人民新報 ・ 第1183号<統合276号>(2005年10月25日)
目次
● 小泉の戦争神社参拝を糾弾する
● 許すな!憲法改悪・市民連絡会 「小泉首相の靖国神社参拝強行に抗議する声明」
● 共謀罪は継続審議に
● 日本ペンクラブ 「共謀罪」新設に反対し、廃案を求める声明
● WORLD PEACE NOW 自衛隊「スグモドレ」キャンペーン
● 鉄建訴訟控訴審にむけて勝利の陣形をつくりだそう
● 郵政民営化法成立に抗議
● 天皇制維持のための「女性天皇」を拒否しよう!
● 書評 / 三浦 展 (著) 「下 流 社
会 新たな階層集団の出現 」
● せ ん り ゅ う / 瑠 璃
● 複眼単眼 / 憲法と小泉純一郎首相と前原誠司民主党代表
小泉の戦争神社参拝を糾弾する
一〇月一七日、小泉首相は、中国・韓国などアジア諸国と日本国内の反対の声を無視して、秋の例大祭初日に靖国神社参拝を強行した。九月三〇日には大阪高裁が小泉首相の靖国神社参拝は違憲(憲法二〇条三項)との判決を出したばかりであった。ペテン的な郵政民営化論議だけに焦点をあわせた総選挙で「圧勝」した小泉の驕り高ぶっての靖国参拝は重大な結果をもたらすことになるだろう。小泉のこうした行動には自民党内からも、与党・公明党からさえ批判がおこっている。小泉の靖国=戦争神社参拝を糾弾して闘おう。
姑息な小泉のやりかた
参拝を終えた小泉は記者会見で次のように語った。
参拝の日本外交への悪影響に関連した質問に「本来、心の問題に他人が干渉すべきでない。まして外国政府が、日本人が日本人の戦没者へ、あるいは世界の戦没者に哀悼のまことをささげるのは、いけないとかいう問題ではないと思っている」「いずれ長い目で見れば、中国も理解していただけると思う」「日本としては日中友好、日韓友好、アジア重視は変わらずと、よく説明していきたい」と述べた。
小泉の靖国参拝は侵略戦争を肯定・美化するとともに、憲法の政教分離の原則をも真っ向から否定するものだ。今回の小泉の靖国参拝の特徴は、「私的」を強調するものだった。首相就任以来五度目の参拝は、過去四回と形式を変えたものとなった。参拝は、スーツ姿であり、本殿に昇殿せず拝殿前で済ませ、賽銭箱に小銭を入れ、三〇秒あまり拝んだ。神道式の拝礼はおこなわなかった。「内閣総理大臣 小泉純一郎」の記帳も行わなかった。こうした「やりかた」で「私的」を強調したかったのだろうがあまりにも姑息だと言わざるをえない。
大阪高裁判決は違憲の要件に、公用車を使い、秘書官を同行させたこと、靖国参拝が公約としてなされたこと、国内外の強い批判にもかかわらず、参拝を継続しており、国が靖国神社を特別に支援している印象を与え、特定宗教を助長している、ことをあげている。今回も、まったく同じだ。内外からの反対を十分承知しながら、「適切に判断する」と言い続けてきた。こうした状況の中であえて参拝を強行した小泉は、A級戦犯を合祀し、明治以来の長期にわたる侵略戦争を美化してきた靖国神社を参拝した歴代首相とくらべても格段に犯罪的である。まさに大阪高裁がいう「特定の宗教にたいする助長、促進になると認められ、我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超える」ものだ。そして、その宗教とは「戦争神社」のことである。
日本はどこへ行く
小泉の靖国参拝はマスコミの複雑な反応を引き起こした。翌一八日は各紙が社説・主張でこの問題をとりあげた。産経新聞主張「首相靖国参拝 例大祭にしたのは適切だ」は「来年、小泉首相の後継者として、誰が次期首相に選ばれても、靖国参拝を継承してもらいたい」といっている。読売新聞社説は「首相靖国参拝 もっと丁寧に内外に説明を」と題し、「中国政府や韓国政府は反発している。首相の靖国参拝をめぐって、国内にも様々な意見がある。それに対して首相はあまりにも説明不足である。……小泉首相は今年六月に、新たな国立追悼施設の建設を検討すると表明した。しかし、その調査費は来年度予算に盛り込まれるか否かも未定だ。今後どのような形で政府として戦没者を追悼して行くのか。首相は体系立ててきちんと説明する責任があるのではないだろうか」と産経とはかなり違うスタンスだ。朝日新聞社説「靖国参拝 負の遺産が残った」では「首相が参拝の方針を貫いたことで、日本は何を得たのだろうか。首相はあと一年で退任するそうだが、後に大きな負の遺産が残されたのは間違いない」と。毎日新聞社説「靖国参拝 中韓の反発が国益なのか」は「首相の靖国参拝のたびに隣国から大きな反発を浴び、外交当局が右往左往する。首相は停滞したアジア外交を立て直す責任をどう果たすのか」と書いた。日経新聞社説「これが『適切に判断』した結果なのか」は「一一月にはAPEC首脳会議、一二月には東アジアサミットが予定されるなど、アジア外交はこれからヤマ場を迎える。靖国参拝の外交ダメージを最小限に食い止めることが首相のせめてもの責任である」としている。産経を除いて、対アジア関係の悪化を心配するものだが、とりわけ日経のものは濃い危機意識で目立つものだ。日本ブルジョアジーの対中関係悪化にたいするおおきな悩みの代弁となっている。
