人民新報 ・ 第1157 号<統合250(2005年2月5日)
  
                  目次

● イラク選挙の「正当性」は拒否された  WORLD PEACE NOW3・19をはじめ反戦行動の高揚を

● 有志弁護士や国会議員が改憲草案作成の自衛官らを告発

● 1545人が集い、教育基本法改悪反対! 1.22神奈川大集会

● 日本労働弁護団が雇用均等政策審議に要請

● 米軍再編のために日米による新安保宣言へ

● 平和の原点ヒロシマはイラク派兵を絶対に許さない  1・22陸上自衛隊第 旅団に対して行動

● 鉄建公団訴訟を軸に国鉄闘争の前進を

● マスコミ労働者にひろがる長井さん・NHK労働者と連帯声明

● 「幕末」から見えてくること / 安 藤 裕 三

● 山東出兵は「成功例」か !   帝国主義列強との協調と民衆的協調

● せ ん り ゅ う / ゝ 史

● 複眼単眼 / 冬の犬吠埼  自衛隊の災害派遣と民衆史考




イラク選挙の「正当性」は拒否された

 
 WORLD PEACE NOW3・19をはじめ反戦行動の高揚を
 
 一月三〇日、イラクでは「暫定国民議会選挙」が行われ、投票率は「独立選挙管理委員会」の発表で登録有権者数の約六割とされた。この日、イラク全土で戦闘がつづき、米大使館が攻撃されて死者が出ただけでなく、英軍C130輸送機も撃墜された。日本の自衛隊が駐屯するサマワ市中心部の投票所も銃撃された。こうした戦闘が物語るように、今回の選挙がイラクの問題を解決したことにならないのは明らかだ。引きつづき米英占領軍の撤退と自衛隊の即時撤退を要求する運動は極めて重要だ。

【正当性のない暫定国民議会選挙の実態】

 銃声と爆発音がつづく中、十五万の米軍と十万のイラク治安当局による厳戒態勢のもとでおこなわれた投票が終わると、ブッシュ米国大統領は「イラク国民にとって偉大なる日だ」とのべ、ライス国務長官は「選挙が完全だったとはいえない」とのべた。
 日本政府では町村外相が「選挙後、全てが沈静化するというわけにはいかない。憲法承認の国民投票などが順調に進むことを武装グループは極度におそれ、ありとあらゆる妨害をしてくるだろう」などと述べた。
 この「暫定国民議会選挙」は定数二七五議席、全国単一比例代表制で、一七一の政党・政党連合が参加し、約七七〇〇人の候補者が名簿に登載された。登録有権者一二九六万人、推定投票率六〇%、八〇〇万人。人口六〇%を占めるイスラム教シーア派地域の投票率は九割といわれ、これだけで単純計算では六〇%中の五四%を占める。北部のクルド族支配地域は比較的高投票率で、スンニ派地域は極度の低投票だった。この数値自体からすでにこの選挙の正当性が疑問視されているし、問題の解決にはならないことが指摘されている。まして米軍と治安当局が銃剣のもとで選挙にかり出した場面も少なくなく、「投票にいかなければ罰せられると思った」と報道に語る市民もいて、米国政府がいう「自由選挙」の姿からはほど遠い。
 すでにシーア派のシスタニ師が支持する「統一イラク同盟」は圧勝したと宣言、スンニ派系といわれるアラウィ暫定政府首相の「イラク人のリスト」や、「クルディスタン・リスト」も議席の確保を狙っている。イラク共産党などの「国民連合」も大量に候補者をたてた。しかしいずれも候補者リストがウェブサイトで公開されたのは投票日直前で、パソコンを持たない多くのイラク人は候補者を知らないという覆面候補者で、有権者との対話すらなかった。米軍やアラウィ政権が「不完全でも選挙を実施した意味は大きい」などと強弁しても、これで自由な民主主義的選挙と言うことは絶対にできまい。

【泥沼にはまった米国政権】

 このあと米軍占領の下で、イラクでは二月上旬に選挙結果の発表、中旬に「移行国民議会」招集と、大統領評議会(大統領と副大統領二名)選出、新政府発足、八月憲法草案作成、一〇月憲法国民投票、一二月総選挙、一二月三一日正式の政府発足というスケジュールが作られている。一年延長された自衛隊の派兵期間もこれに同調するものだ。
 しかし、こうした占領と傀儡政権のもとでのイラク支配の継続という路線は、イラクの自由と解放、民主主義を意味しないし、イラクの民衆の抵抗に遭わざるを得ないだろう。内戦は占領軍がいるかぎりつづき、イラク民衆の犠牲も増大し、占領軍の死傷者も増え続ける。内外の深刻な経済危機にみまわれ、国論もすでに二分化している米国は、膨大な占領軍を維持できるのか、ブッシュ政権はまさにかつてのベトナム戦争同様の抜き差しならない泥沼にはまってしまった。
 新任のライス長官がイラン、北朝鮮、ジンバブエ、ベラルーシなど六カ国をあげ、圧政からの解放など挑発的なことを叫んだが、イラクですでに足を取られてしまっているではないか。

