人民新報 ・ 第1260号<統合353号(2009年12月15日)
  
                  目次

● 普天間基地即時閉鎖 辺野古新基地建設阻止   2010年を日米安保体制の抜本的見直しの年に

● 民主党の「国会改革」に異議あり  憲法9条を守り、憲法改悪を許すな!

● オバマ来日にWPNが申し入れ行動  侵略戦争をやめろ! 沖縄基地強化をやめろ!

● 一〇四七名解雇問題の早期解決を  国労闘争団・家族中心に各党へ要請

● 北海道・釧路で全道総決起集会  在沖縄米海兵隊の矢臼別移転実弾演習に反対

● 労働者派遣法の抜本改正の早期実現に向けて  労働政策審議会での議論の逆行を許すな

● 本の紹介  /  『誰も切らない、分けない経済 ― 時代を変える社会的企業』

● 複眼単眼  /  揺れ動く新政権とその中に潜む危険な動向

● 年末カンパのお願い  /  労働者社会主義同盟中央委員会





普天間基地即時閉鎖 辺野古新基地建設阻止

    2010年を日米安保体制の抜本的見直しの年に


 二〇〇九年は日本政治の歴史的段階を画するものとなった。政権交代実現によって大きな変革の一歩を踏み出すものとなり、われわれは、ここで一定の程度解放された民衆の政治変革のうねりを多くの人々と共同した闘いの中で、いっそう強めていかなければならない。政権交代で自民党は下野したが、その力には侮れないものがあり、彼らはあらゆる手段を使って再度の政権獲得を狙っている。自民党政治の残滓を徹底的に押しつぶして自民党勢力を徹底的に解体することは、今後の政治の帰趨に決定的な意味を持つ。そして保守二党による政権交代の連続ではなく、保守政党と民衆の政治との対決に日本政治の機軸を移し変える必要がある。
 われわれは、民主・社民・国民新の三党連立による鳩山政権の発足という事態を迎えて、この新たな政治的条件を生かしながら、独自の労働者・市民の大衆運動を強めていかなければならない。それを通じて反動政治と資本の専制を決定的に打ち破る組織力量を強めていかなければならないのである。

 いま、沖縄米軍基地問題が当面する政治の焦点となっている。アメリカの言い分に唯々諾々と従うばかりだった自民党政権時代に比べて、日米同盟の動揺・危機が言われるような状況になったことは大きな進歩であった。現在それは、沖縄をはじめとする民衆の対米自立意識の高まりとそれを考慮せざるを得ない民主党の動きに政権交代以降の特徴が象徴的に表現されている。
 一一月八日に開かれた沖縄県民大集会で普天間基地即時閉鎖、県内移設反対の県民意思は示された。来年一月の名護市長選でも辺野古新基地建設反対派は統一候補擁立を実現し、基地建設反対派の勝利はほぼ確定した。また全国的にも沖縄に連帯する行動が広がっている。
 だが同時に、この間アメリカおよび財界、自民党などの対米従属継続派による巻き返しと画策による圧力は高まってきている。いまは切迫したせめぎ合いの時期であり、連立政権内でも対立が激しさを増している。親米反動勢力の圧力に抗し、民主党の後退・逸脱を阻止して、連立政権の政策合意の線を進展させ、沖縄の民意にそった「普天間基地即時閉鎖」「辺野古新基地建設阻止」の実現に向けて大きな統一を勝ち取り、大衆運動の高揚を実現する時だ。

 オバマは一一月の訪日の際に、日米同盟の名の下に、アメリカの対テロ戦争への日本のいっそうの協力加担を求めた。鳩山新政権は、最低限でも、アフガニスタンの復興支援で、米国の戦争戦略に追従せず、軍事力ではなく、非軍事民生協力に徹するようにすべきである。海上自衛隊のインド洋給油は撤退方針を明らかにし早期に実現すべきである。海賊対処新法で自衛隊を派遣したことも即刻あらため、自衛隊の撤退をはからなくてはならない。海外派兵は憲法に違反するものであり、これまでの自衛隊の活動を見直しに着手すべきである。

 また鳩山政権は、核密約をはじめ日米同盟の影の部分を解明するとしている。すでにアメリカ側の資料と外務省機密文書などから、歴代日本政府が米艦船の核兵器の日本への持込みがありながら、その事実をひた隠しにしてきたことが明らかになった。核密約の暴露を非核三原則の「緩和」=2・5原則につなげようとする動きは逆流であり、「非核三原則」法制化を要求してたたかわなくてはならない。密約問題を米艦船の核兵器の日本への持込みにとどめずに、日米同盟の醜い本質と歴代自民党政権の対米従属と国民への欺瞞を暴露していく闘いが重要である。二〇一〇年は安保改定五〇年の節目の年に当たり、日米安保体制の問題が各所で取り上げられる。鳩山政権も日米安保同盟をひきつづき堅持するとし、安保改定五〇年に日米両政府によって安保の新しい定義がなされるが、国際情勢とりわけ米中関係の大きな進展や日中安保協力の強化などというアジア情勢の地殻変動のなかで、日米安保とは何のためにあるのか、日本政府はなにを脅威・仮想敵としているのか、そして東アジアにおける緊張を緩和させ諸問題を解決するためにはどのような政策が必要なのかなどについて論議を起していかなければならない。

 いかなる形の改憲も許さず、日米地位協定の抜本見直し、そして日米軍事同盟廃棄にむけて闘おう。


民主党の「国会改革」に異議あり

   
憲法9条を守り、憲法改悪を許すな!

