人民新報 ・ 第1152 号<統合245(2004年12月15日)
  
                  目次

● 小泉政権の派兵延長決定を糾弾する  自衛隊はイラクから即時撤退せよ

● 通常国会は改憲とのたたかいの最初の山場  自民党の迷走と国民投票法案の動向について

● 米軍新基地建設のためのボーリング調査・掘削工事阻止 !

● 九条の会沖縄講演会、画期的な成功  2000人が改憲や名護新基地建設反対を決意

● 憲法行脚の会の集い  野中広務氏も発言

● レイバーフェスタ二〇〇四

● 現職自衛官が公務で改憲案づくり

     吉田圭秀陸上自衛隊二佐が作成した「憲法草案」

● 海外で帝国主義軍隊として機能できる自衛隊へ  新防衛大綱の示すもの

● 派兵延長中止を求めて、WORLD PEACE NOWが国会行動

● 書 評  / ジルベール・アシュカル「野蛮の衝突」

● 複眼単眼  /  白鳥と鳥海山と、加藤・小泉のこと

● 年末カンパのお願い  労働者社会主義同盟中央委員会




小泉政権の派兵延長決定を糾弾する

   
自衛隊はイラクから即時撤退せよ

 一二月九日、小泉内閣はイラクへの自衛隊派兵の一年間延長を決定した。イラク派兵は、憲法に違反し、またイラク特措法にすら違反している。われわれは、全世界の多くの人びとと連帯して、反戦運動の大きな前進をかち取り、アメリカの不当な戦争・占領に反対して闘い、自衛隊を撤退させよう。

 すでに、フセイン政権の大量破壊兵器の所有などイラク戦争の「大義」は完全に崩壊している。そして、イラク民衆の占領軍への抵抗もいっそう強まっている。米軍によるファルージャ住民への無差別攻撃は、一段とアメリカとそれに協力する勢力への怒りを高めている。イラク情勢はきわめて深刻な事態となっている。そのあらわれが、イラク暫定政権という名のカイライ政権の全土(北部クルド人地域を除く)非常事態宣言だ。自衛隊派兵先のサマワでも、状況はイラクの他地域と同じだ。自衛隊宿営地への砲撃、自衛隊撤退を求めるデモがその証拠である。日本政府は、急遽、政府与党の幹部を「視察」におくり、現地は「非戦闘地域」であると強弁している。しかし、その「視察」は、わずか数時間のもにすぎず、現地の治安担当者との会談もなく、いったい何を「視察」してきたのか。なにより、自衛隊宿営地域の治安を担当していたオランダ軍がなにゆえ撤退せざるをえないのか。ハンガリー軍が時期を早めて撤退するのはなぜか。なぜ韓国の派兵延長決定が国会内でも与野党からの反対で出来ないでいるのか。それらすべてが、イラク情勢を雄弁に物語っている。アメリカを積極的に支持していたイギリス・ブレア政権もイラク派兵反対・撤退の声に直面している。
 フランスをはじめヨーロッパの国ぐには、イラクでアメリカが泥沼に陥り窮地にたたされても支援をつよめる様子はまったくない。イラク「戦後」のための債権放棄、復興資金援助にも冷ややかだ。アメリカとヨーロッパの中東における利害の違い・対立があることが前提だが、それにくわえて国際世論を無視し、国連の新たな決議すら得る努力をすることなしに、超大国の思い上がった単独行動主義の報いが、すでに出てきている。第二期のブッシュ政権では、パウエル国務長官も辞任し、ネオコン・軍事右派勢力がいっそう発言力を拡大して、アメリカが孤立が強まるのは必然だ。
 だが、小泉内閣は、アメリカとの結びつきが「国益」だと錯覚して、ブッシュの危険な戦争政策に日本を結び付けた。サマワ「視察」の前から、「まず派兵延長ありき」であったことはいうまでもない。こうした見え見えのパフォーマンスで、小泉内閣は派兵延長に踏み切ったが、小泉はすでに先月のブッシュとの会談で、派兵延長を約束していた。
 自衛隊の派兵延長を受けて、アメリカ政府は、大歓迎の記者会見を行った。その喜びようを見ると、アメリカがイラク問題でいかに孤立しているか、そして小泉のブッシュ支持がブッシュにいかに貴重なものであったかということが伝わってくる。
 小泉は、六〇〇〇人もの民衆が殺されたともいわれるファルージャ総攻撃に対し積極的に支持した。この対応は、イラクと中東の多くの人びとに、日本が虐殺攻撃の共犯者になったと見なされるだろうことは間違いない。
 国内世論でも、イラクの実情が知られるようになって、自衛隊派兵延長反対は多数派となった。
 状況が緊迫化する中で、自衛隊がイラクの人びとを殺傷したり、また自衛隊員に死傷者がでるようになることは火をみるよりあきらかなことだ。


