人民新報 ・ 第1188号<統合281(2005年12月15日)
  
                  目次

● 教育基本法・憲法改悪を止めよう

● 自衛隊のイラク派兵期間延長に抗議!  WORLD PEACE NOWが国会・官邸前抗議行動

● 12・9 けんり総行動  霞ヶ関&裁判所への怒りの共同行動

● 立川反戦ビラ入れ裁判 東京高裁が不当判決

● 日本労働弁護団が均等法改正法案で意見書

● 【声明 天皇制安泰のための法改「正」に反対します】への賛同を!

● 東アジア共同体と日本

● 複眼単眼  /  浅薄な知識で憲法のつまみ食いを重ねる首相




教育基本法・憲法改悪を止めよう


 かつての大日本帝国は、旧憲法(大日本帝国憲法)と教育勅語がその柱となっていた。日本国憲法は戦争放棄の九条をもち、教育基本法は「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならない」(第一条 教育の目的)とする。まさに両者は表裏一体のものであり、後者は憲法原則を支え実現するものとしてある。小泉政権のめざす改憲は、教育基本法改悪の攻撃でもある。自民党は、来年の通常国会に教育基本法改悪法案を上程しようとしている。こうした動きに対して、憲法・教育基本法改悪反対の運動は着実に拡大してきている。

 一二月三日、日比谷野外音楽堂で、「教育基本法・憲法の改悪をとめよう! 12
・3全国集会」が開かれた。主催は「教育基本法の改悪をとめよう!全国連絡会」で、市民団体や日教組、全教などの教職員組合など三五〇〇人が参加した。
 集会では呼びかけ人、さまざまな運動から、国会議員から、全国の仲間たちから、など多彩な発言がつづいた。

呼びかけ人からの発言

 小森陽一さん(東京大学教授)
 人間は言葉をあやつる動物だ。しかし、ブッシュや小泉などは考える力を徹底的に奪おうとしている。九・一一総選挙を見れば、小泉は政策の中身などはどうでもいい。記憶の操作で多くの国民を騙した。かれらは、ターゲットを学歴の低い人に絞ったと言っている。イメージだけを何度も垂れ流していくのだ。そして単純化の二者択一をおこなわせた。まさに愚民政策だ。いま、意識と無意識の場で記憶を巡るせめぎ合いが行われている。これを明確にしていかなければならない。人を殺すこと、これは絶対にやってはいけないことだ。小泉は国民の税金を使って米英の戦略に都合のいいことばかりをやっている。教育をそのための洗脳の場にしてはならない。九条の会は確実に広がっている。教育基本法と憲法をひとつのものとして改悪に反対していこう。
 三宅晶子さん(千葉大学教員)。
 新自由主義のグローバリゼーションは第三世界を新たな植民地にしている。先進国でも貧富の差が広がり、貧困がいたるところに見られる。強い者の権利だけをみとめて、その他の人たちの尊厳を認めない。優生思想そのものだ。それが教育の場にも導入されようとしている。教育に市場原理を持ち込み、利潤のための教育が行われる。その一方で、行政の下請け機関にされようとしている。学校に行政職を置き、地域のボランティアをまとめ、弱肉強食そして軍事化する社会の後方支援を受け持たせようとしている。共謀罪法案などの動きもあり、いまは治安維持法・強制収容所などはないが、そうした方向に向かわされようとしている。教育基本法については、来年の国会に改悪法案が提出されようとしている。この冬が大事だ。
 高橋哲哉さん(東京大学大学院教授)
 小泉は靖国神社参拝を繰り返しているが、その口実をさまざまに変えてきている。ついに憲法を出し、思想・良心の自由までもだしてきた。とんでもない言い方だ。憲法は政府が好き勝手なことをして国民の自由が奪われるのを禁ずるためにある。こうした発言は、小泉自身が憲法についてなにもわかっていないことを自己暴露するものだ。先の戦争では日本人三〇〇万人、アジアの人びと二〇〇〇万人が死んだ。これは出すべきではない犠牲だった。憲法・教育基本法が変えられようとしている。たしかに自分で勝ち取ったものではないが、この国の大部分の人は、自由を大切に思う、自由への渇望があった。だからここまで定着してきた。憲法も教育基本法もそれを獲得する努力がなければ自分のものにはならないのだ。
 大内裕和さん(松山大学助教授)
 自民党は立党五〇年記念党大会で、「新憲法草案」を発表し、自衛軍の保持が明記された。また在日米軍再編・強化策が打ち出されている。これは日本を「戦争する国家」へと変えようとする企てに他ならない。教育基本法・憲法の改悪とともに、小泉構造改革による労働者への攻撃が激しく行なわれ、とくに公務員がターゲットとされている。自民党政権は、自らがつくり出した財政赤字の責任を公務員に押しつけている。小泉の狙いは、改憲に反対し、反戦平和運動を展開してきた官公労・公務員労働組合を解体することにあり、日教組、全教、自治労、自治労連を解体して教育基本法改悪と憲法の改悪を進めようとしているのだ。公務員には、嵐が過ぎ去るのを待とうとしたりするのではなく、他の労働者・市民と連帯して、この新自由主義と正面から対決することが強く求められている。最も重要なことは、教職員組合や公務員労働組合が、教育基本法の改悪阻止、憲法九条改悪阻止の先頭に立つことだ。国鉄労働者の闘い、「日の丸・君が代」強制に反対する現場教職員の闘い、戦争協力を拒否する陸海空港湾労組二〇団体の闘い、教育労働者、公務員労働者の新自由主義に対する闘い、そしてこの労働運動の新たな潮流と広範な市民や学生の運動が結びついた時、教育基本法と憲法の改悪を阻止することが可能となるだろう。

