人民新報 ・ 第1253号<統合346号(2009年5月15日)
  
                  目次

● 「海賊」派兵新法・自衛隊海外派兵恒久法反対  憲法審査会の始動を阻止しよう!

● 対テロ戦争・民衆抑圧のためのパキスタン支援会合に抗議

● 広島での反貧困運動の取り組み  「派遣切りを許すな!なくそう貧困」広島集会

● 儲けのためには何でもあり―そんな社会を変えよう!  ノーモアJR尼崎事故!生命と安全を守れ!尼崎集会

● 12000人が参加して第80回日比谷メーデー

● なくそう! 官製ワーキングプア   4・26 反貧困フェスタ(総評会館)

● 「天皇在位二〇年」も 「昭和の日も」祝わない!

● 保守オピニオン誌『諸君!』が休刊  右派論壇の混迷

● 複眼単眼  /  はじめに派兵ありきのソマリア海賊対処





「海賊」派兵新法・自衛隊海外派兵恒久法反対

            憲法審査会の始動を阻止しよう!


憲法審査会始動策す

 〇七年五月の「改憲手続き法」(国民投票法)の成立を受けて衆参両院に改憲の前提となる憲法審査会が設置されたが、機能停止状態が長く続いていた。だが、今、与党は「憲法審査会規程」を定めるなど始動を狙ってさまざまな策動を強めている。与党の幹事長、国対委員長らは四月二二日、今国会中に憲法審査会を開く方針を確認した。総務省も、あたかも二〇一〇年から憲法改定の国民投票が始まるかのようなリーフレット「ご存知ですか?平成二二年五月一八日から『憲法改正国民投票法』が施行されます」を大量にばらまきはじめた。
 これは、二〇〇七年七月の参院選で自公与党が大敗し、その後の居座り策動も破産して安倍内閣が無様に倒れてから、明文改憲を言い出せなくなっていた改憲派が危機意識をつのらせていることの現われで、このままでは、改憲の機運がいっそう低迷するとして、無謀な巻き返しに出てきているのである。そもそも一八項目もの付帯決議が付いた改憲手続き法は欠陥立法であり、まして与野党の合意もないなかでの改憲派の強硬姿勢には無理がある。しかも参院では野党が過半数を占めており、また改憲とくに九条を変えることに世論の多くが拒否反応を示すようになっている現状で、かれらにもはっきりした改憲への展望があるわけでもない。だが、こうした動きに対しては徹底的な打撃が必要であり、改憲阻止の闘いをいっそう強めていかなければならないときである。

5・3憲法集会成功

 憲法施行から六十二年を迎えた五月三日の憲法記念日には全国各地で多彩な催しが繰り広げられた。東京・日比谷公会堂では「輝け9条 生かそう憲法 二〇〇九年5・3憲法集会」が開かれ、会場に入れずに、場外に設置されたオーロラビジョンで集会の進行を注視した人を含めて四二〇〇人が参加して大きな成功を収めた。
 第一部のスピーチではじめに作家の落合惠子さん。
 「自己責任」ということばで、失業したり、病気になったりするのも自分が悪いというように思い込まされている。しかし問題なのは社会の制度・しくみなのだ。日本ではこうしたかたちで棄民政策が実行されている。憲法二五条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定されている。私たちは誰でも一人ひとり生きる権利を持っている。わたしたちの母たちの世代は、戦争も含めて耐えてきたが、本当は髪を逆立てるような怒りをもたなければならないのだ。
 つづくスピーチはノーベル物理学賞受賞者の益川敏英・京都産業大学教授。
 野蛮な政策が横行する時代もあるが、大きな目で見れば人類の歴史は進歩の歴史だ。しかしそのためには逆流を克服する決して負けてはならない闘争が必要なのだ。
 第二部のスピーチの社民党党首の福島瑞穂さん。
 ソマリア沖への自衛隊派兵という戦後最大の憲法違反を許してはならない。与党の派兵恒久法案にも民主党の修正案もだめだ。憲法審査会を始動させず、改憲の動きを阻止しよう。総選挙では与野党逆転を実現していこう。
 日本共産党の志位和夫委員長
 原子爆弾によって、二十万人を超える人々の命が一瞬にして奪われ、幾世代にもわたる犠牲をこうむった。こうしたことを二度と繰り返してはならないという強い思いが、憲法九条という私たちの宝を生み出した。ソマリア沖に「海賊対策」として自衛隊の軍艦の派兵で、「殺し、殺される」危険が目の前に迫っている。憲法九条を守り生かすたたかいと、核兵器廃絶を求めるたたかいを、それぞれを大きく発展させながら、平和をつくる一つの大きな流れに合流させ、核兵器のない世界、そして戦争のない世界を築こう。
 集会は、アピールを採択し、九条改憲阻止、憲法を生かそう、輝かせようと訴え銀座パレードを行った。

