人民新報 ・ 第1174号<統合267(2005年7月25日)
  
                  目次

● 国鉄闘争・鉄建公団訴訟の勝利を!  全国集会に五八〇〇人が結集

● 埼玉ピースサイクル  熊谷、寄居など各地で自治体要請を行う

● 沖縄米軍基地を撤去せよ  在沖米兵の女児強制わいせつ、都市型戦闘訓練施設実弾射撃演習に抗議行動

● 自衛隊は即時イラクから撤退せよ!  岡山自衛隊イラク派兵差止訴訟第一回口頭弁論

● 核とミサイル防衛にNO!キャンペーン2005発足集会  

● 図書紹介  /  内田雅敏著 「これが犯罪? 『ビラ配りで逮捕』を考える」

● 九条の会・有明1万人講演会の成功を!

● 複眼単眼  /  立憲主義と改憲派による憲法擁護義務の転倒




国鉄闘争・鉄建公団訴訟の勝利を!

    
全国集会に五八〇〇人が結集

 七月一五日、「国鉄労働者一〇四七名の解雇撤回!原告団・闘争団・争議団を励ます7・15全国集会」が開かれ、日比谷野外音楽堂には全国から五八〇〇人の労働者、市民が結集した。
 鉄建公団訴訟の東京地裁判決がいよいよ九月一五日に出る。国鉄闘争・鉄建公団訴訟は最大の山場の闘いの時期に入る。この集会はそれにむけて幅広い学者・文化人・ジャーナリスト人によって呼びかけられ、国労の闘う闘争団、全動労争議団、動労千葉争議団をはじめ、多くの支援の労働者・市民が結集して成功させたものだ。
 集会ははじめにJR西日本・福知山列車転覆大事故の犠牲者に対して黙祷をささげた。
 呼びかけ人を代表して山口孝明治大学名誉教授が主催者を代表して挨拶を行い、つづいて、集会に参加した呼びかけ人の鎌田慧(ルポライター)、伊藤誠(経済学者)、下山房雄(九州大学名誉教授)、芦澤寿良(高知短大名誉教授)、立山学(ジャーナリスト)、塚本健(東京大学名誉教授)、戸塚秀夫(東京大学名誉教授)、中野隆宣(ジャーナリスト)、師岡武男(評論家)のみなさんが闘争勝利に向けての激励の発言を行った。
 ジャーナリストの斉藤貴男さんは「JR福知山線事故と一〇四七名の解雇問題」と題して発言。今回の集会は三つの組合が一〇四七名問題で大きく団結して実現できた。すばらしいことだ。歴史にはターニング・ポイントというものがあるが、今がそうだ。日本は戦争、差別、監視の社会となり外に対しては新しい帝国主義として出て行こうとしている。批判し、警鐘を乱打しなければならないが、こうしたことの起点が一九八七年の国鉄の分割・民営化だった。その結果、JR福知山線事故だけでなく、民間でも大事故、不祥事が相次いでいる。それらが日常化されて、郵政、教育、自治体でも同じことがやられようとしている。行き着く先は戦争だ。平和で平等な社会は私たち自身が作り出すものだ。その意味で今日の成功した集会の意義は大変に大きい。
 イギリス鉄道海運労組のトニー・ドナヘイ委員長の連帯挨拶。イギリスでも民営化によって鉄道の安全、社会正義が脅かされている。一九年にわたる長期の闘いに心からの敬意をあらわし、ここに友好と連帯の気持ちを表明する。民営化、グローバリゼーションに国境は無い。世界的に襲い掛かってくる攻撃には労働者は国際的に連帯して反撃していかなければならない。九月の判決で勝利を勝ち取り、大きく前進することを願っている。平和、基本的人権の確立のためにともにがんばろう。
 鉄建公団訴訟主任弁護士の加藤晋介さん。中曽根は国労をつぶして総評労働運動を解体するといった。いま、新しい状況ができてきている。それなのに国労本部は起とうとしない。しかし、二〇〇三年一二月の最高裁判決は、不当労働行為があるなら、その責任は旧国鉄・鉄建公団にあるといい、そこから鉄建公団訴訟がはじめられた。地裁の弁論でもわれわれの側の優位で進んでいる。被告の側は準備書面でも非常に手抜きだ。あとは裁判所にゲタをあずけた、という調子だ。われわれの態度は、なにがなんでも勝つということだ。そして、これまでの闘いの経過を基礎にして、もう一度職場に労働運動を再生していくことだ。こうしてこそ判決が生きてくるのだ。
 つづいて原告団・家族が登壇し、決意表明。国労闘争団鉄道運輸機構訴訟原告団、全動労争議団鉄道運輸機訴訟原告団家族、動労千葉争議団鉄道運輸機構訴訟原告団、国労闘争団鉄道建設公団訴訟原告団からそれぞれ決意表明が行われた。
 集会アピール案が提案され、全体の拍手で確認され、最後に国労高崎地本の中村宗一委員長の団結ガンバローで集会を終わり、デモに出発した。なお、集会カンパは百万円を超えたと報告があった。

