人民新報 ・ 第1229号<統合322号(2007年7月16日)
  
                  目次


 参院選・自公与党を過半数割れに追い込もう  安倍政権に打撃を! 反改憲候補の勝利を!

 久間の原爆発言糾弾   安倍内閣の本音露呈

 オキナワピースサイクル  沖縄の軍事基地を撤去させよう

 共謀罪に反対するネットワークの連続学習会  「マイノリティーの権利と共謀罪」

 アメリカのイラク反戦運動  シンディー・シーハンさんが運動に復帰

 清水私案(民族解放社会主義革命論)を再読する F

 図書紹介  / 内田雅敏・著  「靖国問題Q&A〜『特攻記念館」で涙を流すだけでよいのでしょうか』」

 KODAMA  /   米軍基地・米兵犯罪

 複眼単眼  /  参院選で憲法を争点にすることに躊躇する自民党




参院選・自公与党を過半数割れに追い込もう

    安倍政権に打撃を! 反改憲候補の勝利を!


 七月五日、十二日間の会期延長で参院選投票日を一週間ずらしてまで諸悪法を強行成立させた第百六十六通常国会が閉幕した。
 昨年九月に発足した安倍内閣は、その極右反動的な「美しい国」ビジョンにしたがって、アメリカとの軍事同盟をいっそう効率的に運用するために自衛隊を米世界戦略の下で米軍とともにそして米軍の一部を代位補完するものとして脱皮させようとしている。その起動力は、アーミテージ・レポートにみられるようにイラク戦場で泥沼に陥り、中東をはじめ世界的に影響力を後退させるアメリカからの集団的自衛権の行使・憲法九条改悪への強い要求・指令であり、同時にアメリカの支配圏の中で海外での企業活動の自由を謳歌しようという日本財界の要求である。それとともに海外派兵と一体となった国内での新自由主義的な雇用・労働制度の規制緩和、企業に甘く大衆に厳しい税制、教育の国家主義的統制強化などが推し進められた。昨年の臨時国会と今年の通常国会では安倍が用意した多くの法案が成立させられた。それが可能になったのは、二〇〇五年郵政総選挙で自民・公明与党が衆院の三分の二以上の議席を獲得したからである。郵政民営化のみを争点とした総選挙であったにもかかわらず、自民党は、防衛庁の省昇格、教育基本法改悪、そして改憲手続き法、在日米軍再編促進法、改正少年法、改正入管法、改正パート労働法、教育関連三法、改正政治資金規正法、年金時効特例法などそのほとんどの法案を与党単独での強行採決で押し切ってきた。
 発足後一年もたたないのに、安倍内閣は、きわめて反動的な諸法を成立させ、アメリカともに戦争ができ、独占資本の儲けを一段と拡大する国家・社会体制づくりに一路邁進してきたのである。
 だが、小泉内閣の五年間の負の遺産を引き継ぎ、小泉純一郎が自らの政策の破綻の前に「目出度く」退陣したあとを引き継いだ安倍にとってはきわめて政治運営の難しい局面となってきていた。それに安倍自身の極右反動思想と強引なファッショ的な手法、その実、政治的判断・力量のなさが加わって、安倍の人気は凋落を続けている。ついに、安倍政権にとって発足以来はじめての国政選挙である参院選の投票日が七月二十九日に迫ってきた。
 参院選公示前の有権者の動向をさぐった『東京新聞』七月一〇日の全国電話調査の記事によると参院選での自民党の苦境が予想される結果となっている。
政党・候補者については、比例代表で民主党三二・四%、自民党二六・八%、選挙区でも民主党三一・四%、自民党二七・三%とそれぞれ民主党が自民党を上回っている。
 安倍内閣についての支持率調査では、「支持していない」「どちらかといえば支持していない」の合計が五三・四%、「支持」の四四・二%で、安倍内閣の年金、「政治とカネ」問題に対する取り組みに批判的な回答はそれぞれ七割前後に上っている。
 だが、安心するわけにはいかない。政党支持率では自民党三九・九%、民主党二一・二%と自民党がはるかに上回っている。そして、比例、選挙区とも二割余がどの党、誰に投票するか分からないという情況である。これらの数字から見えることは、自民党支持者は依然として多いが、安倍内閣の政策・姿勢については反対という保守層が目立つということであろう。安倍は、赤城徳彦農水相の事務所費問題などまだまだ身内のボロをさらけ出すだろうが、選挙に勝つために何らかの、ウルトラC謀略を出してくることも予想される。
 安倍の基盤が弱くなっているのは日本国内だけではない。朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議では「拉致」問題を強引に押し出して日朝国交正常化を拒否する日本はアメリカ・ブッシュ政権とも見解の相違を際立たせ、またアメリカ下院委員会での「戦時性奴隷」決議など、安倍政権の極右反動路線は対アジア、対米関係でもほころびを見せている。
 参院選で安倍政権与党の過半数割れを実現することは、今後の政治的局面に新たな展望を切り開くことになる。なによりも、自分の任期内の改憲を叫ぶ安倍に打撃を与える。だがもし、与党が勝利したり、さほど大きな打撃を受けない場合には政治反動化に拍車がかかるには必至だ。
 民主党もその内部には、多くの反動的議員を抱え、基本的にもうひとつの改憲政党である。
 参院選においては、与党を過半数割れに追い込むとともに、社民党、共産党、九条ネットその他の九条護憲勢力の議席確保・増大に投票が集中されなければならない。そして改憲阻止の闘いを前進させるのに有利な政治局面と国会情況をつくりだすために奮闘しよう。

 安倍内閣を打倒しよう!