 行政刷新会議の事業仕分けなど鳩山政権の政策が具体化しはじめたが、これらはおおむせ政権支持率の維持に寄与しているようだ。だが、民主党が総選挙での自民党政治からの決別と政権交代という民意にもとづく方向からそれる可能性がある場合にはその危険性を大衆的に指摘し、批判して軌道修正させる必要があるのは言うまでもない。
 民主党の小沢一郎幹事長は、「国会改革」を主張している。いまの国会が十分に機能しているとはいえないのはもちろんで改革が求められているのは事実だが、大事なのはいかなる内容かである。

 一一月四日には、小沢の求めに応じて「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調、座長・佐々木毅元東京大学総長)が、「国会審議活性化等に緊急提言〜政権選択時代の政治改革課題に関する第一次提言」を発表した。それが小沢の国会改革の基礎となるものと思われる。その内容たるは広範囲にわたっている。「改革の基本方向と課題」では次のような項目があがっている。@前提としての「通年国会」への転換。長期の常会による実質通年国会の実現、会期不継続原則の廃止による本格的通年国会の実現、A委員会の制度・運用の見直し。政策分野別常任委員会の「議案審査会」と「国政調査・行政監視会」への切り分け、定例日、定数、定足数の見直し、B与野党における政治家同士の議論(議案審査会等)。国家基本政策委員会の活用と与野党の討論(党首討論の定着と大臣討論日の創設)、政治家同士の議論と政府参考人や政府特別補佐人の扱い、逐条的審査の選択的導入、法案修正における「小委員会」活用、一般的な事項に関する与野党の活発な議論、C行政監視機能等の強化(国政調査・行政監視会等)。「国政調査・行政監視会」の活動、少数者調査権の整備による国政調査権行使の実質化、口頭質問制度の整備と質問主意書制度の改革、D議員立法および野党・少数会派の活動促進策、議員立法の活性化、野党に対する立法事務費等など立法・審議活動支援の割増について、E政府・政党・国会の関係再構築、政府提出法案に関する内閣の協議関与権確立、計画的な法案審議スケジュールの確立、政府への質問通告の改善など、内閣一元と政党の「党議拘束」のあり方の見直し、副大臣、大臣政務官の役割強化・委員会理事兼務、早期の大幅増員、閣僚の出席義務緩和など、である。

 来年の通常国会では、小沢は国会法改正を実現するとしているが、国会で官僚が答弁する「政府参考人制度」の廃止や内閣法制局長官の答弁禁止などが柱となる。憲法との関係で問題なのは、内閣法制局長官の答弁禁止である。内閣法制局は、解釈改憲の要となってきたが、自衛隊海外派遣、集団的自衛権の行使については憲法九条がある以上、認められないとしてきた。小沢は湾岸戦争の当時には自民党幹事長だったが、内閣法制局が「違憲」とする見解を譲らず、迅速な国際貢献ができなかったという経験があり、憲法解釈についても内閣法制局長官の答弁をやめ、政府与党の見解のみでの憲法解釈によって、小沢の持論である国連決議による自衛隊海外派兵を合法化させようという狙いがあると思われる。
 
 一二月三日、2010年5・3憲法集会実行委員会は、「『国会改革』に異議あり〜9条を守り、憲法改悪を許さない12・3院内集会」を開き、海外派兵に道をひらく国会改革に対して異議ありの声をあげた。年明けからの通常国会での国会改革に対する取り組みと闘いの態勢を早急に作り出さなければならない。


オバマ来日にWPNが申し入れ行動

  
侵略戦争をやめろ! 沖縄基地強化をやめろ!

 オバマ・アメリカ大統領は、一一月中旬に日本、シンガポール、中国、韓国へと続いた初のアジア歴訪を行った。オバマ政権は、発足後一年を迎えようとしているが、世界的な激動の中で急速に進行するアメリカの地位の低下からの回生をかけての新政権誕生だったが、内外で、すでにきわめて厳しい立場に立たされている。経済的な危機の克服はできず、とりわけ対テロ戦争での勝利は可能性をますます低めてほとんど絶望的だ。オバマは核廃絶演説などでノーベル平和賞を受賞するというブラックユーモアじみたことがおこっているが、この核発言さえもアメリカの力の後退に起因しているのだ。
 東アジア歴訪中、オバマ日本に対して、アフガニスタン情勢改善に向けた復興支援策の強化を要請し、また在日米軍再編の焦点である米軍普天間基地の辺野古移転問題を決着させようとした。だが、これは沖縄をはじめとした普天間基地即時撤去・県内移転反対の声の高まりに決着は見送られ、継続協議となった。

