人民新報 ・ 第1294号<統合387号(2012年10月15日)
  
                  目次

● オスプレイ普天間配備撤回   相手側が断念するまで闘えば最後に勝利する

● 「領土問題」の悪循環を止めよう!  市民アピールに続々と集まる賛同の声

    (資料) 「領土問題」の悪循環を止めよう!―日本の市民のアピール― 

● JCO臨界事故13周年行動  事故の教訓生かされず福島原発事故

● すべての争議の勝利・解決求めて  東京総行動

● 日朝国交正常化をめざす全国集会  平壌宣言を確認し、日朝国交正常化の実現を

● 日朝ピョンヤン宣言10周年  軍事大国化やめろ! 日朝対話と過去の清算を!

● 映 評  /  『天地明察』

● 図書紹介 日中国交回復40年 “永遠の隣人”たちの統治機構に思いを馳せる (下)

● せ ん り ゅ う

● 複眼単眼  /  日本の市民の良心からの声






オスプレイ普天間配備撤回

    
相手側が断念するまで闘えば最後に勝利する

 日米両政府が沖縄の普天間基地に強行配備しようとしている米海兵隊の垂直離着陸機MV22オスプレイは、開発段階から何度も墜落事故を繰り返し(一九九一年、九二年、二〇〇〇年の計四回の墜落事故で死者数は計三〇人)、実践配備されてからも二〇一〇年四月にアフガンで墜落(四人死亡)し、今年に入ってからも四月にはモロッコで墜落(二人死亡)、六月に米国で墜落(五人負傷)という世界で最も危険な軍用機といわれるものだ。それを二〇〇三年一一月、当時のラムズフェルド米国防長官でさえ「世界一危険な飛行場」と指摘した普天間基地に配備するというのである。悲惨な大規模事故の起こる確率はきわめて高い。沖縄では、仲井眞弘多県知事は反対を表明し、県内の全ての四一市町村議会が反対決議するなど、県民のほとんどが反対していることがしめすように「オール沖縄」での配備反対がある。この動きは、沖縄以外にもひろがり、九月九日の国会包囲行動には一万人が参加した。

 ところが日米政府隊は、沖縄をはじめ全国に広がり始めた配備反対の声を押し切って、一〇月一日から、岩国基地(山口県)からオスプレイの米軍普天間飛行場に移動を強行しはじめ、六日に、全一二機の沖縄配備を完了させた(米軍は二〇一四年までにさらに一二機を普天間配備の計画)。危険性を強く指摘されているオスプレイには、市街地上空では避ける行動についてなど日米合意による「オスプレイ安全運用策」なるものがある。だが、それにも違反して、回転翼を上に向ける「垂直離着陸モード」や回転翼の角度を変える「転換モード」で市街地上空を飛んだのである。今回の事態で、日米政府による沖縄を軍事植民地とみる差別のすがたがいっそう明らかになった。

 沖縄では、普天間基地への直接行動が熾烈に闘われた。「オスプレイ普天間配備阻止行動」は当初予定の九月二八日配備にむけて二六日から始まり、野嵩(のだけ)ゲート封鎖(二七日)、大山ゲート封鎖(二八日)、佐真下ゲート封鎖(二九日)、そして三〇日には第四ゲート(通称市民駐車場)閉鎖と主要ゲートのすべてを座り込み・車で封鎖した。そして、二八日からの普天間への飛来は、「台風を避ける」という口実で一〇月一日に延期されたが、基地機能に打撃を与えた現地の闘いによっておいこまれた結果でもある。
 九月三〇日、日米両政府と米軍は機動隊による暴力的な排除・弾圧攻撃をかけ、封鎖線を突破し、国会議員や弁護士などをふくむ座り込みの人びとを長時間にわたって拘束などしたが、闘いは執拗かつ創意工夫して展開され続けた。
 一〇月一日には、朝七時から野嵩ゲート前で座り込みと抗議集会が開かれ、県民大会実行委員会と平和運動センター、平和市民連絡会の構成団体や全国から駆け付けた人びとが参加し、国会議員団、県・市町村議員団、各首長からの決意表明、労組や市民団体、地元住民からの力強い発言がつづいた。行動は夜八時過ぎまで闘い抜かれた。二日も朝七時から行動が始まり、凧揚げや風船による行動も取り組まれた。三日目からは平和センター、市民連絡会と地元住民の行動となったが、権力の介入が激しさを加えた。四日からは飛行訓練が強行されたが、「安全合意」などまったく無視された状況だ。沖縄の怒りはさらに燃え上がっている。

 この沖縄の闘いに連帯して、ヤマトでもさまざまな行動が取り組まれた。首都圏では、一〇月四日に、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックなどによるオスプレイの沖縄配備に反対する首都圏ネットワークによる「10・4オスプレイ配備撤回! 首相官邸前緊急抗議行動」に多くの人が集まり、官邸にむけシュプレヒコールを上げ、野田首相に対して「沖縄を犠牲にする権利はない。沖縄のことは沖縄が決定すべきであって、日米政府から強制されるいわれはない。オスプレイの沖縄配備は直ちに撤回し、訓練は中止せよ」との抗議文をぶつけた。

 オスプレイの訓練は沖縄だけではなく、日本全国のかなりの地域にひろがる。
 闘争をさらに拡大するさまざまな方法・手段が検討され、さらなる反撃の力の形成が必要となっている。
 オスプレイがたとえ配備されようとも、絶対あきらめないで相手側が断念するまで、闘い続ければ最後に勝利することができるのだ。


「領土問題」の悪循環を止めよう! 

