人民新報 ・ 第1218号<統合311(2007年2月5日)
  
                  目次


● 改憲・格差拡大の安倍内閣に反撃しよう!

● 全力で労働法制改悪阻止へ!

● 兵庫県伊丹で日米指揮所演習反対  「ストップ!ヤマサクラ 」

● WORLD PEACE NOWがシンポジウム  板垣雄三さん「イランへの攻撃は近い」

● 日本経済の帝国主義的高揚と安倍政権  ( 関 考一 )

● 雑誌「SAPIO」にみる反米・反安倍右翼の動向  社会的格差と日米同盟のための改憲をめぐって

● 映画 / 「トンマッコルへようこそ」

● KODAMA  /  自民党って社会主義政党だったの!

● 複眼単眼  /  改憲手続き法案と表現の自由問題



改憲・格差拡大の安倍内閣に反撃しよう!

安倍が改憲国会宣言

 一月二十五日、通常国会がはじまった。二六日、安倍晋三首相は昨秋の内閣発足以来初の施政方針演説を行った。それは憲法改悪を前面に押し出したきわめてタカ派的色彩の濃い反動的な戦闘宣言であった。
 安倍は「憲法を頂点とした、行政システム、教育、経済、雇用、国と地方の関係、外交・安全保障などの基本的枠組みの多くが、二十一世紀の時代の大きな変化についていけなくなっていることは、もはや明らかです」として「今こそ、これらの戦後レジームを、原点にさかのぼって大胆に見直し、新たな船出をすべき時が来ています」「新しい国創りに向け、国の姿、かたちを語る憲法の改正についてついての議論を深めるべきです。『日本国憲法の改正手続きに関する法律案』の今国会での成立を強く期待します」と改憲を前面に掲げ通常国会を「改憲国会」にする決意を示した。また新成長戦略、再チャレンジ、教育再生、行財政改革、主張する外交をあげた。「戦後レジーム(体制)の見直し」で「美しい国」を実現するというわけだが。実は、アメリカの戦略に日本を組み込み日米一体での戦争体制作りであり、多国籍化した大企業のいっそうの儲けと労働者・市民に犠牲をしわ寄せする自民党政治の継続・拡大なのであり、それを強力に推進しようとするものだ。

急落する安倍の支持率

 しかし、安倍内閣の直面する問題は大きい。各種世論調査でも軒並み支持率の低落・不支持率の上昇が報じられている。
 産経新聞は自社系のFNN(フジニュースネットワーク)世論調査について一面トップ(一月三十日)で報じた。
 「FNNが二七、二八の両日に実施した『政治に関する世論調査』で、安倍内閣の支持率は三九・一%で、不支持が四〇・九%と逆転したことが二九日、分かった。…安倍内閣の支持率は昨年一一月から一二月にかけて実施した産経・FNN合同世論調査(四七・七%)から八・六ポイント減少、不支持は二七・七%から一三・二ポイント上昇した」。
 そのうち安倍が評価されているという「教育改革」でも、評価するが三七・二%なのに評価しないが三九・一%と否定的な声の方が多い。「防衛庁の省昇格」は評価する三六・三%、しない三七・三%、「政治改革」はする二四・七%、しない四四・一%、「経済政策」はする一七・二、しない五〇・二%。そして「政策実行の優先順位」ではする二二・八%、しない四〇・二%となっていて、「通常国会で最優先すべき課題」は@教育改革(二〇・六%)、A年金問題(一九・三%)、B経済格差是正(一八・九%)、C景気対策(一〇・一%)、D政治とカネの問題(八・〇%)、E少子化対策(五・八%)、F外交・安全保障問題(四・五%)、G憲法改正(三・八)…と続いている。そして柳沢伯夫厚労相の女性を「産む機械」と言う暴言をはじめ閣僚のスキャンダルが続出している。安倍は、階級・階層分化の進行、都市と農村の格差拡大という大衆的な不満の広がりの中で孤立しているのである。一昨年の郵政マジック総選挙で小泉を圧勝させた都市若年層も安倍離れを加速し、地方の自民党支持基盤も崩壊しつつある。

院内集会で闘争始動

 安倍は、小泉のような「幻想」なしに改憲と格差拡大の政策を強行しようとしている。
 国会開会日、衆議院議員会館で「改憲手続き法案を廃案へ!院内集会」が開かれた。この間、思想・信条・政治的立場の違いを超えて憲法改悪反対の共同行動を進めてきた「五・三憲法集会実行委員会」(憲法改悪阻止各界連絡会議、「憲法」を愛する女性ネット、憲法を生かす会、市民憲法調査会、女性の憲法年連絡会、平和憲法二一世紀の会、平和を実現するキリスト者ネット、許すな!憲法改悪・市民連絡会)は、この通常国会にむけてさらに大きな運動を起こすためにこの集会を開いたが、会場は市民と国会議員など二〇〇人以上が参加し超満員となった。

