人民新報 ・ 第1159 号<統合252号>(2005年2月25日)
目次
● 米陸軍第1軍団司令部は来るな! キャンプ座間を包囲
● 2・11 日本原で岡山県民集会
● 郵政民営化に異議あり!2・13市民のつどい(大阪)
● 戦争ができる国づくりに警告 靖国国営化阻止・建国記念の日粉砕集会
● 第7回日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議公開シンポジウム
● コスタリカの学生 ロベルト・サモラさんが来日・記者会見
● 図書 紹介 / 植村 邦 「イラク侵攻に揺れるヨーロッパ」
● 複眼単眼 / 岡本喜八、赤毛、そして相楽総三
米陸軍第1軍団司令部は来るな! キャンプ座間を包囲
雨をついて座間基地包囲
二月一九日、冷たいみぞれまじりの雨の中、「第一軍団は来るな! 2・19キャンプ座間司令部包囲行動」は労働者・市民など二六〇〇名が結集して闘われた。
座間基地は、神奈川県の相模原、座間両市に、またがる約二三五ヘクタール(東京ドーム五一個分)で、ここには在日米陸軍兼第九戦域陸軍地域コマンド司令部、第一軍団(前方)連絡事務所、在日米陸軍第一七地域支援群及びその管下部隊が置かれ、在日米陸軍の中枢部として、各種指揮命令の統轄をしている。このほかにも、米陸軍第七八陸軍通信大隊、国連軍後方司令部など組織系統を異にする部隊等が置かれている。また、陸上自衛隊座間分屯地もある。米軍はここに、米軍の世界的再編(トランスフォーメーション)の一環として、現在アメリカ・ワシントン州にある米陸軍第一師団司令部を移転させようとしている。
集会は、神奈川平和運動センター、「基地撤去を目指す県央共闘会議」、「キャンプ座間への米陸軍第一軍団の移駐を歓迎しない会」などによる実行委員会の主催で開かれた。集会は、主催者のあいさつにつづき、大出彰民主党衆議院議員、阿部知子社民党衆議院議員、伊知地るみ神奈川生活者ネットワーク運動副代表が連帯の発言。メッセージは地元・相模原市の小川勇夫市長、沖縄宜野湾市の伊波洋一市長、ヘリポート建設阻止協議会・命を守る会の金城祐二代表世話人のものが紹介された。
相模原市長のメッセージは次のように述べている。
「基地の整理・縮小・早期返還は、相模原市の市是であり、相模原市民の悲願です。このキャンプ座間に、米陸軍第一軍団司令部等を移転させる構想が進められようとしていますが、市と市米軍基地返還促進等市民協議会では、基地の機能強化・恒久化に繋がる動きに対しては、ノーであること、そして、都市化・過密化が著しい市街地の中に、長年居座っている米軍基地のあり方を早急に見直すことを再三にわたって政府に強く申し入れしてきました。また、米国大使館にも赴き、本市の実情と市民の意向を大統領にお伝え願いたい、と要望もいたしました。昨年、相模原市は市政施行五〇周年を迎え、新たな五〇年に向けてスタートしました。次世代に誇れるまちづくりを進める上でも、基地問題の解決は不可欠です」。
アピール(別掲)を確認して集会が終わり、花火を打ち上げての合図で「人間の鎖」で基地を包囲する行動がはじまった。午後三時過ぎ、基地正面ゲートを中心に、参加者が手をつなぎ、「第一軍団司令部は来るな」「基地を返せ」などのシュプレヒコールをあげた。
米軍は、先制攻撃戦略の下で、世界的に兵力を配備し、自衛隊および日本全土をその戦略にいっそう強固に組み込み、日本政府はそれに積極的に応じようとしている。だが、沖縄の普天間基地ヘリ墜落・爆発事故で明らかになったように、米軍基地の存在は極めて危険な存在であることが多くの人にr痛感されるようになり、世界各地で反米軍基地闘争がおこっている。ラムズフェルド米国防長官も「歓迎されないところには基地はおかない」と言わざるを得ない状況だ。米軍は二〇〇八年に同じ神奈川県の横須賀を原子力空母の母港にすると言っているが、米軍当局者からも反対が大きければ原子力空母を断念して在来型の空母を修理して使わざるをえないなどという発言もあった。いまこそ、米軍再編、基地機能強化、日米軍事同盟の強化に、広汎な民衆の大きな反対の声をぶつけていかなければならない。
日米2プラス2
二月一九日、アメリカ・ワシントンで、日米の外務、防衛担当閣僚による「日米安全保障協議委員会」(SCC)いわゆる「2プラス2」の会議が開かれた。
この協議にはアメリカ側からライス国務長官、ラムズフェルド国防長官、日本から町村信孝外相、大野功統防衛庁長官が出席し、米軍と自衛隊の役割分担、在日米軍の再配置などにより、世界的規模で日米のパートナーシップをさらに強化し、さまざまな事態に共同で対処する共通の戦略目標を設定した。
外務省は、「2+2」共同発表のポイントを以下のように列挙しているが、多岐にわたるとともに、きわめて多くの問題を含んだものである。
「日米安保体制を中核とする日米同盟の重要性を確認。
アフガニスタン、イラク、津波災害支援、PSI(大量破壊兵器拡散阻止構想)における日米協力の実績を評価。
弾道ミサイル防衛における日米協力を更に前進させる旨確認。
日米の共通の戦略目標を確認。
安全保障環境を確認(テロ・大量破壊兵器等の新たな脅威、アジア太平洋地域における不透明性・不確実性の継続と新たな脅威の発生等)。
北朝鮮の六者会合への速やかかつ無条件での復帰、検証の下でのすべての核計画の完全な廃棄を要求。
共通の戦略目標を、各々の努力、日米安保体制の下の協力、その他の同盟国としての協力を通じて追求していくことを確認。
共通の戦略目標の内容を確認:↓地域: 日本の安全/地域の平和と安定、朝鮮半島の平和的統一、北朝鮮に関連する諸問題の平和的解決、中国の責任ある建設的役割を歓迎し協力関係を発展、台湾海峡を巡る問題の平和的解決、中国の軍事分野での透明性向上、ロシアの建設的関与等/↓世界:
