人民新報 ・ 第1190号<統合283>(2006年1月15日)
目次
● 自衛隊のイラク派兵反対! 陸上自衛隊第一師団(東京・練馬)から派兵
● 在日米兵による凶悪犯罪続発
● 立川反戦ビラ事件の不当判決に広がる抗議 「被告人」らの無罪を訴える法学者声明
● 間接差別は入ったが!? 労政審均等分科会報告
● 岡山で「共謀罪」の学習会
● 共謀罪反対の取り組み
● 国連常任理事国入り問題 G4分裂・日本の孤立
● 天皇誕生日に天皇制の戦争責任を問う
● 皇室典範改正をめぐる動き
● 靖国神社参拝問題での読売・朝日「共闘」とは?
● 複眼単眼 / 新年を迎えて
自衛隊のイラク派兵反対!
陸上自衛隊第一師団(東京・練馬)から派兵
アメリカ・ブッシュ政権によるイラク侵略戦争に積極的に加担する小泉政権は、昨年末に自衛隊イラク派兵期間を再び延長した。
ブッシュは、イラク戦争開戦の口実がことごとくデマであったことを自認せざるをえなくなり、アメリカを含む世界各地での反戦運動の持続、米軍の中にひろがる厭戦気分、米財政赤字の悪化、そして自国の上下両院議会などでも公然と早期撤退の要求が出されるようになっている。
イラクでは反占領の戦い、宗教・地域対立の激化などによってアメリカにとってかつてのベトナム戦時同様の「泥沼」化がすすみ、その一方で多国籍占領軍から離脱する国が続出し、アメリカの孤立は際立ったものとなっている。くわえて、イラン、イスラエル・パレスチナ状況も急速に緊迫の度を加えている。
この時期に、小泉はあえて自衛隊派兵を延長させたのである。
今年に入ってからは陸自東部方面隊から派兵される。一月の一〇〇名の先遣隊につづいて、以降、自衛隊第一師団(司令部・東京練馬)五〇〇名の本隊が、五月には、第一二師団(群馬県榛東村)から派兵される。東部方面隊、その中枢の第一師団はこれまで海外派兵からは除外されてきたが、それは首都防衛の要として位置付けられてきたからだった。
しかし、今回の派兵で、第一師団はローテンションで順番が回ってきたというだけでなく、この派兵を通じて大きく変質させられようとしている。この派兵経験を経て、「反テロ」戦争や海外派兵専門とする「中央即応集団」が形成されようとしている。これは米軍再編と連動しており、神奈川県のキャンプ座間への米陸軍第一軍団司令部の移転とそこへの陸自「中央即応集団」設置が計画されている。
小泉は防衛庁の省への昇格、海外派兵専門の待機部隊の創設、海外派兵の自衛隊の本務活動への組み入れなどにむけこの通常国会にも法案の提出を行おうとしている。
そして、自民党の新憲法草案では、九条二項を変え、自衛軍の保持の明記した。また米軍との共同作戦のための集団的自衛権の発動に向けての体制つくりを加速している。
ブッシュは昨年一二月の「国民議会選挙」でイラク情勢は安定に向かっていると強弁しているが、事態はまったく逆の方向に向かっている。
サマワの自衛隊を「守る」とされるイギリス軍、オーストラリア軍も撤退の動きをはじめている。そうなれば陸自も撤退するとも言われている。
しかし、航空自衛隊が米軍の武器・兵員の輸送をおこなう体制は延長・強化されている。
多国籍軍からの離脱が拡大して孤立を深めるアメリカは、兵員・財政の負担増に耐え切れず、同時に国内からも起こる撤兵の声に在イラク米軍の縮小を余儀なくされている。ここでイギリス、オーストラリア、日本という「盟友」まで撤退すれば、米軍への攻撃は一段と激しくなり、その死傷者は飛躍的に増えることになるだろう。アメリカは多国籍軍の崩壊を許すわけには行かず、日本にはいっそうの重い「協力要請」がなされるにちがいない。
小泉政権は、ブッシュ政権の世界戦争戦略に連動する路線を選んだ。撤退か長期派兵か、アメリカの要求にいかに対応するのか、イラクに派兵してしまった各国はジレンマに陥っているのである。
東部方面隊の陸自派兵部隊は、イラク民衆の高まる反占領の敵意に取り囲まれる。撤収するとしても、敵に後ろを見せることになるシンガリ部隊は極めて危険な目に会うことになるだろう。
陸自第一師団の駐屯地周辺をはじめ、多くの人びとが、自衛隊をイラクへ行かせるなの闘いを展開している。
より多くの人びとと力をあわせて、自衛隊はイラクいくな!すぐもどれ!の声をあげていこう。
在日米兵による凶悪犯罪続発
ブッシュの世界戦争計画のなかで在日米軍再編と日米軍事一体化が進められているが、この数ヶ月、再編・強化される在日米軍の兵士・軍属による犯罪が続発している。
昨年一二月、米軍厚木基地の女性上等水兵が、東京都八王子市で小学生三人をはねて重軽傷を負わせて逃亡した事件がおこった。しかし、日米地位協定によって「公務中」を名目に即日釈放された。八王子市の黒須市長は今年の一月六日、防衛施設庁長官に対し、被害への補償を速やかに行うよう要請するとともに、今後、米軍兵士が国内で起こした事件・事故は日本が裁判権行使できるように日米地位協定を見直すよう求めた。
七日に、長崎県佐世保市の市道で米海軍佐世保基地の二等兵曹が女性をひき逃げした。
同日には、沖縄県北谷町大村の米海兵隊キャンプ瑞慶覧(ずけらん)内で「ギブ・マネー」と脅した黒人の男によるタクシー強盗が発生した。
神奈川県横須賀では、三日、米海軍横須賀基地所属の、ウィリアム・リース一等航空兵(空母キティホーク乗組員)が、出勤中の女性の顔や腹部に殴るけるなどの暴行を加えて殺害し、現金を奪ったうえでの殺人事件が起こってしまった。
いずれも沖縄、神奈川、東京という在日米軍基地が密集しているところでの犯罪だ。
