人民新報 ・ 第1150 号<統合243(2004年11月25日)
  
                  目次

● 自衛軍と海外での武力行使を明記〜社会の軍事化を促進する日帝憲法案

         自民党・憲法改正草案大綱(たたき台)の危険性

● 自衛隊の撤退で三野党の代表があいさつ  自衛隊のイラクからの撤退を求める市民と国会議員の緊急院内集会

● 第四次(東北方面隊)派兵を許さない!  11・12防衛庁へ抗議行動

● 朝霞基地にむけて   観閲式反対!自衛隊は即時撤退せよ

● 箕面・「止々呂美」探検隊  ムリ・ムダはいらない

● 全労協・郵政ユニオンの主催で郵政事業民営化反対シンポジウム

● 11・20  厚木基地行動

● 書評  /  山田昌弘 「希望格差社会」

● 複眼単眼  /  統一戦線問題での同心円と同円多心




自衛軍と海外での武力行使を明記〜社会の軍事化を促進する日帝憲法案

         
自民党・憲法改正草案大綱(たたき台)の危険性

 自民党憲法調査会(会長・保岡興治・元法相)の憲法改正案起草委員会(座長・中谷元・元防衛庁長官)は十一月十七日、同党の憲法改正草案大綱の原案と言うべき「たたき台」を公表した。自民党はこれを踏まえて、十二月中旬に憲法改正草案大綱を決め、来年十一月十五日の結党五〇周年に合わせて憲法改正案を正式に決定する予定だ。
 この原案はたたき台とはいえ現在の自民党の改憲意見の大勢を示すものであり、その中身の危険性からみて見逃すことができない。この暴露の闘いは焦眉の課題だ。
 韓国では早速、与野党の七一人の国会議員が「日本は二一世紀に帝国主義の復活を夢見るのか」という声明を発表し、「日本の改憲はわが民族の生存を脅かす最大級の事業だ」と指摘した。この指摘を私たちは重く受け止めなくてはならない。

【自民党と右派マスコミによる共鳴と合唱】

 自衛軍と海外での武力行使、天皇の元首化などを明記したこの原案は、先の六月に発表された自民党憲法改正論点整理の考え方に添ったもので、全体として戦争のできる国として日本社会の軍事化を促進する極めて危険なものとなっている。こうした方向を先取りしたものが本紙が先般批判した小泉首相の私的諮問機関「安全保障と防衛力に関する懇談会」(座長・荒木浩東京電力顧問、座長代理・張富士夫トヨタ自動車社長)が一〇月に提出した報告書だ。
 これらの内容は危機に対応する日本帝国主義の戦略的な方向を示すもので、政治的思想的には立憲民主主義の否定や天皇の元首化の主張に代表される極めて復古的色合いの強い国家主義的なものだ。原案はそうした路線への社会的な反発を恐れて、「復古的との誤解を払拭するため」にも、現行憲法の三つの基本的原理は今後とも発展・維持する」とか「徹底的に未来志向の姿勢」であることなどを強調し、原案のサブタイトルは「『己も他もしあわせ』になるための『共生憲法』」と名付けているほどだ。ここには現行憲法について社会的共通語化している「平和憲法」という用語に対抗して、「国民しあわせ憲法」とか「共生憲法」というイメージを普及するねらいがある。本年六月、自民党政務調査会が参議院選挙に際しての資料として作った「憲法改正のポイント」というテキストでも、「自民党がつくる憲法は『国民しあわせ憲法』です」などと言っていたのだ。こうした欺瞞的な言葉使いによるイメージ戦略でその危険な本質を隠蔽しようとする策動だ。
 しかしながら右派マスメディアはただちに自民党の改憲原案に飛びつき、お先棒を担いでいる。
 読売新聞社説は自ら提言してきた改憲試案と「大要で共通する」とし、「自衛軍設置」や「国際平和のための武力の行使」を支持し、課題はありながらも「原案」は「新憲法へのひとつのたたき台になる」と積極的に評価、あわせて憲法改悪国民投票法案と、憲法調査会を憲法改正常任委員会に衣替えする案を「次期通常国会で成立をはかるべき」と要求した。
 産経新聞社説は「政権政党が包括的な改憲原案を初めて示したことを高く評価」すると述べ、九条問題のみならず、「歴史や伝統などを踏まえた価値観(国柄)を体現する」とした点や、天皇「元首」や「国旗・国歌」明記を評価した。そして民主党に協議に応ぜよと要求した。
 日本経済新聞は「私たちがこれまで主張してきた点も多く含まれる」とし、「(両院の三分の二の賛成が必要だから)民主党や公明党の考え方にも十分目配りして、幅広い柔軟な視点から憲法改正に取り組むべき」と助言している。
 これを機に改憲派はいっそう改憲のキャンペーンを強めるに違いない。

