条約の極東条項があるといっても、すでに日本からイラクへ出撃している。
 本土の闘いは一過性で、喉もと過ぎれば熱さをわすれるというようなこともある。いま、なにより必要なのは、現場での激しい闘いだ。それこそが、多くの人の心を動かすことができる。

 神奈川の報告は、すべての基地に「NO」!を・ファイト神奈川の木元茂夫さん
 神奈川の厚木は横須賀の空母機の訓練が行われている。厚木基地では、米軍機による離発着訓練が年間に五万四〇〇〇回も行われる。これはすさまじい騒音で多くの被害をもたらしている。
 横須賀は、空母ミッドウェーの母港とされてからすでに三〇年以上たった。いまは、空母キティホークがいるが、二〇〇八年には退役する。その替わりに、横須賀が原子力空母の母港とされようとしている。
 横須賀市は、原子力災害に対処するために、米軍と協議をするとともに、原子力事故を想定しての防災訓練、避難訓練を行っている。三月下旬に、米太平洋軍司令官が米下院議会で、横須賀への能力の高い空母(原子力空母)の配備の予定だと証言し、日本外務省の北米局長は、「受け入れるのは当然」と述べた。これに対して、横須賀市長は北米局長に面会し、「受け入れられない」と申し入れた。六月には、横須賀市議会は「能力の高い空母は認められない」と決議している。しかし、安心はできない。さまざまな切り崩しが行われている。すでに、横須賀港の一二号バースの延長工事が行われ、二〇〇六年には米軍に引き渡される。横須賀港の強化は、一つは朝鮮半島の情勢を睨んだものだ。米のイージス艦の「レイクエリー」「ガーディアン」の二隻が新潟港に入った。横須賀は、艦船修理では日本でいちばんだ。
 陸軍第一軍団のキャンプ座間への移転についてだが、大野防衛庁長官に申し入れたが、長官は「はっきりした話はない」といっていた。これまでは米軍と陸自との関係は、海自ほどはなかったが、それを強化しようとしている。座間への八〇〇人も増強は、陸自の「反テロ」訓練のためではないかと思われる。
 アーミテージ国務副長官は、今回は座間移転を最初に出したのはうまくなかった、さきに日米関係をどうするかということをさきに論議すればよかったと言っている。今後は、そうした方向からこの問題にたいして対処してくるだろう。
 
 韓国については、在日の都裕史さん(沖韓民衆連帯)
 アメリカの軍事戦略の柱は、@米国本土の完全な防衛、A米軍前進配備を通した戦争抑制地域(ヨーロッパ、中東、東北アジア、東南アジア)、B四つの地域で同時に戦争を遂行する対象箇所、Cその二つの戦争での決定的勝利、具体的には領土占領と政権交代、というものだ。そのために、海外米軍の再配置(トランスフォーメーション)が行われている。海外駐屯地米軍の分類としては、@戦力投射根拠地(PPH)<大規模兵力・装備展開根拠地>、A主要作戦基地(MOB)<大規模兵力長期駐屯常設基地>、B前進作戦基地(POS)<小規模施設>、C安保協力対象地域(CSL)<小規模連絡要員常駐>だが、韓国はPPHとMOBの間、日本はPPHというもので、アジアで日本を、ヨーロッパでのイギリスと同様の中枢の同盟国として機能させるものだ。
 韓国社会では、梅香里(メヒャンリ)の米空軍国際爆撃場に対しての「騒音被害訴訟」が住民によって闘われ、第一審裁判で勝利し、その他の飛行場近接地域でも訴訟が進んでいる。そのほかにも、米軍車両による女子中学生轢殺事件に対する抗議などの反米平和運動が拡大している。ラムズフェルド米国防長官は、「歓迎されないところに米軍を駐屯させない」といっているが、駐屯できない状況へ現地の闘いを活性化していくことが必要だ。
 安保条約のための地位協定についてだが、地位協定は基地被害に直接関係する。地位協定を改定させる運動を、安保容認でなく米軍基地撤去にむけた方法として取り組むことが大事なのではないだろうか。