 主催者を代表して高田健さんがあいさつ。
 安倍政権は改憲に向けてこの国会で改憲のための手続き法案を成立させようとしている。今日の集会をはじめに非常に緊張した運動をつくりあげこれを阻止していかなければならない。当面の行動としては、二月八日、二月二二日の昼に衆院議面での集会、三月二日には、日比谷野音での大集会を呼びかけたい。国会内外で闘いを強めよう。
 福島瑞穂社民党党首の発言。
 国会が始まった。これから六月二十三日までの一五〇日間が勝負だ。この国会には、改憲手続き法案、教育改悪のための三法案、共謀罪新設法案、密告奨励のゲートキーパー法案などをはじめ数々の悪法が提案されようとしている。野党共闘をしっかり固め、国会外の運動とむすびついて安倍内閣と闘おう。
 志位和夫共産党委員長の発言。
 安倍内閣は日米同盟を血の同盟にしようとしている。イラクをみればはっきりする。ブッシュの無謀な戦争は破綻した。そうした戦争を共に戦うようなことのないようにするために九条を守りぬかなければならない。
つづいて、日弁連憲法委員会、日本青年団協議会、宗教者、ピースボート、航空安全会議などからも闘うアピールが行われた。
いよいよ、通常国会が始まった。安倍改憲内閣と対決して、闘い抜こう。


全力で労働法制改悪阻止へ!

 通常国会がはじまった一月二十五日、柳沢厚生労働相は労働政策審議会労働条件分科会に「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」と「労働契約法案要綱」を諮問した。これら法律要綱は昨年十二月二十七日の「建議」の内容と変わるものではない。
 「長時間労働・サービス残業」を合法化する日本版ホワイトカラー・エグゼンプション導入のため、また経営者が一方的に決定できる就業規則を労働契約とするなどをはじめとした労働法制の改悪は、財界そしてアメリカからの強い要求で推し進められている。だが、その実態があきらになるにつれて多くの反対の声が上がってきている。政府与党は、今年の各種選挙を前に、それらが一段の格差拡大になると見て有権者が反自民の投票行動にでるのをおそれている。安倍をはじめ政府・与党からは「まだ十分理解が得られていない」などの口実でこの問題が論議の的になるのを避けようとしている。一部マスコミによる、今国会への法案提出を断念したなどという報道もあるが、厚労省は決して通常国会での労働法制改悪をあきらめてはいない。油断せず労働法制改悪阻止のため「労働国会」を戦いぬかなければならない。

 一月二十四日、総評会館で日本労働弁護団主催の「『労働法制国会』を闘おう!〜日本版エグゼンプション断固阻止、人間らしい労働時間法を、役に立つ労働契約法を」集会が開かれた。
 はじめに労働弁護団の鴨田哲郎幹事長が「労政審『答申』の内容と問題点」と題して講演した。
 国会からは民主党の小林正夫参議院議員があいさつ。ホワイトカラー・エグゼンプションには多くの人が反対している。自民党はパート労働法で多くのパート労働者が救われると宣伝しているが、実際に対象となるのはほんのわずかだ。民主党はこの国会を「格差是正国会」と位置づけて闘っていく。
 つづいて社民党の保坂展人衆議院議員。政府は労働法制改悪を強行してきているが、この年末年始で世論に火がついた。この国会は、憲法改悪に反対する国会であるが「労働国会」「雇用国会でもある。まずは、法案を提出させないための闘いに全力をあげよう。
 共産党の佐々木憲昭衆議院議員。与党は、定率減税をやめ、一方で企業減税をすすめようとしている。そして労働法制の大改悪だ。だが、労働組合の反対運動が拡大し、鍔ぜり合いの状況になっている。


兵庫県伊丹で日米指揮所演習反対  「ストップ!ヤマサクラ 」

 一月二十一日、兵庫県伊丹市にある自衛隊伊丹駐屯地近くの昆陽池(こやいけ)公園において「ストップ!ヤマサクラ51」大集会が開催されました。

 大寒の寒さを跳ね返す熱気のもとで、この行動には地元の方を初め各地で反戦や憲法改悪に反対されている人びと約八〇〇名が集まりました。
 集会では熱い連帯アピールや各地の闘いの報告があり、戦争準備を押し進める日米合同軍事演習をストップさせるために、世論を盛り上げ、非暴力を掲げて運動を展開しました。
 また、合唱団や歌舞団が集会の雰囲気を大いに盛り上げました。
 共産党や社民党をはじめ、戦争反対や憲法改悪に反対する方々からの熱のこもった発言が続きました。
 集会の後は、自衛隊中部方面総監部までデモを行いました、
 米兵に対しても、集会決議などを英語で読み上げてアピールをしました。
 防衛庁から防衛省、憲法改悪を宣言する安部政権に絶対許さない闘いを続けていきましょう。
(大阪通信員)