アジアからの反撃
参拝後の小泉の「ご気楽」な発言とは違って、アジアからの小泉の戦争神社参拝に対する抗議は当然にも激しいものであった。
中国は李肇星外相が北京の中国外務省に阿南惟茂中国大使を呼んで抗議し、外交部声明を読み上げた。そこでは「小泉首相は、自身の誤った行動がもたらした重大な政治的結果にすべての責任を負わなければならない。『民意侮るべからず』。いかなる人も、道理にもとる行動を取れば、両国の先人や子孫に背いていることになり、最後には必ず『自分が持ち上げた石が自分の足に落ちる』の結果になるだろう」と最大限の抗議の言葉が述べられた。そして、二三日に予定されていた日中外相会談の開催取りやめを通告した。
韓国政府も一二月に予定していた盧武鉉大統領の訪日と韓日首脳会談の延期を示唆するなど、小泉の靖国神社参拝によって日本の対アジア外交は窮地に追い込まれたのである。
小泉内閣をおいつめよう
一〇月一八日正午から、首相官邸前で小泉の靖国参拝強行に抗議する行動が展開された。これは、平和遺族会全国連絡会、NCC(日本キリスト教協議会)靖国神社問題委員会、「靖国参拝違憲訴訟の会・東京」、政教分離の侵害を監視する全国会議の呼びかけたもので、緊急の行動であったにもかかわらず、雨の中、一〇〇名を超える人が首相官邸に向かって抗議のシュプレヒコールをあげた。集会では、平和遺族会全国連絡会代表の西川重則さん、NCC靖国神社問題委員会委員長の須賀誠二さんなどが「抗議文」をよみあげるなど抗議をおこなった。
官邸前の行動に続いて、各団体の代表は内閣府に赴き、それぞれの抗議文を手渡した。
小泉は靖国参拝の暴挙は内外からより多くの批判・反対運動を作り出した。多くの人びととともに小泉の靖国神社参拝を糾弾し、小泉反動政権を追い詰めていこう。
許すな!憲法改悪・市民連絡会
小泉首相の靖国神社参拝強行に抗議する声明
本日(一〇月一七日)午前、小泉首相は靖国神社に参拝しました。これは国内外の多くの人びとの反対の声を無視し、日本国憲法の精神に反して行われたものであり、私たちは絶対に容認できません。
驚くべきことに、わずか半月前の九月三〇日、大阪高等裁判所が小泉首相の靖国参拝を「憲法二〇条違反」とした違憲判決を下したばかりのことです。昨年四月の福岡地裁判決に続く、この大阪高裁の明確な判断に際して、小泉首相は「憲法違反でないという判決も過去にでているし、裁判所の判断はわかれている」「(私は)憲法違反だとは思っていない」などと弁明しましたが、これは全く事実に反しています。小泉首相の靖国参拝をめぐる違憲訴訟では、過去に憲法判断に踏み込まなかった判決はありましたが、首相の靖国参拝が憲法違反ではないとした合憲判決は一件もないことは周知の事実です。首相には憲法九九条でさだめられた憲法尊重擁護義務があります。これを無視して、欺瞞的な言辞を弄して確信犯的に靖国参拝を強行した小泉首相は首相として完全に失格であり、ただちにその職を辞任すべきです。
いうまでもなく、靖国神社は日本近代史における侵略戦争の精神的な支柱であり、国家の遂行する戦争政策に積極的に奉仕してきたものであり、戦後はA級戦犯を合祀するなど、軍国主義的勢力の復活を先導する危険な役割を果たしてきました。就任以来五回目となる小泉首相の今回の靖国参拝は、いまわが国支配層がすすめる憲法改悪=「戦争のできる国づくり」の動きと軌を一にするものとしか考えられません。
戦争に反対し、憲法九条の改悪に反対する私たちは、本日強行された小泉首相の靖国参拝にこころからの怒りを込めて抗議し、本日を機に、アジアと日本の平和を願う人々といっそう固く連帯して、憲法九条改悪反対の運動をさらに大きく発展させるため力を尽くすことを強く決意します。
二〇〇五年一〇月一七日
許すな!憲法改悪・市民連絡会
共謀罪は継続審議に
一〇月一八日、政府・与党は、この特別国会に出され審議中の「共謀罪」法案(組織犯罪処罰法改正案)の成立を断念した。共謀罪新設を柱とする刑法改正法案は、マフィアなどの国際犯罪に対処する「国際組織犯罪防止条約」の批准に必要な国内法の改正に伴うものとされているが、政府・与党は、これを大幅に拡大し、四年以上の懲役・禁固にあたる犯罪をすべて対象にする。
共謀罪法案の提出は三度目で、国会で南野千恵子法相は「我が国の治安回復に重要であり、国際的にも緊急の対応が求められている」として早期成立を訴えた。しかし、実際に犯行に及ばなくても、事前に話し合っただけで罪に問える、そしてこれを利用して際限なく検挙・処罰が行われるという、希代の悪法案には、野党のみならず、与党の内部からも疑問の声が上がっていた。