日米同盟のもと本格的で全面的な帝国主義への飛躍をねらう戦略計画書

 
 安全保障と防衛力に関する懇談会報告書「未来への安全保障・防衛力ビジョン」批判 …… A

地球規模での日米軍事同盟へ、日米安保体制の一大変質ねらう


                                       佐藤 史朗

【日米同盟の再・再定義と新ガイドラインの再構築】

 報告は「国際的安全保障環境の改善による脅威の予防」のための自衛隊の海外派兵は、本務であるとし、日本帝国主義の軍隊としての自衛隊の海外派兵を正当化したうえで、日米同盟のいっそうの重要性を強調している。
それは第一に「日本周辺地域には依然として伝統的な不安定要因が存在している」ことから日米安保体制と米軍の存在(プレゼンス)は「今後ともわが国防衛の大きな柱」であり、この地域の安定化にとっても不可欠であることの強調である。
 第二に米国が9・11以降、目標にしている「テロリストやならず者国家といった非対象的脅威への対処に全力をあげると共に、テロリストなどによる大量破壊兵器の入手を防ぐ」などの観点は日本の安全保障にとっても大きな脅威であるとして、ブッシュ政権の認識に全面的に追従している。そして、これへの対処は日本一国ではできないのだから、「こうした取り組みをすすめる国際社会」の中心となっている米国との同盟は重要で、今後ますます日米協力が必要になると述べている。報告はだから「日米同盟を維持・強化していく努力は、不断につづけられなければならない」と断言するのである。
 このために提起されているのが「時代に適合したあらたな日米共同宣言」(日米安保の再「再定義」)であり、新たな「日米防衛協力のための指針」(新「新ガイドライン」)である。
 報告は、まず、冷戦後の日米軍事同盟のあり方を定めた一九九六年の「日米安保共同宣言」と、それに基づいて一九九七年に策定された「日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)にそって日米協力を具体化していくことを確認し、その上で旧来の戦略認識を改める必要性を強調している。
 報告はこういう。
 「日米間の戦略的な対話を通じて新たな安全保障環境とその下における戦略目標に関する日米の認識の共通性を高める必要がある」。
 そして、現在すすめられているグローバルな規模での米軍の再編(トランスフォーメーション)について、これを「日米間の安全保障関係全般に関する幅広い戦略対話の契機」ととらえて協力すべきであると説いている。
 要するにブッシュ米国政権の国際情勢認識を日本も共有することの必要性を説いているのである。
 報告書がいうところによれば、「米国との間で日本の防衛や周辺地域の安定のみならず、国際社会全体の着実な安定化により、わが国に対する脅威の発生を予防する」ような日米協力関係を目指さなければならないのである。これは日米安保体制の再々度の大転換の提起である。
 一九七八年の日米安保ガイドラインは七〇年安保の改定にも匹敵するような性格の、日本有事における日米共同作戦体制の確立であった。九七年にはこれをさらに変質させ、日本周辺有事における役割分担を定めた。
 いずれもが日米安保条約の本格的な改定を必要とするほどの内容の変更であったにもかかわらず、自民党政権は「再定義」などという姑息な手段で民衆的批判を乗り切ってきた。今回、「報告」が提言しているものは、「地球規模での日米軍事協力」であり、さらに従来以上の日米安保体制の大転換である。それをまたも日米安保条約の改定なしにやってしまおうとしている。
 報告はこのために、「日米間の役割分担などを含め主体的に米国との戦略協議を実施すべきである」として、先に指摘したように「こうした協議の成果を反映する形で、時代に適合した新たな『日米共同宣言』や新たな『日米防衛協力のための指針』を策定すべき」だとしているのである。