 オバマは、一一月一二日に来日の予定だったが、対テロ戦争への反対・厭戦気分の中で生じた米国内の軍事基地での大量殺傷事件で延期、一三日の来日となった。

 一一月一二日には、「真の核軍縮を、アフガン撤退を、普天間基地撤去・辺野古新基地建設断念を、そして朝鮮半島の平和実現を」をかかげて、WORLD PEACE NOW主催によるアメリカ大使館要請行動「オバマ大統領に市民ノーベル平和賞?」が展開された。アメリカ大使館入り口にある虎ノ門JTビル前には、プラカードや「オバマ大統領への手紙」を持った人々が結集した集会で次々にトークをおこなった。途中、参加者の一人が仮面を被りオバマ米大統領に扮し、「市民ノーベル平和賞」の賞状とメダルを受けるなどのパフォーマンスが行われた。日本山妙法寺、キリスト者平和ネットや許すな憲法改悪!市民連絡会などからのアピールが続いた。

 WPNからオバマ大統領への申し入れは、「オバマさん 私たちWORLD PEACE NOWは本年一月二〇日、あなたの大統領就任の機会に、アフガン、イラクでの戦争の終結と、沖縄をはじめとする在日米軍基地の強化反対、イスラエルによるガザ吹撃の停止への努力などを求める『手紙』を駐日米国大使館を通してお届けしました。私たちはあなたがこうした日本市民の声に耳を傾け、それを考慮されることを希望します。私たちは、あなたがこれら平和への課題に応える行動をとられることを期待してやみません。そして、あなたがそのような行動をとられたら、私たちは心から『市民ノーベル平和賞』を贈りたいと思います。あなたは、『市民ノーベル平和賞』を受け取りますか?」


一〇四七名解雇問題の早期解決を

  
 国労闘争団・家族中心に各党へ要請

 八〇年代の中曽根康弘内閣による国鉄の分割・民営化の強行は、新自由主義イデオロギーに基づく規制緩和政策の中で、一握りの大資本家に無制限に儲けさせるものであり、一方で労働者の団結の破壊とセットになった解雇、賃金・労働条件の切り下げというながくつづく攻撃の突破口であった。しかし、今、全世界で強欲な資本主義の破綻が明らかになり、日本でも自民党は広範な人びとの怒りの中で退陣した。
 国鉄闘争は、吹き荒れる解雇攻撃に最先端で抵抗する運動として、多くの労働者・市民の共感を呼び、全国で闘われる争議運動の団結の中軸となってきた。そして、いま、規制緩和路線に対する批判的な世論のたかまりと政権交代の実現がひとつの時代を画するものとなった。これを国鉄一〇四七名問題の解決の好機としてとらえて闘いを強化しなければならない。

 一一月二六日、永田町の星陵会館で、「JR不採用問題の解決に向けた11・26集会」(主催 国労闘争団全国連絡会議、鉄道建設公団訴訟原告団、鉄道運輸機構訴訟原告団、全動労鉄道運輸機構訴訟原告団、国鉄労働組合、全日本建設交運一般労働組合、国鉄闘争支援中央共闘会議、国鉄闘争に勝利する共闘会議)が開かれ、全国から結集した被解雇当事者・家族をはじめ多くの人が参加し、会場に入りきれない人もでるなど大成功を収めた。

 国会議員とともにおこなう第一部が始まり、闘争団全国連絡会議神宮義秋議長は、これまでに闘いの中ですでに五九名の当事者がなくなっている、志を継いで闘いを進めよう、この集会には三六五名闘争団・家族が参加していると報告。
 高橋伸二国労委員長は、四者・四団体を代表して、参加した国会議員に感謝するとともに次のように述べた。国鉄闘争は二三年目を迎え、世論を喚起し連合をはじめ各界からの支援をうけている。これからも、政治解決の一点で取り組みを強化していただきたい。今年の二月にこの会場で開かれた集会には当時の民主党幹事長の鳩山現首相に解決に向けての挨拶を受けた。政権交代が実現したこのときに、政局に絡めることなく人権・人道上の立場からの早期解決を当事者・家族をはじめわれわれすべてが願っている。一〇四七名闘争は決して二四年目を迎えることなく解決していきたい。最高裁も、採用について不当労働行為があったことを認め、鳩山首相も所信表明演説で、弱い人に手を差し伸べる友愛政治の理念を述べた。『孟子』にも「民を視ること傷むが如し」とある。国労委員長として、雇用、年金、解決金などの要求をかちとるために、政府与党をはじめ政治の場での解決を国会議員のみなさんに強く訴えたい。
 参加した民主党の筆頭副幹事長の高嶋良充参議院議員は、政権交代は手段であり、政策の実行こそが目的で、一〇四七名の問題もそれに入っている。鳩山政権はまだ六割以上の支持率があり、改革断行への支持だ、二月に鳩山幹事長が話をしたが、今度は与党の立場として取り組んで行きたい。
 音威子府家族の千葉真貴子さんが早期の解決を訴えた後、公明党「国鉄労働者一〇四七名問題解決のための対応委員会」座長の弘友和夫参議院議員、又市征治参議院議員(社民党副党首)、自見庄三郎参議院議員(国民新党幹事長)、穀田恵二衆議院議員(共産党国会対策委員長)からも解決に努力するという決意表明が行われた。このほかにも多数の国会議員が参加し、またメッセージが寄せられた。 
 鉄建公団訴訟原告団の酒井団長からは、参加国会議員へのお礼の言葉が述べられた。

