人民新報 ・ 第1303号<統合396号(2013年7月15日)
  
                  目次

● 参院選  沖縄の闘い、脱原発運動、改憲阻止の声を国会へ

● 沖縄駐留米海兵隊実弾射撃訓練  155mm榴弾が矢臼別演習場外に着弾!

● けんり総行動実行委の東京総行動

● 「限定正社員」の導入とは、労働者を使い捨てにするもの

● 6・22憲法集会INくしろ  安倍自民党政権の憲法改悪策動を許すな!

● 冷戦思考の復活  ―  安倍内閣の「価値観」外交

● 紹 介  /  「2030年 世界はこう変わる」 ( 米国国家情報会議  )

● KODAMA  /  みんなでSTOP!TPP

● 複眼単眼  /  憲法問題、危ないのは明文改憲だけではない






参院選  
 改憲勢力の国会制圧を許すな!

   沖縄の闘い、脱原発運動、改憲阻止の声を国会へ


 (一)七月二一日投票の参院選で、安倍自民党の狙いは、参院での与党勢力の勝利による「ねじれ」の克服にある。そのことによって、衆参両院での安定過半数を確保し、安倍の政策を実現することである。
 昨年末の衆議院選挙において自民党は大勝し、安倍政権が成立した。それは民主党政権のあいつぐ裏切りへの反発、当面する経済上の不安、人為的に扇動されたナショナリズム、小選挙区制、政党の乱立、多数の棄権票、そして闘う主体の未確立という状況で生じたものだ。その勝利は、比例で二一九万票の減少を伴うものだった。安倍自身、選挙直後には「自民党に信任が戻って来たということではなく、民主党政権による三年間の間違った政治主導による政治の混乱と停滞に終止符を打つべく、国民の判断だった」と述べているような状況からの出発だった。
 だが、そもそも二〇〇九年の総選挙での政権交代による自民党から新政権(当初は民主・社民・国民新党連立政権)への転換は、それまでの長期にわたる自民党政権に対する大きな批判によってもたらされたものだった。自民党の強行してきた新自由主義・規制緩和政策は都市労働者を襲っただけでなく、自民党の伝統的支持基盤でもあった地方の農業、地場産業、都市の中小零細企業に打撃を与え、社会的格差・貧困を拡大させた。前回の安倍内閣は、新保守主義的なイデオロギーを前面に押し出し、その結果、近隣アジア諸国のみならずアメリカとの関係もこじらせ、また教育基本法を改悪し、改憲を第一のテーマとして二〇〇七年参院選を戦ったが大敗し、そして安倍は内外で孤立を深め、ついに政権を投げ出したのだった。福田も短命政権に終わり、つづく麻生も失政を重ね、総選挙で歴史的かつ壊滅的な敗北を喫したのだった。
 にもかかわらず前に挙げたような要因によって、さきの総選挙の結果、野党時代に一段と悪らつさと反動性をバージョンアップさせた戦後最悪の安倍内閣の再登場となった。

 (二)安倍政権は、参院選までは安全運転でいくという当初の路線を、金融の「異次元」緩和、財政のばら撒きなどの政策で景気回復の幻想を作り出し、「戦争のできる」国家建設の歩みを速めているのである。安部のめざす政治は自民党の改憲草案に見られるような国防軍の設置、天皇元首化などであり、それが「戦後レジームからの脱却」の本質である。今回の安倍内閣は前回の内閣以上の反動的な政策を推し進めようとしている。
 参院選で問われているのは、いかなる国の姿をめざすのかということである。
 安倍は原発推進、日米軍事同盟強化と自衛隊の実戦化、辺野古新基地建設、オスプレイ配備・訓練、対中国包囲の「価値観」外交、領土ナショナリズム扇動、歴史問題の見直し、TPP参加、消費税値上げ、労働法制の改悪・解雇自由などのさまざまな悪らつな政策を強行している。憲法九六条の先行による明文改憲についても条件作りを急いでいる。安倍の「日本をとりもどす」動きには、戦前の大日本帝国時代の再現という黒い野望が見え隠れする。株高とマスコミ・評論家によるよいしょ記事のおかげもあって、世論調査では自民党への圧倒的な支持が報じられている。しかし、それは、財政の先食い的バラマキであり、すでに破局的な財政赤字をいっそう膨らませた。輸出産業など一部大企業と大量の株を保有する大金持ちはそれで潤うが、労働者、勤労市民、多くの年金受給者は、円安による物価急騰にも直撃されて生活の不安が高まっている。なにより日本社会の最大の危機というべき少子高齢化・人口の急激な減少は、資本の搾取と社会的な格差の拡大ということに起因している。このように二〇〇九年に政権交代をもたらした基本的な社会的条件はいっそう悪化しているのである。安倍政権のやってきたこと、やろうとしていることは、すでに破綻した自民党政治をデマとポピュリズムの手法でかざりたてた一段と危険な、この国を破綻に導く政治路線なのである。

 (三)七月参院選において、脱原発、沖縄、米軍基地撤去、近隣諸国との対話・友好、TPP反対、労働者の権利の擁護、改憲阻止などの政策を強く打ち出している政党や候補者の勝利・当選を目指して闘わなければならない。
 自民党、維新の会など改憲派にたいする批判を強めなければならない。そうして、参院での改憲派議席の増大を阻止しよう。
 参院選に勝利するために闘うとともに、脱原発、反改憲、労働運動などの闘いをおしすすめ、反動的な支配体制を打ち破る主体勢力をともにつくりだすために奮闘しなければならない。


沖縄駐留米海兵隊実弾射撃訓練

    
155mm榴弾が矢臼別演習場外に着弾!