* * * *

ヤマサクラ51とは

 伊丹駐屯地では、二〇〇〇年一月に「ヤマサクラ37」が行われ、昨年一月には熊本駐屯地で「ヤマサクラ49」が、二月には陸海空自衛隊と統合幕僚監部と米軍の参加で、指揮所演習が東京の市ヶ谷・横田で行われた。
 日米軍事一体化の下で、集団的自衛権行使の具体化が進行しているが、ヤマサクラ演習はそのもっとも中心的なものである。ヤマサクラ演習には、米陸軍第一軍団が参加し、事実上、これが中心となり、自衛隊をその指揮下において展開される。日米両政府は、神奈川県のキャンプ座間に米陸軍第一軍団司令部機能を移転させようとしているが、これは日本をアメリカ世界戦略展開の前線基地にし、自衛隊兵士を最前線に投入しようとすることのあらわれである。

 陸上自衛隊幕僚監部の「平成一八年度日米共同方面隊指揮所演習(日本)の概要について」によると、ヤマサクラ51は、「目的」を「陸上自衛隊及び米陸上部隊が、それぞれの指揮系統に従い、共同して作戦を実施する場合における方面隊以下の指揮幕僚活動を訓練し、その能力の維持・向上を図る」こととし、「実施部隊」では、自衛隊側は「統裁官に中部方面総監・折木良一陸将、中部方面隊等約三四〇〇名」、米軍側は「統裁官に第一軍団長・ジェームス・M・デュービック陸軍中将、第一軍団、在日米陸軍司令部、第九戦域支援コマンド、第三海兵師団等約一四〇〇名」で行われる。

ストップ!ヤマサクラ51(日米共同指揮所演習)大集会決議
 
 わたしたちは、自衛隊とアメリカ軍の軍事演習に反対するためにこの集会を開きました。「日米共同方面隊指揮所演習反対」の一致点のもとに、さまざまな人々が今日ここに集いました。
 二月四日から二月十六日までの十三日間、この伊丹市の自衛隊中部方面総監部で、自衛隊とアメリカ軍共同の五十一回目の軍事演習が行われます。今回は自衛隊から約三四〇〇人、アメリカ軍からは約一四〇〇人、合計四八〇〇人の軍事演習です。
 七年前の二〇〇〇年に伊丹で行われたヤマザクラ37の一・五倍の大規模演習です。この演習は、実戦を想定して、日米の指揮官・参謀・通信部隊が、コンピューターによって戦争の作戦を行うものです。
 新年早々の一月九日、防衛庁は、ほぼ半世紀を経て、「防衛省」に昇格しました。安倍総理大臣は、その記念式典で、防衛省への昇格を「新たな国造りを行うための第一歩」と位置づけ、自分の内閣で成立させたことを誇りに思うと述べました。
 防衛庁から防衛省に格上げされたことによって、イラク派遣などの自衛隊の海外活動は「本来任務」となり、これからは自衛隊の海外への派遣、派兵が堂々と行われることになりかねません。自衛隊が、アメリカ軍と一体となって世界各地の戦争や軍事行動に参加していく道が今拓かれようとしています。
 先の戦争の反省に立って、わたしたちは、「憲法第九条」で、戦力を持たないこと、国際紛争の解決の手段として戦力を使わないことを固く誓いました。ところが、今、安倍総理は憲法「改正」を前面に掲げ、アメリカの国際戦略に追随して、自衛隊を戦場に送る道を開こうとしています。
 二一世紀を迎え、わたしたち人類は解決すべきさまざまな課題をかかえていますが、その解決の根本は、平和な、戦争のない国際社会の実現です。今日、ここに集まった人々の思いはひとつです。今こそ憲法第九条の精神を世界中に広め、平和的な外交による国際社会を実現していくことが求められています。よって、わたしたちは、戦争を想定した軍事演習に断固反対し、日米共同指揮所演習、ヤマザクラ51を中止することを強く求めます。
 以上、決議いたします。
 
 二〇〇七年一月二十一日


WORLD PEACE NOWがシンポジウム

   
 板垣雄三さん「イランへの攻撃は近い」

 一月二十七日、文京区民センターで、WORLD PEACE NOW主催の「イラク・パレスチナ・中東間題を考えるシンポジウム〜世界はどう関わっているか!私たちに何ができるか!」が開かれた。
 藤屋リカさん、(日本国際ボランティアセンター)、板垣雄三さん(東京大学名誉教授)、土井敏邦さん(ジヤーナリスト)が発言した。

 板垣雄三さんは「世界戦争がはじまろうとしている」と題して次のように講演。

 昨年の半ばころから、アメリカとイスラエルがすぐにイランを核攻撃するのではないかという論調が強まった。そのときには、事態をもう少し冷静に見るべきだと主張してきたが、ここに来て、きわめて危険な状況となってきた。今日の話のタイトルも「世界戦争がはじまろうとしている」としたのはそうしたことをあらわしたいからだ。
 一月十二日に、ブッシュは新イラク政策を発表したが、これは大変なものだ。イラクからの撤退ではなく、二万人の増兵ということだ。だが、これを日本のマスコミなどは、単にイラクだけのこととして報道した。だが、ブッシュはイラクでの「テロ」の激化の背後にはイランとシリアがいる、そしてこれらの支援を排除し、とくにイランの核保有を阻止するために行動するといっているのだ。ブッシュの新政策は単にイラクを対象にしているのではない。そこが日本では理解されていない。アメリカはもとよりヨーロッパでも事態を深刻に捉えるメディアが多い。

