人民新報 ・ 第1202号<統合295>(2006年6月5日)
目次
● 国民投票法案、教育基本法改悪案、共謀罪新設法案 戦争の出来る国つくり法案を粉砕しよう!
● 5・3憲法集会実行委員会の主催で「憲法改悪のための国民投票法はいらない集会」
● 在日米軍再編最終報告・閣議決定 基地強化・日米軍事一体化に各地から反撃を!
● 本土「復帰」34年 沖縄5・15防衛庁抗議&報告集会
● 資料 / 暴力的土地強制収用に抗議し、平和と生活権のための平澤住民の闘いを支持する共同声明
● 狭山第3次再審請求闘争の勝利を! 市民集会
● 男女雇用期間均等法改正 限定列挙でなく、一律禁止で
● 脱9・11シンドローム !
● 日本ペンクラブの声明 「共謀罪新設法案に反対し、与党による強行採決の自制を求める」
● 複眼単眼 / 「17条憲法」にまつわる俗論とナショナリズム
国民投票法案、教育基本法改悪案、共謀罪新設法案
戦争の出来る国つくり法案を粉砕しよう!
終盤国会へ向けての闘い
六月一八日の国会会期末までの時期は極めて重要な闘いの場となる。小泉政治の政治の仕上げとして、戦争の出来る国づくりにむけた、憲法改悪のための国民投票法案、教育基本法改悪法案、共謀罪新設法案のすべてが上程された。政府・自民党は残り少ない会期で十分な論議もなく、法案を成立させようとしているが、三悪法案の悪辣な本質がようやく大衆的に明らかになりつつあり、政府・与党の思惑通りには事態は進んでいない。連休前の段階では、今国会でそれら法案が採決・成立させられてしまうのではと言う危機感に充ちた状況があり、反対運動は文字通り、一日いちにちが採択阻止のための緊張した闘いを続けた。しかし、ここにきて、成立阻止の可能性が大きく広がってきた。
五月三〇日に小泉は細田自民党国対委員長に「会期は延長しない」と指示し、政府、与党は会期を延長しない方針を固めたと報じられた。このことによって社会保険庁改革関連法案や教育基本法改正案、国民投票法案などの重要法案は継続審議となる模様だ。しかし、細田が、「会期中に残った法案をすべて通すのはなかなか難しい」と言ったのに、小泉は「できるだけ精査して成立させるよう努力してほしい」と発言しているように、政府与党が、共謀罪をはじめとする悪法案がすべて先送りにするかどうかはいまだに不明である。
マスメディアの一部は、三法案はいずれも会期内での成立はないなどの観測記事を流している。
だが、一瞬の気の緩みもあってはならない。そして、三法案の危険な本質をひろく暴露して完全に廃案に追い込む条件をつくり、格差拡大、米軍再編、イラク派兵、改憲の小泉政治に反撃するために闘いを前進させよう。
国民投票法案上程に抗議する
自民党は、憲法改正は憲法にも規定されているのに、そのための手続きを定める国民投票法案がないのはおかしい、という理由を持ち出している。しかし、それほど憲法を重視するなら、再軍備・自衛隊の創設、軍事大国化、アメリカとの軍事同盟こそが憲法違反の最大なものであるだろう。なぜ、ここを強調しないのか。昨年暮れに自民党は新憲法草案(焦点は九条二項の改正による「軍隊の保持」)を決めた。自民党が国民投票法案の制定を急いでいるのは、その草案に添った形での憲法「改正」のためのものであるのは当然のことだ。まさに憲法九条破壊のため投票法案であるのは一目瞭然のことだ。
許すな!憲法改悪・市民連絡会は、五月一八日に「緊急声明:憲法改悪のための国民投票法はいらない〜与党による法案強行上程に抗議する」を出した。
<憲法九条の改悪をねらう自民党は「国民投票法」案の三党共同提出に失敗するや、与党だけで二三日にも法案を作成し、来週中に提出するよう方針転換をした。その上で、民主にも対案を出させ、それへの更なる妥協も含めて修正協議で法案の成立をめざしている。
中山憲法調査特別委員長(自民)らは与党と民主党の主な意見の乖離は三点で、・国民投票の対象範囲(一般的国民投票を含めるかどうか)、・投票権者の範囲(二〇歳以上か、一八歳以上か)、・投票用紙への賛否の記載方法(賛成○、反対×とし、有効投票の過半数で決するか、賛成○とし、投票総数の過半数で決するか)に絞られているなどととしており、マスコミも大方このような評価である。
しかし、これが自公による「日本国憲法の改正手続きに関する法律案(仮称)・骨子素案」の問題点の全てではない。それどころか主な問題点の全てでもない。特別委員会の議論の中でも社民党、共産党からは多様な問題が指摘されているし、日弁連をはじめ、市民運動など各界からも多くの問題点の指摘がされてきた。民主党案自体が重大な問題を多々含んでおり、まだこれらの問題点がほとんど「全国民的」な議論になっていないのである。これらの膨大な問題点が中山氏のいう三点に矮小化され、取引されるとすれば禍根を後世に残すことになる。