海賊新法を阻止せよ

 四月二三日の衆院海賊対処・テロ防止特別委員会は麻生太郎首相が出席して締めくくり質疑。麻生は「海上輸送の安全確保は、(日本にとって)優先順位が極めて高い。日本の人命、財産(の保護)にきちんと対応するのは、政府に与えられた大きな仕事の一つであり、緊急かつ重要な課題だ」と述べた。民主党は修正案提出したが否決され、同法案は与党の賛成多数で可決、衆院本会議に緊急上程され、自民、公明両党などの賛成多数(民主、共産、社民、国民新は反対)で可決し参院に送付された。民主党は参院でも審議引き延ばしはしない方針であり、参院で否決されても、与党が三分の二以上の議席を持つ衆院では賛成で再可決するとしている。
 防衛庁・自衛隊の専門紙『朝雲』は「ソマリア沖で日本関係船舶の護衛活動を行っている海自『派遣海賊対処水上部隊』(護衛艦『さざなみ』『さみだれ』で編成、指揮官・五島浩司一佐以下約四〇〇人)は四月一三日までにアデン湾で六回、計二〇隻の日本関係船舶の護衛活動を行った。この間、一一日には近くを航行中のマルタ船籍商船の緊急無線を受けて『さみだれ』が現場海域に急行、大音響発生装置で警告、不審船の接近を防いだ」と報じている。
 ソマリア沖への自衛艦の派遣は、根拠とする法律がないにもかかわらず行われ、チャンスがあれば交戦状態に持ち込み、それを既成事実として憲法体制を掘り崩そうとするものである。イラク派兵時には、元サマワ先遣隊長の佐藤正久(現自民党参議院議員)は、自衛隊を現地で戦争状態に突入させるつもりであったと語ったが、それと同様のことが予想される。
 海賊新法を阻止し、派兵恒久法、改憲への道をふさぐために全力をあげよう。

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 生かそう憲法輝け9条 2009年5・3憲法集会アピール

 日本国憲法の施行まる六二年を迎えた本日、5月3日に私たちは、それぞれの思想・信条・社会的立場などの違いを超え、「憲法の改悪に反対」という共通の目標を掲げて日比谷公会堂に集まりました。
 私たちは、9条はもとより、深刻な雇用と生活の破壊に対し、25条など日本国憲法の先駆的な平和主義、民主主義、人権尊重の諸原則の価値を再確認し、この憲法をいっそう社会の中に生かしていくことの大切さを確認しました。
 平和憲法を敵視し「任期中に改憲をする」と公言していた安倍晋三内閣が倒れて以来、9条の明文改憲をめざす動きは下火になりましたが、一方で、憲法の解釈を無制限に拡大し、「戦争のできる国」づくりを進めようとする動きは、むしろ強まっていることに注意を払わなくてはなりません。
 昨年末に強行されたアフガン戦争協力のためのインド洋派兵給油新法の延長や、今通常国会での自衛隊法82条の恣意的な解釈による海上自衛隊のソマリア沖派兵と、「海賊」対策に名を借りた派兵新法制定の強行の動きは、究極の解釈改憲である「海外派兵恒久法」にあと一歩まで迫ったものです。北朝鮮のロケット発射を機にMD配備体制などを急速に強化し、国際紛争への武力による対処と集団的自衛権行使へのキャンペーンも強まっております。また「グアム協定」の強行など米軍再編による日米軍事同盟と自衛隊の強化の動きもとどまることを知りません。これらは沖縄をはじめとする現地にさらなる犠牲を強い、9条を骨抜きにし、破壊してしまおうとする大変危険な動きです。いまこそ「武力で平和はつくれない」の声を大きくあげるときです。
 また、自民党憲法審議会などが「憲法審査会始動」への動きを繰り返すなか、「国民投票法」施行の2010年を前に政府は、改憲手続き法のキャンペーン・パンフレットを発行し、今年度予算に約47億円を投入して「国民投票」のシステム作りを準備するなど、明文改憲に備える動きも進めております。
 私たちはこの数年来、全国各地で展開された、戦争政策に反対し、9条を擁護する運動の高まりによって、世論の多数が9条改憲に反対していることに確信を持ち、憲法改悪に反対し、憲法の理念を生かす運動をいっそう強めていきます。私たちは本日の集会を契機に、今年で九回目になる「5・3憲法集会実行委員会」の共同行動を大切にし、さらに広げていきたいと思います。「海賊」派兵新法反対、自衛隊海外派兵恒久法反対、憲法審査会の始動反対、雇用と生活を守れ、憲法改悪反対の広範な共同行動を作り出し、9条を生かしてアジアと世界の平和を実現するために、ともに奮闘しましょう。

 2009年5月3日

 2009年5・3憲法集会参加者一同


対テロ戦争・民衆抑圧のためのパキスタン支援会合に抗議

 オバマ政権は、三月二七日「包括的な対アフガニスタン・パキスタン新戦略」の発表し、対テロ戦争の継続とアフガニスタンへの主戦場移動を図っているが、戦略的に最重要なパキスタンは国家崩壊の状況に立ち至っている。そのためパキスタン安定化に向けて、アメリカは「同盟国」からのいっそう大きな支援を要求している。
 四月一七日には東京で、パキスタンのザルダリ大統領をはじめ、支援国代表および世界銀行やIMF(国際通貨基金)が参加して「パキスタン・フレンズ東京閣僚会合及び支援国会合」が開催された。麻生は同会合で演説し、「9・11テロから七年半。世界は、依然としてテロの脅威にさらされております。最近でも、イスラマバードやラホール、ムンバイ、カブールで悲劇が続いております。テロは、世界にその脅威を及ぼしており、その撲滅のための努力は、まさに正念場にあると認識しております」「パキスタンの安定なくしてアフガニスタンの安定はありません。逆もまたしかりです。特に国境地域の安定が鍵であり、両国自身による包括的な戦略づくりを国際社会が後押しすべきことを強調いたします」と対テロ戦争の強化のためアフガニスタン・パキスタンへの支援を強調した。
 