【占領加担の小泉内閣を糾弾し、3・19WPN国際共同行動の成功へ】

 このブッシュ政権に付き従い続け、サマワに自衛隊を駐屯させ、選挙費用として四〇〇〇万ドルもつぎ込み、さらに五〇億ドルの対イラク支援金をつぎ込もうとしているのが小泉内閣だ。
 今回、サマワの投票所が攻撃されたように、自衛隊の環境は悪化している。一月に九回目の宿営地攻撃を受け、ロケット弾が着弾した。ムクタダ・サドル師派のサマワ事務所は自衛隊駐屯を非難する声明をだし、武装勢力のサイトでは「撤退しなければミサイル攻撃を受ける」と警告した。三月中旬、オランダ軍一四〇〇人が撤退し、英国軍六〇〇人が展開する。サマワの緊張が激化するのは避けられない。
 小泉内閣は即時自衛隊を撤退させなければならない。日本政府は米国の石油メジャーや日本の財界、などを潤すに過ぎない傀儡政権に対する「経済支援」を中止し、NGOなど国際支援機関を通じた真の人道復興援助に協力しなければならない。
 一月三〇日、ブラジルのポルトアレグレに結集した世界フォーラムの「反戦集会」は「『選挙』の正当性は拒否された。反戦運動は三月十九〜二〇日にイラクでの戦争を終わらせる大規模な抗議行動を呼びかける」という決議を発表した。すでにデモはイラクを含む二九カ国で予定されており、今後急速に拡大する状況にある。
 日本でも、米英軍のイラク攻撃から二年の三月一九日(土)、全世界の人びとと共にイラク反戦に立ち上がる東京のWORLD PEACE NOW(日比谷野外音楽堂)をはじめとする全国各地の集会とデモを多くの市民・労働者の参加で成功させ、平和実現への歩みをすすめよう。


有志弁護士や国会議員が改憲草案作成の自衛官らを告発

 昨年十二月五日に報道で発覚した「陸自幹部と自民党幹部が結託して自民党改憲草稿案」の作成を推進した事件について、事態を重視する全国の市民運動有志から、年末のわずかな期間だけで六二六団体・個人の抗議声明がだされた。しかし、これほどの憲法遵守義務違反、自衛隊法違反事件を、政府・防衛庁は問題の真相の解明を避け、当事者に対する口頭注意でことをすませようとしている。マスコミの追及も弱腰で、はやばやと事件を過去のもの扱いし、取り上げなくなった。
 このような事態の中で、真相を糾明し、その責任を明らかにしようとして、一月二〇日、内田雅敏弁護士ほか二五名の弁護士が陸自二佐の吉田圭秀と元防衛庁長官の中谷元を東京地検に「自衛隊員の政治的行為の禁止違反」の罪名で、自衛隊法六一条一項、同一一九条一項、自衛隊法施行令第八六条五号、同八七条一三号違反で告発した。
 同日、参議院議員の田英夫氏と同大田昌秀氏も同様の主旨で地検に告発した。
 内田弁護士らはその告発に至る事情の説明で以下のように述べている。
 陸自二佐という自衛隊の幹部が、勤務時間中に自民党憲法草案起草委員会座長の中谷衆院議員の依頼を受け、現行憲法の安全保障上の問題点、憲法改正に際しての留意点などにつき、調査、研究を行い、その結果を勤務時間中に勤務場所のFAXおよびFAX用紙を使って送付した。しかも被告発人吉田二佐は調査研究の結果として、自衛隊を「自衛軍」として明記すべきであり、現行憲法上許されていない集団的自衛権の行使について憲法改正によって、これを可能にすべきだと主張するなど、公務員の憲法尊重擁護義務違反を平然となした。吉田圭秀は自衛隊法六一条などに違反し、中谷はその共犯者で、厳正な処分が必要だ。
 しかるに監督官庁である防衛庁は文官である内局によってではなく、陸上幕僚監部の制服六人による身内の調査で、陸幕長の口頭処分という結論をだした。
 防衛庁陸上幕僚監部のこのような行為は立憲主義、法の支配、シビリアンコントロール等々の観点からして許されないものであり、告発する、と説明している。
 この有志弁護士や有志国会議員による告発は正当なものであり、東京地検はすみやかにこの告発を受理し、厳重に処罰しなければならない。