与党案は言うまでもなく、民主党案にしても多様で重大な問題が数多くある。与野党それぞれの案で問題になるのは、・投票権者は民主のいう一八歳でも問題はないか。一五歳でいけない理由は何か。定住外国人は切り捨ててよいのか。・過半数の分母は投票総数か、有権者数か。まして与党のいう有効投票総数などは論外である。・投票期間は民主の六〇〜一八〇日にしても極めて短すぎる。・やはり国民投票の成立か不成立かの基準としての最低投票率の規定は必要だろう。・「改正案広報協議会」の構成のありかたの問題。・与党は投票方式で抱き合わせの「一括投票」は撤回したようであるが、「関連する事項」でくくられるという問題は残っている。・運動の規制で、公務員・教員の「地位利用」にかこつけた弾圧の危険性の問題。外国人の運動規制の問題。・報道機関の「自主規制」の名による権力の干渉の危険性。・政党のテレビ放送、広告の国庫負担問題。カネさえあれば無制限のテレビ、ラジオ広告の問題。・国民投票無効の裁判の問題、などなどである。
これらの重要問題が国会の一部政党間での党利党略の取引で妥協され、修正案が作られるようなことがあってはならない。
そして何より、与党がなぜこうも急いで法案の成立をねらうのか。与党議員がいうような「立法不作為」の解消のためなどではさらさらない。今国会でも問題になっている米軍基地再編の動きにも見られるように、そこには一刻も早く、日本を世界的な規模で米軍とともに戦争のできる国にしようとする九条破壊のねらいがある。やはり私たちは「憲法改悪のための国民投票法はいらない」との主張から一歩も引き下がるわけにはいかない。>
5・3憲法集会実行委員会の主催で
憲法改悪のための国民投票法はいらない集会
自公与党は改憲のための国民投票法の上程をおこなった。この法案は民主党の前原前代表のもとで、自民、公明、民主の三与野党提案が画策されていた。しかし、改憲に反対する運動による国民投票法案の九条破壊のねらいの暴露と末期を迎えた小泉政権との対決姿勢をアピールする小沢民主党の方針転換によって三党提案とはならなかった。六月一八日の国会の会期末まで残り少ない日程で、与党からも今会期での成立は難しいなどの声を出し始めたが、自民党は国民投票法案上程で、改憲に向けた世論を作り出そうとしており、憲法九条の破壊のための国民投票法案の危険性と改憲阻止の運動の前進と世論形成のために闘わなければならない。
五月一九日、二二〇〇人が参加して日比谷野外音楽堂で「憲法改悪のための国民投票法はいらない 5・19集会」(主催 5・3憲法集会実行委員会)が開催された。
福島みずほ社民党党首は、共謀罪の強行採決を阻止し続けている反対運動についてふれ、闘えば展望が切り拓らかれていくことを強調し、市田忠義共産党書記局長は、与党は国民投票法案をつくってこなかったことが立法不作為で問題だというが、そのことによって損害を受けた国民はいない、と述べた。
小森陽一さん(教基法の改悪をとめよう全国連絡会)、内田雅敏さん(日弁連憲法委員会)、星川淳さん(グリーンピース・ジャパン)が、それぞれ教育基本法改悪、国民投票法案、共謀罪新設法案に反対する運動について報告を行った。
集会アピールを確認し、銀座デモで小泉政治への反撃を訴えた。
5・19集会アピール
自民党・公明党の与党は、憲法九条をターゲットにした憲法改悪のための「国民投票法案」をこの国会に提出することを表明しました。私たちは、「国民投票法は必要ない」という世論を無視するこの企てに抗議し、法案提出をとりやめることを要求します。
そもそも、いま私たちは現行憲法を変える必要に迫られてはいません。憲法の改悪は、戦争準備法とも言える「国民保護」法の施行、市民生活を脅かすような共謀罪制定や、「愛国心」を強制する教育基本法「改正」などで道を開きながら、日本を「戦争のできる国」にしようとするものです。国会での数の力によって、国民の声を無視する与党の横暴を、私たちは許すわけにはいきません。
憲法九条改悪反対の声をさらに大きくし、多くの人とともに、憲法改悪のための「国民投票法」に反対する世論と運動をまきおこしましょう。
憲法改悪のための国民投票法はいらない5・19集会参加者一同
在日米軍再編最終報告・閣議決定
基地強化・日米軍事一体化に各地から反撃を!
