人民新報 ・ 第1230号<統合323号>(2007年8月6日)
目次
● テロ特措法延長阻止! 歴史的惨敗にあがく安倍内閣を打倒しよう!
● いまこそ出番だ 労働組合 「ユニオンYES!キャンペーン」のプレ集会
● VAWW―NET ジャパン シンポジウム
● 現代日本の奴隷制・外国人研修生制度 木更津事件被告に懲役17年の不当判決
● 反戦平和・改憲阻止の声を伝えて 埼玉ピースサイクル
● 地震列島日本の原発 原発は危険だ すぐに停めろ
● アスベスト対策基本法制定を ! 《アスベストユニオンひろしま》結成
● 清水私案(民族解放社会主義革命論)を再読する G
● KODAMA / 辺野古でおこっていること
● 複眼単眼 / 韓国の人びとの日本への危機感を感じたインタビュー
テロ特措法延長阻止!
歴史的惨敗にあがく安倍内閣を打倒しよう!
安倍政治に不信任
参議院議員選挙は、昨年九月に発足した安倍内閣にたいする初の国政選挙であったが、有権者の関心の高さから投票率は五八・六三%となり、事前の予想をはるかに上回る与野党逆転をもたらした。自民党は改選六十四議席のうち三十七しか獲得できないという歴史的な敗北、公明党も大きく後退した。民主党は改選三十二を六十議席に増やし参院第一党となった。共産党は二議席、社民党は一議席減らした。沖縄では糸数慶子さん、東京では川田龍平さんなど無所属の護憲派候補が貴重な議席を獲得した。その結果、参院での新勢力は、自民党八三、民主党一〇九、公明党二〇、共産党七、社民党五、国民新党四、新党日本一、無所属一三となり、自民・公明の与党勢力は少数派に転落した。
安倍は、今年はじめに「私の内閣として憲法改正を目指していきたいということは、当然、参院選でも訴えていきたい」と述べて憲法改正を参院選の争点に掲げ、また選挙直前には「参院選で、私と小沢さんとどっちが首相にふさわしいかも国民の考えをうかがうことになる」と政権選択の意義もつけくわえた。まさに安倍みずからが、参院選は内閣の基本路線と安倍自身にたいする信任投票となると宣言したのであった。
しかし、審判は自民・公明与党の惨敗=歴史的敗北と参院における与野党逆転となってあらわれた。安倍は完全にNO!を突きつけられたのである。このことは、投票当日の出口調査でも「安倍は退陣すべきである」という声が過半数を超えていたことでもわかる。安倍内閣は不信任され、改憲も安倍の首相たる位置も圧倒的に否定されたのである。
それにもかかわらず安倍は、「この惨敗の責任は私にある。国民の声を厳粛に受け止める。私の政権への批判だと思う」としながらも「私の国づくりはスタートしたばかり。改革を続行し、新しい国づくりをすると国民に約束した。政局運営は厳しい、苦しい状況だが、約束を果たすことが私の責任、使命だと決意している」「これまで進めてきた美しい国づくりは、基本的には国民の理解を得られていると思う。その方向で進んでいくことが(政府与党への)信頼回復につながる」と傲慢姑息にも居座りを画策しているのである。。
改憲暴走を許すな
安倍は参院選惨敗、内閣支持率のいっそうの低下にもかかわらず改憲に向けての暴走をいっそう強める可能性があり、警戒しなければならない。自民党は、マニフェスト「参議院議員選挙・重点政策」の第一番目に「新憲法制定を推進する」をあげ、「次期国会から衆参両院に設置される『憲法審査会』の議論を主導しつつ、平成二十二年の国会において憲法改正案の発議をめざし国民投票による承認を得るべく、新憲法制定推進の国民運動を展開する」とし、参院選の争点にするとしたが出来ず、年金、「政治とカネ」問題で防戦一方になって敗北した。だが、安倍は、自分の路線は「基本的には国民の理解を得られている」として、「自分の任期中の改憲」を強行する構えはかわらない。秋の臨時国会から両院に「憲法審査会」が設置される。改憲手続き法は、改憲案の作成作業の三年間凍結を規定しているが、安倍は「審査会」を実質的な改憲案の審議の場にしようと狙っている。
安倍に改憲政策が否定されたことを認させ辞任させなければならない。そして、改憲手続き法は抜本的に再検討され、廃止していかなければならい。
総辞職か総選挙か
参院選の結果、自民・民主による二大政党状況が生まれているかに見える。安倍政治に対する批判が自民党支持者も含めて民主党への投票集中となったからである。また民主党以外の野党支持者も民主党を勝たせることによって安倍政治を終わらせる一歩としたいとの願いから投票した人も多かった。安倍内閣に対する批判から今回はそうした投票を行ったとしても、本来の政党支持として民主党に圧倒的かつ安定的な支持が集まっているわけではない。
与党に対する批判は、五年間の新自由主義による小泉政治が生み出した社会的格差、安倍の時代錯誤の復古主義、強権的な国会運営、それに「仲良し内閣」閣僚の相次ぐ不祥事、年金、高級官僚の天下り、そして安倍自身の稚拙なパフォーマンスなどが背景にある。その上に、居座りの醜いあがきはいっそう安倍と自民党に対する批判を強めることにならざるを得ないであろう。
安倍は、八月中にも自分一人はそのままでの党役員人事交代・内閣改造をおこなって、逆風をかわそうとするが、「人心を一新せよというのが国民の声だ」とするなら、変えられるべき人物の筆頭は安倍その人であるべきだろう。
民主党は、参院選での勝利の躍進の勢いに乗って、衆議院解散・総選挙で早期の政権交代を狙っている。自民党内部からも、安倍では総選挙に勝てないというあせりから、安倍に替わる顔を求めてはいるが、ポスト安倍に適当な候補者はいない。それだけ自民党が弱体化してきているのでる。