在日米軍兵士による犯罪は、日米地位協定一七条(「公務外」の米兵が基地外で犯罪をおかしても、基地内に逃げ込んでしまえば、日本側が起訴するまでは米側が身柄の確保ができる)をたてにとって犯罪米兵の日本側への身柄引渡し拒否してきた。しかし、一九九五年に沖縄で米兵による少女暴行事件が起こり、沖縄をはじめ在日米軍基地、地位協定に対する批判がたかまり、この怒りをかわすために日米両政府は、同条の「運用改善」で合意したが、それは犯罪を「殺人又は強姦という凶悪な犯罪」に限り、また米側の判断任せになってしまっているものだ。
こうした相次ぐ米兵による凶悪犯罪の続出に、松沢成文神奈川県知事や稲嶺恵一沖縄県知事などは地位協定の見直しと地元負担の軽減を求める申入れを政府に行った。
米兵犯罪の続出と在日米軍への反発の高まりに日米政府は対応に苦慮している。在日米軍再編協議の早期決着を目指すかれらは、これ以上の反基地感情の広がりをとどめるためにさまざまな動きをしてきている。
一〇日に、ジェームス・ケリー在日米海軍司令官は外務省を訪ね、横須賀市の米兵による女性殺害事件について「大変遺憾であり、日本国民に深く弔意を表する」と述べ謝罪した(米兵は逮捕され強盗殺人容疑で横浜地検に送検されている)。
一一日に、在日米軍司令官のライト中将とケリー在日米海軍司令官が、防衛庁を訪れ、守屋武昌防衛事務次官と先崎一統合幕僚会議議長に「謝罪」した。
ライト中将は「心より遺憾の意を表したい」と述べ、兵士らへの教育を強化するなど、可能な限りのあらゆる対応をとりたいと言ったが、守屋次官は、米側の事後対応で八王子の事件のときの犯罪米兵のあつかいなどの問題について意見を述べた。
一一日の夜、横須賀で米兵に殺された佐藤好重さんの通夜が行われたが、そこには、ケリー在日米海軍司令官、ダグ・マクレーン第五空母打撃群司令、エドワード・マクナミー・キティホーク艦長、グレゴリー・コーニッシュ横須賀基地司令官など約一〇〇人の在日米海軍関係者も参列した。
こうした米軍の対応は異例ともいえるものだが、これはかれらが必死になって、日本の反米軍基地感情の沈静化を図ろうとしていることを物語るものだ。だが、かれらがいかに「遺憾」の意を表そうとも、米軍基地がある限り、米兵の犯罪、基地被害はこれからもおこる。
米軍再編協議の「微妙なとき」に、連続した凶悪犯罪に日米両政府は、困難な位置に立たされ、綱渡りのような対応を強いられているが、事件・被害の根源は、米軍基地、そしてその基礎にあるアメリカの世界軍事戦略、それに加担する日本政府こそにある。
ブッシュの世界的な戦争戦略に積極的に加担する小泉は、アメリカの要求どおりに在日米軍基地を再編・強化して、米軍の作戦の一翼を自衛隊が担えるように米軍再編協議を決着させるとともに、憲法九条の改悪の動きを加速させている。
在日米軍にたいする怒りは全国の人びとに広がっている。米兵犯罪を糾弾し、在日米軍再編反対、米軍基地撤去、憲法改悪阻止の闘いをすすめていこう。
立川反戦ビラ事件の不当判決に広がる抗議
「被告人」らの無罪を訴える法学者声明
昨年一二月に東京高裁は、イラク派兵反対のビラを立川自衛隊官舎に配布した市民団体「立川自衛隊監視村」のメンバー三人に対して不当な逆転有罪判決をだした。
二〇〇四年二月、立川反戦ビラ入れに対する不当な逮捕・勾留・起訴は、警視庁公安部の暴走によって行われた。その後、ビラ入れ活動をはじめさまざまな運動に対する弾圧が各地でおこなわれるような状況が作り出された。しかし同年一二月一六日、東京地方裁判所八王子支部は無罪判決をだした。検察側はすぐに控訴し高裁で争われていた。
今回の東京高裁判決は、自衛隊のイラク派兵に反対するという憲法にも保障されている意思表示を刑法一三〇条の「人の看守する邸宅」に立ち入ったというまったくもって成立しがたい「理由」で有罪判決をくだした。
いま、警察・検察・裁判所が一体となった弾圧に抗議の声が各地、各界にひろがっている。このほど、愛敬浩二(名古屋大学法学研究科教授・憲法)、石埼学(亜細亜大学法学部助教授・憲法)、奥平康弘(東京大学名誉教授・憲法)、小田中聰樹(専修大学教授・刑事訴訟法)、山内敏弘(龍谷大学法科大学院教授・憲法)など人びとによるよびかけで「立川反戦ビラ事件の被告人らの無罪を訴える法学者声明」が出された。賛同は、一月六日現在で、呼びかけ人を含めて一一五名に達し、その後も増え続けている。
声明は、「私たち、この声明に賛同する法学者は、本判決が法律論として是認できないことを明らかにし、被告人らを無罪であることを多くの人々に対して主張し、同時に自由な表現活動に支えられた民主主義を維持するために発言することが自らの社会的責務と考え、この声明を発表する」としている。
「……私たちは、そもそも本件については、検察官の職務犯罪を構成するような違法な起訴に基づくものであり、被告人らの行為は、何ら犯罪構成要件に該当するものではない適法な行為であると考える。しかし、仮に被告人らの行為が何らかの意味で違法であるとの前提にたったとしても、被告人らの行為は、可罰的違法性があるとは考えられない。なぜなら、第一に、被告人らが、本件防衛庁官舎に立入った目的は、自らの政治的見解を伝え、居住者である自衛官とのコミュニケーションを図ったという意味で全く正当な表現活動であり、第二に、その手段も集合住宅共用部分でのビラの配布という日常的に多くの人がなしている平穏なものであり、第三に、個々の居住者の住居権を侵害することころがなく、共用部分に関する居住者の総意を害するところもないからである。……私たちは、刑法130条違反を問われる理由のない全く適法な行為を
した被告人らが、特定の内容の政治的主張を抑圧するためとも思われる違法な起訴によって、応訴を強制されたことに本件の核心があると考える。