五月一日に日米両政府は、日米安全保障協議委員会(2+2)を開き、米軍再編の最終報告をまとめ発表した。最終報告は、基地の強化に反対し、負担軽減を求めてきた沖縄をはじめ各地住民の要求をまったく無視した不当な内容である。これは、世界一極支配を狙うアメリカ・ブッシュ政権とそれを積極的に支えようとする小泉政権の危険な軍事結託の結果だ。だが、最終報告による在日米軍再編・日米軍事一体化がスムースに行われるわけではない。辺野古沿岸への新基地建設で政府と名護市、沖縄県は「合意」したと言われるが、事実は、沖縄県民の声に、稲嶺恵一県知事は、「全面合意ではない」と言い訳し、辺野古二本滑走路新基地建設にも地元では反対が圧倒的多数である。厚木基地からの訓練機受け入れに山口県岩国市住民は、住民投票でもその後の市長選挙でもノーの鮮明な意思を示した。沖縄につぐ第二の基地県である神奈川でも同様だ。米陸軍第一軍団司令部移設のキャンプ座間を抱える相模原市、座間市でも依然として反対の態度を変えていない。いずれも保守首長であるが、住民の基地強化反対の意向を反映したものである。しかし、政府・自民党の強力なてこ入れをおこなって巻き返しに全力を挙げてきている。各地での闘いはあらたな緊迫した段階に入った。
小泉の訪米を前に、米軍再編をブッシュへの手土産とするために、地元の了解もほとんど得られていないにもかかわらず、五月三〇日、政府は在日米軍再編に関する最終報告を「法制、経費面を含め、的確かつ迅速に実施する」と明記した実施方針を閣議決定した。
最終報告には、@沖縄県から約八〇〇〇人の海兵隊員の削減、A普天間飛行場のキャンプ・シュワブへの移設、B嘉手納基地以南の人口密集地域の相当規模の土地返還、C横田基地に航空自衛隊航空総隊司令部を併置し司令部間の連携強化、Dキャンプ座間における在日米陸軍司令部の改編、E航空自衛隊車力分屯基地への米軍レーダー・システムの配置、F厚木基地から岩国基地への空母艦載機の移駐など在日米軍の機能強化の具体的措置が含まれているが、閣議決定は最終報告を「着実に実施」していくものである。そして「わが国の安全保障体制の確保は、政府が責任を持って取り組む。新たな負担を担う地元自治体の要望に配慮し地域振興策などの措置を実施する。返還跡地の利用促進、米軍従業員の雇用の安定確保に全力で取り組む」と地元の反対をいかに切り崩していくかが政府の最大の課題となっている。
しかし閣議決定では、最大の懸案である普天間飛行場代替施設の具体的な移設場所や滑走路の長さ、本数などを明記できなかった。最終報告の工程表では二〇一四年完了を目指したものとなっており、沖縄県などに対する「説得」を強化する。その他の基地を抱える自治体へは新たな交付金の創設などで反対運動の終息を狙う。そして、在沖米海兵隊のグアム移転経費拠出をはじめの膨大な米軍経費の肩代わりのための駐留軍等再編円滑化にかんする特別措置法案の国会提出を準備している。
額賀防衛庁長官は同日午前の閣議後会見で「実現のため、政府一体として取り組んでいきたい。県や名護市をはじめ、各自治体とも理解、協力を得るために精力的に協議して円満な形をつくりたい」と述べた。
小泉は六月二九日、ブッシュと会談を行うが、そこで「世界の中の日米同盟」を確認し、日米安保体制の世界大への拡大をアピールすることにしている。自衛隊の海外派兵の拡大、自衛隊を米軍の一翼として展開する日米軍事一体化の方針を共同声明などで表明する。
イラク戦争でのアメリカの孤立、「泥沼」化を日本が支え、派兵の恒常化、憲法九条の破壊・軍の創設が、今回の日米首脳会談によって加速される。だが、沖縄をはじめ米軍基地の被害に苦しむ各地住民の反対は、今後いっそう拡大していくだろう。米軍再編に抗議し、米軍基地撤去、憲法改悪阻止の闘いを強めていこう。
閣議決定が強行された三〇日午後六時半から、沖縄一坪反戦地主会関東ブロックのよびかけで首相官邸へむけた抗議行動が取り組まれた。まず、国会議員会館前で抗議の集会、そして首相官邸前に移動し、沖縄への負担を軽減しない、逆に戦力強化の米軍再編閣議決定に反対するシュプレヒコールをあげた。
本土「復帰」34年
沖縄5・15防衛庁抗議&報告集会
在日米軍再編のなかでの最重点の一つである普天間基地にかわる辺野古米軍基地建設・強化反対の闘いは、政府と名護市、沖縄県の「合意」で新たな段階に入った。現地での文字通り命懸けの行動によってボーリング調査すら阻止された政府は、沖合い案から沿岸案へ、そして同時に「V」字型という二本滑走路の実現という沖縄県民負担増の基地機能強化計画を実現しようとしている。「復帰」から三四年、沖縄の基地負担はいっそう強まっていく。日本全国、東アジアの反米軍基地の闘いをつなげ、辺野古新基地建設を阻止し、沖縄からすべての軍事基地を撤去しよう。
五月一五日は、一九七二年の沖縄の日本への施政権返還=復帰から三十四年目。この日、防衛庁・防衛施設庁前で、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックは、抗議行動を行い、「日本復帰三四年目の要求書」として、小泉純一郎首相、額賀福志郎防衛庁長官に対して、@普天間基地の即時返還、A「辺野古沿岸案」の撤回、B沖縄のすべての軍事基地の撤去を求めた。