【九条を全否定し、名実共に戦争のできる国家へ】

 原案は第八章に「国家緊急事態および自衛軍」の項を設け、その第二節「自衛軍」(名称はさらに検討)で、「個別的又は集団的自衛権を行使するための必要最小限の戦力を保持する組織として」の軍隊を憲法上の機関として明記するとした。その任務は国家の「防衛緊急事態にたいし、わが国を防衛すること」および「治安緊急事態、災害緊急事態その他の公共の秩序の維持にあたること」および「国際貢献のための活動(武力の行使を伴う活動を含む)」と規定した。そして軍事規律維持のために特別裁判所(軍法会議)の設置も明記した。
 また第三章「基本的な権利・自由および責務」の第三節「国民の責務」で「国防の責務及び徴兵制の禁止」を入れた。「国家の独立と安全を守る責務」と、現行有事法制がいうところの「国及び地方自治体その他の公共団体の実施する措置に協力」する責務を明文化した。「新しい人権」規定と抱き合わせで「国防の義務」が挿入されるのだ。
 「徴兵制の禁止」はその解説で「『徴兵制の復活か!?』などという懸念を払拭するためわざわざ設けることにした」「なお、世界の趨勢でも、徴兵制は軍事的に必ずしも実効的ではないようであり、職業軍人による軍隊へと変わる傾向にあるようである」などと説明している。
 そして第八章第一節に「国家緊急事態」の項を設け、その際には首相が「基本的な権利・自由」を制限できるとして、有事法制制定時に問題とされた事実上の戒厳令規定を設けた。
 第四章「平和主義及び国際強調」では紙面の都合で分析は割愛するが「平和的生存権」の変質がはかられ、「大量破壊兵器の廃絶及び非核三原則」を盛り込んだが、「核密約疑惑を含め米国の『核の傘』に安全保障をゆだねてきたこととの矛盾をどうするか」(沖縄タイムス社説)との批判は免れられまい。
 これらの規定は現行憲法の平和主義と真っ向から対立するものだ。これらの詳細な解説は本紙読者には不必要であろう。
 あえて付記すれば、「国民の国防の責務」を前提にした「徴兵制の禁止」なる項目は欺瞞に過ぎない。国防の責務の下では今日、支配層ないに根強い推進論がある「奉仕活動の義務」の対象に国防軍が含まれる可能性を否定できないし、イラクの戦場でその存在が知られた米国流の「軍事の民営化」のもとでは軍事会社は表彰に値することになる。このようにして事実上の徴兵制、社会的に兵士の人材補給基盤作りは可能になるだろう。

【天皇の元首化および復古的な「国柄」論】

 原案は第一章「総則」で「我が国は、天皇を象徴とする自由で民主的な国家」と規定、国旗は「日章旗」、国歌は「君が代」と定めるとしている。
 第二章「象徴天皇制」で「天皇は日本国の元首であり、日本国の歴史、伝統および文化並びに日本国民統合の象徴としてわが国の平和と繁栄および国民の幸せを願う存在」とした。また「皇室典範の定めるところにより、男女を問わずに、皇統に属するものがこれを継承する」としている。そして現行憲法の国事行為以外の私的行為、いわゆる皇室行為も天皇制を支えるための「公的行為」と位置づけ直した。
 こうして天皇を「日本国の元首」と規定し、現行憲法では単に「国民統合の象徴」としていたものを、「日本国の歴史、伝統および文化並びに日本国民統合の象徴」と規定し直し、皇国史観との結合をはかった。これはいわゆる「国柄」との関連で後述する。
 「わが国の平和と繁栄および国民の幸せを願う存在」としての天皇の「元首」規定の導入は復古主義者の念願であり、この復活は、「国旗、国歌」規定と合わせて「戦争のできる国」づくりと不可分の問題であり、重大な憲法改悪だ。また、いわゆる世継ぎ問題として派生している実態としての天皇制の危機と関連して、原案は「女帝」容認を取り入れることで俗受けする斬新さを装っているが、そこに「皇統」などという万世一系の天皇論に類する用語を復活させていることも見逃せない。
 これらの天皇制の規定と合わせて、原案の「はじめに〜基本的考え方」では自民党の考える「新しい国家像(憲法像)」として、「我が国のこれまでの歴史、伝統及び文化に根ざした固有の価値、すなわち、人の和を大切にし、相互に助け合い、平和を愛し命を慈しむとともに、美しい国土を含めた自然との共生を大事にする国民性(一言で言えば、それらすべてを包含するという意味での「国柄」)を踏まえたものでなければならない」「国民の誰もが自ら誇りにし、国際社会から尊敬される『品格ある国家』を目指すと言うことである。……人間の本質である『社会性』が自立し共生する個人の尊厳を支える『器』であることを踏まえ、過程や共同体が、『公共』の基本をなすものとして位置づけられるものでなければならない」などとしている。
 これらに見られる「国柄」論の観点は、自民党の「解説」によると、「国柄」とは「復古的な国体」ではなく、「平和を愛し、命を慈しむとともに、草木一本にも神が宿るとして自然との共生を大事にするような平和愛好国家・国民という『国柄』であり、さらに付言すれば、そこにいう歴史には、第二次世界大戦における敗北の歴史も含めたものである」とされている。こうした美辞麗句で粉飾しながらも、まさにここに復古的な思想・観点が挿入されていること、これもまたわが読者には解説の必要がないだろう。

