人民新報 ・ 第1197号<統合290(2006年3月25日)
  
                  目次

● 全世界でイラク反戦の行動  ブッシュは占領をやめろ  自衛隊はすぐに帰って来い

● 改憲阻止のおおきなうねりをつくりだそう  第9回 許すな!憲法改悪 市民運動全国交流集会(広島)

● 3・21横田行動  /  横田基地のミサイル防衛基地化反対!  米軍再編計画の撤回を!

● 06春闘に勝利するぞ  3・17けんり春闘統一行動日

● 共謀罪の新設に反対して、市民・表現者・国会議員、が院内集会

● 2006ピースサイクルの成功を期してピースサイクル全国スタート会議

● KODAMA / 在日米軍再編について右派メディアの言い分

● 複眼単眼 / 桜の街路樹の伐採通告と街の人の優しさ



全世界でイラク反戦の行動

    
 ブッシュは占領をやめろ  自衛隊はすぐに帰って来い

 アメリカ・ブッシュ政権による無法なイラク侵略戦争から三年。戦争・占領の早期終結と親米政権樹立を狙ったブッシュの思惑は完全に破綻し、米英占領軍とカイライ「政権」は、イラク戦場の泥沼化と内戦への突入という事態に直面している。
 ブッシュは、開戦三年の記者会見で、イラク駐留米軍の完全撤退について「決定するのは将来の大統領たちとイラク政府だ」と述べた。自らの任期である〇九年一月までには米軍のイラクからの撤退完了は絶望的だということを認めざるをえなかったのである。現在、イラク駐留米軍は一三万三〇〇〇人だが、米国内には早期の撤退を求める声が強まっている。開戦以来の米兵の死者は二三〇〇人を超えた。ラムズフェルド国防長官の辞任要求も高まっている。イラクでは二月下旬のイスラム教シーア派聖廟爆破事件後の宗派間対立による死者数は一ヶ月も経たないうちに一〇〇〇人を上回った。
 「反テロ」戦争の長期化を主な理由としてブッシュに対する支持率は急落し、三〇%台半ばとなった。今秋の米中間選挙ではブッシュ与党の共和党の敗北・民主党勝利を予想する人が過半数を超えた。
 ブッシュは記者会見で、依然として「強気」の発言を続けているが、ブッシュ政権がアメリカ国内でも孤立していることは明らかだ。
 世界中でイラク反戦の運動がもりあがっている。開戦三年を前に一八日からの数日間、米国をふくむ世界各地で反戦デモが行われた。

 日本でも全国各地で様々な反戦の行動が行われた。
 三月一八日、東京・日比谷野外音楽堂で、「WORLD PEACE NOW 3・18 終わらせようイラク占領 終わらせよう戦争の時代〜謝ってよ!ブッシュさん、小泉さん 今すぐもどせ自衛隊」が展開された。
 集会では、主催者を代表してWPNの須黒奈緒さんがあいさつ。
 ブッシュのイラク戦争を小泉内閣は一番に支持した。この三年の間に、日本国内では「戦争の出来る国つくり」がすすんだ。いま日米政府が話し合っている在日米軍再編は、アメリカに追随しての戦争にいっそう参加しようというものだ。この流れをとめなければならない。私たちは、後の世代に何を残せるのか、絶対に負の遺産を残すわけにはいかない。今日と明日、全世界で戦争に反対する運動が行われる。人間には出来ることと出来ないことがあるが、戦争は人間が起こしたものであり、人間がとめることが出来る。多くの人びとの力を結集して、戦争のない平和な世界をつくっていこう。
 つづいて、野音そばの公園で集会を開いている第二会場の参加者を代表して、フォーラム平和・人権・環境事務局長の福山真劫さんがあいさつした。
 米軍はイラクの人びとの戦いに泥沼のような状況に陥いり、また占領軍からの相次ぐ離脱にも悩まされている。困難さをつのらせるブッシュ政権は自衛隊のイラク長期駐留を望んでいる。いまだに小泉は自衛隊の撤退について確言していない。自衛隊を撤退させ、イラク人の手でイラクの平和を実現しよう。米軍再編は、在日米軍基地の強化・恒常化であり、沖縄をはじめ各地で反撃が強まっている。労組も連合を含めて反対の立場を明らかにしている。原爆を経験した詩人が「にんげんをかえせ にんげんの にんげんのよのあるかぎり くずれぬへいわを へいわをかえせ」と詠ったが、日本の平和運動の原点を確認し、報復戦争ではなく、平和を返せという声を大きくあげていこう。
 自衛隊イラク派兵違憲訴訟の中島通子弁護士。
 いまイラクでは、テロリストの掃蕩と称して占領後最大の空爆が行なわれて、多くの人びとが殺されている。しかし、報道管制でほとんど知らされていない。こうした実情を広く知らせていくことが必要だ。
 漫画家の石坂啓さん。
 いまは戦後ではない。また、新たな戦前でもない。自衛隊はすでに戦地に出かけていっている。戦中だというべきだ。かつての戦争の時でも、自分の頭の上に焼夷弾が落ち、逃げ回ったのは戦争の最後のときだった。その前は戦地で兵士が人を殺していても、国内では戦争の実感はなかった。小泉首相はイラクで三人の日本人「人質」事件が起きた時、「自己責任」論にのった。これは政治家としての責任を放棄するものだったし、香田証生さんがつかまった時も、第一声が「テロに屈しない」だった。これは、殺してくれてもいいと言う発言と同じだろう。犯罪事件のときも交渉人というのは決して「NO」と言ってはダメだ。それを言ったら人質は必ず殺される。小泉首相はあえてそれをやったのだった。こういう人を首相にしている日本がブッシュとともに戦争をやっているのだ。もっともっと大きな力をつないで戦争反対のアピールしていくことが大事だ。
 台湾出身のタレントのインリン・オブ・ジョイトイさんは「平和への願い」というメッセージを寄せた。
 「日本は今こそ、全世界の平和のリーダーとして、非武装・中立の文化国家をめざすべきです。先ずは、ブッシュの嘘と権力欲から始まったイラクへの侵略戦争に手を貸さないこと、そして、アメリカとの軍事同盟をやめ、すべてのアメリカ軍を日本から出すこと。武力が平和を守るなんて嘘にだまされるのはやめましょう。人間の知恵を、平和の為に使いましょう。」
 ピースコンサートでは、ソウル・フラワー・モノノケ・サミットが「がんばろう」「インターナショナル」などを歌い、会場の参加者も一緒に踊りだす。
 集会を終わりパレードに出発し、反戦を訴えた。


