人民新報 ・ 第1234号<統合327号(2007年10月15日)
  
                  目次

● 低姿勢で乗り切りを図る福田を追い詰め、新テロ特措法案を粉砕しよう!

● ブッシュの戦争は破綻しつつある  全世界で反戦の声を上げよう

● PAC3弾を撤去せよ! ミサイル防衛計画を中止せよ!
 

● 沖縄戦「集団自決」に軍命令の記述削除  沖縄の怒り爆発に政府・与党は大動揺

● 諸悪の根源である労働者派遣法の抜本改正を

● JCO事故8周年  原発停止・核武装化反対

● 図書紹介 /   『 非正規労働者の乱  有期・派遣・外国人労働者の闘い 』 ( 山原克二・ゼネラルユニオン )

● せ ん り ゅ う / 瑠 璃

● 複眼単眼  /  「大相撲」は国技の偽装をやめよ




低姿勢で乗り切りを図る福田を追い詰め、新テロ特措法案を粉砕しよう!

 臨時国会の最大の焦点は、アメリカに率いられた戦争勢力によるアフガン・イラク戦争支援のためのテロ特措法延長問題である。だが、現行法の期限切れは一一月一日に迫り、現行法の延長は無理で自衛隊の撤退は不可避となってきている。こうした中で、政府・与党の狙いは、テロ特措法を海上自衛隊の活動を給油に限定する新らしいかたちにして出し、それで野党を抱き込んで新法として成立させ米軍支援を継続させようということだ。
 自民党の自民党ホームページを見てみようる。一〇月五日付けは、「テロ特措法に関する合同部会」が「テロ対策特別措置法に代わる新法案の骨子案について議論」したとして次のように書いている。「新法案では、テロ特措法のメニューとして書きこまれているものの、これまで行わなかった捜索救助活動と被災民救援活動を除き、協力支援活動として行ってきた海上阻止行動(OEF―MIO)参加国への補給活動による支援に内容を絞り、新法に『衣替え』する形となる。また、国際社会にテロ撲滅に向けた行動を要請した国連安保理決議一三六八に加え、先月採択された一七七六も盛り込み、国際治安支援活動(ISAF)とともに海上阻止活動がアフガニスタンの安定に寄与していると位置付けた同決議を受けたものとする」。また同日の「新テロ特別措法案の骨子案示し、野党に協力要請 与野党国対委員長会談」では、与野党の国会対策委員長会談で、「わが党の大島理森国対委員長はいわゆる『新テロ対策特別措置法案』の骨子案を野党側に提示し、与野党間の協議を通じた法案提出に向けて協力を求めた。…大島委員長は野党側に対して、『皆さまとも誠意をもって協議し、予算委員会の議論を見守りつつ、できるだけ合意形成を図ったうえで、速やかに法案を提出させたい』と述べ、協力を要請したが、民主党が『法案が出てから委員会で議論することが協議』とするなど受け入れなかった。会談を終えた大島委員長は『日本全体の国益の立場から、できるだけ国民の意見を集約した形での結論を出したいので、なお努力する』と述べた」。
 すなわち、特措法に一定の手直しを加えながら、野党をそれに巻きこもうという手法である。「野党の皆さんとよく協議する」と言う福田首相のひたすらな低姿勢はそのためのパフォーマンスなのである。
 しかし、この策は、野党側の拒否で失敗した。
 だが福田内閣は、なんとしてもアメリカ政府からの戦争支持継続の要求に応じようとしてやっきとなっている。福田の一見ソフトな内側には親米タカ派の内実が隠されているのである。そのため福田は、一一月に訪米し、新たな日米関係強化をはかろうとしている。
 安倍は、集団的自衛権行使について懇談会に答申を出させて日米共同軍事行動をについて中央突破を図ろうとした。だが、福田は、今日の国会状況を前に、なし崩し的にそれを行うという陰湿な政治手法をとっている。

 福田内閣は自らが言うように「背水の陣内閣」である。小泉・安倍内閣の負の遺産である新自由主義・規制緩和政策による国民生活の破綻状況、沖縄戦・教科書問題に象徴されるイデオロギー的な復古主義反動への大衆的な拒否、日米関係を含む外交的な行き詰まり、そしてそれらを背景にした参院選での自民党の歴史的敗北などのいくつもの壁が福田の前に立ちふさがっている。
 臨時国会の会期末は一一月一〇日である。テロ特新法案を提出し、衆院で可決させても参院で否決される。大幅な会期延長をして、再度衆院で三分の二以上の賛成で新法を成立させるしかないが、インド洋での自衛艦による補給をはじめ作戦の内容が国会で暴露されるにともなって、世論は与党の空虚な国際貢献論への疑問をいっそう強めるだろう。与党は事態を打開するために衆院解散・総選挙を早期に実施する可能性も捨てきれないが、議席の減少は確実であり、過半数割れの可能性さえあるので慎重にならざるをえない。まさに、今の政治局面は何が起こっても不思議でないくらいに流動しているのである。

 民主党の小沢代表は、持論の「国際治安支援部隊(ISAF)」への参加について雑誌『世界』一〇月号でまた提起した。民主党政権になれば、国権の発動としての自衛隊の海外派兵でないかたちで国連軍事活動に参加するというものだ。これも憲法違反の自衛隊の海外派兵であり反対しなければならない。だが、これでテロ特問題で自民党と民主党が同調するわけではない。民主党もこの線でまとまっているわけではない。今後の大衆運動の盛り上がりしだいで、やがて実現する民主党中心政権の政策も違ったものになるであろう。

