人民新報 ・ 第1300号<統合393号(2013年4月15日)
  
                  目次

● 安倍内閣の96条改憲策動に反対しよう   参院選で自民・維新などの改憲勢力に打撃を !

● 中小・非正規労働者の生活の向上を!   けんり春闘4・9総行動

● 郵政産業ユニオン   全国26職場で3・19スト

● 朝鮮学校への「高校無償化」適用と各自治体の補助金支給を求めて

           朝鮮学校はずしにNO! すべての子どもたちに学ぶ権利を! 全国集会

● 都教委の「日の丸・君が代」処分を許すな!   抗議・申し入れ行動

● 日本が生産に関わる武器で海外の人びとを殺すな!

           武器輸出三原則の緩和に反対する緊急院内集会

● イラク戦争開戦から10年   日本でも検証を!  早稲田宣言を発表

● 「教育再生実行会議」第一次提言から見た安倍「教育改革」の目指すもの! (高杉謙二)

● 映 評  /  「ひまわり  〜沖縄は忘れない、あの日の空を〜」

● KODAMA  /  対立を激化させる役割

● せ ん り ゅ う

● 複眼単眼  /  改憲を急ぐ憲法審査会の動向と安倍政権





安倍内閣の96条改憲策動に反対しよう

        
 参院選で自民・維新などの改憲勢力に打撃を ! 

 安倍政権は、夏の参院選までは徐行安全運転でいくという当初の路線を、金融の「異次元」緩和、財政のばら撒きによる景気回復の幻想を作り出す中で、慢心し、「戦争のできる」国家建設の歩みを速めている。安部のめざす政治は自民党の改憲草案に見られるように国防軍の設置、天皇元首化などであり、それが「戦後レジームからの脱却」の本質である。安倍は、東京裁判否定、従軍慰安婦問題などかつての日本軍国主義の侵略を否定することによって戦後体制の根本を打ち壊そうとしているが、これは戦後、アメリカの冷戦政策のもとで復活させられた侵略主義的な右翼勢力の政治方向であり、安倍はその尖兵となっている。だが、その戦後体制の否定ということはアメリカとの軍事同盟、従属関係を前提としたものであり、その「ナショナリズム」は、アメリカの世界戦略に自ら加担することによって、地域の覇権を確立しようとするものだ。安倍は、アメリカの力の後退という世界的な構造の大きな変化を無視して、ひたすらアメリカの力を背景に外交政策を強行突破しようとしている。
 自民党の「憲法改正草案」では、改憲は衆参「各議院の総議員の過半数の賛成で国会が議決」し、「特別の国民投票において、その過半数の賛成」で承認するとしている。安倍自民党の目的は、九条改憲だが、まず七月参院選において、自民党、日本維新の会、みんなの党、それに民主党内の改憲派などによって三分の二議席以上の確保し、まず九六条を変え、それによって国会議席の二分の一で改憲の発議ができるようにすることだ(みんなの党は、憲法改正を「前面に掲げて次の参院選を戦うことはしない」との方針を確認)。  安倍は「まず九六条の改正をめざす」と公言しているが、慎重な対応をすると見られていた。だが四月に入って、朝鮮半島情勢の緊迫化などを口実にしながら自民党幹部そして政府首脳の九六条問題についての活発な発言がつづいている。石破茂自民党幹事長は、「自民党は改憲政党であり、参院選公約には改憲を最初に載せる」と述べ、高市早苗政調会長は、憲法が選挙の争点になるべきで、国家観による政界再編が必要だと発言した。自民党憲法改正推進本部の保利耕輔本部長は「今国会に提出して(衆院で)継続審議にし、夏の参院選後にうまくいきそうだったら参院に送るやり方もある」と述べた。菅義偉官房長官も参院選で九六条の問題も争点になるとした。
 自民党のこうした動きは、参院選で自民党など改憲勢力で三分の二確保を目指す方針を決定した維新の会の動きと連動したものである。橋下徹大阪市長(維新共同代表)は、参院選で改憲を争点化したいと主張し、また菅官房長官、安倍首相らと会談し、改憲問題についても話し合った。しかし公明党の山口那津男公明党代表は、改憲は連立合意の枠外の政治的テーマであり、自民党との連立合意では「国会の憲法審査会で議論する」ということになっている、という。そうした連立与党の公明党に配慮して、自民党・首相官邸内にも参院選前の提出に慎重な声は多い。
 アメリカ政府も以前から九条改憲によって、日本がアメリカの軍事戦略・世界支配をいっそう積極的に支えることを要求している。カーター米国防副長官は、安倍政権の集団的自衛権の行使容認について、「非常に前向きな姿勢だ」と評価している。また、武器輸出三原則の見直しなども評価し、期待感をあらわした。
 自民党の性急な動きは、カーターの発言に見られるようにアメリカの要求にこたえようとしようとしているのだが、こうした動きは近隣アジア諸国との政治的軍事的な緊張をいちだんと激化させている。そもそも改憲の内容を提起せずに、改憲をやりやすくすることだけを進めようというのでは、選挙の争点として当然であるべき、実現すべき国家像を提示した上での憲法の在り方についての論議ではない。政治的ペテンそのものである。反動勢力が自分の改憲の本質を明示しないで選挙に臨もうという姿勢は、かれらが憲法改悪反対の広範な声を恐れていることをしめすものである。自民党の改憲案をそのまま出せば大きな反発が起こるのは必至だからだ。
 安倍自民党が参院選に九六条改憲を公約として出してくることは間違いないにしても、保利の言うように今国会に九六条改正案を提出するかどうかはわからない。だが、安倍政権が九条改憲を目標に、その前段としての九六条改憲にむけた動きを加速していることはあきらかだ。九六条改憲の策動を阻止し、明文改憲しなくても集団的自衛権の行使を可能にする国家安全保障基本法の制定に反対し、参院選での改憲派の勝利を許さない運動を作りだそう。