改憲阻止のおおきなうねりをつくりだそう

   
 第9回 許すな!憲法改悪 市民運動全国交流集会(広島)

 憲法をめぐる状況が重大な時期にさしかかっているなか、「九条の会ヒロシマ」の受け入れにより、「第九回 許すな!憲法改悪 市民運動全国交流集会」が三月一一〜一二日の二日間にわたって開かれた。広島の会場には、一二都府県より四一団体約九〇名の参加があり、憲法をめぐる情勢・問題点などが提起され、各地・各分野からの具体的な報告がおこなわれ、当面する改憲のための「国民投票法案」阻止への論議を深めた。

 憲法をめぐる情勢・問題提起では、許すな!憲法改悪・市民連絡会および九条の会事務局の高田健さんから「憲法をめぐる情勢について」、ピースボートの川崎哲さんから「憲法九条と国際連帯」、韓国の参与連帯のパク・チョンウンさんから「韓国から見た憲法九条の役割などについて」、ふぇみん婦人民主クラブの赤石千衣子さんから「憲法とジェンダーについて」それぞれの立場での現状・取り組み・問題点などが話され、参加者に問題を投げかた。
 また、「ジェンダーと憲法」のところでは、広島県立大学教授で憲法学を教えている若尾典子さんの特別スピーチがあり、会場の参加者の関心を集めていた。

 市民連絡会の高田さん。 九年前と比べものにならないくらい、人々の意識も高まり運動もひろがってきており、「九条の会」も四千数百ヶ所うまれ、思想・信条・立場を超えた共闘も始まっている。国会では「国民投票法案」が提出されようとしているが永田町に任せるのではなく、地域・草の根から運動を作り上げ反対の動きを作っていく必要がある。今後の課題として、「国民投票法案」を阻止し、九条の会のネットワーク作りを急ぎ、五千万人署名運動を成功させ、国民投票で勝てるようにし、その闘いの中で社会を大きく作り変え、共生の時代を作っていこう。また、日本にとどまらず世界に憲法九条を作る運動を広げていこう。
 ピースボートの川崎哲さん。
 世界の平和を求めるNGOの中でも世界的な戦争を無くすカギとして日本の憲法九条が注目されている。世界中に九条を!ということで、二〇〇八年に「九条世界会議」を開催する計画がある。
 韓国の参与連帯のパク・チョンウンさん。
 日本の憲法九条が改悪されることは、日本にとって平和国家の放棄であり、アメリカの軍事再編のもと日米同盟の強化により紛争をおこし、周りの国々にとっての脅威となる。一つの国だけの平和主義は不可能であり、市民レベルで共同の平和国家ビジョン、地域共同体ビジョン、平和国家の理念を作ることが必要で、日本で憲法九条を守っていくことが不可欠である。
 「憲法とジェンダーについて」では、赤石さんや若尾教授から、ジェンダーの問題から憲法九条・二四条の改正を見ると、個人の尊厳より性役割が強制され、対話より暴力によって問題を解決するようになり、弱い立場の人の人権も守られなくなってしまうことが指摘された。
 各地・各分野からの報告、提起では、人数が多くて一人五分ということで二〇人あまりの人が積極的に自分たちの取り組んでいる運動について発言し、いいたいことがたくさんあるので多くの人が、五分オーバーの紙をわたされるほどだった。長時間、あまり休憩もはさまず話が続いたにもかかわらず、参加者は、改憲を許さないためにはどのように運動を広げていけばいいのか、具体的に学ぼうと熱心に耳を傾けていた。

