人民新報 ・ 第1192号<統合285(2006年2月5日)
  
                  目次

● 憲法・教育基本法の改悪阻止の広範な共同を!

● 「9条2項は紛争の最大の抑止力」と品川・同友会終身幹事
 
     まもろう憲法!ゆるすな教育基本法の改悪を!1・21東京集会

● 「共謀罪の新設に反対する市民の集い」で荻野富士夫教授が講演  共謀罪は現代の治安維持法

● 安部晋三らによるNHK番組改ざん裁判  改編の核心に迫る証言の実現へ

● 「時間研」報告公表で労働弁護団声明  声明〜「時間研」報告公表にあたって〜

● 政府・企業の責任を明らかにし被害者への補償・アスベストのない社会の実現を

● JR採用差別事件の勝利解決をめざす、1047名 闘争団、争議団、原告団 2・16決起集会への参加要請

● 東条 靖国神社 天皇

● 【パンフレット紹介】 ■ 他人事ではない! 共謀罪 話し合うことが罪になる ■

● 複眼単眼  /  「靖国神社」の「遊就館」を見に行った




憲法・教育基本法の改悪阻止の広範な共同を!


改悪案の上程を狙う与党

 教育基本法改悪にむけての動きが急だ。
 一月二五日、自民、公明両党による教育基本法改正に関する与党協議会が開かれた。これは、昨年の郵政解散・総選挙以降中断していたものだが、自民・公明で意見が一致していなかった「改正」案の教育理念の項目に「愛国心」の表現を入れるかどうかが最大の調整課題となっている。二〇〇三年の中央教育審議会答申は、「郷土と国を愛する心」の導入を求め、自民党はこれに沿って「郷土と国を愛し」と明記するとしている。だが、「愛国心」について、これまで公明党は「軍国主義を喚起させる可能性がある」などと反発し、「国を大切にする心」との表現にすべきだと主張してきた経過がある。
 自民党は出来るだけ早く教育基本法を改悪させるため必死になっている。自民党執行部は、郵政民営化法案に反対し自民党を離党した保利耕輔衆議院議員(無所属)を協議会の顧問に起用するという異例の人事を提案し、協議会ではこれが正式に了承された。保利の公明党とのパイプを重視した小泉の戦術である。与党協議について、武部勤・自民党幹事長、冬柴鉄三・公明党幹事長は調整加速を確認した。
 自公与党はこの通常国会への法案提出をめざし、二月一日には協議会の下にある実務者による検討会を開いて、具体的な日程を詰めることにしている(なお、二〇〇三年五月から協議会は八回、検討会は五九回開かれている)。

右翼・産経新聞の主張

 教育基本法をめぐっての動きに対して、産経新聞は一月三〇日に主張「教育基本法改正 『国を愛し』は譲れぬ一線」を載せた。
 産経は「公明党が『国を愛し』という表現に強く反対する背景には、支援団体の創価学会が戦争中に抑圧された体験があるとされる。創価学会の前身、創価教育学会は国家神道に抵抗し、幹部が大量に検挙され、初代会長の牧口常三郎氏は獄死した」としながらも、「『国』とは、そうした特定の時代の統治機構を指しているのではない。千年以上にわたり、歴史と文化を受け継いできた日本という国のことである」として、世論調査で、日本のよいと思われるものとして「長い歴史と伝統」「美しい自然」「優れた文化や芸術」があげられていることをとらえて、「これが、多くの日本人が抱いている<国を愛する心>のイメージだと思われる。公明党は六十余年前の被害の歴史だけにこだわらず、長い日本の歴史と文化を考えるべきである」という。しかし、自民党が教育基本法にあえて明記し強制する「国」は<戦争する国>でありそれへの従属なのであり、創価学会人びとさえもが大いに危惧するのはまったく正しい。

憲法と一体の教育基本法

 憲法と教育基本法は表裏一体のものだ。両者共に、侵略戦争とその悲惨な結果の反省の上に作られたものだ。しかし、支配層は、戦争と植民地支配の過去を真剣に反省したわけではなかったし、いま、ふたたび、アメリカの力に依拠し、自分たちの権益を軍事力で拡張しようとする動きに出てきている。自民党は昨年、新憲法草案を決めたが、その中心は第九条にある。憲法改悪の狙いがアメリカ軍の一翼を担って戦争の出来る国家づくりに焦点をあわせ、教育基本法の改悪は、その戦争をやる人間づくり、それは同時に大企業のための労働者づくりでもある。

憲法・教育基本法改悪阻止

 この通常国会に政府によっては様々な悪法案が用意されているが、なかでも憲法改悪のための国民投票法案そして教育基本法改悪案が上程される公算は大きい。
 憲法憲法改悪反対、教育基本法改悪反対のため出来うる限り広範な人びと、団体、政党の共同した行動が求められている。


 「9条2項は紛争の最大の抑止力」と品川・同友会終身幹事
 
    
 まもろう憲法!ゆるすな教育基本法の改悪を!1・21東京集会

 一月二一日、東京の日比谷公会堂で「まもろう憲法!ゆるすな教育基本法の改悪を! 1・21東京集会」が開かれた。
 折からの深い雪をついて二〇〇〇名の人々が会場をうめた。
 オープニングはぞうれっしゃ合同合唱団の「ぞうれっしゃがやってきた」の合唱。四〜五歳の幼児から大人まで百名ほどの大合唱団が開会を飾った。
 実行委員会代表をして浜林正夫さんが挨拶し、つづいて品川正治さん(財団法人国際開発センター会長、経済同友会終身幹事)が「戦争、人間そして憲法九条」と題して一時間ほどの講演を行い、参加者に深い感銘を与えた。