    市民アピールに続々と集まる賛同の声


 日本政治の右傾化の中で、韓国や中国との関係が緊張している。従軍慰安婦問題そして竹島(独島)をめぐって韓国と、尖閣(魚釣島)諸島をめぐって中国との対立が拡大している。とりわけ中国とは、日中国交正常化四〇年にあたる今年、最悪の関係となった。石原都知事のアメリカでの尖閣買い上げ宣言、それにつづく野田首相の国有化は、両国の意見の相違は当面たなあげし、解決にともに努力するというこれまでの両国の関係を一方的に破棄するものであり、中国側の強硬な対抗措置を引き出した。以降、日中間の関係は、さまざまな局面で急角度で悪化し始めた。台湾も日本の国有化に対抗して態度を硬化させた。日本は、領土問題をはじめとして、近隣のアジア諸国(韓国、北朝鮮、中国、台湾)、そして北方領土をめぐってロシアとの関係を悪化させた。こうしたことにたちいったことには、戦争・戦後責任からにげまわり、かつての侵略戦争を美化し、またアメリカの威をかりてアジアでの覇権をもとめようとする日本の反動勢力に責任がある。石原らの挑発行為は、戦争の機運を高め、アジア諸国・民衆との関係を取り返しのつかないほど悪化させるとともに、日本の民衆にもおおきな惨害をもたらすことになるものであり、事態は、かれらの想定をこえて進展しようとしている。すでに、日本経済への深刻な打撃の兆しがで始めている。
 このようなときにこそ、対立の平和的な解決にむけた理性的な声が、さまざまなところから、あげられることが求められている。

 九月二八日、参議院議員会館会議室で、「『領土問題』の悪循環を止めよう! ― 日本の市民のアピール」の記者発表と院内集会が開かれた。
 日本の市民のアピール(別掲)は、現在の事態の背景には近代の歴史問題があることを指摘するとともに、関係諸国におけるナショナリズムのエスカレートを危惧し、「いかなる暴力の行使にも反対し、平和的な問題の解決」を主張している。領土問題においては、「協議」「対話」での解決しかなく、周辺資源については共同開発、共同利用しかない、そして、「主権をめぐって衝突するのではなく、資源を分かち合い、利益を共有するための対話、協議をすべきである。私たちは、領土ナショナリズムを引き起こす紛争の種を、地域協力の核に転じなければならない」として、「私たちは『領土』をめぐり、政府間だけでなく、日・中・韓・沖・台の民間レベルで、互いに誠意と信義を重んじる未来志向の対話の仕組みを作ること」を提案している。
 記者会見では、今回のアピール準備を中心的に担った五人がそれぞれ発言。
 その一人のピースボートの野平晋作さんが司会をつとめ、はじめに岡本厚さん(『世界』前編集長)が、いま戦後日本は最も戦争に近い状況にあり、関係の悪化が長く続くことを危惧していると前置きし、つづいて、このアピールは、日本にいるのは日本政府と同じ考えの人、反中・反韓の人たちだけでないことを発信した。とりあえず中国語、韓国語、英語の翻訳もだした。すでに日本国内だけでなく、多くの人からの賛同が寄せられていることなど経過を報告し、アピールの内容を説明した。
 高田健さん(許すな!憲法改悪・市民連絡会)は、欧米、アジアなど在外の日本人からも、賛同と感謝の言葉が寄せられ、何とか平和的に事態を解決しなければならないと思っている人が大勢いると報告した。
 内田雅敏さん(弁護士)は、石原都知事は無責任きわまる「ハーメルンの笛吹き男」で線戦争熱をあおって危険な状況を作り出したが、こうしたときにこそ、有名無名の人たちが民間の立場から平和解決の声を発信することが必要だと述べた。
 小田川興さん(早稲田大学アジア研究機構日韓未来構築フォーラム)は、ピンチをチャンスに変えることが必要で、その精神で次世代の平和な善隣関係をきずくための、賢人会議、研究会などの対話の仕組みを作ろうと提起した。
 アピールには、大江健三郎さんや本島等元長崎市長などが賛同し、その数は増え続けている。
 この記者会見には多数の中国や韓国のメディアが参加し、それらの国では、日本のこうした動きが報道されている。
 また、一〇月一八日には議員会館前での行動と、首相などへ「市民アピール」が届けられることになっている。
 この市民アピールは、緊急の呼びかけによるものであり、これに続く多種多様な行動が起こり、平和解決の声が緊張激化、戦争扇動の動きをおさえこむ状況を生み出すことが期待されている。
 排外主義に反対し、事態の平和解決を求める行動を、アジアのひとびとともに作り出していこう。