防衛庁前抗議行動を終えて、新宿区箪笥区民会館で「復帰34年を問う5・15集会」が開かれた。
関東ブロックの上原成信さんが開会あいさつ。
一坪反戦地主会は、軍事基地を取り戻すためにつくられたが、今も逆に基地強化という面白くない状況にある。だが、いつまでも同じではない。アメリカ帝国もそのうちにつぶれるだろう。自信をもって、私たちが望む世の中をつくろう。頑張っていこう。
沖縄反戦地主会会長の照屋秀伝さんからアピール。再編は沖縄の負担軽減ではなく、沖縄の全国化だ、いまは天下分け目のとき、団結をかため勝利の日まで闘いぬこう。
次に、沖縄平和市民連絡会の平良夏芽牧師が、辺野古での二年間の阻止闘争の報告と今後の闘いについて問題提起の講演を行った。日米政府にとっては辺野古沖合いではなく、現在ある陸上基地の拡張のほうが基地機能の強化になると思っている。アメリカ政府は世界的な米軍再編で老朽化した基地を撤去して、最新鋭の基地をつくり出すことを狙っている。沖縄からグアムへ八〇〇〇人移動させ、それが沖縄の負担軽減になると言っているがとんでもない。沖縄には正確には米兵と家族が何人いるかも公表していないし、その結果何人が移転するのかも分からないということだ。そして米軍がグアムに行くのはグアム基地を強化するという米軍の配置転換に過ぎないのであって、沖縄の負担の軽減のためではまったくない。この二年間の最大の成果は全国的なネットワークが出来たことだ。このつながりをもっともっと大きく広げていくことがなによりも必要なことだ。
最後に、全水道・東水労青年女性部、全労協全国一般東京労組、日韓民衆連帯全国ネットワーク、すべての基地にノー!ファイト神奈川からアピールが行われた。
資料
暴力的土地強制収用に抗議し、平和と生活権のための平澤住民の闘いを支持する共同声明
2006年5月20日
韓国での米軍再編で、平澤(ピョンテク)米軍基地の拡大に反対する闘いに対して韓国政府は警察だけでなく軍隊も投入して大弾圧をおこなった。日本では日韓民衆連帯全国ネットワーク、新しい反安保行動をつくる実行委員会]、「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW−NETジャパン)、許すな!憲法改悪・市民連絡会など多くの団体・個人による連帯のアピールが発表された。(編集部)
韓国国防部は五月四日、京畿道平澤市彭城邑大秋里(キョンギド・ピョンテクシ・ペンソンウプ・テチュリ)に一個連隊および野戦工兵団など三〇〇〇余人の軍隊と、一万二〇〇〇人余の警察部隊を突入させ、地元自治体との意見調整や土地所有者である農民の合意がないまま米軍基地移転・拡張予定地の周囲二九キロに対して鉄条網を設置し、また大秋(テチュ)分校の強制撤去を強行しました。
この過程で抵抗する農民・支援者らとの間で激しい衝突が起きました。軍・警察は農民たちが汗水を流して収穫した農作物を踏みにじり、ビニールハウスを引きちぎり、抵抗する農民・支援者には容赦なく盾と棍棒を振り下ろしました。この過程で、三五〇人以上の人々が警察に連行され、また一〇〇人以上の人々が負傷する事態が引き起こされています。
私たちは、韓国政府・国防部のこの暴挙に強く抗議します。
いま米国政府は、世界的規模で進めている米軍再配置計画の一環として駐韓米軍再配置を進め、漢江以南へ集約化を図るとともに、「戦略的柔軟性」の名のもとで対北朝鮮先制攻撃態勢の強化と朝鮮半島以外の地域にも戦力投入を可能とする動きを強めています。その柱の一つとして平澤への米軍基地移転・拡張が位置づけられてきました。
私たちは、生命の糧である農民の土地を奪い、朝鮮半島の分断と戦争の脅威の根源である駐韓米軍基地の強化・固定化の動きに反対して闘う韓国の人々に、心から連帯の挨拶を送ります。
現在、日本でも日米安全保障協議委員会の「最終報告(ロードマップ)」で合意、日米軍事同盟の再編・強化のための沖縄・辺野古沿岸への米軍基地新設、座間への米陸軍軍団司令部の移転が決まりました。これによって日本全国の一層の米軍拠点化、さらに自衛隊との一体化に踏み込もうとしています。この日米同盟の強引な推進に対して反対運動が各地で広がっています。
米軍基地の再編・強化に反対する沖縄・日本の民衆と韓国の民衆の闘いは、いまや国境を越えた一つの闘いです。東北アジアの平和の実現、米軍基地のない沖縄・日本、韓国をめざし、連帯して共に頑張りましょう。
狭山第3次再審請求闘争の勝利を! 市民集会
四三年前の一九六三年五月二三日、埼玉県狭山市で女子高校生が殺害された「狭山事件」で当時二四歳の石川一雄さんが逮捕された(窃盗容疑など別件逮捕)。石川さんは、部落差別にもとづく警察の予断と偏見による捜査、事実を調べようとしない裁判所によって強盗殺人などの罪に問われ無期懲役が確定した。しかし、石川さんが犯人ではないという証拠が次々に見つかっている。この間、弁護団は、筆跡や筆記能力から脅迫状は石川さんが書いたものではないとする鑑定書、自白とは異なり、脅迫状の一部が万年筆で書かれていたとする鑑定書、石川さん宅の三回目の捜索で被害者の万年筆が発見された経過に疑問があるとする元警察官の報告書などを裁判所に提出している。