 品川さんは次のように話した。
 私は一九二四年生まれで、戦地に行った経験者として言わなければならないことがある。思想形成期、国が起こした戦争の中で一人の国民としてどうあるべきかが課題だった。兵士として戦場にたたされ、抽象的な「国」ではなく「戦争を起こしたのも人間なら止めるのも人間だ」と気がついた。以後、これが人生の指標になった。
 復員後、すでに出ていた憲法草案を見てとてつもなく感激した。戦争をしない国家、国民主権の国家が謳われ、当時の国民は惜しみなく拍手をし決意を固めた。しかし支配政党は六〇年間、一度たりともそうした決意をせず、これが日本のねじれの最たるものだ。いまや九条二項の旗はボロボロだが、国民はかろうじて旗竿を握ったまま放していない。紛争のない世界ができるとは思わないが、紛争を戦争にしない力が肝心だ。九条を明文化していることは最大の抑止だ。広島、長崎以後は核が前提となった戦争で、国連軍は対処できない。二一世紀の世界的課題は貧困や核やエイズのような疾病に対処すること。憲法九条はこの状況に合う最適のもので手放せない。改革が言われているが、国民が改憲に「ノー」を言えば日中関係も日米関係も、アメリカの世界戦略さえも変わる。九条をまもることが本当の意味の世界史の改革なのだ。

 集会では、憲法と国民投票法案をめぐる情勢について高田健さんが、教育基本法について弁護士の田中隆さんが報告し、参加団体のたくさんのスピーチが続いた。またザ・ニュースペーパーの風刺の効いたコントで会場が沸いた。
 最後に運動の前進と三・三一全国集会を呼びかける集会アピールを採択して閉会した。

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まもろう憲法!ゆるすな教育基本法の改悪を! 1・21 東京集会

                           アピールと行動提起


 私たちは憲法をまもり、教育基本法の改悪をゆるさない一点で繋がり、きょう日比谷公会堂に集いました。この集会は、私たち参加者と、そして願いを共有するたくさんの人たちの、平和と民主主義、子どもたちの今と未来をまもる熱い想いによって大きく成功することができました。
 この国は今、歴史の岐路の真っ只中にあります。
 憲法と教育基本法の改悪を企てる勢力は、この国をアメリカの先制攻撃に加担する「戦争する国」に、子どもたちを「愛国心」に満ちた戦争を支え、戦場に行く国民に仕立てあげようとしています。
 これらの勢力は、日本国憲法が「永久の権利」と定めた基本的人権を国家の利益に従属させ、教育を国民の手から奪いとろうとしています。
 これらの勢力は、小泉「構造改革」がつくり出した貧困と格差の拡大をいっそう広げ、子どもを競争に追い立て選り分けるエリート教育を押しすすめようとしています。
 「一斉学力テスト」を挺子に競争を煽り立てる「教育改革」。常軌を逸した「日の丸・君が代」の強制。たび重なる教育への権力的介入と弾圧。乱暴にすすめられる<もの言わぬ教職員>づくり。石原都知事のもとですすむ学校と教育の破壊は、憲法と教育基本法改悪の先取りにほかなりません。
 しかし、平和を望み、子どもと教育をまもる国民の力はけっして彼らの言いなりにはなっていません。
 改憲・改悪勢力の大宣伝と大合唱にもかかわらず過半数を大きく超える国民が「9条」を変えることにNO!の声をあげ続けています。この力は全国に四〇〇〇を超える「9条の会」をつくり、「つくる会」教科書の採択をわずか〇・四%未満に押さえ込みました。全国と東京の各地域に広がったさまざまな共同組織は、いま憲法と教育基本法の改悪をゆるさないたたかいのな力で繋がり、草の根の運動を広げています。
 昨日から始まった通常国会には、教育基本法改悪法案や国民投票法案の提出が予定され、憲法と教育基本法はかつてない危険な情勢に直面しています。
 みなさん、憲法と教育基本法の改悪を阻止し、国民投票法案と教育基本法改悪法案の提出を断念させるために、いますぐ次のとりくみを強めましょう。

 一、あらゆる機会、あらゆる所で、あらためて憲法と教育基本法を読み合い、語り合いましょう。
 二、一人でも多くの人に事態を知らせ、改憲・改悪をゆるさないために対話をはじめ、ハガキ、絵手紙、アイディアグッズ、街頭宣伝、チラシ配布…できることは何でもやりましょう。
 三、学園、職場、地域、分野に、「9条の会」をはじめとする憲法と教育基本法の改悪に反対する共同組織を網の目のようにつくり、広げましょう。
 四、提起された国会要請に積極的に参加したり、地元の国会議員と話しあうなど、国会議員への働きかけを強めましょう。
 五、三月三一日の「教育基本法の改悪を止めよう!全国連絡会」の集会をはじめ、各地域で開かれる集会や地域の運動に積極的に参加しましょう。

 「9条の会」アピールがいうように、改憲―改悪のくわだてを阻むため、一人ひとりができる、あらゆる努力を、いますぐ始めましょう。私たち一人ひとりの力は微力であっても、けっして無力ではないのです力ら。

二〇〇六年一月二一日

 まもろう憲法!ゆるすな教育基本法の改悪を! 1・21東京集会参加者一同


「共謀罪の新設に反対する市民の集い」で荻野富士夫教授が講演

   共謀罪は現代の治安維持法

 自民党など与党が新設しようとしている共謀罪は、法律に違反する行為を<話し合っただけで>処罰するという言論・表現の自由を侵害する違憲の法律であり、「現代の治安維持法」といわれる。
 政府・法務省は、またも、共謀罪新設法案を通常国会で成立させようとしている(すでにこの法案は二度も廃案になっている)。
 共謀罪新設を絶対に阻止しようという運動は一段とひろがりを見せている。