一〇月一四日に衆議院法務委員会で審議入りしたが、共謀罪の成立に賛成する与党議員の中からも修正を求める意見が出た。捜査機関の乱用・行き過ぎが懸念される世論を受けて、自民党の柴山昌彦議員は、基準があいまいだとして、「合意内容を推進するための明白な行為」が必要とし、公明党の漆原良夫議員も「犯罪の成立には客観的な行為が必要」だとした。
野党では、社民党、共産党の絶対反対はもちろん、民主党も法案再提出を求めるなど自民党・法務省の思惑は大幅にはずれた。政府・与党は、一一月一日までの国会会期を延長しない方針であり、審議時間が確保できず、今国会での成立は見送ることになったが、継続審議として来年の通常国会で成立を目指すとしている。
共謀罪法案は三度阻止された。この法案に対する粘り強い反対運動が持続し、法案の危険な内容が人びとに知られてくるにつれて反対の声はいっそう大きく広がってきている。
一〇月一七日、衆議院第二議員会館で「話し合うことが罪になる!!10・17共謀罪は継続審議に共謀罪の新設に反対する市民と議員の集い」が開かれ一〇〇人を超える人びとが参加した。
集会では、社民党、共産党、民主党の議員が発言した。
社民党からは、福島瑞穂党首(参議院議員)と保坂展人衆議院議員。
福島党首は、最近、厚木基地に反対する人たちが不当に逮捕されたが、警察は共謀罪ができたらなんでも取り締まるようになる、こんなことは許せない、悪法を暴露し阻止するために街頭に出て闘おう、と述べた。
共産党の井上哲士参院議員は、地下鉄では乗降客の顔を認証する監視カメラ導入の実験がおこなわれるようになったり、いろいろなところで正当なビラをまいただけで弾圧されるようになっている、こんな監視社会でいいのか、共謀罪廃案にむけてともに力を尽くそうと述べた。
民主党の松岡徹参院議員は、与党の中からもこの法案はおかしいと言った声がでてきている、この法案の作成過程も曖昧だ、こんな短期間で法案を成立させようとしているが、絶対に廃案にしていこうと述べた。
中村順英日弁連副会長(共謀罪担当)は、この法案は限りなく思想、良心の自由に踏み込んでくるものだ、そして日本のこれまでの刑法の行為主義の大原則をなし崩し的に根本から作り変えようとするものだ、ある新聞の見出しに「共謀罪法案 またも黄信号」とあったが、それを、赤信号にしなければならないと述べた。
日本ペンクラブ言論表現委員会の篠田博之副委員長は、ペンクラブの共謀罪反対声明(別掲)について報告した。
つづいて、新聞労連、子どもと教科書全国ネット21、許すな!憲法改悪・市民連絡会、反差別国際運動日本委員会、ふぇみん婦人民主クラブ、移住労働者と連帯する全国ネットワ―ク、盗聴法に反対する神奈川市民の会、国民救援会からのアピールが行われた。
共謀罪法案は三度阻止されたが、政府・自民党は諦めていない。この悪法案を、完全に廃案にするまで闘いぬこう。
日本ペンクラブ 「共謀罪」新設に反対し、廃案を求める声明
いまこのとき特別国会で審議されている「共謀罪」新設の法改正について、私たちは、これが思想・信条の自由、内心の自由を侵し、人が人として生きる自由と意味を破壊するものとして、強く反対する。
共謀罪は、法益を侵害する行為が実行されたことに対して処罰を行うという近代刑法の原則を否定し、共謀したという事実や推測のみをもって処罰しようとするものである。「行為」でなく「意思」や「思想」を処罰することは、戦前戦中の日本の暗黒社会を生みだした「治安維持法」の実例を見るまでもなく、およそ個人の基本的人権の擁護を前提とする民主主義社会の前提を忘却したものと言わざるを得ない。
そもそもこのたびの共謀罪新設を含む法改正は、二〇〇〇年に国連総会で採択された「国連国際(越境)組織犯罪防止条約」の批准のために、国内法の整備が必要になったからとされている。しかし、その改正案を見ると、その趣旨が無視され、広範な一般的法律に適用されて、私たちの日常生活に影響する一方、国際テロや麻薬シンジケートの抑制など、条約の目的を実現しないものとなっている。
このような法律が成立すれば、市民社会における自由な会話やメールなどの意思疎通を狭めるばかりか、社会活動全般の不自由と不活発を生じさせ、この国の萎縮と停滞、ついには衰退を招くだろう。
仄聞するところ、今回の特別国会の一部には、与党の圧倒的多数を背景に、さしたる議論もしないままに可決してしまおうという動きがあるという。私たちは、こうした強引な手続きにも憤りを禁じ得ない。
私たちは言論・表現に深く関わり、その自由な活動こそがこの社会、この世界を豊かにすると信じている。だからこそ私たち日本ペンクラブは、思想・信条の自由、内心の自由を侵し、ないがしろにする共謀罪新設には強く反対し、廃案を求めるものである。
