人民新報 ・ 第1205号<統合298(2006年7月17日)
  
                  目次

● 日米の対北朝鮮の制裁・戦争策動に反対する  東アジアの平和のための協議・交渉を進めよ

● 日の丸・君が代強制処分に反撃を!

● 沖縄・辺野古への基地建設は許さない   安次富浩さんと高里鈴代さんがアピール

● 憲法9条は世界の宝 !  コスタリカのカルロス・バルガスさんの講演

● 06オキナワピースサイクル  ― 辺野古への基地建設反対を訴え走る ―

● JR東日本の「安全」は大丈夫か  安全を訴えた労働者を処分

● 本の紹介 /  私は「蟻の兵隊」だった ― 中国に残された日本兵   奥村 和一 (著), 酒井 誠 (著) 

● 複眼単眼  /  軽薄首相の5年間  驚くべき無知





日米の対北朝鮮の制裁・戦争策動に反対する

    
東アジアの平和のための協議・交渉を進めよ

 六月二九日、訪米した小泉首相はブッシュ大統領と首脳会談で「二一世紀の日米同盟」を宣言した。小泉政権は、その五年間で、9・11事件を口実にしたアメリカの「対テロ」戦争に参加し、アフガニスタン戦争での米軍支援からイラク戦争での自衛隊派兵へとアメリカの覇権政治・先制攻撃戦略の一翼を積極的に担い、日本を戦争の出来る国に作り変えてきた。
 米軍再編と日米軍事一体化は、憲法九条の公然たる改悪、防衛省の設置、恒常的な海外派兵法の策定へと政府・与党を加速させているが、依然として、日本国内では、九条改憲反対、沖縄をはじめ各地での米軍再編による実質的な基地負担強化反対、自衛隊の派兵反対などさまざまな反改憲反基地反戦の闘いが持続してきている。沖縄市長選、住民投票勝利を受けての岩国市長選などでの基地強化反対を掲げる候補の勝利は根強い戦争国家化反対の広範な存在を示すものであった。また、通常国会での攻防は、大衆的な運動の盛り上がりと野党の対決姿勢という国会内外の粘り強い闘いで、共謀罪新設法案、教育基本法改悪法案、改憲のための国民投票法案などの成立を阻止し先送りさせた。われわれの任務は、こうした状況を最大限に活用し、出来る限り広範な人びとと運動を結集して、小泉などの靖国神社8・15参拝反対の運動の昂揚をかちとり、秋の闘いでポスト小泉の政権を追いつめる展望を切り開いていくことである。

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は、七月五日、超距離弾道ミサイル・テポドン2号を含むミサイル発射をおこない、今後も継続すると声明した。この間、小泉政権とりわけ安倍晋三などの極右潮流は、北の脅威をあおり、ミサイル防衛をはじめ日米軍事結託と軍備増強の理由として大々的にキャンペーンしてきた。また、彼らは、拉致問題をめぐって、露骨な排外主義を煽ってきたが、いま、いっそうそのトーンをあげてきている。
 ブッシュ政権も、偵察衛星でミサイル発射準備を捉え、その報道を通じて、北朝鮮包囲網を一段と締め上げてきていた。そこで強行された北朝鮮のミサイル発射で、日米は戦争策動にまたとない口実を得た。北朝鮮は、自衛のためのものであると主張し、ミサイル発射による衝撃をテコに対米直接交渉の実現に道を切り開く政策であると見られているが、核開発やミサイル発射実験によって、国家の生存をもとめようという行為は正しいものでも有効なものでもない。軍事的な威嚇によって事態を転換させようとする北朝鮮の行為は、逆にアジアでの緊張激化の悪循環を呼びおこす事態をまねいてしまったのである。
 日本政府は、北朝鮮のミサイル発射を待っていたかのように万景峰号を六ヶ月の入港禁止とし、北朝鮮当局者の入国の原則禁止などの「制裁」措置を発動し、今後さらにエスカレートさせていくとしている。日本政府は、この「好機」を最大限活用し、国連安保理での「制裁決議」の先導役を果たしている。このことによって、アメリカを後ろ盾とする「政治・軍事大国」化を狙っているのである。だが、アメリカをふくめて日本政府の思惑通りに動いてくれる国がどのくらいあるのか疑問である。中ロ両国は制裁決議には反対であり、とくに中国は積極的な北朝鮮説得を行い、六ヶ国協議の再開とその枠組みの中での問題の解決を主張している。
 こうした中で、額賀防衛庁長官をはじめ安倍官房長官、麻生外相、武部自民党幹事長などは、「敵基地攻撃=先制攻撃」までも口にするようになっているが、このような日本政府高官・与党幹部の異常な言動には諸国から疑問の声があがり、とくに、韓国政府は日本の侵略主義の表れだとして非難している。
 日本政府の強気の言動は、日米対北朝鮮、中国、韓国という構図の上に打ちたてられているが、実際には頼みのアメリカはどうなのか。イラク・アフガニスタンでの侵略戦争の「泥沼」化と対イラン関係の悪化で、兵力・軍事費の予備を消耗させ、外交的にも孤立し、ブッシュ大統領への支持も急減しているアメリカには、ここで新たに東アジアで戦争を起こすこと可能にする余力はあるのだろうか。ライス国務長官などは、北朝鮮問題は中国を中心にした六カ国協議にまかせるという態度を明確にした。一方、国連では、ネオコンの中心人物であるボルトン米国連大使が、日本をひきつれて「制裁決議」成立に走り回っているが、米政府そのものが、北朝鮮との戦争も視野に入れた米日のネオコン路線を貫徹するかどうかは疑問とされる。
 情勢は目まぐるしく推移しているが、日本の外交的な行き詰まりが明らかになってきている。第一には、制裁決議に、アジア諸国(中国、韓国)そしてロシアが反対していることだ。これは、小泉の靖国神社強行参拝に象徴されるアジア軽視・敵視の政策が必然的にもたらしたものだ。そしてフランスなど欧州が決議案提案国に名を連ねたのは、イラン核問題解決のためであり、いつまで日本と同一の行動をとるかはわからない。そして、なによりもアメリカの動向だ。先にも指摘したが、国務省筋は中国に期待し六カ国協議への北朝鮮の復帰に政策重点を移しつつある。ところが、小泉、安倍は、日米同盟こそが最重要であり、かつ現在はもっともよい状態にあり、それによってすべてが解決するという考えをもっているが、それは半ば幻想に過ぎない。日本支配層の悲願である国連常任理事国入り問題でアメリカの「裏切り」で破綻したが、今回の対北朝鮮制裁問題でも日本政府は「煮え湯」を飲まされる公算は大きい。この時期、小泉は中東歴訪で、パレスチナ・イスラエル問題解決のための労をとるなどとはしゃいでいるが、お笑いぐさでしかない。
 しかし、制裁・戦争の拡大を狙うネオコンと米軍部の強硬派は、危険な策動を強めている。また外交的に破綻しつつある日本政府とりわけ安倍などの極右勢力は、ここで後退すれば致命的な打撃を受けることになるので、米強硬派に依存しつつ制裁決議・対北包囲網強化を続けざるをえない。
 われわれは、ブッシュ政権と自民党政権による北朝鮮敵視と「制裁」措置し反対し、北朝鮮への先制軍事攻撃、ミサイル防衛など日米軍事一体化に反対する。同時にそれに対抗するためとされる北朝鮮の軍事緊張を強める政策は東北アジアの緊張の緩和と平和の実現に逆行するものであり、反対する。平和と諸国間の関係改善は粘り強い協議・交渉によって解決されなければならない。
 日本政府は、制裁策動を直ちに止めよ。そして、六カ国協議の再開、日朝国交正常化交渉を通じて、日朝などアジア諸国との関係改善を図れ。小泉と閣僚の靖国神社参拝を中止せよ。