国際社会での民主主義等の基本的価値推進、国際平和協力活動等における協力、大量破壊兵器不拡散、テロ防止・根絶、国連安保理の実効性向上(日本の常任理事国入り)等。
今後の日米の安全保障・防衛協力の強化を確認。
日米双方の安全保障及び防衛政策の発展のための努力を支持・評価。これらの努力が日米協力を強化するものであることを確認。
多様な課題に実効的に対応するための自衛隊と米軍の役割・任務・能力の検討を継続。
在日米軍の兵力構成見直しに関する協議を強化。抑止力の維持と地元の負担軽減へのコミットメントを確認。
地域社会と米軍の良好な関係推進のための継続的努力の重要性、SACO(沖縄に関する特別行動委員会)最終報告の着実な実施の重要性を強調。
接受国支援に関する現行特別協定終了後の措置についての協議開始」。
北朝鮮問題については、共同して、北朝鮮の六カ国協議への「即座の復帰」と核計画廃棄を要求し、ウラン濃縮計画を含むすべての核計画の完全廃棄を求めた。拉致問題の「迅速、完全」な解決を求めた。
また、台湾問題にはじめてふれたことが特徴的だ。共同発表は、「台湾海峡をめぐる問題の対話を通じた平和的解決を促す」と表現しているが、アメリカやヨーロッパの主要メディアは一斉に、日本が台湾海峡有事の際に、軍事的役割を含めた関与拡大への決意を示す場となったと報じている。中国外務省はただちに、「重大な関心」を表明するとともに「中国政府は、米日両国が中国の内政に干渉し、その主権を損なうことに断固反対する」と述べた。
日米両政府は、「数カ月以内」に基地の再配置、役割分担の見直しなどに結論をだすとしている。こうした動きは、日米安保体制を全世界へと拡大するとともに、東アジアにおいて緊張を激化させるものである。しかし、ブッシュ・小泉の戦争政策は、イラクの状況に象徴されるように、世界的に反米の運動が展開されるなど大きな困難に直面している。こうした事態を、かれらはいっそうの軍事力強化よって突破しようとしているが、これは一段と民衆の怒りを拡大させるだけである。日本の民衆は全世界の人びととの連帯を強め、イラク反戦、米軍基地撤去、日米軍事同盟反対の運動をいっそう前進させていこう。
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みんなの知恵と声を集め。第1軍団司令部のキャンプ座間移転をやめさせよう
今日、私たちは“人間の鎖”でキャンプ座間司令部を包囲する。何ケ月もかけて準備をし、大勢の人々が知恵を集め、参加者が創意工夫を凝らし、基地司令部を取り囲む。
私たちは、第1軍団司令部を歓迎しない。
キャンプ座間は旧日本陸軍によって設置され、1945年からは在日米陸軍が駐留し続けている基地だ。実に70年近くも地元市民を押しのけて、軍隊がこの広大な土地に居座り続けているのである。こんな不合理を、私たちは次の世代に押しつけることはできない。
第1軍団司令部は、米軍が世界の半分の地域で行う戦争、軍事行動の作戦指揮を行う部隊だ。現行の日米安保条約に定める「極東条項」にも違反することは明らかである。だから、私たちは第1軍団司令部の移転を絶対に認めることができない。
キャンプ座間を抱える相模原、座間の両市も、移転によって基地が強化、恒久化されるとして再三にわたって絶対反対を表明している。市内各所に、横断幕や懸垂幕をかけ、移転反対を呼びかけている。市民も自治体もこぞって第1軍団の移転を歓迎していないのだ。
折しも今日、米軍再編問題を協議する日米安全保障協議委員会が行われているが、私たちは「歓迎しない」の声をさらに大きくする必要がある。今日の包囲行動の成功をステップに、第1軍団のキャンプ座間移転をやめさせる運動を強めよう。
2・19キャンプ座間包囲行動参加者一同
2・11 日本原で岡山県民集会
2・11反核・軍縮・日本原基地撤去岡山県民集会が、今年も日本原現地で開催されましたので報告します。
集会は、例年通り部落解放同盟の内海さんの司会で始まり、主催者を代表して福島共闘会議議長あいさつ、大石弁護士あいさつ、東京日本原農民と連帯する会の澤村さんからの「問題提起と連帯のあいさつ」、現地農民・内藤さんからの「現地報告と謝う決意表明」、『自衛隊は日本原から出て行け』大声コンテスト、集会アビール採択、美作平和センター議長の『団結ガンバロー』で閉会しました。
集会後は例年通り『平和憲法の会・岡山』のメンバーを中心とした有志四〇名が日本原駐屯地まで三キロをデモ行進しました。
以下、集会の中での発言です。
大石和昭弁護士
「一月二六日一五三名の原告団と三一名の弁護団で『イラク派兵差し止め訴訟』を起こしました。この闘いは、憲法九条を生かす闘いであり、憲法九条を世界に広める闘いでもあります。第二次、第三次と原告団を増やし、原告団を県下全域に広めると同時に、弁護団も増やして行きたい。あらゆる分野で力を合わせ、共に頑張りましよう」。
連帯する会・澤村武生さん
