人民新報 ・ 第1287号<統合380号(2012年3月15日)
  
                  目次

● 1000万署名を実現しよう  脱原発大きなうねりを!

● オスプレイ配備阻止!

● 3・1朝鮮独立運動九三周年集会   韓国・総選挙と大統領選で進歩陣営の勝利めざす

● 泊原発を止めろ! さよなら原発1000万人アクションin釧路集会

● 2・21東京総行動  経団連などへ申し入れ

● 「国鉄闘争を継承する会」結成総会   新たな闘いのスタートを確認

● 国会周回一〇四七kmマラソン完了

● JR東日本の違法経営責任を追及する株主代表訴訟第一回裁判

● 欧州債務危機とマルクス恐慌論の再起動  @  

● 映 評  /  「劇場版テンペスト3D」

● 書 評  /  3・11一周年を目前にして ― 高橋哲哉著「犠牲のシステム福島・沖縄」

● せ ん り ゅ う

● 複眼単眼  /  電信柱が赤いのもみんな九条が悪いのよ






1000万署名を実現しよう  脱原発大きなうねりを!

 東日本大震災・東電福島原発事故から一年を前に、二月一一日に、「再稼働を許すな!さようなら原発一〇〇〇万人アクション全国一斉行動」が全国各地でさまざまな取り組みが展開された。
 各地の集会では、さようなら原発一〇〇〇万人署名達成へむけての活動をさらに強めること、そして三月一一日の「原発いらない!福島県民集会」(福島県郡山市)の成功をかち取ることが呼びかけられた。

 東京では、代々木公園での集会と二つの隊列でのデモが行われた。一〇〇〇万人アクションの呼びかけ人の大江健三郎さん、澤地久枝さん、落合恵子さん、福島からは福島県平和フォーラムの永山信義さん、つながろう!放射能から避難したママネット@東京の増子理香さん、福島県有機農業ネットワークの菅野正寿さんがアピールし、俳優の山本太郎さん、タレントの藤波心さんが発言した。この行動には一万二〇〇〇人が参加した。

 さようなら原発一千万人の署名(「脱原発を実現し、自然エネルギー中心の社会を求める全国署名」)は、三月六日現在で署名数五、〇二二、四四一筆となった(締め切りの五月三一日)。
呼びかけ人のひとりである澤地久枝さんは、「かかげた目標は達成されるべきで、可能であると思います。全原発停止の事態が目前です。…私たちの意志で全ての原発が永久停止となるように、署名運動をやっていきましょう」と述べている。一千万人署名を達成しよう。

 三月一一日には、福島県民集会をはじめとして、全国で脱原発行動を成功させ、一日も早く全原発を止め、再稼動を許さず、廃炉と脱原発社会を実現させよう。


オスプレイ配備阻止!

 日米政府は、沖縄・米軍普天間飛行場に垂直離着陸輸送機MV22オスプレイを配備しようとしている。世界一危険だとアメリカ自身が認める普天間に事故続出のオスプレイを加えるというのである。
 沖縄の基地負担・危険性の増大はいっそう大きいものとなる。当初の米軍の計画では、一〇月から普天間に一二機、最終的には二四機の配備計画だった。しかしオスプレイ配備への反対の声は急速に強まっている。

 宜野湾市議会の三月一日定例会が開会した。
 佐喜真淳市長は、オスプレイは危険であり、基地強化になるとして、配備に反対する市民大会開催を明言した。また普天間基地の県内移設については、現実的に不可能だとして、普天間飛行場の早期閉鎖、返還と県外への移設を知事と連携して日米両政府に強く訴えていくと述べた。
 
 こうした沖縄の対応に対して、日米両政府は、オスプレイを本州の在日米軍や自衛隊飛行場に一時駐機させることとし、沖縄への直接配備を避け、反発をそらそうとしている。当面、横田基地(東京都)、岩国基地(山口県)、三沢基地(青森県)などに置いておき、秋までに普天間に配備しようとしている。