昨年三月、第二次請求が棄却されたが、陣容をさらに拡充して、五月二三日、石川さんは、東京高裁に第三次再審請求を行った。
五月二三日、日比谷野外音楽堂で、「狭山事件の再審を求める市民集会<第三次再審講求へ〜四三年目の決意>」(主催・狭山事件の再審を求める市民集会実行委員会)が開かれた。
石川さんのイラストを書いた漫画家の石坂啓さんの開会あいさつにつづいて、組坂繁之・部落解放同盟中央本部委員長が
主催者あいさつ。先ごろ、私はジュネーブの国連人権高等弁務官事務所に行って日本政府への働きかけを強めるように強く要請してきた。今日、満を持して第三次再審請求を提出する。石川さんの無実を徹底的に明らかにするためにさらに闘いを強めていかなければならない。
民主党からは部落解放推進委員会事務局長の山根隆二参議院議員、社民党からは自らも狭山弁護団の一員でもある党首の福鳥瑞穂参議院議員があいさつし、また出席した国会議員が紹介された。
再審請求人である石川一雄さんは「無実の訴え 四三年日の決意」を述べた。
今日は懸念していた雨もなく大変喜んでいます。振りかえれば四三年前、多分今ごろは警察で厳しい取調べを受けていたことを思います。四三年前の今日の逮捕によってマスコミは踊らされ私を犯人扱いをした。そういうことなどが頭の中を走馬灯のように駆け巡っています。この第三次再審において、皆さんの支援を得て、私たちもこれが最後であるという決意で全力で闘っていきます。毎年私は歌を詠んできますが、今年は司法に皆さんの声をとどけ糾弾するために、「司法の府 不正極みの怨嗟の声 断固糾弾 三次で征服」というのを詠んできました。司法も皆さんの声を聞くならば、かならず事実調べをしなければならない。なによりも裁判官みずからが、審理の始まる前に、つくられた自白によるコースを歩いて、いかにそれが強要され誤ったものかを調べてもらいたい。
石川早智子さんは、狭山の闘いがいろいろなところにつながって裾野がひろがり、こんどこそ絶対に裁判長を逃がさない状況をつくることが出来た、私たちも決して諦めない、と述べた。
弁護団報告「第三次萬審講求で何を訴えているか」は中山武敏狭山弁護団主任弁護人。
昨年三月の特別抗告の棄却以来、われわれ弁護団は、会議、合宿、学習会、関係人との打合せを重ね、新証拠もそろえて、今日第三次再審を請求する。再審申立書は、四〇一ページにわたるものだ。この申し立てには、新たに一二名の弁護士が加わり、二三名の体制でのぞむ。申立書は、はじめに、なぜみたび、再審を申し立てるのか、について述べている。それは、狭山事件が冤罪であり、さまざまな新証拠があるからだ。今日集会にこられている免田さんの事件をはじめ最高裁で死刑判決が出ても再審・無罪になった例がいくつもある。私たちは、この第三次再審で裁判所になんとしても事実調べをはじめさせるという決意でのぞむ。集まられた皆さんが市民の立場からして、石川さんは無実だ、狭山事件は冤罪だ、裁判所が事実調べをしないのは不当だという世論をつくりあげていって欲しい。今日は新たな出発点だ。ともに、がんばろう。
つづいて中北龍太郎狭山弁護団事務局長。
今日を歴史的な日にしよう。しかし、今日のスタートはゼロからではない。亡くなられた山上益郎主任弁護人をはじめ先輩、諸先生方などの心血を注いだ努力によって、これまでに、石川さんは無実だということをしめす膨大な新証拠が積み重ねられてきた。これによって確定判決はいまや風前の灯火という状態にまで動揺・後退している。第三次再審は、崩壊しつつある「寺尾判決」にトドメをさす闘いだ。判決のもとになった筆跡、足跡、「目撃者」の証言など七つの状況証拠、万年筆を自分の家の鴨居に隠したなどの「秘密の暴露」、そして「自白」の信用性は、みなガタガタになってきている。しかし、第二次再審は事実調べをしなかった。こんな理不尽は許されない。力をあわせて証拠開示をかちとり、事実調べを実現し、そして今日の日がよき出発だったと語り合えるように、ともに頑張っていこう。
参加者の拍手に送られて、弁護団と石川さんは、東京高裁へ、再審請求書提出に出発。
基調提起は西島藤彦部落解放同盟中央本部書記次長が行った。
石川さんは、四三年のかけがいのない人生を奪われた。今日、第三次再審の請求を行ったが、さまざまな新証拠で、勝利をかちとろう。しかし、日本では免罪事件が後をたたず、警察での人権を無視した取調べ、代用監獄がなくなっていない。さらに警察の暴走を招きかねない現代版の治安維持法と言われる共謀罪も強行に採決されようとしている。公正な裁判や人権確立をめざす国内外の運動・団体と連帯しながら、石川さんの無罪を街角で訴え、高裁への要請などさまざまな活動をおこなっていこう。
