人民新報 ・ 第1223号<統合316号(2007年4月16日)
  
                  目次


 改憲手続き法案の強行採決を許すな!

● WORLD PEACE NOWの声明  /  イラク派兵の二年間延長法案に反対します 自衛隊はただちにイラクから撤退を

● 1047名の解雇撤回にむけて大衆運動を強め政府を追い詰めよう

● 第78回日比谷メーデーへ全労協が統一・大結集のよびかけ

● 憲法第九条を輝かせたい」願いをもって、『改憲手続き法案』=『国民投票法案』の廃案を求める「宗教者九条の和」国会請願署名提出の集い・緊急アピール

● 労働者社会主義同盟・第四回全国大会について

● 清水私案(民族解放社会主義革命論)を再読する A

● 複眼単眼  /  沖縄の集団自決削除の検定と戦争をする国への道




改憲手続き法案の強行採決を許すな!

衆院強行通過狙う与党


 安倍晋三は、憲法を自分の首相任期中に変えると公言し、今年七月の参院選挙では政治争点として国民の判断を問うとも言っている。
四月九日、政府・与党は統一地方選前半戦が終了したことを受け、改憲手続き法案や教育関連三法案など重要法案の早期成立に全力をあげる方針を確認した。
 改憲のための手続き法案について与党は、すでに十分審議を尽くし採決の環境は整ったとして、十二日の衆院憲法調査特別委員会、十三日の衆院本会議で与党修正案を可決させるという強行突破の構えである。そして、参院では特別委員会を連休前に三回ほど開いて法案審議を行い、五月の中〜下旬にも参院で採決・法案成立を目指すというスケジュールも語られ始めた。いま手続き法案をめぐる衆院での闘いは最大の山場である。
 一方、民主党は十日に、党憲法調査会総会を開き、与党の改憲手続き法案に対し独自の修正案を決定した。与党修正案が国民投票の対象を憲法改正に限定しているのに、民主党修正案は、その他の重要なテーマにたいする一般的国民投票制とし、改憲や統治機構、生命倫理に関する問題なども対象とするというものである。民主党執行部としては、この民主党の修正案を十分審議すべきで、与党案の早期採決に反対する姿勢である。

民主党修正案の問題点

 だが、この修正案は、最低投票率を設けないことや公務員・教員の「地位利用」による国民投票運動の禁止など与党「修正」案ときわめて近い立場のものでもある。また民主党議員の中には、実質「隠れ自民党員」が多く存在していることからも自民党との対決姿勢は腰砕けになる可能性が高い。
 自民党としても与党単独での採決となれば、今後の政局の激化につながるが、民主党の顔を一定立てながら民主党を抱き込んでの法案成立という形をとり、改憲そのものをスムースに行かせたいという考えがある。そのために民主党抱きこみの水面下での工作が続けられている。

改憲についての世論

 では現在、憲法「改正」問題についての世論の動向はどのようなものになっているのだろうか。
 読売新聞社が三月十七、十八の両日に実施した憲法に関する全国世論調査(面接方式)を見てみよう。それによると、憲法を「改正する方がよい」は四六%で、「改正しない方がよい」は三九%だった。これは、「一九九三年以来一五年連続で、改正派が非改正派を上回った」ことになるのだが興味深い変化が見て取れる。それは、「改正派は昨年調査に比べて九ポイント減り、三年連続で減少した。非改正派は昨年比七ポイント増えた」ということだ。こうした変化を読売は「憲法改正については、安倍首相が強い意欲を示し、改正手続きを定めた国民投票法案が今国会で審議されている。憲法改正が現実味を帯びてきたことで、これまでの改正賛成派の中に改正の動きを慎重に見守りたいとする人が出てきていると見られる」としている。
 賛成派は、その理由に「国際貢献など今の憲法では対応できない新たな問題が生じているから」「憲法の解釈や運用だけで対応すると混乱するから」をあげている。反対派は「世界に誇る平和憲法だから」が最多だった。
 とくに憲法九条では、賛成・反対は逆転する。九条のうち、戦争放棄をうたった第一項については、改正の必要が「ない」が八〇%だったのに対し、「ある」は一四%に過ぎない。戦力不保持をうたった第二項は、改正の必要が「ない」が五四%で「ある」が三八%となった。「集団的自衛権」に関しては、「これまで通り、使えなくてよい」が五〇%、憲法のこれまでの役割を「評価している」は、「大いに」「多少は」を合わせて八五%なのに、「評価していない」は一〇%に過ぎないものだ。改憲派の読売新聞の調査でさえこの結果だ。

九条変えて戦争へ

 マスコミの誘導的なアンケートによる世論調査では、憲法改正についてたずねると改憲派のほうが多いと発表される。その理由として、制定以降六〇年も経ったのだから時代に合わせて変えたほうがいいということがあげられる。しかし、九条そのものに限っての答えは依然として「九条を守る」が圧倒的に多い。しかもその割合は増えているのである。安倍の改憲が危険性を感じる人びとが増加しつつあることのあらわれであろう。
 安倍のやろうとしている改憲はまさに九条を中心としている。それはアメリカ・ブッシュ政権の要求に積極的にこたえ、海外で米軍作戦の一翼を担って戦争することをめざしているのであり、国民の大多数はそれに反対しているのが現状である。それをあたかも時代の要請であるかのように装っているのである。だが、九条改憲に反対する人びとのほうが圧倒的に多数派なのだ。

改憲阻止の大連合を

 自民党の強行しようとしている改憲とは、九条を変えること、とくに九条二項を無くすことだ。
 憲法第九条は「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とし、第二項で「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」としているのである。それを自民党新憲法草案では、九条第一項はそのままとして、第二項を「自衛軍」「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮権者とする自衛軍を保持する。…自衛軍は、第一項の規定による任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び緊急事態における公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる」とするのである。そうした自民党憲法を作るための手順を定める法案は、戦争準備法案であるのだ。