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七・一五全国集会アピール

 国鉄分割・民営化により、二度も解雇された一〇四七名の国鉄労働者は、一九年間の長きにわたる闘いのなかで、精神的、肉体的疲労から三四名が他界し、さらに多くの当事者、家族が病気に苦しみながらも、相互の連帯と支援に支えられて人間の尊厳を守る立場を竪持し、不法・不当な解雇の撤回を求めて闘い続けてきている。
 この闘いは、一昨年一二月、最高裁の一票差多数決の反動的判決、昨年六月の六次に及ぶILO勧告に対する政府の完全無視という状況のなかで、高まる「大同団結」による解決をとの声を背景に、これまでより一歩前進した。
 昨年末までに新たに鉄道建設・運輸機構に対する三つの訴訟が提起され、そして三組合に属する四つの原告団による相互の事情を尊重して裁判闘争の勝利をめざす連携関係が生まれたことは運動全体の発展にとって意義あることである。
 そのもとで、鉄建公団訴訟が三年間の原告団と弁護団の奮闘のなかで結審し、九月一五日の判決日を迎えることとなった。すべての関係者は、この判決が一〇四七名解雇問題の今後に大きな影響をもつと受け止め、重大な関心を寄せている。
 一方、四月二五日朝、JR西日本福知山線での死者一〇七名・負傷者五四九名というJR史上最大の大惨事が発生し、日本社会は深刻な衝撃に包まれた。
 国鉄分割・民営化と政府の「規制緩和」は、交通事業の根本理念である「安全」を投げ捨て、「利潤追求」最優先の企業体質をあらゆる面で強化した。その下での大規模な人減らし、人権無視の軍隊的労務人事管理、「日勤教育」の強制、労働委員会の命令や裁判所の判決を無視して反復される不当労働行為、職揚の自由と民主主義の抑圧、こうしたなかで必然的に発生したものが今回の大惨事であることは明らかである。精神医学者の野田正彰関西学院大学教授は、国鉄解体時に「一〇〇人を超える国鉄労働者が自殺し、強制収容所もどきの人活センターに閉じ込められた。今も復職を求める一〇四七人の国鉄マンを無視し続けている。このような国鉄解体の歴史は否認され、働いている人が《無理だ》と言えない会社を造ってきた」と激しい怒りを込めて糾弾している。
 大惨事を引き起こしたこうした企業体質と労働者いじめを安易に容認し、交通事業における国民のいのちを守る「安全」の闘いを軽視した労使協調的な労働組合と労使関係にも厳しい社会的批判が相次いでおり、大惨事が国鉄の分割・民営化と無関係ではないとの認識が国民の中に広がっている。
 JRに真の安全を取り戻し、「いのち」を守りぬくには、国鉄の「安全第一」を守って闘い、解雇されて一九年間、JR復帰を求め続けてきた一〇四七名の地位と名誉を回復させ、職揚に人権と民主主義を確立し、労働組合が労働者と国民に信頼されるまともな組織となることが欠かせないことを改めて確認し、広く国民に訴え、闘い続けよう。
 鉄建公団訴訟判決まであと二ヶ月となった。本日の集会のこの大きな結集、成功をばねに以下の行動を強め、不当労働行為責任を認めさせた判決をかちとり、一〇四七名闘争を大きく前進させ、勝利をかちとろう。
 @ 一〇四七名の解雇者を闘いの解決まで引き続き激励し、支援することを改めて確認しよう。
 A 交通事業の「安全」と国民の「いのち」にとって、労働者の人権と職場の民主主義の保障は不可分であることの宣伝をいたるところで強めよう。
 B 当面二ヶ月後の予断を許さない九・一五判決で、不当労働行為責任を認めさせるために、東京地裁への署名活動、要請活動を引き続き強めよう。
 C 政府、関係省庁、鉄道運輸機構への政府責任による早期解決の要請行動を引き続き強めよう。
 D 議会(国会、地方議会)、政党への支援、協力要請も同時に強めよう。
 E 地方、地域における関係労働組合、支援組織へ「大同団結」路線に立つことを申し入れ、宣伝活動を強めよう。
 F 関西方面を中心に福知山線事故犠牲者家族らのJR西日本への補償等の要求行動を支援し、連帯を強めよう。
 G 地域住民等の社会的運動と連帯して、JR関係労組の安全点検、安全確保の闘いを支援し、交通事業の安全確立のあらゆる運動に参加しよう。

二〇〇五年七月一五日

 国鉄労働者一〇四七名の解雇撤回! 原告団・闘争団・争議団を励ます七・一五全国集会


埼玉ピースサイクル

   
 熊谷、寄居など各地で自治体要請を行う

 全国ピースサイクルは今年で二〇年目を迎えた。三月五日、大阪集会の盛大な催しで05ピースサイクルはスタートを切った。六月四日に行われた国会ピースサイクルは今年で二回目となり、要請行動も幅を広げた。都庁、防衛庁、外務省、総理府などへ「日の丸・君が代」処分抗議、「従軍慰安婦」への補償問題、辺野古米軍基地建設反対など、そして全国からよせられた教育基本法改悪反対、憲法改悪反対、イラクから自衛隊の即時撤退などの抗議要請メッセージが小泉首相あてに手渡された。