二〇〇五年一〇月一七日
社団法人・日本ペンクラブ 会長 井上ひさし
WORLD PEACE NOW
自衛隊「スグモドレ」キャンペーン
WPNが記者会見
一〇月一七日、衆院第二議員会館で、WORLD PEACE NOWのイラクへ派兵された自衛隊の撤退を求める「スグモドレ」キャンペーンにかんする記者会見が開かれた。
WPN実行委員の高田健さんと筑紫健彦さんがキャンペーンについて説明した。
イラク南部では、オーストラリア軍の撤退、イギリスの一部撤退などが伝えられている。しかし、イラクに派兵された自衛隊は今年の一二月一四日に派遣期限が切れるのに、小泉内閣は、ブッシュ政権の要請をうけて「イラク特措法」をさらに延長しようとしている。WPNは、一二月一一日の「終わらせよう、イラク占領 タイムオーバー、すぐもどれ自衛隊」(上野水上音楽堂)とそれにむけた首相官邸前《タイムオーバーアクション》を計画している。
以下はその行動スケジュール。
【首相官邸前《タイムオーバーアクション》】
一〇月二〇日、一一月一〇日、一七日、二四日、一二月一日(いずれも木曜日)に、一七時四五分に衆院議員面会所に集合し、官邸前に移動し、行動を展開する。
【WORLD PEACE NOW 12・11】は、一二月一一日(日)の午後一時半に上野水上音楽堂(下車駅 千代田線湯島駅、京成上野駅、JR上野駅、御徒町駅)で開会し、一四時四五分にパレードに出発することにしている。
首相官邸前抗議行動
一〇月二〇日、WPNの自衛隊「スグモドレ・キャンペーン」の第一弾の首相官邸前抗議行動が取り組まれた。
午後五時四五分に、衆議院議員面会所に集合。WPNの高田健さんが、自衛隊のイラクからの撤退を求める「スグモドレ・キャンペーン」について報告し、連続した行動で小泉政権をおいつめようと述べた。 国会からは、糸数慶子参議院議員(無所属)、辻元清美衆議院議員(社民党)、喜納昌吉参議院議員(民主党)、福島瑞穂参議院議員(社民党)が発言した。
首相官邸前に移動し抗議行動を展開。
日本消費者連盟の富山洋子さん。
イラクに派兵された自衛隊はタイムオーバーなのに延長されようとしている。いまこそ、私たちは立ち上がるべきときだ。今日の行動を、小泉政権を打ち倒す第一歩としよう。
キリスト者ネットの糸井玲子さん。
改憲は私たち宗教者にとっては、思想・信仰の自由がうばわれる重大な問題だ。暗黒の時代に引き戻される危機をひしひしと感じる。首相は憲法九条を守り、平和を世界に発信してください。自衛隊をイラクからただちに撤退させてください。
労学舎、ふぇみん婦人民主クラブ、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック、電通労組、許すな!憲法改悪・市民連絡会からの発言がつづいた。
最後に、自衛隊撤退!、戦争反対!、イラクの人びとと、アジアの人びとと、世界の人びとと、平和をつくろう!などのシュプレヒコールを首相官邸向かってあげた。
撤退が世論の多数派
小泉内閣は、十二月に自衛隊のイラク派遣期限が切れるもかかわらず、サマワへ陸上自衛隊第八次派兵を行おうとしている。この第八次群は宮崎、熊本、鹿児島県の各駐屯地を中心とした約五〇〇名で、一〇月下旬から現地に向かう。
サマワのあるイラク南部でも、ロケット砲の攻撃も頻繁におこるようになり「非戦闘地域」とは誰もがいえないような状況であり、また自衛隊に対する地元住民の反発がデモなどとなって表れている。すでに、イギリス軍、オーストラリア軍はサマワから撤収する方向だ。しかし、この第八次派兵は、アメリカ軍の占領を支えるために、自衛隊をイラクに居座り続けさせようという政策のあらわれだ。また、アメリカは日本への要求を強めている。航空自衛隊にバグダッドやバグダッド近郊のバラドの空港への米軍向け物資や兵員の輸送をやらせ、そのほかにも航空自衛隊にイギリス軍が駐留するバスラへの輸送支援も継続させるとしている。
しかし、世論の多数は自衛隊イラク派兵延長反対が圧倒的多数派となっている。
毎日新聞の一〇月八・九日の全国世論調査(電話)によると、「延長すべきだ」が一八%だったのに対して「延長すべきでない」が七七%と圧倒的多数となっている。支持政党別では、自民支持層でも賛成は二九%、反対が六六%となり、公明支持層では反対が八割近くに、民主、共産、社民支持層では反対が八割を超えている。性別では女性の七九%が延長反対だった。
去年の同調査では、一一月「延長すべきだ」二七%、「延長すべきでない」五一%、同一二月のものでは「賛成」三一%、「反対」六二%で「反対」が急速に増加したのがわかる。
自衛隊をイラクからただちに撤退させよう!
