人民新報 ・ 第1261号<統合354号(2010年1月15日)
  
                  目次

● 普天間基地即時閉鎖  辺野古新基地建設阻止  名護市長選に勝利し米軍基地NOの声を全国へ、アメリカへ響かせよう!

● 1・30 沖縄集会を成功させよう

● 普天間基地はいらない 辺野古新基地建設を許さない 鳩山政権は強気の対米交渉を!

● 12・23集会  「民主党政権下の象徴天皇制」を問う

● 全労協・春闘討論集会  非正規・外国人労働者と連帯し、春闘をストライキで闘おう

● 労政審の答申は後退だ  労働者派遣法抜本改正を実現しよう

● KODAMA
 
     米メディア日本撤退

     『差別と日本人』を読んで

● 複眼単眼  /  首相年頭会見の憲法問題発言の危険性





普天間基地即時閉鎖  辺野古新基地建設阻止

         名護市長選に勝利し米軍基地NOの声を全国へ、アメリカへ響かせよう!


状況の変化は加速化

 二〇一〇年は、昨年に起きた歴史的な転換が継続し、その深化の年となるだろう。 昨年一月にアメリカ・オバマ政権が、日本では九月に鳩山連立政権が発足した。オバマ政権の発足は、ブッシュ前政権の破綻に基づいている。ブッシュの反テロ戦争という名の侵略戦争はイラクでもアフガニスタンでも泥沼化しただけでなくリーマン・ショック以来拡大し続けている金融大資本の破産などと合流して、これまでの米支配階級による覇権主義強権政治、新自由主義政策が行き詰まったことを示すものとなった。アメリカはこのような苦境からの脱出を図ってもがき、オバマはこれまでと違った方針を出そうとしているが、当然にもアメリカ帝国主義の根本的な利益に抵触するような抜本的な「チェンジ」はできるはずもなく、アフガニスタンへの追加派兵のようなかたちでの対処しかできず、それも反米の闘いを世界各地に拡大させる結果だけを生んでいる。
 歴代の自民党政治は、その最後が麻生太郎に象徴されるような無様な姿をさらし、全国民的な猛反発を招き、総選挙での歴史的大敗を喫したが、鳩山政権は、そうした民意を背景にして生み出されたものである。だが民主党は、党内に新自由主義勢力、旧来の五五年体制的自民党的体質、そして一定の民衆運動の政治的代弁勢力などさまざまグループをかかえて、その党内力関係は流動的である。しかし当面、鳩山政権は、これまでの対米従属と新自由主義・規制緩和政策が支持されていないことを見て取り、連立相手の社民党、国民新党についても考慮しながら政策を実行しようとしている。われわれは、こうした状況を最大限活用して、有利な闘争陣型を形成して闘わなければならない。新しい段階の闘争の特徴は、自民党時代とは違って、民主党の大勝と連立政権の発足が自民党政治への決別という民衆の一定の要求を反映したものであることを確認し、鳩山政権の政策や動向について、その積極的側面を推し進め、運動の幅を大きくし、要求の実現をはかるようにしなければならない。それと同時に、その非民主主義的側面に対して批判し、そのような動きを阻止することが不可欠である。

基地撤去・反安保へ

 鳩山政権の直面する最大の課題は、沖縄の米軍基地問題である。アメリカやそれに呼応する自民党、親米派マスコミ、右派勢力などは、アメリカのトラの威を借りてのキャンペーンを展開しているが、そうした圧力を跳ね返して「普天間基地即時閉鎖」「辺野古新基地建設阻止」に向けての大きな運動のひろがりを形成しなければならない。当面の焦点は、一月二四日に投開票される名護市長選挙である。今回は、これまで実現出来なかった基地反対派が統一候補者を擁立することができた。この選挙に勝利し、沖縄県民の辺野古新基地建設ノーの意思を日本全国とアメリカに対して明確に示さなければならない。引き続いて、夏の参院選、一一月の沖縄県知事選に勝利し、沖縄を先頭に米軍基地の整理・縮小、各地の基地負担の軽減へ、軍事力強化・精鋭化・日米軍事一体化の米軍再編計画に反対する運動を強めていこう。
 核密約をはじめ日米軍事同盟の影を解明させるとともに、これを核密約の暴露を非核三原則の「緩和」=二・五原則につなげようとする逆流を許さず「非核三原則」法制化を実現させなければならない。
 二〇一〇年は安保改定五〇年の節目の年に当たる。これを機会に、日米安保体制の問題を全国的大衆的な論議へとしていかなければならない。対テロを名目にしたアメリカの不当不法な民衆虐殺戦争への日本の加担、一方で米中関係の強化、台湾両岸関係の改善、米朝直接対話への動きなど緊張緩和にむけた情勢が進行するなかで、日米軍事同盟は何を仮想敵としているのか、アジアと世界の平和と安定にためにはどのような政策が必要なのかなどについて論議を起していかなければならない。このことは日朝国交正常化、歴史認識のアジア諸国との共有化と結び付けられなければならない。こうしたことによって日米地位協定の抜本的な見直し、日米軍事同盟廃棄にむけての運動を強め前進させる運動を作り出していこう。
 現在のところ安倍政権の時のような明文改憲の危機は一応去ったとはいえ、鳩山政権下においても解釈改憲の動きや議会制民主主義を骨抜きにしようとする策動がなくなったわけではない。改憲手続法(国民投票法)の具体化を阻止することが課題としてあり、また、また小沢幹事長の主張する「国会改革」は現憲法のもとで積み重ねられてきた憲法による国家への縛りと主権者の権利を破壊する恐れがあり、決して容認できるものではなく、これに反対する声を強めていかなければならない。