1545人が集い、教育基本法改悪反対! 1.22神奈川大集会

 教育基本法改悪法案の国会上程に向けた策動が進行する中、これに反対する全国の運動に連帯して、一月二二日、神奈川で集会が開催された。
 会場の川崎市教育文化会館は、労働者、市民、学生一五四五人で埋まった。
 最初に、全国集会の呼びかけ人の高橋哲哉さんが講演、教基法前文の「個人の尊厳」をキーワードに、今私たち自身が個人として自立しているだろうか、と問いかけ、自身コメンテーターとして関わったNHK放送番組の改竄事件に触れ、内部告発した勇気ある職員を孤立させてはならないと訴え、内村鑑三の教育勅語への敬礼拒否事件を紹介して、組織の中の個人の自由の問題は依然として今現在の私たちの課題であると語った。
 続いて小沢牧子さんは、乳児を連れて外出すると冷たくまるで邪魔者扱いされ、街に出るのが怖いという若い母親の話を紹介し、すさんだ世相の背景に言及しつつ、曖昧な言葉の氾濫する教基法改悪案は@子どもを上から締め付け、A家庭の教育に介入し、B男女平等を後退させようとするものだと批判した。
 藤田英典さんは、教育改革国民会議議員二六人の中で教基法改正に反対したのは自分ひとり、中教審の中でも市川昭午氏だけだった、一九九二年の学校五日制導入以降は教育でも失われた一〇年だ、強者に焦点を当てた現在の教育行政を教基法改悪は法的に裏付けることになる、密室での教基法改悪作業が進行している、近代公教育は公権力が介入せざるを得ないのだから、介入の内容性格をきちんと規定・制限しなくてはならない、改悪案は内心に踏み込み、強者の論理による教育再編、制度的に差別と排除を可能にするもの、と語った。
 石坂啓さんは、漫画家はあくまで疑うのが持ち前と軽妙な語り口で場内を沸かせながら、従軍慰安婦を扱った自分の作品を単行本化する際コマの差し替えを出版社から求められた、別の作家の作品で南京大虐殺の場面にクレームがつき休載に追い込まれた、これからはこうしたテーマを扱った作品は雑誌には掲載されなくなるだろう、戦争が正しく伝えられていない、それは大人の責任だと指摘した。
 やはり全国集会の呼びかけ人である三宅晶子さんは、憲法も教基法も国民主義、自民族中心主義から出発していることを正視しなくてはならない、新自由主義教育政策は、競争する心、評価に服従する心、自己管理・自己責任の心、相互監視の心を植えつけようとするものと厳しく批判した。
 同じく大内裕和さんは、運動を各地で広めよう、言論界でまともな発言をする人が少なくなっているばかりか迫害の危険にもさらされている、市民が護っていかなければならないとアピールした。
 集会では、神奈川県高教組からの発言、東京の凶暴な学校攻撃の実態、東京を模倣した「日の丸・君が代」強制の動きが進む神奈川の現状、川崎市の定時制高校削減問題、キャンプ座間への米陸軍司令部移転反対闘争、貧弱な教育条件整備を求める運動、不登校や障害をもつ子どもに行き届いた教育を求める運動、東京で大きな集会を成功させた「学校に自由の風を」の運動から多彩な報告とアピールが行われた。
 最後に、「私たちは思いを同じくする全国の市民と力を合わせ、教育基本法改悪の動きが根絶するまで、たゆまず運動を広げていく」ことを誓う集会宣言を満場の拍手で採択し、夕寒の商店街を「教育基本法改悪反対!」のシュプレヒコールを響かせながらデモ行進した。(横浜通信員)


日本労働弁護団が雇用均等政策審議に要請

 昨年の九月から、厚生労働省労働政策審議会雇用均等分科会において雇用均等政策に関する審議が開始された。
 男女機会均等法は一九八六年四月に施行されたが、セクシュアル・ハラスメント問題についての社会的な意識変化の兆しなど一定の前進あったものの、女性の非正規雇用労働者の増加をはじめ、国際的に見て異常な男女格差は是正されていない現状にある。
 一月一七日、日本労働弁護団は、「雇用均等政策に関する審議にあたっての意見」を、尾辻秀久厚生労働相、厚生労働省労働政策審議会、同審議会雇用均等分科会に申し入れた。
 意見は「性差別を是正するためには、男女が平等に働けるための基礎的条件を整え、その実効性を担保する救済制度を整備することが不可欠であり、その実現にむけて、男女平等の視点から実体法、手続法両面にわたる全体的な検討、討議を行うことが求められる。実体法に関して言えば、均等法は勿論、労働基準法、育児・介護休業法、派遣法等々、関係諸法全般にわたって検討・審議を行い、その改正を提起していくことが必要であるし、救済制度面では、司法・行政両面から救済の実効性を確保するという視点からの見直しが必要である」「審議の対象を均等法・女子保護規定に限定していたのでは、性差別是正のための法整備として全く不十分である」として以下の諸点を要請した。
 「改正内容について」では、均等法について、@法の目的・趣旨として、「差別なく」「仕事と生活を両立して働く」ことを目指す旨の条項を置くこと、A間接差別の禁止条項を置くこと、B賃金を含め職場の性差別を包括的に禁止する条項を置くこと、C妊娠・出産および妊娠・出産に起因する就労障害を理由とした不利益取扱の禁止条項を置くこと、D労働者が使用者に対しセクシュアル・ハラスメント予防・適切な対処を行うことを請求する私法上の権利を有する旨の条項を置くこと、E実効あるポジティブ・アクション規定の導入、F差別救済のための制度整備、その他、現行の行政救済機関を抜本的に改正し、調査権限を有し、十分なスタッフを持つ独立行政救済機関を設ける、また、セクシュアル・ハラスメントを均等法一一条乃至一三条の対象とすべきである、としている。
 そして、審議には、広く現場の意見が繁栄させる必要があるとして、「審議の進め方」について、ヒアリングでは、正規労働者のみならず、非正規労働者を組織する労働組合、非正規労働者を対象とした相談活動グループ等々からもヒアリングを行い、実態を十分に把握すること、差別訴訟・相談活動を担当している実務家、弁護士、訴訟当事者からヒアリングすること、これは具体的ケースを通じて現実の差別是正における問題点と改善策を検討するために必須であるからであり、また、審議の早い段階、争点を整理する段階、争点に対し審議をすすめる段階、政策をまとめる段階と、各段階において、相応の募集期間によるパブリックコメントを募集すること、審議内容の公開と速やかな公表を行うことを求めている。