 現在の課題は自民・公明政権が継続させようとしている自衛隊のインド洋派兵・給油新法をすべての力を総結集して粉砕することであり、福田政権を打倒する闘いに全力をあげるときである。
 国会内外の呼応した大々的な反対運動を広げていこう。


ブッシュの戦争は破綻しつつある  全世界で反戦の声を上げよう

米民間会社による虐殺


 ブッシュ政権の引き起こした侵略戦争は破綻の様相を濃くしている。すでにイラクでもアフガニスタンでも米軍の勝利の可能性は消滅し、逆に彼らが追い詰められている姿が誰の目にも明らかになった。
 イラク国内では死傷者が激増し、状況は「泥沼化」以上に達している。
 その上に、このところ戦争の腐敗した本質があらわになる事件があいついでいる。

 米軍による住民の虐殺・虐待だけではない。イラク戦争では、戦争の民営化が言われるが、九月に、米国系民間警備会社ブラックウオーターの警備員がバグダッドで銃を乱射し多数の市民が死傷した。イラク政府によると、市民からの挑発行為などがなかったにもかかわらず、ブラックウオーター側が銃撃を始め、市民一七人が死亡したと言う。イラク当局はアメリカ政府に対し、イラク国内での同社との契約をすべて打ち切り、死者一人につき約一〇億の賠償金を遺族に支払うよう求めた。アメリカの傀儡であるマリキ政権もこうした行動をとらざるを得なくなっているほどアメリカの残虐行為はエスカレートし、イラク民衆の反米感情はかつてなく高まっているのである。

 アメリカはイラク戦争で、イギリスなど多国籍軍を動員するとともに、民間会社を雇って戦争を遂行している。軍関係のあやしげな民間会社は戦争をボロ儲けの場として活用しているのであるが、その実態がここでも暴露されたのである。
 この事態に、一〇月七日には、事件調査のためにアメリカとイラクの当局者は治安対策に関する合同委員会の第一回会合を開いた。またイラクのマリキ首相が招集した第三者調査委員会は、ブラックウォーター社が裁かれるべきだとの見解を示した。しかし、アメリカ主導の連合軍暫定当局は、イラクの法律の適用外だとして同社を守っている。

PEACE DAY

 日本政府は、民衆に塗炭の苦しみを与えるブッシュのイラク・アフガニスタン戦争を支え続けてきた。
 アメリカ本国をはじめ世界各地でブッシュの戦争に反対する運動が盛り上がっている。

 日本では九月一五日に「武力で平和は作れない 戦争は最大の環境破壊、人権侵害 世界の人々とともに」をかかげて「9・15 PEACE DAY TOKYO 2007@東京タワー下」行動が展開され、延べ一二〇〇人が参加した。
 会場の芝公園四号地には多彩な出展ブースが並び、ライブやアートの出展があり、中央壇上ではスピーチが続いた。
 午後三時からはピースパレードに出発し、「アフガニスタンやイラクの民衆を殺すな! 米軍撤退を!」のシュプレヒコールで市民にアピールした。
 行動の最後に、主催者を代表して高田健さんが発言。
 ブッシュの戦争を日本政府は支え続けている。イラクでは依然として航空自衛隊が米軍などの輸送を行い、インド洋での米軍艦船などへの石油補給は民衆虐殺の手助けをするものだ。これまで世界の人びととともに戦争反対の声を上げ続けてきたが、こうした行動の蓄積は大きい。突然に安倍首相は辞任したが、これは自民党政府の行き詰まりを示すものであり、さまざま運動を持続してきたわれわれが勝ち取ったものでもある。政府はテロ特措法を延長させて戦争支援を続けようとしているが、絶対に延長させない闘いを作っていこう。


PAC3弾を撤去せよ! ミサイル防衛計画を中止せよ!

 一〇月一日、核とミサイル防衛にNO!キャンペーンの主催で、「防衛省は迎撃ミサイルPAC3の都心展開演習をやめろ!」行動が行われた。午後七時過ぎに防衛庁正門前で抗議集会を行い、要請書「防衛省は迎撃ミサイルPAC3の都心展開演習を中止し、ミサイル防衛から撤退を!」(別掲)を石破茂防衛相あてに申し入れた。