通常国会は改憲とのたたかいの最初の山場

    自民党の迷走と国民投票法案の動向について


 「政権を転覆することができる力を持っているからこそ、徹底的な自制が必要なはずだ。憲法改正案をまとめるとは、まるでクーデターの発想だ」と防衛庁内局幹部が語った(十二月五日「東京新聞」)ように、自民党憲法調査会改憲草案起草委員会座長の中谷元・元防衛庁長官らと、陸自現職の吉田圭秀二佐らが結託して作成した「憲法改正草案たたきき台」をめぐる事件は各界に衝撃を与えている。与党や右派マスメディアはこの影響が広がらないようにともみ消しに躍起になっている。小泉首相は「個人的な研究で問題ない」といい、産経新聞社説は「なぜ問題になるのだろう」などと言っている。所属部署の住所、内線、FAXを明記し、職務を明記した上で名前が書かれているこの文書は明らかに「公務」であろう。首相などの弁明は全く通用しない。
 事件の経緯はこうだ。十一月中旬、自民党憲法調査会(保岡興治会長)の下に設置された憲法改正案起草委員会は「改憲草案大綱」のたたき台を公表(本紙十一月二五日号で批判)、年内の策定をめざした。ところがこの原案に陸上幕僚監部所属の吉田圭秀二佐が起草した「憲法草案」の主旨がすべて採用されていたことが発覚したのだ。
 これは自衛官の憲法尊重擁護義務違反の最たるもので、絶対にあってはならないものだ。
 「自衛隊と組んでやるなんて、まるで2・26事件だ」(参院自民党幹部)などと批判され、一九六三年の三矢作戦計画事件発覚以来の重大事と批判されるゆえんだ。
 この事件が共同通信社によってスクープされる直前、事態を知った自民党執行部は参議院自民党の批判などを理由に、この原案をうやむやのうちに没にすることをめざしたが、露見してしまった。この結果、「たたき台」は全面撤回、中谷起草委員会は事実上の廃止となり、代わりに自民党の改憲案作りの体制として、急遽、「新憲法制定推進本部」(小泉純一郎本部長)がつくられ、事務総長に与謝野馨、事務局長に保岡興治、その下に「起草委員会」(森喜朗委員長)が設置される予定となった。改憲の道を暴走していた山崎↓保岡↓中谷の改憲ラインはこれによって更迭された。
 しかし、この改憲路線が変更される訳ではないことが今日の自民党だ。新体制も基本的には従来の原案の政治的立場観点を継承するものとなろう。そして来年十一月の自民党結成五〇周年には何としても党改憲草案を発表しようと、動きを強めるに違いない。
 小泉のもとに武部自民党幹事長が本部長代理、超タカ派の平沼が取りまとめ方に配置され、起草委員長は森喜朗なのだから、その政治的方向は推して知るべしだ。
 一方、衆参両院の憲法調査会の設置期限(五年をメドとするという申し合わせ)が来年一月に迫る中、自公両党は次期通常国会中の五月三日(憲法記念日)に「最終報告書」を議長に提出した後、憲法調査会を「国民投票法案審査」の機関に衣替えすることで合意した。このため二〇〇五年四月中に「国会法」の改定案を上程し、成立をはかる予定だ。これは当初、自民党側は現在の憲法調査会を改憲の提案権を持つ常任委員会(憲法委員会=仮称)に衣替えする予定だったが、公明党などの時期尚早論を考慮し、改憲の国民投票法案を審議する機関という奇妙なものにすることになった。この一段階をおいた後、憲法改正案の懸案審査権限を持つ憲法委員会に衣替えする戦略だ。
 すでに自公与党が合意した「国民投票法案」は改憲案の国民投票の際、複数条項にわたる改憲草案の「一括投票」か「条文ごとの投票」にするのかという重要問題の処理方法を法案には明記せず「発議の際に別に定める法律の規定による」としている。これは先延ばしすることで、問題のある一括投票にたいする批判を避け、事実上、土壇場で国会の過半数で決定できるようにするなど、極めて危険なものだ。これでは全く法案の体を為していない。
 複数条項にわたる改憲案を一括して賛成か、反対かを問うなどといいうことは、条項ごとに賛否が分かれる有権者の投票権を事実上、奪うものであり、「抱き合わせ商法」と同類の極めて悪質な方法だ。このようにして、本丸の九条改憲を他の条項でまぶして有権者が飲みやすくしようとするペテンなのだ。
 ほかにも自公の「国民投票法案」は重大な問題点が多々あるが、この批判はすでに「許すな!憲法改悪・市民連絡会」や日本YWCAなど、市民運動体がそれぞれ発行しているリーフレットに詳しい。本紙上での批判は後日に委ねたい。
 こうして次期通常国会は、憲法調査会の変質をねらう「国会法改定」に反対する課題で、改憲派とのたたかいの最初の山場となる。 (鈴木史朗)


米軍新基地建設のためのボーリング調査・掘削工事阻止 !

 サンゴとジュゴンの生息地である沖縄宜野湾市辺野古沖に、沖縄防衛施設局は米軍新基地建設のためのボーリング調査・掘削工事を強行した。現地の阻止行動は、九月九日からは海上での阻止行動が加わり、激しい攻防戦がつづいている。

 一二月一一日、渋谷・宮下公園で、辺野古への海上基地・ボーリング調査を許さない実行委員会主催による、米軍新基地建設のためのボーリング調査・掘削工事を強行米軍新基地建設のためのボーリング調査・掘削工事を強行の、沖縄の闘いに連帯して、掘削に反対する集会が開かれ、二五〇人が参加した。
 集会では、実行委員会を代表して吉田さんがあいさつ。
 実行委員会は、現在二八団体となった。毎週月曜日の防衛庁行動は一日も休まずつづいている。一一月二九日には、環境省へ申し入れにいった。工事でサンゴやジュゴンに被害が出ていることについて、写真を見せたが、環境省は初めて見た、しかし防衛庁・防衛施設庁が動かないとダメだと言っていた。防衛庁では、普天間基地の返還はいつかという問に、あと九年半かかると言う。辺野古海上での闘いは非常に緊迫しけが人が続出している。請負会社のサンコウ・コーポレーションの社員が、工事のやぐらにしがみついて阻止行動をしている人の手をふりほどき、その人は落下の時にパイプで頭を打って失神して、海に浮くというようなこともおこっている。この問題は国会でも取り上げられず、沖縄以外では報道もされていない。私たちは、全国で運動を進めて、政府に、辺野古の基地をつくらせないという声を届けて行かなければならない。
 沖縄からの電話がスピーカーで流され、いのちを守る会、平和市民連絡会から報告が行われた。朝七時から調査工事のための単管やぐらに反対行動を展開している。この一週間で次々と事件が起こった。火曜日には、女性が単管やぐらから突き落とされ全身打撲の全治二週間の負傷をおった。木曜日には、男性が腰を痛める負傷をした。その翌日には男性が海に突き落とされ首に負傷した。相手側は暴力的に工事を強行してきている。しかし、私たちは絶対に屈せず、阻止行動をやっていく。一二月二七日に、工事差し止めの裁判をおこす。現地での阻止行動と全国各地での運動をおこし、人殺しの基地をつくらせない、素晴らしい海・自然を壊させない闘いを進めて行こう。
 現地闘争に参加した人も発言し、現地の闘いを報告した。
 全労協、WORLD PEACE NOWなどから連帯あいさつをうけ、デモに出発した。