……私たちは、被告人らの行為は、全く適法で、他人の権利を侵害するところのない行為であると考えるが、上記のような政治的表現の意義にかんがみても、本件は、無罪とされるべきものであると考える。そのような立場から、私たちは、言論弾圧を追認して被告人らに罰金刑を言い渡した本判決を厳しく批判するとともに、最高裁判所は、憲法の趣旨に従い、賢慮を持って本件を無罪とするべきことを強く訴える。」
間接差別は入ったが!? 労政審均等分科会報告
昨年の一二月二七日に、厚生労働省労働政策審議会雇用均等分科会は、男女雇用機会均等法の見直しに向けて「今後の男女雇用機会均等対策について」をまとめ、川崎二郎厚生労働大臣に建議した。
男女雇用機会均等法制定から二〇年、先の改正から八年たっており、今回の分科会では、一見、中立的に見えながら結果的には差別となる男女の「間接差別」の禁止が最大の課題となっており、女性労働者から大きな期待が寄せられていた。また、女性のみでなく男性への差別禁止なども論議されてきた。
厚労省は、この建議をふまえて、一月からはじまる通常国会に、男女雇用機会均等法改正案を提出する。
建議は、間接差別は、外見上や形式上は、一見、中立的に見える基準が、結果的に一方の性に不利益を与えるものとし、職務との関連など合理性のある場合を除いて、@募集・採用時に長身の男性なみの身長を採用条件にするなど身長・体重・体力を要件とすること、Aコース別雇用管理制度における総合職の募集・採用における全国転勤要件、B昇進時の転勤経験要件、の三つが限定列挙されている。
分科会では、労働者側から、間接差別の「全面禁止」を盛り込むことが求められたが、使用者側からは「全面禁止は時期尚早」だと反論が出され、対立は解消されず、結局、建議では三つの限定列挙ということになった。分科会では、使用者側は「何が間接差別なのかあいまい」と導入に最後まで否定的だった。だが、具体例を列挙するかたちで合意を取り付けた。しかし労働側は、「差別は変化するもの」で、限定列挙では、そこから除外されたものについては「法的に容認」する恐れがあるとして限定列挙方式には反対してきた。そのため建議では「判例の動向等を見つつ、見直しができるような法的仕組みとする」となった。
間接差別の文言が入ったとはいえ、建議の内容はきわめて不十分なものだ。男女賃金格差の原因となっている世帯主要件、総合職と一般職、正社員とパートの賃金差別は除外されている。三点に限定されたことでは男女差別を温存させるものとなっている。男女の賃金差、正社員と非正規・パートの差はますます広がっている現状で、こうした問題にふれない建議、それにもとづく法改正は重大な問題点があるものとなっている。
通常国会では、真に実効ある男女雇用平等法への改正へむけて、労働組合の共同した闘いが求められている。
岡山で「共謀罪」の学習会
一一月二八日「さんかくおかやま」でピースサイクルおかやま主催による「えっ!話し合うことが罪に・共謀罪学習会」が開かれました。
国会の法制委員会で審議され通常国会にも当案が提出されるということで急ぎ企画し、講師を水谷賢弁護士にお願いをしました。
冒頭、弁護士をめぐる状況として、ゲートキーパー問題が出されました。これは、犯罪に関係する国際的な資金の流れに対して、弁護士から「守秘義務」を奪い、「報告義務」を課すという弁護士活動の信頼関係をなくす法律が作られようとしているとのことでした。
共謀罪とは、国連国際組織犯罪条約(二〇〇三年に国連総会で採択)に日本も署名し、これを受けての国内法の整備ということで提案されたものですが、これが大変なもので、みんなで相談をしたり合意しただけで、犯罪を実行していなくても取り締まれるというものです。対象となる犯罪は六〇〇近くもあり、その中には、マンション建設反対運動や、労働運動、パレスチナ難民に対する募金など一般市民を取締りの対象にできるものとなっています。また、根底にあるのは、戦前の治安維持法と同様なもので、思想を取り締まり、組織弾圧のためにスパイ・密告の世界になるものです。また共謀については、盗聴法と内部通告者による調査です。このことは憲法上許されるものではありません。また警察の権限も大幅に拡大強化されます。労組の活動でも、団交をめどがつくまで継続しようなどと組合会議できめたのを会社が盗聴し、それを警察に密告したりすることで、労組幹部が監禁共謀罪となってつかまってしまうようなことが行われるようになります。、
自由に振舞うことを制限できるのは、その人が社会に対して害悪をもたらす行為をした場合に限られます。近代憲法では、いかなる思想・持っていること自体を処罰してはならないという考え方が確立しました。
犯罪は行為を処罰するものであって、その前の準備や予備の段階での逮捕は現行刑法でも厳しく制限されています。ましてそれの前の共謀を処罰してはいけないのは当然のことです。これらのことは、先人が苦しい闘いの中で勝ち取ってきた基本的人権を侵すものです。刑法の原則では実行行為がない限り処罰はできないことになっているのです。
最後に、日本の状況は、盗聴法、有事法制、住基ネットなど、大変危険な状況になっています。有事法制と「国民保護法制」が決められ国民が戦争体制に組み込まれ、更に共謀罪までもが成立させられた社会は、他人を信用できない人間不信の陰湿な相互監視社会・警察国家になってしまうでしょう。
講演の後の質疑では、国際犯罪と関係ないことまで取り締まれることは問題だ、労働組合もこの法律に反対の声を上げなくてはいけないなどの意見が出されました。