【改正手続など憲法条項の改悪のラッシュ】

 自民党改憲原案の目玉でもある「新しい人権」の追加は第三章第二節の「基本的な権利・自由」に登場する。@名誉権、プライバシー権及び肖像権、A知る権利(情報アクセス権)、B犯罪被害者の権利、そして「従来の権利規定の修正」として、@表現の自由と青少年保護、A政教分離、B財産権の保障とその限界(及び知的財産権の保護)、C企業その他の経済活動の自由などだ。しかし公明党なども含めて改憲、加憲の目玉商品にしてきた「環境権」はこれら新しい人権と区分けして同章第四節、「社会目的(プログラム規定としての権利及び義務)」に登場し、「環境権及び環境保全の責務」として、それは「国民(市民)の責務」(「解説」)でもあることを明記した。環境権規定を回避するという支配層の一貫した姿勢がこうした形で表現されたのだ。
 いずれにしても、これらは憲法に規定しなければ前進できないのかという問題などがある。
 また原案は第九章「改正」で憲法改正手続の緩和を提起している。改憲手続は二つの方法をとり、各議院の過半数の賛成と国民投票の有効投票の過半数か、各議院の三分の二の賛成で成立し、国民投票は行わないか、いずれかとされた。
 現行憲法は国会の多数意思と民意が異なることがあり得ることを前提に最終的には主権を有する国民の直接投票で決めるという思想に基づいて国民投票制を導入しているが、原案がこの思想を否定したことは重大な問題だ。
 また「国民の責務」の箇所に「納税その他社会的費用の負担の責務」と書き込むことで、現行の納税の義務のほかにも社会的な費用の負担を責務とし、負担増を押しつけようとしているという問題もある。
 第三章の第四節「社会目的(プログラム規定としての権利及び義務)」の項に「教育の基本理念」や「家庭の保護」という項がある。そこで「教育は……わが国の歴史・伝統・文化を尊重し、郷土と国を愛し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を涵養することを旨として行われなければならない」として、いま、教育基本法の改悪を狙っている勢力がいう「愛国心」を導入し、かつての常套文句の「涵養」という用語まで使っていることも見逃せない。
 そして「家庭の保護」では「解説」ではあえて「家制度の復活という復古的な意味合いではない」と弁明しつつ、「家庭は国家という公共を構成する最小の単位」として、この原案が「個」から「公」への重心の移動をはかっていることを端的に示している。
 なお「総則」で現行憲法九十九条の憲法尊重擁護義務に加えて、「国民は……これを尊重し擁護する責務を有する」と並列して、「義務」を「責務」に表現を変えつつ、権力制限規範としての立憲民主主義的な憲法観を改変したことも問題だ。

【終わりに】

 自民党はこのような全面的改憲案作りの作業に入った。しかし、このことは即、自民党が具体的に新憲法採択という政治路線をとったことを意味するものではない。本論の冒頭で日経の以下のような社説を引用した。「(両院の三分の二の賛成が必要だから)民主党や公明党の考え方にも十分目配りして、幅広い柔軟な視点から憲法改正に取り組むべき」だというように自民党執行部も同様に考えているのは間違いない。とりわけ民主党現執行部には自らの政権交代に最大の関心があり、改憲問題はその後だと考えているフシがあり、公明党も世論との関連で動揺的であることを考えれば、自民党がいま作成しようとしているような改憲案をごり押しすることは考えられない。今後、改憲案の内容は与党や野党第一党の民主党との間で政治的綱引きがおこなわれ、妥協が図られるだろう。目下、準備されつつある自民党改憲案は、この妥協を計算にいれたとりあえずの「言い値」に他ならない。しかしながら、それは自民党が長期的に何を目指しているかが鮮明にされているものであり、重視してかかる必要がある。 (T)


自衛隊の撤退で三野党の代表があいさつ

   
自衛隊のイラクからの撤退を求める市民と国会議員の緊急院内集会

 イラク特措法にもとずく自衛隊派兵基本計画(自衛隊のイラク非戦闘地域への派遣)は一二月一四日に期限切れとなる。イラクでは米英軍によるファルージャでの虐殺から戦火は各地に広がる様相を見せ、サマワでは自衛隊の撤退を要求するデモが行われ、自衛隊「宿営地」にも何度も砲弾が撃ち込まれるような情勢になっている。にもかかわらず、小泉首相は「自衛隊のいるところが非戦闘地域だ」などと迷言を吐きながら、自衛隊派兵の延長をするつもりだ。いまこそ、自衛隊の即時撤退を求めて闘いを強めて行かなければならない。

 一一月一五日、衆議院第一議員会館で、「戦争反対・有事をつくるな!市民緊急行動」「平和を実現するキリスト者ネット」「平和をつくり出す宗教者ネット」の三団体の呼びかけによる「自衛隊のイラクからの撤退を求める市民と国会議員の緊急院内集会」が開かれた。この集会は、自衛隊のイラクからの撤退を要求し、また野党三党共同によるイラク特措法廃止法案の成立をめざすものであり、約三〇〇名の市民と国会議員(一三人)、同代理(二一人)が出席した。
 集会では、市民緊急行動の高田健さんが司会をし、キリスト者平和ネットの糸井玲子さんが開会のあいさつをおこない、野党三党の代表と市民団体が次々に発言した。
 民主党の樽床伸二団体交流委員長
 民主党を代表してあいさつする。イラクの自衛隊派遣についての問題でも政府の行動は民主主義のていをなしていない。野党一体となって自衛隊をイラクから撤退させよう。
 共産党の志位和夫委員長
 ファルージャでは国際人道法に反する虐殺が行われている。すでに数百数千の人びとが殺され、街には死臭がただよっているという。自衛隊は多国籍軍の一員となって犯罪に手をかしている。
 社民党の福島瑞穂党首
 イラクの状況は非常にひどいことになっている。イラク特措法に賛成した自民党の議員もイラク戦争に反対するようになってきている。自衛隊は殺すな、殺されるな、の声をもっと大きくし、一緒に頑張ろう。
 無所属の糸数慶子参院議員、近藤正道参院議員が発言し、土井たか子社民党衆院議員、佐々木憲昭共産党衆院議員もあいさつした。
 韓統連、日本キリスト教協議会、安保破棄中央実行委員会、憲法を愛する女性ネット、日弁連有事法制問題対策委員会、一坪反戦地主会関東ブロックなどからの発言をうけ、最後に宗教者ネットの石川勇吉上人が閉会のあいさつをおこない、共同しての闘いを確認した。