 改憲阻止の政治戦線を形成しよう!


久間の原爆発言糾弾   安倍内閣の本音露呈

 安倍内閣は立て続けに閣僚の問題行動を起こしている。久間章生防衛相は広島と長崎への原爆投下を「しょうがない」と発言して閣僚辞任に追い込まれた。当初、安倍晋三は久間を首相官邸に呼び「誤解を招くような発言は厳に慎むように」程度の「厳重注意」で事態の乗り切りを策し、久間も「『しょうがない』という言葉はこちらの説明不十分。撤回しておわびする。申し訳ない」という軽い「釈明」でことを済まそうとした。参院選への影響を回避するため、久間の釈明をもって早期の幕引きを図る考えだった。そして安倍内閣は、これでけじめはついたとして野党の罷免要求に応じない考えを重ねて表明した。
 ところが、反発はいっそうひろがることになった。久間、安倍の態度に長崎、広島をはじめ各地から猛反発の声があがったのである。この世論の動向を安倍はまったく安易に考え、読み違えたのであった。年金記録漏れ問題に続くもので、安倍自身のおろかな対応によって自らをより厳しい立場に追い込んだのである。選挙を気にする自民党、そして公明党からも悲鳴のような批判がおこり、ついに三日午後、久間は「(政府・与党の)皆さんに迷惑をかけてもいけませんし、参院選が私の発言でマイナスになっても困る」ということで安倍に辞任を申し出たのであった。安倍は慰留もせずあっさりと辞意を了承した。
 いま安倍の任命責任が問われているが、安倍内閣というのは、安倍を担いだ者たちの論功賞内閣であり、辞任した佐田玄一郎前行革担当相、自殺した松岡利勝前農相、そしてこの久間が典型的な人物であった。
 そして後任の防衛相には小池百合子首相補佐官がなった。小池は、安全保障問題担当補佐官として、米軍基地再編・強化の先導者であり、とりわけ沖縄に米軍基地を押し付ける役割を果たしてきた。それだけではない。「日本会議国会議員懇談会」の副幹事長でもあった。核武装については、国際情勢の変化があれば検討すべきだという主張の持ち主でもある。久間が、アメリカのイラク侵略戦争を支え、アメリカの原爆投下を容認することをもってアメリカへの忠誠の証とする人物なら、小池も同様の危険な人物である。日本新党から出馬して初当選し、その後、新進党、自由党、保守党、自民党と渡り歩き、〇五年の小泉郵政選挙では、「刺客」として功績を上げている。
 久間は辞任した。しかし久間の発言は安倍内閣の本音である。安倍は久間の発言をたいしたことはないとして野党からの攻撃からまもり、米政府高官の久間と同様な発言にも抗議していないのである。


オキナワピースサイクル

   
 沖縄の軍事基地を撤去させよう

 二〇〇七オキナワピースサイクルが六月二一日から二五日までの日程で取り組まれた。一八年目を迎えた今回は広島、大阪、神奈川、東京から一四名が参加した。
 在日米軍再編でゆれ、教科書検定では『集団自決』への日本軍の関与を削除され、沖縄県民の怒りが渦巻いていた。私たちは憲法九条にメロディーをつけた歌を宣伝カーで流しながら元気よくピースサイクル行った。

六月二一日(木)
 例年より早い梅雨明けとなった。今回、参加するメンバーは沖縄県庁に表敬訪問を行い、翌日から始まるオキナワピースサイクルの報告と全国から集まったピースメッセージを届けに行った。知事公室基地防災統括監が応対し、ビースメッセージの中で『沖縄の基地問題は日本全体の問題である』ことに触れ、本当に有り難く思っていること、ビースサイクルが無事に走り終えるよう健闘を祈るとともにビースメッセージを必ず知事に渡すことを約束した。私たちは、『道の駅かでな』を見学し読谷村に入った。読谷村では彫刻家である金城実さんが旧読谷飛行場で行っている展示会『戦争と人間』を見学。スケールの大きさに圧倒された。夜には会場で外務省密約事件の西山太吉さん(元毎日新聞記者)の講演会に参加し沖縄返還時の日米の密約の話を聞いた。

六月二二日(金)

 今回も案内していいただく宇根悦子さんと合流。最初に沖縄戦初期に日米両軍の激戦地となった嘉数高台に行った。慰霊の日を前に多くの団体が見学に訪れていた。説明を受けながら洞窟やトーチカの残骸、『京都の塔』『青丘之塔』『嘉数の塔』を見学する。中でも『京都の塔』の碑文には軍と運命を共にした沖縄住民の哀しみと再び戦争を繰りかえすまいとの反省が刻まれている。最後に普天問基地を一望すると、改めてきわめて危険な基地だということを実感する。その後、南風原文化センターを訪れ沖縄陸軍病院として使われた南風原壕群二〇号を見学した。当時の現状を残し、今年の六月一八日から一般公開され、戦争を風化させない為に地元の方がガイドを行っている。終了後、那覇市内に戻り今回参加するメンバーの自己紹介を中心に交流会を行い、翌日から始まる実走での健闘を誓い合った。

六月二三日(土)