米軍再編のために日米による新安保宣言へ

 ブッシュ政権は、イラク・中東地域で困難な状況から抜け出せずにいるが、その戦力強化のためにも、世界的な米軍の再編(トランスフォーメーション)を本格化させようとしている。日米両政府は、冷戦終結を受けて日米安保体制を再確認した「日米安保共同宣言」(一九九六年)とそれをを受けた「日米防衛協力の指針」<ガイドライン>(九七年)を全面的に見直し、ブッシュの先制・予防戦争戦略に合わせた新共同宣言を策定しようとしている。
 アメリカの対日要求は、憲法九条を改悪して、米軍との集団的自衛権の行使(米軍の戦闘行為に自衛隊を連動させる)、そして「極東」に限られている日米安保条約の範囲を大幅に拡大させることであり、米陸軍第一軍団司令部の神奈川県キャンプ座間への移転、東京・横田基地の在日米第五空軍とグアムの第一三空軍との機能統合をはじめさまざまな構想を一方的に打ち出し、日本国内での反発を巻き起こした。これの事態を見た日米政府は、米軍再編を巡る日米協議を通じて、安全保障認識や戦略目標についての議論を進め、そこで日本政府の「承認」を得て実行する方向をとることにし、今年の中ごろを目途に結論を出すことになった。日本政府としては、在日米軍の再配置に「国民の理解」を得るためには、新共同宣言を出し、再編の意義を明確にする必要がある、というわけである。こうして、中東から東アジアまでの「不安定の弧」というきわめて広範囲な地域を対象に、テロ・大量破壊兵器拡散などの「新たな脅威」に対処する体制をつくろうとしている。すでに、自衛隊はイラク派兵やインド洋津波被災地支援などの名目で、恒常的な海外での活動を行っている。新たな共同宣言の狙うものは、日米が地球規模で軍事協力関係を強化し、武力攻撃事態対処法などによる周辺事態における米軍への補給支援、港湾、空港の提供、それによる兵力配置の調整、また、中国に対抗しての東アジアにおける自衛隊と米軍の役割分担を見直すことなどである。新宣言が策定されれば、次は、ガイドラインの見直しだ。自衛隊による米軍への輸送協力の強化や、自衛隊と米軍の基地の共同使用、共同警備、そして「日本有事」における日本の空港、港湾、物資集積・保管施設の提供など運用の骨格が取り決められる。
 そのため、早期に、在日米軍再編問題をめぐる外務、防衛担当閣僚の日米安全保障協議委員会を開き、共同声明を発表しようとしている。


 平和の原点ヒロシマはイラク派兵を絶対に許さない

              
1・22陸上自衛隊第 旅団に対して行動

 ヒロシマ市民としてもう我慢できんとの思いを伝えたくて投稿します。
 平和の原点ヒロシマは自衛隊のイラク派兵を絶対に許さない。
 先遣隊が派遣された一月初頭ののマスコミ報道から約二週間の後になるが、ヒロシマの近郊に所在する自衛隊第一三旅団からイラクへの本格的派兵を前にした一月二二日、ヒロシマのイラク派兵・憲法九条改悪に反対する諸運動は改めて団結して、海田の陸上自衛隊第一三旅団に対して派兵中止と自衛隊の撤退を訴える行動に取り組んだ。もちろんその基本は「殺すな、殺されるな」にあることは言うまでもない。
 午後二時に海田駅前の「ひまわり橋」に結集した約一〇〇〇名の労組・そして市民。主催団体の挨拶と注意事項の説明の後デモ行進が始まった。
 デモは短い距離ながら、交通量の激しい道程を約一時間かけて進み、いよいよ第一三旅団司令部の門前に到着した。
 先に門前で待機していた申し入れ団を激励しながら、ゆっくりとヒューマンチェーンのために両サイドに延びて行く。参加者は、口々に「ヒロシマからイラクに行くなよー」「死んでも殺してもいけんでー」「憲法があるからあんたらも守られとるんでー」と思い思いの言葉を発しながら、それぞれのポジションについた。
 申し入れ団の中から短時間ながら各界階層の人々が、それぞれの思いを基地旅団長に発した。
 韓国からの平和運動団体の申し入れも行われた。
 相変わらずというよりも自衛隊側の対応はより慇懃無礼で、いよいよここまで「横道」が頭をもたげていると痛感させられ、本当に頭にくるものであった。
 そしておそらくはこれが初めてであったろうが、海田基地を包囲する人間の鎖が門前から東西に大きく伸びて、シュプレヒコールとウェーブで基地の中まで「イラクに行くな、憲法を守らせよう」という声がとどろきわたっただろうと実感することができた。
 直前に、岩国基地のアメリカ軍が漁民をライフルで威嚇した事件が起こったが、今さらながらここもまた「ブッシュの傍若無人のエリア」にあるのだと痛感させられたし、トランスフォーメーションによってヒロシマが再び加害の歴史を歩ませられようとしていることについて、一市民として真剣に考えざるをえなくさせられた。
 私だけではなく、今年で八〇歳になるというお年寄りも包囲行動の中にいて次のように切々と話されました。
 「今まで、心では『こんなことは通用するまい』『いずれチャンとただされるよ』と思って黙っていたが、もうそれでは許されない。これでは押し止められないと思い至り行動に参加しました。私は戦後、海田で教師をしていたがもう退職した。私の一級上の先輩は戦時中に皆死にました。戦死です。いまヒロシマから、自衛隊がイラクに派遣されようとしている。そこを戦地として知った上で行くのか、そこでどういうことが起こるかわかっているのか、軍隊は殺戮しか訓練されていないのだよ。今のイラクになぜ死を覚悟して行かなければならないのか、自衛官はそんな責務は負わされていないよ。私は老身に鞭打って、子供たちに考え直せと言いたくてここに来たんじゃ」。
 本当にきな臭くなっている昨今ですが、どっこい民意は生きている。彼も私も周りもです。
 NHKが報道統制のもとにくみしだかれているのは万民の知るところですが、今は朝日新聞がターゲットのようです。見え見えの「仕掛け」が目前で進みます。こうして改憲が他の下地を作りながら進行していくのですね。
 「あの時、なぜ反対できなかったのか」とのセリフを繰り返したくありません。今、私は本当に命を賭してこの動きにあがらいたいと痛切に思います。
 ヒロシマからこの声を全国に発したいと考えています。