鉄建訴訟控訴審にむけて勝利の陣形をつくりだそう
鉄建公団訴訟で東京地裁(難波孝一裁判長)は、折衷判決をだした。だが、それでも、旧国鉄(鉄建公団、鉄道運輸機構)が、国鉄分割民営化時に組合差別の不当労働行為をおこなったことは認定した。
一〇月一四日に、社会文化会館大ホールで「控訴審で全面解決をめざす一〇・一四集会」(主催 鉄建公団訴訟原告団、国鉄闘争共闘会議)が開催された。
主催者あいさつは、一〇四七名の不当解雇撤回、国鉄闘争に勝利する共闘会議の二瓶久勝議長。
鉄建公団訴訟は三年半で地裁判決が出た。今後の控訴審の闘いでは、一〇四七名の団結、裁判闘争、そしてそれらを支える大衆運動が重要だ。地裁判決は、扉を少しこじ開けるものだ。力をあわせて運動を前進させていけばかならず勝つことができる。
つづいて鉄建公団訴訟原告弁護団の加藤晋介主任弁護士が、判決内容の報告と控訴審に向けた弁護団の決意を表明。
地裁判決は今の労働運動の力関係をあらわしたものだ。不当労働行為を認めたといっても最小限のところに過ぎない。判決は、旧国鉄・清算事業団のなした不法行為について、五つにわけて評価するという手法を用いている。それは、@八七年四月採用差別、A八七年四月に至る迄の国労解体のための一連の不当労働行為、B九〇年四月解雇に至るまでの清算事業団での再就職妨害行為、C九〇年四月解雇、D地元JRへの就職斡旋義務懈怠だが、@のみが、未だ消滅時効にもかかっていない不法行為として責任を問い得るという評価をしただけで、ただ一点だけを救ったものだ。
難波裁判長は一昨年末の最高裁判決をみて、この判決を書いた。最高裁は、JRには責任は無い、あるとしたら旧国鉄だ、そして地労委・中労委すべてが不当労働行為があったとしている。最高裁判決が前提になっている。しかし、難波判決の本当の狙いは、どうやったら国鉄闘争を切り捨てられるかということだ。@については仕様がないから「救う」、しかし、その他は全て認めない。すべて時効だという。地元JRへの採用については、北海道・九州では人員が多かったので、いずれにしろ採用されたかどうかわからないという言い方をしている。本来なら取れるはずの未払い賃金も年金もだめだとしている。そしてJRに採用される「期待」にたいして、「五〇〇万円」を恵んでやったということだ。これによって、今度は国労本部が出てきて、一〇〇〇万円ぐらいで、花をもたせて闘争を終わらせようという目論見だ。原状回復させずに、金銭で和解させようということだが、こんなことでは、闘いは終わらない。しかも、向こう側は、九・一一の選挙で小泉が大勝したのをうけ、鉄道運輸機構はただちに高裁での闘いを宣言し、殲滅(せんめつ)戦にでてきた。控訴審は、これまでの成果を確保し、攻めていく熾烈な闘いとなるだろう。こちらも決意をかためて闘う態勢をつくらなければならない。
七・一五全国集会の呼びかけ人の芹澤濤良高知短大名誉教授が地裁判決のコメントを述べ、鉄建公団訴訟原告団の決意に入った。
酒井直昭団長
判決は不十分だが、訴訟未提起の闘争団のみんなにも合流をよびかけていきたい。闘いの不十分さは闘争団の不十分さであるという自覚をもって運動を強めていきたい。
共闘会議の内田泰博事務局長は行動提起を行った。
一〇月一六日の団結まつリを成功させることをはじめ、北海道・九州からの上京者を中心に鉄道建設・運輸施設整備支援機構(国鉄清算事業本部)前での座り込み闘争を、一〇月二三日から一二月二二日まで行う。また一一月二六日には「難波判決枇判シンポジウム」を開催することにしている。最大限の支援をお願いしたい。
鉄建訴訟の後続原告団の闘うアピールでは、全動労鉄運機構訴訟原告団の森哲雄代表、動労千葉鉄運機構訴訟原告団の高石正博団長、鉄運機構訴訟原告団の川端一男代表が発言した。
最後に、星野良明共闘会議副議長の音頭で、分断を許さず一〇四七名での全面解決を目指して団結ガンバローをおこなって、今後の闘いへの意思一致を確認した。
郵政民営化法成立に抗議
一〇月一四日、政府・与党は、郵政民営化関連六法案をほとんど審議らしい審議もなしに採決を強行し成立させた。小泉内閣は、郵政民営化の真の中身を明らかにせず、これで、日本の抱えるすべての問題を解決するかのようなデマを振りまきながら選挙に勝利し、内外金融資本に国民の財産を明渡し、郵政ネットワ―クを破壊して地方・過疎地を切捨て、郵政事業で働く労働者の権利をいっそう奪うものであるこの法案を成立させた。今後、政府は二〇〇六年四月に郵政民営化委員会を設置する。国営の日本郵政公社は二〇〇七年一〇月に解散し、郵便、郵便貯金、簡易保険の郵政三事業は民営化した四事業会社に分割して引き継がれる。
一〇月一三〜一四日、郵政労働者ユニオンと郵政民営化を監視する市民ネットワ―クは、全労協傘下の労組や市民運動団体とともに、国会闘争を最後まで闘いぬいた。
この「改革」の由々しい影響は早い時期に明らかになるだろう。一段と厳しい攻撃に直面させられる郵政労働者の不安を怒りに組織化し、郵政労働運動の活性化を実現しよう。ひきつづき郵政民営化の具体化を監視し、郵政サービスの破壊と闘い、多くの人びととの連携した運動をすすめていこう。
天皇制維持のための「女性天皇」を拒否しよう!