ピースサイクルおかやまとしても、街宣活動、自治体への要請、陳情、請願などさまざまな活動で共謀罪の成立に反対していきたいと思います。 (岡山通信員)
共謀罪反対の取り組み
日本消費者連盟、平和フォーラム、平和を実現するキリスト者ネット、許すな!憲法改悪・市民連絡会やピースサイクル全国ネットワークなどがよびかけている「話し合うことが罪になる 共謀罪の新設に反対する市民団体共同声明」への賛同は、この一月六日で二九三団体となった。
一月二〇日に通常国会が始まる。この通常国会で共謀罪法案を完全に廃案にする闘いがはじまった。
一月二六日(木)話し合うことが罪になる 共謀罪の新設に反対する市民の集い」
午後六時半〜 文京区民センター
講師・荻野富士夫(小樽商科大学教授)「治安維持法と共謀罪」/海渡雄一(弁護士)「共謀罪、ここが危険だ!」
一月三一日(火)「共謀罪の新設に反対する市民と議員の集い」
午後一時半〜 衆議院第二議員会館第四会議室
国連常任理事国入り問題 G4分裂・日本の孤立
日本の国連安全保障理事会常任理事国入りの野望は大きな困難に直面した。一月五日、常任理事国入りをめざす四カ国(G4)のうち、ドイツ、インド、ブラジルは、安保理拡大のための「枠組み決議案」(旧G4案)を国連事務局に再提出した。この決議案は日本をふくめて提案され昨年九月に廃案となっていたものだ。参加国の再提案でG4は分裂したが、その最大の原因は、G4よりブッシュの意向を優先した小泉の裏切りにある。侵略戦争・植民地の過去清算問題にくわえて、ここでも日本政府は、「信用の出来ない国」という評価を高めることになった。
旧G4案の内容は、常任理事国を六カ国、非常任理事国を四カ国増やし安保理を二五カ国に拡大(現在一五カ国)するが、新常任理事国の拒否権を一五年間凍結する、というものだった。昨年、G4決議案は一〇〇カ国近い支持を集めたが、中国などの反対だけでなく、アメリカも反対して採決とはならなかった(採択には国連加盟国の三分の二<一二八カ国>以上の支持が必要)。
アメリカは、四カ国すべての常任理事国入り反対だが、ブッシュに忠実に従う日本が常任理事国入りし親米派が拡大することには賛成という立場を明らかにした。
小泉は、そうしたブッシュ政権を見て動転し、態度を急変させ、G4の枠組みを維持しながら米国の理解も得られる新決議案づくりを進めてきた。それは大幅拡大に反対するアメリカの意向に沿って拡大を最大二一カ国に抑えるというものだ。またこれには、中国などに配慮し、任期二年の非常任理事国より任期が長く改選可能な「準常任理事国」(拒否権はない)の新設も盛り込まれるとみられていた。
しかし、日本を除く三カ国は、旧G4案はなお有効という立場で、日本は「見切り」をつけられたという格好になった。
当然、日本政府は常任理事国入りの政策を継続するが、その前途には厳しいものがある。
年末に国連「安保理改革の検証」が行われるが、それまでに新たな方針を確立しなければならないことになる。昨年のG4案否決に際して、小泉は〇六年秋の国連総会に「同じ考えを持つ各国の理解と協力を得ながら、安保理改革など国連の強化に向けて全力を尽くす」と述べたが、どの国が日本と「同じ考え」をもち「理解と協力」を与えてくれるというのか。
現在、日本政府は、「国連分担金を多く出しているが常任理事国入りがダメなら拠出金を減らす」といって脅迫行為にまででてきている。日本の小沢俊朗国連三席大使は、昨年末、「日本国内には国連に対する失望感や不満を声にする人びとが増えている」「日本国民の国連へのコミットメントが揺らぐ恐れがある」とまで言っている。これは小泉政権にとって常任理事国入りの野望の挫折が大きなショックであり、起死回生を狙っての行動だろうが、こうしたなりふりかまわぬやりかたが日本のいっそうの孤立をもたらすことは間違いない。
天皇誕生日に天皇制の戦争責任を問う
一二月二三日、千駄ヶ谷区民会館で「<天皇誕生日>に天皇の戦争責任を考える12・23集会 ネオ・リベラリズムと<改憲>」(主催・反天皇制運動連絡会)が開かれた。
反天皇制運動連絡会は、例年、「天皇誕生日にこそ天皇制の戦争責任を問い続けよう」という立場から集会を続けてきた。自民党の「新憲法草案」がだされたこの年の集会は、「ネオ・リベラリズムと改憲」をテーマとした。
発題者は三人で、フランス文学研究者で関西で反天皇制運動に長く取り組んでいる杉村昌昭さん、国際的な反グローバル運動を続けている経済学者の小倉利丸さん、そして反天連の天野恵一さん。
杉村昌昭さんの発題
フランスではEU憲法が否決された。日本のメディアでは、ヨーロッパでは国際化・統合が主流なのに、それに反対しているのは一部のナショナリスッティックな右派だ、だからEU憲法に反対するのは無知蒙昧(むちもうまい)な連中だと報じられてきた。朝日新聞もそうだった。フランスでも、「ル・モンド」や「リベラシオン」といった左派系も賛成派だった。だが事実はちがう。反対派の多くは田舎からだった。さきごろ、地方都市で若者の反乱が連続して起こったが、そうした地方はEU憲法反対派が多かったところだ。それらのところは新自由主義のしわ寄せに苦しんでいるところで、パリなどでは賛成派が勝っている。投票では、地方が首都圏を包囲するかたちで、反対派が多数となったのだった。こうした中で、ATTACなどの反グローバリゼーション運動が影響を拡大している。
EU憲法は膨大な量のもので、投票前にも読む人は少ない。しかし、読んだ人は「とんでもない」ということになる。第三部以降はほとんどが経済法で、市場開放、規制緩和の項目が並んでいる。EU憲法に賛成するということは、そうしたネオ・リベラリズムを認め、大資本のなすがままにするということだ。