「領土問題」の悪循環を止めよう!―日本の市民のアピール―  

                                   二〇一二年九月二八日

 一、「尖閣」「竹島」をめぐって、一連の問題が起き、日本周辺で緊張が高まっている。二〇〇九年に東アジア重視と対等な日米関係を打ち出した民主党政権の誕生、また二〇一一年三月一一日の東日本大震災の後、日本に同情と共感を寄せ、被災地に温家宝、李明博両首脳が入り、被災者を励ましたことなどを思い起こせば、現在の状況はまことに残念であり、悲しむべき事態であるといわざるを得ない。韓国、中国ともに日本にとって重要な友邦であり、ともに地域で平和と繁栄を築いていくパートナーである。経済的にも切っても切れない関係が築かれており、将来その関係の重要性は増していくことはあれ、減じることはありえない。私たち日本の市民は、現状を深く憂慮し、以下のように声明する。 
 二、現在の問題は「領土」をめぐる葛藤といわれるが、双方とも「歴史」(近代における日本のアジア侵略の歴史)問題を背景にしていることを忘れるわけにないかない。李大統領の竹島(独島)訪問は、その背景に「従軍慰安婦」問題がある。昨年夏に韓国の憲法裁判所で出された判決に基づいて、昨年末、京都での首脳会談で李大統領が「従軍慰安婦」問題についての協議をもちかけたにもかかわらず、野田首相が正面から応えようとしなかったことが要因といわれる。李大統領は竹島(独島)訪問後の八月一五日の光復節演説でも、日本に対し「従軍慰安婦」問題の「責任ある措置」を求めている。
 日本の竹島(独島)領有は日露戦争中の一九〇五年二月、韓国(当時大韓帝国)の植民地化を進め、すでに外交権も奪いつつあった中でのものであった。韓国民にとっては、単なる「島」ではなく、侵略と植民地支配の起点であり、その象徴である。そのことを日本人は理解しなければならない。
 また尖閣諸島(「釣魚島」=中国名・「釣魚台」=台湾名)も日清戦争の帰趨が見えた一八九五年一月に日本領土に組み入れられ、その三カ月後の下関条約で台湾、澎湖島が日本の植民地となった。いずれも、韓国、中国(当時清)が、もっとも弱く、外交的主張が不可能であった中での領有であった。
 三、日中関係でいえば、今年は国交正常化四〇年であり、多くの友好行事が計画・準備されていた。友好を紛争に転じた原因は、石原都知事の尖閣購入宣言とそれを契機とした日本政府の国有化方針にある。これは、中国にとってみると、国交正常化以来の、領土問題を「棚上げする」という暗黙の「合意」に違反した、いわば「挑発」と映っても不思議ではない。この都知事の行動への日本国内の批判は弱かったといわざるをえない。(なお、野田政権が国有化方針を発表したのは七月七日であった。この日は、日本が中国侵略を本格化した盧溝橋事件(一九三七年)の日であり、中国では「七・七事変」と呼び、人々が決して忘れることのできない日付であることを想起すべきである)
 四、領土問題はどの国のナショナリズムをも揺り動かす。国内の矛盾のはけ口として、権力者によって利用されるのはそのためである。一方の行動が、他方の行動を誘発し、それが次々にエスカレートして、やがて武力衝突などコントロール不能な事態に発展する危険性も否定できない。私たちはいかなる暴力の行使にも反対し、平和的な対話による問題の解決を主張する。それぞれの国の政治とメディアは、自国のナショナリズムを抑制し、冷静に対処する責任がある。悪循環に陥りつつあるときこそ、それを止め、歴史を振り返り、冷静さを呼びかけるメディアの役割は、いよいよ重要になる。
 五、「領土」に関しては、「協議」「対話」を行なう以外にない。そのために、日本は「(尖閣諸島に)領土問題は存在しない」といった虚構の認識を改めるべきである。誰の目にも、「領土問題」「領土紛争」は存在している。この存在を認めなければ協議、交渉に入ることもできない。また「固有の領土」という概念も、いずれの側にとっても、本来ありえない概念といわなければならない。
 六、少なくとも協議、交渉の間は、現状は維持されるべきであり、互いに挑発的な行動を抑制することが必要である。この問題にかかわる基本的なルール、行動規範を作るべきである。台湾の馬英九総統は、八月五日、「東シナ海平和イニシアティブ」を発表した。自らを抑制して対立をエスカレートしない、争いを棚上げして、対話のチャンネルを放棄しない、コンセンサスを求め、東シナ海における行動基準を定める――など、きわめて冷静で合理的な提案である。こうした声をもっと広げ、強めるべきである。
 七、尖閣諸島とその周辺海域は、古来、台湾と沖縄など周辺漁民たちが漁をし、交流してきた生活の場であり、生産の海である。台湾と沖縄の漁民たちは、尖閣諸島が国家間の争いの焦点になることを望んでいない。私たちは、これら生活者の声を尊重すべきである。
 八、日本は、自らの歴史問題(近代における近隣諸国への侵略)について認識し、反省し、それを誠実に表明することが何より重要である。これまで近隣諸国との間で結ばれた「日中共同声明」(一九七二)「日中平和友好条約」(一九七八)、あるいは「日韓パートナーシップ宣言」(一九九八)、「日朝平壌宣言」(二〇〇二)などを尊重し、また歴史認識をめぐって自ら発した「河野官房長官談話」(一九九三)「村山首相談話」(一九九五)「菅首相談話」(二〇一〇)などを再確認し、近隣との和解、友好、協力に向けた方向をより深めていく姿勢を示すべきである。また日韓、日中の政府間、あるいは民間で行われた歴史共同研究の成果や、日韓関係については、一九一〇年の「韓国併合条約」の無効を訴えた「日韓知識人共同声明」(二〇一〇)も、改めて確認される必要がある。
 九、こうした争いのある「領土」周辺の資源については、共同開発、共同利用以外にはありえない。主権は分割出来ないが、漁業を含む資源については共同で開発し管理し分配することが出来る。主権をめぐって衝突するのではなく、資源を分かち合い、利益を共有するための対話、協議をすべきである。私たちは、領土ナショナリズムを引き起こす紛争の種を、地域協力の核に転じなければならない。
 一〇、こうした近隣諸国との葛藤を口実にした日米安保の強化、新垂直離着陸輸送機オスプレイ配備など、沖縄へのさらなる負担の増加をすべきでない。
 一一、最後に、私たちは「領土」をめぐり、政府間だけでなく、日・中・韓・沖・台の民間レベルで、互いに誠意と信義を重んじる未来志向の対話の仕組みを作ることを提案する。