派遣法抜本改正へ

 世界的な経済危機は回復の兆しが見えたとの一部の楽観的な報道とは裏腹に、今いちだんと労働者・民衆の生活は日増しに不安定なものにされている。日本でも雇用状況は一段と深刻化しているが、こうしたなかで「諸悪の根源」である労働者派遣法の抜本改正についての運動が大きな山場を迎える。さらに多くの労働組合・労働者・市民の力を結集して、通常国会での改正を実現させ、それに続いて正規・非正規の均等待遇という真の抜本改正を実現するために運動を強めていかなければならない。派遣法改正を突破口にして、労働組合運動の反撃の体勢をつくり、労働者の組織化、労働組合の強化、国鉄闘争をはじめとする争議の勝利的解決を実現していくことが必要である。また経済的危機の激化する時期には労働組合運動の強化だけでなくすでに各種NPOなどにより各地で展開されている雇用・仕事作りの非資本主義的な事業を協力しておし進めなければならない。

新な政治勢力形成へ

 資本主義の危機の深化は、市場至上主義の新自由主義だけでなく、資本主義そのものの危機であり、社会的な規制の必要性、そして資本主義にかわるものとしての社会主義という認識もひろがっていく。今後ますます社会主義政治勢力の再編・統合を求める声は広がっていくにちがいない。反戦・反安保闘争、改憲阻止の運動、労働組合運動などの分野での共闘・協力関係を強めるとともに、積極的にその条件形成のために奮闘していかなければならない。


1・30 沖縄集会を成功させよう

 普天間基地はいらない  新基地建設を許さない  1・30全国集会

   2010年1月30日(土)  14:00開会 16:00デモ行進  日比谷公園・野外音楽堂


 全国集会実行委員会の構成団体の「フォーラム平和・人権・環境(平和フォーラム)」の全国集会参加の呼びかけ(要旨)

 「普天間基地を閉鎖する、新基地建設を許さない」―沖縄県民の声、現地での反対運動、全国での反対運動は、ついに日本政府を動かしました。二〇〇九年一二月一五日、鳩山内閣は、普天間基地の移設先を見直すことを表明したのです。
 もちろん、鳩山内閣の決定は私たちの意向と完全に合致したものではありません。見直される移設先の候補地には、依然として辺野古も含まれています。辺野古での新基地建設を前提とした予算も計上され、アセスメントの手続きも継続されることになりました。
 私たちは、私たちの力で実現した移設先の見直しを鳩山内閣に実行させるとともに、普天間基地の閉鎖と新基地建設の阻止を実現しなければなりません。そのためには、米国政府の圧力に負けない、またマスコミ各社のキャンペーンに負けない市民の声と、その声を作りだすための大衆的な行動が必要です。
 そうした大衆的な行動の第一歩として、二〇一〇年一月三〇日午後二時から、東京の日比谷公園・野外音楽堂で、「普天間基地はいらない 新基地建設を許さない 1・30全国集会」を開催します。
 沖縄と全国、国会議員と自治体議員、労働組合と市民、沖縄に思いを寄せる仲間が集まって、私たちの声と思いを全国に明らかにしましょう。私たちの声と思いで、日米両国政府を動かしましょう。多くの仲間の皆さんがこの集会参加してくれることを期待して、私たちからの呼びかけとします。


普天間基地はいらない 辺野古新基地建設を許さない 鳩山政権は強気の対米交渉を!

 沖縄の普天間基地の閉鎖、辺野古新基地建設阻止、県内移設反対の運動は日増しに広がってきている。鳩山三党連立政権の発足は、これまでアメリカの要求のすべてに即座のイエスを与え、沖縄をはじめおおくの人びとに犠牲を強要してきた自民党政治が終焉したことによって生まれた。こうした情勢を最大限生かし、アメリカの恫喝とそれに呼応する政権内外の勢力、親米マスコミなどの妨害を排して、普天間・辺野古を焦点にした闘いに勝利し、日米同盟という侵略的な軍事同盟の見直しの展望を切り拓いていかなければならない。
 一二月一五日には、民主党、社民党、国民新党の与党三党の基本政策閣僚委員会は、新基地の移設先は当面決めない、移設関連予算は計上し環境アセスは継続するが移設先は与党三党で協議する、そして日米の協議機関を設置すると決定した。いま、いっそう沖縄とかたく連帯した全国での闘いが必要となってきている。

 一二月一五日の午後、首相官邸前で、「普天間基地はいらない 新基地建設を許さない緊急集会」(よびかけ・平和フォーラム、辺野古への基地建設を許さない実行委員会)が開催された。

