人民新報 ・ 第1158 号<統合251(2005年2月15日)
  
                  目次

● 政府・資本の攻撃に抗し、春闘を闘いぬこう

    野口やよいさん 「年収1/2時代の再就職」 (シンポ「パート・派遣・契約労働者の権利確立を!」での講演)

● 日弁連主催で共謀罪反対院内集会

● ア ピ ー ル

    2005年5・3憲法集会の成功をめざして、平和の行動のうねりを強め、憲法改悪の動きをうち破りましょう

● 目くじらをたてた131人の女(わたし)  石原都知事の「ババァ発言」裁判判決を前に集会

● 反「紀元節」行動  「改憲と天皇制を考える」2・11集会

● 釧路で教育基本法を考える集会

● 日韓ネット講座  「日本民衆運動の朝鮮認識」

● 「政冷経熱」関係脱却への日中戦略対話は可能か

● 民主主義の伝統と大正デモクラシー

● ハンドブック紹介 / 「非正規雇用 Q&A  今、何故、『非正規』と向き合うのか」

● 複眼単眼 / 災害の救援物資について考える




政府・資本の攻撃に抗し、春闘を闘いぬこう

 二月五日、東京・上野区民館で「05けんり春闘・全国実行委員会発足総会」・「『パート・派遣・契約労働者の権利確立を!』シンポジウム」が開かれた。

 はじめに主催者を代表して、二瓶久勝・金属機器労働組合協議会事務局長があいさつ。
 小泉政権の攻撃の中で、労働者の賃金や生活は大幅に後退させられている。闘うべき労働組合の力が弱くなっているからで、連合は賃金でもリストラでもみんな闘いを放棄している。これまでそれぞれに闘いをつくりあげてきた全国実行委員会<春闘再生「行政改革・規制緩和・労働法制改悪」に反対する全国実行委員会>とけんり春闘<けんり春闘全都連絡協議会>は今年の闘いで合流して運動をおこなう。闘いで重要なのは、非正規雇用労働者にたいする取り組みを組織労働者が強めることだ。そして、国鉄闘争をはじめすべての争議を勝利させるために闘うことだ。
 つづいて、中岡基明・全国労働組合連絡協議会事務局長が経過報告・行動提起。
 けんリ春闘・全国実行委員会は、03、04年春闘では学習会、決起集会を共同して開催してきたが、昨年一〇月に、両組織を継承しながら統一・合併して、05けんり春闘・全国実行委員会として大きな春闘を作っていくことに全力を挙げることを確認した。
 今春闘を巡る状況は、失業率が四・四%、完全失業者は二七〇万人となり、とくに高齢者・若年の失業が深刻だ。常用雇用労働者が減少し、非正規雇用労働者が拡大して三二%に、とくに女性では五三%となっている。非正規雇用労働者が雇用労働者三分の一となり、さらに拡大する趨勢にある。賃金状況では大企業労働者でも年収三〇〇万以下世帯が拡大し、時間単価はますます引き下げられているし、定昇はストップ、賃上げでも一時金ヘシフトがなされている。非正規雇用、中小零細企業労働者の状況はいっそうひどい。賃上げ要求の前に「契約更新」という大きな壁があり、ますます雇用が不安定になっている。
 われわれは、はこうした状況で、「生活できる賃金を!」を掲げ、@非正規労働者の春闘、非正規労働者の雇用の安定と均等待遇の実現、A能力主義・成果主義賃金に反対し、賃金引き上げを、B郵政民営化反対、民託化・独立行政法人化による賃金引き下げ反対を目指して闘う。あわせて、定率減税廃止と消費税引き上げなど増税攻撃に反対して闘う。
 労働法制改悪の動きに反対し、自衛隊のイラクからの撤退、憲法九条改憲に反対して闘う。
 組織・体制では、名称を「05けんり権利春闘・全国実行委員会」とし、春闘を闘うための単産・単組の連絡会とし、代表に二瓶久勝(旧・春闘再生全国実事務局長)、押田五郎(旧・けんり春闘全都連絡協議会代表)、藤崎良三(全労協議長)、事務局長を中岡基明(全労協事務局長)とし、事務局を全労協に置く。
 当面する行動では、二月一六日にけんり総行動、三月六、七日に外国人労働者行動(外国人に安定した雇用を!大行進、外国人総行動<東京・大阪・福岡・札幌>)、そして一七日に05春闘勝利中央決起集会(日比谷野外音楽堂)を開催する。中央集会の主要テーマは、春闘ストライキ決起労組激励・支援、地域総行動・争議支援、首都高速道路公団下請け労働者の賃下げ阻止、郵政民営化反対、非正規労働者の権利確立、憲法改悪反対、イラクからの自衛隊早期撤兵などとしたい。四月二〇日には、全国運動集約中央行動で、未解決組合支援・激励や制度政策要求のための省庁交渉を行う。また春闘期間中には、各地で、労働相談、自治体交渉、行政交渉を取り組んでいくことにする。
 休憩をはさんで、シンポジウム「パート・派遣・契約労働者の権利確立を!」が開かれ、ライター・翻訳家の野口やよいさんが「年収1/2時代の再就職」と題して講演した(講演要旨・別掲三面)。
 つづいて、パネルディスカッション。
 全港湾の伊藤彰信・書記長をコーディネーターに、ゆうメイトの及川さん(郵政ユニオン)、パート公務員の橋本公子さん(全統一・千葉市非常勤職員労組書記長)、委託労働者の栄谷竹生さん(全国一般東京南部・首都高速ハイウエイ共闘会議事務局長)、パート労働者の中原純子さん(全国一般東京労組・フジ製版分会)、そして外国人労働者問題について村山敏さん(全造船関東地協・神奈川シティユニオン委員長)が発言した。
 藤崎良三・全労協議長が閉会のあいさつを行い、最後に団結頑張ろうで05春闘いっそうの前進へむけて闘う決意を確認した。