JCO臨界事故13周年行動

      
事故の教訓生かされず福島原発事故

 一九九九年九月三〇日、茨城県東海村のJCOで臨界事故がおき、労働者二名が重度被曝で死亡し、防災関係者、周辺住民など六六七名が被曝するという当時の日本でのかつてない原子力の事故が起こった。しかし、このJCO臨界事故の教訓はまったく生かされることなく、日本政府と財界・官僚たちによる原発推進政策が続けられ、その結果、昨年三月の東電福島第一原発事故が起こったのである。いまも、野田首相の収束宣言にもかかわらず、第四号機のようにいつ大爆発するかわからないという依然として危険な状況にある。事故の原因とそこから導き出される教訓、それによる政策の大幅な変更というしごく当然のことを怠ってきた原子力ムラは、責任を感じるどころか、多くの人びとの脱原発の声をまったく無視して原子力利権にしがみついて、危機を増幅させている。

 JCO臨界事故の一三周年にあたる九月三〇日午前、9・30臨界事故一三周年東京圏行動実行委員会は経済産業省前で犠牲者追悼と抗議、申し入れ行動をおこなった。

 午後からは、スペースたんぽぽにおいて、講演集会が開かれた。
 はじめに実行委員会からの基調報告。原子力安全神話から原子力は事故が起きるものへと変質していったが、事故を起こした責任者の追及をすることはなかった。事故隠しの背景にある経済性のための安全裕度(MS)の切り縮めは、原発の定期点検期間の縮小と原発維持基準の導入と原発の耐用年数の延長に表れている。そして、事故は起きないとJCO事故や福島事故の事を忘れてしまった人たちが原発を動かそうとしている。しかし、政府が原子力事故の教訓を学ばなくても原発周辺自治体の首長の意識は変わりつつある。大飯原発に隣接する滋賀県と京都府の知事も拙速な再稼働には反対した。日本の原発発祥の地である東海村の村上村長も原発反対の態度を表明し、福島県双葉町の井戸川町長も原発推進の歴史を反省した。原発で町が潤うという幻想を原発事故は打ち砕いた。JCO臨界事故の時に日本政府が原子力行政の本格的な見直しをしていれば福島の過酷な事故は起きなかったのだ。わたしたちは、引き続き原子力ムラの解体を求めて原子力政策に反対する運動を続けていく。すべての原発の廃炉を求めて今春から首相官邸前や国会前に集まった原発再稼動反対運動が全国に広がっているのが希望の光だ。原発のことが毎日ニュースになり原子力が不正と無責任で成り立っていることが明らかになった。本当の闘いはこれからだ。原子力ムラの亡霊たちには退場してもらおう。

 後藤忍さん(福島大学准教授・同大学放射線副読本研究会)が「放射線と被曝の問題を考えよう―『減思力(げんしりょく)』を防ぎ、判断力・批判力を育むために」のタイトルで講演をおこなった。後藤さんたちは、学校教育や福島住民を中心に広められている「放射線安心神話」にだまされないため、国による洗脳の手口を知り運動につなげようと、文科省の放射線副読本を批判する「放射線と被ばくの問題を考えるための副読本」を作成した。とくに、原子力は、思考力を減退させる「減思力」から子どもたちをどう守るかを強調して、次のように述べた。
 日本では原子力は国策としてさまざまな教育・広報がおこなわれている。テレビ、新聞、インターネット、講演・研修などで、政府、各電力会社・電気事業連合会、日本原子力文化振興財団、科学技術振興機構などがかかわってやっている。たとえば、ポスターコンクールだが、二〇一〇年の第一七回コンクールの応募要項では、九つのヒントがあげられた。それは、@大切な電気をつくる原子力発電A小さな原子から出るエネルギーBウラン燃料は小さくても力持ちC地球にやさしい原子力発電D地球ができたときからある放射線E五重の壁で安全を守る発電所Fさまざまな分野で役立つ放射線Gリサイクルできるウラン燃料H電気のごみは地下深くへきちんと処理、となっていて、マイナス面のヒントは一切与えられていない。福島大学の放射線副読本研究会は、中学生以上の子ども、教員、一般市民を対象に「放射線と被ばくの問題を考えるための副読本」(初版二〇一二年三月、改訂版六月)をつくった。いずれもダウンロードできるので活用してほしい。福大研究会版副読本を作成した意図は、これまでの偏向した教育・広報によって、原子力発電の環境リスクに関する国民の公正な判断力が低下させられてきた、いわば「滅思力」の問題が今回の福島第一原発の事故で露呈したのであり、文科省が関わった副読本や科学番組では、JCO臨界事故のなどの深刻さを倭小化し、注意をそらそうという姿勢が見られた。事故の教訓から学び、「放射能身近神話」のようなものを再び作り出さないためには、公的な教育・広報において公平性を追求していくことが求められる。子どもを守るには、放射能から身体的に守るのはもちろんのこと、洗脳から思想的に守ることが重要と考えた。判断力・批判力の育成に貢献するためだ。


すべての争議の勝利・解決求めて

                       
東京総行動

 九月一九日、二〇一二けんり総行動実行委員会による東京総行動が闘われた。
 総務省への抗議・要請行動からはじまった行動は昼過ぎに、厚生労働省前へ。薬害C型肝炎で苦しみ続け、カルテがないことが理由で国からの救済対象に認定されないC型肝炎患者たちを先頭に、「疑わしきは救済せよ!」「薬害肝炎患者の切り捨ては許さない!」のシュプレヒコール。カルテがないC型肝炎訴訟原告団は、二〇一〇年六月に結成、東京地裁に集団提訴を行い、北海道・大阪・鹿児島・広島・熊本で原告団が結成されそれぞれの裁判所での闘いが始まっている。今日までの提訴者数は全国で四八八名で、提訴者は拡大している。集会では、原告団から、原告を拡大し、裁判と並行して加害の立場にある国と製薬会社に対しての責任追及と早期救済を求め、特措法の延長を含めて闘いを進めていくと決意が表明された。総行動の最後はトヨタ東京本社へ。フィリピン・トヨタでの、でっちあげ刑事事件を取り下げ、争議の解決に取り組むことを要求した。