 断固として与党改憲手続き法案、民主党修正案を廃案にするために全力をあげよう。


WORLD PEACE NOWの声明

   
イラク派兵の二年間延長法案に反対します 自衛隊はただちにイラクから撤退を

 三月三十日、安倍内閣はイラク特措法を二年間延長する改悪案を閣議決定し、国会に提出しました。イラク侵略戦争と占領に反対し、自衛隊の派兵にも反対してきた私たちは、安倍内閣のこうした暴挙に強く反対します。
 米国では連邦議会の上下両院ともイラク撤兵法案を可決しています。ブッシュ大統領のお膝元の議会でさえ、占領を終わらせる意思を表明している時、安倍内閣は、こともあろうに国内外で孤立し、追い詰められたブッシュ米大統領をあくまで支えるために自衛隊のイラク派兵を継続しようというのです。なんということでしょうか。
 ブッシュ政権は三万人の米軍を増派しましたが、それはイラクの内戦状況に火に油を注ぐだけでした。すでに四百万人にのぼるイラク市民は難民・避難民はイラク内外で苦境に陥っています。殺された市民の数は十数万人とも数十万人とも言われています。こうした中で、イラクに送られる航空自衛隊の任務は、決して「復興支援」のためではありません。米軍を中心とするイラク占領軍の作戦を支援するためです。
 愛知県の自衛隊イラク派兵違憲訴訟の仲間たちが請求した資料によれば、クウェートの基地からイラク各地に飛ぶ航空自衛隊のC130輸送機が運ぶ物資と人員のうち、復興支援物資や復興のための要員はごく一部で、あとは「墨塗り」になっています。つまり「公開」できないのです。これは空自の主要任務が米軍兵士や軍事物資の輸送であることを物語っています。

 人殺しのための自衛隊の派遣はもう沢山です。ブッシュ政権は、いまイランへの軍事攻撃を仕掛ける機会を窺っています。航空自衛隊のイラク派兵二年間延長は、イラク復興支援に名を借りた破壊と殺戮への加担にとどまらず、米国がイラン攻撃に踏み切った際には戦闘行為に協力させられ、イランへの破壊と殺傷に手を貸すことにもなりかねない危険性をもはらんでいるのです。
 イラクと中東に平和をもたらすためには、すべての占領軍が撤退することが先決です。自衛隊もただちに戻ってこなければなりません。不法な占領をやめることによってこそ、イラクと中東の人びとの平和と復興のための努力を支援することができるのです。
 私たちはイラク派兵特措法を二年間延長する改悪法案に反対し、廃案を求めます。自衛隊をイラクからも、インド洋からもすぐ戻すことを安倍内閣に求めます。

二〇〇七年四月四日


1047名の解雇撤回にむけて大衆運動を強め政府を追い詰めよう

 三月三十日、早朝から全一日のけんり総行動による東京総行動が闘われた。みずほ穂銀行をはじめに総行動がスタートし、二隊に分かれ都庁、朝日新聞社、郵政公社への行動、昼には厚生労働省前で合流し、労働法制改悪に反対する抗議・申し入れ行動を展開した。つづいて国土交通省前に移動し、一〇四七名の解雇撤回のパフォーマンスを繰り広げた。その後、再び二隊に分かれて総務省、教育情報研究所、有楽町総合法律事務所、住友重機、トヨタ、日産へむけて社前行動を闘った。

 夕方からは、日比谷野外音楽堂で、国労闘争団全国連絡会議、鉄建公団訴訟原告団、鉄道運輸機構訴訟原告団、全動労争議団・鉄道運輸機構訴訟原告団の四者、国鉄闘争共闘会議、国労、建交労など四団体の主催による「国鉄改革二〇年、見直そう民営化路線、不当労働行為責任を問い、一〇四七名解雇争議の解決を求める 3・30中央集会」が、一一〇団体、二六〇〇名が結集して開催された。
 主催者を代表して国鉄闘争共闘会議の二瓶久勝議長があいさつ。
 安全、累積赤字などで判るように国鉄の分割・民営化攻撃は失敗している。一〇四七名の解雇問題でも闘いは継続され、二〇〇五年には鉄建公団訴訟で9・15東京地裁判決がでた。それ以降、四者・四団体の総団結をつくってきた。そしてILOも日本政府に早期解決を求める勧告を行なった。しかし、政府・JRは交渉のテーブルにつこうとしない。こうした政府・JRに対しては、裁判闘争と大衆闘争を盛り上げ実力で解決を迫る以外にはない。
 国労本部・佐藤勝雄委員長が、三月下旬に四団体で行なわれたILO結社の自由委員会への要請について特別報告を行なった。
つづいて郵政4・28闘争の勝利報告を、池田実さんと名古屋哲一さんが行い、闘いの継続が勝利をもたらす、闘争を強め一〇四七名解雇問題の早期実現を、と訴えた。
 評論家の佐高信さんが「現代の危機と一〇四七名問題」と題して問題提起した後の当該四者の決意表明では神宮義秋・闘争団全国連絡会議議長、酒井直昭・鉄建公団訴訟原告団団長、川端一男・鉄道運輸機構訴訟原告団代表、川端義明・全動労争議団・鉄道運輸機構訴訟原告団・副団長からの発言に会場からの拍手。
 小倉闘争団家族の田島チサ子さんの家族の訴えがあり、集会アピールを参加者の拍手で確認し、デモに出発した。