EU憲法に賛成するのは、グローバリゼーション、規制緩和で利益を受ける中産・上流層であり、反対したのはその犠牲をこうむっている人たちだ。
ドイツ政治でも大きな変化が起こった。総選挙で与党のSPD(社民党)が後退し、CDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟)との大連立内閣ができた。右派と社民党の中央派が組んだかたちだ。しかし、このふたつの政党はネオ・リベラリズムということでは同じ穴のムジナだ。ドイツ政治の変化で重要なのは、社民党の左派が分裂し、失業者、旧東独共産党と一緒に「左派党」を結成し、大きく躍進したことだ。まだ一〇%程度だが、これがドイツの今後を決めると言われている。そこには、フランスと同様なネオ・リベラリズムに反対する動きがはっきりしてきた。
日本でも社民党と共産党をあわせると一〇%くらいになる。だが、残念なことに社共は反グローバリゼーションの立場をはっきりしていない。これが反ネオ・リベラリズムを自覚し、そして大きく力を結集する方向がだせれば、ヨーロッパと同じような状況を生み出すことも可能になる。
いま、アメリカを除いて、洋の東西で反グローバリゼーション運動のあたらしい動きがあるということだ。必要なのは、グローバリゼーション、新自由主義、規制緩和、民営化ではない、新たな提案を出すこと、それが出来るかどうかが問われている時代なのだ。
小倉利丸さんの発題
グローバリゼーションとは、資本の利益のために、カネ、モノ、ヒト、情報を国境の制約をこえて自由に活用するシステムのことだ。国家としては、従来の国境の制約をどのような形で、どの程度、手放すかをめぐってさまざまな動きをしている。しかし、大資本は自由に貿易でも金融でも動けるが、個人は簡単には国境をこえられない。グローバリゼーションに関連して起こるさまざまな問題点はEU憲法に如実にあらわれている。
二〇世紀の大部分は、政治、軍事はもとより、経済も国家がコントロールしてきた。しかし、新自由主義、グローバリゼーションで国家の役割は、安全保障・警察というところに存在理由を見出すようになる。資本主義は、働かないと生きていけないという貧乏人がいないとなりたたないが、それが反抗しては困る。貧乏人をうまく丸め込んで、幻想をあたえることがどうしても必要だ。政治的には、一票づつの投票権を与え、形式的には多数派が勝つという幻想、そして、福祉国家、社会保障などだ。警察でおさえて、しかしあとは、アメリカではキリスト教原理主義、日本では天皇主義だ。一方でグローバリゼーション、そしてナショナリズムだが、日本のはきわめていいかげんだ。戦後の天皇制はアメリカナイズ化された。それが戦後の新しいイデオロギー装置だ。戦前の価値観から見れば売国奴としかいえないようなかたちできた。自民党の新憲法草案も復古的なものもあるが、積極的な理念を打ち出せず、天皇制をただ存続させるだけのものになっている。フランスやアメリカの建国の理念のようなもの、それが出せない。グローバリゼーションの中で日本独自のものが出せない。いまのジレンマになっている。
すでに新自由主義のメッキははげてきている。ヨーロッパだけでなく、ラテンアメリカでも大きな変化が続いている。南米を訪問したブッシュは歓迎されないし、最近ではボリビアにも反米的な政権ができた。グローバリゼーションによって、資本主義の弱い、アフリカ、南アジア、旧ソ連・東欧、ラテンアメリカなどが、資本の投資の場にされているが、第三世界の人びとはみな「ノー!」といい始めている。釜山のAPECにつづいて香港のWTO会議でも大きな反対運動が起こったが、アジアでも反グローバリゼーションの運動は急速に広がっている。
日本では、小泉が改憲を強行しようとしているが、これはまた私たちにとっての絶好の好機でもある。
天野恵一さんの発題
〇四年の皇太子の「マサコの人格」発言以来さまざまなことが起こっているが、発端はその前の年の湯浅宮内庁長官の「秋篠宮に第三子を」発言だ。これは言外にマサコにはもう子どもは出来ないということで、皇太子の発言はそれへの反撃だった。皇太子の発言を秋篠宮が批判したが、その背後に天皇皇后がいるのはみやすいことだ。「文藝春秋」である女性記者が、マサコの病気は、天皇夫婦に会うと重くなる書いていたが、病気は皇室から出なければ治らないということだ。そして、こうした「家庭内の喧嘩」を記者会見などで公然化し、それをメディアが天皇論議として組織するような構図もある。皇族が自覚的なアクターとしてメディアに登場し、女帝論議などで改憲と流れをおなじくする。
しかも次のラウンドがはじまっている。自民党の新憲法草案では、中曽根的な復古論調は消えて「象徴天皇制は、これを維持する」となっている。伝統的な右派は反対だが、日本会議の自民党議員も党内で多数派ではない。小泉チルドレンが多い。自民党内では、改憲を、復古的な神道的な右翼の方向で行くのか、新自由主義、グローバリゼーションに呼応する路線で行くのかをめぐって意見が対立している。そもそも戦後の政治体制は、サンフランシスコ講和条約で東京裁判を受諾するとしているのに、国内的には大東亜戦争肯定の歴史観できている。小泉も靖国神社に参拝するが、A級戦犯の規定についてはこれを認めるというめちゃくちゃな発言をしている。今回の自民党新憲法草案では、アキヒト・ミチコのような「平和天皇」制でグローバリゼーションに対応しようとしているようだ。しかし靖国神社の遊就館のイデオロギーは、戦争はアメリカの陰謀によるものだとしていて、ブッシュから見ればテロリストだとしてミサイルを打ち込みたくなるような内容だ。だが、自民党としては対米関係も有り、安易に戦前型の復活というわけにはいかない。