日朝国交正常化をめざす全国集会

       
平壌宣言を確認し、日朝国交正常化の実現を

 二〇〇二年九月、当時の小泉純一郎首相と金正日国防委員長のあいだの画期的な平壌宣言が発表された。しかしその後、朝鮮半島における核問題や拉致問題をめぐって、日朝間の国交正常化は進展しないばかりか、右翼勢力と彼らと連動する政治家たちによって、それに逆行する動きがつづいた

 平壌宣言から一〇周年の九月一三日、「日朝国交正常化をめざす全国集会」が星陵会館で開かれた。
 はじめに、一九九〇年九月二九日の三党共同宣言―「朝鮮労働党(金容淳)、自由民主党(金丸信)、日本社会党(田辺誠)による合意」などの日朝関係正常化にむけた映像が上映された。
 主催者を代表してのあいさつは、清水澄子・朝鮮女性と連帯する日本婦人連絡会代表(I女性会議共同代表)。小泉訪朝によって史上初めて日朝両首脳の会談が行われたが、日朝間の問題は何一つ前進していない。関係改善を妨害する勢力がナショナリズムをあおり、在日朝鮮人の人権が脅かされている、日朝間の問題を解決する道は平壌宣言を履行することであり、全国的な運動を展開していかなければならない。
 集会には、野中広務(元官房長官)、朝鮮総連の南昇祐副議長、平岡秀夫衆院議員(民主党)、阿部知子衆院議員(社民党)が来賓のあいさつ。一九四五年の日本敗戦前後の混乱の中、現在の北朝鮮地域で死亡した日本人の墓参や遺骨収集を目指している民間団体である「全国清津会」の正木貞夫会長が来賓で発言。遺骨収集や墓参が六七年経ってようやく実現した。今回の訪朝を通じて、朝鮮とは必ず仲良くなれると感じた。平壌宣言は履行されるべきだ。
 日朝友好促進東京議員連絡会共同代表の芦沢一明渋谷区議、日朝国交促進国民協会事務局長の和田春樹東京大学名誉教授、朝鮮人強制連行真相調査団の原田章弘日本人側代表、フォーラム平和・人権・環境の福山真劫代表、金丸信自民党元副総裁の子息の金丸信吾さんの発言がつづき、最後に野田首相宛の要請文(別掲)が採択され、平壌宣言を確認し日朝国交正常化の実現をめざすことを求めた。


野田佳彦内閣総理大臣への要請文

 二〇〇二年九月一七日に小泉純一郎首相が訪朝し、史上初めての日朝首脳会談を行ない日朝平壌宣言に合意してから、一〇年がたとうとしています。日朝平壌宣言は、「日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが、双方の基本利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大いに寄与する」と確認しています。
 しかしながらその後の日朝関係は、五人の日本人拉致被害者とその家族が日本に来ることができた以外は進展を見られず、二〇〇八年以降は日朝交渉さえも中断して制裁措置だけが延長されています。朝鮮半島情勢もやはり核実験やミサイル問題などで緊張が続き今日に至っていますが、日本は東北アジアのこうした現実をただすための役割を果たしているとは思えません。政府が、状況を打開すべく日朝交渉を再開し、諸懸案解決に努力する方向へは進まず、制裁措置一辺倒にとどまり続けただけでなく、朝鮮学校を無償化措置から除外し、在日朝鮮人への悪意を誘発してきた事実は、私たちの遺憾とするところです。
 二〇〇八年八月以降中断していた日朝政府間協議は、八月二九日から三一日の課長級協議をもって四年ぶりに再開されました。朝鮮民主主義人民共和国側は今回、日本人の遺骨収集や墓参をめざすメンバーの訪朝を受け入れました。この時期こそ、日朝関係を大きく前進させ国交正常化へと進む大きなチャンスです。
 この機会を逃さず日本政府は、日本による植民地支配の清算について誠実な謝罪と反省を表明し、在朝被爆者をはじめとする戦争被害者への措置を具体化するとともに、日本人遺骨収集など諸懸案を具体的に前進させて、日朝間の信頼関係を構築していくべきです。
また、これまで在日朝鮮人の生活と権利を脅かしてきた制裁措置を解除する必要がありま
す。拉致問題も国交正常化をめざす交渉の中でこそ、解決に導くことができるはずです。
 「敵対を友好へ」という日朝平壌宣言の原点に立ち戻り、新しい歴史を切り開く決断がいまこそ必要です。
 私たちは、日朝平壌宣言一〇周年に当たり、日本政府に以下のことを要請します。
 一、野田佳彦首相は日朝平壌宣言一〇周年に際し、宣言の精神を確認し、日朝国交正常化の実現をめざす姿勢を表明すること。
 二、日本人遺骨問題など日朝間の諸懸案を論議、前進させ、国交正常化をめざすため、積極的に日朝政府間協議を進めること。
 三、これまで実施されている制裁措置を、政府間協議を進展させるべく早急に解除すること。
 四、在朝の被爆者、元日本軍「慰安婦」、戦時強制連行被害者に対する具体的措置をとること。
 五、朝鮮高校に対する無償化措置を一日も早く実現させること。


日朝ピョンヤン宣言10周年

          
軍事大国化やめろ! 日朝対話と過去の清算を!