 四月一七日、WORLD PEACE NOW実行委員会は、ホテル・ニュー・オオタニで開かれている会合に対して、中曽根弘文外務大臣など会合出席者に対して要請行動を行った。
 WPN実行委員会は次のように求めている。@パキスタンでの諸外国、あるいはパキスタン軍による武力行使継続のための資金援助は行わない、A援助資金は、パキスタンが真に民主的で持続可能な社会を目指すために使わなければならない、B援助資金の使われ方については、パキスタンの一般の人びとを含むすべての当事者(NGO、社会運動団体、労働組合、農民組合など)の代表が参加して、透明性ある民主的な討論の上で決定されなければならない、C援助資金は、パキスタンの一般の人びと、特に貧困にあえぐ女性の人権、民主主義、平等を保障するための民生的支援に使われなければならない、D今回の会合が米国のアフガニスタン戦争支援が目的であれば、ただちに会合は中止されなければならない。


広島での反貧困運動の取り組み

    「派遣切りを許すな!なくそう貧困」広島集会


 反貧困の運動は全国に広がり広島でもその取り組みが着実に進んでいる。

 反貧困ネットは、〇七年一〇月一日に全国ネットとして結成された。以降、〇八年七月、「反貧困全国キャラバン」が全国展開され、これを通じて、各団体の垣根を越えて〇八年八月「ぎふ反貧困ネットワーク」、同年一〇月「反貧困ネットワーク滋賀」、同月一九日「反貧困ネットワーク大分」、同年一一月「反貧困みやぎネットワーク」、同年一二月「反貧困ネットワーク埼玉」が次々と結成されてきた。この二月七日には、二一〇人が参加して「反貧困ネットワーク広島」設立総会が開催された。三月末までに非正規労働者の大量解雇が予想される中、住居を失う労働者、失業保険、再就職などの相談が予想されることから、定期的に相談会を開催することや、「貧困」に対する啓発活動などを行うことが確認された。
 
 「反貧困ネットワーク広島」は三月二七日と二八日の両日、広島弁護士会館で「なんでも相談会」を開催し、当日は弁護士をはじめ、司法書士、社会福祉士の協力を得て取り組まれた。相談内容は解雇、生活保護、多重債務、労働災害、労働契約違反の多岐に亘って相談件数が寄せられ、二日間で二八件の相談件数があった。

 翌三月二九日には「派遣切りを許すな!なくそう貧困」広島集会を開き、派遣労働者、外国人労働者、労組組合員など一五〇人が結集した。
 集会では、四二歳の男性は次のように訴えた。「昨年末、派遣先の自動車部品会社が倒産し、職を失った。ハローワークなどを通じて七〇社以上の求人に応募したが採用してくれる会社はなかった」「このネットに電話相談し、生活保護を受給。しかし、多いときで二五万円あった収入は、失業保険と生活保護費を合わせて約一二万円に減った」「専門技術を学びたいが、お金がない。ただただ仕事がしたい」と訴えた。
 マツダの二次下請けで働く日系ブラジル人二世の女性は一月初め、会社から突然解雇を言い渡された。途方に暮れ、地域ユニオン(スクラムユニオン)に助けを求めた。
 同じく来日一五年目の呉市に住む女性(六一歳)は、「私たちは税金をきっちり払ってきた。外国人が安心して働けるよう行政はもっと支援をしてほしい」と訴えた。
 また、彼女らは「母国に帰りたいが帰る旅費がない。どうしたらいいのか」と嘆いていた。
 集会の最後にはスクラムユニオンの土屋信三委員長より、今日の状況を切り開くには、組織労働者の決起こそが求められているにもかかわらず、肝心なマツダ労組幹部は派遣切りを容認し、安住していることを厳しく批判し、労働者の階級的な総団結と連帯して闘おうと強くアピールされ集会は終了した。

 その後、繁華街をデモ行進し、プラカード、桃太郎旗、風船、横断幕など様々な工夫を凝らし、「人間らしい生活がしたいぞ」「労働者を使い捨てにするな」「仕事をよこせ」などのシュプレヒコールを叫び市民に訴えた。 (広島・N)


儲けのためには何でもあり―そんな社会を変えよう!