鉄建公団訴訟を軸に国鉄闘争の前進を

 国鉄闘争は、四党合意を受け入れた国労本部の闘争解体に抗し、二〇〇一年一月に、闘う闘争団をはじめ二八五名で鉄建公団訴訟を新たに起ちあげ、四月には「一〇四七名の不当解雇撤回、国鉄闘争に勝利する共闘会議」を結成し、闘争の継続と勝利の展望を拓く態勢をつくりだした。闘う国労闘争団、全動労争議団、動労千葉争議団は団結し、昨年には四月一三日の日比谷公会堂集会、そして一二月一日には日比谷野音集会を開いた。そして、昨年末、鉄建公団訴訟には、国労闘争団員九人が新たに加わり、そして動労千葉争議団と全動労争議団も合流して、一〇四七名の被解雇者が鉄建公団訴訟を軸に統一した行動することが実現した。
 鉄建公団訴訟は、三月七日に最終弁論をむかえる。勝利の条件をつくり出すための運動の強化が求められている。国鉄闘争共闘会議の二瓶久勝議長はそのために四点が必要だと述べている(「がんばれ闘争団 ともにGO!ニュース」48号 「勝利的『解決』に向けて全力で闘い抜こう!」)。
 「……真の相手は政府です。『正しい』からと言って勝利するとは限りません。したがって、三月七日の最終弁論をにらみながら勝利に向けて次のような運動を進めていきます。@「公正な判決を求める署名」について。全国的な取り組みを展開し今までにないような署名を集めて裁判所に提出します、A「一〇四七名」の原告団で定期的に裁判所、鉄建公団に訴え、解決の主張を明らかにし、解決を強く訴えます、B一二月一日の集会の成功を踏まえ、二月一六日、三月七日を中心に大集会を開催し、世論に訴え、勝利的判決をかちとるために全力を尽くします、C国労本部、裁判を提訴していない闘争団に訴え、早期に私達と同じ立場に立つことを要請します。以上のような活動を全力で展開し、原告団、共闘会議は勝利に向けて総力をあげて闘います。」
 
 国労は、一月二九日、第一七五回拡大中央委員会を開いた。酒田充中央執行委員長は、あいさつで「JR不採用事件をはじめとする国鉄闘争」について次のように述べた。
 「本部は本件についてこれまで、内閣府・国土交通省・厚生労働省・鉄道運輸支援機構・政党・国会議員等に対する申し入れや要請行動を節目節目で展開してき」たが、「まだ不十分」なので「したがって国労の基本的スタンスである『政治解決』方針を内外に鮮明にしつつ、人道的・政治的解決気運と世論喚起の取り組みを中央・地方一体となって更に強化し」、「並行して、政治対策の加速化と深度化に全力をあげ」る。そして「闘争団の組合員の生活や闘争を支える態勢確立も重要な闘いのひとつであることは言うまでもありません」「今日まで一部闘争団の物販凍結についても解除を行いつつ、三月を目途に物販の統一化と一本化を図ってい」くとし、「三六闘争団及び全闘争団組合員が本部及び国労方針のもとに結集することを本委員会の名をもって強く訴えたいと思います」。
 また中央委員会は「JR不採用事件の早期解決をめざす特別決議」を採択したが、そこではILO第六次勧告の「多くの労働者が被っている深刻な社会的・経済的な影響を考慮し、結社の自由委員会は、日本政府に対し、この問題の解決のためには一度は大勢となった政治的・人道的見地に立った話し合いを、全ての関係当事者との間で推進するように勧める」というものを基礎にした早期解決が必要だとされている。「一度は大勢となった政治的・人道的見地に立った話し合い」とは言うまでもなく、かの四党合意にもとづく動きにほかならない。その四党合意による「解決」なるものは、自民党などの離脱で完全に破綻しているものだ。委員長あいさつでも特別決議でも、鉄建公団訴訟にはいっさい触れられていない。いまだに国労本部の訴訟参加の意思表明はないが、この闘いが成果をあげれば参加して主導権をとるつもりもあるとも噂されている。いずれにしてもこの中央委員会は、国労本部が従来の路線を変更するものとはならなかった。
 最終段階に入った鉄建公団訴訟を軸に国鉄闘争の勝利にむけて闘わなければならない。