三人の発言につづいて質疑応答が行われ、最後に、反天連と集会参加者の名で「声明」(別掲)が確認された。
【声明】 「改憲=新憲法づくり」のための「皇室典範改正」に反対する
一〇月二八日に発表された自民党新憲法草案の「前文」は、こう書き出されている。「日本国民は、自らの意思と決意に基き、主権者としてここに新しい憲法を制定する。/象徴天皇制は、これを維持する。……」
なんと主権者は「国民」であるが、この「国民」が世襲の身分制である天皇制(「君主制」)を維持するとトップで宣言しているのだ。
これが、この新憲法(案)の原則なのである。主権在民の民主主義は、あらかじめ天皇制によって破壊されたものであるという宣言だ。
それにしても「維持する」とは、どういういいぐさか。維持しがたい状況があるが、あえて維持する、そう語っているのだ。
とすると、この文章は、小泉首相の私的諮問機関である「皇室典範に関する有識者会議」の最終報告書(一一月二四日提出)の主張と対応していることになる。それは皇室典範を「女性・女系天皇」を容認する方向へ変えて、皇位継承者不在の状況を変えようというものである。
なによりも「皇位継承を安定的に維持するための皇位継承制度」づくりを目ざしたと、この「最終報告」はくりかえしている。
私たちは、この「報告」の方針および、それに伴って皇室典範を「改正」しようという小泉政権の政策に反対する。それは「万世一系の伝統(国体)」を破壊するから反対と語りつづけている伝統主義右翼グループと立場を同じににするからでは、もちろんない。神話として語られている(存在しない)天皇を含めた「万世一系」などという「伝統」(ホラ話)を前提にした批判などに私たちは何の積極的意味を認めないのだ。だから私たちは「有識者会議」の「万世一系」の「伝統」なるものがあることを自明の前提とした「伝統」の変更論も、まったくおかしな主張だと考えている。
私たちは、あの日本の植民地支配と侵略戦争に対して最高の責任を負う天皇制が、象徴天皇制へとモデル・チェンジしながら、まったく戦争責任を取らなかったことと、取らないまま戦後に延命しつづけた戦後責任を重ねて問い続けてきた。
だから、天皇制をさらに強化しつつ延命させようという「新憲法」に反対であり、その「改憲=新憲法」づくりのための「最終報告」に反対なので、天皇制を「維持する」制度づくりにこそ反対なのだ。
それは皇族を増殖させ、巨額の税金をそこにそそぎこもうという政策であり、皇室の女性をも、男同様、さらに国家のためにガンジガラメに拘束してしまうようにする制度改革である点も見落とすわけにはいかない。
くりかえすが、とにかく私たちは、この「皇室典範」の「改正」が、自民党の「改憲=新憲法づくり」の不可欠のステップであるという事実にこそ注目しなければならないと考える。
自民党の改憲に反対している日本共産党までも、「皇室典範改正」賛成派であるという、おそれいった天皇翼賛国会という事態を前に私たちは宣言する。「改憲=新憲法」づくりのための「皇室典範改正」に私たちは強く反対する。
二〇〇五年12月23日
反天皇制運動連絡絡会
12・23集会参加者一同
皇室典範改正をめぐる動き
小泉内閣は、皇室典範改正案を三月上旬に閣議決定し、通常国会に提出し、会期内の成立をめざす方針をかためた。小泉の私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」が昨年一一月にだした「最終報告」の線にそって、女性・女系天皇の容認など皇位継承制度を見直す内容である。その皇室典範改正案の概要によると、女性・女系天皇を認め、天皇直系の第一子優先で皇位を継承する、成立後に直ちに適用する規定が盛り込まれ、第一位の皇太子に続いて、その子の愛子が、秋篠宮を飛び越して第二位になる。また、女性皇族は結婚後も皇室にとどまる、皇族以外の男性も女性皇族との結婚で皇族入りする、原則として女性皇族は男性の半額と定めた皇室経済法を改正し男女同額とする、などとしている。
皇位継承の安泰を狙って小泉は一気に皇室典範を変えようとしている。
一方で、伝統主義右翼は、女性・女系天皇容認の動きに反発を強めている。
日本会議国会議員懇談会は一一月一日に総会をひらき、その総会決議では、国立追悼施設や人権擁護法案に反対するとともに、「皇位継承は国家重要事であり、慎重な審議と国民の納得がえられるべきである」とした。
「昨年、小泉首相の私的諮問機関として設置された『皇室典範に関する有識者会議』が、皇位継承に関して女性天皇・女系天皇を容認する報告書を本年十一月末までに提出し、政府はこの報告書にもとづき、来年通常国会において皇室典範改正法案を成立させる方針であるとされている。
しかしながら、男系によって継承されてきた皇位の継承方法をいま直ちに変更することは慎重に検討されるべきである。しかも政治家の介入を拒否する方針を打ち出し、一〇名の委員が、計一四回・二八時間という短期審議によって千数百年の長きにわたって継承されてきた皇位継承方法の変更を決定することは、国民の理解を超える拙速さであるといわざるを得ない。
ことの重大さに鑑み、男系による皇位継承の維持も含めたあらゆる方法の真剣な検討を行い、さらに国民各界各層の意見に真摯に耳を傾け国民の合意納得を得るべく、さらなる慎重審議を求めるものである。…」
女性・女系天皇容認論と伝統的天皇主義右翼の対立はこれから激しくなるだろう。天皇制論議の中で、男系も女系も含めて天皇制はいらないという声を大きくしていかなければならない。
靖国神社参拝問題での読売・朝日「共闘」とは?