 オスプレイの危険性と日米政府の悪辣で姑息なやり方を暴露し、沖縄の闘いと連帯して全国からオスプレイ来るな!の運動を作り出していこう。


3・1朝鮮独立運動九三周年集会

    
韓国・総選挙と大統領選で進歩陣営の勝利めざす

 二月二五日、文京区民センターで日韓民衆連帯全国ネットワークなどで構成する実行委員会が主催して、韓国ゲストを招き「3・1朝鮮独立運動九三周年 韓国・沖縄の人びとと連帯し平和つくろう!集会」が開かれた。
 渡辺健樹さん(日韓民衆連帯全国ネットワーク共同代表)が主催者を代表して挨拶し、つづいて、韓国ゲストの講演が行われた。孫美姫(ソン・ミヒ)さん(全国女性連帯、世の中を変える民衆の力共同代表)が、今年の国会議員選挙、大統領選などをめぐる政治決戦における韓国進歩陣営の闘いについて話した。
 今年は3・1万歳運動の九三周年にあたる。それは外国勢力に反対する自主化闘争、民族自主運動―朝鮮独立運動であり、二〇〇二年に女子中学生ヒョスンさん、ミソンさんが米軍装甲車にひき殺された事件に対する闘い、韓米FTA反対闘争などにつづく現在進行形の運動といえる。この外国勢力による分断に対する反外勢・自主化の闘いは統一の日まで続くものだ。「従軍」慰安婦問題についての日本政府からの公式謝罪および法的補償を要求するため、韓国で挺身隊問題対策協議会などによって毎週水曜日に在韓日本大使館前で行われている「水曜デモ」は一〇〇〇回を越えた。ハルモニたちは高齢化しつぎつぎと亡くなっている。時間の余裕はないのだ。早期に解決するように韓日両国で運動を強めていかなければならない。
 今年は、アメリカ、ロシア、中国などで指導者が交代する時期だ。日本の野田首相も短命で、新首相になる可能性が高い。韓国では四月一一日の総選挙と一二月一九日の大統領選挙がある。これに進歩・改革陣営が勝利することは、国際情勢を能動的に転換させることになり、南北対決や東北アジアの緊張を解消することができるだろう。これはまた、民族共同の利益と東北アジアの平和実現であり、アジアの共同体構築の必須要素である。そして朝鮮半島の平和と統一の実現も可能となる。
 保守与党のハンナラ党は党代表選での買収疑惑や李明博(イ・ミョンバク)大統領周辺者の相次ぐ不正発覚で支持率が低下して崩壊状況になり、党の名称をセヌリ党に変えてイメージの一新を図ろうとしている。これまで大統領候補でダントツ一位を続けていたハンナラ党=セヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)だが、いま支持が下がって、野党候補の支持が上昇している。
 しかし、こうした対決構図が作られるにつれ、民主労働党、国民参与党と進歩統合連帯が合同して結成された左派政党である統合進歩党の支持率が急激に下落した。一〇%以上だった支持率が四〜五%に留まっている。野党勢力と在野市民勢力の連帯の可能性を高めるためにも、進歩党の支持率が上がらねばならないが、大衆闘争を活性化させることがキーポイントである。
 韓国経済は苦境にある。輸出が鈍化し貿易収支が急激に悪化した。不動産バブル崩壊により中堅建設企業の不渡りが頻出している。そして不正・腐敗がはびこり、政権から民心は離反して、国民の怒りは爆発寸前だ。最近の国会議員、自治体首長の補欠選挙とくにソウル市長選挙では在野市民運動が連帯し候補者の一本化をはかって勝利した。こうしたことが出来るならほとんどの地方で進歩・改革陣営の勝利は確実となる。
 現在、さまざまなことが試みられている。民主党と進歩党、「進歩連帯」などによる「二〇一二年勝利と二〇一三年希望のための円卓会議」の討議の中で、韓米FTA破棄、大学の学費半額値下げ実現などの福祉の増進、北側への人道支援を含め全ての交流と協力の中断を宣言した「5・24措置」の解除と二〇〇〇年六月の平壌での韓国の金大中大統領と北朝鮮の金正日国防委員長による南北首脳会談の合意文章である「6・15共同宣言」の履行などの平和統一政策、教師や公務員の政治基本権実現をはじめとする二〇の主要な共同公約を発表した。選挙闘争と共に強力な大衆闘争を繰り広げるために、事案別の対策機構も結成されている。
 進歩陣営は選挙運動の中で、李明博政権の南北対決、戦争政策に反対する強力な大衆闘争を展開し、南北の和解と協力、平和と統一への国民的意志を確認しようとしている。二月二七日から実施される「キー・リソルブ」軍事演習反対、三月一五日発効される韓米FTA反対闘争、三月二六日の哨戒艦「天安号事件」二周忌と三月二六〜二七日に行われる「核安保サミット」に対抗する運動を市民社会団体と共同の機構をつくり闘争を準備中である。
 四月の総選挙で勝利し、年末の大統領選では候補者一本化を実現させ、セヌリ党の候補者と一対一の対決で選挙を行い、勝利し、来年の「3・1節記念、韓日共同シンポジウム」は、進歩・改革政府成立の祝賀のなか、韓国で開催したいと思っている。
 つづいて、沖縄・一坪反戦地主会関束フロック、VAWW RAC(「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクション・センター)、「高校無償化」からの朝鮮学校排除に反対する連絡会から報告がおこなわれた。

 最後に、日本側実行委員会と韓国側「進歩連帯」による「韓米合同軍事演習に反対する日韓(韓日)民衆の共同声明」が確認された。それは、「平和を願う日韓(韓日)の市民・民衆」の名において以下の事項を関係する諸国政府に要求した。
 一、韓国政府は、韓米合同軍事演習を中止し、6・15、10・4宣言(南北関係発展と平和繁栄のための宣言 二〇〇七年一〇月四日)を履行せよ!
 一、米国政府は、韓米合同軍事演習を中止し、北朝鮮との対話をはかり、六カ国協議の再開などあらゆる場を通じ、停戦協定の平和協定への転換を行え!
 一、日本政府は、韓米合同軍事演習へのあらゆる加担をやめ、軍事緊張をもたらす韓米軍事演習への反対を公式に表明せよ! 「制裁」を解除し日朝正常化交渉を再開せよ! 普天間基地を閉鎖し、朝鮮半島やアジア諸国への出撃拠点となる辺野古新基地建設計画を撤回せよ!