 九月一五日、文京区民センターで「日朝ピョンヤン宣言10周年 軍事大国化やめろ!日朝対話と過去の清算を」集会が開かれた。 
 はじめに日韓ネット共同代表の渡辺健樹さんが主催者あいさつ。ピョンヤン宣言から一〇年のいま、日米韓軍事同盟に反対し、過去の清算と日朝の対話の声を挙げるときだ。
 東京新聞論説兼編集委員の半田滋さんが「米軍再編と強まる日米韓軍事同盟・軍事大国化路線」と題して講演。
 オバマの新国防戦略は、アジア太平洋重視で、中国包囲網の形成を狙っている。そのなかで横須賀、佐世保、岩国を結んだ空母の活動が重視されている。中国はその「第一列島線」で米国との対決を強めている。日本は、「動的防衛力」強化ということで対中国の島嶼防衛を進めようとしている。韓国とは日米韓共同演習など合同演習を連続しておこなっている。日本の政治では、集団的自衛権容認が強まっているが、これに対処していくことが問題となっている。
 つづいて「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクション・センター(VAWW RAC)共同代表の西野瑠美子さんが「軍事協定より過去の清算を、日朝の対話を」と題して講演。
 日本では、朝鮮半島などでの慰安所設置に全体としての強制性を認めた河野談話(一九九三年)を否定する動きが強まっている。アジア各地で被害にあった女性たちも多くが亡くなり、生存者も八〇代を越えており、いまが「慰安婦」問題の法的解決の最後のチャンスだ。


映 評

      『天地明察』


            2012年 141分

   監督  滝田洋二郎
   出演  岡田准一 …… 安井算哲(後の渋谷春海)
        宮崎あおい ……  えん(算哲の妻)
        市川猿之助 …… 関孝和(算術家)
   音楽  久石譲


 滝田監督の前作は、米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した「おくりびと」(08)。私はこの作品をきちんと見ていない。その理由は納棺師という職業にまったく興味がなかったことと、映画の導入部でチェロ奏者の主人公が夢破れて出身地に帰り、募集広告を見て仕事に応募する際、その要項には「旅への誘い」と書かれていて、旅行代理店だと思って面接に応じると、実は「旅立ちへの誘い」の間違いだと教えられる。葬祭業者の広告だったのだ。こんな陳腐な導入のしかたにいたく腹が立ったせいなのだ。

 「天地明察」は、本屋大賞を受賞した沖方 丁(うぶかた てい)の小説の映画化であり、そのこと自体たいへん話題になったものだ。
 時代は江戸時代の初期、安井算哲は囲碁の名門の出で、時の将軍の碁の指南役であり、算術、暦などにも並々ならぬ興味を抱いていた。八〇〇年も前から利用されていた暦に重大なずれが生じていることが判明し、庶民の農作業や政りごとをおこなう時にも支障が出始めていた。
 そこで、幕府は新しい暦づくりを決定し、そのための天体観測の実務を算哲たちにゆだねた。北極出地と称され、全国各地で北極星を観測し、その場所の緯度・経度を計測する。将軍に仕える重臣たちを配下に従え行動する。その重臣たち(笹野高史、岸部一徳)がたいへんにいい味を出している。おもしろいことに一行の歩みはまるで軍隊の行進のように同じ動作で手をあげ足をあげる。このあたりは監督の茶目っ気の発露だろうか。観測の結果、天体の動きで中国の元の時代に作られた授時暦がもっとも正確だと結論付ける。ところが暦の運用の実権を握る公家たちの抵抗にあってしまう。そこで、算哲はある策略を編み出す。実際の日食などの天体の動きに三暦(宣明暦、授時暦、時憲暦)のなかでどの暦があっているのか、三年がかりで勝負を挑む。当然、日食などはそうあるものではないので時間がかかってしまう。最後の勝負まで算哲たちは勝ち続けたが、最後の場面ではなぜか予測がはずれてしまう。敗北感に打ちひしがれる算哲たち。その原因は後ほど偶然の機会に中国大陸との経度の差(時差)を考慮に入れていなかったせいだと気づく。最終的には公家たちとの勝負に打ち勝ち算哲たちが足で稼いで観測した暦は採用されることになる。
 この映画は若き算哲の成長の物語であろう。その観点から起伏にとんだいい物語を作り上げている。ただしあまり深みはないが、算術塾の塾長の妹えんも控え目だがいい味を出している。算哲のことを常にあたたかく見守り、時には厳しいことも言う。苦難に直面する算哲に「私よりも先に死なないでくださいね」と言うえんの言葉は愛情にあふれている。また二人の間合いがとてもいい。時の数学者関孝和の存在もおもしろく描かれている。算術にしか興味のないその人物の住まいはまことにわび住まいで書類の束が所狭しと置かれている。関は神社に算術の設問の絵馬を掲げ続ける。その図柄はビジュアル的でカラフルで映画にいいアクセントを出している。

 この映画を観て、私は伊能忠敬のことを思い出してしまった。分野は違うのだが、人びとの生活に役立つ事業をおこなっていたという点においては共通するからなのだろう。今ではほとんど残っていない当時の観測機器を想像も含めて再現した部分は逆に現実感を感じさせてくれる。
 ただ剃髪帯刀姿の算哲(岡田准一)は全然似合っていない。また「SP」(07)で岡田はSPを演じるのだが、小柄な岡田がSPを演じるのにはたいへん異和感を感じたものだ。なぜなら現実のSPは、身長一七三cm以上でないとなれないので。
 一〇年以上前、丹沢山麓で激しい豪雨のあと、輝かんばかりの星々が満天の空に広がっていたことを思い出した。おまけに流れ星も見た。その時の感動は今でも忘れない。大都会の空は明るすぎて星も満足に見えやしない。たまには空気の澄んだ田舎で夜空の星をながめることにしますか。
 最後にこの映画は年齢の区別なく見ることができる娯楽映画と評価しておきましょう。数学界の難問だった「ポアンカレ予想」も最近、「ご明察!」となったようです。(東幸成)


図書紹介

      日中国交回復40年 

              
 “永遠の隣人”たちの統治機構に思いを馳せる (下)