 二日目には、前日の発言を受けて、当面する憲法改正のための「国民投票法案」に反対する運動にどう取り組むかについて話し合いが行われ、同時に自由討論をおこなった。以下に発言を紹介したい。
 憲法九条をそれができるまでといまを描いた「二度と戦争はしない」という紙芝居にして小中高で読み聞かせをしている。「あなたから平和の風を」という講演会を開催したら九〇〇名の参加者があった。戦争体験者への聞き取り調査をしている。「日本国憲法」「九条は訴える」などのビデオを上映している。マスコミ九条の会のなかには民放九条の会、映画人九条の会、新聞OB九条の会など、一一団体の会ができている。マスコミ九条の会で、レスキューナインというホームページを作っている。広島の宗教者で、宗教の壁を乗り越えて「広島宗教者九条の和」を作った。地域の九条の会で基地の拡大・強化に反対する活動をしている。弁護士九条の会から学習会の講師を派遣している。高校の文化祭で憲法問題討論会を行った。平和を擁護する人の声をビデオの収めている。自治体への働きかけをしている。一五名くらいで月一回の学習会をしており、毎回新メンバーが二〜三人参加している。九条の会としてニュースを出している。広報宣伝プロジェクトを作っている。軍事力がなくても平和を作れることを具体的に語る必要がある。老人、障害者など弱い人の立場から憲法の問題を考えることも大切。マスコミに良い時も悪い時もものを言っていく必要がある。平和を語るとき、自分の意識も常にチェックしていくことが大切。九条の会には九条に反する暴力を掲げる人はいらない。メディア、記者との関係を作って、自分たちの声を広く伝えていく。労働組合などにも呼びかけ、地域で市民としての意志表示をしていく。……
 本当にたくさんの経験や意見が語られ、参加した人びとは、これらの話から多くのことを学びことができ、それぞれの九条の会の運動を広げていくためのヒントを得られたのではないだろうか。

 最後に、第九条の会ヒロシマの横原さんよりまとめの発言。
 全国から集まった人々にはげまされた。自分たちの言葉で地域に伝え、若い人たちの感性にも訴えていきたい。憲法の持っている意味を再確認した。共同行動の中にも非暴力、被差別、人権を守るなどの原則は必要で、それらを市民に広げる努力と工夫が必要だ。東北アジアに民衆レベルで平和的な環境を作っていく必要がある。

 そして、「九条改悪のための国民投票法案を許さず、全国津々浦々に九条改憲阻止の幅広いネットワークを生み出しましょう」との決議案を採択して交流集会は終了した。(広島・I)


3・21横田行動

  
横田基地のミサイル防衛基地化反対!  米軍再編計画の撤回を!

 三月二一日、アンポをつぶせ!ちょうちんデモの会、うちなんちゅの怒りとともに!三多摩市民の会、三多摩ピース・サイクルなどのよびかけで「横田基地のミサイル防衛基地化に反対し、米軍再編計画の撤回を求める3・21横田行動」が行われた。
 福生市民会館で開かれた集会では、二人が講演。
はじめに、核とミサイル防衛にNO!キャンペーンの杉原浩司さんの「恐怖のミサイル防衛と横田基地の役割」。
 アメリカは、ミサイル防衛(MD)計画を進めている。日本もそれに参加している。これは、かつての米レーガン政権時代のSDI構想の続きだ。SDIは、それ以前の核戦争が始まれば双方とも壊滅するので核戦争を押しとどめるとした「相互確証破壊戦略」を破棄するものだった。だが、これは「相互確証生存」といいながら実際はアメリカだけを完全に守るというという「一方的確証生存」にすぎず、アメリカは安心して核戦争が出来ることになる。右派の評論家である木村太郎は「(MDが出来る)二〇一五年頃までは外交による抑止をはかるしかない」と言っている。その意味は、MDが出来れば外交は要らないということだ。かつてのSDIについてE・P・トンプソンは次のように書いていた。「SDIの特徴は、政治解決もイデオロギーの修正も必要としない、実際に、まったく政治を必要としない技術的な防衛を約束していることだ」。政治も外交もなく、自分だけは完全に防衛し、相手に軍事的威圧をかけると言うことだ。そして「反撃されても大丈夫」という「心理的保証」がつくられ、先制攻撃のハードルを下げることになっている。
 しかし、MDは実際には技術的にも出来上がったものではない。前の防衛庁長官だった大野功統は「一〇〇発中九八から九九発は命中する」などとしゃべっているが、米ミサイル防衛庁長官のオベリングが「一発撃ち落とせれば元は取れる」などとしているように、飛んでくる多くのミサイルを打ち落とすのはほとんど不可能ということだ。
 にもかかわらず、日本の政府・自衛隊そして軍需産業はMDを推し進めようとしている。このことは。日本列島をMD最前線基地化するものであり、横須賀、横田や青森つがる市の車力などがその拠点になる。そして、日米軍需産業の融合、軍産政複合体の増長と膨張となる。
 日米安保戦賂会議ではその実現にむけて協議が進んでいる。MDに深くかかわっているキャノンの御手洗が経団連会長になることが軍事産業の発言力の増大を象徴している。
 ここ横田基地は、MDでの日米戦闘司令中枢を結合するものであり、MDのみならず陸海空の日米統合部隊の指揮も構想しているとも言われている。
 こうした危険な動きに対抗してなにをなすべきなのか。第一には、港湾管理権をもちMDイージス艦の寄港拒否の権限を持つ自治体の平和力の発揮だ。第二には、「軍拡スパイラル」から「軍縮スパイラル」をつくっていくことだ。第三には、三菱重工、伊藤忠商事、日本経団連、日米安保戦略会議などを標的に、軍産複合体に対する行動。第四に、国会議員への働きかけ、第五には、東北アジア、国際レベルの抵抗線を築いていくことだ。
 つづいて、福生市議の遠藤陽一さんが「対テロ戦争下の横田基地」と題して講演。
 横田基地の歴史は、占領、拡張、朝鮮戦争、べトナム戦争、首都圏の基地機能を横田に集中する関東計画、そして米軍再編と来ているが、基本的には米軍のアジア軍事輸送の拠点の役割を担ってきた。その間、さまざまな交付金・補助金がばら撒かれてきた。いま集会をやっているこの福生市民会館もその「恩恵」のひとつだ。
 府中市にある航空自衛隊航空総隊司令部が横田に移駐し米軍と共同統合運用調整所の設立される。しかし、巨額な補助金や横田が輸送機の基地であるため他の基地周辺に比べて「騒音が少ない」こともあって周辺の五市一町(立川市、昭島市、福生市、羽村市、武蔵村山市、瑞穂町)の態度には温度差がある。福生市では、市の広報に防衛庁・防衛施設庁からの回答をすべて掲載している。そして、市民の意見を募集したが、ほとんどが自衛隊移駐反対だった。
 集会を終わって横田基地へデモ。
 在日米軍ブルース・ライト司令官へ、以下の三項目を申し入れた。@米軍横田基地は、自衛隊との共同使用計画を撤回し、ミサイル防衛のための「共同統合運用調整所」を設置するなA米軍横田基地は、イラクヘの派兵を止め、イラク戦争から手を引けB米軍横田基地は、即座に基地を撤去し、部隊を本国に撤収させろ。