アジアから孤立する日本
首相・小泉純一郎は一月四日の年頭記者会見で、自らの靖国神社参拝について「靖国参拝をしたら交渉に応じないということは、これはもう外交問題にならない」「一つの問題があるから中国側、韓国側が会談の道を閉ざすことがあってはならない。あとは先方がどう判断するかだ」とのべた。
中国、韓国は、小泉の靖国神社参拝に批判を強めていることへの反論であり、首脳会談が途絶えている責任は中韓両国政府にありとするものであった。
小泉は昨年の9・11総選挙で勝利した直後に、またも靖国神社参拝を強行した。そして、今年のこの年頭会見での発言である。中韓との関係だけではない。小泉政策は、日本を外交面での孤立に追い込んでいるが、こうした動きは、国内のナショナリズム・排外主義右翼潮流の言論・行動を活気付け、日本はまさに自滅への道をまっしぐらに疾走しているといってよい。
読売・ナベツネの決意
小泉の政策には内外から批判がいっそう高まってきているが、ここにきて支配層内部での小泉の靖国神社参拝に危惧する声が公然化してきた。
日本経団連の奥田碩会長は、小泉の改憲・構造改革路線を支持するとともに、対アジア関係を悪化させる首相の靖国神社参拝には以前から批判的なコメントを行ってきたが、今年も同様の対応を行った。
そして、ここ数年目立つのは、読売新聞と主筆(会長)の渡辺恒雄の対応だ。
朝日新聞社発行の雑誌「論座」二月号にはそのナベツネが登場し、朝日新聞論説主幹・若宮啓文との対談「靖国を語る 外交を語る」が掲載されている。雑誌の表紙には<渡辺恒雄氏が朝日新聞と「共闘」宣言>とある。
そこには、国益の観点からの小泉の靖国参拝に対する批判がある。それは、朝日新聞との「共闘」の面であるが、それと同時に、この対談では、朝日新聞が今日どこまで「後退」し、読売新聞の立場に近づいているかも示すものとなっている。
渡辺は言う。
読売新聞は、二〇〇五年の八月一三日の紙面から、靖国神社参拝の前に、戦争責任の所在を明らかにすべきだというキャンペーンを始めました。…このシリーズは一年間やりますよ。一年間やって、二〇〇六年の八月一五日をめどに、軍、政府の首脳らの責任の軽重度を記事にするつもりだ。もちろん、われわれは司法機関じゃないから、死刑とか無期懲役とか、そういう量刑を判断するわけにはいかない。しかし、道徳的責任や結果責任の軽重について、誰が一番悪かったか、誰くらいまではまだ許せるが、ここから先は本当によくない、というような判断基準を具体的に示そうと思っているんですよ。…中国や韓国が首相参拝に反対しているからやめるというのはよくないと思う。日本人が外国人を殺したのは悪いけれども、日本国民自身も何百万人も殺されている。今、靖国神社に祀られている多くの人は被害者です。やはり、殺した人間と被害者とを区別しなければいかん。それから、加害者の方の責任をきちんと問うべきだ。歴史的にそれをはっきり検証して、「われわれはこう考える」と言ってから、中国や韓国にもどういう迷惑をかけていたのかという問題が出てくるのだ。やっぱり彼らが納得するようなわれわれの反省というものが絶対に必要だ。読売新聞は読売新聞なりにやりますけれども、これを国の意思として、例えば、国会に歴史検証委員会のようなものをつくってやらなければならないと思うんです。一方、ジャーナリズムとしては、自分の新聞でそういう考えを明らかにする義務がある。まあ、ちょっと遅かったんですがね。
「遅かった」にしても、ナベツネと読売新聞としては大きな転換ではある。
そして「戦争責任を考えるのは満州事変前後からが対象」として、謀略的に柳条湖事件(満州事変)をおこした、「石原莞爾」「板垣征四郎」をはじめ「近衛文麿」「木戸幸一」などの名前をあげた。南京事件については「(虐殺の数字がについて)そりゃあ、当時の兵器の性能からしても三〇万人というのは物理的に不可能なんですよ。ただ、犠牲者が三〇〇〇人であろうと三万人であろうと、虐殺であることには違いがない」というのに、若宮が「どっちが朝日新聞かわかりません(笑)」と応じる。
読売新聞でどういう形で戦争責任追及が行われるかはわからないが、読売的な判断・歴史観からして、アジアとの関係改善のためという観点と天皇の免責をふくめ戦争責任を一定の枠に収めようとすることは間違いない。
例えば、責任追及を「(一九三一年にはじまる)満州事変前後」以降とするということは、それ以前の侵略と植民地支配は除外されるということだ。アジアに対する侵略と支配は、もっともっと遡って、明治初期における朝鮮侵略、台湾侵略から起算されるべきであろう。
A級戦犯と天皇
ナベツネも若宮も、首相の靖国神社参拝には反対で「新しい国立追悼施設」が必要だという。若宮は、靖国神社へのA級戦犯合祀を昭和天皇が「不快」に思っていたとして、「、その後、天皇陛下は四半世紀以上も靖国神社に参拝していないですね。だから、私も国民統合の象徴である天皇陛下が晴れて追悼にいけるような、新しい国立施設をつくったらいいと主張しているんです。それなら、外国の元首にも来てもらえるんです」と言えば、ナベツネは「それに関してはまったく同感です」と「共闘」関係が確認される!
ナベツネの転換の原因
では、ナベツネはどうして、こうした靖国神社論をとるに至ったのか。その原因は何か。
「A級戦犯がぬれ衣だとか言っている宮司のいるところに、首相が行って、この間は昇殿しなかったからまだいいけれども。昇殿して、記帳して、おはらいを受けるなんてことをやっていると、『A級戦犯ぬれぎぬ論』が若い国民の間に広がってしまう恐れがある。そして、遊就館を見れば『勝った戦争を指導したのは東条だ』なんていう錯覚を起こす危険がある。僕はそういう危険を感じ始めたので、この辺でマイナスの連鎖をどこかで断ち切って、国際関係も正常化するために、日本がちゃんとした侵略の歴史というものを検証して、『事実、あれは侵略戦争であった』という認識を確定し、国民の大多数がそれを共有するための作業をはじめたわけだ。」
小泉の靖国神社参拝は、このままでは国益を大きく損なう。それがナベツネの気持ちだろう。
改憲を主張する読売
しかし、国益のための靖国神社参拝問題のとりあげにつづくのは、いかなるものか。
ナベツネは、安倍晋三に次のように言ったという。 「僕は靖国公式参拝には反対ですよ。それ以外は、あなたに随分期待するんだけれども、この一点だけは妥協できない。…あなたはおじいさんが岸信介さんで、岸さんがA級戦犯と思って、いろいろ考えているのかもしれないけれど。岸さんはA級戦犯ではないんですよ」。なぜなら「岸さんは起訴されなかった」からだというのだ。
靖国公式参拝以外は安倍に「随分期待」するのがナベツネなのだが、それは憲法問題ではっきりする。自衛隊は「軍なんだから、『隊』でごまかしてはいけない」。だから憲法九条を変えろ、と。しかし、憲法で禁止されてきた「戦力保持」をごまかしてきたのは、自民党であって、ここまでそれを巨大なものにしてから、この事実は憲法の規定と合わない。だから、憲法の規定を変えなければならない、ということだが、「ごまかし」をやらないのなら、憲法規定に従って「戦力」を廃止すべきなのだ。憲法を無視して勝手なことをやり続けてきたこと、これこそが「ごまかし」なのである。
だが、朝日もスタンスを大きく変えてきている。若宮は言う。「憲法改正問題は、僕らも昔のように憲法九条を守ることがすべてであるとは考えていません。自衛隊の存在をきちんとするために、憲法九条を修正すべきだという声には理由があると思いますよ。単純に『反戦平和の朝日新聞』というふうに言われることはない」。
「ごまかし」で形成されて来た現状の追認だ。ナベツネは、朝日新聞が「共産主義者」が「長期にわたって支配してきた、「しかし、共産主義はもう古い。若宮さんが論説主幹になたから、それは変ると期待してるんだ」と水を向ければ、若宮は「期待されなくても、もうとっくに変っていますよ(笑い)。…最近でいえば、有事法制の成立に賛成という立場を明確に打ち出して、伝統的読者からは、かなりしかられました。『読売新聞と同じになるのか』って(笑)」。
だが、笑い事ではない!