 ピースサイクル埼玉ネットは、こうした流れを引き継ぎ、一五年目えを迎えて、七月一四日に実走が行われた。例年だと七月一五日であったが、一五日は東京で「国鉄労働者一〇四七名の解雇撤回、原告団・闘争団・争議団を励ます七・一五全国集会」が開催されるため、一四日となった。また、当日は郵政労組の集会も重なり昨年よりも参加数は減ったものの自治体廻りは昨年実績と同様とすることができた。
 今年も四コース(熊谷、寄居、浦和、与野)で行われた。自治体訪問については、事前に行われたミニピース(七月七日)と当日のを合わせ一八ケ所を周ることが出来た。
 県庁、各市には次のような要請書を提出した。
 日本には、世界に誇る「平和憲法」があります。しかし、その「平和憲法」が戦後六〇周年を迎えた今日、「無視」され、「改正」されようとしています。今、まさに日本は危険な方向(戦争のできる国家体制)に進もうとしているのです。私たちは、この「道」に進むことは断固反対します。一方、地球温暖化や大気汚染などの環境問題や原発問題などは、増々深刻な状況となっています。これらを基調にさらに具体的要請を行った。@貴自治体が行った「平和を願う宣言」(非核平和宣言など)の趣旨を生かすため、必要な予算を計上し、非核・平和のための行政に積極的に取り組まれたいA全世界の核兵器廃絶に向けた取り組みを強化するよう、政府への働き掛けをされたいB広島・長崎に原爆が投下された八月六日・九日には、犠牲者を追悼し、核兵器廃絶を願う思いをこめて、サイレンを鳴らすなどの行動を行い、広報などでその趣旨を広く住民に周知されたい。また、「何らかの行動」を行っている自治体は、引き続き「行動」を継続されたいC自然環境保護政策を推進されたいD自転車道及び歩道の整備を推進するなど、自動車中心社会の緩和政策を推進されたい。
 ある市では@〜Eについて後日書面による回答を約束するところもあり、平和行政に力を注いでいることをメッセージに示していた。また、メッセージにはピースサイクル埼玉ネットに対する一五年目を迎えたことに敬意をあらわすとともに、広島、長崎原爆投下の悲惨さを、また、埼玉での空爆被災を風化させてはならないと訴えていた。
 今年の埼玉ピースは参加者の他の行動と重なり、減とはなったが、新しい仲間が参加し、新たな自治体、議員からもメッセージや賛同金をいただくこともできた。
 行動最後の交流会では、来年はコースを調整して、三多摩ネット(中心的役割を担ってこられた森田さんは昨年亡くなられた)との引継ぎ場所であった丸木美術館を再度、集合場所にしようという話もだされるなど今後の運動の方向などの論議があった。 (A)


沖縄米軍基地を撤去せよ

   在沖米兵の女児強制わいせつ、都市型戦闘訓練施設実弾射撃演習に抗議行動

 七月三日午前、嘉手納空軍所属の米兵が一〇才の女児に上着をたくしあげさせて、写真を撮ったり、胸を触ったりしたとして、強制わいせつで逮捕された。この事件にたいして、米国大使館ケビン・メア安全保障課長は「謝罪」する一方で、「(事件は)どこでも起こり得る。個人的な問題だ」と暴言を吐いている。
 そして、一二日と一三日には、米海兵隊の演習場「キャンプハンセン」の都市型戦闘訓練施設で実弾射撃演習がおこなわれた。この新たな施設は一番近い住宅地域まで三〇〇メートル、高速道路まで二〇〇メートルしか離れていない。金武町住民の生存権にかかわる問題であり、沖縄への新たな基地負担を強いるものである。
 七月一三日には、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックのよびかけで、東京のアメリカ大使館へ、在沖米兵による女児への強制わいせつ、新たな都市型戦闘訓練施設による実弾射撃演習強行に対し、緊急の抗議行動が取り組まれた。大使館前は警察が道路封鎖して抗議団を近づかせない。大使館付近のJTビル前に集合して、集会と大使館にむけて抗議のシュプレヒコールを行った。代表が大使館前で抗議文を読み上げた(沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック、NO!レイプNO!ベース女たちの会、基地はいらない!女たちの全国ネット、「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク、VAWW―NETジャパン、名護ヘリポート基地に反対する会、明治大学駿台文学会、イラクからの自衛隊撤退と沖縄の米軍基地撤去を求める実行委員会<反安保実\>)。

 七月一九日には、都市型戦闘訓練施設の地元の金武町で、キャンプ・ハンセンに新設された米陸軍グリーンベレーの実弾射撃訓練の即時中止と基地撤去を求める「陸軍複合射撃訓練強行実施緊急抗議県民集会」(県議会<超党派>、金武町、同町議会、伊芸区の四者の主催)が開かれ、一万人が結集した。こうした超党派の集会は、米軍の強制的な土地接収に反対した「島ぐるみ闘争」と「復帰運動」、一九九五年十月米兵による少女暴行事件に対する県民総決起大会(八万五千人)以来といわれる。集会宣言では、実弾射撃訓練の強行は「県民の生命の安全や生活環境より、米軍演習を最優先するもの」と糾弾し、伊芸区で発生した過去の数多くの流弾・被弾事故を挙げ、「日米両政府が唱える安全対策を信用する者は誰一人としていない」と批判し、@都市型戦闘訓練施設の即時閉鎖・撤去、A伊芸地域の基地の全面撤去、などを決議した。デモ行進の先頭には稲嶺恵一知事も立った(なお、稲嶺知事は基地全面返還に触れず)。
 米軍基地撤去の闘いをいっそう強めていこう。

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沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックの抗議と要求

 ジョージ・W・ブッシュ米大統領様

                 二〇〇五年七月一三日

 沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック 代表・上原成信

 沖縄県警は去る七月三日午前、小学校五年の女児の胸を触ったとして、強制わいせつの疑いで、米軍嘉手納基地所属の米兵を逮捕しました。

 私たちは在沖米軍の兵士によってまたもや繰り返された性犯罪に全身を突き抜ける怒りをもって米国政府とその最高責任者であるあなたに抗議します。沖縄が米軍に占領されてから沖縄住民に対する米軍関係者による犯罪は無数に繰り返され、その事態は一九七二年、沖縄の施政権が日本に返還されたあとも少しも変わりませんでした。防衛施設庁の資料によると、米軍が日本で起こした事件事故件数は一九七二年度から二〇〇四年度までの三三年間で四万二四一六件に上り、その六〇%が沖縄で引き起こされているのです。