 第四次(東北方面隊)派兵を許さない!  11・12防衛庁へ抗議行動

 一一月一二日、「自衛隊はイラクへ行くな! すぐかえれ! 第四次(東北方面隊)派兵を許さない! 11・12防衛庁抗議行動」(イラクからの自衛隊撤退と沖縄の米軍基地撤去を求める実行委員会<反安保実\>)が闘われた。
市ヶ谷外濠公園に集合して、防衛庁に向けてデモ。防衛庁前では東北方面隊による第四次派兵と闘う仙台、郡山をはじめ北海道、浜松、名古屋、広島・呉・岩国、長崎など各地の運動体や反安保実、明大駿台文学会などからの要請書が読み上げられた。

イラクヘの第四次派兵を中止し、即時撤退を求める申入書(要旨)

防衛庁長官 大野功統様

イラクのフセイン政権は、それがテロリストに渡れば世界中が非常に危険になると宣伝された大量破壊兵器を持っていませんでした。また、9・11テロの実行者とされているアルカイダとの関係もまったくなかったことが明らかにされました。すなわち、米英によって行われたイラクヘの攻撃は、攻撃前から現在に至るまで宣伝され続けている「テロとの戦い」とは無縁のものであるということです。むしろイラクヘの侵略戦争こそが「テロ」を生みだしているともいえるのです。
最近、この侵略戦争におけるイラク人の死者が一〇万人にものぼるという共同調査が公表されました。多くの女性や乳幼児を含む市民が、自衛隊も参加する多国籍軍によって一方的に殺されているのです。
この侵略・占領を小泉政権は現在もなお、支持し続けています。そして自衛隊を派兵し続けています。自衛隊の派兵を、小泉政権は、侵略・占領への加担とは言わずに、「人道復興支援」のためと強弁しています。確かに米英軍による爆撃によって、水道・電気・ガスなどのライフ・ラインや病院・学校など多くが破壊されたイラクにとっては、それらの復興は必要なことです。イラクの民衆にとって、例えば、飲料水の確保は必要不可欠です。しかしそれは、必要な数のポンプや浄水器、給水車があれば、イラクの人びと自身によって、十分可能なことなのです。

「対テロ戦争支援」「人道復興支援」――自衛隊派兵の理由はいずれも偽りです。対米追随とそれによる国益追求、それこそが自衛隊派兵の目的です。誤魔化しは通用しません。
サマワ宿営地へ向けて打ち込まれる砲弾、日本・イラク友好記念碑の爆破、そして小泉政権によって見殺しにされた香田さんが、星条旗の上で惨殺された事実がそれを示しています。また、一〇月三一日、宿営地に打ち込まれた砲弾は、サマワがすでに、イラク特措法が派兵の前提とした「非戦闘地域」でないことをも誰の目にも明かにしました。
今こそこれらの「警告」を真摯に受け止め、自衛隊員の命を危険にさらすだけでなく、自衛隊員によるイラク人への発砲(殺害)までもが起こることが強く危惧されるイラクからの即時撤退を決断するときです。
イラク民衆にとってまったく役にたたない活動をするために、自衛隊員が殺されてはならない。また、自衛隊員によってイラクの人びとを殺させてはならない。
第四次派兵の中止と自衛隊の即時撤退を強く求めます。

二〇〇四年一一月一二日

イラクからの自衛隊撤退と沖縄の米軍基地撤去を求める実行委員会(反安保実\)


 朝霞基地にむけて   観閲式反対!自衛隊は即時撤退せよ!

 十一月七日、埼玉県と東京都にまたがる朝霞基地で開催された観閲式に反対する集会とデモが、基地の南北で開催された。
 朝霞基地の南側の練馬区大泉公園では、午前十一時から、戦争に協力しない!させない!練馬アクションと練馬平和委員会、練馬区職労が呼び掛けた実行委員会(賛同団体・個人は五〇を超えた)の主催の「観閲式反対!自衛隊はイラクから即時撤退せよ!11・7練馬集会」が開催された。
 三年前の朝霞基地での観閲式は、「同時多発テロ」の影響で中止となり、練馬側から反対行動を取り組むのは六年ぶりとなる。集会には、市民団体、労働組合、政党などから二百名を超える人びとが参加し、観閲式反対、自衛隊はイラクから撤退しろ、自衛隊は殺すな!殺されるな、憲法改悪を許さないぞと訴えた。
 集会の途中に頭上を超低空でC一三〇やF15などの戦闘機の爆音や、観閲式参加のヘリや戦闘機などが編隊飛行を繰りかえす。集会を終わって基地に向けたデモに出発、地域の人びとや観閲式帰りのバスの人びとに平和の取り組みを訴えた。デモ終了後には、代表団が基地に対する申し入れも行なった。(練馬通信員)