九条の会沖縄講演会、画期的な成功

    2000人が改憲や名護新基地建設反対を決意


 「日本と世界の平和な未来のために」と正面に掲げて、十二月一日夜、那覇市民会館の通路やロビーまであふれる二〇〇〇人以上の人びとを集めて「九条の会沖縄講演会」が開かれた。
 主催は「九条の会」と「沖縄講演会を支える会」によるもので、当日は小田実、奥平康弘、大江健三郎の三氏が講演した。石垣島や与論島などからまで泊まり込みで参加した市民たちは講師の話を一言も聞き漏らすまいと、熱心に耳を傾けていた。講演のあと、「私たちの決意」(別掲)を全員の拍手で採択した。
講演会は始めに九条の会事務局の高田健氏が九条の会の説明と活動の経過報告をした。
 つづいて県内の中学生、高校生、大学生ら数十人が会場の人びとと共に憲法前文と第九条を朗読した。
 小田氏は大阪大空襲の体験をしたときに沖縄を意識したのが自分と沖縄の関わりの原点であること。同様の焼き尽くす作戦は日本軍が中国でやったことと同じであること。それはベトナムでもやられた。こうした戦争をなくすのが憲法前文の思想だと強調した。
 奥平氏は、沖縄戦に象徴される犠牲の上に、第九条が成立している。
 改憲派は近代立憲主義を否定し、権力制限規範ではなく、国民の行動規範にしようとしている。
 護憲的改憲論、憲法と現実の乖離を現実に合わせて解決しようとする流れがある。あきらめずに今立ち上がるべきだ、と述べた。
大江氏は、憲法や教育基本法は沖縄や広島、アジアのさまざまなところで死んだ人びとへの思いが生きているときにその思いに支えられてできた。小泉政権がブッシュと組んでやっていることを考えると、九条がなくなれば恐ろしいことになる。九条は留め金だ。これを守りつづけた日本人の、市民の力を信じたいと述べた。
 超満員の参加者が採択した「私たちの決意」は次の通り。
 私たちは、今日の講演会を機に、平和憲法の素晴らしさをあらためて認識し、次のような行動に立ち上がる決意を明らかにします。
 1) 私たちは、憲法九条の「改正」を何としてもやめさせます。
 2) 私たちは、武力によらない国際平和という平和憲法の精神の実現に向けて、広く世界に訴えていきます。
 3) 私たちは、自衛隊のイラク派兵の期限延長に反対し、即時撤兵を求めていきます。
 4) 私たちは、県民の声を結集して、平和憲法の理念に反する辺野古での米軍新基地建設を断念させます。
 5) 私たちは、街頭や集会、選挙、言論活動や文化活動など、それぞれができる方法で戦争に反対し、憲法九条を守り活かす努力をします。

二〇〇四年十二月一日

「九条の会」沖縄講演会参加者一同


憲法行脚の会の集い

      
野中広務氏も発言

 一二月八日、総評会館で、「憲法行脚の会」主催で、「ノーモア 12・8の集い」が開かれた。
 行脚の会は、落合恵子、姜尚中、佐高信、城山三郎、辛淑玉、土井たか子、三木睦子のみなさんが呼びかけ、憲法の改悪に反対し、「日本国憲法の思想を、社会や職場、そして世界に広げたい」として活動している。
 自民党の野中広務元官房長官が参加するというので会場ははやくから満席状態となった。
 はじめに佐高信さんが発言。
 今日一二月八日は、一九四一年に日本軍が真珠湾攻撃をしかけ太平洋戦争のはじまった日だ。八月六日や八月一五日などに集会を開くことが多いが、あえて被害の日ではなく加害の日に集会を開くことにした。私たちが「リメンバー・パールハーバー」と言い、アメリカ人には「ノーモア・ヒロシマ」と言わせたい。
 つづいて、野中広務さんと土井たか子さんの対談。野中さんは、軍国少年だった戦争中を振り返りながら次のように語った。
 軍隊では革靴を支給されたが、「それは死ぬときにとっておけ」と言われ、普段は地下足袋を履き、それが擦り切れると今度はワラ草履を履いた。こんなことで戦争に勝てるのかなあと思ったりした。戦争に負けて憲法ができたが、戦争放棄と象徴天皇制の規定を見てこうなっていくのかと思ったが、とくに前文の美しさには感動した。一九五〇年に朝鮮戦争が起こり、アメリカは再軍備を要求したが、吉田茂首相が反対して、軍隊ではなく、警察予備隊となった。この点では私は吉田は偉かったと思う。それが変質して自衛隊となった。自衛隊となって五〇年の歴史がある。いま、この位置づけが問題となっている。このままいけば大変恐ろしいことになる。一定の歯止めが必要だ。私の意見では、憲法九条の第一項はそのままに、第二項で自衛隊を認知して、その代わり専守防衛にかぎると歯止めをかけたほうが良い。憲法は不麿の大典ではない。この辺で国民のコンセンサスが出来るのではないか。
 つづいて、小室等さんの歌&トーク、落合恵子さんの発言があった。
 
 野中氏のような人がこうした集会に出てくるのは、保守支配層の中にも、小泉政権の政策が非常に危うい道を暴走し、いまの体制を壊すことになるという危機感があるからだろう。自衛隊の専守防衛論には反対だが、小泉流改憲論やイラク派兵に反対する緩やかな統一戦線の中では一定の可能性を持つものであろう。野中、加藤紘一、亀井静香、古賀誠らの反小泉連合は、自民党勢力の分岐として注目しておかなければならないことだ。