【ブッシュ・小泉の無法者の流儀】


 これは日米安保条約にすら大きく反している主張である。
 アナン事務総長が指摘したように米国の国連憲章無視はイラク戦争において明白であったが、同様に小泉内閣も憲法や自衛隊法などまで無視して自衛隊のイラク派兵を強行した。そのうえ、派遣部隊の多国籍軍編入も日米首脳会談だけで約束した。このような日米両国首脳に共通の立憲主義、法治主義の破壊が、日米安保条約にまで及んでいるのである。このような者こそアウトローであり、ならず者というのではないか。
 米国は同国軍隊の配置の世界的な再編のなかで、すでに米陸軍第一軍団司令部を本国から神奈川のキャンプ座間に移す構想を出し、極東から中東に至るいわゆる不安定の弧(米政府は二〇〇一年の「四年ごとの米国防見直し」報告で、この地域への米軍の関与強化をうたった。それによると、この地域はテロや大量破壊兵器の温床地帯で、米軍基地がすくないと認識されている)における米軍の軍事戦略・戦力展開の中心を日本に置き、日米同盟をそれにリンクさせようとしている。すでに政府も米陸軍第一軍団司令部の座間移転を受け入れる方向で検討に入ったという。
 いうまでもなく日米安保条約第六条はその在日米軍について、その適用範囲を明白に定めているので、このような米国の要求は許されないものである。
「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和および安全の維持に寄与するため」としたいわゆる極東条項である。「極東」とは当時の政府解釈では「フィリピン以北、日本とその周辺海域、韓国、台湾」とされていた。
 これが先の「安保再定義」で「周辺事態」へと読み変えられ、適用範囲が事実上は「アジア・太平洋安保」へと拡げられたが、さらにいま「地球的規模の同盟」に読み変えられようとしている。普天間基地で墜落したヘリと同型機種のヘリが堂々と沖縄からイラクに飛び立っている。
 すでに沖縄を訪問した際、町村信孝外相は「まず極東条項ありきということでやると非常に狭い議論になる」などとして、米軍の要求を受け入れる方向で走っている。
 一〇月上旬の日米審議官級協議では日本側が「極東条項は必ずしも障害にならない」と米側に伝え、アーミテージ米国務副長官が「最初から枠をはめると議論は行き止まりになる」などと行って、極東条項の無視という合意ができあがりつつある。
 このほか、財界の要求を入れて武器輸出禁止三原則の解凍を提言し、ミサイル防衛(MD)の日米共同開発へ道を開きつつ、これと抱き合わせで日米軍事生産の協力体制に道を開く「武器の原則国産化の見直し」なども提言されていることも見逃すことはできない。

【改憲と集団的自衛権の行使の実現を急ぐ】

 こうした危険な「報告書」は、その当然の帰結として改憲の提案に踏み込まざるをえない。
 しかし報告が言うようにこれは「憲法改正について論ずる場ではない」「提言は現行憲法の枠内で行っている」などとして、憲法問題は問題提起にとどめている。
 しかし、この報告書のいうところが「憲法の枠内」などではあり得ないのは明白である。
 くわえて、さらに重大な問題がある。
 報告が「国際協力のための一般法の整備」に触れているところである。
 この一般法とはいわゆる「派兵恒久法」の制定の提案である。
「これまでは、新たな事態が生起して平和協力活動の必要が生ずるごとに特別措置法を作って対応してきた。今後とも……日本としてこれに一貫して、かつ迅速に取り組んで行くことができるよう、一般法の整備を検討すべきである」と。これはテロ特措法でアフガン戦線に派兵し、イラク特措法でイラクに派兵してきた政府が、ひきつづき憲法改悪ができていない下でも米国に追従して自衛隊を派兵するために、もはや特措法方式ではなく、いつでもどこへでも、地球規模の範囲で自衛隊の派兵ができる体制=派兵恒久法をつくるというものである。
 この派兵恒久法の準備を始めた福田前官房長官が内閣を去って、細田官房長官になり、恒久法問題では若干の動揺が見えたが、報告はその策定を急げと尻敲きしているのである。
 派兵恒久法などは、どのように粉飾しても解釈改憲すら無理な代物であり、重大な許されざる憲法違反である。まず、この法案を葬り去る闘いが不可欠である。
 報告の憲法問題についての発言も許されざるものがある。
 「懇談会は、憲法が規定する平和主義、国際協調主義の下で、国民を守る自衛の努力と国際平和協力の両者を日本の安全保障の基本方針と結論づけた」として、「集団的自衛権といっても、議論される例は武力攻撃発生前に日本防衛の目的で来援した米軍を防護するための武力行使から、同盟国の領土に対する武力攻撃の排除まで幅が広い。後者のような例まで認めよとの意見はないが、それ以外の例に関しては種々の考え方がありうる。……現行憲法の枠内でそれらがどこまで許容されるのか等明らかにするよう議論を深め、早期に整理すべきである」と結んでいる。
 従来の憲法論議からさらに踏み込んで、集団的自衛権の行使には違憲でないものもあるだろう、それを整理して進めよとの危険な提案である。
 報告は「未来への安全保障」などというサブタイトルの文言とは反対に、新たな防衛計画の大綱策定に際して、日本が本格的に戦争をする国になる道を掃き清めようとしている。防衛庁はすでにガイドライン見直し作業に着手したといわれる。
 この道はいつか来た道である。 (おわり)