06春闘に勝利するぞ

     
3・17けんり春闘統一行動日

 三月一五日、民間製造業大手企業組合への集中回答が出された。
 自動車六〇〇〜一〇〇〇円(ただしマツダ〇円、三菱は要求なし)、電機五〇〇〜一〇〇〇円、基幹産業労連の鉄は住友金属が段階的引き揚げを回答した以外は春闘後に改めて来年四月の賃金交渉のための労使交渉の場を設定すると言うことで回答先送り、造船では石川島播磨の回答先送り以外の三菱重工、川崎重工などは〇円の回答。
 今06春闘では、マスコミは、景気回復と史上最大の利潤確保による賃上復活をはやし立てていたが、実際には、この結果だ。闘わない労働組合には、このような回答しか出ない。大手企業組合の幹部にとっては、まさに、期待はずれのものだったろう。
 連合の中小労組の回答ゾーンは三月下旬に集中している。
 また中小地場第一次が四月上旬、第二次ゾーンを四月中旬にしているが、大手の集中回答は沈め石の役割を果たすことになった。
 いまこそ、闘う労働組合運動の再生が求められているのである。

 全労協、全港湾などで構成する「06げんり春闘」全国実行委員会は、反リストラ・生活できる賃金の獲得、非正規労働者・外国人の権利拡大、均等待遇の実現、労働契約法・労基法の改悪などの新たな労働法制の全面改悪反対、公務員攻撃、行革・民営化攻撃に官民連帯で反撃、国鉄闘争勝利、民間争議支援・連帯などを掲げて闘っている。

 三月一七日は、けんり春闘の統一行動日で、実行委に結集する労働組合はストライキを含む闘いを展開した。午前中はストライキ決起の職場とそれを支援する地域総行動が行われ、午後一時からは、代表団が厚生労働省に対す交渉を行い、午後二時半からは、一三〇〇人を越える労働者の参加によって厚労省包囲の中央総決起集会、そして霞ヶ関デモが闘いぬかれた。
 厚労省前集会は、06けんり春闘共同代表の藤崎良三全労協議長が主催者あいさつ。
 小泉の構造改革・行政改革と企業によるリストラによって、低賃金・低処遇の非正規労働者が急速に増えている。労働者の半数が年収三〇〇万円以下という状況だ。その一方でトヨタなどごく一部の大企業は空前の儲けを出している。日本は今、格差拡大と二極化社会となっている。労働組合は闘って労働者の生活と権利、平和と民主主義をまもらなければならない。この春闘を反転攻勢の第一歩として、職場・地域から闘いをつくりだそう。
 つづいてリレートーク方式での発言。
 阿部・国労東京地本委員長、伊藤・全港湾書記長、佐野・都労連副委員長、垣沼・全日建運帯労組書記長、町田・東京労組東伸社ユニオン委員長、石上・全統一労組光輸分会書記長、外国人総行動から全国一般東京南部のルイス・カーレットさん、酒井・鉄建公団訴訟原告団長と釧路闘争団の丸山さん、大内・電通労組委員長、全労協女性委員会から昭和シェル石油労組の柚木さん、地方を代表して長尾・全港湾四国地本徳島支部副委員長から報告が行われた。
 厚労省前集会を終えてデモに出発し、郵政公杜や首都高速道路株式会社などへの抗議を行いながら春闘勝利にむけて闘おうなどのシュプレヒコールをあげた。