レイバーフェスタ二〇〇四

 一二月四日、東京・中野で、三〇〇人が参加して、「レイバーフェスタ二〇〇四」が開催された。フェスタ第一部は、「映像メッセージ〜世界から日本から」で、アメリカ・ロスアンゼルスのホテル労働者の闘いとフランスの社会派音楽グループ「ジョリ・モーム」のビデオ、そして労働者・労働組合がみずからつくった、「ストライキで切り拓け〜セメント運輸労働者の闘い」など「三分間ビデオ」の二〇本が上映された。
 第二部は、バイオリン演歌ショウ、マイケル・ムーア監督の「ロジャー&ミー」の上映、最後に「魅力ある労働運動って何?」と題してミニシンポジウム。
 シンポでは、解雇と労働条件低下の嵐が吹き荒れるなかでもなかなか労働者の組織化とか反撃が出来ていないが、労働組合の側も大胆に発想を転換して、五感に訴える分かりやすく魅力ある運動をつくる試みなどが話された。
 今年は、東京では三回目だが、大阪にもひろがった。三分間ビデオは、回をおうごとにレベルが高くなっていく感じで、感想アンケートでは現場の闘いの迫力に圧倒されたとか、の声が多かった。


現職自衛官が公務で改憲案づくり

 一二月五日、共同通信配給の記事が東京新聞などに掲載された。それは、自民党改憲大綱には、現役自衛官による憲法「改正」案が全面的に反映されていると報じていた。
 その自衛官は陸上幕僚監部防衛部防衛課防衛班所属する吉田圭秀二等陸佐。自民党憲法調査会の「改正草案」起草委員長を務める中谷元・元防衛庁長官が陸上自衛隊幕僚監部に改憲草案づくりを依頼し、吉田二佐が作成した文書は、一〇月下旬に中谷に渡され、同二二日の自民党憲法調査会に資料として提出された。
 文書は、「憲法改正(安全保障関連)」と「憲法草案」(別掲)で、「盛り込むべき事項の必要不可欠なもの」として、@侵略戦争の否認、A(自衛隊・自衛軍・国防軍)設置の明確な規定、B総理大臣の最高指揮権及び文民統制、C個別的自衛権及び集団的自衛権、並びに国連の集団的措置(集団安全保障)に基づく武力行使の容認、D国家緊急事態に関する規定、「さらに盛り込むのが望ましい規定」では、@国民の国防義務、A軍刑法の制定、B軍事裁判所の設置をあげている。別紙とされている「憲法草案」は、これにもとづいて条文化したものだ。
 自民党は憲法改悪をゴリ押ししようとしているが、この報道で、年内に予定していた「改憲草稿大綱原案」(たたき台)の公表は不可能となり、事実上の撤回となった。現役自衛官が憲法九条「改正」の基本について起草し、それが自民党の改憲草案を決定づけるというのは、きわめて重大な問題である。戦前、戦中の軍国主義時代には、参謀本部や陸軍省軍務局軍務課の少壮将校たちが暴走して、侵略戦争と国内抑圧体制を主導した。その当時は中佐、少佐クラスが中心だったが、中佐は自衛隊では二佐にあたる。アメリカ・ブッシュ政権に追随してイラク戦争などに深入りし、国内では有事体制づくりに走る小泉内閣の下で自衛隊の発言力は強まっている。今回の事態も国政に発言力を増大させようとする自衛隊幹部の動きのひとつである。
 中谷元防衛庁長官や細田官房長官は、私的な勉強のためのものだと言い訳に終始しているが、当該文書には、「陸上幕僚監部防衛部防衛課防衛班 吉田圭秀」と明記され、防衛庁内の住所と内線電話・FAX番号までが記されている。憲法を遵守すべき立場になる幹部自衛官が、公務として憲法体制を打ち壊す任務に従事しているのであり、許されることではない。断固たる糾弾と関連者の厳正な処罰が求められている。

 この動きに市民運動はただちに反撃行動を展開した。一二月六日には、防衛庁前で抗議の集会をひらいた。許すな!憲法改悪・市民連絡会が呼びかけた「陸自幹部と自民党幹部が結託して改憲案の作成を推進したことに抗議し、関係者の罷免と防衛庁長官、小泉首相・総裁の辞任を求める共同声明」は短時間の期日にもかかわらず多くの賛同が寄せられいまも増え続けている。
 改憲阻止の闘いを強めていこう。

「陸自幹部と自民党幹部が結託して改憲案の作成を推進したことに抗議し、関係者の罷免と防衛庁長官、小泉首相・総裁の辞任を求める共同声明」

 一二月五日のマスコミ報道によると、陸上自衛隊幹部が作成した改憲案が自民党の改憲作業をすすめる機関に提出され、その案はすべて自民党の発表した改憲草案大綱に取り入れられていたことが判明しました。現役自衛官(陸上幕僚監部防衛部防衛課防衛班所属二等陸佐)による憲法違反の行動としては、「三矢研究」とよばれた有事法制構想研究・作成事件以来、それに匹敵するほどの極めて重大な問題です。

 自民党憲法調査会(保岡興治会長)の憲法改正案起草委員会(中谷元座長)は一一月一七日、自衛軍の設置や集団的自衛権の行使および海外での武力行使、国家緊急事態規定、国民の国防の責務などを内容とする「憲法改正草案大綱原案(たたき台)」を公表し、明文改憲にむけて具体的にその一歩を進めました。しかし、天皇の元首規定や愛国心強要などまでも含んだ危険な改憲草案大綱は各界からの厳しい批判を浴びました。また自民党内からも参院自民党が「参院軽視」との批判を出したのをはじめ「策定経過が不透明」などの批判が続出、自民党執行部は二日、この大綱原案を白紙撤回する方針を決め、起草委員会とは別にあらたな草案策定の組織「憲法改正国民運動本部」(本部長は小泉総裁か、武部幹事長を予定)を設置する方針だと報道されたばかりです。これら自民党内のあわただしい経過をみると、今回明らかになった事件は、すでに自民党執行部が知っていた可能性があると疑うに十分です。