「世界申の人々が見守った一一月の米国大統領選挙は世界中の民主人士の期待を裏切ってブツシユが再選されました。ブッシュの再選は、ネオコン勢力によるものですが、彼らの基本姿勢は、『イスラエルの安定こそが、中東の平和』というものであり、それはパレスチナの圧倒的犠牲によってしかありえない。穏健派と言われたパウエル国務長官の後釜に座ったライス、続投のラムズフェルド国防長官、ウォルフォウィッツ国防次官などの顔触れをみると、ブツシュ二期目はもっと悪くなると考えられます。イラクでは多国籍軍の軍事力の下で、選挙が強引に行われました。投票率は高かったと言われていますが、スンニー派は選挙をボイコットし、シーア派の片肺飛行での選挙に終わりました。隣のイランがシーア派政権ですから、近隣諸国は、シーア派支配が自国に及ぶ恐怖におびえています。アメリカはイラクに民主主義どころか、逆に新たな困難を背負わせたと言えます。イラク国内の状況は、米軍にとって大変厳しい状況と言わざるをえません。圧倒的武力でフセイン政権を打倒したものの、イラク人民の低抗闘争は止まることなく続き、ファルージャの大虐殺をもってしても、イラク人民の抵抗闘争はまったくもって衰えることを知りません。米軍の死者は一三〇〇名を越えました。イラクの民衆の死者は一〇万人を越えました。ブッシュは二月二日上下両院合同会議において『イラクの自由が、今後、何世代にわたって米国の安全を保障する』と演説し、イラクにおける軍事力を強化することを強調しました。そのために世界的な米軍の配備の見直しを行い、地上部隊の再構築に重点をおくこと、具体的には陸軍や海兵隊などの部隊の再編・再配置、装備の近代化を行うというものです。そのために、米国の財政赤字は大変な状況ですが、国防費は四・八%と突出しての増加となっています。小泉は相変わらずブツシュの尻馬に乗ってインドネシアのスマトラ沖大地震・インド洋大津波に便乗して、自衛隊の海外派兵を常態化しようとしています。自衛隊の海外における活動は、自衛隊法からいえば、自衛隊の本務ではありませんが、これを本務化しようというのです。また小泉はこれまで実現できずにいた『集団自衛権』を国会で承認させようとしています。また防衛庁を国防省に格上げしようとしています。この二つが認められなければ、自衛隊が完全な軍隊とはいえないからです。勿論、憲法九条が邪魔です。ですからどうしても改憲を実現しなければならない。すでに改憲戦略を打ち出していた日商に続いて日本経団連や経済同友会も改憲戦略を打ち出し、財界三団体の改憲戦略がそろいました。これらの団体は、従来改憲については慎重な姿勢を示してきたのですが、今回、一挙に改憲に打って出ようというのです。経団連は自民党に対する政治献金の自粛を解き、さらに改憲のために民主党の抱き込みを図り、民主党にも政治献金の対象を広げています。一月八日、自民党の第七一回大会が開かれましたが、教育基本法の改悪、靖国参拝推進とならんで、一一月までに新憲法草案をまとめるとしています。ブッシュの一般教書演説では、イラク、イラン、シリアなど中東に対する支配介入に比べ、北朝鮮を初めとする東アジアに対する熱意が薄いように感じられますが、そうではありません。日本帝国主義のねらいは中東における米戦略の要請に応えるだけでなく、極東における日本の支配戦略の確立を目指すことだといえます。日本の人民としては、ブッシュの中東における侵略戦争に反対し、ブツシュに追随する小泉政権と闘いぬくことは勿論ですが、日本帝国主義の真の狙いがアジアにおける支配権の獲得にあることを見抜き憲法改悪を始めとする小泉の策謀と闘わなければならない。われわれの闘いが、ブッシュ・小泉という『悪の枢軸』と対決するものである限り、全世界の人民との連帯が可能であるだけでなく、連帯は必然のものです。情勢は厳しいからといってひるんではならない。夜の明ける直前がもっとも暗闇だといわれます。今、ここに、意を同じくするこれだけの人々が集まっている、日本原に思いを馳せ、日本原を語り、また日本原現地に集い闘いを共有し発展させましょう。そうすれば自ずと展望は開けて来ます。私も命が続く限り日本原へ駆けつけます。共に頑張りましょう」
日本原現地農民の内藤秀之さん
「一月二六日『自衛隊のイラク派兵差し止め訴訟』が提訴された。多くの人々が原告団に加わることが必要だと考えている。私も長く日本原闘争を現地で闘って来たけれど、はっきりと言えることは、軍隊は、人々の生活を破壊することはあっても、守ることはあり得ないと言うことです。平和は、軍事力によってもたらされるものではない。平和は、平和を求める人々の運動によってしか築かれない。平和を願う人々がどう力を結集するのかが日本原闘争に求められている。毎年、日本原闘争は二月一一日から始まる。今年も多くの人々の結集でこの集会が開催出未たことを嬉しく思っています。日本原闘争は、七〇年代から八〇年代は二〇〇〇名を越える学生・労働者が結集し、実射阻止闘争も激しく闘われて来ましたが、今や当時の一割程度の結集になってしまいました。でも、毎年2・11には現地集会が開催され、通年的に自主耕作、演習場視察学習会など多種多彩な取り組みが続けられることによって、現地農民の人々と連帯する闘いとして続いてきています。今年もまた、日本原闘争を闘い抜きたいと考えています。共に頑張りましょう。
なお、自主耕作の問い合わせは、内藤秀之さん(岡山県勝田郡奈義町宮内)へ。
(岡山通信員)
郵政民営化に異議あり!2・13市民のつどい(大阪)
二月一三日に大阪市で、「郵政民営化に異議あり!2.13市民のつどい」が開催された。
会場となった大阪コロナホテルには一六〇人を超える人びとが参加し、郵政民営化阻止にむけた市民・労働者の共同の取り組みとして成功を収めた。
主催者を代表して、小沢福子・大阪府議があいさつ。
「消費者として郵政民営化問題は見過ごせない問題だ。サービスの公共性はどうなるのか、質は低下しないかは大きな問題だ。郵政で働く労働者の状態はどうなるのか、職場が安定的でないと正しい消費もできない。今回のつどいを地域の中で郵政民営化問題を大きな議論にしていく第一歩にしていこう。」
講演は、高橋伸彰さん(立命館大学教授)。