 すでにいろいろなことが起こっている。パレスチナからレバノンへと戦争を拡大するイスラエルとアメリカの関係の緊密化にくわえて、チェイニー米副大統領がサウジアラビアに飛んで何事か相談した。アメリカは国内での新たな戦争の準備を進めるとともに、大量のバンカーバスター爆弾をイスラエルに与え、NATOには核爆弾を供与した。イスラエルはレバノン攻撃ではクラスター爆弾をばら撒いた。
 こうしたことは、アメリカが対テロ戦争を第二段階に移行させようとしていることを物語っている。昨年、新たに二つの核保有国ができた。ひとつは北朝鮮だが、もうひとつはイスラエルだ。ラムズフェルドに変わって米国防長官になったゲイツは昨年十二月七日、イランの核保有の動きはイスラエルの核に対するものだ、ポロっと言った。それを受けて、イスラエルのオルメルト首相も平気で核保有を認める発言を行った。イスラエルの核については何十年も前からその疑惑が取りざたされてきたが、イスラエルは「持っているとも持っていない」とも言わない政策をとり続けてきた。それが、アメリカと口裏を合わせるようなこうした発言だ。これは、イランを核攻撃するという伏線にほかならない。増派された二万人がバグダッドではなくイランに攻め込むかもしれない。イスラエルの急襲なのかもしれない。すでにイスラエルの潜水艦がペルシャ湾に入った。奇襲は航空攻撃の可能性が高いが、海中からの核ミサイル攻撃になるかもしれない。問題はどう開戦の口実を作り出すかだ、アメリカはベトナム戦争のとき、ありもしないトンキン湾事件をでっちあげて北ベトナムを攻撃した。また、米軍をカンボジアに侵攻させ戦争を拡大した過去を持っている。最近もイラク北部クルド人地域のアルビルのイラン領事館の五人が米兵に連れて行かれる事件が起こった。口実はイラクの「テロ」を支援しているということだ。かつて一九七九年のイラン革命のときテヘランの米大使館が占拠され館員が人質になったとき、アメリカはイランを外交的常識を破るものと非難したが、それをアメリカがやっている。
 ブッシュの新政策発表の直前にホワイトハウスの記者団への説明でも、中心のテーマはイラクではなくイランであると言っていた。すなわち、一月十二日のブッシュ発言は、公然たるイラン核攻撃宣言だったのである。問題は、いつなのか。ひとつには戦争をやるには気候条件・季節の問題がある。そして国連のイラン制裁決議の期限が二月下旬で切れる。そうすると、イラク開戦の時期と同じく、三月半ばというのがあぶない。
 米中間選挙で民主党が勝利したので、戦争拡大はないだろうという意見があるが、例えばヒラリー・クリントン上院議員などはイスラエルにべったりの姿勢だ。
 こうした戦争の拡大となれば、イランを支持するシーア派の反米攻撃は世界各地で起こるだろう。それだけではない。ホルムズ海峡は閉鎖され、湾岸石油の輸送はストップする。世界のエネルギー事情は大混乱に陥り、日本などはお手上げになる。アジア全体の情勢にも根本的な変化がおとずれる。なぜアメリカはこうしたことをやるのか。それはイスラエルが崩壊の危機に直面しているからだ。
 このような状況を見るのには、日本中心の視野では駄目だ。次の三つのものが必要なのではないだろうか。それは世界の連関構造を見抜く「勉強」、人間および森羅万象の尊厳を侵害する反倫理的行為を拒否する「覚悟」、世界に開いた市民自身の主体的インテリジェンスのための「ネットワーキング」だ。


日本経済の帝国主義的高揚と安倍政権

                   
関 考一

 最近の日本経済の動向をみることによって、その強さの基盤とそこから生じる政治的傾向を掴み、そしてまたその負の面としての脆弱性を分析することは極めて重要と考える。

 二〇〇五年度の日本の経常黒字額は前年度比三・九%増の一八兆九二一三億円で四年連続増加した。このうち、所得収支は三〇・三%増の一二兆五六三四億円の黒字で、初めて一〇兆円を突破し、貿易黒字(二七・一%減の九兆五八八八億円)を越えた。これは所得収支の統計を取り始めた一九八五年以来初めてで、事実上、戦後初である。所得収支とは、日本企業や投資家が海外から受け取った債権利子や株式配当額などから海外に支払った額を差し引いたものであり、モノ(商品)の取引である貿易収支の黒字を約三兆円上回った。
 所得収支の黒字は、対外保有資産が増えたことにより、国内に比べて利回りの高い米国債やユーロ債などの利子収入が増加しているほか、日本企業の海外子会社の業績が好調で、海外からの配当収入も増えていることが背景にある。
 そしてまた昨年の日本車の海外生産台数は暦年ベースで初めて国内生産を上回る見通しとなった。
 こうした傾向は「日本経済が成熟化に向かっていることを示している」などと評価されている。

