人民新報 ・ 第1239号<統合332号>(2008年3月15日)
目次
● 在日米軍・自衛隊の犯罪を糾弾する
● 「9条世界会議」協賛 シンポジウム
● 9条世界会議を成功させよう ピースウォーク・スタートイベント(広島)
● 2・11反核・軍縮・日木原基地撤去を求める岡山県民集会に二三〇名結集
● 四党合意の過ち繰り返さず、JR採用差別事件解決へ
● 鉄建公団訴訟でJR東海会長葛西の証人尋問決定
● 九条の会講演会 − 小田実さんの志を受けついで
● 映 評 / 「母べえ」 ( 東幸成 )
● せ ん り ゅ う ( ゝ 史 )
● 複眼単眼 / 中曽根元首相が超右派勢力の復活めざす改憲議員同盟
在日米軍・自衛隊の犯罪を糾弾する
最近、日米同盟の反人民・人間的な本質が明らかになる事件が連続して起こっている。
二月一〇日に、またしても米兵による沖縄の少女レイプ事件が起こった。在日米軍は外出禁止や再発防止の教育などを行うなどの「自粛」策をとるとしているが、そのなかでもさまざまな事件がやまない。
沖縄戦での日本軍による「集団自決」の強要という史実を抹殺する教科書検定意見への怒りにくわえてこの始末なのである。アメリカと日本の両国政府・両軍隊が沖縄と本土の人びとを痛めつけているのである。沖縄そして本土の人びとはみんな怒っている。
また、二月一九日には海上自衛隊のイージス艦「あたご」がマグロはえ縄漁船「清徳丸」に衝突・沈没させた。冷たい海に放り出された二名の漁民はいまだ発見されていない。この事件は、傍若無人にふるまう軍隊というものの存在がいかなるものであるかをいま一度示した。同時に自衛隊・防衛省の体質をも暴露するものとなった。
福田内閣は、在日米軍の再発防止策なるものを了承した。自衛隊・防衛省は、事件の隠蔽と責任のなすりあいという姿をさらけだしている。
日米の軍隊が素手の民衆を殺し傷つけているのである。在日米軍・自衛隊の犯罪を糾弾し、日米安保反対・改憲阻止の闘いを強めていこう。
二月一九日に、国会前で、「沖縄における女子中学生性暴力事件に抗議し公正な事件解決と根本的防止策を要求」する抗議行動が行われた。
首相、外相、防衛相、アメリカ大統領、駐日米大使、在日米軍司令官にあてた要求書(要旨)はつぎのように求めている。
@当事件の解決にあたっては、性暴力という犯罪の性質を適切に考慮しながら、公正な捜査と処罰がなされることを確保すること。私たちは、被害者の少女の行動を責めるような言説が今回も流通していることに強い懸念を抱いています。性暴力被害者の「落ち度」を理由に加害者を免罪するような事件処理は、二度と繰り返されてはなりません。適切な知識と経験をもつ専門家による暴力を受けた少女の心身のケアと、家族への適切なサポートがなされること、公正な捜査と加害者への厳重な処罰、被害者への真摯な謝罪と補償が行われること、またその上で、被害者のプライバシーに配慮しつつ、透明性と説明責任が確保されることを求めます。
A基地周辺における性犯罪その他の暴力を防止するために必要なあらゆる措置を、地域政府・住民・女性団体・市民団体との協議の上でとること。高村外務大臣は、今回の事件について「国民感情からみて、日米同盟に決してよいことではないので、影響をできるだけ小さく抑えるようにしたい」と、なお女性の人権よりも日米軍事同盟を優先する発言を行っています。しかし、軍事同盟こそが女性の安全を危うくしているのです。私たちは、日本政府が今後の再発防止のために、日米地位協定の再交渉や行動計画策定を含め、必要なあらゆる措置をとること、基地周辺地域の自治体・住民、および市民団体や女性団体と十分な協議を行うことを要求します。
「9条世界会議」協賛 シンポジウム
安倍改憲内閣はブザマに自己崩壊した。反動勢力の改憲スケジュールは大幅に遅れそうである。しかも後継・福田内閣も不祥事を続発させて支持率は劇的に低下ている。
いまこそ、改憲の動きに決定的な打撃を与える好機である。
五月三日には各地で憲法集会を成功させよう。引き続いて、「9条世界会議」が「9条を世界へ
世界から」をスローガンにして東京を中心に、大阪、広島、宮城で開催される。多くの人びとの参加をかちとろう。
二月一六日には、日本青年館で「9条世界会議」協賛企画の公開シンポジウムが開かれた。
はじめに高田健さんが主催者あいさつ。
いま世界は憲法九条を選び始めた。世界の人びとと憲法九条を生かしていこう。武力行使をやめさせ、自衛隊の海外派兵恒久法を阻止していこう。