つづく冤罪被害者からのアピールは、免田栄さん。免田さんは、一九四九年の別件逮捕で、熊本県人吉市で起こった殺人事件の犯人とされ、五二年に最高裁で死刑確定。しかし、免田さんは無実を訴え続け八三年に無罪をかちとった。免田さんは、警察の、食事をさせず不眠で三日間殴る蹴るなどの状況で意識が朦朧としたなかで「自供」させられたことなどを語り、冤罪を決して許してはならないと強調した。
おなじく、心身障害児施設で二人の園児が殺された事件で犯人にされた山田悦子さんは、日本の文化の中に法の精神を根付かせることの重要性について述べた。
狭山事件の再審を求める市民集会アピール
昨年三月一六日の最高裁による突然の棄却決定に怒りの声をあげて一年、ついに今日、石川さんと弁護団は第三次再審請求を東京高裁に申し立てました。弁護団は、あらたに参加した弁護士をふくむ総勢二三人の弁護人により、筆跡、筆記能力が違うという新証拠、筆記用具に関する新証拠・警察が二度の捜索で鴨居の万年筆を見落とすはずがないと指摘する新証拠、などを提出して、東京高裁に再審開始を求めました。
いよいよ、あらたな闘いの開始です。
昨年の最高裁の棄却決定は、市民常識に反し、非科学的でズサンなものでした。元警察鑑識課員が経験と専門知識にもとづいて「封筒宛名の『少時』部分は万年筆で書かれている」と指摘した鑑定にたいして、「現物を肉眼で観察しても別の筆記用具とは認められない」としてしりぞけています。素人の裁判官が専門家の科学的分析を肉眼で見ただけで否定できるのでしょうか。まず、鑑定人の尋問をすべきです。
狭山事件の裁判では、一年以上、一度も、証人調べや現場検耳などの事実調べがおこなわれていません。東京高等検察庁には積み上げると二〜三メートルという検察官手持ち証拠があるのに、ずっと証拠開示もおこなわれていません。市民が刑事裁判に参加する時代が来るというのに、なんという不公平な裁判がまかりとおっているのでしょうか。
今日は石川一雄さんが、二四歳で、身におぼえのない殺人事件で逮捕され、えん罪におとしいれられた日です。石川さんは微罪の別件で逮捕され、警察の留置場=代用監獄で連日、殺人事件の取り調べを受けました。それから四三年たった現在も、誤認逮捕事件や冤罪事件はなくなっていません。警察での長期の身柄拘束や人権を無視した取り調べ、代用監獄はいまだになくなっていません。国際的には常識となっている取り調べの録音・録画や公正な証拠開示も実現していません。むしろ、警察の暴走さえ招きかねない、現代版治安維持法として危険性が指摘されている「共課罪」を強行に成立させようという動さすらあります。このようなときだからこそ、あらゆる差別もエン罪も許さない、人権確立をめざす市民の運動が必要です。
わたしたちは、第三次再審の闘いにむけた石川さんの決意にこたえ、弁護団を激励・支援し、一日も早く、事実調べ―再審開始を実現するために、きようここに集まりました。そして、真実を訴えつづけ冤罪を晴らした人たちの話を聞き、「真実は必ず勝利する」という確信をもちました。公正な裁判や人権確立をめざす国内外の多くの人たちの連帯の声を聞きました。そして、ともに狭山事件の再審を実現するために、もっともっと市民の力を集めて、あらたな闘いを開始することを誓い合いました。 新署名運動を始めよう!
一人ひとりが東京高裁にハガキや手紙で要請しよう!
リボンバッジをつけて街角で石川さんの無実を訴えよう!
わたしたちは、石川一雄さん、弁護団とともに、狭山事件の再審開始を求めます!
事実調べと証拠開示を求めます!
第三次再審のスタートにあたって、四三年日の決意をこめて、市民に訴えます。
石川さんは無実です。狭山事件の再審を市民の力で実現しよう!
二〇〇六年五月二三日
狭山事件の再審を求める市民集会参加者一同
男女雇用期間均等法改正
限定列挙でなく、一律禁止で
男女雇用機会均等法改正案は、参議院で先議・可決され、いま衆議院で論議されている。二〇〇七年からは「団塊の世代」が続々と定年をむかえ、また人口が減少し始めているなかで、資本は女性労働力の活用に期待をかけている。しかし職場の実態は依然としてさまざまの男女の差別が行われている。改正案では「間接差別」規制が導入される。直接に性別を理由とした差別でなくても、実質的な差別につながる基準や刊行が間接差別と言われる。厚労省研究委員会は、@身長と体重、A全国転勤、B転勤経験の三項目を限定列挙している。その他項目では、学歴、世帯主、福利厚生などをあげているが、限定列挙はきわめて問題だ。民主、共産、社民の野党三党は限定列挙方式の見直しを訴えている。参院での論議で福島瑞穂社民党党首は、次のような発言をおこなった。「セクハラを三つに限定するとしたらどんなことになるか。ホテルに誘う、胸を触る、ヌードポスターを貼る、これらだけがセクハラときめたら、ほかの様々なセクハラはそれからはずれることになる。これでは意味がない。」
間接差別を限定列挙で禁止すると、それ以外は差別ではないという解釈が生まれる。差別は、限定されたものを巧みにくぐりぬけながらつづくことになる。間接差別の「一律」禁止方式での導入と、そして真の均等待遇の実現に向けた法制化が求められている。
脱9・11シンドローム !