 第二部では、二瓶久勝国鉄闘争共闘会議議長が経過報告。つづいて原告からの決意として、江藤勝夫採用差別国労訴訟原告団副団長、川端一男鉄道運輸機構訴訟原告団代表、梅木則秋全動労鉄道運輸機構訴訟原告団団長代行がアピールし、最後に、早期の解決を求めて、鳩山由紀夫首相、前原誠司国交相、長妻昭厚労相への要請決議文を参加者全体の拍手で確認した。


北海道・釧路で全道総決起集会

   
在沖縄米海兵隊の矢臼別移転実弾演習に反対

 一一月一五日、釧路市において連合北海道の主催で「在沖縄米海兵隊の矢臼別移転実弾演習に反対する全道総決起集会」が開かれ、北海道各地から約六〇〇名が参加した。
 冒頭、主催者を代表して連合北海道の村田仁事務局長があいさつ。米海兵隊の沖縄県の県道一〇四号線越えの実弾砲撃演習が一九九七年より「沖縄の痛みの分かち合い」を名目に本土五ヶ所に移転されてきた。だが沖縄の演習と「同質・同量」との約束は最初から反故にされ、夜間演習の強行や大量の発射弾数などの問題があり最近では小火器の使用までなされている。今年は三回目の休止年となったが過去一〇回にわたり実弾砲撃演習が繰り返されており固定化は断じて認められない。在日米軍基地の整理・縮小と日米地位協定の抜本的見直しを必ず実現しよう。

 連合本部の山口洋子副事務局長・北海道農民連盟の山田富士雄委員長もあいさつを行った。
 引き続き行われた講演会では、琉球新報社論説副委員長の前泊博盛氏が「民主党政権と日米地位協定についてー沖縄からの警告」と題して日米地位協定の問題点を鋭く切り込んで解説。前泊氏は沖縄の普天間飛行場を嘉手納基地に統合する岡田克也外相の案について「県民はもちろん米国すら相手にしない」と述べ政府の対応を批判した。また沖縄県宜野湾市で一一月八日に行われた県内移設反対集会について「鳩山首相は『集会の声がすべてだとは思いません』と発言した」ことに対し「県内移設反対は県民の総意だ」と強調した。
 集会は最後に、自衛隊矢臼別演習場がある根釧原野は酪農の基地でもあり、わが国の食料基地でもある北海道の中でも重要な位置にある。この緑あふれる大地に、砲弾が容赦なく打ち込まれ、豊かな自然環境が破壊され、安らかな日々の生活が脅かされることを認めるわけにはいかない、との集会アピールを採択して終了した。


労働者派遣法の抜本改正の早期実現に向けて

     
労働政策審議会での議論の逆行を許すな

 労働者派遣法の抜本改正の早期実現に向けての運動が強まっている。民主・社民・国民新の三党は、「連立政権樹立にあたっての政策合意」の「6、雇用対策の強化―労働者派遣法の抜本改正―」で、「『日雇い派遣』『スポット派遣』の禁止のみならず、『登録型派遣』は原則禁止して安定した雇用とする。製造業派遣も原則的に禁止する。違法派遣の場合の『直接雇用みなし制度』の創設、マージン率の情報公開など、『派遣業』から『派遣労働者保護法』にあらためる」とした。にもかかわらず、労働政策審議会の対応はこうした動きに逆行するものになっている。労政審の審議の中では、自民党政権時代に任命された使用者代表委員はもとより公益代表委員もが「製造業派遣の禁止は職業選択の自由を奪う」などという主張を行っている。法律の成立・改正のための手続きとして、労働法の場合は、厚生労働相から労働政策審議会に諮問し、その答申にもとづくことが必要だ。一〇月七日には、長妻厚労相が「今後の労働者派遣法のあり方について」諮問した。そこでは「我が国の雇用情勢は急激に悪化し、いわゆる派遣切りが多く発生し、社会問題化するなど、派遣労働者をめぐる雇用環境に大きな変化が生じたところである。このため、上記の法律案(昨年一一月に自公時代の政府が提出した)において措置することとしていた事項のほか、製造業務への派遣や登録型派遣の今後の在り方、違法派遣の場合の派遣先との雇用契約の成立促進等、派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進のために追加的に措置すべき事項についても検討を行い、改めて法律案を提出する必要が生じている」として、深刻な状況に対応するための審議を要請したのであった。ところが政権交代後の労政審職業安定分科会労働力需給制度部会では、先にあげたような発言が出たのである。この間、審議会では、例えば次のような発言が続いている。使用者代表の市川隆治・国中小企業団体中央会専務理事の「現在、認められていることを法律で禁止するということは、権利を奪うことになる。一人でも権利が奪われた人がいれば、憲法違反で訴えることもできるのではないか」などのいう暴論だ。それだけではない。公益代表委員の清家篤・慶應義塾大学商学部教授(労働力需給制度部会長)も「昨年、当部会でまとめた答申、これは少数意見であったものの部会の合意であり、まずはこれが尊重されるべきだ。答申後に状況の変化や政権交代があり、追加検討に至ったが、前回をベースに議論してほしい」「前回の答申は労使の合意と納得があって出来たもの。それをベースとするのは大原則」だと言っている。そして、労政審の会長の任にあるのが諏訪康雄・法政大学大学院教授である。彼は、労働分野での新自由主義的な規制緩和政策の理論集団である法と経済学会の会長を務めたこともある非正規雇用推進の中心人物なのである。こうした「公益」代表委員たちと使用者代表委員が多数を占める審議会に任せておいて、格差拡大・貧困化の諸悪の根源である労働者派遣法の抜本改正などできるわけはないのである。いまこそ、労政審に対する圧力を強化していかなければならない。