1・26 市民のつどい


 一月二六日、文京区民センターで「話し合うことが罪になる 共謀罪の新設に反対する市民の集い」(よびかけ・共謀罪に反対する市民の集い実行委員会、日本消費者連盟、ネットワーク反監視プロジェクト、許すな!憲法改悪・市民連絡会など)が開かれ一三〇人が参加した。

海渡雄一弁護士の報告

 弁護士の海渡雄一さんは「共謀罪、ここが危険だ!」と題する報告。
 先ごろ岡山で弁護士会主催の共謀罪反対集会が開かれ二〇〇人が参加した。地方都市で弁護士会のつどいにこんなに集まったのは初めてで共謀罪にたいする全国的な関心のあらわれだろう。共謀罪はなんの実行もしないのに、また途中でやめたとしても「犯罪」にされる。中途でやめて助かる道はただひとつ、警察に「止めました」と言いに行くことだ。そう言いに行った者は助かるが、彼以外の話し合った者はつかまってしまう。こういうことになると、これまでもあったことだが市民団体や労働組合のなかにスパイが入り込んで、なにかをやろうと相談しておいて、警察に訴えてみんなを逮捕させるというやりかたがでてくる。また、検察官がなんでもやり放題にできるようになる。共謀罪は警察・検察にまことに「美味しい」法律なのだ。こんなものを絶対に許してはならない。与党はなんとかして法案を成立させようとしているが、先に紹介した岡山の例でもわかるとおり、多くの人がこの法案の危険性に気付き始めた。共謀罪反対を三年やってきたが、最初の頃は本当に少数の人が反対しているだけで、ほとんどの人はどんな法案なのかも知らなかった。しかし、白紙にもどさせる可能性が高くなっている。それぞれの人が自分の意見を発信して、大きなうねりを起こしていくことが必要なのだ。
 
荻野富士夫さんの講演

 小樽商科大学の荻野富士夫教授は「治安維持法と共謀罪」と題して講演。荻野さんは、治安維持法研究者で、治安維持法適用の実態を鋭く追究している(主な著書に「思想検事」<岩波新書>、「北の特高警察」<新日本出版社>などがある)。 
 共謀罪は現代の治安維持法と言われる。一九七〇年半ばには治安維持法擁護論が登場した。当時の民社党の委員長の春日一幸と自民党の稲葉修などが、治安維持法は悪法だったが治安に役立ったという主張をおこなった。南野知恵子前法相の国会答弁でも同じようなことが言われた。治安法としては破防法(この法律のために公安調査庁がある)だが、この法律は適用に困難さがある。だから、破防法に代るものとして共謀罪が目論まれているのだ。
 治安維持法は一九二五年から一九四五年までの二〇年の歴史がある。治安維持法の前には「過激社会運動取締法案」があり、これは、「過激思想」宣伝や流布の取締を目的としたものだが、労働運動や知識人などのおおきな反対でうまくいかなかった。大正デモクラシーのひとつの精華だ。しかし、一九二五年に治安維持法が「国体」変革および「私有財産制度」否認を目的とした結社の処罰のために成立させられた。そして、一九二八年に、それまでの「一〇年以下ノ懲役又ハ禁固」が「死刑又ハ無期若クハ五年以上ノ懲役又ハ禁固」に「改正」された。そして、結社の目的のためにする行為「目的遂行罪」が導入された。これは、どんな行為をも「国体の変革」のためとされ、それとむすびつけられ、多くの検挙者が出た。こうして治安維持法はある特高が言ったように「至れり尽くせりの法律」となったが、なお拡張をつづけた。それは、共産党や共産青年同盟だけでなく、労働組合(日本労働組合全国協議会)も「国体」変革結社に指定した。その過程で、特高の治安維持法について遵法性の無視が甚だしいものになる。大阪府特高課「最近に於ける共産主義運動の動向と其の危険性」(三七年三月)には次のような記述がある。「共産主義運動の取締に当りては、日独防共協定締結の趣旨をも考慮し国家的大乗的見地に立ち、更に一層積極的熱意を以て査察内偵に努め取締の徹底を期し、些々たる法的技術に捉はれず現存法規の全的活用を図り法の精神を掬みて其の適用を強化拡張し、いやしくも共産主義を基調とする運動なるを確認するに於ては、非合法は勿論、仮令表面合法たりとも仮借なく断乎制圧を加へ、以て斯の種運動を我国より一掃せんことを期すべきなり」とある。「些々たる法的技術に捉はれず」。まさに法律の無限解釈だ。
 そして、再度、四一年二月、議会に提出され無修正で「改正」治安維持法が成立する。「委員間ニ殆ド異論ヲ見ナカツタ」という状況だった。その新治安維持法第一章「罪」について、司法省『改正治安維持法説明書(案)』(四一年三月)は「現行法ノ不備ナル点」として「支援結社ニ関スル処罰規定ヲ欠如セルコト」「準備結社ニ関スル処罰規定ヲ欠如セルコト」「結社ニ非ザル集団ニ関スル処罰規定ヲ欠如セルコト」「宣伝其ノ他国体変革ノ目的遂行ニ資スル行為ニ関スル包括的処罰規定ヲ欠如セルコト」をあげて、これまでの拡大解釈の運用によって遂行されてきたことを追認する合法化を行った。そして「運動形態ハ従来ノ統一的組織的態様ヨリ分散的個別的態様二移行シ、且党ノ目的遂行ノタメニスル活動ヨリ一転シテ党ノ組織再建準備又ハ党的気運ノ醸成ノタメノ活動ニ終始スルニ至リタリ」と、およそ考えられる可能性のすべてを網羅するようになった。
 戦前・戦中の治安体制は、治安維持法を基礎に、特高警察、思想検察(思想司法)、思想憲兵、学生主事・生徒主事(文部省学生部・思想局・教学局)によって構成され、治安体制の副翼群として、戦時治安諸法令(戦時刑事特別法・言論出版集会結社等臨時取締法など)、情報統制(情報委員会↓内閣情報部↓情報局 啓発宣伝と情報統制)、経済統制(経済警察・経済検察↓「経済治安」・人心の動向を注視)、教学錬成(「共産主義思想」の「芟除」と「共産主義思想の温床とも云ふべき個人主義及之に胚胎する諸思想」の排撃)という構造であった。こうして人びとをがんじがらめにして侵略戦争を遂行していったのだった。
 教育への治安維持法の拡大について、一九三七年初めの文部省「教育関係に於ける最近の思想運動」に次のようにある。「依然として青年学生層を地盤とする運動は所謂青年の特殊性に基きて根強き策動続けつつあり又前記のコミンテルン第七回大会の決議に基ける合法部面による戦術転換により一般左翼合法運動め展開と相俟って学生生徒の文化運動に関しても極めて慎重なる注意を要すべきものありと称すべく、現在学内には約四、〇〇〇を超える
学生団体あり、単に文化の研究を主眼とすると謂も若干は学外思想団体に関与し居れるものあり、その主張するところについても社会民主主義自由主義等との区別は頗る困難なるもの多々あり。その時機到らば再び左翼思想運動の温床となるべく、学生思想運動の監督と指導とは一層困難となり又その重要性を一段と加へつつあるの現状なり」という危機感を抱いて学生の動きのほとんどを弾圧の対象とした。
最後に、横浜事件再審裁判の判決を前にして思うことだが、木村栄さんや板井庄作さんたちが「共産主義」啓蒙という虚構で「横浜事件」の一員に仕立て上げられていくことはフレーム・アップそのものであるとはいえ、戦争やその遂行に猛進する国家・政府・社会に対する批判的な意識(それは合理的で科学的な判断に裏づけられている)を持ちつづけ、それぞれの持ち場でギリギリの思想的な営為がなされていたことを忘れてはならない。官憲取締側は、その独特の嗅覚で、戦争への批判的な姿勢を的確にかぎつけたのである。