      
ノーモアJR尼崎事故!生命と安全を守れ!尼崎集会

 4・12尼崎集会が、JR尼崎駅前で開催されました。一〇七名が亡くなり、五六二名が負傷し、今も事故の影響で社会復帰が出来ない方々が多くいる中で、事故から四年目を迎える尼崎で、北海道から九州に至る労働者や地域からの一五〇名を超える人々が参加して会場満杯になる中で開催されました。
 大阪の国労組合員からの職場の現状と闘いの報告、また株主総会対策報告もありました。遺族会からは、一人娘を亡くされた藤崎光子さんから、この間のJR西日本の誠意のない対応ぶりや安全を本当に考えているのかとの疑問の報告がありました。うわべだけの安全対策、事故の本質を解かろうとしない会社の体質に怒りを感じさせる発言でした。事故日の四月二五日には柳田邦夫氏を招いて特別講演をするという報告もありました。また集会では、尼崎市役所での武庫川ユニオンの闘い、松下での偽装請負や解雇撤回の闘いの報告がありました。
 集会終了後は、駅前から事故現場まで一時間ほどの市内デモ行進を行い、事故現場では参加者全員で献花を行ってご冥福を祈り、「ノーモア尼崎」をシュプレヒコールしました。 (N)


12000人が参加して第80回日比谷メーデー

 第80回日比谷メーデー式典は、一二〇〇〇人の労働者が結集して開催された。
民間労組懇代表の田宮高紀全統一労働組合委員長の開会宣言につづいて、主催者を代表して石上浩一国労東京委員長があいさつ。
 アメリカ発の経済危機の中で雇用問題がますます深刻化している。労働法制の抜本改正、非正規労働者の均等待遇が実現されなければならない。二三年目を迎える国鉄闘争の解決は待ったなしの状況だ。四者四団体は一致して、政治の責任での解決を勝ち取るべく闘っている。反戦平和の闘いを進め改憲阻止の力を強めていかなければならない。総選挙で与野党逆転、都議選での勝利で政治を変えよう。
 連帯挨拶に立った武藤弘道都労連委員長は、労働組合の力を強化し、労働者の生活と権利を守るために団結して闘おうと訴えた。
 来賓挨拶は前田信弘東京都産業労働局次長と福島みずほ社民党党首(参議院議員)が行った。メッセージは、大阪・中之島メーデー実行委員会、代々木メーデー実行委員会、韓国民主労総などからのものが紹介された。集会には韓国の民衆歌謡グループ「希望の歌 コッタジ」と民俗楽器の演奏グループ「トヌム」も参加し演奏した。
 決意表明は、全造船関東地協いすゞ自動車分会の近藤博光さん、埼京ユニオンの日系ブラジル人の新海ミエコさん、全労協女性委員会代表幹事の柚木康子さん、国労・東京闘争団の松本繁崇さんが行った。
 アピールを採択して二コースに分かれてデモに出発した。


なくそう! 官製ワーキングプア

    
4・26 反貧困フェスタ(総評会館)

 四月二六日、総評会館で、四七〇人が参加して「なくそう!官製ワーキングプア〜反貧困フェスタ」が開かれた。
 総務省調査によると、地方公務員の数は正規職員(警察、消防、教職関係を除く)が約一四〇万人で、非正規職員は約五〇万人。非正規公務員の多くが正規職と同等の業務を担っているにもかかわらず、自活するのも厳しいほどの収入しか得られず、なおかつ三年や五年の雇い止めがあるなど身分も不安定である。実行委員会は、このフェスタを開催の目的を、非正規公務員および公共民間労働者の実態を明らかにしていくことを通じ、抜本的な待遇改善をめざしていくことであるとしている。全体集会のほかにも労働・法律相談やDVD上映、各自治体における非正規労働者の実態把握と制度改善に向けた取り組みを中心に自治体議員交流会なども行われた。

 全体集会では、東京都における雇用年限導入(消費生活相談員)、東京都非常勤講師労組、荒川区図書館非常勤労組、公共一般足立支部図書館分会(足立区指定管理者での解雇)、公共サービス清掃労組(委託、入札、契約制度)、中野区保育士裁判の報告が行われた。韓国からは民主労総公共サービス労働組合未組織非正規局長ユ・ナンミ(柳男美)さんが韓国労働者の闘いを報告した。

 午後からのリレートークでは、ネットワーク・ライジングサンユニオン(警備員)、全統一労組千葉市非常勤職員組合(待遇改善)、連帯労働者組合・板橋区パート(処遇改善)、ネットワーク豊島・学校開放管理員部会(違法臨職)、国公一般(雇用不安)、越谷市職(均等待遇・格差是正に向けて)、東京介護福祉労組(低賃金)、新潟県職労非常勤職員部会(非常勤雇用年限解雇)、都税事務所の窓口収納事務委託・多摩都税(委託、指定管理化)、埼玉県臨時教員(採用年齢制限、低賃金)、小菅委託労働者ユニオン(下水処理場の受託業者)、東京都の臨時職員(違法臨職)などからの発言が続いた。