イラク戦争はアメリカに何をもたらしたのか。週刊『エコノミスト』6・6号は、「世界が見捨てるアメリカ」を特集したが、日本総合研究所の寺島実郎会長が「世界は『脱9・11』へ 揺らぐ米国の『自国利害中心主義』」を書いている。キーワードは、「脱9・11シンドローム」ということだ。寺島は次のように言う。二〇〇一年の9・11で、アメリカは「逆上」し、アフガニスタン、イラクに侵攻したが、いま、戦争のきっかけとなった大量破壊兵器を持つイラクの脅威は、ブッシュ大統領自らが謝った情報に基づくものであることを認めた。「イラクの民主化」も、人口の六割を占めるシーア派主導となり、イランの影響力が拡大する。米軍兵士の死者は二四〇〇名をこえた。イラク戦費は累積三〇〇〇億ドル(約三三兆六〇〇〇億円)をこえ、財政赤字を拡大させた。アメリカ経済のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)は急速に悪化し、ガソリン価格の高騰が車社会の米国民生活を直撃している。そして、イラク戦争の結果、世界での「アメリカのブランド・イメージが喪失」させたことだ。
そして、いま世界は「脱9・11」へと転換しているという。その特徴の第一は、上海協力機構によって中央アジアでの構造が変わったことで、同機構には中国、ロシアと中央アジア四カ国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン)が加盟し、インド、イランがオブザーバー参加している。第二にパレスチナでイスラム原理主義組織のハマスが政権をとったこと、などだ。
アメリカは、ソ連崩壊後の世界で、「新しい世界秩序のルール作りに真剣ではなく、自国の利害を絶叫している」。小泉政権の外交は「逆上するアメリカに引き回された『9・11シンドローム』のサブシステムのようなもの」だった。そして、寺島は、「安っぽい軍事力への誘惑をたち、軽武装経済国家の自尊心を持て」と言う。
寺島の言うように、たしかにアメリカはこの数年で大きく変わった。東欧そしてソ連の解体によって、九〇年代の初頭、アメリカは世界唯一の超大国となり、軍事力、経済力によって世界に君臨した。そして、二一世紀にはアメリカに対抗できる勢力は一つもなく、文字通りの覇権国家としてあったかに見えた。それが、この数年での変り様、まだ没落とまではいえないが大後退の様相を示している。ITの世界では、ドッグ・イヤーが言われる。イヌの一年は人間の七〜八年にあたるとされるが、それが政治の世界にも浸透してきたようだ。技術や生産力という下部構造としての土台における変化が、政治や精神生活という上部構造に反映されてきているのだ。
昨年、アメリカは、強大なハリケーンに見舞われ、その時にアメリカ政治・社会の脆弱さが露呈され、ブッシュ政権に対する批判が強まった。今年は、経済界だけでなく、政界中枢での汚職問題の暴露が続いている。そして、移民問題で揺れている。
とくにイラク戦争では開戦の口実とした大量破壊兵器も存在しないことをブッシュ自身も認め、国防長官ラムズフェルドに対しては退役将軍たちから辞任要求が続いている。
このごろのブッシュの記者会見での生彩のなさはどうだ。数日前にCNNのラリー・キングのラムズフェルドへのインタビューを放映していたが、ラムズフェルドはしどろもどろ、涙目にさえなっていたのがイラク戦争の状態を物語っている。そしてイラクでの米海兵隊による住民虐殺事件の暴露だ。
イラクの「ベトナム化」とアメリカの孤立、ブッシュ政権の支持率低下が明らかになるにつれて寺島の主張がマスコミにもおおいにもてはやされる状況になってきている。こうした主張は、寺島個人のものではないし、支配階級の一部にも受け入れられている。寺島は、三井物産戦略研究所にいたが、アメリカと結ぶ三菱グループと親西欧の三井グループの違いはかつてから言われてきたが、日本の支配層の中でも日本の進路を巡っての対抗は強まっていくだろう。対米追随一本槍で行くのかどうか。小泉の六月下旬の訪米とブッシュとの首脳会談は、それで最後まで行くという意志の表明となるだろう。靖国神社へも今年は、八月一五日に強行参拝する可能性が高い。しかし、それでは、「国益」はないがしろにされる。経済同友会がしびれを切らして参拝自粛要求を言い出した。ポスト小泉の自民党総裁選レースでも、格差問題と対アジア問題は二大争点なっている。
ブッシュの五年は、かつてなくアメリカを孤立させ弱体化させた。小泉の五年も、日本社会を壊し格差社会を作り出した。同時に、旧い自民党政治も「ぶっ壊す」ことになった。終身雇用制などによる労働者の企業への統合、そして中小企業、農民、地方へは補助金をつかっての自民党支持基盤の拡大、それが支配層による国民統合としてあったが、それははもはや機能不全に陥っていっている。小泉は、日本支配層の安定的支配を終わらせる「革命的」役割を果たしてしまったのかもしれない。寺島の「軽武装経済国家」路線が仮に主流になるにしても、軍産複合体、排外主義右派政治勢力との軋轢は増し、日本政治の不安定さ長く続く。そしてアジアからの孤立、人口減少、経済活力の弱化などが大きな問題となってくるだろう。
(M)
日本ペンクラブの声明
「共謀罪新設法案に反対し、与党による強行採決の自制を求める」
いままさに日本の法体系に、さらにこの国の民主主義に、共謀罪という黒い影が覆いかぶさろうとしている。自民・公明の両与党は衆院法務委員会において、一両日中にも共謀罪導入のための法案の強行採決を行なうつもりだという。