 西原博史氏(早稲田大学教授)は自民党の憲法草案を批判する発言を行った。国会議員では、小池晃参議院議員(共産党)、福島瑞穂参議院議員(社民党)が挨拶した。民主党の川内博史衆議院議員と公明党の山下栄一参議院議員のメッセージが紹介された。九条の会の奥平康弘さん、澤地久枝さんからもメッセージが寄せられた。

教育職場からの発言


 大阪府立高等学校教職員組合の志摩毅さん
大阪では、この一年で四〇を超える府立高校で「職場九条の会」が結成された。これらの会は、全教傘下の府高教の組合員、日教組傘下の高教組の組合員、その他の組合や組合に加入していない教職員の連名で呼びかけられ、結成された。憲法・教育基本法改悪して「戦争する国」にしようとすることには、教職員に、組織や立場を超えて、子どもと教育、平和を守るために何かしようという思いが広がっている。この活動は職場と教職員を元気にしている。そして運動は確実に発展している。集まって、語りあって、元気になって、そして行動に立ち上がっている。「教え子を戦場に送らない」の誓いを新たに、全力を尽くす決意を申し上げて発言としたい。
沖縄県高等学校教職員組合の幸地一さん
「戦後」六〇年の二〇〇五年に沖縄は、復帰三三年を迎えた。復帰運動で私たちがめざしたのは、平和憲法下へかえることであり、米軍基地の即時無条件全面返還だったが、復帰の内実は沖縄の日米安保体制への組み込みであり、自衛隊の駐留による基地機能のさらなる強化・固定化であった。「在日米軍再編協議中間報告」などは沖縄差別だ。少しでも今の沖縄をよりよい方向に変えることを目指してアクションを起こし続け、全国の仲間たちと手を取り合い、理想の実現に向けて、一歩でも二歩でも、踏み出してきたい。

 日の丸・君が代強制処分に抗して闘う東京都の教員の根津公子さん、被解雇者の会の太田淑子さん、東京・文京区区で「つくる会」教科書採択に反対する野口さん、朝鮮高校の学生が発言に立ち、イラクで「人質」となったNGO活動家の今井紀明さんが特別発言を行った。
 最後に集会アピール(別掲)を確認して、銀座パレードに出発した。

教育基本法・憲法の改悪を止めよう!全国集会アピール

 教育基本法と憲法の改悪が行われようとしているなか、本日、私たちは組織・団体の枠を超えて全国から集まりました。小泉首相の靖国神社参拝、在日米軍の再編強化、そして自衛隊のイラク派兵延長といった軍事大国化が急速に進められています。二〇〇五年一一月二二日の立党五〇年記念党大会で自民党は「新憲法草案」を発表し、憲法改悪の方針を打ち出しました。この新憲法草案は、現行憲法九条二項を削除し、新たに九条の二を設けて自衛軍の保持を明記し、「国際社会の平和と安全を確保するための活動、すなわち海外での軍事行動を実質的に可能とするものです。憲法を改悪することによって、戦後の平和主義を根本から否定し、「戦争する国家」づくりが狙われています。
 教育基本法の改悪は、憲法の改悪と一体の動きであるといえます。「伝統文化」や「愛国心」を強制し、教育現揚への政治的介入によって、教育を子どもたち一人ひとりのためのものから、国家・国益中心のものへと変えようとしています。また教育の機会均等を奪うことで、教育の格差と差別を拡大します。現在行なわれようとしている義務教育費国庫負担の削減・廃止は、その具体的なあらわれです。教育基本法の改悪は国家主義による統制と新自由主義による差別の強化をもたらし、それは「戦争する国家」づくりと軌を一にしています。
 全国の教育現揚で行なわれている「日の丸・君が代」の強制は、教育基本法改悪の先取りそのものです。特に二〇〇三年に東京都教育委員会が出した「10・23通達」は、教育基本法で定められた「個人の尊厳」を否定し、日本国憲法第一九条「思想及び良心の自由」に明確に違反しています。この「10・23通達」によって大量の教職員が処分されました。しかしこの「日の丸・君が代」強制に対して、多数の教職員が不起立・不伴奏を貫くなどの抵抗を行ない、保護者・生徒を含めた強制反対運動が全国各地で様々に展開されています。
 人間の尊厳と労働者の権利を新たに獲得しようとする現揚教職員と市民のこの粘り強い闘いは、教育基本法・憲法の改悪阻止と深く結びつくものです。私たちはこの闘いに心から連帯します。
 また二〇〇五年夏には、「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史・公民教科書の採択をめぐる闘いが全国で行なわれました。「つくる会」教科書は、近代日本の侵略戦争と植民地支配を賛美し、教育基本法と憲法の改悪とも直結した内容です。栃木県大田原市や東京都杉並区などいくつかの地域で、「つくる会」教科書が採択されました。しかし全国各地の反対運動の展開によって、「つくる会」教科書の採択率は歴史〇・四%以下、公民〇・二%以下となり、「つくる会」が目標としていた一〇%を大きく下回らせることとなりました。
 「日の丸・君が代」強制や「つくる会」教科書採択への反対運動は、教育における民主主義と自由を守る貴重な闘いであると同時に、二〇〇三年に行われた「教育基本法改悪反対!12・23全国集会」以降、新たな連帯を生み出しながら広がっていった多彩な運動の展開とともに、教育基本法「改正」法案の国会上程を今日まで阻止する大きな原動力になりました。
 しかし、政府・与党は教育基本法「改正」法案の国会上程を狙っています。二〇〇五年九月一一日の衆議院総選挙で自民党・与党が圧勝したことによって、教育基本法改悪と憲法改悪へ向けての動きが一層加速しています。私たちは今日の集会を新たな出発点とし、さらに二〇〇六年三月三一日の国会デモとそれへ向けて全国に呼びかけた一〇〇〇ヶ所行動による連帯の力で、再び「戦争する国家」づくりを目指す教育基本法と憲法の改悪を全力で阻止することを、ここに宣言します。

二〇〇五年一二月三日


自衛隊のイラク派兵期間延長に抗議!