 シンポジウムでは、『週刊東洋経済』の岡田広行さんが「官製ワーキングプア問題を取材して」と題して次のように特別報告。
 三菱総合研究所が二〇〇六年四月に「市場化テスト等によってアウトソーシングされる事業の市場規模推計」などについて発表した。それによると、「市場化テスト等によるアウトソーシング事業の市場規模は七兆八〇〇〇億円。『市場化テスト法』の適用を希望する自治体は五七・七%」とされており、「市場化テストの導入により、外部化可能な業務量は中央省庁と独立行政法人を併せて二五万三〇〇〇人。(正規職の)現行職員数六八万三〇〇〇人の三七%に達する」「地方自治体では約六割に当たる一六〇万九千人の外部化が可能」としている。では、その結果はどうだったかといえば、市場化テストは思ったほど普及しなかった。なぜなら、仕組みの複雑さ、煩雑さ、対象業務の限定などによるものだ。しかし、実際には、ゴミ収集、保育、学童保育、学校給食、警備、管理委託、PFI(公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法)、指定管理者制度、民間譲渡、公設民営、人材派遣などでアウトソーシングはすでに進んでいる。そして、現在、ふじみ野市の市営プールでの幼児死亡事故、流山市のゴミ収集業務委託での混乱、ピジョンが運営受託した練馬区立保育園での大量退職と保育の質低下、芦屋市のシルバーハウジングでの見守り業務で最低賃金割れ労働の発覚、近江八幡市の病院、高知県・市の病院などPFI事業のトラブルなどが相次ぎ公共業務のアウトソーシングに関する矛盾が顕在化している。そして、今、規制改革が小泉改革の「負の側面」とみなされるようになるなど政界や世論が変化してきている。その象徴が「かんぽの宿」問題とオリックスへの批判だ。労働組合として「官製ワーキングプア」問題にどう対処すべきか。それには、同じ仲間として迎える、非正規公務員や委託労働者の働き方・労働条件に気を配る、非正規公務員の処遇改善に取り組む、非正規公務員問題を放置すると「明日はわが身になる」ことを認識する、非正規公務員・委託労働に関する実態把握に務めるなどが必要であろう。また国家公務員法、地方公務員法の改正、公契約法・公契約条例、日本版TUPE(事業譲渡と雇用保護)、パート労働法の適用、厚生年金・雇用保険の適用拡大などの法改正がなされるべきである。また報道機関の責任が大きい。一面的な公務員報道から脱却し、国や地方自治体の財政、税制、公共サービスに関して、正確な報道に務めることが求められているのである。

 自治労連副議長で全労連パート・臨時労組連副代表の川西玲子さん、自治労埼玉県本部副委員長で越谷市職の山下弘之さんからは、この問題にどのように取り組んできたのか、またいかに展望を切り開くかについての発言があった。
 集会参加者の投票で、「非正規川柳」の入選作が決定した。一位「気がつけば 常勤教える 非常勤」、二位「物件費 私はものと いっしょなの」、三位「経験を 積んだ頃には 雇い止め」など、公務非正規労働者を取り巻く厳しい状況を歌ったものが共感を呼んだ。
 最後にアピールを採択。そこでは非正規労働者の闘いが成果を勝ち取っていることを確認し、さらなる前進のためにともに闘うことが訴えられている。
 「…このままではいけないと、いま公務、公共サービス職場で働く非正規労働者が全国各地で闘いを繰り広げています。そして、解雇撤回による職場復帰や、裁判における勝訴など、ここに来て非正規職員の今後に繋がる大きな成果を勝ち取るという事例が増えてきました。中野区立保育園非常勤保育士解雇事件における原告四人全員の職場復帰と共に、解雇権濫用法理を類推適用すべき程度にまで違法性が強いとの立法意見を引き出した東京高裁判決。国立情報学研究所非常勤職員雇い止め事件における、上級審では勝訴に至らなかったものの、一審において、非常勤公務員に対する再任用拒否(雇い止め)を権利濫用として認めず、原告の労働契約上の地位を確認するとの画期的な判決が下された裁判。他にも、武庫川ユニオン尼崎市派遣労働者闘争による職場復帰。さらには東村山市嘱託職員退職者手当損害賠償請求事件においては、非常勤職員を退職手当の支給対象と認めた判決の獲得など。このように、我々の主張がいかに正当なものであったか、法的にも証明されてきています。
 また〇八年八月、人事院から「非常勤職員の給与に関するガイドライン」が出され、国の非常勤職員に昇給とボーナスが認められるなど、非正規職員の待遇改善の兆しが、国の中からも現れてきています。
 全国の労働者と労働組合の長年の取り組みが、少しずつではありますが、しかしながら着実に実を結び始めています。この流れをさらに加速させ、同一価値労働同一賃金を実現させていくためには、今日ここに集まった皆さんの力が必要です。我々の声を一つにしたとき、今に生きる喜びを見出し、将来に夢を描ける人生を築くことができるはずです。そして、国や自治体が振りかざす理不尽な制度や慣習の壁もきっと打破できることでしょう。みなさん、一致団結して頑張りましょう」。

 労組のナショナルセンターや政党の枠をこえて行われた今回のフェスタは、反貧困運動の非正規公務員版だが、今後の闘いの展望を切り開く大きな意義を持つ成果を収めた。


「天皇在位二〇年」も 「昭和の日も」祝わない!