 沖縄では慰霊の日として各地で戦没者に祈りを捧げる。糸満市摩文仁の平和祈念公園では県主催で沖縄戦全戦没者追悼式が行われた。今回初めて安倍首相が参加したが、沖縄戦から六二年、現在も米軍基地を押し付けている沖縄の現状をどう思っているのか!歴史を歪曲し、憲法改正を企み戦争のできる国づくりを進め、違憲・違法がまかり通っていることに怒りを感じる。
 私たちは、魂魄の塔で行われた六・二三国際反戦沖縄集会(今回で二四回目)に参加。優美堂からのデモは、『月桃の花』を流す中、平和を願って自作の詩を群読活動をしている中学生が先頭に、ピースサイクルのメンバーも朗読しながら払たちも魂魄の塔まで自転車をひいて行進した。集会では、安倍総理来沖抗議行動の報告や『東村高江』ヘリパット建設問題、エクアドル世界反基地会議の報告、参院選に出馬している糸数慶子さんの発言やミニコンサートもあり充実した集会となった。その後、私たちは自転車で那覇まで行進した。

六月二四日(日)

 今日は自転車走行の最大の山場の那覇から名護市辺野古までだ。沖縄は梅雨明け後、日毎に気温が上がっているが、風はなんとも心地よい。那覇市の宿舎を出発したピースサイクルは、何度か休憩を取りながら、以前マングローブを植えた潟原で成長を見ながら昼食。その後、新基地建設反対の情宣を行いながら名護市辺野古まで走り、ここで自転車走行を終えた。
 辺野古では米軍普天間飛行場代替施設建設に反対する座り込みが行われている。先月、五月一九日には『命を守る会』の金城祐治さんが亡くなられた。今回も『ヘリ基地反対協議会』の安次富浩さんに受け入れていただいた。安次富さんは、金城裕治さんの葬儀の時にも那覇防衛施設局が調査を強行してきたことに人情のかけらもないと怒っておられた。私たちは全国から寄せられたピースメッセージを手渡し、檄布はキャンプシュワブにくくりつけた。その後、じゅごんの里がある瀬嵩で東恩納琢磨さんと一緒にバーベキューや手料理など交えて交流会を行った。最近、大浦湾でジュゴンが目撃されたビデオを観賞した。ジュゴンと海亀が戯れながら泳いでいる。息継ぎのため海面に上昇したジュゴンは黄金色に輝きとても美しかった。ジュゴン自身が原告となっている米国ジュゴン訴訟も大詰めを迎えている。九月には結審し、来年三月には判決が出る。東恩納琢磨さんは、あらゆる手段を使ってでも基地を作らせないと熱く語った。

六月二五日(月)

 沖縄本島北部の豊かな森に囲まれた地域の『やんばる』。国指定の天然記念物で有名なヤンバルクイナも生息する貴重な自然が残っている。そのやんばるの中にある東村高江に米軍はヘリパットを建設しようとしている。私たちは辺野古から車で一時間はかかる東村高江まで行き、現地で闘っている方たちと交流した。最近テレビで取り上げられたビデオを見て経過などを伺った。このヘリパットも北部訓練場の約半分を返還する代償に米軍基地強化のため、高江に六ヵ所も建設することが勝手に決められたと言う。そして新しいヘリコプター『オスプレイ』の配備も海から陸へ上陸訓練のための水域と土地まで提供するそうだ。米軍のやりたい放題に怒りが込み上げてくる。私たちは現在便われているヘリパットを視察。訓練状況などの話を聞いた。現場では薬莢があちこちにばらまかれている。夜一〇時過ぎまで行われる夜間飛行訓練の騒音に今でも悩まされており、移設が行われると高江周辺を取り囲まれるように建設され、一層騒音と事故に悩まされるという。私たちはその建設現場を回り交流を終え、〇七オキナワピースサイクルを無事終了した。

 今回のオキナワピースサイクルでは、現地の方たちとの交流の中で『沖縄の怒り』がひしひしと心に伝わってきた。特に集団自決に関する記述から日本軍の関与が削除された教科書検定には、沖縄県民全体が怒っていた。そして、辺野古も高江も返還の代償に新たな新基地を求める米軍の卑劣さに、私たちは沖縄県民と連帯して絶対に『基地を作らせてはいけない』との思いを強くした。(2007沖縄PC通信員)


共謀罪に反対するネットワークの連続学習会

      
 「マイノリティーの権利と共謀罪」

 共謀罪新設法案は、今通常国会でも審議入できずに終わった。市民運動と国会議員、法律家、ジャーナリストなどの連携で、危険な法案に反対する声が大いに盛り上がり、安倍内閣の欲張った反動諸立法強行と国会最終盤での姑息な会期延長にもかかわらず、共謀罪法成立を阻止することができた。与党は、秋の臨時国会にまたしても共謀罪法案を出してくるだろうが断固として廃案に追い込む闘いを持続させ前進させなければならない。