MD構想・PAC

ブッシュ政権のミサイル防衛構想(MD)は、自分は攻撃されずに相手を一方的に攻撃できるシステムづくりである。この指揮・統制はハワイ州フォート・シャフターに所在する第九四米陸軍防空ミサイル防衛コマンドが行い、テキサス州フォート・ブリスから地対空誘導弾パトリオットPAC2弾及びPAC3弾を装備する米陸軍第一防空砲兵連隊第一大隊が沖縄県の嘉手納空軍基地と嘉手納弾薬庫地区に移駐してきている。その構想の一環に日本が組み込まれる。MDの推進は、横田への日米共同作戦司令部の設置など米軍・自衛隊再編の要の一つとされているが、今年二〇〇七年三月三〇日には埼玉県の航空自衛隊入間基地に所在する第一高射群第四高射隊に最初にPAC3が配備された。
 当日の防衛省発「ペトリオットPAC―3の第一高射群第四高射隊(入間)への配備について」では、「防衛省は、平成一六年度(二〇〇四)より弾道ミサイル防衛(BMD)システムの整備に着手しておりますが、今回入間基地に配備されるペトリオットPAC―3は、平成一六年度予算により改修が進められていたものです。…今回、入間基地には、ペトリオットPAC―3を構成する器材である、迎撃ミサイル発射装置、レーダー装置、射撃管制装置、情報調整装置、無線中継装置、が配備されました。…今後、平成一九年度においては、第一高射群の残りの三個高射隊に対してペトリオットPAC―3を配備するほか、イージス・システム搭載護衛艦『こんごう』にBMD対処機能を付与する予定です」としている。
 PAC3は入間基地以外では、習志野(千葉)、武山(横須賀)、霞ケ浦(茨城)に追加配備される。

首都圏各地への展開

 配備されたPAC3は、基地以外にも展開される。PAC3の防護できる範囲は半径約二〇キロ程度で、「敵ミサイル」に対応するために、そして自らの居場所を隠蔽するために移動しなければならない。条件としては、周囲に高層ビルなどがあると弾道ミサイルを追尾するためのレーダーへの支障があるということで大きな公園のような場所が「最適」だ。そのため、高航空自衛隊入間基地の部隊については、防衛省、練馬基地、晴海ふ頭公園(東京都中央区)明治公園(新宿区・渋谷区)、代々木公園(渋谷区)などが部隊展開の候補地にあげられている。
 防衛省としては、使用を可能にするために公園管理者である石原慎太郎東京都知事の承認が必要で協力のための会談を求めている。
 PAC3の配備は、大勢の住民の密集する地域で部隊展開をすることになる。MD構想への日本の組み込まれは、戦争の危険性を高め、地元住民は、強力なレーダー波の人体への影響、部隊移動展開時の道路封鎖などの交通制限、迎撃による落下物被害の問題などに必然的に直面させられることになる。だがこうしたことを防衛省は、住民にほとんど知らせることなしに強行しているのである。
九月二十八日に行われた核とミサイル防衛にNO!キャンペーンによる防衛省からの説明会でも「部隊運用」ために答えられないという返事が続いたのがそのひとつの例だ。

米日政府の狙い

 PAC3配備は、「北朝鮮の弾道ミサイルの脅威」を口実に行われている。だが、アメリカ・ブッシュ政権は、その対北朝鮮政策を大幅に変更し、六カ国協議も進んでいる。米朝両国は直接の協議を行っている。対北強硬論で支持を集めようと画策してきた安倍内閣も自滅した。一〇月には入って南北首脳会談も行われた。入間基地へのPAC3配備のときよりも朝鮮半島における緊張緩和は進んでいるのであり、政府の口実はなりたたなくなってきているのだ。
 MDは、北朝鮮に先制攻撃を受ける恐怖を今まで以上に抱かせ、緊張激化をもたらし、朝鮮半島の諸問題の平和的解決に逆行するものとなっている。
 断固としてMD配備に反対していこう。

[要請書]
 防衛省は迎撃ミサイルPAC3の都心展開演習を中止し、ミサイル防衛から撤退を!


防衛大臣 石破茂様

 防衛省は入間基地に配備したミサイル防衛(MD)用迎撃ミサイルパトリオット3(PAC3)の都心への移動展開演習を行おうとしています。展開候補地として市ケ谷、練馬駐屯地に加えて都が管理する代々木公園、晴海ふ頭公園、明治公園が挙がっています。
 政府が「純粋に防御的」とするMDは、そもそも米国の先制攻撃戦略にとって不可欠の「反撃無力化装置」=先制攻撃促進装置として構想されており、極めて攻撃的かつ威圧的な兵器システムです。米国によるMDの東欧配備は、新型弾道ミサイル配備などロシアの激しい対抗軍拡とともに、配備予定地であるチェコ、ポーランドにおける反対運動の高揚をもたらしています。
 今回予定されている移動展開演習は@北朝鮮や中国など周辺国を刺激し、進行中の外交的問題解決のプロセスを妨げるA市民社会に軍隊の姿を見せつけ慣らさせると同時に、軍事優先の態勢を整備し、「社会の軍事化」を促進するB「防衛」とは名ばかりで、逆に相手からの標的となるリスクを周辺住民に押しつけるC「軍事機密」を盾とした情報統制により「文民統制」を一層形骸化させるD移動時の交通規制、ミナイル発射時の周辺被害、強力なレーダー波がもたらす影響など、移動展開が引き起こす諸問題が全く公開されていないE展開装備の「防衛」を名目とした過剰警備の恐れ、など多くの問題をはらんでいます。
 それにも関わらず、防衛省は情報公開と説明責任を全く果たそうとしていません。九月二十八日の参議院議員会館での公開ヒアリングでは、「部隊運用に関することなので答えられない」「まだ計画が固まっていないので話せない」との回答が連発されました。六兆円の試算さえある莫大な税金が投入されるばかりか、住民の安全をむしろ脅かすMDが、「軍事機密」のブラックボックスと化すことを認めるわけにはいきません。
 必要なのはミサイル防衛ではなく、ミサイル軍縮です。今こそ、具体的な目標を掲げた保有兵器(在日米軍を含む)の削減交渉こそが提起されるべきです。
 私たちは、防衛省に対して、百害あって一利なしのPAC3都心展開演習の中止を要求します。併せて、入間基地に配備されたPAC3ミサ子ルの撤去と更なる首都圏配備の中止、そしてミサイル防衛計画自体からの完全撤退こそを強く求めます。