 一九九五年九月四日に起きた三人の米海兵隊兵士による少女レイプ事件に沖縄住民の怒りが爆発したことをあなたはご存じですか。米軍兵士や軍属による犯罪はその後も続いています。

 米軍関係者による犯罪が繰り返される度、在沖米軍の最高責任者は「謝罪」を口にし綱紀粛正を「約束」してきました。しかしその「謝罪」や「約束」はその後米兵が起こしたさらなる犯罪によってまったくの偽りであり、無意味であることが明らかになっています。「謝罪」はいつも口先だけのものでした。綱紀粛正の「約束」はいとも簡単に反故(ほご)にされてきました。

 貴国大使館のメア安全保障課長は、抗議の国会議員に対し、この事件は「軍隊ではなく、個人の問題」「一般社会でも起こり得る」と発言したと伝えられています。さらに、在沖米軍のブラックマン四軍調整官は、沖縄等米軍基地問題議員懇談会のメンバーに対し、普天間飛行場や嘉手納基地について「何もない場所に空港を造ったのに、その周囲に人が集まってきた」と、歴史的事実をまったく無視した発言をしているのです。こういう無知な司令官に率いられる軍隊は他国に駐留する資格はありません。即時撤退すべきです。私たちはもはや、在沖米軍や米国政府による、どのような「謝罪」も綱紀粛正の「約束」も信用しません。

 また、昨日、沖縄の米軍演習場「キャンプハンセン」内に新たにつくった都市型戦闘訓練施設において、実弾射撃訓練を開始しました。訓練場「レンジ四」は、一番近い住宅地域まで三〇〇メートル、高速道路まで二〇〇メートルしか離れていません。しかもこの「レンジ四」より離れている訓練場での実弾射撃訓練による被弾事故がこれまで何度もくり返し発生してきました。この新たな都市型戦闘訓練施設の建設計画が発表されて以来、地元住民である金武町伊芸区住民を先頭に一年以上にわたって抗議行動を続けてきており、稲嶺県知事も反対して、日米両政府に何度も中止を要請してきたのです。

 地元住民の強い反対に押されて、容認してきた日本政府とアメリカ政府の合意で「代替施設」をつくることになりましたが、今度はその「代替施設」が使用できるまでに「少なくとも数年はかかる」として、それまでは新たにつくった施設を「暫定使用」すると六月二七日からの使用開始を通告してきたのでした。生活が破壊され生命が危険にさらされる訓練に、地元住民をはじめ沖縄県民は反発しています。今すぐに中止しなさい。

 さらに辺野古沖に沈没して、サンゴを破壊し、燃料流出によって海を汚染させた水陸両用車が約一ヵ月も放置された後、やっと引き上げ作業に着手しました。しかし、この引き上げ作業は七月一五日にも水陸両用車による訓練を再開させるためでした。原因究明や再発防止について明らかにしない中での再開に住民と名護市議会では反対を表明しています。

 米軍関係者による犯罪や事故が続くのは沖縄に米軍基地があるからです。沖縄に米軍基地が存在し続ける限り、犯罪や事故は今後も繰り返され住民の苦しみは続きます。ですから私たちは全米軍の最高司令官であるあなたに、沖縄からすべての米軍基地を撤去することを強く要求します。

 ラムズフェルド米国防長官自身が周辺住民にとって危険であることを認めた海兵隊普天間基地(飛行場)は無条件かつただちに返還すべきです。同基地の代替施設の「県内移設反対」は、今や沖縄を覆う圧倒的な世論になっています。あなたは沖縄島北部辺野古沖海上に代替基地を建設する計画の中止を日本政府に今すぐ明確に申し入れるべきです。そして沖縄からすべての米軍基地をただちに撤去しなさい。

 沖縄にとって米軍が「良き隣人」であり得ないのは、今さら議論の余地のないことです。いたいけな少女に加えられた性犯罪に心底から憤激し、沖縄から全米軍基地を撤去することを重ねて要求します。

 要求項目は次の三点です。
 新たな都市型戦闘訓練施設による実弾射撃訓練を即刻中止すること
 沈没した水陸両用車の原因究明と再発防止を明らかにし、訓練を再開しないこと
 在沖米軍基地の全面撤去で、米軍関係者による犯罪・事故をなくすこと


自衛隊は即時イラクから撤退せよ!

   
岡山自衛隊イラク派兵差止訴訟第一回口頭弁論

 六月一五日、岡山地裁で岡山自衛隊・イラク派兵差止訴訟の第一回口頭弁論が闘われた。この裁判闘争は、一月に原告一五三名によって訴訟が起こされたものだ。
 開廷は午後一時半だったが、傍聴者が続々と駆けつけ、くじ引きで傍聴者を決めることになった。課題が課題だけに反響の大きさを感じた。傍聴席は満杯というなかでようやく開廷し、原告側は弁護団九名、意見陳述人四名。被告側も何故か一〇名近くも居る。
 訴状の陳述を六名の弁護士、原告の意見陳述が四名、弁護団の意見陳述が三名の弁護士なり、予定をオーバーして閉廷となった。約二時闇の開廷中、原告側ばかりが訴状陳述、意見陳述を行うんですから結構楽しい一時を過ごすことになった。
 被告側が発言したのは、次回の期日・内容を確認するときだけ。それも裁判官が「原告側は次回も意見陳述を行いますか」と尋ねたのに対して「意見陳述は不必要、今日も法廷でヤジをとばしたり歌をうたうなど、法廷にふさわしくない」。これだけなのだから、もちろん傍聴席から大ブーイングを受けたのは当然のことだった。
 以下、発言者を三名に絞り発言・内容も要約して報告します。