 いま、国鉄闘争は、大きな岐路にたっている。四者・四団体の団結、ILO勧告があるとはいえ、政府の側の対応は変化を見せない。政府を交渉のテーブルにつかせるというなら、裁判闘争をもっと強めるとともに、大衆運動を強化し、世論を動かす行動を断固として展開しなければならない。統一した行動は、政府の「善意」に信頼を置くのではなく、政府をして妥協せざるを得ないような状況をつくり出すこと以外にないのである。

国鉄改革二〇年、見直そう民営化路線、不当労働行為責任を問い 一〇四七名解雇争議の解決を求める3・30中央集会アピール 


 本日、私たちは日比谷野外音楽堂で「国鉄改革二〇年、見直そう民営化路線、不当労働行為責任を問い、一〇四七名解雇争議の解決を求める三・三〇中央集会」を開催し、不当な解雇によって人権侵害を受けている一〇四七名の解雇争議を解決させるために、全国から結集しました。

 「国鉄分割・民営化」時の組合差別で不採用になった当事者の平均年齢は、国労闘争団員で五二歳、全勤労争議団では六〇歳に達し、解決を見ることなく志半ばで他界した者は四三名を数えています。

 二〇〇三年一二月二二日最高裁は、JR不採用事件で「JRに法的責任ないとの判断を示したものの、「不当労働行為があったとするならば、その責任は国鉄、次いで国鉄清算事業団が負う」との判決を下しました。
 二〇〇五年九月一五日の「鉄建公団訴訟」に対する東京地裁判決は、「JR採用候補者名簿の作成にあたっての国鉄の不法行為」を明確に認定し、慰謝料の支払を命じました。鉄道運輸機構の責任は免れません。

 国会では、「人道的に放置できない問題」との答弁が繰り返し行われてきました。さらに、内閣総理大臣、国土交通大臣、厚生労働大臣等に宛てられた、JR不採用事件の早期解決を求める地方議会の意見書は、東京都議会、福岡県議会、北海道議会をはじめ全国六八六自治体・一〇三七議会で採択されています。今やこの事件の解決は、国民の多くが求めるところとなっており、政治や行政が手を差しのべることは、緊急の課題となっています。
 さらに、国際的には二〇〇六年一一月一五日、ILO理事会が本不採用事件に関する七度目の勧告を採択し、「ILO援助の受入を真剣に検討するよう要請する」として、政府の責任で早期解決を図るよう促しています。

 JR不採用事件の当事者である一〇四七名被解雇者(四者)と関係四団体は、早期に不採用事件の政治的・全体的解決を図るため、統一して政府・鉄道運輸機構との交渉に臨むことを確認しています。
 この間、二〇〇六年七月一四日には、この紛争の解決を早急に図るよう、国土交通省・鉄道局長に申入れをし、同年九月一四日には、「解決にあたっての具体的要求」を鉄道運輸機構など、関係先に提出しています。

 本年四月一日で、JRは発足から満二〇年を数えます。この節目の年に、積年の問題を解決するために政治と行政は、その責務を果たすべきです。
 そして、鉄道運輸機構は政治的・全体的解決を図るため四者・四団体との具体的な話し合いを進めるべきです。

 私たちは、二〇〇三年一二月二二日の「最高裁判決」ならびに二〇〇五年九月一五日の「鉄建公団訴訟判決」、「ILO条約・勧告」を踏まえ、政府の決断によりJR不採用事件を当事者の納得する内容で速やかに解決するよう、強く訴えるものです。

二〇〇七年3月30日


第78回日比谷メーデーへ全労協が統一・大結集のよびかけ

 統一メーデーをめざし、日比谷メーデーを成功させよう!    働くものの団結で生活と権利、平和と民主主義を守ろう!

 今年も、風かおる季節、メーデーの季節を迎えました。しかし、〇七春闘は厳しい状況が続いており、安倍内閣の下で格差社会が一層深化し、「憲法改悪」「戦争のできる国」への暴走が続くなかでのメーデーです。今年の第七八回メーデーも「統一メーデー」をめざしながらも中央メーデーは「分裂メーデー」として取り組まれます。
 連合系のメーデーは、四月二八日に代々木公園で開催されます。全労連系のメーデーは五月一日に代々木公園で開催されます。統一メーデーを求める労組・団体は、五月一日に「日比谷メーデー」の実行委員会をつくって取り組みを進めています。
 中央メーデーは、労咳再編をうけて、八九年の第六〇回メーデーから分裂メーデーとして開催されてきました。分裂メーデーに反対し、統一メーデーを求める労組・団体は、結果として「日比谷メーデー」として取り組んできた経緯にあります。今年も分裂メーデーとして進行しているなかで、統一メーデーを求める労組・団体は、「日比谷メーデー」の取り組みを進めています。
 第七八回日比谷メーデーに大結集し、大成功させよう。
……
 安倍内閣は、「再チャレンジ政策」「成長底上げ路線」などとゴマカシ路線で格差社会を深めています。また、企業側の更なる収益強化のために「労働時間法制」「労働契約法制」をはじめとする労働法制の全面改悪。「労働ビッグバン」や行革・規制緩和、民営化、公務員攻撃を一層進めています。
 更に、安倍内閣は、昨年末の教育基本法の改悪、防衛庁「省」昇格の強行に続いて、憲法改悪のための「国民投票法案」、教育関連三法改悪、イラク特措法二年延長、米軍再編特措法等々の政治反動法案を強行しようとしています。
 今日ほど、雇用不安が増大し、労働者の生活と権利・人権が侵害され、後退している時期はありません。また、憲法改悪の危機に直面し、二一世紀日本の「生きる道」が問われる時期にあります。全国各地で第七八回メーデーに大結集し、大成功させよう。

