人民新報 ・ 第1246号<統合339号(2008年10月15日)
  
                  目次

● インド洋派兵給油新法延長阻止!   麻生政権打倒へ 自民党政治を完全に終わらせよう

● 米ロス郡地裁で三浦被告有罪   共謀罪成立の動きを許すな

● 原子力空母横須賀母港化反対

● 労働者派遣法の抜本的改正を実現しよう

● 9・30JCO臨界ヒバク事故9周年東京圏行動   日本の原子力開発の実力は低い(小出裕章さんが講演)

● 辺野古の新基地建設NO   沖縄県議会の決議実現へ

● 二つの労働契約法   日本と中国の労働法の比較

● 複眼単眼  /  好戦的国家主義者・麻生太郎の復活と米国紙




インド洋派兵給油新法延長阻止!

  
麻生政権打倒へ 自民党政治を完全に終わらせよう

  新首相になった麻生太郎は、自民党総裁選の「熱気」と新内閣発足時の支持率の「ご祝儀相場」を背景に早期の衆院解散・総選挙に打って出て、自民・公明与党の過半数確保で、自民党政治の継続をもくろんでいた。
 だが、そのはかない希望はまったくの水泡に帰した。総裁選は見え見えのやらせ「五人囃子」となり、支持率も麻生政権スタート時から五割を切り、その後も急速に低下している。内閣の顔ぶれでは、麻生内閣誕生に汗を流した論功行賞・取り巻き、それも世襲議員が居並んだ。麻生自身が庶民の想像を絶するお金持ちであるが、同類の甘やかされて育ったお坊ちゃまたちが、いま政治の中枢にいる。かれらには、国際的も国内的もかつてない激動・転換となっている情勢への対応を誤らざるを得ない役回りが与えられてしまっているようだ。たちまちに中山成彬国土交通相は自らの信念にもとづく暴言・妄言で辞任に追い込まれ、自民党の危機を拡大させている。
 麻生自身が、九月二九日の所信表明演説で、「わたくし麻生太郎、この度、国権の最高機関による指名、かしこくも、御名御璽(ぎょめいぎょじ)をいただき、第九二代内閣総理大臣に就任いたしました」と天皇主義丸出しで、戦犯・東条英機などの政権を継承し過去の侵略の歴史に反省の色さえみせない極右振りをアピールして政権を発足させたのであり、アジア諸国民衆から極右政権登場と指弾されたのは当然のことだった。麻生は、もともと失言歴が多いが、それも差別発言をふくめてきわめてたちの悪いものばかりである。そのため、国会では官僚から渡されたペーパーを棒読みして答弁しているが、いずれ、中山以上の反動的差別的な失言・妄言が飛び出してくるのは確実である。

 この間、麻生は、いま総選挙をやれば、与党敗北必至という自民党作成の秘密データを見て驚愕し、早期解散に踏み切れず、ずるずると政権を維持していこうとしている。与党の人気のなさは、小泉・安倍とつづいた新自由主義・規制緩和による格差拡大・貧困問題の深刻化に基礎がある。小泉は、「自民党をぶっこわす」と叫んで、高い支持を得た。なぜ支持率が高まったかといえば、当時も、自民党政治に対する批判が強かったからであり、小泉はそれを逆手にとっての「劇場政治」のパフォーマンスを演じたのだった。小泉政治は、地方の疲弊を生み出し、地方の自民党組織の機能不全をもたらした。かつて自民党の強大な集票マシーンだった特定郵便局長たちは郵政民営化によって反自民党の強力な支持母体に転じた。いつくかの医師会も自民党との関係は悪化している。建設業界その他でも同じような動きが見える。小泉はもっとはやくに壊れるはずだった自民党を延命させたが、より徹底的にその支持基盤を弱体化させることによって、小泉はたしかに自民党を「ぶっ壊した」のである。
 麻生は、解散を遅らせたとしても、かれが期待するような「大逆転のチャンス」は来そうにもない。反対に、自民党政権にとっては頭の痛い問題が次々に発生している。アメリカの金融資本が自ら招いた危機は全世界に波及している。金融救済のために巨額の税金をつぎ込むアメリカ国家は、膨らむ一方の軍事費とあいまって、絶望的な財政赤字を背負い込むことになった。今後、アメリカ経済の急激な減速は避けられない。一一月四日の米大統領選でも、ブッシュの後継者であるマケインの旗色は日増しに悪くなってきている。民主党のオバマが勝利すれば、自民党にとっても大きな痛手になるだろう。

 麻生内閣は、財界とアメリカの意思を実行するための政権である。財界は、多国籍化した大企業の利益のために新自由主義政策の続行を求め、ブッシュ政権は金融破たんへの支援とアフガニスタン・イラクなどの対テロ戦争へのいっそうの加担の要求を強めている。
 一〇月八日、衆院本会議で政府提出の補正予算案がたった三日の論議だけで採決された。これには、共産党と社民党は反対したが、自民、公明、民主、国民新の各党の賛成で可決、参院に送くられた。補正予算を通した後の麻生の最大の課題は、新テロ対策特別措置法(インド洋派兵給油新法)である。
 補正予算案の衆院通過の八日の衆院議院運営委員会理事会は、派兵給油新法については本会議での質疑を省略し、テロ特別委員会で直接、審議することを決めた。
 アフガニスタン戦争は泥沼化し、アメリカ軍はアフガンやパキスタン民衆までも無差別に攻撃するまでになっており、市民と兵士の死傷者は激増している。にもかかわらず麻生は、延長法案を強行可決し、参議院の反対を見越して、またもや衆議院で三分の二の多数議席を使った再可決をもくろんでいるのである。