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野口やよいさん

     「年収1/2時代の再就職」

        
シンポ「パート・派遣・契約労働者の権利確立を!」での講演

 私は、労働組合の大勢の集会で話すのは始めてだが、これも、非正規労働者を抜きにして労働運動は語れないといういまの状況をしめすものだと思う。私は「年収1/2時代の再就職」(中公新書ラクレ)を昨年出版し、そこでも書いたが、いま専業主婦の再就職が問題になっている。
 専業主婦の再就職は、生きがい、自分さがしなどとの関係で語られることが多い。たしかに、かつては専業主婦が再就職するのは子どもが小学生になってから、「子育て一段落後」ということで、中高年層女性のパートというイメージが強かったが、近年では幼い子どもがいる女性でも珍しくなくなっている。生きがいさがしなどというものから、夫が病気になったり、リストラされたり、また賃金が下げられたりの生活を理由とするものが増えている。とくに年功制の賃金体系が崩壊し、かつてのように、若いときは低賃金だが段々とあがるということに対応した生活設計が出来なくなってきている。一九九五年、当時の日経連は「新時代の『日本的経営』」というものをだしたが、そこでは雇用労働者を三つに分類し、長期蓄積能力活用型グループ、高度専門能力活用型グループ、雇用柔軟型グループにわけた。最後の雇用柔軟型では、有期の雇用契約、時間給、昇給なし、退職金・年金なしなどとされているが、この層がこの一〇年で大幅にふえた。一九八六年当時、パートは、末子が三歳以下の女性では、五・八%だったのが二〇〇三年では一五・一%となり、末子が四〜六歳の女性では一一・七%が二七・四%となっている。現在、既婚女性の再就職のタイミングが早まっている。その背景には、不況や経済のグローバル化などで、賃金・ボーナスのカット、リストラなどによって男性の経済力が不安定化している事情がある。
 多くの非正社員の状況は非常に厳しい。過労死するほど長時間働いても収入は三〇〇万円に届かない。そして雇用保障がないし、有期雇用者の雇用契約期間は短期化が進んでいる。仕事をやめることなく出産することは難しいし、仕事をやめると収入がなくなり、また職探し、保育園探しで振り出しに戻されることになる。こうして、配偶者がいてなお非正規職の複合就労をする女性が増えているという現実がある。では自営ではどうか。ごく一部に高額所得者がいないことはないが、所得五〇万円未満の層が多く、全体としての所得は低い水準にある。そのうえ、パート女性=専業主婦は、家事労働と賃労働の二つを背負う。睡眠時間を見れば、パート女性=専業主婦はフルタイムで働く女性、専業主婦よりもはるかに少なくなっている。女性だけではない。三〇代男性に、長時間労働の増加が顕著であり、四〇代前半までの男性は高いストレスを受けている。子どももそうだ。父母とともに家族とすごす時間を十分にとれない現状は、子どもの健全な成長にとってマイナスで、保育園での「学級崩壊」状況が見られる。

 これは本でも書いたがひとつの例を紹介したい。ある契約社員(三九歳)の場合のところを読んでみる。
 夫(三九歳)は中堅建設会社の正社員だ。長女(五歳)がいる。長女の保育園のクラスでは、弟妹の出産ラッシュ。もう一人生もうと計画したが、たちまち暗礁に乗り上げる。出産のために妻が働けなくなると、たちまち生活に行き詰まることがわかった。仕事はインテリア・コーディネーターで完全な歩合制だ。出産のために仕事をことわれば、即座に収入がなくなる。夫の給料は決して少なくはないが、結婚前に購入したマンションのローンが重荷。夫の月給は購入したときよりも一〇万円も減っているし、ローンの支払いは収入の半分に膨らむことになった。マンションを買ったころは、すでにバブルははじけていたが、まさか、給料がさがるとは思わなかった。
 夫婦は、夜中に顔を突き合わせ、電卓を叩いた。
 「ウィスキーは焼酎に替えて、ビールも発泡酒でいいよね」
 「ふたりでがんばってタバコをやめようよ。この際だから、車も手放そう」
 まだ足がでた。貯金はゼロ。何度となく計算したが、赤字補填や予想される帝王切開の費用などを溜めるのに、十数年かかる結果は変わらなかった。
 朝六時に家を出て、十、十一時に帰宅する夫がつぶやいた。
 「俺が土日にバイトするか」……。

 従来型の正社員(男性中心で、一人の稼ぎで家族全員の生計を支えることができる人)は今後、少数派になることが予想されている。企業はすでに正社員の絞りこみを始めており、新卒の正社員採用を抑える一方すでに雇用した人びとのリストラや賃下げを進めている。近年、女性の就職が早まっている現象は、この動きのコインの裏だと解釈できる。リストラや賃下げの結果、あるいはそもそもフリーターとして入職した結果、「従来型の正社員」からはみ出した男性の妻たちが「子育て一段落後」まで待つ余裕を失って働きに出ているのだ。だとするならば、現在、再就職女性が直面している問題は、今後、より多くの女性とその家族によって共有されることになる。ますます大勢の女性が早めの再就職に追い込まれ、パート、派遺社員、契約社員など非正社員職になっていく。彼女たちの給与水準や雇用の不安定さ、出産の権利などが改善されなければ、家計が逼迫し子どもを産み育てることが困難な家庭は増える一方だ。非正社員の労働条件の改善は、女性個人にとってだけでなく家族のサバイバルにとって重要なのだ。さらにいうならぱ、生き方が多様化している現状では、非正社員として働いて生活が成り立ち安定するという見通しを持てることは、フリーターなど若い非正社員男女にとっても、シングルマザーにとっても、リストラに怯える男性にとつても、安心材料となるだろう。