マスコミ労働者にひろがる長井さん・NHK労働者と連帯声明

 マスコミ労働者による、安倍晋三自民党幹事長代理や中川昭一経済産業相らによるNHKへの政治圧力問題究明の要求と抗議の声が広がっている。
 NHK労組の日本放送労働組合は、一月二〇日に、「『ETV二〇〇一問題』NHK会見について 『許されるのか 放送直前の番組説明』」を発表しその中で、前日一九日のNHKの記者会見と報道について、「協会はETV問題をめぐる新聞報道について記者会見を開き、ニュース7などで繰り返し報じた。ニュースは、長井(暁)チーフプロヂューサーなど関係者の反論をまったく取り上げない一方的なものだった」として次のように述べている。
 「安倍氏については、『放送前に面談していたものの、事業計画に付随して今後放送される番組について説明することは通常の業務の範囲内であり、放送法とNHK倫理・行動憲章には違反しない』と結論づけた。安倍氏についての結論には大いなる疑問がある。『(予算や事業計画を説明する)この機会に番組を説明しておこうと思った』ことも合わせると、国会議員に、放送直前の番組について、NHKがみずからすすんで説明した、ことになる。ましてや、官房副長官として政府の一員だった者に対してである。このことが通常業務の範囲内だとすることに、現経営陣は何の違和感もないのだろうか。……こうした放送前の説明が、<ごく当然のこと>としておこなわれるのであれば、政治的介入の危険性をみずから増幅していることになる。視聴者も<NHKの自主自立>への疑念をより深めるはずだ。協会は今一度、公共放送の<基本>を厳格に見つめ直すべきだ。」
 また、日本民間放送労働組合連合会は、一八日に「NHK番組への政治介入事件の徹底究明を求める声明」を発表している。
 「伝えられるような政治家の介入が事実とすれば、憲法違反の事前検閲にあたる行為であり、放送の自由と独立を脅かす許しがたい暴挙と言うしかない。私たちはまず、制作者としての権利を一方的に蹂躙された担当プロデューサー、長井暁氏が、沈黙を破って告発に踏み切られた勇気に心から敬意を表したい。真実を明らかにしようと決意されるに至るには有形無形の多大な圧力の克服が必要であったことは想像に難くない。制作者の良心をまっとうしようとした長井氏に対して、いかなる不利益も生じるようなことが決してあってはならない。同氏を守り抜くことを既に表明しているNHKの労組、日放労の見解を私たちは強く支持する。……なによりもいま重大なことは、こうした不自然な改変がなぜ突然おこなわれることになったのか、事実関係を包み隠すことなく、すべて明らかにすることである。残念ながら事件発覚以後、NHK経営に真実を積極的に明らかにしようとする姿勢はまったく感じられない。政治家と自局最高幹部を守ることに全精力を費やしているかのようにさえ見受けられる。……私たち民放労連は、同じジャーナリズム、放送に携わる一員として、真実の究明を何よりも強く求めたい。もとより、放送の公共性、放送の独立性はひとりNHKにのみ求められるものではなく、民間放送にも同様に求められている。私たち民間放送の労働者は、民主主義の根幹をなす報道の自由と独立を守るため、NHKの仲間と連帯してたたかい抜く決意である。」
 また、MIC(日本マスコミ文化情報労組会議)も「NHK番組への政治圧力の徹底解明を求める声明」(一月一九日)で、「…最後に、長い沈黙を破り勇気ある告発に踏み切った長井氏に対し、わたしたちは心から敬意を表する。長井氏には今後、いかなる不利益もあってはならない。NHKの信頼回復に取り組み、長井氏を守り抜くことを表明している日本放送労働組合(日放労)の方針を、わたしたちは同じようにメディアで働く者として強く支持する」と述べている。


寄 稿

 
「幕末」から見えてくること

            
安 藤 裕 三

 大原幽学に興味をもったことから幽学の時代、幕末がどのような歴史的局面にあったのかの視点を探るようになった。幕末研究は深くなされていて概略定説が出来上がっているのだろうと思う。それは、封建制社会が限界に達していて、そこにやってきた外圧とヨーロッパ思想によって新生国家樹立へと向かう動乱の時代であったというようなものだろうと思う。
 そこで私の気付いたことを記してみます。
 封建制社会の限界とは武士による武力支配国家の破綻状態であったということができるのではないか。そして武力支配に替わるどういう力が支配原理として出てきていたのかということが問われる。その答を外圧やヨーロッパ思想文化に求めたのでは解にならない。新しい力は富による支配、経済力が武力をおびやかしていたのであり、この力は契約・約束の社会的成立の形成を求めていた。幕末思想の最大の特徴が倫理観の追究にあるのはその現れである。
 武力支配に対する攻撃は倫理支配の要求であった(その思想典型としての安藤昌益の存在)。その事例として大原幽学や二宮尊徳があげられる。また大塩平八郎にはじまる多くの蜂起や百姓一揆、打毀しなども為政者への倫理的要求を本質としていたことは確かである。幕末は百姓町人たち民衆の倫理的自覚の高まりによって武士政治が脅かされていたのである。
 民衆の倫理観は何らかの自然観世界観を措いて、そこから自己の存在の誇り尊厳を求めるものであった。それは暗に百姓町人も武士も同じ人間なのだという主張を秘めていた。幕末に於ける民衆的な倫理思想の形成は重要である。明治維新から急速に封建制を廃してヨーロッパに学ぶ民主主義的近代国家への転換が可能であった最大の要因であったからである。
 封建的武士支配から民主主義的法治支配への転換は民衆の大いに受け入れるところであった。明治政府はじまって、新しい教育制度の思想的核に道徳が置かれたことも民衆の受け入れるところであった。それは武力支配から倫理支配への大転換であったのであり、その成功の基礎は幕末に形成されていたのである。
 
 ところで、この事実、わが国の思想史的深みは、今日の日本民衆に根付いていることを忘れてはならない。
 武力的支配を排して倫理的支配を要求する民衆思想は、今日なお顕在なのである。敗戦後の平和憲法がすんなり受け容れられた謎の解がここにあるし、そののち六〇年間平和憲法が疑われなかった、そういう思想的基礎がしっかりとあるのである。しかし、一方で徳川三〇〇年の武力支配の伝統もあって、武人政治を求める勢力・支配階層の思想も息づいていることに注意しなければならない。
 率直に言えば、憲法九条問題は、わが国の階級闘争の核心をなす争点なのであり、幕末から争われてきた思想闘争の流れの歴史的現在なのでもある。さらに言えば、国際政治において米国などによる武力での世界支配は廃されて、国連などによって国際法的世界支配への道が切り開かれなけばならないであろう。わが国の民衆思想の経験がそのモデルとなるうるためにも、九条の存在は守られねばなるまい。(二〇〇五年二月一日)


 山東出兵は「成功例」か !