明らかになったのは、補助金のてこ入れができなくなった地方自民党の支持基盤の劣化、支持団体の弱体化と都市部で格差に悩む人々が圧倒的に自民党離れしたことである。自民党にとっては地方・業界・都市三方からの逆風の打撃であった。小泉は政局をデマゴギーで乗り切り、一時的な支持拡大を実現したが、自民党政治の衰退という歴史的趨勢を実質的に逆転させることはできなかった。
いずれにせよ、安倍は、辞任を求める声の自民党内外からの高まり、参院での野党攻勢、またぞろ飛び出すだろう周囲のスキャンダルで、解散・総選挙か総辞職・退陣に追い込まれる可能性が高い。
二大政党制を許すな
秋の臨時国会では、衆参両院で与党多数により悪法が次々に成立させられるというこれまでの状況を徹底的に変えていかなければならない。与党の強行採決を不可能にし、参院の側から小泉・安倍時代に強行成立させられた悪法を否定し新たな法案を通過させ衆院に送ったり、また衆院から送られてくる悪法案の廃案など積極的に攻勢をかけていくべきである。憲法、集団的自衛権をはじめ、アフガン侵略戦争での米軍支援法(テロ特措法)の延長阻止などの闘いを強めていかなければならない。また、労働法制改悪阻止、雇用条件改善、年金など社会保障改革を求めて闘わなくてはならない。
これから自民党は野党分断・分裂を仕掛けて来るし、民主党はさまざまの局面で党内親自民勢力が動いて姿勢を動揺させるだろう。策動をゆるさず、闘いを強めていかなければならない。
自民党政治の終わりは始まったばかりだ。今後、大きな政治再編が必至である。反自民の闘いを民主党にゆだねるわけには行かない。その党内には自民党と変わらない改憲・親米潮流が存在している。
自民党政治に対決するための闘いの中で、改憲阻止、労働運動の前進、そして社会主義革命を目指す政治勢力をつくりだしていこう。
いまこそ出番だ 労働組合
「ユニオンYES!キャンペーン」のプレ集会
新自由主義政策の下での資本のグローバル化とコスト競争のなかで、社会的二極分化が進行し、膨大な非正規労働者群と働く貧困層(ワーキング・プア)が生まれている。マスコミもさまざまな報道を行い始めてはいるが、問題解決のために労働組合をつくって闘うという肝心要の視点が抜けて、ただただ悲惨さを報じるばかりのものが多い。しかし実際には、各地で労組に結集して闘い、「解雇撤回」「残業代の獲得」など成果があがりはじめている。
「ユニオンYES !キャンペーン」は、これらの闘いを映像を中心にネット・音楽など多種多様な形で表現し、世論喚起を計ることを目的にしている。とくに、動画投稿サイト「ユニオンTUBE」を開設して、組合運動をはじめた人たちの生の声を配信することや、世界と目本のすぐれた映画を集めた「レイバー映画祭」開催、またブックレット発行、キャンペーングッズコンテスト、組合づくりをテーマにした映像制作など、さまざまな企画がある。
七月二十五日、渋谷勤労福祉会館で、ユニオンYES!キャンペーン・プレ集会「いまこそ出番だ
労働組合」が開かれた。
呼びかけ人を代表して伊藤彰信・全港湾書記長は、いまこそ労働組合の出番だ、しかしいま労働組合というものが社会的にあまりにも知られていない現状がある、ユニオンYES!キャンペーンが労働者の置かれている厳しい状況をかえていく強い力となって行く意義は大きいと述べた。
土屋トカチさんがこれまでのキャンペーン経過報告で、コワモテ、敷居が高いなどという労働組合のイメージアップすることで、多くの人とくに若い人びとに労働組合を身近なものとして意識するようにしてもらいたいと述べた。
つづいて、自前の動画投稿サイト「ユニオンTUBE」の試作版として、東京東部労組コナカ支部、郵政ユニオン、首都圏青年ユニオン、ガテン系連帯の動画が上映された。
ひきつづき、九月に予定されている「レイバー映画祭」の作品予告編の上映と解説が行われた。
ゲスト・トークの「労働組合と若者」では、首都圏青年ユニオン書記長の河添誠さんの司会で、『生きさせろ!難民化する若者たち』(太田出版)などの著書のある雨宮処凛さんと『労働者は奴隷か!〜住友大阪セメント残酷物語』(全日建運輸連帯労組制作)の主人公の皆倉信和さんが発言。
雨宮さんは、いま追い詰められた若者たちにとって組合は生存のためになくてはならないものになっている、それらの人たちの居場所としてユニオンがあると述べた。
皆倉さんは、どうしようもない労働条件のなかで一枚のユニオン加入を訴えるビラをうけとり、考えに考えた末に組合に加入し、暴力団まがいの弾圧を受けながらも争議に解決した、組合がなかったら、泣き寝入りをするか、会社を辞めるしかなかったろうと述べた。
キャンペーンのキャッチコピーとして、「助けて!誰か。OK
ユニオン」など六つが選ばれた。
今後の主なスケジュールは、九月十八日午後六時半から、なかのゼロ視聴覚ホールで、「ユニオンYES!キャンベーン」キックオフ集会、九月二十四日(月・祝)には、なかのゼロ視聴覚ホールで「ユニオンYES!キャンベーン」レイバー映画祭が開かれる。
VAWW―NET ジャパンシンポジウム
『謝罪への抵抗』をいかに克服するか
七月十六日、早稲田大学国際会議場で、「VAWW―NET
ジャパン(「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク)二〇〇七総会シンポジウム 謝罪とは何か?―『慰安婦』問題を巡る『謝罪への抵抗』をいかに克服するか―」が開かれた。