 国会では、アフガニスタンやイラクの情勢、そしてそれらの国の人びとがアメリカとともに戦争を遂行し、銃を向けてくる日本をどう考えるようになってきているのかについてをふくめて慎重に論議すべきである。日本は平和な国であり、二回もアメリカの原爆の被害を受け、被侵略国の気持ちがわかると思ってきたかれらの心情を日本政府は裏切っているのである。いまこそアメリカの侵略・不正義の戦争からきっぱりと手を引かなければならないのである。
 そして麻生内閣はこのような重大法案を強行する前に、総選挙を実行し民意を問うべきである。小泉の構造改革路線と日米軍事一体化路線はワンセットのものである。小泉の五年は日本の民衆の生活を破壊した。それ以上の規模でブッシュの八年間は世界中をめちゃくちゃにしたのである。麻生は依然としてその道を突き進もうとしているが、それは日本社会をいっそう荒廃させ、その害悪を他国にもおよぼすものにほかならない。
 
 麻生の祖父の吉田茂は、日米同盟の基軸を据えた。安倍の祖父の岸信介は吉田路線と対立しながらもともに日米同盟を推進しいてきた。その安倍は無様にも逃亡し、続いて、岸路線の後継者であった福田赳夫の息子の康夫も政権を放り出した。吉田の孫には、日米同盟路線の破綻と幕引きの役を与えよう。

 インド洋派兵給油新法粉砕!

 自民党政治を完全に終わらせよう!


米ロス郡地裁で三浦被告有罪

      
共謀罪成立の動きを許すな

 九月三〇日、衆議院議員会館で、共謀罪に反対する市民と議員の院内集会(共謀罪法案反対NGO・NPO共同アピールと共謀罪に反対するネットワークの共催)が開かれた。
 集会直前(アメリカ西部時間九月二六日・日本時間二七日)には八一年のロス銃撃事件で逮捕され、サイパンで拘置中の三浦和義容疑者の逮捕状取り消し請求で、ロサンゼルス郡地裁は逮捕状の共謀容疑について有効と決定した。殺人容疑は日本では無罪が確定し、一事不再理の原則で無効とされたが、共謀容疑は有効だとされたのである。ロス郡地裁は、カリフォルニア州刑法の「共謀罪」は、日本の「共同正犯」とは違うとして「共謀罪は日本で裁かれていない」と判断したのである。
 
 院内集会では、民主党の今野東参議院議員のあいさつにつづいて、青山学院大学の新倉修教授が三浦事件と共謀罪について報告。
 三浦被告は殺人と殺人の共謀の容疑で逮捕された。しかし殺人罪については日本の裁判所での無罪の判決があり、「二重の危険」(=一事不再理)となる。しかし、カルフォルニア州刑法では二〇〇五年に、国際的な二重の危険を削除する改正がおこなわれた。これは三浦事件には遡及できない。だから、検察側は共謀罪に的を絞ってきた。こうすれば国際的な二重の危険にならないとしたのである。すなわち共謀罪は、共謀の目的となった犯罪(殺人罪)とは別個の犯罪であり、独立して起訴・処罰することができるとした。それを裁判所が認めたのである。なお、アメリカでは、共謀の目的となった犯罪とそのための共謀は同じ罪だとされるのであり、共謀罪が成立すれば、殺人罪と同じ刑罰となる。
 山下幸夫弁護士は、三浦事件と共謀罪成立に向けての動きについて発言。
 アメリカの共謀罪は非常に重いし、一定の犯罪には時効もない。ロス市警は、三浦事件が無罪になったことになんとかリベンジしたいと執念をもやしている。ロス郡地裁は、日本では共謀罪がないということで、その点ではまだ無罪になっていないと判断した。日本の法務省は、裏では資料を提供して頻繁に接触しているはずだが、この「日本には共謀罪がない」という報道を「これは使える」と思い、共謀罪制定の動きをいっそう強めてくるだろうことは間違いない。


原子力空母横須賀母港化反対

米世界戦争戦略の要

 九月二十五日、原子力空母「ジョージ・ワシントン」が横須賀に入港した。この全長三三三メートル、全幅七六・八メートルという巨大な艦船は、ウェスティングハウス製の原子炉二基を搭載している。今後一年の半分は横須賀基地に停泊することになるといわれ、横須賀をはじめ首都圏の人びとは常時核爆発の被害におびえることになってしまった。

 米空母の配備をしているのは日本だけである。これは日本をいっそう米軍の戦略配置に組み込むためのものであり、世界的な米軍再編の中で横須賀を母港化し、日本を出撃拠点とする前線戦闘能力を高めるものである。核空母は、これまでに比べて、二倍の戦闘活動時間を維持でき、世界中のいたるところに出撃して攻撃をかけることができると米軍は期待している。この空母の艦載機は、すでにアフガニスタンやイラクでの攻撃に参加してきており、横須賀母港化はこうした機能をいっそう拡大させるためのものである。