日韓自由貿易協定(FTA)交渉反対 日韓共同行動実行委のアピール

 日韓FTA第五回交渉は八月下旬に韓国・慶州で強行開催されたが、これに反対して、東京と慶州において日韓FTA交渉反対の抗議の日韓共同行動が展開された。慶州においては韓国民主労総をはじめ八〇〇名余の人びとが、交渉の中断を求めた。
 第六回日韓FTA交渉は一一月一〜三日にかけて東京(三田共用会議所)で、行なわれる。韓国では民主労総と韓国の市民社会団体が「日韓FTA阻止韓国民衆遠征闘争団」を組織し、労働者をはじめ多くの人びとが日本にやってくる。日本の「日韓FTA交渉に反対する一一月日韓共同行動」実行委員会は、FTA反対のアピールをだし、一一月日韓共同行動への参加を訴えた。

 アピール(要旨)は次のように述べている。
 日韓FTA交渉では、資本の自由な移動を保障するために、その障害となるあらゆるものを関税障壁もしくは非関税障壁と捉え、その撤廃を検討しています。その中で、日本経団連や韓国に進出する日系企業の集団ソウルジャパンクラブ(SJC)の強い要請を受けて、日本政府は日韓FTA交渉において、韓国の活発な労働運動を非関税障壁と捉え、これの撤廃、つまり韓国労働運動を抑制・弾圧する条項を盛り込むことを検討しています。
 また、日韓FTA交渉には、WTOで検討され問題視されている多くの議題が含まれ、またWTOにも持ち込まれていない危険な議題が検討されています。農業分野では、日韓ともに食料自給率が低下している中でのFTAの実施は、両国民衆の大切な食料生産基盤をいっそう悪化させます。消費者の立場にたっても、「貿易の迅速化」の名分で行なわれる相互承認制度(MRA)の導入や衛生植物検疫(SPS)措置、食品規格委員会(コーデックス委員会、CAC)基準の導入などは、人の健康や食の安全を脅かす可能性があります。
 このように、「自由貿易の促進」の名の下に、私たちの大切な労働権・生活権・環境権・人権を破壊する協定が、私たちに公開されることなく密室で検討されているのです。
 資本のグローバリゼーションが世界を覆い、侵略戦争と構造「改革」の嵐が吹き荒れる今日の世界のありように、日韓労働者民衆が共同して大きな声で「NO!」の声をあげ、日韓FTA交渉の中断を訴える取り組みにしたいと考えています。

 ● 一一月一日(月) 朝七時半〜日韓FTA政府交渉抗議行動(終日実施・三田共用会議所前)→一〇時〜記者会見(同所)→一四時〜記者会見(外国人記者クラブ)→一時〜情宣行動(有楽町マリオン)
 ● 一一月二日(火) 朝七時半〜日韓FTA政府交渉抗議行動(三田共用会議所)→一〇時半〜外務省抗議行動→一四時半〜日本経団連抗議行動→一六時〜政府交渉抗議行動(三田共用会議所)→一八時〜日韓FTA反対!日韓労働者民衆共同集会・デモ(東京渋谷・宮下公園)
 ● 一一月三日(水) 朝七時半〜日韓FTA政府交渉抗議行動(三田共用会議所)→一三時半〜国際コメ年NGO国際シンポジュウム(文京区民センター)/一三時〜「持たざる者」の連帯行動(恵比寿公民館)集会・デモ(宮下公園まで)/一三時〜国鉄闘う闘争団情宣活動(新橋駅SL前)/→一八時〜遠征闘争団歓送会(文京区民センター)
【連絡先】 東京都台東区上野一―一―一二新広小路ビル六階全統一労組気付 中小労組政策ネットワーク 内 〇三(五八一六)三九六〇)