泊原発を止めろ! 原発から故郷の海と子どもたちを守りたい!  

     
 水温観測35年目!    さよなら原発1000万人アクションin釧路集会

 東日本大震災から一一ヶ月目の二月一一日、釧路において『さよなら原発一〇〇〇万人アクションIN釧路集会』が開催され、市民や労働者、学生など約三五〇人が参加した。

 集会は釧根(釧路・根室)平和運動フォーラム、脱原発ネット釧路、いのちとくらしを守る釧路市民会議の三団体で構成する実行委員会が主催し、『原発から故郷の海と子どもたちを守りたい!』と題して、泊原発に隣接する岩内町で活動している元保育士の斉藤武一(岩内原発問題研究会代表・泊原発廃炉訴訟原告団団長)さんが講演した。

 斉藤さんは、手製の紙芝居を使って、原発が泊村に建設されるまでの経過や北海道電力や行政による反対運動の切り崩しの実態などを解説し、数々の弾圧や脅迫などを跳ね除けて三五年間行ってきた「原発周辺海域の水温観測」の様子や結果などを報告した。
 それによると、観測開始から三〇年目の二〇〇八年に、「原発からの温排水によって、岩内の平均海水温は〇・九度(自然変動分を除くと〇・三度)上昇し、スケソウ漁を中心とした地元の漁業はほぼ壊滅状態に至ったという。また、「『原発がくれば町も発展する』と推進派は言っていたが、岩内町の人口は原発建設前の半分にまで減少し、泊村はガン死亡率北海道一となっている」と、原発によって荒廃が進む現状を訴えた。
 そして、福島原発の事故による放射能汚染に触れ、内部被曝の危険性やセシウムによる影響で、膀胱ガンの発生増加、放射性銀がカドミウムに変化することで「イタイイタイ病」の発症が危惧されると警告した。
 さらには、この講演会の開催地である北海道東部地方には、北海道の中でもセシウムが多く降ったので、学校ではグラウンドの放射能測定が不可欠だと指摘した。
 最後に、今後も温排水の測定を継続し五〇年目を目指すことや、共に運動を強めていくことを参加者に呼びかけ、集会を終了した。


2・21東京総行動   経団連などへ申し入れ

 二月二一日、八時四五分の総務省前集会から二〇一二年の初の東京総行動ははじまった。今回は総行動開始から一四九回目にあたる。
 正午からは、経団連前で一八〇名の抗議集会を開催した。
 12けんり春闘全国実行委員会を代表して金澤壽全労協議長が挨拶。経営側の春闘対策方針である経団連経営労働政策委員会報告のタイトルは「危機を乗り越え、労使で成長の道を切り拓く」となっている。それは、ベースアップ交渉には応じないというかたくなな姿勢で総額人件費抑制政策を強力に推し進めようとするものであり、労働者の年収が大幅に下がる一方で、大企業が巨額の内部留保をため込んでいる。この方針は、ワーキングプアを激増させ、労働者の生活を破壊するものだ。経団連は大幅賃上げに応じるべきだ。
 つづいて、JAL解雇撤回裁判原告団、郵政労働者ユニオン、全国一般全国協、フィリピントヨタ労組を支援する会、東北被災地で支援活動を続けている「名無しの震災救援団」から発言があり、経団連へ申し入れを行った。しかし、今回も経団連は多数のガードマンで代表団を妨害し、受け取りを拒否するという暴挙に出た。全員で経団連への怒りのシュプレヒコールたたきつけた。
 総行動の最後はトヨタ東京本社前の抗議集会(全造船関東地協・フィリピン労働組合とフィリピントヨタ労組を応援する会)。二〇〇一年三月のフィリピントヨタ二三三名の解雇、つづく二〇一〇年の四名の解雇とトヨタによるフィリピントヨタ労組つぶしは止まることをしらない。労組と支援は、昨年一二月の京都でILOのアジア太平洋地域の会議へのビラ配布などを行い、会場の中ではフィリピントヨタ労組委員長とフィリピン政府労働雇用省長官とも話し合うなどの活動を展開した。集会では闘争報告で、必ずトヨタに打ち勝つとアピールが行われた。