 集会では、子どもと教科書全国ネット21、移住労働者と連帯する全国ネットワーク、反差別国際運動日本委員会が発言し、富山洋子さん(日本消費者連盟)が今後の運動の提案を行った。


安部晋三らによるNHK番組改ざん裁判

     
 改編の核心に迫る証言の実現へ

 一月二七日、自民党の安部晋三、中川昭一などがNHKに政治圧力をかけ、「女性国際戦犯法廷」番組を改編させた問題についての裁判の控訴審第九回口頭弁論が東京高裁で行われた。

 同日夜、報告集会が早稲田奉仕園会館で開かれた。主催は、「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW・NET Japan)。
 報告集会では、はじめに西野瑠美子さんが原告報告。
 これまでの裁判では、番組改編の背景にあった政治介入問題について、松尾武放送総局長(当時)と長井暁デスク(当時)の証人尋問で、かなり詳細な事実が浮かび上がってきた。特に自ら「人間としての生きる道を選んだ」として、勇気を持って事実関係の詳細を語った長井さんの証言は、政治家の言動に翻弄されたNHK上層部の姿を白日の下に晒すものだった。原告としては、さらに、永田浩三NHKチーフプロデューサー(当時)、国会対策担当だった野島直樹総合企画室担当局長(当時)などの証人申請を行ったが、それが実現した。三月に永田さん、四月に野島さんの証人尋問が行われる。この裁判は、今後の審理の行方が示される重要な場となると思う。
 つづいて弁護団の日隅一雄弁護士が発言。
 裁判所は、証人尋問を、永井、野島の順序で行うことにした。NHKは、証人尋問について、野島はいいが、永井はだめという態度だった。永井さんの発言はまずいと思っているのだろう。野島氏は国会担当だったから大丈夫ということなのだろう。裁判所も、永井さんから話を聞きたがっている。これはわれわれにとっていい兆候だ。永井さんがどんな証言をするかNHKは危機感をもっているみたいだ。運動の側は、長井暁デスクの勇気ある発言を得たが、今後もそうした人たちを守るように運動を大きく広げていかなければならない。

 つづいてジャーナリスト野中章弘さん(アジアプレス・インターナショナル)が講演。
 政治家の圧力によるNHKの番組の改ざんは、ジャーナリストにとって重要な問題だが、ほとんどのジャーナリストが全面的に沈黙をまもっている。まさにメディアの危機だ。たしかにジャーナリストにはペンかパンかが問われている。生活のためには黙っているということだ。 積極的にいまの流れに加担しているわけではないけれども、いわば良心的に眠っていると言う状態だ。
 NHKの改革については、検証可能なもの、第三者の意見を入れるものでやっていくしかないが、公共放送はやはり必要だと思う。視聴率は大事だが、目新しいもの、面白いものが視聴者に好まれるのは当然だが、それらの人もたまには硬いものも見たくなる。そうしたものをつくるのには民放だけでやれるわけではない。NHKの外から内から、メディアの建て直しをはかる努力が必要だろう。