中小・非正規労働者の生活の向上を!   けんり春闘4・9総行動

 四月九日、「中小・非正規労働者の生活の向上を!」を正面に掲げて、けんり春闘実行委員会による4・9中央総行動が闘われた。今年のけんり春闘は、一月二四日に結成され、闘いの目標に、@非正規労働者、女性労働者、移住労働者の均等待遇実現、A弱者切り捨ての新自由主義、規制緩和攻撃との闘い、B貧困・格差社会に反対し、生活できる大幅賃上げの獲得、C最低賃金の大幅引き上げと公契約法の制定、仕事の確保(被災地との連帯)、セーフティネットの拡充、生活保護給付引き下げ反対!、D長時間労働の規制…過労死、過密労働による精神疾患、サービス残業の撲滅、E改正労働契約法と均等待遇、F公共サービスの破壊反対!公務員労働者に労働三権を!、G安倍政権のオスプレイ沖縄強行配備、憲法改正一国防軍、集団的自衛権行使容認、消費税引き上げ、TPP参加反対!、をかかげて闘ってきた。
 4・9中央総行動は、午前中の東京・東部地域総行動にひきつづいて、昼から経団連への要請行動をおこなった。安倍政権の経済政策は、円安・株高のいっぽうで消費者物価の上昇をもたらしている。一部の輸出大企業と大株主のみが恩恵を受け、それであたかも景気回復が実現したかのようにマスコミははやしたて、早晩破綻必至のバブル現象が起きている。犠牲の非正規労働者など社会的弱者へのいっそうのしわ寄せがはじまった。経団連はまたも要請行動をうけつけず、行動参加者はシュプレヒコールで激しい怒りをたたきつけた。
 つづいて、首都高速道路株式会社前で要請集会が開かれた。ハイウエイ共闘(首都高速道路関係労働組合共闘会議)は、高速道路の料金所の料金収受部門の労働者を主とした組織だ。「安心して働ける職場」をめざして闘っているが、春闘では公団民営化で収受員の年収三〇%削減、首都高グループ・料金会社三社体制の下での収受員の非正規雇用化・賃金・年収の低位水準化(更なる一〇%減額)、ETCレーンでのスピード抑制等安全対策の不備、料金所のブース気積問題、定期巡回調査による度重なる人権侵害などの改善を要求している。
 その後は、厚生労働省に労働者保護行政の強化を求め、また環境省へ福島第一原発での被災者や労働者への対応の改善を求めて抗議・要請行動をおこなった。
 午後六時半からは、日比谷図書館ホールで、「4・9官民春闘勝利総決起集会」が開かれた。田宮高紀けんり春闘共同代表(全統一労組委員長)の主催者挨拶につづいて、中岡基明けんり春闘事務局長(全労協事務局長)が経過報告をおこなった。全造船関東地協、全国一般全国協、首切り自由を許さない実行委員会、全日建連帯関東、全水道東水労、北関東ネットが決意表明をおこなった。
 集会を終わって、銀座デモを貫徹した。


郵政産業ユニオン   全国26職場で3・19スト

 郵政産業労働者ユニオンは、社員の賃金引き上げ、各種手当の増額、非正規社員の均等待遇実現と正社員化、正社員の増員、郵政公共サービスの拡充、一時金の削減反対などの春闘要求をかかげて闘争体制に入った。
 しかし、会社は、六年連続でベア無し、一時金の削減、そして非正規職員の時給引き上げと均等待遇要求にはまったくのゼロ回答を行ってきた。政府自ら財界に賃金引き上げを要請するなどいう状況で、政府が一〇〇%の株主である日本郵政がそれに応えようとしない。しかし多数派のJP労組は、そのままで妥結した。

 三月一九日、郵政産業ユニオンは、全国二六職場で七八人の組合員がストに突入した。(北海道)日本郵便札幌中央郵便局、札幌西郵便局、山鼻郵便局、手稲郵便局、(東京都)新東京郵便局、蒲田郵便局、高輪郵便局、玉川郵便局、(千葉県)浦安郵便局、(静岡県)浜松東郵便局、ゆうちょ銀行名古屋支店浜松出張所、(愛知県)ゆうちょ銀行名古屋支店、ゆうちょ銀行名古屋貯金事務センター、(京都府)中京郵便局、左京郵便局、向日町郵便局、(大阪府)大阪西郵便局、(兵庫県)東灘郵便局、神戸中央郵便局、(広島県)尾道郵便局、広島中央郵便局、(福岡県)福岡中央郵便局、若松郵便局、福岡七隈郵便局、ゆうちょ銀行福岡貯金事務センター、(長崎県)長崎中央郵便局。
 昨年七月一日に郵政産業労働組合(全労連)と郵政労働者ユニオン(全労協)が組織統合して初めての春闘ストライキであった。