「国鉄闘争を継承する会」結成総会

     
新たな闘いのスタートを確認

国鉄一〇四七名闘争は、二四年間の闘いで、解決金、年金相当額、事業体支援金の獲得など金銭的には一定の成果をあげたが、雇用問題については、政府の不誠実な対応と民主、社民、国民新党の三党の要望書に対するJR各社の「雇用希望者の採用を考慮する余地はない」とする頑な姿勢を打ち破ることができず、断念せざるを得なかった。こうしたJRの姿勢は、法令違反の信濃川取水問題に見られるように、安全軽視と利益第一主義の企業体質に基づくものである。
 また、金銭解決をしたとはいえ、旧闘争団員の生活には厳しいものが続いている。原告団は「事業体ネット」(原告団を結ぶ連絡ネットワーク)を立ち上げるが、この運動と連携し、JRの不正と闘って行くために、個人加盟による「国鉄闘争を継承する会」の結成が呼びかけられた。
 二月一六日、「国鉄闘争を継承する会」の結成総会が開かれた。二瓶久勝・元国鉄共闘会議が趣旨を説明し、都労連の武藤弘道委員長が挨拶した。
 継承する会の「活動内容」は以下のように提起された。
 @JR東日本が犯した法令違反の不正取水問題での裁判(JR東日本の違法経営責任を追及する株主代表訴訟)を支援するAJR東日本をはじめとするJR各社の安全問題、法令違反問題等に社会正義の観点から、注視し監視するB原告団が運営する事業体の商品などの購入や販路拡大などを、各団体と協力して支援するC国鉄闘争総括等の講演会等への講師を派遣するD労働相談(弁護団)に取組むEその他(争議支援、学習・講演会等の開催)。
 会の役員として、代表に二瓶さん、副代表に武藤さん、加藤晋介弁護士、小林春彦国労千葉地本委員長、吉田壽東京清掃労組委員長が、事務局長に内田泰博元国鉄闘争共闘会議事務局長などの人びとを選出した。
 九州(熊本)と北海道(名寄)の元闘争団から報告があり、最後に団結ガンバロウで新たな闘いのスタートを確認した。


国会周回一〇四七kmマラソン完了

 一月二七日から二月一六日までの二一日間、「JR不採用問題は終わっていない! 政府は約束を守れ!」と、一日約五〇キロの国会周回一〇四七kmマラソンで国鉄闘争を訴えた中野勇人さん(元鉄建公団訴訟原告・元国労北見闘争団)とそれを支援する佐久間忠夫さん(元鉄建公団訴訟原告・元国労東京闘争団)と猪股正秀さん(元鉄建公団訴訟原告・元国労佐賀地区闘争団)の闘いが完了した。

 二月一七日、日比谷図書館ホールで、JR不採用問題は終わっていない! 政府・JRの責任を追及する国会前マラソン&ハンスト宣言・集約集会(主催・三人を応援する会)が開かれた。
 経過報告では、何人もの人が伴走したこと、支援や激励の状況、国交省やJR各社との交渉などが語られた。
 三人を支援する会の大口昭彦弁護士は、解雇通告を受けたあの憤りの日の一九八七年二月一六日から二五年を迎える今年の一月二六日から二月一七日の闘争団員自身の国会周回マラソンおよび長期ハンスト決起行動は、二〇〇〇年七月一日の国労臨時大会でJRに責任なしの「四党合意」強行採決を実力阻止してから二〇一一年六月二四日の政治解決承認までを闘争の第二段階とするならば、新たな第三段階の開始を告げる号砲であると言うことが出来る、と述べた。
 最後に、中野勇人さんから、これからも解雇された二月一六日だけでなく毎月一六日には四国から国会へ来て周回マラソンを行う、ともに闘おうと決意表明がなされた。


JR東日本の違法経営責任を追及する株主代表訴訟第一回裁判

 二月一六日、「JR東日本の違法経営責任を追及する株主代表訴訟第一回裁判が東京地裁で開かれた。この裁判は昨年の一二月五日に提訴したものだ。二〇〇八年に、JR東日本が信濃川の水利権の内容に違反して取水していたことが発覚した。この違法行為は取水量の監視装置に独自のプログラムを組み込み、偽装データの虚偽報告をしていたことが明らかになり、取水許可を取り消されるという悪質なものであり、訴訟は、歴代のJR東日本の社長など二〇名の責任を追及し、JR東日本に五七億円の支払を求めている。
 法廷では原告の岸本紘男さんが、JR東日本が違法取水の虚偽報告をしていたことなどを批判する意見陳述をおこなった。