 ひきつづき午後六時半からは、星陵会館で「普天間基地はいらない新基地建設を許さない12・15緊急集会」(主催・平和フォーラム)が開かれた。参加者は六五〇人を超えて会場からあふれるかつてない状況となり、沖縄基地問題への関心の高まりを示すものとなった。
 集会では、平岡秀夫衆議院議員(民主党)が国会情勢報告。これまでの政権は基地問題などの真相を国民に隠してきた。しかし沖縄・宜野湾市はアメリカ軍などの資料を丹念に分析して、基地は要らないという結論を出している。こうしたことも背景にしながら対米交渉を強力に進めていかなければならない。
 つづいて重野安正衆議院議員(社民党幹事長)の報告。北澤防衛相がグアム移転は困難などと発言したがわずか一日の視察で結論を出すのはおかしいと申し入れた。社民党は与党三党基本政策閣僚委員会の決定では大きな役割を果たすことができた。一月の名護市長選、夏の参院選、そして沖縄県知事選に勝利することが決定的な意味を持つ。
集会には、社民党から山内徳信参院議員、渕上貞雄参院議員、又市征治参院議員、吉泉秀男衆院議員、服部良一衆院議員、中島隆利衆院議員、近藤正道参院議員、民主党からは瑞慶覧長敏衆院議員も参加し一言づつのあいさつを行った。

 つぎに沖縄からの報告。
 ヘリ基地反対協(海上ヘリ基地建設反対・平和と名護市政民主化を求める協議会)共同代表の安次富浩さん。
 今日の集会には多くの人々参加し私たちの闘いに連帯していることに感謝する。夏の政権交代の選挙では、民主党は普天間基地移設問題では「最低でも県外」と訴えたことにこたえて、沖縄では自民党は比例区でも当選させなかった。これは沖縄の自公政権に対する怒りの声だ。それで連立政権には大きな期待を持っていた。しかし岡田外務大臣や、北澤防衛大臣はアメリカとの交渉の中でこうした姿勢を貫いていない。そのことに私たちの大きな怒りが吹き出た。アメリカに対してマニフェストで言っている米軍再編の見直しを堂々と言うべきだった。沖縄の民意は普天間基地即時閉鎖、新基地はNOだ。この声を背景にして、強気の姿勢を持って外交交渉をやるべきだ。
本日の閣僚委員会の決定も、官僚の決めた「年内決着」を止めたことは大きな勝利だが、普天間関連経費が予算に計上された。さらにアセスの手続きは継続されることになっている。いま一番やらなくてはいけないことは、普天間基地の閉鎖をアメリカと交渉することであり、環境アセスメント手続きでは最初からやり直すべきだ。今の政権は「日米同盟」という言葉を平気で使うが、日米同盟とは軍事同盟のことであり、安保条約五〇年という節目に、安保条約を日米平和友好条約に変えることが必要であり、沖縄の闘いとともに国民的な闘いとすることを検討していただきたい。

 沖縄平和運動センター事務局長の山城博治さんの発言。
 今日の集会の盛況が沖縄に伝われば県民は大きな勇気と力をえるだろう。政権交代では大きな展望が開けたと思えたが、新政府樹立以降アメリカからは大変な圧力がかかってきている。
 マスコミは民主党の反米三点セットという論を流してきた。一つは辺野古への基地移設の見直し、日米地位協定の見直し、そして思いやり予算だ。民主党がこれらを見直すと言っていたからだ。ゲーツ国防長官は、辺野古移設が唯一の選択肢として日本政府に求めたが、こうした恫喝に日本政府の大きく動揺している。今日、与党三党が決めたことの後押しをし、そして監視をしていかなければならない。
 しかしながらアメリカはさまざまなことをやってくるにちがいない。日本が六〇年あまりも、米国の属国となって、そして憲法が無いかの如くだったが、いまようやく国民が民主主義の時代を作るときとなった。

 連帯のあいさつは、加藤泉神奈川平和運動センター事務局長、伊藤彰信全港湾委員長、うちなんちゅの怒りとともに!三多摩市民の会の古荘斗糸子さんから行われた。最後に反基地・反戦の闘いを推し進めようと団結がんばろうで集会は終了した。


12・23集会

    「民主党政権下の象徴天皇制」を問う


 一二月二三日、千駄ヶ谷区民会館で「民主党政権下の象徴天皇制――『リベラリズム』とナショナリズム」(主催・反天皇制運動連絡会)が開かれた。
 民主党政権発足後の一一月一二日におこなわれた天皇「在位二〇年奉祝」の式典行事は、当日が自公時代にもくろまれた祝日になることもなく、盛り上がりに欠けたまますぎた。民主党政権発足で危機感をいっそうつのらせる天皇制右翼の活動はどうなるのか、新たな排外主義の兆しの中で、天皇制とはなにかが問われている。