七八回日比谷メーデー祭典について

 日時 五月一日
  午前九時一五分開場、一〇時開始
 場所 日比谷野外音楽堂とその周辺
 内容
  主催者挨拶・阿部力(実行委員会代表・国労東京委員長)、連帯挨拶・増淵静雄(都労連委員長)、来賓挨拶・東京都代表、国会議員など
 決意表明・非正規労働者、外国人労働者、女性、国労闘争団
 アッピール文採択
 団結がんばろう

 デモ出発(午前一一時より)新橋土橋コース、鍛冶橋コース

 第二部(午後一一時〜)
 演奏(東京ミューズ労組)


憲法第九条を輝かせたい」願いをもって、『改憲手続き法案』=『国民投票法案』の廃案を求める「宗教者九条の和」国会請願署名提出の集い・緊急アピール

 私たち「宗教者九条の和」は、「九条の会」のアピールに賛同し、宗派・信条を異にする宗教者が、「日本と世界の平和な未来のために、日本国憲法を守る」というこころざしをひとつにし、憲法第九条を守る祈りの和を宗教界のすみずみに広げるために、二〇〇五年四月、仏教・キリスト教・新宗教の五五師の呼びかけで発足いたしました。
 本日、「宗教者九条の和」は、「憲法第九条を輝かせたい」願いをもって、『改憲手続き法案』=『国民投票法案』の廃案を求める国会請願署名提出の集いをここ衆議院議員会館で開き、国会への働きかけを行いました。
 本来、憲法改正の国民投票のあるべき姿は、イタリア、フランスなどのヨーロッパ諸国にみられますように、改正に賛成、反対の両者に平等で広く聞かれた発言と討議の場を、期間の制約もなく無条件で与えるものでなくてはなりません。
ところが、このたびの『改憲手続き法案』=『国民投票法案』は、五人に一人の賛成でも現憲法が変えられてしまう不公平な中身に加え、言論を封じ内心の自由をも奪ってしまう威圧的な内容になっておりまナ。
 このような不平等で非民主的な内容を盛り込んだ『改憲手続き法案』=『国民投票法案』はきっぱりと、いったん廃案にすべきであります。そして何よりも今日、改憲についての市民の関心も、人々の活発な憲法論議もなく、この国会においてさえも、『法案』の中身の実質審議も、すべての人に開かれた自由な討瞬もない中で、性急にこの『法案』を強行しようとしている国会状況は、民主主義の根幹を破壊しかねない暴挙と言わざるを得ません。
 私たち宗教者は、世界の平和と文明の構築に普遍的な意義を明示し、指針を示しているこの憲法第九条を失うことにつながりかねないこのたびの『改憲手続き法案』=『国民投票法案』の今国会成立を阻止するため、憲法第九条の理想とする武力によらない平和な世界を希求する日本と世界の人々と共に、憲法第九条を守る折りの和を全国すみずみに広げていくことをお誓い申し上げます。
 私たちは、宗教者の証(あかし)として、たとえ、いかなる困難があっても、これからも日本の宝、世界の宝である憲法第九条の尊さを、人々と共に心を合わせて守り、日本中、世界中に広めていくことを、本日、ここ東京の地より訴えます。

二〇〇七年四月三日

「憲法第九条を輝かせたい」願いをもって、『改憲手続き法案』=『国民投票法案』の廃案を求める「宗教者九条の和」国会請願署名提出の集い参加者一同


労働者社会主義同盟・第四回全国大会について

 二〇〇七年三月、労働者社会主義同盟第四回全国大会が開催された。
 われわれは、第三回大会(二〇〇二年)以来、新自由主義・新国家主義の小泉反動政治と闘い、イラク反戦闘争や憲法改悪阻止の運動、労働組合運動の前進のために全力をあげて闘いぬいてきた。
 アメリカ帝国主義が唯一の超大国・覇権国家になり、ブッシュ政権は、おごり高ぶって二〇〇一年にイラク侵略戦争を開始した。それから四年、イラク民衆の戦いと世界の反戦運動の高揚、そして米上下両院選挙での共和党の敗北、財政赤字の拡大などにみられるようにブッシュは孤立を深め弱体化してきている。しかし、ブッシュはそうした困難からの脱出を中東をはじめ地球的規模での戦争政策の拡大に求めている。安倍内閣は、ブッシュの世界的な戦争政策にいっそう加担しようとしている。こうした対米追随政策で日本の多国籍化した独占資本の利益を守り増大させようとしているのである。
 第四回大会の任務は、激動する情勢とこれまでの闘いの成果の上にたって、新たな情勢に対応した課題を確認し、新しい中央指導部を選出して、小泉政治を継承し、より反動的な攻撃をかけてきている安倍内閣と対決・打倒し、労働者・人民の闘う力量を強め社会主義の展望を切り拓いていく同盟の新体制を作り出すことであった。

 大会は、開会挨拶につづいて大会議長団、議事運営委員会、大会事務局、中央選挙管理委員会が選出した。大会成立が宣言され、中央常任委員会から大会決議案と選挙に関する特別決議案、財政報告、そして中央選挙管理委員会より第四期中央役員選挙について報告提案された。

 大会決議案では、情勢と任務、同盟建設について要旨次のように提起した。

 われわれはこの四年半余、三回大会決議に基づいて、改憲阻止、反戦平和、労働組合運動の強化などを中心として、民衆の闘いの前進のために奮闘してきた。この期間におけるわが同盟の政治的影響力の強化と、日本の民衆運動の前進は特筆すべきものであり、画期的なものであると評価できるだろう。この点で、前大会時と今日の変化をしっかりと確認しなくてはならない。とりわけ憲法改悪阻止の戦線、イラク反戦など反戦平和の戦線、小泉内閣による郵政民営化阻止などの闘いとその経験は、日本の民衆運動の様相を大きく変えた闘いであり、わが同盟が、情勢の変化を敏感にとらえ、新たな闘いの方向と方針を積極的に提起し、懸命に闘って勝ち取った大きな成果であった。