欧州債務危機とマルクス恐慌論の再起動  @

                          
関 考一

 一 崩壊期に突入した欧州債務危機

 ギリシャの国家財政破綻に端を発する欧州ソブリン危機(EU各国の政府や政府機関が発行する債券・債務の不履行の可能性のこと)は一段とその深刻さを増している。
 二月二〇日開かれた欧州連合(EU)のユーロ圏財務相会合でEU・国際通貨基金(IMF)による追加支援策(総額一三〇〇億ユーロ=一三兆五千億円)が決まった。しかし先行きは混とんとしておりギリシャがデフォルト(債務不履行)に陥れば南欧諸国の債務危機へ波及し更にはEU全域やアメリカなど全世界を巻き込む制御不能な連鎖反応が起こる可能性は依然として極めて高い。
 この間、明らかになったことは、国家レベルの債務危機への有効な安全網としてのEU・アメリカなどの国際協調体制が深刻な対立を生み出していることである。二月二十一日付のイギリス・フィナンシャル・タイムズ紙は「ギリシャは民主主義のためにデフォルトしろ」という論評を掲載した。その要旨は「ドイツのショイブレ財務相がギリシャに対する追加支援策の条件として四月の選挙を延期すべきだと提案(一層の緊縮策を否定する政権の成立を阻止するため)をしたことに…このゲームがもうすぐ終わることが分かった。我々は支援の成功と民主主義がもう両立しないところにきてしまったのだ。ギリシャはユーロ圏の…植民地になるわけだ。…ギリシャのベニゼロス財務相は特定の勢力がギリシャをユーロ圏から追い出そうとしていると述べた。…ドイツの戦略は生活を耐え難いものにして、ギリシャ人自身がユーロ圏からでていきたくなるように仕向けることのようだ。メルケル首相としては絶対に、ギリシャを撃った銃を手にしている姿を見られたくない。ドイツの戦略は自殺幇助戦略であり、極めて危険で無責任なものだ」というものだ。しかしもちろんこの見解はアメリカの意を汲んだバイアスのかかったものであるがドイツのギリシャに対する政策の一面をついている。ドイツを中心とするEU支配階級は、「PIIGS」(豚たち)と侮蔑的な呼び名を付けられたギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガルなどの南欧諸国の債務危機に対して耐え難い緊縮策と引き換えに息繋ぎに過ぎない支援策を与えている。とりわけギリシャ政府には公務員の大量解雇、六千を上回る公共部門の閉鎖・統合、最低賃金の二十二%引き下げ・労働法の緩和、年金支給開始年齢の引き上げと給付の引き下げ、あらゆる種類の税金の大幅アップなど徹底的な経費削減による債務返済を要求している。更にはこれら緊縮策の実施を監視する「委員(Kommissar)」をアテネに常駐させるという。
 一方でフランスはドイツに対し一層の資金供給の増額を主張している。しかし緊縮政策であれ、追加支援策による大量の国債の借り換えであれ、ギリシャ民衆から徹底的に絞り上げる点では何も変わるところはない。ギリシャの国家破産を救うためとされている今回の追加支援による資金供給は、ギリシャ民衆のためには全く役に立たず、削減されたとはいえ大半が国債を購入していたドイツ・フランスの銀行の金庫に入っただけである。EU支配層の対立の背景には、フランスは自国の銀行が南欧諸国の国債を大量に保有していることから欧州中央銀行(ECB)や欧州金融安定基金(EFSF)・新設予定の欧州安定機構(ESM)による資金供給を増やすべきとしているが、老獪なドイツ支配層はフランスのたかりをかわしつつ更なる負担増を拒んでいることと、第一次世界大戦後の一兆倍のインフレによって革命の危機に瀕したことからインフレに直結する債券の大増発を極度に警戒していることがある。一方であたかも債務危機の圏外にいるかのようなアメリカの内実は欧州より一層深刻な双子の赤字(経常収支と財政赤字)体質が悪化し続けている。もともと欧州債務危機の発端はサブプライムローンの破綻=住宅バブルの崩壊を契機としたリーマンショックであり、債務の返済を迫られた米金融機関がその資金をEUから一斉に引き上げたことにある。FRB(米連邦準備制度理事会)はQE2(量的金融緩和第二弾)でドルをジャブジャブの緩和状態にして破綻の危機に瀕した銀行やGM・保険会社などの救済をしているが、副作用として原油・穀物などの世界的高騰を引き起こし「アラブの春」の大きな要因ともなった。なんら成果がないままイラク・アフガニスタンから撤退をせざるを得ないほど財政状況は困難に陥っている。景気は若干上向き株高の傾向もあるが、「ウォール街占拠運動」が起こるほど失業率は高止まりし、ガソリン価格は高騰している。今アメリカはより景気を刺激しようとQE3を行えばインフレが進行する危険性と財政赤字の削減の緊縮政策による国内経済の収縮の危険性の間で身動きがとれない状態となっており、金利の動向次第ではリーマンショック以来の金融パニックが起きても不思議ではない。そこでアメリカは次のような対欧州戦略を設定した。
 @自らの責任を追及されるアメリカ発の金融恐慌は起こさない。EUに金融パニックの引き金を引かせ責任を転嫁しその被害者を装う。
 A世界恐慌による経済動乱によってもアメリカの基軸通貨特権を維持し、その地位を脅かす世界第二位の流通量をもつユーロに大きなダメージを与えその台頭を許さない。
 この間アメリカの三大格付け会社のムーディーズ、フィッチ、S&PがギリシャなどEU諸国の国債の格下げを何度も行い、その度に欧州債務危機が悪化していることやIMFの増資をめぐる米独の対立もこれを裏付けるものである。ドイツはギリシャの「自殺幇助戦略」を取っているが、アメリカとそのプードル犬のイギリスはEU破綻の「自殺幇助戦略」を取っているにすぎない。
 しかし問題はこれら資本主義の支配層の身勝手な思惑にあるのでは決してない。
 ギリシャなど南欧諸国にとってのEU加盟は、通貨・為替の主権が制限されたことにより独仏などユーロ・コア国から商品や投資が流れ込み内需をほぼ奪われ公共部門に依存せざるを得ない状況を招いていた。その公共部門の需要を賄っていたのが対外依存の大量の国債発行だったのである。債務返済のためにその公共部門の徹底的な経費削減策を推し進め公務員の削減・賃金カット・年金など大幅削減・大増税により自営業者の破産増加など新自由主義的構造改革は一段と強化されている。しかし国内の消費は委縮し失業率が高まるだけの結果を生んでいる。そのため税収も大幅に落ち込み債務返済の履行は困難となり新たな追加支援策とより過酷な緊縮策が打ち出されるという負のスパイラルに陥っている。
 これまで耐えてきた民衆の怒りは高まりつつあり緊縮策に反対するデモやゼネスト・抗議活動は非常に活発化している。ギリシャなど南欧諸国では二〇一一年にすべて政権交代が起きている。ギリシャのパパンドレウ政権、イタリアのベルルスコール政権の崩壊に代表されるようにEU支配層のいいなりに新自由主義構造改革と超緊縮策をとる政権に対する批判の声が強まっている。
 だが政権交代をした各国政府は緊縮策を継続しており、政労資協調路線をとる政党や労働組合への不信は高まりつつあり、より大規模な労働者・民衆の抗議運動の拡大は必至である。人々にすべての犠牲を強いる債務返済・財政緊縮策は労働者・民衆の激しい抵抗によって挫折し大きな政治変革に繋がることは避けられない。(つづく)