 厚労省への申入書「二〇〇六年春闘申入れ」

 二〇〇六年三月一七日

 厚生労働大臣 川崎二郎殿

 貴職におかれましては、益々ご健勝のこととお喜び申し上げます,
 当実行委員会は、二〇〇六年春闘の重点項目として、非正規労働者の権利確立などを掲げて今春闘を闘っています。
 つきましては、労働行政においても非正規労働者の権利碓立などの支授をいただきますよう下記のとおり申し入れます。
    記
 一、労基法等において義務づけられている労使協定に係わる労働者代表の選出について、非正規労働者を含めてどのように行われているか実態を明らかにすること。
 また、労働関係法規が非正規労働者の雇用形態ごとにどのように適用されているか実態を調査し、制度の適正な運用を確立するため、行政、事業主、労働者(非正規労働者の代表)で構成する「非正規労働者の労働環境に関する懇談会(仮称)」を設置すること。
 二、非正規労働者の労働社会保険加入を促進するとともに、就労時間・日数が変化しても制度変更を伴わない統一的かつ一元的な労働社会保険制度を確立すること。
 三、「労働契約法制のあり方に関する研究会」報告に基づいて、労働契約法制の制定を行わないこと。
 労働契約の対象範囲については、使用従属性のみならず、経済従属性を考慮したものとし、いわゆる請負労働者、業務委託労働者の保護をはかること。
 四、サービス残業の摘発を強めるとともに、労働時間規制の綬和を行わないこと。
 五、高齢者雇用安定法改正の実効性を確保するため、希望する労働者には全員、雇用延長を行うよう企業を指導すること。


 06けんり春闘全国実行委員会(共同代表 押田五郎 二瓶久勝 藤崎良三安田憲司)


共謀罪の新設に反対して、市民・表現者・国会議員、が院内集会

 三月一六日、衆議院議員会館で、「共謀罪の新設に反対する市民と表現者の集い」が開かれ、国会議員、表現者、市民約一五〇名が参加した。
 民主党・参議院法務委員会理事の簗瀬進さんは、与党修正案がでて論議されていると報道されているが、正式な修正案ではない、与党の中にも反対の意見は強い、共謀罪は少しくらい手直ししてもだめだ、と述べた。
 共産党・参議院法務委員会委員の仁比聡平さんは、法務担当者と話していてわかったことだが彼らは「共謀罪がないと捜査が出来ない」と言っていたが、それが狙いなのだ、人権と民主主義を守るために一緒に声をあげていこう、と述べた。
 表現者としては、『創』編集長篠田博之さん、ジャーナリストの斉藤貴男さん『世界』編集長の岡本厚さん、『週刊金曜日』編集長の北村肇さん、『日刊ゲンダイ』編集部長の二木啓孝さんが発言し、また日弁連副会長の中村順英さん、横浜事件第三次再審請求人の木村まきさん、許すな!憲法改悪・市民連絡会の高田健さん、「戦争と女性への暴力」日本ネットワークの西野瑠美子さん、グリーンピース・ジャパンの星川淳さんなどが発言した。