日の丸・君が代強制処分に反撃を!

 戦争の出来る国づくりには、戦争をする「心」がなければならない。
 教育基本法の改悪とその先取りである石原都政の卒入学式での日の丸・君が代の強制と処分は、そのためにある。教育現場で日の丸・君が代強制を拒否する闘いは、戦争従事命令に抗する労働者の戦争協力拒否の闘いの先駆的な意味を持つものである。極右政治家・アジテターである石原慎太郎は、東京を戦争体制づくりの突破口と位置付け、都教育委員会の「10.23通達」以降、大量の教職員を不当不法に処分してきた。都教委は、いま日の丸・君が代強制すなわち戦争教育実践への抵抗者を「根絶」するために、処分を乱発している。その攻撃対象を教職員にとどまらず、生徒にもひろげてきた。そして、卒入学式にむけての対応を強化するとして、校長の職務命令の指導範囲を拡大しようとしている。六月一六日、都議会文教委員会は、「教員への校長の職務命令には、生徒に対するホームルームなどでの事前指導も含まれている」「起立して斉唱するよう教員を指導する」として締め付けを強化するとしている。

 今年の卒入学式における被処分者に「再発防止研修」(七月二一日)が発令された。対象は、退職者を除く被処分者全員である。 同日には、「日の丸・君が代」不当処分撤回を求める被処分者の会をはじめとして、水道橋の都教職員研修センター前で「再発防止研修抗議・該当者支援行動・抗議集会」がおこなわれる。なお、この日は、都高教大会の日であり、都教委はその日に「再発防止研修」ぶつけてきたが、被処分者の教職員は、都高教大会の代議員・発言者でもあり、闘いの分断をはかる姑息な手段を弄したものと言わざるをえない。
 この「研修」は、「思想及び良心の自由」にしたがって行動した教職員の内面に踏み込み、「弾圧」「いじめ」で「転向」を強要し、生徒に戦争イデオロギーを注ぎ込む道具に変えようとするものにほかならない。
 当日の研修に抗議し、被処分者を激励するために、教職員をはじめ保護者、労働者、市民が、都教職員研修センター前に結集して、抗議行動が展開される。

 秋の臨時国会では、共謀罪新設法案、改憲のための国民投票法案、防衛庁の省昇格法案とともに、教育基本法改悪法案が継続審議される。
 教育基本法改悪の先行実施を強行する石原都政と都教委のまさに暴走と言える反動攻撃に断固とした反撃を加えなければならない。「石原・中村都教委の暴走をとめよう!」「教育基本法の改悪をとめよう!」をスローガンに例年の都教委包囲行動が八月三〇日に行われる。首都圏ネットは、包囲デモにむけてのアピールのなかで「私たちの自由及び権利は、私たちの不断の努力〜権利や自由の侵害に対し、不当を叫び闘うこと〜なしには保持しえないのです。闘わなければ『自由や権利』は制限されたり、なくなったりするのです。今まさにそうしたことが、頻繁におきています。板橋高校の元教諭の藤田氏の不当逮捕と不当な判決、増田さんの分限免職もそれです。増田さんは、扶桑社の歴史教科書を「侵略戦争を容認する」ものと批判しました。検定を通った教科書を批判したから処分するというのです。妥協や屈服をせず、抵抗し続ける教職員は学校から追放するというのが、今権力を握っている人たちの考えです。その具体化の一つとして、教員免許更新制度の導入が検討されています。現職教員も対象にしようとしています。抵抗し続ける教職員を学校から排除するための合法的手段を手に入れようとしています。総理大臣が代わっても危機的状況は変わりません。国民一人一人の現状に対する認識が変わらなければ、状況を変えることは出来ません。そのための運動の一環として、私たちは八月三〇日に「都教委包囲デモ」を実施します。……教基法は秋の臨時国会がヤマになることでしょう。秋の国会に向けた闘いの準備としても、また都教委を背後で動かしている石原を包囲する重要な闘いでもあると思います」として多くの人々の賛同と行動への参加をよびかけている。