  
WORLD PEACE NOWが国会・官邸前抗議行動

 自衛隊の派兵期限は一二月一四に切れる。
 しかし、小泉内閣は一二月八日午後、臨時閣議でイラク復興支援特別措置法に基づく自衛隊派遣を一年間延長する基本計画変更を決定し、再度の派兵延長を決めた。首相談話では、「自衛隊が行ってきた人道復興支援は、現地の人々の生活基盤を回復、充実させ、雇用も生み出しており、ジャアファリー首相やズィーバーリー外相から感謝の意とともに活動継続を望む要望が表明されるなど、現地の人々やイラク移行政府から高い評価を受けてい」るとして、今後のイラク新憲法に基づく国民議会選挙と新政府の樹立で「イラクの真の民主化に向けた大きな前進」が実現でき、また「二八ヵ国が多国籍軍の中で活動するというイラク支援の協調体制」が続き、「国連安全保障理事会は、イラクに駐留する多国籍軍の任期を来年末まで一年延長するという決議」をしたことで、「イラクに民主的で安定した政権ができるよう可能な限りの支援を行うことにより、国際社会の一員としての責任を果たす」というのだ。
 しかし、「サマーワの治安情勢は予断を許さないものの、他の地域と比べれば比較的安定」していると、自衛隊のいる地域情勢の不安定さに危惧も表明している。
 それゆえ、派遣期間内でもサマワのあるムサンナ県の治安維持をイギリス、オーストラリア軍などの活動状況を見極め「適切に対応する」としている。小泉は、両軍は来年五月ごろ撤退すると計画であるとして、陸自部隊を来年六月ごろに撤退を開始し八月の撤退完了を考えていると言われている。しかし、航空自衛隊は米軍作戦の支援のために引き続きイラクにとどまるし、海上自衛隊もアフガニスタン作戦支援のためにインド洋に派兵されたままだ。
イラクでは、アメリカ占領軍とそのカイライ・イラク「政府」に対する戦いがつづいている。では、小泉が「比較的安定している」というサマワの状況はどうか。

 一二月四日、サマワなどを訪問し帰国した額賀福志郎防衛庁長官は「安全」を強調したが、サマワ郊外で陸自部隊がサドル師派のデモ隊からの投石で車両に損傷が生じた。額賀はこのことに関して、「何回もあった」ことだとして「治安は良くなりつつある。英豪軍と緊密に連携し、安全には十分配慮している」と述べた。デモ隊から攻撃されても「安全」では、なにが起こっても「安全」ということになるだろう。しかし、自衛隊への反発は急速に高まっており、不測の事態が起こる可能性は大きくなっていることは否定できない。

 派兵延長の閣議決定に反対して、八日には、WORLD PEACE NOWのよびかけによる国会・首相官邸に対する抗議行動が行われ、市民団体、労働組合、宗教者などが参加し、衆議院第二議員会館間前で集会を行い、その後、首相官邸前に移動し、自衛隊の撤退と小泉への抗議のシュプレヒコールをおこなった。

  * * * * *

 自衛隊のイラク派兵延長の閣議決定に抗議し、決定の撤回、白衛隊の即時撤退を求めます。

内閣総理大臣 小泉純一郎様

一二月八日、小泉内閣は一二月一四日に期限切れとなる自衛隊のイラク派兵期間をさらに一年間延長することを閣議決定しました。私たちはこれに強く抗議します。
いまや誰にもその不法・不当性が明らかとなっている米英主導のイラク戦争から三年近くが経過した現在、イラクの状況は「安定」や「復興」とはほど遠い状況にあります。米軍はいまなお『武装勢力の掃討』を口実に一般市民殺戮を続けており、一〇万人を超えたとされているイラク人の死者の数は増え続けています。米兵の死者もすでに開戦以来、二〇〇〇人を大きく超えました。
イラクの民衆の圧倒的多数は、米軍・多国籍軍の占領の即時終結を求めています。占領軍による虐殺と人権侵害、電気、水道など生活基盤の破壊の深刻化、失業の増大などの現実は、民衆の反米・反占領の思いをさらに強めています。
占領軍の一員としてサマワに駐留する自衛隊も、日増しに市民の怒りの対象となっており、攻撃の対象となっています。「人道復興支援」という大義名分とはうらはらに、いまやイラクにいる自衛隊は膨大な税金を浪費しながら「何もやってない」のが現実です。軍事占領を続けたままでの「主権回復」や「民主主義」がありえないのと同様に、軍隊による「復興・再建」など不可能です。むしろ軍隊による占領の継続は、市民の連帯にもとづく真に有効な復興支援の活動を妨害しています。
すでにアメリカでも、イラク戦争は誤りだったという主張が世論の多数を占めており、撤兵を求める訴えが高まっています。アメリカとともに戦争と占領に参加した諸国も続々と撤兵しています。
一方、日本はどうでしょうか。小泉首相は、アメリカのイラク戦争を全面的に支持し、二〇〇三年一二月に自衛隊をイラクに派兵することを決定しました。二〇〇四年の二月以後、すでに八次にわたって自衛隊が送られ、来年早々には第九次の部隊が東部方面隊から派遣されようとしています。
 この間、二〇〇三年一一月には外交官の奥克彦さんと井ノ上正盛さん、二〇〇四年五月にはジャーナリストの橋田信介さんと小川功太郎さん、同年一一月には香田証生さん、そして今年五月には傭兵・斉藤昭彦さんと六人の日本人の命が奪われました。六人の事情はさまざまですが、イラクが占領されず、自衛隊がイラクへ派遣されなかったら、いずれも殺されずにすむ人たちであったことは間違いありません。
世論調査でも、自衛隊のイラク派兵延長に反対する意見が賛成を大きく上向っています。明らかに憲法に違反しているにもかかわらず、世論を無視し、米ブツシュ政権のお先棒をかついで戦争と占領に加わる二度日の派兵延長という閣議決定に、私たちは怒りをこめて抗議します。
 私たちWORLD PEACE NOWは一〇月二〇日以後、五回にわたって「スグモドレ、ジェイタイ」を訴えて首相官邸前で行動してきました。きたる一二月一一日には上野水上音楽堂で「終わらせようイラク占領すぐ戻れ自衛隊」の意思を集めて集会とピースパレードを行います。