二〇〇七年10月1日

 核とミサイル防衛にNO!キャンペーン 10・1防衛省要請行動参加者一同


沖縄戦「集団自決」に軍命令の記述削除

     
沖縄の怒り爆発に政府・与党は大動揺

 流れは大きく変わりつつある。
 「戦後レジームからの脱却」をかかげて、憲法体制を破壊政治を強行してきた安倍は自滅・逃亡した。右派政治勢力は、これまでの反動攻撃での財産の蓄積を大きく傷つけた。
 今年の三月三〇日、今年度の教科書検定結果が明らかになったが、その中で、沖縄戦での住民の集団自決事件に日本軍の関与・強制を指摘する表現に検定意見がついた。文科省は、判断基準を変えた理由について、@「軍の命令があった」とする資料と否定する資料の双方がある、A慶良間諸島で自決を命じたと言われてきた元軍人やその遺族が名誉棄損を訴えて訴訟を起こしている、B近年の研究は、命令の有無より住民の精神状況が重視されている、としている。とくに、元軍人などによる裁判提起を重く見ていた。
 裁判とは、大江健三郎さんと岩波書店を元沖縄戦指揮官および遺族が名誉毀損で訴えた裁判で大阪地方裁判所で係属中のもの。裁判は主張書面や証拠書類等が提出されたのみであり、訴訟係属中で結論の出ていない裁判の一方当事者の主張を根拠に教科書記述の書き換えを要求することは、政治的な意図が見え見えとしか言いようがない。この裁判には右派政治勢力が控えている。原告側支援団体の顧問には、藤岡信勝など「新しい歴史教科書をつくる会」のメンバーがなっており、自由主義史観研究会、昭和史研究所、靖国応援団、関西自由主義史観研究会、新しい歴史教科書をつくる会大阪などが協力団体となっている。
 そして、六月二十三日に沖縄県糸満市の平和祈念公園で行われた沖縄全戦没者追悼式での記者会見で、安倍晋三首相(当時)は、「教科書検定調査審議会が学術的観点から検討している」と述べ、記述の復活はしない考えを示した。安倍の発言は、実質的に沖縄戦での集団死に日本軍の関与がなかったと主張するものであった。小泉・安倍と続く反動内閣には、沖縄戦での軍命令・関与の記述削除は戦争のできる国づくりのためにはどうしても必要なものだった。
 こうした行為に沖縄の人々の怒りはついに爆発したのである。
 九月二十九日には、沖縄県宜野湾市での超党派の「九・二九教科書検定意見撤回を求める県民大会実行委員会」による沖縄県民大会には一一万六〇〇〇人が参加し島ぐるみで教科書検定撤回の要求を行った。集会は、米兵による少女暴行事件に抗議する一九九五年の県民総決起大会をはるかに上回る規模となった。実行委員会は県議会、県遺族連合会など二二団体でつくられ、県と県内の全四一市町村が参加した。教科書検定意見撤回では、沖縄の自民党、公明党も合流したのである。
 大会では、仲井真弘多知事(自民・公明の推薦で当選)が、県民を納得させるだけの検証が行われていないなどと遺憾の意を表明したほか、沖縄戦の真実を伝えるよう教科書修正を撤回する要求する発言が続いた。そして大会決議では「教科書は未来を担う子供たちに真実を伝える重要な役割を担っている。だからこそ、子供たちに、沖縄戦における『集団自決』が日本軍による関与なしに起こり得なかったことが紛れもない事実であったことを正しく伝え、沖縄戦の実相を教訓とすることの重要性や、平和を希求することの必要性、悲惨な戦争を再び起こさないようにするためにはどうすればよいのかなどを教えていくことは、我々に課せられた重大な責務である。よって、沖縄県民は、本日の県民大会において、県民の総意として国に対し今回の教科書検定意見が撤回され、『集団自決』記述の回復が直ちに行われるよう決議する」と確認した。
 沖縄の怒りの爆発を受けて動転した政府・与党は、これまでの姿勢を転換せざるを得なくなってきている。公明党の太田代表は、政府に沖縄戦の検証をする研究機関の設置を求めたりして、総選挙を前に自民党との違いを押し出したいというパフォーマンスまで始めた。
 一方、野党四党は「検定撤回の国会決議」を衆参両院に提出することで合意した。
 政府・文部科学省や自民・公明与党は、教科書会社からの訂正申し出などでなんとか沖縄の怒りをそらし逃げ切りを図ろうとしているがこれを許してはならない。教科書検定で何が行われたのか、誰がいかなる発言と指示を行ったのかが全面的に明らかにされ、反動的な教育行政と教科書検定制度を変更させなければならない。同時に、大江・岩波裁判でも暗躍する自由主義史観研究会など右翼勢力の細動に断固たる反撃を加えていかなければならないのである。