国鉄労働者1047名の総団結で不当解雇撤回 !!JR採用差別事件の勝利解決をめざす !!4・4全国集会

   と き 4月4日(火)  午後6時半  /   ところ 日比谷野外音楽堂 

「国鉄労働者一〇四七名の総団結で不当解雇撤回!! JR採用差別事件の勝利解決をめざす! 四・四全国集会」への賛同及び、参加のお願い

 一九八七年二月一六日、国鉄の分割民営化による大量の労働者に解雇通告が行われました。以来二〇年という長い歳月が流れた今日も、一〇四七名の労働者と家族の解雇撤回、採用差別反対闘争は、多大の犠牲を背負い、様々な困難を乗り越え、粘り強く闘い続けられてきています。この厳しい闘いを支えたものは、解雇された労働者の人間としての尊厳と労働者全体の生命ともいうべき団結権の不法な侵害は絶対に認めるわけにはいかないとする強烈な権利意識と闘魂といえましょう。
 二〇〇五年九月一五日、東京地方裁判所は、国鉄労働組合の組合員二九七名が鉄道建設公団に解雇無効・地位確認を求めた訴訟に対して注目すべき判決を下しました。それは、原告の解雇無効の主張、請求を否定し、不採用・解雇を法的に有効とした結論において基本的に、不当なもので、到底容認できるものではありませんが、「国鉄によるJR採用名簿作成で国労差別があった」と初めて司法機関として、分割民営化に不当労働行為があったことを認定し、原告らが差別されたこと自体による苦痛と正当に評価を受けてJRに採用されるという期待権の侵害があったとして、慰謝料一人五〇〇万円を支払えというものでした。マスコミが、判決を「採用差別の不当労働行為を認定」として大きく報道し、「政治の責任で解決を」と強調したことから、広く社会的反響を呼び、そうしたなかで、何よりも一〇四七名被解雇者の「総団結」を確立させることが先決という思いが多くの関係者の皆さんのものとなりました。
 二〇〇六年一月一三日に、闘争団全国連絡会議・鉄建公団原告団・鉄運機構原告団・同全動労原告団・同動労千葉原告団の被解雇者関係五団体による「JR採用差別事件の勝利をめざす一〇四七名闘争団・争議団・原告団二・一六総決起集会」(二・一六集会)の実行委員会が設けられました。この二月一六日の日本教育会館で開催された初の集会には、会場を溢れる二五〇〇名が参加して大成功を収め、集会では、今後も共同して闘い、最終的な解決、勝利をめざすための「被解雇者一〇四七名連絡会」(略称・一〇四七連絡会)の旗揚げを宣言、「鉄道運輸機構や関係省庁等への申し入れをはじめ、大衆闘争・裁判闘争を強化し共同行動を積み上げ、勝利解決に向けて全国の仲間と全力で闘い抜きます」とする集会アピールを採決しました。そして、関係省庁への申し入れ行動は直ちに開始されています。
 私達は、かなりの長い時間がかかりましたが、何よりも被解雇者の「大同団結」が実現し、共同行動が開始されたことを、心から歓迎し、全面的に支持して勝利的解決をめざして共に努力するつもりでおります。
 こうした被解雇者を主体とする画期的な闘う体制の下で、裁判闘争(東京高裁の鉄建公団控訴審、東京地裁の三つの裁判、新たな訴訟準備活動)を主軸に、政府の責任による解決要求、広範な世論喚起など全国的な大衆行動をさらに発展させ、国家的不当労働行為の解雇撤回を確実にかちとるためには、一〇四七名の被解雇者の団結と闘いを支援する労組・団体・個人の総団結の姿と強い決意を大きく内外に示し、行動を一段と強めていく必要があると思います。 
 今日、国民各層に「格差社会」の実態が自覚されるなかで、「構造改革」の多大の犠牲転嫁に対する批判の高まり、いわゆる「四点セット」(耐震強度偽装・汚染米牛肉再輸入・ライブドアの違法ビジネス・防衛施設庁官製談合)の露見に対する激しい怒り、憲法九条擁護運動の広がり、また、労働組合運動の春闘における久々の攻勢的な構えの取り組み、国民生活防衛の社会的運動の活発化という闘いにとっての有利な情勢が進行しています。
 私達は、「大同団結」した被解雇者を激励し、「二・一六全国集会」の成果を固め、こうした情勢下の諸運動と連帯して今後の裁判闘争、世論喚起、政府の責任による解決要求など、一〇四七名解雇撤回闘争を改めて全国的に発展させていくために、二〇〇六年四月四日に東京・日比谷野外音楽堂で、大集会「国鉄労働者一〇四七名の不当解雇撤回!国鉄闘争に勝利する四・四全国集会」を開催することにしました。
私達は、この集会への圧倒的多数の団体、個人の賛同、参加を広く呼びかけるものであります。 どうか、多数の団体、個人が賛同され、当日集会に参加されることをお願いいたします。

 要請者 片岡f(京都大学名誉教授)、小島恒久(九州大学名誉教授)、鎌倉孝夫(埼玉大学名誉教授)、下山房雄(九州大学名誉教授)、芹澤寿良(高知短期大学名誉教授)塚本健(東京大学名誉教授)、戸塚秀夫(東京大学名誉教授)、中山和久(早稲田大学名誉教授)、宮田和保(北海道教育大学教授)、山口孝(明治大学名誉教授)


2006ピースサイクルの成功を期してピースサイクル全国スタート会議

 二月二五日と二六日の二日間、長野県千曲市の森温泉で「二〇〇六年ピースサイクル全国スタート会議」が開催された。長崎、大分、岡山、広島、大阪、愛知、静岡、東京、三多摩、岐阜、千葉、神奈川、兵庫、埼玉、新潟、長野から三〇名ほどが参加して、熱心な討論が行われた。

 会議の開催に先立って、日本の戦争加害史の象徴的遺跡である「松代大本営跡」の見学会が行われた。会議参加者のほとんどが、このフィールドワークに参加し、地元で「松代大本営」についての研究をされ、強制連行されてこの地下壕の建設で犠牲になった朝鮮の人たちの慰霊碑建立にも尽力された原山茂夫さんの案内を受けた。全国会議での「松代大本営跡」の見学会は、二度目になるが今回初めての人も多かった。「松代大本営跡」の地下壕の近くには、長野ピースサイクルも関わっている「マツシロもう一つの歴史館」があり、松代にあった「慰安婦の家」や地下壕掘削に使われた道具の展示も見学し、説明を受けた。参加者は、当時「国体護持」と「本土決戦」のために、このような地下壕建設が地域住民への強制と朝鮮人の強制労働で行われていた同じ時期に、悲惨な沖縄戦が闘われていた事を想起しながら、反戦への思いを新たにしあった。