 集会では太田昌国さん(民族問題研究)、浜邦彦さん(早稲田大学教員)、天野恵一さん(反天連)の三人が発言した。

 太田昌国さんは、政権交代で新政権が何を変えるか、また変わらないことはなにか見ていかなければならないと前置きして、次のように述べた。とくに沖縄、米軍基地が中心的な問題になっているが、そのほかにも気になっているのは死刑制度と拉致問題だ。千葉景子法相になってこれまでのようにエスカレーター式の死刑執行はなくなるだろうが、制度そのものがどうなるかだ。死刑制度もすでに一三〇カ国で廃止されているが日本では強固に残っている、天皇制と同じだ。議員会館で死刑囚の絵の展示会などがあって機運はあるが、この問題は票に結びつかないからどうなるのか見ていきたい。拉致問題では、民主党政権下で打開の道が開けるかと期待していたが、拉致問題担当の中井洽国家公安委員長は見るからに悪相であり、自民党時代の権力者のようだ。そしていまなお自公時代の拉致担当だった中山恭子を連れまわっている。まったく自民党時代と変わっていない。
 鳩山や小沢の起訴が取りざたされているが、しかし自民党はそう簡単には立ち直れず、民主党政権は一定期間続くだろう。これは利用して生かしていくという観点が必要だ。いまはチャンスであり逆行したら元も子もないということで、われわれも無縁のところにいるわけではない。しかしここで、ひとつの流れに注目しなければならない。和田春樹はかつて戦後補償問題で「女性のためのアジア平和国民基金」の中心的役割をはたした。彼は、二〇一〇年が「韓国併合」百年にあたり、いま朝鮮・韓国との残された問題の解決のために緊急におこなわなければならないこととして、日朝国交正常化の促進、独島問題の解決とともに天皇のソウル訪問、李王朝の墓に謝罪することなどを主張している。同じ国民基金の大久保保昭は、同じようなことを言っている。昭和天皇はやろうとしなかったが、今の天皇・皇后こそがやるべきだというのである。天皇によるこうした問題解決など見ると、かれらの歴史認識の間違いがわかる。
 また民主党政権では永住外国人の地方参政権問題や夫婦別姓問題がある。小沢はやろうとし、実現する可能性は高い。これを生かすことは必要だが、民主党内の右派との分裂をどうするかだ。

 浜邦彦さんは、「自己責任」や「自己実現」という言葉のネオリベラリズムがナショナリズムの基盤になっていると話を始めた。大学では、みんな自分のことしか興味がないというなかで、教養教育は崩壊している。社会に関わりたくない、一度競争社会から滑り落ちたらどうしようもないという滑り台社会という考えが蔓延している。ネオリベラリズムでは、国家の役割を小さくしていくことが主張されるが、その実はグローバリゼーションの中で国家の政治的役割は高まっている。企業はボーダレス化と国家のボーバフル化が一体となっている。例えば、アメリカなどをはじめ出入国での監視・管理体制の強化があげられる。そのように、ネオリベラリズムでは国家の役割が、福祉国家から監視国家になる。
 競争社会は、格付け社会でもある。就職活動でも自分が他者からどのように見られているかが非常に気になる。自己分析、そして自己分析だ。他者からの関わりを恐れ、他人からの批判を受け入れられない。少しのことでも、人格を否定されたと逆上してしまう。これは、勝ち組、負け組みという乱暴な二分法から来ている。自分がどうなるかということでも、内容でなく、外面的なスタイルになっている。どういう人と見られるかが重要なのだ。
 重要なのは公共的なものの位置だ。いま「公」(オープンネス)と「共」(コモンズ)が分離していて、みんなのものという「共」が失われているのだが、民主党政権の誕生で、パブリックなもの、国家などとは何かが問い直されなければならないという考えが社会的に生まれてきているように思える。ますます激しくなるパイの奪い合いでなく、コモンなつながりが、とくに若い人たちに希求されているのではないだろうか。反貧困ネットワークなどの運動が広がっているが、こうしたものの中に「共」の次元が出てきているのではないかと思う。

 天野恵一さんは、一二月二三日は天皇誕生日だがA級戦犯が死刑にされた日でもある、アメリカという国はそうしたことを今の天皇が皇太子のときから記憶させているのである、として発言した。
 天皇の外国要人との会見は一ヶ月前までに打診するという「一カ月ルール」なるものが破られたとして羽毛田信吾宮内庁長官が習近平中国国家副主席と天皇との会見に対して、天皇の政治的利用だと記者会見で述べ、そのことに小沢一郎民主党幹事長が反論する事態がおきた。小沢は、憲法第三条の「天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ」のだから当然だといっている。そして朝日新聞、産経新聞など全紙が政治利用はだめだという論調だ。天皇の公的行為は、天皇の動きを規制しようという戦後護憲派の憲法論が作り出したものだが、今回のことは象徴天皇制を考えると面白い事態となってきている。
 右翼は民主党政権の夫婦別姓、外国人参政権、天皇訪韓に反対する行動を起こしている。かつての天皇訪中の時には、それに反対する右翼の大連合ができた。民主党政権下では、天皇訪韓反対の大連合となる可能性がある。しかし事態はかつてとはかなり違ってきている。鳩山ブレーンといわれる寺島実郎が、世界秩序を米中による「G2化」(二国主導化)ととらえているように、自民党時代の政治構図とは大きく違う。外国人労働力の活用をねらう財界にとっても右翼はジャマな存在となりつつある。こうした中で、右翼とわれわれは、方向性は正反対ながらもともに天皇訪韓に反対するということになっている。これはかつての天皇訪中時と同じだ。
 象徴天皇制とはもともと政治利用される存在であり、どっちの側が利用するかの問題に過ぎない。戦後の象徴天皇制は日米安保体制と一体だった。民主党にしても鳩山由紀夫も天皇元首論だ。しかし、民主党政権はアメリカとは一定の距離をとろうとし、その中で中国も問題も出てくる。こうした構図はかなり奇妙で一時的には判断しにくい。政権交代と民主党政権の出現とは、そういう時代に入ったということだ。こちらもいままでの言説とは違ったものにしていかなければならない。民主党は靖国神社でない別の追悼施設の設立を言う。たしかに靖国ではアジア諸国だけでなくアメリカとも関係がまずいからだ。鳩山政権のもとで、われわれははじき出されるのではなく、介入するような運動を行うべきだろう。