韓国挺身隊問題対策協議会国際部委員長の姜恵驕iカン・ヘジョン)さんが、「被害者が求める謝罪」と題して基調講演。
続いてのパネルディスカッションでは、西野瑠美子VAWW―NETジャパン共同代表「国民基金とは『謝罪』であったか?」、東澤靖明治学院大学教授「国際社会が求める謝罪とは?」、鵜飼哲一橋大学教授「和解のグローバリゼーションと謝罪」、金富子韓国・韓神大学校助教授「歴史への責任と和解」の皆さんによる発言があった。
国民基金は「謝罪」であったか? (西野瑠美子)
アメリカ下院外交委員会で「慰安婦」問題決議行われた。それは、「日本政府は、一九三〇年代から第二次大戦継続中のアジアと太平洋諸島の植民支配および戦時占領の期間において世界に『慰安婦』として知られるようになった若い女性たちに対し日本軍が性奴隷制を強制したことについて、明確かつ曖昧さのない形で歴史的責任を正式に認め、謝罪し、受け入れるべきである」とするものだが、日本政府はこれに抵抗している。いま謝罪をめぐる攻防はいっそう激しさを加えてきている。
村山内閣のときにできた「女性のためのアジア平和国民基金」は今年すでに解散したが、その問題点について報告する。「慰安婦」問題に言及して「お詫び」を表明した「河野談話」と国民基金の「総理の手紙」が被害者に「謝罪」として受け入れられなかった理由は、謝罪の信用性と真意が疑われたからである。とくに、「総理の手紙」は「謝罪」だったかどうか。国民基金発足以来、呼びかけ人、理事を務めた大沼保昭東大教授が『慰安婦問題とは何だったのか』(中公新書)で国民基金の総括をおこなっている。そこで、「アジア女性基金は『お金が欲しい』という彼女らの本心の一面―これはとても大切な一面である―を顕在化させたにすぎない」と書いているが、被害者にとっての被害回復、置き去りにされてきた尊厳の回復の軽視以外のなにものでもない。
そして国民基金の募金がどこで行われたかについても触れている。「実際の拠金でもっとも貢献度が高かったのは職場募金だった。県・市・町などの地方公共団体、全国の税務署、警察、自衛隊、在外の大使館など、政府の各省庁や職場に募金を要請し、そうした呼びかけに応じて様々な職場から募金が寄せられた。これらの職場募金は、政府と国民が共にかつての過ちを償うというアジア女性基金の理念を一つの具体的な形で示すものだった」。どういう職場か見て欲しい。これで国民からの募金というのであろうか。
そのうえつぎのようにも言っている。「社会構造の変革には長い時間がかかる。しかもそのような目的の実現は社会の意識が変化する程度の問題でしかない。社会構成員全ての意識が変わることなどあり得ないからである。そうした社会全体にかかわる問題の解決を、目の前にいる被害者個々人の救済の条件とすることは、被害者を社会改革にかかわる自己の主張実現の人質にすることになりかねない」として社会の意識や認識を変えることには無関心であることを示すものとなっているのだ。
謝罪とは、あくまでも誤りを認めた上でそれを正すこと、すなわち、正義が正しく機能しなかったことに対して、補償することにより誤りを正すというものであり、金銭補償は謝罪の証しなのであり、正義と真実の希求のない和解などというものはないのである。
現代日本の奴隷制・外国人研修生制度
木更津事件被告に懲役17年の不当判決
七月十七日、千葉地裁木更津支部(小宮山茂樹裁判長)は、昨年八月におきた千葉県農業協会常務理事など三人が殺傷された事件での罪に問われた中国人農業研修生の崔紅義(二十七歳)被告に、「犯行態様は執拗かつ悪質で危険極まりない」として、懲役十七年(求刑懲役二十年)を言い渡した。同時に、小宮山裁判長は「犯行の背景には県農業協会の研修制度の問題点がある」とも指摘しているが、判決は、きわめて重いものであった。
事件の経緯は次のようなものである。二〇〇六年八月十八日、千葉県木更津市の養豚場で、中国人研修生による殺人事件が起きた。被害者は研修生受け入れ機関である千葉県農業協会の常務理事であったが、事件は強制帰国を迫られた研修生が絶望に駆られて起こしたものだった。
外国人研修制度およびそれに連動する外国人技能実習制度とはなにか。法務省の「研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針」では、「今日、研修生及び技能実習生の受入れは、我が国で開発され培われた技術・技能・知識の開発途上国等への移転を図り、当該開発途上国等の経済発展を担う『人づくり』に寄与することを目的として、政界、産業界をはじめ日本社会の総意をもって推進されています」とその「社会的意義」を強調している。
一年間の研修と二年間の技能実習という「三年コース」が一般的で、現地送り出し機関から日本の一次受け入れ機関(協同組合など)を経て二次受け入れ機関(個別企業)に配属される「団体管理型」が主流となっている。
しかし、実際には、研修生は労働者ではないにもかかわらず、研修時間外の労働や休日出勤やきわめて低い報酬で労働させられてトラブルが発生している。研修生・技能実習生は不況業種の零細企業に対する低賃金労働力供給として利用され、その中では人権侵害などが多発しているのである。
ほとんどの研修生・技能実習生のパスポートや預金通帳を会社・協同組合が管理するなど労働基準法違反が横行している。とくに来日前に現地で誇大な約束で研修生を募り、その結果、日本に来れば多額の金銭が稼げるという幻想を抱かせて、本国の送り出し機関が多額の保証金をだましとるケースも多い。