「民営化とは郵政サービスを『商品』とすることで、どんな約束をしても結局は儲からないところは切り捨てられることになる。『儲かることは何でもやるが儲からないことは何もやらない』というのが民営化の本質だ。郵政民営化を止めることが大事なことで、妥協することは一歩の前進にもならない。民営化を、そして、公共サービスとしての郵政サービスを維持していくことが大切なことだ。」
利用者の立場からも、郵政で働く者の立場からも、明快な講演であった。
第二部は、「郵政クビ切り物語」のビデオ上映。
全逓の反マル生・越年闘争とそれに対する4・28処分、全逓本部の闘争放棄以後の自立した反処分闘争、そして昨年六月に東京高裁で勝利判決を勝ち取るに至る闘いの軌跡が描かれる。
「職場の状況がわかる」「闘いの息吹が感じられる」と好評であった。
最後に、フロアーからの発言。
関西障害者定期刊行物協会の楠敏夫代表は第三種、四種問題について、アタックジャパンの稲垣豊さんは新自由主義のグローバリゼーションに反対する闘いについて、郵便局で働く「ゆうメイト」職員から職場実態について、また箕面市議の中西とも子さんから地方自治体の民営化問題について、それぞれ発言があった。
まとめとして、郵政ユニオン近畿地本・三木委員長が「生産者・消費者、すべての人が力を合わせて弱者切捨ての社会に警鐘をならし対抗していくことが大切」と締めくくった。
小泉首相が進める郵政民営化を批判し、反対する大きな闘いの輪をつくっていこう。
戦争ができる国づくりに警告 靖国国営化阻止・建国記念の日粉砕集会
二月十一日、東京都千代田区の日本教育会館で、第三九回靖国国営化阻止・建国記念の日粉砕2・11東京集会が行われ一五〇名が参加した。
集会のサブスローガンは「平和憲法を生きる!」「『靖国違憲参拝』『「教育基本法改悪』『日の丸・君が代の強制』に抗する!」。
集会では高田健さん(市民連絡会)が「平和憲法を生きる」と題して講演した。
講演では「昨年末にでた自民党憲法改正草案の作成に、現役の陸上自衛隊幹部がかかわっていた。これはクーデターにも等しいものなのに、永田町もメディアも問題にしない世の中になっている」と指摘した。さらに中曽根元首相と鳩山民主党元代表の改憲試案と、日本経団連など財界三団体の改憲への意見書について批判した。またアフガンやイラクへの自衛隊派兵をすすめ、派兵恒久法の準備まで来ていると指摘した。しかし「改憲に賛成の人でも九条を変えることには反対の人が、世論調査では六割を超えている。こうした声を集め改憲反対につなげていくことができる」と結んだ。
集会の後、参加者はにぎやかな神保町の通りから御茶ノ水までデモ行進をして、「建国記念の日粉砕」、「憲法擁護¥などを訴えた。
第7回日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議公開シンポジウム
一刻も早く日本政府は正式な謝罪を! 日本軍「慰安婦」問題解決促進法の実現を!
二月十三日、東京の日本韓国YMCAホールで、第七回日本軍「慰安婦」問題アジア連帯会議公開シンポジウムが開かれた。
はじめに第七回アジア連帯会議の参加者を代表して韓国のチョン・スクチャさんが「会議では国民基金(女性のためのアジア平和国民基金)で分断された女性たちが、もう一度連帯できた。自国政府を敵とする日本の闘いに敬意を表するし、期待する」と語った。
柴崎温子さんは、「フィリピンから三団体が初めて顔をあわせた。戦後六〇年を機会とする運動の展開のしかたと、日本政府の国民基金の各国での実態が報告された。基金を受け取ったか受け取らなかったかではなく、被害者が納得する解決が第一で、被害回復の原則に沿った日本国内での法制化が課題だ。国連への働きかけや、八月に世界同時デモなどにとりくむ」と連帯会議の様子を簡単に報告した。
被害者女性からの挨拶では、台湾から鄭陳桃さん、陳品さん、フィリピンからルシア・ミサさん、トマサ・サリノグさん、ベアトリス・トゥアソンさん、中国からは劉面煥さん(本人は来日せずビデオと弁護士の康健さんからのメッセージ)、韓国からシム・ダリョンさんの七人が証言し、「十年以上の前から証言している。お金ではなく、死ぬ前に日本政府の正式な謝罪が欲しい」「日本の国連常任委員会入りは認められない」と被害者の共通の思いが語られた。
つづくシンポジウムでは五人が問題を提起した。 チョン・スクチャさん(韓国挺身隊問題対策協議会)は「韓国の真相究明活動と過去史清算運動」について話した。チョンさんは韓国での「慰安婦」被害者への生活支援や真相調査、法制化などの運動についてふれた。さらに「今年が解放六〇年、韓日国交正常化四〇年、日帝占領一〇〇年の歴史的節目の二〇〇五年であり、日帝占領下の真相究明法や外交文書の公開など、未来を正しく見つめるための運動が展開されている。しかし韓国内だけで進行するのは半分の作業だ。日本でも過去史の清算を進行させ、ともに未来を建設しよう」と語った。
西野留美子さん(VAWW−NETジャパン)は「政治家のNHK番組介入の背景と記憶の改ざん」について話した。西野さんは、安部晋三議員の、「弁護人もいない、模擬裁判ともいえない」などの女性国際戦犯法廷批判について、被告側の陳述者として三人の弁護士をアミカスキュリエ(法廷助言人)として置いたこと、裁判官はいずれも国連の機関で活躍している国際法に造詣の深い法律化であることなどをあげて反論した。またNHKの番組について「最後に消されたのは、被害者、加害者の日本兵という当事者の声だった」と指摘した。
申惠豊さん(青山学院大学)は「重大な人権侵害と国際法」について報告した。申さんは、一九九〇年代前半に旧ユーゴ紛争での女性への組織的強姦と日本の「慰安婦」問題の表面化が、重大な人権侵害として具体化し、女性に関する国際法が進展したと指摘した。さらに「重大な人権侵害の被害者が救済を受ける権利について国連人権委員会で議論が重ねられていることの経緯からみても、日本軍の被害者個人が人権侵害について救済を受ける権利に基づき日本の国内裁判所に救済を求めることができる」と報告した。