 私たちは改めて求めます。

 自衛隊イラク派兵一年延長の閣議決定撤回を!

 イラク占領を中止し、白衛隊の即時撤退を!

WORLD PEACE NOW

二〇〇五年一二月八日


12・9 けんり総行動

   
 霞ヶ関&裁判所への怒りの共同行動

東京総行動

 一二月九日、けんり総行動実行委員会による東京総行動が闘われた。東京総行動は、争議団・争議組合が主体となり、ともに支援連帯しつつ共同でとりくむ一日行動で、一九七二年に東京地評主催の「反合理化東京総行動」として発足し、労働戦線の再編などにより今年の六月からは「けんり総行動実行委員会」が担うことになった。
 「職場の権利・働く者の権利、人間としての権利」を守るための九日の総行動は、午前八時半のみずほ銀行(解雇・不当労働行為 全統一光輪分会、不当労働行為 全国一般東京労組ミューズ分会)からスタートし、千代田学園(学校再建 全国一般千代田学園労組)、朝日新聞(全国一般東京南部ヘラルド朝日労組)、郵政公社(免職処分 郵政4・28処分)、昼からは霞ヶ関&裁判所行動、トヨタ(解雇 フィリピントヨタ労組を支援する会、全造船関東地協)、住友重機(全造船追浜・浦賀分会)、由倉工業(不当労働行為 由倉工業労組)、昭和シェル石油(賃金差別・不当配転・転籍 昭和シェル石油労組)、NTT東日本本社(解雇 全国一般東京労組NTT関連合同分会)、フジTV(解雇 反リストラ産経労)、東京都庁(解雇 全国一般東京労組文京七中分会)、鉄建公団本社(鉄建公団訴訟原告団、全動労鉄道運翰機構訴訟原告団、鉄道運翰機構訴訟原告団)に対して抗議・申し入れ行動を行った。

霞ヶ関&裁判所行動

 昼の霞ヶ関・裁判所への怒りの共同行動は、首切り自由は許さない実行委が主催し、けんり総行動実行委と東京地評争議支援総行動実行委が共催団体となった統一行動として取り組まれた。この取り組みは、衆議院選挙における小泉与党の圧勝で、構造改革=規制緩和攻撃がさらに加速化されていることに抗するものだ。今、労働契約法制の抜本的な改悪が目論まれ、労使委員会制度の空洞化や金銭によって解雇できるようにするなど、より手軽に「首切り」や不利益変更が出来る仕組みが作られようとしている。それと同時に進んでいるのが労働裁判での反動化だ。とくに東京地裁労働部の裁判官主導による整理解雇四要件の緩和や東京高裁における労働者保護の立場を全く無視した一方的・反動的な判断が繰り返されている。この怒りの共同行動のサブタイトルは「東京高裁の連続不当判決糾弾!、整理解雇四要件を守れ!、厚労省は金銭解雇を法制化するな!」で、正午に日比谷野音霞門に集合して霞ヶ関デモを行った。

怒りの共同行動の基調
 
 (「労働契約法」の労働者の切り捨てと権利の蹂躙、経営者に一方的に有利の新法の制定を許さない、としたあと…)
 次に裁判所の問題です。
 かって東京地裁は一九九九年から二〇〇〇年にかけて「労働側八連敗」という不名誉な歴史を作りました。東京地裁労働部の裁判官たちは、最高裁の判例法理として確立されている「整理解雇の四要件」を形骸化して、経営者側の主張を鵜呑みにして不当な仮処分却下や不当判決を繰り返したのです。
 この不当な動きは、私たち労働者、労働組合、労働弁護団からの圧倒的な抗議の前に、いったんは止まったかに見えました。
 しかし今またその悪夢が繰り返されているのが、東京地裁、東京高裁の現状です。
 東京地裁労働部の六人の裁判官は、「判例タイムス」誌上において、「整理解雇の四要件は四要素とするべきだ」「経営者の判断を基本的には尊重するべきだ」との考え方を主張し、実際に新設された三六部を中心に、「四要件」ではなく、「四要素」による不当判断が多くなってきています。
 また東京高裁では地裁で負けた事件はもとより、地裁で勝った労働事件をも次々に敗訴させています。そのやり方は、地裁で認定された事実関係を一切無視したり、形式論で原告の主張を退けて敗訴させるというものです。
 とりわけ東京商科学園の不当解雇事件では、東京高裁、石川善則(いしかわよしのり)裁判官は、高裁での一度の審理も行わずに、さいたま地裁で勝った、解雇無効・不当労働行鳥認定の判決を逆転させて完全敗訴判決を言い渡しました。
 同じく東京高裁の根本眞(ねもとまこと)裁判官は韓国在住被爆者の保障裁判で、そのあまりの訴訟指揮から原告が裁判官忌避をしました。国民金融公庫事件でも地裁の不当判決をさらに上回る原告完全敗訴の判決を出しています。
 三人目、富崎公男(みやざききみお)裁判官は、障害者年金訴訟で、障害で働けなくなることへの備えは、本来各個人か扶養者がするべきだと、血も涙もない判決を出したほか、君が代伴奏拒否事件でも原告を完全敗訴させています。
 この一年間で、東京高裁で敗訴した事件は十指に余るほどあります。ヒルトンホテル解雇事件、ネッスルの解雇事件、国労本州不採用事件、東戸山小谷本先生分限処分事件、田畑先生再任用拒否事件、今井先生解雇事件、国民生活金融公庫「不当労働行為」事件などです。これらの事件は現在全部、最高裁に上がっています。
 本日の共同行動で、これらの労働者切り捨ての動きに対して、大きくNO!
の声を上げていきたいと思います!!