 東京のスト拠点の蒲田局では六名が一時間から五時間のスト。局前スト突入集会には、早朝から支援の労組や市民が結集し、六名がつぎつぎにストライキ突入の決意表明。つづいて郵政産業ユニオン中央本部、東京地本、各支部また支援の人びとの発言がつづいた。
 昼には郵政本社前でのストライキ突入宣言集会がおこなわれた。


朝鮮学校への「高校無償化」適用と各自治体の補助金支給を求めて

          朝鮮学校はずしにNO! すべての子どもたちに学ぶ権利を! 全国集会

 三月三一日、朝鮮学校への「高校無償化」適用と各自治体の補助金支給を求めて、日比谷野外音楽堂で「朝鮮学校はずしにNO! すべての子どもたちに学ぶ権利を! 全国集会」が開かれ、七〇〇〇人をこえる人びとが参加した(呼びかけは、「高校無償化」からの朝鮮学校排除に反対する連絡会、全国朝鮮高級学校学生連絡会、全国朝鮮高級学校校長会、朝鮮学校全国オモニ会 連絡会、朝鮮学校を支援する全国ネットワーク、日朝学術教育交流協会、フォーラム平和・人権・環境の七団体)。
 はじめに「高校無償化」からの朝鮮学校排除に反対する連絡会の長谷川和男事務局長が実行委を代表してあいさつ。安倍政権は発足早々に「高校無償化」から朝鮮学校の除外を強行したが、こうした安倍政権の非人道的暴挙を糾弾する。今日の行動を在日朝鮮人と日本人たちの固い団結を誓い合う歴史的な日としよう。
 つづいて、ルポライターの鎌田慧さん、三宅晶子千葉大学教授、デヴィ・スカルノさん、映画「ウリハッキョ」の金明俊監督があいさつを行った。東京朝鮮中高級学校の舞踊部が踊りと歌を熱演し、またミュージシャンの朴保さんの友情出演もあった。
 日本各地から参加した朝鮮高級学校生徒代表、全国朝鮮高校校長会代表が、厳しい情勢だが民族教育を守っていく、多くの日本の友人たちが無償化の運動を繰り広げることに感謝するなどと決意と思いを語った。
 「朝鮮高級学校無償化を求める連絡会・大阪」、愛知の朝鮮高校生就学支援金不支給違憲国家賠償請求訴訟弁護団、東京朝鮮学園の理事長、全国朝鮮学校オモニ会連絡会人の代表らが無償化運動を強めていこうと強調した。
 最後に集会アピール「私たちは、日本に生きる者として強く要求する。『日本に生きるものすべてに平等な権利を保障することを』」を採択した。―「日本政府は、高校授業料無償化制度を決定し2012年九月一一日、国連人権規約社会権規約一三条二項の留保を撤回した。このことにより、日本の高校等のすべてが『無償化』されるはずであった。しかし、朝鮮高校で学ぶ生徒には適用しないことが決定された。日本政府は、日本国民の理解が得られないと主張する。『国民』とはだれか。そして、日本に学ぶすべての高校生に無償化制度を適用することは、日本政府の国際社会での責任でもある。国連憲章五五条三項は『人種、性、言語または宗教による差別のないすべての者のための人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守』を要求している。このことは、人類の長い歴史の中から普遍的原則としてつくられてきたものである。どのような状況にあっても、どのような理由があっても、侮り軽んじてはならない。」
 集会のあとはパレードに出発、途中右翼の執拗な嫌がらせをはねのけて、沿道の人々に、アピールした。


都教委の「日の丸・君が代」処分を許すな!   抗議・申し入れ行動

 東京都教育委員会は、三月二九日朝、都立学校の今年の卒業式での「君が代」不起立者に対して、それぞれの自宅で処分書を手渡した。被処分者は六名で、うち五名はいずれも戒告、一名が減給一カ月。一〇・二三通達に基づく不当な処分である。
 
 その日の午後、四者卒・入学式対策本部(「日の丸・君が代」強制反対・予防訴訟をひきつぐ会、「日の丸・君が代」不当処分撤回を求める被処分者の会、「日の丸・君が代」解雇裁判をひきつぐ会、「日の丸・君が代」強制反対・再雇用拒否撤回を求める二次原告団)主催の「卒業式処分発令抗議・該当者支援総決起集会」(全水道会館)がひらかれた。
 対策本部からの経過報告をうけて、集会に参加した被処分者四名が発言。はじめて「不起立」を闘った教員もいる。不当な処分、担任外しなどのいやがらせに抗議するとともに、息苦しい雰囲気の職場の同僚からの激励もあったことなどが報告された。

 四月五日には東京都教職員研修センター前で「再発防止研修」に対する行動として、弁護団申し入れ、受講者入場の激励行動などが展開された。


日本が生産に関わる武器で海外の人びとを殺すな!