四月二九日、「天皇在位二〇年」も「昭和の日も」祝わない!4・29行動が闘われた。
文京区民センターで開かれた集会では、植民地教育史が専門の佐野通夫・四国学院大学教授が「天皇と朝鮮侵略と現在と」と題してスピーチ。
日本帝国は植民地に対して同化政策をとったが、それも特殊な同化政策だった。在日コリアンの通名使用は、決して、巷間よく言われるように本人が自己の朝鮮人としての存在を隠し、他者を欺くために用いられているのではない。それは日本社会への恭順を示すものとして強要されているのである。例えば、植民地時代の朝鮮で育った村松武司の『朝鮮植民者』(三省堂)に次の一節がある。「わたしが京城中学の三年のとき、昭租一五年であった。…わたしたちの少年時代に気がかりな事件が起きた。金田、李家、張本という聞きなれない日本名がクラスの友人たちのなかに忽然と生まれたのである。日本名というには、あまりにも奇妙な名であった。ハリモトもリノイエもかつてのわれわれの言葉のなかにはなかったものだ」。ここに明確に示されているように、ハリモトやリノイエを名のることは、朝鮮人であることを隠し、日本人と思われるためになされたのではない。そのような氏は、「われわれの言葉のなかにはなかったもの」なのであり、朝鮮人であることは明らかなのである。朝鮮総督府が「創氏改名」後も、いかにして朝鮮人を識別する記号を残すかに腐心したことはよく知られている。そもそも「創氏改名」自体、朝鮮民事令の改正としてなされているのであって、決して朝鮮人を日本の民事法体制の中に組み込むものでもない。では、何が求められたのか。朝鮮的な、民族性を明らかに示す一字姓ではない氏、そして日本名とは区別されながらも、形の上では朝鮮的な姓とは違う氏を名のるということに、日本は朝鮮人の恭順を求めたのである。これは「創氏改名」の時代だけではなく、「日本名」使用が法制度ではなくなされている現代の「通名」においてもいえることである。

 リレートークでは、はじめに「日の丸・君が代」の法制化と強制に反対する神奈川の会外山喜久男さん。神奈川県教育委員会は「君が代不起立氏名収集」を行ったが、これは思想信条情報に当たる。県の個人情報保護審査会および審議会はともに、この収集は不適当であると答申した。それにも関わらず、県教委は継続を決定し〇八年卒業式でも氏名収集を行った。現在裁判で闘っている。
 つづいて山谷労働者福祉会館活動委員会のなすびさん。下層労働者の犠牲の上に、日本経済が成り立ってきたが、天皇主義右翼・ヤクザがその労務支配の末端を担ってきた。現在、経済危機とその中での下層労働者の不満・反抗の兆しが見え緊張が高まり、かつて山谷で右翼が活動家を連続殺害した時に似た状況が生まれている。
 立川自衛隊監視テント村の井上森さん。
 現在の保守の状況は彼らのブログでも論議されている。そこでは、彼らが観念的・理想主義的になり、大衆運動の不在がみられる。一方で、ますます普遍主義の放棄と小国意識化が進んでいることが見て取れる。
 集会宣言では「一一月に行われる『天皇即位二〇年奉祝』は、『国』が『国民』こぞって祝うことを強制し、マスコミがそれを煽る状況になるであろうことは間違いないだろう。そしてそれは次の天皇代替わりを視野に入れた、天皇制強化の演出にすぎない。私たちは、歴史の改竄のうえに居座り続け、今の社会のさまざまな矛盾や不公正さを、隠ぺいしあるいは慰撫する装置としての天皇制に声を上げ続けなければならないと考えている。また、秋に向けた『天皇即位二〇年奉祝』に反対するさまざまな言論、表現を多くの人とともにつくりあげ、行動していくこと」を確認した。

 集会の後には、右翼の妨害を撥ね退けてデモを貫徹した。


保守オピニオン誌『諸君!』が休刊  右派論壇の混迷

 文藝春秋社の『諸君!』が休刊となった。同誌は一九六九年五月創刊以来、長く右派論壇の旗頭であったが、二〇〇六年には約八万部が昨年の平均発行部数は六万数千部となり、広告収入も減る中での休刊決定だった。
 五月一日発売の六月号が、「最終号特別企画 日本への遺書」と名づけられているので、「記念」に買ってみた。
 この休刊にはさまざまな反応がある。なかなか面白い構図となっているが、「『諸君!』と私」には、中曽根康弘を筆頭に三十二人が登場している。

 中曽根は、「わが内なる憂国の情は晴れない」と題して次のように書いている。以下いささか長い引用になるが右派の現状認識として注目されるのでご容赦を。「四十年前、『文藝春秋』が総合的雑誌で思想的には中道であるのに対して、『諸君!』はやや右のラインをとり、当時全盛だった岩波書店を中心とする左派に対抗する恰好で誕生した。激動の時代を迎えた日本で、保守言論人にとっては胸のつかえを晴らす場所が与えられたわけである。私も『諸君!』の創刊を歓迎した。私も『諸君!』誌上では、国家論、教育論、行財政改革論、日本のアジア世界における役割、三島由紀夫事件についてなど、さまざまな問題について論じたが、まず思い出すのは『わが改憲論』(二〇〇〇年四月号)である。…この『わが改憲論』を掲載した頃には世論調査などでも改憲派が護憲派を上回り、ちょうど国会において憲法調査会が発足した。憲法改正を終生の政治目標としてきた私としては感慨ひとしおのことであった。…だが平成二一年となった現在でも憲法改正は達成されていない。しかも、それは当時よりも遠退いてさえいるような印象である。昨今では、保守政治においても、選挙に勝つ、負けるといった短期的な目標ばかりに血道を上げているような印象だが、本来はもっと長い目で国家の行く末を見据えて国民に提示しなければいけないはずなのである。…思い出すのは、『諸君!』に掲載された私の俳句である。…ふとよぎる 心の影や 鰯雲…この句には、『今こそ《平成憲法》をつくる時である』という内なる雄々しき心の一方で、それができなくなった時のことをつい考え、その憂国の情が鰯雲のように広がっている、という思いを託した。この『影』はいまだに晴れないままである。そこへきて、今回の『諸君!』の休刊である。日本人の思想動向が浅薄になりつつあるという危険性をひしひしと感じるだけに、甚だ残念であるとしか言いようがない」。
 右派勢力の崩壊ともいえる情況にすごい危機意識をあらわにしていると見ていい。