立川反戦ビラ入れ裁判 東京高裁が不当判決

 一二月九日、東京高等裁判所刑事三部(中川武隆裁判長)は、立川反戦ビラ配布事件裁判で、一審の無罪判決を破棄し、三人の被告に一〇〜二〇万円の罰金刑を言い渡すという不当判決を下した。

 この事件は、二〇〇四年二月二七日、市民団体「立川自衛隊監視テント村」の大西章寛さん、高田幸美さん、大洞俊之さんの三人が、自衛隊のイラク派兵に反対するビラを防衛庁立川宿舎で各戸の玄関ドア新聞受けに入れたことを理由に逮捕・起訴され、七五間にわたって長期勾留されたが、この弾圧は警視庁公安部が自衛官に被害届を出させるなど、公安警察が政府のイラク戦争政策を批判する動きを封じ込めようとするものだった。こうした弾圧が日常化されれば、全国の反戦運動、労働運動、反対派野党の政党活動などさまざまな運動への弾圧・圧殺となってくる。立川反戦ビラ弾圧裁判は全国から注視され支援の輪は大きく広がった。不当判決を糾弾し、完全勝利を勝ち取ろう。

一審東京地裁での勝訴

 一審の東京地裁八王子支部は、昨年の一二月一六日に「刑事罰に処するに値する程度の違法性があるものとは認められない」として無罪判決を出した。
 地裁判決は次のように言っていた。「被告人らが立川宿舎に立ち入った動機は正当なものといえ、その態様も相当性を逸脱したものとはいえない。結果として生じた居住者及び管理者の法益の侵害も極めて軽微なものに過ぎない。さらに、被告人らによるビラの投函自体は、憲法二一条一項の保障する政治的表現活動の一態様であり、民主主義社会の根幹を成すものとして、同法二二条一項により保障されると解され、営業活動の一類型である商業的宣伝ビラの投函に比して、いわゆる優越的地位が認められている。そして、被告人らの本件ビラ配布と同様の態様でなされた商業的宣伝ビラの投函に伴う立ち入り行為が何ら刑事責任を問われずに放置されていることに照らすと、被告人らの各立ち入り行為につき、従前長きにわたり同種の行為を不問に付してきた経緯がありながら、防衛庁ないし自衛隊又は警察からテント村に対する正式な抗議や警告といった事前連絡なしに、いきなり検挙して刑事責任を問うことは、憲法二一条一項の趣旨に照らして疑問の余地なしとしない」として「以上、諸般の事惰に照らせば、被告人らが立川宿舎に立ち入った行為は、法秩序全体の見地からして、刑事罰に処するに値する程度の違法性があるものとは認められないというべきである」としたのであった。

高裁中川判決の不当性

 ところが、高裁所の判断では、「官舎の共用通路、階段のみならず、敷地部分も、『人の看守する邸宅』で刑法一三〇条の住居侵入罪に相当する」として「テント村のビラまきは、『管理者の意思に反する立ち入り』であり、住居侵入罪でいうところの『侵入』に該当する」とした。また一審判決でふれられた憲法二一条に関しては「ビラによる政治的意見の表明が言論の自由により保障されているとしても、これを投函するために、管理権者の意思に反して邸宅、建造物等に立ち入ってよいということにはならない」とし、三人は「正当な理由なく人の看守する邸宅に侵入した」と結論したのだ。一審判決が、憲法の表現の自由や、多くの人が通り抜けフェンスでも完全に囲まれていない立川官舎の状況を良く調べ(地裁裁判官が実際に現場に来て調査した)たりしたのに比べて、中川裁判長は、政治の反動化の流れに乗って、検察・公安警察の側の言い分を全面的に認めたものであった。

ただちに反撃態勢つくり

 被告・弁護団は、ただちに、最高裁に上告し、完全無罪を勝ち取るべく闘う態勢づくりに入った。
 判決当日の九日の夜には、立川アミュールで、不当判決を糾弾する報告集会が開かれた。
 集会では、立川反戦ビラ弾圧救援会、立川反戦ビラ弾圧弁護団からの報告、法学者の石埼学さんの発言、立川と同様の弾圧を受けている都立板橋高校弾圧事件の同校元教員の藤田勝久さん、葛飾ビラ弾圧事件荒川庸生さん、社会保険庁国家公務員法違反裁判の堀越明男さんからの発言、最後に大西章寛さん、高田幸美さん、大洞俊之さんからの決意の表明があった。

「控訴審不当判決に対する声明文」

 ……小泉内閣はイラクへの海外派兵を延長し、東部方面隊から選抜された部隊を来年からイラクに送ろうとしている。サマワでは自衛隊宿営地への着弾や車両へのデモ隊の投石が起こるなど、ますます不穏な情勢になっている。自衛隊は一刻も早く撤退すべきなのである。弾圧はこうした派兵を続け、不安を抱える自衛官や家族に反戦運動が働きかける行動を萎縮させるためのものだったことは明白である。
 こうした中で高裁判決は、極めて政治的な意味を持つ。東京高裁は、人権の砦としての役割を放棄し、不当にも、表現行為の弾圧につながる有罪判決を下した。
 救援会・弁護団・テント村は本日までの裁判闘争を支えてくれたすべての人々に深く感謝する。そしてここに完全無罪判決を勝ち取るまで、さらに闘い抜くことを宣言するものである。