            
  武器輸出三原則の緩和に反対する緊急院内集会

 武器輸出問題については、一九六七年、佐藤栄作内閣は、武器輸出を@共産圏諸国向けの場合A国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合B国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合、には認めないとの国会答弁を行った。一九七六年には三木武夫内閣が、「武器輸出に関する政府統一見解」で、@三原則対象地域については「武器」の輸出を認めない。A三原則対象地域以外の地域については憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。B武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする、とした。しかし、二〇〇五年に、小泉内閣は、アメリカとの弾道ミサイル防衛システムの共同開発・生産を三原則の対象外とすることとした。そして、二〇一一年に野田内閣は@平和貢献・国際協力に伴う案件は、防衛装備品の海外移転を可能とするA目的外使用、第三国移転がないことが担保されるなど厳格な管理を前提とする(目的外使用、第三国移転を行う場合は、日本への事前同意を義務付ける)Bわが国と安全保障面で協力関係があり、その国との共同開発・生産がわが国の安全保障に資する場合に実施する、として骨抜きを図ってきた。

 三月一日、菅義偉官房長官は、航空自衛隊の次期主力戦闘機F35について、紛争当事国への移転を禁じた武器輸出三原則の例外扱いとし、日本企業の部品製造への参画を容認するとの談話を発表した。ロッキード・マーチン社製のF35は、アメリカ、イギリス、イタリア、オランダ、カナダ、トルコ、オーストラリア、ノルウェー、デンマークの九カ国が共同開発(保全協力パートナーとしてイスラエル、シンガポール)する最新鋭ステルス機だ。日本は開発に加わっていないが、官房長官談話は、F35の自衛隊導入を機に主翼などの部品製造に参加するという方針をあきらかにしたものだ。そして談話は「F35の部品製造への国内産業の参画は、戦闘機の運用・整備基盤を国内に維持する上で不可欠で、わが国の防衛生産及び技術基盤の維持・育成・高度化に資する。部品等の世界的な供給の安定化は米国等に資するほか、日米安全保障体制の効果的な運用にも寄与する」とする。
 今回とくに問題となっているのは、中東で周辺諸国と軍事的対立を抱えるイスラエルがF35を購入することになっていることだ。菅官房長官は、談話で「国連憲章を遵守する」などとしているが、これは、「国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合には認めない」とする武器輸出三原則の基本理念をまったく否定するものである。

 三月二一日、衆議院議員会館会議室で、WORLD PEACE NOW、許すな!憲法改悪・市民連絡会、憲法を生かす会、平和をつくりだす宗教者ネット、平和を実現するキリスト者ネットなどのよびかけで「日本が生産に関わる武器で海外の人びとを殺すな!」をスローガンに「武器輸出三原則の緩和に反対する緊急院内集会」が開かれた。
 栗田禎子千葉大学教授(中東現代史研究)は、日本・中東関係の観点から、三原則の形骸化、イスラエルが導入を決定しているF35の部品生産の問題点について述べた。イスラエルはこれまでの数次に渡る中東戦争の当事者であり、ガザ地区への攻撃を繰り返し、いままたイランとの緊張を激化させている。まさに中東紛争の中心にイスラエルはいる。菅官房長官談話は、国連憲章違反していないとするが、それは大きな間違いだ。またこのことは、中東の人びとの日本は平和憲法をもっていて欧米とは違うというこれまでの日本に対する平和国家としてのイメージを壊し、海外の日本人の安全を脅かすものだ。まことに愚行というしかない。
 臼杵陽日本女子大学教授は、イスラエル・パレスチナ関係を中心に発言した。イスラエルは名言はしないが核兵器保有国である。中東諸国の混乱はイスラエルにとって有利であり、シリアの反対派などへの支援もおこなっている。オバマはイランに核を持たせないためにさまざまな政策をおこなっているが、一方でイスラエルには防衛権があるなどといっている。いまイスラエルの政権はより右傾化し、国内にはイラン嫌いの風潮が蔓延している。中東での危機が深まっているのだ。こうした中で、中東地域では、日本はアメリカに完全に追従しているという考えが広がっている。日本に対する好感度は急速に低下している。今回のことは、イスラエルと日本の軍事同盟の強化であり、親イスラエル(シオニスト)国家としての見方が強まっている。すでに湾岸戦争で悪化した日本への感情の悪化はさらに強まり、日本人が攻撃対象になる。アルジェリアでの日本人人質事件は、リビアの崩壊が大きかったが、シリアの崩壊でも同様なことが起こる可能性は高い。
 飯島滋明名古屋学院大学准教授は、「武器輸出三原則と日本国憲法」と題して発言した。潜在的紛争国に武器を提供することは、潜在的紛争相手国からすれば「敵対行為」の可能性があり、武器の提供も「戦争支援」とみなされることが多い。国際紛争に関与せず、国際紛争の回避のために日本が積極的に動くべきだという憲法原理を具体化したのが武器輸出禁止三原則だ。イスラエルに武器を輸出することは、まったく平和原則に反するものだ。
 集会では、民主党の大野元裕参議院議員、共産党の赤嶺政賢衆議院議員、社民党の福島みずほ党首、吉田忠智参議院議員、山内徳信参議院議員が挨拶した。


イラク戦争開戦から10年

          日本でも検証を!  早稲田宣言を発表


 二〇〇三年の三月二〇日、アメリカ・ブッシュ政権は、イラクのフセイン政権が大量破壊兵器を持ち、それを使う寸前の状態にあるという口実で、軍事侵攻に踏み切った。アメリカは国連の決議を得ることができず、イギリス・ブレア政権などと有志連合軍を形成してイラク攻撃を開始した。日本の小泉純一郎政権は熱狂的にこの攻撃を支持した。 イラク戦争では、一一万人以上のイラクの一般市民が殺された。負傷者その他は数知れない。現在も、格差の拡大のなかで宗派間、民族間の対立は激化し犠牲者は増え続けている。