諸悪の根源である労働者派遣法の抜本改正を

 自由主義経済政策の流れの中で、雇用リストラの嵐が吹き荒れ、非正規労働者が急速に拡大し、短時間労働・有期契約・間接雇用などの非正規労働者の割合が全労働者の三分の一がとなり、女性の場合は過半数という状況となっている。
 一九八六年に、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(労働者派遣法)がつくられ、それまで禁止されていた「労働者派遣」は、「労働者供給事業」の例外として、厳しい限定つきで認められることになった。 だが、労働側が危惧していたように、政府・自民党の大々的な規制緩和政策によって、相次ぐ規制緩和がおこなわれた。とくに一九九九年の法改正では、対象業務が一部を除いて原則自由化となった。それまでの「原則禁止、一部適用」から「原則自由、一部禁止」となり、派遣労働の中身自体が大きく変貌した。その結果、派遣業者間の競争は激しさを加え、まさに「労働ダンピング」という中で、派遣労働者の賃金・労働条件は急速に低下し、日雇い派遣ですらない、一日に何箇所にも出向くスポット派遣が蔓延している。こうした中で、経団連会長企業キャノンを先頭に「偽装請負」や様々な脱法的措置が横行している。
 厚生労働省の労働政策審議会では、来年の通常国会にむけて法改正審議など準備が進められている。ここにきて、ようやく労働者派遣法の問題がひろく知られるようになり、連合も重い腰をあげて、九月の第二十五回中央執行委員会で「労働者派遣法見直しに関する連合の考え方」を決め、派遣法を創設時の形に戻すべきだとの基本方針で臨むとした。
 参院選での与野党逆転の結果は、小泉・安倍とつづいた規制緩和・市場万能主義に対する批判の声の大きさを物語っている。こうした労働者のための労働法制改正を実現する好機をつかんで、運動をいっそう前進させるときである。

 十月四日、参議院議員会館で、「格差是正と労働者派遣法改正をめざす国会内シンポジウム」(主催・実行委)が開かれた。
 主催者を代表して、ガテン系連帯事務局長の小谷野毅さんがあいさつ。
 いま日本社会ではさまざまな問題が起こっているが、格差拡大などの諸悪の根源は労働者派遣法だ。これを変えることが重要だ。当初、実行委はシンポの名称を「改正を考える」としたが、いまの情勢を見ると、もっと積極的に出るべき時期だとの意見も多く「改正をめざす」とした。今日は、国会議員も多く参加している。大衆的な運動を大きく盛り上げて国会内での闘いを包み、改正を実現していこう。
 激励のあいさつはジャーナリストの鎌田慧さん。
 労働者派遣法は改正でもなく、解体していかなければならない。それほど酷い法律だ。これは労働者を必要なとき必要な人数だけ企業に労働者を供給するものであり、トヨタのカンバン方式そのものだ。戦前の炭鉱や港湾の人入れ稼業は、血と汗と暴力、殺人で企業が儲けたが、派遣法は近代的な装いをしたそれらの復活であり、非合法の合法化だ。派遣労働者は劣悪な労働を強いられており、闘うしか道は拓かれない。派遣法を解体していく第一歩として法改正を勝ち取っていこう。
 NPO法人・派遣労働ネットワーク理事の高井晃さんは、労働者派遣法の抜本改革に向けての次の七項目の要求を提起した。@派遣法は職安法の例外規定であること、「常用代替防止」原則を改めて明確にする、A一九九九年改正で認められた「自由化業務」は本来の「臨時的・一時的業務」に限定する、B登録型派遣を厳しく規制し、常用型労働への転換を進める、C派遣会社(派遣元)の資格要件を厳しくし、マージン率規制の導入をめざす、D派遣先事業主の雇用責任を強化する、E派遣労働者に対する差別を禁止し、均等待遇を確保する、F派遣労働者の権利確保のため派遣元・派遣先共同責任制を拡大する。
 連合・総合労働局長の長谷川裕子さんは、労働者派遣法についての連合の基本方針を報告した。
 シンポジウムでは、中野麻美弁護士(派遣労働ネットワーク理事長)をコーディネーターに、民主党の山根隆治参議院議員、日本共産党の小池晃参議院議員、社民党の近藤正道参議院議員、国民新党の亀井亜紀子参議院議員が、それぞれの党の見解などについて発言を行った。
 現場で闘っている組合員からの報告では、フルキャストやグッドウイルなどの派遣企業のユニオンやさきごろ勝利判決を勝ち取った東京東部労組阪急トラベルサポート支部などからの発言がつづいた。

 私たちが求める労働者派遣法抜本改正案

          (NPO法人 派遣労働ネットワーク 二〇〇七年一〇月)

 I 私たちが求める労働者派違法抜本改正の基本的スキーム

 私たちが求める労働者派遣法抜本改正法案は、職業安定法に基づ<雇用の原則に基づいて、働く人たちに差別なく職と雇用へのアクセスが保障され、すべての人々に安定した生活と公正に報われる雇用と待遇がいきわたるようにできる労働者派遣の仕組みを再構築しようとするものです。そのために抜本改正を求める基本的なスキームを示すとすれば、以下の通りです。