原告団の元衆議院議員・矢山有作氏

 日本国憲法がGHQの憲法草案をべースに作成されたものであっても、当時の世論調査によれば、象徴天皇制に賛成する者が八五%、戦争放棄に賛成する者が七〇%、これをみれば国民の圧倒的多数が日本国憲法を支持していたことがわかる。
 そのように国民の圧倒的支持を得て、四六年に日本国憲法が制定されたが、二年後の四八年、米国は日本を「反共の防波堤」とするために対日占領政策を転換した。
 そして五〇年六月に朝鮮戦争が勃発するやマッカーサー指令によって警察予備隊が創設された。警察という名称にはなっていても、その実体は米軍兵器を装備し、米軍人に訓練される軍隊であった。朝鮮戦争によって日本の米軍基地の重要性が証明されとして、米国は五一年に講和条約と日米安保条約を抱き合わせで調印させ、米国は対ソ・共産圏戦略のための日本の軍事基地化・再軍備に成功した。こうして日本は形式的な独立と引き換えに、占領中にも増す米国の軍事支配下におかれることになった。
 安保条約後、米国の激しい軍事力強化の要求と圧力のもとで五二年に保安庁が発足し、警察予備隊は保安隊に、五四年六月には防衛庁設置法・自衛隊法が制定されて陸・海・空よりなる武装組織が発足した。六〇年に岸内閣のもとで安保条約が改定され日本の軍事力増強義務が明記された。
 その後、七八年一一月に日米防衛協力指針(ガイドライン)が合意され、九〇年の湾岸戦争においては掃海艇を派遣。九六年には橋本首相とクリントン大統領の日米両首脳によって安保共同宣言が合意された。共同宣言は、日本周辺地域の紛争に日本が米軍と共に介入するとして軍事協力の緊密化を宣言し、ガイドラインの見直しを合意した。安保共同宣言にもとづいて、新ガイドラインがつくられ、日米軍事協力は地球的規模に拡大することになった。九九年に周辺事態法が制定されたが、本法は対米支援を後方地域支援に限定していた。だが、米国は、この周辺事態法に強い不満をもち、二〇〇〇年のアーミテージ報告で、日本に集団的自衛権を明確に認めることを求め、有事法制の制定を強く要求した。そして〇一年九月一一日の世界貿易センタービル事件がおこった。これを米国へのテロ攻撃だとして、米国が開始したアフガニスタンヘの戦争支援のため、日本政府は、テロ対策特別措置法を制定し、自衛艦をアラビア海に派遣し米英などの艦船などへの給油が実施されつづけている。
 〇三年三月二〇日、米英はイラク侵攻を開始したが、小泉首相は直ちに、イラク侵攻支持を表明し、イラク人道復興支援持別措置法を制定して自衛隊を派兵した。自衛隊はサマワに駐屯し、今もって内戦状態にあるイラクにとどまっている。この間、日本への報復攻撃声明も再三出されている。〇三年に武力攻撃事態法等有事三法が制定された。武力攻撃事態法は有事法制全体の枠組みを示す法律。武力攻撃事態・武力攻撃予測事態において、これに対処するため、国は総力をあげると共に、地方公共団体や指定公共機関は戦争協力の責務をおうものとされ、また国民は必要な協力に努めるものとされ、罰則付き協力を強要されることになった。〇四年に有事関連七法といわれる国民保護法、米軍支援法等を制定し、〇五年に国民保護に関する基本指針が閣議決定された。ここまで述べてきたように戦争を前提にした国づくりが強引に進められている。日本国憲法の三大原則である平和主義、民主主義、人権尊重は侵害され、とくに第九粂は完膚無きまでに侵害され破壊されてしまった。
 最後に述べたい。GHQは占領政策のなかで、日本民主化の重要な環として三権分立の徹底と司法の優位の確立にあたった。その表れが最高裁判所に違憲立法審査権を与えたことである。すなわち、憲法八一条において「最高裁判所は一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するか、しないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と。何の制約もつけずに、最高裁判所に違憲立法審査の終審裁判所としての権阻を賦与している。今回の私たちの訴訟にたいし、岡山地方裁判所の担当裁判官諸氏が、憲法違反の法律やそれにもとづき実施された立法その他の行為は看過しないという決意で裁判に臨んでくださることを切望する。