映 評

       
 「劇場版テンペスト3D」 

               2011 149分

                 監督: 吉村芳之

               主演 真鶴・孫寧温  …… 仲間由紀恵
                   薩摩藩士  …… 谷原章介
                   清の宦官  …… Gackt

               主題歌 安室奈美恵


 題材となった映画「テンペスト」は原作があり、まず舞台化され、その後NHKのテレビドラマとして全一〇話放映、その後3D版として映画化された。かつての企業買収の物語「ハゲタカ」と同じような作品化のコースをたどっている。
 物語の中身を少し解説すると、滅亡した琉球王朝を再興しようとひそかに願っている孫嗣志だが、後継ぎの長男は学問に興味がなく、舞踊に熱中していた。その後生まれた真鶴は女の子のため嗣志は何かと彼女に辛くあたっていた。聡明な真鶴は父の願いを知り、男として生きることを決意し、清国から来た宦官の孫寧温と名乗り、難関の官吏登用試験に合格し、首里城の王府にあがり、次第に頭角を表していった。首里城内での中での勢力争い、薩摩藩士との淡い恋、清の不気味な宦官との闘いなど見せ場は沢山作ってくれるのだが、なぜか印象は薄い。だいたい仲間由紀恵が演じる孫寧温が宦官であるという設定に無理があり、どう見ても女性にしか見えない。配役のポジションを決める時に、どういう性格、役まわりを重視して設定したのではなく、今の時代に活躍している旬(しゅん)の俳優を役柄に当てはめてしまったのがこの映画だと思う。仲間由紀恵、谷原章介、Gacktなどなどしかり。出演者はそれぞれ懸命に演技をしていると思うが、ほとんどが空回りをしてしまっている。全体として空疎な大作になってしまった感が強い。
 特に違和感を感じるのは王域の中での宗教的行事の類だ。超常現象が王府の霊力を持った人物のせいで起こったかのような場面には実は必ず3Dで浮き上がってくるように見える龍が登場する。日本の天皇制のなかでも琉球王朝の儀式と同じように代替わりには秘密めいた宗教的儀式が行われるのだが、そんなものは、単に権威づけのこけおどしにしか過ぎないのではないだろうか。かつてたしかに琉球に王国は存在した。それほど広くない沖縄本島に三つの王朝が存在していた時期もあった。清と薩摩の二つの国(地方)に忠誠を誓い、このどちらとも完全な属国になっていなかった時代、交易の拠点として、その時代の琉球はいい地理的要因を持っていたのだ。
 映画の中で、女性ということが暴露され、石垣島への流刑に処せられた寧温は、かの辺境の地で、織物の技術を学び、やがて首里城に舞い戻る。沖縄本島と先島諸島の石垣島は四〇〇キロメートル 程離れているが、その時代の先島諸島はどれほど過疎の地だったか想像できる。王朝の支配階級の衣装、調度品はそれ程豪華ではないが、大変に美しい。しかしこの物語には、貧しい暮らしをしていたであろう被支配階級は、まったく登場しない。原作がそうでないのだから仕方がないことなのだが、その時代の農民たちの姿をも見てみたかった。
 「テンペスト」の舞台は、第二尚氏王統(後期)の時代で、この頃に権益を求めた薩摩藩が介入してきていた。江戸時代の末期、浦賀沖にあらわれたペリー艦隊は、その前に香港を経由して琉球にもあらわれて先に開国を迫っていたのだ。こういう史実は私は初めてこの映画で知った。そして一八七九年(明治一二年)明治政府は軍隊を派遣し、首里城を占拠した。最後の王・尚泰は城を出て、五〇〇年におよんだ琉球王国は幕を閉じることになったのだ。かつて存在した琉球王国について私たちは余りに知らないことが多すぎた。この映画を通して知ったことも多いのだが、映画自体は、横道にそれすぎてしまっている。
 著名な出演者を盛り上げすぎて本質が見えなくなってしまったのだろう。清の支配に服従するための冊封の儀式あるいは琉球舞踊、世界遺産としての首里城などの映像は、確かに、貴重なのだが、そうであるがゆえに映画の物語と現実との遊離感が強くなってしまうのだ。
 実は私は最近の3D(スリーディメンション)画面の映画を見るのは初めてなのだが、立体感、浮き上がり感があるといわれている映像効果はそれほどあがっているとは思えない。日頃眼鏡を必要としない者に取っては3D眼鏡をずっと装着するのは苦痛でしかない。
 この映画に関して3Dにする必然性はまったくないと言っても過言ではないと思う。昨今の日本の映画界に置いてCG(コンピューターグラフィックス)の多用といい、技術の進歩・革新が必ずしも映像に力を与えているとはいえ言えないのだ。