 箕面・「止々呂美」探検隊  ムリ・ムダはいらない

 一一月一四日の日曜日、大阪ピースサイクルメンバーや増田京子箕面市・市民派議員らが朝九時に箕面駅に集まり、環境破壊や余野川ダム建設でゆれる大阪北部の山稜地域の箕面市止々呂美地区に自転車で現地視察を行いました。参加者は小学四年生から六〇歳をこえる人たちが参加しました。
 「ととろみ」と呼ばれ、映画の「トトロ」と何か関連がありそうで、現地での視察でも水はきれいで、一歩山の中に入ると、自然いっぱいの土地柄です。
 しかし現地は、これから建設中の新御堂筋延長の山岳トンネル口や、自然破壊の第二名神計画道路の交差する地区で、また大規模開発で問題になり、近頃計画の中止問題でゆれる「余野川ダム」があり、また新しい土地開発等でゆれています。
 当日はもみじなどの木々が紅葉に深まり、また国道に沿って流れる余野川はきれいで、自転車で約二時間、国道を登るコースで、みんなでペダルを踏ん張り上りました。
 現地視察の中で如何に無責任な行政やゼネコンが自然と地域を破壊しているのかが肌身を通し感じました。ダム予定地では木々は倒れ田んぼ畑は無くなり、建設のための道路だけは立派なものが出来ていました。ダムの底の予定地でお昼のお弁当を食べましたが、周りには赤ゲラの泣き声や、また大阪府の調査でもオオタカの巣があることが判明するなど、自然いっぱいの土地です。大阪府の財政が緊迫する中で、関西空港の土地利用の縮小が出されている中、同じ轍を踏さないためにも、昨年一二月に出された「建設中止」の答申で論議が繰り広げる中で、今年一二月の中旬には結論が出されるとのこと。
 大田大阪府知事はだめなものはだめときっぱりと方向性を出すべきです。財政状況最悪な大阪の現状は、地域の見直しからするべきです。(大阪通信員)


全労協・郵政ユニオンの主催で

   
郵政事業民営化反対シンポジウム

 一一月二〇日、全水道会館ホールで、「11・20 郵政事業の民営化反対 公共サービス・職場破壊の小泉構造改革に反対するシンポジウム―官僚支配の『官営』、営利追求の『民営』ではなく、郵政事業に新たな公共性を―」(主催・全労協、郵政ユニオン)が開かれた。
 はじめに主催者を代表して、藤崎良三・全労協議長が、土曜日の夜という時間にもかかわらず、多くの人びとがあつまった、これを契機に郵政民営化にたいする大きな闘いを進めて行こう、とあいさつした。
 講演は、「民営化問題を考える」と題してジャーナリストの立山学さんが行った。
 まず必要なのは敵を知ることだ。敵は巨悪かつ強欲であることを認識しなければならない。それも一〇〇年に一回でてくる位の悪さの程度だ。決して安易に考えてはならない。かれらはどんな悪どいこともやってくるとまず考えておくべきだ。
 いま臨調行革二〇年の総括と見直しが問題とされなければならない。民営化は、電電公社・専売公社民営化↓国鉄改革↓中央省庁改革↓特殊法人改革(独立法人化・市場化テスト)↓地方改革↓郵政公社・郵政民営化という経過を辿っている。国鉄の分割・民営化は日露戦争での二〇三高地のような位置にあったが、郵政民営化は臨調行革の本丸である。
 ブッシュのイラク侵略は石油利権・産軍複合体利権を追求するものだったが、中曽根・小泉改革は公共事業利権・金融利権を狙うものだ。かれらが欲しがったのは国鉄改革では、新幹線建設の旧利権のほかに、土地払い下げとJRそのものの利権というものであり、郵政民営化では二三〇兆円の金融資産と全国に行き渡ったネットワークだ。
 日本には巨大な利権・癒着構造がある。政界、財界、官僚、学会、マスコミそれに一部の労働組合が一緒になった六角構造が悪いことをしている。国鉄分割・民営化ではマスコミがおおいにそれを煽ったが、その結果は何だったか。汐留跡地にはマスコミ各社の巨大なビルが立ち並んでいるではないか。それが分割・民営化のキャンペーンをはったマスコミへの見返りだった。
 利権の六角構造の下で労働者はやられっぱなしだ。労働組合は力を失って展望がない。だが、そうとばかりは言えない。国鉄の分割民営化も今になってボロが次々に出てきている。二〇年経たないとこれほどの大きな犯罪はわからない。丁度、かなりの時間が経って白骨死体が発見されたようなものだ。それを告発し究明して行かなければならない。一部の週刊誌もこうした問題を取り上げるようになってきた。
 国鉄の一〇四七名の解雇と労働組合つぶし、これが日本社会を完全に壊す一つの起点となっている。原発、回転トビラ、新幹線の事故などが頻発しているが、これは「労働者が現場から安全をチェックする力」が不当労働行為によって追い出されたことが原因になっている。
 いま憲法改悪の総仕上げと郵政民営化が一体となってきている。われわれのもとめる本来あるべき行政改革は、国民のための、憲法の民主主義を生かしたもので、民主化の実現だ。問題はそのための主体をどうつくっていくかだ。公共性、ユニバーサル・サービスなどの、そして反戦、憲法などの闘いを一つの統一戦線にしていくことが大事だ。
 つづいてのシンポジウムでは、棣棠浄・郵政労働者ユニオン副委員長をコーディネーターに、松岡幹雄・郵政労働者ユニオン書記長、鳥井一平・全統一書記長、大谷一敏・国労中央支部委員長、横沢仁志・電通労組首都圏支部書記長、林継夫・東水労書記次長、押田五郎・東京清掃労組組織都長が発言した。
 郵政労働者ユニオンの松岡書記長は、次のように述べた。
 郵政におけるトヨタ方式であるJPS(ジャパンポストシステム)が行われている越谷局で典型的だが、夕刊より遅い配達、四日間連続の深夜勤など慢性的な労働強化がすすめられている。郵政職場では合理化と一体となってユニバーサル・サービスが形骸化している。誤配状況調査では、一九九八年の一九万通の誤配が二〇〇二年では二三万四一二〇通となり、昨年はそれをも上回っていると思われる。一方で、JSPでは郵便の収集回数は減便されている。
 また、正規職員の削減と非正規労働者の増加がある。正規職員二七万人にたいして、ユーメイト一六万、短時間職員一万と計一七万人となっている現状がある。郵政民営化完成の年とされている二〇一七年には、常勤が二〇万を割り、非常勤が三〇万をこえるなど割合が逆転すると言われている。
 郵政労働者ユニオンは、郵便局の閉鎖など利用者サービスの低下、雇用リストラと賃金・労働条件の大幅低下に反対し、地域利用者・市民、地域共闘の労組・争議団などと連帯して共闘の輪を拡大して、来年の民営化法案成立と〇七年民営化の流れを阻止する全国的な運動を展開していきたい。
 さいごに、内田正・郵政労働者ユニオン委員長が、まとめの行動提起をおこなった。第一に、劣悪な労働条件にある非正規職員をはじめ郵政職場で働く仲間への労働相談を強め、第二に郵政民営化法案の国会審議入りに対する闘い、第三に郵政民営化、地方行革に対して共に闘う体制をつくり、そして来年四月には郵政民営化反対の大きな集会を開き、全国民的な運動を進めていきたい。