日弁連主催で共謀罪反対院内集会

 二月九日、参議院議員会館会議室で、日本弁護士連合会の主催による「共謀罪に関する院内集会」が開かれた。
 「共謀罪とは、@長期四年以上の刑を定める犯罪について(合計で五五七)A団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの(組織犯罪集団の関与までは求められていない)B遂行を共謀した者は(合意ということ、合意に基づく準備行為=合意を促進する行為は必要ない)C刑期は(原則懲役二年以下、死刑・無期・長期一〇年以上の共謀は懲役五年以下)に処する――というもので、犯罪の実行着手前に、自首したときは刑は減免されることになっている」(日弁連「思想を処罰? 日弁連は共謀罪に反対します」より)。
 はじめに、日弁連副会長で「日弁連共謀罪等立法対策ワーキンググループ」実行委員会事務局長の大塚明弁護士が「現在の情勢について」の報告を行った。
 法務省は共謀罪などの刑事立法を今国会で成立させようとしている。日弁連は共謀罪の新設に反対しているが、その理由には二つある。犯罪が成立するには四つの段階がある。@共謀A予備B未遂C既遂だ。殺人罪を例にとれば、殺すという行為と死んだという結果があって罪になる。これが既遂だ。死ななければ未遂罪となる。また重要な犯罪ではそれらの準備をするのも予備罪になる。これらはいずれもはっきりとした行為がともなっている。しかし、今度問題となっている共謀には形がない。非常に抽象的であり、いかようにも解釈でき、やっていないという立証はきわめて困難なものとなる。こうしたことに日弁連は反対している。
 もうひとつの理由は、この法案が、国連国際(越境)組織犯罪防止条約の国内法化のための法案だということに関連する。日本の国会はこの条約をすでに承認しているが、まだ批准はしていない。日本政府には国内法化する義務があるが、共謀罪などの成立の動きと関連させて批准しようとしている。日弁連は共謀罪の新設そのものに反対だが、たとえ、条約の国内法化という観点からしても、重大な問題を抱えた法案なのだ。条約が求めているものの法制化というだけでなく、それ以上のものを含んでいる。条約は原則として越境組織犯罪を対象にしたものだが、法案は越境性の明記がなく、すべての「犯罪」に拡大されて、非常に危険なものとなっている。日弁連は共謀罪の本質について理解を国民のあいだに広げていかなければならないと考えている。
 集会には、日弁連の三人の副会長をはじめ多くの弁護士、社民党の福島瑞穂党首、近藤正道参議院議員、民主党の松野信夫衆議院議員、辻恵衆議院議員、共産党の井上哲士参議院議員と市民団体の人びとが参加した。集会は、弁護士費用敗訴者負担制度の導入を阻止したような闘いを共謀罪でもつくっていこうと確認した。


ア ピ ー ル

 2005年5・3憲法集会の成功をめざして、
    平和の行動のうねりを強め、憲法改悪の動きをうち破りましょう


 小泉内閣と自公与党はイラクへの自衛隊派兵を一年延長し、軍事占領を続ける米国に積極的に加担しています。彼らはいま、「対テロ」という口実を用いて日本を「戦争のできる国」に変えるため、憲法9条の破壊を極限までおしすすめようとしています。いま自民党は小泉総裁をトップに「新憲法制定推進本部」をつくり、今年一一月までに憲法改悪案をまとめるといい、日本経団連など財界も憲法の改憲を押し進めるための報告書を発表し、これを後押ししています。マスコミのなかでも改憲のムード作りはかつてなく強まっています。
 改憲派は憲法改悪のための「国民投票法案」と、憲法調査会をこの法案を審議するための常任委員会にするための「国会法改定案」をこの通常国会に出そうとしています。衆参の憲法調査会は四月末にも「憲法は変えるべきだ」という最終報告を出す方向で作業を急いでいます。この改憲手続き法の動きには公明党も同調し、民主党も応じる構えです。このままでは、今年の国会は「改憲国会」になってしまいます。
 しかし、一方ではこの情勢の下で、改憲に反対する人びとの声が急速に広がり、全国各地でさまざまな憲法改悪反対の運動が生まれ、発展しているのを見ることができます。また各種の世論調査では六割以上の人びとが9条改憲に反対しています。これらの声を大きく結集し、行動に変えていくなら、憲法改悪の企てをうちやぶるための大きな可能性が開けるのではないでしょうか。
 本年五月三日、憲法記念日に私たちは東京・日比谷公会堂を中心に五回目の「5・3憲法集会」を開きます。そしてこの日に向けて、一日だけの共同行動ではなく、それぞれの地域で現在の憲法をめぐる状況を学び、語り合う集会を開き、まわりの人びとに知らせながら平和の行動を起こすなどの多様な活動の積み重ねていきたいと思います。「5・3憲法集会」を大きく成功させ、その力で憲法改悪を絶対に許さないという思いを広げ、大きなうねりにするため、広く共同し、行動を起こそうではありませんか。

 二〇〇五年一月

 二〇〇五年5・3憲法集会」実行委員会


目くじらをたてた131人の女(わたし)
 