浮かぶ原発の危険性

 「原子力空母の横須賀母港問題を考える市民の会」のQ&Aは「原子力空母は原子炉を積んだ航空母艦で、陸上の原発よりはるかに危険なものです」として、以下のように書いている。
 「原子力空母とは、原子炉を積み、その核分裂反応による熱で作った水蒸気でタービンを回して運航する航空母艦です。米海軍のニミッツ級原子力空母の出力は、発電炉にすると約三〇万キロワットで、福井美浜原発の原子炉に相当する規模だといいます。米海軍の艦船原子炉は陸上に設置された原発と比較して、狭い船体内で炉心設計に余裕が少ない、放射能防護のための格納容器が存在しない、船の上で絶えず振動衝撃にさらされる、海難事故による原子炉の破損の可能性、軍事活動のため無理な出力調整を強いられる、原子炉と高性能火薬との同居、交戦による炉の破壊の可能性、高濃縮ウランの使用等の危険性を増大させる要素のため事故の危険性がはるかに高いと指摘されています」。

当日の抗議・反対行動

 九月二五日には、早朝から横須賀現地での行動が展開された。海上行動では、海上保安庁などの妨害をはねのけて抗議行動を貫徹し、うみかぜ公園では抗議集会が開かれ、入港しようとするジョージ・ワシントンにむかって抗議の声あげた。

 午後六時半からは、横須賀ヴェルニー公園で、四八〇〇人が参加して「原子力空母ジョージ・ワシントン入港阻止全国集会」(主催・原子力空母横須賀母港化を許さない全国連絡会、神奈川平和運動センター、三浦半島地区労働組合協議会)がひらかれた。
 主催団体を代表して、福山真劫・平和フォーラム事務局長があいさつ。危険な原子炉が東京湾に浮かんでいる。この米空母はつい最近にも火災事故を起こしており、また空母の原子炉は軍事機密のベールに包まれていて、日米政府の言う安全性にははなはだ疑問だ。戦争のための配備であり平和に真っ向から対立するものだ。最後まで闘い抜こう。
 つづいて宇野峰雪・神奈川平和運動センター代表。横須賀住民投票条例制定を求める署名は五万を超え、市議会も全会一致で安全性の確立を求める意見書を採択した。横須賀市長は、安全性についてアメリカに正すべきであり、市長は安全性が確認されないなら寄港・配備を認めない態度を明らかにすべきだ。
 国会情勢の報告は、那谷屋正義さん(民主党・参議院議員)と福島みずほさん(社民党党首・参議院議員)が行い、早朝からの抗議行動の報告は、神奈川平和運動センター事務局長の加藤泉さんが行い、参加団体からの発言がつづいた。
集会アピール(別掲)を確認してデモに出発。米軍基地ゲート前では、シュプレヒコールをあげ、横須賀の人びとにアピールした。

原子力空母の横須賀母港化阻止全国集会アピール

 横須賀市民の、そして全国からの「原子力空母横須賀母港化を許さない」の声を全く無視し、本日午前、米海軍原子力空母ジョージ・ワシントンが横須賀港への入港を強行しました。私たちは、米軍基地機能の強化につながり、東北アジアの平和にとって大きな驚異となる、そしていったん原子炉において事故が起きれば、首都圏住民の大きな被害が予想される、「原子力空母の横須賀母港化」に強く反対します。

 米海軍横須賀基地は、アメリカ国内をのぞいて世界で唯一の原子力空母の母港となろうとしています。そして、西アジアから東アジア全体に展開する、米海軍機動部隊の中枢基地としての機能を強化しています。米国は、その圧倒的な軍事力を持って米国主導の世界秩序を打ち立てようとしていますが、イラクやアフガンで泥沼の戦闘状態をつくり出し、多くの市民の命を奪っています。
 私たちは、「武力で平和はつくれない」を合い言葉に、平和への取り組みをすすめてきました。戦いの連鎖を裁ち切り、東北アジアに平和をつくるためにも、私たちは原子力空母ジョージ・ワシントンの横須賀母港化を許すことはできません。

 横須賀市民は、「原子力空母の是非を問え」と二度にわたって住民投票条例の制定を求めました。原子炉を動力とする空母の安全性に関して、市民は大きな疑問を抱いています。
 しかし、横須賀市も政府も、市民の声を無視し何の説明もしないまま原子力空母の歓迎の姿勢を明らかにしています。ジョージ・ワシントンの火災事故や原潜ヒューストンの放射能漏れ事故も、事故の細部にはふれず、大事故につながる危険性などには全く言及していません。横須賀市も政府も、ただ米国側の「原子炉には影響がない、漏れた放射性物質の量は極く微量」などの発表を鵜呑みにするだけです。住民の生命を守るとする責任を放棄する姿勢は許すことができません。

 今日、ここに参加した私たちは、全国の平和を求める心を紡ぎ合い、全力を尽くして、原子力空母の母港化の撤回を勝ち取り、平和に向かう大きなうねりをつくりだそうではありませんか。
 憲法九条の平和の理念を高く掲げて、決してあきらめずに、ねばり強く最後まで闘い抜くことを誓ってアピールとします。 

二〇〇八年九月二五日


労働者派遣法の抜本的改正を実現しよう

欺瞞的な部会報告

 九月二四日、厚生労働省で労働政策審議会の労働力需給制度部会が開かれ、労働者派遣法改正についての報告が確認され答申された。
 労働者派遣制度が、労働者を間接雇用し、使用者責任をあいまいにするなど、雇用と労働条件の劣悪化をもたらすものだということは広く知られるようになった。衆院解散・総選挙が迫る状況で、このまま放置すれば若者をはじめ野党への投票が増え政権から追い落とされるという不安の中で政府・与党は、なんとか労働者派遣問題を解決につとめているというポーズをつくらなければという苦境に追い込まれている。だが、雇用の分野でもいっそうの規制緩和を求める財界の圧力が弱まっているわけではない。
 そもそも、派遣法改正論議は、派遣で働く人々が急増し、ワーキングプアが広がり、劣悪な労働条件の中、低賃金で不安定な働き方を強いるというこの仕組みをどう改めるかが課題だったはずである。