シンポジウムのコーディネーターの川崎哲さん(9条世界会議事務局長)が、「9条世界会議」について説明した。
これまでにオランダ・ハーグ「世界平和市民会議」(一九九九年)、アナン事務総長(当時)のイニシアティブで進められたGPPAC(武力紛争予防のためのグローバルパートナーシップ)、カナダ・バンクーバーでの「世界平和フォーラム」(二〇〇六年に)で、憲法九条の世界の平和に活用できる価値というものが確認されてきた。本当にそれを国際的にどう実現していくかが問われている。しっかりとやっていきたい。
ジャン・ユンカーマンさん(映画監督)
私が映画『日本国憲法』の調査に入ったころは、絶望的な世の中の流れだった。世論でも改憲派が増えていた。しかも護憲の立場の人びとの論議の内容がほとんどなかった。それから四年たった。護憲派の論議は鋭くなった。しかし改憲派の方はいつもおなじで北朝鮮が攻めてきたらどうするのかの繰り返しだ。アメリカはイラクで勝てない、日本の再軍備はアジアとの関係を悪化させる、などという主張が人びとの心をとらえ、護憲派は討論に勝つようになった。たいしたものだ。
朴慶南さん(エッセイスト)
この間、奥出雲に行った。石碑を建てた老夫婦の話を聞いた。その人の父親が日中戦争に狩り出されて、戦地から葉書を送ってきた。「この鉄砲がゴボウだったら。いくさより野菜づくりの方がいい」という文面だった。二度と戦争をしてはならないという気持ちで石碑を作った。これは「九条の碑です」と語っていた。
アーサー・ビナードさん(詩人)
改憲派は、憲法九条が古典になるのを恐れている。そうなったら一〇〇%変えられなくなってしまうからだ。憲法違反の戦争をやり、憲法違反のCIAなどがあるアメリカ憲法はすでにそれを失っている。
三人のパネリストの発言を受けて会場からの発言もあり、世界会議に成功に向けての意見などが出された。
このシンポジウムをはさんで二月十六日から十七日にかけて、全国二十四都道府県から百三十人が参加して「第一一回許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会」が開催された。
第十一回許すな!憲法改患・市民運動全国交流集会アピール
福田内閣と与党が企てる自衛隊海外派兵恒久法を許さず、憲法改悪を阻止しよう!
五月の「九条世界会議」を成功させ、九九年ハーグ・アピール以来の不戦・非武装の国際的な潮流を飛躍的に強めよう!
二〇〇八年二月一六〜一七日、全国各地二四都道府県から東京にあつまった私たちは、二日間の交流と討議を経て、憲法改悪と、それにつながる解釈改憲のあらゆる動きを打ち破るために,いっそう連携を強め、ともに闘う決意をあらたにしました。
私たちは、昨年、大阪で開かれた「第一〇回全国交流集会」で、当時の安倍内閣の改憲暴走に立ち向かい、それを阻止するための共同の努力を誓い合いました。以来、私たちは全国各地でさまざまな闘いを精力的に展開しました。参院選の結果に見られたように、改憲手続き法など諸悪法を強行した安倍首相は多くの人々の怒りの高まりの中で行き詰まり、政権を投げ出しました。代わって登場した福田首相は、安倍カラーを薄め、野党に対する低姿勢と対話を売り物にしています。しかし私たちはこの福田内閣が、参院で否決された「派兵給油新法」を衆院で再議決してまで強行成立にこだわり、さらに、いままた民主党などを取り込んで、「自衛隊海外派兵恒久法」を制定しようとしていることを見逃すことはできません。
米国内を含め全世界で、ブッシュ米国大統領のイラク・アフガン攻撃など戦争政策とグローバリゼーションに対する批判が強まり、平和と人権を求める声が高まっているときに、日本政府がいまなおブッシュ大統領の路線を支持し、追従しようとしていることを許すことはできません。
平和と人権、環境などの問題は不可分の課題です。この全国交流集会では基地、貧困、差別と人権抑圧、社会の軍事化などなど、多様な問題への具体的な取り組みが憲法問題として語られ、確認されました。私たちは憲法九条の改悪に反対し、憲法三原則を実現する運動を、全国各地の草の根で、これらの多様な課題と深く結びつきながら幅広く展開したいと思います。