 ブッシュ政権はイラク戦争での泥沼化・敗北寸前という状況に直面している。ブッシュの対テロ戦争は、その意図とは逆に、世界各地で反米闘争を激化させた。中東地域では、イラク戦争によってブッシュが「悪の枢軸」のひとつとして敵視してきたイランの影響力を拡大させることになった。このようにして石油と地政学的位置の重要な地域でアメリカは困難性を増大させてしまったのである。しかし、ブッシュは敗北的状況を認めようとせず、イラクへ増兵し、それだけでなく、イラクの不安定の背後には外国勢力がいるとして、イラン、シリアなどに戦火を拡大しようとしているのである。それに、イスラエルが連動して、中東全体がきわめて不安定な一触即発の危機の中にある。アメリカが重大な困難に直面しているのは、中東地域だけではない。アメリカが自らの裏庭と自認する中南米地域は、グローバリゼーション・新自由主義の最大の被害地域だ。だが、いまあいついで反米左派政権が誕生している。われわれが第三回大会を開いた時と比べると、世界の力関係はアメリカをはじめとする帝国主義に不利に、人民勢力には有利に変わりつつあることが明らかになった。こうした歴史的趨勢の背景には、世界的な規模での力関係の変化がある。
 朝鮮半島では緊張した状態が継続し、米日政府は北朝鮮封じ込め圧力を強めている。しかし、再開された六カ国協議において新合意が成立した。その履行を要求する国際的世論の形成が重要になっている。対北朝鮮強硬策を維持し続けている安倍政権は、日本軍「慰安婦」問題の正当化発言とあわせ、ここでも国際的孤立を深めつつある。

 小泉政権を受け継いだ安倍政権は、新自由主義と対米追随政策を継続しようとしている。だが、小泉政治の負の遺産は発足早々の安倍を厳しい状況に立たせている。小泉・構造改革は、日本の一握りの巨大多国籍企業を肥えふとらせるとともに、旧来の自民党支配構造を劇的に変化させた。歴代自民党政権が作り上げてきた保守勢力への大衆統合の社会的基盤を著しく縮小させたのである。これまでの自民党による利権政治は、中小企業・農村を手厚く補助金をばら撒くことで、そこを保守支配の基盤として保ってきた。だがそれはもはや不可能になってきている。補助金政治と並んで、またそれ以上に保守基盤を支え強化してきたものが企業社会であった。「終身雇用」制、年功賃金、企業内組合といういわゆる三種の神器によって代表される高度経済成長期以降の日本資本主義は、労働者を企業に統合し、多くの大企業労働者を家畜ならぬ「社畜」状況に押し込めてきた。しかし、資本は、グローバリゼーションに対応するためと称してリストラ、非正規雇用の増大、フリンジベネフィットの消滅など、低賃金と労働条件の低下を労働者におしつけ、その結果、さしもの企業社会の労働者統合機能もその力を落としてきている。
 グローバリゼーション・新自由主義が急進展した小泉政権の五年間がもたらしたものは社会的格差の拡大であった。下流社会が拡大し、少子高齢化の急進展とあいまって、総じて社会的活力・国力の減退につながってきている。にもかかわらず、安倍政権の政策は、ひとにぎりの日米独占資本の利益のために、新自由主義・市場万能主義を加速させている。
 今後、日本は階級・階層社会の姿をはっきりさせ、失業者、働いても働いても生活できないワーキング・プア、病気になっても病院に行けない無医療保険者などが激増し、多くの人びとの貧困化が急速に進んでいる。こうした事態は、アメリカの新自由主義政策の下で社会を解体させられた中南米や韓国がすでに経験してきたところであるが、それら地域では民衆の側からの断固たる反撃が展開され一歩いっぽ勝利がかちとられている。
 わが同盟をはじめ左派勢力は、この矛盾に切り込み、民衆を組織し、日本における闘いを守勢から反撃に転換させていかなければならない。

 日本とアジアの広範な人々にとって重要なのは、国際的な平和環境の創造であり、グローバリゼーション・新自由主義の推進ではなく、社会的格差の是正、自由と平等の新しい福祉国家・日本の実現である。米軍基地を撤去し、憲法の平和原則を生かし、自衛隊をなくし、軍事でない平和経済社会的な国際協力を実現することである。
 当面する闘いの環は、日本の参戦国体制の強化と憲法改悪、とりわけ九条改憲を阻止し、米日支配層の危険な野望を打ち砕くことにある。そして広範な統一戦線を組織し、この闘いに労働者・市民を組織し、立ち上がらせることである。改憲阻止の闘いはアジア地域の緊張緩和、平和状況の創出と表裏一体のものである。アジア、特に東北アジアの緊張緩和、朝鮮半島の非核化、日朝国交正常化実現のために奮闘することが求められている。
 われわれの任務は、これらの闘いの先頭に立って、大きく前進させ、小異を残して大合流させ、自民党政治と真っ向から対決し、労働者・人民の政治の実現をめざす戦線を形成することである。そして、この闘いの中で、積極的なイニシアチブを発揮し、社会主義政治勢力の再編・統合を実現するため奮闘することである。