 一二月一日、衆議院議員会館で、「労働者派遣法の抜本改正をめざす共同行動」の主催で「もうひとつの労政審 労働者のための派遣法抜本改正の実現を!」が開かれた。
 主催者を代表して、棗(なつめ)一郎弁護士が「労働者派遣法改正運動と改正の行方」と題して報告。総選挙では、各党が派遣法の改正をマニフェストにかかげた。連立政権では政策合意で抜本改正が打ち出された。ところが労政審では後ろ向きの審議が行われている。今月中に答申を出すことになっているが、これからの闘いが非常に重要になってきている。
 つづいて国会からは、民主党の工藤仁美衆議院議員、社民党の近藤正道参議院議員、共産党の小池晃参議院議員が、抜本改正にむけて力をあわせようとあいさつした。
 日野自動車の元派遣労働者と日産自動車の事務派遣だった女性が発言し、好き好んで派遣になったわけではない、職場での差別待遇とすぐにでも解雇されるという厳しい状況を訴え、派遣などの非正規労働者が必要だなどという主張は許せない、などと述べた。

 専門有識者からの発言では、はじめに中央大学法学教授の毛塚勝利さんが発言。
 九〇年代以降の労働市場改革では、柔軟性を高めるということで派遣労働が広げられてきた。その結果、正規と非正規の二元的な構造ができあがってしまった。今、その反省に立ってこれまでとは違った改革が必要になってきているが、均等待遇ということが重要な視点だ。低賃金の派遣労働で企業はコストを外部に転嫁してきたが、これが社会に大きなコストを生じさせることになって、いろいろなところに歪みが出てきている。派遣労働の扱いも、最初の専門職型が、その他の領域でもテンポラリー(一時的)な働かせ方となり、ついにはパーマネント(常態)となって、雇用の調整の時には簡単に解雇される雇用のバッファー(緩衝装置)とされた。大企業の方がもっぱらこの労働を使っている。必要なのは、派遣労働を定義しなおすことで、とくに派遣元(雇い主)の使用者責任を確認することだ。次の仕事を探す、そして労働者の職業能力を向上させるなどだ。三党合意にもあるが、登録型の禁止、製造業派遣の禁止、違法派遣の場合の直接雇用みなし制度の創設、とくに均等待遇ということだ。

 元東大社研(フランス労働法)の田端博邦さんは「各国労働法制―製造業派遣禁止の国はないのか―」と題して発言。
 派遣労働推進派はよくヨーロッパには製造業派遣禁止の国はないなどというが、そもそもの前提的な構造が違うので、話がかみ合わない。まったくのご都合主義的な議論というしかない。まず社会実態の差異に注目しなければならないのだ。ヨーロッパでは、日本と違って産業別横断市場が存在しているが、それは産業別労働組合と産業別の使用者団体で仕事の技能等級の別による産別最低賃金率をきめることが中心にある。そして、この基本的な枠組みの下で、職場での均等待遇による企業の中の賃率を決める。大企業はそれに上乗せするウエイジ・ドリフトがある。今度、EU指令でヨーロッパ・レベルでも使用者団体と労働組合が協定することが制定された。もちろんEU各国の使用者団体とくにイギリスは抵抗したが結局成立した。しかしヨーロッパは夢の国ではない。企業は労働コストを下げるために派遣を導入し拡大しようとしている。だから、キチンとした法律規制をしなければならないとして労働組合は対応している。派遣企業は単なるダンピング屋ではないということを精神論でなく実行すべきなのである。とりわけ旧東欧圏などがダンピングすることを規制する、そして公正な競争条件をつくることだ。日本の日雇い派遣、製造業派遣は深刻な社会問題を生んだ。これを解決する仕組みを考えていくことが必要だが、ヨーロッパの労働組合は長い労資バトルの中でその力を形成してきた。昨年のEUの派遣労働に関する指令は、派遣労働者に正規労働者と同等の権利を始業日から認めるもので、労働時間や賃金などの基本的労働条件、教育訓練の機会、労働者の利益代表の選出には派遣労働者も一員となることなどが含まれている。

●一二月六日、長妻厚生労働相は、製造業派遣の原則禁止を盛り込んだ労働者派遣法改正案を、来年の通常国会に提出する考えを表明した。

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全国労働組合連絡協議会(全労協) 「労働者派遣法の抜本改正を求める意見書」