とりわけ私たちは、自衛隊が海外で米軍などとともにいつでも武力行使ができるようにするため、いま与党が企てている「自衛隊海外派兵恒久法」の制定を阻止し、憲法九条を活かし、実現するための広範な運動を促進するよう奮闘します。私たちは今年の五月三日と一一月三日の憲法記念日の行動を節目にしながら、全国各地で九条を守り、実現する運動がいっそう広範な共同で進められるよう奮闘します。くわえて私たちは、「自衛隊海外派兵恒久法」阻止の運動を、本日の集会を契機にして呼びかけられる「全国共同アピール」運動を契機にして、広範に展開することを決意します。
また今年の五月四日から六日まで、東京(幕張)、仙台、大阪、広島で開催される「九条世界会議」を必ず成功させたいと思います。そして一九九九年のオランダのハーグで開かれた「世界平和市民会議」、二〇〇五年のアナン国連事務総長の呼びかけで始められたGPPAC、二〇〇六年カナダのバンクーバーでひらかれた「世界平和フォーラム」などにつづく、国際的な「九条の価値」を確認し、広め、実現しようとする流れの飛躍的な発展を闘いとるよう力を尽くします。
以上、共同の意志を持って集会決議とします。
二〇〇八年二月一七目
第十一回許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会参加者一同
9条世界会議を成功させよう
ピースウォーク・スタートイベント(広島)
二月二四日正午から、「9条ピースウォーク・ヒロシマスタート集会」が開かれた。
あいにくの雪模様で寒風吹きすさぶ中、約三〇〇名の人々が原爆ドーム前に集まった。
参加者は、五月の9条世界会議を成功させるため、千葉幕張メッセまでの七一日間のピースウォークを無事に貫徹しようと、お互いに決意を固めあった。
集会は「原爆許すまじ」の歌のオープニングで始まった。
浅井基文広島市大平和研究書所長と浅見靖仁一橋大学院教授が挨拶を行ない、それぞれ9条世界会議と9条ピースウォークの意義について述べた。
つづいて独自のピースウォークで集会に参加した広島女学院大の学生が紹介された。
そしてスピーチに移った。
ベトナムやイラクからの帰還兵が「聖地」ドーム前で自らとのかかわりを述べ、全行程を歩く日本山妙法寺の加藤行衛上人がその思いを語った。
後半は歌のオンパレードとなり、このピースウォークのためのオリジナルソングから、ヒップホップあり、第九の9条替え歌ありで、最後に世界に一つだけの花を合唱して集会を終えた。
集会終了後は、ドーム前から広島駅までのピースパレードが行なわれた。
繁華街を行きかう人々から手が振られ、飛び入り参加や逆にパレードから人ごみにまぎれる人々があったりと、昔のデモから比べるとずいぶんに様変わりしたものとなった。
集会が長引いたうえにパレード参加者が予定以上に増えて、パレードの隊列は非常に長いものとなり、途中の休憩地到着時刻が大幅にずれ込んだ・
そのため、デモ申請時間内に次の目的地である海田までの到着は困難と判断し、広島から海田までのピースウォークは残念ながら急遽全体行動としては中止となった。
参加者のうち何人かは何としてもつながなければと自主的に歩いたそうだ。
本当に寒さが身にしみる日だったが、九条を変えさせてはならない、国民投票を意識して幅広く人々に訴えねば、という思いがピースウォークを生み出し、このスタートイベントを成功させた。
改憲勢力は変化球を交えてきている。私たちもそこをしっかりと見抜き、寒さを吹き飛ばし、9条改憲許すまじの国民世論を着実にそして大きく巻き起こしていこう。
9条ピースウォーク趣意書(要旨)
二〇〇八年五月四日〜六日に「9条世界会議」(幕張メッセ)が開催されます。日本と世界から人々が集まり、戦争の永久放棄という憲法9条を世界に発信する会議です。「9条ピースウォーク」はこの会議のプレイベントとして、市民一人一人の平和への声をつなげて、会議に伝え、そして世界に響かせるために、市民の手で行う平和行進です。二〇〇八年二月二四日、「9条ピースウォーク」は広島を出発し、七二日間をかけて東京をめざします。沿道で平和への声を、歩く人、そして迎える人、そのほか多くの参加市民の一歩一歩として集めながら、「9条ピースウォーク」は、二〇〇八年五月四日、「9条世界会議」開催日に会場に到着します。
(中略)