 報道によれば、一〇月下旬に中谷座長に提出された陸自幹部の改憲草案は「憲法改正草案」とのタイトルがつけられ、@侵略戦争の否定、A集団安全保障、B軍隊の設置・権限、C国防軍の指揮監督、D国家緊急事態、E司法権、F特別裁判所、G国民の国防義務―の8項目について条文を列記。この草案とは別に、安全保障関連で「盛り込むべき事項」を記載した文書も作成したといわれます。こうした憲法改正作業に現職自衛官幹部が関与したことは、マスコミが指摘する「政治が軍事を監督するシビリアンコントロール(文民統制)違反」はもとより、自衛官の憲法尊重擁護義務違反事件として重大な問題です。

 自衛隊はその憲法上の是非はさておいても、軍事的暴力の行使が自衛隊法などで認められた特別の集団であり、その幹部の政治的発言はとりわけ重大な意味を持っており、課せられた憲法尊重擁護義務は特別に重いものです。改憲案作成作業が公務中であるとないとにかかわらず、このような活動は幹部自衛官にとって断じて許されるべきものではありません。ふりかえれば、現行憲法の平和主義の改定は一九六三年の三矢作戦計画(統合防衛図上研究実施計画)以来、防衛庁制服組の念願でした。いま、イラクのサマワに陸上自衛隊などが派遣され、多国籍軍に組み入れられたもとで、一二月一四日の派兵期限切れを前に派兵期間の延長が画策されているときに、こうした事件が暴露されたのは決して偶然ではありません。こともあろうに自衛官出身の元防衛庁長官で自民党幹部の中谷元氏らがこうした自衛官と結託して改憲を企てているということは、一種のクーデター的行為であり、到底容認すべからざるものです。おりしも、来年からの通常国会には与党から改憲のための国会法改定や改憲国民投票法案などの改憲手続き法が提出されようとしており、与党が改憲への動きを強めようとしている矢先です。

 「戦争をしない国」から「戦争をする国」への転換と明文改憲の動きが強まってきている中、制服組と自民党幹部が結託して進めたこうした危険な動きは芽のうちにつみ取る必要があります。

 日本国憲法の平和主義の根幹を揺るがす今回の事件に対し、私たちは心からの怒りを込めて抗議し、関係諸機関と自民党執行部がただちにこの事件の真相を糾明し、公表することを要求します。あわせて日本国憲法第九九条の憲法尊重擁護義務違反事件として、同二等陸佐をはじめとする防衛庁関係者の罷免、大野功統防衛庁長官の辞任を要求し、同時にこのような事件を二度と繰り返さないためにも小泉純一郎首相・自民党総裁の責任を問い、辞職を要求するものです。以上、市民団体・個人の連名をもって要求します。

二〇〇四年一二月六日

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吉田圭秀陸上自衛隊二佐が作成した「憲法草案」

 第○章 安全保障
 (侵略戦争の否定)
 第○条 日本国は、(国際紛争を解決する手段としての武力による威嚇又は武力の行使(戦争)を否認する。
 (集団安全保障)
 第○条 日本国は、国際の平和と安全を維持するため集団安全保障制度に加入することができる。
 (軍隊の設置、権限)
 第○条 日本国は、国の防衛のために軍隊を設置する。(陸海空軍を置く。)
 2 軍隊は、我が国の防衛及び前条の規定に基づき行動したときは、集団的自衛権を行使することができる。
 3 軍隊の任務、編成・装備及び行動・権限は、法律で定める。
 4 軍人の身分は、法律で定める。
 (国防軍の指揮監督)
 (内閣総理大臣)
 第○条 内閣総理大臣は、内閣を代表して国防軍の最高の指揮監督権を有する。
 2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
 (国家緊急事態)
 第○条 我が国の防衛その他緊急事態における体制は、法律で定める。
 2 内閣総理大臣は、法律で定められた国家緊急事態に際し、法律に定められた手続に従い、日本国の領域及び特定の地域に国家緊急事態を布告し、国会に報告しなければならない。
 第○章 司法
 (司法権)
 第○条 司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所並びに特別裁判所に属する。
 (特別裁判所)
 第○条 特別裁判所の管轄に属するものは法律で定める。
 第○章 国民の権利及び義務
 (国民の国防義務)
 第○条 すべて国民は、法律の定めるところにより、国防の義務を負う。(国民は、法律で定めるところにより、我が国の防衛その他緊急事態に際し必要な行動を執る義務を負う)。

※ ( )は、下線部の代案である。


海外で帝国主義軍隊として機能できる自衛隊へ  新防衛大綱の示すもの

 一二月一〇日、前日のイラクへの自衛隊派兵延長につづいて、小泉内閣は、安全保障会議と閣議で、新「防衛計画の大綱」と次期中期防衛力整備計画(二〇〇五〜〇九年度)を決定した。
 大綱は今後一〇年間の防衛力整備の指針となるものだ。一九九五年以来の改定であるが、新大綱は、自衛隊のイラク戦争への加担という状況の中で、質的な軍事力のいっそうの強化とともに、憲法の枠を破り自衛隊の海外での活動を恒常化させるものとなっている。海外でも「機能」する自衛隊が目指されている。この大綱は、一〇年後でなく、五年後に見直しするとしているが、その時によりいっそうの「機能化」が目指されていることは言うまでもない。
 新大綱は、アメリカとの軍事同盟をさらに強め、「多機能で弾力的な実効性のある防衛力」整備を強調している。テロや大量破壊兵器など新たな脅威に対応することと同時に、これまで以上に北朝鮮と中国にむけて軍備をシフトするものとなっている。また、「国際平和協力活動」への主体的・積極的取り組みが盛り込まれ、これをも自衛隊の本来任務にすることが狙われている。
 武器輸出三原則の緩和は大綱には入らなかったが、官房長官談話でミサイル防衛(MD)関連部品の米国向け輸出については例外とするとした。また、長官談話では自衛隊の国際平和協力活動の本来任務化とミサイル迎撃での意思決定迅速化の法改正に取り組む考えも表明された。
 小泉政権は、米軍の世界的再編(トランスフォーメーション)に対応して日米双方の役割分担や在日米軍の兵力構成をめぐる「戦略対話」に積極的に主体的に取り組む方針であり、新大綱は、小泉政権のアメリカ世界戦略の一翼を「主体的に」担い、アジアでの勢力圏をうちたてるという日本支配階級の戦略を軍事的に担保するものとしてある。こうした中で、防衛庁の発言が強まり、傲慢な行動が目立つようになった。元自衛官の国会議員、とくに前防衛庁長官の中谷元は、現役軍人ではないにしても、まさに戦前の軍部大臣のようなものだ。
 新防衛大綱、そして現役自衛官の改憲提案は、日本が危険な道を突き進む瀬戸際に来ていることを示している。
 いっそう反戦・改憲阻止の闘いを強めていかなければならない。