 七月五日、文京区民センターで、共謀罪に反対するネットワークの連続学習会が開かれた。

 「マイノリティーの権利と共謀罪」と題して、反差別国際運動(IMADR)日本委員会の森原秀樹さんが講演した。

 はじめに反差別国際運動について説明する。この運動は、世界からあらゆる差別と人種主義の撤廃をめざしている国際人権NGOで、日本の部落解放同盟の呼びかけにより、国内外の被差別団体や個人によって、一九八八年に設立された。現在、日本、スリランカ、インドなどのアジア地域を中心に、中南米やヨーロッパで運動が展開されている。インドではカースト外の被差別民、スリランカで迫害を受けている少数民族、ヨーロッパではジプシーと呼ばれてきたロマの人たちなど被差別マイノリティ自身による国境を越えた連携・連帯を促進している。なにより差別を受けている人たち自身の当事者性ということが強調されている。日本では、被差別部落の人びとや、アイヌ民族、沖縄の人びと、在日コリアンなど日本の旧植民地出身者およびその子孫、移住労働者・外国人などが差別を受けているし、また、それらの集団に属する女性に対してはより厳しい複合差別といわれるものが存在しているが、それらの撤廃に取り組むのが課題となっている。
 大切にしている視点が三つある。
 第一に「EMPOWERMENT」(立ち上がり)ということだ。つまり、被差別の当事者が、差別をなくすためにみずから立ち上がり活動すること。第二には、「SOLIDARITY」(つながり)で、被差別の当事者が連携、連帯すること。第三には「ADVOCACY」(基準・仕組みづくり)で、被差別の当事者の声と力によって、差別と人種主義の撤廃のための仕組みが強化され、それらが被差別の当事者によって効果的に活用されること、だ。
 そして、次のような活動テーマへの取り組みを通じて、差別と人種主義、それらとジェンダー差別が交差する複合差別の撤廃をめざしている。
 @職業と世系(門地・社会的出自)にもとづく差別の撤廃、A搾取的移住(性労働などの搾取をともなう移住)・女性と子どもの人身売買の撤廃、B先住民族の権利確立、Cマイノリティの権利確立、D司法制度における人種差別の撤廃、E国際的な人権保障制度の発展とマイノリティによる活用の促進、などだ。
 日本における差別は国際的も問題とされている。「日本には人種差別と外国人嫌悪が確かに存在する」という報告がある。これは国連人権委員会が任命した「現代的形態の人種主義、人種差別、外国人嫌悪および関連する不寛容に関する特別報告者」であるドゥドゥ・ディエンさんが二〇〇五年の七月三日から十一日にかけて日本を公式訪問し、その報告書が国連に提出された。報告は、人種主義、人種差別、外国人嫌悪および関連する不寛容の影響を受けている主な集団として、@ナショナル・マイノリティ(被差別部落出身者、アイヌ民族、沖縄の人びと)、A朝鮮半島・中国など日本の旧植民地出身者とその子孫、Bその他のアジア諸国および世界各地からやってきた外国人・移住労働者をあげ、そして日本政府に対し、人種差別の存在を公式に認め、それを撤廃する政治的意志を表明することや、差別を禁止する法律の制定や問題に対処するための国内機関の設置、歴史教科書の見直しなど二十四項目にわたる包括的な勧告を提示した。この意義は大変大きい。だが、日本政府は、この報告は不適切であるとして反論している。
 今、日本では排外主義を基礎とした政治体制が強化され、日本社会が多文化共生社会の実現とは逆の方向に向かっている。国家による人種主義が露呈し、それが着々と法制度化されようとしている。通常国会は閉会となったが、改正入管法は五月十六日に成立してしまった。そして、強行採決の危機を乗り越え継続審議となった共謀罪新設法案は、被差別マイノリティの視点からもけっして看過できない法案だった。共謀罪新設法案は、「国境を越えた組織犯罪の防止に関する条約」の批准を口実に、二人以上が犯罪の計画について話し合い合意しただけで、その実行をともなわなくても処罰することを可能にする。改定入管法は、「テロの未然防止」を口実に、日本に入国する十六歳以上の外国人すべてから指紋や顔写真などの提供を義務づけ、その情報を犯罪捜査にも活用し、また、「テロリスト」の定義もないままに、「テロリスト容疑者」とされた外国人を恣意的・一方的に国外退去させることを可能にしている。政府・与党は、一部の市民運動や外国人に「危険分子」「犯罪者」「テロリスト」というイメージを重ねて「国民の敵」をつくりあげ、その「敵」から「国民を守る」という口実を用いて、国内政治と外交における行き詰まりを乗り切り、より強大な権力を手にしようとしているようだ。 
 一九一八年の米騒動の際には、被差別部落の人びとがとりわけ苛酷な刑罰を宣告された。関東大震災の際には、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」といううわさを当局が流布し、それが在日コリアンの虐殺を招いた。日米同盟における難題である米軍基地問題は、つねに沖縄の人びとに負担を押し付ける形で決着されてきた。狭山事件においては、捜査に行き詰った警察が、被差別部落に対する差別に基づく見込み捜査を行ない、被差別部落出身者である石川一雄さんがでっちあげ逮捕され死刑判決を受けた。日朝関係の行き詰まりは、子どもたちを含む在日コリアンに向けられる暴力の容認と煽動によって覆い隠されてきた。
 今国会で与党・政府が成立を急いだ共謀罪などの悪法案を検証し、また、歴史を振り返ると、国家は、「国民の敵」をでっちあげ、人びとにその幻想を植えつけることなしに、その目的を達成できないことがわかってくる。共謀罪の新設と入管法の改定は、重ねあわせて考える必要がある。
 政府が実現しようとしている社会は、「外国人は危ない」という意識を国民に刷り込み、その虚構の上に、入管と警察が連携する巨大なシステムを構築するものであり、人種主義・人種差別の制度化そのものなのだ。
 過去の治安維持法を含む治安立法・治安管理政策が、最初は必ず、多数派の市民が「納得」する対象、すなわち「危険分子」とレッテルを貼られた集団に向けて発動されてきたという事実がある。
 この間の取り組みでは、共謀罪の新設法案への反対運動は大きな盛り上がりをみせた反面、入管法改正案への関心はさほど高まらず、結果的に、成立を許してしまった。このことは、日本社会において、「テロリスト」と関連づけられた外国人がすでに、治安管理政策を適用すべきだと「多数派の市民が『納得』する対象」となってしまっていることを物語ってはいないだろうか。
 改定入管法が共謀罪の新設と一緒になってその猛威を振るえば、日本にファシズムが再生することが可能になるように思われる。だから、共謀罪の新設だけは、何としてでも食い止めねばならない。また、成立した改定入管法の施行を含め、外国人を危険視するあらゆる制度の廃止を求め続けていきたい。