全労協・春闘討論集会

   
 非正規・外国人労働者と連帯し、春闘をストライキで闘おう         

 一二月九日、東京・交通会館ビルで全労協(全国労働組合連絡協議会)「10春闘討論集会」がひらかれ、一三〇名を超える労働者が参加し、生活できる賃金、均等待遇化、労働者派遣法抜本改正などを実現するための反転攻勢の春闘の構築をめざす意思一致をおこなった。

 はじめに主催者を代表して藤崎良三全労協議長が挨拶。市場原理主義の破綻の中で、自公が大惨敗して政権交代が実現した。企業優先から人間優先へ、中央集権から地域主権へと世の中が変わっていき、労働組合の果たす役割、それへの期待が高まっている。こうした状況にもかかわらず、連合大企業労組ははやばやと春闘での賃上げ要求をしないこととをきめた。これからの春闘では、賃上げ、雇用、派遣法抜本改正などとともに非正規、外国人労働者と連帯していく活動が不可欠である。春闘を多くの労働者とともに、この社会を変えていく、新しい歴史をつくっていく春闘にしていかなければならない。

 記念講演は、熊谷大学の脇田滋教授の「非正規労働者の均等待遇と労働者派遣制度の抜本的問題点」。二〇年前の一九八八年には正規雇用が八一・七%、非正規は一八・三%だった。それが一九九九年の労働者派遣法の派遣業務の原則自由化によって非正規化の速度が上がった。そしてその一〇年後には、非正規労働者は三四%となった。それと同時に、低賃金労働者が急増した。年収二〇〇万円以下の人が一〇三二万人と、雇用労働者の四・四人に一人という割合になっている。生活保護基準以下の「自立できない賃金」の労働者が急増している。はじめは主に女性だったが、最近は男性のワーキング・プアが増えてきている。かつて一九七〇年代には雇用の九〇%以上が正社員で、新規学卒採用、年功賃金・年齢給、企業内職業訓練(OJT)、企業内福祉、そして企業別労働組合の団体交渉というものがあり、それが日本的雇用といわれてきた。もちろんそれと同時に労働条件の企業間格差や男女別処遇が存在していた。しかし、それがいま激変している。二〇〇九年の労働経済白書によると、正規・非正規の収入格差を就業形態別年収分布で見ると、正規では、もっとも多いのが二〇〇〜三九九万円、パート・アルバイトでは五〇〜一四九万円、派遣、契約、嘱託で一五〇〜二九九万円となっている。全般的に低額であるがとくに非正規では際立っている。
 世界の常識では、不安定な派遣労働者の待遇は正社員より上にしてやっとバランスが取れるのである。例えばドイツ、フランスなどEUでは、全国協約で仕事別に同一労働同一賃金が決まっている。派遣元は中小零細レベルの労働条件、派遣先の多くは大企業であり、企業別労働条件格差が当然とされる日本とはまったく違っている。
派遣先が派遣労働者を受け入れる理由の多くが、経費が割安、常用雇用抑制、雇用管理負担の軽減、雇用調整が容易などであり、一時的臨時的な業務量の増大に対処するためとか欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるなどという派遣法制定のうたい文句とはちがう実情がある。
 日本ではこうした雇用を長期化させようとしているが、韓国などでは事情が大いに異なっている。韓国の労働者は、解雇は殺人だ、総雇用を保障せよと要求して闘っている。そして、二〇〇七年七月一日から韓国「非正規職保護法」が施行されることになった。その主な内容は、短時間労働で二年使用以後には正規職に転換する、派遣労働では二年使用以後には正規職に転換することが義務とされる。こうして、短時間勤労、派遣労働者の差別の是正がはかられているのである。こうした差別是正は漸進的に適用されている。
 正規・非正規の格差が社会の両極化を生んでいることはひろくみとめられるようになっている。やはり労働組合のナショナルセンターとしては「非正規撤廃」を基本方針にするべきだろう。韓国の民主労総は、企業別労組を解散して大産業別労組を実現している。二〇〇八年七月現在で約七五%が産別化している。日本でも企業別の限界を乗り越え、産別への活動が求められている。