沖縄・辺野古への基地建設は許さない

 
 安次富浩さんと高里鈴代さんがアピール

 七月一日、文京区民センターで「沖縄・辺野古への基地建設を許さない! 7・1集会」(主催・辺野古への基地建設を許さない実行委員会)が開かれ、二二〇人が参加した。
 これまで毎週防衛庁抗議行動を続けてきた「辺野古への海上基地建設・ボーリング調査を許さない実行委員会」は、沖縄現地の決死の闘いによって海上基地・ボーリング調査を阻止したことをうけ「辺野古への基地建設を許さない実行委員会」と名称を変更して活動を継続する(防衛庁前行動は七月からは毎月第一月曜日午後六時半から)。
 平和フォーラムの五十川孝事務局次長、全労協の中岡基明事務局長の連帯あいさつ、韓国・平潭米軍基地拡張阻止汎国民対策委員会からの連帯メッセージ紹介につづいて、二人による沖縄からの訴えが行われた。
 はじめに、海上ヘリ基地建設反対・平和と名護市政民主化を求める協議会(ヘリ基地反対協)代表委員の安次富浩さん。
 在日米軍基地再編は、沖縄の負担軽減を口実に行われているが、こうした言葉を聞くたびに腹が立つ。実際はまったく違うからだ。先頃、NHKで再編問題の番組があり沖縄から私も含めて二〇人が参加したが、番組に先立ってディレクターとやりあった。それはNHKとして最終合意を点検・検討したのかということだ。それがないならダメだということだ。ニ回しか発言できなかったが、それでも視聴者にはある程度沖縄の心をわかってもらえたと思う。
 米軍再編は国の専管事項だという。しかし、名護の住民投票の時には、当時の久間防衛庁長官は、施設庁の役人を二〇〇人も投入して賛成派にテコ入れした。国の専管事項だというならなぜそんなことをやるのか。住民の意向が大きな影響をもつから国はそうしたことをやってきたのだ。岩国の住民投票でもそうだった。専管事項とは都合のいい言葉だ。だが、これに負けたら運動にならない。権力の無謀さにあきらめず歯向かうことが大事なのだ。それが広く国民的な支持を受けることになる。辺野古では沖縄の怒りを表現して闘い続けた。それで自民党支持者も激励に来てカンパまでしていくという状況が作られたのだ。
 沖縄では一一月に、県知事選があるが、九月には名護の市議選がある。市議の総数は二七だ。何としても過半数の一四議席を反対派で取りたい。そうなれば事態は大きく動く。私たちはじゅごんの里代表の東恩納琢磨さんの選挙に取り組む。
 政府は米軍再編のために三兆円も使うという。各地でも再編による基地強化に反対する運動が広がっている。アメリカでもじゅごん裁判や沖縄基地被害の国連人権委員会への提訴などさまざまな動きがでてきて、運動はひろがっている。
 つぎに基地・軍隊を許さない行動する女たちの会共同代表の高里鈴代さん。
 今回の日米協議をよく見てみれば、再編の目的は、沖縄の負担軽減などではなく、米軍の機能強化と自衛隊のそれへの動員でしかない。昨年の一〇月にいわゆる中間報告というものが出されたが、あれは実は大枠を決めるもので、最終合意・ロードマップはそれを具体化したものだ。そのことを米軍関係者自らがしゃべっている。アメリカは一度も中間などという言葉はつかっていない、と。とにかく昨年一〇月に日本は進路を大きく変えた。日米軍事一体化が決められたのだった。
 沖縄の訴えを終わって、日米軍事再編・基地強化と闘う全国連絡会からは、安次富浩さんとともに共同代表を務める金子豊貴男さん(相模原市議)が連帯のアピールをおこない、練馬アクション、千葉沖縄県人会から撒布贈呈がおこなわれ、集会決議(別掲)をピースサイクルのメンバーが読み上げた。