                                     須田 勝

■強固な開発独裁体制を管見する適書

 一昔前に日本は「史上もっとも成功した社会主義国」であるとか「最後の社会主義国家」と揶揄されたことがあった。それは何期かにわかれつつも一九五五年から一九七五年までの高度経済成長・安定成長を経てバブル経済という《あだ花》を謳歌した日本社会の閉鎖性。そしてこれを「行政指導」「規制」で支えることを日本型経営と称した官民一体となった経済体制等が、あたかもロシア革命後の一九二二年から始まる社会主義建設(スターリン体制)下での統制的計画経済の完成形態であるかのように諸外国から映っていたからだ。
 ところで中国共産党は自らを今もって「社会主義国家である」と規定する。一方で中国は二〇一〇年にGDPで日本を抜いて世界第二位になった。二〇一八年前後にはアメリカを抜いて世界第一位のGDP大国になるのは必定となっている。二〇〇八年のリーマンショック後には、世界の金融市場で大きな発言力を有し、ヨーロッパ金融危機においても中国の金融支援がなければヨーロッパ経済、いや世界経済は大混乱の憂き目を見ることになる。つまり、世界市場の生殺与奪を握ってしまったといっても今や過言ではない。
 ケ小平の「改革開放路線」以降の中国の政治経済体制について、さまざまに語られてきた。今日中国の社会体制を「共産主義」ないし「社会主義」と呼ぶものはほとんどいない。しかし、中国共産党の指導部は今でも公式的にはマルクス主義を掲げ自ら「特色ある社会主義体制」などと表現している。ところが社会実態は私企業が労働者の雇用を創出するというシステムに依拠している一点だけで論理矛盾である。マルクス主義を云々する以前に陳腐なレトリックである。所得格差はいうに及ばず社会に様々なひずみが生じ始めている。天安門事件を乗り切った中国共産党は、ここに至って「社会主義」というフィクションと「資本の論理」という現実とのギャップに苛まれ始めている。

 こうした中国共産党の実態状況を読み取る適書として、今年一〇月に開催される中国共産党第一八回大会によって選出される中央委員会政治局常務委員会の人選に着目し、党内で発生している路線闘争的なあらわれを分析しているのが『チャイナ ナイン』―中国を動かす九人の男たち―だ。
 《チャイナ ナイン》とは、中央委員会政治局常務委員会を構成する九人を指している。中国の人事といえば巷間、国家主席に大本命の習近平が就任するか否かなどが話題になっている。ところが『チャイナ ナイン』では、誰が国家主席に就任するかは大した問題ではなく誰が九人に選ばれるのかが問題であると同書は喝破する。中国共産党が発表したデータでは二〇一〇年末現在、中国共産党の党員数は約八〇二七万人と言う。人口比にすれば全人口の僅か六・二%に過ぎない。さらにこの党員数の中の僅か九人の多数決で中国一三億の方向性が決定するわけだからその人選に注目が行くのは当然だろう。
 『チャイナ ナイン』は、それぞれの候補者の出身母体や経歴を事細かに分析し、彼らの暗闘(各派閥の死闘)ぶりを紹介する。さらには各派閥の抗争が昨今の中国社会で目に余る光景として露呈し始めた社会腐敗を題材として展開され、昨年一〇月の第一七期六中全会で議論された「文化体制改革」をめぐり、大きな路線闘争の火種となり始めている様相をノンフィクションとして扱っている。そのもっとも代表的なものが薄熙来の政治行動に対して、彼が政治局常務委員会に選出されるか否かをめぐって、今も展開されていると見られる魑魅魍魎とした暗闘だ。
 今日の中国社会に蔓延している腐敗の実態はある意味で中国共産党のジレンマを象徴している。ケ小平の掲げた改革開放路線は、単純化すれば中国国内に「自由に金儲けをしてよい」という風潮をはびこらせた。天安門事件により政治に関する議論を一切封じ込め、政治を語る《自由》を奪った代わりに、「党や国家を批判すること以外であれば、何をしてもよい」という《自由》を与えるという皮肉な結果となった。一般に言われているように尖閣諸島(釣魚台諸島)問題に対する国内対処も中国共産党にしてみれば常に愛国的行動が党批判に転化する危険性を持っているのである。
 僅か九人が一三億の大国を左右するという状況は、まさに開発独裁体制の典型であると見ることが出来る。もちろん中国革命の過程で中国共産党の果たした役割を誰しも批判できるものではない。戦争と革命の時代と言われた二〇世紀にあって、毛沢東の指導の下で多く党員の血によって成し遂げられた日本帝国主義を打倒と自国の解放、そして新中国建設に邁進してきたのは冷厳な歴史的事実である。とりわけ一九四〇年代後半からの冷戦下とそれに続く中ソ対立の過程で、党が一元的に指導するという体制は、民主主義とはかけ離れた「独裁」と言われようが歴史的一過程であることに違いはない。余談だが一九二二年以降のソ連における「スターリン体制」ですら歴史的な側面から見れば一つの通過点であったとさえ言える。そもそもチャーチルではないが「民主主義は最悪の政治形態だが、残念ながら人類はいまだにそれ以上の形態を知らない」という意味でも、民主主義がいついかなる時代拝見においてもすべて善であり、唯一無比の統治形態であるはずもない。
 一方でソ連崩壊にともなう「体制間矛盾」の解消とそれに伴う新たな矛盾の噴出からするならば、いつまでも「開発独裁体制」を続ける中国共産党の国内と対外的レトリックの使い分けは通用しなくなっていることだけは事実だ。
 それは、今日僅か九人が中国国内のみならず、世界の帰趨を制する状況に結果としてなってしまっているということだ。『中国共産党』―支配者たちの秘密の世界―は、二〇一〇年に英国『エコノミスト』誌や『フィナンシャル・タイムズ』誌によって、「ブックオブ・ザ・イヤー二〇一〇」に選ばれた秀作。『チャイナ ナイン』がノンフィクションとして中国共産党による中国政治の断面を追跡する《読み物》であるならば、同書は中国が国際金融市場で発言権を伸ばしていく様などを「党とビジネス」を「党と資本主義」の関係などの分析書と位置付けることが出来る。
 今回紹介した二冊はこれからの日中関係のみならず、戦後一貫してアメリカに従属した外交政策で事足りてきた日本のありようの是非をも問い直していく好材料にもなる。(おわり)