11・20  厚木基地行動

     違法爆音を許すな ! FA18スーパーホーネット配備に抗議し第3次厚木爆音訴訟の勝利を

 十一月二〇日、神奈川県大和市の大和公園で、「違法爆音を許すな! 11・20厚木基地行動 FA18スーパーホーネットの強行配備に抗議し第三次厚木爆音訴訟の勝利をめざそう」集会(主催・神奈川平和運動センター、基地撒去をめざす県央共闘会議)がひらかれ、七〇〇人が参加した。
 主催者を代表して、宇野峰雪・神奈川平和運動センター代表があいさつ。
 厚木基地を離発着する空母艦載機の爆音で大和市、綾瀬市をはじめ神奈川県央の市民は二〇余年にわたって苦しめられている。爆音訴訟ではすでに五度にわたって裁判所は違法だと判断している。にもかかわらず違法爆音はいっこうに解消されていない。それどころか、昨年暮れから、新たにFA18Eスーパーホーネットが交代配備された。この最新鋭機で騒音被害がいっそう激化する。
 神奈川県には厚木基地だけでなく、横須賀軍港、陸軍のキャンプ座間もある。そのキャンプ座間に米陸軍第一軍団司令部が移転してくると言われている。米軍基地撤去のためにみんなで力をあわせていこう。
 つづいて、鈴木保・県央共闘会議代表が発言。普天間米軍基地から爆音をなくす訴訟団、三多摩平和運動センターからの連帯メッセージが紹介され、藤田栄治・第三次訴訟団事務局長、渡辺信一郎・横須賀市職労副委員長、伊沢多喜男・座間市議会議員からアピールが行われた。
 「集会宣言」と「相模原市長・座間市長宛申し入れ」が拍手で確認されたあと、厚木基地へ向けてデモが出発し、スーパーホーネットの配備反対!違法爆音を許さないぞ!静かな空を返せ!厚木基地を閉鎖しろ!第一軍団は来るな!基地強化に反対!在日米軍は日本から出て行け!原子力空母の母港化反対!池子米軍住宅の建設をやめろ!普天間基地を即時閉鎖せよ!辺野古沖新基地建設を中止せよ!日米地位協定を改正せよ!自衛隊の海外派兵反対!日米軍事行動一体化反対!自衛隊はイラクから撤退せよ!アメリカはイラクから出ていけ!などのピース・コールで市民にアピールした。

集会宣言(要旨)

 …… 米陸軍第一軍団のキャンプ座間への移転構想は、同軍団が米国西海岸からアフリカ東海岸までを作戦行動範囲にしていることから、実現となれば、日米安保条約第六条の「極東条項」を逸脱、「世界安保」に変質する性格のものだ。池子米軍住宅の追加建設計画は、原子力空母の横須賀母港化の布石ともなる動きである。その他、近年進められている横浜ノースドックヘの陸軍艦艇の事前集積などの動きも見逃せない。岩国基地移転も取り沙汰されてはいるが、厚木基地もスーパーホーネットの相次ぐ配備によって、機能強化一爆音被害の拡大の動きも示している。池子米軍住宅の追加建設の取引材料にされた、横浜の基地群の返還の動きがあるものの、基地強化という方向づけが図られていると言わざるを得ない。
 しかし、ラムズフェルド米国防長官はこうも言っている。「歓迎されていない所にはいたくない」と。まず何よりも、米軍基地に、米国政府に、私達が全く歓迎していないことを知らせる必要があるのだ、その手はじめに、今日これから、大きな幟を先頭に、さらにプラカードを掲げ、横断幕を広げ、厚木基地に向かって、スーパーホーネットの配備と爆音に抗議する声をぶつけよう。