 しかしマルクス主義の観点からこの日本帝国主義の「貿易収支を上回る所得収支の黒字」とは、どのような意味を持つものであるか見る必要がある。
 レーニンは「帝国主義論」の中で帝国主義の定義として有名な五つの基本標識を示しているが、その中の一つとして「(三)商品の輸出とは異なる資本の輸出がとくに重要な意義を獲得していること。」(第七章 資本主義の特殊の段階としての帝国主義)をあげている。   
 「基本的な純経済的概念」(同前)であるこの五つの指標に照らせば日本が長らくクリア出来なかった(三)の条件を満たしたということであり、帝国主義国として「成熟化」し「普通の国」となったということを意味している。
 小泉政権以来、顕著になってきた新自由主義的「構造改革」路線とは、こうした日本の帝国主義的な資本の海外進出を政治的・経済的に促進するためのものでもある。 
 半導体シリコン・塩化ビニール樹脂で世界シェア一位の化学独占資本である信越化学工業の金川社長は「中米ニカラグアで塩化ビニール製造工場を設立したが…サンディスタ民族解放戦線による革命が勃発した。独裁政権が米国の力を借りてでも鎮圧してくれることを願った…十年以上かけてよい会社に育てたのに革命で突然なくなってしまった。」(日経『私の履歴書』〇六・五・一八)(傍線 関)と赤裸々に独占資本家としての本音を述べている。
 こうした例が示すように日本独占資本は、海外に展開した自らの資本と利益を確保するため、自衛隊の海外派兵の推進や「防衛省昇格」そして「憲法改正」の主眼である「九条改正」を実現しようとする帝国主義的衝動にかられているのである。
 又、レーニンは資本の輸出が重要な意義を持つことに対し「帝国主義のもっとも本質的な経済的基礎の一つである資本の輸出は、金利生活者層の生産からのこの完全な断絶をさらにいっそう強め、海外のいくつかの国々と植民地との労働を搾取することによって生活する国全体に、『寄生性』という刻印をおす。」(同前 第八章 資本主義の寄生性と腐朽)とすると共に「このような巨額の超過利潤(というのは、この利潤は、資本家が『自』国の労働者から搾りあげている利潤以上に余分に得られるものだから)の一部で労働者の指導者と労働貴族の上層とを買収できることは明白である。そして『先進』諸国の資本家は、彼らを現実に買収している――直接および間接の、公然および隠然の、種々さまざまの方法によって、買収している」(同前 フランス語版およびドイツ語版への序文)としている。
 この指摘こそ私たちが眼前にしている年間で一二兆円を越す超過利潤を海外から揚げている日本帝国主義の姿でもある。
 小泉政権の五年に亘る存続と「郵政民営化」を掲げた衆議選において都市部を中心とする大勝や極右の石原都政の跋扈、そしてまた「憲法改正」を掲げる安倍政権の成立などは、こうした帝国主義的超過利潤の一部が、海外展開を主とする独占資本の本社・工場の集中する大都市部の一部の中・小資本家階級や労働貴族・労働者階級の上層部などにばら撒かれていることにその経済的基礎があるのである。
 前出の信越化学工業社長 金川千尋氏はまた「(労働)組合の幹部が驚くほど経営をよく理解し、会社を発展させるために熱心に取り組んでくれている…」(日経 『私の履歴書』 〇六・五・三一)(傍点とカッコ内は関)と述べているが、現在の帝国主義的労働運動の実態が如何なるものなのかを余すところなく示している。


雑誌「SAPIO」にみる反米・反安倍右翼の動向

   
社会的格差と日米同盟のための改憲をめぐって

 本紙前号に「アメリカとの関係をめぐって拡大する右翼内部の亀裂」を書いたが、今回は経済政策と改憲問題での右派潮流内の動きを見てみたい。
 小学館発行の国際情報誌『SAPIO』は、右派言論のひとつだが、対象は若者層である。若年層の不満に取り入り、それを政治の反動化・排外主義の方向に導く役割をはたしている。影響力はかなり大きく、この雑誌がどのような論調でいるのかは無視することができないものだ。
 二月十四日号の特集は、「ニュープア(新貧民)の『反乱』―『年収一〇〇万円時代の到来』から「『北朝鮮飢餓絵図』まで、これが格差社会のなれの果てだ」である。
 編集部による特集の前文はつぎのようなものである。