中国人「慰安婦」裁判弁護団の弁護士の山田勝彦さんは、「「慰安婦」裁判の成果と課題」について話した。山田さんは「『慰安婦』裁判は困難に見えるが、これまで被害者の請求を棄却してきた三つの壁である国家無答責、除斥期間、個人の賠償請求放棄は越えられない壁ではない。平成十年に最高裁判決は予防接種の事件で請求権が消滅しない一部の例外を認めた。戦後補償裁判、とくに強制連行や強制労働事件では勝訴判決も勝ち取ってきている。後は勝訴判決や勝訴的和解を続け、世論を喚起できるかにかかっている」と話した。
最後に「『慰安婦』立法の制定実現にむけて」の課題を、勝木一郎さん(岡崎トミ子議員秘書)が報告した。二〇〇一年から立法が試みられた、日本軍「慰安婦」問題解決促進法についての経緯を報告し、今国会で委員会での趣旨説明、衆議院との連携や自民・公明への働きかけなどについて話した。
集会では、@「国民基金」は被害女性の尊厳回復にはならず、「償い金」を受け取ったかどうかに関係なく失敗であった、A日本政府が公式謝罪・補償・真相究明を実行するまで日本の常任理事国入りを認めない、などの確認事項や、日本軍「慰安婦」問題解決促進法の実現などの戦後六〇年緊急行動と国際連帯行動をふくむ決議を採択した。
なお、VAWW−NETジャパンは「従軍慰安婦」という呼び方に関する見解と提案を発表した。それによると、「慰安婦」または「日本軍『慰安婦』」という用語を使うこと、制度については「日本軍性奴隷制」または「日本軍『慰安婦』」制度」、「『慰安婦』制度」という言葉をつかうことを提案した。
ブッシュのイラク戦争を支持するのは憲法違反だ!
コスタリカの学生 ロベルト・サモラさんが来日・記者会見
アメリカ・ブッシュのイラク戦争に反対するさまざま形態の運動が世界中で闘われている。その中でも、中米コスタリカの学生ロベルト・サモラさんの違憲訴訟はとてもユニークなものだ。コスタリカの憲法は第一二条で軍隊を禁止し、他国に宣戦布告することを禁じている。コスタリカでは、一九四九年に「軍隊の非保持」を定めた憲法を施行し、一九八三年には「永世・非武装・積極的中立宣言」を発表し、軍隊の保持についてのアンケートでは、国民の八割以上が「非保持」を支持という結果が出ている。にもかかわらず、二〇〇三年三月にコスタリカ政府はブッシュのイラク戦争を支持した。ホワイトハウスのホームページには、アメリカへの支持を誇示するために、イラク戦争を支持する国のリストが載っていて、コスタリカの国名がある。もちろん日本もある。
しかし、二〇〇四年九月一七日、そのリストからコスタリカの名前が消えた。それは、ロベルトさんたちの違憲訴訟の勝利によるものだ。コスタリカ最高裁は、〇四年九月八日に「イラク戦争の支持は憲法違反」という判決を下し、戦争支持国リストからコスタリカの名を削除するようアメリカ政府に申し入れるようにに命じたのだ。
「イラク戦争支持は違憲」というコスタリカ最高裁の判決をかちとった原告のロベルト・サモラさんが来日し、二月一八日から三月八日まで沖縄から北海道まで各地で講演をし、学生や市民運動、弁護士、政治家などと交流を行う。これは、内田雅敏弁護士、土井たか子衆議院議員(社民党)、矢田部理元参議院議員(新社会党)などで構成する「ロベルト・サモラ君を招く会」によるものだ。
日本へ到着そうそうの一八日、衆議院議員会館で、記者会見が行われた。
はじめに、招く会の呼びかけ人からの発言があった。
土井たか子衆議院議員。
私は、コスタリカに軍隊をもたない憲法があり、それにたいへん注目していたので、前から是非一度訪問して意見交換・交流をしたいと思っていた。とうとう昨年九月にコスタリカに行くことができた。そのころブッシュの戦争を支持するのは違憲だという最高裁の判決があり、それも七人の判事全体の意見だった。判事にも会いたかったが、もう一人会いたかったのが、提訴した人だ。大統領をはじめ政府がアメリカを支援したが、それに反対するロベルト君やそれにつづく人たちがいた。ものすごいパワーだと思う。希望がもてる状況に一歩が踏み出された。日本でもロベルト君の話を大勢の人に聞いて欲しいと思って日本に招いた。
東門美津子社民党衆議院議員。
私は沖縄選出の議員だが、明日は早速ロベルト君に沖縄に行ってもらう。そして普天間基地のヘリ事故が起こった沖縄国際大学など多くの若い人たちに話を聞いてもらいたい。平和を希求する新しい動きをつくっていきたい。
吉岡達也さん(ピースボート共同代表)
ロベルト君が来日した意義は大きい。日本国内では憲法九条などは世間とかなり離れているのではないかという状況がつくられている。しかし中東などではずいぶん違う。日本の平和憲法の話をすると人びとは大変びっくりする。かれらは、そんなにいい憲法があるのなら、なぜもっと宣伝しないのか、そういう憲法があったから日本は平和に発展できたのだろうから、と言う。コスタリカにも軍隊を認めない憲法がある。日本の憲法九条も世界の多くの人が認めるのではないかと思う。
高田健さん(許すな!憲法改悪・市民連絡会)
長い間、憲法の運動をやってきたが、平和憲法をもつコスタリカにはずっと心を寄せてきたし、勇気づけられてきた。ロベルト君たちの闘いとおなじく、日本の憲法九条も不断の努力で守っていくものだ。コスタリカのような憲法をもつ政府も誤ったときは批判して正しい道に引き戻さなければならない。ロベルト君と日本の市民運動との交流は大変役立つものとなるだろう。