 しかし、Gacktが演じる清の宦官・徐丁垓の役の演技は大変不気味で興味深い存在だ。沖縄出身のミュージシャン Gacktは演技のうえでも異色だった。
 なおテンペストには暴風雨の意味があるのだが、琉球王朝を取り巻く状況を表した題名なのだろうか。 (東 幸成)


書 評

     
3・11一周年を目前にして
              ― 高橋哲哉著「犠牲のシステム福島・沖縄」


責任の問題

 昨年の三月一一日に勃発した原発震災直後、所属する労働組合で声明文を出したことがあった。文案を検討する中で私に引っかかる表現があった。それは、本書での高橋の言葉を借りれば、「原発を過疎地に押しつけて電力を享受してきた(筆者を含めた)都市部の人間」という趣旨のものであった。どこに腑に落ちないものを感じたのか?それは、原発の問題を私たち個々の選択の問題として扱っているが果たしてそうなのか、原発を推進してきた巨大な「原子力ムラ」の存在・力、更には過疎過密の社会を作り出してきたシステムを俎上に載せるのでなければ、総懺悔になってしまわないだろうか。
 この疑問には高橋自身が答えている、「私の意図は一億総懺悔ではない―略―「原子力ムラ」の人々が負う第一義的責任と、都市部の一般の人間の責任とは、異質なものとして区別しなければならない―略―原発のリスクについて考えることを怠ってきた、甘く見ていた、あるいは無関心だった。そのことの責任はやはり免れない」と。同様にして「福島の人間もまた、事故の被害者でありながら、事故を引き起こすに至った責任の一半を分有している」さらに原発の危険性を指摘し反対運動を行ってきた人々の責任についても触れ、ヤスパースの言葉を引いている、「『災厄を見抜きもし、予言もし、警告もした』などというが、そこから行動が生まれたのでなければ、しかも行動が功を奏したのでなければ、そんなことは政治的に通用しない」と。冒頭に述べた声明文作成に当たって、「そら見たことか、言わんこっちゃない、という姿勢だけはとらないことにしよう」と語りあったことを思い出す。組合方針に反核・反原発を掲げてはきたものの、結果責任は免れるものではない。

犠牲のシステム ― 植民地主義


 高橋の言う「犠牲のシステム」とは何か、それは「或る者(たち)の利益が、他のもの(たち)の生活(生命、健康、日常、財産、尊厳、希望等々)を犠牲にして生み出され、維持される。犠牲にする者の利益は、犠牲にされるものの犠牲なしには生み出されないし、維持されない。この犠牲は、通常、隠されているか、共同体(国家、国民、社会、企業等々)にとっての『尊い犠牲』として美化され、正当化されている」というものだ。そして、「福島の原発事故は、戦後日本の国策であった原発推進政策に潜む『犠牲』のありかを暴露した。沖縄の米軍基地は、戦後日本にあって憲法にすら優越する『国体』のような地位を占めてきた日米安保体制における『犠牲』のありかを示している。私はここから、原子力発電と日米安保体制とをそれぞれ『犠牲のシステム』ととらえ、ひいては戦後日本国家そのものを『犠牲のシステム』としてとらえかえす視座が必要ではないか、と考えた」
 高橋はこの「犠牲のシステム」に「戦後日本の継続する植民地主義があったこと、そして、日本人の無意識の植民地主義がそこに組み込まれていた」とする。「無意識の植民地主義」について野村浩也広島修道大学教授の同名の著書から引用している、「無意識的に沖縄人に基地を押しつけ、無意識のうちに沖縄人を犠牲にすることによって、無意識のうちに沖縄人から利益を搾取することが可能になったのだ。すなわち、ほとんどの日本人は、みずからの植民地主義に無意識なのである」と。高橋は「沖縄の自然や文化を「愛して」みたり、沖縄の基地反対運動に「連帯」して年に一回、沖縄を訪れて「ヤンキー、ゴー・ホーム」と叫んでみたり」する日本人に対する野村の「根本的な不信と批判」に共感している。そしてここにこそ「犠牲のシステム」の典型的構造があるのだと言う。「米軍基地負担を免れるという日本人の利益は、米軍基地負担を過剰に押しつけられるという沖縄人の犠牲によって生み出され、その犠牲なしには維持されないのである」と。そして、福島についても、「首都圏(中央)をはじめとする都市部と地方とのあいだに、一種の植民地支配関係がある」まさに「犠牲のシステム福島・沖縄」の構図であるのだが、組合の声明文に感じたのと類似の違和感を禁じ得ない。事態を日本人―沖縄人、都市部―地方の対立の構造に帰着させることで果たしてこの構造を転換させる道筋が見出せるものだろうか? 
 異論はないが、しかし結論的に高橋は言う、「憲法の平等原則からすれば、これらの犠牲は一部に負わせることができるものではなく、犠牲が避けられないとしたら、全国民で平等に負担すべきだという議論に道理がある」「だれにも犠牲を引き受ける覚悟がなく、だれかに犠牲を押しつける権利もないとしたら、在日米軍基地についても、原発についても、それを受け入れ、推進してきた国策そのものを見直すしかないのではないか―略―そういう政治的な選択は十分可能だし、それをめざしていく必要があると私は思う」
 私もこの結論に異論はない。賛成なのだが、しかし現に「そういう政治的な選択」をもたらすべく悪戦苦闘している多くの人々にとっては一種平板な物言いと受け取られざるを得ないのではないか。そうした人々の一人である湯浅誠が『世界』三月号に「社会運動の立ち位置」と題して書いている。「『強いリーダーシップ』と政治的シニシズムの相乗効果による勢力拡大から『私たち』の利益を守ろうとすれば、社会運動はアイロニカルな政治主義から、より調整の次元に親和的な領域に、より意識的に移行していく必要があると思う。そこがバラ色の世界だったことなどいまだかつてなく、利害関係者すべてにとって不満の残る玉虫色の結論をもたらす調整と妥協の領域であることは、繰り返し述べてきたとおりだ。しかし、調整の次元を軽視・回避・忌避した後に訪れるのは多様な利害の切捨てしかなく、『私たち』は切り捨てる側ではなく、切り捨てられる側にいる。その領域をこれもさしあたり『主体的市民による社会運動』と名づけた―略―政治的・社会的力関係の総体を視野に入れながら、社会的領域および政治的領域における調整過程に積極的に介入し、主権者として結果に対する責任を自覚し、何かを全否定したくなる衝動を抑えながら、地道に調整を積み重ねて相反する利害関係者との合意形成を図る市民だろう」と。直ちに異論が提出されるかもしれないが、苦渋に満ちた運動の経験から生まれた検討すべき貴重な考察であると私は思う。  (佐山 新)