 すでに「好景気」という言葉が、国民の生活の向上を意味するものでなくなって久しい。「いざなぎ超え」といわれる戦後最長景気に沸くのは、軒並み過去最高の収益を上げる企業のみ。個人にとって「実感のない景気」というのも戦後最長となってしまった。かつて終身雇用と年功序列賃金という日本型経営のもと、個人にとって景気の影響は企業と一体であった。だが、バブル後徐々に進行した正社員から非正規社員主体という新たな雇用形態は、個人と企業を完全に分断した。いまや企業に見放された非正規社員の数は国民の四割近くまで急増している。そして漂流する彼らが目の当たりにするのは、働けど生活すらままならない「ワーキングプア」の現実であり、多重債務者三五〇万人という「借金社会」なのである。正社員への望みが絶たれた彼らに、「再チャレンジ」の機会があるはずもない。もはや「反乱」という手だてしかのこされていないのか。一度転落すれば、這い上がることのできない「ニュープア」の最新事情をグローバルな視点からレポートする。…

 この編集部は。いまの状況を「反乱」前夜と捉えているようだが、「『年収三〇〇万円時代』は甘かった!『地獄の年収一〇〇万円時代』が始まった」でエコノミストの森永卓郎は、つい最近まで自らが主張してきた「年収三百万円時代」などというのは間違いで、「実際に到来したのは…『年収一〇〇万円時代』だったのだ。いまや国民の四割近い非正社員の平均年収は、統計によって違うが一〇〇万円〜一二〇万円程度である。…家計がこれほど厳しい状況にあるというのに、今、政府がやろうとしていることは、空前の利益を上げている企業の法人税を減税して、家計崩壊の危機に瀕している個人に定率減税の廃止を実施するのである」と書いている。そのほかにも「働いても生活保護以下(年収二〇〇万円未満)、激増する働き盛りワーキングプアの蟻地獄」「景気回復で解決するのか!百花繚乱『格差大論争』早分かり」「消費者金融とギャンブル業者が債務者を身ぐるみかっ剥ぐ『下流喰い』最前線」「四〇%の貧民層を抱える中南米が手にした『左派政権』の二大潮流」など、安倍政権・財界への批判がつづいている。出版社がこうした特集を組むのは、これが読者層のニーズに合うからだ。そうしなければ雑誌は売れない。
 大資本のための市場万能主義の蔓延は社会的格差の拡大をもたらした。一昨年の総選挙では小泉に投票した都市若年層に変化があらわれ、切り捨てられた地方では草の根保守層の中からも安倍政権に対する批判が強まっている。これらは参院選をはじめ各種選挙での激変を予想する材料になっているのである。
 同誌の右翼漫画家小林よしのりの連載「ゴー宣・暫」は、フセイン処刑と憲法改正問題をテーマにしている。そこで、小林は、「護憲派」ではないが、「現時点での憲法改正に反対」の立場をとると宣言している。本紙読者はあまり『SAPIO』の読者にはいないと思われるので、長くなるのを覚悟して引用しておきたい。敵内部の重要な亀裂の拡大だと思うからだ。

 朝日新聞は元日の社説で、小泉前首相が誇ったように、自衛隊のイラク派遣で「一発の弾も撃たず、一人の死傷者も出さなかった」のは、交戦状態に陥ることを避け、人道支援に徹したからだと書いた。それは憲法九条があつたからだと。『論座』に出たあとで、朝日新聞に同意するのは誤解される恐れもあるが、この点は確かにその通りと言うしかない。もし名実ともに軍隊をもち、その役割を拡大させていたら、イラクでも英国軍のように初めから戦争参加を迫られていただろう。そうなれば、一発の弾も撃たないではすまない。間違った戦争となれば、なお悔いを残したに違いない。正しい! 九条が改正されていたら、米英軍と一体になって侵略者の汚名を着たはずだ。イラク人を何人殺し、日本兵は何人殺されたことか? 言っておくが、今の日本人にはアングロサクソンのような荒っぽさ、野蛮さがないから、敵味方の区別が難しいテロ攻撃に対して、日本兵は躊躇してしまい、多数の死者を出すだろう。……主体性を完全に喪失した今の日本、日米同盟・絶対主義、アメリカ追随の日本では、憲法改正は米英と共に侵略戦争にも加担する「醜い国」をつくる契機になりかねない。憲法改正か「自主独立」のためでなく、「日米同盟の強化」のためのものであり、米国の属国化を進めるものならば、わしは「護憲派」にはならないが、『現時点での憲法改正に反対』の立場に回らねばならない。「米軍再編」もわしは懸念している。日本列島を中国や朝鮮半島やロシアと対峙する「本土・アメリカの前線」とするわけにはいかない。……日本はアメリカ本土を護る楯となって、核を持つ国々と戦い、ほぼ全滅せねばならないのか? 安倍政権は参院選で「憲法改正」を論点にすると言っている。国民はそこまで考えて憲法改正について議論してほしい。……@侵略戦争もアメリカと共にやるのか? A日本列島をアメリカ本土の防衛の楯として利用するのか? この二問に明確な解答が得られぬ限り、わしは憲法改正には慎重な姿勢をとらざるを得ないだろう。イラク戦争支持の反省は絶対に必要である。「不義の戦争には巻き込まれたくない!」と言える胆力も決断力も理想も持っていないで、憲法改正して何がしたいというのだ?……自主独立を目指す憲法改正なら賛成する。だがアメリカのイラク侵略を率先して支持した日本政府の反省の弁が聞かれない限り、「侵略戦争も日米同盟で」という目的のための憲法改正だと疑われても仕方がない。