せ ん り ゅ う

   ―― タイフウ ――(連句)

    台風の道はよみつつさて君の

    ふかき心のにくきもありて

    反米デモ反日デモゆれている

    尖閣を売り儲けた男

    原発や荒ぶ田舎に体育館

    危険きわまるオスプレイ神話


                 ヽ  史

二〇一二年十月


複眼単眼

       
日本の市民の良心からの声

 九月二一日からの「『領土問題』の悪循環を止めよう!――日本の市民のアピール」の賛同のとりまとめのお手伝いをした。二八日に記者会見をして一二七〇名と発表されたが、賛同の声は現在も続々と届けられている。賛同に添えられたコメントの一部を紹介したい。

 ●気象条件が揃うと、うちのすぐ前の浜から、与那国島と台湾の高峰のいただきが見えます。そんな国境の島に住んでいて、与那国への自衛隊の配備や尖閣国有化、グァムでの米海兵隊と陸自の離島奪還合同演習などのニュースに接すると、恐怖さえ感じます。声明の、特に九番、ほんとうに、大声で叫びたいです。アピールに魂もふくんだ全身で賛同します。
 ●私は現在シドニーに在住していて、都議会の様子などわからないのですが、東京都が購入するという石原のアイデアがどうして認められるのか、まったく理解できません。
 ●成り行きを心配している私に、今出来ることは、こうした呼びかけに呼応することです。
 ●本日、地下鉄に乗ったところ、中刷り広告にて中国が日本に攻めてくると乗客に不安を煽り立てる記事がありました。日本の自衛力ならぬ軍事力についても触れています。私たちはほんの一部の報道をもとに全体を把握するようになりがちですが、こんな時期だからこそ、これらに惑わされることなく冷静に対処すべきことと思います。日本、南朝鮮、中国、今こそ日本は平和憲法を武器に外交努力を推し進め、互いの信頼関係を再構築して平和的な解決をされるよう希望致します。
 ●私たちも憂慮していて、何か出来ることはないかと考えていました。提案、ありがとうございました。
 ●自分のまわりでは中国への悪感情を露骨に示すこともしばしばでこのままでは恐ろしいことになると心配していました。このアピール文を読んで少し整理できたような気がします。市民レベルでの話し合いが早く実現するのを願っています。
 ●私も賛同させていただきます。敵意を煽るキャンペーンにはもうウンザリです。易易と煽られる市民が、なかなか減らないのが困りものですね。
 ●どう考えていいかわからなかったのでアピール文を読んで整理することができました。ありがとうございました。さっそく 知り合い八名ほどにも転送しました。
 ●日本の市民のアピール――に対して全面的に賛同します。九の方向性についても同感です。先日釜山に行き、意見交換をするチャンスがありましたが、「民間交流をもっと活発にしよう」との方向で合意しました。ナショナリズムを煽る日本の政治家には最大限の注意と批判をしていきましょう。
 ●この間の尖閣・竹島問題に心を痛めていました。多くの日本人が、「毅然とした」対応によってもたらされる中国・韓国両国との関係悪化を望んでいないにもかかわらず、双方とも突出した動きだけがメディアから垂れ流されることに怒りを感じています。
 ●この声明にある市民の声が、中国・韓国の市民に届く事を祈っています。そして、日本の政治家とテレビやネットの前ですっかり「愛国者」になっている人たちにも。
 ●どこの国の「固有の領土」と主張しても解決しません。「毅然とした」対応を主張しても対立が増すだけ…それが狙いかもしれません。
 ●歴史問題を踏まえ周辺諸国との友好関係が第一!と強く思います。
 ●日中国交40周年を狙った石原のパフォーマンスに踊らされた日本国民は冷静に事態を把握すべきですね。領土を奪い合うのは二〇世紀で終止符を打ち領土争いは棚上げにして資源共同開発の道を進む未来志向が大切です。
 ●韓国在住の日本人の多くも困惑しています。「仲良くしたい」とみな思っています。国家利益が前に出て喜んでいるのはナショナリズムを鼓舞して戦争に導きたい人だけです。
 ●日・中・韓国の間で島の領有を巡って現在、顕現している問題を歴史的な視点も踏まえて冷静にとらえ分析されておられ、また平和的な解決への道を展望されている点で勉強になりました。心より賛同を申し上げる次第です。
 ●このような声明を出してくださり、ありがとうございます。これは日本によるアジアへの侵略の歴史―「歴史」問題であることをこれまでメディアに露出している識者からも、各種報道からもまともに耳にすることはできず、暗澹たる思いでおりました。「領土」問題を通して、なぜ日本が隣国からこれほどまで反感を買うのか、みずからの胸に手を当て、己の過去に真摯に向きあいつつ、互いを理解しあう回路を閉ざしてはならないというのに、幼稚な自尊心をいたずらに鼓舞する言説には失望するばかりです。この声明が、このぶざまで悲しき事態を乗り越えていくきっかけになれば・・・。よろしくお願いいたします。

 冒頭の沖縄八重山の方の悲痛ともいえるような叫びを忘れてはならないと思った。(T)