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沖縄・辺野古への基地建設を許さない 7・1 集会宣言

 あらゆる「うそ」を満載した「ブレーキのきかない暴走列車」が、民主主義を踏み潰し、憲法を変えて侵略戦争の世界に突入しようとしている。
 五月一日、「在日米軍再編」に関する日米同政府の合意が行われた。日本全国の面積の〇・六%の沖縄に在日米軍基地の七五%が存在する。この「再編」で一%の基地面積が減るという。名護市辺野古沿岸に巨大な「悪魔の要塞」米軍基地を建設するという。これが沖縄住民への基地負担「軽減」であるというのは真っ赤なうそである。
 住民の三分の一、二〇万人を戦場の焦土で犠牲にし、戦後一貫して米軍基地に苦しめられてきた沖縄の住民は、日本政府の無責任なごまかしを決して認めない。
 辺野古新基地の二本の滑走路で住民の上空を避けて飛ぶというが、これまで米軍は飛行経路も締結された騒音防止協定も守ったことがない。「在日米軍再編」で本当に八〇〇〇人がグアムに移転して減るのか、その根拠を防衛庁長官は知らない。一九九五年の小学生強姦事件以降、米兵犯罪は増加している。一月の横須賀米兵主婦殺人事件では、たった二回の裁判で「無期懲役」が宣告された。
 しかし「人殺しの訓練」を受け、戦場で荒れた兵士の犯罪は絶えることはない。厚木基地の艦載機の夜間離着陸訓練を岩国に移すというが、整備部隊を厚木に残したまま、両方の基地を使うつもりなのである。
 座間、横須賀、横田での陸海空、日米両軍司令部の統合と、被爆国日本の首都玄関への原子力空母配備は、全国の米軍基地化と日米共同戦争の幕開けである。
 政府・防衛庁は「地域振興」の札束をちらつかせている。沖縄県や、名護、岩国、横須賀等の自治体首長を金で誘いながら、交付金を取り上げて脅している。住民は決してこの「合意と閣議決定」を認めない。そこには民主主義のかけらもない。
 沖縄の振興は基地をなくしてはじめて可能となる。沖縄基地従業員八〇〇〇人の人件費は「人殺し業務」をやめ、伝統ある地場産業を支援し転用できる。これこそ「地方振興」である。
 防衛施設庁の「底なし」談合が全ての事業で暴露され八五人も「処分」された。施設庁を「解体する」という。しかしこの便乗格上げ「防衛省」は、軍事産業とゼネコンの利権を「軍事機密」という名目で省政令をもって隠蔽する。ゼネコン利権を「再編」し、あらたなワイロと談合を増やすだけである。
 三兆円もの私たちの巨額な税金を、医療費、教育費、老後年金のかわりに、米軍の戦争のために使うという、収奪以上の犯罪的な政策を、全国の市民は決して認めない。ゼネコンが「悪魔の要塞」建設によって、ジュゴンの棲む辺野古と大浦湾の美しいさんご礁をつぶし、貴重な自然遺産を破壊する、この巨大な違法行為を私たちは許さない。米軍による世界支配、多国籍資本による資源略奪、戦争利権獲得を許さない。
 日本の司法は、六〇年前の侵略戦争で日本軍「慰安婦」などによる八四件もの戦争被害訴訟をすべて棄却しつつある。私たちはこれらすべての戦争責任の解決を求める。
 辺野古への「悪魔の要塞」を建設するという「在日米軍の再編強化」に関する閣議決定を再び反古にするまで、私たちは断固として闘う。以上、私たちは宣言する。

二〇〇六年七月一日

沖縄・辺野古への基地建設を許さない七・一集会参加者一同


憲法9条は世界の宝 !

   
コスタリカのカルロス・バルガスさんの講演

 七月六日、参議院議員会館で、「院内集会―憲法九条は世界の宝! コスタリカからカルロス・バルガスさんを迎えて」が開かれた。
 主催は、憲法共同会議、コスタリカに学び平和を考える弁護士と市民の会、平和をつくり出す宗教者ネット、平和を実現するキリスト者ネットによるもので、宗教者、市民団体、国会議員などが参加した。

 中米のコスタリカは一九四八年に制定されたコスタリカ共和国憲法で、「恒久的制度としての軍隊は禁止する」と規定し、以来、非武装・非暴力を貫いている。
 カルロス・バルガスさんは、コスタリカ大学法学部教授(国際法、国際人権法)、弁護士、米州人権裁判所元弁護士、世界反核法律家協会副会長で、積極的永世非武装中立宣言を出したモンヘ元大統領やノーベル平和賞受賞者であり新しく就任したオスカル・アリアス現大統領の国民解族党に所属し、以前から、日本の憲法問題に深い関心を寄せ、今回が三度目の来日である。

カルロス・バルガスさんのお話

 いま日本は歴史的な岐路にたっている。憲法九条が変えられようとし、昨日の北朝鮮のミサイル発射でそれが加速されようとしている。しかし、九条の非武装は貴重なものだ。
 今日は、コスタリカのことを日本の人に伝えたい。私たちの国が重視しているのは、人権の尊重、民主主義の推進、主権を守ること、環境の重視、そしてお金を教育に使うことだ。そして、一九四八年に、軍隊をなくす決定をおこなった。民主主義とは、選挙で選び選ばれる自由をもつことだが、それだけではない。
 私たちは一八二一年のスペインからの独立以来、民主主義のために努力してきた。すでに一八六九年に憲法で男女義務教育の無償化を定め、一八八二年には憲法で死刑廃止を決めた。
 一九〇七年には、中米司法裁判所がコスタリカにできた。一九四八年には武器と軍隊を捨てることを決めた。一九四九年には労働法で一人ひとりの労働者の権利を保障した。こうしたことによりコスタリカは、中米のモデルケースとなった。
 中米人権裁判所もできたが、人権侵害の最たるものは戦争だ。これは、犯罪行為を裁くだけでなく紛争を解決する手段も提供するものだ。
 民主主義ということでは、選挙の問題を話したい。コスタリカでは子どもをふくめて国民が選挙に積極的に参加する。とくに四年に一度の大統領選挙はお祭りのようだ。ひとり一人が候補者一人ひとりを比べて、誰が自分たちの大統領に相応しいかを決める。小学校の一年生からカリキュラムで民主主義、平和、環境、人権を学び、自分の意見や感情を表現し、問題を話し合いと交渉で解決することを学んでいる。
 コスタリカは医療保障、教育水準が高い。だから、内戦で疲弊した隣国のニカラグアやコロンビア、ベネズエラなどから移民、難民、密入国者がコスタリカにくる。しかし、誰が入国していい、誰は拒否するというのではなく、全部受け入れる。だが、外国から逃れてきた人たちはお金がないから、病院がパンクするような事態も起こっている。しかしコスタリカは、それらの人が教育を身につけ、暴力で問題を解決することのないように寛容な態度で対処するようにしている。
 アメリカとの関係も上下のそれでなく対等に付き合っている。こうしたことがコスタリカが尊敬される背景にあるが、これらはすべては教育の成果だと言える。

