人民新報 ・ 第1225号<統合318号>(2007年5月21日)
目次
● 改憲手続法成立糾弾! 巨大な統一戦線の形成で安倍改憲を打ち破ろう
● 5・3日比谷憲法集会 七〇〇〇人が銀座パレード
憲法集会アピール
● 共謀罪法案をつぶせ!
● やめろ昭和の日! 天皇制はいらない!
● 九条の会・おおさか 憲法施行60周年のつどい
● メーデー
日比谷メーデー 12000人が参加 公平・公正な社会を! 改憲阻止へ!
静岡県中部地区メーデー 雨の中、二〇〇人の結集で開催
ヒロシマメーデー 打ち返せ改憲の嵐を! まもろう労働者の権利!
● 品川正治さん(経済同友会終身幹事)の講演(広島) 「平和憲法こそ日本の座標軸―財界人の直言―」
● KODAMA / 連休の中で
● 複眼単眼 / 映画「約束の旅路」を観て あらためて思う
改憲手続法成立糾弾!
巨大な統一戦線の形成で安倍改憲を打ち破ろう
超短期で無内容な審議
五月十四日、改憲手続き法が参院本会議で、自民、公明の賛成多数で可決・成立した(民主、共産、社民、国民新の野党四党は反対)。政府与党は極めて短時間の、それも連日長時間にわたる「審議」を強行したが、これは実質的な審議をおこなうためではなく、ただただ一定の時間をかけたと言うアリバイづくりでしかない。そして、公聴会も同一日に北と南での同時開催、中央公聴会については参院段階ではついに開くことがなかった。
われわれは、改憲手続き法成立という暴挙を断固糾弾する。
法成立を受け、安倍は同日夜、「参院選は議論を進めていくうえでよい機会だ。自民党はすでに(新憲法)草案を作っているということも話していきたい」と述べ、憲法問題を七月の参院選で争点とすることを強調している。
憲法をめぐるたたかいは新たな局面を迎えた。
手続き法に基づいて、次期国会から衆参両院に憲法審査会が設置される。国民に対する発議原案の審議は三年間凍結されるが、自民党などは「発議原案に至らない要綱、骨子の審議」までは凍結されないとして、要綱や骨子の形で国会の憲法審査会で論議するつもりだ。実質的に改憲に向かっての本格的なスタートが切られたということである。
欠陥だらけの手続法
しかし、自民党が国民自身による新憲法の制定のためのものとするこの法律は重大な欠陥を持っている。法律は参議院「日本国憲法に関する調査特別委員会」で、なんと十八の付帯決議がつけられたのだ。それは「国民投票の対象・範囲」について、「憲法審査会において、その意義及び必要性の有無等について十分な検討を加え、適切な措置を講じるように努めること」とされ、「成年年齢に関する公職選挙法、民法等の関連法令」については、「十分に国民の意見を反映させて検討を加えるとともに、本法施行までに必要な法制上の措置を完了するように努めること」、「憲法改正原案の発議に当たり、内容に関する関連性の判断」では、「その判断基準を明らかにするとともに、外部有識者の意見も踏まえ、適切かつ慎重に行うこと」。そして、最低得票率問題では、「低投票率により憲法改正の正当性に疑義が生じないよう、憲法審査会において本法施行までに最低投票率制度の意義・是非について検討を加えること」とされているなどである。国会審議の中で大きな問題となった最低得票率についてもこのような付帯決議がついたのである。
これは、手続法がいまだに十分な審議を行なっていないことを証明するものにほかならない。手続法そのものについても付帯決議も活用しながら国会でのさらなる追及と大衆的な暴露を強めなければならない。
これからが本格的闘い
手続法の成立でもって、改憲派は一山を越えたと調子付いているようだが、改憲阻止の闘いはこれから大衆化し本格化する段階に入るのである。
憲法九六条は「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする」とされる。まず国会での発議だが、いまの衆院はともかく参院は与党が三分の二を占めているわけではない。参院民主党にも自民党とおなじような改憲派はいるが、この間の安倍の強引な国会運営で民主党もかつての前原誠司代表時代のように自民党と同調するわけにはいかない。そして、七月の参院選の結果がどうなるかだ。自民党はまずここをクリヤーできるかどうか。衆院も最短で改憲発議にむけて国会審議が開始できるのは〇一〇年五月からだ。二〇〇九年九月が衆議院議員の任期切れであり、それ以前の解散もありうる。
なによりも重大なのは、世論の動向だ。改憲問題がみずからの生活に直結するものとして感じられ、その上その狙いが戦争のできる国づくり=米軍戦略の一環に自衛隊が位置づけられ、ブッシュの無謀なイラク侵略戦争のイギリスのような役割を果たさなければならないという本質があきらかになるにつれて、改憲反対派は急速に増えるだろう。
その決定的な鍵は、「九条の会」などが全国各地各層に作られ、労働組合や市民団体などおおくの運動体が改憲阻止をみずからの問題としてとらえるようになることである。
改憲阻止の壮大な統一を実現しよう!