女帝容認の方向へ
一〇月八日、首相の私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」(座長・吉川弘之元東大学長)は安定的な皇位継承を維持するため継承順位を天皇の長子(第一子)からとして、女性天皇、女系天皇を容認する方針での最終調整に入り、一一月中にも報告書をまとめる。
政府はそれにもとづいて皇室典範改正案を次期通常国会に提出、成立を目指す。
小泉政権は、現在まで百二十五代続いたと強弁される「皇室伝統」である男系、(父方に天皇を持つ)は、近い将来に「断絶」するという危機意識で、「有識者会議」をつかって、女性・女系天皇容認の方向を強く打ち出してきている。だが、歴史上、一〇代八人の女性天皇が存在したとされるが、皇位は父方に天皇を持つ男系の世襲であったし、とくに明治以降は皇室典範によって「男系男子」と限定されており、今回の有識者会議の方向での見直しとなれば皇位継承制度が大きく変質することになる。
こうした女性、女系天皇論の浮上に対して、「男系伝統」重視派は反発を強めている。今後、天皇制擁護派の内部分岐は一段と拡大していくだろう。
しかし、「皇位継承」断絶の時期を迎えて、天皇制そのものの存続か否かが問われなければならないのである。
女天研が声明
皇室典範に関する有識者会議は、天皇制の存続のための作業を続けてきたが、七月二六日には、「将来にわたる安定的な皇位の継承」を目的とした論点整理を発表した。天皇にふさわしいのは「女子でも直系」および「傍系でも男子」という二案が示されていた。
一〇月二日、女性と天皇制研究会(女天研)は「皇室典範に関する有識者会議の論点整理に抗議する声明をだした。その「天皇制維持のための「女性天皇」を拒否しよう 『皇室典範に関する有識者会議」論点整理について』」は次のように「有識者会議」の議論を批判している。
……私たち女性と天皇制研究会は、有識者会議に対し、@発言者を明確にした議事録の公開、A皇位継承を論ずるのであれば「天皇制がなぜ必要か」を明確にすること、B「世襲」という差別制度の是非を問うこと、C「天皇制に賛成」の立場に片寄らない議論を行うこと、について要請してきました。しかしこれらは、論点整理およびその過程において、まったく反映されておりません。
有識者会議が、女性天皇を容認するか否かについて、今日的な「国民の意識」を前提に話し合うのであれば、まず最初に「世襲制」こそ問われるべきです。
……私たちはこのように、有識者会議での議論そのものが、きわめて性差別的なプロバガンダの場になっていること、それが「国民の理解と支持を得られる」意見だとされていることに、強い憤りを感じざるをえません。「国民」の意識なるものがきわめて都合よく使われていることは明らかです。
……歴史上、天皇制は「伝統」の名の下、それぞれの時代においてその特権的な地位の保持のために、もっとも都合のよい「伝統」を採用し、あるいは自由自在につくり変えて生き延びてきました。明治期はそのもっとも顕著で近い過去の例です。また侵略戦争を主導した昭和天皇や、天皇制が果たした「国民統合」の役割についての批判的検討は、国家レベルでとりくまれるべき課題であるにもかかわらず、逆に「功績」などとして美談に改ざんされつつあります。
むしろ、こういった価値観こそ、近現代の天皇制が強化してきた悪しき「伝統」であると解釈されるべきなのです。有識者会議が、特権的に天皇制を語るならば、
まずはそれへの反省から始めねばなりません。
私たちにとって、誰がなろうと「天皇」は「天皇」です。皇位継承者が途絶えている以上、「女性天皇」の容認がなければ天皇制は消滅するしかありません。私たちにとって必要なものは、天皇ではなく、本当の「主権在民・基本的人権・平和主義」の実現です。そのためにも、声を大にして何度でも訴えます。
天皇制維持のための「女性天皇」を拒否しよう! 天皇制はもうやめよう!(女性と天皇制研究会)
書評
「下 流 社 会 新たな階層集団の出現
」
三浦 展 (著)
光文社新書(2005/09/20) 284頁 819円
日本社会は大きな変貌をとげつつある。かつての「総中流意識」の時代から、階層・階級社会へ急速に移行しつつある。
山田昌弘『希望格差社会』、佐藤俊樹『不平等社会日本』、橋本健二『階級社会 日本』などの著作が次ぎつきに出されている。また、玄田有史・小杉礼子『子どもがニートになったら』、香山リカ『就職がこわい』『結婚がこわい』などが多くの読者を得ている。