名吉屋訴訟事務局長・川口創弁護士


 〇四年二月二三日、イラク派兵差止と違憲確認を求める裁判を名古屋地裁に提訴した。現在(第四次提訴)までの原告総数は三千百四十八名。
 派兵差止訴訟は名古屋のほかに、札幌、東京、大阪、静岡、山梨、仙台、栃木、岡山、熊本、京都と続き、全国一一地域で一二の訴訟、原告人員は五千四百名、弁護団も八〇〇名を越えている。
 裁判を進める以上、リアルな証拠を法廷にだすことが不可欠だ。そのため、イラクからの難民が多く、また各国のNGOが拠点をおいているイラクの隣国ヨルダンに行くことになり、札幌訴訟の佐藤博文弁護士をはじめ全国の弁護団有志で、〇五年三月二五日から四月一日までの八日間ヨルダンに視察に行って来た。そして、かなり広範な人々からの聞き取りを行うことができた。その中で明らかになったことは、@劣化ウラン弾の放射線被害はイラク国内にとどまらず、アラプ諸国に広がっている、Aサマワで自衛隊が行っていることは「非人道的支援」でしかないこと。サマワに関わる複数の方から聴取した情報のなかで、共通していることは、自衛隊はサマワ市民のためになる支援は何一つ行ってないということだ。しかし、すでに五〇〇億円もの税金が投下され.たはず。どこに使われているのか、と聞くと皆こう答えた。「サマワには一六の部族がある、自衛隊はその全ての部族員に、『自衛隊を攻撃しないようにして欲しい』と懇願し、多額の現金を送っている」。また、ある人は「サマワの一部の人だけが急に大金持ちになっている。それはあなたたちの税金によってだ。あなたたちは、自分の税金の使い道について責任を負うべきです」と言われた。Bサニ・ダヘレさんの発言だ。彼は「この戦争は人類史上一番の大嘘戦争です。自衛隊も含め、全ての占領軍はすぐにイラクから出て行ってください。日本の皆さんも全国全ての市町村から、自衛隊と全ての占領軍の撤退の声を挙げてください」。
 以上サマワにおける自衛隊の現状も述べて来たが、我われは、サ二・ダヘレさんの発言に日本の主権者として向き合う義務がある。裁判所には、憲法の最後の砦として適切な審理をされるよう願いたい。

札幌訴訟事務局長・佐藤博文弁護士

 昨年一月二八日に箕輪登氏によって全国に先駆けてイラク派兵差止訴訟が提訴された。箕輪氏は、通算八期二三年間衆議院議員を務め、その間に郵政大臣、防衛政務次官、衆議院安全保障特別委員会委員長、自民党国防部会副部会長などを歴任し自民党政府の専守防衛の憲法解釈、防衛政策を体現してきた政治家だ(一九九〇年引退)。箕輪氏は提訴にあたり、直前に北海道に在住する四単位会四二一名の全弁護士に代理人就任の要請をしたところ、短期間に四分の一を越える一〇九名が馳せ参じた。第一回弁護団会議では、箕輪氏が「自分の残された命の全てを自衛隊派兵をやめさせるために捧げる」と決意を語られた。箕輪訴訟の提起は、即日、韓国や中国で報道され、中東の放送局アルジャジーラでもトップニュースで伝えられた。それらの報道には、訴訟に示される日本国民の良識こそが、真の平和と友好の関係を築くものだという共感のメッセージが込められていた。日本人「人質」事件発生の直後、箕輪氏は「私は元日本政府閣僚の一人でした。私は、現在日本の自衛隊をイラク派兵するという小泉首相の誤った政治選択に関して裁判所に提訴中です。私は、あなた方が拘束している.三人の日本人の身代わりになる覚悟があります」とアルジャジーラを通じて狙人にメッセージを送った。解放された高遠菜穂子さんは、その後もイラクの子どもたちの支援活動を続け、二つの学校を建てたことを箕輪氏に報告するなど、二人の交流は続いている。また、箕輪氏は、昨年一一月五日〜六日には、オランダ・ハーグの国際司法裁判所で開催された「中東における正義と平和のための国際会議」に、元レバノン大使の天木直人氏と共に特別招待された(体調不良のため坪井札幌大学院教授が代理出席)。国際会議の場では、アラブ世界の人びとと平和友好関係を築き、日本国憲法九条と、それを支える日本国民の存在を示した。
 このように箕輪訴訟を初め、全国のイラク派兵差止訴訟は、いまや世界中から注目されるにいたっている。被告である国は、原告らの主張する平和的生存権は、具体性が無く、権利性が無いとか、法的保護に値する利益として認められない、などと主張する。しかし、我われの主張の柱の一つである「戦争に加担することを拒絶する権利」の本質は、再び「侵略した側」として歴史に刻まれたくないとする戦後平和憲法の下で培われてきた日本国民のまっとうな「平和を求める良心」にほかならない。この良心は大多数の国民が共有する「公的良心」という性格を有し、その内容は明確である。二〇〇名が犠牲になったスペイン・マドリードの列車爆破テロのような事件が日本国内でいつ起きてもおかしくない状況が生まれていることを軽視してはならない。本裁判所が主権者たる原告らの訴えに真摯に耳を傾け、徹底した実質審理を行うことを斯待する。

 次回口頭弁論は九月二一日午後一時半から、岡山地裁で行われる。
 圧倒的な傍聴者の結集をかちとり、裁判闘争の勝利に向けて闘おう。 (岡山北通信員)