 違法爆音を許すな! 11・20厚木基地行動参加者一同


書 評

山田 昌弘【著】

 希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く


     筑摩書房 (2004-11-10出版):\1,995


 小泉政権のもとで日本社会はとんでもない危険な段階には入ってしまった。そう感じる人が増えている。ブッシュのイラク戦争への加担、憲法改悪、戦争を遂行する国家づくりなど政治面は言うまでもないが、倒産、リストラ、失業者の増大、年金など社会保障制度の崩壊、その他のさまざまな社会問題の発生などが押し寄せてきている。そして、階層の分化がすすみ、あらゆることに、「勝ち組」「敗け組」が生まれ、その格差は急速に拡大していっている。
 山田昌弘著「希望格差社会―『負け組』の絶望感が日本を引き裂く」は、社会学の視点から、こうした不安定化し、先が見えない時代を分析し、将来に希望がもてる人と、「努力は報われない」と感じ「希望」を消滅させ将来に絶望している人の分裂が日本をおおっているとして、これを「希望格差社会」とよぶ。
 山田は、日本の少子化の原因調査から、「パラサイト・シングル」(親に基本的生活を依存しながら、リッチに生活を楽しむ独身者)の存在の「発見」で社会的に評価を受けたが、家族関係の変容、若者の社会意識の変化、「学卒−就職」というラインの寸断などから、「二一世紀を迎えた日本社会は、大きな転換点に立っている。いや、危機的な状況といってもいいかもしれない。……今となっては、未来の希望どころか、『現在と同じ程度の生活』でさえも確保できるか不安に感じる人が増えてきている」と言っている。その一つの例証として、図@の「あなたが大人になる頃、日本の社会(暮らし)はいまより良くなる」かというアンケートをあげている。それでは小学校五年生では、良くなる・どちらかというとそう思うがあわせて、四八・八%とほぼ半数となっているが、少し世の中のことが見えてくる中学二年生になると二二・八%、逆にそう思わない・どちらかというとそう思わないがあわせて七四・四%となっている。
 今日、グローバリゼーションなどの特徴を持つ新しい経済が社会を大きく変容させているが、山田はそれをリスク化と二極化という二つのキーワドで解明しようとしている。そして、日本にとっては「一九九八年」が重要な転換点になっていると言う。
 「日本社会において、希望がなくなる、つまり、努力が報われる見通しを人々がもてなくなりはじめたのが、一九九八年だと私は判断している。これを、一九九八年問題と呼ぶことにしたい。……この年(平成一〇年)は、実質GDP成長率がマイナス一%となった不況の年と記憶されている。橋本内閣から小渕内閣に変わった年でもある。単なる不況とは異なった『質的』な転換がこの年にあったと考えられる。それは、社会構造が転換して、リスク化・二極化が不可避のものになったことが、人々の間でも意識され始めたという点なのだ。
 その少し前、一九九五年は、インターネットという言葉が流行り、携帯電話が爆発的に売れ始めた年である。経済的には、ネットバブル、ネット長者も現れた。社会がますます便利になっていくのがニューエコノミーのプラスの側面だとすると、そのマイナスの側面が一気に噴出したのが、一九九八年だと考えている」。
 そして、自殺者数について述べる。一九九七年までは、二万二千人前後で推移していたが、一九九八年になると、三万二千人となり、それ以降、三万人台で高止まりしている。その増加分のほとんどが、経済的理由による中高年男性の自殺だ(図A参照)。
 フリーターは、一九九九年に急増した。その原因は、前の年に就職できなかった新卒者が、フリーター化したものと見られる。
 家族の分野では、「離婚、できちゃった婚、児童虐待、不登校の増加傾向に拍車がかかるのも、一九九八年前後からの現象」である。
 教育においては、「学力低下が言われている。それも、勉強をする生徒としない生徒に分解する傾向が顕著となっている。調査をみても、一九九〇年代後半に、家でほとんど勉強しない生徒、塾に行かない生徒が増加している」。
 山田は「希望」理論を述べる。「自殺の増加、フリーターの増加などは、まさに、『つらさや苦しさ』に耐える力が減退していることを示している。つらいことに出会ったとき、それに耐え、更なる努力をして乗り越えることができるのは、それが報われる見通し、つまり、希望があるからである。報われる見通しなきまま、『苦労』を強いられると、あるものは反発し、あるものは絶望する。またあるものは、そもそも報われない苦労を強いられる状況から逃れようとする。そして、……苦労を一時的に忘れさせてくれるものにふける人が出てくる」。
 こうしたリスク化、二極化している社会にたいして、人びとは、生活防衛、リスク対処を行い、自分の生活を守ろうとしている。本屋に行けば、そうしたノウハウ本がところ狭ましとならべられて、資格取得の学校・講座も大流行だ。それらは、リスク社会で生き抜くのは自己責任だ、考え方を変えろ、個人に能力や魅力をつけるために、もっともっと努力しろと「激励」している。しかし、それが、ますます競争を激化させ、ひとにぎりの「勝者」といっそうの多くの「敗者」という格差を拡大させるだけだ。
 こうした社会状況は日本だけではない。全世界的な拡ひろがりを持つものだ。とくにアメリカがその先端を疾走している。それが数年後に日本にもあらわれただけだ。
 山田も数カ所で引用しているが、クリントン政権時代の労働長官だったロバート・B・ライシュの「勝者の代償−ニューエコノミーの深淵と未来」(東洋経済新報社)が、その背景を要旨次のように書いている。
 大量生産・大量消費の重化学工業がオールドエコノミーだとし、一九七〇年代からニューエコノミーが動き始め、九〇年代に開花した。コミュニケーション・輸送・情報のプロセスの分野での新しい技術は、「どこからでも簡単によりよい取り引きを見つけ、実現し、産業構造をよりよいものに転換することを可能にし、それが売り手(生産者)の側の激しい競争を引き起こし、すべての組織は生き残りのためにコスト削減、付加価値づくり、新製品の創造といった抜本的で絶え間ない改革を要求される。これは一方で買い手(消費者)の選択に好条件をつくりだすが、顧客や投資家のすばやい反応に対応するために経済の動きがますます早くなる。産業構造のすばやい転換で倒産と新規開業が頻繁に起こり、「私たちの生活はますます予測がつかなくなる」。高い教育や健康などの条件に恵まれた人とそうでない人との収入格差は広がる。よりゆっくりとしか変化できない人びと、貧しい人びと、病弱な人びと、あるいはその他のハンディを負っている人びとの生活はいっそう低下する。いま条件の良い人も明日はどうなるかわからない。だから稼げる時に稼いでおかなければと長時間過密労働が日常的になる。ニューエコノミーで繁栄する時代は、同時に家族の崩壊、コミュニティの分解、自分自身の誠実さを守ることの難しさなどの陰の面がある。
 ライシュはこのように分析しているが、たしかに、われわれは、経済・社会のかつて経験したことないような変化の直中にいる。新自由主義・グローバリゼーションによる世界的な破壊はとどまるところを知らない。
 日本社会の危機的状況にたいして、山田は「個人的対処には限界がある」として、「公共的取り組みの再建」で、個人的対処の公共的支援をあげ、速やかなる総合対策を国、自治体、企業などに求める。
 ライシュは、ニューエコノミーの経済的ダイナミズムと社会的平穏のバランスの良い組み合わせを提案し、これは単なる経済政策ではなく「もっと根本的な道徳の問題」だと言う。
 両者の提案する対案をはじめとして、現在の「危機」に対する諸政策が必要なのは言うまでもないが、儲けに儲けている一握りの人びととそれに連なる勢力の抵抗はすさまじいものがあり、生きるか死ぬかの闘いが各地で繰り広げられ、ますます激しいものになっていっている。この大変動のもつ歴史的な意味を考えていく必要はますます大きくなっている。
 山田の個々の観点には疑問もあるが、現代社会の重大な変容について考えるうえでの興味深い一冊であることはたしかだ。(MD)