コスタリカ憲法

 第12条 恒久制度としての軍隊は廃止する。公共秩序の監視と維持のために必要な警察力は保持する。
 大陸間協定により又は国防のためにのみ、軍隊を組織することができる。いずれの場合も文民権力に常に従属し、単独又は共同して、審議することも声明又は宣言を出すこともできない。


06オキナワピースサイクル

     
 一 辺野古への基地建設反対を訴え走る 一

 二〇〇六ピースサイクルがスタートした。九〇年から始まり一七年目を迎えた今年は、在日米軍再編でゆれる緊迫した状況の中でのピースサイクルとなった。
 今回のオキナワビースサイクルは、六月二二日から二六日までの行程で取り組まれ、全国(東京、多摩、神奈川、大阪、広島)から八名が参加した。

六月二一日(水)
 日程の関係で事務局のみの対応となったが、沖縄県庁に翌日から始まるオキナワビースサイクルの報告と全国から集まったピースメッセージを届けに行った。知事分室長の府本さんが応対し、ピースサイクルの健闘を祈るとともにピースメッセージを必ず知事に渡すことを約束してくれた。

六月二二日(木)
 午後全国から仲間が集まり、今回も案内していただく字根悦子さんと普天間基地周辺を見学した。最初に沖縄戦初期に日米両軍の激戦地となった嘉数高台に行った。慰霊の日を前に多くの団体が見学に訪れていた。説明を受けながら洞窟やトーチカの残骸、『京都の塔』『青丘之塔』『嘉数の塔』を見学する。中でも『京都の塔』の碑文には軍と運命を共にした沖縄住民の哀惜と再び戦争の悲しみを繰り加えすまいとの反省が刻まれている。最後に普天間基地を一望すると、改めて最も危険な基地だと実感する。次に宜野湾市役所に行き、伊波市長宛のピースメッセージを届けた。残念ながら議会のため市長とは会えなかったが、基地対策室が応対し、この間の宜野湾市としての取り組みをDVDで報告された。その後、屋上に大きく描かれた『市街地上空を飛ぶな!
米軍ヘリは直ちにでていけ!』を見ながら説明を受けた。議会では市長の訪米予算を否決し、この屋上の文字に対してもクレームをつけている。説明を受けている中、米軍ヘリが飛び回っていた。
 次にヘリが墜落した沖縄国際大学を見学。黒く焼け焦げた壁はなくなり、急ピッチで新校舎の建設が行われていたが、その周辺の木々はいまだに焦げていたのが印象的だった。
 そして、夕方から宿泊先の宜野湾市で結団式を行った。記念講演では六年連続で案内していただいている宇根悦子さんに、『沖縄における米軍再編』について経過も含めてお話しを伺った。終了後、今回参加するメンバーの自己紹介を中心に交流会を行い、明日から始まる実走の健闘を誓イ合った。

六月二三日(金)
 沖縄では慰霊の日として各地で戦没者に祈りを捧げる。糸満市摩文仁の平和祈念公園では県主催で沖縄戦全戦没者追悼式が行われ、三年連続で小泉首相が参加した。沖縄戦から六一年、現在も米軍基地を押し付けている沖縄の状況をどう思っているのか。靖国問題でアジア外交も行き詰まっている。小泉の「アメリカとの関係さえよければ、すべてよし」的政治姿勢に怒りを感じる。
 私たちは、魂魄の塔で行われた六・二三国際反戦沖縄集会(今回で二三回目)に参加。優美堂からのデモはビースサイクルが先頭となり魂魂の塔まで自転車をひいて行進した。集会では、小泉総理来沖抗議行動の報告や『東村高江』ヘリパット建設問題、米軍再編にからみ在沖海兵隊が八〇〇〇人移転するといわれているグアムの先住民チャモロの反基地活動家ジュリアンさんが発言した。その後、私たちはひめゆり平和祈念資料館、轟の壕を見学した。

六月二四日(土)
 沖縄は梅雨明け後、日毎に気温が上がっている。今日は三二度。アスファルト上は四〇度近くまで上がる。糸満市の宿舎を出発したピースサイクルは、沖縄市の東海岸の中城湾に面する泡瀬干潟を見学。干潟を守る連絡会の前川さんの説明を受ける。東部海浜開発計画のため、埋め立てられようとしているが、今でも多くの珍しい生物が生き続けている。自然豊かな干潟を埋め立ててよいのか。前川さんの説明に熱が入る。事業を推進していた市長が変わり、今後の展開か注目される。
 続いて沖縄市を訪問。新しく市長になった東門美津子市長を表敬訪問。土曜日ということもあり、市長とは会えなかったが休みにもかかわらず、沖縄市として対応していただいた。沖縄市からの紹介で沖縄市の戦後が体験できる『ヒストリート』を見学。入り口に設置された実寸大の米軍基地フェンスの模型や戦後の生活文化が展示されユニークな資料館だった。次に『道の駅かでな』を見学し、読谷村の宿泊先である民宿『何我舎』へ。知花昌一さんの案内でシムクガマ、チビチリガマ、八月に知花さんに返還される象のオリ、金城実さんのアトリエへ。今年五月に建てられ、強制連行され沖縄戦で犠牲になった多くの朝鮮人の碑『恨の碑』などを見学した。
 夜はバーベキュー、泡盛もおいしく歌や三線の演奏など大いに盛りあがった。