そして、ロベルト・サモラさんが発言。
私の住んでいるコスタリカでは、五〇年も平和憲法があり、このことを当たり前、当然と考え、この憲法を守るために何かするということはほとんどない状況もある。学校でも憲法についてはほとんど教えられない。コスタリカ人は国際問題にも関心がないし、他の文化にも関心がない。しかし、アメリカの戦争に反対する行動には二万五〇〇〇人が集まった。コスタリカの人口は四〇〇万人だからこの比率は高い。私にとって日本で興味深いのは、年配者と若者が一緒に運動をやっていることで、若い人たちに平和憲法の大切さを話し、きちんと伝えようとしていることだ。戦争は人を殺し、さまざまな負担も多い。平和ということは人類の夢だが、これにはまったく金がかからない。憲法訴訟の判決はよかったが、アメリカのホームページからコスタリカの名前を削るだけでなく、コスタリカ政府として国際的に謝って欲しかった。日本に来たのは、憲法を守ろうとする人たちになんらかのインパクトになればいいと思ったからだ。各地で多くの人と話しをしたい。
ロベルトさんの予定は、一九日(沖縄市)、二〇日(那覇市)、二一日(東京)、二二日(旭川市)、二三日(東京)、二五日(東京)、二六日(水戸市)、二七日(東京)、二八日(広島市)、三月一日(豊中市)、二日(神戸市)、三日(大阪市)、そして八日に帰国する。
講演その他の問い合わせは、招く会事務局<東京都港区赤坂二―一〇―一六 赤坂スクエアビル「アジア人権基金」内> 〇三(五五七〇)五五〇三。
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資 料
行政府によるイラク戦争関連の合意についての判決
二〇〇四年九月八日
コスタリカ共和国最高裁判所・憲法法廷
本日、九月八日水曜日午後の評決により、憲法法廷は三件の違憲の訴えにつき以下のように決定した。訴えは、二〇〇三年三月一九日にイラク戦争に関して行政府が行った合意に対し、ルイス・ロベルト・サモラ・ボラニョス、弁護士協会、及び護民官の三者によってなされ、憲法と永世・積極的・非武装中立宣言、国連、国際人権規約に違反するとの内容であった。本合意及びそれに付随するいっさいは無効となる。最後に、憲法法廷は行政府に対し、米国政府に対してホワイトハウスのホームページに掲載されている有志連合のリストから我が国の名を削除するための必要手続きをとるべきであることを指示する。
評決はソラーノ・カレーラ判事ら七人の満場一致で行われた。
判決原文
憲法、国連、コスタリカが受け入れた国際人権規約に違反するとの結論をもって、二〇〇三年三月一九日に、行政府がイラク戦争及びそれに付随するすべての行為について行った合意を無効とする。米ホワイトハウスのウエブ・ページに掲載されている有志連合のリストに我が国の名が掲載されていることに対し、共和国政府は米政府に対して必要な措置をとれ。この判決は司法報告、政府広報紙「ラ・ガセタ」に掲載せよ。以上、通告する。
(翻訳は、コスタリカの人々と手をたずさえて平和をめざす会共同代表・伊藤千尋さんによるもの)
図書 紹介
植村 邦 「イラク侵攻に揺れるヨーロッパ」
新泉社 2500円
著者の植村さんは、「二〇世紀の社会主義運動のかなりの部分を同時代的に生きてきた一人」として、「この歴史的運動(特に共産主義的な構成部分の成果と限界)とについて書き留めたいと思って」、『イタリア共産党転換の検証』(新泉社、一九九九年)、『二○世紀社会主義』(同、〇〇年)をだし、また、マルクス・レーニン主義と社会民主主義という「二つの構成部分の連続性と断絶性を検討するために」『フランス社会党と「第三の道」』(同〇二年)を、そして〇四年四月に本書を出版した。
ヨーロッパでは、ソ連型「社会主義」・運動の崩壊後、社会民主主義の時代が来たとされた。だが、その後直ぐに、ヨーロッパ社会民主主義の「時代に幕」が言われた。本書では、フランスを中心に、社会主義運動再生の展望についての左翼の論議が分析されているが、日本での同様の論議を考える上で有益な視点が多いのではないかと思われる。本書には多岐にわたる論争・提起が紹介されているが、評者はヨーロッパ左翼の動向に詳しくないので、そのいくつかの論点だけをとりあげてみたい。
歴史悲観主義との論戦
西欧マルクス主義の中の、ひとつの流れに「歴史的悲観主義」がある。イギリスの「ニュー・レフト・レビュー」にのったペリー・アンダーソンの論調がそれだ。彼は、一九七六年に「西欧マルクス主義」をロシア革命の退潮とファシズムの台頭が生みだした過程として考察したが、現在は「資本とその敵対者とのあいだの力関係の、後者に不利な相対的変移を確認することに満足しない。彼は、現代左翼のすべてのアイデンティティが根本から崩壊し、「今日、現実主義的な左翼の唯一の出発点は歴史的敗北を明澄に確認することである」と言う。
この「度はずれなメランコリー」にフランスのマルクス主義者ジルベール・アフカルは異議をとなえて、アンダーソンの立場は、「ネオリベラリズムの全能」論であり、「世界的な水準で、系統的に対抗するあらゆる展望がほとんど欠如したという断固たる主張は、『文明の衝突』にかんするS・ハンチントンの主張と同じだ、と評す。そして、「西欧思想の世界」において社会的・イデオロギー的対抗のビジョンが悲観主義によって曇らされており、「もはや有意義な反対が存在しない」、「ネオリベラリズムが全一的に支配している」という主張を批判する。