 次に、その時々で論調を使い分けながら右にも左にも顔を出している佐藤優だ。彼は「冷戦構造崩壊による保守勝利の帰結」と題しての文章で「『諸君!』が休刊するというニュースに接して、私はとても大きなショックを受けた。なぜなら過去二年間、内田博人編集長のもとで、保守思想のあらたな基盤を構築するための大きな仕事をしているからだ。…そもそも、右翼、保守思想は、合理性を基礎に組み立てられた左翼、構築(設計)主義に対抗して生まれたはずだ。人間には偏見がある。情報を完全に共有して、発話主体が誠実な議論を行っても、真理が一つに収斂するという担保はないというのが、右翼、そして保守思想の了解であったはずだ。…左翼思想が生命力を失う過程で、保守論壇に左翼的な構築(設計)主義が密かに浸透してきた。その結果、設計図に基づけば、毅然たる国家ができるという合理主義に対する抵抗感が右翼、保守陣営で薄れるようになった。そして、『北朝鮮人・韓国人・中国人にこう言われたら、こう言い返せ』といった類の思想のマニュアル化が保守論壇誌で起きた。右翼、保守の論壇誌が排外主義を煽る傾向を強めた。このような排外主義は、寛容、多元性を基本とするわが日本の國體に合致しないことは明白であった。…東西冷戦後、左翼陣営が退潮し、右翼、保守陣営が『勝利』したので、『諸君!』は歴史的使命を果たしたという認識が、今回の休刊の背後にあるのではないかという穿った見方を私はしている。しかし、日本の國體を再発見するための思想戦はこれからが正念場だ。この時期に『諸君!』という場を失った痛手は大きい」。侵略の過去を厳然と有する「日本の國體」なるものが、排外主義に合致しないなどという珍論はともかく、「日本の國體を再発見するための思想戦」の戦士である佐藤にとっても晴天の霹靂とも言うべき事態であったようだ。
 なお佐藤はこの号に連載「保守再建」の最終回「バークを読み解いて、われわれの高天原を回復する」で、その国体論を述べている(バークは、フランス革命を否定しジャコバン派政権打倒のため革命フランスを軍事力で押しつぶす対仏戦争を主導したイギリスの保守思想家・政治家)。
 「どの国家にも國體があり、それを正確に把握することに、当該国民が成功し、國體の強化に成功するならば、当該国家は危機から抜け出すことができる。…新自由主義の浸透によって、経済的裏付けをもつようになり、実体的な力となり、われわれから天という感覚を奪い去ってしまったのである」とした上で、「天を再発見することは簡単だ。われわれには建国神話がある。天照大神の神勅を瓊瓊杵命(ニニギノミコト)が受けて豊葦原の瑞穂の国に降臨されたときにわが国は生まれた。この地上にあるわが国は高天原というリアルな世界によって、その存在が担保されているのである。この現実を、われわれは古来より伝えられる神道によって知ることができる。テキストとしては、有り難いことに古事記と日本書紀が残されている。また、日本の至るところに神社がある。神社に行って、玉串を奉納し、二礼二拍一礼をすることにより、われわれは天をつかむきっかけを得る。その結果、寛容と多元性の原理を基本とする我が國體の本質をとらえることが出来る。われわれが保守再建についてバークから学んだことは、保守思想の基準は、左右ではなく、超越性、すなわち上にあることを見直すところにある」としている。「わが国は高天原というリアルな世界によって、その存在が担保されている」!。これが佐藤優の思想の根幹である。

 しかし、なかには休刊は当然と受け止めているものもいる。評論家の坪内祐三は「人材不足に陥った保守論壇」のなかで、右派の弱体化について述べる。「『諸君!』の廃刊が決まった、と文藝春秋につとめる友人から電話をもらった時、私はクールに、あっそうなの、でももうそろそろ潮時かもね、と答え、その友人を驚かせました。彼は私がもっと衝撃を受けるだろう、と思っていたのでしょう。実際、私は最近の『諸君!』の良い読者ではありませんでした。…私が最近の『諸君!』の執筆者たちに不満だったのは、その文章のひどさです。文章が最後までたどれないのです(なぜ編集者は注文をつけないのでしょうか――もしかしてそこまでの興味がない?)。昔の私がイメージしていたのは、左翼はおうおうにして悪文(難解文)であるのに対し、いわゆる『保守』呼ばれる人はクリアーで読みやすい文章を書くことでした。その点で最近の『諸君!』の執筆者たちは左翼的でした」などといっている。こういう「左翼的」というくだらない言葉遊びはともかく、右派論壇に力量の落ちていることの結果としての休刊と見ている。