5・3日比谷憲法集会
七〇〇〇人が銀座パレード
自分の首相任期中に憲法を変えると言い続けている安倍晋三は、強引な国会運営を行なっている。改憲問題が身近なものに感じられるにつれて、各地各層での憲法問題への関心は急速に高まっている。そうした状況をうけて、今年の五月三日の憲法記念日には全国で憲法改悪反対の集会が開催されかつてない多くの人が参加した。この盛り上がりは、安倍の改憲権攻撃に対する反撃の基盤が着実に広がっていることを物語るものである。
東京では、日比谷公会堂で、5・3憲法集会実行委員会主催の「改憲手続き法はいらない 5・3憲法集会」が開かれ、これまで最高の六〇〇〇人が参加した。会場に入れない多くの人びとは、公園広場に設置された大型スクリーンで会場内の集会の進行に見入った。
主催者を代表して鈴木伶子さん(キリスト者平和ネット)が開会のあいさつ。
武力で平和は作れない。このことはイラク戦争でいっそう明らかになった。国会では改憲のための法案が強行成立させられようとしているが、これを阻止するために全力をあげ、それと同時にこれからの平和な世界を作っていくために多くの人びとと協力していこう。
植野妙実子中央大学教授のスピーチ。
日本国憲法はかつて日本が犯した侵略戦争への後悔、反省のもとにできた。とくに前文と九条は、二度と罪悪は犯さないということを鮮明に規定している。憲法は権力を制限するためにある。それが崩されようとしている。決して許されないことだ。自民党の新憲法草案の集約的なところは九条を変えるということだ。これが崩されれば全体に影響する。例えば個人の自由・権利、宗教にしても、戦争ということで大巾に制限されるのは見易いことだ。安倍は「美しい国」を言うが、その実態は新自由主義、グローバリゼーションで、戦争と格差拡大のアメリカ社会化というものだ。国民生活は疲弊の一途をたどっている。必要なのは、若者たちに希望が持てる国を作ることだが、九条はぜひとも必要なものだ。みなさんといっしょにがんばって行きたい。
浅井基文・広島市立大学広島平和研究所所長のスピーチ。
改憲の最大の狙いは九条を変えることだ。それは、アメリカの要求どおりの戦争のできる国を作るためだ。アメリカは、日米関係を米英同盟のようなものにして、集団的自衛権の行使ができるようにさせたい。国連憲章で認められている戦争は自衛のものだが、イラク戦争はアメリカの先制的侵略戦争だ。そうした戦争に自衛隊が使われるのである。集団的自衛権の問題は、アメリカ主導の侵略戦争に日本が加担することを正当化するものにすぎない。
改憲のもう一つの狙いは、国家を個人の上におくようにさせるということだ。安倍の国家観はそうしたものだ。だがわたしたちの側には国家観がないという弱さがある。国家と個人の関係についてしっかりした考えを持ち改憲派の古臭い国家観を打ち砕こう。
いま、ふたつのことに注目している。一つは「九条の会」の広がり、もう一つは最近の世論調査で九条を守れという人が増えていることだ。運動をいっそう強めて一大奮起・一大覚醒を実現しよう。
スピーチの第二部は、政党発言。
社会民主党党首の福島みずほ参議院議員。
安倍内閣では「女は子どもを産む機械」と発言する厚生労働相、労働者を二十四時間こき使うホワイトカラー・エグゼンプション、子どもたちを工業製品のように管理する教育、格差拡大、軍事産業の発言力増大など、自民党新憲法草案の先取りという状況にある。格差拡大と戦争する国とはコインの裏表だ。政府与党は改憲手続き法案を早期に成立させて、日本国憲法を変え、国の形を変えようとしているが、変わるべきなのは国会であり、日本の政治だ。
日本共産党委員長の志位和夫衆議院議員。
憲法改悪の暴走が始まったが、安倍内閣には新しい矛盾が出てきており、運動も新しい局面を迎える。なによりも、なんのための誰のための改憲かがはっきり見えてきたことだ。安倍首相は「海外での紛争で米国と肩をならべて戦う。これは憲法改正なくしてできない」と改憲目的を繰り返し述べている。これはイラク型の戦争に日本が加担することであり、最悪の売国政治だ。安倍は「戦後レジームからの脱却」を言っているが、これは、戦前型の軍国主義・強権国家への回帰だ。しかし、世界からは疑惑の目で見られており、「村山、河野談話を継承する」と発言をせざるを得なくなっている。ここに安倍改憲論の矛盾がある。読売新聞の世論調査でさえ改憲論は減少している。これはわたしたちの草の根の運動が世論を変えてきていることを示すものだ。
集会は「アピール」(二面に掲載)を確認し、銀座パレードに出発した。
パレードには途中から合流する人も多く七〇〇〇人が改憲阻止を訴えた。
憲法施行六〇周年 生かそう憲法 守ろう九条 二〇〇七年五・三憲法集会アピール
本日は日本国憲法が施行されてから六〇年になる記念すべき日です。