 休憩の後、中岡基明事務局長が「10春闘方針」(別掲)を提起した。
 決意表明では、都労連、国労、国労闘争団、全統一労組、パナソニック電工の派遣切りと闘う佐藤晶子さん、宮城合同労組、郵政労働者ユニオン、昭和シェル労組、大阪ゼネラルュニオン、宮城全労協、電通労組、ユニオン北九州から春闘への闘いの決意が表明された。
 最後に、団結がんばろうで、10春闘のへの決意を確認して集会を終った。

全労協(全国労働組合連絡協議会)の 春闘方針(要旨)

1、闘いの大きな目標
 10春闘は新自由主義グローバリゼーション、市場原理主義によってもたらされた「貧困と格差社会」を転換し、安心して働くこと、安定した生活が享受出来る社会へ作り替えるための闘いの場である。
 民・社・国連立政権の成立と政権合意事項を支持し、労働者のための政策を積極的に提言すると共に、その実現のために大衆的な闘いを作り出していくことになる。……全労協は10春闘を以下の闘いを目標に、全ての仲間と共に、職場で団結を強め、地域に共闘を建設し、全国で大きな闘いの奔流を創くりだし、10春闘勝利にむけて全力を挙げる。そして、闘いの中で未組織労働者ひとり一人に、労働組合の闘いを見えるものとし、また頼れる存在として印象づけていかなければならない。未組織の仲間の組合結成を助け、また一人の労働者でも組合に加入できるように全力を挙げよう。
●生活できる賃金の引き上げを!不況理由の首切り・リストラを許さない!
●全て労働者に仕事を!
●最低賃金の引き上げ!公契約条例の制定
●人間らしい生活と仕事の実現!―長時間労働禁止、未払い残業の撲滅
●労働者派遣法の披本改正の早期実現―登録型派遣の禁止、製造業派遣の禁止、見なし雇用制度、均等待遇
●貧困・格差社会反対!非正規労働者の権利確立・均等待遇実現!
●国鉄闘争勝利!全ての争議の勝利に全力を挙げる
●未組織労働者の組合加入に全力を挙げる!
●憲法を守り、沖縄から基地をなくし、核兵器廃絶のために闘う!
4、闘いの進め方
 (1)10けんり春闘全国実行委員会を発足させて闘う
 (2)全ての職場で積極的にスト権を確立し、ストライキを配置してたたかう。
 (3)中央一地方での取り組み
@中央での取組み
 中央段階では対政府への政策要求闘争、対目本経団連へは総人件費抑制策の撤回、派遣切り、雇い止め、リストラを行わないよう要請行動を強めていく。
A地方での取組み
 地域段階で春闘共闘を形成し、共同行動を追求する。各職場の決起集公等に激励を交換し、地域春闘を盛り上げるため、出来るところは地域デモなど組織する。地域でも春闘が労働者・住民に見えるものにしていく。公契約条例制定を獲得するためにはそうした積み上げが重要である。

スケジュール
 一月二二日―東京全労協二〇周年記念と全労協新年旗開き(スクワール麹町)
 二月三日―10けんり春闘発足総会と春闘学習会(全水道会館)
 二月一六日―10春闘勝利!日本経団連闘争(経団連)、国鉄闘争勝利総決起集会(日比谷野音)
 三月七日〜八日―外国人労働者総行動(マーチ・イン・マーチ)
 3月中・下旬―(産別・労組)ストライキを含む行動を展開
 4月中央総行動・総決起集会 


労政審の答申は後退だ  労働者派遣法抜本改正を実現しよう

 労働者派遣法の抜本改正運動が広がっている。そうした声の高まりの中で、労働者派遣法の抜本改正を目指す共同行動や全労協など多くの労働組合は、旧態依然のままの労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)にたいして抗議行動を展開してきた。ところが労政審は昨年末の一二月二八日に、派遣法改正へ向けた報告書を長妻昭厚労相へ答申した。これは自公政権時代の〇八年一一月の改正法案に比較して、「派遣労働者の保護」の明記、登録型派遣や製造業派遣を原則禁止すること、「マージン率」の情報公開、派遣労働者の「みなし雇用制」(法違反など一定の要件に合致した場合、派遣先事業所と派遣労働者との間に無条件で雇用関係が成立したとみなす制度)などの規定は一定評価できるとしても、それらにも「抜け穴」が多くあり、まったく不十分なものであることを見ておかなければならない。そして施行期日が先送りされ暫定措置が設けられてことや、いわゆる「常用型派遣」の定義がなされていないこと、遣先の団交応諾義務など派遣先の責任を強化する規定がないなどの批判されるべき点が多いものであり、これは、前通常国会で提出された民主・社民・国民新の三党案よりはるかに後退したものである。企業の側は、派遣禁止は労働者の雇用機会を奪うとして逆攻勢をかけてきているが、失業率が高まり、有効求人倍率が低下する中で、労働者が「働きたい時に働く」などというかれらの主張がいっそう詭弁であることが明らかになってきている。対政府・国会闘争を強化し、労働者派遣法抜本改正に向けての闘いを強めていかなければならない。