複眼単眼

  
統一戦線問題での同心円と同円多心

 私たちが日常使用する運動の用語には戦争関連の用語がかなり多い。かつて革命運動が戦争問題と切り離せなかった時代の遺産でもあり、また徴兵制などによって戦争が個々人の日常化していたことや、歴史的に社会と戦争が不可分だったことなど、その原因はいろいろあろう。しかしながら現代の平和運動は「戦争違法化」の方向に向かって進みだしつつあるのだから、私たちの運動圏での用語も変化が進んでいくことだろう。
 例えば統一戦線という言葉を使いながら少し違和感をおぼえている。最近ではネットワークなどという言葉で言い換えているが、そうすると「戦線」という用語が表現している対立と闘争という側面が消されてしまうおそれがある。これは「言葉狩り」や言い換えで済む問題ではない。その複雑な中身をどのように表現するか、これからも苦心はつづきそうだ。
 このところ、亡くなった山川暁夫が、この統一戦線問題で、ある時期、しきりに「葡萄の房状統一戦線」とか「同円多中心」と言っていたことを思いだしている。もしかしたら「葡萄の房」状という形容はイタリアあたりの運動からの援用かもしれない。しかし同円多中心は間違いなく山川の造語だと思う。この件が気になって、彼の原稿とか講演録がないかとおもい探すのだが、まだ思い出せない。知っている方はご指摘願いたい。
 「同心円」的統一戦線論、ピラミット型統一戦線論はやはり唯一前衛党主義によるもので、スターリン主義が濃厚なものだ。山川はすでに当時から「同円多中心」のいわばネットワーク型統一戦線論の必要性を語っていた。その先見性にあらためて脱帽する。
 先験的に正しい価値観と理論を持ったプロレタリアートの前衛党があり、この指導の下に被抑圧階級を代表する勢力の共同が形成され、解放闘争を勝利的に進めるというもので、この場合、中心はひとつだ。同心円なのだ。
 しかし、このことがいかに傲慢不遜な理論であり、誤りであり、運動の多大な犠牲を伴うものであるかはすでに歴史が証明済みのことだ。
 そこで複数(というより多数)中心論がでてくる。葡萄の房のように独立した粒がひとつひとつ芯に連なり、全体として豊かな葡萄の房を形成している。あるいは同円多中心、大きな輪の中に「心」がたくさんある。それらは融合もせず、独立しているが、大きい輪のなかで共同している状態のことだ。
 私はこの山川理論を借りて、最近は「同円多心」というようになった。「同心円型の統一戦線構想」から、「同円多心型のネットワーク」へと語っている。いまこの考え方が必要なのではないか。
 一般に、政党はもともと己を前衛的、指導的役割を果たすものと考えている。これは労働者階級の政党を自認するものだけの特質ではない。政党も円の中にいくつあってもよい。その前衛性は結果であり、入り口ではない。その前衛性は人びとが認めるものであり、自称するものではない。ネットワークのなかで、それぞれの思想と理論、それにもとづく行動が試される。(T)