派兵延長中止を求めて、WORLD PEACE NOWが国会行動

 「国会審議もしないでイラク派兵延長を企てる小泉首相に私たち市民は怒りを込めて抗議します。派兵は一四日で期限切れです。」
 十二月三日、WORLD PEACE NOWが主催して、衆議院議員面会所、首相官邸前で、緊急国会行動を行った。
 議面集会では、糸数慶子参議院議員、共産党の佐々木憲昭衆議院議員、民主党の稲見哲男衆議院議員があいさつ。糸数議員は、イラクのファルージャでも沖縄での戦でも一般の民衆が大きな被害を受けている、沖縄からも普天間基地などから米軍がファルージャ攻撃に出ている、新基地建設のためのボーリング調査が行われているが、イラクの問題と結びついた沖縄の闘いへの支援をお願いしたい、と述べた。
 市民団体からは、ちょうちんデモの会、憲法を愛する女性ネット、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック、憲法を生かす会、うちなんちゅの怒りとともに!三多摩市民の会、ふぇみん婦人民主クラブ、キリスト者平和ネット、日本山妙法寺などが発言。議面集会を終えて、首相官邸前に移り、自衛隊のイラク派兵延長を中止せよとシュプレヒコールをあげた。


書 評

  「野蛮の衝突 なぜ21世紀は、戦争とテロリズムの時代になったのか?」

                  著者:ジルベール・アシュカル  湯川 順夫訳


                              作品社(2004.12)  229ページ 2310円

 「野蛮で破壊的な資本主義のグローバリゼーションの尖兵であるアメリカ帝国の野蛮は、悪しき弁証法として、別の野蛮への退歩を絶えず生み出している。もしそれが全面的に広がるのを許すならば、その行き着く先は、新たな《野蛮》の広がりとなるだろう」。
 この本はフランスで出版されてすぐに評判となったが、英語、アラビア語、ペルシャ語、中国語など多くの言語に翻訳され読まれている。著者のアシュカルは、レバノン出身の政治学者でパリ第八大学の教授。訳者の湯川さんは、巻末の解説で、アシュカルは学者であると同時に「一九七五年以来の《レバノン内戦》をアラブの活動家として闘い抜き」、パリで生活する現在も「イラク反戦運動に参加し、その中で重要な役割を果たしつづけている。アラブ世界と中東のさまざまな民衆の動きについて、誰よりも精通している人物」だと紹介している。
 サミュエル・ハンチントン著「文明の衝突」は、9・11事件以後、日本でも有名になり、実際にはあまり読まれることなく世界で起こる問題を解釈する万能の処方箋のごとくあつかわれているが、「野蛮の衝突」というタイトルは、そうした判断に鋭く対決している(アシュカルは、ハンチントンの理論は、世上で流布されているものとはかなり違うものだとも指摘しているが)。
 いわゆる文明の衝突論では、今日の世界は西洋文明とイスラム文明の衝突ととらえられるか、少なくとも9・11事件の背景となっていると考える。もっとも、ブッシュ政権は、イスラム全体を敵とするのではなく、よいイスラム教徒と危険なイスラム教徒を分け、悪いものとの戦争をしているのだとも言う。だが、ブッシュたちのやっていることは、西洋文明がそれ自身「文明」を体現するもので、アメリカが西洋文明の代表であると自ら任じ、イスラム教徒の顔をした野蛮に対する「文明」それ自身の対立であるとするものだ(小泉もその仲間だ)。
 ブッシュの「悪の枢軸」論などには宗教的な意味が込められているが、著者は、ブッシュとビン・ラディンに共通するものとして、「絶対悪」への非寛容性をあげている。アルカイダのイスラム原理主義と同じように、ブッシュが大統領選でキリスト教右派・原理主義の支えを受けて勝利したことは日本でも知る人が多い。「今日、ジョージ・W・ブッシュは、アメリカにおけるプロテスタント原理主義派の指導者として登場している」として、『ワシントン・ポスト』紙の記事が引用されている。「宗教的保守派が近代的な政治運動になって以来、初めて、合衆国大統領がこの運動の事実上の指導者になった。ロナルド・レーガンもかつては宗教的保守派によって称賛された。だが、ブッシュの地位は、その彼ですら、けっして獲得することのなかった地位である。キリスト教系の出版物やラジオやテレビはブッシュに惜しみない称賛を浴びせる一方、牧師は教会の説教壇から彼のリーダーシップを神の摂理にもとづく行為であると論じている。列をなしてブッシュと会見している宗教指導者たちは、彼の信念について証言し、そのウェブサイトは人々に対して大統領のために断食して祈るように勧めているのである」。こうしたことが、「アメリカの《野蛮》はいかに生み出されているか? ― 自己愛的同情とグローバルなスペクタクル」の章で分析されている。
 つづいてが「イスラムの《野蛮》は、いかに生み出されているか? ― 石油、宗教、ファナティズム、フランケンシュタイン」だ。
 アメリカの支配・横暴に反対する闘争についての評価では、それの内実(潮流)を問わず、民衆抵抗もビン・ラディンらの「テロ」も一緒にして、「聖戦」と規定する人びとがいる。9・11事件以降の反戦運動で、「テロにも報復戦争にも反対」のスローガンに関連して、反米勢力といっても、その中の誰と連帯するのか、反米ということでそれらをすべてを支持し、テロと報復戦争という二項の対立の中で単純に一方に加担していいのか、などをめぐる論争が続いている。この問題は、現在のイラク反戦運動の前進、そしていかなる未来を切り開くのかにかかわるきわめて重大な事柄である。著者も「一方の帝国の野蛮に真っ向から反対すると同時に大きな野蛮に対する反作用としてのもう一方の偏狭な狂信へと進歩的価値観が吸引されていくことにも反対することによって《野蛮》への転落を阻止する」必要を述べている。
 ビン・ラディンらはアメリカという巨大な「野蛮」に対して闘ってはいるが、アルカイダとその行為をいかに評価するのかが問題だ。著者は、「アルカイダのネットワークは、そもそも、ワシントンが半世紀以上にわたって支え続けてきた、ひとつの政治的勢力圏としてのイスラム原理主義が憤激の末に変身したものにすぎない」と規定している。