アメリカのイラク反戦運動

    
シンディー・シーハンさんが運動に復帰

 シンディー・シーハンさんは、二〇〇四年四月に息子のケーシーさんがイラク派兵中に殺されてから、他の同様に子どもを失った遺族とともにブッシュ米大統領を批判する行動の先頭にたち反戦運動家となった。二〇〇五年八月には、テキサス州クロフォードにある農園での長期休暇中のブッシュ大統領にシーハンさんたちと会談することを要求し、農園外のキャンプをつくり座り込んだ。
 しかしシンディーさんはこの五月下旬に運動からの「引退」宣言を行ない、おおくの人びとに衝撃をあたえた。シンディーさんは、その理由を、彼女を含めてアメリカの人びとがイラク戦争を続けるというアメリカ政治を変えられなかったことだと述べていた。
 しかし、彼女は、七月三日、早くも運動への復帰のメッセージを発表した。
 ひとつの契機は、イラク開戦の情報操作を新聞で批判した米外交官への報復として、CIA工作員だった元大使の妻の実名をメディアにリークしたリビー元副大統領補佐官が有罪判決をうけたにもかかわらずブッシュ大統領が実刑免除とすることを発表したことだった。このブッシュの恩赦には、米世論が猛反発し、大多数の人がブッシュ政権を批判している。 
 
 シンディーさんはメッセージで次のように述べている。 
 …ブッシュたちの追放を要求して、ワシントンへ怒りの行進する時が来た。わたしには夢がある。もし議会がブッシュ一味を政治の場から追い出さないなら、それはわたしたち人民の仕事となる。トーマス・ジェファーソンは、わたしたちが二〇年ごとに革命を起こさければ、共和国を誠実には保てないといった。以来もう二百二十五年が経った。TVを消して、あなたの子どもを連れて、腐敗した連邦政府に押しかけるか、わたし達の行進に加わってください。…

 アメリカ独立宣言を引用しながら、ブッシュ政権の無法な侵略戦争がアメリカの革命的民主主義の伝統にも反していることをアピールし、その再生を人びとに呼びかける力強いメッセージである。彼女の運動への復帰は、支持を失い、政権内部の暗部も露呈してきたブッシュ政権を追い詰める動きにいっそう活力を与えることはまちがいない。
 いずれにしろ、シンディーさんの元気な復帰はとにかく嬉しいことだ。シンディーさんが「休養」している間にも、イラクではアメリカ占領軍が「テロリスト掃討作戦」と称して多くのイラク民衆を虐殺した。六月下旬には、ディヤラ州都バクバでは駐イラク米軍による軍事作戦によって二週間で市民三百五十人が殺害された。また米兵死者は三六〇〇人を超すまでになった。とくに首都バグダッドではこの半年ですでに昨年の死者数二百六十五人を超えるにいたっている。
 安倍政権は対米追随政策を継続し、日本航空自衛隊はアメリカ軍の武器兵員を輸送し、イラク民衆虐殺の重要な一翼を担う「国際貢献」を遂行中である。断じて許してはならない。 (H)


清水私案(民族解放社会主義革命論)を再読する F

社会主義票では「ない」

 六〇年安保闘争で、岸信介政権は倒れ、池田勇人内閣が生まれた。六〇年安保以降、長い間自民党は改憲を言えなくなった。それほどの打撃を支配層に与えたのである。だが、情況はそれ以上とはならなかった。
 清水は『日本の社会民主主義』で安保の大衆運動の盛り上がりを受けて次のように書いた。
 「私は…政治的国民運動に着目しその将来に期待をもっている。それが統一された組織性格をもちえないことはむしろ当然であって、整然と組織された特殊集団をいくつか集めただけでは算術的組織数が何百万にのぼろうとも革命への不気味な大衆的圧力にはなりえない。だが、その大群集的集団のなかから戦闘的かつ革命的政治国民を組織化して産業別職業別地域別系統の組織集団を用意し、革命の推進と反革命の制圧のための民衆的権力基礎を大衆の中につくり上けることは是非とも必要である。そして革命の進行につれて国政監視から実施の推進、さらに国家計画策定への参加等の民衆的政治組織を生み出し、官僚のサボタージュを抑え、新しい社会主義的行政制度の産婆役まで成長してゆくことが望ましい。こうした組織過程は無論大衆的前衛政党が指導すべきであるが、政党間の異常対立による革命の挫折を防ぎ、プロレタリヤの階級独裁が固定的な一党独裁に終るのでなく、民主的な弾力性をもち、政治集団と国民大衆が分離しないようにするためには、革命推進の中衛部隊をどのような性格のものとするかが決定的に大切なことを全体として常識化させねばならない。それには各集団の内部に直接民主主義を加味した民主的作風が浸透していることが前提となるが、それでも自発性創意性と革命規律の間には終始問題がつきまとうであろう。だが高度資本主義国では、ソ連中国の場合と異なり、基礎的生産力は既に高いのだから革命への自発性・創意性という具体化傾向をとる限り『自由』の側に傾斜することは差支えないのではなかろうか。戦争参加を想定しない以上なおさらのことである」。
 しかし一方で「にもかかわらず、社会主義政党に対してほぼ三分の二の固定票が投ぜられるのはなぜなのか。それはやはり平和票であり政治反動防止票であり生活防術票であって、実際のところ社会主義票ではないのである」という現実がある。
 社会主義については、「経済の改造と国有化」が軸心になる・
 「政治権力の掌握を基点とする社会革命のなかで主要な柱となるのは言うまでもなく経済的変革である。社会主義社会の実現はこれまでの搾取階級の私有する生産手段を国有化または公有化し、その基礎の上に計画経済を全面的に実施して生産力を発達させ、国民生活を引上げ、生涯の生活を保障し、個人の能力を最高度に発揮させ文化を向上させることにある。それゆえ、社会革命は生産手段の国有または公有化からはじまる…」。