        
着弾目標を4kmも逸れ、国道からわずか700m地点

 六月十一日、北海道の「自衛隊」矢臼別(やうすべつ)演習場で実施されていた沖縄駐留米海兵隊の実弾砲撃訓練で、一五五_榴弾が目標地点から約四キロb離れた演習場外に着弾した。
 着弾地点は、演習場のある別海町や近隣の中標津町と釧路を結ぶ国道二七二号からわずかに七〇〇bほどしか離れておらず、大惨事の一歩手前の状況だった。
 矢臼別演習場での米海兵隊の実弾砲撃訓練は、一九九五年の沖縄県での米兵による少女暴行事件を機に、
日米両政府が沖縄の「負担軽減」を口実に大分県日出生台演習場や静岡県東富士演習場など、全国五カ所での分散実施を決定したことによるもので、今回で十三回目となる。
 一五五_榴弾砲による実射訓練は、同砲の射程距離が長いため、三町にまたがる全国最大規模(一六、八〇〇f)を持つ矢臼別演習場などでしか実施できない。 
 また、この十六年間の演習で、当初なかった夜間の砲撃訓練や機関銃・白リン弾の使用なども強行され、 イラク戦争で用いられた劣化ウラン弾の使用疑惑も消えていない。
 この度の事件で問題となった一五五_榴弾砲は、最初は四門であったのが、八門、十二門と、回を重ねるたびに増加し、今回使用されたのは、電子化された最新型のM七七七A二という砲で、アフガニスタンでも実戦配備されている。
 これまでにも、砲撃による騒音被害や野火の発生、運搬中の兵器・車輛の横転事故などがあったが、今回のような大きな着弾のズレは「前代未聞のとんでもない事故」と、住民から強い批判の声が上がった。
 しかし、米軍側は翌日には「事故原因と再発防止策」を書いたA四版一枚の文書を防衛局に出し、「事故は隊員の照準ミス」とだけ説明し、直ちに「実弾訓練の再開」を一方的に打診してきたのである。
 こうした、暴虐無人な米軍の対応に対して、周辺の住民や地元自治体は「ミスで済まされるか」「住民の安全にかかわる問題で、安全確保が確認されるまで了承できない」と強い怒りを表明したが、道や国は完全に腰が引けていた。
 事故直後、米軍は事故原因究明と対応策協議ということで「練習の一時中止」を表明したが、本来的には、演習の実施状況を掌握して対応すべき組織であるはずの北海道防衛局は、「原因の究明」と「再発防止策の策定」を申し入れただけで演習の即時中止を米軍側に求めなかった。
 また、演習場を抱える三町や報道機関からの早急な情報公開要求に対しても、「米軍側からの情報が無く何も答えられない」という、日本側からのアプローチが全くできないという実態を露呈した。にもかかわらず、防衛省の幹部が「原因は単純な手順ミス。隊員の再教育で再発防止は可能」などと発言したと伝えられたが、言語道断の暴言だ。
 その後、訓練再開要請に反発を強めた地元自治体と住民に対し、米軍は「安全管理要員の増員」と「大隊長による訓練指揮」の追加策を盾に、砲撃訓練は強行された。
 今度の事件で、沖縄海兵隊の訓練移転に関わって交わされたSACO(沖縄に関する特別行動委員会)の日米合意は、「沖縄の負担軽減」でも「痛みの分かち合い」でもなく、ひたすら安保条約とそれを根拠として存在する日米地位協定の内実を反映したものであることが改めて証明された。
 「日米同盟の強化」を力説する安倍自民党政権は、憲法九条を「明文改憲」、あるいは「解釈改憲」することによって米軍と一体化した集団的自衛権の行使を果たそうとする意志を明確にしている。自民党の「憲法改正草案」「国家安全保障基本法案」「防衛計画大綱案」は、全てそれらに連動したものであり、彼らは今後も米軍の砲撃訓練を容認し、事故を黙殺し、反対運動を弾圧し続けるであろう。
 沖縄海兵隊の訓練移転の受け入れ入れを表明して以来、地元の酪農民を始め地域住民や全道の労働組合、市民団体などは、「実弾砲撃訓練と演習の固定化」に反対して様々な行動を粘り強く積み重ねてきた。
 これからも、現地での米海兵隊の実弾訓練に直接反対する行動を組織すると共に、日米安保条約の破棄を日本政府に迫り、米軍の憲法違反の行為を許さない闘いを全国の反戦・反基地運動と連動させて強めていく必要がある。
 反対運動が演習期間だけで終わるのではなく、逆に演習が終了した時点から、その反対運動の真摯な総括の上に更に強化されたものとして、再組織されるよう奮闘しよう!