「時間研」報告公表で労働弁護団声明

       
声明〜「時間研」報告公表にあたって〜


日本労働弁護団
  幹事長 鴨田哲郎


 「今後の労働時間制度に関する研究会」(時間研)の報告が公表された。「報告」は、年次有給休暇の取得促進案等に触れるものの、その最大の眼目が、「新しい自律的な労働時間制度」(新制度)の導入にあることは明らかである。
 新制度は、現行の管理監督者に加え、管理監督者手前の労働者やプロジェクトマネージャー等を新たに労働時間規制の対象者から除外するものである。即ち、新対象者は、一日八時間・一週四〇時間の法定労働時間の保護を受けられなくなり、無限定な労働に対する法的歯止めを失うことになる。
  今日の日本の労働者の働かされ方の実情に照らし、適用除外者を拡大する必要性は全くなく、新対象者が今以上の無限定労働を強いられ、過労死等の心身の健康被害等がさらに広がることが強く危惧されるのであって、我々は、新制度の導入には断固反対する。
 なお、「報告」は多様な、バランスのとれた働き方、即ち、労働者が必要に応じて休める働き方のニーズに応えることを目的と記すが、労働時間の上限を定めるに過ぎない現行法が、かかる働き方を阻害するものではない。ワーク・ライフ・バランスの実現は、まず、現行法の強化によって図られるべきものである。

       以 上

二〇〇六年一月二六日


政府・企業の責任を明らかにし被害者への補償・アスベストのない社会の実現を


アスベスト被害の広がり

 国際労働機関(ILO)はさきごろ、アスベスト(石綿)を吸い込んで肺ガンや中皮腫となって死亡する人は世界全体で年間一〇万人に達するとの推計を公表した。
 日本では環境省の試算によると、アスベストで死亡する人は二〇一〇年までに、最大一万五六〇〇人になるとしているが、民間研究者などはそれに数十倍の数字をだしている。環境省はアスベストによる健康被害が多発した大手機械メーカー「クボタ」工場のある兵庫県尼崎市を中心に疫学調査を行っているが、工場から飛散したアスベストによる公害型の環境汚染を重視し来年度からは疫学調査をかつてアスベスト工場の集積していた大阪府南部などをはじめ全国に拡大することを決めた。

政府・企業の責任は重い

 一九七〇年代から、石綿の有害性が言われ、被害者の叫びを背景に国会でも指摘されていた。だが、主な石綿製品の禁止措置がとられたのはようやく二〇〇三年になってからであり、石綿の危険性を認識していたにもかかわらず、歴代政府はきわめて長期にわたって使用を容認してきたのである。企業も有効な安全対策をとらずに石綿の大量製造・使用を続けてきた。これらの政府と企業の無責任なやりかたによって、労働者と周辺住民に多大な被害を与えてきたのである。まず政府と企業は、自らの責任の重大性を認識し、被害者への補償と総合的な防止対策がなされなくてはならない。
 しかし、政府と企業の対応は、そうしたものとは大きくかけ離れたものだ。

アスベスト法案の問題点

 現在、国会では、アスベスト被害救済法案が審議され、この国会で成立しようとしている。しかし、この法案は、なによりも国の行政責任と企業の加害責任をあいまいにし、救済内容もすべての被害者を対象としない、救済水準も低いなどまったく不十分なものであり、問題点が多い。

 労働災害補償保険法では、アスベストによる「中皮腫、肺がん、石綿肺、良性石綿胸水、びまん性胸腹肥厚、その他石綿曝露業務に起因することのあきらかな疾病」が対象疾病となっているが、救済法案では「中皮腫、肺がん、その他石綿を吸入することにより発生する疾病であって<政令で定めるもの>」となっている。「政令で定めるもの」となっていることに対し、国会審議の中で小池百合子環境相は「石綿肺などの疾病は将来指定疾患とすることはありうる」と答弁しているが、定めない可能性は高いと思われる。

 そして過酷な被害であるにもかかわらず給付内容がきわめて低い。中皮腫で死亡した人には三百万円の特別遺族弔慰金を支給し、中皮腫患者と肺がん患者には自己負担分の医療費と療養手当を支給するとしている。これでは、患者の生活はなりたっていかない。せめて労災保険程度の補償水準にしなければならない。
 
 アスベスト被害が多くの人に知られるようになって政府も動かざるをえなくなって、新法制定となったが、被害者・遺族たちをはじめ多くの人が求めるような修正を勝ち取るように最後までたたかいぬかなければならない。

アスベスト全国集会

 一月三〇日、日比谷公会堂で「一〇〇万人署名達成!なくせアスベスト被害、国民決起集会」が開かれ二三〇〇人が参加した。主催は被害者団体や労働組合、市民団体などでつくる石綿対策全国連絡会議。
 主催者あいさつは、代表委員の佐藤正明全建総連書記長。
 いま、われわれが主張してきたように、アスベストの被害が明らかになってきた。学校などではそれこそパニックになるほどの状況になっている。これは、多くの被害者の声を無視してきた政府の責任だ。いま国会に法案がかかっているがきわめて不十分なものだ。アスベストのない社会をめざすというものではなく、お金で解決をつけよう、それも労災保険並みを大きく下回るものだ。政府の態度はまさに助けてやるんだと言うようなものだ。われわれは新法を変えさせなければいけない。そして五年間も法見直しをしないという。新しい法律は、アスベスト禁止を盛り込み、これからの飛散の防止、これまで患者となられた方の完全な補償、今後、何十万と出るであろう中皮腫や肺がんの患者を国と企業がしっかりと責任をもって補償していく総合対策でなければならない。今日、国会請願・デモも行う。要求実現のために闘おう。
 来賓挨拶は、民主党(仙谷由人衆議院議員)、日本共産党(吉井英勝衆議院議員)、社民党(又市征治幹事長)、連合(古賀伸明事務局長)、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議(中下裕子事第局長)、東京弁護士会公害・環境特郡委員会(牛島聡美委員長)が行い、全労連からのメッセージが紹介された。   
 全国連絡会議の古谷杉郎事務局長が基調報告を行った。
 つづいて、斉藤文利さん(肺がん患者、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会代表)、中村實寛さん(中皮腫患者、患者と家族の会関酉世話人)、森繁信さん(びまん性胸膜肥厚患者、全建総連神奈川建設労働組合連合)会相模原支部組合員)の家族、武澤泰さん(尼崎・クボタ旧神崎工場周辺住民患者遺族)、荻野ゆりかさん(尼崎・クボタ旧神崎工場周辺住民患者遺族)のみなさんから訴え行われ、集会アピールが参加者の拍手で確認され、デモに出発した。