せ ん り ゅ う

   普天間の市民訪米ジュゴン連れ

   原発にむらがっている貪と貧

   格差こそ資本家たちのもうけ処

   橋下の「我が斗争」が見えてきた

   複雑な波形もともと単純波

   また一人 電車動かずそれと知る

   紅梅の香りに抱かれ雪の夜

                    ヽ 史


複眼単眼

    
 電信柱が赤いのもみんな九条が悪いのよ

 大阪維新の会の橋下徹・大阪市長は、このところ、明治維新期の坂本龍馬に自らをなぞらえ、その「船中八策」のパクリで、政策要項を「維新八策」と称している。笑止なことだ。もともと反動的なイデオロギーはあるものの、まともに国政の政策など考えた形跡はなく、国政進出という大風呂敷を広げたとたんに維新新党の綱領の問題に直面した。そこで思い至ったのが「船中八策」ならぬ「維新八策」だ。
 これは間に合わせに考えた箇条書きのレジュメのようなものにすぎない。当初は橋下の「八策」には九条改憲などもなく、受けねらいの「首相公選」や「参院の廃止」などが並んでいた。もとより、この課題は改憲なしには不可能な問題だが。

 それが二月二四日の記者会見では憲法九条の改定について言及し、「一定期間議論して、日本人全体で決めなければいけない」と、二年かけて「国民的議論」をした上で、国民投票を実施すべきだと述べた。そして次期衆院選の政権公約となる「維新八策」に、憲法改定手続きを盛り込むと発表した。
 その理由として、橋下は、憲法九条は「他人を助ける際に嫌なこと、危険なことはやらないという価値観だ。国民が(国民投票で)九条を選ぶなら僕は別のところに住もうと思う」と述べた。

 ツィッターではよりはっきりと、「世界では自らの命を賭してでも難題に立ち向かわなければならない事態が多数ある。しかし、日本では、震災直後にあれだけ『頑張ろう日本』『頑張ろう東北』『絆』と叫ばれていたのに、がれき処理になったら一斉に拒絶。全ては憲法九条が原因だと思っています」と述べた。

 橋下は政治家分野でのツィッター・フォロワー数第一位(六一万人)になったといわれる。その世界で橋下の「全ては憲法九条が原因だと思っています」の部分が爆発的関心を呼んでいる。
 「私がモテないのはどう考えても全ては憲法九条が原因だと思っています!」
 「確定申告の準備が遅れてるのは憲法九条が原因。」
 「商談が悉く不調に終わって今月のノルマ達成が危ういのも、全ては憲法九条が原因だと思っています」
 「広島が勝てないのも黒田が帰って来ないのも、全ては憲法九条が原因だと思っています」
 「郵便ポストが赤いのもすべては憲法第九条が原因だと思っています。」
 「昼飯、食べ損ねた。全ては憲法九条が原因だと思っています」
などなど。

 これは民衆の健全な反応なのだろうか。首をかしげるばかりだ。ずいぶん前だが、「電信柱が赤いのも、郵便ポストが長いのも、みんな私が悪いのよ」というギャグがあったと記憶している。

 それにしても、この橋下、このレベルだが、昔のナチスを思えば笑ってばかりもおられない。 (T)