アフカルはアンダーソンの主張に次のようなものを対置する。たとえば、「学生の間における資本主義批判の思想がない」ということに対して、さまざまな運動の存在、政党代替のネットワークやATTACなどのアソシアシオンの存在がネオリベラリズムとその略奪に「ラジカル」に反対していること、ネオリベラリズムに反対する著書や雑誌などがひろく読まれていることなどをあげる。アンダーソンは「西欧に深刻な経済恐慌が起こらない限り、おそらく安定しているだろう」「二つの大戦の間の不況と同様な規模、あるいはほとんど同様な規模の不況でもないと、今日の(社会的)同意の諸条件を揺るがすことはないであろう」などとしているが、これは、「誇張」であり、「力関係の新しい変化のためのバーを、非常に高く設定」することになっている。「そうではない」とアフカルは言う。「二つの大戦の間の不況と二〇世紀最後の四半世紀の不況のもとで、力関係は左翼勢力に不利な方向へ深刻に移転した。反対に、好況の局面では社会的要求の期待が提起され、その『ラジカリゼーション』に発展する可能性がある。明かなことであるが、今日の世界資本主義の進展を支配するネオリベラルな条件のもとでは、新しい経済拡大は、戦後の『栄光の三〇年』のあいだ、西欧の労働者階級を丸め込んだ『有益な循環』を再現することはできないだろう」。
一九九九年には、シアトルでWTOに反対する大規模な運動がおこり、持続し拡大している。トニー・アンドレアーニは、この事態を高く評価する。だが同時に、当面の「反資本主義的ラジカリゼーション」政策だけでは「未来を切り開く」ことが出来るだろうかと問い、資本主義を越える「ビジョン」(社会主義)が必要で、このビジョンを人びとの中で論議し、人びとの意識にあげることが必要だと述べる。そして、「近年、社会主義的な運動ではないが、伝統的な労働組合、協同組合のそとで、種々の意見合いで『反体制的』な運動が活発になっている。平和、エコロジー、フェミニズム、生活の質、反レーシズム、少数民族の権利、地域共生のための運動などが世界各地で存在し活動している。伝統的な社会主義運動が、『市民社会』で活動するこれらの『異なる社会』をもとめる運動との交流のうちに、自己革新を遂げることは『多元的で統一した左翼』の建設の前提である。『政治社会』における多数派の建設は、社会的な運動を基盤にもたなければならない」。
その後には、ブッシュのイラク攻撃に反対する国際的な反戦運動が展開されている。こうした、さまざまな「異質な」運動に学び、交流する中で、そしてネオリベラリズムと「軍事主義」的傾向との闘いの中で左翼運動再生が展望されている。アンダーソンに代表される悲観主義との論戦などは日本にもっと知られてよいものだ。
社会自由主義に抗して
もうひとつの問題は、社会民主主義の動向だ。九〇年代の後半、ヨーロッパの大国は、イタリア(九六年)、イギリス(九七年)、フランス(九七年)、ドイツ(九八年)と次々に社民党単独、あるいはそれを中心に左翼・中道諸党連合が政権につき、その他の国の政権もあわせて、ヨーロッパに社会民主主義の時代が到来した。問題は、その政策である。それまでの伝統的な社会民主主義・福祉国家政策から、自由主義的国家との中間へと軸心を移す社会自由主義の流れが拡大した。その典型はイギリスのブレア労働党政権である。冷戦終結と経済のグローバリゼーションのなかで、ヨーロッパの左派は右にシフトし、福祉削減、民営化の促進、規制緩和という保守の政治をとりこみ支持を拡大させたが、失業や移民流入、それらは欧州統合への不安とあいまって、有権者の社民党ばなれをおこし、右派が巻き返した。こうした状況にたいして、左派は再び「左」にいくのか、いっそう右傾化するのかが問われている。ここでも今後の方向をめぐって対立・論戦がある。
一九九八年一〇月に、フランスでコペルニクス協会という組織が設立された。これは、研究者、大学教員、文化、労働組合、政治など各界の活動家が参加し、自由主義とその諸傾向とを綿密に批判し、そして、「われわれの社会の根本的な変革」を目指して、オルタナティブの提案に寄与することを目的としたものである。本書ではその幾人かの論文が訳載されている。「大胆さに欠けるマクロエコノミック戦略」(アンリ・ステルディニアク)、「労働時間短縮に未来があるか」(カトリーヌ・ブロック−ロンドン、トマス・クトロ)、「年金の資金手当か社会の金融化か」(フレデリク・ロルドン)、「貧困と社会的保障 自由主義への緩やかな傾斜」(ピエール・コンシャルディ)、「公共サービス 漸進的な消滅?」(ピエール・カルファ)、「社会的再構成と『リスク』、争点と対置」(クリストフ・ラモー)。
重要な争点のひとつは公共サービスである。ヨーロッパ委員会の指揮のもと、教育のような非商品的公共サービスを単なる商晶に変えようとする攻撃がある。累進課税の改悪と富裕者優遇税制によって国家予算を縮小させること(小さな政府)によって、予算の余地が縮減され、非商品的公共サービスの有効性と正当性が危機にさらされている。教育、水道、電力、郵便などさまざまな分野で規制緩和がすすめられているが、社会自由主義勢力も新自由主義とともにその一環を担い、「漸進的で制御された自由化」の原理を受け入れている。これにどう対抗するべきなのか。
ピエール・カルファは「公共サービス 漸進的な消滅?」の「いかに応えるべきか」で次のように言っている。