 第一に、雇用の原則(直接・無期限の雇用が原則であり、誰もが不当に差別されない雇用の権利をもっていること)とそれを守るための常用代替防止を法律の趣旨目的とすることを明らかにする。
 第二に、労働者派遣の許容される範囲を見直し、産業社会の要請の一つである公正な取引の実現に応えつつ、労働者の生活と雇用の安定をはかる。
 第三に、労働者派遣法に基づく労働者派遣受け入れの許容範囲を逸脱した派遣先の責任を抜本的に見直し、これまで法の欠落として指摘されていた部分をカヴァーすると同時に経済的制裁措置を強化する。
 第四に、派遣労働者の権利について、人間としての生存と生活の営みにおいて同一の権利が保障されるべき事項については、法律に基づく権利の完全な保障の実質的な確保を図るとともに、派遣労働者について不合理な差別を禁止して均等待遇を確保する。   (以下略)


JCO事故8周年

   
原発停止・核武装化反対

 一九九九年九月三〇日、住友金属鉱山の子会社で茨城県東海村にあった株式会社JCOの核燃料加工施設(核燃料サイクル開発機構の高速増殖実験炉「常陽」向けの燃料加工)で臨界事故が起こり、核分裂連鎖反応は約二〇時間持続し、二人の下請け労働者が安全対策もないまま被曝し死亡するという日本最悪の原子力事故となった。
 事故から八年がたった九月三〇日、東海村臨界被曝事故8周年東京圏行動の講演集会が全逓会館で開かれ、雨の中を二四〇人が参加した。
 はじめに東京圏行動実行委員会の渥美昌純事務局長が基調報告をおこなった。
 当面の方針として、@日本の原子力事故で始めて死者が出た東海村臨界事故の原因とその背景を追及すると共に、今後も起こりうる原発事故に対する教訓にする、A水戸地裁から東京高裁に移る見込みのJCO被曝大泉さんの裁判に毎回の傍聴などの支援体制を作る、B広島・長崎の原爆症認定集団訴訟と大泉訴訟、劣化ウラン兵器の関連性の認識を高め、内部被曝問題について考える。今後の課題としては、@地震国日本には原発適地などない。傷だらけ老朽化原発の一刻も早い停止を求める、A新たな核脅威を許さない(東京湾に原子炉が常駐する原子力空母の横須賀母港化反対、高速増殖炉もんじゅの運転再開反対、六ヵ所再処理工場の本格稼働阻止、プルサーマル計画反対、原発安楽死へ)、BJCO大泉裁判、もんじゅ西村裁判、サクラ調査等々に取り組む、などが提起された。

 講演の一人目は、「放射能高レベル廃棄物・東洋町の選択」と題して澤山保太郎さん。澤山さんは、この四月に、核のゴミ捨て場誘致の前町長に対して、明確な反対の政策を掲げて高知県東洋町町長に当選した。
 東洋町は、人口が激減して年寄りが多い典型的な過疎の町だ。前町長は、町の活性化と財源の確保とかを口実に、核の最終処分場の建設候補地に名乗りをあげた。それに対して町民は署名運動を行い、圧倒的な反対の意思表示をした。町議は十人いるが、六人が反対するようになって多数派となり、議会の大勢は誘致反対となった。その上、賛成派にとって不利な事件がたてつづけに起こった。とくに、議会で否決されたのに前町長は勝手に受け入れ調査に応募したこと、それに前町長といっしょになっているのが札付きの連中であることが内部告発でわかり、新聞の一面トップで報じられたことだ。それで核誘致禁止の条例を作ろうということになった。有権者の五〇分の一以上の署名があれば、条例の制定を町に求めていけるのだが、一週間足らずで有権者の半数以上が署名した。町議会で条例は制定されたが、町長は再議権を発動した。この場合、条例制定には議会の三分の二の賛成が必要となる。そうこうしているうちに前町長は二度目の応募をおこなった。こうなれば町長リコールしかないということで実行委員会が結成された。ところが、リコール成立が確実だと見た前町長は突然に辞任をして選挙での復権を狙った。こうした事態に対抗する候補者探しとなり私が立候補することになり当選した。町長になってわかったことだが、東洋町の財政は決してピンチではなかったということだ。一〇年二〇年は十分にやっていける。町は書き廃棄物は導入させないが、高知県は土建会社などによるNPOを作って導入のかまえでいるようだ。

 二人目は佐藤正幸さん(元柏崎地区労議長)。佐藤さん自身の家も直下地震が襲った中越沖地震・柏崎刈羽震災と原発の危険性について報告した。
 七月一六日午前一〇時一三分に起こった中越沖地震は原発の街を直撃した。震源地は東京電力・柏崎刈羽原発から北東方向一〇キロの海底で、マグニチュード六・八の地震の被害は原発を中心にして一〇キロの範囲に集中し、死者一一名、負傷者一二七八名をだし、全壊家屋一〇八八戸など被害総額は二二〇〇億円に達した。そのとき柏崎刈羽原発では、地震当日三、四、七号機が運転中、二号機が起動操作中で四基は地震で緊急停止、一、五、六号機が定期検査で停止中だった。そして、原発の被害は、放射性物質に関わるものが、一五件、放射性物質に関わらないものが、五四件、これ以外のものを含めて合計で二八二六件となっている。原発建設の新耐震指針では、一三万年以降地盤が活動しているところには原発は建設できないことになっているが、今回の地震で原発の敷地は一〇センチ近く隆起した。原発直下の断層が動いた可能性があるのだ。誰が考えても原発をつくってはならない地盤に柏崎刈羽原発は造られた。これを存続させ、運転を再開させるなどとんでもないことなのである。「電気は関東圏へ、危険は地元柏崎刈羽で」というのは現地住民、県民にとってやりきれない思いがある。運転再開を強行することは、これまで風評被害で大きな代償を払い、今度も危険な地域として大きく価値を損ねることになるのではないかと危惧している。