     
帝国主義列強との協調と民衆的協調

井上のばかげた提言
 
 こうした「総括」から、井上は三点にわたる提言を行う。
 「第一に、派遣延長の目的を限定的で明確なものとし、撤退の条件を具体的なものとすることによって、期間も明示するべきである。山東出兵はそうだった」「自衛隊はサマワで、道路や学校などの修復、吸水といったインフラのの整備、あるいは医療支援などを行っているのであり、このような人道支援による戦後復興への協力は何をもって目的達成とするのかを明らかにしなければならない。派遣延長の目的も、この観点から再考されるべきである」。そうでないと、「本来はイラクの戦後復興であるはずなのに、小泉内閣の下では、アメリカと協調することのように見えてしまう」。しかし「そう見えてしまう」のは、事実がそうであるからなのだ。
 「第二に、派遣延長をきっかけとして、国際法規範の回復を試みるべきである」として、イラク戦争の「国際的正当性を確立」するために、「イラク戦後復興に日本は取り組むべきである」とする。そして、「国際法上は疑義のある山東出兵が、目的限定的に、しかも条約で認められた権利を保護するために、適法に行われたことによって、日米英協調が回復したことの歴史は、以上のような教訓を与えている」と。国際法上問題があるのに、帝国主義列強の権益を守り感謝されたことを、国際法遵守以上に評価すべきだという。強盗の論理だ。
 最後に、「第三に、自衛隊派遣延長は国際協調の枠組みのなかに位置づけられるべきである。……この観点にたてば、派遣延長は、国連を通してイラク戦争の国際的正当性を補強するためのものである。言い換えると、駐留継続を背景に、アメリカに対して国連の枠組みでの解決をめざすように促すべきである。派遣延長は、外交的な発言力を強めるチャンスとして積極的に活用されなくてはならない」。そして、「このような国際協調システムの構築に向けて、求められているのは自主的な外交判断である。ちょうど山東出兵が独自の判断で行われたにもかかわらず、日米英三国協調回復につながったように、派遣延長の決定も、日本の自主的判断だったことを確認しつつ、国連の枠組みでの問題の解決をめざして外交努力をつづけていくことの一環としてとらえるべきである」。自主的な外交判断が必要だ、しかし、「日本の自主的判断だったと確信しつつ」と書かざるをえなかったように、井上も、ひょとしたら、いや多分そうではないかもしれないが、なんとしても、そうあってほしい、「確信」したいという儚い願望を述べているだけではないのか。

英米帝国主義の番犬として

 井上は、「山東出兵は、今とは無縁の遠い昔の出来事ではない。『歴史を鑑(かがみ)とすべきだ』という。もっともな主張である。まさに「山東出兵は、今とは無縁の遠い昔の出来事ではない」、「歴史を鑑とすべきだ」。しかし、井上とは逆に、山東出兵という歴史の「失敗例」に学びながら、である。
 井上が評価するのは、繰り返し述べたが、英米帝国主義との「国際協調」である。とくに、イギリスとは、アジアへの帝政ロシアの進出の阻止(日露戦争と日英同盟)で共通の利害が合った。その後は、中国支配についての帝国主義的利害を一致させていた。それは日本が、揚子江領域のイギリス権益を尊重するかわりに、イギリスは日本の満蒙特殊権益については黙認するというものであり、中国民衆の反帝反封建の民族民主主義革命への敵対であった。こうした日本の態度は、欧米帝国主義の利益を守るために犬馬の労をとり、お褒めを戴き、地域的な利権を保障されるということで、「番犬帝国主義」との評価を受けるものであった。
 井上の論理もまた、こうした路線を歩むものである。だが、日本を含めて帝国主義列強が見落とし、その結果として帝国主義・植民地体制を崩壊させたのは、民衆の自覚であり、新生のナショナリズムの高揚であった。井上の山東出兵論でも、イラク情勢の分析でも皆無なのは、この視点である。ブッシュ政権、そしてそれに追随する小泉内閣も、この根本問題で重大な誤りを犯し、イラクをはじめ世界の民衆の怒りを巻き起こし、「泥沼化」「ベトナム化」状況に追い詰められている。
 山東出兵(さかのぼれば台湾、朝鮮の領有、満蒙特殊権益)は、中国民衆の反帝反日の闘いの火をいっそう燃え上がらせるものとなった。日本は、侵略戦争を拡大させるとともに、帝国主義の本性としてアジアでの排他的な支配圏を打ち立てようとした。これは欧米列強との利害の衝突となるのは必然だった。そうしたもともとの原因は、満州・東蒙古における帝国主義・植民地主義的な特殊権益そのものである。
 それに、プラスするものが、為政者の傲慢さからくる「思い違い」だ。ドイツでナチスが政権をとった時、日本の右翼はもとより、軍人・政治家がヒトラーを礼賛した。その中に、大島浩、白鳥敏夫、松岡洋右らがいた。大島は枢密顧問官を父にもつ陸軍の将軍で、ドイツ大使館付き武官の時、ナチ党に接近し、日独防共協定(一九三六年)を結ばせ、三八年にドイツ駐在大使になると、これも軍部と密接な革新外務官僚の白鳥と組んで、日本・ドイツ・イタリアの同盟を画策した。しかし、ドイツは三九年八月に独ソ不可侵条約を結んだ。このため時の平沼内閣は「国際情勢複雑怪奇」の迷文句を残して総辞職、大島も一時退任を余儀なくされた。しかし、四〇年第二次近衛内閣が発足し、外相に満鉄総裁経験者の松岡洋右が就任すると、松岡は外務省の英米派を叩きだし、親ドイツ派でかため、そして、日独伊三国軍事同盟が締結された。すでに、三九年九月に第二次世界大戦は開始され、ドイツは西欧に侵攻、四一年六月にはソ連にも侵攻している。こうした時に復活した大島は、ドイツはソ連との戦争で圧倒的に優位にあり、ソ連は満州に力が割けないから、日本は安心して対米戦を始められると言い、その「判断」が大きく作用して、日本は中国とへの侵略戦争に加えて、アメリカ・イギリス・オランダなどに対する開戦に踏み切ったのであった。松岡洋右は、ナチス・ドイツとの関係について「心中外交」をやると言ったが、まさに、日独は心中することになったのである。
 世界の趨勢、紛争の根本原因、自覚し闘う民衆の意思を評価すること、それによる平和政策・国際協調がなければ、悲惨な結果をもたらす、これが歴史の教訓でなければならない。山東出兵が「成功」だったというような井上の論理は、現在の日本政府の政策を合理化して、アメリカに従っていくことだけが日本の国益だとするばかげた物言いでしかない。イギリス帝国主義の番犬、ヒトラーとの同盟、そしてアメリカ・ブッシュ戦争政策への追随。こうした「国際協調」の「伝統」は断固、拒否しなければならない。