労働者の団結した力で、すべての争議に勝利しよう

     けんり総行動実行委の東京総行動


 六月二六日、けんり総行動実行委員会の主催による第一五三回東京総行動が取り組まれた。

 安倍内閣と財界による労働規制緩和攻撃が強まる情勢の下、霞ヶ関の日本郵政本社前での集会(六五才雇い止め解雇)を皮切りに、JAL本社(解雇)、富士美術印刷(偽装倒産・解雇)、日本印刷(解雇)、東芝本社(有期雇用雇い止め解雇)、ニチアス(団交拒否・アスベスト被害補償)、厚生労働省(薬害救済)、NTT持株会社(職業病闘争)、三井不動産(アスベスト被害・不当労働行為)、東京都庁(解雇・学校再建)、総務省(解雇)、ヤンマー東京支社(解雇)、新日鉄住金本社(戦後補償)、最後にトヨタ東京本社(フィリピントヨタ解雇・団交拒否)と各企業・背景資本に対して、時おり強くなる雨というあいにくの天候の中、闘いぬいた。

 日本最古・最大のアスベスト製品製造メーカーで会社公表だけでも三〇〇名以上の死亡者を出しているニチアス本社の前では、アスベスト加害企業の責任を問う行動を展開した。
 昨年一一月には札幌地裁での下請労働者のじん肺損害賠償裁判は、会社が四、一五八万円を支払うことで全面和解勝利をかちとった。現在、岐阜と奈良両地裁でも合計六名による損賠裁判が進行中だ。また神奈川県と奈良県の労働委員会でニチアスの不誠実団交という不当労働行為の救済申し立ても行われている。


「限定正社員」の導入とは、労働者を使い捨てにするものだ


 規制改革会議の答申を受け六月一四日に、政府は規制改革実施計画を閣議決定した。雇用分野では、@ジョブ型正社員の雇用ルールの整備、A企画業務型裁量労働制やフレックスタイム制等労働時間法制の見直し、B有料職業紹介事業の規制改革、C労働者派遣制度の見直しに重点的に取り組むことなどだ。
 この「ジョブ型正社員」が「限定正社員」のことで、勤務地や職務、労働時間で区別されるカッコつきの正社員だ。経営側はこれは非正規社員にも正社員化の道を開くものだと宣伝しているが、実際にはその逆で、狙いは企業にとっての「過剰労働力」を削減するために、「限定正社員」の導入を突破口にして、日本の解雇ルールを緩和・骨抜きにしようとしているのである。
 この間、日本は世界でも解雇しにくい国だとのデマを飛ばしながら労働力の流動化政策を進めてきた経済界と自民党政府の、企業のための人件費コスト削減と解雇をしやすくするためのものである。

 六月二七日に日本労働弁護団は「雇用規制改革に反対する決議」を発表した。それは、「政府がジョブ型正社員の雇用ルールの整備などといってその導入を図る真の狙いは、雇用WG(ワーキング・グループ)座長である鶴光太郎氏が、限定正社員の解雇について『(正社員と)同じルールが適用されても、当然、結果は異なる可能性がある』と説明したとの報道からも明らかなとおり、職務や勤務地が消滅すれば容易に労働者を解雇できる解雇規制の緩和(特に整理解雇四要件の骨抜き)である。また、無限定正社員との間の均衡処遇も、正社員改革の第一歩としてジョブ型正社員を増やして、職務や勤務地の限定を口実にした労働条件の低下を企図するもので、既存の正社員の労働条件を切り下げることが狙いである。そして、WG報告は、ジョブ型正社員の導入により多様な雇用形態を作ることが有期雇用から無期雇用への転換をより容易にし、雇用の安定化を高めることにつながるとするが、有期雇用からジョブ型正社員に転換するための具体的方策もなければ、入口規制等も無く有期雇用を広範に使用できる現状では、ジョブ型正社員の導入によっても有期雇用から無期雇用への転換がより容易に進むとも考えがたい」と分析し、「このように政府の検討するジョブ型正社員は、欧州の実態や過去の我が国の裁判例を歪めて解雇規制の緩和を図ろうとするものであり、労働者の雇用不安定と労働条件の低下を招き、格差の是正どころか新たな格差を産み出すだけである。我々は、このような労働者を低処遇とし、使用者が労働者を使い捨てにできる『ジョブ型正社員の雇用ルールの整備』に強く反対する」としている。

 求められているのは、なによりも労働者が安心して働くことのできる雇用の実現である。そのための法整備と施策であり、「限定正社員」ルールの導入など労働法制の改悪に反対するために、労働者、労働組合は大きく共同して闘わなければならない。


6・22憲法集会INくしろ

     
安倍自民党政権の憲法改悪策動を許すな!