核とミサイル防衛にNO!キャンペーン2005発足集会

         
 水島朝穂さん「ミサイル防衛と日本型軍事法制の転換」

 七月一四日、文京区民センターで「核とミサイル防衛にNO!キャンペーン二〇〇五発足集会」が開かれた。
 ビデオ「軍需工場は、今」の上映のあと、水島朝穂さん早稲田大学教授・憲法学)が「ミサイル防衛と日本型軍事法制の転換〜備えあれば、危険アリ!?〜」と題して問題提起。
 政府は、自衛権は国家の固有の権利だという。これが一九五四年以来の政府見解だ。確かに個人は生まれながらに原則自由であり固有の権利というものをもっている。しかし、多数の個人が集まったものとしての国家はそうではない。だとすれば、憲法で書かれているかどうかということが問題になる。憲法と自衛権の関係についてはふたつの見解が対立している。ひとつは、憲法に書いていなくても、国際法の観点から当然にあるとするものだ。これが多数の意見となっている。もうひとつは、憲法に書いていないなら、それは積極的な意味で「ない」とするものだ。まして日本国憲法は自衛権を否定している。私はこの見解だ。日本共産党は当然にあるという立場だ。かつて共産党と社会党は中立自衛と非武装中立で争っていた。共産党の意見では、アメリカと同盟しての武装はだめだが、将来、中立化したなら、九条を変えるという立場だったが、いつの間にか完全な護憲派となってしまった。それと、原水爆禁止運動でも、社会党系の「あらゆる国の核実験反対」に対して、社会主義国の核は防衛的なものだとして認めていたことも、同様に変った。武力無き自衛権については、長沼事件判決が大きな意味を持っていた。一番目に外交的努力、ついで警察力、三番目には文民蜂起というものだ。しかし、いまの私は自衛権そのものの否定の立場をとっている。
 アメリカは集団自衛権をいって、日本にもそれを要求してきている。集団自衛権とはそもそも国連ができるときにアメリカが自分だけの特権を確保するためにつくったものだ。国連では、国連による集団安全保障が基本だが、アメリカとその他の国が国連とは別に共同して軍事行動を起こせるようにしておくものが集団的自衛権にほかならないのだ。
 アメリカは二〇〇二年の「安全保障戦略」で先制攻撃戦略を打ち出した。ブッシュ・ドクトリンと呼ばれるものだ。これは、「ならず者国家」「悪の枢軸」そして第二期ブッシュ政権では「圧制の拠点」と言っている。イランなどともに、アフリカのジンバブエ、東南アジアのミャンマー、旧ソ連の一部ベラルーシなどが入った。そこへはいつでも攻撃を仕掛けるということになる。こうしてアメリカはいわゆる「不安定の孤」全体を管理下におこうとしているのだ。そのために米軍再編(トランスフォーメーション)があり、日本をそのなかに組み込むというのだ。ミサイル防衛もその一環としてある。北朝鮮のテポドンなどを口実にしているが、ミサイル防衛の本当の狙いは、中国であり、また日本にアメリカの高価な武器を買い取らせ、縛り付けておくことだ。


図書紹介

「これが犯罪? 『ビラ配りで逮捕』を考える」(岩波ブックレットNO.655)

                           内田雅敏 著

 本書にコラムを寄せた憲法研究者の奥平康弘さんは「『トゲのある言説を唱える自由』に挑戦する『秩序』とは?」と題してこう書いた。
 「いまの日本は、相当に深刻な程度に『変になっている』と思う。そう思わせる問題状況のひとつが、ビラ配りを規制する最近の一連の刑事事件である。戸別のビラ配布行為を住居侵入罪とか国家公務員法違反罪とかいった刑事処罰の対象として浮かび上がらせている点で、たいへん特徴的である。公立学校教育における<君が代・日の丸>強制措置に反対意見を表明した市民への、威力業務妨害罪の適用事件も、同じ脈絡で捉えていい。住居侵入罪といい、威力業務妨害罪といい、いずれもが近代市民法の典型のひとつたる刑法典のなかに定められている『普通の犯罪』であるが、それが、今度の動きのなかで特定の政治的な表現活動を抑制するものとして現れている。国家公務員法違反罪も、もとはといえば『行政的な中立確保』という市民原理にもとづいて設定されたものなのだが、今回はそれが同じように特定のビラ配布活動に向けて発動されている」「本ブックレットがとりあげている一連の事件は、市民的な刑罰法規を使いながらの、高等警察的な権力発動である、とぼくは思う」と。
 本書の著者の内田さんは、二〇〇四年はじめに起こった「立川防衛庁官舎イラク反戦ビラ入れ事件」の弁護士でもある。この事件は同年一二月、地裁で無罪判決を獲得した。検察側の不当な控訴により現在、裁判は高裁段階に移った。
 本書はこの間、頻発する権力、公安警察の暴走による類似弾圧事件を列挙して分析し、問題のありかをえぐり出し、告発している。
 内田さんはいう。「『日の丸・君が代』の法制化以降、『周辺事態法』『テロ対策特措法』『有事法制』『イラク特措法』等々、憲法の基本原理である『戦争の放棄』に抵触する数々の違憲立法、その違憲な立法そのものにも違反している現実の事態――『戦地』イラクに対する自衛隊の派遣、米軍と一体となった活動等々――、そして教育基本法『改正』の動きなど、今、戦後的なものがことごとく破壊されようとしている」と。
 そして今日の検察や裁判所のありかたについても厳しく批判する。「実際、日本の刑事司法は、『人質裁判』と言われるほどで、事実関係を争っている場合には、なかなか保釈が許可されない。前記『東京新聞』の社説(「裁判官も反省すべきだ」と題して捜査当局のいいなりになっている裁判官を厳しく批判…筆者註)も指摘するように、逮捕状の請求、勾留の請求については九九%強認められている。そして接見禁止が安易に付けられ、起訴後もこれが続くことが多い」と。そして公安警察の暴走を抑制できない検察の劣化も厳しく批判する。
 そして言う。「今、まさに私たちの社会は、パヴロフ氏の描いた『茶色の朝』になろうとしてはいないか。誰かがどこかで綿密な戦略を立て、確信犯的に舵取りをしているのではなく、むしろ私たちの社会が……『不安感』から浮き足だってしまい、ムードとして『茶色の朝』に向かっているのではあるまいか。事態はより深刻である」と。私は「綿密な戦略」ではないが、大まかな戦略(というよりは戦術的対処)はあると思うけれども、しかし、これは今日の社会現象のひとつの側面を鋭く言い当てていると思う。
 しかし内田さんはこうした危機感をもってことにあたりながらも、あきらめない。それは弁護士として不屈に闘い、具体的な勝利の契機を見つけだし、成果を引き寄せるという弁護士としての職業から来るものだけではない。それを内田さんはこのように表現するのである。
 「立川防衛庁官舎ビラ入れ事件無罪判決は法学者、市民運動家、ジャーナリスト、弁護士らが総力を挙げて勝ち取ったものであり、ネットワークの勝利である。それにしても私たちの主張を受け止めてくれる裁判所の存在なくして勝利はなかった。……福岡靖国違憲判決、そして都立野津田高校『日の丸・君が代』反対ビラ配り逮捕事件での勾留請求却下決定などと併せ、まだまだ<望みなきにあらず>だ」と。おそらく、この「確信」なくして内田さんの弁護士活動はあり得ないのだと思う。 (S)