この六〇年、憲法は多くの人びとによって支持され、社会に定着してきました。とりわけ前文と第九条に代表される平和憲法の理念は、この二一世紀の世界においてますます輝きを増し、国内だけでなく、世界中の平和を求める人びとに注目され、支持されています。まさに「憲法九条 いまこそ旬(しゅん)」なのです。
しかし日本政府と与党はこの流れに逆行し、米国の要求に従ってこの国を「戦争のできる国」にするため「集団的自衛権の行使」への道を開こうと、とりわけ第九条を目の敵(かたき)のように扱い、改憲をめざしています。
この通常国会の冒頭、安倍首相は自らの「任期中の改憲」を公言し、そのために改憲手続き法の制定を推進することを表明しました。そして法案に反対する声や、慎重審議を要求する世論に逆行して、衆議院では四月に与党単独で採決を強行しました。そしていま、参議院でも与党は連日のように駆け足審議を押し進め、何としてもこの国会で強行成立させようとしています。これはまさに民主主義を踏みにじる安倍内閣の暴走です。
私たちは憲法九条改悪をめざす改憲手続き法の強行を許すことはできません。
安倍内閣はまた、先の国会での教育基本法の改悪に加えて、この国会では米軍基地再編特措法、イラク派兵特措法の延長、教育関連三法改悪、少年法の改悪などを強行しようとしています。
私たちは「戦後レジームからの脱却」とか「美しい国」などと称して進められる安倍内閣のこうした危険な動きに怒りをこめて反対します。
四月六日の「読売新聞」の世論調査、四月一〇日のNHKの世論調査、四月一七日の共同通信の世論調査などの結果は、この国で「憲法九条を変えない」との声が、「九条改憲」の声を大きく引き離していることを示しています。そしてこうした傾向がこの数年、ますます強まっていることもあきらかにされました。これは全国各地で日夜奮闘してきた多くの人びとの運動の反映であり、九条改憲をして「米国の戦略に従って海外で戦争をする国」を作り上げようとする安倍内閣に対抗する力強いエネルギーの反映にほかなりません。
「五・三憲法集会実行委員会」はこの六年余にわたって、憲法改悪を許さないという共通の課題で共同行動をつみ重ね、今国会期間においても改憲手続き法案に反対する行動をくり返し提起し、闘ってきました。 私たちは本日の集会&パレードの成功を機に、思想、信条、政治的・社会的立場などの違いを超えた共同の運動をいっそう大きく発展させ、改憲手続き法案の廃案と、憲法、とりわけ第九条の改悪に反対して全力をあげて闘いぬくことを、憲法六〇周年の記念すべきこの日に、改めて決意します。
二〇〇七年五月三日
二〇〇七年五・三憲法集会参加者一同
共謀罪法案をつぶせ!
安倍は改憲手続き法案を強引に成立させ、さらに教育基本法改悪による教育関連三法改悪、イラク特措法延長、米軍基地再編特楷法などを強行可決させようとしている。共謀罪新設法案も断念してはいない。
しかし共謀罪についてはマスコミもその危険性をかなり取り上げるようになり、与党としては対応に苦慮し、法案の名前を変えるなどさまざまの手直しをしながら、だがなんとしてもこの法案の早期成立を狙って画策を強めている。
五月十三日、星陵会館ホールで「これでもか!? 笑って読み解く大共謀集会」が開かれた。
アムネスティ・インターナショナル日本の寺中誠さんが開会挨拶。
安倍内閣は、世論の大きな反対にもかかわらず共謀罪新設法案をあきらめていない。今日は、共謀罪を「笑って読み解き」、反対運動をもっとひろげていくために開かれた。
共謀罪に反対する表現者たちの会からの、「共謀罪TVスペシャル」の上映。
特別討論では、ベンジャミン・フルフォードさん(ジャーナリスト)、創価学会員で自民党とともに危険な政策を推進する公明党を批判する山口大輔さん(「行動する平和憲法のネットワーク」設立者)が寺沢有さん(ジャーナリスト)の司会でトーク。
政治風刺コント劇団「ザ・ニュースペーパー」と劇団キョウボウによる「爆笑!共謀罪」で共謀罪のもたらす社会が痛烈に批判された。
渡辺治・一橋大学教授が「共謀罪と国民投票法案―いま、なぜ?」と題して基調講演を行なった。
改憲手続き法を強行採決して、共謀罪の審議に入った安倍自民党は成立への執念を燃やしている。共謀罪のねらいは、組織による活動を共謀段階で処罰することにある。特定の団体(組織的犯罪集団)が、その活動として特定の犯罪行為を遂行することを、犯罪の実行の行われる前に、謀議、共謀段階で処罰するものだが、そのねらいは、当局に都合の悪い団体、組織の活動の一網打尽的規制をすることで、ポイントは実行行為者だけでない幹部や他のメンバーを共謀への関与でひっぱるように出来る法律にすることだ。これまでの「団体」を、組織的犯罪集団としたり、「共謀」を謀議、共謀、「実行に必要な準備その他の行為」などとしているが本質的な変化はない。対象犯罪を「テロ犯罪」等に設定し、共謀罪から、「テロ等謀議罪」に変えるということで、反対運動の沈静化を図ろうとしている。