 三月二〇日、早稲田大学で「開戦から一〇年 今、問う イラク戦争の一〇年と日本」が開かれた。実行委員会共同代表の志葉玲さん(ジャーナリスト)が基調報告。イラク戦争はいまだに終わったとは言えない。イギリスやオランダではイラク戦争の検証がおこなわれ、開戦理由がでたらめであること、国連憲章に違反した戦争であり、人道法に反した、責任追及されるべきものだとされているが、日本でも憲法問題など重大な問題を抱えていて、検証が必要だ。
 イラクのフォトジャーナリストのアリ・マシュハダーニさんは、米軍による戦争犯罪を追及したときの体験を報告。戦争を取材していたが、米軍に拘束され拷問を受けた。戦争を取材して、その本質があきらかになるのを彼らは恐れていたからだ。日本もイラク戦争に参加したことについて、中東の人々は衝撃をうけた。
 英国の「反戦軍人家族会」設立メンバーのローズ・ジェントルさんは、彼女の息子がイラクでの死後、イラク戦争の検証委員会設立を求めて成立させ、その委員会でブレアの主張が誤りだったことがあきらかになった、さらなる戦争責任追及が必要なこと、また日本でもイラク戦争検証委員会ができることを期待している、と述べた。
 元外交官で評論家の孫崎享さんは、イラク戦争だけでなく日本の対米従属こそが問題だと指摘し、戦争を支持した当時の政権関係者、学者、マスコミに大きな責任があると指摘し、日本でもイラク戦争の検証が必要だと述べた。
 全体会に続いて、分科会(@イラク戦争と劣化ウラン、Aローズさんと語るイラク戦争検証、Bアリさんと語るイラク占領の現実、Cイラク戦争と自衛隊、在日米軍)が開かれ、まとめの会では、各分科会の報告がおこなわれ、「早稲田宣言」が発表された。

イラクと日本および世界の平和を実現するための早稲田宣言

 いかなる国や地域の人々であれ、生命や尊厳、平等という譲ることのできない権利を保障されることは、世界における自由、正義および平和の基礎です。
 二〇〇三年三月に米英両国を中心として開始され、日本が支持・支援したイラク戦争は、世界人権宣言に謳われる精神とは正反対のものであることを、ここに確認します。
 イラク戦争では、少なくとも一一万人もの民間人の命が奪われ、現在もなお、三〇〇万人近くもの人々が、国内外での避難生活を余儀なくされるような状態を招きました。それが「自由と民主主義」を標榜する先進諸国によって引き起こされたことは断じて許されないことであり、この戦争を止められなかった市民社会にとっても痛恨の極みです。ファルージャなどイラク各都市での無差別虐殺や、アブグレイブ刑務所などでの組織的な拷問や虐待、クラスター爆弾や劣化ウラン弾など非人道的兵器の多用など、米軍ほか多国籍軍がイラクで行なってきたことは国際人道法に著しく反することは明白であり、また「人道に対する罪」にあたる可能性があります。
 自国のイラク戦争への関与について検証を行ったオランダで、独立検証委員会が結論づけたように、イラク戦争は国連憲章に定められた武力行使の法的根拠を持たない、国際法上も違法なものでした。そうした戦争を日本が支援・支持したことは、日本国憲法前文の「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占める」という精神に反し、また名古屋高裁が憲法判断を示したように、航空自衛隊による米軍の人員・物資の輸送支援は、集団的自衛権の行使、参戦行為であり、憲法違反です。
 これらの事実が持つ重大さは、決して風化させてはならず、日本のイラク戦争への関わりの検証は歴史的、国民的な課題です。したがって、私たちは、以下の行動を提起します。
 ◯政府は、第一六六回国会閣法第八九号附帯決議に従い、イラク戦争への日本の関わりについての検証を行うこと。市民側も政府任せでなく、検証を行うこと。
 ◯政府は「石油の確保のため」「周辺国の脅威に対抗するため」という理由で、イラク戦争を支持するなど、自らの利益のために他者の犠牲を顧みない姿勢を改め、平和共存の道を模索すること。
 ◯市民は、戦争を始めた当事者たちの責任を問い、国際刑事裁判所での訴追や「普遍的管轄権」の行使を含む追及を、国際社会に求めていくこと。
 ◯市民は、今後もイラクの状況について関心を持ち続け、情報収集や共有に務めること。
 ◯政府、市民それぞれは、困窮するイラク難民・避難民や、劣化ウランが原因と思われる健康障害を抱える人々など、戦争被害者に対し、今後も、あらゆる支援を行なっていくこと。
 ◯政府、市民、それぞれは、平和憲法の精神に基づき、戦争に参加、支援する動きに断固反対し、あらゆる国際紛争について平和的な解決を目指すこと。
 ◯本宣言を、市民側は広め、協力の輪を広げていくこと。政府は政策に反映すること。

2013年三月二〇日


「教育再生実行会議」第一次提言から見た安倍「教育改革」の目指すもの!