 釧路市で活動する市民団体、国際NGO、政党議員などで作る『憲法集会INくしろ実行委員会』は六月二十二日、安倍自民党政権の推し進める一連の憲法改正の動きについて一緒に考えようと、市民集会を開催した。

 講師には、「許すな!憲法改悪・市民連絡会」や「九条の会」の事務局を担当している高田健さんが招かれ、「憲法をどうして変えたいの?」「私たちの明日と、どうかかわるの?」と題して講演した。

 高田さんは、講演の前段で憲法九六条改憲の動向に触れ、「安倍や自民党は、世界的に見ても、日本の憲法は変えにくいというが、これは大嘘だ。憲法を大切にする多くの民主主義的な国の憲法は変えにくいものになっている」と述べ、九六条は、日本国憲法の立憲主義の不可欠の一部であると強調した。
 また、これまで自民党が改憲案を国会に提案できなかったのは、改憲案の柱が天皇主権と再軍備であったため、多くの支持を得られなかったことに尽きると指摘した。
 その上で、安倍政権の一連の九六条改憲先行の動きは、改憲を是とする部分からも批判が続出していることや、公明党を取り込む必要性から、九条に関しては九六条改憲を足掛かりとした「明文改憲」と、「解釈改憲」による集団的自衛権の行使を目指すという「二本立ての工程」を安倍自民党はとっているとし、とりわけ後者に関わっては、安倍政権が参院選後の今年秋にも提出を目指す「国家安全保障基本法案」に触れ、アメリカの起こす全ての戦争に「自衛隊」が参加するという集団的自衛権の行使に道を開くもので、これを議員立法という国会議員の過半数の賛成で通そうとしていると批判した。
 講演の後段は、安倍の言動に対するアメリカの対応の変化など、複雑化する日米関係について焦点を当てた後、年末にも改訂される日米防衛大綱には、敵基地攻撃や自衛隊への海兵隊機能の付与などを盛り込もうとしている点について解説し、「専守防衛」から「先制攻撃」という日本の防衛政策の大転換がなされようとしていることは、自民党の憲法草案の先取りであると力説した。
 最後に、高田さんは「世論は九条も九六条も改憲反対が多数だが、決して安泰ではない。尖閣などで何かが起きれば世論は変わる。自民党はそれを狙っている」と警鐘を鳴らし、「九条や九六条を変えて傷ついた憲法を孫子に渡すわけにはいかない。参議院選では、何としても三分の一以上の改憲反対派を確保して、安倍の改憲の野望をくじこう」と訴え、講演を締めくくった。

 講演終了後。会場から「生活の中で憲法に関心を持たせるには」「現憲法は時代に合わないという考えにどう対応したら」「原発や核兵器などについての改憲勢力の動きは」などの質問が出された。