 だが今回の報告は、たとえば毎日新聞の一〇月六日の社説「派遣法改正案 労働者保護には不十分だ」が言うように「問題の根本解決につながらず、派遣労働者を守るための制度改正にはまだまだ不十分な内容だ。それどころか、さらに規制緩和が進み、労働者が不利になる要素も盛り込まれた。労働者保護を前面に掲げ、初めて規制強化にかじを切る鳴り物入りのはずの改正案は、派遣労働者の期待を大きく裏切ったといえる」「派遣法の見直しが形を整えただけのまやかしの改正とならぬよう、政治の場で抜本的な議論を望みたい」とするようなものだった。まさに「偽装改正」とも言うべきものであったのである。

これで「改正」か

 報告の主な内容は、日雇い派遣を原則禁止とした上で、派遣の規制対象は、「三〇日以内」とし、「日雇い派遣が常態であり、労働者の保護に問題ない」業務を、政令で定める二六業務の中から、例外的にポジティブリスト化した一八業務を認めることなどであった。
 報告を取りまとめについて労働側は、@行政の指導監督が不十分だったことにも触れるべきであり、A日雇い派遣の規制対象は、「三〇日以内」ではなく「二か月以内」とすべきなどの意見を出していた。

 一〇月二日の衆院本会議の代表質問で麻生太郎首相は、共産党の志位和夫委員長や社民党の重野安正幹事長への答弁で、「日雇い派遣など不安定な就労や長時間労働に歯止めをかけ、労働者が働きやすい環境を整備していくのが重要だ」と述べた。だが、報告に基づいて政府は臨時国会への改正案提出を目指すとしているが、解散・総選挙の日程もあり、今のところ提出のめどは立っていない。

 派遣労働をはじめ不正規労働による搾取強化・労働者の使い捨てを許さず、派遣法の抜本的な改正にための闘いを強めていかなければならない。

広がる抜本改正論

 ワーキングプアなど労働問題の解決が差し迫ったものとなってきているが、こうした声はかつてない大きな広がりを見せている。労働団体はもとより、市民団体などからも緊急の対策・解決を求める動きがはじまっている。
 日本弁護士連合会は、毎年、人権擁護大会を開いているが、今年、富山でひらかれた大会では、「労働と貧困〜拡大するワーキングプア―人間らしく働き生活する権利の確立を目指して―」など三つの分科会を設定し、その上で一〇月三日には、「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人が人間らしく働き生活する権利の確立を求める決議」を発表し、国などへの要求をしている。
 「(前略)国は、非正規雇用の増大に歯止めをかけワーキングプアを解消するために、正規雇用が原則であり、有期雇用を含む非正規雇用は合理的理由がある例外的場合に限定されるべきであるとの観点に立って、労働法制と労働政策を抜本的に見直すべきである。特に、労働者派遣については、日雇派遣の禁止と派遣料金のマージン率に上限規制を設けることが不可欠であり、派遣対象業務を専門的業務に限定することや登録型派遣の廃止を含む労働者派遣法制の抜本的改正を行うべきである。
 国は、同一または同等の労働であるにもかかわらず雇用形態の違いによって、賃金等の労働条件に差異が生じないよう、労働契約法を改正して、すべての労働契約における労働条件の均等待遇を立法化し実効的な措置をとるべきである。
国は、すべての人が人間らしい生活を営むことのできる水準に、最低賃金を大幅に引き上げるよう施策を講ずるべきである。
国は、偽装請負、残業代未払いなどの違法行為の根絶を図るため、これらを摘発し監督する体制を強化し、使用者に現行労働法規を遵守させるための実効ある措置をとるべきである。
 国及び地方自治体は、社会保障費の抑制方針を改め、ワーキングプア等が社会保険や生活保護の利用から排除されないように、社会保障制度の抜本的改善を図るとともに、利用しやすく効果の高い職業教育・職業訓練制度を確立させるべきである。
使用者は、労働関連諸法規を遵守するとともに、雇用するすべての労働者が人間らしく働き生活できるよう、雇用のあり方を見直し社会的責任を果たすべきである。
当連合会は、貧困の拡大に歯止めをかけるためには、労働問題と生活保護等の生活問題に対する一体的取り組みが不可欠であるとの認識に立ち、非正規労働者を始めとするすべての人が、人間らしく働き生活する権利を享受できるようにするため全力を尽くす決意である」。


9・30JCO臨界ヒバク事故9周年東京圏行動

  日本の原子力開発の実力は低い(小出裕章さんが講演)


 九月三〇日、臨界ヒバク事故九周年東京圏行動が展開された。

 午前中の経産省・原子力安全・保安院前で追悼と抗議のあと、文京区民センターで東京圏集会が開かれた。

 集会では、実行委員会からこれまで八年間の取り組みの報告と今後の方針が提起された。
 今後の焦点・展望としては以下の点が上げられた。
 イ、地震国日本には原発適地などない。老朽化原発の一刻も早い停止を求める。
 ロ、新たな核脅威を許さない(@東京湾に原子炉が常駐=原子力空母の横須賀母港化反対、Aもんじゅ運転再開=核拡散や日本核武装につながるもんじゅ運転再開を許さない、B六ヵ所再処理工場=試運転でもトラブル続き、日本の農業、漁業を守ろう、Cプルサーマル計画=各地で進められる計画に反対、D核のゴミ捨て場問題=「トイレのないマンション」原発安楽死へ、E大間原発や上関原発など新規の原発建設を許さない
 ハ、東京高裁で行われる原発裁判(大泉裁判、もんじゅ西村裁判、浜岡原発差し止め裁判)に取り組む。サクラ調査等々に取り組む。