一〇〇万人署名達成!なくせアスベスト被害、国民決起集会アピール


 アスベスト被害が工場の中だけでなく外にまで広がっていることが明らかになったクボタ・ショツクから半年余り、国民は、アスベストの恐ろしさに不安を募らせながら、すべてのアスベスト被害者に正義が実現されるかどうか、また今度こそ「ノンアスベスト社会」の実現に向けた道筋を確立できるかどうか、を見守ってきました。
 石綿対策全国連絡会議が呼びかけた請願署名に対しては、日本全国津々浦々の地域・職場で、患者・家族の皆さんをはじめ様々な個人・団体が応えてくださり、わずか三か月という短期間のうちに目標の一〇〇万人をはるかに上回る署名が集まりました。
 私たちは、まさに「国民の声」として、署名の請願事項として掲げた以下のことを要求します。

 一、アスベスト及ぴアスベスト含有製品の製造・販売・新たな使用等を速やかに全面禁止すること。
 二、アスベスト及びアスベスト含有製品の把握・管理・除去・廃棄などを含めた総合的対策を一元的に推進するための基本となる法律(仮称・アスベスト対策基本法)を制定すること。
 三、アスベストにばく露した者に対する健康管理制度を確立すること。
 四、アスベスト被害に関わる労災補償については、時効を適用しないこと。
 五、労災補償が適用されないアスベスト被害について、労災補償に準じた療養・所得・遺族補償などの制度を確率すること。
 六、中皮腫は原則すべて補償の対象とするとともに、中皮腫の数倍と言われるアスベスト肺がんなど中皮腫以外のアスベスト関連疾患も確実に補償を受けられるようにすること。

 政府は、昨年末に「アスベスト問題に係る総合対策」をまとめ、今通常国会に、被害者救済新法案ほかを提出しました。残念ながら、それらの内容は、すべての被害者に対する公正な補償にも、真の総合的対策の確立にもほど遠いと言わざる牽得ません。本日、衆議院においてアスベスト関連法案の採決が行われる予定です。参議院での採決も数日のうちに行われるでしょう。私たちの請願の趣旨の実現に一歩でも近づくような修正が行われることを、最後まで強く望みます。
 しかし、今国会の結果如何に関わらず、アスベスト問題が今後数十年間にわたって取り組んでいかなければならない国艮的課題であることに変わりはありません。そのことも踏まえて、アスベスト被害者の補償・救済をはじめとした諸対策の効果及び妥当性を検証しながら、よりよいものにしていくための努力を継続していかなければなりません。政府においては、省庁間の縦割り行政の弊害を克服するため、内閣府のもとに「アスベスト対策会議」を設置するともに、アスベスト被害者とその家族、労働者、市民等の代表を含めた「アスベスト対策委員会」を設置すべきです。
 ここでアスベスト問題を終わらせてしまってはなりません。一昨年「二〇〇四年世界アスベスト東京会議」(GAC二〇〇四)で世界中から集まった参加者とともに誓い合ったことを思い起こしてください。
 「未来のためにともに行動することによって、私たちは変化を起こすことができるし、変化を起こさなければならず、そして変化を起こしていくと決意します。」

二〇〇六年一月三〇日

 一〇〇万人署名達成!なくせアスベスト被害、国民決起集会参加者一同


JR採用差別事件の勝利解決をめざす

      1047名 闘争団、争議団、原告団

                 2・16決起集会への参加要請


 日頃のご活躍に敬意を表するとともに、国鉄闘争とりわけJR採用差別事件への物心両面にわたるご支援に心より感謝とお礼を申し上げます。
 さて、JR採用差別の闘いは、一九八七年二月十六日のJR不採用通知となった屈辱的な日から二十回目の2・16を迎えようとしています。
 この間、紆余曲折を辿った国鉄闘争ですが、二〇〇三年十二月二十二日に最高裁は「JRの法的責任なし」との不当判決を出す一方で、「組合差別があった場合は、その責任は旧国鉄及び清算事業団が負う」と責任の所在を明確に示しました。また、ILOからは六度にわたる勧告が日本政府に出されています。
 昨年九月十五日、鉄建公団訴訟裁判で東京地裁民事36部は、「国鉄によるJR採用者名簿作成で国労差別があった」と初めて司法の場で不当労働行為を認定したものの、「解雇は有効」とする捻れた不当判決でありました。これらの動きに対しマスコミ各社は、「政治の責任で解決の時」と一斉に報道がされました。当該労組、被解雇者はもとより各労組・団体・支援者からも「9・15判決を機に解決を!」と、この時期に解決に全力をあげることが表明されています。
 私たち被解雇者は、こうした情勢を踏まえ政府、鉄道・運輸機構に解雇撤回・勝利解決を迫って行くには「一〇四七名の大同団結と共同行動が不可欠である」との認識の一致から、この間幾度かの意見交換を重ねる中で、被解雇者一〇四七名による集会実行委員会を発足させて、下記の通り「2・16総決起集会」を開催することになりました。
 つきましては、集会成功に向けた貴団体の絶大なるご支援とご協力をいただけますようご要請申し上げます。