「第一にイデオロギーの面で応えることが必要である。市場の論理は全般的利益にとって致命的であること、競争の導入は公共企業を革新させるどころかその土台を破壊させること、公共事業の私営化は『新鮮な空気を吸わせる』どころか窒息させること、こうしたことを主張しなければならない。要するに、市場法則と公共サービスとを融和させたいと言いつつ、公共サービスの消滅を狙っている社会自由主義的構想と正面から闘うことである。そして、@利用者に公共サービスのすべての場を与えることによって、改めてそれに正当性を付与する。このことは、利用者を市民(単なる消費者ではなく)の次元で考えるということを意味する。A排除の問題に応える。一定の数の権利(コミュニケーション、エネルギーの権利など)を定義し、それを享受できる有効な条件を実現するために、関係するアソシアションの協議を開く。B公的な権力に公共サービスの大綱的方向づけの役割を取り戻すことが必要である。C競争と私営化とへの新たな開放を阻止する。D規制解除された分野に公共サービスの給付を強制する。Eヨーロッパ水準で行動する。これは最も難しい核心的問題である。ヨーロッパの公的事業者は競争の論理から協同の論理に移行しなければならない。そのうえで、ヨーロッパ水準でサービスの提供を均質化するように、部門ごとに共通の発展計画、共通の規則を設定することができるだろう」。
ヨーロッパ左翼の伝統
それにしても、本書を読んでいて感じられるは、ヨーロッパ左翼のしぶとさ、伝統の重みだ。
コペルニクス協会の論者は、左翼の理念を自己の議論の土台に置いて、当時のジョスパン政権の個々の政策を批判した。著者はその活動について総括した「左翼理念に立った持続的なオルタナティブ」の項で、「左翼の理念の出発点は共和制の理念(自由、平等、連帯)であるが、それも今日の諸制度のうちに実現された、静止的なものとしてではなく、社会の実践的・理論的な経験によって検証されて、展開されるべきものとして捉えられる。これらの論者の評価によれば、ジョスパン政権と社会党および多元的左翼の主流勢力とは、理念を明確に語らず(言語の二重性)、次第に『現状の維持』に満足し、したがって、現状を包括する『システム』の論理にはまっている。これが、多元的左翼の主流勢力が社会自由主義へ漂流していったメカニズムである」と分析している。
そして、コペルニクス協会は「現在の条件における左翼の理念を具体的に表現する努力」として、@ヨーロッパ水準における「税制的競争」に反対する闘争、A労働時問短縮に伴う労働組織あるいは経営組織の改善の提案。特には、権限の下部への委任の必要性と可能性、B賦課式年金や公共サービスが人びとの連帯と「脱商品化」とに果たすべき役割の強調、C雇用の「質」のための闘いとしての「優位の原理」、D解雇や外注化との闘いとしての「共同活動」、などをあげ、また、問題の核心は「持続可能な生活様式」とそれに相応する「経済の形式」との建設を目指した、「今日の社会」の批判と「異なる社会」への政策提言にある、をあげていることを紹介している。 (MD)
複眼単眼
岡本喜八、赤毛、そして相楽総三
先頃、映画「独立愚連隊」「日本のいちばん長い日」などの作品で知られる岡本喜八監督が亡くなった。日本の資本主義経済の高度成長期に、彼の作品を見たという人はいまも少なくないはずだ。
しかし私はもしかすると多くの人々の記憶から消えているかも知れない一本の岡本作品に特別の思い入れがあった。「赤毛」である。「映画赤毛を見たことがあるか」ときくと、「ああ、あの貧乏医者の話か」といわれることが結構あった。これは映画「赤ひげ」のことだ。確かに主人公を演ずるのは同じ三船敏郎だが全くちがう。「赤ひげ」は一九六五年の黒沢明監督作品で、原作は山本周五郎。時は江戸時代、こころならずも貧民のための医療施設・小石川療養所に配属された青年医師が、いつしか大先輩の赤ひげと呼ばれるベテラン医師に次第に影響を受け、貧しい人々の診療に尽くすというお話だ。
岡本の「赤毛」は一九六九年の作品。時代は青年学生運動が盛んだった頃で、マスコミには反戦とかストライキ、デモなどの言葉があふれていた。この時代、日々、闘争に明け暮れる若者たちには漠然としたものではあっても被抑圧者の解放とか、平等とか、社会主義などの夢があった。
「赤毛」はこのような時代の風をうけながら生まれた作品で、岡本作品には珍しいものだ。
時は幕末・明治革命期。「錦の御旗」を先頭に進軍する倒幕軍の指揮官たちは、みな赤や白のたてがみのようなかぶり物を着けていた。それが「赤毛」だ。三船敏郎が演じる貧乏人のガキ大将が、世直しをめざす草奔の志士・相楽総三の赤報隊にあこがれ、官軍に先駆けて東山道を走り、借り物の赤毛を被って闘い、自分の生まれ故郷の宿場町を悪代官の手から解放する。人々は解放された喜びに乱舞する。しかし、それもつかの間、草奔隊が力をもつことを恐れた官軍の陰謀により、赤報隊も、そしてこの百姓の青年も包囲され、殺される。「赤毛」はたしか、こんなあらすじだったと思う。死地に向かう青年にその母親(望月優子)が言った言葉が思い出される。「息子よ、死ぬな、生きよ。生きていれば何度でも闘える」、うろ覚えだがこんな言葉だった。
「赤報隊」というと、読者は例の朝日新聞阪神支局を襲撃し、記者を銃殺したテロリストの組織名を思い出すかもしれない、実際、「赤心報国」ということばは右翼が好んで使う言葉だ。しかし、幕末の「赤報隊」はまるで違う。
慶応四年三月三日、相楽総三ら赤報隊メンバーは江戸への進軍途中、東山道の下諏訪で官軍により、ニセ官軍として謀殺された。いま、JR下諏訪駅の近くに「魁塚」という石碑群がある。毎年、四月三日(旧暦三月三日)にここで相楽祭が開かれ、町の人々などが集まる。碑にはこう書いてある。
史跡 魁塚
ここは赤報隊長相楽総三以下八士その他の墓である。慶応四年正月江戸城総攻撃のために出発した東山道総督軍先鋒嚮導の赤報隊は、租税半減の旗印を立て、進んだが、朝議一変その他によって賊視され、明治三年同志によって墓が作られた。
相楽らが江戸攻めの先頭に掲げたスローガンはこの「租税半減」、すなわち農民に対する年貢半減の革命的公約だった。しかし、官軍はこれを許さなかったのだ。 (K)