立川反戦ビラ弾圧救援会・立川反戦ビラ弾圧弁護団・立川自衛隊監視テント村


日本労働弁護団が均等法改正法案で意見書

 一一月一八日、厚生労働省労働政策審議会雇用均等分科会は、公益委員及び事務局より、「(分科会報告の)取りまとめに向けた検討のためのたたき台」の公表及びその口頭補足説明が行われた。この「たたき台」は、来年の通常国会に上程が予定されている均等法改正案作成にむけての分科会議論のベースとなるものである。

 一一月二八日、日本労働弁護団は厚生労働省労働政策審議会雇用均等分科会にあてて《「取りまとめに向けた検討のためのたたき台」に対する意見》を出した。
 (「たたき台」の)内容は重大かつ根本的な問題を有している。当弁護団は、「たたき台」に基づいて分科会報告および均等法改正法案が作成されることに、強く反対する。
 「たたき台」は、均等法の目的・理念に「仕事と生活の調和」を規定することに否定的姿勢を示し、その理由として、「均等法に『仕事と生活の調和』に関する具体的規定がない」こと、「『仕事と生活の調和』という重要課題は労働関係法令全体を通じて実現するものである」とする。
 しかし、上記理由は説得力を欠くものである。均等法の理念に「仕事と生活の調和」を規定すべきである。すなわち、
@ 「仕事と生活の調和」を規定することにより、均等法において求める平等が無限定な労働を強いられている男性を基準とすべきではなく、男女とも「仕事と生活の調和」を可能とする内容のものであることが明確となる。
A 上記を規定することは、それが均等法の具体的解釈の基準としての意味を有する。
B 「仕事と生活の調和」については、既に、育児介護休業法において「職業生活と家庭生活との両立」(1条)として規定されているところであり、「検討会議」報告も出され、各分野で具体化を図るべき時期となっている。均等法の理念に「仕事と生活の調和」を規定することは当然かつ必要なことである。
                              (以下略)


【声明 天皇制安泰のための法改「正」に反対します】への賛同を!

 女性と天皇制研究会(女天研)は、以下のような声明を準備しました。私たちは、存続の危機に瀕する天皇制を救いだすために出された、女性・女系天皇を認め、女性皇族にも宮家をたてることを認めるという有識者会議の最終報告と、それを受けて来年の通常国会で審議入りするという政府の動きに、大いなる不満と危機感を持っています。天皇制の歴史と現在が、どのようなものとして社会にあり続けているのかを考えれば、この政府の間違った選択、天皇制を残すための政策を、このまま見過ごすことはできません。
 男系・男子主義をかかげる人たちは、女系天皇反対を主張して政府に抗議しています。政府はこのような動きには配慮のポーズをとりつつも、最終的にはそれを制して、天皇制の安定的継続を選択することでしょう。
 男系・男子主義の家父長制も、政府が提唱する新しい天皇制も、同じ穴の狢、どちらも私たちには百害です。いま、反対の声をあげなければ、永遠に残る後悔の念を噛みしめることになるでしょう。「女性天皇はいらない! 天皇制はもっといらない! 天皇制存続をはかる皇室典範改「正」反対!」で、一緒に声をあげていきましょう。
 声明への賛同を呼びかけます

【賛同について】
 声明の趣旨に賛同される方は、ぜひお名前を連ねてください。
 一、個人・団体のいずれも集めます
 二、第一次集約:二〇〇六年一月一〇日
 三、声明は賛同者の連名で、小泉首相、衆参両院議長、マスコミ、できれば関連委員会の議員などできるだけ送付し、広く発信します。また、ウェブ上にも公開します。
 四、お名前は公表が前提となります。ペンネーム、匿名の方でも受けます。意思表示されたい方はどんどん賛同してください(匿名は、匿名として人数に加算します)。
 五、賛同の方法:以下のいずれかの方法で、お名前(ふりがな)をお送り下さい。
●【呼びかけ】 女性と天皇制研究会        jotenken@yahoo.co.jp
 FAX〇三(三三六八)三一一〇        www.geocities.jp/jotenken/ 
 * 件名は「声明賛同」とお書き下さい