 終刊号の特集である「遺書」は、「これは四十年にわたる思索と討論の到達点、そして未来の日本に宛てたメッセージである」と大仰に意味づけられて、石原慎太郎(東京都知事)、古森義久(産経新聞ワシントン駐在編集特別委員)、佐伯啓思(京都大学大学院教授)、中嶋嶺雄(国際教養大学学長)、西部邁(評論家)、秦郁彦(現代史家)、渡部昇一(上智大学名誉教授)などが執筆しているが、例によって例のごとき主張の繰り返しなので紹介を省略する。

 右派論壇の情況の一端をうかがわせてひどく面白いのは「〈八人ラスト大座談会〉諸君! これだけは言っておく」である。「世界的大不況、日米安保の形骸化、中国の領土的野心…。次々と襲いかかる災厄を、われわれはいかにしのげばいいのか。気鋭の論客が一堂に会して繰り広げる平成版『近代の超克』、火花散る五時間半の大激論!」とおどろおどろしく自己宣伝した内容は、@保守は何を守るべきかA憲法改正を妨げるものB世界経済戦争の帰趨C「世界史の哲学」を再興せよ、というテーマで、評論家の宮崎哲弥を司会に、村田晃嗣(同志社大学教授)、八木秀次(高崎経済大学教授)、田久保忠衛(杏林大学客員教授)、櫻井よしこ(ジャーナリスト)、西尾幹二(評論家)、松本健一(評論家・麗澤大学教授)、遠藤浩一(評論家・拓殖大学大学院教授)などの大小の右より言論人が長時間にわたって「論議」をくりひろげたものだ。かつての「近代の超克」「世界史の哲学」の現代版と銘打ったこの「大座談会」は、かつてのそれが虚妄だったのと同様に、いやそれ以上に、論点の矛盾・対立がそこここに見られまったくの茶番と化している。 (つづく)


複眼単眼

    
 はじめに派兵ありきのソマリア海賊対処

 「海賊新法」が衆議院で強行され、参議院にまわった。すでにソマリア沖には隊法八二条を根拠法にして、自衛艦が派遣されている。八二条は外国船の護衛はできないことになっているのに、すでに四回、外国船の「救護」に自衛艦が駆けつけた。これは八二条派遣ではなく、「海員法」による出動だというのだ。違法に違法を重ね、今度は「海員法」だという。とんでもない脱法行為だ。まさにイラク派兵における佐藤正久派遣隊長の「駆けつけ警護」発言と同様の問題だ。現場の暴走を防衛省が追認する、あるいはあらかじめ許容しておいたということだ。
 ソマリア海賊派兵は「まず自衛隊派兵ありき」の作戦だ。とにかく自衛隊を出したい。「欧米各国だけでなく、中国までもがアフリカに利権を求めて派遣するのに、日本が何もしないわけにはいかない」という支配層の焦りがある。それを世論に対してはこう脅す。「日本がこの海域で大きな経済的利益をこうむっているのに、なにもしないでいいのか」という「国益」論が横行している。「国民の生活はこの海域の商業活動で営まれているのだ。これは国益だ」と。
 そうだ。これは民間資本の商業活動の問題だ。自衛隊はいま、その利益を守るために憲法に反して、莫大な費用をかけて派兵されようとしている。ごまかされてはいけない。この海賊の出没するスエズ運河→アデン湾という航路をこれらの船はなぜえらぶのか。いま浜岡に入ってくる二隻のプルトニウム輸送船は、ヨーロッパから自衛艦の護衛なしに、アフリカ南端を通って日本に向かってきた。なぜ、これができないのか。
 「所用日数が大幅に増え、費用がかかりすぎるからだ」と言われる。これが嘘だということを「海運九条の会」の「海上自衛艦のソマリア派遣と海賊対処法に反対するアピール」(二〇〇九年三月)が証明している。同声明はいう。
 「アデン湾・スエズ運河経由の航路はコンテナ船が主体で、石油や鉄鉱石、石炭などの産業用資源や、食料・生活物資の占める割合は極めて少ない。またヨーロッパ航路がスエズ運河を回避して、太平洋・パナマ運河経由では約二〇〇〇マイル、五日間、喜望峰廻りでも約三〇〇〇マイル、八日間の遠航となるが、運が通行量や安全確保のための待機時間を勘案すると、運行上の負担は許容の範囲にあると考える。事実、日本の海運大手企業は長距離輸送によって増加する燃料費とスエズ運河の通航料金は相殺されるし、船腹過剰の緩和にもつながると、喜望峰廻りを採用している」と指摘している。
 実際の所、三月に派遣されて以来、この間の自衛艦の「護衛」活動は、一ヶ月で一二回、あわせて三六隻(うち日本籍二隻、外国籍三四隻)。防衛省の当初の見込みは一日五隻だから、四〜五分の一にすぎない。自衛隊を出動させたいがために、大げさに騒いだ事がはっきりしている。
 同声明は最後に「私たちは、軍艦で守らなければならない海域に、商船を就航させること自体に反対する」と述べているのだ。  (T)