                              
           高 杉 謙 二

 安倍首相は、政権への返り咲きと同時に、二〇〇六年の第一次安倍内閣で立ち上げた「教育再生会議」(二〇〇八年に解散)を「教育再生実行会議」として復活させた。その会議が、去る二月二六日に「いじめの問題等への対応について」と題する第一次提言を安倍に提出したが、この提言については、「中身が具体的でない」とか「教育再生会議報告書の焼き直し」との批判もあるが、安倍が起用した委員たちの主張から、もう一歩踏み込んで考える必要がある。今回の「第一次提言」は、実質的に一回の審議で取りまとめたことからも分かるように、基本的には先の「教育再生会議報告」をベースに、それに先立って強行された教育基本法改悪の意図に沿ったものであることは疑いない。
 中でも、いじめへの対応が、従前では主として教育委員会の改革事項の中身として扱われていたのが、「一次提言」では、「社会総がかりでの対応」に格上げされている。
 これは、昨今のいじめによる子どもの自殺の多発と、それに対する学校や教育委員会の対応の拙さや自己保身に汲々とする隠ぺい体質が大きな社会問題として認識され、批判の矛先がそうした教育体制に向いたことへの反映に他ならない。
 問題は、道徳教育の教科化という提言である。この「新たな枠組みによる道徳の教科化」の方向は、既に六年前の「教育再生会議」の第一次報告にも盛り込まれており、目新しいものではないが、それが、「いじめに対峙する」方策として位置付けられたことには警戒を要する。
 なぜならば、会議の中で道徳の教科化を一貫して強く主張しているのは、曽野綾子、「新しい歴史教科書をつくる会」の三代目会長であった八木秀次と、「美しい日本人の心を育てる」教職員団体(全日本教職員連盟)の委員長である河野達信くらいで、他の委員は、道徳教育の充実や強化という点での発言や資料提示にとどまっているにも関わらず、提言の冒頭にそれをあたかも委員の総意であるかのように盛り込まれたからである。安倍の意を汲んだ座長の鎌田薫の役回りでもあったが、諮問会議などの本質、限界でもある。
 「第一次提言」は、いじめが現代代社会の構造的矛盾から派生しているという根本から人々の目をそらせ、教員の「道徳教育」に対する不熱心さに問題があるとスリ替えている。
 いじめが、「規範意識や倫理観の欠如から起こる」と河野や八木に口火を切らせ、「文部省の日教組対策委員長」とも言われ、愛媛県知事時代に扶桑社の教科書採択に奔走した加戸守行に「戦前の修身に匹敵するものをやるべきだ」と締めくくらせる。
 また「道徳の効果的指導方法の開発と普及」について八木は、これまでの知育中心的な道徳教育を改め、第一段階としての、徳目を理解する知識教育をアメリカの「人格教育」に求め、その後に「偉人伝・躾・礼儀・武道」などの「日本の伝統的人格教育」を施すことを提唱している。
 しかし、このアメリカの「人格教育」とは、六〇年代に起きた公民権運動やベトナム反戦運動の高揚と共に広がった「多様な価値観や生き方」(権力側からは反社会的行動となる)にブレーキをかけ、「アメリカの基礎的価値(徳目)を教え込む」ことで「規律」と低下した学力が回復するというものであり、再びアメリカの言動が世界の価値の全ての基準となることを狙った教育戦略とされているものである。いかにも、小泉以上にアメリカのマスコットになりたい安倍の好みそうな提言である。
 他方、アフラックの最高顧問でもある委員の大竹美喜などが強調する、オランダの「市民性を育むシチズンシップ教育・ピースフルスクール」や「コミュニティ・スクール」といった、保護者や地域、関係機関を巻き込むことで「いじめ根絶」の機運を盛り上げようとする文言もみられるが、これは、強権的な色彩(教科化や学校と警察の緊密化、いじめ「加害者」への毅然とした指導や出席停止処分)を緩和させ、かついじめの責任を保護者や地域にも負わせるというものだ。
 いずれにしても、道徳の教科化によって派生する膨大な労働は、多忙化と上からの管理統制強化による「思考停止状態」を更に強めることになる。「道徳教育のリーダーシップを執れる教員の育成」「生徒指導専任の教職員配置」となれば、特定の教員がピックアップされ、職場に新たな階層が形成される。加えて、地域との連携の名のもとに、子どもも教職員も頻繁に各種の行事やイベントに駆り出されることも常態化されるであろう。
 それと、今度の提言の特徴として、以前には見られなかった「いじめに関する各種法律の制定」という傾向が強くなっているが、会議の委員に、鎌田を筆頭に樺島郁夫(熊本県知事)、加戸、八木ら、東大・早大の法学部出身者を配置したのはその布石である。
 しかし、こうした一方で、委員の曽野綾子は、第一回目の会議でも、戦後の修身の廃止と「教育勅語」の失効を嘆いて、憲法と教育基本法を公的な場で否定し、続く会議でも「いじめは定義できない」「子どもはみんな悪い子(その中に良い面もあったと補足)」「自ら対抗する精神の強さを持つ以外にない」といった持論を展開しても、誰も咎めないばかりか、それに迎合する発言が続く状況である。
 安倍と並んで、委員の人選に深く関わった教育再生担当大臣である下村文科大臣は、三月に開催された都内での「教育再生国民集会」の壇上から「(第七期の中教審委員について)日教組出身の委員を全て外し、櫻井よしこさんをお招きした」と公言するほど、彼らは意気軒昂である。
 このように、教育再生実行会議は、安倍の「教育改革」路線を既に実行してきた各界のトップクラスを集めたメンバーで構成されているため、今後も提言はスピーディーに行われる。
 政党や教育労働者市民団体など、これに対抗する側の体制作りや批判の方法は、従来のものでは通用しないほど、外堀は埋められていることを先ず自覚し、憲法改悪に連動した教育の更なる再編に立ち向かう主体と理論を地道にかつ早急に創造しよう。