受け入れ業者の中には「コスト削減の切り札」などとPRしているものも少なくない。 このため一九九一年には、「外国人研修・技能実習制度の適正かつ円滑な推進に寄与すること」を基本として、法務、外務、厚生労働、経済産業、国土交通の五省共管により財団法人国際研修協力機構(JITCO)が設立されたが、その役割はほとんど果たせていない。
「懲役十七年」という判決を受けて、七月二十日には、外国人研修生権利ネットワークなどによる「不当な外国人研修生・木更津事件判決!―中国のご両親をお迎えして―緊急集会」が開かれた。
はじめに、全統一労組の中島浩さんが、裁判の経緯と判決報告、弁護士からのコメントの紹介を行った。
鳥井一平全統一労組書記長は、外国人研修制度における最近の傾向・問題点、事件の背景にあるものについて報告した。
つづいて、この事件を扱った『外国人研修生殺人事件』(七つ森書館)の著者であり、被告の崔紅義さんのご両親を中国黒龍江省チチハル市にまで迎えに行った安田浩一さんが事件の概要を説明し、安田さんの質問にご両親が答えるという形で集会は進行した。
それらから浮かび上がってきたのは、この木更津事件が現代の奴隷労働制度とも言われる外国人研修制度のかかえる問題点を集中的にしめすものであり、日中両国にまたがるこの制度の数々の段階で外国人研修生が騙され搾取・収奪されているという構造であった。
崔紅義さんが事件を起こすにいたる経過は次のようなものだった(集会での発言や『外国人研修生殺人事件』などによる)。
崔さんは、昨年の四月に来日し、八月に事件が起こった。崔さんは三人兄弟で、兄と弟を大学・大学院に進ませるために日本に来たという。その前には、天然ガス・パイプラインの工事やトラックの運転手をやっていたがそれではなかなかお金がたまらない。そこで聞いたのが日本に行けば短期間で稼げるというまさに夢のような話だった。中国ではポスターやインターネットでそうした広告が流されている。だが現地の送り出し機関は、希望に胸膨らませた応募者の足元を見て手続きのために必要だと称して多額の金銭を取り立てている。崔さんの場合は、八万元(日本円で約百二十八万円)という金額を支払っている。そのために家を売り払い、借金をして日本に来ている(千葉県農業協会のアンケート調査によると、一六〇人の全員が何らかの手数料を支払っているが、その額は四万八千〜十一万元とかなりの差がある。送り出し機関が取れるところからは多くとるということが行われているようである)。
崔さんは大きな期待を持って日本に来て研修生になったが、見ると聞くとは大違いであった。技術を身につけ金を稼ぎ、貧困から脱出するという夢は無残に打ち破られた。受け入れた畜産農家は、千葉県農業協会からしつこく研修生の受け入れを求められ、「パート感覚で雇えばいい」の言葉に「住み込み研修」を始めた。
条件は、@研修手当てという名目の報酬は月額六万五〇〇〇円、A一週間の労働時間は四〇時間(残業は時給四五〇円)、B残業代は月額報酬とは別の口座に振り込む、C休日は週に一日、D通帳と印鑑は経営者が預かり、必要に応じて現金を手渡す。パスポートも経営者が保管する、E毎月、食費補助の名目で五〇〇〇円を支給する、というもので、残業して一ヶ月働いても一〇万円に遠く及ばない。しかも、現金として毎月崔さんに手に入るのは食事補助名目の五〇〇〇円だけだ(通帳に振り込まれた金は崔さんには引き出せない)。完全な労基法違反であり、「技術・技能・知識」の習得などはなにもない豚の飼育という仕事だ。しかし、法律上、研修生はあくまでも「研修に従事する者」であって、「労働者」ではないとされ、労働法の適用範囲外とされる。
この条件は、すべて農業協会から指示されたもので、全国的に共通している。
しかし、崔さんの仕事はほかの研修生に比べても極端に酷いものであり、それに抗議すると、強制帰国させられそうになった。こうした状況の中で事件は起こったのであった。
事件の裏にはこの構造に取り付いて、外国人研修生・技能実習生からの搾取・収奪で儲ける連中がいることなのである。
こうした事情を抜きにしては事件は理解できない。
懲役十七年という不当な判決に被告側は控訴し、闘いはつづく。この裁判での勝利を目指すとともに、外国人研修・技能実習生制度の問題も暴露し改善をかちとっていかなければならない。
反戦平和・改憲阻止の声を伝えて
埼玉ピースサイクル
七月一七日の当日は梅雨とその上、台風四号の影響で朝方は相当な雨あしだったが、日中は曇りとなり、運よく雨は止み実走が行われた。今年は三ルート(深谷、浦和、北本)で行われた。自治体訪問については、事前に行われたミニピース(七月一〇日)と当日合わせ一四ケ所を周ることが出来た。しかし、昨年からの市町村合併の影響で自治体まわりは減少となった。全国ルート・ピースサイクルは七月一三日の群馬ネットから引き継いだ。
県庁、各自治体には次のような要請書を提出した。
貴自治体の常日頃のご奮闘に敬意を表します。また、私たちピースサイクル埼玉ネットの、この間の取り組みに対するご支援・ご協力に心よりお礼申し上げます。さてピースサイクル運動は、一九八六年、大阪の郵便局で働く青年八名が、原爆が投下された広島に向け、自転車で走り出したのが始まりでした。二一年経った今日、ピースサイクルは、「反戦」「平和」の課題のみならず、「環境」「人権」「食と水」など様々な分野との交流により、着実に地域に根付いた運動となっております。小泉内閣を引き継いだ安倍内閣は、「私の内閣で憲法を改正する」との言葉通り、国民投票案など、改憲に必要な法案を「数の力」で成立させています。世界に誇る「平和憲法」が今、危機的状況にあり、日本は非常に危険な方向へと進もうとしています。一方、地球温暖化や大気汚染などの環境問題や原発問題などは、増々深刻な状況となっています。このような状況下、私たちピースサイクル埼玉ネットは二一年目を迎えた今日も、「反戦」「平和」などを訴え自転車でキャラバン行動を行います。