 その後、森温泉に移動して、今年から全国事務局になった長野ピースサイクルの提案に基づいて、会議が進められた。会議の冒頭に、全国事務局長から「一九八六年に大阪で始まってから、今年で丸二〇年になり、ピースサイクル運動は、総評解体から始まる労働運動の衰退、平和運動の弱体化が進む中で、市民による平和運動として重要な役割をはたしてきた」「ピースサイクルは政治家や活動家などを対象とした運動でなく、市民を対象にした運動であり、訴え・働きかけ・依拠するのは市民であることを確認しながら、二一年目のピースサイクル運動を進めたい」「基盤は地域ネットであり、ヒロシマ、ナガサキ、オキナワ、六カ所へつなぐ意義を問い直して、どうして何のために自転車で走るのかが、市民に見えるものにしたい。ピースメッセージを募り届ける意義を問い直そう」という趣旨の提案が行われた。
 まず、今年の主要課題として、@夏のピースサイクル成功に向けてAイラクからの自衛隊即時撤退要求B憲法九条を守り、拡げるC日米軍事同盟強化と在日米軍再編反対と沖縄米軍基地返還D第一六四国会への政治課題、国会ピースサイクルE戦争の出来る国家への線上にある靖国問題とアジア外交F脱原発社会の実現G人権確立と保護H自然との共存・共生社会の創造などに向けた取り組みが提起された。議論をとおして、重点的スローガンとして、◎憲法九条と教育基本法の改悪反対、◎在日米軍再編反対、イラクからの自衛隊・米軍の即時撤退◎有事に備える自治体の国民保護条例制定に反対◎権力による人権侵害、不当弾圧に反対し、共謀罪の制定を止めよう、とすることが確認された。
 夏の全国ルート(広島八月五日到着、長崎八月八日到着)の確認や沖縄ピースサイクル(六月二二日から六月二六日)、六カ所ピースサイクル(七月二九日から八月七日)に関する日程の調整と確認も行われた。また国会ピースサイクル(三月一九日大分から六月二日国会到着)についても日程が確認された。
 その他の新しい取り組みとして、ピースサイクルが一年間走った走行距離を全国で合算することになり、各地域ネットは「延べ走行距離(距離X人数X日数の合算)」を報告してもらう事を決めた。地球を何周り出来るかはピースサイクルの運動量に関わっている。
 また、走行の安全を重視する観点から、安全への配慮、試走・下見の実施や承諾書の導入や傷害保険の加入の徹底、ヘルメットの着用を追求すること、各地域ネットが安全対策に責任を持つことを再度確認しあった。さらに、全国ネットの状況把握の為に行った各地域ネットに対するアンケート結果についても報告され、活動強化に向けて議論が行われた。

二五日の夜に行われた交流会も盛り上がって、午前二時近くまで続いていた。

 二日目はあいにくの雨になったが、次回の会議日程など事務的な確認も行いながら、二〇〇六年ピースサイクルの成功と再会を誓い合って散会した。(長野通信員)


KODAMA 

  
 在日米軍再編について右派メディアの言い分

 米軍再編問題での産経新聞の社説を見た。三月二一日、「グアム移転 国民の支持獲得に努力を」は、三月二三日から再開される日米政府間協議への期待だ。「最終合意に向け、双方は日米同盟関係の維持強化の観点から、いかに協力し合えるかを詰め、決着してもらいたい」。これが言いたいことだ。
 社説は、三月一九日の防衛大学校卒業式で小泉が「近年透明性を欠く軍備拡大を進めている国も見られる」と言ったのをうけ、「中国や北朝鮮の軍事力増強が顕在化している中、日本の平和と安全は米軍と自衛隊の抑止力いかんにかかっている。同盟関係の弱体化は他国に誤ったシグナルを送り、国益を損なうことを関係者は銘記すべきだ」として、「日米間での大きな懸案」である「米軍普天間飛行場移設問題に加え、在沖縄海兵隊のグアム移転」があるとして、移転費用問題にふれている。
 米側は移転費用の総額を百億ドル(約一兆千七百五十億円)として、そのうちの七五%を日本側が負担するようにと言ってきている。もともとの米側が移転経費は約八〇億ドルだった。しかし、海兵隊の使用する港湾などの基地外のインフラ整備などをも上積みしたものだとされている。米の言い分は「移転は日本が求めたものだ。米国は日本の防衛に責任を負うが日本は米国の防衛に責任を負わない。日本の費用負担は非常に低い」とするものだが、「日本側の関係閣僚は一六日、米側提案はこのままでは受け入れられないことを確認し、米兵と家族の住宅整備関連費などは融資方式で対応する案も検討中という」。しかし「最終的には日本が相当のコストを負担することが想定される。両政府ともこうした負担が必要であり、積算根拠も国民の多くが納得できるものであることを明確に説明すべきだ」とするのが産経の考えだ。そして、日本政府の考えだ。
 社説は「日本も米側の苛立(いらだ)ちを真摯(しんし)に受け止めるべきだ。自国の若者に命のリスクまで負わせて抑止力を提供しているのに理解されず、基地負担の軽減だけに目を向けている日本側に不信を募らせているのだ。互いに互いを守るという当たり前の同盟関係をグアム移転を契機に検討すべきだろう」。たしかに、日米(軍事)同盟関係について、いまこそ根本的に考え直すべき時だ。
 社説は「日米同盟関係をいかに円滑に運用するか、そのためには日米の両国民の支持がやはり必要なのである」と書いている。だが、沖縄、岩国、座間などの各地で、米軍再編、基地強化・恒常化、日米軍事一体化に反対する運動が前進していることこそが注目され評価されべきだろう。
 もうひとつの社説は、岩国住民投票を受けての三月一四日の「岩国住民投票 国の安全はどうするのか」で、これもひどいものだ。安倍晋三官房長官が「基本的に日米間交渉がととのえば、それが最終結論だ」と述べたとして「住民投票に法的拘束力はなく、日本が置かれている安全保障環境を考えれば、政府の対応は当然である」としている。「急速に軍事力を強化する中国や、今月八日に二発の短距離ミサイル発射実験をした北朝鮮、さらには国際テロなどの脅威に立ち向かうため」に「そもそも国民の平和と安全を守るという国家の最大の責務に属する日本の安全保障の問題を、一地域の住民投票にかけること自体が適切ではない」「国全体の公益を踏まえながら、地域の果たす責務を考えるという分権のあるべき姿を忘れてはなるまい」などと言っている。地元住民の断固たる拒否表明をまえにしての「泣き言」だ。権力の巻き返しを粉砕して、住民の意思を貫徹することが平和という一番の「公益」につながる。 (MD)