【声明】天皇制安泰のための法改「正」に反対します

 小泉首相の私的諮問機関として昨年一二月に発足した「皇室典範に関する有識者会議」は、一一月二四日、最終報告を出しました。皇位の継承資格は「女子や女系の皇族に拡大」、継承順位は「男女を区別せずに長子優先」、「皇族女子は、婚姻後も皇室にとどまり、その配偶者も皇族の身分を有する」というものです。
 政府はこの有識者会議の報告を受け、来年の通常国会に改「正」法案を提出するとしていますが、まずは天皇制を残すことの是非を広く問うべきしょう。
 六〇年前に敗戦を迎えたあの侵略戦争の最高責任者は天皇でした。天皇の命令でアジアの国々に送り出された兵士たちは、数千万人といわれるアジアの人々を殺し、さらに多くの人々を傷つけ、生活を破壊しました。そしてまた、多くの日本兵士も死にました。その兵士たちは、天皇のための戦死として顕彰され、神として、いまも靖国神社に祀られています。敗戦から六〇年間、天皇はその戦争責任を問われることなく天皇としてあり続けています。免責された象徴天皇制は、靖国神社とならび、侵略の歴史に対する無関心と無責任を日本社会に醸成し、そして歴史に向き合おうとする努力を否定してきたのでした。
 戦後民法は家制度・家父長制度を否定しましたが、天皇制という家制度・家父長制・世襲制は、いまなお憲法および皇室典範という法の中に生きています。その天皇制が象徴し、強要してきた価値観や人間の関係のあり方は、私たちからさまざまな自由を奪ってきました。たとえば、いまも多くの場合、女性は本人の望みとは無関係に「産む」ことを期待され、女性の性は男性のためにあることを望まれたりしています。女性が天皇になっても、世襲制である天皇制の差別性はなくなりようがありません。「家柄」で人の価値を決定するような差別的な通念も、天皇制の世襲制を認めることの延長にあります。
 また、天皇制の維持は当たり前という論理は、それを拒否する人々を差別・排除する論理を内包しています。そこには恐ろしく非民主的で排外主義的な思想が横たわっており、暴力や戦争の論理にまでつながる危険なものだと思います。
 このような認識の上に立ち、私たちは天皇制はやめるべきだと考えています。
 天皇制はいま、天皇制そのものである差別的で非民主的な男性主義世襲制ゆえに、破滅に向かっています。そして女性・女系天皇容認論は、この差別制度を永遠に維持させるための救世主です。私たちは、天皇制を救いだしてやる必要など一切感じません。そのための法制度の変更、莫大な税金の使用などもってのほかです。国会が目指すべきことは、天皇制安泰のための皇室典範改「正」などではなく、現憲法が保証する主権在民、平和主義、基本的人権、平等主義の実現のはずです。私たちは政府にそのことを要請します。そして、戦争と天皇制のない社会を求めつづけます。

 二〇〇五年一二月一日

 【声明呼びかけ】女性と天皇制研究会

 【賛同】以下、賛同者・団体名続く


東アジア共同体と日本  

  伊藤憲一「東アジア共同体の夢と現実」

 東アジア・サミットがちかじか開かれるが、日本の東アジア基本政策は混迷している。経済(貿易、投資、金融)面ではアジア経済の発展によって相互依存関係は急速に深まっているが、政治面は、小泉首相の靖国神社参拝に象徴されるように近隣諸国との関係では日本の孤立化が目立っている。昨二〇〇四年五月、中曽根康弘元首相を会長とする「東アジア共同体評議会」(CEAC)が設立された。CEACのホームページに掲載されている評議会議長の伊藤憲一が今年の一〇月一二日に行った講演記録「東アジア共同体の夢と現実」を読んだ。

 伊藤は、評議会発足にさいして、「ASEAN+3(日本、中国、韓国)、東アジア共同体構想が大きなうねりとなって、東アジア全域に広がりを見せるなかで、この評議会は今後日本の戦略的意志を形成する重要な牽引力になることが期待されている」と位置付けていた。 
 伊藤は「東アジア共同体の夢と現実」と題しての講演で述べている。
 「東アジア全体でみると、一〇年くらい前から東アジア共同体という言葉が語られるようになったと思います。ですから日本は最近このことに気がついて、びっくりして慌てて対応しようとしているだけで、むしろバスに乗り遅れるなという感覚で、日本人がこの言葉に接しているのが実態だと思います。それにもかかわらず、特に東アジア共同体に反対する立場の方の中には、日本が旗を振って推進している話のように思っている方がいますが、現状認識が全然違っているわけです」。
 この問題での中心を担うようになった伊藤は、東アジアの実情から立ち遅れている日本の対応を批判しているが、こうした認識では中曽根も同じであろう(中曽根の靖国神社参拝問題にたいするスタンスなど)。
 日本では東アジア共同体の言葉が頻繁に出るようになったのは二〜三年くらいだが、歴史を振り返ればマレーシアのマハティール首相(当時)の「東アジア経済会議」(EAEC)が端緒をひらいた。だが、これはアメリカの反対でつぶされた。一九九七年にはアジア経済危機が起こり日本はアジア通貨基金(AMF)構想を打ち上げたが、これもアメリカの反対で実行できなかった。アメリカの覇権に対抗するものと見られたからだ。
 その後、ASEAN+3はアジア経済危機の救済に大きな役割を発揮し、九六年に発足していたASEM(アジア欧州会議)でヨーロッパとの会議に出席するのがASEAN+3と同じ構成であり、また、アメリカの強力なサポートを背景にしたAPEC(アジア太平洋経済会議)がすでに発足していることなどから、今回はアメリカの反対を封じることになり、東アジア共同体形成に向けての趨勢は加速した。
 日本はこうした動きにどう対応したか。九八年に北京で「東アジア・シンクタンク・ネットワ―ク」(NEAT)が開かれた。これは東アジア共同体構想実現に様々な提案を行うものとなったが、参加した伊藤は大きな衝撃を受けた。「この時の出席者たちは東アジアの各国から来ていましたが、どこの国から来た人も『自分の国の言葉』で語るのでなく『東アジアの言葉』で語っていたと思いました。…この会議に出ていた人は、東アジアの地域協力や地域統合の問題に長くかかわってきた人たちであり、その専門家としてお互いによく知り合っている、いわばその世界のマフィアのメンバーたちで…。ところが、それを知っている日本人はほとんどいない、というよりもまったくいない。日本人が全然気づいていない文脈のなかで、しかし地域のなかではそういう地域統合へ向けた考え方やパッションがここまで生まれ育ってきている。そしてそのことをほとんど知らない」。日本は遅れている、取り残されてしまうという危機感を抱いて帰国した伊藤はこの評議会設立の中心的な担い手となった。
 評議会は「東アジア共同体構想を推進するというスタンスではありません。とにかくまず一体何が起こっているのかを知ることが先決であり、その上で日本としてどう対応すべきなのかを戦略的に考えるという、オールジャパンの知的プラットフォームが必要」ということで設立された。
 伊藤は、東アジアでは、機能的統合、制度的統合、認識的統合の三つの側面があり、EUが制度的統合にまでいたっているのに、東アジアは機能的統合の側面、だがそれがすさまじいスピードで進んでいるという。機能的統合では、通貨・金融と貿易・投資の両面があるがいずれも「不可逆的なプロセス」だとしている。制度的統合は「非常に遅れている」が、その背景には日本と中国の間に抗争があるからだとする。認識的統合では「形をなしたものはなにもない」。EUでは「各国共通でつくったヨーロッパ史という教科書があり、それに基づいて学校ではヨーロッパ史の教育がおこなわれている」「ドイツ大使館に行くと、フランス外務省から派遣された人間が一等書記官をやっている。フランス陸軍を訪ねると、ドイツ軍から派遣された将校が連隊長をやっている。こんなことが日常的になっています。これは『ヨーロッパという観念が現実的に受け入れられつつあるから』」だ、と。一方東アジアでは「まだ克服されない経済格差、多様な文化、異なった政治制度、異なった価値観」があり、「ナショナリズムを背景とした政治というものが立ちふさがってい」るからだ。
 伊藤は「問われる日本の戦略的対応」で「中国問題の存在、米国問題の存在を直視せずに『東アジア共同体の夢』あるいは『現実』を見ることはできない」として、「東アジア共同体というのは、『日米同盟』というものをビルトインした構造でスタート」するのがよいとしている。
 今日われわれは、台頭する東アジア、それは日本にとっては明治期以来のアジア唯一の強大国日本という構図が消滅する歴史的な転換点に立っているということだが、小泉政治は、過去にしがみつき、東アジアとの政治的・軍事的な緊張を強めるだけである。東アジア共同体評議会の方向は、アジアの趨勢に対応しながら、その中で国益を求めようとするものだろう。
 小泉政治を終焉させ、アジアの中で、アジアとともに生きていく日本の進路を切り開いていくことが求められている時である。