せ ん り ゅ う

 万人の警備をつけて就任し

 殺戮もする嘘も吐くブッシュの自由

 ブッシュのお陰で警備大好況

 政府御用達でNHK殿

 圧力はありませんあたりまえです

 もうもうと煙をあげて隠れん坊

                ゝ 史

二〇〇五年一月 


複眼単眼

  
冬の犬吠埼  自衛隊の災害派遣と民衆史考

 先日、所用で千葉県の銚子市を訪ねた。
冬とはいえ、その日は暖かい日で、仕事を終えた後、すすめられるままに犬吠埼の灯台に上がった。一〇〇段の螺旋階段をのぼってたどり着いた展望台からの景色はすばらしかった。さすがに風は強かったが、目前の海は丸く、遠くまで見通せたし、大きな白い貨物船が二隻、青い海原を進んでいた。
円い海の景色は子どもの頃、山村にそだった同級生たちが、海を訪ねた修学旅行の感想文に「海は円かった、地球が丸いとわかった」と何人も書いたものがいたことを思い出した。実は水平線が円く見えるのは地球が丸いからではないのだが、当時は結構、納得し、感動していた。
 冬の荒波が押し寄せる様を見ていて、スマトラ沖の津波を想った。遠くからはゆったりと押し寄せるが、岸に来ると急に盛り上がり、何倍にも跳ねあがり、その後、白い波頭が砕ける様は、その日の犬吠埼でさえ、そのエネルギーの強さを怖いまでに感じさせた。この何倍も、何倍もの波が押し寄せてきたらたまったものではないとおもう。地元の人がいうには、近くには東映映画のタイトルの冒頭に出てくる波しぶきをあげる岩を撮った「東映岩」というのがあるということだったが、そこまで見に行く気はしなかった。
 スマトラ沖の震災に自衛隊が派遣された。これを批判するメディアの論調はほとんど見ない。文句が言いにくい雰囲気なのだ。野党も、共産党にしてからが「災害派遣は必要だ、ただし、あくまで災害派遣であって軍事利用はいけない」などという立場だ。これはかつて「侵略など急迫不整の際の自衛隊の活用は容認」とした共産党の綱領上の路線転換の延長線上の方針だ。
しかし、自衛隊は災害派遣だとしても自衛隊であり、軍隊だ。災害で必要だからと憲法違反の自衛隊を派遣することを容認する論理は誤りだ。この論理は「人道支援」への自衛隊の活用一般の正当化につながり、この場合、残されるは「人道支援とは何か」という定義付けの論争だけになる。
この論理ではイラクのサマワへの自衛隊派遣すら容認されてもおかしくない。たしかに、あの災害のひどさ、厳しさを想えば、自衛隊派遣反対をいうのに躊躇するという気持ちはわからないでもない。
 しかし、ここは毅然として踏みとどまるべきなのだ。支援の形態は多様であって良いし、有効な災害復興支援はあくまで民間のNGO主体であるべきだ。日本のNGOはすでにそうしたノウハウを豊富に身につけている。「どこの国のものであれ、軍隊の派遣は軍事介入につながり、地元にも禍根を残すし、とりわけ日本自衛隊の派遣はノーだ」というべきなのだ。そして、こうした自衛隊によるその場しのぎの政策が、軍事強化推進論者に利用され、日本での真の緊急援助隊の育成を妨げているのだ。
 帰路、バスの窓から「大原幽学館」の表示が見えた。「そういえば」と、友人のAさんがこのところ、大原遊学を調べていることを思い出した。彼は幽学と二宮尊徳を対比して考えたりしていて、なかなか面白そうだ。筆者も、一五年か二十年前、民衆史研究会で幕末の「九十九里反乱」を研究していた頃、真忠組の思想的背景に幽学の性学は関連がないだろうかとあたりをつけて、信州大学にいた高木俊輔先生の本などを導きに調べたことがあった。結果はハズレで、直接の関係はなかったのだが、「大原幽学」という映画を借りてきて自主上映をして人を集めたりしたこともある。この頃、色川大吉さんなどの研究の成果をテキストに日本国憲法と明治期の私擬憲法草案運動の関連などについても、フィールドワークなどの作業を重ねながら学んだことがある。これらが最近の憲法問題の議論にも、結構、役立っている。 (K)