 労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会部会長 清家篤殿

 全国労働組合連絡協議会議長 藤崎良三


 二〇〇九年一〇月七日、厚生労働大臣諮問から「今後の労働者派遣法制度の在り方について」諮問が出され、調査審議が労働政策審議会職業安定分科会で開始されました。そして、労働力需給制度部会に付託され、一〇月一五日、二七日、一一月一〇日と部会が開かれ、本格審議が始まっています。
 この間、全労協は、ナショナルセンターの枠を越え、「派遣法の抜本改正を目指す共同行動」をつくり、派遣法の改正を求めて活動してきました。その中で、使用者が雇用責任を免れ、労働者を「商品」として派遣元と商取引する「間接雇用」に最大の問題点があること、それ故、労働者派遣制度には厳しい規制が必要なこと、この間の「労働分野の規制緩和」の流れの中で行きすぎた規制緩和が行われ、「登録型派遣」「日雇い派遣」「製造業派遣」が野放しになっていることを指摘、早急な派遣法改正を求めてきました。しかし、貴部会の昨秋の答申は、これらの問題点に答えるものとはほど遠いものでした。
 〇八年九月のリーマンショツクから始まった金融危機・世界大不況下で、派遣労働者が雇用の調整弁として切り捨てられ、深刻な社会問題となり、改めて「派遣労働」という働き方が問題視されてきました。にもかかわらず、労政審・分科会では、派遣の実態を押さえた議論がされているようには思えません。            
 厚労省の派遣労働の実態調査(〇七年六〜七月)では、派遣労働者の七割が一ヶ月未満の短期派遣(内、日雇い派遣が圧倒的多数)である。この短期勤務の場合、男性…月平均一九・一日勤務で月収一五・〇万円(日給換算七八五三円・時給換算九八二円…一日八時間勤務として)である。女性…月平均一八・一日勤務で月収一三・二万円(日給七二九三円・時給九一一円…同)である。しかし、派遣先企業から派遣元企業への支払は、一日日当一四、〇〇〇円〜一五、〇〇〇円である。短期派遣も登録型派遣の一形態であるが、いかに低賃金であり、いかに派遣元企業がピンハネしているかがわかる。
 この派遣を規制したらどうして企業経営が困難になり、失業者が増えることに結びつくのか。労働者を必要としている企業が労働者を直接雇えばよいのではないのか。仮に、非正規雇用の場合であっても時給一五〇〇円で雇えば労働者は最低限の生活が可能である。そして、企業側も派遣元企業に支払うよりも安くてすむのである。
 それなのに、経営者側は派遣規制になぜ反対するのだろうか。それは、労働力の「ジャストインタイム」である。すなわち、必要なときに必要なだけの労働力を確保し、必要なくなれば何時でも切り捨てられる制度である。これは、安定雇用の破壊であり、労働者の生活・権利・人権を軽視するもので、これこそ憲法に反する制度の何物でもありません。
 これらの状況を踏まえ、「昨年の答申に基づいた法案をベースに議論する(第一回部会、部会長発言)」のではなく、第二回部会に提出された一〇項目について議論し、連立教権が提示している改正案に基づく答申を速やかに行うよう強く要望します。
 全労協は、以下の八項目を中心に、労働者派遣法を改正することを求めます。
 @登録型派遣を専門業務をのぞき原則禁止すること。二六専門業務を九九年以前の一六業務に戻し、厳格規定すること。
 A製造業派遣を禁止すること。
 B日雇い派遣を禁止すること。
 Cもっぱら派遣を禁止すること。無くすこと。
 D均等待遇を法制化すること。
 Eマージン率の上限規制をすること。
 F団体交渉応諾義務をはじめ、派遣先責任を強化すること。
 G違法派遣の場合「直接雇用見なし制度」を創出すること。


本の紹介

新たな社会を築く連帯の精神は非営利セクターが発信源

       『誰も切らない、分けない経済 ― 時代を変える社会的企業』

                編著:共生型経済推進フォーラム  同時代社  定価(本体2000円+税)