冷戦思考の復活  ―  安倍内閣の「価値観」外交

 安倍政権は発足早々から積極的に外交活動をおこなってきた。安倍は、政権発足後の第一の外遊先を米国としたかったがオバマ政権に断られてこれは頓挫した。一月一六日〜一九日にベトナム、タイ、インドネシアに行き、東南アジア重視のいわゆる安倍ドクトリン「対ASEAN外交五原則」(@自由、民主主義、基本的人権等の普遍的価値の定着及び拡大に向けて、ASEAN諸国と共に努力していく。A「力」でなく「法」が支配する、自由で開かれた海洋は「公共財」であり、これをASEAN諸国と共に全力で守る。米国のアジア重視を歓迎する。B様々な経済連携のネットワークを通じて、モノ、カネ、ヒト、サービスなど貿易及び投資の流れを一層進め、日本経済の再生につなげ、ASEAN諸国と共に繁栄する。Cアジアの多様な文化、伝統を共に守り、育てていく。D未来を担う若い世代の交流を更に活発に行い、相互理解を促進する)を発表したのをはじめ政権発足一カ月以内に、総理、副総理、外相がASEAN加盟一〇カ国中七カ国(ベトナム、タイ、インドネシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、ブルネイ)とオーストラリアを訪問した。これは日本が、日米同盟とともにASEAN、オーストラリアとの連携を重視していることを行動で示すものだった。 
 二月二一日〜二四日に米国での日米首脳会談で日本のTPP交渉参加を表明し、三月三〇日〜三一日にはモンゴルで日本とモンゴルの「戦略的パートナーシップ」確認、四月二九〜三〇日にロシア(一〇年ぶりの日本の首相の公式訪問)で「日露パートナーシップの発展に関する共同声明」、その後、五月四日までサウジアラビア、アラブ首長国連邦、トルコでエネルギー・経済協力、安全保障、文化・人的交流などの多層的関係構築で合意、同月二四日〜二六日ミャンマー(三六年ぶりの日本の首相の公式訪問)で両国関係の強化と経済支援で合意し、六月一六日ワルシャワでポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーとの首脳会合、翌一七日〜一八日イギリスの北アイルランド・ロックアーンでのG8サミットに出席し、二〇日にはアイルランドで首脳会談をおこなった。七月二五日からマレーシア、フィリピン、シンガポールの三カ国を訪問する。そのほか麻生太郎財務相がインド、スリランカを訪問するなどした。また、六月一日〜三日には第五回アフリカ開発会議を開き安倍は約五〇の首脳会談を行った。
 安倍内閣の外交政策の基本は、「価値観外交」というものだ。二〇〇六年当時の麻生外相が講演「自由と繁栄の弧―拡がる日本外交の地平」で、従来の「国連中心主義」「日米同盟」「近隣アジア諸国の重視」に「価値の外交」と「自由と繁栄の弧」を外交政策の柱とするとした。その狙いは、民主主義、自由、人権、法の支配、市場経済といった「普遍的価値」を重視する「価値の外交」に立脚しつつ、ユーラシア大陸外周の新興国の近代化を支援して「自由と繁栄の孤」を形成するというものであり、まったくの冷戦思考の復活である。国名としては次のようなところがあげられている。カンボジア・ラオス・ベトナム、ミャンマー、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバ、ウクライナ・グルジア・リトアニア・ルーマニア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキア、ブルガリア、ルーマニア、アフガニスタン、イラク、サウジアラビア、インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、ネパール、ブータン、モルディブなどである。含まれていないのは、韓国、朝鮮、ロシア、中国などである。
 「価値観外交」論の発案者は谷内正太郎内閣官房参与であり、彼が外務省次官時代に提唱したものだ。外務事務次官には、対朝鮮、対中国への強攻策で安倍と一体の斎木昭隆が就任した。外務省を官邸指導下におき「価値観」外交の全面的推進の布陣である。また「価値観外交」の理論化を進めてきた外務省の兼原信克・国際法局長を官房副長官補とし、対ASEAN外交五原則などのライターである谷口智彦内閣官房内閣審議官(内閣広報室)の存在もある。これらが安倍外交の頭脳だ。
 安倍は政権発足直後の読売新聞とのインタビューで、「自由、民主主義、基本的人権。こうした価値観を共有する国との関係を深め、価値観を広げていく。この理念に変わりはない」と述べている。とくに安倍の本心が露骨に表れているものが、昨年一二月、国際NPO団体『プロジェクトシンジケート』(プラハ)に『アジアの民主主義、セキュリティー・ダイヤモンド』という寄稿論文だ。そこで、中国の海洋覇権を防ぐために日本、米国ハワイ、豪州、インドが連携し海洋権益保護のためのダイヤモンドを形成すべきだ、といっている。これも谷口が書いて安倍の名前で発表したものだ。
 「地球を俯瞰する安倍外交―谷内正太郎内閣官房参与インタビュー」(nippon.com)で、谷内は「『自由と繁栄の弧』については、一部に《中国包囲網》という誤解があります。しかし、安倍政権には中国を包囲する意図はないし、日本にはその能力もない。『弧』に位置する国々は、いずれも自由と繁栄を求めて長期的なマラソンレースをしている国々。日本はあくまでも伴走者として、具体的には政府開発援助(ODA)や人的交流などの平和的手段を通じて応援していこうという発想です。中国を排除するものではないし、中国も賛同して協力してもらいたいと思っています。『自由と繁栄の弧』という言葉自体は、今は使ってはいませんが、基本的な考え方は今でも維持されていると思いますね」と語っているが、これは詭弁だ。
 安倍の「戦後レジームからの脱却」は憲法九条の改悪であり、国防軍の創設、天皇の元首化というものであり、侵略・植民地支配の事実を認めず、ふたたび政治・軍事大国となりアジアの盟主の座を狙うもので、その重要な環として、「価値観外交」がある。その構想の前提は、米国が日本の野望を支持するものであり、そうすれば近隣アジア諸国は屈服するに違いないということだが、現実は安倍らの夢想とはちかがったものであり、破綻に直面する日は近いだろう。


 紹 介

 
2030年 世界はこう変わる ( 米国国家情報会議 ・講談社 )

米大統領への建策報告書

 米国国家情報会議(一九七九年設立)は、CIAや国防総省、国土安全保障省などアメリカの各情報担当機関その他から提供された情報に基づき、四年に一度の大統領選の年に合わせて、それからの一五〜二〇年間の世界情勢を予測・分析し、大統領の政策立案のための参考にする「国家情報会議(NIC)グローバル・トレンド( Global Trends)」という報告書を発表してきている。この間、「グローバル・トレンド二〇一五 」(二〇〇〇年公表)、「同二〇二〇」( 二〇〇四)、「同二〇二五」(二〇〇八)で、昨年の暮れに、「グローバル・トレンド二〇三〇」が出て、翻訳が出た。「日本はもはや復活しない。アメリカは二年後、中国も一二年後にはピークを過ぎる。すさまじい大変化が起こるだろう」―本書の帯に評論家の立花隆のこうした言葉がある。「序 本書を誤読する人と精読する人では大きな差がつくだろう」で立花は書いている。「大統領の一日は毎朝、CIA長官による国内・国際情勢のブリーフィングからはじまる。これを一日刻みの超短期レポートとすれば、その上に、週刻み、月刻み、年刻みの短期レポートがあり、その上にくる中・長期レポートが、この『グローバル・トレンド』になる。かつてこの報告は、大統領と閣僚、議会有力者などにしか公開されなかったが、いまは一般に公開されている(おそらく大統領には別バーンョンのディープ版報告が渡っている)。この報告は、大統領選挙に合わせて、四年に一度新しくされる。新大統領は、当選したあと、就任式の前に、このレポートを渡され、世界情勢の変化に合わせてアメリカはどのような国家戦略を採るべきか練ることになっている」。主要な点を少し詳しく紹介してみよう。