特定非営利活動法人・派遣労働ネットワーク(代表・中野麻美弁護士)は、「労働政策審議会建議に対する見解」で以下のように述べている。     
 「偽装請負」「日雇い派遣」「派遣切り」は、労働者派遣制度の根本的構造的矛盾が露呈したものであった。雇用とは人間の生活を支えるに足りる「安定」を本質的に要請するものであり、仕事とは誇りと社会的価値の源泉であって、人間の尊厳に値する条件のもとで営まれることを要請している。こうした社会の要請を完全に否定するかのように、使用者が雇用に対する責任を放棄し、明日の生活も見えない細切れ「雇用」と最低労働基準さえ遵守されない過酷な貧困労働を拡大し、大事にされるべき働き手を機械のパーツのように使い捨てるツールとして労働者派遣制度が利用されてきた。そうした状況から決別し、労働者保護を基本とした法制へ転換することであったはずである。
 しかし、本日公表された労働政策審議会建議の内容は、そうした時代の要請・期待からすれば、きわめて問題と言わざるをえない。
 第一に、旧野党共同法案を基本にするのではなく、すでに国民の支持を失っていた自民党政権のもとで政府が第一七〇回臨時国会に提出した改正法案をベースとしており、「期間の定めのない雇用労働者については派遣先による特定を可能にする」という規制緩和が盛り込まれた。これは、雇用責任を負担しない派遣先は派遣労働者の決定権を有しないという労働者派遣制度の本質的要請を否定するものであり、これが実現されたときには、大手を振ってまかり通ってきた事前面接による派遣決定が公然と横行することを許し、「ユーザー」である派遣先の支配が格段と強化される。派遣先が、法的に雇用責任を負担しないという労働者派遣制度のうまみを享受しながら、労働者の雇用に支配力を行使し、影響を及ぼすことができるようになれば、労働者の生活と権利は、派遣先の我が儘によって翻弄され、根底から否定されてしまうことに強い懸念を抱かざるを得ない。
 第二に、今回の改正に問われたものは、「雇用」の回復であり、派遣先の労働関係上の責任を格段に強化することであったが、以下の点で極めて不十分なものにとどまった。
 @ 派遣元の雇用責任さえかなぐり捨てた「派遣切り」の温床=登録型派遣の禁止については、「常用型」と「登録型」の区別が明確でなく、これまでの登録型を常用型と言い換えただけの責任逃れがまかり通ってしまう。
 A 派遣受入範囲の再検討については、適用対象業務及び受け入れ期間制限による労働者保護に対する実効性を多面的に検証することなく、二ヶ月以内の有期雇用による派遣について大幅な例外を認めた。また、かねてから必要が指摘されていた二六業務の再検討も示していない。
 B 旧野党共同法案で打ち出されていた団体交渉への応諾義務を含む派遣先の労働法上の共同責任制については、基本的に先送りして、悪質な法逸脱に対して「派遣先が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものとみなす」制度のみを導入した。しかし、その契約内容はあくまで派遣元の労働条件と同一の内容となっている。
第三に、派遣労働者の人間としての尊厳を確保するに足りる制度とすることも課題であったが、派遣元の均衡考慮の努力義務にとどまった。派遣労働者も派遣先に直接雇用されて働く労働者と同じ人間であり、派遣労働者であることを理由として差別されてはならないはずである。派遣労働が、雇用のあらゆるステージにおいて、完全な労働法上の権利を享受することができ、また待遇において差別されない権利を確立すべきである。
 派遣労働ネットワークは、労働者派遣制度を四半世紀にわたって運用してきた歴史の節目にふさわしい真の法改正の実現に向け今後さらに働きかけを強める決意である。


KODAMA

米メディア日本撤退

 年が明けて朝日新聞などが、「タイム」東京支局(東京・六本木ヒルズ)の編集部門を閉鎖し(一月八日)、常駐の特派員と編集スタッフの解雇などについて「米大手誌の日本離れ加速」などと報じている。「世界的にネットを利用したメディアが台頭していることが背景」での「広告収入の低迷」が原因だという。すでに昨年春には、米大手誌「ニューズウィーク」も東京支局を閉鎖し、一二月には、経済誌「ビジネスウイーク」が東京支局の編集部門を米金融情報大手ブルームバーグに統合した。こうした一方で、米メディアは中国であいついで支局を開設している。
 今年はGDPで日本は中国に抜かれることが確実で、アメリカのアジア(中国)シフトのひとつの表れでもあろう。安保改定五〇年の今年、日本がアメリカとアジアに対する関わり方も見直しを迫られている。 (H) 

『差別と日本人』を読んで

 最近、野中広務(元衆議院議員)辛淑玉(人材育成コンサルタント)対談『差別と日本人』(角川書店)を読んだ。実に面白かった。
 あえて私見は書かずに本文中の文章をひろい書きして紹介して、その面白さを分かち合いたい。