        石原都知事の「ババァ発言」裁判判決を前に集会


 二月四日、東京の文京シビックホールで「もうたくさん 石原都知事――今すぐ『ババァ発言』を謝罪して 去れ!」という集会が開かれた。主催は「石原都知事の『「ババァ発言』に怒り謝罪を求める会」で、八〇余名が集まった。
 二〇〇一年一一月に、石原都知事が週刊誌上や都の審議会などで「女性が生殖能力を失っても生きているのは無駄で罪」などと発言した「ババァ発言」に対して、一三一人の女性が発言の謝罪と撤回を求めて裁判に提訴していた。提訴以来一〇回の口頭弁論が開かれ、二月二十四日の判決を控えた取組みだった。
 集会は、はじめに「目くじらをたてた一三一人の女(わたし)」と題した朗読アクションで開始された。竹森茂子さんらによる原告の陳述書をもとにして構成した、三〇分ほどの振りの入った朗読があり、石原都知事への怒りと原告への共感とで会場がわいた。
 つづいて中野麻美弁護士が弁護団報告を行った。中野さんは、「石原発言が、一人ひとりに具体的な損害を与えていることを立証できるかが問題だった。口頭弁論で一回一回、原告の生活と人生をかけた陳述が、二年も続いたことに意味がある。被告側は、一切答えず訴えを無視し続けている」と語りだし、石原発言とは何だったのかを以下のように話した。
 @影響力のある知事という存在なのに、メディアや議会などを使い二重三重に影響を強めた、A東大教授の学説や文学作品をつかい自己の主張を正当性のあるものとして誇示した、Bしかし、その学説や文学の示したものとはまったく趣旨の異なる理解しかできない人には、地方自治や民主主義の首長はできない、C発言を浴びた人の反論を無視する態度は、外国人や障害者など少数者を排除することで、民主主義にとってあってはならないことだ、D「ここに女性がいるから言えないけれど」というような前置きをしてこれらの発言をしたことは、女性への攻撃意図がはっきりしていて、政治家としてふさわしくない、E女性を人間としてではなく、『産む』という存在だけに特化させ、バックラッシュと差別化というグローバリズムに拍車をかけた、F女性の抗議に対しても無視し続け、女性の存在と主張を社会から葬り去ろうとしている。
 さらに石原側の、「発言が対象を特定していない」とか、「原告の主観にすぎず法的保護の対象ではない」という主張に対して、「一人ひとりの陳述書が、懸命に生きている人たちの被害を言語化して伝えている。司法判断はこの意味をくみとり、発言の違法性を回避してはいけない」とまとめた。
 会場からは、「セクシャルハラスメントやドメスティックバイオレンスも十数年前は、軽くあしらわれていたが認知されるようになった。今では我慢していた人が告発するようになった。石原発言は許されない、という新しい基準にしよう」「悪意のないつもりの男性でも、男性の感覚の遅れが目立つ」など元気な発言が続いた。最後に判決の法廷への傍聴を呼びかけ閉会した。
 
 なお、主催した「石原発言に怒る会」は、裁判の取組みを「131人の女たちの告発――石原都知事の「ババァ発言」からみえてきたもの」という本にまとめた。裁判に提出した最終準備書面と、戒能民江さん(お茶ノ水女子大学教授)、熊本理抄さん(近畿大学人権問題研究所講師)、丹羽雅代さん(東大ハラスメント相談所相談員)の意見書に加えて、日本弁護士連合会が石原都知事あてに出した「警告書」が収められていて、実に切実で貴重な人権の視点が展開されている。何よりも圧巻なのは原告による陳述書で、並みの女性よりはどちらかといえばエンパワーされている原告たちの、並々でない人生が語られている。人間として生きようとしている多くの方たちに一読をおすすめできる本になっている。
 発売:明石書店 定価千円+税 
  (青木 南海)


反「紀元節」行動

     「改憲と天皇制を考える」2・11集会


 二月一一日、渋谷勤労福祉会館で、反天皇制運動連絡会、立川自衛隊監視テント村、「日の丸・君が代」強制反対の意思表示の会、明治大学駿台文学会、アジア連帯講座、国連・憲法問題研究会などのよびかけで、「改憲と天皇制を考える」2・11集会(主催・反「紀元節」行動実行委員会)が開かれ、一七〇名が参加した。
 はじめに、基調が提案された。
 イラク情勢は暫定国民国民議会選挙を経た今、なお混迷と悪化を深めている。自衛隊の派兵先であるイラクでの戦死者をめぐる取扱いという問題が、米ブッシュ政権の戦争を支持し、自衛隊派兵政策を維持し続ける小泉政権にとって極めて重大事であることは言うまでもない。新たな「戦死者」を国家としてどのように祈念するかということをめぐって、権力側において靖国神社、あるいは新しい「無宗教」の国立追悼施設の是非をめぐる議論が続いている。われわれは、国家による死者の利用を許さない立場から、国家によるあらゆる追悼施設に反対するものである。だが、イラクにおいて生み出される自衛隊の死者は、さしあたりこのメモリアルゾーンにおいて追悼されることになるだろう。イラク情勢下の「慰霊・追悼」問題については、国家による死者の「慰霊・追悼」をどのようにすれば、よいのかではなく、戦死条件をいかになくしていけるのか、と問うべきなのである。そのためにも、政府による自衛隊派兵政策を許さず、反派兵の運動をさらに強力に展開していかなくてはならない。私たちは天皇制にも戦争にも反対なのである。政府が押し出してきてくる戦争をするための、そして天皇制をさらに安定的かつ強固なものに作り変えるための憲法改悪には、どちらも同様に反対の声をあげていく。
 つづいて、笹沼弘志さん(静岡大学教員)が「改憲と天皇制を考える〜護憲は反天皇制の理念たりうるか」と題して講演。
 自民党の憲法改正プロジェクトチームの「論点整理」では、「歴史、伝統、文化に根ざしたわが国固有の価値(すなわち『国柄』)や、日本人が元来有してきた道徳心など健全な常識」が強調されているが、それは天皇を「わが国の文化・伝統と密接不可分な存在」として、それを中心とする国柄ということなのだ。また自民党憲法改正草案大綱(たたき台)では、天皇を象徴とする自由で民主的な国家というようなものがわが国の「国柄」とされる。この「国柄」は、復古的なものではなく、「平和を愛し、命を慈しむとともに、草木一本にも神が宿るとして自然との共生をも大事にするような平和愛好国家・国民という『国柄』」「第二次世界大戦における敗北の歴史……すなわち、戦争から得た貴重な教訓とは、『和の精神』『平和を愛する国民性』を改めて再確認したことであり、新しい憲法は、それを進化・高度化したもの」としている。
 大日本帝国憲法と日本国憲法の天皇制には継承性と断絶がある。日本国憲法の公布文(上諭といわれるもの)には「朕は、日本国民の総意に基づいて、新日本建設の礎が、定まるに至ったことを深くよろこび、枢密顧問の諮詢及び帝国憲法第七十三条による帝国議会に議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる」とある。欽定憲法である帝国憲法の改正と「日本国民の総意」、これは両立しないものだ。そして、天皇制と日本国憲法上規定された人権理念・国民主権原理は緊張関係にある。人権・国民主権をつらぬけば天皇制自身が否定されるべきものとなり、逆に天皇制を貫けば、人権理念などは相対化される。日本国憲法は、帝国憲法の<祭政一致・国家神道・軍隊>の三位一体支配を否定した。これが日本における人権宣言の前提だ。反天皇制の論理は、人権と国民主権以外にはないのではないのか。護憲とは人権保障の体系としての日本国憲法の擁護ということだ。人権理念による天皇制批判と人権保障の体系としての憲法の擁護が必要だ。
 高尾利数さん(法政大学元教員)は、「日本神話批判の視座」と題して話した。
 つづいて、参加団体から七つの発言があり、それぞれから、各種の取り組み・行動への参加の要請があった。
 集会のあとはデモで、紀元節反対をアピールした。