 アルカイダのもとになったのは、ソ連のアフガニスタン侵攻に対抗するために、アメリカが育てあげた「イスラム勢力」だ。当時のアフガニスタンには、国外からアメリカの資金で武装し、ゲリラ訓練を受けた武装勢力が流入して、反ソ戦争を闘い、ソ連はアフガニスタンから撤退させられた。アフガン戦後、アルカイダ・ネットワークの多くのメンバーの中で、「度しがたい偏狭な分子や犯罪者に転じるか、ふたたび犯罪者に戻るかした分子」は、動員を解除されるとすぐに、アルジェリア、サウジアラビア、中国、ロシア、チェチェンなど自分たちの出身国の政府に対して銃を向けるようになった。「無神論」のソ連が消滅し、かれらは、今度は西側と同盟する国ぐにの政府に向けてその闘いを継続した。かれらは、麻薬、密輸、マネーロンダリングなど反ソ戦争の期間中にCIAが彼らに教え込んだ手段で資金力を増大させた。ビン・ラディンだけではない。アフガニスタンのタリバンもそうした西側が育てた勢力だった。アメリカのCIAなどが育てた武装勢力が飼い主にかみつき、まるで悪魔の弟子、フランケンシュタインが創造主に刃向かうようなかたちになっている。
 ビン・ラディンは、一九九八年に「ユダヤ人と十字軍に反対する聖戦のための世界イスラム戦線」を結成し、@聖地であるアラビア半島への米軍の駐留、Aイラクのイスラム民衆に対する殺人的禁輸措置、B「十字軍とシオニストの同盟」によるパレスチナのイスラム教徒の虐殺をやめさせるために、イスラム教の名において「アメリカ人とその同盟者・軍人・民間人を殺害すること」は正当であり絶対に必要だと述べた。攻撃は、アメリカ政府とその同盟国だけではなく、一般民間人にも向けられている。世界を抑圧民族、被抑圧民族に分類するだけでなく、それぞれの国の人間を支配階級と被支配階級、ブルジョアジーとプロレタリアートに分け、プロレタリアートと被抑圧民族の団結を基礎にした闘いを進めるのがプロレタリア国際主義だ。だが、アルカイダには先進資本主義国の被支配階級も支配階級同様の攻撃の対象としている。
 現在、中東をはじめ、北アフリカ、東南アジアでイスラム原理主義運動が活性化している。しかし、アフガニスタンのタリバン、イランのホメイニ師、イラクのシスターニ師、サドル師、パレススチナのハマス、そしてビン・ラディンなどの主張は、女性の権利を認めないなど社会的には反動的反民主主義的なものだ。こうした勢力が運動の指導権をとってつくられる社会は、あらたな抑圧社会でしかない。
 だが、なにゆえに、イスラム原理主義が大衆的な影響力をもつのか。こうした状況がうまれた理由について著者は、「急進主義的な反西洋のイスラム原理主義とは、資本主義の歪んだ発展と西側の支配に対する中産階級と貧困層の憤激―これは現地の専制的権力によって、いっそうひどいものとなっていることが多い―の歪曲された反動的表現である。…… それ以前の時期には、この憤激は、民族主義的・反帝国主義的・ポピュリスト的な形、または反資本主義的な社会主義という形を、あるいはこれらの諸要素の結合した近代主義的な形をとっていたのだが、イスラム原理主義というこの表現形態は、かつてのこうした近代主義的表現が破産するか排除されるかした後に、支配的になったのである」と分析している。
 「イスラム原理主義の復活は、イスラム民衆の急進化の文化的に不可避の形態ではなくて、イデオロギー上の競合相手がそれと対抗する共同勢力によって取り除かれてしまった後、最近まで嫌われていたイデオロギーが不戦勝によっておさめた成功であった。スターリニズム体制の崩壊による社会主義的価値観に対する世界的なイデオロギー的信頼の喪失、イスラム世界における左翼潮流全体の破産あるいは極少派への転落、ワシントンとリヤドによってさかんに煽られたイスラム原理主義への傾斜、世界的規模での新自由主義の規制緩和にもとづく経済と社会的不安定の増大という情勢、そしてパレスチナ人民やイラク人民に同一のアイデンティティーを感じているイスラム系住民が日々受けている屈辱によって悪化するすべての事態。これらすべての要因が結びつき、収斂して、ひとつのきわめて爆発しやすい感情が作り出されることになった」。
 この様な「暴力の悪循環」をいかに断ち切るのか。アメリカの覇権主義・単独行動主義は、経済のグローバリゼーション、市場経済万能主義と表裏一体のものだ。日本でも世界でも新自由主義が吹き荒れ、社会の解体が進んでいる。赤裸々な資本主義の「弱肉強食」状態が蔓延している。これに抗して行くためには、反戦運動においても、経済社会闘争においても、新たな連帯、社会主義の方向で闘う以外にない。そのためには、帝国主義・資本主義と闘うと同時に、それと対立する勢力のなかでの闘争路線をめぐる対決が不可欠の課題となっている。
 著者は、ビン・ラディンの犯した「二つの致命的な間違い」について言う。第一のそれは、「彼が、世界最大の石油埋蔵量を誇る地域であるアラビア半島の、アメリカ支配階級にとっての重要性を遇小評価したこと」であり、第二の致命的な誤りは、「アメリカの民衆をあれほどひどく野蛮なやり方で攻撃すれば、自国の支配者に圧力を行使して介入をやめさせる方向に向かうようアメリカの民衆を説得できるようになるだろうと考えたことであった。これは、パレスチナでのハマスの自爆攻撃が犯した間違いと同じものである。どちらの場合も、民間人を巻き込むテロ行為は、支配者の最も反動的で残虐な政策のもとに民衆を結集させることになるだけである。ベトナム人民が一九七三年に自国の地からアメリカ軍を撤退させることに成功したとすれば、それは占領軍に対するまったく正当な軍事闘争の形態と、恐怖に訴えるのではなくてその正義心に訴えかけるアメリカ国民向けの呼びかけとを結びつけたからにすぎない。ベトナム人民の闘争のモラル的優立性が、その軍事的手段の劣勢を大きく補うことになったのである」と。
 イラク反戦をはじめ世界的な政治闘争をいかなる路線・方針で闘い抜かねばならないのかについて示唆に富む好著だ。 (MD)