二〇三〇年の世界の予想

 第一章「メガトレンド」では、二〇三〇年の世界を決める四つの構造変化として、@個人の力の拡大、A権力の拡散、B人口構成の変化、C食料・水・エネルギー問題の連鎖をあげ、第二章「ゲーム・チェンジャー」で、世界の流れを変える六つの要素として、@危機を頻発する世界経済、A変化に乗り遅れる「国家の統治力」、B高まる「大国」衝突の可能性、C広がる地域紛争、D最新技術の影響力、E変わる米国の役割が指摘される。これらをうけて、第三章「オールタナ ィブ・ワールド」で四つの二〇三〇年のシナリオが提示される――シナリオ@「欧米没落」型、A「米中協調」型、B「格差支配」型、C「非政府主導」型である。アメリカにとって有利なのは、「米中協調」型、「非政府主導」型、「格差支配」型、「欧米没落」型の順になるという。

日本と東アジアの変貌

 まず日本についての予測は次のようなものだ。「最も不安な国・日本」の項で「……西側先進国のほとんどの国が『頻発する経済危機』に対して強い抵抗力を持っているとはいえません。そのなかでも特に不安なのが日本です。急速な高齢化と人口の減少で、日本が長期的に経済成長を実現させる潜在力は極めて限定的です。例えば二〇二五年までに年金暮らしの高齢者一人を労働人口二人で支える社会が到来します。こうした高齢者社会を政府が財政的に支えるのは簡単ではありません。高齢者福祉に多くの国家予算を取られると、別の分野への予算の割り当ては当然ながら小さくなってしまいます。国際通貨基金(IMF)は、たとえ一時的な政治的混乱を招いたとしても、日本は『財政上のバランスを長期的に保つ大規模な政策転換を実施すべき』と進言しています。短期的には経済成長を犠牲にしないと、膨らむ一方の負債を解決することはできないとみています」。なんとも厳しい判断だ。六月中旬のG8サミットでも、アベノミクスへの理解と支持が広がったという日本マスコミの報道の一方で、メルケル独首相などから日本への強い懸念が表明されたが、世界の日本を見る眼は冷ややかであることを認識しておかなければならない。
 つぎに「広がる地域紛争」で東アジアにおこる四つのシナリオが提起されている。「第二次世界大戦以降、朝鮮半島と台湾という二つの『紛争』を抱えながらも、東アジアはなんとか均衡状態を保ってきました。ただ今後、中国の力が増し、米国の力が後退するなかで、こうした紛争が再燃する可能性があります。現在、同地域の国々の多くが『経済は中国依存、軍事は米国依存』という二つの相反する戦略を同時に実施していますが、この傾向は二〇三〇年まで続くと思われます。……いままでは、インド洋―太平洋を含めた全世界の海路(シーレーン)で米国が覇権を握ってきました。しかし、中国が海車力を拡大するなかで、米国の覇権は揺らぎ始めており、各国は『誰と組むのが最善の選択なのか』を再考する必要に迫られています」として、米国がそのまま制海権を維持し同盟国も米国の保護を期待できる状態が続くというシナリオ@「現状維持型」、米国が孤立主義を強めたり経済力の衰退に伴ってアジアでの「警察官」としての役割を縮小したりしたときにはシナリオA「新均衡型」、欧州のように、大国から小国までが民主的かつ平和に共生するシナリオB「欧州式の共生型」、そして日本の衰退が急激に進んだり、インドの台頭が遅れたりすると、シナリオC「中国覇権型」に進む可能性が強まると予測する。だが中国の「世界一の経済大国」としての地位は短命だとの指摘もある。そして各地域での覇権国の交代が起こるともいっている。