 われわれの同盟建設での任務は、同盟がこれまで勝ち取ってきた成果をしっかりと確認し発展させる中で、弱点を克服していくことである。政治論議、理論学習を進め、大衆とのつながりをつよめ、組織しその先頭に立って闘おう。会議で議論し、方針を決定したら必ず実践し、点検し、実践したら必ず総括する。なれ合いの気風を排し、こうした実践的・戦闘的作風を確立する必要がある。その中で、同盟組織を強化・拡大していかなければならない。

 いよいよ時代は本格的な激動期に入る。アメリカ帝国主義に追随する安倍内閣の戦争のできる国づくり・改憲攻撃は自民党政治に対する大衆的な批判・反撃をもたらさずにはおかない。社会的格差の拡大は大衆の資本主義にたいする批判を強めていく。われわれをとりまく情勢には厳しいものがあるが、民衆の運動の継続・前進と敵内部の矛盾の拡大は、安倍政権との闘いで、われわれにとっての有利な局面を出現させている。
 団結を固め、決意も新たに、粘り強くしたたかに闘っていこう。
 労社同第四回大会決定の情勢認識と任務を確認し、広範な人びとと結びついて、断固として前進しよう。

 大会は真剣な論議の結果、大会決議案をはじめ、特別決議案、諸報告を出席代議員全員の賛成で採択した。
 つづいて、同盟中央三役と中央委員の選挙が実施され、新しい第四期の中央指導部が選出された。
 労働者社会主義同盟第四回大会は、その全ての任務を完了した。

 われわれは、第四回大会決議をもって、より多くの労働者・人民と深く結合し、憲法改悪阻止闘争、反戦闘争、労働運動などの前進をかちとり、また社会主義革命の主体の強化にむけて奮闘努力することを確認した。

 改憲攻撃を阻止し、社会主義革命の展望を切り拓こう。


清水私案(民族解放社会主義革命論)を再読する A

綱領委員会へ私案提出

前回、左社綱領をめぐる論争の構図について書いた。左社執行部(右社との再統合において優位性を確保しておきたい)、労農派とくに向坂逸郎、稲村順三(労農派の理論で綱領を作る)、そして民族独立の課題を重視する清水慎三などをあげた。ここで、もうひとつ付け加えておかなければならない。それは、産別会議民主化同盟から新産別にいくグループだ。かれらの主張はソ連を帝国主義と見る第三勢力論であった。

五三年一月の左社第一〇回大会できまった綱領作りは、一五人の綱領委員会ではじまった。綱領は、第一部・党の基本戦略、第二部・当面する闘いの目標と政策、第三部で組織と運営という三部構成とされ、一・二部の草案は、幹事役の稲村が執筆し、顧問の向坂が全面的に加筆した。これに対して当時、左社中央執行委員・鉄鋼労連書記長で委員のひとりである清水が対案を提出した。これが清水私案といわれるものだ。
 清水私案は、「帝国主義下の行動綱領」と副題されている。アメリカ帝国主義支配下の日本における行動綱領という意味がこめられている(清水私案はいくつかのかたちで公刊されていて、それぞれに異動、脱落があるそうだが、『清水慎三著作集―戦後革新を超えて』(日本経済評論社 一九九九)のものから引用する)。
その構成は大略次のようになっている。第一、民族独立と社会主義革命@敗戦日本の権力構造、A諸階級の状態、B戦略の基調と展開(1 戦略的集中点=民族独立、2 民族独立と社会革命の結合=民族闘争の性格規定、3 戦略展開の方向―平和四原則の戦略的意義)、C平和革命を基調とする組織的革命方式の提唱、D過度的政権と共同戦線の可能性で、「第二、政策綱領」「第三、組織綱領」は「別冊」となっているが発表されなかった。

サンフランシスコ体制

 なぜ、清水は労農派原案に反対したのか。それは、まず当時の状況がある。左社は選挙で大躍進を実現したが、その背景には平和四原則があった。当時、講和条約が結ばれたとはいえ、アメリカの実質的な占領的な状況はつづき、日本は東西両陣営対決とくに朝鮮戦争におけるように米戦略の前線基地機能を担わされていた。後に清水が『日本の社会民主主義』(岩波新書 一九六一)で「安保条約を軸とする片面講和―サンフランシスコ体制という国民的課題を社会主義者の良心に依拠しつつ政治的に対処しえたとき、戦後の社会民主主義勢力は大勢として特殊日本的展開の基盤をひらいたと言うことができよう。社民政治勢力全体から言うならば当然のこととして西欧社民型の思想と政治行動をとる他の集団(右派)との分裂という痛手を受けることは避けえなかったが……。」と書いたように、この「サンフランシスコ体制との闘い」によって左社への支持は広がったのであった。左社を支持する総評は、政治闘争では全面講和、平和四原則、破壊活動防止法反対を闘っていた。当時、共産党は支持を失っており、左派社会党への大衆的期待は大きかった。
 だが労農派による原案は、それに答えるものとはいえなかった。清水私案はこのような事情の中で提出されたものだったし、当時、清水は総評・高野事務局長の実際上の政策立案者であり、総評代表の形で左社中執となっていたので、問題は左社中央と労農派、それに対する総評・高野派との関係も緊張したものとなった。

清水私案提案の理由

 ここで、再度、清水の綱領討議にあたっての立場を見てみる。綱領論争から数年たち、そして安保・三池闘争を経験した後で次のように書いている(『日本の社会民主主義』から)。