映 評

     
 「ひまわり  〜沖縄は忘れない、あの日の空を〜」

     監督 及川善弘
     脚本 大城貞俊・山田耕大
     主演 山城良太 … 長塚京三 金森喜祐(小学生のとき) 
         石嶺琉一 … 須賀健太

 沖縄の地上戦が終結した一四年後の一九五九年六月三〇日、米軍のジェット戦闘機(F100D型)が、沖縄本島中部の石川市(現うるま市)の住宅街に突然墜落した。
民家をかすめ、宮森小学校の教室に激突。その時、学校は授業中で、生徒たちは教室にいた。
小学生一一名、住民六名が犠牲になり、生徒一五四名、住民五六名が負傷した大事故である。
この事故の原因はジェット機の機体の整備不良だったと後に明らかにされた。 
 二〇〇四年八月一三日、沖縄国際大学構内に普天間に駐留する米軍ヘリ(CH53D)が墜落し、その事故処理、原因究明は日本を排除する形でおこなわれた。

 「ひまわり」は一九五九年と二〇〇四年の二つの事故を結ぶ人間の物語である。この二つの大事故の間にもさまざまな米軍機の事故は絶え間なく続いてきた。

 一九五九年に小学生だった山城良太は五〇歳を過ぎ、二〇〇四年、目の前で沖縄国際大学に墜落した米軍ヘリ事件を目撃し、黒こげになった校舎を見て、四五年前のいまわしい事故を思い出す。彼はその事故で友人を失い、事故のことを思い出せなくなり、語る言葉もなくしていたのだ。良太の孫で同居している琉一は沖縄国際大学の学生で、ヘリ事故を目の前にし、祖父が経験した宮森小ジェット機墜落事件を大学のゼミ活動の一環として、追跡活動を進めるが、いまだに事故の傷跡は、遺族の心の中に深く残り、作業はなかなかはかどらなかった。
 その現実を前にして沖縄の基地問題を考えるコンサートを大学内で開催しようと決意する。さまざまな困難や妨害に打ち勝ってコンサートは成功裏に終わった。そこには封印してきた自らの思いを、三線の調べに乗せて語り始めた山城良太の姿があった。

 この映画のわかりやすい点をあげておこう。良太の小学生の頃、つまり一九五九年当時は白黒の映像で表現される。食べたくない給食をさぼる時、ガジュマルの木の下で遊ぶ時、かわいい女の子を見つめる時の良太たちのあどけなさ、小学生らしさはよく表現されている。風景は少しは違っていても私自身の小学生の頃の思い出として共感をおぼえた。そこに残酷にも迷走してきた米軍機によって引き裂かれてしまったのだ。良太の友人は憧れていた先生に渡すための一輪のひまわりを持ったまま犠牲になってしまった。そのひまわりの花だけが鮮やかな黄色で表現されている。不条理さの表現としてはたいへんよくできたシーンだと思う。 対して、現在はカラー画面で描き出される。
 一九五九年と二〇〇四年、現在との対比はモノクロとカラー使い分けることでよく理解できるのだが、現在の部分が少し弱いような気がする。祖父の思いを理解した琉一は大学内で活動を始めるのだが、コンサートが成功したことで、そこで満足してしまった感が否めない。あまり他人ごとのようには言いたくないのだが、コンサートの成功が終わりではなく、出発なのだと思う。小さな成功で満足してしまってはいけないのだ。
 オスプレイが沖縄に配備され、犠牲は沖縄にだけをしわ寄せされていないか、いいわけないでしょう、とこの映画は訴えかけてくれる。
 現代のパーツが少し弱いが、多くの日本人に観てもらいたい映画だ。何しろかく言う私も一九五九年の米軍機墜落事件について、この映像を見るまで知らなかったのだから。知らないことは恥ずかしいことなんだろう。

 この一月、沖縄に行った。車で嘉手納基地の国道を走った時、道路の両側は全て米軍基地で住宅街はなく、かなり低い位置から米軍機が進入してきたのには驚かされた。地元の人たちは毎日体験しているのだろう。嘉手納町内に「道の駅」があり、その建物が地元対策用に防衛省の予算で建てたと書いてあった。店には土産品ばかり売っていたが、目を基地側にやると、その向こうに広大な敷地に広い米軍用の住宅、矛盾を感じてしまった。