二〇三〇年の世界

 さて二〇三〇年の世界の形であるが、まず@「欧米没落」型とは「政治的にも経済的にも世界を牽引するエンジン役を果たしてきた米国と欧州が、その能力を完全に失」い「窮地に陥った欧米諸国は内向き姿勢を強め、グローバル化の動きは止まってしま」う「四つのシナリオのなかでは最も悲観的な予測」で、「米国では、政治が財政問題を解消できずに、経済が停滞し」、「欧州では、ギリシャのEU脱退をきっかけに、同調する国が続出します。各国の連立政権のなかで、過激な国家主義、国粋主義や排他主義を掲げる政党が発言力を強めるようになります。二〇二〇年までに、自由貿易圈はほとんど姿を消してしまいます。一方、中国やインドのような新興国は経済成長を続け、世界経済成長の約四分の三を担うようになる(ただし、中国もインドも政治と経済システムの近代化に失敗し経済成長に急ブレーキがかかる)。」
 A「米中協調」型は「四つのシナリオのなかでもっとも楽観的な予測です。米国と中国がさまざまな場面で協力できるようになることで、世界経済全体が押し上げられるという筋書きです。世界経済の収入は二〇三〇年までに約二倍の一三二兆ドルに拡大します。新興国が高成長を維持しながら、先進国経済も再び成長期に入ります。米国人の平均収入も一〇年で一万ドル増え、『アメリカンドリームの復活』が語られるようになります」。この判断が最近のオバマ・習近平会談の背景にあるのだろう。
 B「格差支配」型。「このシナリオは、国際情勢が世界じゅうで広がる『経済格差』に左右されるというものです。国内でも国家間でも、経済格差が広がってしまいます。二〇三〇年に向けて、世界全体としては豊かになりますが、人々の『幸福度』は下がります。『持てる者』が富を独占し、『持たぬ者』はますます貧しくなるからです。こうした環境下では、政治や社会は不安定になります。国家間では、『勝ち組』の国と『負け組』の国が鮮明化します。米国は、勝ち組の代表格です。ほかの国々が弱体化するなかで、安価な国産シェール系燃料の恩恵で経済が回復するからです。ただ、孤立主義的な傾向を強め、『世界の警察官』としての役割には関心を示さなくなります。欧州では、競争力の高い勝ち組の国だけがユーロ圈にとどまることになります。競争力の低い南欧諸国はユーロ圈から追い出されてしまいます。EUは分裂し、最終的には力を失います。『格差支配』で最も打撃を受けるのは、アフリカです。国内に複数の民族や部族、宗教を抱える統治基盤の弱い国家は、分裂の危機に瀕します。こうした地域は、テロ集団や宗教の原理主義勢力が暗躍する、テロ活動や犯罪行為の温床となってしまいます。中国では国内格差が課題となります。湾岸の大都市は引き続き経済成長を謳歌しますが、ほかの地域には波及しません。『共産党幹部との個人的なパイプがなければ豊かさを感じられない』という歪んだ状態に、中間所得者層の不満が爆発します。政府は国民の支持を回復しようと、国粋主義的な姿勢を強めることになります。こうした国内、地域内での『分裂』は、国際社会にも影を落とします。国際協調に積極的な国は姿を消し、途上国に対する支援は激減します。支援を受けられずに、破綻する国も現れます。世界は経済的には低成長を続けますが、社会的、政治的には脆弱な状態となってしまいます。」
 C「非政府主導」型は、「政府以外の機関や人々が、世界のリード役となります。例えば、非政府団体(NGO)、大学などの教育機関、裕福な個人などです。テクノロジーの進歩で、個人や小さな団体でも大きな成果を挙げられる環境が整います。また、課題によっては自由自在に小さな団体同士が連携しあうといったことも簡単にできるようになります。大学などでは国境を越えた人材交流が盛んとなり、グローバル規模で『同窓生』が生まれるようになります。こうした人材が、非政府の団体や個人をつなぐカギとなります。世界規模でエリート居と中間所得者居が増加することで、グローバルな世論が形成されやすくなります。環境問題、貧困、腐敗撲滅といった課題に、世界じゅうの人々が一丸となって取り組みます。国家単位の政府がなくなることはありませんが、その役割は国と国、あるいは国と非政府機関を結びつける『コーディネーター役』に留まるようになります。NGOだけでなく、多国籍企業、IT企業、世界的な科学者なども活躍の機会が増えます。個人による寄付や慈善活動などの垂要性も増します。非政府主導型の社会では、課題ごとにうまくいく場合といかない場合の差が大きくなりそうです。うまくいく場合には、政府が対応するよりも迅速に問題解決に取り組めますが、その一方では大国の反対にあって何も実現できないケースも出てくるかもしれません。ほかの四つのシナリオと比べると、経済は『米中協調』型に次ぐ成長をみせます。また、『欧米没落』型や『格差支配』型よりも協調ムードが高く、国際社会は比較的安定したものになります。」

マルクス主義の復活?

 この報告書について、立花『文藝春秋』二〇一三年二月で紹介をおこない、翌三月号では読売新聞主筆の渡邉恒雄が、評価しつつも批判する文章を寄せた。渡邊のものは「マルクス主義の復活?バカいうな」というものだ。四つの予測には、それぞれ架空の二〇三〇年の架空エッセイなるものがついている。「格差支配」型のそれは「最新版にアップデートされた二一世紀のマルクス主義」というもので、国際的、一国内的にさまざまな格差が拡大する中で左翼運動が復活するというものだ。「二〇二五年を境に起きたEU崩壊は、マルクスが予測した『歴史的必然』の正しさを証明するまたとない好例となった」として、EUは「豊かな欧州北部」対「貧しい南欧」という地域間対立が激化し、「欧州各地でEU代表部に対する焼打事件が相次ぐや、貧しい南欧地域のみならず、北部の大都市にも暴動が広がった。…さながらこの様子は、パリで始まった自由主義革命が欧州中に飛び火し、ウィーン体制の崩壊に至る一八四八年を再現しているようであった」。イギリスやフランスでは世代間闘争が勃発する。中国では、貿易で潤う沿岸部とその他の地域との格差が広がり続け、「中国国民の間には毛沢東主義が支持を広げており、国家が二分されるのも時間の問題」である。「インドでも、長年にわたって活動を続けてきた毛沢束思想の傾向の強い極左集団が急速に民衆の支持を集めている。今後、こうした新たな階級闘争は、収束に向かうどころか一層の激しさを増すであろう。」また「唯一、プロレタリア革命の気運が高まっていないと思われるのが米国」でも「社会保険制度の見直しを米国政府は先延ばしにした」ため、「社会福祉の削減が階級闘争の火種となる可能性は十分に考えられる」などとしている。

 これをいかに読むか。左翼の戦略構想の確立のためにもおおいに研究・論議する対象である。
                               (『2030年 世界はこう変わる』一〇五〇円 講談社)