 講演は 京都大学原子炉実験所の小出裕章さんが「日本の原子力開発とJCO事故」と題して行った。
 日本の原子力開発の実力は高いものではない。遅れて原子力に参入した日本は、一九六六年に東海一号炉を運転させたが自分で作ったものではない。その後の原子炉もいずれも輸入したものだ。今日でも炉心の中心部など核心技術はいまだに自立したものではない。 しかし、ソ連のチェルノブイリ原発で事故が起こったときにも、日本の原子力発電所はいついかなるときでも安全だといい続けてきた。
 だが、日本でも信じられないような事故が続いてきた。九五年の高速増殖炉「もんじゅ」、九七年の東海再処理工場のアスファルト固化工場、そしてついにJCOの事故だ。
 国内ではともかく、海外では「やはり日本だからおきた事故」といわれている。

 JCO健康被害補償裁判原告の大泉昭一さんと事故後PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ大泉恵子さんからは、苦しみは受けたものでなければわからない、相手が国であろうと大企業であろうというべきことは言っていかなければならない、最後まで闘うとの決意が表明された。

 柏崎・巻原発に反対する在京者の会の伊藤久雄さんは、原発に依存しないまちづくりにむけてのとりくみについて発言した。

JCO事故とは

 JCO(住友金属鉱山核燃料事業部東海工場が独立し、住友金属鉱山の一〇〇%出資の子会社として、設立)は核燃料サイクル開発機構の高速増殖実験炉「常陽」向けの極めて特殊な燃料の加工をしていた。一九九九年九月三〇日、その核燃料加工施設内でウラン溶液が臨界状態に達し核分裂連鎖反応が発生し、作業員二人が死亡し、周辺に放射能をばら撒いた。

JCO臨界事故九周年東京圏集会の集会宣言

 本集会に参加したみなさん、そしてこの集会に関心を寄せて、支援やご協力をいただいたみなさん。
 わたしたちは、二名の犠牲者と被曝者をうみだしたJCO臨界事故九周年をむかえて本日、行動と講演会を成功裡に実現してきました。
 九年前の午前一〇持三五分に、核燃料製造工場内にバシッという衝撃音と青い光をもって警報は鳴り響き、しかしそれは住民には届かなかった。この警報音は従業員の死と周辺住民への被曝の警報であり、日本原子力開発史上で最悪の事故を告げ知らせた。
 わたしたちはこの時刻にあわせて、新たな怒りと悲しみを沸き立たせて、所轄責任の経済産業省前で、犠牲者への追悼と政府への抗議の集会を奥現してきました。さらには事故発生当時から事故の原因分析や被曝問題にとりくんできた京都大学原子炉実験所の小出先生から講演をうけて、放射線被曝の恐ろしさや日本原子力開発の問題点を学んできました。大泉さんからは東京高裁での事故傷害補償裁判の取り組みでの勝利にむけて力強い報告をうけ、裁判勝利にむけては多大なカンパも寄せられました。
 そして昨年七月の「新潟県中越沖地震」によって変電設備の炎上と放射能漏れ事故をおこした柏崎刈羽原発を前にして、「原発に依存しないまちづくりにむけて」の考え方の報告をうけて、わたしたちは地震国日本での原発開発への怒りとともに今後の行動へのヒントをえてきました。

 しかし、政府と原子力推進側はイラク戦争に協力して、米軍に石油の補給や財政支援をおこないながら、「エネルギー危機」をキャンペーンしています。重油値上げに悲鳴をあげている漁民や生活苦にあえいでいる国民には「格差社会と貧困」を強制しながら、六ケ所村使用済み核燃料の再処理事業やもんじゅ運転再開にむけては莫大な費用を投入しているのです。 

 わたしたちはこんなことを許すわけにはゆきません。集会で学んだことを明日からの取り組みに生かして友人や知人や家族に、さらには、未だ知らない人たちにJCO臨界事故の原因と真相を伝えて、事故を風化させないように、二度と悲惨な事故を起こさないためにともに力をあわせ、知恵をふりしぼってがんばっていきましょう。