以上のような基調にもとづいて次のような具体的要請を行った。@貴自治体が行った「平和を願う宣言」(非核平和宣言など)の趣旨を生かすため、必要な予算を計上し、非核・平和のための行政に積極的に取り組まれたい。また、すでに予算が計上されている自治体は引き続き予算を計上し、非核・平和のための行政を強化されたい。A全世界の核兵器廃絶に向けた取り組みを強化するよう、政府への働き掛けをされたい。B広島・長崎に原爆が投下された日には、犠牲者を追悼し、核兵器廃絶を願う思いをこめて、サイレンを鳴らすなどの行動を行い、広報などでその趣旨を広く住民に周知されたい。また、「何らかの行動」を行っている自治体は、引き続き「行動」を継続されたい。C自然環境保護政策を推進されたい。D自転車道及び歩道の整備を推進するなど、自動車中心社会の緩和政策を推進されたい。(以上要請文)
ある市では当日書面による回答をするところもあり、平和行政に力を注いでいることをメッセージに示していた。
また、メッセージにはピースサイクル埼玉ネットに対する二一年目を迎えたことの敬意と同時に、広島、長崎原爆投下の悲惨さを、また、埼玉での空爆被災を風化させてはならないと訴えもあった。今年は東松山市役所に全コースが集合して、参加者全員で要請行動を行い、丸木美術館をめざして走った。丸木美術館は当日、休館日だったがご好意により、特別に開館して頂いた。集合記念写真を撮った後総括会を開き、自己紹介を含め、ミニピースの実施報告や各ルート実走者から自治体周りの報告がされ、六月の国会ピースを取り組んだことや、埼玉ネットのブログアップも報告された。また、今年秋、埼玉ネットの交流会を取り組むことを約束して終えた。 (埼玉・A)
地震列島日本の原発
原発は危険だ すぐに停めろ
「想定外」での原発建設
原子力発電所の危険性が誰の目にも明らかになった。そして、電力会社がウソばかりついていたこと、政府がそれを黙認していたこともはっきりした。昨年は、電力会社の事故隠し・データ改ざんが暴露され、電力会社と政府は今後の安全に万全の体制で臨むといってきたが、その改善はほとんどなされなかったといっていいだろう。
七月十六日に起こった中越沖地震(M6・8)で、柏崎刈羽原発の稼働中の二、三、四、七号炉の四基が緊急停止した。経済産業省は同原発の運転中止を東京電力に指示し、柏崎市も運転中止を求めた。
地震列島日本の上に建てられた原発が重大事故を起こす危険性は以前から指摘されていたがそれが現実のものとなったのである。
今回の事故では、放射能水漏れ対策がなされなかったり、低レベル放射性廃棄物のドラム缶一〇〇本以上が転倒し、うち数本の蓋が開いたり、消火体制がとられていないばかりか東電の秘密主義から消防車の到着が遅れたりするという大変な事態が同時多数的に発生した。
東電は、今回の地震の規模が、原発の想定しているものを上回ったことを認めざるを得なかったことは重要である。
原発反対派は、原発の下に活断層が存在することを指摘してきたのに、それを無視し、直下に活断層がないという前提で建設が強行された。だが今回の事実が示すようにその前提・想定は根本から崩壊したのであり、徹底した断層調査と抜本的見直しが求められているのである。
この間、政府の地震調査委員会や気象庁の見解を覆す重大な発表が行われた。七月二十六日に、国土地理院が新潟県中越沖地震の断層が当初の予想よりも柏崎刈羽原発の近くまで延びていたとする解析モデルを発表した。東京大学地震研究所も同様の可能性を指摘した。
柏崎刈羽原発は、単なる耐震設計の強度の想定を誤ったものではなく、そもそもそこに建ててはならないものだったことが科学的にも立証されたということである。
東電・柏崎刈羽原発だけではない。地震国日本に次々と建設された原発は、巨大地震がひとたび起こり原発が破壊されれば壊滅的な被害がもたらされるだろうことは自明の理である。
しかし今回の事態がもたらされても、電力会社は、夏の猛暑による電力需要が伸びを口実に、抜本的な対策を採ろうとしてはいない。これまでもコストを上げないために安全性が切り捨てられてきたが、今回も同様なおざなりな対応をしようとしている。いまこそ、原発の停止と廃炉を実現させるべきときである。
抗議と要請の行動
全国で市民運動などがさまざまな抗議・要請行動を展開しているが、七月二十五日、たんぽぽ舎などは、東京電力本店への抗議行動・交渉、経済産業省・原子力保安院への抗議申し入れ行動を行った。
たんぽぽ舎は、東京電力社長と経済産業大臣へ申し入れ文「柏崎・刈羽原発を廃止してください」で次のように要求している。
「…柏崎刈羽原発は計画段階から、地盤の問題や活断層の存在が指摘されており、東京電力がそれを無視し、強引に建設を続けたことは明らかです。今回私たちが心配していたことが現実になってしまいました。不幸中の幸いは、今回の地震がマグニチュード6・8(モーメントマグニチュード6・6)という中程度の地震であったということで、即壊滅的な被害にならなかったということです。活断層がいくすじも走っているこの地域で、今度大地震がきたら、今度はどれほどの被害になるかは想像に難くありません。今回の被害を教訓に、この際柏崎刈羽原発を廃止してください」。
アスベスト対策基本法制定を !