「9条ピースウォーク」は個人の自発的な参加を原則とし、地域の皆さんが協力して、市民が造るウォークです。参加にはいろいろなかたちがあります。例えば、ほんの数分や半時間でも、あるいは長期にいっしょに歩く方、各地で出迎え宿や食事を提供する方、交流会を準備する方、沿道から声を掛けたり差し入れをする方、寄付を寄せる方、いずれも歓迎です。若い人たちは、各地域の仲間がウォークのシンボルをバトンタッチしながら進むウォーク・リレーも計画しています。一人一人の市民が「平和」への願いでつながっていきましょう。思いをその一歩の行動に表す力と勇気をわかちあいましょう。そして、「9条ピースウォーク」参加によって、思想信条の違いを超えて、「憲法9条を輝かせる」「平和を願う」その共通の思いを確かめ合いましょう。そして私たちの手で、憲法9条を輝かせましょう。
地域の方や皆様のご協力があってこそ、一歩が進み、人々がつながっていく「9条ピースウォーク」です。「9条ピースウォーク」へのご協力とご参加を心からお願い致します。
二〇〇七年一二月
「9条ピースウォーク」実行委員会事務局
共同代表:浅見靖仁、足羽與志子、石岡真由海、石岡敬三、早川敦子、増井幸子
2・11反核・軍縮・日木原基地撤去を求める岡山県民集会に二三〇名結集
アフガンでもイラクでも軍事力では何も解決できないことがますます明らかになっている。にもかかわらず、アメリカはイランヘの戦争の拡大を目論んでいるといわれている。
そのアメリカに追随するのが日本政府だ。そのことを象徴するかのようなことが起こった。昨年一一月一二日から一二日間にわたって日米共同の軍事訓練が日本原で行われた。七九年の阻止闘争以来三八年間使用されなかった東着弾地で一月二四日、八一ミリ迫撃砲が二〇発も試射され、それ以降一一〇ミリ個人携帯対戦車砲の射撃訓練が繰り返されている。共同訓練に対して一一月一二日には、一二〇〇名が抗議行動に参加し、東着弾地での実射へも監視抗議行動が続けられている。
そういう緊迫した状況のなか、今年も日本原現地で元気に「2・11反核・軍縮・日本原基地撤去を求める岡山県民集会」が開催された。
集会は、解放同盟内海さんの司会進行で、日本原基地撤去共闘会議議長の福島捷美さんが主催者を代表してあいさつし、つづいて弁護団からは大石和昭弁護士、現地農民の内藤秀之さんのあいさつが行われた。東京日木原農民と連帯する会の澤村武生さんメッセージの紹介、大声コンテスト「自衛隊は日本原から出て行け」「航空自衛隊をイラクから引き上げろ」、その他がつづき、集会アピールを採択し、美作地区平和センター議長の岩本海孝さんの閉会あいさつで集会は終了した。
例年、東京から駆けつけ熱い連帯とともに闘う決意を述べられる澤村武生さんは、残念ながら病のためメッセージとなった。
集会の後、有志七〇名は駐屯地まで約三キロのデモ行進に出発し、駐屯地前では自衛隊員に対して「国を守るという使命を持って自衛隊に入ったのだろうが、去年、今年と行われた日米共同訓練は、イラクで無差別殺戮を実行している殺人部隊との共同訓練であり、侵略・殺人訓練に他ならない。自衛隊は国を守るためのものではなかったのか」などと訴えた。
澤村武生さんの集会へのメッセージ(要旨)
一昨年あたりから中南米諸国で反米的政権樹立の動きが高まってきています。中東も然りです。アメリカ自身も日本でも、政権交代の動きは必至です。世界的に人民が勝利する条件が整いつつあるといっても過言ではありません。
アメリカの「グローバル化」政策はそれほど行詰っているのです。懲りずにグローバル化を進めているのは、当のアメリカを除けば、日本だけです。
日本原では、新たに射撃訓練の動きがあったと聞いていますが、これもアメリカの軍事的グローバル化政策に政府が追随していることの現われです。
しかし、ここらで発想の転換が必要ではないでしょうか。以前、夜明け前が一番暗いというお話をしましたが、去年からみると、夜明けはますます近づいています。自衛隊演習場解放の時期は、まもなくです。
皆さん、もう一息です。どうか頑張ってください。
熟い、熱い連帯の握手をおくります。
四党合意の過ち繰り返さず、JR採用差別事件解決へ
二月一五日、中野ゼロ小ホールで、七〇〇名が参加して「首切り通告から二一年―怒りの二・一五中央集会」が開かれた。この集会の直前には鉄建公団訴訟で葛西敬之JR東海会長の証人尋問が決定という大きな成果が勝ち取られており、会場には勝利に向けていっそうがんばろうという空気が満ちていた。
主催は国労・建交労・中央共闘会議・国鉄共闘会議と闘争団全国連絡会議・鉄建公団訴訟原告団・運輸機構訴訟原告団・全動労運輸機構訴訟原告団の四団体・四者で、四団体の主催者を代表して、佐藤建交労委員長と二瓶共闘会議議長が挨拶を行った。
佐藤委員長は、一・二三全動労判決によって早期解決の時期に入り、原告の要求である雇用・年金・解決金を明確にするとともに、四党合意の二の舞はしない闘いを強めようとあいさつした。