 昨二〇〇八年後半以降の世界的経済的な危機で日本は相対的に被害は少ないとマスコミは報じ、麻生前政権は「全治三年」などと今から見ればまったくの楽観としか思えない対応をとってきた。しかし、日本経済の現状はこれまでの新自由主義的な政策のツケの累積に増幅されいっそうの深刻度をましている。年末を迎えて失業者は増加し、雇用安定助成金などで企業内にとどまっている「潜在失業者」も年明けにはそうした助成金などもが限切れとなり、来る二〇一〇年には本格的な大失業時代が到来することになるだろう。首都圏でもそうなのだが、地方経済はすでにはすさまじい破綻的な状況にあるといってもいいだろう。最近、そうしたことを実感することが多い。身近にも解雇の風が吹き、そして仲間たちの何人もが定年を迎える年頃になる状況で、その子どもたちが非正規・不安定雇用にあることなどだ。こうした格差拡大・貧困化は自民党政治の結果であり、それに対する怒りが、総選挙での歴史的な政権交代をもたらしたものだったことは周知の事実となった。民主党を中心とする新政権は、新政権の三党政策合意にもとづく政策を実行し始めたが、そうしたものでますますあらわになる資本主義の末期的症状が克服さと期待するわけにはいかないだろう。連立政権の政策は満足できるものとは程遠いものであるし、なにより民主党には根強い新自由主義勢力と自民党的な体質と政治方向があるからである。
 現代の資本主義は、一九世紀的な、本来的な搾取・収奪の本性を露わにしてきたが、資本主義とはこうしたもので、労働者・人民大衆の利益とは根本的に対立するものだという認識が再び輝かしさをとりもどしつつある。
 このような昨今の情勢で、労働者は生きていくためには、労働者の団結を形成し、解雇反対、賃金・労働条件の低下に抵抗する力をいっそう強めていかなければならない。
 だが、それだけでは資本主義の危機という今日の状況では勝利を勝ち取るには十分ではない。国鉄分割・民営化反対闘争の中で、解雇された国鉄労働者たちは闘いと仕事づくりを車の両輪として長期に闘ってきた。この例だけではなく、自ら仕事づくりにとりくみ、雇用を創出しながら、生活を確保する人びとが全国各地に存在する。それも単なる資本主義的な企業でなく、あらたな理念をもった運動としてである。

 最近出版された『誰も切らない、分けない経済―時代を変える社会的企業』は、そうした新たな労働・福祉の仕組みづくりについて丹念な聞き取り調査により社会的企業モデルケースの実像を明らかにしようとしたものだ。収録されている二つのシンポジウムの記録も興味深い。そのひとつめが「反貧困キャラバン連帯in大阪 シンポジウム報告」で、基調報告「『流動的貧困層』の新しい形=若年ホームレス生活者への支援の模索」と各パネリストの発言の「引きこもり、『ニート』サポートの現場から」、「派遣労働者の相談窓口から」、「母子家庭の貧困―その現状と課題」、「ホームレスをビジネスパートナーとして」、「釜ヶ崎支援機構、福祉相談部門の仕事から」、「障害者の労働問題の現状」などが紹介されている。つづく「社会的企業家へ聞く」の章では、さまざま事業を創り、運営している経験が語られる。もうひとつのシンポジウム「誰も切らない経済を地域に創る」の記録では、「イタリアにおける社会的企業の広がりとその課題」という基調報告と「障害者雇用と会社経営の革新」や「知的障がい者の雇用をはじめて」などの発言がある。そして最後の「社会的経済・社会的企業促進に向けて」は、「社会的企業とこれを支える社会的金融」、「新しい社会的リスクと日本型ソーシャル・ガバナンス」、「関西の共生型経済推進フォーラムの活動の意義と今後」などの内容だ。  
 ここでは個々の事業については紹介できないが、巻頭言で編者の共生型経済推進フォーラム代表の津田直則桃山学院大学教授は「信頼と連帯をめざす社会経済システムの創造」で次のように言う。どういう理念か理解するために、また運動の今日的到達点がどこにあるかを知るためにいささか長くなるがその一部を引用する。

 どのような社会を築くべきか。未来はわれわれが描くビジョンの中にある。危機を克服する新たな社会は、矛盾を拡大させている根本の原因を取り除く方策に取り組まねばならない。……経済システムの危機の根底には、利潤追求のための効率と競争が絶対視され、勝者が優れ、敗者は劣っているという誤った思想がある。現代経済学のパラダイムは自由競争を当たり前のように正当化する。しかし弱者の排除を正当化する競争システムは、低次元の人類のシステムとして歴史博物館に葬りさられる時が必ず来るだろう。人間が人間として生きることができる社会経済システムを考える時代が来ている。……連帯社会を築くには、資本と労働の関係を根本から見直すことが必要である。資本が労働を支配する資本主義経済システムは弊害があまりにも大きい。それは資本のエゴを動機として機能するシステムであるからだ。そこから弱者排除の思想が生まれる。生きる者と働く者の主権が尊重される社会に転換する必要がある。効率を無視せず人間と労働を大切にする経済システムの創造は可能である。新しい社会経済システムを創造するための産業民主主義の議論を一歩進めるためには、資本の支配を封じるために、決定参加制度よりも所有参加制度を強める方向に進めなければならない。所有を通じ従業員や労働者の主権を確保する企業形態としては、具体的には従業員所有企業と労働者協同組合がある。労働者協同組合は従業員所有企業の極限に位置する。前に述べたように、資本主義の矛盾が拡大する中ですでにこれらの新たな企業形態が拡大している。米国では、従業員が自社株の五〇%以上を所有する従業員所有企業は一、二〇〇社ほどあるが、そのうちの一〇〇社には、従業員数が最大の一四二、〇〇〇人から最小の一、〇〇〇人まで並んでいる。このような流れは今後、資本主義の矛盾の拡大と共に加速していくだろう。矛盾の大きな米国では未来を築くシステム形成でも一歩先んじているところがある。日本でも意図は別にして新たな従業員持ち株制度の検討が始まっている。この流れを次の新たな経済システムの一部へと導くことが必要である。……営利を原理とする資本主義経済システムの周辺では、それを包囲する非営利システムが非営利セクターに拡大していく形で影響力を強めている。非営利組織の集合体からなるこの非営利セクターがいずれは新たな社会経済システムの核心をなすときが来るだろう。なぜなら、新たな社会を築く連帯の精神は、この非営利セクターが発信源であるからだ。……各国の事例研究から浮かび上がってくるのが、日本での非営利組織の多様性の欠如や連帯の未熟さである。欧州では普通に見られる労働者協同組合はようやく日本でも法制化が近づいてきたが、協同組合間の横のつながりの弱さを如何にして突破するかは大きな課題である。日本にないインフラ的役割を果たす協同組合の設立も課題である。また非営利組織の横の連携も日本では弱い。労働組合と非営利組織、協同組合とNPOなどの非営利連帯の運動が進まなければ連帯社会の実現は容易ではない。今後は非営利連帯の運動を通して、システムとして機能する非営利セクターをめざす研究活動と実践活動が重要となるだろう。実践活動では、運動を仕組みづくりへと展開し、それを制度化(法制化)してシステムヘとレベルアップすることを意図的に行うことが必要になる段階がいずれくるだろう。戦略を策定する全国的なセンターも必要になるだろう。