《アスベストユニオンひろしま》結成
七月一四日(土)広島県呉市においてアスベストユニオンが結成された。
当日は台風四号が西日本を直撃する日と重なり、結成大会を見送ることも検討されたが、『嵐の中の船出』として強行された
心配しながら会場に到着し入ってみると、既に、三〇人近い人々が着席しており、マスコミ関係も朝日、毎日、中国新聞とホームテレビが取材に待機していた。
私たちは驚きと感激で事務局一同は急ぎ会場設営を終えた。
結成大会では、開催挨拶として友和クリニックの宇土博医師がユニオン結成の祝福と意義を述べられた。
第一には、呉地区にはIHI(石川島播磨重工)を含めて、発ガン率の高い胸膜肥厚(胸膜プラーク)所見者が三〇〇〇人いるといわれており、この人たちの健康への不安は日々増大し、健康手帳を交付していたとしても症状の悪化への有効な対策は何一つないのが現状である。こうした中、管理区分の再申請とその間の有効な治療の補償を、企業に求めていく任務がこのユニオンには課せられている。
第二には、クボタショックによってアスベスト問題は瞬く間に全国に影響を及ぼし、アスベスト救済新法(時限立法)が施行された。しかしながら、新法の「隙間なく救済」するとは裏腹に、新法の限界性と欠陥(遺族年金給付のあり方)が表面化しており、私たちは全国センターと連帯して「公正な救済」を求め、「アスベスト対策基本法制定」を政府に働きかけて行かなければならない。
つぎに、経過報告は広島労働安全衛生安全センター事務局長・土屋信三氏が行った。
このアスベストユニオンは、昨年一二月神奈川県で結成されたことに注目し、この間その闘いに学びながら準備を進めてきた結果、企業の枠を超えて退職者を中心に地域労働組合として発足されることとなった。
このアスベストユニオン結成は、呉地域に限らず隣の山口県岩国市でも日本製紙工業に勤めていた退職者を中心にアスベストユニオン結成され、旧国鉄広島矢賀工場での機関車の修理・清掃労働に従事していた退職者からの相談を契機に組織化の動きが出てきている。
このアスベストユニオン結成への決意として、ユニオンに課せられた課題を着実に解決し成果を収めることが、ユニオンの拡大に通じる。
その後、被災者から症状への不安、労災病院の不親切な対応、管理区分への再申請、病院転移の有無などの質問が相次いだ。大会終了後も被災者は事務局員に相談をしていた。
大会は最後に規約の承認と役員を選出し成功裏の内に終了した。
大会に参加した一参加者ととしての思いは、労働組合への組織率が一八%台に低迷している中、労働相談活動やこの度のアスベストユニオンなどあらゆる方法を通じて労働者を組織することが必要不可欠と痛切に感じたことである。 (広島・N)
清水私案(民族解放社会主義革命論)を再読する G
MSA・改憲との闘い
これまで七回にわたって清水私案(民族解放社会主義革命論)を見てきたが、こうした綱領的観点に立って、清水はいかなる闘いを構想していたのかについて触れたい。
雑誌『世界』一九五四年二月に掲載された「平和と独立のための新課題――国民的抵抗戦線を求めて――」は、当時のMSA協定と憲法改悪との闘いについて書いている。
MSAとはアメリカの国内法である相互安全保障法(MSA)にもとづき締結された日米相互防衛援助協定のことで、アメリカが日本に軍事援助をし、日本が防衛力強化(自衛隊の設置)、軍事秘密の保護(MSA秘密保護法)、軍事顧問団を義務として受け入れることを主な内容とし、(旧)日米安保条約をさらに一層相互化して強化したものだ。
自民党は六〇年安保闘争の高揚に恐れをなして池田内閣以来長い間、党是である「憲法改正」を後景化させてきた。だが、安倍はアメリカ・ブッシュ政権と財界の要求により明文的にも九条を変えようとしているので、清水のこの論文は現代的意義を持つものだ。
安倍は「戦後レジームからの脱却を言うが、「戦後レジーム」の根幹は日本のアメリカへの隷属ということであり、安倍の政治方向はいっそうこの状況を強めるものでしかない。安倍の祖父・岸信介の改憲論も同様であった。自民党の中でも鳩山一郎の改憲・再軍備論は対米自立を目指す側面をもち、日ソ国交回復政策と一体のものであり、それゆえアメリカに嫌われ足をすくわれたのであった。
まず当時の情勢について。