二瓶議長は、全動労判決が鉄道運輸機構の不法行為を認定したことを成果として確認し、これをも背景として要求の三本柱を闘いによって勝ち取ろうと述べた。
全動労争議団・鉄運機構訴訟弁護団から加藤健次主任弁護士の報告。
つづいて龍谷大学の萬井隆令教授が「全動労判決の評価とJR採用問題」と題して記念講演。
二〇〇三年一二月の最高裁判決は、国鉄改革に伴う職員の移動はJRと清算事業団への「振り分け」であるとし、またJRに使用者責任を問い得ないと「使用者性」を否定した。その上で不当労働行為があったとすれば清算事業団=鉄建公団が責任を負うとした。
今回の全動労判決の意義は、一定の差別(組合所属を理由とする不公正な取り扱い)を認定したことである。分割・民営化に際して、国鉄は不当な差別・不当労働行為を行ったという流れはできた。だが判決は、不当労働行為とは呼んでいないという明確さに欠けるものだ。それは、採用基準があいまいであり、また損害が精神的打撃に限定されている。不当労働行為であれば、その救済は原状回復となるがそうはなっていない。本来ならJRへの採用が認められるべきだ。
今後の課題は、不当労働行為の認定を政治的解決につなげる運動を強めていくことだ。
弁護団からは、鉄建公団訴訟弁護団(加藤晋介主任弁護士)、採用差別国労訴訟弁護団(宮里邦雄主任弁護士)、採用差別横浜人活訴訟弁護団(岡田尚主任弁護士)、鉄道運輸機構訴訟弁護団(萱野一樹主任弁護士)がそれぞれの裁判の状況について報告を行った。
当事者を代表して鉄道運輸機構訴訟原告団の川端一男代表が、国交省・鉄運機構本社を攻める二月行動、裁判所を攻める三月行動を大きく展開して勝利判決を勝ち取ろうと決意を表明し、参加者の拍手で集会アピール(別掲)を確認した。
最後は、高橋伸二国労本部委員長が、悔いの残らない闘いに全力をあげようと述べ、「団結ガンバロー」で集会を終えた。
怒りの二・一五中央集会アピール
本日、中野ゼロホールで「首切り通告から二一年―怒りの二・一五中央集会」を開催し、改めて全面解決を勝ち取る決意を固め合い、集会は大きく成功しました。
明日の二月一六日は、被解雇者にとって紙切れ一枚で「JR不採用」を一方的に通告された、生涯、忘れることのできない屈辱の日です。あれから早期解決をめざしたJR採用差別事件(一〇四七名問題)の闘いは、二一年という時が経過することになり、本年一月二三日の全動労訴訟判決が言渡されたこの日にも、北海道・紋別闘争団の須藤俊春さん(五五才)が他界し、被解雇者総体では、実に四七名にのぼる仲間が、解決を見ることなく無念の生涯を閉じる事態となっています。
この間、政府・鉄道運輸機構は、「まとまらなければ解決を図ることは難しい」等と被解雇者や当該労組・支援組織に責任転嫁してきましたが、最早その言い逃れは通用しません。とりわけ昨年開催した「一一
・ 三〇全国大集会」成功に象徴されるように、「四者・四団体」のより確かな運動実態を構築し、解決の枠組みを社会的にアピールしてきたところです。
また、国際労働機関(ILO)は、一九九九年一一月の中間勧告以来、解雇された労働者の公正な補償を求め、政府と関係当事者の努力を求めてきました。さらに、二〇〇六年一一月の第七次勧告では、政府に対し、解決に向けたILOからの「具体的援助」の受け入れも求めています。
一方、司法判断としては、二〇〇五年九月一五日の鉄建公団訴訟判決に続く裁判として、その判決が注目されていた全動労訴訟で、本年一月二三日、請求内容からいって問題はあるものの、いずれも時効問題をクリアし、旧国鉄(現・鉄道運輸機構)の不法行為を認定し、慰謝料等の支払いを命ずる判決が示されました。
本年三月一三日の鉄道運輸機構訴訟判決についても予断は許しませんが、司法の場における「不法行為の認定」は、揺るがしがたい大きな流れになろうとしています。
国内世論の高まりについても象徴的なものとして、全国の地方議会で多くの意見書が採択されており、その数は、本年一月現在、七五一地方議会・一一二五本(延べ)に上ります。
これらの全体情勢と闘いの到達点を踏まえ、「四者・四団体」は、改めて去る二月五日、国交省・鉄道局、鉄道運輸機構に対し、解決意思と交渉テーブルの設置を求める申入れを行ってきました。しかし、曖昧な答弁に終始し未だに解決のためのテーブルに着こうとはしていません。ただこれまでと違い、「九・一五」判決と「一・二三」判決、解決をめざす「四者・四団体」の強固な団結により、間違いなく解決の決断に向かって政府・鉄道運輸機構を追い込んでいると、その態度全体から感じ取ることができます。文字通り、「追い込みきれるかどうかの重要な局面に立っている」と言って過言ではありません。