辺野古の新基地建設NO

  沖縄県議会の決議実現へ


 アメリカの世界戦略の再編の一環として普天間基地の替わりに辺野古に新基地建設を強行しようとしている日米政府に対して沖縄をはじめ全国で怒りが広がっている。
 辺野古への移設という名の機能増強の新基地建設は日米政府の合意から一二年たつが、反対運動は新基地建設着工を阻止してきた。
 政府はまず海上基地建設にむけて動きはじめたが、一九九七年には名護市住民投票で新基地にNOの市民の意思は明確になった。だが、二〇〇四年に国はボーリング調査を強行してきた。しかし連日にわたる海上での決死の阻止行動によって、ついに断念させたのである。
 〇六年に今度は辺野古沿岸案を出し、新基地建設を決してあきらめないという攻撃をかけてきた。
 日米政府へ沖縄県民の抗議の声は日増しに高まっていった。
 この七月一八日には沖縄県議会で、内閣総理大臣、外務大臣、防衛大臣、沖縄及び北方対策担当大臣にあてた「名護市辺野古沿岸域への新基地建設に反対する意見書」とともに駐日米国大使、在日米軍司令官、在日米軍沖縄地域調整官、在沖米国総領事あて「名護市辺野古沿岸域への新基地建設に反対する決議」が可決された。六月に行われた県議選では与野党が逆転を実現させたが、県議会決議は沖縄県民の基地反対のもうひとつの意思表示のあらわれだった。
 沖縄の保守県政は追い詰められ、この窮地から脱却しようと懐柔とペテンの手段をとっている。仲井真弘多県知事は、九月五日に「普天間飛行場の移設に関する沖縄県の考え方(県民の皆様のご理解とご協力を求めて)」なる文書を出し、その中で県議会の決議を「私のこの問題に対する姿勢が十分理解されていないようにも感じられます」として、普天間の「危険性がそのまま放置されることにつながる」などと恫喝をかけ、「現実的な選択であるキャンプ・シュワブへの移設について地元の意向を踏まえ政府と協議を重ねていきたい」と言っている。

 九月二七日、文京区民センターで、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックなどで構成する辺野古への基地建設を許さない実行委員会の主催で「辺野古の新基地建設NO 沖縄県議会の決議実現へ」集会が開かれた。

 集会では、はじめに県議会副議長の玉城義和さんが報告。
 県議会の決議には、賛成二六、反対二二に採択された。議長一名も賛成派だ。六月の県議選以降の力関係はこうしたものになっている。今回の県議選ではこれまで保守支持だった人が基地反対に回って投票した。これまでにないことだ。保守の方が知事なのに野党の議席が増えたこともなかったことだ。知事は普天間の危険性を強調することによって、辺野古基地はやむをえないということで県民世論に対抗しようとしている。普天間基地返還と辺野古新基地建設がパックであるというが、そんなことは誰が決めたのだ。県民は認めてはいない。

 つづいて、沖縄平和市民連絡会の当山栄さんが現地での阻止闘争を報告。
 現地での闘いでは、相手側の攻撃のすべてに対応するわけにはいかないが、阻止しやすいところを選んでそこに力を集中する。そしてそうしたことを積み上げて選挙などではっきりと決着をつけていくことが重要だ。

 花輪伸一さん(WWFジャパン)は、辺野古の貴重なアオサンゴやジュゴンの海の保全ついての特別発言を行った。


二つの労働契約法

  
日本と中国の労働法の比較

日中両国の労働契約法

 労働契約法が今年三月一日から施行された。就業規則の法的規範性を明記し、労働条件の不利益変更が簡単にできるようになったのではないかと労働側には評判が悪い。
 中国でも、一月一日から、同じ名前の労働契約法(中華人民共和国労動合同法)が施行されている。こちらは日本とは逆に企業側におおきな衝撃をあたえるものとなった。日本の中国進出外資企業もその対応を余儀なくされているが、その主なものは、労働条件の決定・変更にかかわる問題と期間の定めのない雇用化の問題である。
 二〇〇七年は中国では「労働法制の年」といわれるように、さまざまな労働関係の法律が制定された。
 現在の胡錦涛・温家宝政権は、「和諧社会」建設を掲げている。和諧社会とは、大多数の人民が二〇数年来の改革と成長の成果を分かち合える社会、格差是正社会の実現ということだが、現政権はそのひとつとして労働法制の完備を急いでいるようだ。日中の労働法制を比べてみると日本の方がかなり使用者よりにできていることがわかり、日本の労働者をとりまく環境が世界的に見ても劣悪なことが理解できる。
 もちろん法律の条文だけではわからないところも多いが、とにかく日中の法律の比較をやってみよう。

 日本の労働契約法(以下、日本法)は、一九条だけの簡単なものだが(審議会などで、労使の対立で多くの部分の法制化は先送りされた)、中国の労働契約法(以下、中国法)は、日本法も当初めざしたように、労働契約の成立及び変更、継続及び終了となっていて九八条に及ぶ一応完結したものになっている。
 
就業規則の制定・変更

 日本法では、(就業規則による労働契約の内容の変更)の第一〇条で「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない」。なお、第十二条は「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」となっている。
 就業規則の作成については、労働基準法の第九〇条で「使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。2 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない」とあり、労働組合や労働者代表が「反対」した場合でもその「意見を記した書面を添付」するだけでよい。行政解釈や判例では、意見書の添付なしでも、届出なしでも就業規則の効力あるとしている。
 すなわち、就業規則は使用者が一方的に決められるということで、今回の労働契約法制化でそれが明記されたというところに反対が起こるのは当然である。