 憲法問題で日米同盟という軸をめぐって右派の対立は一段と拡大し、安倍政権のアメリカとともに(アメリカのために)戦争をおこなおうとする動きは左右さまざまなところから反対が出てきているのである。 (MD)


映画
      「トンマッコルへようこそ」

 
             監督 パク・クァンヒョン   05年 韓国 132分 カラー

 題名のトンマッコルとは韓国語で子どものように純粋なというほどの意味。この映画は二〇〇五年に韓国で公開された内外の作品のなかで最高の観客動員数を記録した。単純に計算すれば六人に一人が映画館に足を運んだということになる。
 一九五〇年代朝鮮戦争のまっただなか、韓国・江原道の「トンマッコル」と呼ばれる架空の村に朝鮮人民軍、韓国軍、国連軍という名のアメリカ軍それぞれの兵士がこの村に迷い込んだことから物語は始まる。
 朝鮮半島の行政単位として、道、郡、面、里、洞などがあるが、ここでいう道とは日本的な感覚では東北地方、北陸地方といった○○地方ともっとも近いだろう。南において全羅道、慶尚道、北においては咸鏡道、黄海道などと区分されるが唯一この映画の舞台となっている江原道のみが南北に分断されている。いや分断という言い方は正確ではないだろう。朝鮮戦争の結果として北緯三八度線付近に休戦ライン(国境線)が設けられ江原道が南北に分けられたのだ。
 この映画の設定として南北の兵士、あるいは連合軍兵士がなにかに吸い寄せられるように村で出会い、当然のことながら最初は敵視しあう。そのうち徐々に心を通わせ、最後に共通の巨大な敵にたち向かうという構図は、現実の政治上ではまったくありえない話だ。しかし、この映画を見終わった後では、そのような可能性をまったく否定しさっていいのかという不思議な感覚におそわれてしまう。
 人間はなぜ争うのか、なぜ戦争をしてしまうのか、同じ民族が、地球上に生息するホモ・サピエンスが対立し殺しあわなければならないのかという根源的な問いかけが、この映画のなかでなされているような気がする。この映画に反発する人は、現実の政治はそんなに甘いものではないとすぐ反論するだろう。たしかにそうには違いない。しかし私はコマーシャルフィルム出身のパク・クァンヒョン監督の思いに少しつきあっていきたい気がする。
 ヨイルと呼ばれる村の少女は闖入(ちんにゅう)者のだれに対しても警戒心をいだかず無垢な天使のようにふるまう。映画のなかで道化役を演じ画面上一種の清涼剤的な存在になっている。現実には知的障害のある少女なのだろうが、映画のなかで気になったシーンをいくつかあげよう。今まで私は映画の表現上スローモーションを多用する映画はどうしても嫌悪感があった。例えば男と女が再会しスローモーション映像でゆっくり抱きあうシーンなどには虫酸が走るほどだった。しかし、この映画のなかでのスローモーション(ハイスピード撮影)は実に効果的に使われている。少女が手榴弾をあやまってトウモロコシ貯蔵小屋に投げ込むと爆発してトウモロコシはポップコーンになって雪のように中を舞うシーンや、農作物を荒らす巨大なイノシシに村の子どもたちがおそわれ、兵士と村人が団結してイノシシに勇敢にたち向かうシーンなど、これほどスローモーションが効果的に使われている映画は私は知らない。ラストシーンでアメリカ兵が朝鮮人民軍の捕虜となっていると誤解した連合軍は秘密裡に村全体の総攻撃を画策する。その気配を察知した兵士たちは村人に犠牲をださせないために、おとり陣地を作って防衛しようとするが、軍事力の差は歴然としていて悲惨な結果に終わるのだが、彼らに悲壮感はまったく政治的立場を乗り越えて静かな生活を送る村人たちの日常をこわさないように力の限りをつくすシーンは感動的ですらある。
 この映画の舞台になっている寒村は、黒沢明監督のオムニバス映画「夢」に登場する周辺の村とまったく隔絶された自給自足の村との類似点に驚かされた。その理想郷には水車小屋があり、妙になつかしさをおぼえる風景なのだが、そこでは死ぬことですら悲しみではないという設定だった。
 なぜ韓国民の六人に一人がこの映画を見たのか、その理由を考えてみた。私なりの結論を言うと、それは南北統一への希求ではないのだろうか。現実がそうでないことから映画のなかでの遠い将来か近い未来かわからないが、心のどこかで夢想したのではないか。「トンマッコルへようこそ」ではなく、いつの日か統一朝鮮の地に人々が、朝鮮半島へようこそ、白頭山へようこそ、漢拏(ハルラ)山へ、ピョンヤンへ、ソウルへようこそ、と全世界に高らかに宣言するためのほんのささいな一里塚となりうる映画だと私はおおげさにではなく思う。 (東 幸成)


KODAMA

    
自民党って社会主義政党だったの!