 沖縄市の街角に旧コザ十字路という交差点の表示があった。かつてコザ暴動が起こった中心地域だ。こういう表示もわざと残しているのだろうか。最後のあたりは映画評ではなく私の思い出になって申し訳ない。長塚京三は、寡黙な初老の老人役を熱演してたいへん好感が持てる。
 映画の冒頭の夜の浜辺のシーンで彼が三線をひくシーンもたいへん絵になっている。沖縄の怒りと悲しみを身体で表現している感じがする。
 ラストシーン、群生するひまわりのなかで遊ぶ小学生たち、平和な風景だ。しかし沖縄の現実とはほど遠い。このシーンを望むべき理想のシーンと考えるのはいかにも悲しい。 (東幸成)


KODAMA

   
対立を激化させる役割

 安倍政権は、TPP(環太平洋経済連携協定)への参加をめぐるアメリカとの事前協議で大筋で合意したと発表した。農業はじめさまざまな面で影響がではじめるが、合意では、日本郵政グループの保険事業を民間企業と対等な競争条件にすることとされ、さっそく、金融庁は日本郵政グループ傘下のかんぽ生命保険の新規事業凍結を発表した。麻生太郎金融担当相は、かんぽ生命のがん保険などの新商品販売の認可について、国内での適正な競争関係が確保されたと判断できるまでは、申請があっても認可しないと述べた。アメリカ保険業界の日本侵入に大きく道をひらいた。その他、食品の安全基準などの非関税措置についても日米間で交渉するとした。おおくの問題があるTPP参加へむけた突破口を、安倍政権はアメリカと財界の要求にしたがって開いた。自民党の選挙公約にも違反したこの事態は日本社会を激動させることになるだろう。とりわけ農業だ。東北の知人が「尊農攘夷」なる一文を書いたが、商業新聞には無視されたが、JA関係の印刷物には反応があったそうだ。歴代保守政権は国内国際の対立をすりぬける政策を取ってきたが、この安倍内閣は国内のさまざまな矛盾をより激化させるという歴史的な任務を担っているのかもしれない。 (H)


 せ ん り ゅ う

       ―― 連句 ――

   入社式知らず働く非正規で

   別界にみえ福利厚生

   武器も売り沖縄も売りえらい人

   徳育ならば国会からよ

   憲法の理想をわらうブタ議員

   反戦平和世界のねがい

                   ヽ 史

  二〇一三年四月


複眼単眼

     
改憲を急ぐ憲法審査会の動向と安倍政権

 三月二一日午前に開いた衆議院憲法審査会の後半頃、司会進行を担当する自民党の保利耕輔審査会会長が突然、「少々空席が目立ちますので、各党それぞれ御協力をお願い申し上げます」と発言した。
 保利は「各党それぞれ」などというが、空席のほとんどは自民党の委員の席なのだ。先の総選挙の結果、衆議院憲法審査会で自民党の委員は委員五〇人中、三一人と圧倒的な多数を占めている。そのうち、この日、議場に残っているのが十三人に過ぎないときがあった。
 国会の委員会の定足数は半数(本会議は三分の一)とされているから、衆院憲法審査会は二五人以上の出席がないと、会議は成立しないはずだ。自民党の委員が大量欠席しても、他党の委員とあわせて半数以上出席していれば、会議は成立していることになる。このときには自民党の委員が一八人欠席していたのだから、他の党の議員があと七人欠席すれば、会議を止めなくてはならない事態になる。民主党など、他党の委員も何人か欠席していたから、保利会長はそれを恐れたのかもしれない。
 憲法調査会以来、憲法調査特別委員会も、この憲法審査会も、ほとんどは傍聴席から監視してきたが、議場に過半数が居なかったことは一度や二度ではなかったように思う。そのときに委員の誰かが抗議して、議事を止めるというようなことはあまりなかった。一度か、二度、社民や共産の委員が抗議したことは覚えているが、定足数の問題できちんと止まったことはない。これはもっと騒ぎ立てるべきだ。
 昨年四月、改憲草案を発表した自民党は、安倍政権下で、満を持してこの国会に臨んだはずだ。事実、現在でも五月連休中ばまでに憲法の全条章討議を終えるため、憲法審査会を毎週開くよう要求しているほどだ。
 そうまでして憲法審査会の「審議」を急いでいるにしては、この出席率の悪さは何だろうか。
 つまり、自民党は改憲を主張し、頻繁に審査会を開催することを主張しているが、憲法審査会でまじめに議論するつもりは毛頭ないと言うことがわかる。自民党がめざすのは、憲法審査会が開かれたという「実績」を作り、改憲に向けてこの形式を整えることだけにある。
 今回の国会から「日本維新の会」も幹事一名と委員五名の席を確保した。改憲反対を鮮明にしてきた社民と共産は、社民が委員の割り当てを失い、憲法審査会での明確な反対派は共産の一名だけになった。これではほとんどまともな憲法審査などできようはずがない。
 ここで自民党や維新の会などは九六条改憲を実現して、改憲発議を容易にし、天皇条章や、九条をはじめ、順次改憲を実現し、現行憲法を全面的に破壊して行こうとしている。憲法審査会はそのための足場とするものだ。
 このところ、安倍首相の国会答弁には、憲法九九条の憲法擁護・遵守義務などを無視した発言があいついでいる。そして、自らが会長を務める改憲団体「創生日本」の会長職を休職しただけで、その地位にとどまり続けている。これも明確に九九条違反だ。
 安倍の改憲への動きに対する具体的な闘いが求められているときだ。  (T)