改憲国民投票法には二つのねらいがある。それは、改憲案を絶対成立させるということと、民主党の抱き込みということだ。民主党へ譲歩を示すことで、実質的には自民党憲法草案を強行すること、同時に、教員、公務員の反対運動を禁止し、組織的多数人買収・利害誘導罪で運動規制を行なうことだ。これが、改憲案を通す鍵となっている。この組織的多数人買収・利害誘導罪のターゲットは、労働組合、政党そして「九条の会」などの市民団体だ。
こうした共謀罪、国民投票法の強行に共通するねらいは、次のようなものだ。
保守勢力は、資本のグローバリゼーションの加速化の下で軍事大国化、新自由主義改革という二つの改革を狙っている。イラクの泥沼化によってアメリカ・ブッシュ政権からの米軍再編と日本の憲法改悪の圧力が強まり、財界も軍事大国化を求め憲法改悪への衝動が強まっている。だが、それに立ちはだかっているのが憲法九条だ。新自由主義改革は、リストラ、倒産による大量の貧困層、特に若年の貧困化をもたらし、自殺、犯罪、過程の崩壊などの深刻な社会的危機が深まっている。日本社会はアメリカ型へ移行しようとしているが、共謀罪、国民投票法はともにそれに対応しようとするものだ。軍事大国化に刃向かう組織、団体の規制・監視、憲法改悪に反対する市民団体や労働組合の抑え込み、軍事大国化の完成に邪魔になる団体の規制、アメリカのグローバル戦略を批判する運動や市民団体のテロ対策を名目に監視、抑え込むことだ。同時に、構造改革に対する管理職ユニオン、青年ユニオンなどさまざまな運動による反抗の抑え込みということだ。監視、統制社会の世界的流れに反対して、グローバリゼーションと新自由主義に反対する運動を強化していくことがぜひとも必要だ。
「NGO活動を『テロ』と呼ばせない」をテーマに、星川淳さん(グリーンピース・ジャパン)、矢野まなみさん(移住労働者と連帯する全国ネットワーク)、西野瑠美子さん(VAWW―NETジャパン)などが発言した。
やめろ昭和の日! 天皇制はいらない!
今年から「みどりの日」は「昭和の日と」された。昭和天皇ヒロヒトの誕生日が、ヒロヒトの死後「みどりの日」となったが、二〇〇五年五月十三日に、これを「昭和の日」に変える祝日法改正で、「施行を二〇〇七年から」として、賛成多数で可決された。自民党政府は侵略戦争の責任を認めようとせず、いままたそれを合理化・美化する一環として「昭和の日」を制定したのである。
四月二十九日、やめろ「昭和の日」デモ・集会が闘われた。東京・南池袋公園からのデモには約百人が参加し、機動隊、右翼の妨害を撥ね退け、天皇制はいらないのシュプレヒコールで市民へのアピールを行なった。
デモの後は豊島区民センターでの集会が行われた。
ジャーナリストで元読売新聞記者の山口正紀さんは、「9条を1条に憲法・天皇制とメディア」と題して講演。
つづいて千本秀樹さん(筑波大教授)は、小倉庫次侍従の日記を材料にして「戦争と昭和天皇」と題して講演した。
「日の丸・君が代」の法制化と強制に反対する神奈川の会、辺野古への基地建設を許さない実行委員会、許すな!憲法改悪・市民連絡会から報告があり、最後に集会宣言が参加者の拍手で確認された。
集会宣言は、「…歴代首相をはじめとする、日本社会の歴史認識は大きな間違いを引きずり続けている。その結果として、軍隊『慰安婦』問題、靖国問題、教科書問題、『日の丸』・『君が代』問題、戦時の強制連行と強制労働問題等々、解決されなければならない問題は山積している。安倍政権下、これらの問題があらためて新しい形で噴出しているが、歴史修正主義を根本におく安倍政権や『昭和の日』を受け入れるような日本社会で、これら歴史認識の間違いから起こる問題が解決されようもない。自らの歴史に真摯に向きあい、責任をとることの意味を問うところからしか始まらないのだ。日本政府は戦争責任を隠蔽することなく、真実を広く伝えよ。ただちに戦争被害者に具体的な謝罪と補償をおこない、新たな戦争国家作りをやめ、差別的で排他的な社会と決別せよ。そして、その具体的な行動の一つとして、まず『昭和の日』を廃止せよ。」
九条の会・おおさか 憲法施行60周年のつどい
五月三日憲法施行六〇周年をむかえて、関西地区のメインイベントとして、九条の会・おおさかが「憲法施行六〇周年のつどい」を四天王寺近くの国際交流センターで開催しました。会場は一〇〇〇名が入れる所ですが、関西各地から一八〇〇名が集まり、第二会場の設定も追いつかない情況でした。今話題になっている映画「パッチギ!」監督の井筒和幸さんと関西大学教授の木下智史さんの討論は笑いあり、風刺ありでわかり易い内容で、時間も忘れてみなさん聞き入っていました。戦争のできる国家造りには反対していきましょう。 (大阪通信員)
第78回日比谷メーデー 12000人が参加
公平・公正な社会を! 改憲阻止へ!