複眼単眼

  
 浅薄な知識で憲法のつまみ食いを重ねる首相
 
 そのあまりな低レベルに、そして次から次から飛び出して来ることから、小泉首相の愚かで無謀な発言をいちいち批判するのは、当「コラム子」でさえ、少々イヤ気がさしてくる。しかし、「それではいけない。何度でも、何度でも、反撃を繰り返さなかったら、それは日常化されるのだから」と思い直す。小泉首相が一〇回語るのだったら、私たちは百回も、千回も語らなくてはならないのだ。
 小泉首相は三〇日、自民党本部での講演でこのように発言した。
 「靖国神社には、心ならずも戦場で命を落とさなければならなかった方の尊い犠牲の上に日本の平和があることを忘れてはならないという気持ちで、首相である小泉純一郎が一国民として参拝している。なぜ日本国民から批判されるのか。ましてや中国や韓国など外国から批判されるのは分からない。精神の自由ではないか。どの国でも平和への祈りや戦没者への哀悼がある。靖国問題は外交カードにはならない」
 「ひとつや二つの意見の違いがあっても、全体を壊してはいけない。長い目で見れば(中韓両国にも)理解してもらえると思う」と。
 十二月五日には、ASEANの会議の際に予定されていた日中韓首脳会議が延期された事に対して、「靖国問題はもう外交カードにはなりません。これは心の問題です。自由を尊重する人が靖国参拝をおかしいという方がおかしいんです」とも述べた。
 麻生外相もこれに呼応して「首相の靖国参拝を問題にする国は中国と韓国だけ」「気にしなくてよい」と掩護している。
 このところ、小泉首相は「精神の自由」とか「心の問題」とか、「思想信条の自由」とまで主張して、自らの行為の正当化を図っている。またぞろ、この人の憲法のつまみ食いである。なんでもかんでも、使えそうだと思ったら憲法の文言を引用する。その実、憲法にかいてある当該箇所の意味はまったく理解していない。あたるを幸いとばかり、支離滅裂な引用をするのである。
 小泉首相が言いたいことであろう憲法第十九条、二〇条の「思想及び良心の自由」「信教の自由」とは、「国家」がこれを侵してはならないものであって、「首相である小泉純一郎」がその当事者である。
 「首相である小泉純一郎」は人びとのそれを侵してはならないと書いてあるのであって、「首相である小泉純一郎」、「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教活動もしてはならない」(二〇条)のである。
 あべこべも甚だしい言説だ。「日の丸・君が代」を強制し「心の問題」に踏み込んだり、靖国に参拝して宗教活動をしたりしてはならないのである。ちゃんちゃらおかしいとは小泉首相のこういう言動のためにある言葉である。ましてことは戦争神社である靖国神社の問題である。
 日本の周辺の韓国、北朝鮮、中国、台湾など、全てが小泉靖国参拝に抗議し、米国をはじめ多くの世論が批判している。この国際的孤立を恐れない小泉外交は、いつか来た道をたどるのではないか。
 小泉首相は三〇日の演説でこう続けた。
 「政策を展開する上で一番大切なのは平和だ。軍事力がなければ、侵略しようとする国や組織に侮られ、その国の国民は抵抗しないと思われたら何をされるか分からない。それを未然にふせぐためには軍事力が必要だ」「現行の憲法は戦力にたいし、特別な意味を持たせ、憲法九条は憲法違反ではない(?)という解釈に政府も自民党も立っているが、これをわかりやすい表現にしたほうがいいのではないかと長年思ってきた。国の平和をまもり、侵略勢力を阻止するためには、ある程度の軍事力を持たないと無理だというのは常識的な考え方。非武装中立論者ほど無責任なものはない」と。いやはやではある。(T)