三浦展(みうら・あつし)『下流社会 新たな階層集団の出現』は、「昭和四世代欲求比較調査」(二〇〇四年一一月一二日)をはじめとする調査の分析の中から、現在の日本社会が、<中流化の「一九五五年体制」から、階層化の「二〇〇五年体制」へ>変るととらえる(意識面からの調査だが)。調査対象になった昭和四世代とは、「昭和ヒトケタ世代」(一九三一〜三七年生まれ)、団塊世代(一九四六〜五〇年生まれ)、新人類世代(一九六一〜六五年生まれ)、団塊ジュニア世代(一九七一〜七五年生まれ)である。とくに、団塊ジュニア世代が分析の焦点となっている。目次としては、第一章 「中流化」から「下流化」へ、第二章 階層化による消費者の分裂、第三章 団塊ジュニアの「下流化」は進む!、第四章 年収三〇〇万円では結婚できない?、第五章 自分らしさを求めるのは「下流」である?、第六章 「下流」の男性はひきこもり、女性は歌って踊る、第七章 「下流」の性格、食生活、教育観、第八章 階層による居住地の固定化が起きている?、おわりに――下流社会化を防ぐための「機会悪平等」。
三浦は次のように書いている。
<日清食品の安藤宏基社長は、二〇〇四年九月期決算発表の場で、「今後の日本人は年収七〇〇万円以上と四〇〇万円以下に二極化する。七〇〇万円以上の消費者向けに高付加価値の健康志向ラーメンを、四〇〇万円以下の消費者むけに低価格商品を開発する」と発言して話題になった。……安藤社長にこうした決断を下させたのは「日本の消費者は米国のように所得によって二極化する。低所得層を無視しては、これからの日本企業は成り立ちません」という丹羽宇一郎・伊藤忠商事会長(日清食品社外取締役)の言葉だったという。日清は近年二〇〇〜三〇〇円以上の高付加価値カップ麺で成果を上げてきたが、カップヌードルを常に一〇〇円以下で販売するようなディスカウントストアに集る消費者が増えており、この層を無視して、将来の日清は成り立たないという判断があったという。>
そして、今後は、中流が上下に分解し、そのほとんどが下流化し、「『上』が一五%、『中』が四五%『下』が四〇%の時代がやってくる」、とくに「若年層で下流化が進行」している。後の世代になればなるほど、格差は拡大する傾向にあるとしている。そのなかで、それぞれの階層の価値観が固定化するという。
第六章の「『下流』の男性はひきこもり、女性は歌って踊る」で、団塊ジュニア世代の趣味と消費について書いている。趣味についての分析では、男性は、パソコン・インターネット、AV機器、テレビゲームなど、ややオタク・ひきこもり的傾向が目立つ。女性では、パソコン・インターネット、音楽鑑賞などだが、絵画・イラスト、ダンスなどサブカルチャー系の趣味もあるという。
総選挙で小泉与党を圧勝させた大きな要因のひとつが、若者の自民党への投票行動であった。本書は総選挙前に書かれているが、「『下』は自民党とフジテレピが好き」に次のような記述がある。
<実際、「欲求調査」でも、先述したように団塊ジュニア男性の「下」ほどスポーツ観戦が好きであり、またフジテレビをよく見ている。具体的に言うと朝のニュースを見るテレビ局としては、「上」は三三・三%がNHKで最も多いのに対して、「下」は三九・六%がフジテレビなのである。また「夜の番組全般でよく見るテレビ局」は、「上」はフジテレビが三三・三%、NHK二五・〇%だが、「中」はフジテレビが五五・〇%、「下」は三三・三%である。ちなみに昭和ヒトケタ世代は階層意識にかかわらず朝も夜も男女ともNHKを見る者が多い。それに比べると、団塊ジュニアは階層意識が高くない。NHKを見ないのだから、視聴率が低下するのは当然である。さて、次に支持政党を見ると、団塊ジュニア男性の「下」では自民党が一八・八%、民主党も一八・八%と、支持政党を表明する傾向が強い。逆に「上」では自民党が八・三%、民主党が一六・七%であり、支持政党なしが七五・〇%と「中」や「下」よりも多い。このように、今回の調査結果に関する限り、団塊ジュニア男性の「下」は政治意識が強く、フジテレビが好きで、スポーツ観戦が好きということになる。これはある意昧で、非常に現代的な風景、つまりまさに香山リカのいう、「ぷちナショナリズム」的な風景であるとも解釈できるだろう。>
ここには小泉の構造改革によって、格差社会の犠牲のしわ寄せをもっとも受ける層が、逆に、その「改革」を支持しているという姿がある。
三浦は、階層社会では、学歴、企業、結婚相手、住居地域もそれぞれの層は同じ層の者とだけ付き合うことになり、他の層との理解は困難になっていくだろうとしている。
三浦は、<少数のエリートが国富を稼ぎ出し、多くの大衆は、その国富を消費し、そこそこ楽しく「歌ったり踊ったり」して暮らすことで、内需を拡大してくれればよい、というのが小泉―竹中の経済政策だ。つまり、格差拡大が前提とされているのだ。しかし、失業率五%、若年では一〇%以上の状態が恒久化し、毎年四万人近くが自殺して、それでも大衆はそこそこ楽しく生きているといえるのか?>と言う。まさにそのとおりだと思う。