釧路で教育基本法を考える集会

 一月二七日、北海道釧路市で、「教育基本法を考える市民の集い」が開かれた。
 主な内容は「いま、学校から消されようとする自由」をテーマとする野田正彰氏による講演である。
 この集会は、自衛隊の海外派兵が当然のように進められ、改憲の声が大きくなりつつある中で教育基本法の改悪を見過ごすことが出来ないとして開催された。
 野田氏は、子供たちが、情報化と富裕化の中で周りとの摩擦を避け表面的なつき合いに終始して感情がうまく育たなくなっていると述べ、バラバラになっている子供たちに対して文科省は、外からタガをはめようと愛国心や道徳心を強調していると指摘。そして、役人や管理職など教育に実際携わらない人間たちが、日々子供に携わっている教師に命令し、従わせようとする異常な事態が進行中で、校長が自殺した広島県の世羅高校や同県尾道でおきた民間出身の校長が自殺した件などはその具体例である、と述べた。
 また、教育現場での日の丸・君が代についていくつかの例を挙げ、強制が教師から更に子どもたちにまで及ぼうとしており、がんじがらめにして教育を潰し、子供を潰そうとするこのような動きをなんとしても止めなければならない、と訴えた。
 更に教育基本法に触れ、その中で個人や個性という言葉が繰り返されており、そこには誤った精神主義や、全体主義に対し個人の確立が何よりも必要との強い思い込められている、私たちはこのことを忘れてはならないと強調し講演を終えた。
 国会への法案提出が当面見送りとなったようだが、学校の中での自由がなくなりつつある現状が続けば極めて危ういことになるということがよく分かる講演会であった。


日韓ネット講座

      
 「日本民衆運動の朝鮮認識」

 二月九日、文京シビックセンターで、日韓ネットの第三期講座「動く東アジアの中の日本と朝鮮半島」の第五回(最終回)「日本民衆運動の朝鮮認識」がひらかれた。
 講師は伊藤晃さん(日韓ネット共同代表・千葉工業大学教授)と北川広和さん(日韓ネット共同代表・『日韓分析』編集)の二人。
 伊藤さんは、「日本民衆運動と朝鮮認識」のテーマで、東京都在日韓国人職員・鄭香均(チョン・ヒャンギュン)さんの管理職受験拒否訴訟事件について講演した。在日の人びとは不安定な特別永住者の人権保障の状態にあるが、かれらの人権は国からあたえられて権利となるのか、それとも人間としてはじめからもつものなのか、ここに憲法解釈の二つの立場、国権の立場と人権の立場がある。日本の民衆運動の思想的欠落はいくつもあるが、国民主権論の虚構、それが「排除の論理」に裏打ちされていることへの批判の弱さ、そして、人権が憲法によって保障されるのは、人権がさまざまな運動によって常に更新され高められることだという思考の弱さなどがあり、これらの点は今後の運動において省みられなければならない。


「政冷経熱」関係脱却への日中戦略対話は可能か

 日中の経済関係は、昨二〇〇四年に大きな歴史的な段階を画した。財務省が一月二六日に発表した二〇〇四年貿易統計速報(通関ベース)は、日本の香港を含めた対中国の輸出総額は二二兆二〇〇五億円となり、対アメリカの二〇兆四七九五億円を上回った、と発表した。日本の最大の貿易相手国がアメリカがでなく中国となった。アメリカが日本の最大の貿易相手国の位置から降りたのは戦後初めてのことである。
 日本からの対中国輸出(香港除く)は、一般機械やテレビなど映像機器が伸びて七兆九九六三億円(二〇・五%増)、中国からの輸入(香港除く)は事務用機器や鉄鋼などが伸びて一〇兆一九七〇億円(一六・八%増)で、輸出入ともに過去最高を更新した。こうした状況について、財務省は「中国の投資環境が整備され、日本や欧米の資本が中国で生産拠点を拡大している」と指摘している。
 こうした経済関係とは裏腹に、日中間の政治関係は、「尖閣」諸島の帰属や周辺海域でのガス田開発など、とくに最大の問題としてのA級戦犯を合祀した靖国神社への小泉首相の参拝問題をめぐって対立し、両国の首脳同士の相互訪問が二〇〇一年の一〇月以来、途絶えているという異常な状態が続いている。まさに「政冷経熱」の状況にある。こうした状況は、日本支配階級の右派勢力が、対北朝鮮関係と同様に、日中関係も緊張させ、国内の反動化をはかるのを促進するものである。また東アジアの諸国を対立させ、それぞれの国との関係を強化するというアメリカの地域支配に利益をもたらすものである。  東アジアでの緊張を緩和させ、地域の平和と安定、発展、繁栄を図ることは、各国民衆にとって有利であるが、局面打開はなかなか出来なかった。日朝国交正常化交渉でも、小泉訪朝とピョンヤン宣言にもかかわらず、流れは逆転している。
 中国は、袋小路からの脱却のために、対日政策での新しいアプローチについて論議を進めてきたが、その実現にむけての外交的な行動を具体化してきた。
 中国は、一月二四日、ニューデリーで中印両国の外務次官は初の戦略対話を行った。また、訪中したアメリカのローレス国防副次官との間ではこちらも初の「米中国防政策会議」(一月三一日・二月一日)開いている。
 共同通信【北京二月五日】は、次のように報じた。
 中国政府は五日までに、外務省次官級の「日中戦略対話」の定期開催を目指す方針を決め、外交ルートを通じて日本側に提案した。東アジアの安全保障体制確立に向け、台湾や北朝鮮問題などを協議することが狙い。……日本はアメリカとの間では、同盟関係を背景に「日米戦略対話」を毎年二回程度開催しているが、その他の国とは各省実務者による個別分野の政策対話を行うレベルにとどめている。中国側は、こうした事情を承知しつつ「日本側の新しい思考に期待する」(中国筋)として新提案を投げ掛けた。日本側は「慎重に検討する必要がある」(外務省幹部)として現時点では回答を留保しており、日本政府の対応が今後の焦点となる、と。
 その後、七日には、外務省の谷内正太郎事務次官が記者会見で、中国の外務次官級の「戦略対話」開催を提案していることについて「いいことだと思う。中国との間ではあらゆるレベルで対話と協議をさらにやっていく必要がある」と述べ、提案に応じる考えを表明した。二月中にも、日中双方の局長クラスの会談が開催される。そこで次官級協議の開催時期や内容についての調整を行われる予定である。議題としては、国際情勢やアジアの地域情勢が中心となるが、日中の自由貿易協定(FTA)や東アジアの安全保障問題についても協議されることになるかもしれない。
 アジアの最大の不安定要因は安全保障問題である。この日中の戦略対話が成功することは、日朝関係の正常化にも好条件を形成し、日本の反動化・軍事大国化の動きを制動する要因ともなる。しかし、日朝国交正常化交渉の時にも見られたように、こうした方向に東アジア情勢が大きく好転することに、緊張状態継続を利益とする勢力がかならず妨害してくるだろう。日本は、対米一辺倒外交から脱却し中国など「躍進するアジア」とともに歩む道をめざすことが求められているのであり、東アジアの緊張緩和の動きを進めるべきだ。