五月一日、日比谷野外音楽堂会場を中心に、第78回日比谷メーデー式典が一万二〇〇〇人の参加で開催された。
主催者挨拶を阿部力国労東京委員長が行ない、増淵静雄都労連委員長が連帯挨拶、島田健一東京都産業局長と福島瑞穂社民党党首が連帯あいさつ、そして中央メーデー実行委員会、中之島メーデー実行委員会、李錫行(イ・ソクヘン)韓国民主労総委員長からの連帯のメッセージが紹介された。
外国人労働者実行委員会からの発言
外国人労働者は労働相談で毎日首になる不安を訴えてくる。有期雇用で期間が切れると仕事を失う人は多い。上司に嫌われいじめられる人や不当解雇される人が多い。それらの人は自分は無力だと思っている。しかし、労働組合に入ると考えが変わってくる。少しづつでも物事は動かせるという喜びが感じられるようになる。メーデーは大きな団結を表している。みなさんに、ハッピー・メーデー!
均等待遇アクション21からの発言
今国会でパート労働法の改正がなされるというが、実際に対象となる労働者は一%にも満たない。それ以外の人には逆に差別が広がる。これでは差別拡大法案というべきだろう。
国労闘争団と郵政4・28闘争団からの訴えが行なわれ、最後にメーデーアピールが採択された。集会後、二コースでのデモ。
第七八回日比谷メーデーアピール
本日、私たちは第七八回日比谷メーデーを開催しました。メーデーは、一日八時間労働制を勝ち取るなど、全世界の労働者が生活と権利をかけて闘ってきた「統一行動日」であり、歴史と伝統のある「働く者の祭典」です。
労働分野の規制緩和は、非正規雇用を拡大するとともに、偽装請負、スポット派遣、「ワーキング・プア」を出現させ、生死に関わる問題として労働者を襲っています。
正規雇用労働者も、人員削減と労働強化、長時間労働、過労死・過労自殺、精神疾患、労災事故を多発させています。そして今、この悲惨な労働環境をさらに悪化させるものとして、労働法制の全面改悪攻撃があります。また、次なるターゲットとして労働者をより低賃金と不安定雇用に陥れる「労働ビッグバン」が財界側から仕掛けられています。
〇七年春闘は、労働法制の全面改悪の動きに対し、非正規雇用が拡大する中で進む「格差・差別社会」を問題にし、雇用とワークルールの破壊を許さず、大企業を中心とする企業利益最優先の政策を変えようとの決意で、各職場・地域から取り組みました。
今の「格差・差別社会」をつくり出している政府・財界は、「構造改革路線」による安心・安全の崩壊を隠蔽しながら公務員バッシングを展開し、公務員の削減と官公労働組合の弱体化、公務員制度改悪と公共サービスの民営化による職場合理化を進めています。規制緩和によって公共政策を破壊し、そのツケを自助努力・自己責任政策として労働者市民に押し付けています。それが労働現場の重層化を加速させ、低賃金、無権利の労働者を増加させているのです。
外国人労働者の実態は、研修生・技能実習生などが人権無視の労働を強制されるケースが多発しています。また、外国人労働者の個人情報届出を義務づける雇用対策法改正は、監視社会を先取ろうとしています、
安倍政権は、「戦後レジームからの脱却」「美しい国・日本」を叫び、教育基本法の改悪と防衛庁の省昇格を強行し、「米軍再編」で進む日米軍事同盟の再編強化、教育基本法改悪の具体化、共謀罪の新設、国民投票法案等、憲法改悪に向けた動きを強め、戦争への道に大きく踏み込んでいます。
私たちは、未組織労働者・非正規雇用労働者・外国人労働者の低賃金と労働条件の改善を高々と掲げ、労働法制の全面的改悪に反対し、労働者の生活と権利を守る闘い、平和と民主主義を確立する闘いに、すべての労働者の総団結のもと決起するものです。
全世界で深刻な問題となっている地球温暖化や自然環境の破壊、飢餓問題や社会的不平等の拡大等を引き起こしているのは、市場原理優先の規制緩和・新自由主義グローバリゼーションであり、自己責任、自助努力を強制する企業利益優先の社会です。全世界に企業利益優先の政策を推進するWTO、FTAに対し、世界的な反対運動が広まっています。
公平・公正な社会を求め、共生と共存、平和と民主主義を掲げ、すべての労働者民衆、そして戦争に反対する全世界の人々と手をつなぎ、ともに闘っていきましょう。
私たちは、メーデーを「闘いの広場」と位置付け、統一メーデーの実現を求めてきました。一日八時間労働制が危ぶまれる今こそ、労働者の幅広い結集と一層の団結と闘いが求められていることを確認し、第七八回日比谷メーデーの成功を宣言します。
第 78回静岡県中部地区メーデー
雨の中、二〇〇人の結集で開催
五月一日、静岡市の青葉公園で、第七八回静岡県中部地区メーデーが開催された。
今年で一五回目を迎えた静岡県中部地区メーデーは、一九八九年の連合結成に伴った県評・地区労解体攻撃の中で誕生した中部地区労が、メーデー実行委員会の中心を担っている。当日は、あいにくの雨にもかかわらず、二〇組合二〇〇人の参加者があり、冒頭、主催者を代表して、中部地区労議長の平口さんが、三点の緊急課題について闘う決意を述べた。