 ……私は綱領委員会の中で論争の火種をまいた立場である。事実、向坂=稲村原案に反対提案を行ったことはまぎれもない事実である。だが、向坂=稲村原案に対するよりも、左社首脳部の「綱領を党建設の基礎にするのでなく再合同戦術の手段にする」底意に何よりも抵抗したかったし、それには向坂・稲村綱領よりも革命の課題にダイナミックに迫ってゆく「組織と政策を結合させた」行動体系を理論的に提案することが効果的であると考えていた。もちろん綱領の中身に基本的な相違点があった。原案の社会主義革命論に対し民族解放社会主義革命論の立場をもち、原案が革命とプロレタリア権力の大衆基盤を単に党と大衆団体(とくに労働組合)との有機的結合だけに求めていたのに対し、日本革命に対する内外反革命の強烈さを予想しつつなお平和移行を可能ならしめるためには、下部における権力基礎の培養に特別の配慮を必要とするという観点から「組織的革命方式」という考え方を提案したのであった。プロレタリアートを支配階級に組織してゆく過程には、平和移行であればあるほど、下部政治構造の問題が提案されなければならぬと信じたからである。
 最近の日本独占資本の急速な復活強化のなかで、そして共産党の現状規定に疑問が高まるにつれて、左社綱領は当時より評価を高めた感がある。それは一面において十分首肯できる根拠がある。だが、反面においてそれは革命政党の綱領が今なお書斎人的討論の対象からさして出ていないことを同時に意味しているように思われる。私は左社綱領が字句表現を薄めて若干の部分をきりとれば改良主義的目的にも使えるという点については、舞台が社会党であればあるだけ、そこに重大な欠陥があることを意味していると今なお信じている。……

 清水は、左社綱領が、左社執行部の狙いである右社との統一で優位に立つだけのお題目に終わるのに主として反対するのだが、同時に労農派原案が民族解放課題の軽視とともに「革命とプロレタリア権力の大衆基盤を単に党と大衆団体(とくに労働組合)との有機的結合だけに求めていた」のに不満で、@「革命に対する内外反革命の強烈さを予想し」、A「なお平和移行を可能ならしめるためには、下部における権力基礎の培養に特別の配慮を必要とするという観点から『組織的革命方式』という考え方」を提起したのだった。清水私案は、このように、革命の戦略的な敵を明らかにするとともに、同時に、革命過程をも問題にするものであった。

清水の労農派観


 清水の労農派に対する厳しい評価は、清水の盟友・坪井正によっていっそう強いものになっていったようだ。おなじく、『日本の社会民主主義』で、清水は私案を提出する際の坪井の言葉を書き記している。坪井は、左社執行部、労農派に対する批判とともに、共産党五一年綱領や総評・高野グループとの違いについても語っている。

 ……本書の「あとがき」のなかで私は亡き盟友坪井君のすすめを受けるまで反対提案の提出をためらっていたことを述べている。その理由は大衆闘争の時点を考慮しただけでなく綱領原案は社会党のなかでは相対的に高い進歩性をもつに至るであろうと信じたからである。坪井君はそのような原案の評価は甘いばかりか誤っていると切言した。労農派理論が戦前の天皇制権力との闘いを放棄したことを引合いに出しながら改良主義者によるスリ替えの危険を述べた。私は社会党首脳部の綱領に対する態度について前掲の疑問を彼に話したところ、今は一切の妥協的態度を棄て、改良主義的に薄めることのできない綱領を反対提案として提出すべきであるという結論に期せずしてなってしまった。
 坪井君はまたわれわれの見解が共産党の民族解放民主革命論のカンパニアに利用されることを極度に警戒し、私の考え方が高野実氏との無条件提携(実践的には無条件依存)に終る可能性を鋭く指摘していた。彼は高野氏に向って「新左翼社民」という立場での協力を申入れたが高野氏から今は特定の思想的立揚を主張すべきでないと一蹴されたと語っていた。私と坪井君という、微力なものがどのように自主性をもちつつ全党にアッピールすべきかについて最後まで実践的結論は出ないままに綱領論争は終ってしまった。……

反対提案の理由


 清水私案は、サンフランシスコ体制との闘争の強調ともに、いかに革命の主体を形成していくのかという面で原案に反対しているのであるが、清水の原案への批判の姿勢は、社会主義協会の『社会主義』(一九五三年十二月)に掲載された「反対提案の理由」によく現れている。この五項目の「理由」は清水の綱領についての姿勢を鮮明にしめすものとなっている。