国民の経済政策上の諸要求

 「では国有化を欠くことのできない主張としてもつ社会主義政治勢力はどのようにして国有化要求を民衆の中におろしてゆくべきか」として、
 「国民の関心が薄いとき、社会主義者だから、社会党だからという理由だけでとり上げたり、この部門、この産業ならやれそうだという理由で国有化提案を行うべきではない。われわれは国民の経済改善要求を素直にとり上げ、それを抜本的に解決するためにはどういう条件が必要かという迂回コースのなかで国有化を検討したらよい」という。
 そして、「無数にある国民の経済的改善要求のうち、やや恒久的な課題として、経済の社会主義的改造の場合もその前段として取組むべきもの」として八つの課題を挙げた。
 第一は、「経済(雇用)の二重構造に関する事項。国民の要求は最低賃金制とか下請け代金の遅払防止とか散発的または要求多発的に出ている。」
 第二は、「農業の恒久的な在り方に関する事項・保守党政府がその基本路線を大胆に打出したので農民の反応も長期的根本的な問題として受けとめている。」
 第三は、「貿易構造是正に関する事項。好景気のときは特定の産業をのぞいては経済要求としてよりは政治要求として出ている。これとは別に貿易及び為替の自由化に対して産業保護的な要求が労資協調的に出されている。」
 第四は、「工業地帯造成に関係する事項。この場合も要求の階級分化が不十分で『地方振興』的な保守革新大同小異の陳情形式が多い。」
 第五は、「技術革新との関係で停滞または後退を予想される産業の問題。焦層の生活問題と直結するため労資協調的な保護政策要求となりやすい。」
第六は、「社会保障制度に関する事項。無論第一との関連が多い。」
 第七は、「科学技術の高度化自立化に関する事項。」
 第八は「当面緊急の問題でありながら国民の要求として革新陣営の鏡にうつりにくいのが設備投資過剰に対する不安である。しかしながら、中小企業の設備投資については必要と不安が密着しており、賃金との関係が直結しているので革新陣営の鏡に入りやすい。」
 これらを「国民の要求を経済政策要求としてとらえ結合させ、運動態勢をととのえながら長期的展望につないでゆく」ための「太い線」とすべきだとしている。

「二重構造」「農業」問題

 現実にある国民的な諸要求を出発基盤としながら、それを「迂回的に」社会主義的な改造(社会主義的国有化・公有化)につなげてゆく道である。清水は、その中心を「二重構造」「農業」問題を綜合的にとらえた「日本の社会経済的民主化に関する長期計画と基本要求」として提起している。「その性格は社会主義的要求ではなく、社会主義への展望をもった反独占=民主的改革、つまり構造改革要求ということになる。この際、政策立案者として考えるべきことは、二重構造に悩む民衆にしても、農業の将来を憂える人にしても、せっぱつまった問題だけに出てくる要求は非常につつましく、しかもそれを実現させようとする熱意と潜在的エルギーは強力だということだ。そこで政策立案者はそこに焦点をあわせて非常に現実的な構えをとりやすい」とする。
 だがこの道は安易なものではないとして注意する必要があるとも指摘している。「この姿勢は重大な誤りのもとになる可能性も見ぬかなげればならない。なぜならば、この運動をおこすには全国的に大量の活動家を必要とする。活動家層でも年配の活動家は現実目標だけでもよいが若い活動家層は綜合的かつ長期的展望を求めているのである。社会民主主義者の運動は大衆をよく見るが活動家の心情を見おとしがちである。共産党の運動は活動家本位で大衆を軽視しがちである。だが、どちらの政治勢力であれ日本の革命を担当する根性があるのならこの両者を見落としてはならない」として、「二重構造の解消と長期的な日本農村建設の構想は総合性をもったものとして、少なくとも社会主義革命の場合もその初期におけるスタートラインの調塗として農村及び中小企業はこの辺のところにおきそこから出発すべきだという次元のものが用意されるべきであろう。このようにして第一次到達目標を設定したならば、次に当面の政策活動と組織活動の結節点として大衆の当面の要求(その多くは部分要求)を出発点としたさらに身近かな獲得目標を打出してゆく必要がある」とした。(文中敬称略)(つづく) (MD)