 一、名称 JR採用差別事件の勝利解決をめざす一〇四七名 闘争団、争議団、原告団2・16総決起集会
 二、日時 2006年2月16日(木)午後6時開場 6時30分開演〜8時30分終了
 三、会場 日本教育会館(千代田区一ツ橋2―6―2)
 四、主催 一〇四七名被解雇者 2・16集会実行委員会
 五、内容 オープニング、基調講演、ビデオ上映、被解雇者五団体決意表明

 国労闘争団全国連絡会議(議長・神宮義秋)/国労闘争団鉄建公団訴訟原告団(団長・酒井直昭)/国労闘争団鉄道運輸機構訴訟原告団(団長・川端一男)/
全動労争議団・鉄道運輸機構訴訟原告団(団長・池田孝治)/動労千葉争議団・鉄道運輸機構訴訟原告団(団長・高石正博)
2006年1月17日


東条 靖国神社 天皇

 ついに出た発言というべきか。麻生太郎外相は一月二八日、公明党議員の会合で、靖国神社参拝について妄言を吐いた。
 曰く。「英霊の方は天皇陛下のために万歳と言った。首相万歳と言った人はゼロだ。だったら天皇陛下が参拝なさるのが一番だ」「(首相の参拝について)外国から言われて決めるのは絶対通ることではない」「靖国問題が終わったら、日中間の問題がすべて解決するわけではない。隣の国なのだから、ある程度緊張感を持ってやっていく以外に方法はない」と。
 先代の昭和天皇は靖国神社には一九七五年一一月以降、参拝していないが、天皇と靖国神社の関係について、考えてみる。

天皇の戦争責任論議へ


 まず麻生の発言で、首相万歳でなく「天皇陛下のために万歳」と言って日本軍将兵は死んだという部分だ。本当に、そう言いながら死んだ人はどのくらいいたかは知らないが、とにかく、「天皇陛下のために」戦争が戦われたことは事実だ。麻生は、主に東条英機らのA級戦犯と結び付けられてきた戦争と、昭和天皇・天皇制との結びつきをあらためて、国の内外に公然化した。
 東条英機は、軍閥の頭目のひとりとして中国アジア侵略を推進し、一九四一年の対米英戦開戦の時の首相だった。だから、戦後極東軍事裁判によってA級戦犯として絞首刑となったのである。
 日本国は一九五一年のサンフランシスコ講和条約(日本国との平和条約)を結んだが、そこで極東軍事裁判を認めた。
 サ条約第一一条【戦争犯罪】「日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し、且つ、日本国で拘禁されている日本国民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。これらの拘禁されている者を赦免し、減刑し、及び仮出獄させる権限は、各事件について刑を課した一又は二以上の政府の決定及び日本国の勧告に基くの外、行使することができない。極東国際軍事裁判所が刑を宣告した者については、この権限は、裁判所に代表者を出した政府の過半数の決定及び日本国の勧告に基くの外、行使することができない」と。
 日本の支配階級は、戦争の責任を東条らにかぶせる(すなわち天皇を免責)ことによって「戦後日本」をスタートさせた。

天皇と東条の冷たい関係

 東条らに罪をかぶせて生き延びた昭和天皇は、しかし、A級戦犯が合祀された靖国神社に参拝をしなくなった。いまでは余り語られなくなったが昭和天皇の東条嫌いは相当のものだったらしい。東条を首相にするには、木戸幸一はじめ重臣たちの「東条なら軍の暴走を抑えられるかもしれない」という説得に動かされたという説もある。天皇と東条の関係についてはいろいろな説が流布されているが詳しくは立ち入らない。
 天皇と東条の関係を<敗戦>という観点から見ると戦後の天皇の東条観は戦前・戦中より格段に厳しいものになったろうことは推測される。
 敗戦と外国軍隊による占領によって、昭和天皇は歴代天皇の中ではじめてという「屈辱的な」立場におかれた。こうなったのには東条らの責任は重い、と思ったのかもしれない。
 歴代政府は、天皇と東条の間の対立を大きく取り、東条らに戦争責任を集中させてきた。戦後象徴天皇制システムから、一九三一年「満州事変」からの一五年戦争を見る史観でやってきた。にもかかわらず、麻生発言は天皇と東条の間の相違は戦争指導部内部のものであり、天皇の方がより責任を負わなければならないという、麻生の思わざる「危険な結論」に一歩近づくことになる。

東条と靖国神社

 中国はじめアジア諸民族の抗日戦争や米英ソなどのいわゆる世界の反ファッショ統一戦線が日本軍を破砕し戦前型の天皇制国家体制を終焉させた。
 しかし、振り返ってみると、軍閥とくに東条が日本を破滅に追い込んだ役割は大きい。天皇制軍部は高度国防国家・治安維持法体制により社会主義・労働運動はもとより、自由主義勢力まで圧殺・排除し、軍部のなかでも最も極端な軍国主義ファッショ的勢力が戦争を指導した。当時は、大本営発表で情報統制されていたが、戦後になってわかったことは、東条らのやったことは、主観的にはどうあれ、日本を徹底的な敗戦に導くのに「功績」があったというほかない。東条を押さえ、「敗戦とそれによって起こる共産革命」を恐れた重臣(近衛文麿)や海軍の意見が通っていたら、もうすこし早く戦争は終わっていたかもしれない。だが、陸軍は本土決戦を呼号し、天皇も、もう一度、戦果をあげてからの有利な和平交渉を望み、その結果、アジアの人びと、そして日本人にも多くの犠牲を強いることになった。
 しかし、東条のような人物が首相にならなかったら「大日本帝国」は終焉せず、もっと生きながらえたかもしれない。「大日本帝国」破壊者でもある東条を靖国神社に祀り、右翼が参拝し、小泉が参拝する。
 昭和天皇が、結果的には「大日本帝国」を破壊してしまった東条に複雑な気持ちと強い批判をもっていたことは疑いない。右翼の中でも少数派だが、そうした天皇の立場にたち、A級戦犯分祀を主張する論調もあらわれはじめた。
 A級戦犯分祀論、新しい国立追悼施設などの論議もあるが、小泉は靖国参拝をつづけ、アジアとの外交関係は最悪のものになっている。小泉の靖国参拝は日本の孤立をもたらし、財界(奥田碩日本経団連会長など)やマスコミ(読売の渡辺恒雄など)は「国益」に反するものだと批判のトーンを高めている。分祀論では、東条英機の孫娘がしばしばメディアに登場し、分祀反対・名誉回復の発言をしている。東条は死してなお祟(たた)っているようだ。いままた、右翼が、国家を内から破局に導いていくという歴史が繰りかえされている。 (MD)