2・27集会  3・1朝鮮独立運動から86年を迎えて

           日本と朝鮮半島― 過去・現在、そして未来へ


日時 2月27日(日)午後一時開場/一時半開会

 場所 在日韓国YMCA 地下ホール(JRまたは三田線「水道橋」下車・徒歩5分)
 資料代 一〇〇〇円(学生・高校生七〇〇円)

 内容
講演 「記憶は長―く、未来に生きる」中塚明・奈良女子大名誉教授
 報告 西野瑠美子・VAWW―NETジャパン共同代表ほか
 ほかに音楽・映像・メッセージ・韓国ゲストのお話などを予定

【中塚明さんのプロフィール】 一九二九年生まれ。奈良女子大学名誉教授、元日本学術会議会員。日清戦争をはじめ近代日朝関係の歴史を研究。著書 「日清戦争の研究」(青木書店)、「近代日本と朝鮮」(三省堂)、「『蹇蹇録』の世界」(みすず書房)、「近代日本の朝鮮認識」(研文出版)、「歴史の偽造をただす―戦史から消された日本軍の『朝鮮王宮占領』」(高文研) ほか。

  * * * * *

 新しい年二〇〇五年を迎えました。この二〇〇五年は日本にとって大きな岐路の年になろうとしています。
 イラク戦争は泥沼化の様相をますます強め、派兵されている自衛隊もイラクの人々と「殺し・殺される」関係にいつ入ってもおかしくない状況になっています。同時にいま、拉致問題を通じて朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対する「経済制裁」論議や与党幹部からは事実上の相手政府「打倒」発言も居丈高に飛び交っています。これらは憲法改悪の動きとともに「いつか来た道」を想起させるものです。

今こそ一〇〇年におよぶ不正常な関係の清算を

 今年は、武力によって日本が朝鮮に「乙巳(ウルサ)保護条約」を押しつけ、朝鮮植民地支配を事実上開始してから一〇〇年、また日本の敗戦=朝鮮半島の人々にとっての解放と新たにもたらされた南北分断から六〇年の節目の年です。しかし、日本は敗戦後も朝鮮侵略・植民地支配に対する反省や、まして日本の植民地支配の結果、南北分断を強いられた朝鮮半島の人々の苦痛に思いをめぐらすことがあったでしょうか。
 四〇年前の一九六五年、米国の後押しのもと韓国とだけ国交が結ばれました。その時締結された日韓条約は、日本の朝鮮侵略・植民地支配を正当化したまま韓国の広範な人々の反対の中で強行されたものです。
 二〇〇二年に小泉首相が訪朝し、日朝ピョンヤン宣言に過去の朝鮮植民地支配に対する「痛切なる反省と心からのお詫び」が記されたことは一歩前進でした。しかし、小泉政権は戦後補償問題を回避し続けています。
 いま平和を愛する人々には、歴史に真摯に向き合い、この一〇〇年にもおよぶ不正常な関係に終止符を打ち、未来に向けて和解と平和・友好の関係を築くための努力が求められています。日本軍「慰安婦」や強制連行を強いられた朝鮮半島の被害者も日本人拉致事件の被害者も、ともに被害回復・人権回復がなされるべきです。

 核も米軍基地もない平和な東北アジアの実現を

私たちはまた、何よりも東北アジアの平和を求めます。そのために米国に先制攻撃戦略の放棄を迫り、北朝鮮核問題の平和解決と東北アジアの非核地帯化をめざします。世界最大の核武装国・米国の軍隊と基地を沖縄・日本、韓国から撤退させ、強まる日本の「戦争のできる国」づくりの道を阻みましょう。