六月二五日(日)
 今日も暑い。読谷村の『何我舎』を出発し金武町伊芸に立ち寄る。監視小屋に上り視察。下見で来たときは、<バーンバーン>と銃声の音がした。米軍キャンプハンセンの都市型戦闘訓練が強行されている。民家から三〇〇メートルしか離れておらず、過去にも実弾があたったり多くの事件が起きている。訓練反対の情宣を行いながら名護市辺野古へと向かった。辺野古では米軍海兵隊普天間飛行場代替施設建設に反対する座り込みが行われている。『命を守る会』の金城祐治さん、『ヘリ基地反対協議会』の安次富浩さんに受け入れていただいて説明を聞いた。先日、出演したテレビの裏話や『沖縄の負担軽減策』と宣伝されている普天間など五施設の全面返還も沖縄全体の米軍基地の数%程度でしかないこと。SACO合意と同様に県内移設が前提で沖縄県内の効率的配置に過ぎないことなど話された。私たちも南部の魂魄の塔から基地建設反対を訴えて自転車で走って来たことを報告し全国から寄せられたビースメッセージを手渡した。交流後、じゅごんの里がある瀬嵩まで自転車で走り、この日で自転車走行を終了した。じゅごんの里では、東恩納琢磨さん宅前に平和の発信地としてじゅごんポストを設置した。その後、家族や地元の方も参加し手料理など交えて交流会を行い、前日に続いて大いに盛り上がった。

六月二六日(月)
 名護市の島袋吉和市長を表敬訪問。議会のため、政策推部基地対策室に対応してもらった。全国から寄せられたビースメッセージを渡すとともに、前日の交流会で、「名護市への申し入れは、いつも喧々愕々となるので、ビースサイクルは違う対応で申し入れを行ったらどうか」と地元の方にアドバイスされ、基地受け入れを表明した名護市をとても心配しているという態度で行った。意見として米軍は飛行空域を守らない事や離陸用と着陸用の滑走路を実際問題として分けられるのかを質問したが明確な回答はなかった。名護市も私たちの対応が予想していたものと違ったので非常に困惑していたようだった。その後、オプションで東恩納琢磨さんの船で長島に渡り、V字型滑走路予定地のキャンプシュワブや大港湾を見学した。

 復帰から三四年。基地の中の沖縄の状況は、復帰前と何も変わらない。
 普天間基地の代替えとして浮上した辺野古への移設は、九年前の市民投票で『辺野古移設NO!』を突きつけた。そして那覇防衛施設局の基地建設のためのボーリング調査にたいしては、いろいろないやがらせ・妨害・差別を受けながらも地元のオジー、オバーを中心に全国の仲間の抵抗で一本の抗をも打たせず海上基地建設を完全に阻止できた。
 しかし、今年の五月一日にワシントンで開催された米軍再編を巡る日米安全保障協議会(2プラス2)で最終報告が発表された。その『沿岸案』に対して、『沿岸案反対』の選挙公約を反故にした島袋名護市長、同じく反対していた稲嶺沖縄県知事も五月一一日に圧力に負けて、日本政府との基本確認書に合意させられた。日米両政府が頭ごしに基地を押し付ける在日米軍再編には、沖縄県民が不在なのは言うまでもない。そして、何よりも沖縄県民を苫しめているのは、米軍再編によって沖縄が基地負担軽減されるというデマを前面に押し出している日本政府とそれをそのままたれ流すマスコミのやり方だ。米軍は再編によって老朽化した基地を捨て、新たに軍事強化した基地をねらっているのは明らかだ。
 『沖縄の基地負担軽減』などまやかしにすぎない。

 今回のオキナワピースサイクルでの現地の方たちとの交流の中で、『沖縄のNO!』が日米両政府に届かない県民の苛立ち、苦しみ、怒り、叫びがひしひしと心に伝わってきた。
そして、東恩納琢磨さんと一緒に行った長島から見た大浦湾は、これまで何度か見ている中でも最高の絶景で、潮が引きサンゴ礁が顔をのぞかせ、海面が日差しでキラキラと輝いていた。改めてこのジュゴンの美ら海に『基地を作らせてはいけない』と思いを強くした。(二〇〇六沖縄ピースサイクル参加者)


JR東日本の「安全」は大丈夫か  安全を訴えた労働者を処分

 JR各会社の安全に対する意識と体制はどうなっているのか。昨年のJR西日本・尼崎事故を契機にJR内外で安全軽視体質を見直しその抜本的な改善を求める動きが大きく広がっているが、JR東日本会社にはまったく反省が見られずそれに逆行する動きを平然と行い続けている。JR東日本千葉支社の保線労働者の菊地義明さんは、ビデオ「レールは警告する」(ビデオプレス)に出演し、また「週刊金曜日」の座談会でもこの問題を訴えてきた。これに対してJR千葉支社(原田尚志社長)は、「社員として勤務時間外に雑誌のインタビューに応じ、会社の信用を傷つける発言をしたことは、社員として著しく不都合な行為である。今後、このような行為を繰り返さないよう厳重に注意する」という処分発令(四月一八日付け)を行った。しかも千葉支社は、どの部分の発言が問題なのかということは一切明らかにせず、「週刊金曜日」にも何の抗議も記事の訂正要求もしていない。これからわかることは、とにかく会社の施策に対して意見を表明することの封殺であり、安全問題にこのような対応をするJR東日本はかならず大きな事故を起こす条件を自ら作っているということである。
 評論家の佐高信さんを代表に「JR千葉支社の菊地さんに対する処分の撤回を求める会」は、「雑誌『週刊金曜日』のインタビューに応えて安全問題を訴えた菊地義明さんへの処分の撤回を求める要請書」への署名をよびかけている。それは「…鉄道事業にとって最も大事なことは『安全輸送』です。『重大な事故に繋がっては大変だ』と思い、利用者・国民の為に、ひいては会社のためを思い事実を知らせた行為は、褒められることがあっても処分などされる理由はありません。貴支社の行為は『本末転倒』『言語道断』と言わざるを得ません。私たちは、ただちに菊地さんへの処分を撤回するよう要請します」というもので、集まった署名は、その一部はすでに、JR千葉支社、国土交通省に提出されている。
 JR千葉支社の菊地さんに対する処分の撤回を求める会のホームページは、http://www7a.biglobe.ne.jp/~tomonigo/ 