 つづいて、東海村住民被曝者原告の大泉恵子さん、東京圏行動実行委員会委員長の望月彰さん、「もんじゅ西村裁判」原告の西村トシさん、「核開発に反対する会」代表の槌田敦さんが発言した・
 最後に、たんぽぽ舎の柳田真さんがまとめの発言を行った。


図書紹介

      
 非正規労働者の乱  有期・派遣・外国人労働者の闘い 』

          山原克二・ゼネラルユニオン  アットワークス   1,050円

 大阪中央労基署は従業員給与遅配でNOVAに是正勧告を出した。朝日新聞(一〇月五日)は「英会話学校最大手のNOVA(大阪市)で講師らの給与支払いが遅延している問題で、大阪中央労働基準監督署が日本人従業員の給与が支払われていないとして、労働基準法違反で是正勧告をしていたことがわかった。…今回で四回目となる。…一方、外国人らの労働組合でNOVA講師らも参加する『ゼネラルユニオン』(大阪市)は四日、遅配改善を求める二回目の申告書を同労基署に提出した。ゼネラルは『だんだん遅延期間が延びているのが心配だ』としている」と報じた。
 今、有期・派遣・委託・契約・非常勤・日々雇用・嘱託など「非正規」雇用労働者が激増している。こうした中で、九一年六月に、全労協の活動家や在日外国人活動家などが中核となって作られたゼネラルユニオンは、「多彩なメンバーで、既成労組が切り捨てた『臨戦公務員・外国人・パートなど』にアプローチを開始した。だが、特に反響が大きかったのは、『国籍を問わず、外国語で相談を受ける』という看板だった」。
 一人でも誰でも加入できるゼネラルユニオンは、日本人と外国人の国籍にかかわりなく、さまざまな非正規労働者の組織化を進め、雇用確保と職場の改善、社会保険加入など労働条件向上をめざして闘い、多くの成果を勝ち取ってきた。
 この『非正規労働者の乱―有期・派遣・外国人労働者の闘い』はゼネラルユニオンの闘いを軸にして作られている。
 目次は、争議実践篇(@今や、非正規労働者は多数派A非正規の社会保険加入要求とECC争議B非常勤リストラ反対で、有期常勤ストC一年有期労働者、来期の雇用保障D就業規則・時間外協定と従業員代表選挙E松下電器の個人委託の請負を直接雇用へF二十四市教委の講師違法派遣・偽装請負を告発)、Q&A篇(@さまざまな非正規労働相談ノウハウA有期雇用の闘い─「更新」と「雇い止め」B「派遣」と「請負」の違い─労働者性の判断C労働者派遣法と派遣元・派遣先の実態D間接雇用ではなく、まともな「直接雇用」を今こそE非正規としての外国人労働者の多言語相談)、歴史篇(多様な「顔」を持つゼネラルユニオン 個人加盟・多国籍・語学産別・大学非正規・研修生、そして…)、争議体験篇(@ゼネラルユニオン組合員の叫びAジオス梅田校 スト・ハンスト・全国争議B日米英語学院 ストと勝訴で、原職復帰Cジオス名古屋 日本人女性スタッフの人権争議D関西日仏学館 シラク大統領を不当労働行為で訴えE武生市紡績 中国人研修生からの手紙F立命館大学 講師使い捨てに、ハンストで反撃)、そしてNOVA労働者の闘い(緊急報告・NOVA最後の日)、ゼネラルユニオンプロフィールとなっている。
 ゼネラルユニオンとは何か。「多様な『顔』を持つゼネラルユニオン」の項は書いている。
 「日本の労組は『総評』『同盟』とを問わず企業内主義、男性中心主義で、かつ正社員・日本人のみを組合員対象とするなど、エゴのように狭いという欠陥がずっと大きな問題だった。我々がその典型である『連合』を拒否し、フリーかつ、新しい質の労組を結成したのは八九年であった。折しも韓国から来たアジアスワニーの争議団の『日本本社遠征闘争』を共に闘い、またドイツ統一前後のヨーロッパ外国人労働者運動を学べたのは、貴重な経験だったと言える。地域で頑張るコミュニティユニオンもあったが、組合員の定着が難しく、活動家の自己犠牲で継続されている状況だった。この問題は、当時すでに大きな壁となっており、残念ながら未だ十分克服できていない。我々はそれらとは違った形で自立し、あらゆるタブーを排して、本当に誰でも加入し活動できるまと
もな合同労組を作ろうとした。丁度、総評のブレーンで『労働情報』誌の顧問であった清水慎三氏の提起にあった『ゼネラルユニオン』論に賛同し、労組名も借用した。『GENERAL』の中に、階級的共同と国際連帯を見、このネーミングが、日本人にも外国人にもわかりやすく良かったと思う。……」
 清水慎三さんの『ゼネラルユニオン論』とは、『労働情報』一九八一年一月一日号「自立個人加盟労組を決意の時―民間若手労働者を掘り起して―」などのことだが、そこでは、「原点に帰った労働運動を」が提起され、「広大な未組織地帯と民間大企業における戦略的陥没地帯に焦点を定め、『管理社会に対抗する人間的自立』に価値を置きつつ、労働者の自己主張を中心に連帯の輪を広げる『自立個人加盟労組』の創設が必要な時代と考えている。…この『自立個人加盟労組』は、現状においては一切の政党から完全に独立するとともに、組合員個人の政党支持は完全に自由であることが望ましい。組合運動の政治中立はありえないが、現代社会における労働組合の可能性を極限まで追求してみることがこの際先決だと思うからである」。
 中小未組織労働者だけではない。大企業の名前だけの労組の中にいる労働者をふくめてまさに「現代社会における労働組合の可能性を極限まで追求してみること」が求められている。
 ゼネラルユニオンの闘いは、一つの典型であり、学ぶ点が多い。 (H)