【パンフレット紹介】 二〇〇六年一月制作の最新パンフ

■ 他人事ではない! 共謀罪 話し合うことが罪になる ■

 
 【パンフレット紹介】 二〇〇六年一月制作の最新パンフ

■ 他人事ではない! 共謀罪 話し合うことが罪になる ■

《内容》

 市民社会の自由を奪い、監視社会への道を開く共謀罪に反対しよう 海渡雄一(弁護士)

 共謀罪に関する各界からのコメント
 共謀罪の危険性が明らかになった国会審議
 共謀罪と盗聴社会
 話し合うことが罪になる共謀罪の新設に反対する市民団体共同声明

 ◎ 資料 犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案要綱/共謀罪に反対する各団体の声明・談話 /声明・意見書等一覧/共謀罪に関するマスコミ等掲載一覧/共謀罪が適用される法律名・罪名(刑の上限を四年以上としている法律名・罪名)

◎A五判四八ページ
 ◎頒価:二〇〇円(送料別)

■編集・発行
 ◎フォーラム平和・人権・環境
 ◎盗聴法(組対法)に反対する市民連絡会

■申込先:日本消費者連盟
 東京都新宿区早稲田町七五 日研ビル二F
 TEL〇三(五一五五)四七六五
 FAX〇三(五一五五)四七六七


複眼単眼

   
 「靖国神社」の「遊就館」を見に行った

 思い立って、靖国神社の遊就館を訪ねた。遊就館に来るのは二度目で、一度目は一〇年以上も前で、まだ改修されていなかった。この改修は創建一三〇年記念事業の一環で二〇〇二年七月に終了したもの。今回は小春日和の日曜日であったからなのか、あるいは別の理由からか、当時よりも参観者がちょっとばかり多かったような気がする。歴史遺跡などに結構興味を持つ自分に似合わず、いつもながら靖国神社の境内に入っていくのはいい気持ちがしない。
 大鳥居をくぐると、近くに右翼の街宣車が二台駐まっていた。正面に創設者の大村益次郎の銅像がある。その先を右折すると、遊就館に突き当たる。「大東亜戦争は負けていない」などという看板を立てている人もいる。戦後しばらくブラジルでは「勝ち組」が存在したという話があるが、ここにも「勝ち組」がいたのには驚いた。
 拝観料八〇〇円を払ってはいると、一階にはゼロ戦や野砲、あるいは泰緬鉄道を走った機関車などが陳列されており、二階にエスカレーターで上がると展示室、そこから一階へ降りてさらに展示室が続く。参考までに各展示のテーマを並べる。
 @ 武人のこころ
 A 日本の武の歴史
 B 明治維新
 C 西南戦争
 D 靖国神社の創祀
 E 日清戦争
 F 日露戦争パノラマ館
 G 日露戦争から満州事変
 H 招魂斎庭
 I 支那事変
 J 大東亜戦争1
 K 大東亜戦争2
 L 大東亜戦争3
 M 大東亜戦争4
 N 大東亜戦争5
 O 靖国の神々1
 P 靖国の神々2
 Q 靖国の神々3
 R 靖国の神々4
という具合だ。これを見ると、展示の内容はだいたい想像がつくかと思う。
 途中に靖国神社の史観を宣伝する映画の上映がある。これが傑作(?)で、「大東亜戦争は欧米列強のアジア侵略と植民地化に抗する、やむにやまれぬ正義の戦争であった」「日本は自存自衛と白人優越世界の打破のために立ち上がったのだ」という史観で徹底している。欧米諸国の植民地支配は悪いが、日本が朝鮮や中国、アジア諸国を支配し、収奪したのは当然の権利であるという、いかように見てもむちゃくちゃな論理がくり返し語られるのだ。典型的な皇国史観がここにある。その意味でこれは一見の価値がある映画だ。ナレーターの感極まったような抑揚のあるしゃべりも気になった。これはどこかで聞いたことがあると思った。
 そういえば参観者の中に長野県のある町の消防団の半纏を着た人びとの集団がいた。迷彩服のズボンをはいたお兄さんもいた。気になったのは見ていた若者で大変興奮している者がいたことだ。「招魂斎庭」なる展示を含めて、これらは一種の催眠効果を狙うものではないだろうかと思ったほどだ。「これでは靖国の信奉者はオウム真理教の批判は出来ないよ」と思った。
 出口の前に感想を書くノートが数冊置いてある。「日本の若者はぜひここに来るべきだ」「こういうことは学校で教えられなかった」などという類のことが書き連ねてあった。
 とにかく「堪え難きを堪えて」見学した三時間であった。 (T)