書 評

  
アメリカ帝国の悲劇  チャルマーズ・ジョンソン著

                          文芸春秋 2800円

 アメリカ大統領選挙が迫ってきているが、ブッシュとケリーの支持率は拮抗している。
 終盤に入り、イラク戦争が大統領選の焦点となってきた。
 フセイン政権のイラクには大量破壊兵器は存在しなかった。フセインとビン・ラディンなどの「テロリスト」との組織的関係はなかった。こうしたことが、アメリカ政府の調査委員会などから相次いで出されてきている。
 そして、ブッシュが言う「アフガニスタン戦争、イラク戦争によってアメリカと世界はより安全になった」との主張は急速に色あせたものとなってきている。
 いったい「反テロ戦争」とは何だったのか。無謀な戦争を拡大するアメリカ・ブッシュ政権とはどのようなものなのか。
 アーミテージ報告の打ちだした方向によって日本はアメリカの世界戦争・支配戦略に決定的に統合されていこうとしている。小泉政権は、その路線を積極的に推進し、集団的自衛権、憲法の改悪へとひた走っている。
 チャルマーズ・ジョンソンの「アメリカ帝国の悲劇」(二〇〇四年九月)は、アメリカが何処に向かおうとしているのかを考える上で必読のものの一つだ。
 ジョンソンには、「アメリカ帝国への報復」(二〇〇〇年六月)がある。「冷戦の終結後、アメリカは軍備を縮小するどころか、無謀にも帝国として世界に君臨する道を選んだ。アメリカのこうした政策は各国の怒りを買っており、二一世紀にはとりわけアジアの国々から経済的・政治的な報復を受けると考えられる」として、沖縄、韓国、北朝鮮、中国、日本などとアメリカの関係について分析している。それに対する書評で、「敗北を抱きしめて」で日本でも高名なアメリカの政治学者ジョン・W・ダワーは次のように書いた。「『アメリカへの報復』は、チャルマーズ・ジョンソンの著作の中で最も刺激的かつショッキングな本だ。わが国が帝国主義的に手を広げすぎた結果として生じた短見、傲慢、腐敗、不安定を、これほど熱っぽく痛烈に暴いたものはこれまでにない。この本はアメリカに目覚めよと呼びかけている」。
 しかし、アメリカは「目覚める」ことはなく、いっそう傲慢に世界に君臨し、搾取・収奪を強めた。それは、アメリカにたいする世界的な批判を強め、9・11などの「報復」の温床ともなった。
 新著の「アメリカ帝国の悲劇」は、ブッシュ政権が、「反テロ」戦争を口実に、中東、中央アジアへも軍事基地を配し、そうした世界的な基地ネットワークによって世界帝国となったアメリカ、それが民主主義の基盤を危うくし、かつての諸帝国と同様に崩壊への途の転がり落ちはじめたことを描いている。
 目次をあげれば、プロローグ(アメリカ帝国のベールを剥ぐ)、第1章(新旧の帝国主義)、第2章(アメリカの軍国主義の根源)、第3章(新たなるローマに向かって)、第4章(アメリカ軍国主義の各組織)、第5章(代理兵士と私設傭兵たち)、第6章(基地の帝国)、第7章(戦利品)、第8章(イラク戦争)、第9章(グローバル化にいったいなにが起きたのか?)、第10章(アメリカ帝国の悲劇)という内容になっている。