図書紹介

靖国問題Q&A〜「特攻記念館」で涙を流すだけでよいのでしょうか

   
  内田雅敏・著  スペース伽耶・出版  四六判208頁  定価1500円+税

 内田さんには靖国問題の著作はもうひとつ、「靖国には行かない 戦争にも行かない」(梨の木舎 二〇〇六年二月刊)がある。
 前著の「あとがき」で氏は「改憲の動きが急ピッチで進められようとしている。敗戦の年に生まれ、……(戦後の)時代精神とともに歩んできた者としてこのような動きには抗せざるを得ない。日本の近・現代史を丸ごと肯定し、すべての戦争を自衛戦争だと公言してはばからない靖国神社へ首相が参拝するなど、正気の沙汰と思われない。これを肯定する『国民的人気』を有するとかいう若手政治家たちの歴史認識の欠如には、驚くばかりである。議論をなすにあたっては思考力、すなわち思考の資源が不可欠であるということをつくづく思う」と憤慨している。
 新著では「『戦後体制からの脱却』を安易に、そして声高に語る安倍首相は、『戦後』がどのような犠牲、呻吟の中から生まれてきたかということについて、思いを馳せたことがあるのであろうか。近・現代史の履修漏れは一部高校生だけの問題ではない」と断じた。
 内田さんは同年夏、「平和の灯をヤスクニの闇へ、キャンドル行動」という韓国や台湾からの参加者を含む大規模なキャンペーンの事務局長として終始、その先頭で行動した。本書はその行動の中で生み出された。
 戦後の保守政治の流れの中では傍系の位置にあった国家主義者、復古主義的な保守勢力(自称・真の保守主義)が、米国でのネオコン(新保守主義)の台頭に呼応するようにして、日本でも勢力を増し、いまや主流の位置を占めた。安倍政権の基盤になっている「日本会議議連」や「日本の前途と歴史教育を考える(若手)議員の会」がそれだ。最近では「価値観議連」などという若手政治家グループも結成されて、安倍首相を下支えしようとしている。思考力の欠如した若手の政治家が各種のメディアを駆使しながら、ムード先行で社会の雰囲気を変えようとしている。最近では石原慎太郎都知事がプロデュースしてつくった知覧の特攻基地の映画「俺は、君のためにこそ死にに行く」なども上映されている。
 前著にも少し書いてあることだが、新著の「はじめに」では氏が知覧の「特攻記念館」を訪ねたなかで考えたことを書いている。
 「いつの時代にも若者が時代の大義に殉ずるすがたは《美しい物語》です。でも実情を知れば、涙ではなく怒りがわいてきます。……『特攻記念館』で、短き命を散らされた若者たちに涙するのは、自然な気持ちだと思います。しかし同時に、かれらの無念さに思いを馳せるべきです。そして、このような愚行を強いた政府・軍の指導者たちに怒り、その責任を追及すべきです。《特攻隊員たちの犠牲の上に、戦後の平和と繁栄が築かれた》などと無責任なことを言わせてはいけません。かれらの死が、戦後の平和の実現に不可欠であったなどと、どうして言えましょうか」
 この観点はとても重要だ。これは安倍首相らの復古主義者たちに対峙して、私たちが一歩も引き下がることのできない橋頭堡だ。歴史認識の問題は、いま憲法第九条をめぐって改憲派とのガチンコの歴史的な闘いになりつつある局面で、私たちの背骨ともいうべき問題だと思う。歴史としての戦争を深く認識する能力をもたない安倍のような戦争を知らない世代の政治家が、この国の政治のトップについて、無責任に過去を礼賛している。安倍首相は一人でビデオを観るのが好きだというがビデオの「戦争」に欠けているものに気づいていないに違いない。「九条の会」の呼びかけ人で、最近は病床から発信し続けている小田実さんが、その新著「中流の復興」(NHK出版)で、テレビドラマや映画と異なり実戦には「音楽がない」といったアレン・ネルソンの話に加えて、もうひとつ大事なことは「臭い」がないことだと指摘している。本来、この言葉を安倍首相はこころして聞かなくてはならないのだが。
 本書の「Q&A」はいわば若者向けの「靖国問題入門」だ(もちろん、年配者にとっても有意義だが)。六つに章立てして、三九個の問いを立てて、最初に簡単に結論を述べ、そのうえで「なぜなら」と解説する。ルビもていねいにつけられ、難しそうな用語には(注)もついている。大学の非常勤講師も務めている内田さんならではの心配りだ。
 各章の題は「靖国神社の由来、その歴史とこんにち」「靖国問題、『歴史問題』とはなにか」「東京裁判・A級戦犯と靖国神社」「靖国神社『遊就館』の持つ問題点」「アジアの遺族にとっての靖国神社」「靖国問題の今後を考える」だ。
 なお、本書にはジャーナリストの前田哲男さんが「わたしの靖国観・その周辺」という一文を寄せている。(斎藤)