●安全を訴えたら処分! JR東日本の非常識を問う市民集会● 

 日時 七月二五日(火)午後六時半
 場所 SKプラザ地下ホール(東京・飯田橋東口五分)

プログラム
 ビデオ「レールは警告する」(短縮版上映)
 講演「JR憲法番外地」(佐高信)
 JRの実態報告(JR労働者)
 「週刊金曜日」座談会出席者からの訴え

 主催
 JR千葉支社の菊地さんに対する処分の撤回を求める会 03(3511)3386
 週刊金曜日 03(3221)8527


本の紹介

  
私は「蟻の兵隊」だった ― 中国に残された日本兵

           奥村 和一 (著), 酒井 誠 (著)  岩波ジュニア新書 (537) 価格: ¥777 (税込)

 本紙前号では、山西残留日本兵問題をあつかったドキュメンタリー映画「蟻の兵隊」を紹介した。なぜ、敗戦後も日本兵が中国に残留し、そして国民党軍の一員として共産党軍(八路軍↓人民解放軍)と戦い、帰国後は、「自分の意志で中国に残った」とされたのか。しかし、それは、戦犯指定を逃れようとする現地の日本軍司令官らが、共産党軍との戦いで苦境に立つ国民党軍閥に、日本兵を「人身御供」として売り渡し、自分たちは帰国してしまうために行われた犯罪行為によるものであった。
 その後、元残留兵たちは、軍命令による残留であったことを認めるように裁判闘争を起こしたが、国は、その事実を認めず逆に隠蔽する態度をとり続けている。

岩波ジュニア新書の「私は『蟻の兵隊』だった―中国に残された日本兵」で、奥村和一さんが、映画では十分に展開されなかったことについて語っているので、残留が自発的なものではなく軍命令であったことをしめす部分を引用しておく。

残留日本軍の目的
 
 一九四六年一月下旬におこなわれた団隊長会同に出席していた相楽圭二さん(当時、独混三<北支那派遣軍第一軍独立混成第三旅団>第九大隊大隊長、後に全国山西省在留者団体協議会会長)は、そのときのようすを次のようにのべています。
 旅団命令を補足説明した今村<方策大佐、今村均陸軍大将の弟>高級参謀は、次の通り講話した。
 @日本軍、兵力一万の特務団を編成し、山西省に残留させよ――これは、戦勝国側閻錫山長官の、我が第一軍に対する命令である。その目的とするところは、強大な我が日本軍の戦力に頼って共産軍の進出を阻止し、併せて、戦争中、日本軍が占有し、拡大してきた山西省の尨大な地下資源と勝れた工・鉱業その他の産業を発展させることにより、中国国内建設に利用するものである。
 A我々は軍事・経済・技術の各部門でかれらに協力し、貢献する。その上で我々はその功績にふさわしい報償を、近い将来において、逆に、かれらに要求できる。
 B我々が熱望するのは、無条件降伏によって危殆に瀕している天皇制をあくまで護持することであり、焼野原と化した祖国日本を、早く復興させるということに外ならない。天皇制護持と祖国復興――この二つの悲願を、我々は中国側に訴え、やがて強大になるであろう中国の国際的発言力に頼って、その実現を図るのが、賢明な近道なのだ。
 だから、我々が山西に残留するのは祖国復興のためであり、その礎石になるのである。
 支那派遣軍のうち、最も奥地にいる我が第一軍が、一番おそくまで、復員輸送からとり残されている現状を、居留民輸送と共に解決できる条件となる。
 澄田軍司令官以下拘留されている我々の上官、僚友の戦犯容疑者を、我々は救うこともできる。
 Cこれを要するに、特務団の山西残留という事は、祖国復興の為になる大義と、十余万人の軍主力及び居留民の帰国を促進させ、戦犯をも救うという名分を兼ね具えた大業なのである。
 団隊長各位も、進んで我が残留同志に加盟されるよう熱望する。また、本日の軍命令を部下将兵に徹底させ、一人でも多く残留特務団に参加するよう努力してほしい。
<『終戦後の山西残留元第一軍特務団実録』(残留特務団実録編集委員会編、一九八九年)>