 アメリカ帝国の特徴は、「基地の帝国」ということだ。アメリカの本質を見るのに最適なのはアメリカ本国ではなく、沖縄や韓国など軍事「植民地」とされているところを観察するのが一番だ。そこでは、赤裸々な帝国主義の支配・収奪の構造が浮き上がってくる。著者は、冷戦後のアメリカ海外基地の任務には五つあるという。「第一に他国に対して絶対の軍事的優勢を維持すること。この任務には、帝国の治安を維持し、帝国の一片たりとも鎖から逃げ出さないようにすることもふくまれる。第二に、民間人であろうが同盟国であろうが敵であろうが見境なく、その通信を傍受すること。これはしばしばあきらかに、政府の技術力をもってすればプライバシーのいかなる領域も不可侵ではないことをしめすためだけに行われている。第三に、できるだけ多くの石油資源を支配しようとすること。これは、化石燃料に対するアメリカの飽くなき欲求にこたえると同時に、その支配を石油への依存度がもっとも高い地域との交渉の切り札として使うためである。第四に、軍産複合体に仕事と収入を提供すること。そして、最後に、軍人とその家族が快適に暮らし、海外で勤務するあいだはじゅうぶんに楽しめるようにすること」。
 著者は、アメリカは帝国主義と軍国主義にむかって進んできたが、ジョージ・W・ブッシュ大統領の登場で新たな段階を画したとして書いている。なかで「アメリカの帝国主義はかつては極左の想像が作りだしたフィクションだった。いまやそれは不愉快な人生の現実である」というイギリス人ジャーナリストの言葉を紹介している。
 「ブッシュ政権は二〇〇三年、さらに積極的になって最初の『予防戦争』を実行した」「世界の恒久的な軍事支配をふくむ役割を選んだ瞬間からアメリカは孤立した――恐れられ、憎まれ、腐敗し、腐敗しつづけ、国家テロと贈賄で『秩序』を維持し、ほかの国が一致団結して抵抗するように誘っているのにも等しい誇大妄想的レトリックや詭弁を弄しながら、アメリカはナポレオン的なあぶない橋を渡っていた。問題は、いつその橋を渡りきれるのか――そして渡りきれるのか――ということだった」。
 そして、アメリカの悲劇は、ローマ帝国にくらべるなら、より早いテンポで訪れるという。四つの悲劇がアメリカを襲う。第一が、「たえまない戦争がつづく状態」で、「あらゆる場所でアメリカ人に対するテロが増加し、小さな国ぐにのあいだではアメリカ帝国という怪物から身を守ろうとして大量破壊兵器に対する依存がいっそう強まる。第二に、民主主義と憲法上の権利が失われる。……第三に、すでにずたずたになっている真実を伝えるという原則が、プロパガンダや情報操作、戦争や権力や軍隊に対する賛美に取って代わられる。最後に、財政が破綻する」。
 ジョンソンの本を読みながら、アメリカはなんと旧ソ連に似てきていることだろうか、と思った。帝国の崩壊は、いずれも手を広げすぎて、外部からの抵抗と内部の空洞化によってもたらされる。かつての日本軍国主義もそうだった。
一見するとアメリカとそれに追随する日本は強大に見えるが、崩壊への道でその速度を上げているのかもしれない。
 「アメリカ帝国の悲劇」を、「アメリカ帝国への報復」をあわせ読むことを薦めたい。