一点目は、改憲手続き法案を阻止する闘いについて、法案の問題点を指摘した。@最低投票率が設定されていないために、どんなに低い投票率でも有効投票の過半数の賛成で改憲ができる内容になっている。A湯水のごとく金のある財界や改憲派が、マスコミをフルに活用することによって、大量宣伝で世論操作が容易に出来てしまう。B学校の教員や公務員が憲法の重要性を、生徒や住民に話すことも、地位を利用した反対運動として禁止されるなど、改憲安倍内閣の本性剥き出しの法案を何としても阻止する闘いを巻き起こそうと訴えた。
二点目は、労働契約法を中心とした労働法制の大改悪に反対する闘いであり、労働契約法は、労働基準法や労働組合法の主要部分を空洞化させ、使用者の思うままになるように就業規則や労使委員会に権限を与えようとする大変危険な法案であり、残業代ゼロ法案が参議院選を考慮して見送りになったとしても、全く安心は出来ない。
三点目は、静岡空港と浜岡原発に反対する闘い。静岡空港阻止の闘いは、一見、土地の強制的な取り上げに成功した推進派のペースで進められているように見えるが、仮に開港したとしても赤字空港になることは、マスコミ報道でも明らかになっている。静岡空港を廃港に追い込むことに確信を持って更に闘いを作り上げていこう。
浜岡原発裁判は、「東海地震の前に浜岡原発を止めよう!」と立ち上って、五年が経過した。今年の九月には静岡地裁での判決が予定されている。昨年三月の志賀原発の差し止めに続き、浜岡でも運転差し止めを勝ち取るまで、力を合わせて奮闘しよう、と力強く訴えた。
その後、連帯の挨拶や職場からの報告が行なわれ、デモに出発した。 (静岡・N)
第78回ヒロシマメーデー
打ち返せ改憲の嵐を! まもろう労働者の権利!
第七八回ヒロシマメーデーが五月一日、広島市で開催された。ナショナルセンターの枠を越えて、全港湾、地域労組スクラムユニオン、郵政ユニオンの共同開催によるものである。このメーデーに検数労組と東京、大阪各メーデーから連帯のメーセージが寄せられた。
冒頭、ヒロシマメーデー実行委員長の上関英穂郵政ユニオン地本委員長は主催者あいさつで次のように力強く決意を述べた。
安倍政権は教育基本法を改悪し、防衛庁を省に昇格させ、改憲のための手続き法案「国民投票法案」を強行採決させようとしている。あからさまに改憲を推進する反動攻勢は、まさに戦前への舞い戻りであり、闘う労働組合の使命として、労働者の権利とあわせて今後の運動展開をしていく必要がある。私たちは、地域の仲間とともに改憲阻止にむけて頑張ろう。
引き続き、メーデー記念講演を「労働法制の改悪と労働組合の役割」と題し、人権派・護憲派弁護士で知られる足立修一さんが行った。
足立さんは、労働法制の改悪の今日までの状況と現在、厚生労働省が作成し、一六六回通常国会に上程されている法案の問題点を述べた上で、労働組合の役割の重要性は、セーフティネットとしての重要な役割を自覚し、労働法制の改悪を見抜き、これと闘うこと、労働契約法が仮に、制定されても、労働契約は一方的に変更出来ないのが原則であり、とことん一方的切り下げに対して闘っていくことが必要である、と訴えた。
最後に、「ヒロシマ闘う労働者メーデー宣言」を参加者全員で採択し、メーデーを終了した。
(広島・H)
品川正治さん(経済同友会終身幹事)の講演(広島)
「平和憲法こそ日本の座標軸―財界人の直言―」
四月一四日午後より、広島市のアステールプラザ中ホールにて、経済同友会終身幹事の品川正治さん(八二歳)の講演会「平和憲法こそ日本の座標軸―財界人の直言―」が開催された。
この講演会は、損保九条の会ヒロシマ、広島マスコミ九条の会、広島弁護士九条の会、広島宗教者九条の和、ひろしま医療人・九条の会の共催で、広島県九条の会ネットワーク(仮)の協賛により開催された。
「護憲派財界人」とも言われる品川さんの話に、四〇〇名あまりの参加者は、熱心に耳を傾けた。講演(要旨)は次のようなものだった。
品川正治さんは、一九二四年の生まれで、旧制高校二年生のとき、兵隊として中国戦線に送られる。戦争中は「国家がおこした戦争、国民の一人としてどう生き、どう死ぬか?」と考えていた。戦争に行ってこの考えがすっかり変わり、「戦争をおこすのも人間、それを止め許さないのも人間」との考えが一生の座標軸として残った。
敗戦後、復員船の中で、新聞の「日本国憲法(草案)」を読み、「よくここまで思い切ってくれた」「これで我々も生きていける」と全員泣いた。当時の毎日新聞のアンケートでは、八割以上の人が賛成していた。「日本のこれからの生き方はこれしかない。」と思った。