ここで一気にJR採用差別事件の解決を政府・鉄道運輸機構に決断させるため、この二月、三月を最重要闘争ゾーンと位置づけ、「四者・四団体」は、持てる力を振り絞って闘い抜きます。全国の仲間の一層のご支援を心から訴えます。
二〇〇八年二月一五日
首切り通告から二一年―怒りの二・一五中央集会
鉄建公団訴訟でJR東海会長葛西の証人尋問決定
東京高裁での鉄建公団訴訟第七期日(二月一五日)の弁論の中で、原告側より強い要請で、ついに葛西敬之JR東海会長の証人尋問が決定した。
葛西は、国鉄の分割・民営化のときに松田昌士(元JR東日本会長、取締役相談役に就任)、井手正敬(元JR西日本役会長、JR福知山線脱線事故の責任を取らされ相談役退任)とともに「国鉄改革三人組」と呼ばれ、一〇四七名問題の元凶の一人である。葛西は安倍晋三の参謀を自称し、教育再生、集団的自衛権、年金等の安倍内閣の重要政策を推進する会議などに次々とメンバー入りし、現在も国家公安委員である。そして露骨な改憲反動派である。安倍内閣の「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」は、集団的自衛権行使の容認機関として設置されたが、その十三人のメンバーのうちの一人にもなった。葛西は、
日本経済調査協議会に葛西委員会を設置した。そこで二〇〇四年七月二九日に、葛西委員会提言「憲法問題を解く」を出している。それは、「憲法改正以前に緊急措置としてできることはすべてやるという姿勢」が必要だとして、首相の「リーダーシップ」を求めるというものだった。
葛西を証人席に引き出したことは、分割・民営化の実相をあばき、それがいかにペテン的な手法によるものであったか、そして労働者の解雇が不当なものであったことを立証し、国鉄闘争の勝利をかちとるおおきなステップとなることは疑いない。
九条の会講演会
小田実さんの志を受けついで
三月八日、C・Cレモンホール(旧渋谷公会堂)で「九条の会講演会〜小田実さんの志を受けついで」がひらかれ二千三百人が参加した。これは「九条の会」呼びかけ人で、昨年七月に亡くなった小田実さんの志を受けつぎ、ひきつづき憲法九条を守り、生かしていくという主旨で開催されたもので、前売り券は早々と完売となり、当日の会場前にはのキャンセル待ちの人の長い列ができた。
講演会では、「九条の会」呼びかけ人八人のからの発言があった。
はじめに呼びかけ人で哲学者の梅原猛さんのメッセージが紹介された。梅原さんは、戦後一貫して平和憲法を守れという態度をとってきたが、それは平和憲法、特に九条には人類の未来の理想が含まれているからだ、としている。
つづいて作家の大江健三郎さんは、小田さんの作品を題材にして、小説家・運動家としての小田さんについて語った。
哲学者の鶴見俊輔さんは、小田さんはその哲学書を読んだことはないだろうがスコットランドの常識哲学などに非常によく似ているなど、小田さんの考え方について述べた。
評論家の加藤周一さんは、憲法を変えさせないということが小田さんの遺志を受け継ぐということだと述べた。
三木武夫記念館館長の三木睦子さんは、九条がこれまでの歴史に果たしてきた役割を強調し、それを変えようとするのは日本の社会を壊わすものだと述べた。
劇作家の井上ひさしさんは、日本の憲法の精神を世界に広めることが重要だと述べた。
憲法研究者の奥平康弘さんは、人びとの生活や社会にとっての憲法の役割が大切なものであると強調した。
作家の澤地久枝さんは、「九条の会」が改憲派からも注目されるようになってきているが、もっと会をひろげて本当に改憲を許さない力をつくろうとよびかけた。
小田さんの妻の玄順恵(ヒョンスンヒェ)さんは、平等、戦争と平和、彼の中にはこの三つの柱があったとし、また九条の会のみなさんの熱い支援に感謝すると述べた。
最後に、呼びかけ人会議の確認として、今後も会のポスターから小田さんの氏名・写真を消さないこと、また憲法セミナーを開催することなどが報告され大きな拍手がおこった。
映 評
「母べえ」
原作 野上照代 監督・脚本 山田洋次
主演 母べえ(野上佳代)……吉永小百合
父べえ(野上滋) ……坂東三津五郎