 資本・賃労働関係とは違う非営利の事業、そうした非営利連帯の運動、そしてシステムづくりへという日本全国、そして世界的な規模で新しい社会経済システム構築への構想である。連帯思想、共生・共存の思想を据えての非営利セクター思想で、経済システムの危機、自然環境の危機、人間性の危機に対応するというのである。
 なお、本書の「帯」に民主党の新人議員の福田衣里子さんが推薦の言葉として「命には一寸の差もない。懸命に生きる方々を支える、社会的事業の試みに希望を感じます」と書いているが、政治運動、労働組合運動と連携したさまざまな社会的事業の発展に人びとの未来がかかっていると思わせることが心に残った。 (H)


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 揺れ動く新政権とその中に潜む危険な動向

沖縄の米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)問題をめぐり、岡田外務、北沢防衛相などが、辺野古移設容認と年内決着発言を繰り返すなか、十二月三日、社民党の福島少子化・消費者担当相が連立離脱の「重大な決意」を表明した。このことで鳩山首相は年内決着を断念し、岡田外務相らに米側への伝達を指示した。
 四日、開催された日米閣僚級作業グループ(WG)の検証作業の会議で、米国のルース駐日大使が顔を真っ赤にして大声を張り上げ、年内決着先送りの方針を伝えた日本側に怒りをあらわに、恫喝したという。
 沖縄の地元紙によれば、この会議で日本側は「移設先の決定は参院選後までまってほしい」と伝えたとされる。なんと、参院選後だと。巷間伝えられる「越年」どころの話ではない。このことの含意は、民主党が参院選で単独で過半数を取り、社民党が連立離脱を言ってもかまわない状況をつくってから、「辺野古移設」容認の決着をつけるということの伏線だ。
 社民党は当面、先送りになったことだけで喜んでいられない。民主党は連立解消を計算にいれて、策をすすめている。いま、こうした策動とたたかっておかないと、後の祭りになる可能性がある。

 小沢一郎はもともと「政権交代可能な二大政党制」の実現が目標だ。衆院選のマニフェストでも民主党は「比例定数の八〇人削減」を掲げた。「政権交代可能な」を看板にしたとしても、二大政党制が民主主義とほど遠い制度であることは言うまでもない。この社会に存在する多様な意見を、わずか二つの政党に集約することなど不可能であるからだ。

 曲折を経て与党三党で合意された「国会改革」案も新年の通常国会冒頭に上程される。小沢幹事長は「我々の活動の場である国会が官僚支配のままでは、何が政治主導かということになってしまう。国会論戦を政治家同士の論戦にすることを優先課題として取り上げていきたい」して、政府参考人制度の廃止、政府特別補佐人として答弁が認められていた内閣法制局長官の答弁を原則禁止とすると主張している。
 内閣法制局の仕事は各省庁作成の法案を閣議にかけるまえに憲法や他の法律との整合性を審査し、チェックすることだった。九条と集団的自衛権に関する解釈などはその仕事の典型であった。内閣法制局は海外での自衛隊の武力行使、戦争加担などに一定の歯止めをかける役割を果たしてきた一方、歴代自民党内閣の解釈改憲の論立てを助け、違憲にあたる自衛隊の海外派兵などをムリヤリ正当化する解釈改憲の本山としての役割を果たしてきた側面もある。
 しかし、内閣法制局の解釈は憲法の縛りからまったく解き放たれた解釈をすることはできず、その論立ては海外派兵や集団的自衛権行使の合憲化を推進しようとする極右派からみればうとましい存在でもあり、改憲派のターゲットとなってきた。小沢からみても同様だ。もしも彼の言うような「国会改革」が実現すれば、憲法解釈をその時々の内閣の政治判断で自由に変えることに道を開くことになり、立憲主義の立場から見ても極めて危険な考えだ。
 これらの問題に限らず、「政権交代」後に生じている、その積極面と問題点を腑分けして、具体的に運動で対応することこそ重要になっている。  (T)


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二〇〇九年冬