しかし、日本の支配政党は、一度もその決意をしていない。自前の憲法を作り、何とか戦争の出来る国にしたいと思っていた。いま平和憲法は、有事立法、イラク特措法など解釈改憲によってボロボロになっている。しかし旗ざおはまだ国民の手にある。二一世紀の世界の課題に答えるものは、「正義の戦争も認めない。そもそも戦争を認めない」というこの平和憲法の理念しかない。世界で日本だけがもっているこの理念を大切に守ってもらいたい。現実にはこの理念が強い攻撃にさらされている。「古くなったから変える」というのは国民をだます言葉だ。
日本の政財界もマスコミも、日米の価値観が一緒だとして全てを見ようとしている。だが、アメリカはずっと戦争を続けている国、現在戦っている国、日本は平和憲法・理念を持っている国で一緒ではない。アメリカ型の資本主義が正しい、市場原理主義が本当の資本主義だといって教育も福祉も何もかもマーケットにまかせる方向にもっていくのが正しいのだろうか?日本の経営者の中には今までこうした考えはなかった。もっと働く人のことや、お得意さんのこと、地域のことなどを考えていた。私たちはアメリカと価値観が一緒ではない。
「改革なくして成長なし」と規制緩和をやってきたが、大企業がもっと自由にやりたいがための規制緩和になっている。「大きな政府から小さな政府へ」「官から民へ」と行政改革をいうが、いま日本は決して大きな政府ではない。また、一体誰が誰のために借金を作ったのか?バブルがはじけた時、大企業を助けるために国民の家計部門からお金を借りたというのがことの真相だ。それをごまかすために官僚、公務員のせいにしている。こうしたすりかえは許されない。経済界は、いまバブル時代の倍の利益を上げているのに、法人税を下げろなどといっている。労働者にしわ寄せしておいて、雇用をメチャクチャにしておいて、日米の価値観は同じ、アメリカの資本主義に近づくためとしてこうしたやり方を通そうとしている。「訴えてやる」と言いたい。
いざ戦争と言うことになれば、自由とか人権とか人類が苦労して得てきたものもなくなり、生命(敵も日本国民も)を犠牲にして勝つことのみを考えるようになる。また、戦争に勝つために、戦力も労働力も、学問も、人文科学も、社会科学もあらゆるものが動員される。司法・行政・立法の三権分立もなくなり、戦争を指導するものが権力の中枢に座る。
こうなってしまうとわかっていてそれでも戦争を許せるだろうか?アメリカはいま戦争をしている。世界経済も国連も戦争に動員しようとしている。米英軍事同盟を結んでいるイギリスは戦争に動員されている。アメリカは日米安保条約のもとで日本をどう動員するかを考えている。アメリカ軍の再編の費用を出し、アメリカと日本の軍隊の一体化が進んでいるが、憲法九条二項があるため日米軍事同盟だけは出来ていない。アメリカは早く日本の国民から旗ざおを取り上げたいと思っている。
もし日本の国民が旗ざおを離さないといった場合、内閣が変わるだけでなく、アジアとの関係も変わり、アメリカの世界戦略も変わる。世界史の動きも変わってくる。
いまこそ世界史を書き換える、国民の大きな出番だ。外交官に出来ないことを、国民の出番によって達成できる。九条を守る意義は大きい。
安倍内閣は、経済の成長によって全てを解決しようとしているが、二一世紀の課題をみないで、先進国のあり方を見ないで、もっと成長をと言うのはうまくいかない。世界からどう貧困を無くすのか?環境問題をどのように考えたらよいか?経済はどうあるべきなのか?平和憲法をもっている国のあり方は?など二一世紀の課題にどう答えるのか?が問われている。いま改憲にNOということは、世界史的な大きな変化を及ぼす。尊敬される国を子供たちに残したい。日本国憲法の聖地である広島から皆さんの思いを発信して欲しい。
このように品川さんは、自らの戦争体験を踏まえつつ、平和憲法の理念の大切さ、それを守っていくことの意義を、経済人の目から見て率直に思いをこめて語った。「戦争をおこすのも人間、それを止め許さないのも人間」、国民の一人一人が、この国の現状をしっかり見つめて、自らの国のありようを考え、判断し、行動していくことが問われている。
また、最後の主催者挨拶で、この日、県内五十二の「九条の会」が「広島県九条の会ネットワーク」を正式に結成したことが報告された。これで広島における平和憲法を守る人たちの協力の輪がまた大きく広がった。 (広島・I)
KODAMA
連休の中で
久々にホッとしたかった。これは、精神的に来ていた合図だったのかもしれない。連休の前半は体調不良、後半は家族重視で、結果オーライ、だった。今、本当にそう思う。妻の勧めで病院に行ったから、間違いないだろう。
日頃のストレス発散が上手くない僕には、貴重な体験だった。
大型連休にあやかってと言うよりも、幼児の子守、いやいや、自分自身の休息、家族と過ごしたかった、これらが、本当の理由だったのかもしれない。
今年は、二月から作業場の見える所に「五月連休は休みます!」と書いて置いておいた。結果は、連休中の出勤は五月二日のみだった。「良く取れたなぁ」と、我ながら感心している。