読売・朝日の「言論の自由」
渡辺「言論の自由とか言論の独立を脅かすような権力が出てきたら、読売新聞と朝日新聞はもう、死ぬつもりで結束して闘わなきゃいけない。戦時中にそうしていれば、あそこまでひどくならなかったと思うんだよね。」
若宮「いや、本当にそうですね。」
渡辺「ところが、当時の新聞は争うようにして軍国主義に走っちゃった。本当にけしからんことで、僕はそれを恥じるね。」
前に見たように読売、朝日の憲法九条問題について見てきたものにとっては、この対談での「争うように軍国主義に走っている」「新聞」は自身のことを含めて言うべきだと思うがその意識は全くない。
対談の最後に、ナベツネは「今は与党気分でいるんだ」と言っているが、靖国神社問題での読売の立場は、与党内部のものであり、安易に評価するなら、「読売・朝日共闘」の体制翼賛的なものに絡めとられるようになる。ただ、ナベツネ・読売の靖国公式参拝批判は、これはこれとして敵内部の矛盾として活用しなければならないのは言うまでもない。(MD)
複眼単眼
新年を迎えて
二〇〇六年の新年は異常な豪雪と異常な乾燥の中で迎えることになった。食材の葉物も年末の値段の三倍にも跳ねあがった。雪、乾燥、低温、いずれもが異例で、農家の畑は細っている。豪雪ではこの冬、たくさんの死傷者もでている。この異常気象はやがて「異常」でなくなり、日常になるのだろうか。
間もなく一六四通常国会が始まる。この国会は悪法量産の国会として知られる一四五通常国会に匹敵する国会になりかねない。
自民党の改憲派が長年にわたって、憲法の改悪と共にその運動の両輪として位置づけてきた教育基本の法改悪は、連立を組む公明党内に「愛国心」の記述をめぐってその「国家主義的傾向」に危惧を抱く部分があり難航しているものの、自公両党の幹部の間ではすでに合意に達しているともいわれている。
もうひとつ、自民党の軍事大国路線推進派や防衛族の念願だった防衛庁設置法案も公明党との合意がはかられつつあり、国会上程は目前だ。
国際平和協力活動を自衛隊の本来任務とするための自衛隊法改正案は、一九九〇年代初期のPKO法の成立と自衛隊法の雑則にこの任務を規定して以来の念願だった。
そして二〇〇五年秋の日米首脳会談で確認された「日米同盟」の拡大強化をはかる ための米軍再編推進関連法案が用意されている。
また「女帝」問題が切実な問題となった天皇制の危機を利用し、天皇制の生き残りのための新たな道筋を敷こうとする皇室典範改正案の提出の可能性もある。
この間、国会で阻止され続けてきた「共謀罪」法案も再々度の強行が目論まれている。
米国の要求も含めて待ったなしになっている集団的自衛権の行使問題も、派兵恒久法の制定の形で憲法改悪が成るまでのつなぎとして、政財界から構想されており、この準備が進められつつある。
こうした危険な法案と合わせて、生活破壊関連法案としての「医療制度改革関連法」案、「行政改革推進法」案もだされようとしている。
二〇〇六年、この国は容易ならぬ局面に至っている。友人たちから頂いた新年の賀状の多くが、短い文面の中にその危機感を表現しているのも例年にはなかったことだ。
●「戦後六〇年」という年は、私たちが「戦後」的と考えていたものを押し流した年でした。格差が拡大するのは当然という風潮が広がり、社会や中間組織が衰退して個人が剥き出しになると、それを覆うのは不安です。メディアがさらにその不安を煽ると、流砂のように激しく人びとは動き始めます。
●経済制裁やいわゆる常任理事国入りなど、日本の議論のゆがみはとどまるところを知らず、改憲も政治的日程に上がり始めています。
●まさか、と思うことが次々とおこってしまう時代です。その中心は日本国憲法が変えられようとしていることではないでしょうか。戦争によって問題を解決する国に再びなったら大変です。
●改憲勢力に対して草の根の連帯で九条をなんとしても守ろうと思います。
●楽しく、夢のあるたたかいをしたいと思っています。「武器は持たない、戦争はしない」という憲法のこころが活かされる年に。
●戦争のない、みんなが平和にくらせる世界、社会福祉が充実し、心豊かにくらせる社会が近づいてくると確信して、若い頃から夢中で社会運動に参加して来ましたが、年をかさねるごとに世相は逆転しているような気がしてなりません。それでも、今年も明るく闘っていこうと思います。
○では、本年もよろしくお願いします。(T)