 主催 朝鮮侵略一〇〇年、朝鮮解放・分断六〇年、日韓条約から四〇年を問う 二〇〇五年運動

 連絡先 日韓民衆連帯全国ネットワーク<〇三(五六八四)〇一九四>ほか
(郵便送付先)東京都文京区小石川一―一―一〇―一〇五 日韓ネット気付


民主主義の伝統と大正デモクラシー

 本紙前号で、安藤裕三さんが「『幕末』から見えてくること」で、幕末の大原幽学などについてふれたなかに、武力支配に対する倫理支配の要求の流れの伝統があり、ここに「敗戦後の平和憲法がすんなり受け入れられた謎の解があるし、そののち六〇年間平和憲法が疑われなかった、そういう思想的基礎がしっかりとある。……率直にいえば、憲法九条問題は、わが国の階級闘争の核心をなす争点なのであり、幕末から争われてきた思想闘争の歴史的現在なのでもある」と書いている。
 まったく同感だ。安藤さんの「幕末」に続けていうならば、明治維新以降なら、自由民権↓大正デモクラシー↓戦後民主主義という流れになるだろう。戦後の日本国憲法が定着する上では、民衆レベルでの歓迎だけでなく、軍部独裁以前の政党政治の経験があったことも指摘されているところだ。右翼改憲派などは、現憲法を日本の伝統を否定した「押しつけ憲法」だと批判し、だから変えなければならないと主張している。ところが、憲法には、民衆の民主主義的伝統がしっかりと反映されているのだ。
 自由民権についてはしばらくおくとして、大正デモクラシーについて考えてみる。松尾尊~「大正デモクラシー」(岩波書店・同時代ライブラリー)によれば「大正デモクラシーとは、日露戦争のおわった一九〇五年から、護憲三派内閣による諸改革の行われた一九二五年まで、ほぼ二〇年間にわたり、日本の政治をはじめ、ひろく社会・文化の各方面に顕著にあらわれた民主主義的傾向をいうのであるが、これを生みだしたものは、基本的にいって、広汎な民衆の政治的、市民的自由の獲得のための諸運動であった」。大正デモクラシーについては、「専制的明治憲法体制を外面的に修飾しただけで、昭和ファシズムにたあいもなく踏みつぶされたブルジョワ自由主義の徒花である」という評価が主流だそうだが、松尾は「私見では、大正デモクラシーとは都市だけではなく農村に、そして社会の最底辺たる被差別部落へと根をひろげた、かならずしもインテリとはいえぬ広汎な勤労民衆の自覚に支えられた運動であった。それゆえに、大正期はたんなる過渡期ではなくひとつの歴史的個性をもつ時代でありえた。その生み出した最良の思想的達成は、日本国憲法の基本精神に直結しており、戦後民主主義の日本社会への定着は大正デモクラシーを前提としてはじめて可能であったといえよう」と高い評価を与えている。
 「進歩的」論壇の風潮をうけて私自身も大正デモクラシーに対する注目は低いものだったが、真剣に考えてなければならないと思うようになった。
 改憲攻撃に反撃して行くために、国の内外の多くの人びとと連帯して、その英知を結集して闘うことはもちろんだが、時間的にも過去の民衆の経験と結合することが不可欠で、民衆の民主主義の伝統が継承されなければならない。大正デモクラシーについてはもっと知られて行くべきだろう。

 大正デモクラシーの基本的課題は政治的自由の獲得だったが、それと社会主義運動の関係には反省させられるものが多い。当時の日本でいかに社会主義運動を進めて行くのか、これは創立されたばかりの日本共産党にとって重要な問題だった。当初、日本の左翼陣営の多くは、革命近しの観点から、例えば普通選挙権獲得闘争などに参加するのは、労働者・農民が自由主義ブルジョワジーの悪い影響を受け、革命性を失わせるものだと断定し、きわめて否定的だった(徳田球一、猪俣津南雄や鈴木茂三郎などが少数の例外であったという)。
 松尾「大正デモクラシー」には「日本共産党と普選問題」の項で、レーニンの言葉が引かれている。自由主義と社会主義の関係を考える上で参考になるので孫引きしておきたい。
 一九二二年の夏、シベリアで日本のシベリア出兵に対する反戦運動に従事していた高尾平兵衛にむかい、レーニンは日本革命運動のあるべき姿について指示し、ロシアと日本は地理的・社会的・歴史的条件において、決定的に異なみことを力説し、つぎのように述べたという。

 (日本では)民情風俗も社会階級も、其間に余程調和的なものがあり、又必ずや力強い中間階級も存在すると思はれる。それに欧州文明に接触して僅かに五十年、今日欧州諸国に対立して遜色なき点から見ても、此国民に独得の長所がありはせぬかと思ふ。露西亜のやうな国で無産階級の独裁的革命は已むを得なかつたが、日本では君等のやうな無産者と、政界の革新分子と、諒解ある政治家と、進歩的な智識階級が、皆な一つになつて共同戦線で革命をやることが必要ではないか。資本主義の弊害は責めねばならぬが、資本家中にある事務的材幹は尊重せねばならぬ。実際の経済組織を運用するに、労働者の手ばかりではやりきれない。君達は空想を抱いてはならぬ。露西亜と事情が違ふ日本に於て、無産階級ばかりで独裁の夢を見ても駄目である。(『忘れられた革命家 高尾平兵衛』)

 無産者、政界の革新分子、諒解ある政治家、進歩的な智識階級による広汎な民主主義的な共同戦線をつくって、その運動を前進させる。その中で、革命勢力を拡大する路線である。だが、普選運動など民主主義的課題にたいする社会主義勢力の取り組みは著しく遅れた。その結果について松尾は言う。一九二八年の最初の普通選挙では「無産諸政党は議席四六六のうち八、投票総数一二五四万票のうち四六万票という成績であった。当時の労働組合員数約三一万人、農民組合員数約三六万人という数字をあわせ考えると、無産政党の選挙活動がいかにきびしい弾圧にさらされていたにせよ、決して好成績とはいえず、むしろ惨敗といった方が正確であろう。……無産政党の不振は日本の社会主義者のみならず、政党政治の発展を願う自由主義者の前途に不吉な影を落とすものであった」。
 現在の憲法をめぐる闘いは、右派勢力の民主主義否定に抗するものであり、この闘いそれ自体が、民主主義を実践し、定着させるものである。そのためには、民衆的な伝統を引き継ぎ、また運動上で犯した誤りを繰り返さないことが不可欠だ。(MD)