 ……(一)綱領原案は、党の理論上の聖書のような性格のものとして、第二インター系の形式的伝統に則り、予定された理論的目標に向って、あらかじめきめられた理論的な枠にそいつつまとめられている。従って、教科書的ないし学術論文的色彩の豊かなものとなっている。私は、このような態度で「上の頭の中で」ワクをかけてゆく綱領の実践的価値を疑うものである。社会主義を実現するものは大衆とその組織であり、従って、社会主義政党の行動基準は現在の大衆組織とその行動、未組織大衆の意欲と感情の中から出発し、客観条件に具体的に適応してゆくものでなければならない。綱領は何よりも組織的任務に堪えるものであるべき筈である。社会主義インター系の綱領形式がどうあろうとさして問題にする必要はない。
 (二)党は平和四原則の旗を高く掲げて前進した。分裂を賭して四原則を守りぬき、四原則を守ることによって、その後党勢は拡大した。今生れでる党の綱領は、この四原則の戦略的意義を明らかにするものでなければならない。それは本部原案のように単なる外交政策として、政策綱領の一隅を占めるものではない。
 全国数多くの労働組合が四原則をめぐって討論を繰返したことは、一つの政党の一つの外交政策の賛否の問題ではなく、党と組合を問わず運動全体を貫く戦略的な課題であったからである。
 (三)政党の綱領は権力闘争のためのものである。従って、日本資本主義の過去の歩みに対して、一つの学派の立場から公定解釈論を行う必要はない。それは党の門戸を狭くするばかりである。綱領は、戦後日本の権力分析から出発し、権力構造を明らかにし、権力掌握のための組織展開のプログラムを示すだけで十分である。
 (四)綱領の内容に関する原案との著しい相違点は、敗戦日本の政治権力の所在ならびに権力構造に関する認識である。
 原案が日本の政治権力を日本独占資本の自前の政治権力と解するのに対し、私は敗戦日本を支配する最高の権力は、講和条約の前後を問わず、アメリカ帝国主義の側にあり、日本の独占資本はその授けられたる任務をになうために援助され、その存在を政治的経済的に保証されていると見るものである。アメリカ帝国主義の許容する枠内において、日本の独占資本はその搾取構造と権力組織を温存強化しつつあるのであって、この段階における社会主義政党の綱領は「アメリカ帝国主義下の行動綱領」という性格のものであるべきだと確信する。従って又、政局の基調は日本の独占資本に対する単純な「保守対革新」でなく、明確に「隷属対独立」の対決でなければならない。
 (五)政治権力に関する理解の相違は、必然的に、革命のプログラムについて根本的な意見の対立となる。
 原案は、単純に、階級闘争→社会革命という割り切り方をしており、アメリカ帝国主義に対しては、日本の独占資本が自らこれをよりどころとする限り、副次的に、即ち日本の独占資本に対する闘争の一環としてこれを取り上げるという態度である。
 私は、これに対し、帝国主義下の行動綱領と規定する以上、当然、帝国主義支配に対する民族的闘争が戦略的な基調となると確信する。民族資本という特殊な階層がないから民族闘争でないとの反論は単なる公式論に過ぎない。又、民族資本という固定した階層が既に存在しないわが国では、民族闘争は当然内外独占資本の二重の搾取下にたたかう労働者階級によって持続的に担当されることになる。又、対米隷属の中でその経済循環を保証されている日本の資本主義は、完全独立によって大きな動揺を余儀なくされ、このことは社会革命の条件として高く評価されるべきであると考える。それゆえ、私は革命のプログラムとして「平和→独立→社会革命」という基本戦略コースを主張するものである。
 原案の日本の民主主義に対する評価は甘過ぎる。私は戦前とくらべて、形式的意味の民主主義が、逆コース下の現在とはいえ、大いに前進していることをもちろん承認する。又、平和革命を否定したり放棄するものではない。
 だが、現在程度の民主主義の浸透度合では無条件にこれを評価礼讃し、これに依存するわけにはゆかない。少なくとも社会革命を問題とする場合、国の内外から襲いくる反革命工作をくいとめ、逆に建設面を担当してゆける実力のある組織基盤を用意することなく、又そこに組織的な戦略目標をおくことなく、選挙にすべてをゆだねるような簡単な平和革命論では、職場で日毎職制の非民主的圧迫を体験している組織大衆の共感を呼ぶことさえ至難のことである。そのようなことでは、到底、組織的任務に堪えうる綱領とはいえないと確信して、あえて反対提案を行った次第である。……

 社会主義政党の綱領とはいかにあるべきかという明確な問題意識を前提に反対提案・清水私案が提出されているのがわかる。(文中敬称略) (つづく) (MD)


複眼単眼

   沖縄の集団自決削除の検定と戦争をする国への道

 
 安倍内閣を取り巻く「日本会議国会議員懇談会」や旧「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」メンバーなどの右翼分子は、従来の極右勢力と違って、「大東亜戦争は正しかった」などとあまりあからさまには言わない。
 この連中の特徴は「そんなに悪いことはしていない」「結果は問題があったかもしれないが、動機は良かった」などという論理で歴史の改竄(かいざん)を進めようとする。それも押したり、ひいたりしながらだ。
 このところ、この連中のこうした動きが目に余るようになってきた。薄っぺらな言動で、論敵を攻撃し、権力を振り回しては自説を貫こうとする。マスメディアは知ってか知らずか、これらの画策を放置している。あるいは共犯なのかも知れない。
 そしていつのまにか歴史が書き換えられていく。
 軍隊慰安婦についての「軍の関与」をめぐるこれらの連中の動きもそうだった。安倍首相は米国の有力紙から批判されて釈明に努めたが、真に反省したわけでもない。「南京大虐殺」の問題でもそうだ。
 それらの火種が消えないうちに、今度は高校生が使う歴史教科書から、「アジア太平洋戦争」の末期における沖縄の民衆の「集団自決」が日本軍の強制であったという記述が、文部科学省の検定によって削除されることになった。
 文科省は「状況の変化」を理由にし、軍の命令を否定する出版物がでていることや元将校等が大江健三郎氏の著書を名誉毀損で訴えていることなどをあげ、断定的表現を避けたとしている。
 文科省のいう意味とは異なるが、まさに「状況の変化」のゆえの修正だ。
 一九四五年三月二六日から六月二三日までの三ヶ月にわたる地上戦で、多くの住民が戦争に巻き込まれ、日米合わせて約二〇万人の人びとが死んだ。
 日本軍は住民を守らず、逆に犠牲にした。沖縄の人びとに捕虜になることを禁じ、米軍に捕まったら暴行され、殺されると宣伝し、自決用の手榴弾や青酸カリを配った。追い込まれた住民は、ガマなどで家族や友人たちで互いに殺し合い、集団自決した。
 戦後、無数の証言で明らかにされたこの事実を、文科省は一方的な訴訟の提起を理由に、そしてその訴訟の判決すらでていないうちに、いそいそと削除させた。
 多少、ものごとを本質的にとらえようとすれば明らかになるこうした問題を、安倍内閣がこうまでして国と軍の責任を回避しようとするのはなぜか。それは、この国がどこに向かっているのかを鮮明にする。
 時代はここまできたのだ。今、私たちがこれに如何に向き合うのかが問われている。 (T)