山崎徹 ……浅野忠信
叔父(藤田仙吉) ……笑福亭鶴瓶
2007年132分
この映画の原作は黒澤明作品のスクリプター(記録係)を長く勤めてきた野上照代が自らの体験を基にして戦争中の家族の生きざまを書き綴った「母べえ」。
「武士の一分」などの時代劇をたて続けに撮った山田監督が久しぶりにとりくんだ現代劇である。吉永小百合の出演映画としては一二〇作品目になるそうだ。
時代設定は戦争への足音が高まってきた昭和一五(一九四〇)年ごろの東京。貧しいながらもそれなりにつましく生きている家族に突然に不幸が訪れた。ドイツ文学者である父べえが治安維持法により拘束されてしまったのだ。糊口をしのぐため母べえは国民学校(小学校)の代用教員として家族をささえる。取りしらべの検事から転向上申書を書くように強要され、最初は頑強に抵抗するが家族のために書くことになるが、ささいな言葉づかいの違いを指摘されてはねつけられてしまう。
父べえの教え子の山崎は残された家族のめんどうを苦労をいとわずこなし、母べえの相談相手、子どもたちの学習の教師役になったりする。
この映画は苛酷な時代の風景をよく写し出していて良くできた映画である。言いたいことも自由に言いえない時代の様相は実際に体験していない私の胸をうった。
印象的な登場人物をあげてみよう。
もっとも印象的なのは父べえが逮捕されたと聞き及んでまっさきに残された家族のもとにかけつけ、困っている家族の面倒を全面的にかってでる山崎を演じている浅野忠信だ。自身は強度の弱視のため軍隊にとられなかったのだが、野上家にやってきた当初はなにから手をつけていいかわからずおどおどした様子が実に面白い。近視のため玄関の鴨居に頭を強くうちつけたり、畳のヘリを指にひっかけてつまずいたりするドジぶりは重く沈んだ内容になりがちな画面に笑いをさそい、なごませる効果を出している。そしてその飾らない人柄で逆に家族の信頼を得ていくのだ。海水浴にいけば溺れかけ、泳ぎの得意な母べえに助けられたりもする。父べえを尊敬するがゆえに家族につくすのだが、そういえば最近はこういったほほえましい師弟愛もあまり目にしない。この俳優は近ごろとみに演技力を身につけ「モンゴル」などの演技で米アカデミー賞受賞もうわさされたほどだった。病弱の彼も日本の敗北が濃厚になっていく局面で入隊させられ海戦で戦死してしまう。映画のラストシーン近くで軍隊で彼と行動をともにした男が家族にメッセージを伝えてくる場面では戦争の不条理さに心を動かされる。
二人目の印象的な役まわりは叔父の仙吉役の鶴瓶だ。世の中が一つの流れに向かい、街頭で贅沢品撲滅運動のキャンペーンが行われているシーンで仙吉は宣伝の中心になっている婦人会の連中に悪態をつく。反戦思想家ではさりとてなく、少し下品な街のおっちゃんなのだが、戦争中にももしかしたら金儲けのことしか頭にな彼のような人物も存在したのかもしれない。逆に言えば、彼のような存在はいかに権力を持った特高ですら取り締まれなかったのではないかと思えてくる。最近バラエティ番組に数多く出演しているこの落語家はなぜか演技がうまいのである。
三人目の人物は野上家の子どものうちの妹。母べえといっしょに父べえの恩師に父親の釈放の力になってもらえるように訪ねるシーンで、功なり名とげたその学者は「私の立場も考えてください」と体制側の立場にたち、たいへん歯ぎれが悪い。まぁ一般の学者とはそんなものだろう。憤然と席をたとうとする母べえのそでを引っ張って、テーブルに出されていたカステラがほしいという妹。また母べえの父の元警察署長に料亭に招待された時は、父と別れなければ親子の縁を切るといわれ、またも同じように席を離れようとするのだが、子どもは指をくわえて食べたそうにする。このシーンはとにかくおもしろい。子どもが食い意地がはっているのはあたりまえのことだし、戦時中の物資不足の状態では特にそう感じるのだろう。
三人あげた登場人物の場面設定、時代状況をふまえて山田監督はあの時代をまさに観客に提示しようとしたのではないだろうか。そういったところがこの演出家のうまいところで声高に叫ばなくても観客の心の中までメッセージを染みわたらせてくれるのだ。
主演の吉永小百合についてふれておこう。実は私は吉永小百合が主演・出演した映画のそれほど熱心な観察者ではなかった。
いまでも最初の出演作の「キューポラのある街」(一九六二 監督・浦山桐郎)がもっともすぐれた作品ではないかと思っている。