せ ん り ゅ う

 勝てば官軍原爆投下正当論
 
 原爆忌黙祷を待つ蝉しぐれ
 
 沖縄戦静かに渡る芭蕉風
 
 戦いばかり後ろの正面誰がいる
 
 見せかけ見抜く年寄り子供女の目
 
 熱きめざめ髪を一かき鏡に向う
 
 いつの世も自然の恵み若菜摘む
 
             瑠 璃


複眼単眼

     
「大相撲」は国技の偽装をやめよ

 このところ、日本相撲協会をめぐるニュースネタが尽きない。筆者は以前は結構、相撲好き人間のほうであったが、次第に興味がうすれ、大関栃東が脳の障害で引退してからはサッパリ興味を失っていた。
 そういう自分だが、前々から「大相撲」に不満を持っていた点が、最近、相次いで噴出して、「そら見たことか」という気分になっている。
 九月一九日、秋場所十一日目に起きたのは、女性客が土俵に駆け上がった事件である。
 幕内前半の取り組みもおわるころ、力士が塩をとりに向かったら、突然女性客が土俵に駆け上がって「右足」をかけたのだという。生憎、私はテレビではその場面を見ていないが、翌日の新聞では右手右足を引っ張られている女性が写り、その「左足」は土俵の内側で膝をついた形だった。協会が責任を問われることを恐れて、放駒審判部長は「土俵に上がられたわけではない」と説明したが、この写真から見て、おそらく、女性の両足が土俵に上がってしまったのではないか。女性は「意味不明」な内容のビラをたくさんもち、「意味不明」な発言を繰り返していたとされるが、真実、どのような内容だったのだろうか。
 大相撲は土俵に女性を絶対に上げない。だから表彰式で大阪府からの表彰は受けていたのに、女性の府知事が表彰状の授与式に参加することを拒絶したこともある。
 こうした女性への差別は、日本では女人禁制の大峰山などにも残っているが、次第に少なくなっている。「国技」などと自称しておきながらおかしいではないかと批判をうけると、その答えが、たしか「伝統文化だから」というものだった。なんとも愚劣な話である。
 横綱朝青龍の出場停止処分問題をめぐる相撲協会の対応はなんとも筋が通らない不可解なものだった。この件はよく知られているので詳しくは論じない。白鵬が横綱になったら「もう朝青龍を甘やかさなくてもいい、生意気な朝青龍をこらしめろ」という感じの対応に見える。
 現在の協会所属力士数は七二三人、うち外国出身力士は一二カ国六一人、幕内には一三人で、うちモンゴル出身は八人もいる。〇二年から各部屋一人ずつに制限されてなおこの数字である。番付を見ると役力士の多くが外国出身力士という場所も珍しくない。もはや外国出身力士なしには日本相撲協会は成り立たないのに、一方では「国技」などと自称した勝手な解釈による「日本文化」の強制や差別体質が温存されている。「君が代」の斉唱や「天皇賜杯」授与などによって、この日本文化の「権威」が裏打ちされている。朝青龍事件はこうした問題と密接に関連している。
 そしてもうひとつは、先ごろ時津風部屋で起きたおぞましいリンチ殺人事件である。親方と兄弟子たちが十七歳の入門した手の時太山をビールビンと金属バットで「かわいがり」、殺してしまったのである。
 相撲協会の暴力的体質は根深い。それが伝統文化の飾り言葉で横行している。稽古場に立つ親方たちが竹刀をもっている図などがなんの疑問もなく報道を飾っている社会である。
 この事件では直接の責任者の時津山親方も容易に責任をとらないし、協会の北の湖理事長にしては責任のかけらも感じていないような振る舞いだ。
 こうした新弟子の逃亡を部屋が許さないのは、ひとえに相撲部屋の経営問題にある。新弟子が一人増えると養成費や部屋維持費、稽古場経費などの名目で年間合計百八十六万円が協会から親方に支給される。まさに弟子は米びつなのである。
 協会の年収はNHKの放映権料三十億円、本場所・巡業など興行収入九十数億円など年間約百二十二億円であるという。これで力士や親方衆、行司、呼び出し、床山、事務職員など一〇〇〇人の組織を維持している。
 こうした仕組みのもとで、内部に暗い闇をかかえながら、封建時代さながらの階級組織が成り立っているのである。
 もしも日本相撲協会を存続させるのなら、「国技」などの自称をやめさせ、現役員の総辞職をはじめ、悪習に染まりきった運営の実態を公開させ、一から出直さなくてはならない。  (T)