中国労働契約法の規定

 労働条件の制定・変更について、中国法では次のようになっている。
 「第四条 使用者は法により労働規則制度を確立及び整備し、労働者が労働権利を享受し、労働義務を履行することを保障しなければならない。
 使用者が労働報酬、勤務時間、休憩・休暇、労働安全衛生、保険福利、従業員研修、労働紀律及び労働ノルマ管理等についての労働者の密接な利益に直接関わる規則制度又は重要事項を制定、改正又は決定する場合は、従業員代表大会又は従業員全体で討議し、方案及び意見を提出し、労働組合又は従業員代表と平等な協議を経て確定しなければならない。
 規則制度及び重要事項決定の実施過程で、労働組合又は従業員は不適切であると考える場合、使用者にそれを提起し、協議によって改正・改善する権利を有する。
 使用者は、労働者の密接な利益に直接関わる規則制度及び重要事項決定を、公示するか又は労働者に告知しなければならない」。
 このように「従業員代表大会又は従業員全体で討議し、方案及び意見を提出し、労働組合又は従業員代表と平等な協議を経て確定」「労働組合又は従業員は不適切であると考える場合、使用者にそれを提起し、協議によって改正・改善する権利を有する」となっていて、日本法のように使用者の一方的な決め方はできなくなっている。
 すなわち、中国の労働規則(就業規則)は日本の労働協約とおなじなのである。労働協約は、労働組合と使用者の間で組合員の賃金、労働時間、休日、休暇等の労働条件並びに労働組合と使用者との関係に関する事項について団体交渉を行いその結果労使間で合意に達した事項を文書化し、労使双方の代表者が署名または記名押印したものであり、日本のように使用者が一方的に決められる就業規則と使用者と労組が交渉して取り結ぶ労働協約の二本立てではないということだ。これを中国法では「集体合同」(集団契約)という言葉をつかっている。
 なお中国労働法制の中心に位置している一九九五年労働法の第三四条は「集体合同調印の後に労働行政部門に報告を送付しなければならない。労働行政部門が集体合同本文を受理した日より一五日以内に異議を提出しない時は、集体合同は直ちに効力を生じる」とし、労働協約を一企業内にだけに封じることを禁じている。
 この点が日中両国の労働契約法制のちがいである。

期間の定めのない雇用

 中国では、ケ小平の「改革・開放」路線に従いて、グローバリゼーションにあわせて、労働分野でも規制緩和が進められてきた。国営企業のいわゆる「親方五星紅旗」の下での終身雇用制度が、生産性向上を妨げるとして、一九八〇年代半ば以降、有期雇用化政策が強行されてきた。労働者とくに農村戸籍の都市流入労働者の処遇はきわめて厳しいものとなっていった。いわば中国のワーキングプアである。こうした低賃金の労働力を求めて日本含めて海外の対中投資がすさまじい勢いで入り込んでいったのである。
 九五年労働法では、労働契約は、@期間の定めのあるもの、A期間の定めのないもの、B一定業務の完成期間のもの、にわけられた。
 そして労務派遣(労働者派遣)事業も法制化された。
 こうした中で、格差の拡大、労働条件の劣悪化が進んで、社会的な矛盾も拡大してきたが、現政権の「和諧社会」建設政策は、それの克服に立ち向かおうとしているものだという。
 日本でも有期雇用、労働者派遣などが社会問題化しているが、中国法はつぎのように新たな規定を打ち出した。 
 中国の労働契約法第十四条は、「期間の定めのない労働契約とは、雇用組織と労働者とが契約終止日を約定しない労働契約を指す。雇用組織と労働者とは協議合意により無期限労働契約を締結する事ができる。以下の状況のいずれかに当たる場合、労働者が労働契約の継続、締結を要求或いは同意した場合、労働者が期限付労働契約の締結を申し出でる場合を除き、無期限労働契約を締結しなければならない。
 @労働者が当該雇用組織にて連続して一〇年勤務している場合
 A雇用組織が初めて労働契約制度を実施するか又は国有企業制度改革にて新たに労働契約を締結する場合、労働者が当該雇用組織での連続勤務年数が満一〇年であり、尚且つ法定定年退職年齢まで一〇年未満である場合
 B二回連続して期限付労働契約を締結し、且つ労働者が本法第三九条及び第四〇条第一項、第二項に規定されている状況に無いもとに労働契約締結を継続する場合は無固定期限労働契約を締結しなければならない。
 雇用組織が雇用開始日より満一年労働者と書面にて労働契約を締結していない場合雇用組織は既に労働者と無期限労働契約を締結しているものと見なされる」。 
 「本法第三九条及び第四〇条第一項、第二項に規定されている状況」とは、雇用組織の規則制度に重大な違反をした場合、重大な職務怠慢や私利私欲により雇用組織の利益に重大な損害を与えた場合などの解雇要件にあたる場合ということである。
 ここでは、これまで一〇年勤続してきた有期雇用労働者は大部分が無期限雇用になる。例外は「労働者が期限付労働契約の締結を申し出でる場合」であるが、あえて有期雇用継続を求める労働者はすくない。
 こうした新たな規定によって企業経営者のパニックが生じたのである。とくに外資の製造業などは膨大な正規労働者を抱え込むことになり、簡単に企業移転・企業閉鎖・国外撤退もできなくなると恐れている。

中国の「労務派遣」

 労働条件の決定・変更と期間の定めのない雇用へのシフトという特徴を述べてきたが、そのほかにも注目すべきものがある。
 「労務派遣」では、第五十七条(資格)で「労務派遣組織は会社法の関連規定に基づき設立され、登録資本金は五〇万元を下回ってはならない」と会社の資本規模の最低限を決め、「労務派遣組織は被派遣労働者と二年以上の期間付労働契約を締結して、月毎に労働報酬を支給しなければならない。被派遣労働者の作業のない期間において、労働派遣組織は地元人民政府が規定する最低給与基準にて、月毎に報酬を支給しなければならない」としている。日本のような登録型、日雇い派遣などをみとめず、仕事がなくても最低の報酬を支払うとしている。
 そして「被派遣労働者は雇用組織の労働者の同工同酬の権利を享有する。雇用組織に同種部署の労働者が存在しない場合、雇用組織所在地の同種又は類似作業部署の労働者の労働報酬を参照して確定する」。
 この「同工同酬」とは同一労働同一賃金ということだ。また「労働派遣は通常、臨時的、補助的又は代替性をもつ作業部門にて実施される」として、常用労働者の代替として派遣労働者を使うという日本のようなことは禁止される。