KODAMA 

   
米軍基地・米兵犯罪

 神奈川県横須賀市にある米海軍基地には第七艦隊の極東司令部が置かれている。その第七艦隊は西太平洋・インド洋海域を担当している。基地の街ヨコスカは米兵犯罪の街でもある。
 七月五日朝、横須賀市で、女性二人が刺される殺人未遂事件が起こっている。犯人は米兵で同基地所属のフリゲート艦「ゲアリー」乗員の十九歳の二等水兵の男だった。米軍の対応は早かった。同日、ダニエル・ウィード基地司令官とジョーカー・ジェンキンス艦長が横須賀市役所に蒲谷亮一市長を訪ね、「事件に責任を感じている。市民や市、被害を受けた女性に心からおわびしたい」と陳謝するとともに、再発防止に取り組む考えを伝えたのだった。
 だが、昨年一月三日には横須賀市内で通りかかった女性を殺害して金を奪った強盗殺人事件が起こった。犯人のウィリアム・オリバー・リース上等水兵(空母キティホーク乗組員)は無期懲役の判決が確定して服役している。当時、トーマス・シーファー駐日米国大使は声明を発表し、「米国大使館は、正義が行われることを確保するために、今回の事件を真剣に見守り、在日米海軍および日本の関係当局と緊密に協力しています」と述べていた。
 そしてまたも今回の事件である。横須賀市は再三にわたって基地側に再発防止を求めてきたにもかかわらず、米兵による凶悪事件は後を絶たない。蒲谷市長は「一部の不心得者が起こしたということでは済まされない問題であり、米海軍は重く受け止め、二度と起こさないよう全力で再発防止に取り組んでほしい」と犯罪撲滅対策の徹底を申し入れた。
 昨年一月の殺人事件以来、米海軍は、深夜の飲酒・外出制限や生活マナー教育の強化といった犯罪防止策の強化を行ったとしているが、実際には、米兵がバーで体を押して倒れた客が死亡した傷害致死事件、飲食店で代金を踏み倒そうとして店長を殴った強盗致傷事件など、水兵や軍属による犯罪・不祥事が多発している。
 こうした中で、六月三十日に沖縄についで神奈川でも「在日米軍による犯罪・事故の被害者の会」(略称・米軍被害者の会)が発足した。総会には沖縄県の被害者の会の代表も出席し、泣き寝入りすることなく連携して活動を強めていこうととあいさつしている。(H)


複眼単眼

   
参院選で憲法を争点にすることに躊躇する自民党

 間もなく、参院選の本番だ。
 この選挙は安倍自民党がその一五五の「重点政策」のトップに新憲法制定を掲げており、安倍首相自身も平素から自らの任期中の改憲を公言していることから、憲法問題が全面的な争点になるかと思いきや、どうも雲行きが怪しい。自民党の候補者連中が、世論を気にして改憲の主張を前面に押し出していないのだ。
 「読売新聞」のコラム「方位計」が書いているのだが、憲法改正を争点にするという自民党の候補者はわずかに八人に過ぎない。自民党候補者向けの「憲法問題Q&A集」 をつくった中山太郎自民党憲法審議会会長が「困ったもんだね」「国の基本をなす事柄から逃げるのでは政治家失格だ。今度の選挙は憲法改正を発議する議員を選ぶ選挙。憲法改正をうったえないなら党公認を取り消すくらいでなければ」と言っている。
 中山会長は力んでいるが、肝心の安倍首相にしてからが、もはや憲法問題で腰が引けている有様ではないか。
 中山会長がつくった前述の「自由民主党 新憲法草案のポイント」という問答集の冒頭で、彼は「次の国会から衆議院及び参議院に 『憲法審査会』が設置されることになります。この七月の参議院選挙は、この『憲法審査会』の委員構成を決する重要な選挙です」とのべ、「しかも、その保障された六年の任期中には、我が国憲政史上はじめての『憲法改正の発議』が予想されますが、この議決に参画する議員が選ばれるという意味でも、今回の参議院選挙は、憲法論議に重要な影響を与える選挙です」と懸命にハッパをかけている。
 たしかに中山氏のいうように、こんないい加減な候補者は、八人を除いて自民党の公認を取り消したらどうかと思う。
 しかし、それにしてもこの「Q&A」集で中山氏はトンデモないことをいっている。いくつか紹介しておく。
「(憲法審査会は三年間は改憲原案の審査・起草を凍結されているが)しかし、この三年間は、漠然とした憲法論議しかできない期間などでは全くなくて、すでに出されている衆参の憲法調査会の最終報告書等に基づいて、『改憲の是非とその具体的な項目の抽出』を行う調査期間であり、この『調査期間』の解除後は、ただちに憲法改正原案の審査・起草、そして衆参両院の三分の二の議決を経ての『憲法改正の発議』の直結することとなるものなのです」
 「(自民党の改憲の理由は)、@時代に合わせてほころびを繕っていく必要があること、Aそもそも現在の憲法は連合国の占領下GHQの主導でつくられ、日本国民の自由な意志によって書かれたものとは言いがたいからです」
 「友党である公明党も、『加憲』という限定された形ではありますが、……『改憲』を明らかにした政党と言うことが出来ます。……(民主党は)『責任政党』ではなく国民を愚弄した『モラトリアム政党』です」
 「(前文は)敗戦国として外国への侘び証文のような記述、さらには日本語としておかしいような翻訳口調の表現など、我が国の基本法として大きな違和感があります」
 「そもそも『元首』というのは、『権力』の保持者である国王や大統領などを念頭に置いた概念であって、『権威』の中心としての我が国固有の天皇には、かえってふさわしくないと考えます。むしろ、我が国の天皇は『元首』以上の存在なのです」
 とまあ、こんなもので、いざ改憲となると、どうしても自民党は復古主義の論理にたよらざるを得なくなるようだ。 (T)