KODAMA

     
みんなでSTOP!TPP

 いよいよ環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉へ日本が参加する。一部の輸出大企業を除いて多くの苦痛を日本社会に与えそうだという危機感がひろがっている

 七月二日、「STOP TPP!!官邸前アクション」がおこなわれた。昨年八月からの毎月第一火曜日の定例行動だ。今回の行動は、マレーシアで行われるTPP会合に参加という事態を前に、官邸前の集会、官邸への抗議のコールも一段と熱を帯びたものになっていたように感じた。
 こうした集会などでよく「TPP反対周知ソング-――【みんなでストップ!TPP】というのが歌われている(一部の歌詞を紹介)。

遺伝子組み換え 危険がいっぱい
放置できないTPP
食の安全脅かされるよ
油断しちゃダメTPP

雇用も減るし賃金も下がる
ひもじくなるよTPP
デフレが進んで落ち込む経済
いいことないよTPP

 TPP参加でどうなるのか。国民皆保険制度がなくなりアメリカのように医療費が極端に上がる。いまでもひくい食料自給率がもっと減る。遺伝子組換え食品が制圧する。日本の法律や制度の枠組みがアメリカ企業の都合によって変更される、などなどだ。

 参院選でTPPは大きな争点のひとつだ。思い出すのは三月に日比谷野音でひらかれた全国農業協同組合中央会(JA全中)など農林漁業を中心とした八団体主催の「国益を守れないTPP交渉参加断固反対緊急全国集会」ことだ。あのとき国会議員約一八〇人が出席し、政党代表として、自由民主党・石破茂幹事長、公明党・井上義久幹事長、民主党・郡司彰ネクスト農林水産相、生活の党・森ゆうこ代表代行、共産党・志位和夫委員長、社民党・福島みずほ党首、みどりの風・舟山康江政調会長などが参加しあいさつした。自民党の石破は、米、乳製品、砂糖、牛肉などの品目は必ず死守し、昨年の衆院選の政権公約を堅持するなどとのべた。なお他の政党代表がTPP反対などの赤い鉢巻を締めたのに石破と井上は締めないという形で、それがTPPへの本音の態度を示すものだった。
 交渉参加とTPP参加とはちがう。闘いはまだまだこれからだ。

みんなでSTOP!TPP
みんなでSTOP!TPP
みんなで力合わせたら
止まるはずだよTPP            (H)


複眼単眼

     
 憲法問題、危ないのは明文改憲だけではない

 安倍晋三首相が就任以来、声高に唱えてきた九六条先行改憲論はいまや「風前の灯火」だ。全国各地の様々な市民運動が反撃に立ち上がる中で、世論や政界の動向に大きな変化が出てきている。
 安倍首相自身は、「九六条の先行改正については、残念ながら世論調査で過半数の支持がない。まだ国民的な議論が深まる状況にないのは明らかだろう。いまのままでは仮に発議しても、国民投票で否決されてしまう」(五日、産経新聞)などと泣き言を言い、公明党の主張する「環境権など新しい人権」の「加憲」論と抱き合わせの九六条改憲という路線にすり寄る様子も示している。
 参院選の結果がどうなるかにもよるが、自民+維新の会+みんなの党の「明文改憲三派」が三分の二議席を確保しなければ、連立与党の公明党の「加憲」論の取り込みは安倍にとってますます大事になる。
 参院選後の明文改憲問題は公明党をめぐる綱引きであり、その帰趨は世論の動向による。私たちは引き続き全力を挙げて「九六条改憲→九条改憲→自民党改憲草案の明文改憲」を阻止する世論の強化に取り組む必要がある。

 改憲反対のたたかいにとってもう一つ大きな課題がある。運動が九六条先行改憲論への反撃に力を取られている間に、「解釈改憲」、実質的な憲法破壊の動きが急速に進められつつあることへの認識と反撃が弱いことだ。

 第一は「集団的自衛権行使」の具体化だ。第二次安倍内閣の下で再稼働した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)は、いまのところ目立った動きは表面に出ていないが、参院選後、かつて福田内閣に提出した「答申」を大幅に焼き直して、「国家安全保障基本法」の制定などを柱にして、安倍首相に提出し、集団的自衛権の行使の容認に関する議論を一挙に高めようとしてくるに違いない。

 第二は、十二月に改定される「防衛大綱」に象徴される自衛隊の戦後史的な変容の進行だ。これには自民党が六月に発表した「提言」の「敵基地攻撃能力の保持」と「海兵隊機能の保有」などが盛り込まれるだろう。まさに専守防衛の自衛隊の変容だ。すでに民主党政権時代に「動的防衛力」構想と南西諸島防衛戦略が打ち出されたが、自民党は、北朝鮮のミサイル攻撃への対処と、中国の尖閣諸島侵攻、離島奪還作戦能力保持を口実に、攻撃的な戦略を持ち、海外で戦える自衛隊への飛躍を果たそうとしている。

そして第三に安倍首相は来春にもこれら全体を含めた「国家安全保障戦略」(日本版NSS)の策定を企てている。まさに国家・社会を挙げて「戦争」に対応できる国家安保体制作りが企てられている。

 いま、明文改憲がやれない状態の下で進められている、これらの危険な実質的な改憲状態をつくり出す動きにも反撃することが強く求められている。  (T)