私たち日本ペンクラブは、文筆活動を通じ、人間の内奥の不可思議と、それらを抱え持つ個々人によって成り立つ世の中の来し方行く末を描くことに携わってきた者として、この事態に対して、深い憂慮と強い反対の意思を表明するものである。
いま審議されている共謀罪法案は、与党が準備中と伝えられるその修正案も含めて、どのような「団体」であれ、また実際に犯罪行為をなしたか否かにかかわりなく、その構成員がある犯罪に「資する行為」があったとされるだけで逮捕拘禁し、厳罰を科すと定めている。法案の「団体」の限定はまったく不十分であり、また「資する行為」が何を指すのかの定義も曖昧であり、時の権力によっていくらでも恣意的に運用できるようになっている。
このような共謀罪の導入がこの世の中と、そこで暮らす一人ひとりの人間に何をもたらすかは、あらためて指摘するまでもない。民主主義社会における思想・信条・結社の自由を侵すことはもちろんのこと、人間が人間であるがゆえにめぐらす数々の心象や想念にまで介入し、また他者との関係のなかで生きる人間が本来的に持つ共同性への意思それ自体を寸断するものとなるだろう。
この国の戦前戦中の歴史は、人間の心象や意思や思想を罪過とする法律が、いかに悲惨な現実と結末を現出させるかを具体的に教えている。私たちはこのことを忘れてはいないし、また忘れるべきでもない。
そもそも今回の共謀罪法案は、国連総会で採択された「国連越境組織犯罪防止条約」に基づいて国内法を整備する必要から制定されるというものであるが、条約の趣旨からいって、人間の内心の自由や市民的活動に法網をかぶせるなど、あってはならないことである。にもかかわらず、法案は六百にもおよぶ法律にかかわり、この時代、この社会に暮らすすべての人間を捕捉し、その自由を束縛し、個々人の内心に土足で踏み込むような内容となっている。
このような法案に対しては、本来、自由と民主を言明し、公明を唱える政党・政治家こそが率先して反対すべきである。だが、与党各党はそれどころか、共謀罪の詳細が広く知れ渡ることを恐れるかのように、そそくさとおざなりな議論をしただけで、強行採決に持ち込もうとしている。こうした政治手法が政治それ自体への信頼を失わせ、この社会の劣化を招くことに、政治家たる者は気がつかなければならない。
私たちは、いま審議されている共謀罪に強く反対する。
私たちは、与党各党が行なおうとしている共謀罪強行採決を強く批判し、猛省を求める。
二〇〇六年五月一五日
社団法人 日本ペンクラブ 会長 井上ひさし
複眼単眼
「17条憲法」にまつわる俗論とナショナリズム
憲法論議のなかで時々出てくる俗論のひとつに「聖徳太子の十七条憲法」というのがある。六〇四年に作られた「日本最初の憲法」だというふれこみだ。国会の憲法調査会の議論などでも自民党のウルトラな連中がしばしば引き合いに出す議論で、これが古来伝統の「日本の心」というナショナリズムと結びつけられ、「和の精神」という階級協調主義と直結させられる。はなはだしきは「ここに日本の民主主義の原点がある」などとまで説く者もいる。
実のところ、これは聖徳太子が書いたかどうかも疑わしいもので、七二〇年に書かれたという『日本書紀』に全文が引用され、紹介されているだけのものだ。原文はまだ誰も見たことがない。
歴史学者の間では『日本書紀』編纂時の創作という説が有力だ。ましてこれは文字こそ同じだが、現代で考えられる「憲法」とは性格が全く異なるもので、当時の権力者がそれを支える官僚に対してその「心得」のようなものを書きつづったものに過ぎないのだ。丁寧に読んでみればこのことがよくわかるのだ。
聖徳太子の「和をもって貴しとなす」ばかりが有名になり、一人歩きしているので、『日本書紀』による「憲法十七条」の一条と三条だけ、以下、書き下し文で採録する。
一 にいわく、和(やわらぎ)を以って貴しとなし、忤(さから)うことなきを宗(むね)となす。人みな党(たむら)あり。また達(さと)れるもの少なし。ここを以ってあるいは君・父に順(したが)わず、たちまち隣・里に違(たが)う。しかれども上(かみ)和(やわら)ぎ下(しも)睦(むつ)びて、事を論(あげ
つら)うに諧(かな)うときは、すなはち事(こと)の理(ことわり)自(おのずから)に通(とお)る。何事か成らざらん。
三 にいわく、詔(みことのり)を承(うけたまわ)りてはかならず謹(つつし)め。君をばすなわち天(あめ)とす。臣(やつこらま)をばすなわち地(つち)とす。天は覆い地は載せて、四(よつ)の時順(したが)い行はれて、万(よろず)の気(しるし)、通うことを得(う)。地、天を覆はんとするときは、すなわ
ち壊(やぶ)るることを致さまくのみ。ここをもって、君のたまうときは臣承る、上(かみ)行うときは下(しも)靡(なび)く。故(それ)詔を承りてはかならず慎(つつし)め、謹(つつし)まずはおのずからに敗(やぶ)れなん。
改憲の議論が盛んになるにつれて、市民の側の憲法論議も盛んになり、運動のなかでの憲法学習も進んでいる。なかでも「立憲主義」についての認識は全国各地で急速に進んでいるのを実感する。一方では、自民党など与党のなかではもとより、民主党の憲法担当者の中にさえ、立憲主義についての認識不足がしばしば見られる。それらの多くは「新しい」憲法論の装いを凝らして議論されるが、とどのつまり、この「十七条憲法」のレベルが多い。
市民の間での立憲主義についての認識の深化は改憲派とたたかう上で極めて大切だ。(T)