「…今や日本国民がMSA軍事機構を前にして、実質的に、隷属対独立の分野に整理されつつある。」「サンフランシスコ両条約はその必然的な発展としてMSA軍事機構への統合、太平洋反共軍事同盟の結成を予定している。国内的には米軍基地網の完成、事実上の傭兵の出現、平和憲法の廃棄、公然且つ大規模の傭兵再軍備の道を辿る。経済的にはいわゆる基地経済化、中国・ソ連との貿易を遮断した上での特需を基底とする隷属的経済循環構造の確立、MSAと照応する兵器生産の再開、終局的には軍事型産業構造の再現となる。このような軍事的、政治的、経済的なプログラムは、量的拡充から質的転化の過程をとる。既成事実の漸進的積み重ねは眼前に見るとおりである。それは平和憲法の廃棄を転機として質的な飛躍をとげるに違いない。そしてこの重要なる転機はMSA段階に照応するものとして訪れてくるであろうこともほぽ明らかになってきた。」「平和憲法の廃棄は、敗戦直後における上からの民主革命を、同じ手によって奪いかえす反革命の危機を意味する」。
そして「MSA段階を迎えていよいよ具体化してきた憲法改正―平和憲法の廃棄は、それ自体前に述べたとおり、反革命の性格をもつ。敗戦直後の民主化が上からあたえられたものだけに、内外反動勢力の手による反革命を、そのような意味でとらえつつ下におろし、反対闘争に組織することは一見きわめて困難なように思われる。だが、そうした引込思案は、護憲カンパニアをそれだけのものとして切放して考えたり、議会人の演説会のようなものに限定して運動形態を考えるところに起因するのであって、そうした方式ではとても国民投票の場で対決できる筈はない。むしろ反対に、国民投票の場で対決すべきものとして問題を提起し、国民的規模の組織化を探求してゆくところに出発点がおかれなければならない。それならば、何はさておき、MSA受入態勢で苦しむ国民大衆を、生活要求運動として多角的にとらえ、それぞれの大衆の場で組織化することや、あるいは部落や職場でボス支配に苦しみ、民主的環境を飢え慕う人々にうっぷんばらしや相談の場所をあたえること、とくに労働者、農民、中小資本家、零細独立経営者、学生、インテリ等の代表者たちが、中央や地方で一同に会し、お互いの問題を語り合い、相互理解を深める機会と場所をもち、それを慣習化させるこころみ等々が先行することがのぞましい。ここまでくれば護憲運動は、それらもろもろのカンパニアの集約点として、そのレールの上を走ればよいのであって、それは大衆的基盤に根を据えることによって反革命と対決するための憲法擁護カンパニアとなりうるであろう」。
日米の大資本の搾取・収奪に苦しむ大衆を組織して大衆的基盤を築き改憲のための国民投票に勝利する体制を作れと提起しているのである。
実力的な抵抗線とは
「護憲運動は当然平和運動の発展としての性格をもつ。だが、それはサンフランシスコ両条約反対の平和運動とは異なった運動体型を必要としている。それは国民投票の場をもっている関係上、国民一人一人がイエスかノーかにはっきり整理される機会をもつからである。更に、繰返して述べるように、それは反革命との闘いという重要意義をもつものであり、民主革命に対する反革命は、当然国民的抵抗戦線の問題として組織的に処理されなければならないからである。従って、国民の過半数をめざしてゆく国民的諸要求のための国民諸階層のカンパニアにとりまかれた護憲運動の外に、否、それと平行して実力的な抵抗線も併せて準備されなければならない。それは破防法に対する抗議としての労闘ストよりも幅も奥行もちがったものとして組み立てられることは常識的に理解されるところである。その場合、労働者の組織だけが孤立して闘かう破目に陥ることはできるだけ避けなければならない」。
ここでは、@「国民の過半数をめざしてゆく国民的諸要求のための国民諸階層のカンパニアにとりまかれた護憲運動」とともに、A「それと平行して実力的な抵抗線」の必要が述べられている。
「現在の議員勢力がどうもがいても三分の一にみたない場合は、大衆路線に身をおきつつ、地道に大衆の日常要求をとらえて政治的に組織化し、国民的規模において護憲闘争の基礎固めをする方がより大切であり賢明な道である。より重要なことは、MSA下の平和憲法廃棄を起点とする反革命を大衆的に防ぐため、国民的抵抗戦線結成をめざして粉骨砕身すべき秋であることを自覚し且つ行動することではなかろうか?」として、国民的抵抗戦線形成を焦眉の課題として展開する。それが「国民的抵抗戦線と社会主義政党――左社綱領の実践的課題をめぐって」の項である。 (つづく) (MD)
KODAMA
辺野古でおこっていること
安倍内閣は沖縄・辺野古に新しい米軍基地をつくるためにこれまでにない悪辣なことをつづけざまにやってきている。
今年の四月から那覇防衛施設局は、二〇一四年完成の方針で新基地建設のための環境現況調査をはじめた。
五月中旬には未明から調査機器設置作業を強権的に実施したが、それに自衛隊を投入したのである。その後もそうした行為は継続されているが、今回、軍事力を基地反対運動への威圧手段として出してきたということは、アメリカからの新規建設促進の要求と安倍内閣のあせりを物語るものであろう。こうした環境影響評価法(アセス法)を無視した行為が強行されているのに対して、非暴力による阻止行動・反対運動は地道に進められている。平和市民連絡会共同代表の平良夏芽牧師はつねにその行動の中心で活動しているが、信じられないほどの非道なことが、七月十二日に起こった。