 産経新聞がつぎのような記事を載せていた。
 塩崎恭久官房長官が、一月二十七日、松山市での記者会見で、「野党が格差問題で安倍政権を批判していることに対し『成長戦略なき結果平等型の格差是正策が言われているが、社会主義的、古い自民党的な発想だ。われわれはそのような戦後レジーム(体制)の象徴的な考え方から決別しようとしている』と反論した」というのである。
 塩崎によると、「成長戦略なき結果平等型の格差是正策」=「社会主義」=「古い自民党的な発想」=「戦後レジーム(体制)の象徴的な考え方」ということになる。地下で眠る古い自民党の面々はさぞびっくりしたことだろう。
 「戦後レジーム(体制)の象徴的な考え方」が「古い自民党的な発想」というのはまぁ理解できる。しかし「成長戦略なき結果平等型の格差是正策」が「社会主義」というのはどこの話だ。ソ連を社会主義というのは厳密に言うと間違いだが、塩崎がブレジネフ時代のソ連をイメージして言っているのならそれにあわせよう。しかしそれは「結果平等型」とは程遠い実態であった。塩崎は旧ソ連をほめすぎている。それはそれとして、「古い自民党的な発想」というのが「社会主義」であったとは新しい定義だ。たしかに、戦後日本では、中央と地方の格差をなくすとか、労働者の賃金が上がったとか、休日が増えたとか、労働時間が短くなったとか、社会保障を充実するとか総じて社会的底辺部分の底上げがあった。しかし、それは、自民党が率先してやったわけではない。労働運動をはじめさまざまの圧力で実現した結果なのである。「古い自民党的な発想」ではそうした圧力を受け入れたのがいけない。だからそうしたものはすべて否定するという意味なのだろう。だが、それでは、内閣支持率は一層低下する。だから塩崎は「安倍政権は成長を図る一方、最低賃金の人たちの支援を行い、底上げを図る」と強調したとも報じられた。最賃より生活保護費が高いからそれを引き下げるという政策もあり、みんながだまされるような最賃の実態でないことだけはたしかだ。(C)


複眼単眼

     
改憲手続き法案と表現の自由問題

 この国会の最重要法案といわれる改憲手続き法案は、昨年の臨時国会で与党と民主党のそれぞれの修正案が出て、目下、共同修正案つくりで合意できるかどうかの局面に入っている。
 しかし、同法案の問題は多々あり、それらはいまだ解決されていない。
 例えば、その典型がテレビ・ラジオなどの電波メディアのコマーシャルの問題だ。
 要するにテレビなどでの「改憲」案への賛否の宣伝の問題だ。いま出されている法案ではこれらのスポット広告は投票日から数えて二週間前は禁止するということになっている。ということは二週間より以前は野放しということでもある。国民投票期間が法案では六〇〜一八〇日となっているから、四六日〜一六六日は野放しということだ。
 この期間はカネのある政党や団体はテレビの一五秒のスポット広告(コマーシャル放送)を買い切ってどんどん流せる。カネのない団体の宣伝はおのずと少なくなる。朝から晩まで「明るい未来のために憲法を変えよう」などと、有名タレントが次々に有権者に語りかけることになる。
 どの時間帯に何本のCMを流すのか。テレビの広告料金の問題だけでなく、製作費の問題もある。有名タレントを使うかどうかなどは、資金量で決定的な差がつく。まさに金持ちの自由、貧乏人の不自由だ。
 改憲派が財界など、さまざまな団体を使ってどんどんCMをやってくる。これらが野放しにされる。
 これらの問題で「公平性」をできるだけ保障するように法案でも考えればいい、などと言うおおざっぱな意見もあるが、誰がどうやったら公平性を保障できるかは、いまのところ誰も明確に言えない状況だ。
 日本新聞協会や民間放送連盟などは、法的規制ではなく、報道各社の自主的な判断に任せるべきだという「自主規制」論の立場をとっている。これは言論・表現の自由と関連して重要なことだし、一般的には尊重されるべきことだろう。しかし、国民投票のCMの問題で、果たして自主規制でうまくいくのか。
 CMの量、時間帯、資金量、CMをする団体の数、などなどこれらを本当に商業メディアの自主規制で公平に調整できるのか。
 また、広告の表現の問題での各メディアの「考査」の問題もある。
 これまで、広告として適当でない」として掲載を拒否されたり、修正を求められたりした例は少なくない。この結果、表現に制限が加えられる可能性がある。
 広告に詳しい、ある人がこう指摘している。
「これは弱肉強食の規制緩和に通じる考え方だ。民主主義や国民の利益を守るための歯止めとしての規制のどこがいけないのか。ドイツでは『ハーケンクロイツ』のマークや旗は一切、法で禁止されているが、あれも言論抑圧か」と。
 考えてほしいものだ。
 ことほどさように改憲手続き法は議論が足りない。今国会で数の力で強行採決するなど、ぜったいに許されない。(T)