閻錫山と河本大作

 また、日本軍と山西省・閻錫山との特殊な関係についてもふれられている。

 ところで山西省には、日本軍部隊だけではなく一般人も多く残留していました。戦前から石炭、鉄鋼、武器などを生産し、戦後、山西産業から西北実業に名前を変えた軍需会社を中心に、商業、娯楽など、日本人社会を形成するうえで必要な各部門の要員とその家族がいました。残留兵もふくめて山西省全体で約五〇〇〇人が住んでいました。こうした日本人社会を取り仕切っていたのが「日僑倶楽部」という組織です。第一〇総隊も、日僑倶楽部の一構成部門としてあり、統括責任者をしていたのが、戦前から山西に移って、影の力を発揮していた河本大作です。河本は日本人居留民会の会長も務め、その意味では居留民の大ボスでした。……彼は元関東軍の高級参謀で、張作霖爆殺事件(一九ニ八年)を起こした首謀者だったため退役させられ、その後、満州炭砿理事長などをしていました。しかし、一九四二年に山西産業の社長に就任し、当時、山西省の軍閥であった閻錫山との関係修復に担ぎ出されたのです。その関係修復とはなんだったのかを話すまえに、一九四〇年以来おこなわれてきた日本軍の秘密工作にふれねばなりません。
 じつは日本は、中国ではげしくなっていた抗日運動の力を弱めるために閻錫山を取り込もうと考えていました。そのため、閻錫山軍を育成することなどを秘密裏に約束していました。ところが、この取り引きを日本側が暴露してしまったため、閻との交渉は断絶していました。困りぬいた日本側は、閻と旧知の間柄だった河本大作を山西に呼んで、閻との交渉再開をはかろうと考えたのです。この工作は陸軍にとってきわめて重要な事項だったようです。表向きは、河本と陸軍大学校の同期で第一軍司令官であった岩松義雄中将(澄田司令官の前任者)の要請を受けたかたちになっていますが、もちろん大本営の意向にそってのことと思います。この河本大作と閻錫山との話し合いによってよりがもどされたのです。
 日本の敗戦によって日本軍は閻錫山に降伏し、山西省のすべての鉱工業は彼に返されました。そして、山西産業は西北実業と名を変えますが、河本大作はひきつづき顧問として実権をにぎっていました。閻錫山は日本軍の力を借りて、山西の共産化を防ぎ、産業を発展させ、かつてと同様に、省の実権をにぎることを夢見ていました。日本軍が残留したことの背景には、このような事情がありました。

発見された資料

 奥村さんは、防衛庁防衛研究所資料閲覧室(山西残留関係は柚文庫としてまとめられていた)をはじめとして日本だけでなく中国でも資料調査を進めていくが、その中に、特務団すなわち残留部隊を編成せよという極秘扱の作戦命令、閻錫山が第一軍に徴用令を出したのをうけて第一軍が隷下部隊に出した電報などを発見する。それらを証拠として裁判が続けられるのだが、国の対応は前に見たとおりだ(裁判の判決については本紙前号の映画紹介欄を参照)。

 紹介が軍命令関係に片寄ってしまったが、この本では、普通の人間を人殺しにつくり上げていく日本軍の実態、解放軍の捕虜政策、日本政府の対応など興味深い記述が多い。日本が再び戦争の道を歩みはじめた今、岩波ジュニア新書として本書が出され、若い人が戦争の真の姿を知るようになることはきわめて重要なことだ。若いひとだけでなく、多くの人に読まれるべきものだろう。(MD)


複眼単眼

   
軽薄首相の5年間  驚くべき無知

 いささか旧聞に属する話だが、毎日新聞五月十二日「記者の目」で政治部の伊藤記者が書いていることだ。

 五年前、小泉純一郎首相が自民党総裁に選ばれることが確実になった前夜、山崎拓前副総裁から聞いた小泉評は忘れがたい(もう時効と考え、山崎氏にはオフレコ解禁をお許しいただこう)
「いいか、君たちびっくりするぞ。三〇年も国会議員をやっているのに、彼は政策のことをほとんど知らんぞ。驚くべき無知ですよ」
 すぐ、それは証明された。記者会見や国会審議で、小泉首相は集団的自衛権とは何か理解していないことが露見したのだ。憲法を変えるの変えないのと迷走し、陰で家庭教師役の山崎氏は四苦八苦していた。
 戦後の平和がよって立ってきた安全保障の基礎にまったく無関心だった小泉首相が、その三年後、自衛隊を初めて海外の戦地に派遣した。「不戦の誓い」を口にして毎年、靖国神社を参拝した。派遣の基準は「常識」、参拝の理由は「心の問題」と言い張って。私は五年経った今も、小泉首相は集団的自衛権を説明できないのではと疑っている。これらが外交・安保における小泉改革だった。

 これが小泉首相の政策の特徴と言われるワンフレーズ政治の実態だ。この底の浅さによる「わかりやすさ」はメディア戦略などと言う「高尚な」ものではなく、驚くべき無知から来ているのだ。この国は五年にわたってこうした無知な首相をトップにいただいてきた。
 日米首脳会談に行ってプレスリーの物まねをやってのけ「プレスリーの邸宅に行っているときテポドンを撃たれたら格好悪いだろう。かえってきてからで運がよかった」などという小泉首相が「北朝鮮の制裁」を叫ぶのであるから、危なっかしいことこの上ない。
 首相がこうなら閣僚も同じだ。
 六月二九日、防衛庁で「地球温暖化に関する特別講演」をやった小池百合子環境相は「環境と安全保障」についてこういった。
 「陸海空の自衛隊からの二酸化炭素の排出量について、正確な推計は承知しておりませんが、数百万トンにのぼるのではないか。ハイブリッドの戦闘機とか燃料電池の戦車(タンク)があるのかどうかはわかりませんが、環境という観点からのさまざまな発想は、安全保障の面でも大きな効果をもたらします」と。
 イヤハヤ、マッタク、ナンノコッチャとしか言いようがない。この程度のレベルで環境相なのだ。
 例のジャンケンが大好きな武部幹事長も含めて、「類は友を呼ぶ」というのか、麻生外相然り、中川農相然り、竹中総務相然りで、小泉首相の取り巻きにはこうした薄っぺらで、こざかしい連中が実に多いのだ。
 私たちはこの際、小泉内閣の五年間に徹底した決着をつけなくてはなるまい。(T)