しかし、これにつづく、<だが、国民も、格差の是正をすべきだと考える人が減っている(内閣府『国民生活選好度調査』)。むしろ格差の拡大はしかたがないと考える人が増えている。頑張っても頑張らなくても同じ「結果悪平等」社会より、頑張らない人が報われることがない格差社会の方を、国民が選択し始めているようにも見える>とするのはどうだろうか。
総選挙での社民党の善戦は、同党が格差是正を正面に掲げたことが大きかったと思われる。また、「頑張らなくなった」のは、頑張っても報いられることの少ない社会システムの問題が大きい。
本書は、意識調査にもとづくものだ。自分が自分をどう思うかということだけは、自分の客観的な存在をただしく認識できない。この意識分析に、政治的・経済的・階級的な分析が関連付けられることが必要だろう。
頑張ないから下層になる。下層だから頑張れない。この悪循環をどこで突破するか。
小泉の資本主義の再編・改革でなく、それより格段に巨大な変革・革命の側に、小泉「改革」最大の被害者とも言える若者、とくに団塊ジュニア世代「下」を獲得できるかどうかが問われている。
三浦のこの本は、これから日本社会で中心になっていく団塊ジュニア世代のことをしる一書だ。
(MD)
せ ん り ゅ う
メディア規制で超大国はつっ走る
驕れる大国主義が傲慢に見えてくる
勝てば官軍原爆投下正当論
独走も民主的だという論理
政治不信日本列島飼い殺し
行き違いみつめる水槽の金魚
爪を噛む燃えつきる芯まで女です
手足組んで高邁の殻をかぶる
瑠 璃
複眼単眼
憲法と小泉純一郎首相と前原誠司民主党代表
いやはや、この人の憲法認識にはほとほとあきれ果てる。彼は憲法のつまみ食い的な引用をしばしばやるのだが、おそらくこの人は憲法をいまだに一度だって真面目には読んでいないのではないか。側近だかなんだかに「これが使えそうですね。今度はこれでいきましょう」と入れ知恵されて、「よし、そうしよう」という程度で憲法を引用する。全体として憲法を捉えることができず、憲法に含まれる考え方の基本を理解できず、部分的に憲法の文言を引用するのだからかなわない。
理解をしていないから、恥じるということも知らない。自分が知らないことを堂々と居直ることができるのだ。
一般人ならいざ知らず、ことは憲法尊重擁護義務をもつ、その最たる職務である首相の地位にある小泉首相のことなのだから、恐れ入るというか、こまったものだというか、許せないことなのだ。
一〇月一九日の国会党首討論で、民主党の前原代表が小泉首相の靖国参拝について質問した時のことだ。
小泉はすこしも悪びれず「参拝は憲法に保障されている思想、良心の自由だ。これは侵してはならないと、十九条に規定されている」と言ってのけたのだ。これを聞いて本当に驚いたね。
学校現場などで「日の丸・君が代」強制で、憲法十九条にどんどん違反して、思想良心の自由を侵す政治を進めている首相が、自分の靖国参拝を正当化する口実に十九条を持ち出すなんて、ほんとに驚いたね。いま東京などで次々と処分されている教員たちのことなど、まったく頭にないんだろうね。
靖国参拝が問題なのは十九条ではなく、二十条の「信教の自由」と関連して「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教活動もしてはならない」という規定に真っ向から反するからであり、九十九条の「国務大臣…は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」という規定に反するからなのだ。そして、先の大阪高裁でも違憲との判決がでた直後でもあり、司法の判断を無視して確信犯的に憲法を踏みにじっていることが問題なのだ。
国家権力の直接の当事者が十九条をもちだして弁明するなんて、ちゃんちゃらおかしいというものだ。
ましてその靖国神社は、アジアの人びとから指摘されるまでもなく、「戦争神社」であり、A級戦犯まで合祀しているとんでもない神社なのだ。日本を「戦争のできる国」にするための動きの重大な一環だと指摘されるゆえんだ。
ところが、このめちゃくちゃな小泉首相に質問した前原民主党代表の、首相への批判がまたすごいのだ。
「(拝殿の前で手を合わせた小泉首相の参拝の仕方をまねして、手を合わせながら質問して)神社に行くときは頭を垂れるものだ。ポケットからさい銭を出して、チャリン。こんな不謹慎なはなしはない」と言ったのだ。前原氏はこれで批判をしたつもりなのだ。「お参りの仕方が悪いのだ」だってさ。首相の参拝そのものの問題ではなく、「参拝の仕方」の問題だというのだ。形式が不謹慎だというのだ。これが野党第一党の党首の質問だというのだから恐れ入る。小泉といい、前原といい、この連中の憲法感覚は救いがたいものがある。こんな連中に憲法を語る資格などは全くない。
憲法がわからない首相や党首なんて、もうやめるしかないんじゃないの。ホント。
(T)