残業規制について

 最後に、日本ではサービス残業、過労死と関係する残業規制についても触れておこう。これは九五年労働法にある規定だ。
 その第四一条は「雇用組織は生産経営の必要により、労働組合及び労働者との協議を経た後に労働時間を延長することができるが、原則として毎日に一時間を超えてはならない。特殊な原因に因り労働時間の延長が必要な時は、労働者の身体健康を保障するとの条件の下で延長する労働時間は毎日に三時間を超えてはならないが、但し、毎月に三六時間を超えてはならない」。
 ここにあげられている「特殊な原因」とは、@自然災害、事故が発生し或いはその他の原因に因り、労働者の生命健康と財産の安全を脅かされ、緊急の処理を必要とする時、A生産設備、交通輸送線路、公共施設に故障が発生し、生産と公衆の利益に影響し、早急に修理をしなければならない時、B法律、行政法規に規定するその他の状況、とされ、日本のように残業が常態化されてはいない。
 そして、残業代の計算は「@労働者に労働時間の延長を手配した時は、賃金の一〇〇分の一五〇より低くない賃金報酬を支払う、A休息日に労働者に業務を手配しまた代休を処置できない時は、賃金の一〇〇分の二〇〇より低くない賃金報酬を支払う、B法定休暇日に労働者に業務を手配した時は、賃金の一〇〇分の三〇〇より低くない賃金報酬を支払う」としている。

 以上、中国の新しい労働法制のいくつかの点を見てきたが、日本と比べてどうだろうか。アジア諸国の労働法制は日本より遅れていると思っている人も多いだろうが、以上に見たような現実がある。
 これまで日本の労働運動では、アジア諸国との労働法制の比較・検討はあまりおこなわれていないが、中国や韓国の状況を知ることが、日本の今後の労働運動を進めるうえで、参考になる点が多いのではないかと思う。 (MD)


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  好戦的国家主義者・麻生太郎の復活と米国紙


 日本では臨時国会が開会した日である九月二四日、米国有力紙「ニューヨークタイムズ」が「麻生太郎氏の復活」という社説で麻生首相を酷評し、日本の外務報道官が五日、それへの反論を投稿したという事件があった。
 NYタイムスの社説要旨は以下の通り。
 「日本の麻生太郎新首相は……近隣諸国では好戦的なナショナリストとして知られ、好意的には記憶されていない。外務大臣としての二〇〇五年から二〇〇七年まで、麻生氏は中国や韓国との関係を損ね、東アジア地域の緊張を高めた戦前の植民地政策の成果を賞賛し、戦時中の残虐行為を正当化する一方、中国を危険な軍事的脅威と表現した。今、長期政権の自由民主党の黒幕達は麻生氏を、過去わずか二年間での四番目の首相にし、彼に『現実主義者』としてのブランドを再び与えた」。「彼は米国政府に対して、インド洋での日本の補給任務の停止を画策する反対運動に対抗すると確約している。それはアフガニスタンでの米国と同盟 軍の奮闘への援助の、日本のリスクフリーのデモンストレーションである。米国が日本に最も求めているものは、帝国主義的な夢想や、シンボリックな力の誇示によってアジアの怒りを招くような政府ではなく、責任ある戦略パートナーである」。「かつては明確にアジアの経済リーダーであった自国が好景気の隣国に負けている事を多くの日本人が恐れるため、ナショナリズムが不穏な政治の復活を歓迎している。麻生氏を有名にした日本の醜い過去へのノスタルジー的幻想の中に答えは見つからない」。「日本は……市場改革を仕上げ、経済の近代化を図る必要がある。そして隣国を対等に扱う事によって外交政策を近代化する必要がある。もし麻生氏がこうした手法を採用するほど現実主義的であるなら、首相として成功するだろう」と。
 開会日の所信表明演説で小沢民主党首に対して、「日米同盟と国連のどちらを優先劣後するのか」と迫り、親米派ぶりを演出した麻生首相は水をかぶせられた思いだったろう。
 麻生は記者団に対して「ナショナリスト(国家主義者)というのかね。パトリオット(愛国主義者)であるには違いないが」と憮然とし、すぐさま外務省に命じて反論を書かせた。外務報道官は「外相任期中、麻生太郎は日中関係を飛躍的に改善し、戦略的互恵関係の構築を立案し、進展させ、韓国とも建設的で未来志向の関係構築に努めた」などと反論した。
 米国が麻生を「好戦的な民族主義者」「日本の植民地支配を賞賛し、第二次大戦での残虐行為を正当化した」と見ていることは、麻生には致命的な痛手だ。米国の不信を買った安倍晋三の二の舞を踏む可能性がある。麻生がいま、インド洋派兵給油新法の審議入りにこだわるのは、米国のこうした不信を払拭し、米国との信頼関係をつくりたいからに他ならない。
 にもかかわらず、二四日の国会演説では、冒頭から「かしこくも御名御璽をいただき」とやってナショナリストぶりを発揮してしまった。そして「わたしの前に五八人の総理が列しておいでです。一一八年になんなんとする、憲政の大河」「統治の伝統」云々とやった。なんと薄っぺらな歴史観であることか。戦犯・東条英機なども麻生がうけついだ伝統に連ね、天皇主権の戦前と、国民主権の戦後を区別せず、五八人の首相を一体化してしまったのである。これでは米国の不信は尽きないだろう。 (T)