九条の会・有明1万人講演会の成功を!

 九条の会・有明講演会(七月三〇日)が迫っている。この講演会を成功させることは、今後の反九条改憲運動の飛躍にとって重大な意義をもっている。多くの人びとの協力でこの講演会の大成功を勝ち取るために奮闘しよう。
 七月一六日、九条の会事務局・有明講演会係は、「『九条の会・有明講演会』への多くの皆様の熱い思いを込めたご協力・ご支援に感謝いたします。誠に申し訳ございませんが、7月16日をもって参加申し込みが定員の一〇〇〇〇人に達しましたので、参加券の発行を締め切らせていただきました」「なお、当日は一定数のキャンセルが出ると思われますので、キャンセル待ち参加券を発行します。また、会場には入れませんが、東西のロビーで会場内の様子をモニターで放映いたします。もしよろしければご参集ください」と発表した。
 有明講演会への期待の大きさを示すものだ。
 「九条の会ニュース」第46号(七月一六日)にも、そうした声が載せられている。「私は『藤沢九条の会』の会員ですが、九条の会の動きは限りなく大きな期待を抱かせ、力を与えられます。今後改憲阻止の渦の中核となると思われます」「二度と戦争があってはならない、そんな思いで語り合っている私たち老人仲間。つきぬ悲惨な思い出を抱えて、勉強させていただきたいと思います」。……


複眼単眼

     
立憲主義と改憲派による憲法擁護義務の転倒

 立憲主義と呼ばれるこの「憲法とはなにか、その意義、意味」を問う基本問題がいま改憲派によって変えられ、転倒されようとしている。
 自民党新憲法起草委員会の舛添要一事務局次長は、「新しい憲法観」を導入するのだと主張しているが、これは少しも「新しいもの」ではない。
 言うまでもなく、日本国憲法第九十九条には「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とある。憲法は国民に遵守義務があるのではなく、国家権力に尊重擁護義務がある。これが権力制限規範という立憲主義の考え方だ。
 ところが今回、自民党がだしてきた改憲要綱・第一次素案の「権利・義務」の項では「個人の権利には義務が、自由には責任が伴う」ことなどが強調されている。その上で、今後「議論すべき」検討課題とはしているが、四月にだされた起草委員会小委員会要綱では「国民の責務」として「国防の責務」「家庭保護の責務」「社会的費用負担の責務」「環境保護の責務」などが列挙されていた。自民党はこれらの「国民の責務」を現行憲法は「権利ばかり強調されすぎて、義務があまり書かれていない。バランスを欠いている」「いたずらに国家と国民を対立させるような、憲法は国家権力の抑圧から国民を守るものだなどという古い憲法観をすてなくてはならない」などという、立憲主義のイロハすら無視した俗論を展開することで、復古的な「国民が守る憲法」という思想を憲法に導入しようとしているのだ。
 かつてアキヒト天皇はその就任に際して「国民と共に憲法を守る」といった。これは決して彼が開明的・護憲的であるがゆえの発言などではない。少なくとも、憲法を守らなくてはならないのは天皇自身なのだ。「国民と共に」などと天皇がいうことは大きなお世話だし、憲法違反でさえある。かつて、アキヒト天皇はこのようにいうことで、憲法の意味を転倒させたが、いままた自民党が同様の転倒を進めようとしている。
 ところが野党第一党の民主党もこの問題で次のように言う。
 「この憲法の名宛人は、何処なのか、誰なのか。従来は『国家』とされてきたが、今日では国民統合の価値を体現するという意味を込めて、国民一人ひとりへのメッセージであるとともに、広く世界に向けて日本が発信する宣言でもあることが期待される」「新しいタイプの憲法は、何よりもまず、日本国民の意思を表明し、世界に対して国のあり方を示す一種の『宣言』としての意味合いを強く持つものでなければならない。そのことを通じて、これを国民と国家の強い規範として、国民一人ひとりがどのような価値を基本に行動をとるべきなのかを示すものであることが望ましいと考える。同時に、憲法は、法規範としての機能をはたさなければいけない。それを侵すならば、それに相応しいペナルティが課せられる『法の支配』が貫徹されるものとすることが重要だ」(「創憲に向けて、憲法提言中韓報告」〇四年六月)と。
 この考え方は当時の民主党憲法調査会会長の仙谷由人氏が中心になって
まとめた報告書にある。しかし、衆院憲法調査会の議論などを見ると、現在の会長の枝野幸男氏はこの問題に関する限りは、こうした考え方はとっていないようだ。この二人、どちらも法律家(弁護士)出身ではあるのだが。
 いずれにしてもどさくさに紛れて、立憲主義を破壊する動きは見逃すことはできない。(T)