この作品では感情をおさえた演技で、家族を支え、夫の健康を気づかい、じっとたえ、しかし言わなければいけない場面では決然と自分の意見を言う、芯の強い母親としての演技でいい味を出している。残念なことに父べえはほとんど獄中にいるためか、出演場面が少なく存在感はかなり薄い。歌舞伎役者の坂東がインテリ学者を演じるのは少し違うのではないかという思いもなくはない。
この作品をたずさえて山田監督はベルリン映画祭におもむいた。そのときマスメディアは賞を取るのは確実だと騒ぎ立てた。私はそんなわけはないと思っていたが、結果はご存知の通り。
再び言うがこの映画はかなり良くできた作品だと思う。しかしそれだけでは伝統ある国際映画祭で賞をもらうことはできない。今村昌平、黒沢明と山田洋次とではどこが違うのか。私は突出力の問題だと思う。私は山田洋次は国際的な賞を目差す必要はないと思う。なぜなら彼は日本映画界のなかにあって今でも輝いた存在なのだから。
映画館では圧倒的な人数のあの戦争を体験した観客を見た。他の映画の観客とはあきらかに違っていた。やはり自らの生きたつらい時代をこの映画を通して再確認しようと映画館に足を運んだのではないかと想像する。(敬称略)
東幸成
せ ん り ゅ う
納税後貧乏から貧困へ
ぼくは貧キーですと笑ってる
金もちの生活重視を首相たち
偽装偽装億々太る取締
札束に負けた岩国市長選
九条で世界の顔をつくりたい
ゝ 史
複眼単眼
中曽根元首相が超右派勢力の復活めざす改憲議員同盟
三月四日、新憲法制定議員同盟(会長・中曽根康弘・元首相)=通称・改憲議員同盟の総会が開かれ、民主党の鳩山幹事長が議員同盟の顧問に就任するなど、民主党幹部が加入したことが注目を集めている。読売新聞は五日付社説で「内外の変化が激しさを増し、憲法と現実の乖離がますます進んでいる。民主党内でも、新たな時代の指針となる新憲法制定に正面から取り組まねばならない、との認識が強まっているのだろう」と評価した。
この議員同盟は岸信介元首相らの極右派=復古主義的改憲派が、一九五五年に立ち上げた「自主憲法期成議員同盟」を源流としたもので、近年は一部ウルトラ右派のたまり場になっていた。それを二〇〇七年三月に改組し、中曽根康弘氏が会長について活動を活発化させたものだ。当時、自民党が新憲法草案を発表し、安倍前首相が「自分の任期中に改憲する」などと豪語したことに触発され、これを推進するための中曽根ら自民党内の札付きの改憲派の拠点となった。
改憲派の国会議員組織には、これとは別に中山太郎氏が会長をつとめる「憲法調査推進議員連盟」があり、憲法調査会の議論や、改憲手続き法の制定の動きをリードしてきたが、中山らが長年追求してきた自公民協調による改憲という路線を安倍首相が暴走して破壊したことから、改憲派内に矛盾が生じていた。それは自民党の憲法審議会役員構成を巡って、当時の中川昭一・政調会長と、船田元・憲法審議会会長代理の間で確執が生じたことなどに見られたことである。
この中山太郎は今回、改憲議員同盟の会長代理に就任している。
鳩山民主党幹事長がこうしたウルトラ右派の議員同盟に加わったこと、この人物の、何とも無責任で、野党幹事長としての政治感覚の悪さを象徴しているが、実は中曽根が鳩山に直接電話をして頼み込み、それを断れなかったということのようである。ここに中曽根のこの議員同盟に寄せる執念が見える。中曽根は安倍の退陣で失った改憲の勢いを回復するため、この組織を使おうとして、右派改憲派グループの持っている弱点=国家主義的右翼イデオロギーが強烈すぎることをある程度自覚し、鳩山を引き入れることでそのかたくななイデオロギー色を弱め、支持を広げる必要に迫られたのであろう。
安倍内閣崩壊の後、そのショックから立ち直ろうとするウルトラ改憲派のこの動きは危険である。とくにこの連中が「九条の会」を目の敵にして、対抗し、草の根から改憲の流れを再構築しようとしている(愛知和男の口頭による運動方針提起)ことは見逃せない。最近の右派の各自治体での動きなどとあわせて、こうした右派改憲勢
力が明文改憲と自衛隊海外派兵恒久法制定などをめざして、草の根右翼の流れを作り出そうとしていることについては要・警戒である。
ちなみに、この改憲議員同盟の役員名簿で、筆者が注目したのは以下の面々である。
顧問:鳩山由紀夫(衆・民、新任)、伊吹文明(衆・自、新任)、亀井静香(衆・国、新任)、安倍晋三(衆・自、新任)、谷垣禎一(衆・自、新任)。副会長:前原誠司(衆・民、新任)、渡部英央(参・民、新任)などなど。 (T)