 野中 自分の出生問題の波及の大きさ、日本の閉鎖性と、僕はずっと闘ってきた。誰も手をつけなかった同和利権に関する税の問題などは、自分が政治家でいる間につぶしておかなければ、永久にこれは続いていくと思った。
 辛 日本で始めて教科書の無償化を実施したのは野中氏が町長の時だ。
 貧困と差別との闘いの中、教科書無償化が解放運動と共に全国化していった。身内に対してより厳しい彼の姿勢は、ときに「解放同盟憎し」となって現れた。
 野中 (麻生太郎が「野中やらAやらBやらは部落の人間だったから総理になってどうするんだ。ワッハッハ」と笑っていた。)
 野中 私にとっての戦後処理とはわが国が他国を侵略したんだと。どうも自らが戦後問題の処理をしようという意欲に欠けているのではないか。中国大陸の遺棄化学兵器の問題がある。また強制連行者の問題、それから原爆被災者の問題。
辛 国歌といってもただの歌に過ぎず、どの歌を歌うか歌わないかはしょせん個人の嗜好。9・11以降アメリカでさえ、教育現場で「歌いたくない人は歌わなくてもいいのです」と前置きされた。国旗国家法案は、最大の抵抗勢力、広島の解放同盟を叩く意味でもおおきかった。ターゲットは広島県連の小森龍邦だったと言われている。
 野中 中学二年のときに「あいつは部落の人間だよ」って、後ろから歩いてくる連中が言っているのを聞いて、初めて僕は自分が部落出身者だということがわかった。それからですよ、「なにくそ」と思ったのは。それから自分を意識しだした。
 辛 この人なら、私たちの気持ち(注・在日朝鮮人)をわかってくれるのでは、と多くのマイノリティが野中氏にすがった。それはマイノリティだからわかる「におい」が野中氏にはあるからだ。

 野中氏については批判すべき点も多いが、対談者の二人とも「差別」によってこの世に押し出された右と左のスターであり、ともに、与えられた環境のなかで叫び続けてきた人生といえるだろう。
 なお本書には、石原慎太郎、小泉純一郎、竹下登、オバマ大統領、亀井静香、土井たか子、DAIGOなんかもどんどん出てくる。
 値段も手ごろなので皆さんも一読してはどうだろうか。 (R・T)


複眼単眼

  
首相年頭会見の憲法問題発言の危険性

 年末から新年にかけて、鳩山首相はたてつづけに憲法問題に触れて発言した。一月四日の年頭記者会見では憲法問題について次のように述べた。
「憲法に関しては、自分なりの憲法というものはかくあるべしという議論は、当然政治家ですから、国会議員ですから、一人ひとりがもちあわせるべきだと思います。その意味で私は自分としての、自分が理想と考える憲法というものを、試案として世に問うたところでございます。それはむしろ安全保障ということ以上に、地域主権という国と地域のあり方を抜本的に変えるという思いでの発想に基づいたものでございました。ただ一方で、内閣総理大臣として、憲法の順守規定というものがございます。その順守規定、当然憲法を守るという立場で仕事を行う必要がございます。そのことを考えた時に、憲法の議論に関しては、いわゆる与党、連立与党三党、特に民主党として民主党の考え方というものを、憲法の議論を進めていくなかでまとめていくことが肝要かなと、そのように思っておりまして、私はやはり憲法の議論というものを国会議員として抜きにするべきではないと、そのような発想を持ちながら、しかし今の現実の経済の問題などを、国民の皆様方の切実な問題を解決させていくことが、政府の最重要課題だという状況なのかと。それからやはり順守規定のなかで、憲法の議論は与党のなかで、またこれは超党派でと言うべきだと思いますが、しっかりと議論されるべきではないかと、そのように思っております。従って憲法審査会の話も、国会のなかで与党と野党との協議でお決めになっていただくべき筋の話だと、そのように思っております」と。
 「国会議員として憲法論議は必要だ」と一般論に紛れ込ませてのべながら、鳩山首相はかつて自ら出版した「新憲法試案」(二〇〇五年「PHP」出版)を肯定的に再確認した。その「中身は安全保障という以上に地域主権問題が重要」だなどと弁解している。しかし、これは安全保障問題=九条改憲を否定した発言ではない。この本で鳩山は明確に九条改憲を主張している。
 憲法の議論は与党三党、特に民主党の中での議論が必要だ、超党派の議論が必要だという。これは自民党に乗ずる隙を与えている。
 「憲法審査会を動かすかどうか」の質問に答えて、「与野党の協議で決めろ」と述べた。
 鳩山首相は、憲法審査会の設置を旧自公政権与党が強行した経過を真剣におさらいすべきだ。首相のこんな無責任な発言は審査会の始動につながる恐れがある。
 連立与党の一角を担う社民党は、この鳩山発言に釘を刺すべきだ。「改憲に手を付けてはならない、憲法審査会は法律の制定過程から見て問題が大きいし、またその内容も国会の超党派の合意を不可能にしてつくられた、仕切り直しが必要だ」と。この発言はあいまいにしてはならない。放置すれば、今後もたびたび出てくる。それが改憲の世論準備につながることになる。(T)