KODAMA

  
   水俣病最高裁判決と国の責任

 水俣病が「公式に発見」されてからでも、もうすぐ五〇年になろうとしている。
 水俣病関西訴訟で、最高裁は国と県の責任を認定し、患者側の勝訴が決定した。八二年の提訴からすでに二二年が経過している。
 訴訟を起こしたのは、熊本、鹿児島両県から関西に移り住んだ水俣病未認定患者と遺族。国と熊本県に被害拡大の責任があるとして損害賠償を求めたこの訴訟で、最高裁は一〇月一五日、「一九六〇年一月段階で適切な規制権限を行使しなかったのは、著しく合理性を欠き違法」との判断を初めて示した。国と県は、患者三七人に計七一五〇万円を支払わなければならない。
 新聞はこの判決を受けて元水俣市長の吉井正澄さんの話を報じていた(吉井さんは一九九四年五月の市長当時に水俣病慰霊式で行政として初めて公式謝罪した)。吉井さんは「私が式辞の中で反省、謝罪した時点で国、県も謙虚に受け止めてもらっていればこんなに長い間の混乱はなかった」と指摘していた。
 「水俣病被害者の会全国連絡会」の橋口三郎幹事長は、「(九五年に受け入れた)政府和解案が国や県の責任に触れなかったことに非常に残念な気持ちもあった。最高裁判決で責任がはっきりした」として、行政側に判決を尊重し、国や県に手厚い対策の真摯な実行を求めた。
 ところが、政府の対応はそうした願いにまったく逆行するものだった。
 一八日、小池百合子環境相は、最高裁判決で誤りとされた水俣病にかんする国の認定基準について「判断条件が否定されたものではなく、見直す必要があるとは考えていない」と述べたのだ。細田博之官房長官も、基本的には環境省の専管的な問題だとして、小池発言を追認した。小泉政権は、この問題でも非人間的な対応をしている。
 熊本県の潮谷義子知事も、頭を下げて謝罪した一方で、具体的な対策はいっさい取らない。
 判決で水俣病と認められ賠償を勝ち取ったことから原告は、県に対して医療費などの支給を要求した。だが、知事は「国との協議なしに県が回答することはできない」と答えている。
 国も県も行政側は、まったく反省の態度をしめさず態度を変えようとしていない。
 国と県は最高裁で「加害者」とされたのに、被害者の声に耳を傾けようとせず悲劇を継続・拡大している。(MD)


複眼単眼

     
徴兵制と非暴力抵抗闘争  石井百代の歌

 徴兵は命かけても阻むべし 母・祖母・おみな牢に満つるとも (作 石井百代)
 この短歌は以前朝日歌壇で入選したもので、作者の石井さんはすでに故人であると聞く。娘さんは先日解散された「草の実会」の同人である。草の実会はことあるごとにこの歌などをプリントして集会などで配っていた。彼女らの思いは切実であった。「徴兵制なんか来ないよ、被害妄想だよ」と陰口をたたく向きもあったが、この歌は草の実周辺では抜群の人気だった。
 このところ、いくつかのところでのお話で、この短歌を紹介してみた。この歌に感動する声を何回も聞いた。あるところでは労働者たちが「いい歌だ」とこれを写し取ってくれた。人びとがこれを実感しつつあるのだと思う。こういう労働者たちがいる。掛け値なしにうれしかった。
 「母・祖母・おみな」の「おみな」は勝手に「女性」と理解していたが、中国地方のある都市に行ったら「ひいばあちゃんのことだろう」という人がいた。そうだとしたら意味はストレートにつながる。作者はどういう意味でこの「おみな」を使ったのだろうか。興味がある。とりあえず、どちらでも本意は損なわない。
 「牢に満つるとも」というのは非暴力抵抗闘争の表現だと思う。一歩もひかず、たたかうのである。その結果が逮捕・投獄だ。逮捕されても、逮捕されても女のたたかいがつづく。恐れない。母が、女が、ばあちゃんが抵抗する。男たちよ、戦場に行かずに抵抗せよと身を以て示す。女で牢獄を満たしたとき、権力者はその支配を維持できないだろうという戦闘的な楽観主義の思想がここにある。
 「徴兵制」などという言葉はこの国で死語になったと思っていた時期がある。しかし、今や死語ではない。ゾンビのごとく復活を遂げつつある。国権の最高機関とされる国会で政権党に属する議員たちが語り始めた。
 徴兵制と言っても、かつてのそれがそのまま復活するほど支配層もおろかではないだろう。しかし、自衛隊は慢性的な定員割れである。有事法制で戦争ができる国になったが、肝心の兵が足りない。どうするか。たとえば今考えられているボランティアの義務化はどうだろう。福祉でも、兵役でもどちらでもいいというような、ドイツ方式の逆だってありうる。そしたら兵役を望む者だって出てくるかもしれない。権力者は権力を握っているのだから、いろいろな変化球を考えて来るにちがいない。タカをくくっているとしてやられる。
 徴兵制など、来ないようにするのが第一。改憲を阻止して徴兵制の時代を阻止する。まずはこれ。でも万が一、そのとき、この国の男たちよ、女たちよ、たたかえるか。石井百代さんはそのときにたたかえばいいと言っているのではないと思う。いまたたかうことを呼びかけたのだと思う。
 「徴兵は命かけても阻むべし」。そういう時代が来た。 (T)