『一日はメーデー、三日は憲法集会』、との行事は動かせないものだが、四日の『トミカ博』は連休前に決めた。子どもたちには一緒の思い出を作りたかった。『トミカ博』はここ数年の家族行事になっている。それは、長男がトミカを大好きだからだ。初めて自分で歩く次男の反応も、楽しみにしていた。
でも、連休前から、体が拒否反応を出していた。アトピーが悪化していた。アトピーは、完全治療法も無く、対症療法でしかない。長年、この病気と付き合っているが、季節の変わり目に悪化する事が多い。注意していたが、この春は失敗した。痒くて、痒くて、かきむしってしまったのだ。首と手の肘から先は、まるで赤いペンキを塗った様になってしまっていた。寝ても覚めても、掻いていた。終まいに、寝る事が怖くなり、睡眠不足になっていた。
病院に駆け込んだ。塗り薬と飲み薬をもらった。体調は、薬と言う安心感からか快調に向かい後半の四連休を楽しめた。今思えば、自分自身の休息を取りたい、家族とゆっくり過ごしたい、これらが何と貴重な事なのか、改めて思う。
日々の暮らしで大切なのは、家族であり、仲間だ。そのための暮らしであり、職場であり、労組であり、地域である。憲法改正もジェットコースターの点検ミス事故も、その先に何があるのか、ハッキリしている。軍隊は市民ではなく国家を守り、点検怠業企業は安全よりも利益が欲しかった、という事だ。
小市民の僕には、「やれる事からコツコツとやるしかない」、と言う当たり前の事しか解らない。だから、それをやっていく。
さぁ、次の休みは、何をしよう! (五月七日) 長見(大阪)
複眼単眼
映画「約束の旅路」を観て あらためて思う
国会の諸問題もあるし、5・3集会もあるから、いつものことながら、この時期は私にとってはあまり「大型連休」という意識はないままに過ぎるのだが、その最終日に岩波ホールに出かけた。そんなに気にしていた映画ではなかったのだが、雨も降っているし、「映画でも観るか」という軽い気持ちだった。
観終えた後、本当に大切な時間を過ごすことができたという、充実した、静かな感動に包まれた。この映画をつらぬくヒューマニズムは、背景の国際情勢や政治的複雑さの中でも決して汚されない輝きを持っている。一四九分という長い映画だったが、一気にその中に引き込まれていた。
二〇〇五年
フランス映画
ベルリン国際映画祭パノラマ部門観客賞をはじめ数々の賞を獲得
監督はチャウシェスク政権のルーマニアを逃れ、フランスで学び、「裏切り」「いのちの列車」で世に出た気鋭のラデュ・ミヘイレアニュ。
主人公のシュロモの幼年時代、少年時代、青年時代を三人の若者が演じ、イスラエル人の養母ヤエルをイスラエルの女優ヤエル・アベカシス、養父ヨラムをフランスの名優ロシュディ・ゼムが演じている。
物語のはじまりは一九八四年、イスラエルが大勢のファラシャと呼ばれるエチオピア系ユダヤ人をスーダンの難民キャンプからひそかに空路移送した「モーゼ作戦」という実際にあった事件から始まる。主人公のシュロモ(当時九歳)はこのとき難民キャンプに共にいた母親のとっさの機転で、母親と別れファラシャの人々に紛れ込み、ユダヤ人と偽ってイスラエルに入る。
やがてイスラエル人の左派を自認する優しい養父母一家に引き取られ、成長していくが、母とアフリカの大地を忘れることは出来ず、また褐色の肌を持ち、出自と宗教を偽っていることへの悩みは消えない。そんなときに、しばしばシュロモは靴を捨てて大地を確かめるように裸足で歩くのだった。
あるとき、テレビで知ったアフリカの干ばつのニュースは母への思いを募らせ、シュロモは荒れる。しかしその若者を周囲の人々は優しく包む。これらの人々もまた、形こそ違え、同じように人種や宗教、差別に苦しんで来た人びとだったのだ。そんなとき、かつてスーダンの難民キャンプにいたときにシュロモを救ってくれた赤十字の医師に出会う。シュロモは医師になる決意をしてフランスに渡る。
数年後、アフリカの難民キャンプに医師になったシュロモがいた。テントの入り口にかかる「国境なき医師団」の看板。群がる子どもたちにボールペンを配るシュロモに、イスラエルの妻からの電話が入る。
電話口で始めて言葉を口にした子どもが「パパ」と呼んでいるとき、ぼろ布をかぶった一人の女性が目に入る。裸足で駆け寄るシュロモ。抱きしめられた母親が難民キャンプの空高く悲鳴のように叫び声を上げる。
映画館の入り口に積んであった「国境なき医師団(MSF)日本」の「二〇〇五年活動報告」という分厚いパンフレットをもらってきて、いまその頁をめくっている。
国境なき医師団は
苦境にある人々、天災、人災、武力紛争の被災者に対し
人種、宗教、信条、政治的な関わりを超えて
差別することなく援助を提供する
(中略)
国境なき医師団のボランティアは
その任務の危険を認識し
国境なき医師団が提供できる以外には
自らに対していかなる補償も求めない
(国境なき医師団憲章)
医師に限らず、こうした名もないボランティアたちが無数にいる。 (T)