複眼単眼

    白鳥と鳥海山と、加藤・小泉のこと


 所用で山形県の庄内地方を訪ねた。上越新幹線が震災からまだ復旧していないので、庄内空港から行った。羽田から一時間にも満たない空の旅だ。
 訪ねた前夜の冷たい雨が翌朝になると嘘のように上がって、庄内平野は快晴の空だった。
 「こんなことはこれからほとんどありません。二月まで毎日曇り空になります」と車を運転してくれたSさんがいう。お隣の県で子どもの頃を過ごした私は、雪国の厳しい生活は少しは知っているつもりだったが、淡々と語る口調にこの地の人びとのしたたかさを感じた。
 遠くに雪をかぶったとても美しい山が見えたので聞くと「あれは鳥海山。裾野が海にまでつづく山です。今度はゆっくり来て登ってください。こちらのは飯豊山です。出羽三山の」と少し自慢げに語りながら教えてくれた。車の中で体を左右に傾けながらそれらの山並みにしばらく見入った。出羽三山は前から行きたいと思っていた山だが、いつか行けるだろうか。
 「白鳥がいます」と言われて広々とした庄内平野の田んぼをながめると、落ち穂をついばんでいるのか、数羽の白鳥が見えた。近くにはたくさんの白鳥が来ている沼があるそうだ。遠くシベリアから旅をしてきて、庄内に羽を休め、栄養をとる鳥たちを見て感動の思いだった。
 当地は県知事選挙を前に、現職に対立候補をたてた加藤紘一代議士の動きが注目されていた。例の「加藤の乱」や「秘書の汚職問題」のとき、加藤に批判的行動をとった現職知事に対して、加藤は若手の候補を擁立、自民党が割れて自主投票になっていた。泥仕合が始まっていた。
 加藤という政治家はカネまみれだという批判を各所で聞いた。親父の跡を継いだだけで、山形で泥まみれの活動をしているわけではないという批判も聞いた。いずれもその通りなのだろう。顔のことをいうのは気の毒だが、この男はいつも泣いているような顔をしている。彼には力強さを感じないが、実際には地元で、こんなに強引に勢力争いをしている。
 加藤はいま、小泉首相を批判して、イラク撤兵を要求している。古賀や亀井と組んで、そうした動きを見せるが、しかし、何ともその動きは弱い。
 この程度の動きでは雑ぱくきわまりない小泉は、歯牙にもかけないだろう。いま自民党内の批判派の動きはほとんど見えず、長いものには巻かれろという空気だ。一時は一定の力を持っていた保守リベラルというのはほとんど消えた。全体がタカ派比べになっている。恐ろしい空気だ。
 自衛官が改憲草案を創り、与党の幹部に渡す時代になった。しかし、マスメディアの追及は大変弱い。野党にも迫力はない。これが時代の流れというものか。
 自衛隊のイラク派兵の延長問題も、拉致被害者の遺骨の偽物事件で吹き飛んでしまった。「経済制裁を」という声が高まるこの国。いま、東アジアの緊張は各方面で強まっている。
しかし、あの白鳥たちは国境を超えて悠然と生きている。人もそうするような時代はいずれ来る。 (T)


年末カンパのお願い

   
労働者社会主義同盟中央委員会

読者のみなさん!
 アメリカ・ブッシュ政権の無法なイラク侵略戦争に積極的に加担して、小泉政権は自衛隊をイラクに派遣しました。自衛隊は占領軍の一員として、イラクの民衆に敵対する位置に置かれています。小泉首相は、六〇〇〇人もの人びとが虐殺されたと言うファルージャ総攻撃を支援し、一二月一四日に期限の切れたイラク派兵を延長させました。現在、米英占領軍は日に日に困難な状況に引きずりこまれています。アメリカにしたがった国ぐにからも撤退するところが相次いでいます。アメリカの戦争と占領政策はイラクと全世界人民の怒りを巻き起こし、闘いが持続的に展開されています。日本においても反戦闘争は、海外の運動と緊密な連携を作り上げながらかつてない高揚を勝ち取りました。
 小泉政権は世界の流れに逆らって、戦争と大衆収奪の政治を強引におしすすめています。現職自衛官による改憲草案づくりは、その顕著なあらわれです。
 小泉構造改革による労働者・市民にたいする攻撃は、失業者の増大、経済不況を深化させています。小泉政権と体制に対する不満と怒りは増大しています。
 読者のみなさん!
 おおきく団結して闘う態勢をつくりだしましょう。
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 読者のみなさん!
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 二〇〇四年冬