ハンドブック紹介

  
 「非正規雇用 Q&A  今、何故、『非正規』と向き合うのか」

 働く人びとのうち三一・四%が非正規雇用の労働者となった。男性では一六%だが、女性では五二・四%にものぼる。この趨勢は続き、今後はいっそう極端なものとなるだろう。日本だけではない。韓国でも急速に非正規雇用の労働者が増え、それに対する闘いの報道もしばしば聞く。新自由主義とグローバリゼーションの波を背景に、より高い利潤を求める資本は、労働者に低賃金、労働条件低下、リストラ・解雇の攻撃を強め、労働法を改悪し、労働者の権利を奪い、生活を脅かしている。
 急速に拡大する非正規雇用労働者の組織化に労働組合運動の未来がかかっている。多くの労組が、この問題に取り組み始めたが、簡単な闘いではない。05けんり春闘もこの課題を正面にかかげて闘っている。
 全国一般労働組合全国協議会は、この二月に、ハンドブック「非正規雇用 Q&A 今、何故、『非正規』と向き合うのか」を発行した。その「まえがき」で、全国一般労組全国協議会書記長の遠藤一郎さんは次のように書いている。
 「私たちは、全国で中小の労働運動を一生懸命、闘ってきましたが、今、一番力を入れているのが非正規雇用問題です。世界各国でも、安定した雇用が破壊され、期間も不安定、権利も侵害という非正規契約が急増しており、たいへん重要な問題になってきています。……しかし、一言で非正規といってもいろんな本質や矛盾があります。このパンフでは、それぞれの雇用形態別に、その特徴、相違点と共通点を追求してみました。あらゆる契約で、すべての労働者の権利を確立するという観点から、非正規雇用労働者が、その要求と労組組織を実現するという観点から、どう取り組んだら良いかをぜひ学んで、明日からの役に役立てていただきたいと思います。本稿は、労働運動の第一線の現場で、労働相談や闘いをやっておられる活動家の皆さんの、報告と提言がべースになっています。学者でも弁護士さんでもないので、われわれと同じ目線で、日々、非正規の仲間とともに苦闘しておられる方々ばかりなので、最新かつリアルな模索に有用だと確信します。また、非正規問題全体を、こういう形で体系的に検証するのはマレであり、これまでは、個別具体的な相談事例に直面して、忙殺されている日常であったかもしれません。今後は、このパンフをテキストとしつつ、いろんな運動に活用していきましょう。」
 内容は、第一テーマ「有期雇用」(更新・雇い止め)、第二テーマ「派遣」(派遺元・派遣先)、第三テーマ「委託・請負」(労働者性)、第四テーマ「臨職公務員」(入札)、第五テーマ「外国人労働者」(入管法)であり、判例スタディ<『雇い止め』ととう対決するか。「黙示の更新&期待権」とは>や、ケーススタディとして(「委託強制。でも職名はワーカーズ」、「ゆうメイト」の郵政労働者、「ユニオンらくだ」・京都市で獲得の成果、総務省と自治労本部の研究会報告、全国各地で粘り強い闘いの成果、「ユニオンらくだ」の紹介)、非正規労働者問題とジェンダーとなっている。

 編集・発行 全国一般労働組合全国協議会
 東京都港区新橋五―一七一七小林ビル 03(3434)1236

05年2月5日発行
 三七ページ 三〇〇円


複眼単眼

     
災害の救援物資について考える

 大震災に遭った新潟県の若い友人から手紙が来た。いつもながら、この友人には教えられることが多い。今回はそのなかに書いてあった「救援物資」のことについて考えておきたい。
 この友人は震源地近くの山村に住んでいるのだが、幸い、彼の家や家族にはほとんど被害が出なかった。友人はいま村の復興のための活動で飛び回っている。
 しかし、ある日、この友人の家にも救援物資が届けられた。水、毛布、缶詰、カップラーメン等だった。田を作り、畑を耕している彼にとって、これらの救援物資は「全て不要なもの」だったという。
 しかし、それらを「要らない」と返しても村の役員の人がこまるので受け取ったという。その後、町役場に電話をして「もっと困っている方に渡せないのだろうか」と訊ねると、「救援センターが管理しているので詳しくはわからない。センターでもどこで何が必要かは把握できていないようだ。届け先の指定もあるし、不平等のないように配らなくてはならないし」という話だったそうだ。
 実際のところ、新潟県庁に全国から届いている救援物資の段ボールの量は並の数ではない。その膨大な救援物資を県の職員が被災者に届けるとしたら、膨大な作業量だ。この友人が聞いたところでは阪神大震災でも最終的に配りきれなかった物資をかなり焼却処分したということだ。新潟でもそうしたことが起きかねない。友人は「せめて海外の難民キャンプなど、それらを本当に必要とするところへ届けることはできないものか」と言っている。
 友人もいうのだが、「物資を送ることは難しいことだ。力になりたいという気持ちが現実に生かされるとは限らない。自治体や部落が直接必要なものをリストアップして公表し、合致するものを受け入れるとか、もしくは専門の業者が出来たらいいなあとおもう。あとはやはり一番必要なのは現金で、これが一番助かるというのが本音でしょう」ということだ。
 これは確かにむずかしいことだと思う。以前、フイリピンの友人から街の大火災で救援物資を要請され、取り組んだことがあったが、その時にも思ったが、何でも送ればいいというものでもないし、自分が要らないものは相手だって要らない可能性もある。特に古着などを届ける時は慎重さが必要だ。自分の要らないものを在庫処理のような気持ちで送ったりするのは送る方にとっては自己満足にはなっても、相手はもらっても迷惑なこともある。また救援物資は出すだけで届くのではなく、運搬手段が必要であり、相手に届ける手配が必要だ。ともすると私たちは供出するだけで、安心してしまうことがあるわけだ。そこまで考えて送るのでないと、物資を送るのは考えものなのだ。
 友人が毛布やカップラーメンをかかえて困っている様子が目に浮かぶ。
 話はとぶが、スマトラ沖震災の「救援」に押しかけた自衛隊のヘリコプターが現地の住民の家の屋根を吹き飛ばしたという報道があった。まったく、もう。 (T)