ヘリ基地反対協・平和市民連絡会の声明は、「辺野古の海で作業を止める行動の中、いであ(株)の作業員が海中で平良夏芽さんの空気ボンベのバルブを閉めたため、窒息状態となり急浮上した。ボンベ内の空気は二〇〇(二〇MPs・メガパスカル)中五〇(五MPs)しか消費されておらず、明らかにバルブを故意に閉めた結果である。これは人命軽視の暴力行為であり許されるものではない。那覇防衛施設局は前回と違い、今回は現場に責任者を置かず、業者の暴力行為を放置して来た中での、今日の人命軽視の暴力行為である。私たちは今回の窒息状態を引き起こした重大な暴力行為に対し、いであ(株)と那覇防衛施設局に対し、厳重に抗議し、謝罪を要求する」と抗議している。
平良夏芽さんは「バルブ事件に関して」という緊急声明をだしたが、事件を報告するとともに、「もう一つ大切なことは、辺野古の闘いは『相手との関係性を大事にして来た』ということです。基地建設計画が白紙撤回されたとき、作業をしていた人たちと酒を飲めるような、そんな阻止行動を目指してきました。現実は厳しいもので、なかなかそのようにはいきませんが、目指していたのはそのような関係性です。バルブを閉めた本人は、その責任を負わなければなりません。しかし、必要以上にその個人を責めるのではなく、現場の作業員をそのような精神状態に追い込んでしまった権力にこそ、その矛先を向けて欲しいのです」「基地建設に繋がる作業の強行がなされないように厳しく対峙しながら、個々人を追い込まない方法を模索しています。どうぞ現場の思いを理解し、ご協力をよろしくお願いいたします」とあった。
安倍内閣、防衛施設局、殺人未遂の作業員、アメリカ……へ怒りが湧いてくる。 (Y)
複眼単眼
韓国の人びとの日本への危機感を感じたインタビュー
参院選の最後の局面のある日、市民団体のメンバーと共に韓国の某テレビ局の取材の場面に立ち会った。
この韓国のテレビのクルーは、前日には東京選挙区から出た東条英機の娘の東条某の選挙運動に密着取材したということで、この日はそうした右派の動きにたいして、日本の「護憲」派はどのように考えているかということが、もっぱらの関心事だった。
安倍晋三が改憲を掲げて選挙をやるなど、韓国から見ていると、日本社会がとんでもない方向へと急速に変化しているように見えるというのだ。昨日、東条にインタビューもしたが、靖国神社の重要性の主張と合わせ、自分はアジアの平和を願い、そのためにも立候補したのだというのを聞くと、複雑な思いがしたとも言っていた。
同時に日本の護憲運動の現状について、熱心に質問した。
日本の側からは、東条の立候補という動きは無視してはならないが、彼女の企ては成功しないと思うし、有力候補とすらいえない支持しか集められないだろう。
安倍首相は公然と改憲を掲げて選挙に臨んだという意味で、この五〇年来、初めての首相だが、日本の改憲派の動きがここまできているという点では、われわれも一種の危機感は持つし、韓国の皆さんが心配するのは十分理解できる。
しかし、一方で、安倍首相は今回、憲法を争点化する方針から後退した。ほとんど論戦をしていない。これは年金の問題が最大の争点として浮上したからではあるが、もうひとつの理由は、その主張が世論の多数派から信任を得られないという状況からくる判断なのではないか。
この間の安倍首相らの新保守主義、新自由主義の主張は多くの有権者をとらえていない。特に九条改憲反対の声は世論の多数派であり、安倍内閣のもとでもより大きくなっている。
言えることは、歴代の自民党政権のもとで憲法の平和主義は解釈改憲につぐ解釈改憲によって、ある意味では傷だらけになりつつある。しかし、九条は依然として光彩を放ち、改憲派の前に立ちはだかっているのだ。有権者のなかに憲法の平和主義が一定の定着をしているのだ。
例えば日本の市民運動は今、韓国の市民やアジア・世界の市民たちと共に「九条世界会議」を準備している。安倍内閣の改憲策動に対抗して、世界大で九条を大事にする運動をつくろうとしている。
たしかに右派の台頭はあるし、危険だが、それに反対する運動も台頭している。韓国のみなさんにはこの側面もぜひ見ておいて欲しい。そして東条の言う「平和」とは全くことなるアジアの共生のもとでの平和を共に作っていきたい、そんな話をした。
インタビューを終えて、韓国のテレビのクルーは「ソウルを発つときに抱いてきた危機感とは少し違った印象を持つことが出来た。ありがとう。日本に市民の皆さんに期待するし、ともに頑張りたい」と言ってくれた。
あらためて、私たちの当面する課題の重要性を再認識し、奮闘する決意を固めさせられたひとときであった。 (T)