複眼単眼

 
    桜の街路樹の伐採通告と街の人の優しさ

 家の近くの道路には桜の並木がある。春の花と秋の紅葉は朝晩の通勤時のささやかな楽しみだ。桜はソメイヨシノであろうと思われる。結構、太く、古木のような様相を示しているが、おそらく樹齢二〇年くらいのものではないか。木には都の手によると思われる支えもつくられていて、一・五メートルほどの高さの数本の支柱で枠が組んである。
 並木はあまり道路にはみ出しては交通の妨げになると言うことで、四年に一度の割合で剪定をされる。今年はそれにあたる年で、大胆にバサバサ切られる樹木を見て、かわいそうになった。最近の植木屋さんは木に登るのではなく、クレーン車で高いところから枝を切る。腰縄をつけてよじ登って作業をしていた頃から見ると、ずいぶんと作業は安全になった。
 ある日、この桜並木の一本に赤いビニールテープがぐるぐる巻かれ、都によるお知らせが張り出された。この桜の枝は極度に切り落とされていて、斜めにわずか一本くらいしか枝が残されておらず、酷い剪定をするものだと憤慨していたものだ。貼り紙には、この木は中が空洞になっていて、倒れる危険があるので、二月末をもって伐採するという主旨のお知らせが書いてあった。もともと伐るつもりだったのだ。ためしにこの桜を押してみたが、がっしりしていてビクともしない。幹もたしかに三分の一くらいが空洞化しているが、樹そのものは元気に見える。素人目には切るほどのことは無いように思われる。
 すぐテロ対策批判に結びつけるつもりはないが、だいたい、最近は「安全、安全」などと言って、あまりにも無難さを求め、先回りしすぎるようにおもう。このような樹木が倒れて、通行人がけがをする怖れがあるというなら、並木などは成り立たない。貼り紙を出した木はなぜか支えの木枠が撤去されている。心配なら、支えを多少、高く、頑丈にすればそれで良いではないかと思う。この役人は無難さだけを求めている。
 そうこうしていたら、ある日、その貼り紙に女性の字(勝手にそう決め込んでいるのだが)で「せめて花が咲き終わるまでこの木を伐らないで下さい」とのサインペンでの書き込みがされた。近所の方か、ここを通る人か。うれしいことだ。しかし、私はなぜ、この女性のように、行動しなかったのだろうとすこし恥ずかしい気もした。考えてみると、私の生活の中で、こうしたことは結構ある。また、やってしまった。このあと、私は何をすればいいだろうか、なにができるだろうかといま考えている。
 二月が過ぎ、三月の末になって、サインペンの文字は消えかかっている。しかし、桜の木はいまだにそこに立っている。抗議のお願いを書いた人の願いは今のところ、生きている。小さな行動だけれど、それが中ったら、この桜は倒されていたかも知れない。
 今日、見たらつぼみが膨らんでいた。間もなく咲きそうなのだ。
 たったこれだけのことではあるが、今日は電車に乗ってもなにか気持ちがよかった。寒さが遠のいて、街にはいろいろな花が咲き出した。今年の冬は特に寒くて、地方によっては豪雪もあったし、事故で亡くなったり、怪我をした人も多かった。それでも日は巡り、春が来た。今回の「複眼」はたわいもない春の話ではある。(T)